生薬及びその製造方法
【課題】安全性が高く、且つ優れた外観を有する生薬及びその製造方法を提供する。
【解決手段】カラスビシャク、ヤマノイモ、ナガイモ、シャクヤク、アミガサユリ、クズ等の基原植物を、平均温度−10〜30℃及び平均湿度10〜70%で乾燥減量1〜20%に乾燥させて得られる。これにより、硫黄くん蒸や薬品処理等を行わずに、従来の市場品と同様の、白色の生薬を製造することができる。
【解決手段】カラスビシャク、ヤマノイモ、ナガイモ、シャクヤク、アミガサユリ、クズ等の基原植物を、平均温度−10〜30℃及び平均湿度10〜70%で乾燥減量1〜20%に乾燥させて得られる。これにより、硫黄くん蒸や薬品処理等を行わずに、従来の市場品と同様の、白色の生薬を製造することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は生薬及びその製造方法に関する。詳しくは、安全性が高く、且つ優れた外観を有する生薬及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
カラスビシャク(Pinellia ternata(Thunb.)Breitenb.)を基原植物とする生薬「半夏」は、年間の使用量がおよそ900トンの汎用性の高い生薬である。
【0003】
従来、国内の市場における半夏の性状として、その表面や内部の色調が白いことが品質評価の重要な指標とされており(非特許文献1、2参照)、海外から輸入されるもののうち、色が白く光沢があるものが良品とされている。
【0004】
そのため近年では、硫黄くん蒸や薬品処理等の加工によって化学的に漂白されたものが輸入されるようになり、使用者の健康を脅かす重大な問題となっていた。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】木村康一著、「新註校訂国訳本草綱目」、第六巻、春陽堂書店、1979年、p.48−67
【非特許文献2】「第十五改訂日本薬局方」、厚生労働省、2006年、p.1257
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来技術では、硫黄くん蒸や薬品処理等を行わずに、従来の市場品と同様の、白色の半夏を製造することができないという問題があった。
【0007】
本発明は上記従来技術の有する問題点に鑑みなされたものであり、その目的とするところは、安全性が高く、且つ優れた外観を有する生薬及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の上記目的は、下記の手段によって達成される。
(1)すなわち、本発明は、基原植物を、平均温度−10〜30℃及び平均湿度10〜70%で乾燥減量1〜20%に乾燥させて得られる、生薬である。
(2)本発明はまた、前記平均温度は、4〜16℃である、(1)に記載の生薬である。
(3)本発明はまた、前記平均湿度は、15〜55%である、(1)又は(2)に記載の生薬である。
(4)本発明はまた、前記乾燥減量は、3〜16%である、(1)〜(3)の何れか1項に記載の生薬である。
(5)本発明はまた、乾燥時間が、1〜18日間である、(1)〜(4)の何れか1項に記載の生薬である。
(6)本発明はまた、乾燥時間が、5〜14日間である、(1)〜(5)の何れか1項に記載の生薬である。
(7)本発明はまた、乾燥圧力が、常圧である、(1)〜(6)の何れか1項に記載の生薬である。
(8)本発明はまた、前記基原植物は、流通時における表面及び内部の色調が白色系の生薬にかかるものである、(1)〜(7)の何れか1項に記載の生薬である。
(9)本発明はまた、前記基原植物は、カラスビシャク、ヤマノイモ、ナガイモ、シャクヤク、アミガサユリ又はクズである、(1)〜(8)の何れか1項に記載の生薬である。
(10)また、本発明は、基原植物を、平均温度−10〜30℃及び平均湿度10〜70%で乾燥減量1〜20%に乾燥させることを特徴とする、生薬の製造方法である。
(11)本発明はまた、前記平均温度は、4〜16℃である、(10)に記載の生薬の製造方法である。
(12)本発明はまた、前記平均湿度は、15〜55%である、(10)又は(11)に記載の生薬の製造方法である。
(13)本発明はまた、前記乾燥減量は、3〜16%である、(10)〜(12)の何れか1項に記載の生薬の製造方法である。
(14)本発明はまた、乾燥時間が、1〜18日間である、(10)〜(13)の何れか1項に記載の生薬の製造方法である。
(15)本発明はまた、乾燥時間が、5〜14日間である、(10)〜(14)の何れか1項に記載の生薬の製造方法である。
(16)本発明はまた、乾燥圧力が、常圧である、(10)〜(15)の何れか1項に記載の生薬の製造方法である。
(17)本発明はまた、前記基原植物は、流通時における表面及び内部の色調が白色系の生薬にかかるものである、(10)〜(16)の何れか1項に記載の生薬の製造方法である。
(18)本発明はまた、前記基原植物は、カラスビシャク、ヤマノイモ、ナガイモ、シャクヤク、アミガサユリ又はクズである、(10)〜(17)の何れか1項に記載の生薬の製造方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、基原植物を、平均温度−10〜30℃及び平均湿度10〜70%で乾燥減量1〜20%に乾燥させるので、硫黄くん蒸や薬品処理等を行わずに、従来の市場品と同様の、白色の生薬を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】比較例1における70℃で乾燥させて得られたカラスビシャクの塊茎の外観写真である。
【図2】比較例2における50℃で乾燥させて得られたカラスビシャクの塊茎の外観写真である。
【図3】比較例3における30℃で乾燥させて得られたカラスビシャクの塊茎の外観写真である。
【図4】実施例1における5℃で乾燥させて得られたカラスビシャクの塊茎の外観写真である。
【図5】カラスビシャクの塊茎から製造された生薬「半夏」(市場品)の外観写真である。
【図6】Mサイズの伊豆在来系のカラスビシャクの塊茎(生)の外観写真である。
【図7】Lサイズの伊豆在来系のカラスビシャクの塊茎(生)の外観写真である。
【図8】設定温度5℃及び設定湿度10、30又は50%の乾燥条件における乾燥日数と乾燥減量との関係を示す図である。
【図9】設定温度5℃及び設定湿度10、30又は50%の乾燥条件における温度及び湿度の実測値を測定した結果を示す図である。
【図10】設定温度5℃で乾燥処理を施した伊豆在来系のカラスビシャクの塊茎の外観写真である。
【図11】設定温度15℃及び設定湿度10、30又は50%の乾燥条件における乾燥日数と乾燥減量との関係を示す図である。
【図12】設定温度15℃及び設定湿度10、30又は50%の乾燥条件における温度及び湿度の実測値を測定した結果を示す図である。
【図13】比較例4における30℃で乾燥させて得られたヤマノイモの根茎の外観写真である。
【図14】比較例5における25℃で乾燥させて得られたヤマノイモの根茎の外観写真である。
【図15】比較例6における20℃で乾燥させて得られたヤマノイモの根茎の外観写真である。
【図16】実施例8における15℃で乾燥させて得られたヤマノイモの根茎の外観写真である。
【図17】ヤマノイモの根茎から製造された生薬「山薬」(市場品)の外観写真である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0012】
本発明の生薬の製造方法は、基原植物を、平均温度−10〜30℃及び平均湿度10〜70%で乾燥減量1〜20%に乾燥させることを特徴とするものである。
【0013】
本発明の生薬の原料となる植物は、生薬の基原植物となるものであって、市場品におけるその表面や内部の色調が白色系のもの、即ち、白色〜灰白黄色、類白色〜帯黄白色、褐色〜淡灰褐色、白色〜淡黄褐色、淡灰黄色〜灰白色等のものである。そのような基原植物としては、例えば、カラスビシャク、ヤマノイモ、ナガイモ、シャクヤク、アミガサユリ、クズ等が挙げられる。また、本発明においては、基原植物の全体を用いても良いし、例えば、塊茎、根茎(担根体)、根、りん茎等の基原植物の一部の部位のみを用いてもよい。
【0014】
まず、準備として、基原植物の表面についた汚れを適切な方法、例えば、水洗い、乾拭き、水拭き、ブラシがけ、エアの吹き付け等により除去する。ただし、汚れが目立たない場合は、採取した基原植物をそのまま用いても良い。次に、表面の汚れを除去した基原植物の表皮を除去して、再度上記した通りの適切な方法により残った表皮や汚れを除去する。ただし、表皮を除去する必要がない基原植物の場合は、そのまま用いても良い。次に、残った表皮や汚れを除去した植物を冷蔵庫に入れて水切りする。
【0015】
次に、水切りした基原植物を、平均温度−10〜30℃、好ましくは−2.5〜22.5℃、更に好ましくは4〜16℃及び平均湿度10〜70%、好ましくは15〜60%、更に好ましくは15〜55%で乾燥させる。この乾燥処理時の温度及び湿度が上記上限を超えると、品質に悪影響を及ぼす雑菌等が繁殖したりするので好ましくなく、温度等が上記下限未満では、残留水分により変色が生じたり、凍結により内部組織が変質したりするので好ましくない。
【0016】
また、乾燥時間は、1〜18日間、好ましくは3〜16日間、更に好ましくは5〜14日間である。この乾燥時間が上記上限を超えると、柔軟性が失われて脆くなったりするので好ましくなく、乾燥時間が上記下限未満では、変色や変形等の形状不良を生じたりするので好ましくない。
【0017】
また、乾燥処理は、常圧下で行うことが好ましいが、状況に応じて加圧下又は減圧下で行ってもよい。
【0018】
なお、乾燥の際には、基原植物の種類や部位等によっては乾燥処理を複数回に分けて行ってもよい。
【0019】
更に、本発明においては、基原植物を乾燥させて得られる乾燥体(以下、「植物乾燥体」という)の乾燥減量が1〜20%、好ましくは2〜18%、更に好ましくは3〜16%となるように基原植物を乾燥させる。この植物乾燥体の乾燥減量が上記上限を超えると、柔軟性が失われて脆くなったり、変色や変形等の形状不良を生じたりするので好ましくない。また、植物乾燥体の乾燥減量が上記下限未満では、残留水分により変色が生じたり、品質に悪影響を及ぼす雑菌等が繁殖したりするので好ましくない。
【0020】
ここで、乾燥減量とは、第十五改訂日本薬局方に規定の方法(非特許文献2参照)に準じて測定されるものをいう。具体的な乾燥減量の測定方法は、以下の通りである。
【0021】
まず、予め質量を量った秤量瓶に植物乾燥体を入れ、その質量を化学天秤等で精密に測定する。次いで、植物乾燥体入りの秤量瓶を105℃で所定時間乾燥する(初期乾燥)。次いで、シリカゲル入りデシケーター中で秤量瓶を放冷し、その質量を化学天秤等で精密に測定する。次いで、秤量瓶中の植物乾燥体が恒量に達するまで105℃で乾燥する(2次乾燥)。なお、2次乾燥の際は、1時間毎に秤量瓶の質量を精密に測定する。最後に、植物乾燥体が恒量に達した時の水分の減量(%)を算出し、これを乾燥減量とする。ただし、上記の初期乾燥時間は、基原植物の種類によって異なる。例えば、上述した本発明における基原植物の初期乾燥時間は6時間である。
【0022】
なお、本発明における乾燥方法は、乾燥させた基原植物の乾燥減量並びに乾燥処理時の温度、湿度及び時間が所定の範囲内となるように調整可能であれば特に限定されるものではなく、既知の乾燥方法、例えば、電熱線、赤外線、遠赤外線、マイクロ波、電磁誘導等を利用した方法を用いることができる。本発明において適した乾燥方法としては、電熱線等が挙げられる。そのような方式を用いた装置として、例えば、電熱式乾燥機(STN6200、ADVANTECC社製)等を利用することができる。
【実施例】
【0023】
次に、本発明の生薬及びその製造方法を、実施例により更に詳しく説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【0024】
[比較例1]
【0025】
7月に採取したカラスビシャク(伊豆在来系)の塊茎部の表皮をはく皮して流水で洗浄した後に冷蔵庫内で水切りした。次いで、はく皮したカラスビシャクの塊茎部を、温度(設定)が70℃、湿度(実測)が10〜50%である乾燥機を用いて3日間乾燥して比較例のカラスビシャク乾燥体を得た。
【0026】
[比較例2]
【0027】
温度(設定)が50℃である乾燥機を用いた以外は比較例1と同様にして乾燥して比較例のカラスビシャク乾燥体を得た。
【0028】
[比較例3]
【0029】
温度(設定)が30℃である乾燥機を用いた以外は比較例1と同様にして12日間乾燥して比較例のカラスビシャク乾燥体を得た。
【0030】
[実施例1]
【0031】
温度(設定)が5℃である以外は比較例1と同様にして、13日間乾燥して本発明のカラスビシャク乾燥体を得た。
【0032】
得られた本発明のカラスビシャク乾燥体の乾燥減量を、第十五改訂日本薬局方に規定の方法(非特許文献2参照)に準じて測定したところ(n=3)、8.6%であった。これにより、本実施例のカラスビシャク乾燥体は、第十五改訂日本薬局方に示されたカラスビシャク(生薬「半夏」)の乾燥減量の条件(初期乾燥時間6時間で乾燥減量14%以下)を満たすことが確認できた。
【0033】
また、比較例1〜3及び実施例1で得られたカラスビシャク乾燥体並びに市場品のカラスビシャク(生薬「半夏」、中国四川省産)の外観の様子を写真撮影した結果を図1〜5に示した。図1〜5に示す通り、比較例1〜3のカラスビシャク乾燥体の外観は、大部分が茶色に変色していたのに対し、実施例1のカラスビシャク乾燥体の外観は、市場品のカラスビシャク(生薬「半夏」)と殆ど変らない白色を維持できていることが確認できた。
【0034】
[実施例2]
【0035】
8月に採取したカラスビシャク(伊豆在来系)の塊茎を水道水で洗浄した後、Mサイズ(目開き22.4mmを通過し11.2mmを通過しないもの)及びLサイズ(目開き22.4mmを通過しないもの)の塊茎(図6及び図7参照)を篩で選別した。次いで、選別した塊茎の表皮をはく皮して流水で洗浄した後に冷蔵庫内で水切りした。次いで、はく皮したカラスビシャクの塊茎を、容量40Lの密閉容器(カメラ用ドライボックス)にSP除湿器ロサール(菱彩テクニカ社製「RDHC−7J1」)を装着した除湿装置を用いて、設定温度5℃及び設定湿度10%の条件で40日間乾燥させ、その間の所定日にカラスビシャクの塊茎の乾燥減量を、第十五改訂日本局方に規定の方法(非特許文献2参照)に準じて測定した。なお、本試験では初期乾燥時間を24時間とした。
【0036】
[実施例3]
【0037】
湿度を30%に設定して乾燥させた以外は実施例2と同様にしてカラスビシャクの塊茎の乾燥減量を測定した。
【0038】
[実施例4]
【0039】
湿度を50%に設定して乾燥させた以外は実施例2と同様にしてカラスビシャクの塊茎の乾燥減量を測定した。
【0040】
実施例2〜4で乾燥減量を測定した結果を図8及び図9に示した。図8及び図9に示す通り、乾燥減量が14%以下に達するのに要した日数は、実施例2では16日、実施例3では6〜9日、実施例4では16〜20日であった。乾燥開始から20日以降の乾燥減量は、実施例2では10%から7.0%に緩やかに減少し、実施例3では10%前後を維持し、実施例4では12%前後を維持していた。また、実施例2〜4で得られたカラスビシャクの塊茎の外観の様子を写真撮影した結果を図10に示した。図10に示す通り、これらの塊茎の外観は、市場品のカラスビシャク(生薬「半夏」、図6参照)と殆ど変らない白色を維持できていることが確認できた。
【0041】
[実施例5]
【0042】
温度を15℃に設定して20日間乾燥させた以外は実施例2と同様にしてカラスビシャクの塊茎の乾燥減量を測定した。
【0043】
[実施例6]
【0044】
温度を15℃に、湿度を30%に設定して20日間乾燥させた以外は実施例2と同様にしてカラスビシャクの塊茎の乾燥減量を測定した。
【0045】
[実施例7]
【0046】
温度を15℃に、湿度を50%に設定して20日間乾燥させた以外は実施例2と同様にしてカラスビシャクの塊茎の乾燥減量を測定した。
【0047】
実施例5〜7で乾燥減量を測定した結果を図11及び図12に示した。図11及び図12に示す通り、乾燥減量が14%以下に達するのに要した日数は、実施例5では6日、実施例6では6日、実施例7では6〜9日であった。乾燥開始から12日以降の乾燥減量は、実施例5では9.0%から7.0%に緩やかに減少し、実施例6では10%前後を維持し、実施例7では10〜12%前後を維持していた。
【0048】
以上の結果より、実施例2〜7の各温度及び湿度条件を比較すると、高温条件(15℃)の方が短い日数で乾燥減量が14%に達し、低湿度条件(10%及び30%)の方が短い日数で乾燥減量が14%に達することが確認できた。従って、理想的な乾燥条件は、設定温度15℃程度(平均温度14〜16℃程度)及び設定湿度10〜30%程度(平均湿度17〜40%程度)であることが示唆された。ただし、設定温度15℃程度では、カラスビシャクの塊茎の水切りが不十分な状態で乾燥機内の加湿状態が続くと、その表面にカビが発生する危険性があり、防カビ対策としては、設定温度をおよそ10℃以下にして乾燥処理を施すことが好ましく、また、産業的に乾燥機内の湿度をおよそ20%以下に保つにはコスト高となり、実用的な設定湿度としては、30〜40%程度が好ましい。
【0049】
[比較例4]
【0050】
12月に採取したヤマノイモ(福種種苗系)の根茎の周皮をはく皮して流水で洗浄した後に冷蔵庫内で水切りした。次いで、このはく皮したヤマノイモの根茎を、温度(設定)が30℃、湿度(実測)が20〜40%であるファイトトロンを用いて5日間乾燥して比較例のヤマノイモ乾燥体を得た。
【0051】
[比較例5]
【0052】
温度(設定)が25℃であるファイトトロンを用いた以外は比較例4と同様にして乾燥し比較例のヤマノイモ乾燥体を得た。
【0053】
[比較例6]
【0054】
温度(設定)が20℃であるファイトトロンを用いた以外は比較例4と同様にして乾燥し比較例のヤマノイモ乾燥体を得た。
【0055】
[実施例8]
【0056】
温度(設定)が15℃である除湿機を設置した保冷庫を用いた以外は比較例4と同様にして乾燥し本発明のヤマノイモ乾燥体を得た。
【0057】
得られた本発明のヤマノイモ乾燥体の乾燥減量を、実施例1と同様にして測定したところ(n=2)、10.0%であった。これにより、本実施例のヤマノイモ乾燥体は、第十五改訂日本薬局方に示されたヤマノイモ(生薬「山薬」)の乾燥減量の条件(初期乾燥時間6時間で乾燥減量14%以下)を満たすことが確認できた。
【0058】
また、比較例4〜6及び実施例8で得られたヤマノイモ乾燥体並びに市場品のヤマノイモ(中国福建省産の丸切り山薬及び広東省産の毛山薬)の外観の様子を写真撮影した結果を図13〜17に示した。図13〜17に示す通り、比較例4〜6のヤマノイモ乾燥体の外観は、大部分が茶色に変色したのに対し、実施例8のヤマノイモ乾燥体の外観は、市場品のヤマノイモ(生薬「山薬」)と殆ど変らない白色を維持できていることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0059】
上述したように、本発明によれば、硫黄くん蒸や薬品処理等を行わずに従来の市場品と同等の外観を有する生薬を製造することができるので、これらの生薬を含む漢方薬(中成薬)に利用した場合極めて有用である。
【技術分野】
【0001】
本発明は生薬及びその製造方法に関する。詳しくは、安全性が高く、且つ優れた外観を有する生薬及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
カラスビシャク(Pinellia ternata(Thunb.)Breitenb.)を基原植物とする生薬「半夏」は、年間の使用量がおよそ900トンの汎用性の高い生薬である。
【0003】
従来、国内の市場における半夏の性状として、その表面や内部の色調が白いことが品質評価の重要な指標とされており(非特許文献1、2参照)、海外から輸入されるもののうち、色が白く光沢があるものが良品とされている。
【0004】
そのため近年では、硫黄くん蒸や薬品処理等の加工によって化学的に漂白されたものが輸入されるようになり、使用者の健康を脅かす重大な問題となっていた。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】木村康一著、「新註校訂国訳本草綱目」、第六巻、春陽堂書店、1979年、p.48−67
【非特許文献2】「第十五改訂日本薬局方」、厚生労働省、2006年、p.1257
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来技術では、硫黄くん蒸や薬品処理等を行わずに、従来の市場品と同様の、白色の半夏を製造することができないという問題があった。
【0007】
本発明は上記従来技術の有する問題点に鑑みなされたものであり、その目的とするところは、安全性が高く、且つ優れた外観を有する生薬及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の上記目的は、下記の手段によって達成される。
(1)すなわち、本発明は、基原植物を、平均温度−10〜30℃及び平均湿度10〜70%で乾燥減量1〜20%に乾燥させて得られる、生薬である。
(2)本発明はまた、前記平均温度は、4〜16℃である、(1)に記載の生薬である。
(3)本発明はまた、前記平均湿度は、15〜55%である、(1)又は(2)に記載の生薬である。
(4)本発明はまた、前記乾燥減量は、3〜16%である、(1)〜(3)の何れか1項に記載の生薬である。
(5)本発明はまた、乾燥時間が、1〜18日間である、(1)〜(4)の何れか1項に記載の生薬である。
(6)本発明はまた、乾燥時間が、5〜14日間である、(1)〜(5)の何れか1項に記載の生薬である。
(7)本発明はまた、乾燥圧力が、常圧である、(1)〜(6)の何れか1項に記載の生薬である。
(8)本発明はまた、前記基原植物は、流通時における表面及び内部の色調が白色系の生薬にかかるものである、(1)〜(7)の何れか1項に記載の生薬である。
(9)本発明はまた、前記基原植物は、カラスビシャク、ヤマノイモ、ナガイモ、シャクヤク、アミガサユリ又はクズである、(1)〜(8)の何れか1項に記載の生薬である。
(10)また、本発明は、基原植物を、平均温度−10〜30℃及び平均湿度10〜70%で乾燥減量1〜20%に乾燥させることを特徴とする、生薬の製造方法である。
(11)本発明はまた、前記平均温度は、4〜16℃である、(10)に記載の生薬の製造方法である。
(12)本発明はまた、前記平均湿度は、15〜55%である、(10)又は(11)に記載の生薬の製造方法である。
(13)本発明はまた、前記乾燥減量は、3〜16%である、(10)〜(12)の何れか1項に記載の生薬の製造方法である。
(14)本発明はまた、乾燥時間が、1〜18日間である、(10)〜(13)の何れか1項に記載の生薬の製造方法である。
(15)本発明はまた、乾燥時間が、5〜14日間である、(10)〜(14)の何れか1項に記載の生薬の製造方法である。
(16)本発明はまた、乾燥圧力が、常圧である、(10)〜(15)の何れか1項に記載の生薬の製造方法である。
(17)本発明はまた、前記基原植物は、流通時における表面及び内部の色調が白色系の生薬にかかるものである、(10)〜(16)の何れか1項に記載の生薬の製造方法である。
(18)本発明はまた、前記基原植物は、カラスビシャク、ヤマノイモ、ナガイモ、シャクヤク、アミガサユリ又はクズである、(10)〜(17)の何れか1項に記載の生薬の製造方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、基原植物を、平均温度−10〜30℃及び平均湿度10〜70%で乾燥減量1〜20%に乾燥させるので、硫黄くん蒸や薬品処理等を行わずに、従来の市場品と同様の、白色の生薬を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】比較例1における70℃で乾燥させて得られたカラスビシャクの塊茎の外観写真である。
【図2】比較例2における50℃で乾燥させて得られたカラスビシャクの塊茎の外観写真である。
【図3】比較例3における30℃で乾燥させて得られたカラスビシャクの塊茎の外観写真である。
【図4】実施例1における5℃で乾燥させて得られたカラスビシャクの塊茎の外観写真である。
【図5】カラスビシャクの塊茎から製造された生薬「半夏」(市場品)の外観写真である。
【図6】Mサイズの伊豆在来系のカラスビシャクの塊茎(生)の外観写真である。
【図7】Lサイズの伊豆在来系のカラスビシャクの塊茎(生)の外観写真である。
【図8】設定温度5℃及び設定湿度10、30又は50%の乾燥条件における乾燥日数と乾燥減量との関係を示す図である。
【図9】設定温度5℃及び設定湿度10、30又は50%の乾燥条件における温度及び湿度の実測値を測定した結果を示す図である。
【図10】設定温度5℃で乾燥処理を施した伊豆在来系のカラスビシャクの塊茎の外観写真である。
【図11】設定温度15℃及び設定湿度10、30又は50%の乾燥条件における乾燥日数と乾燥減量との関係を示す図である。
【図12】設定温度15℃及び設定湿度10、30又は50%の乾燥条件における温度及び湿度の実測値を測定した結果を示す図である。
【図13】比較例4における30℃で乾燥させて得られたヤマノイモの根茎の外観写真である。
【図14】比較例5における25℃で乾燥させて得られたヤマノイモの根茎の外観写真である。
【図15】比較例6における20℃で乾燥させて得られたヤマノイモの根茎の外観写真である。
【図16】実施例8における15℃で乾燥させて得られたヤマノイモの根茎の外観写真である。
【図17】ヤマノイモの根茎から製造された生薬「山薬」(市場品)の外観写真である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0012】
本発明の生薬の製造方法は、基原植物を、平均温度−10〜30℃及び平均湿度10〜70%で乾燥減量1〜20%に乾燥させることを特徴とするものである。
【0013】
本発明の生薬の原料となる植物は、生薬の基原植物となるものであって、市場品におけるその表面や内部の色調が白色系のもの、即ち、白色〜灰白黄色、類白色〜帯黄白色、褐色〜淡灰褐色、白色〜淡黄褐色、淡灰黄色〜灰白色等のものである。そのような基原植物としては、例えば、カラスビシャク、ヤマノイモ、ナガイモ、シャクヤク、アミガサユリ、クズ等が挙げられる。また、本発明においては、基原植物の全体を用いても良いし、例えば、塊茎、根茎(担根体)、根、りん茎等の基原植物の一部の部位のみを用いてもよい。
【0014】
まず、準備として、基原植物の表面についた汚れを適切な方法、例えば、水洗い、乾拭き、水拭き、ブラシがけ、エアの吹き付け等により除去する。ただし、汚れが目立たない場合は、採取した基原植物をそのまま用いても良い。次に、表面の汚れを除去した基原植物の表皮を除去して、再度上記した通りの適切な方法により残った表皮や汚れを除去する。ただし、表皮を除去する必要がない基原植物の場合は、そのまま用いても良い。次に、残った表皮や汚れを除去した植物を冷蔵庫に入れて水切りする。
【0015】
次に、水切りした基原植物を、平均温度−10〜30℃、好ましくは−2.5〜22.5℃、更に好ましくは4〜16℃及び平均湿度10〜70%、好ましくは15〜60%、更に好ましくは15〜55%で乾燥させる。この乾燥処理時の温度及び湿度が上記上限を超えると、品質に悪影響を及ぼす雑菌等が繁殖したりするので好ましくなく、温度等が上記下限未満では、残留水分により変色が生じたり、凍結により内部組織が変質したりするので好ましくない。
【0016】
また、乾燥時間は、1〜18日間、好ましくは3〜16日間、更に好ましくは5〜14日間である。この乾燥時間が上記上限を超えると、柔軟性が失われて脆くなったりするので好ましくなく、乾燥時間が上記下限未満では、変色や変形等の形状不良を生じたりするので好ましくない。
【0017】
また、乾燥処理は、常圧下で行うことが好ましいが、状況に応じて加圧下又は減圧下で行ってもよい。
【0018】
なお、乾燥の際には、基原植物の種類や部位等によっては乾燥処理を複数回に分けて行ってもよい。
【0019】
更に、本発明においては、基原植物を乾燥させて得られる乾燥体(以下、「植物乾燥体」という)の乾燥減量が1〜20%、好ましくは2〜18%、更に好ましくは3〜16%となるように基原植物を乾燥させる。この植物乾燥体の乾燥減量が上記上限を超えると、柔軟性が失われて脆くなったり、変色や変形等の形状不良を生じたりするので好ましくない。また、植物乾燥体の乾燥減量が上記下限未満では、残留水分により変色が生じたり、品質に悪影響を及ぼす雑菌等が繁殖したりするので好ましくない。
【0020】
ここで、乾燥減量とは、第十五改訂日本薬局方に規定の方法(非特許文献2参照)に準じて測定されるものをいう。具体的な乾燥減量の測定方法は、以下の通りである。
【0021】
まず、予め質量を量った秤量瓶に植物乾燥体を入れ、その質量を化学天秤等で精密に測定する。次いで、植物乾燥体入りの秤量瓶を105℃で所定時間乾燥する(初期乾燥)。次いで、シリカゲル入りデシケーター中で秤量瓶を放冷し、その質量を化学天秤等で精密に測定する。次いで、秤量瓶中の植物乾燥体が恒量に達するまで105℃で乾燥する(2次乾燥)。なお、2次乾燥の際は、1時間毎に秤量瓶の質量を精密に測定する。最後に、植物乾燥体が恒量に達した時の水分の減量(%)を算出し、これを乾燥減量とする。ただし、上記の初期乾燥時間は、基原植物の種類によって異なる。例えば、上述した本発明における基原植物の初期乾燥時間は6時間である。
【0022】
なお、本発明における乾燥方法は、乾燥させた基原植物の乾燥減量並びに乾燥処理時の温度、湿度及び時間が所定の範囲内となるように調整可能であれば特に限定されるものではなく、既知の乾燥方法、例えば、電熱線、赤外線、遠赤外線、マイクロ波、電磁誘導等を利用した方法を用いることができる。本発明において適した乾燥方法としては、電熱線等が挙げられる。そのような方式を用いた装置として、例えば、電熱式乾燥機(STN6200、ADVANTECC社製)等を利用することができる。
【実施例】
【0023】
次に、本発明の生薬及びその製造方法を、実施例により更に詳しく説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【0024】
[比較例1]
【0025】
7月に採取したカラスビシャク(伊豆在来系)の塊茎部の表皮をはく皮して流水で洗浄した後に冷蔵庫内で水切りした。次いで、はく皮したカラスビシャクの塊茎部を、温度(設定)が70℃、湿度(実測)が10〜50%である乾燥機を用いて3日間乾燥して比較例のカラスビシャク乾燥体を得た。
【0026】
[比較例2]
【0027】
温度(設定)が50℃である乾燥機を用いた以外は比較例1と同様にして乾燥して比較例のカラスビシャク乾燥体を得た。
【0028】
[比較例3]
【0029】
温度(設定)が30℃である乾燥機を用いた以外は比較例1と同様にして12日間乾燥して比較例のカラスビシャク乾燥体を得た。
【0030】
[実施例1]
【0031】
温度(設定)が5℃である以外は比較例1と同様にして、13日間乾燥して本発明のカラスビシャク乾燥体を得た。
【0032】
得られた本発明のカラスビシャク乾燥体の乾燥減量を、第十五改訂日本薬局方に規定の方法(非特許文献2参照)に準じて測定したところ(n=3)、8.6%であった。これにより、本実施例のカラスビシャク乾燥体は、第十五改訂日本薬局方に示されたカラスビシャク(生薬「半夏」)の乾燥減量の条件(初期乾燥時間6時間で乾燥減量14%以下)を満たすことが確認できた。
【0033】
また、比較例1〜3及び実施例1で得られたカラスビシャク乾燥体並びに市場品のカラスビシャク(生薬「半夏」、中国四川省産)の外観の様子を写真撮影した結果を図1〜5に示した。図1〜5に示す通り、比較例1〜3のカラスビシャク乾燥体の外観は、大部分が茶色に変色していたのに対し、実施例1のカラスビシャク乾燥体の外観は、市場品のカラスビシャク(生薬「半夏」)と殆ど変らない白色を維持できていることが確認できた。
【0034】
[実施例2]
【0035】
8月に採取したカラスビシャク(伊豆在来系)の塊茎を水道水で洗浄した後、Mサイズ(目開き22.4mmを通過し11.2mmを通過しないもの)及びLサイズ(目開き22.4mmを通過しないもの)の塊茎(図6及び図7参照)を篩で選別した。次いで、選別した塊茎の表皮をはく皮して流水で洗浄した後に冷蔵庫内で水切りした。次いで、はく皮したカラスビシャクの塊茎を、容量40Lの密閉容器(カメラ用ドライボックス)にSP除湿器ロサール(菱彩テクニカ社製「RDHC−7J1」)を装着した除湿装置を用いて、設定温度5℃及び設定湿度10%の条件で40日間乾燥させ、その間の所定日にカラスビシャクの塊茎の乾燥減量を、第十五改訂日本局方に規定の方法(非特許文献2参照)に準じて測定した。なお、本試験では初期乾燥時間を24時間とした。
【0036】
[実施例3]
【0037】
湿度を30%に設定して乾燥させた以外は実施例2と同様にしてカラスビシャクの塊茎の乾燥減量を測定した。
【0038】
[実施例4]
【0039】
湿度を50%に設定して乾燥させた以外は実施例2と同様にしてカラスビシャクの塊茎の乾燥減量を測定した。
【0040】
実施例2〜4で乾燥減量を測定した結果を図8及び図9に示した。図8及び図9に示す通り、乾燥減量が14%以下に達するのに要した日数は、実施例2では16日、実施例3では6〜9日、実施例4では16〜20日であった。乾燥開始から20日以降の乾燥減量は、実施例2では10%から7.0%に緩やかに減少し、実施例3では10%前後を維持し、実施例4では12%前後を維持していた。また、実施例2〜4で得られたカラスビシャクの塊茎の外観の様子を写真撮影した結果を図10に示した。図10に示す通り、これらの塊茎の外観は、市場品のカラスビシャク(生薬「半夏」、図6参照)と殆ど変らない白色を維持できていることが確認できた。
【0041】
[実施例5]
【0042】
温度を15℃に設定して20日間乾燥させた以外は実施例2と同様にしてカラスビシャクの塊茎の乾燥減量を測定した。
【0043】
[実施例6]
【0044】
温度を15℃に、湿度を30%に設定して20日間乾燥させた以外は実施例2と同様にしてカラスビシャクの塊茎の乾燥減量を測定した。
【0045】
[実施例7]
【0046】
温度を15℃に、湿度を50%に設定して20日間乾燥させた以外は実施例2と同様にしてカラスビシャクの塊茎の乾燥減量を測定した。
【0047】
実施例5〜7で乾燥減量を測定した結果を図11及び図12に示した。図11及び図12に示す通り、乾燥減量が14%以下に達するのに要した日数は、実施例5では6日、実施例6では6日、実施例7では6〜9日であった。乾燥開始から12日以降の乾燥減量は、実施例5では9.0%から7.0%に緩やかに減少し、実施例6では10%前後を維持し、実施例7では10〜12%前後を維持していた。
【0048】
以上の結果より、実施例2〜7の各温度及び湿度条件を比較すると、高温条件(15℃)の方が短い日数で乾燥減量が14%に達し、低湿度条件(10%及び30%)の方が短い日数で乾燥減量が14%に達することが確認できた。従って、理想的な乾燥条件は、設定温度15℃程度(平均温度14〜16℃程度)及び設定湿度10〜30%程度(平均湿度17〜40%程度)であることが示唆された。ただし、設定温度15℃程度では、カラスビシャクの塊茎の水切りが不十分な状態で乾燥機内の加湿状態が続くと、その表面にカビが発生する危険性があり、防カビ対策としては、設定温度をおよそ10℃以下にして乾燥処理を施すことが好ましく、また、産業的に乾燥機内の湿度をおよそ20%以下に保つにはコスト高となり、実用的な設定湿度としては、30〜40%程度が好ましい。
【0049】
[比較例4]
【0050】
12月に採取したヤマノイモ(福種種苗系)の根茎の周皮をはく皮して流水で洗浄した後に冷蔵庫内で水切りした。次いで、このはく皮したヤマノイモの根茎を、温度(設定)が30℃、湿度(実測)が20〜40%であるファイトトロンを用いて5日間乾燥して比較例のヤマノイモ乾燥体を得た。
【0051】
[比較例5]
【0052】
温度(設定)が25℃であるファイトトロンを用いた以外は比較例4と同様にして乾燥し比較例のヤマノイモ乾燥体を得た。
【0053】
[比較例6]
【0054】
温度(設定)が20℃であるファイトトロンを用いた以外は比較例4と同様にして乾燥し比較例のヤマノイモ乾燥体を得た。
【0055】
[実施例8]
【0056】
温度(設定)が15℃である除湿機を設置した保冷庫を用いた以外は比較例4と同様にして乾燥し本発明のヤマノイモ乾燥体を得た。
【0057】
得られた本発明のヤマノイモ乾燥体の乾燥減量を、実施例1と同様にして測定したところ(n=2)、10.0%であった。これにより、本実施例のヤマノイモ乾燥体は、第十五改訂日本薬局方に示されたヤマノイモ(生薬「山薬」)の乾燥減量の条件(初期乾燥時間6時間で乾燥減量14%以下)を満たすことが確認できた。
【0058】
また、比較例4〜6及び実施例8で得られたヤマノイモ乾燥体並びに市場品のヤマノイモ(中国福建省産の丸切り山薬及び広東省産の毛山薬)の外観の様子を写真撮影した結果を図13〜17に示した。図13〜17に示す通り、比較例4〜6のヤマノイモ乾燥体の外観は、大部分が茶色に変色したのに対し、実施例8のヤマノイモ乾燥体の外観は、市場品のヤマノイモ(生薬「山薬」)と殆ど変らない白色を維持できていることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0059】
上述したように、本発明によれば、硫黄くん蒸や薬品処理等を行わずに従来の市場品と同等の外観を有する生薬を製造することができるので、これらの生薬を含む漢方薬(中成薬)に利用した場合極めて有用である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基原植物を、平均温度−10〜30℃及び平均湿度10〜70%で乾燥減量1〜20%に乾燥させて得られる、生薬。
【請求項2】
前記平均温度は、4〜16℃である、請求項1に記載の生薬。
【請求項3】
前記平均湿度は、15〜55%である、請求項1又は2に記載の生薬。
【請求項4】
前記乾燥減量は、3〜16%である、請求項1〜3の何れか1項に記載の生薬。
【請求項5】
乾燥時間が、1〜18日間である、請求項1〜4の何れか1項に記載の生薬。
【請求項6】
乾燥時間が、5〜14日間である、請求項1〜5の何れか1項に記載の生薬。
【請求項7】
乾燥圧力が、常圧である、請求項1〜6の何れか1項に記載の生薬。
【請求項8】
前記基原植物は、流通時における表面及び内部の色調が白色系の生薬にかかるものである、請求項1〜7の何れか1項に記載の生薬。
【請求項9】
前記基原植物は、カラスビシャク、ヤマノイモ、ナガイモ、シャクヤク、アミガサユリ又はクズである、請求項1〜8の何れか1項に記載の生薬。
【請求項10】
基原植物を、平均温度−10〜30℃及び平均湿度10〜70%で乾燥減量1〜20%に乾燥させることを特徴とする、生薬の製造方法。
【請求項11】
前記平均温度は、4〜16℃である、請求項10に記載の生薬の製造方法。
【請求項12】
前記平均湿度は、15〜55%である、請求項10又は11に記載の生薬の製造方法。
【請求項13】
前記乾燥減量は、3〜16%である、請求項10〜12の何れか1項に記載の生薬の製造方法。
【請求項14】
乾燥時間が、1〜18日間である、請求項10〜13の何れか1項に記載の生薬の製造方法。
【請求項15】
乾燥時間が、5〜14日間である、請求項10〜14の何れか1項に記載の生薬の製造方法。
【請求項16】
乾燥圧力が、常圧である、請求項10〜15の何れか1項に記載の生薬の製造方法。
【請求項17】
前記基原植物は、流通時における表面及び内部の色調が白色系の生薬にかかるものである、請求項10〜16の何れか1項に記載の生薬の製造方法。
【請求項18】
前記基原植物は、カラスビシャク、ヤマノイモ、ナガイモ、シャクヤク、アミガサユリ又はクズである、請求項10〜17の何れか1項に記載の生薬の製造方法。
【請求項1】
基原植物を、平均温度−10〜30℃及び平均湿度10〜70%で乾燥減量1〜20%に乾燥させて得られる、生薬。
【請求項2】
前記平均温度は、4〜16℃である、請求項1に記載の生薬。
【請求項3】
前記平均湿度は、15〜55%である、請求項1又は2に記載の生薬。
【請求項4】
前記乾燥減量は、3〜16%である、請求項1〜3の何れか1項に記載の生薬。
【請求項5】
乾燥時間が、1〜18日間である、請求項1〜4の何れか1項に記載の生薬。
【請求項6】
乾燥時間が、5〜14日間である、請求項1〜5の何れか1項に記載の生薬。
【請求項7】
乾燥圧力が、常圧である、請求項1〜6の何れか1項に記載の生薬。
【請求項8】
前記基原植物は、流通時における表面及び内部の色調が白色系の生薬にかかるものである、請求項1〜7の何れか1項に記載の生薬。
【請求項9】
前記基原植物は、カラスビシャク、ヤマノイモ、ナガイモ、シャクヤク、アミガサユリ又はクズである、請求項1〜8の何れか1項に記載の生薬。
【請求項10】
基原植物を、平均温度−10〜30℃及び平均湿度10〜70%で乾燥減量1〜20%に乾燥させることを特徴とする、生薬の製造方法。
【請求項11】
前記平均温度は、4〜16℃である、請求項10に記載の生薬の製造方法。
【請求項12】
前記平均湿度は、15〜55%である、請求項10又は11に記載の生薬の製造方法。
【請求項13】
前記乾燥減量は、3〜16%である、請求項10〜12の何れか1項に記載の生薬の製造方法。
【請求項14】
乾燥時間が、1〜18日間である、請求項10〜13の何れか1項に記載の生薬の製造方法。
【請求項15】
乾燥時間が、5〜14日間である、請求項10〜14の何れか1項に記載の生薬の製造方法。
【請求項16】
乾燥圧力が、常圧である、請求項10〜15の何れか1項に記載の生薬の製造方法。
【請求項17】
前記基原植物は、流通時における表面及び内部の色調が白色系の生薬にかかるものである、請求項10〜16の何れか1項に記載の生薬の製造方法。
【請求項18】
前記基原植物は、カラスビシャク、ヤマノイモ、ナガイモ、シャクヤク、アミガサユリ又はクズである、請求項10〜17の何れか1項に記載の生薬の製造方法。
【図8】
【図9】
【図11】
【図12】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図10】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図9】
【図11】
【図12】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図10】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2011−16788(P2011−16788A)
【公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−114052(P2010−114052)
【出願日】平成22年5月18日(2010.5.18)
【出願人】(803000056)財団法人ヒューマンサイエンス振興財団 (341)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年5月18日(2010.5.18)
【出願人】(803000056)財団法人ヒューマンサイエンス振興財団 (341)
【Fターム(参考)】
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