説明

生鮮食料の変色を抑制する方法及び生鮮食料変色抑制剤

【課題】
魚介類を含む生鮮食料の外観が時間とともに褐色や黒色に変色することを抑制する。
【解決手段】
海洋性糸状菌を一定期間培養した培養液から分離された培養上清の成分を用いて生鮮食料を処理することにより、生鮮食料の変色を抑制する。ここで、前記培養上清は、分離した海洋性糸状菌を水、0.1重量%〜4.0重量%のC源、及び0.1重量%〜2.0重量%のN源を含みNaCl濃度を0.05重量%以下となる培地で20℃〜30℃の温度で一定期間培養した培養液から前記海洋性糸状菌を分離除去した培養上清であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海洋性糸状菌を一定期間培養した培養液から分離された培養上清を含む液を用いて生鮮食料を処理することにより、生鮮食料の変色を抑制する方法、同方法により変色が抑制された生鮮食料、及び変色抑制剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、国外からの魚介類の輸入若しくは遠洋漁業により魚介類の捕獲場から消費地までの距離が長距離となり、その保管時間も長時間に渡っている。また、魚介類を食する消費者等の魚介類の鮮度、味覚、外観の良さ等の要望も高くなっており、食品業界においてはこれらの要望を満たす付加価値の高い魚介類を提供することは重要なものとなっている。
【0003】
最近では、冷凍技術も進み、魚介類の鮮度を保持する保管技術も進んでいる。保管技術のほかにも、魚介類の外観の良さを引き出す、若しくは維持する方法やそれに関連する製品も多く開発されている。保管技術や鮮度を保持する方法としては、下記の特許文献1および2の方法が開示されている。
【0004】
特許文献1の方法は、水産物、特に魚介類の鮮度を長期にわたって維持するものである。気体と液体とを接触させる工程と、これを精製する工程とによって製造された混合系を有する高湿度空気を用いた水産物の保存方法である。それらの工程により得られた高湿度空気に含まれる成分を水産物に対し、温度5℃,相対湿度100%近くとなるような空間において接触的に作用させることを特徴とする。
【0005】
特許文献2の方法は、緑色及び白色野菜や魚介類等の生鮮食品に対し、確実に且つ安全に殺菌消毒を行え、変色等の劣化を抑制して長期間にわたる品質保持を可能にし、食感等の食品の性質を改善して更なる価値を付加し得る食品処理剤を提供する塩素系殺菌剤と、イオン強度2.5×10-5〜2.5を付与する無機電解質からなるイオン強度付与剤とを含有し、残留塩素量30〜1500mg/L、pH2.0〜8.0の水溶液からなる食品処理剤を開示している。
【0006】
【特許文献1】特開平10−42745 水産物の鮮度保持方法
【特許文献2】特開2003−135041 食品処理剤及び処理方法
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1の発明は、生鮮食料に対して、特定の空気イオンを用いて高湿度で保管保存をするものであるが、装置が大掛かりになり、魚介類のように外国や船上で容易に利用することは難しい。また、生鮮食料の変色抑制は、食品内部の化学反応で起こるものであり、同方法では変色抑制についての効果は不十分と考えられる。また、特許文献2の発明は、主に塩素により微生物等の繁殖を阻害して、微生物等により食料の劣化を防止する方法であり、直接、食料の変色に関与する酵素を標的にしているものではない。
【0008】
そこで、本発明は、大型の装置を必要とせず、変色抑制液のみで処理するといった簡単な方法で、生鮮食料の変色を抑制することを目的とする。また、本発明は、生鮮食料に対する効果的な変色の抑制を施すことを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意工夫を重ねた結果、海洋性糸状菌を一定期間培養した培養液から分離された培養上清を含む液を用いて生鮮食料を処理することにより、生鮮食料の変色を抑制できることを見出し、本発明を完成するに至った。本発明の機序については、後述するように、海洋性糸状菌の培養液に食品の劣化に関与するチロシナーゼ酵素(キノンオキシターゼ酵素)の阻害能があることを、本発明により明らかにした。
【0010】
本発明は、海洋性糸状菌を一定期間培養した培養液から分離された培養上清の成分を用いて生鮮食料を処理することにより、生鮮食料の変色を抑制する方法を提供するものである。ここで言う海洋性糸状菌とは、例えばTrichoderma sp.などが挙げられる。また、生鮮食料とは、魚介類、すなわち、魚、腕足類(二枚貝)、腹足類(巻貝)を含む貝類、海老、蟹などを含む甲殻類、頭足類(イカ、タコなど)があり、その他に牛肉、豚肉、鶏肉などの肉類、野菜、果物などの野菜類、きのこ類の食料が挙げられる。
【0011】
また、前記培養上清は、分離した海洋性糸状菌を水、0.1重量%〜4.0重量%のC源、及び0.1重量%〜2.0重量%のN源を含みNaCl濃度を0.05重量%以下となる培地で20℃〜30℃の温度で一定期間培養した培養液から前記海洋性糸状菌を分離除去した培養上清であっても良い。ここで、水は海水ではなく塩分が0.05重量%以下となる淡水、水道水若しくは蒸留水を利用することが特徴である。
【0012】
N源は、バクトペプトンやペプトン、コーンスティープリカー、カザミノ酸、バクトソイトン、肉エキス、バクトカシトン、ポリペプトン、硝酸ナトリウム、硝酸アンモニウム、硫酸アンモニウムなどをいい、C源は、D+グルコース、トレハロース、ラフィノース、セロビオース、フルクトース、ラクトース、D+キシロース、ソルビトール、イノシトール、マンニトール、スクロースなどが挙げられる。また、培養温度は、15℃〜35℃の温度であるが、好ましい温度は、20℃〜30℃である。一定期間の培養とは、分離した海洋性糸状菌が液体培地に対して十分に希釈される状態を培養開始日として、例えば3日〜12日の期間が挙げられる。培養に用いる海洋性糸状菌は、同様の培地で本培養とは別の予備的な培養をした海洋性糸状菌の一部を使用しても良い。
【0013】
また、前記培養上清は、チロシナーゼ酵素阻害活性が、70,000units/ml以上であることを指標として特定しても良い。
【0014】
前記培養上清を用いて生鮮食料を処理する工程は、前記培養上清を含む液を対象となる生鮮食料に噴霧する手段、若しくは前記培養液中に対象となる生鮮食料を浸す手段を用いてもよい。ここで、噴霧する手段とは、前記液を霧状に、対象となる生鮮食料に満遍なく噴霧する器具を用いることが挙げられる。また、浸す手段としては、前記液を特定の容器に入れ、その容器に対象となる生鮮食料を、数秒から1分程度漬けることでも良い。その他の手段として、前記液から生鮮食料を低温保管するための氷を生成して、その氷に対象となる生鮮食料をつけて低温保管しながら、同液の効果を発揮させてもよい。
【0015】
前記方法は、捕獲後の魚介類を冷凍保存することにより、魚介類が黒色若しくは褐色に変色することを抑制することに用いても良い。ここで、対象となる鮮魚の切り身を前記液を処理する工程としては、冷凍保存をする前、若しくは解凍中、解凍後のいずれかで処理することでも良い。
【0016】
また、本発明は、前記のいずれかに記載の方法により生鮮食料の変色が抑制されたことを特徴とする生鮮食料を提供するものである。ここで、生鮮食料の変色とは、通常生育している状態の植物、動物を収穫、捕獲する、若しくは鮮魚の切り身のように解体して時間が経過するときに、生鮮食料の劣化や分解により外観の色が鮮色から黒色、褐色に変化することをいう。
【0017】
また、本発明は、分離した海洋性糸状菌を水、0.1重量%〜4.0重量%のC源、及び0.1重量%〜2.0重量%のN源を含みNaCl濃度を0.05重量%以下となる培地で20℃〜30℃の温度で一定期間培養した培養液から前記海洋性糸状菌を分離除去した培養上清の成分を含む生鮮食料変色抑制剤を提供するものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、魚介類、肉類、青果類を含むあらゆる生鮮食料に対して、その保管時間とともに食料が鮮色から褐色若しくは黒色に変色することを抑制できる。本発明の生鮮食料変色抑制液によって生鮮食料を処理することのみで、安易に、また経済的に生鮮食料の変色を抑制することができ、生鮮食料の外観を良好なものとすることができる。また、本発明の方法によれば、自然界に存在する海洋性糸状菌の培養液の上清液が構成成分であるので、化学薬品による食料の処理とは異なり、安全で安心な生鮮食料の変色抑制を提供することができ、また、化学薬品の処理による周辺環境の劣化などを起こすこともない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明は、海洋性糸状菌を一定期間培養した培養液から分離された培養上清を含む液体を用いて生鮮食料を処理することにより、生鮮食料の変色を抑制する方法を提供するものである。ここで言う海洋性糸状菌とは、例えばTrichoderma属などが挙げられる。また、生鮮食料とは、魚介類、すなわち、魚、腕足類(二枚貝)、腹足類(巻貝)を含む貝類、海老、蟹などを含む甲殻類、頭足類(イカ、タコなど)があり、その他に牛肉、豚肉、鶏肉などの肉類、野菜、果物、きのこ類などの青果類食料が挙げられる。ここで、Trichoderma属とは、海洋性糸状菌の一種であり、通常は、海底の泥中に生息している。
【0020】
また、前記培養液から培養上清を分離する手段は、前記培養液を遠心分離機で遠心分離することにより海洋性糸状菌等を沈殿させ、培養上清を得る方法、または前記培養液を濾過することで上清成分を得る方法がある。
【0021】
本発明の培養ろ液を含む液、及び生鮮食料変色抑制剤は、培養上清の原液でもよく、培養上清を任意の液体で希釈した希釈液でもよく、また培養上清から水分を減らして濃縮した濃縮液でも良い。また、培養上清やその濃縮液を、凍結乾燥してパウダー状にして用いても良い。
【0022】
捕獲した魚介類に、生鮮食料変色抑制剤を処理する場合には、甲殻類や魚貝類の切り身に対して処理することも挙げられる。これは、その他の生鮮食料でも同様である。
【0023】
以下に、幅広い種類の生鮮食料に対する変色抑制を発揮する生鮮食料変色抑制剤の製造方法、変色抑制の効果、また変色抑制効果を裏付ける結果について、実施例をあげて説明する。なお、本発明の技術的範囲はこれら実施例によって制限されるものではない。
【実施例1】
【0024】
(Trichoderma sp.の培養方法及び培養液上清の分離方法)
海洋性糸状菌であるTrichoderma sp.は、日本近海の海底泥から採取した。図1は、本発明で利用したTrichoderma sp.を示す電子顕微鏡写真である。培養条件は、基本培地を、C源を2.0重量%、N源を0.5重量%とし、水を入れて全量を100重量%とした。ここで、C源はD+グルコースを用い、N源はバクトペプトンを用い、水は蒸留水を用いた。また、培養温度はインキュベーターを用いて27℃とし、振とうさせながら培養した。
【0025】
Trichoderma sp.の培養は、2段階の培養として、少量の培地を用いた予備培養を行い、その後、予備培養で増殖したTrichoderma sp.の一部を、本培養に用いた。本培養では、培地を100ml用いて培養をした。本培養を開始して5日経過したときに、培地を全て集めて、遠心分離機を用いて培養液上清を分離した。
【0026】
遠心分離機は、HIMAC CR21F(日立製作所製)を使用し、No.41のローターを使用し、回転数を10,000rpmとして10分間遠心を行った。この時の温度は4℃とした。遠心後に、Trichoderma sp.の沈殿が観察されるが、それを巻き上げないようにして、培養液上清のみを取得した。
【実施例2】
【0027】
(各海水濃度によるトリコデルマの培養におけるTI活性と培養期間の関係)
本発明では、Trichoderma sp.の培養方法については、海水ではなく、塩類を除去した水を用いることが特徴であるが、これは培養における菌数の増殖能とともに、本発明の効果に関係するチロシナーゼ阻害(TI)活性においても、関連性があることを見出した。実施例2では、海水の塩分濃度を100%としたときに、これを蒸留水で希釈して、各海水濃度における培養液を作り、それぞれの培養液で培養した後にチロシナーゼ阻害(TI)活性を示したものである。表1は、海水濃度を0%、25%、50%、100%とした培養液(N源、C源は実施例1と同じ)において、Trichoderma sp.をそれぞれ0日から13日まで培養したときのチロシナーゼ阻害(TI)活性を経時的に表したものである。図2は、これをグラフにしたものである。本測定は、培養上清を1,000倍に希釈した希釈液を用いた。
(表1)各海水濃度によるトリコデルマの培養におけるTI活性と培養期間の関係
【表1】

【0028】
次に、チロシナーゼ阻害(TI)活性能の測定方法について説明する。チロシナーゼは、最初の段階であるチロシンからDOPAへの水酸化反応と、次の段階であるDOPAからDOPAキノンへの酸化反応を触媒する。DOPA溶液にチロシナーゼ溶液を加え反応を進めると、無色透明の溶液がオレンジ色に変化する。チロシナーゼ阻害活性試験では、この色の変化を490nmの吸光度で測定することにより、被験物質のチロシナーゼ阻害活性を定量する。表2では、定量試験で用いた具体的な溶液の条件を示す。コウジ酸は、チロシナーゼ阻害活性があることが知られているので、ポジティブコントロールとして用い、本定量法が正常に機能していることを示すために用いる。
【0029】
チロシナーゼ阻害剤は、食品類の褐変防止等の用途に用いられていることは公知であり、本発明の培養上清や生鮮食料変色抑制液に、チロシナーゼ阻害(TI)活性があれば、この効果の機序の一部が明確に示される。本実施例では、Trichoderma sp.は、本来、海洋性糸状菌であるにもかかわらず、海水濃度が0%、すなわち、塩分濃度を0とすることがチロシナーゼ阻害(TI)活性が最大となることが示され、また、この阻害活性能は、培養開始後3日目から観察され、4日目から7日目に最大値を示し、その後9日目から活性が低下することが示された。
【表2】

【実施例3】
【0030】
(C源の条件検討とTI活性)
次に、チロシナーゼ阻害活性が最大となる培養条件の検討として、培養液中のC源の種類をそれぞれ分けて、Trichoderma sp.の培養を行った。培養液は、C源を2%として、他は実施例1で示した培養液成分と同一とした。培養期間は6日間として、その他の培養条件及び培養上清の分離方法は実施例1と同一とした。また、チロシナーゼ阻害(TI)活性能は、実施例2と同様である。
【0031】
本実施例では、培養液中のC源の種類を、D+グルコース、トレハロース、ラフィノース、セロビオース、フルクトース、ラクトース、D+キシロース、ソルビトール、イノシトール、マンニトール、スクロースとして、チロシナーゼ阻害(TI)活性能の定量試験をした。図3は、その結果をグラフで示したものである。この結果から、チロシナーゼ阻害(TI)活性能を良く示すC源として、D+グルコース、トレハロース、セロビオース、スクロースであることが示された(図3)。なお、ポジティブコントロールで用いた30mMのコウジ酸では、914,286units/mlであった。
【実施例4】
【0032】
(ハマチに対する変色抑制の効果)
本発明の培養上清を用いて、ハマチの変色抑制を観察した。ハマチの切り身を2つ用意して、一方は、蒸留水に漬け、他方は、本発明の培養上清を10%に希釈した希釈液に漬けた。その後、それぞれハマチ試料をビニール製の袋に入れ、4℃で4日間、冷蔵保存した。このハマチ試料の外観の様子から、蒸留水で処理したものは、試験開始時の鮮色が変色して、褐色になることが認められ、他方で、本発明の培養上清で処理したものは、試験開始時の鮮色が維持され、血合い色が維持されることが確認された。なお、本試験に用いた培養上清は、チロシナーゼ阻害(TI)活性が、70,000units/mlであったものを使用した。
【実施例5】
【0033】
(クルマエビに対する変色抑制の効果)
本発明の培養上清を用いて、クルマエビ(養殖クルマエビ(熊本県産))の変色抑制を観察した。本発明の培養上清を原液で、若しくはその原液を真水または海水で希釈したものの中に、クルマエビを浸漬後−55℃で冷凍し、さらにこれを試験開始まで−80℃で3週間保存した。クルマエビの解凍は、保存容器(タッパー)のまま、室外(気温:30℃)にて4時間余り放置して解凍した。試験に用いるクルマエビは、それぞれの条件ごとに、3尾使用した。結果については、3名の評価員による目視での外観変化(黒色変化)により、4段階の評価点をつけた。なお、得られた結果は、デジタルカメラ(OLYMPUSCAMEDIA C-200)で撮影した。
【0034】
クルマエビの外観変化による評価は、解凍直後における水による処理のクルマエビを4点として、外観に黒色が明確に認められたものを1点として、外観に黒色がやや認められたものを2点、外観に褐色が認められたものを3点といったように段階的な点数として評価した。表3には、解凍直後及び解凍から17時間経過したクルマエビの外観変化の結果を示す。解凍直後のクルマエビについては、いずれの処理においても、全体的な外観は鮮色であり、その変化は認められない。他方で、解凍から17時間経過したものは、水による処理群では、クルマエビの頭部において顕著な黒色変化が認められた。また、海水による処理群では、全体的に外観が褐色となることが確認された。培養上清原液(100%)による処理群では、解凍直後のクルマエビの外観が維持され、変色の抑制が確認された。
(表3)培養上清原液処理による変色抑制効果
【表3】

【0035】
次に、本発明の培養上清を水で希釈した0.1%、0.2%、2%、10%の希釈液をそれぞれ作成して、その液体でクルマエビを処理した結果を示す(表4)。水による処理群では、上述したように、クルマエビの頭部において顕著な黒色変化が認められた。顕著な黒色変化は、3尾のクルマエビで同様に確認された。次いで、培養上清希釈液(2%)による処理群では、2尾のクルマエビの頭部に黒色が認められたが、そのうち1尾は、水処理群と比して黒色の程度は弱いことが確認された。培養上清希釈液(2%)による処理群は、10%処理群と比較して、黒色の程度はさらに弱いものと認められた。さらに、培養上清希釈液(0.2%)による処理群、培養上清希釈液(0.1%)による処理群では効果が認められず、水による処理群と同様に、クルマエビの頭部に顕著な黒色が確認された。
(表4)水による培養上清の希釈液による変色抑制効果
【表4】

【0036】
次に、本発明の培養上清を海水により、2%および10%の希釈液をそれぞれ作成して、その液体でクルマエビを処理した結果を示す(表5)。海水による処理群では、上述したように、クルマエビの頭部において黒色変化が認められた。ここで黒色変化は、水処理におけるクルマエビの黒色変化に比して、その程度は弱いものであった。次いで、培養上清希釈液(10%)による処理群では、クルマエビの外観は解凍直後のものとほぼ同じ鮮色をしていた。また、培養上清希釈液(10%)による処理群では、3尾のクルマエビの1尾について頭部の下部において、やや黒色が認められたが、その程度は弱いものであった。本実施例により、水による処理群と比して、海水による処理群でも変色抑制効果があるものと考えられるが、本発明の培養上清液においても、海水の希釈によりその効果が増強されていることが示された。
(表5)海水による培養上清の希釈液による変色抑制効果
【表5】

【実施例6】
【0037】
(長時間保存によるクルマエビに対する変色抑制の効果)
実施例4では、解凍直後と解凍後17時間のクルマエビを比較したが、本実施例では、長時間保存によるクルマエビに対する変色抑制の効果を評価するために、解凍直後と解凍後46時間経過のクルマエビを比較した。評価点数は、水による処理群を1点、解凍直後を4点として、その間は段階的な点数として評価した。
【0038】
解凍後17時間経過の場合には、水による処理群と海水による処理群とで、相違が認められたが、解凍後46時間経過後の場合には、その相違は無く、水または海水による処理群では全体的に顕著な黒色に変化することが示された。培養上清原液(100%)による処理群では、解凍直後のクルマエビの外観と同様のものとはならないが、水による処理群や海水による処理群に比して、解凍直後に近い外観であることが確認された(表6)。なお、実施例4及び5の試験に用いた培養上清は、チロシナーゼ阻害(TI)活性が、70,000units/mlであったものを使用した。
(表6)長時間保存によるクルマエビに対する変色抑制の効果
【表6】

【実施例7】
【0039】
(果物に対する変色抑制の効果)
本発明の培養上清を用いて、リンゴの変色抑制を観察した。評価試料を各々均等に計量し、それぞれの試験液とともにミルミキサーにて一定時間ミキシングした。ミキシング液は50mlチューブに移し、30分間室温にて、チロシナーゼ酵素と基質を反応させた。ここで、試験液は、リン酸Buffer(pH6.9)を用い、これをコントロールとして、テストでは、本発明の培養液上清(4,500units/ml)を4.5%含むものとした。反応後は、ろ紙にてろ過を行い、さらに濁りのあるサンプルについては、孔径0.45μm、および0.2μmのメンブランフィルターにてろ過を行った。測定は、マイクロプレートリーダーにて490nmの波長を測定した。
【0040】
コントロールでは、ミキシング最中にすでに茶色く変色してくるが、4.5%Trichoderma sp.の培養上清含有リン酸Bufferでは、ほぼ変色は見られず、変色の進行が明らかに遅いことが分かった。コントロールブランクでの、黒色変化を100%とすると、本発明のTrichoderma sp.の培養液上清を4.5%含有させた実験群では、5.7%に変色を抑制することが示された(図4)。
【実施例8】
【0041】
(野菜に対する変色抑制の効果)
本発明の培養上清を用いて、ナスの変色抑制を観察した。試験方法は実施例7と同様である。コントロールでの、黒色変化を100%とすると、本発明のTrichoderma sp.の培養液上清を4.5%含有させた実験群では、2.0%に変色を抑制することが示された(図5)。
【実施例9】
【0042】
(きのこ類に対する変色抑制の効果)
本発明の培養上清を用いて、マッシュルームの変色抑制を観察した。試験方法は実施例7と同様である。コントロールでの、黒色変化を100%とすると、本発明のTrichodermasp.の培養液上清を4.5%含有させた実験群では26.0%に変色を抑制することが示された(図6)。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明の培養液上清で、生鮮食料を処理することで、時間の経過とともに生鮮食料が変色することを強力に抑制することが示された。また、本発明の効果は、広く生鮮食料に用いることができ、外観の新鮮さが維持され、生鮮食料の商品価値が向上する。また、本発明は生鮮食料の変色抑制方法の他に、培養液上清を生鮮食料変色抑制剤として提供する。魚貝類や甲殻類などの生鮮食料においては、この液体の処理だけで変色が抑制されるので、場所を問わず容易に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】Trichoderma sp.を示す電子顕微鏡写真
【図2】各海水濃度に対する培養上清のチロシナーゼ阻害(TI)活性を示すグラフ
【図3】各C源に対する培養上清のチロシナーゼ阻害(TI)活性を示すグラフ
【図4】リンゴの黒色変色抑制結果を示すグラフ
【図5】ナスの黒色変色抑制結果を示すグラフ
【図6】マッシュルームの黒色変色抑制結果を示すグラフ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
海洋性糸状菌を一定期間培養した培養液から分離された培養上清の成分を用いて生鮮食料を処理することにより、生鮮食料の変色を抑制する方法。
【請求項2】
前記海洋性糸状菌はTrichoderma属であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記培養上清は、海洋性糸状菌を水、0.1重量%〜4.0重量%のC源、及び0.1重量%〜2.0重量%のN源を含みNaCl濃度を0.05重量%以下となる培地で20℃〜30℃の温度で一定期間培養した培養液から前記海洋性糸状菌を分離除去した培養上清であることを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記培養上清は、同上清を1000倍希釈した液のチロシナーゼ酵素阻害活性
(units/ml)が、70,000以上であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記培養上清を用いて生鮮食料を処理する工程は、前記培養上清を含む液体を対象となる生鮮食料に噴霧する手段、若しくは前記培養液中に対象となる生鮮食料を浸す手段から選択される請求項1乃至4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記生鮮食料の変色を抑制する方法は、捕獲後の魚介類を冷凍保存することにより、魚介類が黒色若しくは褐色への変色を抑制することを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれかに記載の方法により生鮮食料の変色が抑制されたことを特徴とする生鮮食料。
【請求項8】
海洋性糸状菌を水、0.1重量%〜4.0重量%のC源、及び0.1重量%〜2.0重量%のN源を含みNaCl濃度を0.05重量%以下となる培地で20℃〜30℃の温度で一定期間培養した培養液から前記海洋性糸状菌を分離除去した培養上清の成分を含む生鮮食料変色抑制剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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