説明

生理活性物質と相互作用する物質の効率的スクリーニング方法

【課題】特定生理活性物質と相互作用能を有する相互作用分子を効率良くかつ精度高く得ることができるスクリーニング方法を提供すること。
【解決手段】(a)2種類以上の担体表面に生理活性物質を固定化する固定化工程と、(b)生理活性物質と相互作用する相互作用分子を含む溶液を、該生理活性物質を固定化した担体表面に接触させる接触工程と、(c)担体表面に存在する相互作用分子候補を同定する同定工程を含む、生理活性物質と相互作用する相互作用分子のスクリーニング方法であって、該2種類以上の担体表面が、水に対して膨潤性を有する膜で被覆された表面、及び水に対して非膨潤性を有する膜で被覆された表面を少なくとも含み、且つ、該2種類以上の担体表面の各々において相互作用分子候補を同定し、比較することによって、相互作用分子を決定することを特徴とする、前記スクリーニング方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、特定の生理活性物質と相互作用する相互作用分子のスクリーニング方法に関し、特に生理活性物質を担体表面に固定化しそこに相互作用分子を含む混合溶液を接触させて、混合溶液中から相互作用分子をスクリーニングする方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
タンパク質などの分子は生体内で他のタンパク質や薬剤、核酸などの生理活性物質と相互作用することによってその機能を発現している。ところがタンパク質が生体内で相互作用している相手物質は未知であることが多いため、その効率的なスクリーニング方法が求められている。
【0003】
このような目的に対して従来はポリスチレンやセファロースなどの担体表面に生理活性物質を直接、又は間接的に固定化し、その担体を該生理活性物質と相互作用し得る分子、例えばタンパク質を含む混合溶液と接触させ、相互作用分子の候補を担体から切り離し、相互作用分子の候補を質量分析計を用いて同定する手法が行われてきた。しかし、本手法では担体自体に対して非特異的に吸着する分子が夾雑物として検出されるために、相互作用分子候補の実際の相互作用能を解析すると相互作用能を有さない分子であることが多く、真の相互作用分子を同定する効率が著しく悪かった。これに対して、従来の他の方法では単一の担体においてできる限り非特異的吸着の少ない表面修飾を行うことが行われてきた。例えば、特許文献1では単分子膜で被覆した平滑な表面を、また非特許文献1ではデキストラン誘導体で被覆した表面を用いて相互作用分子の同定を行っているが、これらの手法においても、非特異的に吸着する分子と真の相互作用分子を完全に区別することは不可能であった。
【0004】
一方、非特許文献2では、混合溶液からその一部を回収して質量分析計で解析する手法において、表面物性の異なる二種以上の担体表面において吸着する分子、タンパク質をそれぞれ解析し比較している。しかし、本手法では各表面において異なる分子は検出できるが、特定の生理活性物質への相互作用分子を同定することは困難であった。
【0005】
【特許文献1】特許第3656159号公報
【非特許文献1】Pharma Genomics; 2002; March/April; 18-28
【非特許文献2】Analytical Chemistry A-Pages; 2003; 75(7); 149A-155A
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本願発明は、非特異吸着が完全に抑制されない表面を有する担体においても、特定の生理活性物質と相互作用能を有する相互作用分子を効率良くかつ精度高く得ることができるスクリーニング方法を提供することを解決すべき課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、2種類以上の担体表面を用いて、各々の担体表面に存在する相互作用分子候補を解析し、比較することによって、特定の生理活性物質と相互作用能を有する相互作用分子を効率良くかつ精度高く得ることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明によれば、(a)2種類以上の担体表面に生理活性物質を固定化する固定化工程と、(b)生理活性物質と相互作用する相互作用分子を含む溶液を、該生理活性物質を固定化した担体表面に接触させる接触工程と、(c)担体表面に存在する相互作用分子候補を同定する同定工程を含む、生理活性物質と相互作用する相互作用分子のスクリーニング方法であって、該2種類以上の担体表面が、水に対して膨潤性を有する膜で被覆された表面、及び水に対して非膨潤性を有する膜で被覆された表面を少なくとも含み、且つ、該2種類以上の担体表面の各々において相互作用分子候補を同定し、比較することによって、相互作用分子を決定することを特徴とする、前記スクリーニング方法が提供される。
【0009】
好ましくは、2種類以上の担体表面の材質は全て異なる。
好ましくは、水に対して膨潤性を有する膜は、乾燥状態の膜厚と比較して10倍以上の水中膜厚を有する。
好ましくは、水に対して膨潤性の膜を形成する化合物は水溶性高分子である。
好ましくは、水溶性高分子が多糖及び/又はその誘導体である。
【0010】
好ましくは、水に対して非膨潤性の膜を形成する化合物は。疎水性高分子、又は自己組織化膜形成分子である。
好ましくは、水に対して非膨潤性の膜を形成する化合物は、ポリアクリル酸エステル及び/又はポリメタクリル酸エステル及び/又はポリスチレンである。
【0011】
好ましくは、生理活性物質は、同一の官能基を介して、水に対して膨潤性を有する膜で被覆された表面及び水に対して非膨潤性を有する膜で被覆された表面上に固定化されている。
好ましくは、上記同一の官能基は、アミノ基、アルデヒド基、又はカルボキシル基である。
【0012】
好ましくは、前記同定工程における相互作用分子候補を同定する方法は質量分析である。
好ましくは、前記相互作用分子はタンパク質及び/又はペプチドである。
好ましくは、前記生理活性物質はタンパク質及び/又はペプチドである。
【0013】
好ましくは、前記接触工程と前記同定工程との間に、前記相互作用分子を含む溶液に含まれる相互作用分子のうち一部を洗浄して前記担体表面から除く洗浄工程を含む。
好ましくは、前記接触工程と前記同定工程との間に、前記担体表面に相互作用している相互作用分子候補を回収する回収工程を含む。
好ましくは、前記接触工程及び/又は洗浄工程及び/又は回収工程において、該担体表面における近接場光を利用した解析を行う。
【発明の効果】
【0014】
本願発明の方法によれば、2種類以上の担体表面において相互作用分子候補を同定し、各同定により得られた相互作用分子候補を比較して真の相互作用分子を決定するので、個々の担体表面に由来する非特異的な吸着分子を相互作用分子候補から除くことができる。そのため、効率よく且つ精度よく相互作用分子を得ることができる方法を提供することができる。さらに、本願発明の方法によって、1種類の担体表面を使用したときよりも、真の相互作用分子を決定する効率が格段に向上することが明らかとなった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本願発明の実施の形態について詳細に説明する。
本願発明のスクリーニング方法は、(a)2種類以上の担体表面に生理活性物質を固定化する固定化工程と、(b)生理活性物質と相互作用する相互作用分子を含む溶液を、該生理活性物質を固定化した担体表面に接触させる接触工程と、(c)担体表面に存在する相互作用分子候補を同定する同定工程を含む、生理活性物質と相互作用する相互作用分子のスクリーニング方法であって、該2種類以上の担体表面が、水に対して膨潤性を有する膜で被覆された表面、及び水に対して非膨潤性を有する膜で被覆された表面を少なくとも含み、且つ、該2種類以上の担体表面の各々において相互作用分子候補を同定し、比較することによって、相互作用分子を決定することにより、効率よく且つ精度よく相互作用分子を得ることを特徴とする。
【0016】
本願発明の方法では、2種類以上の担体表面の各々に生理活性物質を固定化し、そこに、固定化した生理活性物質と相互作用する相互作用分子を含む溶液を接触させ、各担体表面ごとに相互作用分子候補を同定し、各同定により得られた相互作用分子候補を比較して真の相互作用分子を決定するので、個々の担体表面に由来する非特異的な吸着分子を相互作用分子候補から除くことができる。そのため、効率よく且つ精度よく相互作用分子を得ることができる方法を提供することができる。
【0017】
本願発明における生理活性物質とは、生体内のいずれかの物質と何らかの相互作用がある物質であれば特に限定はされず、相互作用物質をスクリーニングする目的対象物として任意の物質を選択することができる。具体的にはタンパク質、ペプチド、核酸、糖鎖、脂質、ホルモン、サイトカイン、細胞、微生物などの生体由来物質やその複合体、誘導体やそれらの人為的合成物でも良い。また、ビタミン、薬剤、環境ホルモンなどの主に生体外で合成される低分子有機化合物や、プラスチック、セラミックス、金属などの一般に分子・原子レベルで生体との関連が薄いと考えられている物質でも良い。タンパク質やペプチドは主に生体内において多種の物質と複雑に相互作用していることから、本願発明の生理活性物質として好ましく利用することができる。また、生理活性物質は同一であることが好ましい。ここで同一とは、酵素と補酵素や複数のサブユニットなど、複数種の生理活性物質が一定の割合で混ざっている混合物が、各々の担体表面上に固定化されていても良いことを指す。また、条件をできる限り揃える目的で、市販品なら同じロットの物質をユーザ自身が作製や精製する場合はその作製、精製条件が同一の物質を使用することが好ましい。また、スクリーニングの精度を確保する目的において生理活性物質は、同一の中でも1種類であることがより好ましい。
【0018】
タンパク質としては、いわゆるオーファンレセプタと呼ばれるような生体内での相互作用が予想されているがその相互作用対象が未知な物質を利用してもよく、また相互作用が予想されていないものを利用しても良く、また既にいくつかの相互作用対象が解明されているものを利用しても良い。更に、タンパク質として自然界に存在しているものの抽出物でも良く、人為的に合成されたものでも良く、更には人為的に変異の導入や複合化、断片化されたものでも良い。ペプチドとしては自然界に存在しているものでも良く、また人工的に合成されたものでも良い。更に自然界に存在しないアミノ酸が導入されたペプチドでも良い。
【0019】
核酸として任意の配列のDNA、RNA、PNA(ペプチド核酸)やこれらの複合体を利用することができ、自然界からの抽出物でも遺伝子工学的に合成したものでも良く、化学的に合成したものでも良い。糖鎖としては任意の配列のオリゴ糖、多糖や単糖を利用することができ、それらの長さや配列が制御されているものでも良く、厳密には制御されていないものでも良い。また、アミノ基、アセチルアミド基、スルホン酸、カルボン酸誘導体を利用することもでき、更に糖鎖とタンパク質と結合した糖タンパク質を利用することもできる。脂質としてはグリセリドや複合脂質を利用することができる。ホルモンやサイトカインは天然で実際に生産されているものでも良く、またその合成物や誘導体を利用することができる。細胞、微生物としては自然界からの抽出物でも良く、その継代培養物でも良く、リポソームなどを用いた擬似細胞でも良いとする。
【0020】
ビタミン、薬剤、環境ホルモンなどの主に生体外で合成される低分子有機化合物としては生体への効果が未知の物でも良く、既にその薬理的な作用機序が解明されているものでも良い。また自然界からの抽出物でも化学的もしくは生化学的な合成物でも良い。また、プラスチック、セラミックス、金属などの一般に生体との関連分子・原子レベルで生体との関連が薄いと考えられている物質として、これらの微粒子やそれらの複合体を利用することができる。
【0021】
また、本願発明における相互作用分子とは上記の生理活性物質と何らかの相互作用がある物質であれば特に限定はされず、上記の生理活性物質として挙げた物質を任意に利用することができる。
【0022】
特にタンパク質やペプチドは生理活性物質と相互作用する物質として最も多種多様に存在し、その相互作用対象として決定することが非常に重要であるため、特に好ましく利用することができる。
【0023】
本願発明における相互作用分子を含む溶液とは、人為的に複数の分子を溶解させた溶液でも天然に混合溶液として存在する溶液でも構わない。より具体的には、細胞抽出液、血液、血清、尿、汗などの生体由来の溶液や、海水や土壌懸濁液などの環境中水溶液などを選択することができる。また、相互作用分子をタンパク質やペプチドとする場合、細胞抽出液や血清など、それらを豊富に含む溶液を好ましく選択することが可能である。また、本願発明において相互作用分子を含む溶液は、複数の担体に対して1種類にすることで、相互作用分子のスクリーニング効率をあげることができる。また相互作用分子を含む溶液としては、各々の担体表面におけるスクリーニングにおいて同一の溶液を用いることが好ましい。この時、同一の溶液とは、例えば血液なら同じ生物から同じ時に回収した溶液、土壌懸濁液なら同じ時に同じ場所で得られた土壌を懸濁した溶液のようにできる限りその条件を揃えた溶液のことを表す。
【0024】
相互作用の種類としては疎水性相互作用、静電的相互作用、水素結合、配位結合、共有結合やこれらの複合的相互作用である生化学的結合などが挙げられる。また、前記生理活性物質と相互作用物質の直接的な相互作用でも良く、他の第三の仲介物質を介した間接的な相互作用をも含む。
【0025】
本願発明において担体とは前記生理活性物質を固定化できる物質であれば形状は特に限定はされず、例えば平面基板、粗面基板、粒子、微粒子、ファイバー、ロッド状物質、流路状物質、網目構造物質など、スクリーニングの操作性や製造適正などによって任意に選択することができる。本願発明における2種類以上の担体表面は少なくとも水に対して膨潤性を有する膜で被覆された表面及び、水に対して非膨潤性を有する膜で被覆された表面を含んでいることが好ましく、使用する全ての担体の表面材質が全て異なっていることがより好ましい。
【0026】
水に対して膨潤性の膜(以後、水膨潤性膜と呼ぶ)とは、乾燥状態の膜厚と比較して3倍以上、好ましくは5倍以上、より好ましくは10倍以上、最も好ましくは15倍以上の水中膜厚を有するものである。一方、水に対して非膨潤性の膜(以後、水非膨潤性膜と呼ぶ)とは、乾燥状態の膜厚と比較して3倍未満の水中膜厚を有するものである。ここで水中膜厚とは25℃で純水中において、膜の担体に最も近い側から最も遠い側までの平均距離を指し、例えば、AFM、エリプソメーターなどによって測定することができる。「乾燥状態」とは、該膜が含有する水分量が1重量%未満の状態を表すとする。
【0027】
本願発明の水膨潤性膜は、一般的に親水性高分子と称される物質を含み、例えば、特許第2815120号公報(4ページ目、右段4行目〜31行目)に記載されている物質を使用することができる。より具体的にはゼラチン、アガロース、デキストラン、カラゲナン、アルギン酸、デンプン、セルロース、キトサン、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリアクリルアミド、長鎖ポリエチレングリコール、またはこれらの誘導体、共重合体などを使用することができる。
【0028】
本願発明で用いる親水性高分子としては、さらに、カルボキシル基含有合成高分子、及びカルボキシル基含有多糖類を用いることが可能である。カルボキシル基含有合成高分子としては、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、及びこれらの共重合体、例えば、特開昭59−53836号明細書3頁20行〜6ページ49行、特開昭59−71048号明細書3頁41行〜7ページ54行明細書に記載されているようなメタクリル酸共重合体、アクリル酸共重合体、イタコン酸共重合体、クロトン酸共重合体、マレイン酸共重合体、部分エステル化マレイン酸共重合、水酸基を有する高分子に酸無水物を付加させたものなどが挙げられる。
【0029】
カルボキシル基含有多糖類としては、天然植物からの抽出物、微生物発酵の生産物、酵素による合成物、または化学合成物の何れであってもよく、具体的には、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、ヘパリン、デルマタン酸硫酸、カルボキシメチルセルロース、カルボキシエチルセルロース、セロウロン酸、カルボキシメチルキチン、カルボキシメチルデキストラン、カルボキシメチルデンプン等が挙げられる。カルボキシル基含有多糖類は、市販の化合物を用いることが可能であり、具体的には、カルボキシメチルデキストランであるCMD、CMD−L、CMD−D40(名糖産業社製)、カルボキシメチルセルロースナトリウム(和光純薬社製)、アルギン酸ナトリウム(和光純薬社製)、等を挙げることができる。
【0030】
本願発明において水膨潤性膜は親水性高分子であることが好ましく、多糖及び/又はその誘導体及び/又は長鎖ポリエチレングリコール誘導体であることがより好ましい。これらの親水性高分子により非特異的吸着が比較的少なくすることができる。中でも、多糖、及び/又はその誘導体を好ましく用いることができ、デキストラン、デキストラン誘導体、特にカルボキシメチルデキストランは生理活性維持の観点から好ましく用いられる。
【0031】
本願発明で用いる親水性高分子の分子量は特に限定されないが、一般的には200以上5000000以下であることが好ましい。さらに好ましい親水性高分子の分子量は10000以上2000000以下である。
【0032】
担体表面に固定する親水性高分子は、水溶液中の膜厚が1nm以上300nm以下であることが好ましい。膜厚が薄いと生理活性物質固定量が減少し、また担体表面の水和層が薄くなるため生理活性物質自身の変性で相互作用分子との相互作用が検出しにくくなる。膜厚が厚いと相互作用分子が膜内に拡散する障害となり、また特に担体基板の親水性高分子固定面の反対側から相互作用を検出する場合は検出表面から相互作用形成部までの距離が長くなり、検出感度が低くなる。水溶液中の親水性高分子の膜厚はエリプソメトリー、AFMなどで評価することができる。
【0033】
本願発明において、担体表面を水膨潤性膜で被覆する方法としては、公知の方法を用いることが可能であるが、具体的には、エクストルージョンコート法、カーテンコート法、キャスティング法、スクリーン印刷法、スピンコート法、スプレーコート法、スライドビードコート法、スリットアンドスピン方式、スリットコート方式、ダイコート法、ディップコート法、ナイフコート法、ブレードコート法、フローコート法、ロールコート法、ワイヤバーコート方式、転写印刷法、等を用いることが可能である。これらの被覆方法については、「コーティング技術の進歩」原崎勇次著、総合技術センター(1988)、「コーティング技術」技術情報協会(1999)、「水性コーティングの技術」シーエムシー(2001)、「進化する有機薄膜 成膜編」住べテクノリサーチ(2004)、「高分子表面加工学」岩森暁著、技報堂出版(2005)、等に説明されている。本願発明において担体表面を水膨潤性膜で被覆する方法としては、スプレーコート法またはスピンコート法が好ましく、スピンコート法がさらに好ましい。
【0034】
スプレーコート法とは、微細化された高分子溶液を基板に吹きつけた状態で、基板を移動させることで、基板上に高分子溶液を均一塗布する方法である。スプレーガンの引き金を引くと空気バルブとニードルバルブが同時に開き、ノズルから高分子溶液が霧状に噴出し、ノズル先端にある空気キャップから噴出する空気で霧状の高分子溶液がさらに微細化される。微細化された高分子溶液による塗布膜を基板表面に形成させた後、溶媒を蒸発させることで、高分子フイルムが容易に作成される。高分子溶液濃度、基板の移動速度等により、高分子薄膜の膜厚制御が可能となる。
【0035】
スピンコート法とは、水平に設置した基板上に高分子溶液を滴下した後に高速回転させ、遠心力によって基板全体に高分子溶液を均一塗布する方法である。遠心力による高分子溶液の飛散と溶媒の蒸発に伴い、高分子フイルムが容易に作成される。回転数、高分子溶液濃度、溶剤の蒸気圧等により、高分子薄膜の膜厚制御が可能となる。本願発明においてスピンコート時の回転数は特に制限されないが、回転数が低すぎる場合には基板上に溶液が残存し、回転数が高すぎる場合には使用可能な装置が制限されてしまう。それゆえ本研究においてはスピンコート時の回転数は、500rpm〜10000rpmであることが好ましい。
【0036】
本願発明における水非膨潤性膜としては、疎水性高分子、自己組織化膜(SAM)形成分子、又は無機酸化物を含む膜を挙げることができる。
【0037】
本願発明に使用可能な疎水性高分子としては、水に対する溶解度が20重量%以下であるモノマーを50重量%以上含むことが好ましい。
疎水性高分子を形成するモノマーの25℃の水に対する溶解度は、新実験化学講座基本操作1(丸善化学、1975)に記載されている方法で測定することができる。この方法で測定すると上記本願発明におけるモノマーの20℃の水に対する溶解度は、例えば2−エチルヘキシルメタクリレートで0.00重量%、スチレンで0.03重量%、メチルメタクリレートで1.35重量%、ブチルアクリレートで0.32重量%、ブチルメタクリレートで0.03重量%である。本願発明における疎水性高分子膜としての水に対する溶解度の指標としては、10重量%以下であることがより好ましく、1重量%以下であることが更に好ましい。
【0038】
本願発明で用いられる水に対する溶解度が20重量%以下であるモノマーの具体例としては、ビニルエステル類、アクリル酸エステル類、メタクリル酸エステル類、オレフィン類、スチレン類、クロトン酸エステル類、イタコン酸ジエステル類、マレイン酸ジエステル類、フマル酸ジエステル類、アリル化合物類、ビニルエーテル類、ビニルケトン類等から任意に選ぶことができ、スチレン、メタクリル酸メチル、メタクリル酸ヘキサフルオロプロパン、酢酸ビニル、アクリロニトリルなどが好ましく用いられる。疎水性高分子化合物としては、1種類のモノマーから成るホモポリマーでも、2種類以上のモノマーから成るコポリマーでもよい。
【0039】
本願発明では、前述の水に対する溶解度が20重量%以下であるモノマーと共に、水に対する溶解度が20重量%以上であるモノマーを共重合した高分子化合物を併用してもよい。水に対する溶解度が20重量%以上であるモノマーの具体例としては、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸、アクリル酸、アリルアルコール等が挙げられる。
【0040】
本願発明では、疎水性高分子としては、水に対する溶解度が20重量%以下である上記モノマーを50重量%以上含むことが好ましく、75%以上含むことがより好ましい。
【0041】
疎水性高分子の担体表面への被覆は常法によって行うことができ、例えば、スピン塗布、エアナイフ塗布、バー塗布、ブレード塗布、スライド塗布、カーテン塗布、さらにはスプレー法、蒸着法、キャスト法、浸漬法等によって行うことができる。
【0042】
疎水性高分子のコーティング厚さは特に限定されないが、好ましくは0.1nm以上500nm以下であり、特に好ましくは1nm以上300nm以下である。疎水性高分子の分子量は特に限定されないが、好ましい範囲は1万から5000万である。
【0043】
本願発明において、自己組織化膜とは、外からの細かい制御を加えていない状態で、膜形成分子そのものがもつ物性によって形成される一定の秩序をもつ組織をもった単分子膜やLB膜などの超薄膜のことを言う。この自己組織化により、非平衡な状況で長距離にわたって秩序がある構造やパターンが形成される。
【0044】
例えば、自己組織化膜は、含硫黄化合物により形成することができる。含硫黄化合物によって金表面に自己組織化膜を形成することは、例えば、Journal of American ChemicalSociety, 105, 4481-4483(1983) Nuzzo RGら(p4482, 右段5行目)、Journal of AmericanChemical Society, 109, 3559-3568(1987)Porter MDら(p3567, 右段62行目)、Langmuir, 4, 365-385(1988)Troughton EBら(p377 右段18行目)、などに記載されている。また、非特異吸着を抑制可能な自己組織化膜に関しては、Whitesides教授らにより詳細に検討されており、親水性基を有するアルカンチオールから形成された自己組織化膜が非特異吸着抑制に有効であることが報告されている(Langmuir,17,2841-2850(p2847左段27行目), 5605-5620(p5616,右段1行目), 6336-6343 (p6341,右段26行目)(2001))。本願発明において、自己組織化膜形成分子は前記論文に記載された化合物を好ましく用いることが可能である。
【0045】
自己組織化膜を構成する分子としては、一般式(I)X−R−Y、及び/又は一般式(II)Y1−R1−Z−R2−Y2で示される化合物を2種類以上混合して使用することができる。以下、X、R(以下、Rという場合には、R1及びR2を包含する)、Y(以下、Yという場合には、Y1及びY2を包含する)、Zについて説明する。
【0046】
X及びZは支持体表面、例えば金属に対する結合性を有する基である。Xは、具体的には、チオール(−SH)、ニトリル(−CN)、イソニトリル、ニトロ(−NO2)、セレノール(−SeH)、3価リン化合物、イソチオシアネート、キサンテート、チオカルバメート、ホスフィン、チオ酸またはジチオ酸(−COSH、−CSSH)が好ましく用いられ、Zは、具体的には、ジスルフィド(−S−S−)、スルフィド(−S−)、ジセレニド(−Se−Se−)、セレニド(−Se−)が好ましく用いられる。これらの官能基(X、Z)は金等の貴金属基板上に自発的に吸着し単分子サイズの超薄膜を与える。またその集合体は基板の結晶格子や吸着分子の分子構造(本願発明における、一般式(I)、(II)中のRなどがとり得る構造)に依存した配列を示すことができる。
【0047】
Yは非特異的な吸着を抑制するための官能基YAと、特定物質を結合するための官能基YBの混合物であることが好ましい。YAは水酸基、短鎖ポリエチレングリコール基、ホスホリルコリン基、単糖、オリゴ糖、ポリオールなどを用いることができ、水酸基及び/又は短鎖ポリエチレングリコール基であることがより好ましい。YBは特定物質に直接又は活性化後結合でき、具体的にはカルボキシル、アミノ、アルデヒド、マレイミド、ヒドラジノ、ヒドラジド、カルボニル、エポキシ、ヒドロキシル、又はビニル基などを用いることができ、カルボキシル基であることがより好ましい。また、Y1、Y2は、同一の官能基であっても、異なる官能基であってもよい。
【0048】
Rはアルキル鎖であることが好ましく、場合によりヘテロ原子により中断されており、好ましくは適当に密な詰め込みのため直鎖(枝分かれしていない)であり、場合により二重及び/又は三重結合を含んでいても良い。また、R1、R2は、同一であっても、異なっていてもよい。
【0049】
アルキル鎖の長さは4原子以上23原子以下であることが好ましく、好ましくは4原子以上18原子以下であることが好ましく、更に好ましくは6原子以上16原子以下が良い。炭素鎖は場合により過弗素化されることができる。
【0050】
本願発明に使用可能な、一般式(I)X−R−Yで示される自己組織化膜を構成する分子の具体例としては、10-カルボキシ-1-デカンチオール、11-ヒドロキシ-1-ウンデカンチオール、11-アミノ-1-ウンデカンチオール、7−カルボキシ−1−へプタンチオール、16-メルカプトヘキサデカン酸などが挙げられる。
また、一般式(II)Y1−R1−Z−R2−Y2の具体例としては4,4'-ジチオジブチル酸、11,11'-チオジウンデカン酸などが挙げられる。
【0051】
本願発明に使用可能な無機酸化物としては、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、フェライト及びその複合材料や誘導体を選択することができる。成膜方法としては常法によって行うことができ、例えばゾルゲル法、スパッタ法、蒸着法、めっき法などの手法を採用することができ、膜厚としては1〜1000nmであることが好ましい。
【0052】
本願発明において水非膨潤性膜を形成する化合物としては、ポリアクリル酸エステル、ポリメタクリル酸エステル、ポリエステル、ポリスチレンが好ましい。そうすることによって、膜形成が容易になりかつ表面に生理活性物質を固定化するための官能基を露出することも容易になる。例えばポリアクリル酸エステル、ポリメタクリル酸エステル、ポリエステルで形成された膜は表面を酸や塩基で加水分解することによって表面にカルボキシル基とヒドロキシル基を露出することが容易であり、またポリスチレンで形成された膜はUV/オゾン処理などの酸化処理施すことによってカルボン酸を露出することが容易である。
【0053】
本願発明において、水膨潤性膜は水中における排除体積の効果などにより、タンパク質などの生体関連物質の非特異的吸着が比較的少なく、また固定化物質の固定化能にも比較的優れている一方で、水中で比較的広い空間に存在しているため、膜自体が電荷を有する場合、その反対電荷を有する物質がその空間に取り込まれることにより、非特異的吸着量が多い場合がある。例えば前記のカルボキシメチルデキストランで被覆された表面に対してpIの高いタンパク質であるアビジンは水非膨潤性膜に比べて非特異的吸着量が多いことが知られている。
【0054】
一方、水非膨潤性膜では、膜自体が荷電を有していてもそれが広い空間的に分布されることがないために、膜と反対荷電を有する物質の非特異的吸着量は比較的少ない。しかし、一般的に水非膨潤性膜は水膨潤性膜と比べて全体的に非特異的吸着の抑制能が低い場合が多い。
【0055】
上記のように水膨潤性膜と水非膨潤性膜ではその非特異的吸着物質が異なる場合が多く、そのため、それらの表面を利用して同定した相互作用物質候補のうち両者に共に含まれない物質はどちらかの表面に対する非特異的吸着物質として除く事によって相互作用分子のスクリーニング効率と精度をより高めることができる。
【0056】
本願発明における固定化方法とは前記生理活性物質を前記担体表面近傍に留めておく手法であれば特に限定はされない。具体的には共有結合、配意結合、静電的結合、水素結合、疎水的相互作用やアビジン−ビオチンのような生化学的結合を利用して固定化する手法が挙げられる。更に該生理活性物質に対する抗体などの特異的結合物質を用いて、該生理活性物質が該相互作用分子の溶液中に含まれる系において固定化工程と接触工程を同時に行う手法を利用しても良い。
【0057】
本願発明のスクリーニング方法を用いる場合、生理活性物質の固定化方法は全て同一であることが好ましく、同一の官能基を介して生理活性物質が固定化されていることがより好ましい。また、反応の容易さ、安定さから全ての表面においてカルボキシル基、アミノ基、アルデヒド基を介して生理活性物質が固定化されていることが好ましく、非特異的吸着の少なさの観点からカルボキシル基がより好ましい。
【0058】
本願発明における接触工程は、前記固定化生理活性物質が前記混合溶液中の分子と相互作用しうる方法であれば特に限定はされない。具体的には担体表面上に流路を形成させてそこに該混合溶液を連続的に流すいわゆるコンティニアスフロー方式、同じく流路に該混合溶液を注入し該混合溶液が担体表面に接触している状態で流れを止め、場合によって異なる溶液を流す、いわゆるストップトフロー方式、担体表面上に液を溜めて接触させるバッチ方式、担体自体を該混合溶液に漬けるディップ方式などが挙げられる。この工程により、担体表面に相互作用分子候補が吸着する。
【0059】
本願発明における洗浄工程とは、担体表面に存在すると考えられる相互作用分子候補の一部を表面近傍から除く工程を表し、その具体的方法は特に限定はされない。例えば、相互作用分子候補が存在していると考えられる担体表面に対して洗浄液を接触させて、候補の一部を表面から洗い流す方法が挙げられる。この時、洗浄溶液は任意の液で構わないが、例えば水、緩衝液、有機溶媒やそれらにHCl、酢酸などの酸、NaOH、アンモニアなどのアルカリ、NaCl、 KClなどの塩やNP-40、Tweenなどの界面活性剤、尿素などのカオトロピック剤を含有した溶液を選択することができる。また、これらを組み合わせて利用したり、グラジエントやステップワイズに成分を変化させながら利用することができる。
【0060】
本発明における回収工程とは前記担体表面に吸着している相互作用分子候補を表面から引き離す工程を指す。例えば、前記洗浄溶液を接触させて表面から相互作用分子候補を脱離し、取り出す方法が挙げられる。回収工程を経ることで相互作用分子候補の扱いが楽になり、同定工程が容易になったり、その精度が高められたりする場合がある。
【0061】
一方、本回収工程を行わずに同定工程を行うとは前記担体表面に存在する相互作用分子候補に対して直接同定の操作を行うことを指す。例えば、前記担体表面に直接レーザー光を照射させてエネルギーを与えてイオン化・脱離を促し質量分析にかける方法や前記担体表面において直接ラマン分光法を用いて相互作用分子候補の同定を行う方法が挙げられる。
【0062】
本願発明における分子を同定する工程は、上記接触工程により、担体表面に吸着した相互作用分子候補を同定することをいう。その方法は、分子を同定することができればどのような方法を用いてもよい。また、同定後の相互作用分子候補は単一の分子でなくても良く、複数の候補があっても良い。具体的な同定方法としては、質量分析(マススペクトロメトリー)、NMR(Nuclear Magnetic Resonance:核磁気共鳴分析)、ラマン分光、IR分光、HPLC(High-Performance Liquid Chromatography:高速液相クロマトグラフィー)などの一般的な解析装置を単独、又は組み合わせて採用することができる。また、相互作用分子がDNAの場合DNAシーケンサー、糖鎖の場合レクチンHPLCのように相互作用分子に合わせて特化した解析装置を採用することもできる。
【0063】
また、本願発明においては、相互作用分子がタンパク質やペプチドの場合、質量分析を使用することでそのアミノ酸構成、更にはそのアミノ酸配列まで同定することが可能であるため、他手法に比べて同定工程の精度を高く得ることができる。より具体的には、イオン化法としてESI(ElectroSpray Ionization)法やMALDI (Matrix-Assisted Laser Desorption/Ionization)、質量分離法としてTOF型(Time-Of-Flight)、四重極型(Quadrupole)、イオントラップ型(Ion Trap)等を利用することができる。また、これらのイオン化法と質量分離法とを適宜組み合わせたり、質量分離部を複数連結したタンデム質量分析法(MS/MS)として利用することもできる。更に、解析方法に応じて適宜相互作用分子候補を分解、修飾することができる。特に相互作用分子がタンパク質で解析方法が質量分析である場合、解析前にプロテアーゼによる部位特異的な分解をすることがより好ましい。また、相互作用分子候補やその断片が多数得られる場合、HPLCを用いてそれらの分離を行い、それと連続してESIなどのイオン化による質量分析を行うことで、高い分離能と高い精度で相互作用分子を同定することが可能になる。
【0064】
本願発明における比較・決定工程とは、上記の同定工程により同定された相互作用分子候補を夫々列挙し、それぞれを比較することで相互作用分子候補として共通して挙がった分子を、真の相互作用分子として決定する工程を表す。例えば夫々において候補として共通して挙がった分子を真の相互作用分子として選択し、真の相互作用分子として決定する方法が挙げられる。また、共通して挙がった分子のうち、生理活性物質の固定化量が多い担体表面からより多く同定された分子を選択、決定する方法が挙げられる。更に、膨潤性を有する膜で被覆された表面では高分子量の相互作用分子は膜自体の立体反発によって相互作用しにくくなることが知られているため、高分子量の相互作用分子においては膨潤性を有する膜で被覆された担体表面より非膨潤性を有する膜で被覆された担体からより多く同定された分子を選択・決定する方法が挙げられる。
【0065】
本願発明における近接場光を利用した解析としては、前記相互作用分子候補と前記生理活性物質との相互作用量を測定できる手法であれば特に限定はされず、例えば、SPR(表面プラズモン共鳴)解析、漏洩モード測定、LPR(局所プラズモン共鳴)解析、グレーティング・カップルド・レゾナンス分析、二面偏波式干渉分析、表面増強ラマン散乱測定、ATR-IR(全反射赤外分光)法などを挙げることができる。近接場光を利用した解析を用いることで、担体表面で生じる相互作用のみを高感度かつ非標識で検出することが可能になり、前記接触工程、洗浄工程、回収工程において前記相互作用分子候補と前記生理活性物質との相互作用量を基準に各条件を決定することが可能になる。そのため、相互作用分子候補における真の相互作用分子の割合を高めることが可能になる。また、本願発明においては、簡便かつ高感度に経時的な相互作用量を監視することが可能なSPR解析を使用することが好ましい。
【0066】
以下の実施例により本願発明を更に具体的に説明するが、本願発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0067】
(1)CMD膜担体へのGADの固定化
全ての実施例における固定化工程、接触工程、洗浄工程はBiacore社製Biacore3000とそれに付属の装置であるSurface Prep Unitを利用した。
水膨潤性膜としてCMD(カルボキシメチルデキストラン)が被覆されているガラス薄板(Biacore社製 CM5)を担体として用いた。本皮膜をCMD膜と呼ぶ。CMD膜の、(水中膜厚)/(乾燥状態の膜厚)は10倍であった。担体表面に0.4M EDC(1-Ethyl-3-[3-dimethylaminopropyl]carbodiimide hydrochloride:Biacore社製)と0.1M NHS(N-hydroxyl succinimide:Biacore社製)を等量ずつ混合した活性化液を接触させ、カルボン酸の活性化を行い、そこに生理活性物質としてGAD(Glutamic acid decarboxylase:グルタミン酸脱炭酸酵素)を接触させてGADを担体表面に固定化した。その後、余剰の活性化カルボン酸をマスクするために1M エタノールアミン(pH8.5)を接触させた。
【0068】
(2)担体への水非膨潤性膜の成膜
水非膨潤性膜として疎水性高分子による成膜を以下の手順で行った。金の薄膜を有するガラス薄板(Biacore社製)に対して12分間UV照射を行い表面の洗浄を行った。ポリメチルメタクリレート(PMMA)−ポリスチレン(PSt)の共重合体(モノマー仕込み比5:5、平均分子量20,000)を2mg/mlの濃度でメチルエチルケトンに溶解させ、疎水性高分子溶液を作製した。前記ガラス薄板上に疎水性高分子溶液50μlを滴下しスピンコート塗布(1,000rpm、45秒)を行って1時間室温で乾燥させた。疎水性高分子被覆ガラス薄板を1M NaOHに浸漬させて60℃で16時間静置し、表面PMMAのエステルを加水分解させた。洗浄後、上記と同じ条件でカルボン酸を活性化し、1M 5-アミノ吉草酸に一晩接触させてリンカーを形成させた。本皮膜を疎水性高分子膜と呼ぶ。
【0069】
(3)疎水性高分子膜担体へのGADの固定化
疎水性高分子膜担体表面に0.4M EDCと0.1M S-NHS(Sulfo-N-hydroxyl succinimide:PIERCE社製)を等量ずつ混合した活性化液を接触させ、カルボン酸の活性化を行い、そこに生理活性物質としてGAD(Glutamic acid decarboxylase:グルタミン酸脱炭酸酵素)を接触させてGADを担体表面に固定化した。その後、余剰の活性化カルボン酸をマスクするために1M エタノールアミン(pH8.5)を接触させた。
【0070】
(4)細胞抽出液の接触、回収、分解
相互作用分子を含みうる混合溶液としてラット脳細胞抽出液(約0.8mg/ml)を用いた。ラット脳細胞抽出液を接触させてGADが固定化された各担体(CMD膜被覆、疎水性高分子膜被覆)表面に対して50mM NH4HCO3を接触させて非特異的な吸着物を洗浄した。続いて50mM NaOHを接触させ相互作用分子候補をGADから解離させて回収し、NH4HCO3でpHを中性付近に調整した。続いて、プロテアーゼの一種であるトリプシンを用いて相互作用分子候補であるタンパク質を部位特異的に分解した。
【0071】
(5)LC-MS/MSによる分子同定
各担体表面より得られた相互作用分子(タンパク質)の分解物を分離・同定するために、LC(液相クロマトグラフィー:Waters社製 CapLC)−MS/MS(タンデム質量分析:Micromass社製 Q-TOF Ultima Global)で解析を行った。LCの分離条件は、アセトニトリル(A:比率0%〜30%)と0.1%ギ酸(B)の混合グラディエントとして、速度1% / 1min.で(A)比率を上昇させた。(A)が30%に達した以降は50%、95%にステップワイズで上昇させた。分画した相互作用分子候補をESIでイオン化しMS/MSによって解析した。
【0072】
(6)解析結果
図1から図6に解析結果を示す。解析は質量分析機によって得られたデータをマスコット(Mascot)を用いて解析し、結果をマスコットのスコアが高い順に列挙した。なお、マスコットのスコアが30未満のものはノイズとして除外した。また、マスコット解析において特定タンパク質の類似タンパク質として挙げられたタンパク質データはその特定タンパク質を列挙した。
【0073】
(7)相互作用分子候補の比較と選択
本願発明の実施例による結果を図8に図示する。相互作用分子を含みうる混合溶液(図5中A)中、CMD膜からは28種類(BとD)、疎水性高分子膜からは40種類(CとD)、の相互作用分子候補が得られた。また、疎水性高分子膜からは得られず、CMD膜からのみ得られた相互作用分子候補は11種類(B)CDM膜からは得られず、疎水性高分子膜からのみ得られた相互作用分子候補は20種類(C)存在し、両膜から得られた相互作用分子候補は13種類(含GAPDH)(D)であった。よって、本実施例において、真の相互作用分子は13種類であることがわかった。
【0074】
(8)選択された相互作用分子の相互作用性確認
本願発明のスクリーニング方法が適切であることの確認として、得られた相互作用分子が固定化生理活性物質であるGADと相互作用することを、一例としてGAPDHを用いて確認した。なお、GAPDHは市販の精製品を利用し、相互作用確認方法はSPRによる両者の直接的な結合解析を行った。上記と同じ方法にてGADを固定化したCMD膜担体(ガラス薄板)を、Biacore3000(Biacore社製)にセットし、各種濃度(0.16, 0.32, 0.64, 1.28, 2.57, 5.14 [μM])のGAPDH(グリセルアルデヒド3-リン酸デヒドロゲナーゼ)をGADに接触させた。GADに続いてバッファーを接触させ、GAPDHの結合・解離のセンサーグラムを得た。得られたセンサーグラムを図7に示す。得られたセンサーグラムは、GAPDHの濃度に応じてLangmuirの等温吸着式に従う適切なカーブとなった。。また、得られたセンサーグラムに対してBIAevaluation(Biacore社製)を用いてカーブフィッティングを行い、結合速度定数kaと解離速度定数kd、平衡解離定数Kdを算出した。結果、ka=9.4×102、kd=5.4×10-4、Kd(ka/kd)=5.8×102-7となり、GAPDHはGADと直接相互作用(結合)することが明らかとなった。このことから本願発明でスクリーニングされた相互作用分子が確かに相互作用することが確認され、本願発明のスクリーニング方法が優れていること示された。
【0075】
これらの相互作用分子候補を単独の担体表面を使用してスクリーニングした場合、例えば、CMD膜のみを利用すると、28種類を相互作用分子候補として選択することとなり、これらを全てに対し、相互作用性を確認し、真の相互作用分子を決定する必要がある。(比較例)
【0076】
それに対し、本願発明によるスクリーニング方法においては、両膜において得られた相互作用分子候補は13種類であるため、相互作用性を確認し、真の相互作用分子を決定する効率が、比較例に比べ、格段に上昇していることが示された。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】図2から6の説明である。
【図2】実施例(1)によって作成した水膨潤性膜(CMD膜)により被覆された担体表面において、実施例(4)及び(5)の工程において得られた相互作用分子候補(前半)
【図3】実施例(1)によって作成した水膨潤性膜(CMD膜)により被覆された担体表面において、実施例(4)及び(5)の工程において得られた相互作用分子候補(後半)
【図4】実施例(2)及び(3)によって作成した水非膨潤性膜(疎水性高分子膜)により被覆された担体表面において、実施例(4)及び(5)の工程において得られた相互作用分子候補(前半)
【図5】実施例(2)及び(3)によって作成した水非膨潤性膜(疎水性高分子膜)により被覆された担体表面において、実施例(4)及び(5)の工程において得られた相互作用分子候補(中段)
【図6】実施例(2)及び(3)によって作成した水非膨潤性膜(疎水性高分子膜)により被覆された担体表面において、実施例(4)及び(5)の工程において得られた相互作用分子候補(後半)
【図7】実施例(8)において得られたSPRセンサーグラム
【図8】実施例(1)から(5)の工程により得られた2種類の担体表面から得られた相互作用分子候補の群の模式図

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)2種類以上の担体表面に生理活性物質を固定化する固定化工程と、(b)生理活性物質と相互作用する相互作用分子を含む溶液を、該生理活性物質を固定化した担体表面に接触させる接触工程と、(c)担体表面に存在する相互作用分子候補を同定する同定工程を含む、生理活性物質と相互作用する相互作用分子のスクリーニング方法であって、該2種類以上の担体表面が、水に対して膨潤性を有する膜で被覆された表面、及び水に対して非膨潤性を有する膜で被覆された表面を少なくとも含み、且つ、該2種類以上の担体表面の各々において相互作用分子候補を同定し、比較することによって、相互作用分子を決定することを特徴とする、前記スクリーニング方法。
【請求項2】
2種類以上の担体表面の材質が全て異なることを特徴とする請求項1に記載のスクリーニング方法。
【請求項3】
水に対して膨潤性を有する膜が、乾燥状態の膜厚と比較して10倍以上の水中膜厚を有することを特徴とする請求項1に記載のスクリーニング方法。
【請求項4】
水に対して膨潤性を有する膜を形成する化合物が水溶性高分子であることを特徴とする請求項1から3の何れかに記載のスクリーニング方法。
【請求項5】
水溶性高分子が多糖及び/又はその誘導体であることを特徴とする請求項4に記載のスクリーニング方法。
【請求項6】
水に対して非膨潤性を有する膜を形成する化合物が、疎水性高分子、又は自己組織化膜形成分子であることを特徴とする請求項1から5の何れかに記載のスクリーニング方法。
【請求項7】
水に対して非膨潤性の膜を形成する化合物が、ポリアクリル酸エステル及び/又はポリメタクリル酸エステル及び/又はポリエステル及び/又はポリスチレンであることを特徴とする請求項6に記載のスクリーニング方法。
【請求項8】
生理活性物質が、同一の官能基を介して、水に対して膨潤性を有する膜で被覆された表面及び水に対して非膨潤性を有する膜で被覆された表面上に固定化されていることを特徴とする、請求項1から7の何れかに記載のスクリーニング方法。
【請求項9】
上記同一の官能基が、アミノ基、アルデヒド基、又はカルボキシル基であることを特徴とする請求項8に記載のスクリーニング方法。
【請求項10】
前記同定工程における相互作用分子候補を同定する方法が質量分析であることを特徴とする請求項1から9の何れかに記載のスクリーニング方法。
【請求項11】
前記相互作用分子がタンパク質及び/又はペプチドであることを特徴とする請求項1から10の何れかに記載のスクリーニング方法。
【請求項12】
前記生理活性物質がタンパク質及び/又はペプチドである、請求項1から11の何れかに記載のスクリーニング方法。
【請求項13】
前記接触工程と前記同定工程との間に、前記相互作用分子を含む溶液に含まれる相互作用分子のうち一部を洗浄して前記担体表面から除く洗浄工程を含むことを特徴とする請求項1から12の何れかに記載のスクリーニング方法。
【請求項14】
前記接触工程と前記同定工程との間に、前記担体表面に相互作用している相互作用分子候補を回収する回収工程を含むことを特徴とする請求項1から13の何れかに記載のスクリーニング方法。
【請求項15】
前記接触工程及び/又は洗浄工程及び/又は回収工程において、該担体表面における近接場光を利用した解析を行うことを特徴とする請求項1から14の何れかに記載のスクリーニング方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−53072(P2009−53072A)
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−220640(P2007−220640)
【出願日】平成19年8月28日(2007.8.28)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【出願人】(304020292)国立大学法人徳島大学 (307)
【Fターム(参考)】