説明

画像情報処理装置

【課題】DNAマイクロアレイなどのプローブアレイ上のプローブの蛍光輝度を検出する際に、プローブの蛍光輝度と、プローブアレイ表面に付着した異物やエリアセンサに存在する不良画素による輝度とを区別できる画像情報処理装置を提供すること。
【解決手段】プローブアレイのハイブリダイゼーション反応させた画像において、ハイブリダイゼーション反応結果に基づくプローブアレイ上のプローブの蛍光輝度をプローブ以外の蛍光輝度と区別して検出する画像情報処理装置であって、ハイブリダイゼーションさせた画像における赤、緑、青画素の輝度比を計算する手段と、赤、緑、青画素の輝度比からプローブの蛍光輝度とプローブ以外の蛍光輝度とを区別する手段と、を備えることを特徴とする画像情報処理装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はいわゆるプローブアレイの画像情報処理装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、画像撮像装置に利用されるエリアセンサとしてCCDセンサ、CMOSセンサなどを用いたものがある。これらは各画素の光電変換素子であるホトダイオードに蓄積された信号電荷を各々の方式によって増幅し、画像情報として読み出すものである。特許文献1にはCCDセンサを用いてDNAマイクロアレイの蛍光を読み取る核酸分析装置が開示されている。この特許文献に開示された装置は、DNAマイクロアレイの各プローブを発光ダイオードによって照射して励起し、各プローブの蛍光をCCDセンサにより検出している。この装置によりDNAマイクロアレイの各プローブの蛍光強度を一度に測定することが可能になる。さらに、各プローブの測定条件がほぼ同一となり、測定精度も向上する。また、読取機構が省スペース、安価となり、故障率も低下し、メンテナンスがほとんど不要となる。
【特許文献1】特開2005−181145号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
DNAマイクロアレイ基板の表面には、プローブ以外にごみや汚れ等の異物が付着している場合がある。また、上記エリアセンサでは、画素のホトダイオードに不良が生じた場合など、正常な信号電荷情報を読み出せない不良画素が存在する。そのため、上記エリアセンサでDNAマイクロアレイのプローブハイブリダイゼーション反応させた蛍光画像を撮像する場合、蛍光画像の輝度にはプローブの蛍光輝度以外に上記異物による輝度や、上記不良画素の異常値が輝度として検出される。よって、上記プローブの蛍光輝度を検出するためには、上記プローブの蛍光輝度と、上記異物や不良画素による輝度を区別し、プローブの蛍光強度のみを検出することが望ましい。
【0004】
本発明の目的は、DNAマイクロアレイなどのプローブアレイ上のプローブの蛍光輝度を検出する際に、プローブの蛍光輝度と、プローブアレイ表面に付着した異物やエリアセンサに存在する不良画素による輝度とを区別できる画像情報処理装置を提供することにある。
【0005】
本発明の他の目的は、プローブアレイのハイブリダイゼーションさせた画像において、輝度が飽和した画素を補間する画像情報処理装置を提供することにある。
【0006】
本発明の更なる目的は、上記画像情報処理装置を備えるプローブアレイの画像撮像装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第一の画像情報処理装置は、
プローブアレイのハイブリダイゼーション反応させた画像において、該ハイブリダイゼーション反応結果に基づくプローブアレイ上のプローブの蛍光輝度を該プローブ以外の蛍光輝度と区別して検出する画像情報処理装置であって、
前記画像における赤、緑、青画素の輝度比を計算する手段と、
前記輝度比から前記プローブの蛍光輝度と前記プローブ以外の蛍光輝度とを区別する手段と、
を備えることを特徴とする画像情報処理装置である。
【0008】
本発明の第一の画像撮像装置は、
プローブアレイのハイブリダイゼーション反応させた画像を撮像する装置であって、
プローブアレイ保持手段と、
前記プローブアレイに励起光を照射する手段と、
前記プローブアレイ上の蛍光輝度を検出するエリアセンサと、
本発明の第一の画像情報処理装置と、
を備えるプローブアレイ画像撮像装置である。
【0009】
本発明の第二の画像情報処理装置は、
プローブアレイのハイブリダイゼーションさせた画像において、輝度が飽和した画素を補間する画像情報処理装置であって、
前記画像における赤、緑、青画素の輝度比を計算する手段と、
前記輝度比から輝度が飽和した前記画素の輝度計算する手段と、
を備えることを特徴とする画像情報処理装置である。
【0010】
本発明の第二の画像撮像装置は、
プローブアレイのハイブリダイゼーション反応させた画像を撮像する装置であって、
プローブアレイ保持手段と、
前記プローブアレイに励起光を照射する手段と、
前記プローブアレイ上の蛍光輝度を検出するエリアセンサと、
本発明の第二の画像情報処理装置と、
を備えるプローブアレイ画像撮像装置である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、プローブアレイのハイブリダイゼーション反応させた画像において、プローブの蛍光輝度と、プローブアレイに付着するごみや汚れ等の異物による輝度、エリアセンサ不良画素による異常輝度とを区別して、正常なプローブの反応結果、例えば蛍光輝度を検出することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
図1は本発明による画像情報処理方法の手順を示すフローチャートである。はじめに、DNAマイクロアレイのハイブリダイゼーション反応させた蛍光画像をエリアセンサで撮像する(101)。上記蛍光画像は、RGBカラーフィルタを装着したエリアセンサを用いて撮像するので、RGB各波長のシグナルで構成された画像情報を得ることができる。次に、画像情報の輝度の大きさから、オブジェクト認識を行う(102)。オブジェクトとはバックグラウンドに比べて輝度が大きなエリアのことである。オブジェクトには、DNAマイクロアレイのプローブ蛍光輝度や、DNAマイクロアレイ基板に付着するごみや汚れといった異物等による輝度、エリアセンサ不良画素による異常輝度等が存在する。ここで、DNAマイクロアレイのプローブには、どのようなサンプルに対しても蛍光輝度を発するコントロールプローブが含まれる。次に、前記オブジェクトのRGB輝度比の計算を行う(103)。オブジェクトのエリアに含まれるR、G、Bそれぞれの輝度の比を計算して求める。次に、コントロールプローブオブジェクトのRGB輝度比とその他のオブジェクトのRGB輝度比を比較して、オブジェクトを分類する(104)。ここで、コントロールプローブオブジェクトの輝度比に近いオブジェクトをプローブオブジェクト、異なるものをそれ以外のオブジェクトとして認識する。そして、認識したプローブオブジェクトのエリアについて、蛍光輝度を計算する(105)。図1の画像情報処理方法の手順は、後ほど詳細に説明する。
【0013】
図2は本発明による画像情報処理装置に適用される情報処理装置の構成を示すブロック図である。画像情報処理装置は、外部記憶装置201、中央処理装置(CPU)202、メモリ203、入出力装置204から構成される装置に実装される。外部記憶装置201は、本発明を実現するプログラムや、ハイブリダイゼーション反応の結果、輝度レベルを保持する。中央処理装置(CPU)202は本発明を実現するプログラムを実行したり、すべての装置の制御を行なったりする。メモリ203は中央処理装置(CPU)202が使用するプログラム、及びサブルーチンや画素不良データ、撮像画像データ等のデータを一時的に記録する。入出力装置204は、ユーザーとのインタラクションを行う。多くの場合、本発明の生物種判定方法を実現するプログラム実行のトリガーはこの入出力装置を介してユーザーが出す。また、ユーザーの結果確認、プログラムのパラメータ制御は、この入出力装置を介して行う。
【0014】
本発明による画像情報処理装置は、プローブアレイのハイブリダイゼーション反応させた画像においてハイブリダイゼーション反応結果に基づくプローブアレイ上のプローブの蛍光輝度を該プローブ以外の蛍光輝度と区別して検出する画像情報処理装置であって、
ハイブリダイゼーション反応させた画像における赤、緑、青画素の輝度比を計算する手段と、当該輝度比から前記プローブの蛍光輝度と前記プローブ以外の蛍光輝度とを区別する手段とを備える。また、上記オブジェクトを認識する手段を更に有しても良いし、あるいはハイブリダイゼーション反応させた画像において、設定した閾値以上の輝度を有する画素領域を認識する手段、を更に有する構成とすることができる。
【0015】
図3は本発明による蛍光画像撮像装置(プローブアレイ画像撮像装置)の構成を示した図である。蛍光画像撮像装置は図2で示した情報処理装置301、撮像装置303、DNAマイクロアレイの励起光源306、DNAマイクロアレイ307を支持するDNAマイクロアレイ支持基盤308、外部からの光を遮断する暗箱302で構成される。撮像装置303はCMOSセンサ304を内蔵し、蛍光フィルター305を付属する。CMOSセンサ304にはRGBカラーフィルタが装着されている。ハイブリダイゼーション反応を行ったマイクロアレイ307を励起光源306で励起し、発せられた蛍光を蛍光フィルター305を通じて撮像装置303で撮像する。Cy3蛍光色素を用いた場合、励起光源306は波長532nmのレーザを用いる。撮像装置303はUSBケーブルで接続された情報処理装置301の入出力装置から操作する。
【0016】
本発明による画像撮像装置は、プローブアレイのハイブリダイゼーション反応させた画像を撮像する装置であって、プローブアレイ保持手段と、プローブアレイに励起光を照射する手段と、
プローブアレイ上の蛍光輝度を検出するエリアセンサと、上記画像情報処理装置とを少なくとも備える。
【0017】
図4はDNAマイクロアレイ上のハイブリダイゼーションの様子を示した図である。生体内でほとんどの場合、DNAは2重らせん構造をしていて、その2本鎖の間の結合は塩基間の水素結合で実現されている。一方、RNAは1本鎖で存在する場合が多い。塩基の種類はDNAの場合はATGCの4種類、RNAの場合はAUGCの4種類であり、それぞれ水素結合ができる塩基対はA-T(U)、G-Cのペアとなっている。一般にハイブリダイゼーション反応とは、1本鎖状態の核酸分子同士がその中にある部分塩基配列を介して部分的に結合する状態をいう。本発明で想定している反応は、図4の上側の基板にくっついた核酸分子(プローブ)の方が下側のサンプル中にある核酸分子より短い。よって、サンプル中に存在する核酸分子がプローブの塩基配列を含む場合は、このハイブリダイゼーション反応はうまくいき、サンプル中のターゲット核酸分子はDNAマイクロアレイにトラップされることとなる。
【実施例】
【0018】
(実施例1)
本実施例では、DNAマイクロアレイを用いたハイブリダイゼーション反応実験の実験手順について詳細に説明する。図5はDNAマイクロアレイを用いる操作手順全般の流れを示している。501の“サンプル”とは対象としている核酸が含まれているはずの液体や個体である。例えば感染症の原因菌の特定をするために本発明を適用した場合、ヒト、家畜等の動物由来の血液、喀痰、胃液、膣分泌物、口腔内粘液等の体液、尿及び糞便のような排出物等細菌が存在すると思われるあらゆる物がサンプルとなる。また、食中毒、汚染の対象となる食品、飲料水及び温泉水のような環境中の水等、細菌による汚染が引き起こされる可能性のある媒体がサンプルとして用いられることもある。さらに、輸出入時における検疫等の動植物も検体としてその対象となる。
【0019】
次に、502の“生化学的増幅”方法を用いて501のサンプル増幅する。例えば感染症の原因菌の特定をするために本発明を適用した場合、16s rRNA検出用に設計されたPCR反応用プライマーを用いてPCR法によって対象核酸を増幅したり、或いはPCR増幅物を元にさらにPCR反応等を行って調製したりする。また、PCR以外のLAMP法などの増幅方法により調製してもよい。その後で、増幅されたサンプル、または501のサンプルそのものに、可視化のために各種標識法により標識する。この標識物質としては、通常Cy3, Cy5, Rodaminなどの蛍光物質が用いられる。また、502の生化学的増幅の実験手順の中で、標識分子を混入することもある。
また、ターゲット核酸分子を蛍光物質により標識する方法のほかに、FRET(蛍光共鳴エネルギー移動)法やETPH(エキシマー形成2プローブ核酸ハイブリダイゼーション)法などのプローブ側に蛍光色素を標識する方法を用いることもできる。また、プローブとターゲット核酸分子とのハイブリッド体に挿入されるEtBr(エチジウムブロマイド)などのインターカレーターを用いて蛍光標識する方法を用いることもできる。本実施例では核酸に標識分子を付加させる標識方法を用いる場合により説明する。標識分子が付加された核酸は、504のDNAマイクロアレイとハイブリダイゼーション反応(505)を行う。この様子は、図4に示した通りである。
例えば感染症の原因菌の特定をするために本発明を適用した場合、504のDNAマイクロアレイは、原因菌に特異的な塩基配列を持つプローブ(人工核酸)を基板に固定したものとなる。各菌のプローブの設計は、例えば16s rRNAをコーディングしているゲノム部分より、当該菌に対し非常に特異性が高く、十分かつそれぞれのプローブ塩基配列でTmなどを考慮してばらつきのないハイブリダイゼーション感度が期待できるように行う。504のDNAマイクロアレイのプローブを固定する担体(基板)は、ガラス基板、プラスチック基板、シリコンウェハー等の平面基板が考えられる。また、凹凸のある三次元構造体、ビーズのような球状のもの、棒状、紐状、糸状のもの等を用いても、本発明の実施形態、効果には影響ない。
【0020】
通常、前記基板の表面はプローブDNAの固定化が可能なように処理したものが使用される。特に、表面に化学反応が可能となるように官能基を導入した物は、ハイブリダイゼーション反応の過程でプローブが安定に結合している為に、再現性の点で好ましい形態である。本発明に用いられる固定化方法は、例えば、マレイミド基とチオール(−SH)基との組合わせを用いる例が挙げられる。即ち核酸プローブの末端にチオール(−SH)基を結合させておき、固相表面がマレイミド基を有するように処理しておくことで、固相表面に供給された核酸プローブのチオール基と固相表面のマレイミド基とが反応して核酸プローブを固定化する。マレイミド基の導入方法としては、まず、ガラス基板にアミノシランカップリング剤を反応させ、次にそのアミノ基とEMCS試薬(N-(6-Maleimidocaproyloxy)succinimide :Dojin社製)との反応によりマレイミド基を導入する。DNAへのSH基の導入は、DNA自動合成機上5'-Thiol-ModifierC6(Glen Research社製)を用いる事により行なうことができる。固定化に利用する官能基の組合せとしては、上記したチオール基とマレイミド基の組合せ以外にも、例えばエポキシ基(固相上)とアミノ基(核酸プローブ末端)の組合せ等が挙げられる。また、各種シランカップリング剤による表面処理も有効であり、該シランカップリング剤により導入された官能基と反応可能な官能基を導入したオリゴヌクレオチドが用いられる。さらに、官能基を有する樹脂をコーティングする方法も利用可能である。
【0021】
ハイブリダイゼーション反応を行った後、504のDNAマイクロアレイの表面を洗浄し、プローブと結合していない核酸を剥がした後で、(通常は)乾燥し、505のハイブリダイゼーション反応を反映したDNAマイクロアレイの蛍光量を測定する。この蛍光量はターゲット核酸分子に付加された蛍光標識に基づくものであり、ハイブリダイゼーション反応によりDNAマイクロアレイ上のプローブとのハイブリッド形成によりトラップされたターゲット核酸分子が存在することを示している。また、ターゲット核酸分子に蛍光標識を付加する以外の標識方法であっても、各標識方法における蛍光標識による蛍光量を測定するものである。この蛍光量を測定するために、DNAマイクロアレイの基板に励起光を照射し、センサで蛍光画像を撮像(506)する。得られたDNAマイクロアレイ蛍光画像(507)のプローブ蛍光強度を算出する。ここで、ハイブリダイゼーション反応により得られるDNAマイクロアレイ(プローブアレイ)の蛍光画像として取得したいものは、DNAマイクロアレイ上のプローブとターゲット核酸分子との結合(ハイブリッド形成)を示す蛍光シグナルのみが含まれる蛍光画像であって、ハイブリッド形成を示すシグナルではない異物や画素不良に由来する蛍光シグナルを除くことが望ましい。
【0022】
次に、図6を用いて感染症の菌を特定するDNAマイクロアレイの原理を示す。図6で示したDNAマイクロアレイは、例えば、黄色ブドウ球菌を特定する目的で作られていると仮定する。
左の列は、黄色ブドウ球菌野生株由来の処理系列であり、右の列は大腸菌野生株由来の処理系列である。例えば、左は黄色ブドウ球菌に感染した患者の血液を処理する流れで、右は大腸菌に感染した患者の血液を処理する流れだと考えてよい。どちらも基本的には同じ処理を行う。つまり、まず初めに例えば菌感染患者の血液や、痰などからDNAを抽出する。この際に、一般的には、患者の体細胞由来の人間のDNAも含まれる可能性がある。抽出されたDNAが少ない場合、PCR法などの方法で増幅を行う。この際に蛍光物質もしくは蛍光物質を結合させることができる物質を標識として混入させるのが一般的である。増幅をしない場合は、抽出されたDNAを用いて、相補鎖を作りながら蛍光物質もしくは蛍光物質を結合可能な物質を標識として混入させる、または、そのまま直接抽出されたDNAに蛍光物質もしくは蛍光物質を結合可能な物質を標識として付加させる。通常、PCR増幅を行う場合、感染症の菌特定目的であれば、いわゆる16s rRNAといわれるリボゾームRNAを構成する塩基配列の部分を増幅するのが一般的である。この場合、左の黄色ブドウ球菌のPCRプライマーと右の大腸菌のPCRプライマーはほとんど同じものを使うこととなる。より具体的には、どんな菌の16s rRNAをコーディングしている部分でも増幅させることができるプライマーセットを用いて、マルチプレックスPCRを行う。
【0023】
黄色ブドウ球菌を判定する目的のために設計されたDNAマイクロアレイが正しく動作するならば、左のハイブリ溶液では、スポットがポジティブに反応し、右のハイブリ溶液では、スポットがネガティブに反応する。
【0024】
これと全く同じように、大腸菌の存在を判定する目的のために設計されたDNAマイクロアレイが正しく動作するならば、左のハイブリ溶液では、スポットがネガティブに反応し、右のハイブリ溶液では、スポットがポジティブに反応する。もちろん、いろんな菌に対してそれぞれ特異的に反応する数種類のスポットを同時に並べたDNAマイクロアレイを用いて、感染菌の判定を行ってもかまわない。
【0025】
以下、図5を用いて説明した操作の流れを、具体的な感染症の原因菌特定の操作の例を示して説明する。なお、本発明にかかわる生物種類判定方法は、以下に述べる感染症の原因菌特定に限ったものではなく、MHCなどの人間の体質判定や、癌などの疾病に関わるDNA、RNAの解析に用いてもよい。
【0026】
<プローブDNAの準備>
Enterobacter cloacae菌検出用Probeとして表1に示す核酸配列(I−n)(nは数字)を設計した。具体的には、16s rRNAをコーディングしているゲノム部分より、以下に示したプローブ塩基配列を選んだ。これらのプローブ塩基配列群は、当該菌に対し非常に特異性が高く、十分かつそれぞれのプローブ塩基配列でTmなどを考慮してばらつきのないハイブリダイゼーション感度が期待できるように設計されている。
【0027】
【表1】

【0028】
表中に示したプローブは、DNAマイクロアレイに固定するための官能基として、合成後、定法に従って核酸の5'末端にチオール基を導入した。官能基の導入後、精製し、凍結乾燥した。凍結乾燥した内部標準用プローブは、-30℃の冷凍庫に保存した。
【0029】
黄色ブドウ球菌(A−n)、表皮ブドウ球菌(B−n)、大腸菌(C−n)、肺炎桿菌(D−n)、緑膿菌(E−n)、セラチア菌(F−n)、肺炎連鎖球菌(G−n)、インフルエンザ菌(H−n)、及びエンテロコッカス・フェカリス菌(J−n)(nは数字)についても同様な手法により以下の表2に示すプローブセットを設計した。
【0030】
【表2−1】

【0031】
【表2−2】

【0032】
<検体増幅用PCR Primerの準備>
起炎菌検出用の為の16s rRNA核酸(標的核酸)増幅用PCR Primerとして表3に示す核酸配列を設計した。具体的には、16s rRNAをコーディングしているゲノム部分を特異的に増幅するプローブセット、つまり約1500塩基長の16s rRNAコーディング領域の両端部分で、特異的な融解温度をできるだけ揃えたプライマーを設計した。なお、変異株や、ゲノム上に複数存在する16s rRNAコーディング領域も同時に増幅できるように複数種類のプライマーを設計した。
【0033】
【表3】

【0034】
表中に示したPrimerは、合成後、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により精製し、Forward Primer 3種、Reverse Primer 3種を混合し、それぞれのPrimer濃度が、最終濃度10 pmol/μl となるようにTE緩衝液に溶解した。
【0035】
<Enterobacter cloacae Genome DNA(モデル検体)の抽出>
(微生物の培養 & Genome DNA 抽出の前処理)
まず、Enterobacter cloacae 標準株を、定法に従って培養した。この微生物培養液を1.5ml容量のマイクロチューブに1.0ml(OD600=0.7)採取し、遠心分離で菌体を回収した(8500rpm、5min、4℃)。上精を捨てた後、Enzyme Buffer(50mM Tris-HCl:p.H. 8.0、25mM EDTA)300μlを加え、ミキサーを用いて再縣濁した。再縣濁した菌液は、再度、遠心分離で菌体を回収した(8500rpm、5min、4℃)。上精を捨てた後、回収された菌体に、以下の酵素溶液を加え、ミキサーを用いて再縣濁した。
Lysozyme 50 μl (20 mg/ml in Enzyme Buffer)
N-Acetylmuramidase SG 50 μl (0.2 mg/ml in Enzyme Buffer)
次に、酵素溶液を加え再縣濁した菌液を、37℃のインキュベーター内で30分間静置し、細胞壁の溶解処理を行った。
(Genome抽出)
以下に示す微生物のGenome DNA抽出は、核酸精製キット(MagExtractor -Genome-:TOYOBO社製)を用いて行った。具体的には、まず、前処理した微生物縣濁液に溶解・吸着液750μlと磁性ビーズ40μlを加え、チューブミキサーを用いて、10分間激しく攪拌した(ステップ1)。次に、分離用スタンド(Magical Trapper)にマイクロチューブをセットし、30秒間静置して磁性粒子をチューブの壁面に集め、スタンドにセットした状態のまま、上精を捨てた(ステップ2)。次に、洗浄液 900 μl を加え、ミキサーで5sec程度攪拌して再縣濁を行った(ステップ3)。次に、分離用スタンド(Magical Trapper)にマイクロチューブをセットし、30秒間静置して磁性粒子をチューブの壁面に集め、スタンドにセットした状態のまま、上精を捨てた(ステップ4)。ステップ3、4を繰り返して2度目の洗浄(ステップ5)を行った後、70%エタノール 900 μl を加え、ミキサーで5sec程度攪拌して再縣濁した(ステップ6)。次に、分離用スタンド(Magical Trapper)にマイクロチューブをセットし、30秒間静置して磁性粒子をチューブの壁面に集め、スタンドにセットした状態のまま、上精を捨てた(ステップ7)。ステップ6、7を繰り返して70%エタノールによる2度目の洗浄(ステップ8)を行った後、回収された磁性粒子に純水 100 μl を加え、チューブミキサーで10分間攪拌を行った。次に分離用スタンド(Magical Trapper)にマイクロチューブをセットし、30秒間静置して磁性粒子をチューブ壁面に集め、スタンドにセットした状態のまま、上精を新しいチューブに回収した。
(回収したGenome DNAの検査)
回収された微生物(Enterobacter cloacae 株)のGenome DNAは、定法に従って、アガロース電気泳動と260/280nmの吸光度測定を行い、その品質(低分子核酸の混入量、分解の程度)と回収量を検定した。本実施例では、約10μgのGenome DNAが回収され、Genome DNAのデグラデーションやrRNAの混入は認められなかった。回収したGenome DNAは、最終濃度50ng/μlとなるようにTE緩衝液に溶解し、以下の実施例に使用した。
【0036】
<DNAマイクロアレイの作製>
[1]ガラス基板の洗浄
合成石英のガラス基板(サイズ:25mmx75mmx1mm、飯山特殊ガラス社製)を耐熱、耐アルカリのラックに入れ、所定の濃度に調製した超音波洗浄用の洗浄液に浸した。一晩洗浄液中で浸した後、20分間超音波洗浄を行った。続いて基板を取り出し、軽く純水ですすいだ後、超純水中で20分超音波洗浄をおこなった。次に80℃に加熱した1N水酸化ナトリウム水溶液中に10分間基板を浸した。再び純水洗浄と超純水洗浄を行い、DNAチップ用の石英ガラス基板を用意した。
[2]表面処理
シランカップリング剤KBM-603(信越シリコーン社製)を、1%の濃度となるように純水中に溶解させ、2時間室温で攪拌した。続いて、先に洗浄したガラス基板をシランカップリング剤水溶液に浸し、20分間室温で放置した。ガラス基板を引き上げ、軽く純水で表面を洗浄した後、窒素ガスを基板の両面に吹き付けて乾燥させた。次に乾燥した基板を120℃に加熱したオーブン中で1時間ベークし、カップリング剤処理を完結させ、基板表面にアミノ基を導入した。次いで同仁化学研究所社製のN-マレイミドカプロイロキシスクシイミド(N-(6-Maleimidocaproyloxy)succinimido)(以下EMCSと略す)を、ジメチルスルホキシドとエタノールの1:1混合溶媒中に最終濃度が0.3mg/mlとなるように溶解したEMCS溶液を用意した。ベークの終了したガラス基板を放冷し、調製したEMCS溶液中に室温で2時間浸した。この処理により、シランカップリング剤によって表面に導入されたアミノ基とEMCSのスクシイミド基が反応し、ガラス基板表面にマレイミド基が導入された。EMCS溶液から引き上げたガラス基板を、先述のMCSを溶解した混合溶媒を用いて洗浄し、さらにエタノールにより洗浄した後、窒素ガス雰囲気下で乾燥させた。
[3]プローブDNA
<プローブDNAの準備>で作製した微生物検出用プローブを純水に溶解し、それぞれ、最終濃度(インク溶解時)10μMとなるように分注した後、凍結乾燥を行い、水分を除いた。
[4]インクジェットプリンターによるDNA吐出、および基板への結合
グリセリン7.5wt%、チオジグリコール7.5wt%、尿素7.5wt%、アセチレノールEH(川研ファインケミカル社製)1.0wt%を含む水溶液を用意した。続いて、先に用意した6種類のプローブ(表1)を上記の混合溶媒に規定濃度なるように溶解した。得られたDNA溶液をインクジェットプリンター(商品名:BJF-850 キヤノン社製)用インクタンクに充填し、印字ヘッドに装着した。
なおここで用いたインクジェットプリンターは平板への印刷が可能なように改造を施したものである。またこのインクジェットプリンターは、所定のファイル作成方法に従って印字パターンを入力することにより、約5ピコリットルのDNA溶液を約120マイクロメートルピッチでスポッティングすることが可能となっている。
【0037】
続いて、この改造インクジェットプリンターを用いて、1枚のガラス基板に対して、印字操作を行い、アレイを作製した。印字が確実に行われていることを確認した後、30分間加湿チャンバー内に静置し、ガラス基板表面のマレイミド基と核酸プローブ末端のチオール基とを反応させた。
[5]洗浄
30分間の反応後、100mMのNaClを含む10mMのリン酸緩衝液(pH7.0)により表面に残ったDNA溶液を洗い流し、ガラス基板表面に一本鎖DNAが固定したDNAマイクロアレイを得た。
【0038】
<検体の増幅と標識化(PCR増幅&蛍光標識の取り込み)>
検体となる微生物DNAの増幅、および、標識化反応を以下に示す。
Premix PCR 試薬(TAKARA ExTaq) 25μl
Template Genome DNA 2μl (100ng)
Forward Primer mix 2μl (20pmol/tube each)
Reverse Primer mix 2μl (20pmol/tube each)
Cy-3 dUTP (1mM) 2μl (2nmol/tube)
H20 17μl
Total 50μl
上記組成の反応液を図17のプロトコールに従って、市販のサーマルサイクラーで増幅反応を行った。反応終了後、精製用カラム(QIAGEN QIAquick PCR Purification Kit)を用いてPrimerを除去した後、増幅産物の定量を行い、標識化検体とした。
【0039】
<ハイブリダイゼーション>
<DNAマイクロアレイの作製>で作製したDNAマイクロアレイと<検体の増幅と標識化(PCR増幅&蛍光標識の取り込み)>で作製した標識化検体を用いて検出反応を行った。
(DNAマイクロアレイのブロッキング)
BSA(牛血清アルブミンFraction V:Sigma社製)を1wt%となるように100mM NaCl / 10mM Phosphate Bufferに溶解した。この溶液に<DNAマイクロアレイの作製>で作製したDNAマイクロアレイを室温で2時間浸し、ブロッキングを行った。ブロッキング終了後、0.1wt%SDS(ドデシル硫酸ナトリウム)を含む2xSSC溶液(NaCl 300mM 、Sodium Citrate (trisodium citrate dihydrate, C6H5Na3・2H2O) 30mM、p.H. 7.0)で洗浄を行った後、純水でリンスしてからスピンドライ装置で水切りを行った。
(ハイブリダイゼーション)
水切りしたDNAマイクロアレイをハイブリダイゼーション装置(Genomic Solutions Inc. Hybridization Station)にセットした。そして、以下に示すハイブリダイゼーション溶液、条件でハイブリダイゼーション反応を行った。
ハイブリダイゼーション溶液;
6 x SSPE / 10% Form amide / Target (2nd PCR Products 全量)
(6xSSPE: NaCl 900mM、NaH2PO4・H2O 60mM、EDTA 6mM、p.H. 7.4)
ハイブリダイゼーション条件;
65 ℃ 3min → 92℃ 2min → 45℃ 3hr → Wash 2xSSC / 0.1% SDS at 25℃ → Wash 2 x SSC at 20℃ → (Rinse with H2O : Manual) → Spin dry
<微生物の検出(蛍光測定)>
ハイブリダイゼーション反応終了後のDNAマイクロアレイを図3の装置を用いて蛍光画像の撮像を行った。この結果得られたStaphylococcus aureus由来の蛍光画像を図7に示す。ここでプローブのスポットについて蛍光輝度を数値化することで、Staphylococcus aureusの存在の有無を判定する。
【0040】
以上、Staphylococcus aureusについて行った手順と同様にして、黄色ブドウ球菌、表皮ブドウ球菌、大腸菌、肺炎桿菌、緑膿菌、セラチア菌、肺炎連鎖球菌、インフルエンザ菌、及びエンテロコッカス・フェカリス菌の存在の有無を判定する。すなわち、これらの菌のプローブセットとして示した上記プローブセットを固定したDNAマイクロアレイを用いてハイブリダイゼーション反応を行うことで各菌の存在の有無を判定する。
【0041】
(実施例2)
以下、本発明の輝度比によるプローブと異物・画素不良を区別する画像情報処理(図1)の各工程について詳細に説明する。
【0042】
図8はDNAマイクロアレイ蛍光画像の異物・画素不良・プローブを示した図であり、図1の101の詳細説明にあたる。801はRGBカラーフィルタが装着されたエリアセンサで撮像されたDNAマイクロアレイ蛍光画像のRGB合成カラー画像の一例である。プローブの蛍光は実施例1と同じCy3蛍光色素によるものである。802はプローブを拡大したものである。RGB合成カラー画像では、赤成分と緑成分がほぼ等しく、黄色に見える。803、804は異物を拡大したものである。803、804の異物画像の輝度は、全体的に赤成分が強くなっている。805は画素不良によって青成分のみの輝度となっている。画素不良には同様に赤成分のみの輝度となるもの、全く輝度を発しないものがある。上記に示すように、プローブとプローブ以外のRGBの輝度比は異なるので、これを用いてプローブとプローブ以外の蛍光輝度を区別する。
【0043】
図9は輝度の大きさからオブジェクトを認識する方法を説明するためのものであり、図1の102の詳細説明にあたる。図1の101で撮像した蛍光画像に一定の輝度のしきい値を設定する。輝度断面図に示すように、しきい値未満の輝度を有する画素との境界にあるしきい値以上の輝度になる画素をオブジェクトのエッジとする。そして、エッジで囲まれた領域をオブジェクトとする。ここではしきい値によるオブジェクト認識方法を示したが、エッジ検出に微分処理法等、他の方法を用いてもよい。
【0044】
図10はB、Rの画素をGの画素値で補間する方法を説明するためのものである。RGBカラーフィルタが装着されたエリアセンサで撮像された画像はRGBそれぞれの画素に赤、緑、青の輝度値が格納される。ここでは、エッジ検出を緑の輝度値で行うために、赤、青の画素のまわりを囲んでいる緑の輝度値の平均値で赤、青の画素をそれぞれ補間している。図10の青の輝度値B1はG1、G2、G3、G4の平均値となる(式1)。同様にB2はG5、G4、G6、G7の平均値となる(式2)。また、赤の輝度値R1はG4、G5、G10、G6の平均値となる(式3)。同様にR2はG7、G6、G11、G9の平均値となる(式4)。このように、赤、青の輝度値を周辺の緑の輝度値で補間することで、エッジ検出のための輝度値とすることができる。
【0045】
B1 = (G1 + G2 + G3 + G4) ÷ 4 ・・・(式1)
B2 = (G5 + G4 + G6 + G7) ÷ 4 ・・・(式2)
R1 = (G4 + G5 + G10 + G6) ÷ 4 ・・・(式3)
R2 = (G7 + G6 + G11 + G9) ÷ 4 ・・・(式4)
上記補間方法を利用する画像情報処理装置はプローブアレイのハイブリダイゼーションさせた画像の処理に用いることができる。プローブアレイのハイブリダイゼーションさせた画像において輝度が飽和した画素を補間する画像情報処理装置は、ハイブリダイゼーションさせた画像における赤、緑、青画素の輝度比を計算する手段と、この輝度比から輝度が飽和した画素の輝度計算する手段とを少なくとも備える。また、この画像情報処理装置を備えるプローブアレイ画像撮像装置とすることもできる。プローブアレイのハイブリダイゼーション反応させた画像を撮像する装置は、プローブアレイ保持手段と、プローブアレイに励起光を照射する手段と、プローブアレイ上の蛍光輝度を検出するエリアセンサと、上記画像情報処理装置とを少なくとも備える。
【0046】
図11はオブジェクト領域の計算方法を説明するためのものである。図9で説明したように、しきい値未満の輝度を有する画素との境界にあるしきい値以上の輝度になる画素をオブジェクトのエッジとし、エッジで囲まれた領域をオブジェクト領域とする。このとき、エッジで囲まれた領域内にしきい値以下の画素があったとしても、それらを含めてオブジェクト領域とする。
【0047】
図12はオブジェクトの輝度比の計算方法を説明するためのものであり、図1の103の説明にあたる。図12の表をオブジェクト領域の画素とした場合、オブジェクトの輝度比として、R/Gの比率、B/Gの比率を以下のように計算する。
R/Gの比率 [%] = Rの平均値 ÷ Gの平均値 = 82.94 [%]
B/Gの比率 [%] = Bの平均値 ÷ Gの平均値 = 1.88 [%]
オブジェクトの輝度比計算はオブジェクト領域内の全ての画素を対象として行う。そして、オブジェクトの輝度比計算は画像内の全オブジェクトについて行う。
【0048】
図13はコントロールオブジェクトのRGB輝度比とコントロール以外のオブジェクトのRGB輝度比を比較してオブジェクトを分類する方法を説明するためのものであり、図1の104の詳細説明にあたる。図13では、画像の一番右上のオブジェクトをコントロールオブジェクトと設定している。図12に示したように、全オブジェクトの輝度比を計算し、コントロールオブジェクトの輝度比とコントロール以外のオブジェクトの輝度比を比較して、ある一定の範囲内に収まっているかを判定することで、オブジェクトの分類を行う。ここで、プローブオブジェクトの条件をコントロールオブジェクトのR/Gの比率 [%] ± 5 [%] 以内でかつ、コントロールオブジェクトのB/Gの比率 [%] ± 0.5 [%] 以内とした場合、以下のように計算できる。
コントロールオブジェクトのR/Gの比率 [%] = 82.94 [%]
コントロールオブジェクトのB/Gの比率 [%] = 1.88 [%]
77.94 [%] ≦ オブジェクトのR/Gの比率 [%] ≦ 87.94 [%] ・・・・(式5)
1.33 [%] ≦ オブジェクトのB/Gの比率 [%] ≦ 2.38 [%] ・・・・(式6)
式(5),(6)の条件を同時に満たすとき、プローブオブジェクトと判定される。式(5)(6)の条件を一つでも満たさない場合は、ごみ、汚れ、画素不良等、によるプローブ以外のオブジェクトとして判定される。最後に、プローブオブジェクト領域内の緑画素の平均輝度を計算することで、目的のプローブ輝度が得られる(図1の105)。
【0049】
図14は輝度飽和画素の輝度値補正処理の手順を示すフローチャートである。輝度補正処理は、RGB輝度比がほぼ一定の割合になることを利用して、輝度が飽和した画素(G)の輝度値を隣接する他の画素(R、B)の値を用いて補正する処理である。図1の画像情報処理方法の手順101、102、103までと同じ処理を行う。図1の103の処理は、図14の1401に対応する。ここで得られたコントロールオブジェクトの輝度比を、輝度値補正に用いる。次に、オブジェクト領域内の輝度飽和画素を検索する(1402)。輝度飽和画素とは、測定輝度のダイナミックレンジの上限によって、それ以上輝度を測定できなかったものである。最後に、輝度飽和画素の輝度値を1401で得たコントロールオブジェクトの輝度比を用いて補正する。
【0050】
図15は輝度飽和画素の輝度値補正方法を説明するためのものである。緑の画素G1が飽和、隣接する赤の画素R1、R2が飽和していない場合、R1とR2の平均値をコントロールオブジェクトのR/Gの比率で除すことでG1の補正輝度値が得られる(式7)。緑の画素G2が飽和、隣接する赤の画素R3も飽和している場合、青の画素B1、B2の平均値をコントロールオブジェクトのB/Gの比率で除すことでG2の補正輝度値がえられる(式8)。赤の画素R3の補正輝度値は、青の画素B1、B2、B3、B4の平均値をコントロールオブジェクトのB/Rの比率で除すことで得られる。緑の輝度値を補正する場合、青の画素の輝度値は緑や赤の画素の輝度値に比べて小さいため、赤の画素の輝度値が飽和していない場合は、赤の画素の輝度値を用いて補正する方が望ましい。
G1 = (R1 + R2) ÷ 2 ÷ コントロールオブジェクトのR/Gの比率 ・・・(式7)
G2 = (B1 + B2) ÷ 2 ÷ コントロールオブジェクトのB/Gの比率 ・・・(式8)
R3 = (B1 + B2 + B3 + B4) ÷ 4 ÷ コントロールオブジェクトのB/Rの比率
・・・(式9)
図16は輝度飽和画素の輝度値補正値の計算方法を説明するためのものである。輝度補正前の輝度飽和画素の輝度値(G:3967)を補正している。以下にR1とR2の輝度値を用いてG1の輝度補正値の計算例を示す(式10)。
コントロールオブジェクトのR/Gの比率 [%] = 82.94 [%]
G1 = (R1 + R2) ÷ 2 ÷ コントロールオブジェクトのR/Gの比率
= (3209 + 3519) ÷ 2 ÷ 0.8294
= 4056 ・・(式10)
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の輝度比によるプローブと異物・画素不良を区別する画像情報処理の流れを示した図である。
【図2】本発明を実現するための情報処理装置の構成を示すブロック図である。
【図3】本発明を実現するための蛍光画像のプローブアレイ画像撮像装置の構成を示した図である。
【図4】DNAマイクロアレイ上のハイブリダイゼーションの様子を示した図である。
【図5】DNAマイクロアレイを用いたハイブリダイゼーション反応実験の実験手順全般について説明するための図である。
【図6】感染症の菌を特定するDNAマイクロアレイの原理を説明するための図である。
【図7】Staphylococcus aureus由来のDNAマイクロアレイ蛍光画像を示した図である。
【図8】DNAマイクロアレイ蛍光画像の異物・画素不良・プローブを示した図である。
【図9】輝度の大きさからオブジェクトを認識する方法を説明するための図である。
【図10】B、Rの画素をGの画素値で補間する方法を説明するための図である。
【図11】オブジェクト領域の計算方法を説明するための図である。
【図12】オブジェクトの輝度比の計算方法を説明するための図である。
【図13】コントロールプローブのRGB輝度比とオブジェクトのRGB輝度比を比較してオブジェクトを分類する方法を説明するための図である。
【図14】輝度飽和画素の輝度値補正処理の流れを示した図である。
【図15】輝度飽和画素の輝度値補正方法を説明するための図である。
【図16】輝度飽和画素の輝度値補正値の計算方法を説明するための図である。
【図17】PCR増幅反応のプロトコールを示す図である。
【符号の説明】
【0052】
101 DNAマイクロアレイ蛍光画像の撮像工程
102 輝度の大きさからオブジェクトを認識する工程
103 オブジェクトのRGB輝度比計算工程
104 オブジェクト分類工程
105 プローブオブジェクトの輝度計算工程
201 外部記憶装置
202 中央処理装置(CPU)
203 メモリ
204 入出力装置
301 情報処理装置
302 暗箱
303 撮像装置
304 CMOSセンサ
305 蛍光フィルター
306 励起光源
307 DNAマイクロアレイ
308 DNAマイクロアレイ支持基盤
501 サンプル
502 生化学増幅
503 ラベル混入
504 DNAマイクロアレイ
505 ハイブリダイゼーション反応
506 撮像
507 DNAマイクロアレイ蛍光画像
801 DNAマイクロアレイ蛍光画像(RGB合成カラー画像)
802 プローブ蛍光画像
803 異物の画像
804 異物の画像
805 画素不良のある画像
1401 オブジェクトのRGB輝度比計算工程
1402 輝度飽和画素の検索工程
1403 輝度飽和画素の輝度値補正工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プローブアレイのハイブリダイゼーション反応させた画像において、該ハイブリダイゼーション反応結果に基づくプローブアレイ上のプローブの蛍光輝度を該プローブ以外の蛍光輝度と区別して検出する画像情報処理装置であって、
前記画像における赤、緑、青画素の輝度比を計算する手段と、
前記輝度比から前記プローブの蛍光輝度と前記プローブ以外の蛍光輝度とを区別する手段と、
を備えることを特徴とする画像情報処理装置。
【請求項2】
前記ハイブリダイゼーション反応させた画像において、設定した閾値以上の輝度を有する画素領域を認識する手段、を更に有する請求項1に記載の画像情報処理装置。
【請求項3】
前記プローブアレイはDNAマイクロアレイであることを特徴とする請求項1に記載の画像情報処理装置。
【請求項4】
プローブアレイのハイブリダイゼーション反応させた画像を撮像する装置であって、
プローブアレイ保持手段と、
前記プローブアレイに励起光を照射する手段と、
前記プローブアレイ上の蛍光輝度を検出するエリアセンサと、
請求項1乃至3のいずれかに記載の画像情報処理装置と、
を備えるプローブアレイ画像撮像装置。
【請求項5】
前記エリアセンサは、CMOSセンサであることを特徴とする請求項4に記載の画像撮像装置。
【請求項6】
プローブアレイのハイブリダイゼーションさせた画像において、輝度が飽和した画素を補間する画像情報処理装置であって、
前記画像における赤、緑、青画素の輝度比を計算する手段と、
前記輝度比から輝度が飽和した前記画素の輝度計算する手段と、
を備えることを特徴とする画像情報処理装置。
【請求項7】
前記プローブアレイはDNAマイクロアレイであることを特徴とする請求項4に記載の画像撮像装置。
【請求項8】
プローブアレイのハイブリダイゼーション反応させた画像を撮像する装置であって、
プローブアレイ保持手段と、
前記プローブアレイに励起光を照射する手段と、
前記プローブアレイ上の蛍光輝度を検出するエリアセンサと、
請求項6又は7に記載の画像情報処理装置と、
を備えるプローブアレイ画像撮像装置。
【請求項9】
前記エリアセンサは、CMOSセンサであることを特徴とする請求項8に記載の画像撮像装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図13】
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【図14】
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【図17】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2009−109402(P2009−109402A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−283518(P2007−283518)
【出願日】平成19年10月31日(2007.10.31)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】