説明

画像形成装置

【課題】シロキサンガスの収集効率を向上させた画像形成装置を提供すること。
【解決手段】 少なくとも,転写部材表面に未定着のトナー像を付着させる転写手段と,前記転写手段によって転写されたトナー像を前記転写部材に加熱定着させる定着手段と,前記定着手段近傍の空気を定着装置近傍から排気する排気ダクトと,前記排気ダクト内に設けられた帯電ワイヤと,を備えてなる画像形成装置であって,前記帯電ワイヤの表面粗さμが3.0μm≧μ≧0.9μmである画像形成装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,転写部材表面に未定着のトナー像を付着させると共に,転写されたトナー像を前記転写部材に加熱定着させ,さらに,加熱定着時に発生した揮発性有機化合物蒸気の画像形成装置外への漏出を出来るだけ防止することの出来る手段を備えた画像形成装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来,画像形成装置を稼働させる際,種々の揮発性有機化合物(VOC)が機内より発生し,機外に排出することが知られている。特に定着装置では,トナー像の加熱定着のために加熱ローラとシリコンゴムを用いた圧着ローラが用いられ,また定着装置周辺は,高温となるため特にシロキサンガスを含むVOCが多く発生することが知られている。シロキサンガスは温度が低くなると周辺の部材に付着する傾向があり,電気回路やリレー接点などの表面が汚染されると接点不良などの重大な問題が発生する恐れがある。また,画像形成装置内の光学系のミラー等に付着し,反射性能にも影響を及ぼしかねない。
そのため,定着装置で発生したシロキサン蒸気を機外へ排出しない工夫が必要である。例えば,特許文献1には,定着装置に連なるエアダクトの一端を像担持体表面を帯電させるための帯電ワイヤ近傍に臨ませ,高電圧を印加したときの集塵効果によって帯電ワイヤでシロキサンを回収することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−180805号公報 このような公知の画像形成装置に用いられる帯電ワイヤは,高電圧を印加したときに集塵効果を生じるという現象が知られており,既存の帯電ワイヤを用いた上記公知の方法では,コストの上昇を抑えうる点で優れた方法と思われる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら,上記特許文献1に記載の集塵方法では,像担持体への帯電用のワイヤを用いているので,一時的ではあるとしても,像担持体の帯電むらが発生するなどの問題がある。
従って本発明は,上記した従来技術における問題点を解消するためになされたものであり,像担持体の帯電むらを発生させることなく,安定した画像形成装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために,本発明に係る画像形成装置は,
少なくとも,転写部材表面に未定着のトナー像を付着させる転写手段と,前記転写手段によって転写されたトナー像を前記転写部材に加熱定着させる定着手段と,前記定着手段近傍の空気を定着装置近傍から排気する排気ダクトとを備えてなる画像形成装置であって,
前記排気ダクト内に設けられた帯電手段と,
当該画像形成装置に設定された印刷条件を検知する印刷条件検知手段と,
前記帯電手段に与える流れ込み電流の値を,前記印刷条件検知手段によって検知された印刷条件あるいは環境条件に応じて制御する制御手段と,
を備えてなる画像形成装置として構成されている。
揮発性有機化合物(VOC)は,例えば定着装置の一部を構成するシリコンゴムローラ(加圧ローラとして用いられている)の温度に応じて発生する。従って,定着装置の温度を低く抑えることが出来れば,VOCなどの発生に特別神経を使う必要はない。従って,定着装置やその周囲の温度に応じて,帯電手段に印加する電圧を調整することは,電力経費を削減する上で効果的である。
上記のような定着装置などの温度は,定着装置近傍の環境温度などの環境条件に応じて変動する。また,転写紙の大きさ,厚さ,使用するトナーの量(印字率)といった印刷条件によっても変動する。
この点,上記のような本願発明にかかる画像形成装置では,前記転写部材のサイズ,前記転写部材の厚さ,印字率,使用するトナーの種類,連続印字枚数あるいはそれらの組み合わせといった印刷条件,あるいは定着部の温度,定着部近傍の温度,室温の何れかあるいはその組み合わせといった環境条件に応じて帯電手段に与える流れ込み電流の値が制御されるので,揮発性有機化合物(VOC)の発生が問題とならない程度である場合には,帯電手段への流れ込み電流を少なくして,電力コストを低下させることが出来る。
前記帯電手段の代表例としては,金属ワイヤが通常用いられる。
前記制御手段は,前記帯電手段に正の電圧を印加するものが,前記VOCなどの吸着に効果がある。
また,帯電手段による除塵作用を向上させるには,帯電手段に対して対向する対向電極を設けることが有効である,そのため,有利な実施形態としては,前記排気ダクト内に,前記帯電手段に対して対向する対向電極が設けられる。
さらに,前記した帯電手段などによって,排気ダクト内の揮発性有機化合物(VOC)を完全に除去することは不可能である,そのため,排気ダクト内に,揮発性有機化合物を吸着する吸着手段を設けて,帯電手段によって補足仕切れなかった揮発性有機化合物を吸着することが望ましい。
前記吸着手段は,前記帯電手段から前記排気ダクトの排出部までの間あるいは前記排気ダクトの排出部近傍のいずれかに設けられることで,定着装置で補足できなかった揮発性有機化合物を出来るだけ多く吸着することが望ましい。
なお,前記排気ダクトは定着部近傍の空気を画像形成装置外へ導出するものが一般的であるが,画像形成装置内で,揮発性有機化合物の吸収処理が可能であれば,前記排気ダクトが,定着部近傍の空気を画像形成装置内へ導くようにすることも可能である。
【発明の効果】
【0006】
本発明に係る画像形成装置は,前記したように,少なくとも,転写部材表面に未定着のトナー像を付着させる転写手段と,前記転写手段によって転写されたトナー像を前記転写部材に加熱定着させる定着手段と,前記定着手段近傍の空気を定着装置近傍から排気する排気ダクトとを備えてなる画像形成装置であって,
前記排気ダクト内に設けられた帯電手段と,当該画像形成装置に設定された印刷条件を検知する印刷条件検知手段と,前記帯電手段に与える流れ込み電流の値を,前記印刷条件検知手段によって検知された印刷条件あるいは環境条件に応じて制御する制御手段と,を備えてなる画像形成装置として構成されているので,像担持体の帯電むらを発生させることなく,余分な電力を消費すると言った運転効率の低下を招かない画像形成装置を提供することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明の一実施形態にかかる画像形成装置の実験例におけるデータを示す図表。
【図2】本発明の一実施形態にかかる画像形成装置の排気ダクトの部分を示す断面図。
【図3】従来の画像形成装置の一例(カラー現像用)の断面図。
【図4】本発明の一実施形態にかかる画像形成装置に用いられる帯電部の概念図。
【図5】本発明の一実施形態にかかる画像形成装置の制御系統を示すブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下,添付した図面を参照して,本発明を具体化した実施形態について説明し,本発明の理解に供する。
【0009】
まず,図3に示す断面図および図5に示す制御ブロック図を用いて,本発明の実施形態に係るカラー画像形成装置Yの全体構成について説明する。
なお,以下の説明は,カラー画像形成装置Yを例にしたものであるが,モノクロの画像形成装置であっても原理は同じであるので,本発明はモノクロの画像形成装置にも適用される。ここでは,カラー画像形成装置Yについて説明し,モノクロ画像形成装置については説明を割愛する。
画像形成装置Yは,ブラック(BK),マゼンダ(M),イエロー(Y),シアン(C),の4色のトナーを用いるタンデム方式の画像形成装置の一例であるプリンタである。
画像形成装置Yは,トナー像を形成し,記録紙に画像形成を行う画像形成部α1,その記録紙を前記画像形成部α1に供給する給紙部α2,及び画像形成の行われた記録紙の排出がなされる排紙部α3を有する。
パーソナルコンピュータ等の外部装置から不図示の通信部により受信された画像情報(印刷ジョブ)は,図5に示す画像処理部12によりブラック(BK),マゼンダ(M),イエロー(Y),シアン(C),の4色各々に対する画素ごとの濃淡値情報である画素階調に変換される。
【0010】
前記画像形成部α1は,上記4色各々の像を担持する4つの感光体1(ブラック用1BK,マゼンダ用1M,イエロー用1Y,シアン用1C),その感光体1各々の表面を一様に帯電させる帯電装置23(23BK,23M,23Y,23C),その帯電装置23により予め帯電済みの前記感光体1各々の表面を画像処理部12により決定される前記画素階調に対応する露光量の光を画素ごとに照射する(露光する)ことにより前記感光体1に静電潜像を書き込む露光源2(2BK,2M,2Y,2C),その静電潜像にトナーを供給することによりトナー像として現像する現像装置5(5BK,5M,5Y,5C),前記感光体1各々の表面に形成されたトナー像が順次転写され,そのトナー像を記録紙に転写する中間転写ベルト7,記録紙を搬送する搬送ローラ8,記録紙上に転写されたトナー像を加熱定着させる定着装置9,トナー像を記録紙に転写後の前記感光体1表面の除電を行う除電装置4(4BK,4M,4Y,4C)等を備えて概略構成される。
上記露光源2(2BK,2M,2Y,2C)から発射された各色のビーム光を前記感光体1(1BK,1M,1Y,1C)にそれぞれ露光走査するために,走査装置(不図示)が用いられる。
【0011】
前記感光体1は,例えば,高硬度で性状が安定しているため耐久性に優れる一方,感度ムラに加えて帯電ムラが比較的顕著に表れやすいa−Si感光体等である。
図5に示すワイヤ駆動部21は,後記する排気ダクトD内に設けられた帯電装置23,23(図2参照)を駆動するもので,画像形成装置Yの制御プログラムの一部によって構成されても,あるいは別回路を設けることで実現可能である。
図5に示す前記露光源2は,前記感光体1(1BK,1M,1Y,1C)の軸方向(主走査方向)に1画素ごとに複数のLEDが配列されたLEDアレイにより構成されたものの例を示している。この他,前記露光源2は,レーザ光を前記感光体1の軸方向に走査するレーザスキャン装置等によって構成されたものであってもよい。
前記現像装置5は,前記感光体1にトナーを供給する現像ローラを備え,その現像ローラに印加された電位(現像バイアス電位)と前記感光体1表面の電位との電位ギャップに応じて,前記現像ローラ上のトナーが前記感光体1の面上に引き寄せられ,前記静電潜像がトナー像として顕像化される。
前記給紙部α2は,給紙カセット20,給紙ローラ6等を有して概略構成される。前記給紙カセット20に予め収容された記録紙は,前記給紙ローラ6が回転駆動することにより前記画像形成部α1に搬送される。
前記給紙部α2から送出された記録紙は,前記搬送ローラ8により搬送されつつ,前記中間転写ベルト7からトナー像が転写される。そして,トナー像が転写された記録紙は,前記定着装置9(定着手段の一例)に搬送され,例えば加熱ローラ等により記録紙に加熱定着された後,前記排紙部α3に搬送されて排出される。
【0012】
前記した画像処理部12,データ記憶部13,帯電装置23,露光源2,現像装置5,除電装置4,ワイヤ駆動部21は,これらが接続された制御部1によって,操作表示部11からの入力データあるいはデータ記憶部13に記憶された各種印刷条件などのデータに基づいてプログラム制御される。
ワイヤ駆動部21を駆動する条件としては,前記転写部材の一例である用紙P(図2参照)に関する各種データ,例えば用紙Pのサイズ,用紙Pの厚さ(通常は坪量として入力されるか,予め記憶されている),使用するトナーの種類,印字率,連続印刷枚数などの印刷条件が一例として挙げられる。これらのデータは,上記操作表示部11から入力されるか,あるいは予め設定されているデータである。また,印字率や連続印字枚数は,印刷条件の設定時に入力される。
これらの条件は,制御部1によって検知され,ワイヤ駆動部21の駆動条件として用いられる。
制御部1は,これらのデータの何れか,あるいはその組み合わせのデータを入力すると,これらのデータから,図5に示す定着装置9のヒートローラ9d(図2参照)に与える流れ込み電流あるいは電圧を算出し,定着装置9を制御する。その際,制御部1は,これらのデータから定着装置9の温度を推測することが出来,加圧ローラ9aが発生する熱量の大小を求めることが出来る。即ち,発生する熱量が多いほど,多くの揮発性有機化合物(VOC)が発生した(あるいはものとして,これを吸着固定すべく前記ワイヤ駆動部21によって駆動される帯電装置23の金属ワイヤ23aへ与える流れ込み電流を制御する。揮発性有機化合物(VOC)の発生量が多いほど,金属ワイヤ23aに印加する流れ込み電流が大きくなるように制御される。
【0013】
同様のことが画像形成装置Yの環境条件についても生じる,例えば,定着装置9の周囲の温度,定着装置9自身(具体的には,加熱ローラ9b)の温度,あるいは画像形成装置Yが置かれた部屋の室温を周知の温度検出装置で検出し,これらの温度が高ければ定着装置9から生じる揮発性有機化合物(VOC)蒸気量が多いとみなして,これを吸着固定すべく金属ワイヤ23aへ与える流れ込み電流を制御する。
【0014】
上記定着装置9の詳細が図2に示されている。図3の画像形成装置Yでは,定着装置部9で用紙が垂直方向に搬送されるもの(縦搬送)が示されており,図2では,用紙が水平方向に搬送されるが,これらは事例に過ぎず,本質的な相違ではない。
図2に示されるように,この実施形態にかかる画像形成装置Yでは,加熱ローラ9dと,その垂直下方に設けられた加圧ローラ9aとからなる定着装置9(定着手段の一例)を備え,前記中間転写ベルト7(転写手段の一例)でトナー画像Tが転写された用紙Pは,上記加熱ローラ9dと,その垂直下方に設けられた加圧ローラ9aによって把持されつつ進行することで,トナー画像Tが用紙Pに定着される。
前記上記加熱ローラ9dと,その垂直下方に設けられた加圧ローラ9aを備えた定着装置9の上部空間は,排気ダクトDの下方に向けて拡開するように開放された下部開口Daによって覆われており,上記下部開口Daに接続された排気ダクトD内には,帯電手段の一例である金属ワイヤ23aを備えた2個の帯電装置23,23(帯電手段の一例)が配置されている。これらの帯電装置23の金属ワイヤ23aは,前記したワイヤ駆動部21に接続されており,金属ワイヤ23aに与えられる流れ込み電流の値が,前記のように制御部1によって制御される。
前記排気ダクトD内には,前記のように帯電装置23,23が設けられているが,さらに,ファンFを設けて,定着装置9から立ち上る熱気および熱気に含まれるシロキサンガスなどを強制的に排気ダクトD内に吸い込み,さらに排気ダクトD外に排出するようにすることが望ましい。
【0015】
定着装置9で発生したシロキサンガスなどは,前記のように定着装置9の発熱量に応じて流れ込み電流が制御される前記金属ワイヤ23aによって吸着固定されるが,これで全てのVOCが吸着されるわけではない。従って,上記帯電装置23,23で吸着し切れなかったVOCについては,排気ダクトD内で,あるいはその出口までの間で吸着することで,出来るだけVOCの含まれていない排気を室内あるいは室外に排出することが望ましい。
そのための手段として,公知のフィルタなどの吸着手段25を,前記帯電装置23から前記排気ダクトDの排出端部までの間あるいは前記排気ダクトDの排出部近傍に設けておくことが望ましい。
図2の例では,排気ダクトDの排出端部に吸着手段25が設けられている。
これらの吸着手段の例としては,活性炭,チタニア,活性炭素繊維,多孔質ガラス,多孔質セラミックス,粘土鉱物,疎水性の合成吸着剤,合成ゼオライト,シリカゲル,アルミナ,ケイ酸マグネシウム,活性白土,シリカーアルミナ,極性を有する合成吸着剤などが挙げられる。
なお,上記排気ダクトDの排出端部は,画像形成装置Yの外に向けて開放されるようにすることも出来るが,画像形成装置Yの内部に向けて開放させることで,上記帯電装置23,23あるいは吸着手段25で吸着し切れなかったシロキサンガスなどを画像形成装置Yから排出されないようにすることも可能である。
【0016】
更に,帯電装置の帯電効率を高めるために,金属ワイヤ23aに対向して,金属ワイヤ23aを取り囲むように対向電極23bを設置することが望ましい。対向電極23bの具体的形状が図4に示される。
【0017】
上記したように,この実施形態では,シロキサンガスの発生しやすい定着装置9から排気ダクトDおよびファンF等の排気装置を用いて,排気ダクトD内にシロキサンガスなどの揮発性有機物の蒸気を導く。そして,排気ダクトD内に電圧印加可能な金属ワイヤ23bを設置する。金属ワイヤ23bに印加する電圧は,正の電圧を印加することによって,シロキサンガスなどは金属ワイヤ23aに引き寄せられ,吸着し,固定化される。さらに,主にシロキサンガスの発生源となるシリコンゴムからなる加圧ローラ9aの温度に応じて上記金属ワイヤ23aへの電流量を制御する事で,効率的な回収が可能となる。
また,定着装置9を通過するときに,溶着するトナーが定着装置9から熱を奪って,定着装置9の温度を低下させ。これによってシロキサンガスなどの発生が抑制されるので,トナーの消費量を表す印字率などによっても,上記金属ワイヤ23aへの電流量を制御する事で,シロキサンガスなどの効率的な回収が可能となり,電力の節減を図ることができる。
さらに,印字時においては,常に定着ローラの全幅に渡る用紙が供給されるわけではない。その結果,定着ローラ非通紙部(用紙サイズが小さいために用紙が通らない部分)の加圧ローラ9aの温度は通紙部よりも著しく高温になるため,非通紙部が多くなるサイズの小さい用紙を使う印字ほど,より多くシロキサンガスを発生しやすい。そのため,紙のサイズを認識し,金属ワイヤ23aへの電流量を変化させ,効率よいガス回収を行うことが望ましい。
また,用紙サイズだけでなく,用紙の厚み(坪量によって表される)によっても加圧ローラ9aへかかる熱量が異なるため,これらの条件に対応して金属ワイヤ23aへの電流量を制御する事で,効率的な回収が可能となる。
【0018】
〔実験例〕
以下に,前記した画像形成装置Yを用いて画像形成動作を行い,このとき排気ダクトDの出口に設置した揮発性有機化合物(VOC)の検知装置で吸着された蒸気の量を測定することで,どのような印字条件下でどの程度VOCガスが検出されるかを測定した。
(実験条件)
京セラミタ製画像形成装置KM−C3232E(プリンタ)(品番)内の定着装置上部に,図2に示すと同様のSUS製5m3チャンバー(排気ダクト)を設置し,チャンバー内を15m3/hの換気を行うように設定した。約1時間換気後,各種用紙を用いて10min間プリント動作を行い,機内から発生する揮発性物質をTenax管で100ml/minサンプリングした。その後プリンタ動作停止後も約20minは,連続してサンプリングを行った。サンプリングしたTenax管を加熱脱着装置で脱着し,GC−MSにて測定してシロキサンガスの発生量を算出した。その結果のデータを図1に示す。
なお,このとき用いた帯電ワイヤおよび対向電極の条件は次の通りである。
ワイヤ:直径60μmのタングステンワイヤー Rmax0.9μm
(ここに,Rmaxは,JIS B0601:ISO4287:1997)に規定する測定法に従って測定した時の最大粗さ(μm)を表す。)
印加電圧:DCバイアス:6kV
ワイヤ/対向電極距離:4mm
ワイヤへの流れ込み電流値
印字用紙サイズ250mm以上 300μA
印字用紙サイズ250mm未満〜150mm以上 500μA
印字用紙サイズ150mm未満 700μA

〔実験例1〕
A4縦(用紙サイズ297mm)給紙(普通紙坪量64g/m3)を印字用紙として用い,サイズ検知して流れ込み電流値が300μAに自動調整されたKM−C3232Eを印字率5%の条件でプリントし,サンプリングしてシロキサンガス量を算出した。
〔実験例2〕
実験例1と比べて印字率が20%であること以外は実験例1と同じである。
〔実験例3〕
実験例1と比べて印字率が50%であること以外は実験例1と同じである。
〔実験例4〕
実験例2と比べて用紙坪量が90g/m3であること以外は実験例2と同じである。
〔実験例5〕
実験例4と比べて用紙坪量が160g/m3であること以外は実験例4と同じである。
〔実験例6〕
A4横(用紙サイズ210mm)給紙(普通紙坪量64g/m3)を印字用紙として用い,サイズ検知して流れ込み電流値が500μAに自動調整されたKM−C3232Eを印字率5%の条件でプリントし,サンプリングしてシロキサンガス量を算出した。
〔実験例7〕
実験例6と比べて印字率が20%であること以外は実験例6と同じである。
〔実験例8〕
実験例7と比べて印字率が50%であること以外は実験例7と同じである。
〔実験例9〕
実験例7と比べて用紙の坪量が90g/m3であること以外は実験例7と同じである。
〔実験例10〕
実験例9と比べて用紙の坪量が160g/m3であること以外は実験例7と同じである。
〔実験例11〕
葉書給紙(坪量185g/m3)を印字用紙として用い,サイズ検知して流れ込み電流値が700μAに自動調整されたKM−C3232Eを印字率5%の条件でプリントし,サンプリングしてシロキサンガス量を算出した。
〔実験例12〕
実験例11と比べて印字率が20%であること以外は実験例11と同じである。
〔参考例1〕
実験例1と比べて流れ込み電流が500μAであること以外は実験例11と同じである。
〔参考例2〕
実験例1と比べて流れ込み電流が700μAであること以外は実験例11と同じである。
〔参考例3〕
実験例1あるいは参考例1,2と比べて帯電装置への電圧印加が行われなかったこと以外は実験例1あるいは参考例1,2と同じである。
〔参考例4〕
実験例10(電流が500μA)と比べて流れ込み電流が300μAであること以外は実験例10と同じである。
〔参考例5〕
実験例7(電流が500μA)と比べて流れ込み電流が300μAであること以外は実験例7と同じである
〔参考例6〕
実験例7(電流が500μA)と比べて流れ込み電流が700μAであること以外は実験例7と同じである
〔参考例7〕
実験例12(電流が700μA)と比べて流れ込み電流が300μAであること以外は実験例12と同じである
【0019】
〔流れ込み電流の影響〕
流れ込み電流を印加しなかった参考例3は,他のデータと比べて,シロキサンガスの発生量が著しく多いことが理解され,流れ込み電流のシロキサンガスの発生を押さえる効果はきわめて顕著であることが分かる。
流れ込み電流の大きさについて
実験例1,参考例1,2の相違は,流れ込み電流の大きさ(300,500,700)のみであり,その間でシロキサンガスの発生量が,40,38,35と変動しており,流れ込み電流が大きいほどシロキサンガスの発生量が抑えられていることが分かる。従って,流れ込み電流を制御することで,シロキサンガスの発生を抑制できることがわかる。
参考例5,6の相違は,流れ込み電流の大きさ(300,700)のみであり,その間でシロキサンガスの発生量が,58,38と変動しており,流れ込み電流が大きいほどシロキサンガスの発生量が抑えられていることが分かる。
参考例5,実験例7の相違は,流れ込み電流の大きさ(300,500)のみであり,その間でシロキサンガスの発生量が,58,40と変動しており,流れ込み電流が大きいほどシロキサンガスの発生量が抑えられていることが分かる。
以上から,ワイヤへの流れ込み電流の大きさを調整することによって,シロキサンガスの発生量が抑えられることが結論される。
〔印字率の影響〕
実験例1,2,3の相違は,印字率(%)の大きさ(5,20,50)のみであり,その間でシロキサンガスの発生量が,40,38,35と低下しており,印字率が大きいほどシロキサンガスの発生量が抑えられていることが分かる。
これは,印字率,即ちトナーの使用量が多く,用紙に持ち去られるトナーによって定着ローラの熱も持ち去られるためと考えられる。
実験例6,7,8の相違は,印字率(%)の大きさ(5,20,50)のみであり,その間でシロキサンガスの発生量が,39,40,38と,わずかであるが低下しており,印字率が大きいほどシロキサンガスの発生量が抑えられていることが分かる。
実験例11,12の相違は,印字率(%)の大きさ(5,20)のみであり,その間でシロキサンガスの発生量が,42,41と,わずかであるが低下しており,印字率が大きいほどシロキサンガスの発生量が抑えられていることが分かる。
以上より,印字率がシロキサンガスの発生に影響を与えていることが理解されるので,印字率に応じて,ワイヤへの流れ込み電流を調整することで,効率的なシロキサンガスの抑制を行うことができる。
〔用紙サイズ(副走査方向の長さの影響)〕
実験例2,参考例5の相違は,用紙サイズ(副走査方向の長さ)(A4縦,A4横)のみであり,その間でシロキサンガスの発生量が,38,58と,著しく変動しており,用紙サイズ(副走査方向の長さ)が長いほどシロキサンガスの発生量が抑えられていることが分かる。
実験例5,参考例4の相違は,用紙サイズ(副走査方向の長さ)(A4縦,A4横)のみであり,その間でシロキサンガスの発生量が,31,50と,著しく変動しており,用紙サイズ(副走査方向の長さ)が長いほどシロキサンガスの発生量が抑えられていることが分かる。
参考例1,実験例6の相違は,用紙サイズ(副走査方向の長さ)(A4縦,A4横)のみであり,その間でシロキサンガスの発生量が,38,39と,変動しており,用紙サイズ(副走査方向の長さ)が長いほどシロキサンガスの発生量が抑えられていることが分かる。
以上から,用紙サイズがシロキサンガスの発生量に大きい影響を持つことが理解されるので,用紙サイズに応じて,ワイヤへの流れ込み電流を調整することで,効率的なシロキサンガスの抑制を行うことができることが理解される。
〔用紙厚さ(坪量)の影響〕
実験例2,4,5の相違は,用紙厚さ(坪量)(64,90,160(g/m3)のみであり,その間でシロキサンガスの発生量が,38,35,31と,著しく変動しており,用紙厚さ(坪量)が厚いほどシロキサンガスの発生量が著しく抑えられていることが分かる。
実験例7,9,10の相違は,用紙厚さ(坪量)(64,90,160(g/m3)のみであり,その間でシロキサンガスの発生量が,40,37,34と,著しく変動しており,用紙厚さ(坪量)が厚いほどシロキサンガスの発生量が著しく抑えられていることが分かるので,用紙厚さ(坪量)に応じて,ワイヤへの流れ込み電流を調整することで,効率的なシロキサンガスの抑制を行うことができることが理解される。
用紙が厚いほど,定着ローラの熱を大量に奪うため,定着装置の温度が低下し,シロキサンガスの発生量が著しく抑えられるためと考えられる。
上記の実験例は,一例であり,上記以外の印刷条件に応じるほか,前記した環境条件に応じてワイヤへの流れ込み電流を制御することで,効率的なシロキサンガスの抑制を行うことができることが理解される。
【産業上の利用可能性】
【0020】
本発明に係る画像形成装置は,複写機,ファクシミリなどの画像形成装置,あるいはこれらの機能とスキャナ機能とを備えた複合機としての画像形成装置などに適用可能である。
【符号の説明】
【0021】
Y…画像形成装置
D…排気ダクト
Da…下部開口
F…ファン
1(1BK,1M,1Y,1C)……感光体
9…定着装置
9a…加圧ローラ
9d…加熱ローラ
23…帯電装置
23a…金属ワイヤ
23b…対向電極
25…吸着手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも,
転写部材表面に未定着のトナー像を付着させる転写手段と,
前記転写手段によって転写されたトナー像を前記転写部材に加熱定着させる定着手段と,
前記定着手段近傍の空気を定着装置近傍から排気する排気ダクトと,
前記排気ダクト内に設けられた帯電ワイヤと,
を備えてなる画像形成装置であって,
前記帯電ワイヤの表面粗さμが,
μ≧0.9μm
である画像形成装置。
【請求項2】
少なくとも,
転写部材表面に未定着のトナー像を付着させる転写手段と,
前記転写手段によって転写されたトナー像を前記転写部材に加熱定着させる定着手段と,
前記定着手段近傍の空気を定着装置近傍から排気する排気ダクトと,
前記排気ダクト内に設けられた帯電ワイヤと,
を備えてなる画像形成装置であって,
前記帯電ワイヤの表面粗さμが
μ≦3.0μm
である画像形成装置。
【請求項3】
少なくとも,
転写部材表面に未定着のトナー像を付着させる転写手段と,
前記転写手段によって転写されたトナー像を前記転写部材に加熱定着させる定着手段と,
前記定着手段近傍の空気を定着装置近傍から排気する排気ダクトと,
前記排気ダクト内に設けられた帯電ワイヤと,
を備えてなる画像形成装置であって,
前記帯電ワイヤの表面粗さμが
3.0μm≧μ≧0.9μm
である画像形成装置。
【請求項4】
前記制御手段は,前記帯電手段に正の電圧を印加するものである請求項1〜3のいずれかに記載の画像形成装置。
【請求項5】
前記排気ダクト内に,前記帯電手段に対して対向する対向電極が設けられてなる請求項1〜4のいずれかに記載の画像形成装置。
【請求項6】
前記排気ダクト内に,揮発性有機化合物を吸着する吸着手段が設けられてなる請求項1〜5のいずれかに記載の画像形成装置。
【請求項7】
前記吸着手段が,前記帯電手段から前記排気ダクトの排出部までの間あるいは前記排気ダクトの排出部近傍のいずれかに設けられてなる請求項1〜6の何れかに記載の画像形成装置。
【請求項8】
前記排気ダクトが,定着装置近傍の空気を画像形成装置外,あるいは内に向けて排気するダクトである請求項1〜7の何れかに記載の画像形成装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2012−53276(P2012−53276A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−195862(P2010−195862)
【出願日】平成22年9月1日(2010.9.1)
【出願人】(000006150)京セラミタ株式会社 (13,173)
【Fターム(参考)】