説明

画像制御装置

【課題】計測されたベルト移動速度に重畳されたベルトの厚みムラ及びローラー軸の偏心による誤差を除去し、ベルト移動速度の制御をより精度よく行う。
【解決手段】搬送ベルト160の移動速度及び従動ローラーの回転角速度を検出するレーザードップラー速度計311及び従動側エンコーダ310を有し、測定された速度比からベルトプロファイルデータ及びローラープロファイルデータとしてそれぞれ抽出する速度比演算部401と、それぞれのプロファイルデータに基づいて、搬送ベルト160上における複数の画像間の位置ズレが小さくなるように、ヘッドユニット110による各画像形成のタイミングを制御する補正制御部331とを有し、これらプロファイルは、フーリエ変換を行うとともに、ローラーの特性に応じた有効次数となるように、フーリエ変換された結果から、所定の周波数を削除し、さらに逆フーリエ変換することによって生成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は印刷装置に係り、特に、画像の形成を制御する画像制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、無端状の搬送ベルトを用いて、記録用紙を搬送する搬送機構を備えた印刷装置がある。この印刷装置では、搬送ベルトを用いて記録用紙を搬送し、その搬送方向に沿って配置された互いに異なる単色の画像を形成する複数のインクヘッドに順次通過させる。これにより、記録用紙上に各単色画像を重ね合わせてカラー画像を得ることができる。
【0003】
ところで、搬送ベルトを一定の移動速度で移動させる高精度な駆動制御が要求されることから、従来、ベルトを駆動する駆動ローラーの回転速度を一定とする仕組みとして、駆動ローラーの回転を制御する駆動制御方法が知られている。この駆動制御方法としては、駆動源であるモーターの回転角速度や、モーターで発生する回転駆動力を駆動ローラーに伝達させるギヤの回転角速度を一定に保持することにより、駆動ローラーの回転速度を一定にするものがある。
【0004】
しかしながら、ベルト周方向におけるベルト厚みムラがあり、このムラによりベルトの移動速度が変化するという問題がある。このベルト厚みムラは、例えば、円筒金型を用いて遠心焼成方式で作成されたベルトにみられるベルト周方向にわたる肉厚の偏りによって生じるものであり、このようなベルト厚みムラがベルトに存在すると、ベルトを駆動する駆動ローラー上にベルト厚の厚い部分が巻き付いているときにはベルト移動速度が速くなり、反対にベルト厚の薄い部分が巻き付いているときにはベルト移動速度が遅くなり、ベルト移動速度に変動が生じることとなる。
【0005】
このように搬送ベルトの移動速度が一定速度に維持されないと、複数のインクヘッドによって記録用紙上に各単色画像を形成し、これらを複数色重ね合わせる際に、各単色画像の転写位置が相対的にずれる、いわゆる「着弾ズレ」が発生する。このような着弾ズレが発生すると、例えば、複数色の画像が重なって形成された細線画像がにじんで見えたり、複数色の画像が重なって形成された背景画像中に形成される黒の文字画像の輪郭周辺に白抜けが発生したりする。
【0006】
このような着弾ズレを防止するために、ベルト速度変動を低減する技術として、例えば特許文献1に記載されたものがある。この特許文献1に開示された技術では、予めベルト全周における厚みプロファイル(ベルト厚みムラ)を測定するとともに、その厚みプロファイルデータをデータ記憶手段に記憶しておき、その全周の厚みプロファイルデータと実際のベルト厚みムラとの位相を合わせ、ベルト速度変動による印字位置ズレが生じないように印字タイミングを変化させる。
【0007】
詳述すると、この特許文献1に開示された技術では、搬送ベルトが掛け渡された2つのローラー(駆動ローラー及び従動ローラー)の回転角速度の差分データから、ベルト速度変動に対応した周波数を有する回転角速度の交流成分を抽出し、抽出した交流成分の振幅及び位相のデータからベルト厚みムラによるベルト速度変動を認識し、その認識したベルト速度変動に基づいて、複数の画像毎に、画像形成の開始タイミングや画像形成中の画像形成速度を調節している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006−227192号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1に開示された技術では、搬送ベルトの速度変動の補正データは、そのデータ量が膨大であるために演算処理の負担が増大し、処理遅延の原因となる可能性があり、また、補正データを格納しておくためのメモリ使用量が増大するという問題がある。その結果、印刷装置を製造するために高性能な部品・装置が必要となり、製造コストが増加することとなる。
【0010】
また、補正データをそのまま記憶した場合、そのデータには、駆動ローラーのモーター等、駆動部分の振動がノイズとして含まれてしまい、これがベルト速度変動としてデータに反映されてしまう。したがって、これらのノイズが含まれた状態で補正データを作成した場合には、ベルト速度変動制御の精度が低下する原因ともなっていた。
【0011】
本発明は、以上の問題を鑑みてなされたものであり、その目的は、搬送ベルトにより用紙を搬送する搬送機構を備えた印刷装置において、ベルトの厚みムラデータ、ローラー軸の偏芯データをプロファイルとして用いて、印字のタイミングを調整する際に、これらのプロファイルの情報量を軽減し、演算処理の高速化や、製造コストの削減を実現し、さらには、プロファイルデータに含まれるノイズを低減し、ベルト移動速度の制御をより精度よく行える、印刷装置の画像制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明は、複数の支持ローラー間に掛け渡された無端状の搬送ベルトと、搬送ベルトを無端移動させる駆動手段と、搬送ベルト上の記録用紙上に複数の画像を互いに重なり合うように形成する複数のインクヘッドとを有する印刷装置において、画像の形成を制御する画像制御装置であって、支持ローラーと、搬送ベルト上における任意の測点との速度比の時間的変動から、速度比に対応した周波数を有する速度比データを、ベルトプロファイルとして記憶するベルトプロファイル記憶部と、支持ローラーの偏心により引き起こされるベルト送り速度比の時間的変動をローラープロファイルとして記憶するローラープロファイル記憶部と、ベルトプロファイル及びローラープロファイルに基づいて、搬送ベルト上での複数の画像間の位置ズレが小さくなるように、インクヘッドによる各画像形成のタイミングを制御する印字制御手段とを備え、ベルトプロファイル及びローラープロファイルは、速度比データ及びベルト送り速度比の時間的変動に対しフーリエ変換を行うとともに、ベルトと支持ローラーの特性に応じた有効次数となるように、フーリエ変換された結果から、所定の周波数を削除し、さらに逆フーリエ変換することによって生成される。
【0013】
このような本発明によれば、搬送ベルトの厚みムラ情報や支持ローラーの偏心情報をプロファイルとして記憶保持しておき、これをインクヘッドによる画像形成のタイミングを制御することによって、着弾ズレを低減し、画質の向上を図ることができる。特に、本発明では、このプロファイルをフーリエ変換して、さらにフィルタリングにより有効次数以上の周波数のノイズを削除していることから、プロファイルのデータサイズを縮小することができる。ここで、支持ローラーの偏心情報は、偏心に起因する速度変動に関する情報であり、前記ベルト送り速度比の時間的変動の他、各測点における移動速度の時間的変動から支持ローラの偏心に対応した周波数を有する情報も含まれ、この情報をプロファイルとして記憶保持してもよい。
【0014】
上記発明において、支持ローラーの特性には、支持ローラーの周期や、支持ローラーと支持ローラーを駆動する駆動軸との減速比が含まれ、前記フーリエ変換された結果に対して、前記ローラー周期の定数倍や、減速比をノイズの周波数で除した値までの有効次数となるように、有効次数の範囲外の周波数を削除することが好ましい。なお、上記発明において、定数は、5であり、減速比は5以上とすることが好ましい。
【0015】
この場合には、支持ローラーの回転周期や、駆動軸に対する減速比及びノイズの周波数と、フィルタリングの際における有効次数との相関関係を応用して、プロファイルの精度を損なうことなく、駆動源及びその駆動源などからのノイズを有効に低減してデータサイズを縮小することができる。ここで、駆動軸には、駆動源である駆動モータの回転軸の他、この駆動モータから駆動力を伝達するためのギアやプーリ等の駆動系要素の回転軸が含まれる。従って、支持ローラーと駆動軸との速度比については、その駆動側の基準を、支持ローラーに直接連結されたギアとするか、駆動力の原点である駆動モータとするかは、フィルタリングの対象となっているノイズの発生源(発生位置)に応じて、適宜選択することが好ましい。例えば、ノイズが駆動モータから発生している場合には、駆動側速度の基準点を駆動モータの回転軸とし、ノイズがギアやプーリーなどの駆動系要素から発生している場合には、その特定の駆動系要素(例えば、最終段のギアなど)の回転軸として、支持ローラーとの速度比を求める。
【0016】
また、上記発明において、ベルトの特性には、ベルトの周期やベルトとベルトを駆動する支持ローラーとの減速比が含まれ、フーリエ変換された結果に対しては、フーリエ変換された結果に対しては、ベルト周期の定数倍や減速比をノイズの周波数で除した値までの有効次数となるように、有効次数の範囲外の周波数を削除することが好ましい。なお、上記発明において、定数は、5であり、減速比は5以上とすることが好ましい。
【0017】
この場合には、搬送ベルトの回転周期や、支持ローラーに対する減速比及びノイズの周波数と、フィルタリングの際における有効次数との相関関係を応用して、プロファイルの精度を損なうことなく、駆動源などからのノイズを有効に低減してデータサイズを縮小することができる。
【0018】
すなわち、本発明の発明者等は、搬送ベルトの移動速度の変動に基づいて算出された搬送ベルトの厚みムラや支持ローラーの偏心を記録したプロファイルのノイズ低減に関し、搬送ベルトと支持ローラーの周期と有効次数との相関関係、或いは減速比(支持ローラー:駆動モーター及び搬送ベルト:支持ローラー)とノイズ周波数と有効次数との相関関係を発見し、それを印刷装置の画像制御装置に応用したのが本発明である。
【0019】
このフーリエ変換後の周波数解析では、搬送ベルトのムラの有効データは、ベルト自体の速度を現す図示しない0次と、厚みムラの1次〜5次であり、それ以上の周波数成分である7次はベルトの厚みムラを近似する寄与度が低く、駆動ローラーの周期である8次より高い周波数成分は駆動ローラーの偏芯などのノイズが含まれる。
【0020】
ローラープロファイルの偏芯の補正に寄与する有効データは8〜40次であり(ベルト1周でローラは8周、下記に示すような有効次数は5次で十分)、48次は補正に対する寄与度が低く、48次以上はモーターの駆動ノイズが多い。減速比を考慮するとローラーに対するモーターの周波数成分は、8/8〜40/8=1次から5次と、ベルトと同様5次までを有効次数とすると充分な精度があることがわかった。したがって、本発明では、フーリエ変換後における有効次数を、ローラー周期や減速比の定数倍としている。なお、この定数倍としては、ベルト1周に対し支持ローラーが8周する場合、支持ローラーの周期及び減速比とともに、5倍から7倍が最適であり、7次の精度に対する寄与度が小さいことが実験的に分かったため5次とした。
【発明の効果】
【0021】
以上述べたように、この発明によれば、搬送ベルトにより用紙を搬送する搬送機構を備えた印刷装置において、ベルトの厚みムラデータ、ローラー軸の偏芯データを、プロファイルとして用い、印字のタイミングを調整する際、これらのプロファイルをフーリエ変換しフィルタリングすることで、補正データの情報量を軽減し、演算処理の高速化や、製造コスト削減することができ、且つ、補正データに含まれるノイズを削除し、ベルト移動速度の制御をより精度よく行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】実施形態に係る印刷装置の搬送経路の概要を示す構成図である。
【図2】実施形態に係るヘッドユニット110の吐出タイミング制御に関するモジュールを示す機能ブロック図である。
【図3】実施形態において、演算処理部内の処理と、印刷装置での印刷・搬送の駆動部との関係を示す機能ブロック図である。
【図4】実施形態に係るプロファイル生成に関するモジュールを示す機能ブロック図である。
【図5】実施形態に係るプロファイル生成の機能及び動作を模式的に示す説明図である。
【図6】実施形態に係るインクの吐出タイミングを制御する際の、エンコーダ信号の補正に関する説明図である。
【図7】実施形態に係るプロファイルデータの生成時における手順を示すフローチャート図である。
【図8】実施形態に係る速度変動に対応した周波数を有する速度比データを表すグラフ図である。
【図9】実施形態に係る速度比累積データに対する補正処理の手順を示すフローチャート図である。
【図10】実施形態に係る速度比率に対する累積データ算出を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
(印刷装置の全体構成)
本発明の実施形態について図面を参照して説明する。図1(a)は、本実施形態に係る印刷装置100の搬送経路の概要を示す図である。本実施形態では、印刷装置100は、多数のノズルが形成されたインクヘッドを複数備え、それぞれのインクヘッドから黒又はカラーインクを吐出してライン単位で印刷を行い、搬送ベルト上の記録媒体上に複数の画像を互いに重なり合うように形成するインクジェット方式のラインカラープリンタを例に説明する。
【0024】
図1(a)に示すように印刷装置100は、環状の搬送経路上を搬送される記録媒体表面に画像を形成する装置であり、搬送経路は、記録媒体を供給する給紙系搬送路FRと、この給紙系搬送路FRからヘッドユニット110を経て排紙経路DRへ至る通常経路CRと、通常経路CRに分岐接続された反転経路SRとから概略構成されてる。
【0025】
給紙系搬送路FRにおいて、記録媒体の供給を行う給紙機構としては、筐体側面の外部に配設されたサイド給紙台120と、筐体内部に設けられた複数の給紙トレイ(130a、130b、130c、130d)とが備えられている。また、印刷済みの記録媒体を排出する排紙機構として排紙口140を備えている。
【0026】
サイド給紙台120、給紙トレイ130のいずれかの給紙機構から給紙された記録媒体は、ローラー等の駆動機構によって筐体内の給紙系搬送路FRに沿って搬送され、記録媒体の先頭部分の基準位置であるレジスト部Rに導かれる。レジスト部Rのさらに搬送方向側には、複数のインクヘッドを備えたヘッドユニット110が設けられている。記録媒体は、ヘッドユニット110の対向面に設けられた搬送ベルト160によって印刷条件により定められる速度で搬送されながら、各インクヘッドから吐出されたインクによりライン単位で画像形成される。
【0027】
印刷済みの記録媒体は、さらに、ローラー等の駆動機構によって通常経路CR上を搬送される。記録媒体の片側の面のみに印刷を行う片面印刷の場合は、そのまま排紙経路DRを経て、排紙口140に導かれて排紙され、排紙口140の受台として設けられた排紙台150に印刷面を下にして積載されていく。排紙台150は、筐体から突出したトレイ形状をしており、ある程度の厚みを有している。排紙台150は傾斜しており、傾斜の下位置に形成された壁により、排紙口140から排紙された記録媒体が自然に整えられて重なっていくようになっている。
【0028】
一方、記録媒体の両面に印刷を行う両面印刷の場合は、表面(最初に印刷される面を「表面」、次に印刷される面を「裏面」とする。)印刷終了時には排紙経路DR側に導かれずに、さらに筐体内を搬送され、反転経路SRに送出される。このため、印刷装置100は、裏面印刷用に搬送路を切り替えるための切替機構170が設けられており、切替機構170によって排出経路へ送出されなかった記録媒体は、反転経路SRに引き込まれる。
【0029】
この反転経路SRでは、通常経路CRから記録媒体が受け渡され、記録媒体を往復させることにより記録媒体の表裏を反転させる、いわゆるスイッチバックを行う。そして、ローラー等の駆動機構によって、切替機構172を経由して通常経路CRに戻され、レジスト部Rを経て再給紙されて、表面と同様の手順によって裏面の印刷が行われる。その後、裏面の印刷が行われ、両面に画像が形成された記録媒体は、排紙経路DRを通じて排紙口140に導かれて排紙され、排紙口140の受台として設けられた排紙台150に積載されていく。
【0030】
なお、本実施形態では、両面印刷時におけるスイッチバックを、排紙台150内に設けられた空間を利用して行うようにしている。排紙台150内に設けられた空間は、スイッチバック時に記録媒体が外部から取り出せないように覆われた構成となっている。これにより、利用者が誤って反転動作中の記録媒体を引き抜いてしまうことを防ぐことができる。また、排紙台150は、本来印刷装置100に備えられているものであり、排紙台150内の空間を利用してスイッチバックを行うことにより、印刷装置100内に、別途スイッチバック用の空間を設ける必要がなくなる。したがって、筐体のサイズが増大してしまうことを防ぐことができる。さらに、排紙経路と反転経路とを共用しないため、スイッチバック処理と他の記録媒体の排紙とを並行して行うことができる。
【0031】
印刷装置100では、給紙された記録媒体の先頭部分の基準位置となるレジスト部Rに、両面印刷時に片面印刷済みの記録媒体も再給紙されてくる。このため、レジスト部Rの直前部分には、新規に給紙される記録媒体の搬送経路と、裏面印刷の記録媒体が循環して搬送されてくる再給紙経路とが合流する合流点が形成される。そして、レジスト部Rは、給紙系搬送路FRと通常経路CRとの合流点近傍において、記録媒体の送り出しを行う。
【0032】
なお、本実施形態では、上記合流点を基準に、給紙機構側の経路を給紙系搬送路FRとし、それ以外の経路を搬送経路とする。この搬送経路は環状をなし、上述したように通常経路CRと反転経路SRとが含まれる。図1(b)は、給紙系搬送路FRと通常経路CRと反転経路SRとを模式的に示した図である。なお、同図では、駆動部を構成するローラーの個数は適宜省略している。
【0033】
給紙系搬送路FRには、サイド給紙台120からの給紙を行うためのサイド給紙駆動部220、給紙トレイ130(130a、130b、130c、130d)からの給紙を行うためのトレイ1駆動部230a、トレイ2駆動部230b…が備えられている。これらによって、レジスト部Rに記録媒体を送り出す給紙手段が構成されている。
【0034】
さらに、上述した給紙系搬送路FRにおけるいずれの駆動部(トレイ1駆動部230a、トレイ2駆動部230b…)も複数のローラー等で構成された駆動機構を備え、給紙台又は給紙トレイに積載された記録媒体を1枚ずつ取り込んで、レジスト部R方向に搬送する。各駆動部は独立に駆動することが可能であり、給紙を行う給紙機構に応じて必要な駆動部の動作が行われる。
【0035】
また、給紙系搬送路FRには、搬送センサーが複数個配置され、給紙系搬送路FRにおける搬送ジャムを検出できるようになっている。すなわち、各搬送センサーは、記録媒体の有無又は記録媒体の先端を検出するセンサーであり、例えば、搬送経路上に複数の搬送センサーを適当な間隔で並べ、給紙側に設けられた搬送センサーが記録媒体を検出してから所定時間内に搬送方向側の搬送センサーが記録媒体を検出しない場合に、搬送ジャムが発生したと判断することができる。
【0036】
これら搬送センサーのうち、記録媒体の送り出しを行うレジスト部R手前のレジストセンサーは、搬送中の記録媒体サイズを計測し、例えば、記録媒体の通過速度及び通過時間に基づいて、通過中の記録媒体のサイズを測定したり、サイド給紙駆動部220、トレイ1駆動部230a等を駆動させてから所定時間内に搬送センサーが記録媒体を検出しない場合に、搬送ジャム(給紙エラー)が発生したと判断することができる。
【0037】
通常経路CRは、循環搬送路の一部を構成し、記録媒体を供給する給紙系搬送路FRからヘッドユニット110を経て、排紙経路DRへ至る経路であり、この通常経路CR上において記録媒体上面に画像が形成される。この通常経路CRには、レジスト部Rに記録媒体を導くレジスト駆動部240、ヘッドユニット110の対向面に設けられた搬送ベルト160を無端移動させるために駆動する駆動モーター250、搬送方向側に順に配置される第1上面搬送駆動部260及び第2上面搬送駆動部265、排紙口140に印刷済みの記録媒体を導く上面排出駆動部270、裏面印刷用に記録媒体を反転経路SRに引き込む駆動手段が備えられている。いずれの駆動部も1又は複数のローラー等で構成された駆動機構を備え、搬送経路に沿って記録媒体を1枚ずつ搬送する。各駆動部は独立に駆動することが可能であり、記録媒体の搬送状況に応じて必要な駆動部の動作が行われる。
【0038】
さらに、通常経路CRにも搬送センサーが複数個配置され、通常経路CRにおける搬送ジャムを検出できるようになっている。さらに、レジスト部Rにおいても適切に記録媒体が搬送されていることを確認できるようになっている。通常経路CRでは、駆動部対応に搬送センサーが設けられており、通常経路CRのどの駆動部で搬送ジャムが発生したかを特定することができるようになっている。
【0039】
反転経路SRは、通常経路CRに分岐接続され、通常経路CRから記録媒体が受け渡され、記録媒体を往復(スイッチバック)させて通常経路CRに戻すことにより記録媒体の表裏を反転させる反転経路及び搬送機構であり、この反転経路SRには、記録媒体を反転させて合流点に導く反転駆動部281及び再給紙駆動部282が備えられている。そして、反転経路SRでは、通常経路CRと異なる速度で搬送が可能であり、通常経路CRから記録媒体を引き継ぐ際に、加速・減速させたり、スイッチバックの際の停止時間を延長したり短縮したりすることができる。
【0040】
そして、本実施形態においては、ある記録媒体を給紙した後、その記録媒体に印刷が施され排紙されるのを待って次の記録媒体を給紙するのではなく、スケジューリングにより、先行する記録媒体が排紙される前に、後続の記録媒体を給紙して、所定の間隔で連続的に印刷できるようになっている。したがって、両面印刷時の通常のスケジューリングでは、表面の記録媒体を給紙する際に、反転経路SRから戻ってきた記録媒体が挿入される位置を確保するように、予めスペースを確保しておく。これにより、本装置では、表面の印刷と裏面の印刷とを並行させることができ、片面印刷時に対して1/2の生産性を確保することができる。
【0041】
前記搬送ベルト160は、ヘッドユニット110に対向する面の前端及び後端に配設された駆動ローラー161及び従動ローラー162に掛け渡されており、図1(a)中時計回り方向に回転移動する。また、搬送ベルト160の上面には、そのベルト移動方向に沿って、4色のインクヘッドが並べて配置され、複数の画像を互いに重なり合うようにしてカラー画像を形成するヘッドユニット110が対向配置されている。
【0042】
さらに、図1(a)に示すように、印刷装置100には、演算処理部330が備えられている。この演算処理部330は、CPUやDSP(Digital Signal Processor)等のプロセッサ、メモリ、及びその他の電子回路等のハードウェア、或いはその機能を持ったプログラム等のソフトウェア、又はこれらの組み合わせなどによって構成された演算モジュールであり、プログラムを適宜読み込んで実行することにより種々の機能モジュールを仮想的に構築し、構築された各機能モジュールによって、画像データに関する処理や、各部の動作制御、ユーザー操作に対する種々の処理を行う。また、この演算処理部330には、操作パネル340が接続されており、この操作パネル340を通じて、ユーザーによる指示や設定操作を受け付けることができる。
【0043】
(吐出タイミング制御)
上述したヘッドユニット110における吐出タイミングの制御も、上記演算処理部330によって行われる。図2は、演算処理部330におけるヘッドユニット110の吐出タイミング制御に関するモジュールを示す機能ブロック図であり、図3は、演算処理部330内の処理と、印刷装置100での印刷・搬送の駆動部との関係を示す機能ブロック図である。なお、説明中で用いられる「モジュール」とは、装置や機器等のハードウェア、或いはその機能を持ったソフトウェア、又はこれらの組み合わせなどによって構成され、所定の動作を達成するための機能単位を示す。
【0044】
図2に示すように、この演算処理部330は、補正制御部331と、記憶部332と、吐出制御部333と、駆動制御部334と、システム制御部335とを備えており、ベルトプロファイルデータ及びローラープロファイルデータを記憶部332から補正制御部331に転送し、補正制御部331においてエンコーダの出力補正を行う。
【0045】
記憶部332は、生成されたベルトプロファイルデータ及びローラープロファイルデータを記録するメモリ装置であり、ベルトプロファイルデータを記憶する記憶メモリ332bと、ローラープロファイルを記憶する記憶メモリ332aとから構成されている。なお、本実施形態において、ベルトプロファイルデータ及びローラープロファイルデータは、外部のプロファイル生成装置400等によって予め生成され、工場出荷時などにインストールされることによって、記憶メモリ332a及び332bに保存される。
【0046】
補正制御部331は、記憶部332に記憶されているベルトプロファイルデータ及びローラープロファイルデータに基づいて、搬送ベルト160上での複数の画像間の位置ズレが小さくなるように、従動側エンコーダ310から入力される検出信号を補正し、各吐出制御部333に入力するモジュールである。
【0047】
本実施形態において補正制御部331は、ベルトプロファイル補正制御部331bと、ローラープロファイル補正制御部331aとを備えている。ベルトプロファイル補正制御部331bは、ベルトプロファイルデータに基づいて、従動側エンコーダ310からの検出信号を補正するモジュールであり、ベルトの厚みムラ成分による速度変動を補正する。一方、ローラープロファイル補正制御部331aは、ローラープロファイルデータに基づいて、従動側エンコーダ310からの検出信号を補正するモジュールであり、主として従動ローラーの偏心情報による速度変動を補正する。
【0048】
なお、本実施形態では、支持ローラーの偏心情報を記録したローラープロファイルの対象として、従動ローラーを選択したが、例えば、駆動ローラー等、他の支持ローラーも対象とすることができる。また、本実施形態では、ローラープロファイルデータは、偏心情報であるベルト送り速度比の時間的変動をプロファイルデータとしたが、偏心情報には、支持ローラーの偏心に対応した周波数を有する情報も含まれ、ローラープロファイルとしてこの情報を選択することもでき、また、これら二つの情報を含ませることもできる。
【0049】
また、ベルトプロファイル補正制御部331bには、従動側エンコーダ310からの検出信号と併せて、ベルト1周に1箇所のマーク(基準マーク)を検知するベルトHPセンサー312で検知したベルトホームポジション信号が入力される。一方、ローラープロファイル補正制御部331aには、ベルトプロファイル補正制御部331bで補正された検出信号が入力されるとともに、ローラー1周を検知するローラーHPセンサー313で検知したローラーホームポジション信号が入力される。
【0050】
前記吐出制御部333は、この補正された検出信号に基づいて、ヘッドユニット110による各画像形成のタイミングを制御する印字制御手段であり、ヘッドユニット110は、この吐出制御部333による制御に従って、記録媒体10上に複数の画像を形成する。
【0051】
システム制御部335は、演算処理部330内の各モジュールの動作を制御する中央演算処理部であり、印刷時の画像処理の他、駆動制御部334を通じて、搬送経路の各駆動部の動作を制御する。また、システム制御部335は、外部との通信を行う通信インターフェースや、操作パネル340に対するデータ送受信のインターフェース機能も果たす。
【0052】
(印刷処理時における吐出タイミング制御方法)
そして、このように生成されたプロファイルデータを用いた吐出タイミング制御は以下の手順により行う。図3は、印刷処理時における動作を模式的に示すブロック図である。なお、ここでは、記憶部332に、ローラープロファイルデータ及びベルトプロファイルデータが、それぞれ独立したプロファイルデータとして、既に記憶メモリ332a及び332bにそれぞれ保存されているものとする。
【0053】
先ず、印刷処理が開始される際、記憶されたローラープロファイルデータ及びベルトプロファイルデータが、記憶メモリ332a及び332bから、それぞれ読み出され、補正制御部331に入力される。
【0054】
次いで、印刷処理が開始されると、従動側エンコーダ310による検出された角速度が入力されて、搬送ベルトの移動速度を測定し(S201)、この測定結果に基づいて、ヘッドユニット110の吐出制御を行う。この吐出制御に際し、補正制御部331は、記憶部332に記憶されているローラープロファイルデータ及びベルトプロファイルデータに基づいて、搬送ベルト160上における複数の画像間の位置ズレが小さくなるように、従動側エンコーダ310から入力されるエンコーダ検出信号を補正し(S202、S203)、吐出制御部333に入力する。
【0055】
この補正では、ベルトプロファイルデータ内の補正値が、ホームポジション信号に基づいて、搬送ベルト160の回転周期に合わせて読み出され、図6に示すように、従動側エンコーダ310から入力されるエンコーダ検出信号が、補正値に応じて早められたり遅められたりして、搬送ベルト160上における複数の画像間の位置ズレが小さくなるように調整されて吐出制御部333に入力される。吐出制御部333では、この補正されたエンコーダ検出信号に基づいて、ヘッドユニット110による各画像形成のタイミングを制御し(S204)、ヘッドユニット110は、この吐出制御部333による制御に従って、インクを吐出し、記録媒体上に複数の画像を形成する。
【0056】
なお、本実施形態では、着弾ずれを解消させるためには、図6中Δdで示すような、適正着弾位置を基準とする絶対的な位置ずれを算出する必要があり、ベルト上の2測点における瞬間々々の測定値は、これら2測点間の相対的な速度変動であることから、着弾ずれの修正に際しては、所定の基準点に対する絶対的な速度変動を演算する必要がある。本実施形態では、各時点での2測点間の速度比を累積させ、各時点における絶対的な位置ずれであるΔdを予めプロファイルとして保持しておく。
【0057】
(プロファイル生成装置)
本実施形態において、上述したベルトプロファイルデータ及びローラープロファイルデータは、プロファイル生成装置400を用いて生成され、記憶部332にインストールされる。図4は、プロファイル生成装置400の概略構成を示す説明図である。図4(a)に示すように、プロファイル生成装置400は、印刷装置100の製造時や工場出荷前、メンテナンス時などに一時的に印刷装置100に対して接続される外部装置であり、LDV装置400aと、PC400bとから概略構成される。
【0058】
LDV装置400aは、搬送速度測定手段であるレーザードップラー速度計311により、非接触で対象物の移動速度を計測する装置であり、搬送ベルト160の上面に取付けられたレーザードップラー速度計311と、従動ローラー162に設けられた従動側エンコーダ310と、搬送ベルト160の1周を検出するベルトホームポジションセンサー312と、従動ローラー162の一回転を検出するローラーホームポジションセンサー313とが接続され、これら各センサーからの入力信号を取得し、同期させつつプロファイル生成装置であるPC400bに受け渡す。
【0059】
PC400bは、CPUを備えた演算処理装置であり、パーソナルコンピュータ等の汎用コンピュータや、機能を特化させた専用装置により実現することができ、CPU上でソフトウェアを実行することによって、プロファイルデータ生成装置として機能する。具体的に、このプロファイルデータ生成装置としてのPC400は、図4(b)に示すように、速度比演算部401と、データ処理部402と、データメモリ403とから構成されている。
【0060】
速度比演算部401は、ベルト速度抽出部401b及びローラー速度抽出部401aによって、各測点における速度比の時間的変動を算出するモジュールであり、具体的には、ベルト速度抽出部401b及びローラー速度抽出部401aによって、ベルト上における任意の2測点における移動速度を、搬送速度測定手段によって測定する。本実施形態では、この任意の2測点を第1の測点及び第2の測点とし、第1の測点の移動速度は、インクヘッド中央部直下の搬送ベルト表面の移動速度とし、第2の測点は従動ローラー162の回転速度(角速度)とする。
【0061】
また、本実施形態では、第1の測点に対する搬送速度測定手段は、搬送ベルト表面の移動速度を光学的に測定する非接触測定装置であり、本実施形態においては、レーザードップラー速度計311を用いる。レーザードップラー速度計311は、搬送ベルト160表面の移動速度を光学的に測定する搬送速度測定手段であり、具体的には、対象物との相対速度によって、入射光と反射光との波長の変化を測定することにより対象物の速度を測定する。なお、レーザードップラー速度計311は、当該印刷装置100に対して着脱自在に設けられている。これにより、プロファイルデータ作成時においてのみ、レーザードップラー速度計311を設置することができ、高価な測定装置を画像形成装置に内蔵させることなく、製造コストの低廉化を図ることができる。
【0062】
一方、第2の測点に対する搬送速度測定手段は、従動ローラー162の回転速度を測定する従動側エンコーダ310を用いる。これらベルト速度抽出部401b及びローラー速度抽出部401aは、レーザードップラー速度計311により測定された移動速度と、従動側エンコーダ310の検出信号とから、搬送ベルト及びローラーの速度データをそれぞれ抽出する。
【0063】
そして、本実施形態では、図4(b)に示すように、レーザードップラー速度計311からの検出信号、及び従動側エンコーダ310からの検出信号は、速度比演算部401に入力される。また、この速度比演算部401には、ベルト1周に1箇所のマーク(基準マーク)を検知するベルトHPセンサー312と、ローラー1周で1箇所のマーク(基準マーク)を検知するローラーHPセンサー313で検知したそれぞれのホームポジション信号が入力される。
【0064】
速度比演算部401は、レーザードップラー速度計311によって検出された搬送ベルト表面の移動速度と、従動側エンコーダ310で検出された回転角速度とに基づいて、各測点における速度比の時間的変動を算出し、算出された速度比に対応した周波数からベルトプロファイルデータ及びローラープロファイルデータを抽出する。
【0065】
データ処理部402は、速度比データに対して平均化やデジタル化等の処理を施すモジュールである。データメモリ403は、レーザードップラー速度計311により測定されたパルス幅データや、従動側エンコーダ310からの検出信号を速度データとして記録するメモリ装置である。
【0066】
特に、本実施形態において、データ処理部402は、上述したベルトプロファイル及びローラープロファイルは、速度比データ及びベルト送り速度比の時間的変動に対しフーリエ変換を行うとともに、このフーリエ変換されたデータに対し、駆動ローラー161の特性、又は搬送ベルト160の特性に応じた有効次数となるようにフィルタリングを行って所定の周波数を削除し、さらに逆フーリエ変換することにより、データサイズの縮小化を実行する機能を有している。
【0067】
本実施形態におけるフィルタリングにおける駆動ローラー161の特性としては、駆動ローラー161の周期、及び駆動モーター250との速度比を用い、フーリエ変換されたプロファイルデータに対して、駆動ローラー161の周期を定数倍とする有効次数の範囲、且つ減速比をノイズの周波数で除した値までを有効次数とする範囲となるように、前記有効次数以上の周波数を削除する。ここでの定数倍としては、実験的に得られた数値「5」としている。
【0068】
なお、本実施形態における駆動ローラー161の特性として、駆動ローラー161の周期、及び駆動モーター250との速度比を用いるが、この速度比としては、駆動ローラー161と駆動モーター250との速度比のみに限定されず、発生しているノイズの発生源や周波数に応じて、駆動系に含まれる駆動軸を選択することが好ましい。
【0069】
この駆動軸としては、駆動源である駆動モータ250の回転軸の他、この駆動モータ250から駆動力を伝達するためのギアやプーリ等の駆動系要素の回転軸が含まれる。従って、駆動ローラー161と駆動軸との速度比については、その駆動側の基準を、駆動ローラー161に直接連結されたギアとするか、駆動力の原点である駆動モータ250とするかは、フィルタリングの対象となっているノイズの発生源(発生位置)に応じて、適宜選択する。例えば、ノイズが駆動モータ250から発生している場合には、駆動側速度の基準点を駆動モータ250の回転軸とし、ノイズがギアやプーリーなどの駆動系要素から発生している場合には、駆動側速度の基準点を、その特定の駆動系要素(例えば、最終段のギアなど)の回転軸とし、駆動ローラー161の特性として、上記駆動系要素と駆動ローラー161との速度比を用いる。
【0070】
また、上記フィルタリングにおけるベルトの特性としては、搬送ベルト160の周期が含まれ、前記フーリエ変換されたプロファイルデータに対しては、搬送ベルトの周期の定数倍の有効次数の範囲となるように、有効次数以上の周波数を削除する。ここでの定数倍としても、実験的に得られた数値「5」とすることができる。
【0071】
さらに、上記フィルタリングにおけるベルトの特性としては、搬送ベルト160と、この搬送ベルト160を駆動する駆動ローラー161との減速比とすることもできる。この場合には、前記フーリエ変換されたプロファイルデータに対しては、減速比をノイズの周波数で除した値までの有効次数となるように、有効次数以上の周波数を削除する。この搬送ベルト160と、駆動ローラー161との減速比としても、実験的に得られた数値「5」以上とすることができる。
【0072】
このように縮小化されたプロファイルデータは、データ処理部402からデータバスを通じてデータメモリ403に送出される。データメモリ403は、ベルトプロファイルデータ及びローラープロファイルデータを記憶する記憶部であり、記憶されたベルトプロファイルデータ及びローラープロファイルデータは、通信インターフェース404等によって、印刷装置100に送信される。
【0073】
以上の構成を備えたプロファイル生成装置400によりベルトプロファイルデータ及びローラープロファイルデータを生成する際の処理動作について詳述する。図5は、ベルトプロファイルを生成する際の動作手順を模式的に示すブロック図である。
【0074】
先ず、ベルト速度抽出部401b及びローラー速度抽出部401aによって、各測点における速度比の時間的変動を算出する。具体的には、ベルト速度抽出部401b及びローラー速度抽出部401aは、ベルト上における任意の2測点における移動速度を、搬送速度測定手段によって測定する(S101及びS102)。具体的には、第1の測点の移動速度は、レーザードップラー速度計311によって、対象物である搬送ベルト160表面に対して、入射光と反射光との波長の変化を測定し、第2の測点の速度は、従動ローラー162の回転速度を測定する。
【0075】
速度比演算部401では、従動側エンコーダ310の回転速度に対してレーザードップラー速度計311によって光学的に測定された移動速度と、レーザードップラー速度計311からの角速度に基づいて速度比を算出し(S103)、これらの速度比の時間的変化を記録することにより、移動速度の時間的変動をプロファイルとする(S104及びS105)。
【0076】
ここで、移動速度の時間的変動は、搬送ベルト全周における厚みムラや、支持ローラー(例えば、駆動ローラー161)の偏心に起因する速度変動を含んでいる。ベルト速度抽出部401bは、これらの移動速度の時間的変動から、搬送ベルトの移動速度に対応した周波数を有するベルトプロファイルデータを抽出し、ローラー速度抽出部401aは、各測点における移動速度の時間的変動から、支持ローラーの偏心により引き起こされるベルト送り速度比の時間的変動をローラープロファイルデータとして抽出する。
【0077】
次いで、データ処理部402において、抽出された上記ベルトプロファイル及びローラープロファイルに対してフーリエ変換を行うとともに、このフーリエ変換されたデータに対し、駆動ローラー161の特性(駆動ローラー161の周期、及び駆動ローラー161と駆動モーター250との速度比)に応じた有効次数となるようにフィルタリングを行って所定次数以上の周波数を削除し、さらに逆フーリエ変換することにより、データサイズの縮小化を実行する(S106)。
【0078】
このように縮小化されたプロファイルデータは、データ処理部402からデータバスを通じてデータメモリ403に送出される(S107)。なお、本実施形態では、速度比のデータをベルト1周分のデータとして記録する。
【0079】
なお、このベルトプロファイルデータ及びローラープロファイルデータを取得するタイミングとしては、本実施形態においては、工場出荷時としている。しかし、取得タイミングは、工場出荷時に限定されず、環境変化時、経時変化時やメンテナンス時などを契機とすることもできる。
【0080】
(プロファイル生成時の動作)
上記構成を有する本実施形態におけるプロファイル生成装置によるプロファイル生成時の動作について説明する。図7は、本実施形態におけるプロファイル生成方法の手順を示すフローチャート図である。図8は、速度変動に対応した周波数を有する速度比データを表すグラフ図である。
【0081】
先ず、プロファイル生成装置において、レーザードップラー速度計311及び従動側エンコーダ310の信号を検出する。そして、ベルト1周分のエンコーダ各パレス毎の速度データを測定する(S301)。
【0082】
次いで、速度比演算部401は、レーザードップラー速度計311及び従動側エンコーダ310で検出された移動速度及び回転角速度の比から、搬送ベルト160の速度変動に対応した周波数を有する移動速度の速度比データを抽出する(S302)。ここで、抽出された速度比データには、図8(a)に示すように、搬送ベルト160の厚みムラ、従動ローラー162の芯材の偏芯情報、及び駆動源からのノイズが含まれた状態にあり、微細な振動もデータに反映されている。
【0083】
次いで、データ処理部402によって、抽出された速度比データに対し、フーリエ変換を行い、周波数解析を行う(S303)。図8(b)は、フーリエ変換された速度比データの周波数の分布を示すグラフ図である。同図からも判るように、搬送ベルトのムラの有効データは、ベルト自体の速度を現す図示しない0次と、厚みムラの1次〜5次(ベルトプロファイルの厚みムラの補正に寄与する有効データは1次〜5次)であり、それ以上の周波数成分である7次はベルトの厚みムラを近似する寄与度が低く、駆動ローラーの周期である8次より高い周波数成分は駆動ローラーの偏芯などのノイズが含まれる。
【0084】
ローラープロファイルの偏芯の補正に寄与する有効データは8〜40次であり(ベルト1周でローラは8周、下記に示すような有効次数は5次で十分)、48次は補正に対する寄与度が低く、48次以上はモーターの駆動ノイズが多い。ローラーに対するベルトの減速比1/8を考慮すると、ローラーに対するモーターの周波数成分は、8/8〜40/8=1次から5次と、ベルトと同様5次までを有効次数とすると充分な精度があることがわかった。これは、一般的に、ある波形をフーリエ級数展開したとき、1〜5次までのsin、cos関数を取得し、逆フーリエ変換すれば、上記ある波形をほぼ再現できることからも、5次までを有効次数とすれば、良いといえる。本発明では、フーリエ変換後における有効次数を、ローラー周期や減速比の定数倍としている。なお、この定数倍としては、ベルト1周に対し駆動ローラー161が8周する場合、駆動ローラー161の周期及び減速比とともに、5倍から7倍が最適であり、7次の精度に対する寄与度が小さいことが実験的に分かったため5次とした。
【0085】
そして、ベルト速度抽出部401b及びローラー速度抽出部401aは、フーリエ変換された結果から、従動ローラー162の特性に応じた有効次数の範囲で、フィルタリングを行い、所定の周波数を削除して、ローラープロファイル及びベルトプロファイルの切り出しを行う(S304及びS306)。具体的には、ベルトプロファイルでは0次〜5次及び7次を有効次数とし、ローラープロファイルでは8〜40次を有効次数とし、これらそれぞれの有効次数以外の次数を削除する。
【0086】
ベルト速度抽出部401bは、図8(c)に示すベルト成分のみの周波数である0次〜5次を有効次数とする範囲(P1)を抽出する(S304)。ここでは、フーリエ変換された結果から、駆動モーター250と従動ローラー162との減速比が10:1であり、駆動ローラーのノイズ周期が1/2であることから、減速比をノイズの周波数で除した値までが有効次数の範囲となるように、有効次数の範囲を0次〜5次とし、有効次数以上の周波数を削除する。そして、このフィルタリングされたデータに対して逆フーリエ変換を行い(S305)、ベルトプロファイルとして生成する。この逆フーリエ変換されたデータは、図8(d)に示すように、微細な振動が削除されてデータが丸められることによって、データサイズが縮小されている。
【0087】
一方、ローラー速度抽出部401aでは、図8(c)に示すローラー成分のみの周波数である8〜40次を有効次数とする範囲(P2)で抽出する(S306)。ここでは、ベルト1周に対し従動ローラー162が8周するので、ローラープロファイルについては、ローラー周期(8周)の定数倍(5)とし、8次〜8×5=40次までを有効次数として、それ以上の周波数を削除する。
【0088】
そして、このフィルタリングされたそれぞれデータに対して逆フーリエ変換を行い(S305及びS307)、ベルトプロファイル及びローラープロファイルを生成する。算出されたローラープロファイルデータ及びベルトプロファイルデータは、データ処理部402からデータバスを通じてデータメモリ403に送出され、データメモリ403に記憶される。このように、ローラープロファイルデータ及びベルトプロファイルデータは、それぞれ独立したプロファイルデータとして、データメモリ403内に保存される。
【0089】
(プロファイルデータの累積)
さらに、本実施形態では、上述したステップS302における速度比の算出に際し、累積データの算出を行う。図9は、プロファイル累積データ生成の手順を示すフローチャート図である。
【0090】
先ず、累積データの算出では、HP等の任意の点を基準点と定め、この基準点に対する速度比を搬送ベルト160全周にわたって求めるために、エンコーダ1パルス毎の速度比データを取得し(S501)、各速度比の値を順次累積計算する(S502)。
【0091】
具体的には、従動側エンコーダ310の任意時間(t)の回転角度における角速度をωtと定め、ωtにおける、LDV311による測点におけるベルト表面の速度をVtとし、これら2測点の一方の測点に対する他方の測点における速度比を相対速度比Vt/ωtとする。
【0092】
詳述すると、ある瞬間のLDV311による測点におけるベルト表面の速度を基準速度VAとし、そのときの従動側エンコーダ310に巻き回された搬送ベルト160の移動速度をVBとする。また、任意時間(t)における従動側エンコーダ310地点のベルト移動速度VBは、そのときの回転半径をRtとすると、VB=ωt×Rtとなる。このRtの変化は、従動側エンコーダー310におけるベルトの厚みムラの時間変化であり、VB/ωt=Rtで得られる。ここで、搬送ベルト160の伸縮を無視すればVA=VBであり、任意時間(t)にLDV311により計測されるベルト表面は、速度Vtであることから、VA=VB=Vtであり、Vt/ωt=Rtの関係が得られる。よって、任意の時刻における厚みムラRtをプロファイルとして保持しておくことにより、その瞬間のVAを、ωtに基づいて補正し、着弾ずれを解消できるようになる。
【0093】
そして、下表に示すように、搬送ベルト160上の基準点(例えば、t=0におけるホームポジション)での速度比を基準速度比V0/ω0=R0とし、搬送ベルト160の周方向に沿って、各時刻における速度比Rtを順次掛け合わせて累積させ、基準点に対する各点の速度比Ctを搬送ベルト160の全周に渡って算出する。
【表1】

【0094】
なお、このように速度比の累積データが算出された後、次いで、この累積データに対してゼロ補正等の種々データ処理を施す。図10は、累積された速度比を示すグラフ図である。ここで、図10において、X軸は、任意の補正基準点を0地点としたベルト1周分の位置を表しており、Y軸は、その基準点に対する速度比率値を表し、X軸との交点(原点)では、比率値が1となっている。なお、図10(a)は、表1の測点における比率(R0,R1,R2…Rn)をプロットしたものであり、図10(b)は、図(a)における各プロットに対応する累積値(C0,C1,C2…Cn)をプロットしたものである。また、図10(c)は、図10(b)の全プロットが0以上となるように補正したものである。
【0095】
ステップS503における0補正では、先ず、図10(a)に示すような、各点における速度比について、搬送ベルト上又はその駆動手段の任意の測点を基準として、速度比率1(=R0)に、瞬間々々の速度比率(R1,R2…Rn)を順次掛け合わせて累積させると、図10(b)に示すように、速度比率が累積されたデータが算出される。
【0096】
このように算出された累積データにおいて、負のデータがある場合には、速度変動の遅延となる最大値を基準とし、補正するため、図10(c)に示すように、全てのデータが0以上になるように、データを補正する(S504)。このようにデータ処理を行い、速度比率の累積データをベルトプロファイルデータとする(S505)。
【0097】
このように算出されたベルトプロファイルデータに関する速度比率の累積データは、出荷時において、印刷装置100の記憶部332に記憶され、印刷時のベルトプロファイルとして、使用される。
【0098】
このように、速度比の変動を累積させた累積データとしているため、ベルト全体について基準点に対する速度比を求めることができ、ベルトの周回に伴う一連の挙動を、図10(c)に示すような、基準点を原点とする絶対的な変化量として扱うことが可能となり、演算処理を簡略化することができる。すなわち、着弾ずれを解消させるためには、図6中Δdで示すような、適正着弾位置を基準とする絶対的な位置ずれを算出する必要があるが、ベルト上の2測点における瞬間々々の測定値は、これら2測点間の相対的な速度変動であることから、着弾ずれの修正に際しては、所定の基準点に対する絶対的な速度変動を演算しなければならない。本実施形態では、2測点間の速度比を累積させ、各時点でのΔdを予めプロファイルとして保持しておくことから、印刷実行時における演算処理負担を低減させることができる。
【0099】
さらに、本実施形態では、速度比の変動を累積させた累積データとして扱うことにより、ベルト上の各点について基準点に対する速度比を求めることができ、ベルト上の各点における瞬間々々の速度比をリアルタイムに算出したデータからでは予想できない、ベルト全体で蓄積された最大量のずれを即座に把握することが可能となる。
【0100】
詳述すると、ベルトプロファイルデータを累積データとすることにより、図10(c)に示すような、ベルト上の各点における速度比を、基準点を原点とするサインカーブとして得ることができ、このサインカーブの最大振幅を見つけることにより、ベルト全体で蓄積された最大量のずれを即座に把握することが可能となる。この結果、例えば、工場出荷時における検査において、ずれの最大量が許容範囲を超える製品の判別を容易且つ迅速に行うことができる。
【0101】
(作用・効果)
このような本実施形態に係る印刷装置によれば、印刷処理に際し、任意の2測点のいずれかにおける移動速度を測定し、この測定結果を、ベルトプロファイルデータ及びローラープロファイルデータに基づいて、インクヘッドによる各画像形成のタイミングを制御することにより、着弾ズレを低減し、画質の向上を図ることができる。
【0102】
特に、本発明では、このベルトプロファイル及びローラープロファイルは、速度比データ及びベルト送り速度比の時間的変動に対しフーリエ変換を行うとともに、搬送ベルト160と駆動ローラー161の特性に応じた有効次数となるように、フーリエ変換された結果から、所定の周波数を削除し、さらに逆フーリエ変換することによって生成されるから、プロファイルのデータサイズを縮小することができる。
【0103】
さらに、本実施形態では、駆動ローラー161の周期や駆動ローラー161と駆動モーター250との減速比、ノイズ周期に基づいて、フーリエ変換された速度比データをフィルタリングするので、プロファイルの精度を損なうことなく、駆動源などからのノイズを低減してデータサイズを縮小することができる。
【0104】
具体的には、プロファイルデータは、搬送ベルト160の厚みムラ及び駆動ローラー161の芯材の偏芯情報のほか、駆動源などのノイズも含んでいるため(図8(a))、速度比データのデータ量が膨大となるが。本実施形態では、図8(d)に示すように、速度比データから、駆動源のノイズ等のデータが除去されているので、データサイズが縮小される。
【0105】
これにより、解像度や印刷モードに応じてベルトの移動速度が変動するような印刷装置であっても、プロファイルデータのサイズを縮小させて、各インクヘッド直下に搬送ベルトの移動速度を簡略的に算出することができ、メモリ容量の増大や処理遅延を回避することができる。
【符号の説明】
【0106】
CR…通常経路
DR…排紙経路
FR…給紙系搬送路
R…レジスト部
SR…反転経路
10…記録媒体
100…印刷装置
110…ヘッドユニット
120…サイド給紙台
130…給紙トレイ
140…排紙口
150…排紙台
160…搬送ベルト
161…駆動ローラー
162…従動ローラー
170,172…切替機構
220…サイド給紙駆動部
230a,230b…トレイ駆動部
240…レジスト駆動部
250…駆動モーター
260…第1上面搬送駆動部
265…第2上面搬送駆動部
270…上面排出駆動部
281…反転駆動部
282…再給紙駆動部
310…従動側エンコーダ
311…レーザードップラー速度計
312…ベルトホームポジションセンサー
313…ローラーホームポジションセンサー
330…演算処理部
331…補正制御部
331b…ベルトプロファイル補正制御部
331a…ローラープロファイル補正制御部
332…記憶部
332a,332b…記憶メモリ
333…吐出制御部
334…駆動制御部
335…システム制御部
340…操作パネル
400…プロファイル生成装置
400a…LDV装置
400b…PC
401…速度比演算部
401a…ローラー速度抽出部
401b…ベルト速度抽出部
402…データ処理部
403…データメモリ
404…通信インターフェース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の支持ローラー間に掛け渡された無端状の搬送ベルトと、
前記搬送ベルトを無端移動させる駆動手段と、
前記搬送ベルト上の記録用紙上に複数の画像を互いに重なり合うように形成する複数のインクヘッドとを有する印刷装置において、画像の形成を制御する画像制御装置であって、
前記支持ローラーと、前記搬送ベルト上における任意の測点との速度比の時間的変動から、該速度比に対応した周波数を有する速度比データを、ベルトプロファイルとして記憶するベルトプロファイル記憶部と、
前記支持ローラーの偏心により引き起こされるベルト送り速度比の時間的変動をローラープロファイルとして記憶するローラープロファイル記憶部と、
前記ベルトプロファイル及びローラープロファイルに基づいて、前記搬送ベルト上での前記複数の画像間の位置ズレが小さくなるように、前記インクヘッドによる各画像形成のタイミングを制御する印字制御手段と
を備え、
前記ベルトプロファイル及びローラープロファイルは、前記速度比データ及び前記ベルト送り速度比の時間的変動に対しフーリエ変換を行うとともに、前記ベルトと前記支持ローラーの特性に応じた有効次数となるように、フーリエ変換された結果から、所定の周波数を削除し、さらに逆フーリエ変換することによって生成される
ことを特徴とする画像制御装置。
【請求項2】
前記支持ローラーの特性には、該支持ローラーの周期が含まれ、
前記フーリエ変換された結果に対しては、前記ローラー周期の定数倍の有効次数の範囲となるように、前記有効次数以上の周波数を削除する
ことを特徴とする請求項1に記載の画像制御装置。
【請求項3】
前記支持ローラーの特性には、該支持ローラーと該支持ローラーを駆動する駆動軸との減速比が含まれ、
前記フーリエ変換された結果に対しては、前記減速比をノイズの周波数で除した値までの有効次数となるように、前記有効次数以上の周波数を削除する
ことを特徴とする請求項1に記載の画像制御装置。
【請求項4】
前記ベルトの特性には、該ベルトの周期が含まれ、前記フーリエ変換された結果に対しては、前記ベルトの定数倍の有効次数の範囲となるように、前記有効次数以上の周波数を削除する
ことを特徴とする請求項1に記載の画像制御装置。
【請求項5】
前記ベルトの特性には、該ベルトと該ベルトを駆動する支持ローラーとの減速比が含まれ、
前記フーリエ変換された結果に対しては、前記減速比をノイズの周波数で除した値までの有効次数となるように、前記有効次数以上の周波数を削除する
ことを特徴とする請求項1に記載の画像制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−68065(P2011−68065A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−222289(P2009−222289)
【出願日】平成21年9月28日(2009.9.28)
【出願人】(000250502)理想科学工業株式会社 (1,191)
【Fターム(参考)】