説明

画像形成装置及びプログラム

【課題】エンコーダスケールのスリットに汚れが発生した場合にはキャリッジの位置検出ずれが発生し、動作不良を生じる。
【解決手段】液滴を吐出する記録ヘッド4が搭載されて移動走査されるキャリッジ3と、キャリッジ3の移動方向に沿って配置されたエンコーダスケール23と、エンコーダスケールを読み取るエンコーダセンサ24と、エンコーダスケール23の汚れが発生する状況になったか否かを判別し、エンコーダスケールの汚れが発生する状況になったときに、キャリッジ3の走査範囲を縮小した速度プロファイルに従ってキャリッジ3の移動制御を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は画像形成装置及びプログラムに関し、液滴を吐出する記録ヘッドを備える画像形成装置及びキャリッジの移動制御を行なわせるプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
プリンタ、ファクシミリ、複写装置、プロッタ、これらの複合機等の画像形成装置として、例えばインク液滴を吐出する記録ヘッドを用いた液体吐出記録方式の画像形成装置としてインクジェット記録装置などが知られている。この液体吐出記録方式の画像形成装置は、記録ヘッドからインク滴を、搬送される用紙に対して吐出して、画像形成(記録、印字、印写、印刷も同義語で使用する。)を行なうものであり、記録ヘッドが主走査方向に移動しながら液滴を吐出して画像を形成するシリアル型画像形成装置と、記録ヘッドが移動しない状態で液滴を吐出して画像を形成するライン型ヘッドを用いるライン型画像形成装置がある。
【0003】
なお、本願において、「画像形成装置」は、紙、糸、繊維、布帛、皮革、金属、プラスチック、ガラス、木材、セラミックス等の媒体にインクを着弾させて画像形成を行う装置を意味し、また、「画像形成」とは、文字や図形等の意味を持つ画像を媒体に対して付与することだけでなく、パターン等の意味を持たない画像を媒体に付与すること(単に液滴を媒体に着弾させること)をも意味する。また、「インク」とは、インクと称されるものに限らず、記録液、定着処理液、液体、樹脂などと称されるものなど、画像形成を行うことができるすべての液体の総称として用いる。また、「用紙」とは、材質を紙に限定するものではなく、上述したOHPシート、布なども含み、インク滴が付着されるものの意味であり、被記録媒体、記録媒体、記録紙、記録用紙などと称されるものを含むものの総称として用いる。また、「画像」とは平面的なものに限らず、立体的に形成されたものに付与された画像、また立体自体を3次元的に造形して形成された像も含まれる。
【0004】
シリアル型画像形成装置において、液体吐出ヘッドを搭載したキャリッジの主走査方向に沿って配置したエンコーダスケールと、このエンコーダスケールの目盛り(位置識別部)を読み取るエンコーダセンサとを含むリニアエンコーダ(位置検出装置)を備えて、キャリッジの位置及び速度を検出し、この検出結果に基づいてキャリッジの移動速度、液体吐出ヘッドの駆動などの制御を行うようにしている。
【0005】
従来のリニアエンコーダとしては、磁気式や光学式などの様々なものがある。磁気式のリニアエンコーダではリニアスケール表面に少量の汚れ等が付着しても性能には影響しないとういう長所があるが、一方でリニアエンコーダの分解能の高精細化が困難であり、リニアスケールとエンコーダセンサのギャップが広げづらく、取り付け精度の問題や、磁気を帯びた工具の取り扱いの問題がある。これに対して、光学式のリニアエンコーダはエンコーダスケールとエンコーダセンサのギャップを比較的広げ易く、組立も容易で、高分解能化に向いている。
【0006】
しかしながら、画像形成装置の高速度化、高精度化に伴ってリニアエンコーダの高分解能化が進み、装置内に飛散するインクなどの液体、紙粉等の付着による出力低下、誤信号の影響が無視できない問題となっている。例えば、長期間の使用によりインクミスト、紙粉がエンコーダスケールやエンコーダセンサに付着して読み取りエラーを生じ、キャリッジ位置ズレによる記録画像の乱れ、エラー発生によるマシン停止といった問題が生じる。
【0007】
そこで、キャリッジの移動範囲に対応するスケール表面のうち、記録ヘッドが記録媒体に記録を行う範囲である記録範囲に、該記録範囲とスケールの移動量を検出するための基準点とに挟まれた範囲を加えた範囲以外に対応するスケール表面の両側に清掃部材が設けられ、制御手段は少なくとも1つの所定の条件が満たされたときにセンサを該清掃部材上に摺動させる記録装置が知られている(特許文献1)。
【0008】
また、キャリッジに回転運動するクリーニング部材を備えてエンコーダセンサからの出力を異常と判断した位置にキヤリッジを移動して、エンコーダフィルムを清掃する画像形成装置が知られている(特許文献2)。
【0009】
また、キャリッジが摺動可能に係合して走査移動するガイド部材に脱着自在に係合し、位置スケールの表裏に密着する清掃部材を具備したスケール清掃用具を用いてスケールの清掃を行うことが知られている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2001−121721号公報
【特許文献2】特開2005−169715号公報
【特許文献3】特開2005−297514号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上述した従来の清掃部材を備える構成にあっては、構成が複雑になるという課題がある。
【0012】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、簡単な構成でエンコーダスケールの汚れに伴う動作不良を低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の課題を解決するため、本発明に係る画像形成装置は、
液滴を吐出する記録ヘッドが搭載されて移動走査されるキャリッジと、
前記キャリッジの移動方向に沿って配置されたエンコーダスケールと、
前記エンコーダスケールを読み取るエンコーダセンサと、
前記エンコーダスケールの汚れが発生する状況になったか否かを判別する判別手段と、
前記エンコーダスケールの汚れが発生する状況になったときに、前記キャリッジの走査範囲を縮小して前記キャリッジの移動制御を行う手段と、を備えている
構成とした。
【0014】
ここで、前記判別手段は、印刷枚数が予め定めた枚数以上になったときに前記エンコーダスケールの汚れが発生する状況になったと判別する構成とできる。
【0015】
この場合、前記判別手段は、被記録媒体の種類ごと及び印字モードごとの少なくともいずれかの印刷枚数を予め定めた枚数と比較して判別を行なう構成とできる。
【0016】
また、前記判別手段は、前記記録ヘッドの維持回復動作の回数が予め定めた回数以上になったときに前記エンコーダスケールの汚れが発生する状況になったと判別する構成とできる。
【0017】
この場合、前記判別手段は、画像形成に寄与しない液滴を吐出する空吐出の回数及び前記記録ヘッドのクリーニング回数の少なくともいずれかを予め定めた回数と比較して判別を行なう構成とできる。
【0018】
また、前記キャリッジの走査範囲を縮小して前記キャリッジの移動制御を行うとき、前記走査範囲を縮小しないときに対し、印字動作中の速度を下げ、又は、加速度を上げる構成とできる。
【0019】
また、前記キャリッジには複数の記録ヘッドが搭載され、画像形成に寄与しない液滴を受ける前記記録ヘッドの数分の開口部が形成された空吐出受けが前記キャリッジの走査方向の両端部の少なくとも一方に配置され、前記エンコーダスケールの汚れが発生する状況になったときには、前記複数の記録ヘッドから前記空吐出受けの印字領域側の開口部に対して前記画像形成に寄与しない液滴を吐出させる構成とできる。
【0020】
本発明に係るプログラムは、
液滴を吐出する記録ヘッドが搭載されて移動走査されるキャリッジを、前記キャリッジの移動方向に沿って配置されたエンコーダスケールを読み取るエンコーダセンサの読取り結果に応じて移動制御する処理をコンピュータに行なわせるプログラムであって、
前記エンコーダスケールの汚れが発生する状況になったか否かを判別する処理と、
前記エンコーダスケールの汚れが発生する状況になったときに、前記キャリッジの走査範囲を縮小して前記キャリッジの移動制御を行う処理と、をコンピュータに行なわせる
構成とした。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係る画像形成装置及びプログラムによれば、エンコーダスケールの汚れが発生する状況になったときに、キャリッジの走査範囲を縮小してキャリッジの移動制御を行う構成としたので、簡単な構成でエンコーダスケールの汚れに伴う動作不良を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明を適用する画像形成装置としてのインクジェット記録装置の概略構成を示す平面説明図である。
【図2】同じく正面説明図である。
【図3】同装置の制御部の概要を示すブロック説明図である。
【図4】エンコーダセンサからのエンコーダ信号と位置カウントの説明に供する説明図である。
【図5】エンコーダスケールの汚れの説明に供する平面説明図である。
【図6】エンコーダスケールの汚れとエンコーダ信号の誤検出の説明に供する説明図である。
【図7】エンコーダスケールの汚れとエンコーダ信号の誤検出の説明に供する説明図である。
【図8】空吐出位置の説明に供する平面説明図である。
【図9】エンコーダ信号の誤検出と空吐出位置の説明に供する平面説明図である。
【図10】エンコーダ信号の誤検出と空吐出位置におけるキャリッジの側板への衝突の説明に供する平面説明図である。
【図11】主走査位置における空吐出位置及びメンテナンス領域の説明に供する平面説明図である。
【図12】主走査位置におけるエンコーダスリットの汚れ量の測定結果の一例を示す説明図である。
【図13】本発明の第1実施形態における通常モードにおける主走査位置と速度プロファイルの説明に供する説明図である。
【図14】同じく主走査移動範囲縮小モードにおける主走査位置と速度プロファイルの説明に供する説明図である。
【図15】同じく駆動モードの選択処理(キャリッジの移動制御処理)の第1例の説明に供するフロー図である。
【図16】同じく駆動モードの選択処理(キャリッジの移動制御処理)の第2例の説明に供するフロー図である。
【図17】本発明の第2実施形態における主走査移動範囲縮小モードにおける主走査位置と速度プロファイルの説明に供する説明図である。
【図18】主走査移動範囲を縮小した速度プロファイルの選択処理の説明に供する説明図である。
【図19】本発明の第3実施形態の説明に供する平面説明図である。
【図20】同じく平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態について添付図面を参照して説明する。まず、本発明を適用する画像形成装置としてのインクジェット記録装置の概要について図1及び図2を参照して説明する。なお、図1は同インクジェット記録装置の概略構成を示す平面説明図、図2は同じく正面説明図である。
このインクジェット記録装置は、左右の側板101L,101R間に横架した主ガイドロッド1及び図示しない従ガイド部材でキャリッジ3を摺動自在に保持し、主走査モータ5によって、駆動プーリ6と従動プーリ7間に渡したタイミングベルト8を介して主走査方向に移動走査する。
【0024】
このキャリッジ3には、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(K)の各色のインク滴を吐出するための液体吐出ヘッドからなる記録ヘッド4y、4m、4c、4k(区別しないときは「記録ヘッド4」という。)を複数のノズルからなるノズル列を主走査方向と直交する副走査方向に配列し、インク滴吐出方向を下方に向けて装着している。
【0025】
記録ヘッド4を構成する液体吐出ヘッドとしては、圧電素子などの圧電アクチュエータ、発熱抵抗体などの電気熱変換素子を用いて液体の膜沸騰による相変化を利用するサーマルアクチュエータ、温度変化による金属相変化を用いる形状記憶合金アクチュエータ、静電力を用いる静電アクチュエータなどを、液滴を吐出するための圧力を発生する圧力発生手段として備えたものなどを使用できる。
【0026】
一方、用紙を搬送するために、用紙を静電吸着して記録ヘッド4に対向する位置で搬送するための搬送手段である搬送ベルト12を備えている。この搬送ベルト12は、無端状ベルトであり、搬送ローラ13とテンションローラ14との間に掛け渡されて、ベルト搬送方向(副走査方向)に周回するように構成し、周回移動しながら帯電ローラ15によって帯電(電荷付与)される。
【0027】
また、搬送ベルト12は、副走査モータ16によってタイミングベルト17及びタイミングプーリ18を介して搬送ローラ13が回転駆動されることによって、副走査方向に周回移動する。
【0028】
さらに、キャリッジ3の主走査方向の一方側には搬送ベルト12の側方に記録ヘッド4の維持回復を行う維持回復機構21が配置され、他方側には搬送ベルト12の側方に記録ヘッド4から空吐出を行う空吐出受け21がそれぞれ配置されている。
【0029】
なお、維持回復機構20は、例えば記録ヘッド4のノズル面(ノズルが形成された面)をキャッピングする4個のキャップ部材31、ノズル面を払拭するワイパ部材32、画像形成に寄与しない液滴(空吐出滴)を受ける空吐出受け33などで構成されている。
【0030】
また、キャリッジ3の主走査方向に沿って両側板間に、所定のパターンを形成したエンコーダスケール23を張装し、キャリッジ23にはエンコーダスケール23のパターンを読取る透過型フォトセンサからなるエンコーダセンサ24を設け、これらのエンコーダスケール23とエンコーダセンサ24によってキャリッジ23の移動を検知するリニアエンコーダ(主走査エンコーダ)を構成している。
【0031】
また、搬送ローラ13の軸には高分解能のコードホール25を取り付け、このコードホイール25に形成したパターンを検出する透過型フォトセンサからなるエンコーダセンサ26を設けて、これらのコードホイール25とエンコーダセンサ26によって搬送ベルト12の移動量及び移動位置を検出するロータリエンコーダ(副走査エンコーダ)を構成している。
【0032】
このように構成したこの画像形成装置においては、図示しない給紙トレイから用紙が帯電された搬送ベルト12上に給紙されて吸着され、搬送ベルト12の周回移動によって用紙が副走査方向に搬送される。そこで、キャリッジ3を主走査方向に移動させながら画像信号に応じて記録ヘッド4を駆動することにより、停止している用紙にインク滴を吐出して1行分を記録し、用紙を所定量搬送後、次の行の記録を行う。記録終了信号又は用紙の後端が記録領域に到達した信号を受けることにより、記録動作を終了して、用紙を図示しない排紙トレイに排紙する。
【0033】
次に、この画像形成装置の制御部の概要について図3を参照して説明する。なお、同図は同制御部の全体ブロック説明図である。
この制御部200は、この装置全体の制御を司り、本発明における判別手段及びキャリッジの移動制御を行う手段を兼ねるCPU201と、CPU201が実行する本発明に係るプログラムを含む各種プログラム、その他の固定データを格納するROM202と、画像データ等を一時格納するRAM203と、装置の電源が遮断されている間もデータを保持するための書き換え可能な不揮発性メモリ204と、画像データに対する各種信号処理、並び替え等を行う画像処理やその他装置全体を制御するための入出力信号を処理するASIC205とを備えている。
【0034】
また、この制御部200は、ホスト側とのデータ、信号の送受を行うためのI/F206と、記録ヘッド7を駆動制御するためのデータ転送手段、駆動波形を生成する駆動波形生成手段を含む印刷制御部207と、キャリッジ3側に設けた記録ヘッド7を駆動するためのヘッドドライバ(ドライバIC)208と、主走査モータ4及び副走査モータ31を駆動するためのモータ駆動部210と、帯電ローラ34にACバイアスを供給するACバイアス供給部212と、エンコーダセンサ43、35からの各検出信号、ドット形成位置のズレを来たす要因としての環境温度を検出する温度センサ215などの各種センサからの検出信号を入力するためのI/O213などを備えている。また、この制御部200には、この装置に必要な情報の入力及び表示を行うための操作パネル214が接続されている。
【0035】
ここで、制御部200は、パーソナルコンピュータ等の情報処理装置、イメージスキャナなどの画像読み取り装置、デジタルカメラなどの撮像装置などのホスト側からの画像データ等をケーブル或いはネットを介してI/F206で受信する。
【0036】
そして、制御部200のCPU201は、I/F206に含まれる受信バッファ内の印刷データを読み出して解析し、ASIC205にて必要な画像処理、データの並び替え処理等を行い、この画像データをヘッド駆動制御部207からヘッドドライバ208に転送する。なお、画像出力するためのドットパターンデータの生成はホスト側のプリンタドライバで行っている。
【0037】
印刷制御部207は、上述した画像データをシリアルデータでヘッドドライバ208に転送するとともに、この画像データの転送及び転送の確定などに必要な転送クロックやラッチ信号、滴制御信号(マスク信号)などをヘッドドライバ208に出力する以外にも、ROMに格納されている駆動信号のパターンデータをD/A変換するD/A変換器及び電圧増幅器、電流増幅器等で構成される駆動波形生成部及びヘッドドライバに与える駆動波形選択手段を含み、1の駆動パルス(駆動信号)或いは複数の駆動パルス(駆動信号)で構成される駆動波形を生成してヘッドドライバ208に対して出力する。
【0038】
ヘッドドライバ208は、シリアルに入力される記録ヘッド7の1行分に相当する画像データに基づいて印刷制御部207から与えられる駆動波形を構成する駆動信号を選択的に記録ヘッド7の液滴を吐出させるエネルギーを発生する駆動素子(例えば前述したような圧電素子)に対して印加することで記録ヘッド7を駆動する。このとき、駆動波形を構成する駆動パルスを選択することによって、例えば、大滴(大ドット)、中滴(中ドット)、小滴(小ドット)など、大きさの異なるドットを打ち分けることができる。
【0039】
また、CPU201は、リニアエンコーダを構成するエンコーダセンサ24からの検出パルスをサンプリングして得られる速度検出値及び位置検出値と、予め格納した速度・位置プロファイルから得られる速度目標値及び位置目標値とに基づいて主走査モータ5に対する駆動出力値(制御値)を算出してモータ駆動部210を介して主走査モータ4を駆動する。同様に、ロータリエンコーダを構成するエンコーダセンサ26からの検出パルスをサンプリングして得られる速度検出値及び位置検出値と、予め格納した速度・位置プロファイルから得られる速度目標値及び位置目標値とに基づいて副走査モータ16対する駆動出力値(制御値)を算出してモータ駆動部210を介しモータドライバを介して副走査モータ61を駆動する。
【0040】
なお、制御部200には、各種センサ215からの検知信号が入力され、また、この装置に必要な情報の入力及び表示を行うための操作パネル214が接続されている。
【0041】
次に、この画像形成装置におけるキャリッジの位置検出とエンコーダ汚れに伴う動作不良について図4ないし図12を参照して説明する。なお、エンコーダスケールについては図示を容易にするために平面図であるが、正面から見た形状で図示している。
まず、キャリッジ3の移動走査に応じてエンコーダスケール23を読取るエンコーダセンサ24からは図4に示す検知パルス(以下、「エンコーダ信号」ともいう。信号処理した後の形状である)が制御部200に入力される。このエンコーダ信号の「L」から「H」への立ち上がり(または、「H」から「L」への立下り)などをトリガとして、内部の位置カウントのカウントアップ・ダウンをカウントし、キャリッジ3の位置を検出する。
【0042】
ここで、例えば図5に示すように、エンコーダスケール23に汚れ105が生じると、エンコーダ信号が正しく出力されず、キャリッジ3の位置ずれが発生する場合がある。例えば、図6に示すように、エンコーダスケール42の位置識別部(スリット)を読み飛ばした場合には正しいカウント値に対してカウント値が少なくなり、図7に示すように、エンコーダスケール42の位置識別部を重複して読み取った場合には正しいカウント値に対してカウント値が多くなる。
【0043】
このように、エンコーダ信号が正しく出力されなくなった場合、キャリッジ3の位置ずれが発生し、目標位置へ正確に移動できなくなる。また、エンコーダスケール23のスリットの振動やセンサ24の感度などの要因により、上述した図6又は図7で説明した現象が1動作毎に必ず発生する場合もあれば、数回に1回発生するような場合もある。したがって、汚れが生じている位置をエンコーダセンサ24が通る回数が多いほど、位置ずれの発生のおそれが高くなる。
【0044】
次に、キャリッジ位置の誤検出と空吐出動作との関係について説明する。
空吐出とは、記録ヘッド4のノズルコンディションを良好に保つために印字前後または印字中などに画像形成に寄与しないインクの吐出を行う動作である。例えば、印字中の空吐出では、図9に示すように、印字中に定期的に空吐出位置107への移動を行い、空吐出を行う。空吐出位置107は、主走査レイアウト上、側板101L手前付近に設けられていることが多く、また装置の縮小化のために側板101Lと空吐出位置107の距離に余裕は少ない。
【0045】
そのため、エンコーダスケール23の汚れ105によってキャリッジ位置が正確に検出されていない場合、検出したキャリッジ位置がずれるため、本来の空吐出位置107よりも側板101L寄りにキャリッジ3を移動した位置(仮想線図示の位置)を空吐出位置と判断し、その結果、図10に示すように、キャリッジ3が側板101Lに衝突してしまうことがある。衝突が発生すると、ジャムと検知して印刷が停止したり、モータ等に過負荷がかかって部品故障などの動作不良となってしまう。
【0046】
次に、空吐出動作とエンコーダスケールの汚れの発生について図11を参照して説明すると、前述したように、主走査領域の両端部に配置された維持回復機構20及び空吐出受け21に対して、図11に示すメンテナンス領域109、空吐出位置107において空吐出動作を行う。
【0047】
ここで、空吐出位置107で実施する空吐出は、前述したように、ノズル詰まりを予防するために、印字中や印字後にインクの吐出を行う動作である。また、メンテナンス領域109では、記録ヘッド4のクリーニングやキャッピング、また空吐出などのメンテナンスを行う。メンテナンス領域109で実施する空吐出は、キャッピング時または前回の印字中に生成されたヘッドノズル内の増粘インクを排出し安定したインク吐出ができるようなノズルコンディションを作るために、印字前に空吐出を行う動作である。
【0048】
そのため、空吐出位置やメンテナンス領域では、用紙への着弾を伴わないインク滴の吐出や記録ヘッド4のワイピングなどを行うため、インクミストが浮遊しやすく、エンコーダスケール23のスリット(以下、「エンコーダスリット」という。)に汚れが付着しやすい傾向がある。
【0049】
主走査領域におけるエンコーダスリットの単位面積当たりの汚れの付着量を実測した結果を図12に示している。
【0050】
ここで、キャリッジ3の主走査動作における速度プロファイルについて図13を参照して説明すると、主走査動作では、用紙10へのインク滴の着弾ずれを防止するため、印字領域(用紙上)ではキャリッジ3を等速度で移動させながら滴吐出を行い、その前後にキャリッジ3が等速度に到達するまでの加減速領域を設けている。このとき、加減速領域が図13の破線部分のように空吐出位置107やメンテナンス領域109にまたがると、エンコーダスリットの汚れが生じ易い領域でキャリッジ3を駆動することになるため、位置ずれ発生のおそれが高くなる。
【0051】
したがって、エンコーダスリットの汚れ割合が多い空吐出位置やメンテナンス領域を可能な限り避けて印字動作を実施することで、位置ずれを回避することができる。以下に本発明の実施形態を説明する。
【0052】
次に、本発明の第1実施形態について図14を参照して説明する。
ここでは、エンコーダスケールの汚れが発生する状況になったときに、主走査範囲を縮小してキャリッジ3の移動制御を行うようにしている。
【0053】
すなわち、エンコーダスリットの汚れ割合が多い空吐出位置107やメンテナンス領域109を可能な限り避けてキャリッジ3を移動走査して印字動作を行う。例えば、図14に示すように、キャリッジ3の加減速を空吐出位置107、メンテナンス領域109外から開始する。エンコーダスリットに汚れが付着し易い領域(主走査位置)はメンテナンス仕様に依存するため、装置の個体差によるバラツキが少なく、汚れが発生する領域の傾向は事前に把握可能であるので、汚れが付着し易い領域と付着しにくい領域とを区分けし、その境界を加速開始位置や減速終了位置とする。また、このときの印字速度プロファイルは、図13で示す速度プロファイルと加速度、等速度ともに同じであるが、等速駆動領域が短いプロファイルとなる。
【0054】
この場合、主走査範囲を縮小した速度プロファイル(縮小速度プロファイル)は予めROM102に格納しておき、エンコーダスケールの汚れが発生する状況になったとき、縮小速度プロファイルから目標速度を読み出してキャリッジ3の移動制御を行うようにすればよい。
【0055】
このように構成することで、エンコーダスリットの汚れが発生する割合が多い領域をキャリッジが移動するのは、印字中の空吐出時やメンテナンス時などの必要最小限になって、位置ずれが発生するおそれを低減することができる。
【0056】
なお、この場合、キャリッジ3の加減速領域で印字を行うことになるため、滴吐出タイミングを補正しながら用紙に対する着弾位置ずれを防止することが好ましい。
【0057】
そこで、キャリッジ移動制御の第1例について図15のフロー図を参照して説明する
この駆動モード選択処理では、エンコーダスリットの汚れを検出したか否かを判別し、エンコーダスリットの汚れを検出しないときには、通常の動作モード(前述した図13に示すような速度プロファイルを使用した移動制御を行うモード)でキャリッジ3の移動制御を行い、エンコーダスリットの汚れを検出したときには、主走査移動範囲縮小モード(前述した図14に示すような速度プロファイルを使用した移動制御を行うモード)でキャリッジ3の移動制御を行う。
【0058】
すなわち、この例では、エンコーダスケール23に汚れが発生する状況になったか否かを、実際にエンコーダスケール23に汚れが生じているか否かを検出して判別するようにしている。
【0059】
なお、エンコーダの汚れ検出は、例えば、キャリッジ3の移動方向を検出し、キャリッジ3を等速で移動させているときに、キャリッジ3の移動方向の切替りを検出したときにはエンコーダケール23に汚れがあると判断し、あるいは、キャリッジ3の移動方向を検出し、キャリッジ3の移動方向切替え位置を設定して、キャリッジ3が移動方向切替位置に到達する前に、キャリッジ3の移動方向の切替りを検出したときにはエンコーダスケール23に汚れがあると判断することで検出できる。
【0060】
次に、キャリッジ移動制御の第2例について図16のフロー図を参照して説明する
この駆動モード選択処理では、エンコーダスリットの汚れが発生する状況になったか否か(モード切替条件を満たしたか否か)を判別し、モード切替条件を満たしていないときには、通常の動作モード(前述した図13に示すような速度プロファイルを使用した移動制御を行うモード)でキャリッジ3の移動制御を行い、モード切替条件を満たしたときには、主走査移動範囲縮小モード(前述した図14に示すような速度プロファイルを使用した移動制御を行うモード)でキャリッジ3の移動制御を行う。
【0061】
ここで、モード切替条件は、印刷枚数が予め定めた枚数(基準枚数)になったこと、維持回復機構20によるメンテナンス回数があらかじめ定めた回数(基準回数)になったこと、モードを切替える条件としている。
【0062】
この場合、印刷枚数については、普通紙、HG普通紙、光沢紙、グロス紙、ハガキ、封筒などの用紙の種類ごとに印刷枚数を計数し、用紙の種類ごとの基準枚数と比較するようにすることもできる。また、同じ画像を形成する場合でもインク消費量が異なる。例えば、普通紙高速/はやい/きれい、HG普通紙高速/はやい/きれい、光沢紙高速/はやい/きれい、グロス紙高速/はやい/きれい、ハガキ高速/はやい/きれい、封筒高速/はやい/きれいなどの印字モード(印刷モード)があるので、印刷モード毎に印刷枚数を計数し、印刷モードごとの基準枚数と比較するようにすることもできる。
【0063】
また、メンテナンス回数については、空吐出回数やヘッドクリーニング回数、またはその両方についての回数で判別するようにすることもできる。
【0064】
このように、エンコーダスケールの汚れが発生する状況になったときに、キャリッジの走査範囲を縮小してキャリッジの移動制御を行う構成とすることで、簡単な構成でエンコーダスケールの汚れに伴う動作不良を低減することができる。
【0065】
次に、本発明の第2実施形態について図17及び図18を参照して説明する。
ここでは、主走査移動範囲縮小モードとして、図17に示すように、エンコーダスリットの汚れ割合が多い空吐出位置107やメンテナンス領域109を可能な限り避けて印字動作を実施するために、等速度Velが通常の駆動モードよりも低い縮小速度プロファイルを備え、加減速領域を狭め、キャリッジ3の加減速を空吐出位置・メンテナンス領域外から開始するようにしている。
【0066】
ただし、実際には、印字中の等速度Velは複数パターン用意されており、各々の速度毎に対応したインク滴吐出タイミング生成波形(駆動波形)を有している。そのため、等速度Velは任意の値に自由に設定できるわけではなく、用意されている複数パターンの速度プロファイルの中から等速度Velが相対的に低い速度プロファイルを縮小速度プロファイルとして選択することになる。
【0067】
そこで、等速度Velが相対的に低い速度プロファイルの印字モードに変更する方法について図18を参照して説明する。
例えば、汚れ量が多い領域と印字開始位置Gの間を領域C、汚れ量が多い領域と印字終了位置Hの間を領域D、印字速度プロファイルの加速度をα、等速度をVel、キャリッジの駆動開始位置をE、キャリッジの駆動終了位置をF、そして加減速領域A(αとVelと位置Gから求められる)、加減速領域B(αとVelと位置Hから求める)としたとき、「領域C−領域A」と「領域D−領域B」のうち値が小さいほうが、汚れ量が多い領域に対して駆動開始位置E(または駆動終了位置F)に余裕がないことになる。
【0068】
例えば「領域D−領域B」の方が値が小さい場合、加減速領域Bの方に余裕がないことになる。この場合、(領域D=領域B)となるように等速度Velを求め、その当速度Velよりも小さい等速度Velの速度プロファイルを用いる印字モードを選択する。
【0069】
このように印字モードを選択することで、汚れ量が多い領域を避けてキャリッジを駆動することができる。
【0070】
また、加減速領域を狭める方法として、等速度Velを変更せず、加速度αの傾きを大きくすることで加減速領域を狭めることもできる。
【0071】
なお、駆動モードの変更(速度プロファイルの切替)については前記第1実施形態と同様である。
【0072】
次に、本発明の第3実施形態について図19及び図20を参照して説明する。
ここでは、キャリッジの移動走査範囲を縮小して空吐出動作におけるキャリッジ3と側板との衝突を回避している。
【0073】
すなわち、空吐出位置107における空吐出受け21には各記録ヘッド4に対応する開口部(空吐出穴)21aが形成されている。そこで、左側の側板107付近での空吐出の場合には、左側の記録ヘッド4y、4mのみ、右側の空吐出穴21aへ空吐出を行う。これにより、側板101Lとキャリッジ3の距離に余裕が生まれ、位置ずれによるキャリッジ3の側板101Lへの衝突のおそれを低減することができる。
【0074】
また、例えば右側のメンテナンス領域にも複数の開口部(空吐出穴)121aを有する空吐出受け121を配置した場合には、右側の記録ヘッド4c、4kについては左側の空吐出穴121aへ空吐出を行うことで、位置ずれによるキャリッジ3の側板101Rへの衝突のおそれを低減することができる。
【0075】
また、空吐出は空吐出穴に行う必要があるが、一定量以上の主走査位置ずれが生じている場合は、意図しない位置に空吐出を実施してしまうことになるが、前述した第1、第2実施形態を適用することで、位置ずれの発生を抑制できるため、空吐出位置がずれて意図しない位置にインクを吐出してしまい、装置が汚れてしまうというおそれを低減することができる。
【0076】
なお、このような空吐出動作の変更(キャリッジの走査範囲の縮小)を行う場合(条件)については前記第1実施形態と同様である。
【0077】
次に、本発明の第4実施形態について前述した図17を参照して説明する。
装置本体のレイアウト上、左側の空吐出位置107と左側の側板101Lの距離に十分に余裕があり、メンテナンス領域109中の空吐出位置と右側の側板101Rの距離のほうが短く十分に余裕がない場合は、キャリッジ3と左右の側板101L、101R間の距離余裕の確保のために、通常はメンテナンス領域109で実施する空吐出を空吐出位置107で行うようにする。
【0078】
逆に、装置本体のレイアウト上、左側の空吐出位置107と左側の側板101Lの距離が短く十分に余裕がなく、メンテナンス領域109中の空吐出位置と右側の側板101Rの距離に十分な余裕がある場合は、キャリッジ3と左右の側板101L、101R間の距離余裕の確保のために、通常は空吐出位置107で実施する空吐出をメンテナンス領域109で行うようにする。
【0079】
なお、このような空吐出動作の変更(キャリッジの走査範囲の縮小)を行う場合(条件)については前記第1実施形態と同様である。
【0080】
上述したように、エンコーダスケールの汚れが発生する状況になったか否かの判別やキャリッジの移動走査範囲を縮小した移動制御はROMなどに格納されたプログラムによってコンピュータに行なわせることができ、このプログラムは、記憶媒体に記憶して提供することができ、或はインターネットネットなどのネットワークを通じてダウンロードすることで提供される。また、上記実施形態で説明した画像形成装置とホスト側(情報処理装置)とを組みあせて画像形成システムを構成することもできる。
【符号の説明】
【0081】
3 キャリッジ
4 記録ヘッド
23 エンコーダスケール
24 エンコーダセンサ
200 制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液滴を吐出する記録ヘッドが搭載されて移動走査されるキャリッジと、
前記キャリッジの移動方向に沿って配置されたエンコーダスケールと、
前記エンコーダスケールを読み取るエンコーダセンサと、
前記エンコーダスケールの汚れが発生する状況になったか否かを判別する判別手段と、
前記エンコーダスケールの汚れが発生する状況になったときに、前記キャリッジの走査範囲を縮小して前記キャリッジの移動制御を行う手段と、を備えている
ことを特徴とする画像形成装置。
【請求項2】
前記判別手段は、印刷枚数が予め定めた枚数以上になったときに前記エンコーダスケールの汚れが発生する状況になったと判別することを特徴とする請求項1に記載の画像形成装置。
【請求項3】
前記判別手段は、被記録媒体の種類ごと及び印字モードごとの少なくともいずれかの印刷枚数を予め定めた枚数と比較して判別を行なうことを特徴とする請求項2に記載の画像形成装置。
【請求項4】
前記判別手段は、前記記録ヘッドの維持回復動作の回数が予め定めた回数以上になったときに前記エンコーダスケールの汚れが発生する状況になったと判別することを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の画像形成装置。
【請求項5】
前記判別手段は、画像形成に寄与しない液滴を吐出する空吐出の回数及び前記記録ヘッドのクリーニング回数の少なくともいずれかを予め定めた回数と比較して判別を行なうことを特徴とする請求項4に記載の画像形成装置。
【請求項6】
前記キャリッジの走査範囲を縮小して前記キャリッジの移動制御を行うとき、前記走査範囲を縮小しないときに対し、印字動作中の速度を下げ、又は、加速度を上げることを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載の画像形成装置。
【請求項7】
前記キャリッジには複数の記録ヘッドが搭載され、画像形成に寄与しない液滴を受ける前記記録ヘッドの数分の開口部が形成された空吐出受けが前記キャリッジの走査方向の両端部の少なくとも一方に配置され、前記エンコーダスケールの汚れが発生する状況になったときには、前記複数の記録ヘッドから前記空吐出受けの印字領域側の開口部に対して前記画像形成に寄与しない液滴を吐出させることを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載の画像形成装置。
【請求項8】
液滴を吐出する記録ヘッドが搭載されて移動走査されるキャリッジを、前記キャリッジの移動方向に沿って配置されたエンコーダスケールを読み取るエンコーダセンサの読取り結果に応じて移動制御する処理をコンピュータに行なわせるプログラムであって、
前記エンコーダスケールの汚れが発生する状況になったか否かを判別する処理と、
前記エンコーダスケールの汚れが発生する状況になったときに、前記キャリッジの走査範囲を縮小して前記キャリッジの移動制御を行う処理と、をコンピュータに行なわせる
ことを特徴とするプログラム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate


【公開番号】特開2011−56855(P2011−56855A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−210782(P2009−210782)
【出願日】平成21年9月11日(2009.9.11)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】