説明

産業用車両における油圧駆動装置

【課題】操作レバーの操作感度を調節し得る産業用車両における油圧駆動装置を提供する。
【解決手段】油圧ポンプの制御軸を操作するための操作レバーを中立位置に保持する中立保持具18を有し、この中立保持具18を、保持板21と押え板23との間に圧縮ばね体24が配置された棒状部材22と、棒状部材22の他端側に螺合されて押え板23を移動させて圧縮ばね体24の付勢力を調節するナット部材25と、棒状部材22を、保持板21を介して保持する第1筒状部材27と、この第1筒状部材27の開口部に螺合・挿入されて押え板に当接して、第1筒状部材27内での棒状部材22の自由移動を規制する第2筒状部材28とから構成することにより、上記圧縮ばね体24の付勢力を調節し得るようにしたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、産業用車両における油圧駆動装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
産業用車両、例えばスキッドステアローダにおいては、駆動力として油圧が用いられるとともに、左右の走行用タイヤはそれぞれ別個の油圧ポンプにて駆動されている。例えば、タンデム型可変ポンプが用いられている。
【0003】
このタンデム型可変ポンプを用いた油圧駆動装置について説明すると、図5および図6に示すように、エンジンEにより駆動される2台の油圧ポンプ51と、これら各油圧ポンプ51の制御軸52を回転(回動)させて、油圧の吐出量および吐出方向を制御してスキッドステアローダの走行を制御する操作機構53とが具備されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
そして、この操作機構53は各油圧ポンプ51に対してそれぞれ設けられており、両方とも同じ機構であるため、以下、一方の操作機構53について説明する。
この従来に係る操作機構53は、操作レバー61が操作された場合、その動きが連結ロッド62およびレバー部材63を介して一方の油圧ポンプ51(51A)の制御軸52を回転させるようにしたものであり、さらに操作レバー61の中立位置(所謂、停止位置)に戻すための中立保持具64が具備されている。
【0005】
この中立保持具64は、U型スプリングホルダ71と、この内部に配置された板状スプリングホルダ72と、U型スプリングホルダ71の一側部に固定された固定ロッド73と、一端部が板状スプリングホルダ72に固定され且つ他端部がU型スプリングホルダ71の他側部を貫通されるとともに他方の油圧ポンプ51(51B)の制御軸52の突出端部に保持された可動ロッド74と、板状スプリングホルダ72とU型スプリングホルダ71の一側部との間で可動ロッド74に遊嵌されたコイル状スプリング75とから構成されている。
【0006】
すなわち、操作レバー61によりレバー部材63が矢印方向bに揺動されると、スプリング75の引張力に抗してU型スプリングホルダ71は矢印方向cに移動し、また逆に、操作レバー61によりレバー部材63が矢印方向dに揺動されると、スプリング75の圧縮力に抗してU型スプリングホルダ71は矢印方向eに移動し、したがって操作レバー61を開放した場合には、スプリング75の付勢力(引張力または圧縮力)により中立位置に戻されることになる。
【特許文献1】実開平03−10972号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上記操作レバー61の中立保持具64の構成によると、操作レバー61の操作力の強弱、言い換えれば、操作感度はスプリング75の付勢力により決定されるため一定であり、したがって操作レバー61の操作感度を操作者の好みに合わせて調節することができなかった。
【0008】
そこで、本発明は、操作レバーの操作感度を調節し得る産業用車両における油圧駆動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明の産業用車両における油圧駆動装置は、産業用車両に設けられるとともに操作レバーにより制御される油圧駆動装置であって、
エンジンにより回転されるとともに油圧の吐出量および吐出方向を制御し得る制御軸を有する油圧ポンプと、
一端部が上記操作レバーに連動連結されるとともに中間部が上記制御軸に固定されたレバー部材と、
このレバー部材の他端部と車両本体に対して位置が固定された固定側部材との間に配置されて上記操作レバーの操作位置を停止位置である中立位置に保持するための中立保持具とを具備し、
且つ上記中立保持具を、
一端部に第1係止部材が保持された棒状部材と、
この棒状部材の他端側にその軸心方向で移動可能に外嵌された第2係止部材と、
上記第1係止部材と第2係止部材との間に挿入されて上記第1係止部材に対して当該第2係止部材を離間させる方向に付勢する付勢部材と、
上記棒状部材の他端側に螺合されて上記第2係止部材を移動させて上記付勢部材の付勢力を調節するめねじ部材と、
一端側開口部から挿入された上記棒状部材を、その第1係止部材を介して所定位置に保持する第1筒状部材と、
この第1筒状部材の開口部側に形成されためねじ部に螺合し挿入されて第2係止部材に外方から当接して、第1筒状部材内での棒状部材の移動を規制する第2筒状部材とから構成するとともに、
上記第1筒状部材をレバー部材または固定側部材に接続するとともに上記棒状部材を固定側部材またはレバー部材に接続したものであり、
また上記油圧駆動装置の油圧ポンプとして、制御軸により斜板の傾斜角を調節し得る斜板式アキシャルプランジャ型のものを用いたものである。
【0010】
さらに、本発明の他の産業用車両における油圧駆動装置は、上述した油圧駆動装置において、付勢部材の付勢力を調節する際に、めねじ部材の替わりに、第2筒状部材を回転せて、その付勢力を調節するように構成したものである。
【発明の効果】
【0011】
上記油圧駆動装置の構成によると、めねじ部材または第2筒状部材を回転させて第2係止部材を移動させることにより、付勢部材が発揮し得る付勢力の大きさを調節することができ、したがって操作者の好みに応じた操作感度を得ることができる。
【0012】
また、この中立保持具を用いた場合、油圧ポンプの能力が変更になった場合、すなわち能力が異なる産業用車両に搭載する場合でも、それぞれの産業用車両に応じた操作感度を得ることができる。したがって、同一の油圧駆動装置を別の産業用車両に搭載することが可能となるので、油圧駆動装置の共通化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
[実施の形態]
本発明の実施の形態に係る産業用車両における油圧駆動装置を、図1〜図4に基づき説明する。
【0014】
この油圧駆動装置が用いられる産業用車両(この語句の概念には、建設用車両も含むものとする)としては、例えばスキッドステアローダがあり、具体的には、この油圧駆動装置により、左右の走行用タイヤがそれぞれ独立して回転させることができるものである。
【0015】
この油圧駆動装置には、図1および図2に示すように、エンジンEにより駆動されるとともに直列に配置され(所謂、タンデム駆動である)且つそれぞれ油圧の吐出量および吐出方向を制御し得る制御軸(可変軸ともいう)2を有する2台の斜板式アキシャルプランジャ型油圧ポンプ1(1A,1B)と、上記制御軸2(2A,2B)を回転(回動)させて各油圧ポンプ1における油圧の吐出量および吐出方向(回転方向)を制御するための左右の操作機構3とが具備されている。
【0016】
すなわち、スキッドステアローダにおいては、左右の走行用タイヤに応じて、それぞれ油圧ポンプ1および操作機構3が設けられているが、これらは同じ構成であるため、以下の説明においては、一方に着目して説明する。
【0017】
この操作機構3は、油圧ポンプ1の制御軸2に中間部が固定されたレバー部材(トラニオンレバーともいう)11と、車両本体(図示せず)の床面に左右一対のブラケット12を介して回転自在に支持されるとともに両端部にレバー片13,14が固定された回転軸体(両レバー片を有する回転軸体を回転レバー体ということもできる)15と、下端部が上記回転軸体15に設けられた一方のレバー片13に連結固定された操作レバー(走行用レバーまたはステアリングレバーともいう)16と、上記回転軸体15に設けられた他方のレバー片14と上記レバー部材11とを連結する連結用ロッド(連結部材)17と、上記レバー部材11の他端部と当該油圧ポンプ1(1A)とは異なる油圧ポンプ1(1B)側(固定側部材の一例で、正確には、異なる油圧ポンプ1Bの制御軸2(2B)の突出端部)との間に配置されて操作レバー16の中立位置を保持するための中立保持具18とから構成されている。
【0018】
なお、上記レバー片14と連結用ロッド17とは、および連結用ロッド17とレバー部材11とはそれぞれ回転可能にピン連結されている。
この中立保持具18は、図3に示すように、一端部に円板状の保持板(第1係止部材の一例)21が支持板20を介して保持された棒状部材22と、この棒状部材22の他端側にその軸心方向で移動可能に外嵌された円環状の押え板(第2係止部材の一例)23と、上記保持板21と押え板23との間に挿入されて保持板21に対して当該押え板23を離間させる方向に付勢する圧縮ばね体(付勢部材の一例で、より具体的には、コイルばねが用いられる)24と、上記棒状部材22の他端側に形成されたおねじ部22aに螺合されて上記押え板23を移動させ上記圧縮ばね体24の付勢力を調節し得るナット部材(めねじ部材の一例)25と、同じく棒状部材22のおねじ部22aに螺合してナット部材25の棒状部材22に対する回り止めを行う回り止め用ナット26と、一端側開口部から挿入された上記棒状部材22を、その内面に形成された段部27aに保持板21が当接することにより所定位置に保持し得る第1筒状部材27と、この第1筒状部材27の開口部側の内周面に形成されためねじ部27bに螺合し挿入されて押え板23の端部(正確には、外側表面)に当接して、第1筒状部材27内での棒状部材22の自由移動を規制する第2筒状部材28と、この第2筒状部材28の外周面に形成されたおねじ部28aに螺合して第1筒状部材27に対する回り止めを行う回り止め用ナット29とから構成されている。なお、第2筒状部材28の外周面に形成されたおねじ部28aは、当然に、第1筒状部材27のめねじ部27aに螺合し得るものである。
【0019】
上記第1筒状部材27の他端側底部27cには、レバー部材11の他端部に接続された棒状接続部材である第1接続ロッド31の他端部が接続されるとともに、上記棒状部材22の他端部には、一端部が固定側部材としての他方の(異なる)油圧ポンプ1(1B)の制御軸2(2B)の突出端部(制御軸ではなく、例えば車両本体側のブラケットなどであってもよい)に接続された棒状接続部材である第2接続ロッド32の他端部が接続されている。また、操作レバー16が連結されている一方のレバー片13には、ショックアブソーバ33が設けられている。なお、第1接続ロッド31とレバー部材17と、および第2接続ロッド32と固定側部材である他方の油圧ポンプ1(1B)の制御軸2(2B)の突出端部とはそれぞれ回転可能にピン連結されている。
【0020】
そして、上記中立保持具18の組立時においては、例えば棒状部材22に保持された両係止部材21,23同士の間に圧縮ばね体24を配置するとともに、所定の付勢力(初期設定力としての圧縮力)が得られるようにナット部材25を回転させて所定の位置に調節する。その後、回り止め用ナット26により回り止めを行う。
【0021】
次に、この状態の棒状部材22を第1筒状部材27内に挿入した後、第2筒状部材28を第1筒状部材27の一端側開口部から螺合し挿入させて、丁度、保持板21と押え板23の外側表面同士間の距離に一致するように、すなわち保持板21と押え板23を介して棒状部材22が移動しないようにする。この後、回り止め用ナット29により、第2筒状部材28の回り止めを行う。
【0022】
この状態において、操作レバー16を図1の矢印aで示すように、前後移動させることにより、レバー片13,14および連結ロッド17を介してレバー部材11が揺動し、すなわち制御軸2を介して油圧ポンプ1の油圧の吐出量および吐出方向が制御されて、スキッドステアローダの走行が行われる。
【0023】
ところで、操作者の操作能力、具体的には、操作感度に応じて、操作レバー16を中立位置に戻す際の圧縮ばね体24の付勢力を変更する場合には、回り止め用ナット29を緩めた後、第2筒状部材28を回転させて圧縮ばね体24の高さを適宜調節することにより、最適な操作感度にすることができる。
【0024】
勿論、この後、調節後の棒状部材22を第1筒状部材27内に配置した後、第2筒状部材28を第1筒状部材27内に螺合し挿入させて、保持板21および押え板23を介して当該棒状部材22が移動しないように保持する。
【0025】
そして、回り止め用ナット29を第2筒状部材28のおねじ部28aに螺合させて第2筒状部材28の位置固定を行えばよい。図4に、圧縮ばね体24の長さを短くして圧縮ばね体24の付勢力を強くした場合の断面図を示しておく。
【0026】
この中立保持具18の構成によると、ナット部材25を回転させて押え板23を移動させることにより、圧縮ばね体24が発揮(発生)し得る圧縮力(付勢力)の大きさ調節することができ、したがって操作者の好みに応じた操作感度を得ることができる。
【0027】
また、この中立保持具18を用いた場合、油圧ポンプの能力が変更になった場合、すなわち能力が異なる産業用車両に搭載する場合でも、当該車両に応じた操作感度を得ることができる。したがって、同一の油圧駆動装置を別の産業用車両に搭載することが可能となるので、油圧駆動装置の共通化を図ることができる。
【0028】
ところで、上記実施の形態においては、付勢部材である圧縮ばね体24の付勢力を調節するのに、めねじ部材であるナット部材25を回転させるように説明したが、例えば第2筒状部材28を第1筒状部材27に対してその軸心方向で移動させて、つまり第2筒状部材28を回転させて、圧縮ばね体24の付勢力を調節することもできる。この後、ナット部材25を回転させて押え板23に接触させてガタツキが生じないようにしておけばよい。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の実施の形態に係る産業用車両における油圧駆動装置の側面図である。
【図2】同油圧駆動装置の平面図である。
【図3】同油圧駆動装置の中立保持具の断面図である。
【図4】同油圧駆動装置の中立保持具の作用を説明するための断面図である。
【図5】従来例に係る産業用車両における油圧駆動装置の側面図である。
【図6】同従来例に係る油圧駆動装置の平面図である。
【符号の説明】
【0030】
1 油圧ポンプ
2 制御軸
3 操作機構
11 レバー部材
15 回転軸体
16 操作レバー
18 中立保持具
21 保持板
22 棒状部材
23 押え板
24 圧縮ばね体
25 ナット部材
27 第1筒状部材
27a 段部
27b めねじ部
28 第2筒状部材
28a おねじ部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
産業用車両に設けられるとともに操作レバーにより制御される油圧駆動装置であって、
エンジンにより回転されるとともに油圧の吐出量および吐出方向を制御し得る制御軸を有する油圧ポンプと、
一端部が上記操作レバーに連動連結されるとともに中間部が上記制御軸に固定されたレバー部材と、
このレバー部材の他端部と車両本体に対して位置が固定された固定側部材との間に配置されて上記操作レバーの操作位置を停止位置である中立位置に保持するための中立保持具とを具備し、
且つ上記中立保持具を、
一端部に第1係止部材が保持された棒状部材と、
この棒状部材の他端側にその軸心方向で移動可能に外嵌された第2係止部材と、
上記第1係止部材と第2係止部材との間に挿入されて上記第1係止部材に対して当該第2係止部材を離間させる方向に付勢する付勢部材と、
上記棒状部材の他端側に螺合されて上記第2係止部材を移動させて上記付勢部材の付勢力を調節するめねじ部材と、
一端側開口部から挿入された上記棒状部材を、その第1係止部材を介して所定位置に保持する第1筒状部材と、
この第1筒状部材の開口部側に形成されためねじ部に螺合し挿入されて第2係止部材に外方から当接して、第1筒状部材内での棒状部材の移動を規制する第2筒状部材とから構成するとともに、
上記第1筒状部材をレバー部材または固定側部材に接続するとともに上記棒状部材を固定側部材またはレバー部材に接続した
ことを特徴とする産業用車両における油圧駆動装置。
【請求項2】
油圧ポンプとして、制御軸により斜板の傾斜角を調節し得る斜板式アキシャルプランジャ型のものを用いたことを特徴とする請求項1に記載の産業用車両における油圧駆動装置。
【請求項3】
付勢部材の付勢力を調節する際に、めねじ部材の替わりに、第2筒状部材を回転させて、その付勢力を調節するように構成したことを特徴とする請求項1または2に記載の産業用車両における油圧駆動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−38548(P2008−38548A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−217605(P2006−217605)
【出願日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【出願人】(000003241)TCM株式会社 (319)
【Fターム(参考)】