説明

男性の更年期又はうつ病の鑑別方法

【課題】 血液又は唾液中に存在するテストステロン及びコルチゾールの量に基づき、男性の更年期又はうつ病を鑑別する方法を提供する。また、血液又は唾液中のテストステロン及びコルチゾールの量をLC/MSを用いて同時に測定する方法を提供する。
【解決手段】 血液又は唾液中に存在するテストステロン及びコルチゾールの量を測定し、それを健常者及び男性の更年期又はうつ病患者の測定値と対比することにより、男性の更年期又はうつ病を鑑別する。また、血液又は唾液中のテストステロン及びコルチゾールの量のLC/MS測定において、それぞれの生成イオンを同時に検出することにより、これらのステロイドホルモンの量を同時に測定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液又は唾液中に存在するテストステロン及びコルチゾールの量に基づき、男性の更年期又はうつ病を鑑別する方法に関する。また、本発明は、血液又は唾液中に存在するテストステロン及びコルチゾールの量の新規測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
男性更年期は、一般に、成熟期から老年期への移行期である45〜55歳を指す。その時期には、精力、気分・健康感、認知・記憶力等の精神的機能の低下、筋肉量・骨量の減少、体脂肪の増加等による身体的機能の低下及び性機能の低下が見られる。
【0003】
一方、うつ病はストレスを誘因として発症することが臨床精神医学により明らかにされており、その初発年齢のピークは20歳代及び50歳代にある。
【0004】
近年、男性更年期としてPADAM(partial androgen deficiency in aging male)が注目され、男性更年期障害の臨床診断及び治療はPADAMの観点から行われつつあるが、男性更年期外来を受診する患者の中にはうつ病の症例も相当の割合で混在しており、必ずしもテストステロン値の低下に基づくPADAM患者ばかりではない。PADAMとうつ病は主訴をほぼ同じくするため、実際にはうつ病である患者に対してPADAMに基づく治療(主としてアンドロゲン補充療法)が施されることがある。しかし、そのような場合は症状が改善されないばかりか、症状の悪化及び自殺等の事態を招くおそれがある。したがって、男性更年期外来を訪れた患者の診断及び治療は、患者の主訴を主とする問診のみに頼ることなく、内分泌状況などを総合的に検討した上で行わなければならない。
【0005】
男性更年期の診断は、現在は遊離テストステロン(Tsujimura,A. et al: J.Urology,170,2345 (2003))及びバイオアベイラブルテストステロンを指標として行われているが、現在用いられている基準値は米国で作成されたものであり、日本人には値が高すぎてほとんどの人が基準値の下限(15.2pg/mL)を下回ってしまうため、我が国独自の基準値の作成が求められている。また、生理活性を有するのはバイオアベイラブルテストステロンであることから、男性更年期の診断はバイオアベイラブルテストステロンを指標とするのが望ましい。しかし、その測定方法として、例えば、硫安法、ISSAM法、ConA法が提案されている(Medical Science Digest, Vol.31(3), 99-103(2005)参照)が、測定方法の国際的な統一はなされていない。このようなことから、バイオアベイラブルテストステロンに基づく我が国に適した男性更年期の診断方法の確立が求められている。
【0006】
一方、うつ病の診断は、ZungのSelf-rating Depression Scale(SDS)、ZigmondによるHospital Anxiety and Depression Scale(HADS)等のスクリーニングテスト、あるいは、臨床的な確定診断のためのDSM−4(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, 4th. edition、米国精神医学会)等により行われている。これらはいずれも問診を中心としたものであるが、最近になって、血中コルチゾールの量に基づいてうつ病を診断する試みがなされている。これは、うつ病において視床下部−下垂体−副腎皮質系(HAP系)の機能が亢進してグルココルチコイドの分泌が増大し、その結果として、血液、尿、脳脊髄液等におけるコルチゾールの濃度が上昇している所見が多く見られることに由来するものであり、例えば、HAP系異常を検出する検査として、デキサメサゾンを負荷し、コルチゾールと副腎皮質刺激ホルモンの分泌抑制を見るデキサメサゾン抑制テスト(DST)やこれらを改良したDST/CRHテストが提案されている(Heuser I, et al: J.Psychiatr.Res. 1994; 28,341)。しかしながら、どのような状態のコルチゾール、例えば、遊離しているものかバイオアベイラブルなものか、あるいは全量のコルチゾールがうつ病と関係しているのかが明らかではなく、特にバイオアベイラブルコルチゾールの定量法が確立していないこともあって、血中コルチゾールの量とうつ病の症状の程度との関係は未だ明らかにされていない。ただし、うつ病の発症誘因とされているストレスについては、スポーツ選手(Kivlighan KT,et al: Psychoneuroendocrinology, 2005 Jan; 30(1); 58-71: Maso F,et al; Br.J.Sports Med.2004 Jun; 38(3)260-263)、宇宙飛行士(Strollo F, et al: J.Gravit.Physiol.1997, July; 4(2)103-104)、消防士(Roy M, et al: Ann.Behav.Med.2003 Dec; 26(3)194-200)等の職業に起因するストレスを有する人を対象として、血中又は唾液中のテストステロン及びコルチゾールを測定し、その結果を考察した報告がいくつかなされている。また、デヒドロエピアンドロステロンとコルチゾールを測定しストレスを定量する方法も知られている(特開平11−38004)。しかし、これらの文献には、男性の更年期又はうつ病については何ら記載されていない。
【0007】
ところで、テストステロンが関係する疾患とコルチゾールが関係する疾患は全く領域が異なるために、それぞれのステロイドホルモンは単独で測定されている。また、その測定方法も免疫学的方法やラジオイムノアッセイが殆んどである。しかし、男性更年期外来を受診する患者が増加してきており、テストステロン及びコルチゾールの両者の値を同時に、しかも簡便に、さらにはバイオアベイラブルな状態にあるものを測定する方法の開発が求められている。
【非特許文献1】Tsujimura,A. et al:J.Urology,170,2345 (2003)
【非特許文献2】Medical Science Digest, Vol.31(3), 99-103(2005)
【非特許文献3】Heuser I,et al: J.Psychiatr.Res. 1994; 28,341
【非特許文献4】Kivlighan KT,et al: Psychoneuroendocrinology, 2005 Jan; 30(1); 58-71
【非特許文献5】Maso F, et al; Br.J.Sports Med.2004 Jun; 38(3)260-263
【非特許文献6】Strollo F, et al: J.Gravit.Physiol.1997, July; 4(2)103-104
【非特許文献7】Roy M, et al:Ann.Behav.Med.2003 Dec; 26(3)194-200
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、血液又は唾液中に存在するテストステロン及びコルチゾールの量に基づき、男性の更年期又はうつ病を鑑別する方法を提供することである。
【0009】
また、本発明の別の目的は、血液又は唾液中のテストステロン及びコルチゾールの量をLC/MSを用いて同時に測定する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、血液又は唾液中のテストステロンの量と男性の更年期症状との関係、及び血液又は唾液中のコルチゾールの量とうつ病の程度との関係について鋭意検討した。その結果、唾液中のテストステロン及びコルチゾールの量は血液中のバイオアベイラブルなそれらのホルモンの状態を反映していること、及びそれらのホルモンの量と男性の更年期又はうつ病の症状に一定の関係があることを見出し、男性の更年期又はうつ病を鑑別する方法を完成させた。また、血液又は唾液中のテストステロン及びコルチゾールの簡便な測定方法も併せて開発した。
【0011】
すなわち、本発明は、血液又は唾液中に存在するテストステロン及びコルチゾールの量を測定し、両者の測定値を健常者及び男性の更年期又はうつ病患者の測定値と対比することを特徴とする、男性の更年期又はうつ病の鑑別法を提供するものである。
【0012】
また、本発明は、血液又は唾液中に存在するテストステロン及びコルチゾールの量を測定し、両者の測定値を健常者及び男性の更年期又はうつ病患者の測定値と対比することを特徴とする、男性の更年期又はうつ病の鑑別用キットを提供するものである。
【0013】
さらに、本発明は、男性の更年期又はうつ病の鑑別のために、LC/MSを用いて、それぞれの生成イオンを同時に検出することを特徴とする、血液又は唾液中に存在するテストステロン及びコルチゾールの量の測定方法を提供するものである。
【0014】
本発明は、具体的には、以下に記載の通りである。
(1)被検者から採取した血液又は唾液中に存在するテストステロン及びコルチ
ゾールの量を測定し、得られた両者の測定値を健常者及び男性の更年期又はうつ
病患者の血液又は唾液中に存在するテストステロン及びコルチゾール量の測定
値と対比することを特徴とする、男性の更年期又はうつ病の鑑別法。
(2)血液又は唾液中に存在するテストステロン及びコルチゾールの量の測定を、LC/MSを用いて、それぞれの生成イオンを同時に検出することにより行う、上記(1)に記載の鑑別法。
(3)唾液中に存在するテストステロン及びコルチゾールの量を測定する、上記(1)又は(2)に記載の鑑別法。
(4)被検者の血液又は唾液中に存在するテストステロン及びコルチゾールの量を測定するための手段、及び得られた両者の測定値を健常者及び男性の更年期又はうつ病患者の血液又は唾液中に存在するテストステロン及びコルチゾール量の測定値と対比する手段を含むことを特徴とする、男性の更年期又はうつ病の鑑別用キット。
(5)対比する手段が健常者及び男性の更年期又はうつ病患者の血液又は唾液中に存在するテストステロン及びコルチゾール量の測定値の対比表である、上記(4)に記載の男性の更年期又はうつ病の鑑別用キット。
(6)男性の更年期又はうつ病の鑑別のために、LC/MSを用いて、被検者から採取した血液又は唾液中に存在するテストステロン及びコルチゾールのそれぞれの生成イオンを同時に検出してテストステロン及びコルチゾールを定量することを特徴とする、血液又は唾液中に存在するテストステロン及びコルチゾールの量の測定方法。
(7)血液又は唾液中に存在するテストステロン及びコルチゾールの水酸基をエステル化した後にLC/MS測定を行う、上記(6)に記載の測定方法。
(8)さらに、血液又は唾液中に存在するテストステロン及びコルチゾールのカルボニル基をイミノ化した後にLC/MS測定を行う、上記(7)に記載の測定方法。
(9)唾液中に存在するテストステロン及びコルチゾールの量を測定する、上記(6)〜(8)のいずれか1項に記載の測定方法。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明において使用することのできる生体由来試料は、血液及び唾液である。両者ともバイオアベイラブルなホルモンの状況を反映しているが、中でも、生体への負荷が少ない非侵襲的な方法で採取できるという点及び実質的にバイオアベイラブルなホルモンしか含まない点で、唾液が好適である。
【0016】
血液又は唾液中に存在するテストステロン及びコルチゾールの量の測定は、例えば、免疫学的測定、ラジオイムノアッセイ、GC/MS、LC/MS等を用いて、一般的な方法により行うことができる。この中で、微量測定が可能であること、テストステロンとコルチゾールの同時測定が可能であること及び測定者に放射線被爆等の危険がないことから、LC/MSが最も適している。
【0017】
本発明の「鑑別用キット」には、被検者からの血液又は唾液中に存在するテストステロン及びコルチゾールの量の測定値と健常者及び男性の更年期又はうつ病患者の血液又は唾液中に存在するテストステロン及びコルチゾールの量の測定値とを対比して男性の更年期又はうつ病を鑑別するために必要な手段が含まれ、例えば、被検者からの血液又は唾液中に存在するテストステロン及びコルチゾールの量の測定手段として、血液又は唾液の採取用具、カラムカートリッジ等、及び、被検者からの血液又は唾液中に存在するテストステロン及びコルチゾールの量の測定値と健常者及び男性の更年期又はうつ病患者の血液又は唾液中に存在するテストステロン及びコルチゾールの量の測定値とを対比する手段として、健常者及び男性の更年期又はうつ病患者のそれぞれの測定値の対比表が挙げられる。中でも、上記対比表は、医師の判断によらなくとも男性の更年期又はうつ病であるかどうかを鑑別することが可能となるものであり、特に有用である。
【0018】
本発明の測定方法において、「LC/MS」は、一般的なLC/MSを使用することができる。また、その測定においては、例えば、LC/MS−MS、LC−ESI/MS、LC−APCI/MS−MS等を用いることができる。
【0019】
また、本発明の測定方法においては、生体由来試料中に存在するテストステロン及びコルチゾールの水酸基をエステル化し、さらに必要に応じてカルボニル基をイミノ化した後に、LC/MS測定を行うことも可能である。それらの誘導体化を行う場合は、エステル化については、例えば、アセチル化、ベンゾイル化、トリフルオロベンゾイル化等を挙げることができ、また、イミノ化については、ヒドロキシルイミノ化、メチルオキシルイミノ化等を挙げることができる。
【0020】
本発明について、以下に具体的に説明する。
試料の調製
試料の調製方法については、後記実施例において詳述するが、被検者から採取した血液又は唾液を遠心分離や簡易カラムクロマトグラフィーにより分離精製する一般的調製方法を適宜選択して用いることができる。この試料調製方法により、特に血液中のバイオアベイラブルなホルモンを分離でき、これを以後の測定工程に供する。また、血液として、血清を使用することもできる。なお、唾液については、特に調製することなく、採取したものをそのまま測定に供することもできる。
【0021】
LC−MSを使用する場合には、血清のSHBG結合を除いた画分又は採取した唾液を極性溶媒(例えば、酢酸エチル、ブタノール等)を用いて抽出することにより、アルブミンに結合したテストステロン及びコルチゾールを遊離のテストステロン及びコルチゾールに変換して測定する。
血液試料あるいは唾液中に存在するテストステロン及びコルチゾールの量の測定
【0022】
上記で調製した血液試料あるいは採取した唾液中に存在するテストステロン及びコルチゾールの量を、免疫学的測定用キット、例えば、エンザプレート テストステロン、エンザプレート コルチゾール、Testosterone saliva LIA キット、Cortisol saliva LIA キット等;ラジオイムノアッセイキット、例えば、DPCトータルテストステロンキット、DPCコルチゾールキット等;GC/MS;又はLC/MS等を用いて測定する。
【0023】
測定においてLC/MSを用いると、血液試料あるいは唾液中に含まれるテストステロン及びコルチゾールを同時に測定することができるので、特に好ましい。例えば、テストステロンは79、81、97、109、121及び123に特徴的な生成イオンを示し、特に97及び109が代表的な生成イオンであり、また、コルチゾールは97、121、123、147、309及び327に特徴的な生成イオンを示し、特に121及び327が代表的な生成イオンである。したがって、これらの特徴的な生成イオンに着目し、内部標準物質と対比することにより、それぞれのステロイドホルモンの量を同時に算出することができる。
【0024】
また、血液試料あるいは唾液中に存在するテストステロン及びコルチゾールの水酸基をエステル化し、さらに必要に応じてカルボニル基をイミノ化した後に、LS/MSにより測定する場合は、検出する生成イオンは次のようになる。例えば、両者の水酸基をアセチル化した後にLC/MS測定したときは、テストステロンについては97及び109が特徴的な生成イオンであり、また、コルチゾールについては121、241、309及び327が特徴的な生成イオンである。
血液試料あるいは唾液中に存在するテストステロン及びコルチゾールの量と、健常者及び男性の更年期又はうつ病患者の測定値との対比
【0025】
上記で得られた被検者からの血液又は唾液中のテストステロン及びコルチゾールの測定値(午前9時の測定値)を、例えば、下記表Aに示す健常者及び男性の更年期又はうつ病患者の血液又は唾液中のテストステロン及びコルチゾールの測定値(午前9時の測定値)と対比し、鑑別を行う。「午前9時」とするのは、血液又は唾液中のテストステロン及びコルチゾールの測定値は日内変動があるので、特定の時間の測定値を対比する必要があるからである。表Aは、50歳前後の午前9時の測定値であるが、テストステロンの量は年齢にも依存するので、鑑別にあたっては年齢に応じて総合的に判断する。なお、コルチゾールの量は、年齢にはほとんど依存しないので、年齢に関わらず、表Aの測定値が対比に使用できる。
【表1】


以下の実施例は、本発明をより詳細に説明するものであるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【実施例】
【0026】
実施例1:LC/MS−MSによるテストステロン及びコルチゾールの量の測定(検量線の作成)
LC/MS−MSは、液体クロマトグラフィー装置(アジレントテクノロジー、Agilent 1100)に接続したマススペクトロメータAPI-4000を用い、ESI法で測定した。LC及びMSの測定条件を、下記表Bに示す。
【0027】
【表2】

【0028】
テストステロンのMS測定を行うと、m/z289.3に前駆イオンが検出された。この前駆イオンについて更にMS測定を行うと、m/z97.3に強い強度を示すスペクトルが得られた(図1及び図2)。
【0029】
そこでm/z289.3を前駆イオンとして、また、m/z97.3を生成イオンとしてLC/MSクロマトグラム測定したところ、テストステロン1pgを検出することができた(検出限界)。なお、内部標準物質には重水素で標識したテストステロン(16,16,17-dテストステロン)を用いた(図3)。この条件で得られた検量線を図4に示す。検量線は、試験管に1,5,10,25,100,500,1000pgのテストステロンをそれぞれ採り、これに内部標準物質を1ng添加し、精製水1mlに溶解したものから作成した。テストステロン5〜1000pg/10μLの濃度範囲において、相関係数1.0000と良好な直線を示した。
【0030】
コルチゾールについてもテストステロンと同様にLC/MS測定を行った。すなわち、コルチゾールのMS測定において、前駆イオンm/z363.3が検出され、これについて更にMS測定を行い、生成イオンm/z327.1を得た(図5及び図6)。この条件でLC/MSクロマトグラム測定したところ、コルチゾール5pgを検出することができた(検出限界)。内部標準物質には重水素で標識したコルチゾール(9,11,12,12−dコルチゾール)を用いた(図7)。この条件で得られた検量線を図8に示す。検量線は、試験管に20,50,100,500,1000、5000、10000pgのコルチゾールをそれぞれ採り、これに内部標準物質を1ng添加し、精製水1mlに溶解したものから作成した。コルチゾール20〜10000pg/10μLの濃度範囲において、相関係数0.9973と良好な直線を示した。
【0031】
実施例2:ヒト唾液中に存在するテストステロン及びコルチゾールの量の測定
(1−1)試料の調製
健常男性から得た唾液1mLに−テストステロン1ng、−コルチゾール1ng及び酢酸エチル5mLを加えて10分間振り混ぜ、遠心分離(4℃、3000回転、5分間)した。これを凍結し有機層を分離した。有機層を遠心式エバポレータで乾固した後、残渣を0.05%ギ酸/アセトニトリル混液(3:2)100μLに溶解し、試料とした。
(1−2)LC/MS−MS法による測定
上記(1−1)で得た試料のうちの10μLをLC/MS測定に使用した。測定は、実施例1と同様に行った。テストステロン及びコルチゾールのLC/MSクロマトグラムにおける生成イオンm/z97.3及び327.1のピーク面積をそれぞれ測定し、それらと内部標準物質とのピーク面積比を算出し、テストステロン及びコルチゾール濃度を求めた。その結果を下記表Cに示す。
【0032】
【表3】

【0033】
上記の通り、本発明の測定方法により、唾液中のテストステロン及びコルチゾール(バイオアベイラブルなもの)をそれぞれ5〜1000pg及び20〜10000pg/mLの範囲で定量できる。また、それぞれの測定限界は、テストステロンは10pg、コルチゾールは5pgである。
【0034】
実施例3:
受診者1〜5について、午前9時頃に唾液中のテストステロン及びコルチゾールを測定し、更年期又はうつ病への罹患の有無について、前期表Aに基づいて鑑別を行った。その結果を、下記表Dに示す。また、下記表Dには、それぞれの受診者に対する問診によるAMS評価(男性の老化症状に対する質問票)及びHADスコアも併せて記載した。
【0035】
【表4】


上記表Dには、問診によるAMS評価が中程度以上であったとしても、更年期ではなくむしろうつ病を疑うべき者がみられる。これらの例に対して、唾液中のテストステロン及びコルチゾールの測定値に基づく鑑別がより適切であることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】図1は、テストステロンのマススペクトルである。特徴的な前駆イオンm/z289.3のピークを確認することができる。
【図2】図2は、テストステロンの前駆イオンm/z289.3からの生成イオンのスペクトルである。
【図3】図3は、テストステロン及び16,16,17-dテストステロン(内部標準物質として使用)のLC/MSクロマトグラムである。左側が唾液中のテストステロンであり、右側が内部標準物質である。
【図4】図4は、本発明の測定方法において使用されるテストステロン1〜1000pgの検量線である。
【図5】図5は、コルチゾールのマススペクトルである。特徴的な前駆イオンm/z363.0のピークを確認することができる。
【図6】図6は、コルチゾールの前駆イオンm/z363.0からの生成イオンのスペクトルである。
【図7】図7は、コルチゾール及び9,11,12,12−dコルチゾール(内部標準物質として使用)のLC/MSクロマトグラムである。左側が唾液中のコルチゾールであり、右側が内部標準物質である。
【図8】図8は、本発明の測定方法において使用されるコルチゾール1〜10000pgの検量線である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検者から採取した血液又は唾液中に存在するテストステロン及びコルチゾールの量を測定し、得られた両者の測定値を健常者及び男性の更年期又はうつ病患者の血液又は唾液中に存在するテストステロン及びコルチゾール量の測定値と対比することを特徴とする、男性の更年期又はうつ病の鑑別法。
【請求項2】
血液又は唾液中に存在するテストステロン及びコルチゾールの量の測定を、LC/MSを用いて、それぞれの生成イオンを同時に検出することにより行う、請求項1に記載の鑑別法。
【請求項3】
唾液中に存在するテストステロン及びコルチゾールの量を測定する、請求項1又は2に記載の鑑別法。
【請求項4】
被検者の血液又は唾液中に存在するテストステロン及びコルチゾールの量を測定するための手段、及び得られた両者の測定値を健常者及び男性の更年期又はうつ病患者の血液又は唾液中に存在するテストステロン及びコルチゾール量の測定値と対比する手段を含むことを特徴とする、男性の更年期又はうつ病の鑑別用キット。
【請求項5】
対比する手段が健常者及び男性の更年期又はうつ病患者の血液又は唾液中に存在するテストステロン及びコルチゾール量の測定値の対比表である、請求項4に記載の男性の更年期又はうつ病の鑑別用キット。
【請求項6】
男性の更年期又はうつ病の鑑別のために、LC/MSを用いて、被検者から採取した血液又は唾液中に存在するテストステロン及びコルチゾールのそれぞれの生成イオンを同時に検出してテストステロン及びコルチゾールを定量することを特徴とする、血液又は唾液中に存在するテストステロン及びコルチゾールの量の測定方法。
【請求項7】
血液又は唾液中に存在するテストステロン及びコルチゾールの水酸基をエステル化した後にLC/MS測定を行う、請求項6に記載の測定方法。
【請求項8】
さらに、血液又は唾液中に存在するテストステロン及びコルチゾールのカルボニル基をイミノ化した後にLC/MS測定を行う、請求項7に記載の測定方法。
【請求項9】
唾液中に存在するテストステロン及びコルチゾールの量を測定する、請求項6〜8のいずれか1項に記載の測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−24822(P2007−24822A)
【公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−211227(P2005−211227)
【出願日】平成17年7月21日(2005.7.21)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成17年6月24日 日本アンドロロジー学会発行の「日本アンドロロジー総会記事(XXIV)」に発表
【出願人】(000002990)あすか製薬株式会社 (39)
【出願人】(504125458)株式会社帝国臓器製薬メディカル (6)
【出願人】(596165589)学校法人 聖マリアンナ医科大学 (53)
【Fターム(参考)】