説明

画像形成装置

【課題】潤滑膜が割れ、剥がれることで摩擦力が上昇し、ブレードがめくれてしまう。割れを抑制するために多層膜化するという例があるが、柔軟なゴム表面に高硬度な膜を成膜するためには多くの層が必要となり、処理に手間がかかる。これに対して、クリーニングブレード表面に成膜したCVD潤滑膜の割れや使用中に発生する割れを基点とする膜の剥離を防止することにより、長期的に安定した当接状態を達成する改良技術を提供する。
【解決手段】ウレタンゴム製クリーニングブレードにおいて、被クリーニング部材との当接部分付近にイソシアネート化合物による硬化処理を行い、プラズマイオン注入・成膜法によりCVD潤滑膜を成膜する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電子写真方式による記録装置の画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真方式の画像形成装置においては、像担持体や1次転写ベルトに残留した現像剤を清掃するためにクリーニング装置が設けられている。このクリーニング装置としては、基材としてポリウレタンゴムを用いた弾性ブレードが一般的である。クリーニングブレードは、被クリーニング部材にエッジが当接するように設置されており、摺擦によりエッジで現像剤を掻き落とす。そのため、クリーニング部材と被クリーニング部材との間で摩擦力が発生する。一般的にポリウレタンゴムは被当接部材との間で大きな摩擦力を生じるため、当接部分に潤滑剤を塗布する(特許文献1)という対策が行われている。しかし、潤滑剤は、画像を出力するにつれて失われるため、摩擦力がある閾値を超えた場合にはブレードがめくれてしまいクリーニングシステムが破綻するという問題が発生する。そこで、クリーニングブレード自体に低摩擦性を持たせるためにポリウレタンゴム製クリーニングブレードに対してイソシアネート化合物による硬化処理を行う(特許文献2)という対策が行われている。また近年、画像形成装置の超寿命化、高速化が進んでおり、クリーニングブレードには更なる耐摩耗性、高潤滑性が求められている。このような要求に応えるため、クリーニングブレードの先端に耐摩耗性、高潤滑性に優れたダイヤモンドライクカーボン潤滑膜(以下DLC潤滑膜)をコーティングする(特許文献3)という対策が提案されている。さらに、このDLC潤滑膜の付着性を上げるために、中間層を設けて多層膜化するという例(特許文献4)がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004-279734号公報
【特許文献2】特開2001-343874号公報
【特許文献3】昭64-90484号公報
【特許文献4】特開2005-274952号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
クリーニング部材は、長手に渡って均一に当接させなければならないため、適切な柔軟性を持っている。そのため、クリーニング部材は被クリーニング部材との当接時に変形する。一般的に使用されているポリウレタンゴム基層に化学蒸着潤滑膜(以下CVD潤滑膜)を成膜した場合、成膜時に生じる熱変形により割れが生じる場合がある。更に、使用前には割れが無くても、当接時の変形によりCVD潤滑膜に割れが発生し、割れを基点として剥離が発生する場合もある。割れを抑制するために多層膜化するという例があるが、柔軟なゴム表面に高硬度な膜を成膜するためには多くの層が必要となり、処理に手間がかかるのに加え、各層間の密着性も課題となる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
(1)少なくとも像担持体と像担持体上の現像剤をクリーニングする手段としてクリーニングブレードを有する画像形成装置において、クリーニングブレードはポリウレタンゴム基材部からなり、ポリウレタンゴム基材部は、像担持体と接するエッジ部分を中心にイソシアネート化合物およびポリウレタンゴムの反応による硬化処理がなされており、ポリウレタンゴム基材部の硬化処理がなされた部分上にパルスプラズマイオン注入・成膜法によって成膜したCVD潤滑膜が設けられていることを特徴とする画像形成装置。
(2)前記画像形成装置において、CVD潤滑膜がDLC潤滑膜であることを特徴とする画像形成装置。
【発明の効果】
【0006】
本発明に係る第1の発明によれば、ポリウレタンゴムを基材とするクリーニングブレード表面に成膜したCVD潤滑膜の割れを防ぐことができ、使用中に発生する割れを基点とする膜の剥離を防止することが出来る。その結果、長期的に安定した当接状態を維持することができ、良好な画像出力状態を維持できる。
【0007】
本発明に係る第2の発明によれば、DLC潤滑膜が耐摩耗性に優れ、低摩擦であるため、高耐久性で低トルクな画像形成装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】画像形成装置の概略図
【図2】プロセスカートリッジの断面図
【図3】クリーニングブレードの概略図
【図4】クリーニングブレードの層構造概略図
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に本発明を適用した画像形成装置であるレーザプリンタ、クリーニングブレード基材、イソシアネート化合物によるポリウレタンゴムの硬化処理、CVD潤滑膜の成膜方法について説明する。ただし、ここで記載されている構成部品の寸法、材質、形状、それらの相対位置、及び処理条件などは、発明が適用される画像形成装置の構成や各種条件により適宜変更されるべきものであり、この発明の範囲を以下の実施例に限定する趣旨のものではない。
【0010】
<画像形成装置>
図1は本発明を適用する画像形成装置の概略構成図である。本画像形成装置は、電子写真プロセス利用のフルカラーレーザプリンタであり、画像形成装置本体A及びこれに脱着自在で、帯電装置、現像装置、クリーニング装置及び被現像剤担持体である感光体ドラム等を一体としたプロセスカートリッジにより構成されている。前記プロセスカートリッジは、イエローBy、マゼンタBm、シアンBc、ブラックBkの各色があり、これらを4連に並べ、各色のプロセスカートリッジで感光体ドラム上に形成された現像剤による像を、転写装置の中間転写ベルト11上に転写することでフルカラー画像を形成し、その後の記録紙への転写工程及び定着工程を経て画像を形成するものである。ここで、本実施形態における電子写真プロセスは、接触現像装置を適用したものであり、現像剤は各色ともにネガ帯電性を持つ平均粒径6.0μmの非磁性1成分現像剤を使用した。なお、前記プロセスカートリッジの詳細については後述する。
【0011】
各色のプロセスカートリッジにより感光体ドラム上に形成された現像剤像は、中間転写ベルトを挟んで各色の感光体ドラムの対向位置に設けられた1次転写ローラ12y、12m、12c、12kにより中間転写ベルト上に転写され、中間転写ベルトの移動方向下流側に設けられた2次転写ローラ13により、一括して記録紙上に転写される。なお、中間転写ベルト上の未転写現像剤は、中間転写ベルトクリーナ14によって回収される。
【0012】
記録紙Pは画像形成装置A下部のカセット15内に積載されており、印字動作の要求とともに給紙ローラ16により搬送され、前記2次転写ローラ位置において中間転写ベルト上に形成された現像剤像が転写される。
【0013】
その後、記録紙上の現像剤像は定着ユニット17により記録紙に加熱定着され、排紙部18を経て画像形成装置外部に排出される。
【0014】
本画像形成装置においては、4色の各プロセスカートリッジ等を収納する上部のユニットと転写ユニット及び記録紙等を収納する下部ユニットは分離可能になっており、紙詰まり等のジャム処理発生時やプロセスカートリッジの交換時において、上下のユニットを開口することにより前記処理を行う。
【0015】
次に、プロセスカートリッジの構成について述べる。図2は、並列に置かれた4つのプロセスカートリッジの1つについて、その断面を示したものである。なお、4つのプロセスカートリッジの構成は、本質的には全て同じである。画像形成プロセスの中心となる感光体ドラム21は、アルミニウム製シリンダの外周面に機能性膜である下引き層、キャリア発生層及びキャリア移送層を順にコーティングした有機感光体ドラムを用いている。画像形成プロセスにおいて、感光体ドラムは所定の速度で画像形成装置により図中矢印a方向へ駆動される。
【0016】
帯電装置である帯電ローラ22は、導電性ゴムのローラ部を感光体ドラムに加圧接触して矢印b方向に従動回転する。ここで、帯電ローラの芯金には、感光体ドラムに対して-1100 vの直流電圧が印加されており、これにより誘起された電荷によって感光体ドラムの表面電位は-550 vとなり、一様な暗部電位(Vd)が形成される。
【0017】
この一様な表面電荷分布面に対して、不図示のスキャナユニットにより画像データに対応して発光されるレーザ光のスポットパターンは、図2中の矢印Lで示すように感光体ドラムを露光する。露光された部位はキャリア発生層からのキャリアにより表面の電荷が消失し、電位が低下する。この結果、露光部位は明部電位Vl = -100 v、未露光部位は暗部電位Vd = -550 vの静電潜像が感光体ドラム上に形成される。
【0018】
前記静電潜像は、現像装置Dにおいて所定のコート量及び帯電量になるように形成された現像剤コート層により現像され、静電潜像を実像化する。
【0019】
各プロセスカートリッジの感光体ドラムに接触する中間転写ベルトは、感光体ドラムに対向した1次転写ローラにより感光体ドラムに加圧されている。また、1次転写ローラには直流電圧が印加されており、感光体ドラムとの間で電界が形成されている。
【0020】
これにより、感光体ドラム上で実像化された現像剤像は、前記中間転写ベルトが加圧接触する転写領域において、電界の力を受けて感光体ドラム上から中間転写体上に転写される。
【0021】
一方、感光体ドラム上で中間転写ベルトに転写されずに残った未転写現像剤は、クリーニング装置Cに設置されたポリウレタンゴム製のクリーニングブレード26により感光体ドラム表面から掻き落とされ、クリーニング容器内に収納される。
【0022】
現像装置Dは、現像剤担持体である現像ローラ23、現像剤供給ローラ25、規制部材としての規制ブレード24、現像剤及びこれらを収納する現像容器などから構成される。
【0023】
現像ローラは、外径φ6 mmの芯金に導電性のシリコーン弾性体層3 mmを形成したφ12 mmの弾性ローラを用いている。なお、この弾性シリコーンローラのAsker-C硬度は50°である。
【0024】
現像剤供給ローラは、外径φ5 mmの芯金上に、発泡ウレタン弾性体層を形成したスポンジローラを用いており、前記発泡ウレタンはその表面に平板を1 mm侵入させた時の線圧が3 gf/mmになる硬度のものを用いた。前記現像剤供給ローラは、現像ローラに対する線圧としての当接圧が4 gf/mm程度になるように、現像ローラとの軸間距離が12.75 mmに設定されている。
【0025】
現像ローラは、感光体ドラムに接触しながら感光体ドラムの回転方向に対して順方向cに回転しており、現像剤供給ローラは現像ローラに接触しながら現像ローラの回転方向と逆方向dに回転する。
【0026】
現像剤供給ローラは、現像容器内の現像剤である非磁性1成分トナーTを保持し、現像ローラとの接触面に搬送し供給するとともに、現像ローラ上において現像部で現像されずに残った現像剤を現像ローラ上から剥ぎ取り、現像容器内に回収する。
【0027】
現像剤供給ローラから現像ローラ上に供給された現像剤は、現像ローラと規制ブレードとの当接面を通過する際、摩擦帯電により帯電されるとともに、コート層厚の規制を受け、所定の帯電量及びコート層厚を持つ現像剤コート層が形成される。
【0028】
現像ローラには、画像形成工程時にDCバイアス = -300 vが印加されており、前記工程によりマイナスに帯電した現像剤は、感光体ドラムに接触する現像部においてその電位差により明部電位にのみ飛翔し、感光体ドラム上の静電潜像を現像する。
【0029】
なお、本画像形成装置は、市販のレーザプリンタLBP5300(キヤノン製)をベースに改造したものであり、実施例に明記していない項目についてはLBP5300の仕様をそのままの設定で使用している。
【0030】
<クリーニングブレード基材>
基材となるポリウレタンゴムは、JIS K 6253で定義されるJIS-A硬度60から85度のポリウレタンを基材としているのでブレード全体としては柔軟でゴム弾性に富んでいる。この基材を形成するポリウレタンは、高分子ポリオール、ポリイソシアネート、および架橋剤を反応させたものを用いた。
【0031】
高分子ポリオールとしては、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、カプロラクトンエステルポリオール、ポリカーボネートエステルポリオール、シリコーンポリオールなどが用いられる。重量平均分子量は通常500から5000のものが用いられるが、これらに限定されるものではない。
【0032】
イソシアネートとしては、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、トリレンジイソシアネート(TDI)、ナフタレンジイソシアネート(NDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)などがあげられるが、これらに限定されるものではない。
【0033】
架橋剤としては、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、エチレングリコール、トリメチロールプロパンなどがあげられる。また、触媒としてはトリエチレンジアミンなどがあげられるが、これらに限定されるものではない。
【0034】
ブレードの成形方法としては、上記各成分を一度に混合して、金型または遠心成形円筒金型に注型して成形するワンショット法、イソシアネートとポリオールをあらかじめ反応させておきプレポリマーとし、その後架橋剤や触媒等を混合して金型または遠心成形円筒金型に注型して成形するプレポリマー法、イソシアネートにポリオールを反応させたセミプレポリマーと、架橋剤にポリオールを添加した硬化剤を反応させて金型または遠心成形円筒金型に注型して成形するセミワンショット法などを用いることができる。
【0035】
このようにして厚さ2 mm、幅240 mm、奥行き10mmのポリウレタンブレード基材を作成し、図3のように支持板金に接着して使用する。
【0036】
エリオニクス社製 超微小硬度計(ENT1100)にて、作成したブレード表面硬さを測定した。三角圧子(対稜角115°)を用いて、最大荷重100 mgf(ステップインターバル10ミリ秒、分割数1000)で測定したところ、2.5μm程度の変位が観測された。
【0037】
<イソシアネート化合物によるポリウレタンゴムの硬化処理>
成形した基材にイソシアネート化合物を所定時間含浸させた後、加熱硬化することにより、イソシアネート化合物とポリウレタンゴムとを反応させて表面に硬化層を形成する。
【0038】
硬化層はブレード全面に形成する必要は無く、含浸させたくない部分に対薬品性テープなどでマスキングするなどして、ブレードが感光体と接するエッジから3 mm程度内側で形成すれば良い。
【0039】
硬化層を形成する具体的行程について述べる。ブレード基材にイソシアネート化合物を含浸させる方法としては、まず、ポリイソシアネート化合物が液状であるような温度とし、その中にブレード部材を浸す方法があげられる。その他に、繊維質、多孔質体にイソシアネート化合物を含浸させブレード部材に塗布する方法を採ることもできる。さらに、スプレーにより塗布しても良い。イソシアネート液に浸漬中、塗布中、塗布した後のイソシアネート化合物の温度も同様に、そのイソシアネート化合物が液状である温度が好ましい。このようにして、イソシアネート化合物をウレタンに含浸させ、一定時間後に、ウレタン表面に残存するイソシアネート化合物を拭き取る。その後で含浸されたイソシアネート化合物とポリウレタンゴムとの反応を進行させる。
【0040】
含浸する時間が長ければ硬化層は厚くなり、短ければ硬化層は薄くなる。また、その度合いは使用するイソシアネート化合物の種類、触媒の種類によっても左右される。
【0041】
具体的なイソシアネート化合物の含浸時間としては、6分以上120分以下が好ましい。また、含浸温度は10℃以上100℃以下が好ましい。
【0042】
含浸されたイソシアネート化合物とポリウレタンゴムとを反応させる時間は、反応効率とポリウレタンゴムの熱劣化の観点から、5分以上120分以下が好ましい。また、反応温度は、30℃以上160℃以下が好ましい。
【0043】
ブレードに含浸させるイソシアネート化合物は分子中に1個以上のイソシアネート基を有するもので、1個のイソシアネート基を有するものはオクタデシルイソシアネート(ODI)などの脂肪族モノイソシアネート、芳香族モノイソシアネート等が使用できる。
【0044】
2個以上のイソシアネート基を有するものは、2,4-トリレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、m-フェニレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、4,4’,4”-トリフェニルメタントリイソシアネート、2,4’,4”-ビフェニルメタントリイソシアネート、2,4’,4”-ジフェニルメタントリイソシアネート等があげられるが、これらに限定されるものではない。この他にも、2個以上のイソシアネート基を有するものの変性体や多量体が使用しうる。
【0045】
なお、これらの中でも、立体障害の少ない脂肪族モノイソシアネート、分子量の小さいMDIなどが浸透性に優れ、得られる硬化層の厚み制御がしやすい。
【0046】
また、イソシアネート化合物の重合反応を促進するために、イソシアネート化合物に加え、イソシアネート化合物の重合触媒もポリウレタン樹脂に含浸させる場合がある。
【0047】
イソシアネート化合物と共に用いる多量化触媒は、第4級アンモニウム塩、カルボン酸酸塩などを用いることができる。第4級アンモニウム塩としては、DABCO社製のTMR触媒、NCX211、NCX212(共に三共エアプロダクツ製)等を例示することができる。これらの重合触媒は水酸基を含むが、重合触媒の機能はイソシアネート化合物を重合させるものであり、それ自体が架橋構造に関与するものではなく、活性水素化合物とは異なるものである。カルボン酸塩としては、酢酸カリウム、オクチル酸カリウム、例えば、三共エアプロダクツ製P-15及びk-15等を例示することができる。
【0048】
これらの重合触媒は非常に粘度が高かったり、含浸時に固体であったりするので、予め溶剤に溶解してからイソシアネート化合物に添加し、ポリウレタンゴムに含浸することが好ましい。溶剤としては、イソシアネート化合物と反応しうる活性水素を持たないものが使用され、具体的には、MEK、トルエン、テトラヒドロフラン、酢酸エチル等を上げることができる。希釈倍率は、質量比で1.5倍以上15倍以下が好ましい。また、イソシアネート化合物に対する重合触媒の添加率は、終濃度で1質量ppm以上1000質量ppm以下が好ましい。なお、イソシアネート化合物と重合触媒とを混合すると、重合反応が開始されるため、イソシアネート化合物と重合触媒との混合は、イソシアネート化合物の含浸直前に行うことが好ましい。
【0049】
エリオニクス社製 超微小硬度計(ENT1100)にて、硬化処理を行った部分の表面硬さを測定した。三角圧子(対稜角115°)を用いて、最大荷重100 mgf(ステップインターバル10ミリ秒、分割数1000)で測定したところ、2μm程度の変位が観測された。
【0050】
<パルスプラズマイオン注入・成膜法によるCVD潤滑膜の成膜>
パルスプラズマイオン注入・成膜法においては、少なくとも1以上のイオン注入用ガスを用いて、パルスプラズマによる、イオン注入プロセスと成膜プロセスとを組み合わせた複合プロセスによって、基材表面にミキシング層を形成し、CVD潤滑膜を成膜する。また、その複合プロセスの前にパルスプラズマによる表面調整プロセスを設けても良い。
【0051】
プラズマ発生用高周波電源と、高電圧パルス発生用電源とを、共通のフィードスルーを介してチャンバー内の基材に接続しておき、前記プラズマ発生用高周波電源から基材に高周波パルス(パルスRF電圧)を印加して基材の外形に沿って周囲にプラズマを発生させる。そして、そのプラズマ中またはアフターグロープラズマ中に、高電圧パルス発生用電源から基材に負の高電圧パルス(DCパルス電圧)を少なくとも1回印加し、これら高周波パルスの印加と負の高電圧パルスの印加とを繰り返し行う。なお、この高周波パルスの印加と高電圧パルスの印加との繰り返し数は、100回/秒から5000回/秒程度である。
【0052】
高周波パルス幅は2から200μsの短パルスとし、高電圧パルス幅は、0.2から50μsの短パルスとする。前記高周波パルスの印加後10から300μs経過した後に高電圧パルスを印加する。
【0053】
表面調整用ガスとしては、アルゴンとメタンあるいは更に水素を含む混合ガスを用いる。
【0054】
DLC膜を成膜する場合、パルスプラズマイオン注入用ガスとしては、メタンガスを用いる。成膜用ガスとしては、アセチレン、プロパン、ブタン、ヘキサン、ベンゼン、クロルベンゼン、トルエンからなる群より選ばれた1以上のガスを用いる。
【0055】
チタンセラミックス膜を成膜する場合、パルスプラズマイオン注入用及び成膜用ガスとしては、有機チタンアルコキシドを用いる。有機チタンアルコキシドの例としては、テトライソプロポキシチタン、テトラ-n-ブトキシチタン等が挙げられる。
【0056】
シリコンセラミックス膜を成膜する場合、パルスプラズマイオン注入用及び成膜用ガスとしては、シランカップリング用剤を用いる。シランカップリング用剤の例としては、ヘキサメチルジシロキサン(HMDSO)、テトラメチルシラン(TMS)、テトラエトオキシシリコン(TEOS)等が挙げられる。
【0057】
今回のように基材が絶縁性材料である場合には、基材を導電性材料からなるホルダーに保持した状態で各処理を行えばよい。
【0058】
ミキシング層の形成の確認は、2次イオン質量分析、またはX線光電子分光分析等を行い、CVD潤滑膜の分析は、ラマン分光分析、薄膜X線回折、透過電子顕微鏡による観察等を行えばよい。
【0059】
<実施例及び比較例>
以下に、実施例及びこれに対する比較例に用いたクリーニングブレードの構成及び本発明を実施することにより得られる効果について、例示的に説明する。なお、以下の実施例及び比較例において、特に明記していない画像形成装置の構成、画像出力条件等は全て同一である。
【0060】
[実施例1]
本実施例における本発明の特徴を示すクリーニングブレードは、イソシアネート化合物による硬化処理が施されている部分を覆うように前記パルスプラズマイオン注入・成膜法により、成膜用ガスとしてアセチレンを用いてDLC潤滑膜を成膜したものである。
【0061】
[比較例1]
本比較例で用いたクリーニングブレードは、実施例1のクリーニングブレードにおいてイソシアネート化合物による硬化処理が施されていないこと以外の条件は全て同じである。
【0062】
[実施例2]
本実施例における本発明の特徴を示すクリーニングブレードは、イソシアネート化合物による硬化処理が施されている部分を覆うように前記パルスプラズマイオン注入・成膜法により、成膜用ガスとしてテトライソプロポキシチタンを用いてチタンセラミックス膜を成膜したものである。
【0063】
[比較例2]
本比較例で用いたクリーニングブレードは、実施例2のクリーニングブレードにおいてイソシアネート化合物による硬化処理が施されていないこと以外の条件は全て同じである。
【0064】
[実施例3]
本実施例における本発明の特徴を示すクリーニングブレードは、イソシアネート化合物による硬化処理が施されている部分を覆うように前記パルスプラズマイオン注入・成膜法により、成膜用ガスとしてヘキサメチルジシロキサンを用いてシリコンセラミックス膜を成膜したものである。
【0065】
[比較例3]
本比較例で用いたクリーニングブレードは、実施例3のクリーニングブレードにおいてイソシアネート化合物による硬化処理が施されていないこと以外の条件は全て同じである。
【0066】
<実施例及び比較例の結果>
実施例1、2、3及び比較例1、2、3のクリーニングブレードそれぞれについて、未使用状態及びプロセスカートリッジに組み込んで画像を出力した後の表面を目視と光学顕微鏡(Keyence社製、VH-Z450)にて観察した。
【0067】
実施例1、2、3で用いた全てのクリーニングブレードにおいて、未使用状態では、イソシアネート化合物による硬化処理を行った部分上のCVD潤滑膜に割れは見られず、未処理の部分にのみ割れが見られた。画像出力中は良好にクリーニングし続け、5000枚の画像出力後でも被クリーニング部材との当接位置において割れ・剥がれは見られなかった。
【0068】
一方、比較例1、2、3のクリーニングブレードは、未使用状態においてブレード全体に目視で確認できるCVD潤滑膜の割れが見られた。さらに、ブレードのエッジ部分を光学顕微鏡にて観察すると、エッジから約50μmの範囲は、数μmの小片状にCVD潤滑膜が割れており、特にエッジから約20μmの範囲は、CVD潤滑膜が剥離していた。各クリーニングブレードをプロセスカートリッジに組み込んで画像を出力しようと試みたが、感光体ドラムが回転し始めた直後にブレードめくれが発生し、画像を出力することができなかった。通常、製品ではクリーニングブレードの被クリーニング部材との当接部分付近には潤滑剤を塗布する。本比較例においては、潤滑剤を使用しておらず、潤滑効果を期待して成膜したCVD潤滑膜が剥がれてしまったためにめくれてしまった。
【0069】
以上の実施例及び比較例の結果より、今回成膜した各CVD潤滑膜において、膜の種類によらず、イソシアネート化合物による硬化処理が膜の割れ防止、付着性の向上に効果があることが分かった。
【0070】
<イソシアネート化合物による硬化処理の効果>
ポリウレタンゴムにイソシアネート化合物による硬化処理を行うと、最表面が最も硬度が高く、内部に向かうにつれて基材本来の硬度に近づく、というように連続的に硬度を変えることができる。そのため、被クリーニング部材に当接させた場合に局所的な応力集中が無く、ブレードの長寿命化が図れる。また、マスキングするなどして局所的に硬化処理を行うことで、クリーニングブレードとして必要な柔軟性を確保することが出来る。通常のウレタン製ブレードに潤滑膜を成膜する場合、基材と潤滑膜の硬度差が大きいと、成膜時の熱変形や使用時の変形により潤滑膜が割れ、剥離する。基材と潤滑膜の硬度差を小さくしようとすると割れ、剥がれは改善するが、基材全体が硬くなってしまいクリーニングブレードとして必要な柔軟性が確保できない。イソシアネート化合物による硬化処理を行うと、潤滑膜を成膜しても割れることの無い高い硬度を持つ最表面と、クリーニングブレードとして必要な柔軟性を併せ持ったクリーニングブレードを得ることが出来る。
【0071】
また、クリーニングブレードは、被クリーニング部材との摺擦状態において、当接部分が巻き込まれるように変形する。この変形は、摺擦時に発生する摩擦力が小さく、クリーニングブレードの硬度が高いほど小さい。イソシアネート化合物による硬化処理を行うと、ゴム基材の変形は小さくなる。更に表面に低摩擦なCVD潤滑膜を成膜するためにより変形が小さくなる。変形が小さいとCVD潤滑膜に発生する応力が減り、より膜が割れにくくなる。
【0072】
<イソシアネート化合物による硬化処理とパルスプラズマイオン注入の相乗効果>
イソシアネート化合物は、その構造中にR-NCO基を持っている。ポリウレタンゴムに対してイソシアネート化合物による硬化処理を行うと、ポリウレタンゴム中にR-NCO基が導入される。導入されたR-NCO基は、ポリウレタンゴム内でR-(NCO)-という陰イオンの形をとりやすい。
【0073】
一方、パルスプラズマイオン注入法においては、図4に示すように基材中にイオンが注入されたミキシング層を形成する。このミキシング層において、イオン注入された陽イオン(C4+、Ti4+、Si4+等)が基材中のR-(NCO)-と結びつくことで未処理のポリウレタンゴムより強化されたミキシング層を形成する。強化されたミキシング層上にCVD潤滑層を成膜するため割れ・剥がれが発生しないクリーニングブレードを得ることができる。
【符号の説明】
【0074】
10y……イエロー・スキャナユニット
10m……マゼンタ・スキャナユニット
10c……シアン・スキャナユニット
10k……ブラック・スキャナユニット
11……中間転写ベルト
12y……イエロー・1次転写ローラ
12m……マゼンタ・1次転写ローラ
12c……シアン・1次転写ローラ
12k……ブラック・1次転写ローラ
13……2次転写ローラ
14……中間転写ベルトクリーナ
15……記録紙カセット
16……給紙ローラ
17……定着装置
18……排紙部
21……感光体ドラム
22……帯電ローラ
23……現像ローラ
24……規制ブレード
25……現像剤供給ローラ
26……クリーニングブレード
31……クリーニンググレード支持板金
32……ポリウレタンゴム基材部
33……イソシアネート化合物による硬化処理部分
34……CVD潤滑膜
a……ドラム回転方向
A……画像形成装置本体
By……イエロー・プロセスカートリッジ
Bm……マゼンタ・プロセスカートリッジ
Bc……シアン・プロセスカートリッジ
Bk……ブラック・プロセスカートリッジ
b……帯電ローラ回転方向
c……現像ローラ回転方向
C……クリーニング装置
d……現像剤供給ローラ回転方向
D……現像装置
L……レーザ照射方向
P……記録紙
T……現像剤
V1……現像剤供給ローラ及び規制ブレードへのバイアス供給電源
V2……現像ローラへのバイアス供給電源


【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも像担持体と像担持体上の現像剤をクリーニングする手段としてクリーニングブレードを有する画像形成装置において、クリーニングブレードはポリウレタンゴム基材部からなり、基材部は、像担持体と接するエッジ部分を中心にイソシアネート化合物とポリウレタン樹脂の反応による硬化処理がなされており、基材部の硬化処理がなされた部分上にパルスプラズマイオン注入・成膜法によって成膜した化学蒸着潤滑膜が設けられていることを特徴とする画像形成装置。
【請求項2】
化学蒸着潤滑膜がダイヤモンドライクカーボン潤滑膜であることを特徴とする請求項1に記載の画像形成装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−80077(P2013−80077A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−219760(P2011−219760)
【出願日】平成23年10月4日(2011.10.4)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】