説明

生物膜透過性組成物及び薬剤の生物膜透過性増強方法

【課題】簡単な方法で薬剤の生物膜透過性、特に、皮膚透過性すなわち経皮吸収性を向上させる方法及び組成物を提供する。
【解決手段】膜透過性キャリアと、酸性化合物と、生物学的活性を有する塩基性化合物とを含有してなる水性混合物からなり、該膜透過性キャリアは、6〜25個のアミノ酸残基からなるペプチドを備え、該ペプチドの全アミノ酸残基の少なくとも50%が、側鎖にグアニジノ基及び/又はアミジノ基を備えたアミノ酸残基からなり、該ペプチドは、側鎖にグアニジノ基及び/又はアミジノ基を備えたアミノ酸残基を、少なくとも6個の連続して含有する、ことを特徴とする生物膜透過性組成物。膜透過性キャリアは、6〜15個の連続したアルギニン残基を含むペプチドであることが好ましい。酸性化合物としては、アスコルビン酸、クエン酸などが使用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物学的活性を有する化合物を、生物膜を透過させて生体内に投与するための方法及び組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、薬剤の生体への投与効果を確実に発揮させ、副作用を低減し、使用性を向上させる等の目的で、各種のドラッグデリバリーシステムが研究開発されている。そのうち、医薬品、化粧品、細胞生物学等の分野においては、経粘膜吸収性、経皮吸収性等の薬剤の生物膜透過性を向上させることは、極めて重要な課題となっている。
【0003】
例えば、医薬品及び化粧品の分野においては、地球環境悪化と共に地球オゾン層の破壊が進行し、地球外からの紫外線侵入量が増加しつつある現在、人体特に皮膚への紫外線の影響は深刻な問題となりつつある。過剰な皮膚への紫外線照射は、皮膚表皮基底層のメラニン合成細胞(メラノサイト)の活性化に伴うメラニン色素沈着(シミ)、さらには、皮膚癌を誘発し、深刻な問題を引き起こす。特にシミは女性にとって深刻な問題であり、タレ、シワと共に美容における重要課題である。そこで、近年、メラニン色素沈着を抑制する美白成分を用いた化粧品が各種市販されている。
【0004】
しかし、現在利用されている美白成分のほとんどは、細菌または植物に含まれる成分である。その代表的なものとして、梨などに含まれるアルブチン(albutin)、麦芽およびコーヒー等に含まれるハイドロキノン(hydroquinone)、麹菌等の産生するこうじ酸(Kojic acid)、 植物等に含まれるアスコルビン酸(Ascorbic acid)、イチゴ等に含まれるエラグ酸がある。
【0005】
これらの中で、こうじ酸は発ガン性が判明したことから発売中止となり、ハイドロキノンは副作用(発疹、かぶれ)が強いため、医師の処方のもとに使用されている。このようなことから主にアルブチンだけが、美白成分として、化粧品に利用されている。
【0006】
アルブチンの美白効果は、メラニン(褐色色素成分)を生合成するメラノサイト細胞のチロシンキナーゼを阻害し、メラニン合成を阻害するためと言われている。メラノサイト細胞は、皮膚表皮基底層に存在し、アルブチンがその活性を発揮するには、表皮を透過する必要がある。
【0007】
しかしながら、アルブチン自身に強い皮膚透過能力があるとは言えず、添加剤の助力により透過を促進する必要がある。そのため、種々の皮膚透過補助剤が開発されているが、効果的に有効成分の皮膚透過を促進する物質はいまだ開発途上であり、アルブチンの更なる効果増強は、皮膚透過補助剤の開発に依存しているといえる。
【0008】
米国特許第6,306,993号明細書には、ポリアルギニンの末端にタキソール等の生物学的活性を有する化合物を共有結合させ、該化合物の生物膜透過性を飛躍的に向上させることができることが開示されている。しかしながら、ポリアルギニンと該化合物を共有結合させるためには、両者の反応基を互いに反応させる工程が必要であり、場合によってはリンカーを結合させる工程も必要であり、また、反応後の精製工程も必要であり、調製が煩雑であり、コストも高いという欠点がある。
【0009】
【特許文献1】米国特許第6,306,993号明細書
【非特許文献1】Matsushita et al. Journal of Molecular Medicine, 83, 324-328, (2005)
【非特許文献2】Noguchi et al. Nature Medicine, 10, 305-309, (2004)
【非特許文献3】Matsushita et al. The Journal of Neuroscience. 21, 6000-6007, (2001)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、簡単な方法で薬剤の生物膜透過性、特に、皮膚透過性すなわち経皮吸収性を向上させる方法及び組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、生物膜透過性に優れていることが知られているポリアルギニンが塩基性を備えていることに着目し、有効成分として塩基性化合物を選択し、ポリアルギニンと有効成分とを結合させるリンカーとして酸性物質を用いることにより、有効成分の生物膜透過性を向上させることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
かくして、本発明の一局面によれば、膜透過性キャリアと、酸性化合物と、生物学的活性を有する塩基性化合物とを含有してなる水性混合物からなり、
該膜透過性キャリアは、6〜25個のアミノ酸残基からなるペプチドを備え、
該ペプチドの全アミノ酸残基の少なくとも50%が、側鎖にグアニジノ基及び/又はアミジノ基を備えたアミノ酸残基からなり、
該ペプチドは、側鎖にグアニジノ基及び/又はアミジノ基を備えたアミノ酸残基を、少なくとも6個の連続して含有する、
ことを特徴とする生物膜透過性組成物が提供される。
【0013】
また、本発明の他の局面によれば、生物学的活性を有する塩基性化合物を含有する水性組成物中に、酸性化合物と、6〜25個のアミノ酸残基からなるペプチドを備えた膜透過性キャリアとを共存させることからなる生物学的に活性な化合物の生物膜透過性増強方法であって、該ペプチドの全アミノ酸残基の少なくとも50%が、側鎖にグアニジノ基及び/又はアミジノ基を備えたアミノ酸残基からなり、該ペプチドは、側鎖にグアニジノ基及び/又はアミジノ基を備えたアミノ酸残基を、少なくとも6個の連続して含有することを特徴とする方法が提供される。
【発明の効果】
【0014】
理論に拘束されるものではないが、本発明によれば、ポリアルギニン部分を備えたペプチドを膜透過性キャリアとして用い、該ペプチドの塩基性を備えたポリアルギニン部分に、酸性化合物からなるリンカーを介して、塩基性を備えた有効成分をイオン結合又は静電的に結合させることが可能となったため、有効成分の生物膜透過性が向上したものと考えられる。
本発明によれば、ポリアルギニンに有効成分を共有結合させることなく、単に有効成分と膜透過性キャリアと酸性化合物とを混合することにより、効果的に有効成分の生体膜透過性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明で使用する膜透過性キャリアは、6〜25個のアミノ酸残基からなるペプチドを備え、該ペプチドの全アミノ酸残基の少なくとも50%が、側鎖にグアニジノ基及び/又はアミジノ基を備えたアミノ酸残基からなり、該ペプチドは、側鎖にグアニジノ基及び/又はアミジノ基を備えたアミノ酸残基を、少なくとも6個の連続して含有するものである。該膜透過性キャリアは、前記米国特許第6,306,993号明細書において、生物膜透過性に優れることが確かめられている。また、該膜透過性キャリアは、水性混合物中で塩基性を示す化合物であるため、酸性化合物とイオン結合するものと考えられる。なお、本明細書において、グアニジノ基は、プロトン化されていない状態で-NH=C(NH2)(NH)で示される基を意味し、アミジノ基は、プロトン化されていない状態で-C(=NH)(NH2)で示される基を意味する。側鎖にグアニジノ基を備えたアミノ酸残基としては、アルギニン残基が挙げられる。
【0016】
本発明で使用する膜透過性キャリアは、好ましくは、6〜15個の連続したアルギニン残基を含むペプチドであり、より好ましくは、6〜15個の連続したアルギニン残基からなるポリアルギニンである。該ポリアルギニンは、その生物膜透過性が損なわれない限り、適当な化合物で修飾されたものであってもよく、または、末端にアルギニン以外のアミノ酸残基が付加されたものであってもよい。特に好ましい膜透過性キャリアは、6〜9個の連続したアルギニン残基からなるポリアルギニンである。アルギニン残基としては、D体及びL体の何れであってもよく、D体は生物膜透過性に優れるが、L体は安全性に優れている。
【0017】
本発明で使用する酸性化合物は、塩基性を備えた前記膜透過性キャリアのペプチド、及び、有効成分として用いられる塩基性化合物を静電的に引きつけるか、または、これらとイオン結合して、これら3者を集合させるものであれば特に限定されない。酸性化合物としては、2価以上の酸性有機化合物が好ましく、医薬品及び化粧品用途においては、生理学的に許容できるものであることが好ましい。該酸性化合物の具体例としては、アスコルビン酸及びクエン酸からなる群より選ばれた少なくとも1種からなるものが挙げられる。
【0018】
本発明で有効成分として使用する生物学的活性を有する塩基性化合物としては、前記酸性化合物と静電的に引き合うか、または、これとイオン結合するものであれば特に限定されない。かかる塩基性化合物として好適な成分としては、化粧品用途では、例えば、シスタミンなどの塩基性美白成分が挙げられる。シスタミンは、ヒト由来メラノサイト細胞を用いたin vitro実験(Biol. Pharma. Bull., 27(4), 510-514, 2004)において、50μM濃度で約95%のメラニン合成阻害効果を示すことが報告されている(J. Invest. Dermatol., 114(1), 21-27, 2000)が、皮膚透過能が微弱で、従来、皮膚表皮基底層に存在するメラノサイト細胞に対しては、その効果が十分に発揮されていなかったが、本発明によれば、シスタミンの効果を十分に引き出すことができる。
【0019】
本発明の組成物は、上記膜透過性キャアリと上記酸性化合物と上記生物学的活性を有する塩基性化合物とを水性媒体中で混合することにより調製できる。上記酸性化合物の添加量は、上記膜透過性キャアリに含まれるアルギニン残基の数に上記膜透過性キャアリのモル数を乗じたモル量程度とすることが好ましい。上記生物学的活性を有する塩基性化合物は、上記酸性化合物の当量以下とすることが好ましい。
【0020】
水性媒体としては、蒸留水、生理食塩水等が挙げられる。本発明の組成物には、適宜、pH調製剤、乳化剤、分散剤、賦形剤などの添加剤を加えても良い。本発明の組成物のpHは、特に限定されないが、通常、3〜9が好ましく、3〜6がより好ましく、3.5〜5が特に好ましい。
【0021】
本発明の組成物の投与経路は、特に制限されないが、例えば、有効成分として用いられる上記塩基性化合物の種類に応じて、経口、静脈内、経皮、鼻内等の投与経路を選択できる。本発明の組成物の剤型は、これらの投与経路に応じて適宜選択することができ、例えば、溶液、懸濁液、クリーム、軟膏、膏薬、ローション、エアロゾル、経皮パッチなどが挙げられる。
【0022】
本発明の組成物の投与量は、有効成分、剤形、投与経路等に応じて異なり、処置に十分な量が適宜選択される。美白用化粧品としての本発明の組成物の代表的な投与量としては、6〜9個のアルギニン残基からなるポリアルギニン0.11mM〜0.45mM、シスタミン20〜60mMおよびアスコルビン酸100〜220mMを含有する水性混合物が挙げられる。
【実施例】
【0023】
以下、本発明をさらに詳細に説明するために実施例を示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0024】
実施例1
メラニン合成に対し、強力な阻害効果を持つシスタミンを数種の皮膚透過補助剤と共に混合し、紫外線照射したモルモット皮膚に塗布し、そのメラニン合成阻害効果を検討した。
【0025】
具体的には、モルモット(種:ser Maples , 500g)の背中部分を4.5cm四方に脱毛後、その背部に10秒間の紫外線照射を一日一回10日間連続して繰り返した。照射は、UVBランプ(Model UVM-57, 302nm lamp, UVP社製)を用い、背部から10cmの位置から実施した。各照射直後、4種薬剤の皮膚定点部分への塗布を行った。各薬剤の塗布量は100mgとした。
【0026】
3種の薬剤a,b及びcは下記の処方により作製し、薬剤dは市販のアルブチン含有美白剤を使用した。
【0027】
薬剤a:600μl蒸留水+ 3400mg水性ワセリン。
薬剤b:600μl混合液( 1.4 Mアスコルビン酸を含有する蒸留水) + 3400mg水性ワセリン。
薬剤c:600μl混合液(400μMシスタミン、3 mMポリアルギニン、1.4 Mアスコルビン酸を含有する蒸留水) + 3400mg水性ワセリン(pH4.1)。
薬剤d:アルブチン含有美白剤(市販品)
【0028】
なお、薬剤bのポリアルギニンとしては、7個のL−アルギニンが直鎖状に結合したオリゴペプチド(7R)を用いた。
【0029】
10日間の紫外線照射後、背部の薬剤塗布中心部分から直径2mmの皮膚切片を採取し、10%フォルマリン液にて固定化し切片を作成し、マッソン・フォンタナ染色後、ニコン社製ECLIPS50i顕微鏡にて観察・写真撮影した。画像データ解析は画像解析ソフトNIH Imageにより行った。
【0030】
皮膚切片の顕微鏡写真を図1に示した。図1の各画像中のメラニン色素(黒色)部分を積算し、各薬剤処理によるメラニン集積量の相対比較を行ったものを表1に示す。表1において、薬剤a処理のメラニン蓄積量を100とした。
【0031】
【表1】

【0032】
表1から、メラニン合成は、シスタミン、ポリアルギニンおよびアスコルビン酸の水性混合物からなる薬剤cにより最も阻害され、その阻害効果は、市販のアルブチン含有美白剤よりも強いことが判る。
【0033】
実施例2
シスタミン又はポリアルギニンの濃度を変更した以外、実施例1の薬剤cと同様の組成からなる薬剤を用い、実施例1と同様の試験を行った。用いた薬剤の組成は下記のとおりであった。
【0034】
薬剤c1:600μl混合液(1.5mMポリアルギニン、1.4Mアスコルビン酸を含有する蒸留水) + 3400mg水性ワセリン(pH4.1)
薬剤c2:600μl混合液(267μMシスタミン、1.5mMポリアルギニン、1.4Mアスコルビン酸を含有する蒸留水) + 3400mg水性ワセリン(pH4.1)
薬剤c3:600μl混合液(0.75 mMポリアルギニン、1.4 Mアスコルビン酸を含有する蒸留水) + 3400mg水性ワセリン(pH4.1)
薬剤c4:600μl混合液(267μM シスタミン、0.75mMポリアルギニン、1.4 Mアスコルビン酸を含有する蒸留水) + 3400mg水性ワセリン(pH4.1)
なお、ポリアルギニンとしては、7個のL−アルギニンが直鎖状に結合したオリゴペプチド(7R)を用いた。
【0035】
皮膚切片の顕微鏡写真を図2に示した。図2の各画像中のメラニン色素(黒色)部分を積算し、各薬剤処理によるメラニン集積量の相対比較を行ったものを表2に示す。表2において、薬剤c1処理のメラニン蓄積量を100とした。
【0036】
【表2】

【0037】
表2から、メラニン合成阻害効果は、ポリアルギニンのみでは発揮されず、シスタミン共存下においてのみ発現することがわかる。また、ポリアルギニン濃度0.113 mM、0.225 mMおよび0.45 mM(実施例1)において、共に優位なメラニン合成阻害効果を示したが、0.225 mMにおいて、ほぼ飽和状態にあると言える。
【0038】
実施例3
膜透過性キャリアとしてアスコルビン酸の代わりにクエン酸を使用した以外、実施例1と同様の試験を行った。用いた薬剤の組成は下記のとおりであった。
【0039】
薬剤d1:600μl混合液(0.75mMポリアルギニンを含有する蒸留水) + 3400mg水性ワセリン
薬剤d2:600μl混合液(1.5mMポリアルギニン、267μMクエン酸を含有する蒸留水) + 3400mg水性ワセリン(pH4.1)
薬剤d3:600μl混合液(267μMシスタミン、1.5mMポリアルギニン、267μMクエン酸を含有する蒸留水) + 3400mg水性ワセリン(pH4.1)
薬剤d4:600μl混合液(400μMシスタミン、1.5mMポリアルギニン、267μMクエン酸を含有する蒸留水) + 3400mg水性ワセリン(pH4.1)
なお、ポリアルギニンとしては、7個のL−アルギニンが直鎖状に結合したオリゴペプチド(7R)を用いた。
【0040】
皮膚切片の顕微鏡写真を図3に示した。図3の各画像中のメラニン色素(黒色)部分を積算し、各薬剤処理によるメラニン集積量の相対比較を行ったものを表3に示す。表3において、薬剤d1処理のメラニン蓄積量を100とした。
【0041】
【表3】

【0042】
表3から、シスタミンのメラニン合成阻害に及ぼす効果を得るには、皮膚透過性キャリアとしてのポリアルギニン以外にクエン酸等の酸性化合物の添加が必要であることがわかる。
【0043】
実施例4
メラニン合成阻害に対するシスタミンの至適濃度を、ポリアルギニン(0.225 mM)およびアスコルビン酸(220 mM)最終濃度一定の条件下で検討した。
薬剤としてシスタミン濃度を変化させた下記の4種の混合物を検討した。
【0044】
薬剤c5:600μl混合液(1.5mMポリアルギニン、1.4 Mアスコルビン酸を含有する蒸留水) + 3400mg水性ワセリン(pH4.1)
薬剤c6:600μl混合液(133μMシスタミン、1.5mMポリアルギニン、1.4 Mアスコルビン酸を含有する蒸留水) + 3400mg水性ワセリン(pH4.1)
薬剤c7:600μl混合液(267μM シスタミン、1.5mMポリアルギニン、1.4 Mアスコルビン酸を含有する蒸留水) + 3400mg水性ワセリン(pH4.1)
薬剤c8:600μl混合液(400μM シスタミン、1.5mMポリアルギニン、1.4 Mアスコルビン酸を含有する蒸留水) + 3400mg水性ワセリン(pH4.1)
なお、ポリアルギニンとしては、7個のL−アルギニンが直鎖状に結合したオリゴペプチド(7R)を用いた。
【0045】
紫外線照射および薬剤塗布方法は実施例1に準拠したが、10日間の照射、薬剤塗布を繰り返した後、薬剤塗布のみをさらに10日間繰り返した。20日後、背部の薬剤塗布中心部分から、直径2mmの皮膚切片を採取し、固定化後、顕微鏡用サンプルとした。
【0046】
皮膚切片の顕微鏡写真を図4に示した。図4の各画像中のメラニン色素(黒色)部分を積算し、各薬剤処理によるメラニン集積量の相対比較を行ったものを表4に示す。表4において、薬剤c5処理のメラニン蓄積量を100とした。
【0047】
【表4】

【0048】
表4から、シスタミンのメラニン合成阻害は、シスタミン最終濃度40μMでほぼプラトーに達することがわかる。
【0049】
本発明による美白剤は、アミノ酸代謝物(シスタミン)、ビタミン(アスコルビン酸)およびペプチド(ポリアルギニン)3種の人体が産生する成分から構成される。化粧品の場合、長期使用による毒性が問題となるが、本発明による混合物の場合、毒性は無いと予想され、安全性が高い。またその効果においても既存の美白剤を凌ぐものがあり、優れた美白作用を持つ化粧品および医薬品を提供できる。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明によれば、薬効成分の生物膜透過性を向上させることができ、生物膜透過性の組成物を提供できるので、医薬品、化粧品、その他の生物学的分野で利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】実施例1で得られた皮膚切片の顕微鏡写真であり、図aは薬剤a、図bは薬剤b、図cは薬剤c、図dは薬剤dでそれぞれ処理した場合の結果である。図a及びb中、皮膚表皮基底層に連続して並ぶ黒い顆粒がメラニン顆粒である。
【図2】実施例2で得られた皮膚切片の顕微鏡写真であり、図aは薬剤c1、図bは薬剤c2、図cは薬剤c3、図dは薬剤c4でそれぞれ処理した場合の結果である。図a及びc中、皮膚表皮基底層に連続して並ぶ黒い顆粒がメラニン顆粒である。
【図3】実施例3で得られた皮膚切片の顕微鏡写真であり、図aは薬剤d1、図bは薬剤d2、図cは薬剤d3、図dは薬剤d4でそれぞれ処理した場合の結果である。図a及びb中、皮膚表皮基底層に連続して並ぶ黒い顆粒がメラニン顆粒である。
【図4】実施例4で得られた皮膚切片の顕微鏡写真であり、図aは薬剤c5、図bは薬剤c6、図cは薬剤c7、図dは薬剤c8でそれぞれ処理した場合の結果である。図a中、皮膚表皮基底層に連続して並ぶ黒い顆粒がメラニン顆粒である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
膜透過性キャリアと、酸性化合物と、生物学的活性を有する塩基性化合物とを含有してなる水性混合物からなり、
該膜透過性キャリアは、6〜25個のアミノ酸残基からなるペプチドを備え、
該ペプチドの全アミノ酸残基の少なくとも50%が、側鎖にグアニジノ基及び/又はアミジノ基を備えたアミノ酸残基からなり、
該ペプチドは、側鎖にグアニジノ基及び/又はアミジノ基を備えたアミノ酸残基を、少なくとも6個の連続して含有する、
ことを特徴とする生物膜透過性組成物。
【請求項2】
前記膜透過性キャリアが、6〜15個の連続したアルギニン残基を含むペプチドである請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記酸性化合物が、2価以上の酸性有機化合物である請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
前記酸性化合物が、アスコルビン酸及びクエン酸からなる群より選ばれた少なくとも1種からなる請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
前記生物学的活性を有する塩基性化合物が、塩基性美白成分である請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
前記塩基性美白成分がシスタミンである請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
6〜9個のアルギニン残基からなるポリアルギニン0.11mM〜0.45mM、シスタミン20〜60mMおよびアスコルビン酸100〜220mMを含有してなる請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
生物学的活性を有する塩基性化合物を含有する水性組成物中に、酸性化合物と、6〜25個のアミノ酸残基からなるペプチドを備えた膜透過性キャリアとを共存させることからなる生物学的に活性な化合物の生物膜透過性増強方法であって、該ペプチドの全アミノ酸残基の少なくとも50%が、側鎖にグアニジノ基及び/又はアミジノ基を備えたアミノ酸残基からなり、該ペプチドは、側鎖にグアニジノ基及び/又はアミジノ基を備えたアミノ酸残基を、少なくとも6個の連続して含有することを特徴とする方法。
【請求項9】
前記膜透過性キャリアが、6〜15個の連続したアルギニン単位を含むペプチドである請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記酸性化合物が2価以上の酸性有機化合物である請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記酸性化合物が、アスコルビン酸及びクエン酸からなる群より選ばれた少なくとも1種からなる請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記生物学的活性を有する塩基性化合物が、塩基性美白成分である請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記塩基性美白成分がシスタミンである請求項12に記載の方法。
【請求項14】
シスタミン20〜60mMに、アスコルビン酸100〜220mM、及び、6〜9個のアルギニン残基からなるポリアルギニン0.11mM〜0.45mMを共存させることからなる請求項13に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−23945(P2009−23945A)
【公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−188586(P2007−188586)
【出願日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【出願人】(504147243)国立大学法人 岡山大学 (444)
【出願人】(506419261)有限会社プロテオセラピー (1)
【Fターム(参考)】