説明

産業用流体、農業用流体、または家庭用流体の製造に使用される、水素化脱ろうされた炭化水素系流体

【課題】低粘度、低毒性、低揮発性、優れた低温特性、および高い溶解力を有し、硫黄分や芳香族分が小さく、かつ、高い初留点を有する炭化水素系流体、炭化水素系流体組成物、およびそれらの使用を提供する。
【解決手段】本発明の炭化水素系流体は、産業製品用組成物、および農業製品用または家庭製品用の組成物に配合可能な炭化水素系流体であり、水素化脱ろうされた軽油留分の蒸留によって得られる沸点200℃超の炭化水素混合物で構成され、イソパラフィン類を50重量%超と、ナフテン類を40重量%以下とを含み、ASTM D97規格に準拠した流動点が−15℃未満であり、かつ、初留点および終点が200〜450℃である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、産業用流体、農業用流体、および家庭用流体の組成物に配合可能な水素化脱ろうされた炭化水素系流体(fluid)に関する。これらの流体には、掘削用流体、産業(自動車産業も含む)用潤滑剤や作動油、植物保護製品、インキ、家庭用燃料、シーラント用の伸展油、樹脂系処方物用の粘度降下剤、医薬組成物、食品接触組成物などが含まれる。
【背景技術】
【0002】
当業者にとって周知の流体は、想定される用途によって、化学的性状および組成が極めて大きく異なる。すなわち、これらの流体が種々の用途に順応するための重要な特性として、ASTM D86規格またはASTM D1160規格(所望の最終的な沸点を365℃未満と365℃超のどちらに選択するかで異なる)に準拠して測定される蒸留範囲、流動点、粘度、密度、硫黄分や芳香族分、密度、ASTM D611規格に準拠して測定されるアニリン点、当該炭化水素化合物の製造方法(特に、分留原料の性状)、引火点などが挙げられる。
【0003】
多くの場合、これらの炭化水素系流体の初留点(IBP)と終点(FBP)との間の沸点範囲は狭く設定される。各範囲は、想定される用途に応じて選択される。カット温度範囲を狭く取ることにより、安全性の理由からみて重要なパラメータである、正確な燃焼点および/または引火点が得られる。また、カット温度範囲を狭く取ることにより、より明確な粘度、粘度安定性の向上、および所定時間の乾燥段階を要する用途に適した気化特性を得ることができる。さらには、カット温度範囲を狭く取ることにより、より明確な表面張力、より正確なアニリン点、およびより正確な溶解力を備えた炭化水素カット分(留分)の製造が容易になる。しかしながら、これらは必ずしも必要な要件ではなく、その他の特性が優先される場合もある。
【0004】
典型的な精製工程は、水素化脱硫過程および/または水添過程からなる。これらの過程により、硫黄分を減少したり、芳香族炭化水素化合物および/または不飽和環をナフテンに変換して除去したりする。このようにして精製された炭化水素系流体は、ほとんどが脂肪族化合物であり、パラフィン類、イソパラフィン類およびナフテン類を含む。脱芳香族化された流体が必要な場合には、水素化脱硫を経て分留生成された炭化水素系生成物を水添処理することにより、残り全ての芳香族炭化水素化合物を飽和化することができる。この水添処理は、分留処理に先立って実行されてもよい。
【0005】
原則的に、今日のユーザは、環境に対する影響および安全条件を考慮に入れており、低濃度の芳香族炭化水素化合物、極めて少ない硫黄分、および高い初留点を有する炭化水素系流体を望んでいる。
【0006】
大気圧下の直留で得られた軽油(ガスオイル)をまず最初に水素化処理する方法では、終点(FBP)が320℃の留分を得ることができる。これよりも高い終点、例えば、350℃超の終点を実現しようとすると、硫黄分および芳香族分を多く有する留分が生成され易くなる。炭化水素混合物中のこれらのような化合物は、水添触媒に有害な影響を及ぼし、その寿命を短縮させる。また、製品の硫黄分をなおいっそう減少させるために、追加の水添処理が必要となる場合がある。そのため、上記のような留分の処理は、特に、水素の消費量を大幅に増加させることによって水添法コストに悪影響を及ぼしたり、触媒を短期間で不活性化させることによって触媒交換コストに悪影響を及ぼしたりする。
【0007】
なお、上述したような炭化水素系流体は、高粘度性と、優れた低温特性(すなわち、極めて低い凝固点、例えば、−20℃未満)と、高い溶解力(特に、樹脂の溶解を要する印刷用インキ用途や、掘削用流体組成物中の粘質化合物または固体化合物としての用途など)との間で、上手に譲歩する必要とする。また、これらの炭化水素系流体は、シリコーン系シーラント製造用の伸展油に使用される場合にはシリコーン系ポリマーとの優れた相溶性が必要であり、ポリ塩化ビニル(PVC)ペーストまたはプラスチゾルの製造に使用される場合にはPVCなどの特定のポリマーの粘度を低下させる能力が必要となる。
【0008】
周知のとおり、これらの流体は、真空蒸留に由来する化合物から得ることができ、特には、真空軽油または水蒸気分解軽油から得ることができる。このような真空軽油または水蒸気分解軽油には、他の工程、例えば、特許文献1に記載されているような接触分解と水添(水素化脱硫、水素化脱芳香族)との組合せの処理、特許文献2および特許文献3に記載されているような水蒸気分解と水添との組合せの処理が施されてもよい。これらの文献では、水蒸気分解法または接触分解法によって200〜450℃の留分中に芳香族化合物(特に、多環式芳香族化合物)を濃縮させて水添処理することにより、それらの芳香族化合物をナフテン、詳細には、高度に濃縮された多環ナフテンに変換する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】欧州特許出願公開第1447437号明細書
【特許文献2】国際公開第03/074634号パンフレット
【特許文献3】国際公開第03/074635号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
それでもなお、低毒性、低揮発性、および低粘度の新規の流体に対する根強い需要を受けて、当業者達は、そのような流体の製造に用いる新規の基剤の開発に力を注いだ。
【0011】
なお、所望の炭化水素系流体が特定の純度規格を満足するものでなければならない点に留意されたい。例えば、ASTM D5453規格で測定される硫黄分は、10ppm以下、好ましくは5ppm以下、場合によっては1ppm以下が望ましいとされる。通常、炭化水素系流体は、終点が320℃超の留分で構成され、かつ、芳香族炭化水素化合物の濃度が低いものでなければならない。
【課題を解決するための手段】
【0012】
出願人は、炭化水素系流体用に多種多様な基剤を提供するために、所与の精製ユニットに由来する様々な種類の軽油留分を別の水素化脱ろうユニットで処理し、このようにして得られた炭化水素留分をさらに蒸留することを選択した。これにより、種々の適切なカット温度範囲を有する水素化脱ろうされた流体を製造することができる。任意で、これらの処理に先立って、当該流体に硫黄および芳香族炭化水素化合物を除去するための精製処理を施してもよい。以降、上記のような炭化水素系流体のことを、蒸留・脱パラフィン処理済み炭化水素流体、あるいは、より簡略的に、水素化脱ろうされた流体と称する。
【0013】
以上を踏まえて、本発明の一主題は、産業製品用組成物、および農業製品用または家庭製品用の組成物に配合可能な炭化水素系流体である。この炭化水素系流体は、水素化脱ろうされた軽油留分の蒸留によって得られる沸点200℃超の炭化水素混合物で構成され、イソパラフィン類を50重量%超と、ナフテン類を40重量%以下とを含み、ASTM D97規格に準拠した流動点が−15℃未満であり、かつ、初留点および終点が200〜450℃である。
【0014】
本発明は、さらに、沸点が280〜450℃、あるいは、200〜325℃である炭化水素系流体に関する。
【0015】
好ましくは、各流体の、ASTM D97規格に準拠した流動点は、−30℃未満である。
【0016】
好ましくは、硫黄分は10ppm未満、より好ましくは2ppm未満である。
【0017】
好ましくは、各流体は、紫外線分光法によって測定される芳香族分が500ppm未満である。
【0018】
好ましくは、前記炭化水素系流体は、常圧蒸留、真空蒸留、水素化処理、水素化分解、接触分解、およびビスブレーキング法のうちの少なくとも1つによって得られる軽油系留分混合物の水素化脱ろうに由来するか、あるいは、バイオマス変換由来の生成物に由来し、任意で、それらよりも先に脱硫および/または追加の脱芳香族処理が施されている。
【0019】
好ましくは、ナフテン類の含有量は20〜40%であり、イソパラフィン類の含有量は60%超である。
【0020】
好ましくは、イソパラフィン類の含有量は60重量%超であり、n−パラフィン(ノルマルパラフィン)類の含有量は10%未満である。
【0021】
第1の実施形態において、流体の沸点は280〜450℃であり、かつ、ASTM D445規格に準拠した40℃での粘度が、5mm/s超、好ましくは7mm/s超である。
【0022】
好ましくは、前記流体は、炭素数16〜22の鎖長の炭化水素化合物の含有量が65重量%未満であり、炭素数22を超える鎖長の炭化水素化合物の含有量が30重量%超であり、より好ましくは、前記炭素数22を超える鎖長の炭化水素化合物の鎖長がC22〜C30である。
【0023】
好ましくは、各流体は、炭素数16〜22の鎖長の炭化水素化合物の含有量が50重量%未満であり、炭素数22を超える鎖長の炭化水素化合物の含有量が40重量%超であり、より好ましくは、前記炭素数22を超える鎖長の炭化水素化合物の鎖長がC22〜C30である。さらに好ましくは、前記流体にはn−パラフィン類が含まれていない。
【0024】
第2の実施形態において、流体の沸点は200〜325℃であり、かつ、ASTM D445規格に準拠した40℃での粘度が3.5mm/s未満であり、かつ、炭素数22を超える炭素鎖を有する炭化水素化合物が含まれていない。
【0025】
本発明は、さらに、水素化脱ろうされた流体と水素化脱ろうされていない流体との混合物を含む、炭化水素系流体組成物に関する。
【0026】
好ましくは、前記水素化脱ろうされていない流体は、200〜400℃のカット温度を有しカット温度範囲が70℃以内である水素化分解および水素化処理された留分に由来し、かつ、ナフテン類の含有量が40重量%超である。
【0027】
前記水素化脱ろうされていない流体は、200〜350℃のカット温度の蒸留留分に由来する高度に水素化処理された軽油に由来する、硫黄分が10ppm未満の流体であってもよい。
【0028】
本発明にかかる炭化水素系流体組成物は、水素化脱ろうされた流体を少なくとも40重量%含む。
【0029】
本発明は、さらに、少なくとも1種の水素化脱ろうされた流体単独の使用、または炭化水素系流体組成物中の混合物の形態の使用であって、産業製品用組成物、および農業製品用または家庭製品用の組成物に含まれる溶剤としての使用に関する。
【0030】
本発明は、さらに、少なくとも1種の水素化脱ろうされた流体の使用、または炭化水素系流体組成物の使用であって、前記水素化脱ろうされた流体または炭化水素系流体組成物は沸点200〜350℃の留分に由来する、泥水組成物に含まれる掘削用流体(drilling fluid included in the composition of muds)としての使用に関する。
【0031】
本発明は、さらに、少なくとも1種の水素化脱ろうされた流体の使用、または炭化水素系流体組成物の使用であって、前記水素化脱ろうされた流体または炭化水素系流体組成物は沸点300〜450℃の留分に由来する、植物保護製品組成物(composition of phytosanitary products)に含まれる成分としての使用に関する。
【0032】
本発明は、さらに、少なくとも1種の水素化脱ろうされた流体の使用、または炭化水素系流体組成物の使用であって、前記水素化脱ろうされた流体または炭化水素系流体組成物は沸点280〜450℃の留分、特には、沸点290〜380℃の留分に由来する、金属加工油としての使用に関する。
【0033】
本発明は、さらに、少なくとも1種の水素化脱ろうされた流体の使用、または炭化水素系流体組成物の使用であって、前記水素化脱ろうされた流体または炭化水素系流体組成物は沸点280〜400℃の留分に由来し、かつ、最終的な処方物に対して前記水素化脱ろうされた流体または炭化水素系流体組成物が5〜95%含まれる、樹脂および/またはポリマーの溶剤としての使用に関する。
【0034】
本発明は、さらに、少なくとも1種の水素化脱ろうされた流体の使用、または炭化水素系流体組成物の使用であって、前記水素化脱ろうされた流体または炭化水素系流体組成物は沸点280〜380℃の留分、特には、沸点300〜350℃の留分に由来する、シリコーン系シーラントまたはシリコーン系接着剤の組成物に含まれる成分としての使用に関する。
【0035】
本発明は、さらに、少なくとも1種の水素化脱ろうされた流体の使用、または炭化水素系流体組成物の使用であって、前記水素化脱ろうされた流体または炭化水素系流体組成物は沸点290〜400℃の留分、特には、沸点330〜380℃の留分に由来する、ポリマー系処方物に含まれる成分、特には、建築材料製造用PVC(プラスチゾルと称される)に含まれる成分としての使用に関する。
【0036】
本発明は、さらに、少なくとも1種の水素化脱ろうされた流体の使用、または炭化水素系流体組成物の使用であって、前記水素化脱ろうされた流体または炭化水素系流体組成物は沸点290〜380℃の留分に由来する、高度に酸化された瀝青化合物が混ざったオフセットインキ組成物に含まれる成分としての使用に関する。
【0037】
本発明は、さらに、少なくとも1種の水素化脱ろうされた流体の使用、または炭化水素系流体組成物の使用であって、前記水素化脱ろうされた流体または炭化水素系流体組成物は沸点280〜400℃の留分に由来する、家庭用燃料組成物に含まれる成分としての使用に関する。
【発明を実施するための形態】
【0038】
本発明にかかる水素化脱ろうされた炭化水素系流体は、産業製品用、農業製品用および家庭製品用の組成物に配合可能な炭化水素系流体である。この炭化水素系流体は、ASTM D97規格に準拠した流動点が−15℃未満であり、かつ、初留点および終点が200〜450℃である。この炭化水素系流体は、イソパラフィン類50重量%超と、ナフテン類40重量%以下とを含む。また、この炭化水素系流体は、水素化脱ろうされた軽油留分の蒸留によって得られる沸点200℃超の炭化水素混合物で構成される。
【0039】
産業製品とは、掘削用流体、産業(自動車産業も含む)用潤滑剤や作動油、インキ、シーラント用の伸展油、樹脂系処方物用の粘度降下剤などのことを指す。
【0040】
農業製品および家庭製品とは、医薬組成物、植物保護製品、家庭用燃料、食品接触組成物(food-contact compositions)などのことを指す。
【0041】
好ましくは、前記流体は、カット温度が280〜450℃、あるいは、200〜325℃である留分に由来する水素化脱ろうされた炭化水素化合物から実質的に構成される。
【0042】
好ましくは、前記流体は、ASTM D97規格に準拠した流動点が−30℃未満である。
【0043】
好ましくは、本発明にかかる流体は、硫黄分が10ppm未満、より好ましくは2ppm未満であり、また、紫外線分光法によって測定される芳香族分が500ppm未満である。
【0044】
好ましくは、前記炭化水素系流体は、常圧蒸留、真空蒸留、水素化処理、水素化分解、接触分解、およびビスブレーキング法のうちの少なくとも1つによって得られる軽油系留分混合物の水素化脱ろうによって得られるか、あるいは、バイオマス変換に由来する生成物によって得られ、任意で、要求される硫黄分および芳香族分の特性を満足するために、それらよりも先に脱硫および/または芳香族除去の追加の処理が施されてもよく、これにより、当該流体の純度を高めることができる。
【0045】
好ましくは、使用される流体は、ナフテン類の含有量が40重量%未満であり、かつ、イソパラフィン類の含有量が60重量%超となり得る点で、水素化分解された流体と異なる。典型的には、ナフテン類の平均的な含有量は20〜40重量%である。
【0046】
好ましくは、本発明にかかる流体は、イソパラフィン類の含有量が65重量%超であり、n−パラフィン類の含有量が10%未満である。
【0047】
特には、本発明にかかる流体は、沸点が280〜450℃であり、かつ、ASTM D445規格に準拠した40℃での粘度が、5mm/s超、好ましくは7mm/s超である。
【0048】
また、好ましくは、前記流体は炭素数16〜22の鎖長の炭化水素化合物の含有量が65重量%未満であり、炭素数22を超える鎖長の炭化水素化合物の含有量が30重量%超である。また、好ましくは、前記流体は炭素数16〜22の鎖長の炭化水素化合物の含有量が50重量%未満であり、炭素数22を超える鎖長の炭化水素化合物の含有量が40重量%超である。この好ましい実施形態において、前記流体にはn−パラフィン類が実質的に含まれていないのが望ましい。
【0049】
本発明にかかる沸点が200〜325℃である流体は、ASTM D445規格に準拠した40℃での粘度が3.5mm/s未満であり、かつ、炭素数22を超える炭素鎖を有する炭化水素化合物が含まれていない点で、沸点が280〜450℃である流体と異なる。
【0050】
従来の流体とは違い、狭いカット温度範囲の蒸留留分を目的とはしておらず、むしろ、高粘度性と極めて低い流動点との間で上手く譲歩した(バランスを取った)留分を目的としている。特に好ましい場合には、そのような留分は、流動点が常に−30℃未満なので、低温域での使用に有利となる。このような特性を有する留分は、保管温度および利用温度が極めて低くなる用途にも大いに適している。
【0051】
本発明の他の実施形態は、水素化脱ろうされた流体の、水素化脱ろうされていない流体との混合流体の組成物に含まれる成分としての使用であり、前記水素化脱ろうされていない流体は、200〜400℃のカット温度を有しカット温度範囲が70℃以内である蒸留留分に由来し、かつ、ナフテン類の含有量が一般的に40重量%超であり、前記水素化脱ろうされた流体との混合を目的としている。
【0052】
好ましくは、前記水素化脱ろうされていない流体は、200〜400℃のカット温度を有しカット温度範囲が70℃以内である蒸留留分の水蒸気分解および水素化処理によって得られ、かつ、ナフテン類の含有量が40重量%超、より好ましくは60重量%超である。
【0053】
前記水素化脱ろうされた流体と混合可能であり、かつ、既述したものと同じ用途に使用可能な他の流体として、200〜350℃のカット温度を有する蒸留留分に由来し、硫黄分が10ppm未満で芳香族分が0.1%未満である、高度に水素化処理された軽油混合物で構成された流体が挙げられる。
【0054】
既述の炭化水素系流体は、化石系炭化水素からの精製物に由来するものであってもよいし、あるいは、植物由来または動物由来の炭化水素化合物を分留および精製処理し、化石由来の炭化水素化合物から得られる流体の蒸留範囲およびカット温度と合致するようにしたものであってもよい。
【0055】
既述のような炭化水素系流体、または当該炭化水素系流体を含む組成物は、掘削用流体、産業用潤滑剤(作動油も含む)、金属加工油、植物保護製品(特に、一部の作物の病気を防除するための製品)、インキ、オイルランプやガーデントーチに使用される無色または有色の香り付きオイルまたは無香オイルなどの処方物に含まれる成分、バーベキューなどの家庭用装置の燃料用の処方物に含まれる成分、シーラント(例えば、シリコーン系シーラント)の組成物に含まれる伸展油、そして、ポリ塩化ビニル(PVC)処方物に含まれる粘度降下剤として使用することができる。
【0056】
例えば、200〜325℃のカット温度を有する蒸留留分に由来する水素化脱ろうされた炭化水素系流体または炭化水素系流体組成物は、掘削用流体組成物に含まれる成分として使用することができる。このような炭化水素系流体または炭化水素系流体組成物は、オイルエマルション/水相で構成される掘削用泥水中において、その用途に特化した様々な種類の添加剤が添加される有機相を構成する。
【0057】
掘削用流体は、オフショアまたはオンショアでの使用に関係なく、許容可能な程度の生分解性、許容可能な程度の生体毒性、および低い生物濃縮性を有するものでなければならない。これらの用途に使用される一般的な流体は、40℃での粘度が3.5mm/s未満、100℃を超える引火点、および「サーモフロスト(thermofrost)」用として−40℃以下の流動点を有する必要がある。従来では、そのような特性は、水添ポリαオレフィン、不飽和内部オレフィン、直鎖αオレフィン、およびエステル類などの高価な合成流体を使用することでしか得られなかった。
【0058】
例えば、280℃〜450℃及び450℃超のカット温度を有する蒸留留分に由来する水素化脱ろうされた炭化水素系流体または炭化水素系流体組成物は、植物保護製品の組成物に含まれる成分、特には、果樹や作物農場に対するスプレー(吹付け)処理を可能にするキャリア溶媒(solvent vector)として使用することができる。
【0059】
例えば、280℃〜450℃のカット温度、好ましくは290〜380℃のカット温度を有する蒸留留分に由来する水素化脱ろうされた炭化水素系流体または炭化水素系流体組成物は、そのカット温度範囲の幅に関係なく、金属加工油として使用することができる。本発明の範囲には、さらに、本発明にかかるこれらの炭化水素系流体の、産業用軽等級潤滑油(light-grade industrial lubricant)(作動油、ギアオイル、タービンオイル)、自動車用潤滑油(ギアボックスオイル、ショックアブソーバオイルなど)としての使用も包含される。
【0060】
例えば、280℃〜400℃のカット温度を有する蒸留留分に由来する炭化水素系流体または炭化水素系流体組成物は、当該流体が最終的な処方物中に5〜95重量%含まれるようにして、樹脂および/またはポリマーの溶剤として使用することができる。流体または流体組成物は、特に、その溶解力により、次に述べるような樹脂の粘度を低下させたり、溶解するのに使用することができる:a)熱可塑性アクリル樹脂;b)熱硬化性アクリル樹脂;c)塩化ゴム;d)エポキシ樹脂(一液性または二液性);e)炭化水素系樹脂(例えば、オレフィン系樹脂、テルペン系樹脂、ロジンエステル、石油樹脂、クマロン−インデン、スチレンブタジエン、スチレン系樹脂、メチルスチレン系樹脂、ビニルトルエン系樹脂、ポリクロロブタジエン、ポリアミド、ポリ塩化ビニル、イソブチレン系樹脂など);f)フェノール系樹脂;g)ポリエステルおよびアルキド系樹脂;h)ポリウレタン;i)シリコーン系樹脂;j)ウレア系樹脂;およびk)ビニル系ポリマーおよびポリ酢酸ビニル系のポリマー。
【0061】
例えば、有利なことに、280℃〜380℃のカット温度、好ましくは300〜350℃のカット温度を有する蒸留留分に由来する炭化水素系流体または炭化水素系流体組成物は、シリコーン系シーラントまたはシリコーン系接着剤の組成物、耐低温特性を有する製品に含まれる成分として使用することができる。
【0062】
また、例えば、290℃〜400℃のカット温度、好ましくは330〜380℃のカット温度を有する蒸留留分に由来する炭化水素系流体または炭化水素系流体組成物は、ポリマー系処方物に含まれる成分として、特には、建築材料または装飾材料(例えば、床材、シーラント、合成皮革、壁紙、ワイヤの被覆物、布帛(ブラインド、帆、ターポリンなど)のコーティングなど)製造用のPVC(プラスチゾルと称される)に含まれる成分として使用することができる。
【0063】
例えば、290℃〜380℃のカット温度を有する蒸留留分に由来する炭化水素系流体または炭化水素系流体組成物は、高度に酸化された極めて硬質な瀝青化合物が混ざった、いわゆる「コールドセット型」新聞用紙オフセットインキ組成物の成分に極めて有用であり、好ましくは、最終的な処方物には、前記瀝青化合物が45%超および前記流体が40%超含まれる。
【0064】
既述の炭化水素系流体は、それ単独で、オイルランプやガーデントーチ用などの家庭用燃料として使用可能であり、あるいは、他の化合物との混合物の形態で、バーベキュー着火用の液体、ジェル、またはブリケットとして使用可能である。
【0065】
後者の用途には、例えば、280℃〜380℃のカット温度範囲の蒸留留分に由来する少なくとも1種の炭化水素系流体と、引火点が100℃未満である少なくとも1種の炭化水素系流体との混合物であって、ASTM D445規格に準拠した粘度が7mm/s超である混合物が使用可能である。このような混合物は、そのまま使用されるか、あるいは、家庭用の燃料基剤として使用される。また、このような混合物は、リスクフレーズR65(有害性:飲み込むと肺損傷を引き起こすおそれがある)の表示を回避可能な特性を有する。
【0066】
本発明の利点を、以下の実施例を用いて説明する。なお、以下の実施例は例示に過ぎず、本発明を限定するものではない。
【実施例】
【0067】
(実施例1)
この実施例では、本発明において使用可能な水素化脱ろうされた様々な種類の流体について、それ単独での特性、あるいは、従来の流体との混合物の形態での特性を説明する。
【0068】
以下の表1に、本発明にかかる使用可能な水素化脱ろうされた流体Diと従来の流体Ti(前者の本発明にかかる流体との混合物の形態で使用可能である)とを示す。表1には、各流体が持つ固有の特性を述べた。これら各流体は、植物保護用途(D4)、掘削用途(D5)、シーラント用途(D6)などに使用可能である。
【0069】
【表1】

【0070】
(実施例2)
この実施例では、異性化脱ろうされた流体Di単独によって得られる製品の特性、および従来の流体Tiとの混合物によって得られる製品の特性を示す。
【0071】
[オイルランプ用の燃料組成物]
D2(84.4%)とT3(15.6%)とを混合することにより、オイルランプ用の燃料として使用可能、あるいは、ジェルまたは固形ブロックの形態のバーベキュー用着火剤を製造するための基剤として使用可能な、40℃での動粘度が7.2mm/sの製品を調製する。
【0072】
この混合物は、40℃での動粘度が7mm/sを超えているので、リスクフレーズR65の表示を回避することができる。
【0073】
[コールドセット型インキ用のインキ組成物]
D1(42%)と、タイプB1の酸化瀝青(以下の表2に特性を示す)(54%)と、タイプH1の重質芳香族系油とを混合して得た溶液を、コールドセット型新聞用紙ブラックインキ用の処方物に用いる。以下の表3に、調製されたインキ用の瀝青溶液(SB1)の特性と、同じ用途で一般的に使用されるナフテン系油を基剤とした参照製品(Ri)の特性との比較を示す。
【0074】
【表2】

【0075】
【表3】

【0076】
[金属加工油組成物]
この組成物を調製するにあたって、潤滑剤83%に、耐摩耗剤のZnDTPと、スルフィド系硫化化合物と、スルホン酸カルシウム系の極圧剤と、スルホン酸カルシウム系の過塩基性洗浄剤と、粘着剤と、銅腐食防止剤と、消泡剤との混合物からなる高性能パッケージ添加剤を7%配合する。以下の表4に、性能の結果を示す。なお、粘度は、特定のグレードに較正していない。D1およびD3は、パラフィン系油やナフテン系油に比べて、良好な耐摩耗性、良好な極圧性能、および低発泡性を示す。
【0077】
【表4】

【0078】
[シリコーン系シーラント組成物]
この実施例では、本発明にかかる希釈剤の、シリコーン系シーラント、特には、シリコーン系シーラントRTV−1(1成分室温加硫)における使用について説明する。
【0079】
以下の表に、この種のシーラントの典型的な組成(重量%)を示す:
【0080】
【表5】

【0081】
上記の組成において、ポリマー:可塑剤の比は1.5:1であり、炭化水素系溶剤(HC%)+シリコーン系油(適量)の合計は34.1重量%である。
【0082】
以下の表5では、炭化水素系溶剤の量を10から20重量%と変化させている。シーラントを吸収紙に帯状に塗布し、そして架橋したシーラントを1週間のあいだ低温(5℃)で保管した後、吸収紙、特に、帯状のシーラントの周辺を観察し、「染み」の有無を確認する。このような「染み」は、炭化水素系溶剤のブリード、すなわち、ポリマーとの乏しい相溶性に起因するものである。
【0083】
【表6】

【0084】
上記の試験を、炭化水素系溶剤の量を20重量%とし、温度−18℃の条件下で再度実行する。以下の表6に、その結果を示す:
【0085】
【表7】

【0086】
本発明にかかる流体D6およびD7(流動点はそれぞれ−48℃、−20℃)と従来の流体T4(流動点は2℃)とを比較すると、明らかに、炭化水素系溶剤D6およびD7は従来の流体T4よりもブリードが少ない。これは、炭化水素系溶剤D6およびD7の、ポリマーとの相溶性が優れていることを表している。なお、これら三種類の流体D6,D7,T4は、いずれも同様の蒸留温度範囲および40℃での粘度を有する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
産業製品用組成物、および農業製品用または家庭製品用の組成物に配合可能な炭化水素系流体であって、
水素化脱ろうされた軽油留分の蒸留によって得られる沸点200℃超の炭化水素混合物で構成され、
イソパラフィン類を50重量%超と、
ナフテン類を40重量%以下と、を含み、
ASTM D97規格に準拠した流動点が−15℃未満であり、かつ、初留点および終点が200〜450℃である、炭化水素系流体。
【請求項2】
請求項1において、沸点が280〜450℃、あるいは、200〜325℃であることを特徴とする、炭化水素系流体。
【請求項3】
請求項1または2において、ASTM D97規格に準拠した流動点が−30℃未満であることを特徴とする、炭化水素系流体。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項において、硫黄分が10ppm未満、好ましくは2ppm未満であることを特徴とする、炭化水素系流体。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項において、紫外線分光法によって測定される芳香族分が500ppm未満であることを特徴とする、炭化水素系流体。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項において、常圧蒸留、真空蒸留、水素化処理、水素化分解、接触分解、およびビスブレーキング法のうちの少なくとも1つによって得られる軽油系留分混合物の水素化脱ろうに由来するか、あるいは、バイオマス変換生成物に由来し、任意で、それらよりも先に脱硫および/または芳香族除去の処理が施されていることを特徴とする、炭化水素系流体。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項において、ナフテン類の含有量が20〜40重量%であり、イソパラフィン類の含有量が60重量%超であることを特徴とする、炭化水素系流体。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか一項において、イソパラフィン類の含有量が60重量%超であり、n−パラフィン類の含有量が10重量%未満であることを特徴とする、炭化水素系流体。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか一項において、沸点が280〜450℃であり、かつ、ASTM D445規格に準拠した40℃での粘度が、5mm/s超、好ましくは7mm/s超であることを特徴とする、炭化水素系流体。
【請求項10】
請求項9において、炭素数16〜22の鎖長の炭化水素化合物の含有量が65重量%未満であり、炭素数22を超える鎖長の炭化水素化合物、好ましくはC22〜C30である炭化水素化合物の含有量が30重量%超であり、沸点が280〜450℃の流体であることを特徴とする、炭化水素系流体。
【請求項11】
請求項9または10において、炭素数16〜22の鎖長の炭化水素化合物の含有量が50重量%未満であり、炭素数22を超える鎖長の炭化水素化合物の含有量、好ましくはC22〜C30である炭化水素化合物の含有量が40重量%超であることを特徴とする、炭化水素系流体。
【請求項12】
請求項9から11のいずれか一項において、n−パラフィン類が含まれていないことを特徴とする、炭化水素系流体。
【請求項13】
請求項1から8のいずれか一項において、沸点が200〜325℃であり、ASTM D445規格に準拠した40℃での粘度が3.5mm/s未満であり、かつ、炭素数22を超える炭素鎖を有する炭化水素化合物が含まれていないことを特徴とする、炭化水素系流体。
【請求項14】
請求項1から13のいずれか一項に記載の炭化水素系流体と、
水素化脱ろうされていない流体と、
を含む、炭化水素系流体組成物。
【請求項15】
請求項1から14のいずれか一項において、水素化脱ろうされていない炭化水素が、200〜400℃のカット温度を有しカット温度範囲が70℃以内である水素化分解または水素化処理された留分に由来し、かつ、ナフテン類の含有量が40重量%超の炭化水素であり、および/または200〜350℃のカット温度の蒸留留分に由来する高度に水素化処理された軽油に由来し、かつ、硫黄分が10ppm未満の炭化水素化合物であることを特徴とする、炭化水素系流体組成物。
【請求項16】
請求項14または15において、請求項1から13のいずれか一項に記載の炭化水素系流体を少なくとも40重量%含む、炭化水素系流体組成物。
【請求項17】
請求項1から13のいずれか一項に記載の少なくとも1種の炭化水素系流体単独の使用、または請求項14から16のいずれか一項に記載の炭化水素系流体組成物中の混合物の形態の使用であって、産業製品用組成物、および農業製品用または家庭製品用の組成物に含まれる溶剤としての使用。
【請求項18】
請求項1から8および13から17のいずれか一項に記載の少なくとも1種の炭化水素系流体の使用、または炭化水素系流体組成物の使用であって、前記炭化水素系流体または炭化水素系流体組成物は沸点200〜350℃の留分に由来する、掘削用流体としての使用、または掘削用泥水組成物に含まれる成分としての使用。
【請求項19】
請求項1から12および14から17のいずれか一項に記載の少なくとも1種の炭化水素系流体の使用、または炭化水素系流体組成物の使用であって、前記炭化水素系流体または炭化水素系流体組成物は沸点300〜450℃の留分に由来する、植物保護製品組成物に含まれる成分としての使用。
【請求項20】
請求項1から12および14から17のいずれか一項に記載の少なくとも1種の炭化水素系流体の使用、または炭化水素系流体組成物の使用であって、前記炭化水素系流体または炭化水素系流体組成物は沸点280〜450℃の留分、特には、沸点290〜380℃の留分に由来する、金属加工油としての使用。
【請求項21】
請求項1から12および14から17のいずれか一項に記載の少なくとも1種の炭化水素系流体の使用、または炭化水素系流体組成物の使用であって、前記炭化水素系流体または炭化水素系流体組成物は沸点280〜400℃の留分に由来し、かつ、最終的な処方物に対して前記炭化水素系流体または炭化水素系流体組成物は5〜95重量%含まれる、樹脂および/またはポリマーの溶剤としての使用。
【請求項22】
請求項1から12および14から17のいずれか一項に記載の少なくとも1種の炭化水素系流体の使用、または炭化水素系流体組成物の使用であって、前記炭化水素系流体または炭化水素系流体組成物は沸点280〜380℃の留分、特には、沸点300〜350℃の留分に由来する、シリコーン系マスチックまたはシリコーン系接着剤の組成物に含まれる成分としての使用。
【請求項23】
請求項1から12および14から17のいずれか一項に記載の少なくとも1種の炭化水素系流体の使用、または炭化水素系流体組成物の使用であって、前記炭化水素系流体または炭化水素系流体組成物は沸点290〜400℃の留分、特には、沸点330〜380℃の留分に由来する、建築材料製造用ポリマー系処方物に含まれる成分、特には、建築材料製造用PVC(プラスチゾルと称される)に含まれる成分としての使用。
【請求項24】
請求項1から12および14から17のいずれか一項に記載の少なくとも1種の炭化水素系流体の使用、または炭化水素系流体組成物の使用であって、前記炭化水素系流体または炭化水素系流体組成物は沸点290〜380℃の留分に由来する、高度に酸化された瀝青化合物が混ざったオフセットインキ組成物に含まれる成分としての使用。
【請求項25】
請求項1から12および14から17のいずれか一項に記載の少なくとも1種の炭化水素系流体の使用、または炭化水素系流体組成物の使用であって、前記炭化水素系流体または炭化水素系流体組成物は沸点280〜400℃の留分に由来する、家庭用燃料組成物に含まれる成分としての使用。

【公表番号】特表2012−520370(P2012−520370A)
【公表日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−553498(P2011−553498)
【出願日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際出願番号】PCT/FR2010/050426
【国際公開番号】WO2010/103245
【国際公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【出願人】(505036674)トータル・ラフィナージュ・マーケティング (39)
【Fターム(参考)】