説明

画像表示装置

【課題】薄膜電子源を用いた画像表示装置において、初期の放出効率を高めた画像表示装置を提供する。
【解決手段】複数の電子放出素子を有する基板と、蛍光体を有する面板とを有し、前記各電子放出素子は、下部電極と、上部電極と、前記下部電極と前記上部電極との間に形成された絶縁層とを有し、前記下部電極と前記上部電極との間に電圧を印加することで前記上部電極側より電子を放出する薄膜電子源である画像表示装置であって、前記上部電極の表面に表面材料を有し、前記表面材料は、アルカリ金属またはアルカリ土類金属を含み、前記下部電極は、主構成元素と添加物元素との合金であって、前記添加物元素の前記主構成元素に対する割合は1原子%以上であり、前記絶縁層は、前記主構成元素の酸化物であって、前記絶縁層に含まれる前記添加物元素の前記主構成元素に対する割合は1原子%以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像表示装置に係り、特に、マトリクス状に配置した電子放出素子と蛍光体とを用いて画像を表示する画像表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
マトリクス電子源ディスプレイとは、互いに直交する電極群の交点を画素とし、各画素に電子放出素子を設け、各電子放出素子への印加電圧またはパルス幅を調整することによって放出電子量を調整し、その放出電子を真空中で加速した後、蛍光体に照射し、照射した部分の蛍光体を発光させるものである。
電子放出素子として、電界放射型陰極を用いるもの、MIM(Metal-Insulator-Metal)型電子源を用いるもの、カーボンナノチューブ陰極を用いるもの、ダイヤモンド陰極を用いるもの、表面伝導電子放出素子を用いるもの、弾道型面電子源を用いるものなどがある。このように、マトリクス電子源ディスプレイとは、電子放出素子と蛍光体とを組み合わせた電子線励起型平面ディスプレイを指す。
マトリクス電子源ディスプレイでは電子放出素子を配置した陰極板と蛍光体を形成した蛍光板とを、対向配置した構成である。電子放出素子から放出した電子が蛍光板に到達し蛍光体を励起・発光させるために、陰極板と蛍光板と枠ガラスとで囲まれた空間を真空に保つ。そのため、外部からの大気圧に耐えるために陰極板と蛍光板との間にスペーサ(支柱)が挿入される。
蛍光板は加速電極を有し、加速電極には3KV〜10KV程度の高電圧を印加する。電子放出素子から放出された電子はこの高電圧で加速されたのち蛍光体に照射し、蛍光体を励起発光させる。
【0003】
マトリクス電子源ディスプレイに用いる電子放出素子として薄膜電子源がある。薄膜電子源とは、上部電極、電子加速層、下部電極を積層した構造を有し、電子加速層中で加速した電子を真空中に放出させる。
この薄膜電子源には、MIM(Metal-Insulator-Metal)型電子源、MOS(Metal-oxide Semiconductor)型電子源、弾道型面電子源、HEED(High-efficiency electron emission device)型電子源などが含まれる。
MIM側電子源は、電子加速層に絶縁体を用いたもので、例えば、下記特許文献1に記載されている。また、MOS型電子源は、電子加速層に半導体−絶縁体積層膜を用いたもので、例えば、下記非特許文献1に記載されている。また、弾道型面電子源は、電子加速層にポーラスシリコンなどを用いたもので、例えば、下記非特許文献2に記載されている。さらに、HEED型電子源は、電子加速層にシリコン(Si)とSiOの積層膜を用いたもので、例えば、下記非特許文献3に記載されている。
【0004】
図2は、薄膜電子源の動作原理を示すエネルギーバンド図である。図2では、下部電極311、電子加速層(トンネル絶縁層12)、上部電極11が積層されており、上部電極11に正の電圧を印加した時の状態を図示している。
MIM型電子源の場合、電子加速層として絶縁体を用いる。上部電極−下部電極間に印加された電圧によって電子加速層を構成するトンネル絶縁層内に電界が生じる。この電界によって下部電極311中から電子がトンネル現象によってトンネル絶縁層中に流れ込む。この電子はトンネル絶縁層中の電界によって加速されホットエレクトロンとなる。トンネル絶縁層中を走行するホットエレクトロンの一部は、電子加速層中で非弾性散乱などによりエネルギーを失う。また、このホットエレクトロンが上部電極中を通過する際、一部の電子は非弾性散乱などによりエネルギーを失う。
上部電極11−真空界面(すなわち上部電極の表面)に達した時点で、表面の仕事関数φsよりも大きな運動エネルギーを有する電子は真空10中に放出される。
本明細書においては、このホットエレクトロンにより下部電極311−上部電極11間に流れる電流をダイオード電流Jd、真空中に放出される電流を放出電流Jeと呼ぶ。
【0005】
電界放射型陰極と比べると、薄膜電子源は、表面汚染に対する耐性が強い、放出電子ビームの拡がりが小さいため高精細の表示装置が実現できる、動作電圧が小さく駆動回路ドライバが低電圧である、など表示装置に適した特徴を有する。
一方、薄膜電子源では、駆動電流のうち一部の電流のみが真空中への放出される(放出電流Je)。ここで、駆動電流とは、上部電極−下部電極間に流れる電流であり、ダイオード電流Jdと呼ばれる。
放出電流Jeとダイオード電流Jdとの比αを、放出比、または放出効率、または電子放出効率と呼ぶ。すなわち、放出効率α=Je/Jdである。したがって、放出電流Jeを得るためには、薄膜電子源にJd=Je/αだけの駆動電流(ダイオード電流)を駆動回路から供給しなければならない。
従来の薄膜電子源では、安定に得られる放出効率αは、0.1%〜数%程度であった。
放出効率αが大きいほど、小さい駆動電流Jdで所望の放出電流Jeが得られる。駆動電流が小さいと、(a)駆動回路の負荷が小さくなるので駆動回路の低コスト化が図れる、(b)給電配線に流れる電流が小さくなるので、配線抵抗の許容量が高くなるため設計・製造しやすくなる、などの利点がある。
【0006】
なお、本願発明に関連する先行技術文献としては以下のものがある。
【特許文献1】特開2004―363075号公報
【非特許文献1】Japanese Journal of Applied Physics, Vol.36, Part 2, No.7B, pp.L939〜L941(1997)
【非特許文献2】Japanese Journal of Applied Physics, Vol.34, Part 2, No.6A, pp.L705〜L707(1995)
【非特許文献3】Journal of Vacuum Science and Technologies, B, vol. 23, No.2 (2005) pp.682-686.
【非特許文献4】IEEE Transactions on Electron Devices, vol. 49, No.6, pp. 1059-1065 (2002).
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前述したように、薄膜電子源を電子放出素子として用いたマトリクス電子源ディスプレイにおいて、初期の放出効率を高め、駆動電流を小さくしたいという課題があった。
さらに、薄膜電子源を電子放出素子として用いたマトリクス電子源ディスプレイを長時間動作させていると放出効率αが減少するという課題があった。放出効率αが減少するため、放出電流が減少し、表示画像の明るさも減少するという課題があった。
本発明は、前記従来技術の問題点を解決するためになされたものであり、本発明の目的は、薄膜電子源を用いた画像表示装置において、初期の放出効率を高めた画像表示装置を提供することにある。
また、本発明の他の目的は、長時間動作後も、放出効率の低下率を小さくとどめ、長時間動作後も十分な放出効率が得られる画像表示装置を提供することにある。
本発明の前記ならびにその他の目的と新規な特徴は、本明細書の記述及び添付図面によって明らかにする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願において開示される発明のうち、代表的なものの概要を簡単に説明すれば、下記の通りである。
(1)複数の電子放出素子を有する基板と、蛍光体を有する面板とを有し、前記各電子放出素子は、下部電極と、上部電極と、前記下部電極と前記上部電極との間に形成された絶縁層とを有し、前記下部電極と前記上部電極との間に電圧を印加することで前記上部電極側より電子を放出する薄膜電子源である画像表示装置であって、前記上部電極の表面に表面材料を有し、前記表面材料は、アルカリ金属またはアルカリ土類金属を含み、前記下部電極は、主構成元素と添加物元素との合金であって、前記添加物元素の前記主構成元素に対する割合は1原子%以上であり、前記絶縁層は、前記主構成元素の酸化物であって、前記絶縁層に含まれる前記添加物元素の前記主構成元素に対する割合は1原子%以下であることを特徴とする。
(2)複数の電子放出素子を有する基板と、蛍光体を有する面板とを有し、前記各電子放出素子は、下部電極と、上部電極と、前記下部電極と前記上部電極との間に形成された絶縁層とを有し、前記下部電極と前記上部電極との間に電圧を印加することで前記上部電極側より電子を放出する薄膜電子源である画像表示装置であって、前記上部電極は、表面あるいは内部にアルカリ金属またはアルカリ土類金属を含み、前記下部電極は、主構成元素と添加物元素との合金であって、前記添加物元素の前記主構成元素に対する割合は1原子%以上であり、前記絶縁層は、前記主構成元素の酸化物であって、前記絶縁層に含まれる前記添加物元素の前記主構成元素に対する割合は1原子%以下であることを特徴とする。
【0009】
(3)複数の電子放出素子を有する基板と、蛍光体を有する面板とを有し、前記各電子放出素子は、下部電極と、上部電極と、前記下部電極と前記上部電極との間に形成された第1の絶縁層とを有し、前記下部電極と前記上部電極との間に電圧を印加することで前記上部電極側より電子を放出する薄膜電子源である画像表示装置であって、前記上部電極の表面に表面材料を有し、前記表面材料は、アルカリ金属またはアルカリ土類金属を含み、前記下部電極上には、電子放出領域を規定する前記第1の絶縁層と、前記第1の絶縁層より厚い、前記下部電極を酸化させた酸化膜からなる第2の絶縁層と、前記第1の絶縁層と前記第2の絶縁層との間に膜厚が連続的に変化する遷移領域とが形成されており、前記下部電極は、下部電極第1層と下部電極第2層の積層構造であり、前記遷移領域において,前記下部電極第1層と前記下部電極第2層の積層境界が、前記第2の絶縁層中に含まれないことを特徴とする。
(4)複数の電子放出素子を有する基板と、蛍光体を有する面板とを有し、前記各電子放出素子は、下部電極と、上部電極と、前記下部電極と前記上部電極との間に形成された第1の絶縁層とを有し、前記下部電極と前記上部電極との間に電圧を印加することで前記上部電極側より電子を放出する薄膜電子源である画像表示装置であって、前記上部電極は、表面あるいは内部にアルカリ金属またはアルカリ土類金属を含み、前記下部電極上には、電子放出領域を規定する前記第1の絶縁層と、前記第1の絶縁層より厚い、前記下部電極を酸化させた酸化膜からなる第2の絶縁層と、前記第1の絶縁層と前記第2の絶縁層との間に膜厚が連続的に変化する遷移領域とが形成されており、前記下部電極は、下部電極第1層と下部電極第2層の積層構造であり、前記遷移領域において,前記下部電極第1層と前記下部電極第2層の積層境界が、前記第2の絶縁層中に含まれないことを特徴とする。
【0010】
(5)複数の電子放出素子を有する基板と、蛍光体を有する面板とを有し、前記各電子放出素子は、下部電極と、上部電極と、前記下部電極と前記上部電極との間に形成された絶縁層とを有し、前記下部電極と前記上部電極との間に電圧を印加することで前記上部電極側より電子を放出する薄膜電子源である画像表示装置であって、前記上部電極の表面に表面材料を有し、前記表面材料は、アルカリ金属またはアルカリ土類金属を含み、前記絶縁層は、前記下部電極を陽極酸化して形成された陽極酸化膜であり、前記下部電極は、Alと添加物元素とを有する合金の単層構造であり、前記添加物元素は、Mg、Y、Scの中のいずれか1つ、あるいは、複数の組み合わせであることを特徴とする。
(6)複数の電子放出素子を有する基板と、蛍光体を有する面板とを有し、前記各電子放出素子は、下部電極と、上部電極と、前記下部電極と前記上部電極との間に形成された絶縁層とを有し、前記下部電極と前記上部電極との間に電圧を印加することで前記上部電極側より電子を放出する薄膜電子源である画像表示装置であって、前記上部電極は、表面或いは内部にアルカリ金属またはアルカリ土類金属を含み、前記絶縁層は、前記下部電極を陽極酸化して形成された陽極酸化膜であり、前記下部電極は、Alと添加物元素とを有する合金の単層構造であり、前記添加物元素は、Mg、Y、Scの中のいずれか1つ、あるいは、複数の組み合わせである。
【発明の効果】
【0011】
本願において開示される発明のうち代表的なものによって得られる効果を簡単に説明すれば、下記の通りである。
本発明の画像表示装置によれば、初期の放出効率を高め、必要駆動電流を低減することが可能となる。
また、長時間動作させた際の放出比の減少を低減し、輝度低下を低減し、輝度維持率を向上させることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明をMIM型電子源を用いた画像表示装置に適用した実施例を詳細に説明する。なお、実施例を説明するための全図において、同一機能を有するものは同一符号を付け、その繰り返しの説明は省略する。
[実施例1]
図1は、本発明の実施例1の画像表示装置を説明するための模式平面図である。なお、図1では、主として電子源を有する一方の基板(電子源アレイ基板)14の平面と枠ガラス603を示し、蛍光体を形成した他方の基板(蛍光板)は、省略している。
電子源アレイ基板14には、信号線駆動回路42に接続され信号線(データ線)を構成する下部電極311と、電子放出電極となる上部電極11と、走査線駆動回路41に接続され走査線を構成し、信号線と直交に配置される上部バス電極(上部電極への給電電極)310と、上部バス電極310に重なり上部電極11と接続するためのコンタクト電極55と、上部電極11を各上部バス電極毎に分離するための段差構造(上部バス電極がコンタクト電極55の端部からはみ出す形状の庇構造)19と、その他の後述する機能膜等が形成されている。
なお、電子源アレイ(電子放出部)は、下部電極311上に配置されるトンネル絶縁層12と、トンネル絶縁層12を介して下部電極311に積層される上部電極11とを有し、電子放出部を制限する厚い第1層間絶縁層(あるいは保護絶縁層)15で囲まれた薄層部分で形成されるトンネル絶縁層12の部分から電子が放出される。
【0013】
図2は、MIM型電子源の原理説明図であり、薄膜電子源の動作原理を示すエネルギーバンド図でもある。MIM型電子源は、上部電極11と下部電極311との間に駆動電圧Vdを印加して、トンネル絶縁層内の電界を1〜10MV/cm程度にすると、下部電極中のフェルミ準位近傍の電子はトンネル現象により障壁を透過し、電子加速層であるトンネル絶縁層12の伝導帯へ注入されホットエレクトロンとなり、上部電極11の伝導帯へ流入する。これらのホットエレクトロンのうち、上部電極11の仕事関数φs以上のエネルギーを持って上部電極11表面に達したものが真空10中に放出される。したがって上部電極11にアルカリ金属やアルカリ土類金属、またはアルカリ金属やアルカリ土類金属の化合物をドープし、上部電極11を仕事関数φsを低下させると、より多くの電子が真空10中に放出されるので、電子放出効率αが向上する。
図1に戻ってスペーサ60は、電子源アレイ基板14の上部バス電極310上に配置され、蛍光板のブラックマトリクス(図示せず)の下に隠れるように配置する。信号電極となる下部電極311は信号線駆動回路42へ接続され、走査電極となる上部バス電極310は走査線駆動回路41に接続される。枠ガラス603は、フリットガラスによって電子源アレイ基板14と蛍光板(図示せず)に接着され、内部を真空排気する。
【0014】
本実施例の画像表示装置の製造方法の実施例について、図3〜図12を参照して説明する。
先ず、図3に示したように、電子源アレイ基板となるガラス基板14上に下部電極用の金属膜を成膜する。下部電極用材料として、下部電極第1層16と下部電極第2層13との積層膜を用いる。下部電極第2層13の材料としてAl系材料を用いる。Al系材料を用いるのは、陽極酸化により良質の絶縁膜を形成できるからである。
本実施例では、下部電極第1層16としてNd(ネオジム)を2原子量%ドープしたAl−Nd合金を用い、下部電極第2層13としてNdを0.6原子量%ドープしたAl−Nd合金を用いた。成膜には、例えば、スパッタリング法を用いる。膜厚は、下部電極第1層16を400nm、下部電極第2層13を200nmとした。なお、本明細書において、合金の添加物元素の割合を「%」で示した場合、特に断りがない限り「原子量%」(atomic %,「原子%」とも呼ぶ)を意味する。
また、本明細書において、下部電極として積層膜を用いる場合には、下部電極第1層16と下部電極第2層13との積層膜を「下部電極311」と呼ぶことにする。積層膜の個々の層を指示する場合には、それぞれ「下部電極第1層16」、「下部電極第2層13」と記載する。
このように、下部電極311として組成の異なる膜を積層することで、トンネル絶縁層12中のトラップ量を制御し、かつ電極としての耐熱性をあわせ持った陰極を得ることができる。この点については後述する。
【0015】
次に、図4に示すように、成膜後に、パターニング工程、エッチング工程によりストライプ形状の下部電極311を形成した。
下部電極311の電極幅は画像表示装置のサイズや解像度により異なるが、そのサブピクセルのピッチ程度、大体100〜200ミクロン程度とする。この電極は幅の広い簡易なストライプ構造のため、レジストのパターニングは安価なプロキシミティ露光や、印刷法などで行うことができる。
また、下部電極311は電子源アレイ基板の最下層膜であり、その上に種々の膜を積層するため、端面はテーパー状に加工することが望ましい。そこでエッチング液はリン酸、酢酸、硝酸の混合水溶液でのウェットエッチングを用いる。硝酸の比率を高めることによりエッチング中のレジスト後退を促進し、加工端面をテーパー状に仕上げることができる。
次に、電子放出部を制限し、下部電極エッジへの電界集中を防止する第1層間絶縁層(保護絶縁層)15と、トンネル絶縁層12を形成する。
まず、図5に示すように、下部電極311上の電子放出部となる部分をレジスト膜501でマスクし、その他の部分を選択的に厚く陽極酸化して保護絶縁層(第1層間絶縁層)15とする。化成電圧を200Vとすれば、厚さ約280nmの保護絶縁層15が形成される。
その後、図6に示すように、レジスト膜501を除去して残りの下部電極第2層13の表面を陽極酸化する。例えば、化成電圧を4Vとすれば、下部電極第2層13上に厚さ約8nmの絶縁層(トンネル絶縁層)12が形成される。
【0016】
なお、アルミニウムを陽極酸化して得た陽極酸化絶縁膜の膜厚dは、化成電圧VAOとの間にd(nm)=13.6×VAOなる関係があると従来報告されてきた。発明者らの最近の研究によると膜厚が20nm程度よりも薄い場合にはd(nm)=13.6×(VAO+1.8)なる関係が成立することが示されている(前述の非特許文献4参照)。
前述の値(化成電圧4Vで、絶縁層厚約8nm)は、この最新の関係式から求めた値である。陽極酸化絶縁膜の膜厚dは化成電圧VAOにより高精度で制御できるので、本明細書ではトンネル絶縁層12の膜厚を表すのに、化成電圧VAOを用いることにする。また、化成電圧VAOを4Vに設定して製作した絶縁膜自体、あるいは絶縁膜厚のことを「AO4V」と表示することにする。
次に、図7に示すように、層間絶縁層と、上部電極11への給電線となる上部バス電極310となる金属膜を、例えば、スパッタリング法等で成膜する。層間絶縁層としては、例えば、シリコン酸化物やシリコン窒化膜などを用いることができる。ここでは、シリコン窒化膜(第2層間絶縁層)51とシリコン膜58の積層膜を用い、膜厚は、それぞれ200nmと300nmとした。
このシリコン窒化膜51は、陽極酸化で形成する保護絶縁層15にピンホールがあった場合、その欠陥を埋め、下部電極311と上部バス電極310間の絶縁を保つ役割を果たす。また、シリコン膜58は、後ほど上部バス電極310の側面にアンダーカット(段差構造ともいう)19を形成し、上部電極11を分離するために用いる。
上部バス電極310となる金属膜をスパッタリング等で成膜する。上部バス電極310は走査電極として用いるため、信号電極となる下部電極11より抵抗が低い必要があり、ここでは比抵抗の低い純Alを用い、膜厚は配線抵抗を低減するため、4.5μmとした。
【0017】
次に、図8に示すように、上部バス電極310の加工を行う。上部バス電極310は下部電極311とは直交し、電子放出部の横に配置する。エッチングは、例えば、リン酸、酢酸、硝酸の混合水溶液でのウェットエッチングを用いる。
続いて、図9に示すように、上部バス電極310とトンネル絶縁層12の間の保護絶縁層15上の層間絶縁層にスルーホールを開口する。エッチングは、例えば、CFやSFを主成分とするエッチングガスを用いたドライエッチングによって、シリコン窒化膜51とシリコン膜58を同時にエッチングして行うことができる。
続いて、図10に示すように、上部バス電極と上部電極を電気的に接続する部分となるコンタクト電極55用の金属膜をスパッタで形成する。コンタクト電極用の金属膜は、下部電極第1層16と同様にNdを2原子量%ドープしたAl−Nd合金を用いた。この組成の材料を用いた理由は、パネル封止工程におけるヒロック発生を防ぐためである。成膜には、例えば、スパッタリング法を用いる。膜厚は300nmとした。
続いて、図11に示すように、コンタクト電極55の加工を行う。コンタクト電極55は、下部電極311と同様にテーパー加工するため、エッチング液はリン酸、酢酸、硝酸の混合水溶液でのウェットエッチングを用いる。硝酸の比率を高めることによりエッチング中のレジスト後退を促進し、加工端面をテーパー状に仕上げることができる。
加工形状は図11に示すように、トンネル絶縁層12側の端面はスルーホール内を交差するようにし、トンネル絶縁層12と反対側の端面は上部バス電極310上になるようにする。スルーホール内にコンタクト電極55の端面を形成することで、コンタクト部を保護絶縁層15上に形成することができ、この後形成する上部電極11をシリコン窒化膜51とシリコン膜58の段差を経ずに上部バス電極310から保護絶縁層15まで下ろすことが可能である。したがって、上部電極11の段切れを防止することが可能である。
【0018】
続いて、図12に示すように、層間絶縁層のシリコン膜58をシリコン窒化膜51に対して高い選択比でドライエッチングすることにより、上部バス電極310の反対側の側面下にアンダーカット19を形成する。ドライエッチは、CFとOの混合ガス、またはSFとOの混合ガスにより行った。これらのガスはSiとSiNをともにエッチングするが、Oの比率を最適化(例えばCF:O=2:1)することにより、Siのエッチング選択比を高めることができる。このアンダーカット19は後ほど上部電極11を成膜した際に上部電極11を各上部バス電極310(各走査線)毎に分離する機能を持つ。
続いて、図13に示すように、電子放出部上のシリコン窒化膜51を加工し、電子放出部を開口する。エッチングは、例えば、CFやSFを主成分とするエッチング剤を用いたドライエッチングによって行うことができる。
次に、図14に示すように、Al系材料で形成されている下部電極311や上部バス電極310、コンタクト電極55表面に耐アルカリ防食膜71を形成する。なお、耐アルカリ防食膜71は、トンネル絶縁層12、および保護絶縁層15上に形成されるが、図14では、トンネル絶縁層12、および保護絶縁層15上の耐アルカリ防食膜71の図示は省略している。
【0019】
防食膜の形成は、陰極基板14全体をリン酸塩やリン酸水素塩の水溶液や浸漬したり、シャワーやスプレーすることで、Alとリン酸イオンを反応させたり、リン酸イオンを吸着させて行う。その後、水洗することでリン酸塩やリン酸水素塩の対イオンや余分なリン酸イオンは洗い流され、さらに100℃以上で高温乾燥することでAlとリン(P)の反応皮膜や吸着皮膜を固定して防食膜71として残すことが可能である。
このように製作したAl電極表面をX線光電子分光(XPS)で分析すると、リン(P)は検出されるが対イオンであるカリウムは検出されない。すなわち、Al表面にPを含む反応皮膜や、Pを含む吸着皮膜が形成されているのがわかる。
次に、図15に示すように、アルカリ金属やアルカリ土類金属の塩の水溶液を塗布、乾燥する。図15では模式的にアルカリ(土類)金属塩72を分散させて描いているが、実際は原子レベルで均一に塗布されている。アルカリ金属としてはセシウム(Cs)、Rb(ルビジウム)、K(カリウム)、Na(ナトリウム)、Li(リチウム)、アルカリ土類金属としてはBa(バリウム)、Sr(ストロンチウム)、Ca(カルシウム)、Mg(マグネシウム)が有効である。アルカリ金属塩の水溶液としてはリン酸塩、リン酸水素塩を含まない塩で、かつリン酸より電気陰性度の低い材料の塩、例えば炭酸塩、炭酸水素塩、酢酸塩、ホウ酸塩、水酸化物等が適用できる。
アルカリ土類金属塩の水溶液としては水酸化物等が適用できる。添加する量は仕事関数が最も低くなるように適宜調整すればよい。
仕事関数の低減効果を発揮するには、Al表面に形成されているリン(P)を含む反応皮膜や、Pを含む吸着皮膜中のPより多く、具体的にはアルカリ金属イオン(+1価)やアルカリ土類金属イオン(+2価)とリン酸(PO)イオン(−3価)の塩の化学当量比以上のアルカリ金属やアルカリ土類金属を添加すればよい。
【0020】
すなわち、Pの量がアルカリ金属イオン(+1価)やアルカリ土類金属イオン(+2価)とリン酸(PO)イオン(−3価)の塩の化学当量比未満となればよく、できるだけ差が大きい方がよい。これによりアルカリ金属やアルカリ土類金属等により仕事関数低減効果がリン(P)により相殺されにくくなり、放出電流量向上やガス吸着防止効果を高めることができる。
ここでは炭酸水素セシウム水溶液を用いた。炭酸水素セシウム水溶液はpHが9程度と中性に近いため、炭酸セシウム(pHが12)と比べてAl配線を腐食する作用が弱い点で、好ましい。後述する封着工程で、炭酸水素セシウムが酸化して炭酸セシウムを一時的に生成した場合でも、前述のリン酸処理によるAl表面に防食膜が形成されているのでAl配線の腐食を防止できる。また、アルカリ性が弱い酢酸セシウムを用いてもよい。
その後、図16に示すように、上部電極膜の成膜をスパッタ法等で行う。上部電極11としては、ホットエレクトロンの透過率の高い8族の白金族、1b族の貴金属が有効である。特にPd、Pt、Rh、Ir、Ru、Os、Au、Agやそれらの積層膜などが有効である。ここでは例えばIr、Pt、Auの積層膜を用い、膜厚比をIr:Pt:Au=1:3:3とし、積層膜全体の膜厚は、例えば、3nmとした。
【0021】
次に、画像表示装置を構成する陰極基板と蛍光板はスペーサ60と枠ガラス603を介し、ガラスフリットを用いて400〜450℃の高温プロセスにより焼成、封着される。
この際、アルカリ金属化合物やアルカリ土類金属化合物は熱分解や酸化してアルカリ酸化物またはアルカリ土類酸化物として表面に残る。
本明細書においては、この表面の残ったものを表面材料と呼ぶ。すなわち、表面材料はアルカリ元素またはアルカリ土類元素を有する。本実施例においては、表面材料はセシウム(Cs)を含む。
また、図17に示すように、一部のアルカリ金属化合物やアルカリ土類化合物は、上部電極中に混合され、上部電極材料と合金相を有する材料系の場合には,その一部は合金化し、アルカリ金属やアルカリ土類金属がドープされた上部電極となる。例えば、炭酸セシウムで処理した場合は、炭酸が熱分解、酸化して酸化セシウムや、過酸化セシウム等となり、その一部は、Auと反応してAuCsやAuCs等の金属間化合物を形成する。この際、炭酸の熱分解にはIrやPtが触媒として作用し、分解を促進する効果がある。
これにより、上部電極11の仕事関数が低下するので、電子放出効率も向上する。
【0022】
図18は、2次イオン質量分析によって測定した電子放出膜中のCsとPの深さ方向濃度分布である。図18に示すように、上部電極11の膜厚3nmにおいて、Csの濃度は1020〜1021(原子/cc)であるのに対し、Pは1018〜1019(原子/cc)であり、1/100程度の含有量となっており、Pの比率が十分低くなっている。
ここでリン酸塩処理またはリン酸水素塩処理による防食膜形成の得失を述べる。
陰極をアルカリ金属化合物やアルカリ土類化合物で処理すると上部電極11の表面の仕事関数φsが低下するので、電子放出効率が高くなる。
一方、アルカリ金属化合物やアルカリ土類化合物の水溶液は、アルカリ性が強い傾向があるので、AlまたはAl合金で形成した電極を腐蝕する。この問題に対して、リン酸塩処理またはリン酸水素塩処理によりAlまたはAl合金表面に防食膜を形成することで、Al系電極の腐蝕を防いでいる。
他方、リンは電気陰性度が高く仕事関数を上昇させやすい材料であり、アルカリ金属等の添加による仕事関数低減効果を相殺するため、リン酸塩以外を用いた場合に比べると放出電流量を向上させにくくなってしまう。
このため、アルカリ金属あるいはアルカリ土類金属処理で電子源部に付着するアルカリと、リン酸塩またはリン酸水素塩処理で電子源部に残留するリンの含有量との関係が重要になる。すなわち、本実施例では、アルカリ金属化合物やアルカリ土類化合物の水溶液の濃度と、リン酸塩やリン酸水素塩の水溶液の濃度を調整し、アルカリの量を残留リンの量よりも多くなるように処理条件を設定することで、電極の防食効果と電子放出効率の向上効果とを両立させている。
【0023】
図19は、このようにして製作した表示パネル100の駆動回路への結線図である。走査電極となる上部バス電極310は走査線駆動回路41へ結線し、信号電極となる下部電極311は信号線駆動回路42に結線する。加速電極122は抵抗130を経由して加速電極駆動回路43へ結線する。n番目の走査電極Rn(310)とm番目の信号電極Cm(311)の交点を(n、m)で表すことにする。
抵抗130の抵抗値は以下のように設定した。例えば、対角寸法51cm(20インチ)の表示装置では表示面積は1240cmである。加速電極122と陰極との間の距離を2mmに設定した場合、加速電極122と陰極との間の静電容量Cgは約550pFとなる。真空放電の発生時間(20ナノ秒程度)よりも充分長い時定数、例えば、500ナノ秒とするために、抵抗130の抵抗値Rsは900Ω以上に設定すればよい。本実施例では18KΩに設定した(時定数10μs)。
このように時定数Rs×Cg>20nsを満足する抵抗値の抵抗を加速電極122と加速電極駆動回路43の間に挿入することにより、表示パネル内での真空放電の発生を抑制する効果がある。
【0024】
図20は、各駆動回路の発生電圧の波形を示す。図20には記されていないが、加速電極122には3〜10KV程度の電圧(蛍光面電圧Va)を印加する。
時刻t0ではいずれの電極も電圧ゼロであるので電子は放出されず、したがって、蛍光体は発光しない。
時刻t1において、R1の上部バス電極310に、VR1なる電圧の走査パルス750を、(C1,C2)の下部電極311に、−VC1なる電圧のデータパルス751を印加する。交点(1,1)、(1,2)のMIM型電子源301の下部電極311と上部電極11との間には(VC1+VR1)なる電圧が印加されるので、(VC1+VR1)を電子放出開始電圧以上に設定しておけば、この2つの交点の薄膜電子源からは電子が真空10中に放出される。
本実施例では、VR1=+5V、−VC1=−4Vとした。放出された電子は加速電極122に印加された電圧により加速された後、蛍光体に衝突し、蛍光体を発光させる。
時刻t2において、R2の上部バス電極310に、VR1なる電圧を印加し、C1の下部電極311に、−VC1なる電圧を印加すると、同様に交点(2,1)が点灯する。このようにして、図20の電圧波形を印加すると、図19の斜線を施したドットのみが点灯する。そして、下部電極311に印加する信号を変えることにより所望の画像または情報を表示することができる。また、下部電極311への印加電圧−VC1の大きさを画像信号に合わせて適宜変えることにより、階調のある画像を表示することができる。
図20に示したように、時刻t4において、全ての上部バス電極310に−VR2なる電圧を印加する。本実施例では−VR2=−5Vとした。このとき全ての下部電極311への印加電圧は0Vなので、薄膜電子源301には−VR2=−5Vの電圧が印加される。このように電子放出時とは逆極性の電圧(反転パルス754)を印加することにより、トンネル絶縁層12内のトラップに蓄積した電荷を解放し、薄膜電子源の寿命特性を向上できる。また、反転パルスを印加する期間(図20のt4〜t5、t8〜t9)としては、映像信号の垂直帰線期間を用いると、映像信号との整合性が良い。
図19、図20での説明では、簡単のため3×3ドットの例を用いて説明したが、実際の画像表示装置では走査電極数が数100〜数千本、信号電極数も数100〜数千本ある。
【0025】
次に、トンネル絶縁層12中のNd濃度を低減するために適した下部電極311の構造について説明する。
本実施例では、下部電極311を陽極酸化してトンネル絶縁層12を形成しているので、下部電極材料の一部はトンネル絶縁層12に変換され、残りの部分は下部電極を構成する。このため、下部電極材料には、(a)電極として適した特性と、(b)その陽極酸化膜がトンネル絶縁層12として適した特性を有することを、合わせ持つことが必要である。
しかし、(a)と(b)の特性を両立させることが困難な場合がある。あるいは、(a)、(b)の2つの特性を両立させようとすると材料選択の余地を狭めるという問題もある。
具体的な例としては、後述するように、トンネル絶縁層中に含まれるNd濃度が小さいほど電子放出効率が優れるということを、本発明者は見出した。したがって、陽極酸化膜特性の観点(b)からは下部電極材料中のNd濃度を小さくすることが望まれる。
一方、Al電極中のNd濃度を小さくすると、表示パネルの封着工程(430℃程度)においてヒロックが発生し絶縁不良や電子放出素子の劣化が発生する。このため、下部電極の電極としての特性(a)としては、1%以上のNd濃度が望まれる。
また、本実施例では表示パネルの構造を簡略化するために、信号線と下部電極311を同一材料で兼用している。配線部材である信号線には電気抵抗が低い材料が望ましい。この要請が、陽極酸化膜の特性と相容れない場合もあり得る。
【0026】
本実施例では、これら2つの要求特性(a)、(b)を満たすために、下部電極311を2層以上の積層構造を用いている。すなわち、下部電極第1層16には電極として望まれる特性を持たせるために、高温でのヒロック防止効果がある1%以上のNd濃度のAl−Nd合金を用いている。一方、下部電極第2層13にはNd濃度が0.6%のAl−Nd合金を用い、かつ、トンネル絶縁層12は下部電極第2層13を陽極酸化することで形成する。これにより、トンネル絶縁層12に望まれる特性(すなわちNd濃度が低い)を得ている。
ここで、下部電極第2層13は、Nd濃度が1%以下の低濃度膜であるが、以下に述べる通りに設計してあるためヒロックの発生が抑制される。
第1に、高温工程でのヒロック発生は、Al膜の膜厚が薄い場合には抑制される。したがって、下部電極第2層13の膜厚を500nm以下の薄さに設定することにより、ヒロックの発生を抑制している。第2に、高温工程でのNd原子の拡散現象が起こるために下部電極第2層13中のNd濃度が高くなり、ヒロック発生が一層抑制される。この点を図21を用いて以下に説明する。
【0027】
図21は、本実施例の製造プロセスから、下部電極311と陽極酸化膜の部分を取り出して模式的に記載したものである。図21(a)では下部電極第1層16と下部電極第2層13を積層している。(b)では保護絶縁層15を形成した後の図である。(c)はトンネル絶縁層12を陽極酸化法で形成した後の図である。
前述した通り、下部電極第1層16はAl−Nd(2at%)とし、下部電極第2層13はAl−Nd(0.6at%)とする。(本発明がこれらのNd濃度に限定されないことは言うまでもない。)
すると、図21(c)の時点では、下部電極第2層13中のNd濃度は0.6at%である。図21(d)は、この薄膜電子源を封着工程(最高温度430℃)を通した後の図である。表示パネル封着工程の熱工程によりNd原子の拡散が起こり、封着後は下部電極第2層13中のNd濃度が増加し、2%近くに達することをわれわれは見いだした。これが本発明の構成でヒロックを抑止できる第2の理由である。
図22は、Al−Nd(2at%)膜上に純アルミ膜(膜厚28nm)を積層した積層膜を陽極酸化した後、アニールした試料について、Nd濃度の深さ分析を行った結果である。深さ分析は2次イオン質量分析法(SIMS)で行った。
アニールをしていない試料では純アルミ膜中のNd濃度はAl−Nd(2at%)膜の1/100程度と小さい。しかし、370℃でアニールした試料、430℃でアニールした試料のいずれにおいても、純アルミ膜中にNdが拡散していることがわかる。また、アニールした試料でも、陽極酸化膜(AO膜)中にはNd原子が検出されていないことがわかる。
このように、陽極酸化膜であるトンネル絶縁層12中にはNd元素は拡散しないため、トンネル絶縁層12中のNd濃度は、パネル封着後も低いままである。すなわち、トンネル絶縁層12として要求される特性を満足している。したがって、本実施例に記載の製造方法で表示パネルを作った場合、封着後の表示パネルでは、下部電極第2層13中のNd濃度は0.6at%より高くなっており、トンネル絶縁層12中のNd濃度は0.6%程度のままである。
【0028】
下部電極第1層16と下部電極第2層13との境界の位置を識別する方法を以下に述べる。なお、本明細書では、下部電極第1層16と下部電極第2層13との境界を積層境界と呼ぶ。
パネル封着工程(すなわち高温処理工程)を経た後では、前述した通り添加物元素(Al−Nd合金中のNd原子)の拡散が起こるため、添加物元素の濃度分布を調べるだけでは積層境界が識別できない場合がある。
図23は、本実施例で製作した表示パネル(すなわち、封着工程を経た後)の下部電極の断面TEM像(断面透過型電子顕微鏡像)を模式的に示した図である。
図23(a)のように、下部電極第1層16と下部電極第2層13のそれぞれの層の中に、結晶粒848が観察される。この結晶粒848は各層の内部で成長するため、積層境界845において結晶粒の位置が不連続になる。すなわち、結晶粒848が不連続な面が積層境界845位置であると識別できる。また、下部電極の成膜方法や材料、封着温度によっては、図23(b)のように柱状の縞模様849が見られる場合もあるが、この場合も柱状縞模様849の不連続面が積層境界845であると識別できる。
【0029】
下部電極第2層13中の添加物元素(例えば、Al−Nd合金の場合のNd)の濃度についても注意が必要である。すなわち、表示パネル封着工程で添加物元素が拡散するので、パネル化工程を経た後の下部電極第2層中の添加物元素の濃度は、元々の濃度とは一致しない。
図22のデータが示すように、陽極酸化膜中へは添加物元素は拡散しないので、下部電極第2層13に形成した陽極酸化膜中の添加物元素濃度が、元々の添加物元素濃度に等しい。
より厳密には、下部電極第2層13の酸化により原子数が変化するので以下のように考えればよい。下部電極第2層13の合金の主構成元素に対する添加物元素の比率を考えればよい。ここで合金の主構成元素とは、例えば、Al−Nd合金ではAlであり、Ta−Nd合金ではTaを指す。例として、Al−Nd合金を陽極酸化した場合を考えると、陽極酸化膜(トンネル絶縁層12)中の添加物元素Ndの、主構成元素Alに対する比率をもって、添加物元素濃度と考えればよい。
【0030】
次に、本実施例の設計上の第2のポイントである、陽極酸化膜厚と、下部電極第1層16と下部電極第2層13の積層境界位置との関係について述べる。
本実施例では、第1層間絶縁層15を下部電極材料の陽極酸化で形成している。図21(b)、(c)や図10に記載の通り、保護絶縁層15の陽極酸化膜のうち元のアルミ金属面(図21(b)の点線833)よりも固体内側に入り込んでいる深さDILを、下部電極第2層13の膜厚Tb2より小さくなるように設計している。
換言すれば、陽極酸化膜が、下部電極第1層16と下部電極第2層13の積層境界を横切らないように設計している。陽極酸化膜をこのように設計することで、封着工程などの高温工程を経てもデバイスの不良が起こらないようになる。この点を以下に詳述する。
下部電極第2層13として膜厚40nmの純アルミ膜を用い、下部電極第1層16としてAl−Nd(2at%)の膜を用いて表示パネルを試作した。第1層間絶縁層15は膜厚210nmとした。したがって、下部電極第2層13の膜厚Tb2=40nm、第1層間絶縁層15の侵入深さDIL=126nmとなり、Tb2<DILとなる。
この構造は、図24(a)に示したように、陽極酸化膜が、下部電極第1層16と下部電極第2層13の積層境界を横切る構造になっている。
この構造のMIM型電子源を封着工程の高温工程を通すと薄膜電子源の短絡欠陥が多発することを発明者らは見いだした。また、下部電極第2層として膜厚40nmのAl−Nd(2at%)膜を用いたMIM型電子源でも短絡欠陥が多発する。すなわち、Nd濃度がヒロック防止に十分な量含まれていても短絡欠陥が起こる。この短絡欠陥は、図24(b)の矢印で示した位置、すなわち、トンネル絶縁層12と第1層間絶縁層15との遷移領域838(Bird's beak部)にボイド(空隙部)842が生じるためであることを発明者らは見いだした。
【0031】
このボイド発生のメカニズムを調べるために、本発明者らは陽極酸化の過程での金属原子の原子面位置の変化の様子をシミュレーションで調べた。その結果を図25に示す。図25は、アルミ表面に第1層間絶縁層15を陽極酸化法で形成する過程をシミュレーションしたものである。陽極化成電圧150Vとし、酸化膜厚210nmの場合をシミュレーションしている。陽極酸化では金属アルミ中に酸素が入る分、体積が増える。そのためアルミ原子の位置も変化する。その変化の様子を示したものである。(なお、図25の各線はアルミ原子の1原子層毎に対応したものではない。)
また、図25で縦方向(すなわち膜厚方向)と横方向の縮尺は異なる。図では縦方向は210nm程度であるのに対し、横方向の遷移領域838(bird's beak領域)は数μm〜10数μmである。
図25からわかるように、bird's beak部では横方向の位置によりアルミ原子の移動距離が異なる。そのため、横方向の応力が発生する。したがって、下部電極第1層16と下部電極第2層13との積層境界(図25の点線845)が、bird's beak部にあると、この横方向の応力のために積層境界にボイド(空隙部)が発生する。これが短絡欠陥の原因である。
この考察に基づき、陽極酸化膜が、遷移領域838において下部電極第1層16と下部電極第2層13の積層境界を横切らないように設計すればボイド発生が起こらず、したがって、短絡欠陥が防げることを発明者らは見いだした。
以上の考察および実験データに基づいて、発明者はトンネル絶縁層中の添加物元素濃度(本実施例ではNd元素)を低く抑え、なおかつ、パネル封着工程での耐熱性を確保できるMIM型電子源を実現した。ここで、添加物元素濃度を主成分元素(本実施例ではAl)に対する割合で示すと、好ましい添加物元素濃度(本実施例ではNd)は1%以下である。
【0032】
以上のようにして作成した画像表示装置のMIM型電子源の電子放出特性を以下に述べる。
図26は、本実施例で製作した画像表示装置のMIM型電子源の電子放出効率を示すグラフである。トンネル絶縁層12の膜厚は化成電圧4Vに対応するもので、膜厚8nmである。トンネル絶縁層中のNd濃度は、Al量に対し0.6at%である。「at%」はatomic%(原子パーセント)であり、原子数での割合であることを示す。比較のために、従来の画像表示装置の特性も示す。従来例ではトンネル絶縁層12中のNd濃度は2%である。トンネル絶縁層12の膜厚は、本実施例と同じ化成電圧4Vである。
図26ではダイオード電圧Vdを横軸にとっている。ダイオード電圧Vdとは、上部電極11−下部電極311間に印加する電圧である。ダイオード電圧Vdを6.75Vにした時の電子放出効率αを比較すると、Nd濃度2%のパネル(従来例)では2.7%であるのに対し、Nd濃度0.6%のパネル(本実施例)では4.7%であり、2倍近く向上している。
トンネル絶縁層12中の添加物元素濃度(本実施例ではNd濃度)を小さくすると電子放出効率が向上するメカニズムは、トンネル絶縁層中の電子トラップ密度が添加物元素濃度に比例して小さくなるためである。このことを明確にするために、次にNd濃度とトラップ密度との関係を示す。
【0033】
薄膜電子源を用いた画像表示装置では、表示画像の階調(輝度)が大きく変化した直後に、実際に表示される階調(輝度)が本来の階調(輝度)からわずかにずれる現象が起こることがある。これは、残像現象として観測される。この現象が特に顕著に発生するのは、大きな放出電流(すなわち、高輝度階調)を長時間放出させた直後に、弱い放出電流(すなわち、低輝度階調)に切り換えた場合である。この場合、大電流がトンネル絶縁層12を流れ続けたため、トンネル絶縁層中の電子トラップに電子が蓄積し、それが絶縁層内の内部電界を打ち消す方向に作用する。このために、電子放出素子の電流−電圧特性(I−V特性)がずれてしまい、低輝度階調に切り換えた際に、本来表示すべき階調からずれてしまうわけである。すなわち、トンネル絶縁層中の電子トラップ密度が大きいほど、I−V特性のずれが大きくなり、残像現象が顕著になる。
図27は、I−V特性のズレ量を実測したグラフである。この実験では、画像表示装置に最大階調(輝度)の電流を1時間通電した直後にI−V特性の閾値Vthがどれだけズレるかを測定したものである。トンネル絶縁層12中のNd濃度が異なる3枚の画像表示装置について実測した。図27からわかるように、I−V特性閾値のズレ量ΔVthはNd濃度に比例している。すなわち、Nd濃度はトンネル絶縁層12中の電子トラップ量に比例している。
【0034】
トンネル絶縁層中のNdがトラップになるメカニズムは、Ndの比誘電率(εr =20)がAl(εr=8.5)よりも大きいため、絶縁膜中での電子はNd内の方がエネルギー的に安定になるので、電子トラップとして働くためである。
このように添加物元素(本実施例ではNd)の酸化物の誘電率が、主構成元素(本実施例ではAl)の酸化物の誘電率よりも大きい場合、添加物元素は電子トラップになる。
図26に示したように、添加物元素濃度を小さくすると電子放出効率が向上する理由は、電子トラップ密度が減少することでトンネル絶縁層12中での電子散乱が減少するためである。これを図28を用いて説明する。
図28は薄膜電子源の電子エネルギーバンド図である。上部電極11−下部電極311間にダイオード電圧Vdを印加すると、下部電極311中の電子がトンネル現象によりトンネル絶縁層12の伝導帯に注入される。
注入された電子は、絶縁層中の電界により加速されホットエレクトロンとなる。このホットエレクトロンは、トンネル絶縁層12中で非弾性散乱により散乱され運動エネルギーの一部を失いながら伝導帯を走行する。このため、上部電極11に達したホットエレクトロンのエネルギー分布は図28中の点線のようになる。
一方、トンネル絶縁層12中の添加物濃度を減らしてトラップ密度を低減すると、ホットエレクトロンの非弾性散乱が減少するため、上部電極中での電子のエネルギー分布は図28中の実線のように高エネルギー側にシフトする。真空中に放出する電子は、表面仕事関数φsよりも大きなエネルギーを持った電子であるから、ホットエレクトロンのエネルギー分布が高エネルギー側にシフトすれば、放出電子量が増加する。これにより、電子放出効率αが向上する。すなわち、添加物元素がホットエレクトロンの散乱源になっていたわけである。
【0035】
次に、トンネル絶縁層のNd濃度を0.6%と低くしたまま、トンネル絶縁層12の膜厚を変えた画像表示装置を作成し、その電子放出特性を調べた。図29が測定結果である。化成電圧6Vに対応する膜厚(膜厚10.6nmに対応)にすると、電子放出効率αは11%となった。
トンネル絶縁層12膜厚を厚くすることで放出効率αが増加する理由は、トンネル絶縁層12内の電界強度を同一にするためのダイオード電圧Vdが大きくなるため、図28に示した上部電極中での電子エネルギー分布がさらに高エネルギー側にシフトするためである。
また、図29に示した電子放出効率α−Vd特性を見ると、Vd>7.5Vの領域ではダイオード電圧Vdを増やしても放出効率αは一定値に飽和している。これは、図28のエネルギーバンド図に基づいて考えると、デバイス内でのエネルギー分布で低エネルギー成分が減少していることを示している。すなわち、図28からわかるように、Vdを増加させればデバイス内の電子エネルギー分布は高エネルギー側にシフトするので、仕事関数φs以上のエネルギー成分が増えて放出効率が増加するはずであるが、低エネルギー成分が少なければVdが増えても放出効率αはあまり増加しない。
【0036】
以上の結果をまとめると次のようになる。
従来の薄膜電子源を用いた画像表示装置(Nd濃度2%、化成電圧4V、膜厚7.9nm)では電子放出効率αは2.7%だった。
陽極酸化膜中のNd濃度を0.6%に下げてトンネル絶縁層を低トラップ化することで、同じ絶縁層厚でα=4.7%に向上した(従来比1.7倍)。さらに、トンネル絶縁層厚を10.6nm(化成電圧 6V)に厚くすることでα=11%を得た(従来比4倍)。
トンネル絶縁層12中の添加物元素濃度(本実施例ではNd)を下げることで電子放出効率αが増加するという前述の効果は、上部電極表面へのアルカリ金属処理またはアルカリ土類金属処理との組み合わせにおいて特に顕著に発現する。すなわち、トンネル絶縁層12中の添加物元素濃度を低下させることと、上部電極表面にアルカリ金属またはアルカリ土類金属を存在せしめる処理を組み合わることが本発明の効果を得るために必須の構成である。
これは以下の理由による。
図28に示したように、トンネル絶縁層12を低トラップ化することでデバイス内の電子エネルギーが高エネルギー側へシフトすることで放出効率αが向上するわけであるが、アルカリ金属(またはアルカリ土類金属)処理で、上部電極表面の仕事関数を低下させると、高エネルギーシフトした分布のピーク位置が仕事関数φsよりも高い位置になるためと考えられる。図28から分かるように、分布のピーク位置が仕事関数φsを超えると電子放出効率αは大幅に向上する。これが本発明の効果である。
このように、上部電極表面にアルカリ金属処理またはアルカリ土類金属処理をして仕事関数を低減させた薄膜電子源において、トンネル絶縁層12中の添加物元素濃度を低減させると、電子放出効率を向上させることができる。
【0037】
次に、前述の手順で作成した画像表示装置を長時間動作させたときの電子放出効率αの経時変化を述べる。
従来の薄膜電子源を用いた画像表示装置では、長時間動作させると電子放出効率αが低下するという問題があった。この問題は、蛍光体としてZnSを母体材料とする硫化物蛍光体を用いた場合に発生した。
この放出効率αの経時劣化の原因は、ZnS系蛍光体に電子が照射すると、蛍光体から微量の硫化物(特に硫化酸化物SOx)が発生し、電子源表面に付着するためである。電子源表面にSOxが付着すると、表面の仕事関数が上昇するため、電子が真空中に放出しにくくなる。
先に図29の実験データを図28のエネルギーバンド図から説明したように、トンネル絶縁層12中のトラップ密度を減らしてデバイス内のホットエレクトロンのエネルギー分布を高エネルギー化すると、低エネルギー側の成分が相対的に減少する。このことを別の見方をすれば、仕事関数φが少し増大しても、放出電流の減少(すなわち、放出効率αの減少)が起こりにくいことを示唆する。
そこで、トンネル絶縁層12中のNd濃度を0.6%下げて、かつ表面に炭酸水素セシウム処理を施した薄膜電子源の画像表示装置について、電子放出効率αの経時変化を測定した。その結果を図30に示す。このデータでは、蛍光板に硫化亜鉛蛍光体ZnS:Cu、Al(発光色は緑色)を塗布した表示パネルを用いた。
【0038】
図30には、比較のため従来の薄膜電子源を用いた画像表示装置の経時劣化のデータも示した(「従来 Nd2%」と表示)。この従来の薄膜電子源では、トンネル絶縁層12はNd濃度2%で、膜厚は化成電圧6Vであり、またアルカリ金属処理は施していない。
従来の画像表示装置では、電子放出効率αは初期では2%であるが、500時間動作させると0.7%に低下してしまう。つまり、放出効率維持率は35%である。
これに対し、本発明に基づいてトンネル絶縁層12中のNd濃度を0.6%下げて、かつ表面に炭酸水素セシウム処理を施した薄膜電子源の画像表示装置では、1万時間動作後も十分な放出効率αを維持している。すなわち、トンネル絶縁層厚が化成電圧4V(膜厚7.9nm)のパネルでは、1万時間動作後も放出効率4.2%を維持している(図30で「AO4V」と表示)。また、トンネル絶縁層を酸化電圧6Vにしたパネルでは、1万時間動作後も放出効率8%を維持している(図30で「AO6V」と表示)。
このように、上部電極表面にアルカリ金属またはアルカリ土類金属処理をして仕事関数を低減させた薄膜電子源において、トンネル絶縁層12中の添加物元素濃度を低減させると、表面汚染に起因する電子放出効率の経時劣化を防ぐことができる。
【0039】
[実施例2]
本実施例では、下部電極第2層13の材料としてAl−Mg合金を用いる。下部電極第1層16の材料はAl−Nd合金である。Al−Mg合金を用いることは、以下の理由で好ましい。
(a)マグネシウム(Mg)は陽極酸化可能であり、かつマグネシウムの酸化物は絶縁性に優れる。したがって、下部電極第2層13を陽極酸化して形成されるトンネル絶縁層12の絶縁性が優れる。
(b)Ndを添加物として含まないので、トンネル絶縁層12中のNd濃度が十分低くなり、トンネル絶縁層12中のトラップ密度を低減できる。
(c)マグネシウムの酸化物(MgO)の比誘電率εrは9.65であり、アルミの酸化膜とほぼ同じため、電子トラップを形成しない。
本実施例では、Al−Mg合金を下部電極第2層13に用いた例を述べたが、他にも以下に述べるように好ましい合金があり、それらを用いても本発明の効果が得られることは言うまでもない。
Al−Y(イットリウム)合金は、前述の(a)〜(c)の特徴を持つものである。添加物元素の酸化物の比誘電率εrは、Yがεr=14とAlの比誘電率に近い値をもつ。また、Sc(スカンジウム)はAlと化学的性質が似た元素であるため、Al−Sc合金の陽極酸化膜も添加物元素がトラップになりにくい。
Al−Ta合金、Al−Ti合金は(a)の特性をもち、陽極酸化膜として好ましい特性を持つ。しかし、Al−Nd合金よりも配線抵抗が高いという欠点をもつ。したがって、特に下部電極を信号電極と兼用する場合、配線抵抗が低いAl−Nd合金を下部電極第1層16に用い、Al−Ta合金、Al−Ti合金を下部電極第2層13に用いる、という組み合わせが好ましい。
【0040】
[実施例3]
本実施例の表示パネルの電子源アレイ基板14の製造方法は、前述の実施例1とほぼ同一である。但し、前述の実施例1では下部電極311を下部電極第1層16と下部電極第2層13との積層膜で形成していたが、本実施例では、下部電極311を単一の膜で形成する。
本実施例と前述の実施例1との違いは、本実施例では、下部電極311を単一の膜で形成した単層構造としたことである。本実施例では、下部電極311としてAl−Mg(2at%)を用いる。その他の製造方法は実施例1と同じである。
Al−Mg合金は、純アルミ膜よりも耐ヒロック性があるため、単一膜で用いることができる。また、マグネシウム(Mg)は陽極酸化膜中に存在してもトラップとしては働かないため、トンネル絶縁膜12中のトラップ密度を低減できる。このため、トンネル絶縁層12中での電子散乱確率が減少し、放出効率が向上する。
さらに、本実施例は、前述の実施例1と比べて、下部電極311の成膜回数が1回ですむという点で作りやい。
なお、本実施例では、Al−Mg合金を用いた例を述べたが、Al−Y合金、Al−Sc合金を用いても同様の効果が得られる。
以上、本発明者によってなされた発明を、前記実施例に基づき具体的に説明したが、本発明は、前記実施例に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々変更可能であることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の実施例1の画像表示装置を説明するための模式平面図である。
【図2】MIM型電子源の電子放出機構を説明するための図である。
【図3】本発明の実施例1の画像表示装置の電子源アレイ基板の製造プロセスを説明するための図である。
【図4】本発明の実施例1の画像表示装置の電子源アレイ基板の製造プロセスを説明するための図である。
【図5】本発明の実施例1の画像表示装置の電子源アレイ基板の製造プロセスを説明するための図である。
【図6】本発明の実施例1の画像表示装置の電子源アレイ基板の製造プロセスを説明するための図である。
【図7】本発明の実施例1の画像表示装置の電子源アレイ基板の製造プロセスを説明するための図である。
【図8】本発明の実施例1の画像表示装置の電子源アレイ基板の製造プロセスを説明するための図である。
【図9】本発明の実施例1の画像表示装置の電子源アレイ基板の製造プロセスを説明するための図である。
【図10】本発明の実施例1の画像表示装置の電子源アレイ基板の製造プロセスを説明するための図である。
【図11】本発明の実施例1の画像表示装置の電子源アレイ基板の製造プロセスを説明するための図である。
【図12】本発明の実施例1の画像表示装置の電子源アレイ基板の製造プロセスを説明するための図である。
【図13】本発明の実施例1の画像表示装置の電子源アレイ基板の製造プロセスを説明するための図である。
【図14】本発明の実施例1の画像表示装置の電子源アレイ基板の製造プロセスを説明するための図である。
【図15】本発明の実施例1の画像表示装置の電子源アレイ基板の製造プロセスを説明するための図である。
【図16】本発明の実施例1の画像表示装置の電子源アレイ基板の製造プロセスを説明するための図である。
【図17】本発明の実施例1の画像表示装置の電子源アレイ基板の製造プロセスを説明するための図である。
【図18】本発明の実施例1の薄膜型電子源の電子放出膜の深さ方向元素分布を測定した結果を示すグラフである。
【図19】本発明の実施例1の画像表示装置の表示パネルと駆動回路との結線を示した図である。
【図20】図19に示す駆動回路から出力される駆動波形を示す図である。
【図21】下部電極の積層構成と絶縁層との関係を説明するための模式図である。
【図22】絶縁層および下部電極中の添加物元素の分布を示すグラフである。
【図23】積層した下部電極の構造を模式的に示した模式図である。
【図24】積層した下部電極に発生した不良現象を示す図である。
【図25】陽極酸化過程でのアルミニウム原子の動きを模式的に示す図である。
【図26】本発明の実施例1の画像表示装置の電子放出効率を示すグラフである。
【図27】本発明の実施例1の画像表示装置のトンネル絶縁膜中のトラップ密度を表すグラフである。
【図28】本発明の実施例1の画像表示装置の電子放出効率向上のメカニズムを説明する図である。
【図29】本発明の実施例1の画像表示装置の電子放出効率を示すグラフである。
【図30】本発明の実施例1の画像表示装置の電子放出効率の経時変化を示すグラフである。
【符号の説明】
【0042】
10 真空
11 上部電極
12 トンネル絶縁層
13 下部電極第2層
14 電子源アレイ基板
15 保護絶縁層(第1層間絶縁層))
16 下部電極第1層
19 段差構造
41 走査線駆動回路
42 信号線駆動回路
43 加速電極駆動回路
51 シリコン窒化膜(第2層間絶縁層)
58 シリコン膜
55 コンタクト電極
58 シリコン膜
60 スペーサ
71 防食膜
72 アルカリ(土類)金属塩
100 表示パネル
110 面板
122 加速電極
130 抵抗
301 MIM型電子源
310 上部バス電極
311 下部電極
501 レジスト膜
603 枠ガラス
750 走査パルス
751 データパルス
754 反転パルス
833 陽極酸化膜のうちの元のアルミ金属面
838 遷移領域
842 ボイド(空隙部)
845 積層境界
848 結晶粒
849 柱状の縞模様

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の電子放出素子を有する基板と、蛍光体を有する面板とを有し、
前記各電子放出素子は、下部電極と、上部電極と、前記下部電極と前記上部電極との間に形成された絶縁層とを有し、前記下部電極と前記上部電極との間に電圧を印加することで前記上部電極側より電子を放出する薄膜電子源である画像表示装置であって、
前記上部電極の表面に表面材料を有し、
前記表面材料は、アルカリ金属またはアルカリ土類金属を含み、
前記下部電極は、主構成元素と添加物元素との合金であって、前記添加物元素の前記主構成元素に対する割合は1原子%以上であり、
前記絶縁層は、前記主構成元素の酸化物であって、前記絶縁層に含まれる前記添加物元素の前記主構成元素に対する割合は1原子%以下であることを特徴とする画像表示装置。
【請求項2】
複数の電子放出素子を有する基板と、蛍光体を有する面板とを有し、
前記各電子放出素子は、下部電極と、上部電極と、前記下部電極と前記上部電極との間に形成された絶縁層とを有し、前記下部電極と前記上部電極との間に電圧を印加することで前記上部電極側より電子を放出する薄膜電子源である画像表示装置であって、
前記上部電極は、表面あるいは内部にアルカリ金属またはアルカリ土類金属を含み、
前記下部電極は、主構成元素と添加物元素との合金であって、前記添加物元素の前記主構成元素に対する割合は1原子%以上であり、
前記絶縁層は、前記主構成元素の酸化物であって、前記絶縁層に含まれる前記添加物元素の前記主構成元素に対する割合は1原子%以下であることを特徴とする画像表示装置。
【請求項3】
前記主構成元素は、陽極酸化可能な元素であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の画像表示装置。
【請求項4】
前記主構成元素は、Alであることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の画像表示装置。
【請求項5】
前記添加物元素は、Nd,Ta,Tiの中のいずれか1つ、あるいは、複数の元素であることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の画像表示装置。
【請求項6】
前記アルカリ金属は、セシウムを含むことを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の画像表示装置。
【請求項7】
前記上部電極と前記絶縁層との界面に、Pを有することを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載の画像表示装置。
【請求項8】
複数の電子放出素子を有する基板と、蛍光体を有する面板とを有し、
前記各電子放出素子は、下部電極と、上部電極と、前記下部電極と前記上部電極との間に形成された第1の絶縁層とを有し、前記下部電極と前記上部電極との間に電圧を印加することで前記上部電極側より電子を放出する薄膜電子源である画像表示装置であって、
前記上部電極の表面に表面材料を有し、
前記表面材料は、アルカリ金属またはアルカリ土類金属を含み、
前記下部電極上には、電子放出領域を規定する前記第1の絶縁層と、前記第1の絶縁層より厚い、前記下部電極を酸化させた酸化膜からなる第2の絶縁層と、前記第1の絶縁層と前記第2の絶縁層との間に膜厚が連続的に変化する遷移領域とが形成されており、
前記下部電極は、下部電極第1層と下部電極第2層の積層構造であり、
前記遷移領域において、前記下部電極第1層と前記下部電極第2層の積層境界が、前記第2の絶縁層中に含まれないことを特徴とする画像表示装置。
【請求項9】
複数の電子放出素子を有する基板と、蛍光体を有する面板とを有し、
前記各電子放出素子は、下部電極と、上部電極と、前記下部電極と前記上部電極との間に形成された第1の絶縁層とを有し、前記下部電極と前記上部電極との間に電圧を印加することで前記上部電極側より電子を放出する薄膜電子源である画像表示装置であって、
前記上部電極は、表面あるいは内部にアルカリ金属またはアルカリ土類金属を含み、
前記下部電極上には、電子放出領域を規定する前記第1の絶縁層と、前記第1の絶縁層より厚い、前記下部電極を酸化させた酸化膜からなる第2の絶縁層と、前記第1の絶縁層と前記第2の絶縁層との間に膜厚が連続的に変化する遷移領域とが形成されており、
前記下部電極は、下部電極第1層と下部電極第2層の積層構造であり、
前記遷移領域において、前記下部電極第1層と前記下部電極第2層の積層境界が、前記第2の絶縁層中に含まれないことを特徴とする画像表示装置。
【請求項10】
前記下部電極第2層は,主構成元素と添加物元素を有する合金であり、
前記主構成元素は、陽極酸化可能な元素であることを特徴とする請求項8または請求項9に記載の画像表示装置。
【請求項11】
前記添加物元素の主構成元素に対する含有比率は、前記下部電極第1層中よりも前記第1の絶縁層中の方が小さいことを特徴とする請求項8ないし請求項10のいずれか1項に記載の画像表示装置。
【請求項12】
前記下部電極第2層は、Al合金であることを特徴とする請求項8ないし請求項11のいずれか1項に記載の画像表示装置。
【請求項13】
前記下部電極第1層は、AlとNdの合金であって、Ndの組成が1原子%以上であることを特徴とする請求項8ないし請求項12のいずれか1項に記載の画像表示装置。
【請求項14】
前記上部電極と、前記第1絶縁層および前記第2絶縁層との界面に、Pを有することを特徴とする請求項8ないし請求項13のいずれか1項に記載の画像表示装置。
【請求項15】
複数の電子放出素子を有する基板と、蛍光体を有する面板とを有し、
前記各電子放出素子は、下部電極と、上部電極と、前記下部電極と前記上部電極との間に形成された絶縁層とを有し、前記下部電極と前記上部電極との間に電圧を印加することで前記上部電極側より電子を放出する薄膜電子源である画像表示装置であって、
前記上部電極の表面に表面材料を有し、
前記表面材料は、アルカリ金属またはアルカリ土類金属を含み、
前記絶縁層は、前記下部電極を陽極酸化して形成された陽極酸化膜であり、
前記下部電極は、Alと添加物元素とを有する合金の単層構造であり、
前記添加物元素は、Mg、Y、Scの中のいずれか1つ、あるいは、複数の組み合わせであることを特徴とする画像表示装置。
【請求項16】
複数の電子放出素子を有する基板と、蛍光体を有する面板とを有し、
前記各電子放出素子は、下部電極と、上部電極と、前記下部電極と前記上部電極との間に形成された絶縁層とを有し、前記下部電極と前記上部電極との間に電圧を印加することで前記上部電極側より電子を放出する薄膜電子源である画像表示装置であって、
前記上部電極は、表面或いは内部にアルカリ金属またはアルカリ土類金属を含み、
前記絶縁層は、前記下部電極を陽極酸化して形成された陽極酸化膜であり、
前記下部電極は、Alと添加物元素とを有する合金の単層構造であり、
前記添加物元素は、Mg、Y、Scの中のいずれか1つ、あるいは、複数の組み合わせであることを特徴とする画像表示装置。
【請求項17】
前記上部電極と、前記絶縁層との界面に、Pを有することを特徴とする請求項15または請求項16に記載の画像表示装置。
【請求項18】
前記アルカリ金属は、セシウムを含むことを特徴とする請求項8ないし請求項14のいずれか1項に記載の画像表示装置。
【請求項19】
前記アルカリ金属は、セシウムを含むことを特徴とする請求項15ないし請求項17のいずれか1項に記載の画像表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【公開番号】特開2010−9763(P2010−9763A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−164306(P2008−164306)
【出願日】平成20年6月24日(2008.6.24)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】