説明

生理状態推定装置及び方法

【課題】 ノイズ混入時においても生理状態を良好に推定できる生理状態推定装置及び方法を提供する。
【解決手段】 複数の実生理指標から予測生理指標を算出し、実生理指標のいずれにもノイズが含まれないと判定される場合には、生理状態演算モデルとして基準生理状態演算モデルを選択し、実生理指標のいずれかにノイズが含まれると判定される場合には、ノイズ量の少なさに応じて選択される複数の変更生理状態演算モデル候補と、基準生理状態演算モデルに、生理指標予測手段で算出された予測生理指標をそれぞれ入力して、予測変更生理状態と予測基準生理状態をそれぞれ求め、この予測基準生理状態対して相関の高い予測変更生理状態を与える変更生理状態演算モデルを、実生理指標入力用の生理状態演算モデルとして選択する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生理状態推定装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の生理指標推定装置は、例えば、下記特許文献1に示されるように、生体指標にノイズ(イレギュラーなインパルス)が混入しているかどうかを確認し、ノイズが入っていないと判断された指標から得られた推定結果を出力している。
【特許文献1】特開平9−220208号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、従来の生理指標測定装置では、ノイズ混入/非混入の生理指標が複数ある場合、これらの生理指標に基づいて如何なる処理を行うかについては検討されておらず、ノイズが混入したときに良好な生理状態を推定できない。
【0004】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、ノイズ混入時においても生理状態を良好に推定できる生理状態推定装置及び方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述の課題を解決するため、第1の発明では、複数の実生理指標を生理状態演算モデルに入力して被験者の生理状態を演算する生理状態推定装置において、複数の実生理指標から予測生理指標を算出する生理指標予測手段と、実生理指標のいずれにもノイズが含まれないと判定される場合には、生理状態演算モデルとして基準生理状態演算モデルを選択し、実生理指標のいずれかにノイズが含まれると判定される場合には、ノイズ量の少なさに応じて選択される複数の変更生理状態演算モデル候補と、基準生理状態演算モデルに、生理指標予測手段で算出された予測生理指標をそれぞれ入力して、予測変更生理状態と予測基準生理状態をそれぞれ求め、この予測基準生理状態対して相関の高い予測変更生理状態を与える変更生理状態演算モデルを、実生理指標入力用の生理状態演算モデルとして選択する生理状態モデル選定手段とを備えることを特徴とする。
【0006】
この装置によれば、計測された実生理指標にノイズが含まれるものがあると判定される場合には、変更生理状態演算モデルに実生理指標を入力して、生理状態を演算する。変更生理状態演算モデルは、複数の候補の中から選択するが、この選択に当たっては、基準生理状態演算モデルに予測生理指標を入力して得られる生理状態に対して高い相関を与える予測変更生理状態を出力するモデルを選択する。すなわち、ノイズ混入時においても、ノイズの影響が抑制された生理状態演算モデルが選択され、これにノイズ量の少ない生理指標が入力されることになるため、生理状態を良好に推定することができる。
【0007】
第2の発明に係る生理状態推定装置は、被験者動作を検出する動作検出手段と、動作検出手段の出力結果に基づいてノイズが実生理指標に含まれているかどうかを判定するノイズ混入判定手段とを備えることを特徴とする。
【0008】
ノイズ混入判定手段は、生理指標におけるノイズ混入について被験者動作に基づき判定している。生理指標はイレギュラーに変化する場合もあるが、これが被験者動作に起因する場合には、この変化はノイズであると判定できる。
【0009】
すなわち、第3の発明に係る生理状態推定装置では、ノイズ判定手段は、動作検出手段の出力結果としての被験者動作量が所定値よりも大きい場合に、ノイズ混入と判定することを特徴とする。被験者動作量が所定値以下の場合にはノイズ混入ではないと判断できる。
【0010】
上述の生理状態推定装置は好適には、被験者の複数の実生理指標をそれぞれ検出する複数の生理指標検出手段と、生理指標検出手段で検出された複数の実生理指標から予測生理指標を算出する生理指標予測手段と、被験者動作を検出する動作検出手段と、所定の生理状態演算モデルを選択する生理状態モデル選定手段と、生理指標検出手段で検出された複数の実生理指標を、生理状態モデル選別手段で選別された生理状態演算モデルに入力して、被験者の生理状態を演算する生理状態演算手段とを備え、生理状態モデル選別手段は、動作検出手段で検出された複数の被験者動作の量が全て所定値よりも小さい場合には、生理状態演算モデルとして基準生理状態演算モデルを選択し、動作検出手段で検出された複数の被験者動作の量に所定値以上のものがある場合には、生理状態演算モデルとして変更生理状態演算モデルを選択し、変更生理状態演算モデルは、動作検出手段で検出された複数の被験者動作の量に基づいて選択される変更生理状態演算モデル候補を設定し、この変更生理状態演算モデル候補に、生理指標予測手段で算出された予測生理指標を入力して予測変更生理状態を求め、基準生理状態演算モデルに、生理指標予測手段で算出された予測生理指標を入力して予測基準生理状態を求め、予測基準生理状態に対して相関の高い予測変更生理状態を与える変更生理状態演算モデルを選択することを特徴とする。
【0011】
この生理状態推定装置では、予測生理指標を基準及び候補となる各生理状態演算モデルに入力しており、静的な状態で適切な結果を出力する基準生理状態モデルと比較して、一致度の高い結果を出力する生理状態演算モデルを候補モデル中から選択するので、被験者動作に基づくノイズ混入であると判定された場合においても、正確な結果を出力する生理状態演算モデルを選択することができる。
【0012】
本発明に係る生理状態推定方法は、複数の実生理指標を生理状態演算モデルに入力して被験者の生理状態を演算する生理状態推定方法において、複数の実生理指標から予測生理指標を算出する生理指標予測工程と、実生理指標のいずれにもノイズが含まれないと判定される場合には、生理状態演算モデルとして基準生理状態演算モデルを選択し、実生理指標のいずれかにノイズが含まれると判定される場合には、ノイズ量の少なさに応じて選択される複数の変更生理状態演算モデル候補と、基準生理状態演算モデルに、生理指標予測手段で算出された予測生理指標をそれぞれ入力して、予測変更生理状態と予測基準生理状態をそれぞれ求め、この予測基準生理状態対して相関の高い予測変更生理状態を与える変更生理状態演算モデルを、実生理指標入力用の生理状態演算モデルとして選択する生理状態モデル選定工程とを備えることを特徴とする。
【0013】
この方法によれば、計測された実生理指標にノイズが含まれるものがあると判定される場合には、変更生理状態演算モデルに実生理指標を入力して、生理状態を演算する。変更生理状態演算モデルは、複数の候補の中から選択するが、この選択に当たっては、基準生理状態演算モデルに予測生理指標を入力して得られる生理状態に対して高い相関を与える予測変更生理状態を出力するモデルを選択しており、ノイズ混入時においても、ノイズの影響が抑制された生理状態演算モデルが選択され、これにノイズ量の少ない生理指標が入力されることになるため、生理状態を良好に推定することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の生理状態推定装置及び方法によれば、被験者の生理状態を正確に推定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、実施の形態に係る生理状態推定装置及び方法について説明する。なお、同一要素には、同一符号を用いることとし、重複する説明は省略する。
【0016】
図1は生理状態推定装置のブロック図である。この生理状態推定装置は、複数の実生理指標を生理状態演算モデルに入力して被験者の生理状態を演算するものである。
【0017】
この生理状態推定装置は、複数の計測機器からなる生理指標計測部(生理指標検出手段)10、予測信号生成部(生理指標予測手段)11、ノイズ混入判定部(ノイズ混入判定手段)12、選定モデル有無判定部13、定常モデル部14、推定曲線出力部(定常モデル)15、ノイズ混入時用モデル候補・構築部16、推定極性出力部(ノイズ混入時モデル)17、ノイズ混入時モデル選定部18、定常モデルを用いた覚醒度推定処理部19、ノイズ混入時モデルを用いた覚醒度推定処理部20、体動検出部(動作検出手段)21を備えている。以下、詳説する。
【0018】
体動検出部21は、複数の被験者動作(手の動き、頭部の動き、脚の動き、胴部の動き)を検出する。ここでは、体動検出部21は、各被験者部位に設けられた加速度センサであるとするが、光又は超音波センサであってもよい。
【0019】
生理指標計測部10の計測機器は被験者の複数の実生理指標(脳波、心拍、皮膚インピーダンス等)をそれぞれ検出する。ここでは、実生理指標の計測に加えて必要な信号処理(フィルタ処理、平均値算出、積分値算出などの数値処理)を行う。
【0020】
予測信号生成部11は、生理指標計測部10で検出された複数の実生理指標から、その予測生理指標(脳波、心拍、皮膚インピーダンスの予測値)を算出する。すなわち、時間と共に変化する各実生理指標の近似関数を演算し、次の時刻における実生理指標を求める。
【0021】
図2は、(実)生理指標P(例えば、脳波とする)の時間tに対するグラフである。所定のサンプリングタイミング(サンプリング周期tとする)で実生理指標が得られている。現在時刻をtとする。
【0022】
図3は、図2に示した生理指標Pを含む近似関数(曲線)(P(t))の時間tに対するグラフである。ここでは、P(t)=αt+βt+γt+δとし、各生理指標データを近似関数演算プログラムに入力して、各係数α、β、γ、δを求める。これで、生理指標Pの近似関数を得ることができる。
【0023】
図4は、現在時刻t以降の生理指標Pの時間tに対する予測値を示すグラフである。近似関数P(t)が求められているため、現在時刻t以降のサンプリング時刻(t+t、t+2t、t+3t)における生理指標P(t)がメモリ空間におけるグラフ上にプロットされる。これらの予測値を予測信号とする。
【0024】
図5は、脳波(アルファ波パワー)(a)、心拍周期(b)、瞬き持続時間(c)、呼吸周期(d)の予測値の時間tに対するグラフである。これらの生理指標の過去の値は被験者に取り付けられた脳波センサ、心拍センサ、視線モニタ、呼吸モニタによって計測される。
【0025】
図1を再び参照する。
【0026】
ノイズ混入判定部12は、体動検出部21の出力結果に基づいてノイズが実生理指標に含まれているかどうかを判定する。ノイズ混入判定部12は、生理指標におけるノイズ混入について被験者動作に基づき判定している。生理指標はイレギュラーに変化する場合もあるが、これが被験者動作に起因する場合には、この変化はノイズであると判定できる。
【0027】
すなわち、ノイズ混入判定部12は、体動検出部21の出力結果としての被験者動作量が所定値よりも大きい場合に、ノイズ混入と判定している。なお、被験者動作量が所定値以下の場合にはノイズ混入ではないと判断できる。ノイズ混入判定部12は、このような閾値処理を行い、ノイズ混入がない場合には矢印A1に従って実生理指標を覚醒度推定処理部19に入力して処理を繰り返し、ノイズ混入があってノイズ混入時の生理状態演算モデルがある場合には、矢印A2に従って、実生理指標を覚醒度推定処理部20に入力して処理を繰り返す。
【0028】
選定モデル有無判定部13は、ノイズ混入時における生理状態演算モデルの有無を判定している。ノイズ混入判定部12においてノイズ混入有りと判定され、選定モデル有無判定部13において、ノイズ混入時に使用する生理状態演算モデルが選定されていない場合には、予測生理指標は、矢印B1に従って定常モデル部14に入力されると共に、矢印B2に従ってノイズ混入時用モデル候補・構築部16に入力される。
【0029】
定常モデル部14は、基準生理状態演算モデル(Sとする)を与える。基準生理状態モデル(S)に生理指標を入力すると、被験者が静的な状態にある場合の結果を出力する。
【0030】
推定曲線出力部(定常モデル)15は、基準生理状態演算モデル(S)に予測信号生成部11で算出された予測生理指標(脳波、心拍、皮膚インピーダンス等の予測値)を入力して、将来の予測基準生理状態(予測覚醒度)を求める。なお、本例では生理状態は、覚醒度である。
【0031】
基準生理状態演算モデル(S)は、覚醒度(推定値)をAとすると、以下の通りである。これを(式1)とする。
A=h×(脳波)+i×(心拍)+j×(瞬き)+k×(呼吸)+l×(皮膚インピーダンス)
【0032】
なお、各係数h,i,j,k,lは、被験者毎に異なる。
【0033】
図6は、被験者の個人名と各係数の値を示す表である。この表はデータベース内に格納されており、各係数は、被験者の名前に対応して読み出すことができる。
【0034】
図7は、(式1)の覚醒度推定値Aの時間(t)に関するグラフである。このグラフは、適当な被験者を選択した後、各係数h,i,j,k,lを測定された各生理指標に乗ずることによって得ることができる。これは定常モデルとしての基準生理状態演算モデル(S)による演算結果である。
【0035】
図8は、予測値を含めた(式1)の覚醒度推定値Aの時間(t)に関するグラフである。各生理指標の予測値を(式1)に代入することで、現在時刻t後の定常モデル予測出力をサンプリング周期t毎に得ることができる。
【0036】
再び、図1を参照する。
【0037】
ノイズ混入時用モデル候補・構築部16は、体動検出部21で検出された複数の被験者動作(手の動き、頭部の動き、脚の動き、胴部の動き)の量に基づいて、変更生理状態演算モデル(Cとする)候補を選択する。すなわち、生理指標計測部位が大きく動いた場合には、この生理指標にノイズが混入するので、これを排除する。複数の変更生理状態演算モデル(C)は、被験者生理指標の種類と共に、データベースのテーブル内に格納されている。被験者動作に起因するノイズが生理指標に混入する場合には、例えば、被験者動作が皮膚インピーダンスに影響を与える場合には、ノイズ混入のない生理指標(皮膚インピーダンス以外)を有する全ての変更生理状態演算モデル(C)をデータベースから抽出する。
【0038】
図9は、変更生理状態演算モデル(C)としての覚醒度推定モデル(No.1,No.2,No.3,No.4・・・)と、被験者生理指標(脳波、心拍、瞬き、呼吸、皮膚インピーダンス)を格納したデータベースの表を示す。なお、表内には生理指標サンプリングを開始する基準時刻が記載されている。これは予測信号演算用の期間でもよい。
【0039】
生理指標としての皮膚インピーダンスにノイズが混入していると判定される場合、丸で囲まれた覚醒度推定モデル(No.1,No.2,No.4)が選択される。
【0040】
図10は、被験者名(個人名HH,KH・・・)及び覚醒度推定モデルに対応する各生理指標の係数を示す表である。覚醒度推定モデルと被験者毎に覚醒度の係数は異なる。ここでは、上述のh,i,j,k,lの代わりに、それぞれ、α,β、γ,δ,εを係数とし、覚醒度モデル毎の区別をつけるため、表中のようにこれらのギリシャ文字に下付数字を付すこととする。また、ノイズ混入時の覚醒度推定モデルとしては上述のNo.1,No.2,No.4が選択されている。
【0041】
再び、図1を参照する。
【0042】
推定曲線出力部(ノイズ混入時モデル)17は、複数の変更生理状態演算モデル(C)(覚醒度推定モデル:No.1,No.2,No.4)候補に、予測信号生成部11で算出された予測生理指標(脳波、心拍周期、瞬き持続時間、呼吸周期の予測値)を入力して、数秒後までの予測変更生理状態(予測覚醒度)を各モデル毎に求める。
【0043】
図11は、予測生理指標(脳波(a)、心拍周期(b)、瞬き持続時間(c)、呼吸周期(d)の予測値)の時間tに対するグラフである。
【0044】
図12は、ノイズ混入時に選択された覚醒度推定モデル候補(No.1,No.2,No.4)の演算式を示す表である。各覚醒度の推定値はA1,A2,A4である。
【0045】
図13は、図12に示した覚醒度推定値A1、A2,A4に、予測生理指標(脳波(a)、心拍周期(b)、瞬き持続時間(c)、呼吸周期(d)の予測値)を代入した場合の各覚醒度推定値A1(a)、A2(b)、A4(c)の時間tに対するグラフである。各モデル毎の予測出力がサンプリング周期t毎に得られる。
【0046】
以上のように、図13に示したノイズ混入時の生理状態演算モデル(C=No1,No.2,No4)の予測変更覚醒度(VC)候補(=覚醒度推定値A1、A2,A3)と、図8に示した定常モデルの予測基準覚醒度(VS:定常モデル予測出力)を求めることができた。
【0047】
再び、図1を参照する。
【0048】
ノイズ混入時モデル選定部18は、変更生理状態演算モデル(C)候補の中から、所定の生理状態演算モデルを選択する。すなわち、ノイズ混入時モデル選定部18は、推定曲線出力部(定常モデル)15の出力結果である予測基準生理状態(予測基準覚醒度VS:図8参照)に対して、相関の高い推定曲線出力部17の出力結果(予測変更生理状態:予測変更覚醒度VC=A1,A2,A4)を与える変更生理状態演算モデル(C=No1,No.2,No4)を選択する。ここでは、図13の覚醒度推定値A1が、図8の定常モデル予測出力に対して最も相関が高いため、覚醒度推定値A1を与える覚醒度推定モデルNo.1が、ノイズ混入時のモデルとして選択される。
【0049】
これらの覚醒度推定値の相関をとる方法としては、各モデル候補予測出力A1,A2,A4と定常モデル予測出力のユークリッド距離を求める方法、各モデル候補予測出力A1,A2,A4と定常モデル予測出力の二乗誤差を求める方法がある。
【0050】
以上、説明したように、生理状態モデル選定手段は、実生理指標のいずれにもノイズが含まれないと判定される場合には、生理状態演算モデル(覚醒度推定モデル)として基準生理状態演算モデル(S)を選択し、実生理指標のいずれかにノイズが含まれると判定される場合には、ノイズ量の少なさ(体動量の小ささ)に応じて選択される複数の変更生理状態演算モデル(C)(=No.1,NO.2,No.4)候補と、基準生理状態演算モデル(S)に、予測信号生成部11で算出された予測生理指標をそれぞれ入力して、予測変更覚醒度(VC:A1,A2,A4)と予測基準覚醒度(VS:図8)をそれぞれ求め、この予測基準覚醒度(VS:図8)に対して相関の高い予測変更覚醒度(VC:図13)を与える変更生理状態演算モデル(C=No.1)を、覚醒度推定処理部における実生理指標入力用の生理状態演算モデルとして選択している。
【0051】
なお、上述の装置の機能に着目すると、ノイズ混入判定部12、ノイズ混入時モデル選定部18は生理状態モデル選別手段を構成しており、体動検出部21で検出された複数の被験者動作(手の動き、頭部の動き、脚の動き、胴部の動き等)の量が全て所定値よりも小さいとノイズ混入判定部12が判定する場合には、定常モデルを用いた覚醒度推定処理部19で生理状態演算モデルとして基準生理状態演算モデル(S)を選択しているといえる。また、体動検出部21で検出された複数の被験者動作の量に所定値以上のものがある場合には、生理指標にノイズが混入しているわけであるため、生理状態演算モデルとして変更生理状態演算モデル(C)を選択している。
【0052】
再び、図1を参照する。
【0053】
ノイズ混入時モデルを用いた覚醒度推定処理部20は、生理指標計測部10で検出された複数の実生理指標(脳波、心拍、皮膚インピーダンス等)を、ノイズ混入時モデル選定部18で選別された生理状態演算モデル(C)に入力して、被験者の生理状態を演算する。なお、ノイズ混入が生じた時点の最初の演算においてのみモデル選択が行われ、以後、覚醒度推定処理部20では、選択された変更生理状態演算モデル(C)をノイズ混入がなくなるまで使用し、演算を繰り返す。
【0054】
上述の装置によれば、計測された実生理指標にノイズが含まれるものがあると判定される場合には、変更生理状態演算モデル(C)に実生理指標を入力して、生理状態(本例では覚醒度)を演算する。変更生理状態演算モデル(C)は、複数の候補の中から選択するが、この選択に当たっては、基準生理状態演算モデル(S)に予測生理指標を入力して得られる生理状態に対して高い相関を与える予測変更生理状態(C)を出力するモデルを選択する。すなわち、被験者動作に基づくノイズ混入時においても、ノイズの影響が抑制された生理状態演算モデルが選択され、これにノイズ量の少ない生理指標が入力されることになるため、覚醒度を良好に推定することができる。
【0055】
なお、上述の生理状態推定方法は、複数の実生理指標を生理状態演算モデルに入力して被験者の生理状態を演算する生理状態推定方法において、複数の実生理指標から予測生理指標を算出する生理指標予測工程と、実生理指標のいずれにもノイズが含まれないと判定される場合には、生理状態演算モデルとして基準生理状態演算モデルを選択し、実生理指標のいずれかにノイズが含まれると判定される場合には、ノイズ量の少なさに応じて選択される複数の変更生理状態演算モデル候補と、基準生理状態演算モデルに、生理指標予測手段で算出された予測生理指標をそれぞれ入力して、予測変更生理状態と予測基準生理状態をそれぞれ求め、この予測基準生理状態対して相関の高い予測変更生理状態を与える変更生理状態演算モデルを、実生理指標入力用の生理状態演算モデルとして選択する生理状態モデル選定工程とを備えている。
【0056】
この方法によれば、計測された実生理指標にノイズが含まれるものがあると判定される場合には、変更生理状態演算モデルに実生理指標を入力して、生理状態を演算する。変更生理状態演算モデルは、複数の候補の中から選択するが、この選択に当たっては、基準生理状態演算モデルに予測生理指標を入力して得られる生理状態に対して高い相関を与える予測変更生理状態を出力するモデルを選択しており、ノイズ混入時においても、ノイズの影響が抑制された生理状態演算モデルが選択され、これにノイズ量の少ない生理指標が入力されることになるため、生理状態を良好に推定することができる。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明は、生理状態推定装置及び方法に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】生理状態推定装置のブロック図である。
【図2】生理指標P(例えば、脳波とする)の時間tに対するグラフである。
【図3】図2に示した生理指標Pを含む近似関数(曲線)(P(t))の時間tに対するグラフである。
【図4】現在時刻t以降の生理指標Pの時間tに対する予測値を示すグラフである。
【図5】脳波(アルファ波パワー)(a)、心拍周期(b)、瞬き持続時間(c)、呼吸周期(d)の予測値の時間tに対するグラフである。
【図6】被験者の個人名と各係数の値を示す表である。
【図7】(式1)の覚醒度推定値Aの時間(t)に関するグラフである。
【図8】予測値を含めた(式1)の覚醒度推定値Aの時間(t)に関するグラフである。
【図9】変更生理状態演算モデル(C)としての覚醒度推定モデル(No.1,No.2,No.3,No.4・・・)と、被験者生理指標(脳波、心拍、瞬き、呼吸、皮膚インピーダンス)を格納したデータベースの表である。
【図10】被験者名(個人名HH,KH・・・)及び覚醒度推定モデルに対応する各生理指標の係数を示す表である。
【図11】予測生理指標(脳波(a)、心拍周期(b)、瞬き持続時間(c)、呼吸周期(d)の予測値)の時間tに対するグラフである。
【図12】ノイズ混入時に選択された覚醒度推定モデル候補(No.1,No.2,No.4)の演算式を示す表である。
【図13】図12に示した覚醒度推定値A1、A2,A4に、予測生理指標(脳波(a)、心拍周期(b)、瞬き持続時間(c)、呼吸周期(d)の予測値)を代入した場合の各覚醒度推定値A1(a)、A2(b)、A4(c)の時間tに対するグラフである。
【符号の説明】
【0059】
10・・・生理指標計測部(生理指標検出手段)、11・・・予測信号生成部(生理指標予測手段)、12・・・ノイズ混入判定部(ノイズ混入判定手段)、13・・・選定モデル有無判定部、14・・・定常モデル部、15・・・推定曲線出力部(定常モデル)、16・・・ノイズ混入時用モデル候補・構築部、17・・・推定極性出力部(ノイズ混入時モデル)、18・・・ノイズ混入時モデル選定部、19・・・定常モデルを用いた覚醒度推定処理部、20・・・ノイズ混入時モデルを用いた覚醒度推定処理部、21・・・体動検出部(動作検出手段)。





【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の実生理指標を生理状態演算モデルに入力して被験者の生理状態を演算する生理状態推定装置において、
複数の実生理指標から予測生理指標を算出する生理指標予測手段と、
前記実生理指標のいずれにもノイズが含まれないと判定される場合には、前記生理状態演算モデルとして基準生理状態演算モデルを選択し、前記実生理指標のいずれかにノイズが含まれると判定される場合には、ノイズ量の少なさに応じて選択される複数の変更生理状態演算モデル候補と、前記基準生理状態演算モデルに、前記生理指標予測手段で算出された予測生理指標をそれぞれ入力して、予測変更生理状態と予測基準生理状態をそれぞれ求め、この予測基準生理状態対して相関の高い予測変更生理状態を与える変更生理状態演算モデルを、実生理指標入力用の生理状態演算モデルとして選択する生理状態モデル選定手段と、
を備えることを特徴とする生理状態推定装置。
【請求項2】
被験者動作を検出する動作検出手段と、
前記動作検出手段の出力結果に基づいてノイズが実生理指標に含まれているかどうかを判定するノイズ混入判定手段と、
を備えることを特徴とする請求項1に記載の生理状態推定装置。
【請求項3】
前記ノイズ判定手段は、前記動作検出手段の出力結果としての被験者動作量が所定値よりも大きい場合に、ノイズ混入と判定することを特徴とする請求項2に記載の生理状態推定装置。
【請求項4】
生理状態推定装置において、
被験者の複数の実生理指標をそれぞれ検出する複数の生理指標検出手段と、
前記生理指標検出手段で検出された複数の実生理指標から予測生理指標を算出する生理指標予測手段と、
被験者動作を検出する動作検出手段と、
所定の生理状態演算モデルを選択する生理状態モデル選定手段と、
前記生理指標検出手段で検出された複数の実生理指標を、前記生理状態モデル選別手段で選別された生理状態演算モデルに入力して、被験者の生理状態を演算する生理状態演算手段とを備え、
前記生理状態モデル選別手段は、前記動作検出手段で検出された複数の被験者動作の量が全て所定値よりも小さい場合には、前記生理状態演算モデルとして基準生理状態演算モデルを選択し、前記動作検出手段で検出された複数の被験者動作の量に所定値以上のものがある場合には、前記生理状態演算モデルとして変更生理状態演算モデルを選択し、
前記変更生理状態演算モデルは、前記動作検出手段で検出された複数の被験者動作の量に基づいて選択される変更生理状態演算モデル候補を設定し、この変更生理状態演算モデル候補に、前記生理指標予測手段で算出された予測生理指標を入力して予測変更生理状態を求め、前記基準生理状態演算モデルに、前記生理指標予測手段で算出された予測生理指標を入力して予測基準生理状態を求め、前記予測基準生理状態に対して相関の高い予測変更生理状態を与える変更生理状態演算モデルを選択する、
ことを特徴とする生理状態推定装置。
【請求項5】
複数の実生理指標を生理状態演算モデルに入力して被験者の生理状態を演算する生理状態推定方法において、
複数の実生理指標から予測生理指標を算出する生理指標予測工程と、
前記実生理指標のいずれにもノイズが含まれないと判定される場合には、前記生理状態演算モデルとして基準生理状態演算モデルを選択し、前記実生理指標のいずれかにノイズが含まれると判定される場合には、ノイズ量の少なさに応じて選択される複数の変更生理状態演算モデル候補と、前記基準生理状態演算モデルに、前記生理指標予測手段で算出された予測生理指標をそれぞれ入力して、予測変更生理状態と予測基準生理状態をそれぞれ求め、この予測基準生理状態対して相関の高い予測変更生理状態を与える変更生理状態演算モデルを、実生理指標入力用の生理状態演算モデルとして選択する生理状態モデル選定工程と、
を備えることを特徴とする生理状態推定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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