説明

画像処理装置、画像処理方法及びプログラム

【課題】アオリ撮影のために光学系又は撮像手段を移動させるときに、被写体の近似平面と撮像手段の光軸との角度に応じた光学系又は撮像手段の移動量を求めることにある。
【解決手段】距離導出部201は、光学系を介して入射した被写体像を撮像する撮像手段から被写体までの距離を算出する。平面近似部202は、距離導出部201により算出された距離に基づいて、撮像手段により撮像された画像データ内の被写体領域について被写体を近似する平面を算出する。移動量導出部204は、平面近似部202により算出された平面と撮像手段の光軸との角度に基づいて、光学系又は撮像手段の移動量を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アオリ撮影のために光学系又は撮像手段を移動させる技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アオリ撮影は、被写体を正面から撮影する事が出来ない場合に、不自然さを解消した撮影画像を取得する為に用いられる。アオリ撮影は一般に撮像面もしくは光学系のシフト及びチルトにより実現される。特許文献1に、被写界深度を疑似的に狭めボケを得る効果を目的として、撮像面のチルト量を求める手法が開示されている。具体的には、画像内の部分領域ごとに至近被写体が存在するか否かを求め、その存在の有無の分布の広がり方向及び広がり量に基づいてチルト量を求めている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−205569号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
レンズシフト式・CCDシフト式によるアオリ撮影では、レンズやCCDの適切なシフト量の設定が困難である。なお、特許文献1に開示される手法では、被写体を正面から撮影することを暗黙に前提としている為、被写体の法線と撮像面の光軸とが一致しない場合には被写体の存在の分布は正しく得られず、結果として撮影に適切な撮像面のチルト量は得られない。
【0005】
そこで、本発明の目的は、アオリ撮影のために光学系又は撮像手段を移動させるときに、被写体の近似平面と撮像手段の光軸との角度に応じた光学系又は撮像手段の移動量を求めることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の画像処理装置は、光学系を介して入射した被写体像を撮像する撮像手段と、前記撮像手段から被写体までの距離を算出する距離算出手段と、前記距離算出手段により算出された距離に基づいて、前記撮像手段により撮像された画像データ内の被写体領域について被写体を近似する平面を算出する近似平面算出手段と、前記近似平面算出手段により算出された平面と前記撮像手段の光軸との角度に基づいて、前記光学系又は前記撮像手段の移動量を算出する移動量算出手段とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明においては、アオリ撮影のために光学系又は撮像手段を移動させるときに、被写体の近似平面と撮像手段の光軸との角度に応じた光学系又は撮像手段の移動量を求めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】実施形態に係る画像処理装置の構成を示す図である。
【図2】実施形態に係る画像処理装置の機能構成を示すとともに、当該画像処理装置による画像生成処理の流れを説明するための図である。
【図3】実施形態に係る画像処理装置の処理を示すフローチャートである。
【図4】実施形態において想定する入力画像の例を示す図である。
【図5】カメラの光軸とレンズの回転・シフト・チルト可能な方向と被写体近似平面の法線との関係を示す図である。
【図6】レンズの回転及びシフト・チルトによる効果を提示する例を示す図である。
【図7】実施形態に係る画像処理装置の処理によって得られる画像の例を示す図である。
【図8】図4に示す入力画像を線画で示す図である。
【図9】図7に示す画像を線画で示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を適用した好適な実施形態を、添付図面を参照しながら詳細に説明する。
【0010】
図1は、本実施形態に係る画像処理装置の構成を示す図である。図1において、101は、被写体像を被写体像撮像面上に結像(入射)させるための光学系である。102は、CCD、MOS等で構成され、光学系101によって得られた被写体像を光から電気信号に変換するための撮像素子(撮像手段)である。103は、撮像素子102から得られた被写体像に関する時系列信号を処理し、デジタル信号に変換する信号処理回路である。
【0011】
104は、CPUであり、ROM105に格納されている制御プログラムを実行することにより、本画像処理装置全体の制御を行う。105はROMであり、CPU104が実行する制御プログラムや各種パラメータデータを格納する。制御プログラムは、CPU104で実行されることにより、後述するフローチャートに示す各処理を実行するための各種手段として、当該画像処理装置を機能させる。なお、本実施形態では、後述するフローチャートの各ステップに対応する処理を、CPU104を用いてソフトウェアで実現することとするが、その処理の一部又は全部を電子回路等のハードウェアで実現するようにしても構わない。また、本発明は、汎用パソコンを用いて実現してもよいし、画像処理専用装置として実現するようにしても構わない。106はRAMであり、画像や各種情報を記憶する。また、RAM106は、CPU104のワークエリアやデータの一時待避領域として機能する。107はディスプレイであり、例えばLCDやCRTで構成される。108は光学系もしくは撮像素子を駆動する装置である。
【0012】
図2は、本実施形態に係る画像処理装置の機能構成を示すとともに、当該画像処理装置による画像生成処理の流れを説明するための図である。
【0013】
ブロック201は、入力画像上の複数個所において撮像面から被写体までの距離を求める距離導出部である。ブロック202は、距離導出部201で求めた距離群から平面を近似する平面近似部である。ブロック203は、平面近似部202で求めた近似平面と撮像面光軸の関係をユーザに提示するユーザ提示部である。ブロック204は、平面近似部202で求めた近似平面と撮像面光軸のなす角度から撮像手段又は光学系の移動量を求める移動量導出部である。ブロック205は、移動量導出部204で求めた撮像手段又は光学系の移動量に基づき実際に撮像手段又は光学系を移動させる駆動部である。なお、距離導出部201は、距離算出手段の適用例となる構成であり、平面近似部202は、近似平面算出手段の適用例となる構成である。また、ユーザ提示部203は、提示手段の適用例となる構成であり、移動量導出部204は、移動量算出手段の適用例となる構成であり、駆動部205は、移動手段の適用例となる構成である。
【0014】
図3は、本実施形態に係る画像処理装置の処理を示すフローチャートである。以下、図3を参照しながら画像処理装置の処理について説明する。本実施形態では、レンズが回転・シフト・チルト可能だとして記載するが、CMOSやCCDに代表される撮像装置が回転・シフト、チルト可能であった場合には、レンズを撮像装置として読みかえても構わない。
【0015】
まず、ステップ301において、距離導出部201は、レンズの回転・シフト・チルトのない状態で入力画像を得る。このとき、ユーザーは事前に撮像したい被写体をレンズのシフト・チルトのない状態で入力画像内に捉えているものとする。さらにユーザーによるシャッターボタンの半押し等、入力画像内に被写体が含まれている事を明示的に示す手段を設けることで、この入力画像をより適切に取得する事ができる。本実施形態において想定する入力画像の例を図4、その線画を図8に示す。図4において、地表から高い建物を撮影しているため、被写体を正面から撮影する事が出来ず、建物上部の幅が下部よりも狭くなるアオリ歪みが発生している。
【0016】
ステップ302において、距離導出部201は、画像中のピクセルについて撮像面(撮像素子)から被写体までの距離を求める。撮像面から被写体までの距離の求め方としては、例えば特開2008−191661号公報に開示されている方法を用いることができる。
【0017】
ステップ303において、平面近似部202は、光軸の方向、及び画像中の被写体領域について被写体を近似する平面を求める。光軸の方向として、加速度センサを用いて重力方向に対する光軸の仰角および電子コンパスを用いて地球の地軸に対する回転角度を取得する。画像中の被写体領域は、ステップ302で測定した被写体までの距離についてヒストグラムを取得し、ヒストグラムを閾値で前景・被写体・背景に分割し、ヒストグラム上で被写体に分類されるピクセルの集合を被写体領域とする。ヒストグラム上の閾値は、前景・被写体領域・背景のそれぞれのクラス間分散が最大となるように求められる。被写体を近似する平面は、次のように求める。まず、入力画像上の被写体領域中の全てのピクセルについて、ステップ302で測定した被写体までの距離の点から被写体近似平面への垂線を求める。そして、その垂線の長さの総和が最小になるように平面を設定する。これらの被写体近似平面及びその法線は、取得した光軸方向により、重力方向及び地軸に対する回転角度を基準とする世界座標に変換しておき、以後の演算は全てこの世界座標上でなされるものとする。
【0018】
カメラの光軸と被写体近似平面及びその法線との世界座標における関係を図5に示す。図5において、ステップ303で得たカメラの光軸を501であるとする。被写体を502とすると、ステップ303で求めた被写体近似平面は503、被写体近似平面の法線は504である。
【0019】
ステップ304において、移動量導出部204は、撮影時光軸の方向を求める。ステップ303と同様の方法を用いる。
【0020】
図5において、ステップ304で取得した光軸を505とする。レンズは光軸に対し506の方向に回転する。レンズのシフト・チルト可能な方向はそれぞれ507及び508であり、レンズの回転506に伴い、レンズのシフト方向507及びチルト方向508も506と同様に回転する。光軸における被写体近似平面までの距離を509とする。
【0021】
ステップ305において、移動量導出部204は、被写体近似平面503の法線504から、レンズの回転量506を求める。具体的には、カメラの光軸505はカメラの撮像面と垂直であるから、被写体近似平面503の法線504をカメラの撮像面へ投射した線の傾きと、レンズの回転角度506とを等しくする。
【0022】
ステップ306において、移動量導出部204は、レンズシフト量507及びレンズチルト量508を導出する。一般には、レンズのシフト量は、被写体近似平面の法線504と撮影時光軸505とのなす角のタンジェントと被写体までの距離509の積、即ち距離510を求め、被写体までの距離509とレンズの焦点距離との比を求め、上記距離510と上記比の積で求められる。またレンズのチルト量は、撮像面と被写体近似平面503との交線を求め、レンズ面を含む平面がその交線を含む様にレンズ面をチルトさせる量となる。但し、レンズのシフト量・チルト量はレンズの光学的特性に強く依存する為、実測に基づくルックアップテーブルを保持する、あるいは上記ルックアップテーブルにおけるキーと値の関係を近似した関数を事前に求めておき、その関数にカメラの光軸と被写体近似平面の法線とがなす角度と被写体までの距離とを代入する、とする。
【0023】
ステップ307において、移動量導出部204は、撮影可能か否かを判断する。撮影可能と判断しうる場合、ステップ309に進む。そうでなければステップ308に進む。ここで、撮影可能と判断しうる条件は、例えば、ステップ305及びステップ306で求めたレンズの回転量506、レンズシフト量507、レンズチルト量508について、駆動部205が受け入れ可能な範囲であること、とする。あるいは、ユーザによるシャッターボタンの全押下や、シャッターボタン全押下後指定時間の経過などが挙げられる。
【0024】
ステップ307において撮影がなされなかった場合、ユーザ提示部203は、ステップ308においてレンズの回転及びシフト・チルトによる効果を提示する。これにより、ユーザに光軸の傾斜および回転を促す。この例を図6に示す。図6において、図形601が被写体とする。線分602は撮像面における被写体近似平面503の法線504の傾きの撮像面への投射を示し、すなわちその方向はレンズの回転量506を示す。ヒストグラム603はステップ303で得られた画面上の各ピクセルにおける被写体までの距離の分布を示し、ヒストグラム上の線分604は被写体までの距離509、すなわちステップ306においてレンズのシフト量507・チルト量508の算出に用いられた距離を示す。ヒストグラム上の範囲605はステップ303において被写体領域と判断された距離の範囲、領域606はステップ303において被写体領域と判断されたピクセル領域を示す。607はレンズシフト量502により撮像範囲が変化した後の撮影領域を示す。これらの情報をユーザに提示したのち、ステップ304に戻る。
【0025】
ステップ309では、移動量導出部204は、撮影状況に基づき絞り量とシャッタ速度とを得る。ここで、絞り量・シャッタ速度の取得方法はユーザによる手設定でもよいし、レンズの焦点距離や被写体近似平面の近似誤差の分散に基づく自動設定でもよい。
【0026】
ステップ310では、移動量導出部204は、ステップ305及びステップ306で得られたレンズの回転量506、レンズシフト量507、レンズチルト量508に基づき駆動部205にレンズの移動を設定する。また、ステップ309で得られた絞り量に基づき駆動部205に絞り量を設定する。
【0027】
ステップ311では、駆動部205は、ステップ310により設定されたパラメータに基づきレンズを駆動し、本画像処理装置は撮影を行う。
【0028】
以上の処理により取得される画像の例を図7に、その線画を図9に示す。図7において、レンズシフトにより建物のアオリ歪みが補正されている。本実施形態では建築物の撮影においてレンズシフト・チルト量を求めたが、本発明はアオリ歪み撮影が使用されるその他の環境、例えば人物の全身像や皿上の料理等の静物の撮影においても適用可能である。
【0029】
以上のように本実施形態においては、アオリ撮影のために光学系101又は撮像素子102を移動させるときに、被写体の近似平面と撮像素子102の光軸との角度に応じた光学系101又は撮像素子102の移動量を求めることができる。
【0030】
本発明の各工程は、ネットワーク又は各種記憶媒体を介して取得したソフトウエア(プログラム)をパーソナルコンピュータ等の処理装置(CPU、プロセッサ)にて実行することでも実現できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学系を介して入射した被写体像を撮像する撮像手段と、
前記撮像手段から被写体までの距離を算出する距離算出手段と、
前記距離算出手段により算出された距離に基づいて、前記撮像手段により撮像された画像データ内の被写体領域について被写体を近似する平面を算出する近似平面算出手段と、
前記近似平面算出手段により算出された平面と前記撮像手段の光軸との角度に基づいて、前記光学系又は前記撮像手段の移動量を算出する移動量算出手段とを有することを特徴とする画像処理装置。
【請求項2】
前記移動量算出手段により算出された移動量に従って、前記光学系又は前記撮像手段を移動させる移動手段を更に有することを特徴とする請求項1に記載の画像処理装置。
【請求項3】
前記近似平面算出手段により算出された平面とともに、前記光学系又は前記撮像手段の移動量もしくは移動による効果を提示する提示手段を更に有することを特徴とする請求項1又は2に記載の画像処理装置。
【請求項4】
光学系を介して入射した被写体像を撮像する撮像手段から被写体までの距離を算出する距離算出ステップと、
前記距離算出ステップにより算出された距離に基づいて、前記撮像手段により撮像された画像データ内の被写体領域について被写体を近似する平面を算出する近似平面算出ステップと、
前記近似平面算出ステップにより算出された平面と前記撮像手段の光軸との角度に基づいて、前記光学系又は前記撮像手段の移動量を算出する移動量算出ステップとを含むことを特徴とする画像処理方法。
【請求項5】
光学系を介して入射した被写体像を撮像する撮像手段から被写体までの距離を算出する距離算出ステップと、
前記距離算出ステップにより算出された距離に基づいて、前記撮像手段により撮像された画像データ内の被写体領域について被写体を近似する平面を算出する近似平面算出ステップと、
前記近似平面算出ステップにより算出された平面と前記撮像手段の光軸との角度に基づいて、前記光学系又は前記撮像手段の移動量を算出する移動量算出ステップとをコンピュータに実行させるためのプログラム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2011−139379(P2011−139379A)
【公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−298970(P2009−298970)
【出願日】平成21年12月28日(2009.12.28)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】