説明

画像投影表示装置の調整方法

【課題】画像投影光学ユニットを鉛直方向と水平方向の直交二軸方向に移動させることなく、スクリーン上での画像位置調整ができる画像投影表示装置の調整方法を得る。
【解決手段】スクリーンと直交する方向に画像投影光学ユニットを移動させるステップと、小ミラーをスクリーンと平行な方向と直交する方向の少なくとも一方に移動させるステップとを組み合わせて、画像投影光学ユニットとスクリーンとの間の投影距離(光路長)を変化させずに、スクリーン上で画像位置調整を行う調整方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像投影表示装置(リアプロジェクションテレビ)に関し、特にそのスクリーン上での像の状態を組立時に調整する調整方法に関する。
【背景技術】
【0002】
画像投影表示装置(リアプロジェクションテレビ)は、画像投影光学ユニットから射出した光束をスクリーンに投影して画像として観察する。この画像投影表示装置では、小型化、薄型化を図るため、画像投影光学ユニットから射出した光線を反射して折り曲げ、スクリーンに対して斜めに入射させている。
【特許文献1】特開2005−43681号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
この斜め投影方式の画像投影表示装置では、画像投影光学ユニットの光軸(正確にはスクリーン中央に向かう光束の主光線、以下「基準主光線」と呼ぶ)がスクリーンと直交していないため、組立時のスクリーン上での画像の上下(鉛直)位置調整を行うとき、画像投影光学ユニット自体をスクリーンと垂直な方向に水平移動させた上で、その水平移動に伴う画像投影光学ユニットとスクリーンとの間の投影距離(光路長)変化(ピント移動)を補正するため、今度はスクリーンに平行な方向に上下(鉛直)に移動させなければならなかった。即ち、先行例で示されているように、コンパクト化を優先し、ミラーで斜めに折り返す構成を取った場合は、水平動と鉛直動を連動させた移動が必要となる。
【0004】
しかし、画像投影光学ユニットは重量があるため、上下方向(鉛直方向)に移動させることは機構的に困難であり、特に前後動との連携を取りながらでの移動は、却って誤差を発生させる危険性さえある。また、他の調整(例えばピント調整(投影距離調整)も行う必要から、従来では、画像投影光学ユニットを水平鉛直の直交二軸方向に移動可能に支持しなければならなかった。
【0005】
本発明は、画像投影光学ユニットを上下方向(鉛直方向)に移動させることなく、画像投影光学ユニットとスクリーンとの間の投影距離(光路長)を変化させずに、スクリーン上での画像位置調整(上下位置調整)ができる画像投影表示装置の調整方法を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、スクリーンと直交する方向に画像投影光学ユニットを移動させるステップと、小ミラーをスクリーンと平行な方向と直交する方向の少なくとも一方に移動させるステップとを組み合わせれば、斜め入射のリアプロジェクションテレビにおいても、画像投影光学ユニットとスクリーンとの間の投影距離(光路長、つまりピント状態)を変化させずに、スクリーン上での画像位置調整が可能であるとの知見に基づいてなされたものである。
【0007】
すなわち、本発明は、画像を投影する画像投影光学ユニットと、スクリーンと、画像投影光学ユニットから射出した光線を反射して折り曲げてスクリーンに対して斜めに入射させる小ミラーと、を備えた画像投影表示装置において、画像投影光学ユニットをスクリーンと直交する方向に移動させるステップと、小ミラーをスクリーンと平行な方向と直交する方向の少なくとも一方に移動させるステップとを組み合わせ、画像投影光学ユニットとスクリーンとの間の投影距離(光路長)を変化させずに、スクリーン上での画像の位置を調整することを特徴としている。小ミラーの移動は、該小ミラーでの反射前後の基準主光線を含む平面内において行う。また、小ミラーのミラー面が十分大きければ、小ミラーをスクリーンとの非直交方向(非平行方向)に移動させても、実質的には直交方向(平行方向)移動成分を含むことになる。
【0008】
画像投影光学ユニットのスクリーンと直交する方向の移動調整量、及び小ミラーのスクリーンと平行な方向または直交する方向の移動調整量は、試行錯誤によって定めることが可能であるが、具体的な移動調整量の関係を示すと次の通りである。画像投影光学ユニットと小ミラーをともにスクリーンと直交する方向に移動させる態様では、画像投影光学ユニットと小ミラーを、次の(1)式:(2)式の比率に従った移動量だけスクリーンと直交する方向に移動させる。
(1)(1+sin(ω+2γ)/sinω)/tanθ-cos(ω+2γ)/sinω-1/tanω
(2)(1+sin(ω+2γ)/sinω)/tanθ-cos(ω+2γ)/sinω+1/tanβ
但し、
β(゜):小ミラーとスクリーン法線のなす角、
ω(゜):画像投影光学ユニットから射出され小ミラーに達する前における、基準主光線とスクリーン法線のなす角、
φ(゜):画像投影光学ユニットから射出された光束がスクリーンに達する直前におけるスクリーン法線と基準主光線のなす角、
γ=90゜-ω-β、
θ=90゜-ω-2β+φ、
である。
【0009】
また、画像投影光学ユニットをスクリーンと直交する方向に移動させ、小ミラーをスクリーンと直交する方向に移動させる態様では、同じパラメータを使って、次の(1)式:(3)式の比率に従った移動量だけ、画像投影光学ユニットはスクリーンと直交する方向に、小ミラーはスクリーンと平行な方向に移動させる。
(1)(1+sin(ω+2γ)/sinω)/tanθ-cos(ω+2γ)/sinω-1/tanω
(3)tanβ[(1+sin(ω+2γ)/sinω)/tanθ-cos(ω+2γ)/sinω+1/tanβ]
【0010】
小ミラーとスクリーンとの間には、該小ミラーからの反射光をスクリーンに与える固定ミラーを備えるのが装置の薄型化のために好ましい。
【0011】
画像投影光学ユニットは、同様に装置の薄型化のために、広角投影光学系の周辺光束により投影する斜め投影光学ユニットとするのが実際的である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、斜め入射の画像投影表示装置において、画像投影光学ユニットをスクリーンと直交する方向に適当量移動させ、小ミラーをスクリーンと平行な方向と直交する方向の少なくとも一方に適当量移動させることで、画像投影光学ユニットとスクリーンとの間の投影距離(光路長)を変化させずに、組立時のスクリーン上での画像位置調整を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
図1は、斜め入射の画像投影表示装置(リアプロジェクションテレビ)10の本発明による組立時スクリーン上画像位置調整方法を示す概念図である。画像投影表示装置10は、筐体11の一面に平面スクリーン12を有し、該筐体11内に、画像投影光学ユニット(画像エンジン)13、小ミラー14及び固定ミラー15を有している。画像投影光学ユニット13から射出された画像光束(光線)は、小ミラー14で反射して折り曲げられた後、固定ミラー15に入射し、固定ミラー15でさらに反射して折り曲げられた光線が平面スクリーン12に斜めに入射する。画像投影光学ユニット13と平面スクリーン12の
間に、複数のミラーが介在してもよいが、画像投影光学ユニット13からの画像光束が、平面スクリーン12に対して斜めから(直交する方向以外から)入射することが必須である。小ミラー14は、画像投影光学ユニット13に最も近いミラーである。
【0014】
以上の画像投影表示装置10において、本実施形態では、画像投影光学ユニット13を平面スクリーン12と直交する方向13Xに移動させ、かつ、小ミラー14を平面スクリーン12と直交する方向14Xまたは平面スクリーン12と平行な方向14Yに移動させてスクリーン12上での画像の上下位置調整を行っている。この小ミラー14の移動は、該小ミラー14の反射面が移動前後で平行をなすように行う。この画像投影光学ユニット13と小ミラー14の移動量は、画像投影光学ユニット13から小ミラー14までの調整前の光路長と調整後の光路長をそれぞれaとa’、小ミラー14から固定ミラー15までの調整前の光路長と調整後の光路長をそれぞれbとb’、固定ミラー15から平面スクリーン12まで調整前の光路長と調整後の光路長をそれぞれcとc’とすると、調整の前後で、
a+b+c=a’+b’+c’
が維持されるように、その移動量(の比)が設定されている。このように移動量を設定することで、画像投影光学ユニット13から平面スクリーン12までの光路長を変化させずに、平面スクリーン12上での画像の上下位置(平面スクリーン12に対する基準主光線の上下位置)を調整することができる。
【0015】
図2、図3は、以上の調整が可能なことを示す原理図である。図2において、画像投影光学ユニット13と小ミラー14の実線を調整前の位置とし、鎖線を調整後の位置とする。図2において、調整前と調整後の光路の中心において固定ミラー15の法線CDをたて、この法線CDに関し、該ミラー15とスクリーン12の交点Aと線対称の位置に点Bを決めると、△ABD内における調整前の光路(実線)長は、調整後の光路(鎖線)長に等しい。線分BDに平行な平行線B’D’を描けば、同様に、スクリーン12から線分B’D’までの調整前と調整後の光路長は等しい。
【0016】
図3は、線分B’D’が調整前の小ミラー14への入射位置Eを通るように設定した場合の拡大図である。図2の議論から、スクリーン12から点D’までの調整後の光路長(鎖線)と、スクリーン12から点Eまでの光路長(実線)とは等しい。しかし、調整後の光路は、小ミラー14(点I)で反射されているため、調整後の光路長は、実際には線分ID’の分だけ短くなる。また画像投影光学ユニット13から小ミラー14までの光路長を考えると、調整前の光路長は、線分OEの長さであるのに対し、調整後の光路長は、線分PIの長さである。線分PI=線分OE+線分JIであるから、ID’=IJのとき、調整前後で光路長が等しくなる。
【0017】
いま、β(∠GHI、゜);小ミラ14ーとスクリーン12の法線のなす角、
ω(∠PJE、゜);画像投影光学ユニット13から射出された光線とスクリーン12の法線のなす角、
φ(゜);スクリーン12の法線とスクリーン12へ入射する光線のなす角、
γ(∠KIJ、゜)=90゜-ω-β、
θ(∠ED’Q、゜)=90゜-ω-2β+φ、
とし、補助線LIの長さを1とすると、
線分JIの長さ=1/sinω
ID’=JIより、
線分ID’の長さ=1/sinω
線分INの長さ=sin(ω+2γ)/sinω
線分LNの長さ=1+sin(ω+2γ)/sinω
線分ND’の長さ=cos(ω+2γ)/sinω
線分ED’の長さ=(1+sin(ω+2γ)/sinω)/sinθ
線分QD’の長さ=(1+sin(ω+2γ)/sinω)/tanθ
線分LHの長さ=1/tanβ
線分JLの長さ=1/tanω
線分GLの長さ=1/tan(ω+2γ)
である。
【0018】
上記ID’=IJを実現するには、
画像投影光学ユニット13のスクリーン直交方向13Xへの移動量EJを、
EJ=QD’-JL-ND=(1+sin(ω+2γ)/sinω)/tanθ-1/tanω-cos(ω+2γ)/sinω
とし、
小ミラー14のスクリーン直交方向14Xへの移動量EHを、
EH=QD’-ND’+LH=(1+sin(ω+2γ)/sinω)/tanθ-cos(ω+2γ)/sinω+1/tanβ
とすればよい。
また、この画像投影光学ユニット13と小ミラー14の移動によって調整されるスクリーン12上の画像上下位置調整量は、
ED’=(1+sin(ω+2γ)/sinω)/sinθ
である。
【0019】
すなわち、
EJ:EH= (1+sin(ω+2γ)/sinω)/tanθ-cos(ω+2γ)/sinω-1/tanω:(1+sin(ω+2γ)/sinω)/tanθ-cos(ω+2γ)/sinω+1/tanβ
の関係を満足させて、画像投影光学ユニット13と小ミラー14をスクリーン直交方向に移動させることで、画像投影光学ユニット13と平面スクリーン12との光路長を変化させずに、平面スクリーン12上の画像の上下位置を調整することができる。
【0020】
小ミラー14をスクリーン直交方向14X方向へ移動させる代わりに、スクリーン平行方向14Y方向に移動させてもよい。すなわち、小ミラー14をスクリーン直交方向に単位移動量「1」移動させることは、スクリーン平行方向に「1/tanβ」移動させることと等価である。よって、小ミラー14のスクリーン平行方向14Y方向への移動量は、図3の線分EZで与えられ、
EZ=tanβ EH=tanβ[(1+sin(ω+2γ)/sinω)/tanθ-cos(ω+2γ)/sinω+1/tanβ]
である。
【0021】
よって、
EJ:EZ=(1+sin(ω+2γ)/sinω)/tanθ-cos(ω+2γ)/sinω-1/tanω:tanβ[(1+sin(ω+2γ)/sinω)/tanθ-cos(ω+2γ)/sinω+1/tanβ]
の関係を満足させて、画像投影光学ユニット13をスクリーン直交方向13Xに移動させ、小ミラー14をスクリーン平行方向14Yに移動させることで、平面スクリーン12上の画像の上下位置を変化させずに、画像投影光学ユニット13と平面スクリーン12との光路長を調整することができる。
【0022】
次に、具体的なスクリーン上の画像位置調整量と画像投影光学ユニット13と小ミラー14の移動量の実施例を説明する。スクリーン直交方向への移動量は、スクリーン12に接近する方向を+、スクリーン平行方向への移動量は、下方を+とする。
実施例1
平面スクリーン12に入射する基準主光線と同スクリーン12の法線とのなす角φ=52.30゜
ω=22.30゜
β=38.00゜
γ=29.70゜
スクリーン上での画像上下位置調整量=10.00mm
画像投影光学ユニット13のスクリーン直交方向13X方向への移動量=1.77mm
小ミラー14のスクリーン直交方向14X方向への移動量=8.93mm
【0023】
実施例2
同一条件で、小ミラー14の移動方向をスクリーン平行方向14Yとしたとき
画像投影光学ユニット13のスクリーン直交方向13X方向への移動量=1.77mm
小ミラー14のスクリーン平行方向14Y方向への移動量=6.97mm
【0024】
画像投影光学ユニット13と小ミラー14を移動させる具体的な機構は、周知の直進移動機構を用いることができる。例えば送りねじ機構を用い、その送りねじの回転角度を制御することで、両者を上記比率で移動させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明による画像投影表示装置の調整方法の概念図である。
【図2】本発明による調整方法の原理を示す図である。
【図3】同原理を示す部分拡大図である。
【符号の説明】
【0026】
10 画像投影表示装置
11 筐体
12 平面スクリーン
13 画像投影光学ユニット
13X スクリーン直交方向
14 小ミラー
14X スクリーン直交方向
14Y スクリーン平行方向
15 固定ミラー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
画像を投影する画像投影光学ユニットと;
スクリーンと;
上記画像投影光学ユニットから射出した光線を反射して折り曲げてスクリーンに対して斜めに入射させる小ミラーと;
を備えた画像投影表示装置において、
上記画像投影光学ユニットをスクリーンと直交する方向に移動させるステップと、上記小ミラーをスクリーンと平行な方向と直交する方向の少なくとも一方に移動させるステップとを組み合わせ、上記画像投影光学ユニットとスクリーンとの間の投影距離を変化させずに、上記スクリーン上での画像の位置を調整することを特徴とする画像投影表示装置の調整方法。
【請求項2】
請求項1記載の画像投影表示装置の調整方法において、
画像投影光学ユニットと小ミラーを、次の(1)式:(2)式の比率に従った移動量だけスクリーンと直交する方向に移動させる画像投影表示装置の調整方法。
(1)(1+sin(ω+2γ)/sinω)/tanθ-cos(ω+2γ)/sinω-1/tanω
(2)(1+sin(ω+2γ)/sinω)/tanθ-cos(ω+2γ)/sinω+1/tanβ
但し、
β(゜):小ミラーとスクリーン法線のなす角、
ω(゜):画像投影光学ユニットから射出され小ミラーに達する前における、基準主光線とスクリーン法線のなす角、
φ(゜):画像投影光学ユニットから射出された光束がスクリーンに達する直前におけるスクリーン法線と基準主光線のなす角、
γ=90゜-ω-β、
θ=90゜-ω-2β+φ。
【請求項3】
請求項1記載の画像投影表示装置の調整方法において、画像投影光学ユニットと小ミラーを、次の(1)式;(3)式の比率に従った移動量だけ、画像投影光学ユニットはスクリーンと直交する方向に、小ミラーはスクリーンと平行な方向に移動させる画像投影表示装置の調整方法。
(1)(1+sin(ω+2γ)/sinω)/tanθ-cos(ω+2γ)/sinω-1/tanω
(3)tanβ[(1+sin(ω+2γ)/sinω)/tanθ-cos(ω+2γ)/sinω+1/tanβ]
但し、
β(゜):小ミラーとスクリーン法線のなす角、
ω(゜):画像投影光学ユニットから射出され小ミラーに達する前における、基準主光線とスクリーン法線のなす角、
φ(゜):画像投影光学ユニットから射出された光束がスクリーンに達する直前におけるスクリーン法線と基準主光線のなす角、
γ=90゜-ω-β、
θ=90゜-ω-2β+φ。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項記載の画像投影表示装置の調整方法において、上記小ミラーとスクリーンとの間には、該小ミラーからの反射光をスクリーンに与える固定ミラーをさらに備えている画像投影表示装置の調整装置。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項記載の画像投影表示装置の調整方法において、上記画像投影光学ユニットは、広角投影光学系の周辺光束により投影する斜め投影光学ユニットである画像投影表示装置の調整方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−33301(P2008−33301A)
【公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−173658(P2007−173658)
【出願日】平成19年7月2日(2007.7.2)
【出願人】(000000527)ペンタックス株式会社 (1,878)
【Fターム(参考)】