画像解析方法と、蛍光検出装置
【課題】正常な発現を示した蛍光タンパク質のみを抽出し、正確な導入効率を取得可能な蛍光検出装置を提供すること。
【解決手段】標本2の標本画像と蛍光画像とを連続して取得する空間分解能を有する検出手段8と、前記蛍光画像から蛍光の閾値輝度値を設定する閾値設定手段9、10と、前記蛍光画像から前記閾値輝度値未満の蛍光を発現している第1領域を抽出する第1領域抽出手段9、10と、前記第1領域に対応する前記蛍光画像から蛍光発現量を計測する計測手段9、10と、を有する蛍光検出装置1。
【解決手段】標本2の標本画像と蛍光画像とを連続して取得する空間分解能を有する検出手段8と、前記蛍光画像から蛍光の閾値輝度値を設定する閾値設定手段9、10と、前記蛍光画像から前記閾値輝度値未満の蛍光を発現している第1領域を抽出する第1領域抽出手段9、10と、前記第1領域に対応する前記蛍光画像から蛍光発現量を計測する計測手段9、10と、を有する蛍光検出装置1。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、標本からの蛍光量をより正確に検出するための画像解析方法と、蛍光検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、微少な蛍光を検出する装置では、ウェルプレートリーダーに代表される、ウェル内の蛍光量を一括で測定するハイスループットスクリーニング(以後、HTSと略記する)装置が主流であった。HTSは、高速に検査することを目的としており、目標のたんぱく質から発現した蛍光の総量を取得するのみで、単一細胞レベルで見たとき細胞の異常部位での発現や過剰な発現等の異常な発現を含んだ蛍光量を検出しているに過ぎなかった(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2000−14035号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従来の、HTSは蛍光タンパク質の総発現量、または発現の状態をとらえるものであり、正常な蛍光発現か異常な蛍光発現かの判断をしていないため正常に発現した蛍光タンパク質のみの情報を得ていないと言う課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題を解決するため、本発明は、検出器で標本の標本画像と蛍光画像とを連続して取得し、前記蛍光画像から所定の閾値輝度値未満の蛍光を発現している第1領域を抽出した後、前記蛍光を発現している領域に対応した標本画像におけるテクスチャ特徴量が所定の範囲内にある第3領域を抽出することを特徴とする画像解析方法を提供する。
【0005】
また、本発明は、検出器で標本の標本画像と蛍光画像とを連続して取得し、前記標本画像を各細胞単位に分割し、前記蛍光画像から所定の閾値輝度値未満の蛍光を発現している第1領域を抽出し、前記第1領域を内包する細胞のみを抽出し、抽出された細胞の領域面積と蛍光を発現していない領域面積の比が所定の範囲内にある第2領域を抽出することを特徴とする画像解析方法を提供する。
【0006】
また、本発明は、前記画像解析方法を有する蛍光検出装置を提供することができる。
【0007】
また、本発明は、標本の標本画像と蛍光画像とを連続して取得する空間分解能を有する検出手段と、前記蛍光画像から蛍光の閾値輝度値を設定する閾値設定手段と、前記蛍光画像から前記閾値輝度値未満の蛍光を発現している第1領域を抽出する第1領域抽出手段と、前記第1領域に対応する前記蛍光画像から蛍光発現量を計測する計測手段と、を有することを特徴とする蛍光検出装置を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、正常な発現を示した蛍光タンパク質のみを抽出し、正確な導入効率を取得可能な蛍光検出装置を提供することができる。また、これに用いる画像解析方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態にかかる蛍光検出装置と、これに用いられる画像解析方法について図面を参照しつつ説明する。
【0010】
図1は、実施の形態にかかる蛍光検出装置の概略構成を示す。なお、実施の形態にかかる蛍光検出装置は、後述する第1、第2実施の形態の画像解析方法において共通である。
【0011】
図1において、細胞が入れられたウェルプレート等の標本2が面内に移動可能なステージ3上に載置されている。標本2の上方(紙面上方)には、標本2の位相差画像を取得するための透過照明光学系4が配置されている。透過照明光学系4で照明されて標本2から射出した光は、標本2の下方(紙面下方)に配置された対物レンズ5で集光され、位相差フィルタ13を介してフィルタターレット6に入射、透過した後、結像レンズ7でCCD等の撮像装置8に結像される。なお、このとき、フィルタターレット6に配置されている後述する蛍光キューブ6a等は光路中から外されている。
【0012】
結像された標本2の位相差像は撮像装置8で撮像され制御装置9の画像処理回路10で処理され標本2の位相差画像として不図示のメモリに記憶されると共に、制御装置9に接続された表示装置11に表示される。なお、制御装置9はパーソナルコンピュータ(PC)などが使用され、表示装置11にはPCのモニタなどが使用される。
【0013】
標本2の位相差画像を取得した後、標本2への照明光を蛍光観察用の励起照明光学系12に切換えるため不図示のシャッタ等が開放される。このとき透過照明光学系4からの照明光は、内蔵された不図示のシャッタ等により照明光が遮断され標本2に照射されることがないように制御装置9で制御される。また、位相差フィルタ13も光路外に移動される。
【0014】
励起照明光学系12は、波長の異なる複数の光源12a、12b、12cを有し、光源12a〜12cより射出した光は、複数のダイクロイックミラー12dやハーフミラー12eで反射、透過されフィルタターレット6に入射する。なお、光源12a〜12cにはレーザやLED等の光源が用いられる。
【0015】
蛍光観察時、フィルタターレット6には所定の波長を反射するダイクロイックミラー6dと所定の蛍光を透過するエミッションフィルタ6eを内蔵する蛍光キューブ6aが光路に挿入されている。
【0016】
励起照明光学系12からの励起光は、蛍光キューブ6a中のダイクロイックミラー6dで対物レンズ5方向に反射され、対物レンズ5で標本2に集光される。標本2で発現した蛍光は、対物レンズ2で集光されて蛍光キューブ6aに入射し、蛍光キューブ6a内のダイクロイックミラー6dとエミッションフィルタ6eを透過して結像レンズ7で撮像装置8に結像される。結像された標本2の蛍光像は撮像装置8で撮像され制御装置9の画像処理回路10で処理され標本2の蛍光画像として不図示のメモリに記憶されると共に、制御装置9に接続された表示装置11に表示される。
【0017】
取得された位相差画像(以後、標本画像と記す)と蛍光画像とを用いて制御装置9により後述する手順に基づき正常な蛍光を発現している部位を画像解析方法により抽出し、抽出された領域の蛍光画像から蛍光発現量を計測する。このようにして、蛍光測定装置1が構成されている。
【0018】
また、透過照明による標本画像と励起光照明による蛍光画像の取得は、標本2の細胞移動が無視できる程度の時間間隔で連続的に実行される。
【0019】
なお、標本画像と蛍光画像とはいずれが先に取得されても良いが、以下の説明では、蛍光画像を先に取得し、続いて標本画像を取得して画像解析し、蛍光発現量を計測する場合について説明する。
【0020】
以下、標本2中で正常な蛍光を発現している細胞部位を抽出する画像解析方法について図2から図8を参照しつつ説明する。画像解析は制御装置9及び画像処理回路10等で実行される。
【0021】
図2は、実施の形態にかかる画像解析方法の解析フローを示す。図3は、実施の形態にかかる画像解析方法の解析フローにおける細胞からの蛍光発現量の時間推移示すグラフを、図4は、実施の形態にかかる画像解析方法の解析フローにおける細胞からの蛍光の蛍光強度と発現頻度示すグラフを、図5は、実施の形態にかかる画像解析方法の解析フローにおける細胞からの蛍光に対して蛍光輝度閾値Lcでマスクをかけた時を、図6は、実施の形態にかかる画像解析方法の解析フローにおける細胞画像において細胞面積でマスクをかけた時を、図7は、実施の形態にかかる画像解析方法の解析フローにおける細胞内のテクスチャ特徴量を用いた場合を、図8は、実施の形態にかかる画像解析方法の解析フローにおける手順で抽出された蛍光発現量を測定すべき細胞をそれぞれ模式的に示す図である。
【0022】
通常、正常な蛍光発現を示した細胞は、蛍光たんぱく質の導入量が過度でなく、発現が特定の部位に留まっていると言う特徴を有する。そのため、正常な発現をしている蛍光たんぱく質は、蛍光輝度値と空間配置と言う少なくとも二つの情報を用いて抽出することでより精度が向上する。蛍光たんぱく質の導入量が過度になると蛍光画像の輝度値が大きくなるため、この特性を生かし輝度値が予め設定した輝度上限値を超えた細胞を抽出対象から除外することで正常な蛍光発現量を計測することが可能になる。
【0023】
また、蛍光の正常発現は特定の部位に留まるため、細胞内で占める面積が決まっている。ある倍率で細胞を観察した場合、核の典型的な面積、細胞質の典型的な面積が存在しているため、目標としているタンパク質が発現すべき部位の面積から著しく外れる部位を除外することで正常部位に発現している信頼度を与えることができる。目標としているタンパク質が発現する部位のみを抽出するため、細胞の形状や構造などの詳細な空間情報を得る必要は無く、一つの視野内に多数の細胞を含む場合の計測が可能になる。また、多数の細胞を一つの観察視野内に入れられるため、一つの画面から画像解析を繰返し行い、計測された蛍光発現量の再評価を繰返し行うことが可能になる。
【0024】
以下、図2を参照しつつ解析フローをステップ毎に説明する。
【0025】
(ステップS1)蛍光画像取得
上述の蛍光検出装置1の動作説明にしたがって蛍光画像を取得しメモリに保存する。
【0026】
(ステップS2)レスポンス補正
蛍光画像から得られる輝度情報は、細胞の蛍光量とは別に照明ムラや検出感度ムラなどを含んでいるため、取得した蛍光画像に対してレスポンス補正を行い、レスポンス補正後の蛍光画像をメモリに保存する。ここで、レスポンス補正とは、細胞からの蛍光量を正確に算出するために、蛍光画像から上記の装置由来のムラを補正する処理を行うことである。例えば、均一な照明光で照らした時に均一に光る蛍光板などを本装置で予め観察し、装置由来の照明ムラや検出感度ムラなどの校正値を取得しておき、校正値を蛍光画像輝度値にに作用させて装置由来のムラを除去する。
【0027】
(ステップS3)標本画像(位相差画像)取得
同様に上述の説明にしたがって蛍光検出装置1で標本画像を取得しメモリに保存する。
【0028】
(ステップS4)輝度補正
標本画像を所定の画像にするために輝度補正を行い、輝度補正後の標本画像をメモリに保存する。ここで輝度補正とは、上記レスポンス補正とは異なり、画面全体に亘って見た目の輝度を揃える処理を行うことを言う。例えば、輝度ムラが局所的に生じていないとすると、簡易的には暈した画像との差分を取ることで全体的な輝度ムラが補正できるため、各画像についてリアルタイムで補正することができる。但し、レスポンス補正は絶対値と対応が取れるのに対し、輝度補正では各画像の広域(暈したサイズ)の平均輝度からの絶対値を算出していることになる。
【0029】
(ステップS5)蛍光輝度値による領域選択
前もって細胞に導入する蛍光たんぱく質に対応する閾値輝度値であるLcを以下の手順で求めておく。
【0030】
蛍光画像において、正常な発現を示している細胞は、輝度値Lcを上限としたなだらかな蛍光量であるのに対し、過剰な(異常な)蛍光発現を示す細胞は、蛍光量が単調に増加しつづけるか、あるいはLc近傍の停滞域を経たあと急激な増光を見せる。そのため、図3に示すような蛍光発現量を発現領域の総面積で割った平均発現量の時間推移から、過剰発現したタイミング(時刻t)を推定することが可能となる。例えば、全蛍光発現量もしくは平均発現量の推移から図3にある様な急激な増光へと転じる時刻tcを時間微分値から推定する。
【0031】
または、過剰発現量は、時刻tでの輝度頻度分布(図4参照)から、例えば判別分析などで閾値輝度値Lcを求めることも可能である。図4において、曲線aは正常な蛍光発現部位の輝度値の頻度分布を、曲線bは異常な蛍光発現部位の輝度値の頻度分布を、曲線cはa,b両者を併せたトータルの輝度値の頻度分布をそれぞれ示す。
【0032】
あるいは、より簡便な方法としては、図3から求めた時刻tの前後(t−Δtとt+Δt)二枚の蛍光画像から輝度頻度分布の差をとり、増加している値のみで正規分布を当て嵌め、平均値−σ(σ:分散値)を取り閾値輝度値Lcを求めることが可能である。
【0033】
以上のような手法で求められた閾値輝度値Lcを用いて、図5に示すように、蛍光画像中で閾値輝度値Lc以上の蛍光発現している細胞(図中、黒塗り部)を処理対象から除外し、その他の領域を蛍光発現量を計測処理の対象とするためのマスクを作成する。
【0034】
このとき、処理対象から除外する領域は、蛍光画像を撮像する撮像素子8の画素中で、閾値輝度値Lcの対象となる画素の周辺画素に光の漏れ込みが生じるため、マスクの領域をPSF(Point Spread Function:点像応答関数の略)の全幅程度に広げて設定する。この領域の拡張方法には、隣接する一画素ずつ領域を拡張する膨張処理、もしくは過剰発現した細胞毎にラベルをつけ、形状を保持したまま拡張する拡大処理などが採用できる。
【0035】
(ステップS6)面積による領域選択
蛍光観察初期に取得した蛍光画像中から蛍光発現が見られない領域の蛍光輝度値からノイズの輝度分布を作成し、正規分布を仮定してノイズの分散を求める。
【0036】
次に、上記マスクの蛍光画像領域において、上記ノイズの分散値の2倍以上の蛍光輝度値を有する領域を抽出する。ここでは、蛍光発現している面積だけを算出し、その値が発現部位に相応しい面積の範囲内から外れる場合に処理対象から除外する。図6に示すように、この面積が所定の範囲内から外れる領域を処理対象から除外し、その他の領域を処理対象とするマスクを作成する。図中(>Supper)は、面積が上限値Supperを超える領域を、(>Slow)は面積が下限値Slowを超える領域をそれぞれ示し、この領域を計測処理の対象から除外するようにマスクを再設定する。
【0037】
これまでのステップで、閾値輝度値Lcによるマスクと上記処理除外対象マスクがかけられ、計測処理の対象領域が狭められる。
【0038】
(ステップS7)候補領域マスク
上記、ステップS5、ステップS6を実行することで、計測処理の対象とする領域のマスクが完成する。
【0039】
(ステップS8)候補領域抽出
ステップS7で設定されたマスクを用いて、標本画像からマスクに対応する細胞画像を抽出する。
【0040】
(ステップS9)テクスチャ解析
抽出された細胞画像において、細胞内のテクスチャ特徴量を制御装置9により計算する。例えば、図7に示すように、核であれば、核小体とその他の領域の面積比率や、濃淡の空間周波数を特徴量とし、細胞質に発現している場合は、細胞壁によって生じる明るいハロ領域とそれ以外の領域の面積比や輝度値の頻度分布を特微量とする。
【0041】
(ステップS10)テクスチャ特徴量による判別
ステップS9で計算された特徴量が所定の範囲から外れているものを処理対象から外す。
【0042】
(ステップS11)正常発現領域マスク
この付加された特徴量を判別基準とし、蛍光画像から抜き出された領域が細胞のどの部位に属するか推定し、正しい部位に発現しているもののみを抽出するマスクを作成する。このようにして、図7のa、bで示す領域を除外し、図8に示す蛍光画像における正常発現領域マスクAを決定する。
【0043】
(ステップS12)正常発現蛍光量抽出
蛍光画像に正常発現領域マスクをかけ、抽出された蛍光領域の蛍光発現量を蛍光画像の輝度値から算出する。
【0044】
(実施の形態の変形例)
次に、標本2中で正常な蛍光を発現している細胞部位を抽出する上記実施の形態の変形例にかかる画像解析方法について図9から図12を参照しつつ説明する。画像解析は上記実施の形態と同様に制御装置9及び画像処理回路10等で実行される。
【0045】
図9は、変形例の画像解析方法の解析フローを示す。図10は、変形例の画像解析方法の解析フローにおける細胞からの蛍光に対して閾値輝度閾値Lcでマスクをかけた時を、図11は、変形例の画像解析方法の解析フローにおける細胞画像において細胞面積でマスクをかけた時を、図12は、変形例の画像解析方法の解析フローにおける手順で抽出された蛍光発現量を測定すべき細胞部位をそれぞれ模式的に示す図である。
【0046】
変形例の画像解析方法は、第1実施の形態におけるテクスチャ特徴量処理を省略した画像解析方法であり上記実施の形態と同様の構成には同じ符号を付し説明を省略し、上記実施の形態のフローと異なる処理について説明する。
【0047】
以下、図9の解析フローに従って、ステップ毎に説明する。
【0048】
(ステップS1)から(ステップS5)までは、上記実施の形態の解析フローと同等であり説明を省略する。また、図10も上記実施の形態の図5と同等であり説明を省略する。
【0049】
(ステップS16)発現領域の確定
閾値輝度値Lcを越える領域を処理対象から除外して設定されたマスクで選択された領域を確定する。ここでは、輝度値のみから候補領域を選択したもので、面積を用いずに領域を抽出した図2のステップS7に相当するものである。但し、ステップS6で用いたノイズレベル以下の領域の除外は行っている。
【0050】
この領域に対して以下のステップを介して、標本画像における蛍光発現領域と蛍光非発現領域の面積比、あるいは蛍光の輝度比率を基に発現領域の確定を行う。
【0051】
(ステップS17)単一細胞へのセグメンテーション
標本画像において細胞壁に対応する位相差の変化が激しい部位に生じるハロ(図11中の破線で示す)を特徴とし、図11に示すように、標本画像から細胞を個別に切り分ける。
【0052】
(ステップS18)蛍光発現を内包する細胞領域の抽出
その後、個別に切り分けた細胞の標本画像と蛍光画像とから蛍光発現領域とのマッチングを行い、蛍光発現が内包される細胞のみを抽出する。例えば、図11中の符号Xの領域は、単一細胞内に蛍光領域が内包されていないため対象外となる。
【0053】
(ステップS19)発現/非発現領域面積比による選別
その細胞内での発現領域と非発現領域の面積比率は発現部位によって固有の値を持つため、これを判断基準として正常発現領域と異常発現領域の判別を行う。例えば、図11中の符合Yの領域は、単一細胞内での蛍光発現領域が占める割合(面積比)が所定の値に入っていないため対象外となる。この判別によって、図12に示すような蛍光発現領域を取得する領域の正常発現領域マスクAを決定する。
【0054】
(ステップS20)正常発現蛍光量抽出
蛍光画像に正常発現領域マスクを設定し、設定された領域の蛍光発現量を蛍光画像から計測する。
【0055】
このように、変形例の画像解析方法では、面積や帯域的な輝度値を判断基準としているため、核小体等のテクスチャ構造が観察できるほど空間分解能が高くなくても判別が行え、ノイズにも強い処理方法となっている。
【0056】
実施の形態の画像解析方法、あるいは実施の形態の変形例の画像解析方法の各ステップを実行することによって、異常蛍光発現領域を除去し、正常蛍光発現領域のみを計測処理の対象とすることができ、より正確な蛍光発現量を検出することができる。また、蛍光試薬の作用度合いを定量的により正確に評価することが可能になる。
【0057】
また、上記ステップを時系列取得画像(蛍光画像、標本画像)に適用することで、細胞観察の最適なタイミングを知ることができる。
【0058】
また、各蛍光画像の輝度値のヒストグラムを時系列で解析することで、図4に示す頻度分布から閾値輝度値Lcをより正確に決定することが可能になる。また、蛍光発現量の時間的推移を検出することができる。
【0059】
なお、時系列の蛍光画像と標本画像は、それぞれメモリに保存されているので、最適な閾値輝度値Lcを決定したあと、あるいは各マスクを適宜変更して各画像への処理を繰り返し試行することが可能である。試行を繰り返すことで、閾値輝度値Lcあるいは各マスク設定を最適化することが可能になり、より正確な蛍光発現量を得ることが可能になる。また、各ステップにおいて形成されたマスクを蛍光画像に設定し、蛍光発現量を計測することも可能であり、これによりマスク毎の計測値の変化からマスク設定の精度等を評価することが可能である。いずれのマスクに基づく蛍光発現量を採用するかは計測者により適宜検討され用いられる。
【0060】
以上述べたように、上記実施の形態にかかる画像解析方法と、これを有する蛍光検出装置によれば、正常な発現を示しか蛍光タンパク質のみを抽出することで、本来意味の無いタンパク質の過剰導入で死んでしまった細胞や、異常部位への発現を示しか細胞を除くことが可能になる。このため、今まで得られなかった正確な蛍光たんぱく質の導入効率が取得可能となる。また、蛍光観察画像のみではなく明視野観察画像(位相差画像)も同時に取得しているため、HCSが苦手とする蛍光の発現が殆ど見られていない蛍光たんぱく質導入初期の段階から、蛍光発現部位の情報を含んだ観察が可能となり、蛍光発現初期からの蛍光発現量の推移を得ることが可能になる。
【0061】
なお、上述の実施の形態は例に過ぎず、上述の構成や形状に限定されるものではなく、本発明の範囲内において適宜修正、変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】実施の形態にかかる蛍光検出装置の概略構成を示す。
【図2】実施の形態にかかる画像解析方法の解析フローを示す。
【図3】実施の形態にかかる画像解析方法の解析フローにおける細胞からの蛍光発現量の時間推移を示す。
【図4】実施の形態にかかる画像解析方法の解析フローにおける細胞からの蛍光の蛍光強度と発現頻度を示す。
【図5】実施の形態にかかる画像解析方法の解析フローにおける細胞からの蛍光に対して蛍光輝度閾値Lcでマスクをかけた時を示す。
【図6】実施の形態にかかる画像解析方法の解析フローにおける細胞画像において細胞面積でマスクをかけた時を示す。
【図7】実施の形態にかかる画像解析方法の解析フローにおける細胞内のテクスチャ特徴量を用いて細胞部位を推定する際を示す。
【図8】実施の形態にかかる画像解析方法の解析フローにおける上記手順で抽出された蛍光発現量を測定すべき細胞を含む正常発現領域マスクを模式的に示す図である。
【図9】実施の形態の変形例の画像解析方法の解析フローを示す。
【図10】変形例の画像解析方法の解析フローにおける細胞からの蛍光に対して閾値輝度閾値Lcでマスクをかけた時を示す。
【図11】変形例の画像解析方法の解析フローにおける細胞画像において細胞面積でマスクをかけた時を示す。
【図12】変形例の画像解析方法の解析フローにおける手順で抽出された蛍光発現量を測定すべき細胞を含む正常発現領域マスクを模式的に示す図である。
【符号の説明】
【0063】
1 蛍光検出装置
2 標本
3 ステージ
4 透過照明光学系
5 対物レンズ
6 フィルタターレット
7 結像レンズ
8 撮像装置
9 制御装置(PC)
10 画像処理回路
11 モニタ
12 励起照明光学系
13 位相差フィルタ
A 正常発現領域マスク
【技術分野】
【0001】
本発明は、標本からの蛍光量をより正確に検出するための画像解析方法と、蛍光検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、微少な蛍光を検出する装置では、ウェルプレートリーダーに代表される、ウェル内の蛍光量を一括で測定するハイスループットスクリーニング(以後、HTSと略記する)装置が主流であった。HTSは、高速に検査することを目的としており、目標のたんぱく質から発現した蛍光の総量を取得するのみで、単一細胞レベルで見たとき細胞の異常部位での発現や過剰な発現等の異常な発現を含んだ蛍光量を検出しているに過ぎなかった(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2000−14035号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従来の、HTSは蛍光タンパク質の総発現量、または発現の状態をとらえるものであり、正常な蛍光発現か異常な蛍光発現かの判断をしていないため正常に発現した蛍光タンパク質のみの情報を得ていないと言う課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題を解決するため、本発明は、検出器で標本の標本画像と蛍光画像とを連続して取得し、前記蛍光画像から所定の閾値輝度値未満の蛍光を発現している第1領域を抽出した後、前記蛍光を発現している領域に対応した標本画像におけるテクスチャ特徴量が所定の範囲内にある第3領域を抽出することを特徴とする画像解析方法を提供する。
【0005】
また、本発明は、検出器で標本の標本画像と蛍光画像とを連続して取得し、前記標本画像を各細胞単位に分割し、前記蛍光画像から所定の閾値輝度値未満の蛍光を発現している第1領域を抽出し、前記第1領域を内包する細胞のみを抽出し、抽出された細胞の領域面積と蛍光を発現していない領域面積の比が所定の範囲内にある第2領域を抽出することを特徴とする画像解析方法を提供する。
【0006】
また、本発明は、前記画像解析方法を有する蛍光検出装置を提供することができる。
【0007】
また、本発明は、標本の標本画像と蛍光画像とを連続して取得する空間分解能を有する検出手段と、前記蛍光画像から蛍光の閾値輝度値を設定する閾値設定手段と、前記蛍光画像から前記閾値輝度値未満の蛍光を発現している第1領域を抽出する第1領域抽出手段と、前記第1領域に対応する前記蛍光画像から蛍光発現量を計測する計測手段と、を有することを特徴とする蛍光検出装置を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、正常な発現を示した蛍光タンパク質のみを抽出し、正確な導入効率を取得可能な蛍光検出装置を提供することができる。また、これに用いる画像解析方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態にかかる蛍光検出装置と、これに用いられる画像解析方法について図面を参照しつつ説明する。
【0010】
図1は、実施の形態にかかる蛍光検出装置の概略構成を示す。なお、実施の形態にかかる蛍光検出装置は、後述する第1、第2実施の形態の画像解析方法において共通である。
【0011】
図1において、細胞が入れられたウェルプレート等の標本2が面内に移動可能なステージ3上に載置されている。標本2の上方(紙面上方)には、標本2の位相差画像を取得するための透過照明光学系4が配置されている。透過照明光学系4で照明されて標本2から射出した光は、標本2の下方(紙面下方)に配置された対物レンズ5で集光され、位相差フィルタ13を介してフィルタターレット6に入射、透過した後、結像レンズ7でCCD等の撮像装置8に結像される。なお、このとき、フィルタターレット6に配置されている後述する蛍光キューブ6a等は光路中から外されている。
【0012】
結像された標本2の位相差像は撮像装置8で撮像され制御装置9の画像処理回路10で処理され標本2の位相差画像として不図示のメモリに記憶されると共に、制御装置9に接続された表示装置11に表示される。なお、制御装置9はパーソナルコンピュータ(PC)などが使用され、表示装置11にはPCのモニタなどが使用される。
【0013】
標本2の位相差画像を取得した後、標本2への照明光を蛍光観察用の励起照明光学系12に切換えるため不図示のシャッタ等が開放される。このとき透過照明光学系4からの照明光は、内蔵された不図示のシャッタ等により照明光が遮断され標本2に照射されることがないように制御装置9で制御される。また、位相差フィルタ13も光路外に移動される。
【0014】
励起照明光学系12は、波長の異なる複数の光源12a、12b、12cを有し、光源12a〜12cより射出した光は、複数のダイクロイックミラー12dやハーフミラー12eで反射、透過されフィルタターレット6に入射する。なお、光源12a〜12cにはレーザやLED等の光源が用いられる。
【0015】
蛍光観察時、フィルタターレット6には所定の波長を反射するダイクロイックミラー6dと所定の蛍光を透過するエミッションフィルタ6eを内蔵する蛍光キューブ6aが光路に挿入されている。
【0016】
励起照明光学系12からの励起光は、蛍光キューブ6a中のダイクロイックミラー6dで対物レンズ5方向に反射され、対物レンズ5で標本2に集光される。標本2で発現した蛍光は、対物レンズ2で集光されて蛍光キューブ6aに入射し、蛍光キューブ6a内のダイクロイックミラー6dとエミッションフィルタ6eを透過して結像レンズ7で撮像装置8に結像される。結像された標本2の蛍光像は撮像装置8で撮像され制御装置9の画像処理回路10で処理され標本2の蛍光画像として不図示のメモリに記憶されると共に、制御装置9に接続された表示装置11に表示される。
【0017】
取得された位相差画像(以後、標本画像と記す)と蛍光画像とを用いて制御装置9により後述する手順に基づき正常な蛍光を発現している部位を画像解析方法により抽出し、抽出された領域の蛍光画像から蛍光発現量を計測する。このようにして、蛍光測定装置1が構成されている。
【0018】
また、透過照明による標本画像と励起光照明による蛍光画像の取得は、標本2の細胞移動が無視できる程度の時間間隔で連続的に実行される。
【0019】
なお、標本画像と蛍光画像とはいずれが先に取得されても良いが、以下の説明では、蛍光画像を先に取得し、続いて標本画像を取得して画像解析し、蛍光発現量を計測する場合について説明する。
【0020】
以下、標本2中で正常な蛍光を発現している細胞部位を抽出する画像解析方法について図2から図8を参照しつつ説明する。画像解析は制御装置9及び画像処理回路10等で実行される。
【0021】
図2は、実施の形態にかかる画像解析方法の解析フローを示す。図3は、実施の形態にかかる画像解析方法の解析フローにおける細胞からの蛍光発現量の時間推移示すグラフを、図4は、実施の形態にかかる画像解析方法の解析フローにおける細胞からの蛍光の蛍光強度と発現頻度示すグラフを、図5は、実施の形態にかかる画像解析方法の解析フローにおける細胞からの蛍光に対して蛍光輝度閾値Lcでマスクをかけた時を、図6は、実施の形態にかかる画像解析方法の解析フローにおける細胞画像において細胞面積でマスクをかけた時を、図7は、実施の形態にかかる画像解析方法の解析フローにおける細胞内のテクスチャ特徴量を用いた場合を、図8は、実施の形態にかかる画像解析方法の解析フローにおける手順で抽出された蛍光発現量を測定すべき細胞をそれぞれ模式的に示す図である。
【0022】
通常、正常な蛍光発現を示した細胞は、蛍光たんぱく質の導入量が過度でなく、発現が特定の部位に留まっていると言う特徴を有する。そのため、正常な発現をしている蛍光たんぱく質は、蛍光輝度値と空間配置と言う少なくとも二つの情報を用いて抽出することでより精度が向上する。蛍光たんぱく質の導入量が過度になると蛍光画像の輝度値が大きくなるため、この特性を生かし輝度値が予め設定した輝度上限値を超えた細胞を抽出対象から除外することで正常な蛍光発現量を計測することが可能になる。
【0023】
また、蛍光の正常発現は特定の部位に留まるため、細胞内で占める面積が決まっている。ある倍率で細胞を観察した場合、核の典型的な面積、細胞質の典型的な面積が存在しているため、目標としているタンパク質が発現すべき部位の面積から著しく外れる部位を除外することで正常部位に発現している信頼度を与えることができる。目標としているタンパク質が発現する部位のみを抽出するため、細胞の形状や構造などの詳細な空間情報を得る必要は無く、一つの視野内に多数の細胞を含む場合の計測が可能になる。また、多数の細胞を一つの観察視野内に入れられるため、一つの画面から画像解析を繰返し行い、計測された蛍光発現量の再評価を繰返し行うことが可能になる。
【0024】
以下、図2を参照しつつ解析フローをステップ毎に説明する。
【0025】
(ステップS1)蛍光画像取得
上述の蛍光検出装置1の動作説明にしたがって蛍光画像を取得しメモリに保存する。
【0026】
(ステップS2)レスポンス補正
蛍光画像から得られる輝度情報は、細胞の蛍光量とは別に照明ムラや検出感度ムラなどを含んでいるため、取得した蛍光画像に対してレスポンス補正を行い、レスポンス補正後の蛍光画像をメモリに保存する。ここで、レスポンス補正とは、細胞からの蛍光量を正確に算出するために、蛍光画像から上記の装置由来のムラを補正する処理を行うことである。例えば、均一な照明光で照らした時に均一に光る蛍光板などを本装置で予め観察し、装置由来の照明ムラや検出感度ムラなどの校正値を取得しておき、校正値を蛍光画像輝度値にに作用させて装置由来のムラを除去する。
【0027】
(ステップS3)標本画像(位相差画像)取得
同様に上述の説明にしたがって蛍光検出装置1で標本画像を取得しメモリに保存する。
【0028】
(ステップS4)輝度補正
標本画像を所定の画像にするために輝度補正を行い、輝度補正後の標本画像をメモリに保存する。ここで輝度補正とは、上記レスポンス補正とは異なり、画面全体に亘って見た目の輝度を揃える処理を行うことを言う。例えば、輝度ムラが局所的に生じていないとすると、簡易的には暈した画像との差分を取ることで全体的な輝度ムラが補正できるため、各画像についてリアルタイムで補正することができる。但し、レスポンス補正は絶対値と対応が取れるのに対し、輝度補正では各画像の広域(暈したサイズ)の平均輝度からの絶対値を算出していることになる。
【0029】
(ステップS5)蛍光輝度値による領域選択
前もって細胞に導入する蛍光たんぱく質に対応する閾値輝度値であるLcを以下の手順で求めておく。
【0030】
蛍光画像において、正常な発現を示している細胞は、輝度値Lcを上限としたなだらかな蛍光量であるのに対し、過剰な(異常な)蛍光発現を示す細胞は、蛍光量が単調に増加しつづけるか、あるいはLc近傍の停滞域を経たあと急激な増光を見せる。そのため、図3に示すような蛍光発現量を発現領域の総面積で割った平均発現量の時間推移から、過剰発現したタイミング(時刻t)を推定することが可能となる。例えば、全蛍光発現量もしくは平均発現量の推移から図3にある様な急激な増光へと転じる時刻tcを時間微分値から推定する。
【0031】
または、過剰発現量は、時刻tでの輝度頻度分布(図4参照)から、例えば判別分析などで閾値輝度値Lcを求めることも可能である。図4において、曲線aは正常な蛍光発現部位の輝度値の頻度分布を、曲線bは異常な蛍光発現部位の輝度値の頻度分布を、曲線cはa,b両者を併せたトータルの輝度値の頻度分布をそれぞれ示す。
【0032】
あるいは、より簡便な方法としては、図3から求めた時刻tの前後(t−Δtとt+Δt)二枚の蛍光画像から輝度頻度分布の差をとり、増加している値のみで正規分布を当て嵌め、平均値−σ(σ:分散値)を取り閾値輝度値Lcを求めることが可能である。
【0033】
以上のような手法で求められた閾値輝度値Lcを用いて、図5に示すように、蛍光画像中で閾値輝度値Lc以上の蛍光発現している細胞(図中、黒塗り部)を処理対象から除外し、その他の領域を蛍光発現量を計測処理の対象とするためのマスクを作成する。
【0034】
このとき、処理対象から除外する領域は、蛍光画像を撮像する撮像素子8の画素中で、閾値輝度値Lcの対象となる画素の周辺画素に光の漏れ込みが生じるため、マスクの領域をPSF(Point Spread Function:点像応答関数の略)の全幅程度に広げて設定する。この領域の拡張方法には、隣接する一画素ずつ領域を拡張する膨張処理、もしくは過剰発現した細胞毎にラベルをつけ、形状を保持したまま拡張する拡大処理などが採用できる。
【0035】
(ステップS6)面積による領域選択
蛍光観察初期に取得した蛍光画像中から蛍光発現が見られない領域の蛍光輝度値からノイズの輝度分布を作成し、正規分布を仮定してノイズの分散を求める。
【0036】
次に、上記マスクの蛍光画像領域において、上記ノイズの分散値の2倍以上の蛍光輝度値を有する領域を抽出する。ここでは、蛍光発現している面積だけを算出し、その値が発現部位に相応しい面積の範囲内から外れる場合に処理対象から除外する。図6に示すように、この面積が所定の範囲内から外れる領域を処理対象から除外し、その他の領域を処理対象とするマスクを作成する。図中(>Supper)は、面積が上限値Supperを超える領域を、(>Slow)は面積が下限値Slowを超える領域をそれぞれ示し、この領域を計測処理の対象から除外するようにマスクを再設定する。
【0037】
これまでのステップで、閾値輝度値Lcによるマスクと上記処理除外対象マスクがかけられ、計測処理の対象領域が狭められる。
【0038】
(ステップS7)候補領域マスク
上記、ステップS5、ステップS6を実行することで、計測処理の対象とする領域のマスクが完成する。
【0039】
(ステップS8)候補領域抽出
ステップS7で設定されたマスクを用いて、標本画像からマスクに対応する細胞画像を抽出する。
【0040】
(ステップS9)テクスチャ解析
抽出された細胞画像において、細胞内のテクスチャ特徴量を制御装置9により計算する。例えば、図7に示すように、核であれば、核小体とその他の領域の面積比率や、濃淡の空間周波数を特徴量とし、細胞質に発現している場合は、細胞壁によって生じる明るいハロ領域とそれ以外の領域の面積比や輝度値の頻度分布を特微量とする。
【0041】
(ステップS10)テクスチャ特徴量による判別
ステップS9で計算された特徴量が所定の範囲から外れているものを処理対象から外す。
【0042】
(ステップS11)正常発現領域マスク
この付加された特徴量を判別基準とし、蛍光画像から抜き出された領域が細胞のどの部位に属するか推定し、正しい部位に発現しているもののみを抽出するマスクを作成する。このようにして、図7のa、bで示す領域を除外し、図8に示す蛍光画像における正常発現領域マスクAを決定する。
【0043】
(ステップS12)正常発現蛍光量抽出
蛍光画像に正常発現領域マスクをかけ、抽出された蛍光領域の蛍光発現量を蛍光画像の輝度値から算出する。
【0044】
(実施の形態の変形例)
次に、標本2中で正常な蛍光を発現している細胞部位を抽出する上記実施の形態の変形例にかかる画像解析方法について図9から図12を参照しつつ説明する。画像解析は上記実施の形態と同様に制御装置9及び画像処理回路10等で実行される。
【0045】
図9は、変形例の画像解析方法の解析フローを示す。図10は、変形例の画像解析方法の解析フローにおける細胞からの蛍光に対して閾値輝度閾値Lcでマスクをかけた時を、図11は、変形例の画像解析方法の解析フローにおける細胞画像において細胞面積でマスクをかけた時を、図12は、変形例の画像解析方法の解析フローにおける手順で抽出された蛍光発現量を測定すべき細胞部位をそれぞれ模式的に示す図である。
【0046】
変形例の画像解析方法は、第1実施の形態におけるテクスチャ特徴量処理を省略した画像解析方法であり上記実施の形態と同様の構成には同じ符号を付し説明を省略し、上記実施の形態のフローと異なる処理について説明する。
【0047】
以下、図9の解析フローに従って、ステップ毎に説明する。
【0048】
(ステップS1)から(ステップS5)までは、上記実施の形態の解析フローと同等であり説明を省略する。また、図10も上記実施の形態の図5と同等であり説明を省略する。
【0049】
(ステップS16)発現領域の確定
閾値輝度値Lcを越える領域を処理対象から除外して設定されたマスクで選択された領域を確定する。ここでは、輝度値のみから候補領域を選択したもので、面積を用いずに領域を抽出した図2のステップS7に相当するものである。但し、ステップS6で用いたノイズレベル以下の領域の除外は行っている。
【0050】
この領域に対して以下のステップを介して、標本画像における蛍光発現領域と蛍光非発現領域の面積比、あるいは蛍光の輝度比率を基に発現領域の確定を行う。
【0051】
(ステップS17)単一細胞へのセグメンテーション
標本画像において細胞壁に対応する位相差の変化が激しい部位に生じるハロ(図11中の破線で示す)を特徴とし、図11に示すように、標本画像から細胞を個別に切り分ける。
【0052】
(ステップS18)蛍光発現を内包する細胞領域の抽出
その後、個別に切り分けた細胞の標本画像と蛍光画像とから蛍光発現領域とのマッチングを行い、蛍光発現が内包される細胞のみを抽出する。例えば、図11中の符号Xの領域は、単一細胞内に蛍光領域が内包されていないため対象外となる。
【0053】
(ステップS19)発現/非発現領域面積比による選別
その細胞内での発現領域と非発現領域の面積比率は発現部位によって固有の値を持つため、これを判断基準として正常発現領域と異常発現領域の判別を行う。例えば、図11中の符合Yの領域は、単一細胞内での蛍光発現領域が占める割合(面積比)が所定の値に入っていないため対象外となる。この判別によって、図12に示すような蛍光発現領域を取得する領域の正常発現領域マスクAを決定する。
【0054】
(ステップS20)正常発現蛍光量抽出
蛍光画像に正常発現領域マスクを設定し、設定された領域の蛍光発現量を蛍光画像から計測する。
【0055】
このように、変形例の画像解析方法では、面積や帯域的な輝度値を判断基準としているため、核小体等のテクスチャ構造が観察できるほど空間分解能が高くなくても判別が行え、ノイズにも強い処理方法となっている。
【0056】
実施の形態の画像解析方法、あるいは実施の形態の変形例の画像解析方法の各ステップを実行することによって、異常蛍光発現領域を除去し、正常蛍光発現領域のみを計測処理の対象とすることができ、より正確な蛍光発現量を検出することができる。また、蛍光試薬の作用度合いを定量的により正確に評価することが可能になる。
【0057】
また、上記ステップを時系列取得画像(蛍光画像、標本画像)に適用することで、細胞観察の最適なタイミングを知ることができる。
【0058】
また、各蛍光画像の輝度値のヒストグラムを時系列で解析することで、図4に示す頻度分布から閾値輝度値Lcをより正確に決定することが可能になる。また、蛍光発現量の時間的推移を検出することができる。
【0059】
なお、時系列の蛍光画像と標本画像は、それぞれメモリに保存されているので、最適な閾値輝度値Lcを決定したあと、あるいは各マスクを適宜変更して各画像への処理を繰り返し試行することが可能である。試行を繰り返すことで、閾値輝度値Lcあるいは各マスク設定を最適化することが可能になり、より正確な蛍光発現量を得ることが可能になる。また、各ステップにおいて形成されたマスクを蛍光画像に設定し、蛍光発現量を計測することも可能であり、これによりマスク毎の計測値の変化からマスク設定の精度等を評価することが可能である。いずれのマスクに基づく蛍光発現量を採用するかは計測者により適宜検討され用いられる。
【0060】
以上述べたように、上記実施の形態にかかる画像解析方法と、これを有する蛍光検出装置によれば、正常な発現を示しか蛍光タンパク質のみを抽出することで、本来意味の無いタンパク質の過剰導入で死んでしまった細胞や、異常部位への発現を示しか細胞を除くことが可能になる。このため、今まで得られなかった正確な蛍光たんぱく質の導入効率が取得可能となる。また、蛍光観察画像のみではなく明視野観察画像(位相差画像)も同時に取得しているため、HCSが苦手とする蛍光の発現が殆ど見られていない蛍光たんぱく質導入初期の段階から、蛍光発現部位の情報を含んだ観察が可能となり、蛍光発現初期からの蛍光発現量の推移を得ることが可能になる。
【0061】
なお、上述の実施の形態は例に過ぎず、上述の構成や形状に限定されるものではなく、本発明の範囲内において適宜修正、変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】実施の形態にかかる蛍光検出装置の概略構成を示す。
【図2】実施の形態にかかる画像解析方法の解析フローを示す。
【図3】実施の形態にかかる画像解析方法の解析フローにおける細胞からの蛍光発現量の時間推移を示す。
【図4】実施の形態にかかる画像解析方法の解析フローにおける細胞からの蛍光の蛍光強度と発現頻度を示す。
【図5】実施の形態にかかる画像解析方法の解析フローにおける細胞からの蛍光に対して蛍光輝度閾値Lcでマスクをかけた時を示す。
【図6】実施の形態にかかる画像解析方法の解析フローにおける細胞画像において細胞面積でマスクをかけた時を示す。
【図7】実施の形態にかかる画像解析方法の解析フローにおける細胞内のテクスチャ特徴量を用いて細胞部位を推定する際を示す。
【図8】実施の形態にかかる画像解析方法の解析フローにおける上記手順で抽出された蛍光発現量を測定すべき細胞を含む正常発現領域マスクを模式的に示す図である。
【図9】実施の形態の変形例の画像解析方法の解析フローを示す。
【図10】変形例の画像解析方法の解析フローにおける細胞からの蛍光に対して閾値輝度閾値Lcでマスクをかけた時を示す。
【図11】変形例の画像解析方法の解析フローにおける細胞画像において細胞面積でマスクをかけた時を示す。
【図12】変形例の画像解析方法の解析フローにおける手順で抽出された蛍光発現量を測定すべき細胞を含む正常発現領域マスクを模式的に示す図である。
【符号の説明】
【0063】
1 蛍光検出装置
2 標本
3 ステージ
4 透過照明光学系
5 対物レンズ
6 フィルタターレット
7 結像レンズ
8 撮像装置
9 制御装置(PC)
10 画像処理回路
11 モニタ
12 励起照明光学系
13 位相差フィルタ
A 正常発現領域マスク
【特許請求の範囲】
【請求項1】
検出器で標本の標本画像と蛍光画像とを連続して取得し、前記蛍光画像から所定の閾値輝度値未満の蛍光を発現している第1領域を抽出した後、前記蛍光を発現している領域に対応した標本画像におけるテクスチャ特徴量が所定の範囲内にある第3領域を抽出することを特徴とする画像解析方法。
【請求項2】
検出器で標本の標本画像と蛍光画像とを連続して取得し、前記標本画像を各細胞単位に分割し、前記蛍光画像から所定の閾値輝度値未満の蛍光を発現している第1領域を抽出し、
前記第1領域を内包する細胞のみを抽出し、抽出された細胞の領域面積と蛍光を発現していない領域面積の比が所定の範囲内にある第2領域を抽出することを特徴とする画像解析方法。
【請求項3】
抽出された前記第2領域内でテクスチャ特徴量が所定の範囲内にある第3領域を抽出することを特徴とする請求項2に記載の画像解析方法。
【請求項4】
前記閾値輝度値は、前記蛍光画像における蛍光の平均発現量の時系列推移から決定することを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の画像解析方法。
【請求項5】
前閾値輝度値は、前記蛍光画像から得られる輝度頻度分布から決定することを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の画像解析方法。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の画像解析方法を有することを特徴とする蛍光検出装置。
【請求項7】
標本の標本画像と蛍光画像とを連続して取得する空間分解能を有する検出手段と、
前記蛍光画像から蛍光の閾値輝度値を設定する閾値設定手段と、
前記蛍光画像から前記閾値輝度値未満の蛍光を発現している第1領域を抽出する第1領域抽出手段と、
前記第1領域に対応する前記蛍光画像から蛍光発現量を計測する計測手段と、を有することを特徴とする蛍光検出装置。
【請求項8】
前記標本画像における前記第1領域内の各細胞単位内で蛍光発現面積と蛍光非発現面積の比が所定の範囲内にある第2領域を抽出する第2領域抽出手段を更に有し、
前記計測手段は、前記第2領域に対応する前記蛍光画像から蛍光発現量を計測することを特徴とする請求項7に記載の蛍光検出装置。
【請求項9】
前記標本画像における前記第2領域内の各細胞のテクスチャ特徴量が所定の範囲内にある第3領域を抽出する第3領域抽出手段を更に有し、
前記計測手段は、前記第3領域に対応する前記蛍光画像から蛍光発現量を計測することを特徴とする請求項7または8に記載の蛍光検出装置。
【請求項10】
前記第3領域が所望の細胞部位か否かを判定する判定手段を更に有し、
前記計測手段は、前記判定された細胞部位に対応する前記蛍光画像から蛍光発現量を計測することを特徴とする請求項7から9のいずれか1項に記載の蛍光検出装置。
【請求項1】
検出器で標本の標本画像と蛍光画像とを連続して取得し、前記蛍光画像から所定の閾値輝度値未満の蛍光を発現している第1領域を抽出した後、前記蛍光を発現している領域に対応した標本画像におけるテクスチャ特徴量が所定の範囲内にある第3領域を抽出することを特徴とする画像解析方法。
【請求項2】
検出器で標本の標本画像と蛍光画像とを連続して取得し、前記標本画像を各細胞単位に分割し、前記蛍光画像から所定の閾値輝度値未満の蛍光を発現している第1領域を抽出し、
前記第1領域を内包する細胞のみを抽出し、抽出された細胞の領域面積と蛍光を発現していない領域面積の比が所定の範囲内にある第2領域を抽出することを特徴とする画像解析方法。
【請求項3】
抽出された前記第2領域内でテクスチャ特徴量が所定の範囲内にある第3領域を抽出することを特徴とする請求項2に記載の画像解析方法。
【請求項4】
前記閾値輝度値は、前記蛍光画像における蛍光の平均発現量の時系列推移から決定することを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の画像解析方法。
【請求項5】
前閾値輝度値は、前記蛍光画像から得られる輝度頻度分布から決定することを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の画像解析方法。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の画像解析方法を有することを特徴とする蛍光検出装置。
【請求項7】
標本の標本画像と蛍光画像とを連続して取得する空間分解能を有する検出手段と、
前記蛍光画像から蛍光の閾値輝度値を設定する閾値設定手段と、
前記蛍光画像から前記閾値輝度値未満の蛍光を発現している第1領域を抽出する第1領域抽出手段と、
前記第1領域に対応する前記蛍光画像から蛍光発現量を計測する計測手段と、を有することを特徴とする蛍光検出装置。
【請求項8】
前記標本画像における前記第1領域内の各細胞単位内で蛍光発現面積と蛍光非発現面積の比が所定の範囲内にある第2領域を抽出する第2領域抽出手段を更に有し、
前記計測手段は、前記第2領域に対応する前記蛍光画像から蛍光発現量を計測することを特徴とする請求項7に記載の蛍光検出装置。
【請求項9】
前記標本画像における前記第2領域内の各細胞のテクスチャ特徴量が所定の範囲内にある第3領域を抽出する第3領域抽出手段を更に有し、
前記計測手段は、前記第3領域に対応する前記蛍光画像から蛍光発現量を計測することを特徴とする請求項7または8に記載の蛍光検出装置。
【請求項10】
前記第3領域が所望の細胞部位か否かを判定する判定手段を更に有し、
前記計測手段は、前記判定された細胞部位に対応する前記蛍光画像から蛍光発現量を計測することを特徴とする請求項7から9のいずれか1項に記載の蛍光検出装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2008−268027(P2008−268027A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−112177(P2007−112177)
【出願日】平成19年4月20日(2007.4.20)
【出願人】(000004112)株式会社ニコン (12,601)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年4月20日(2007.4.20)
【出願人】(000004112)株式会社ニコン (12,601)
【Fターム(参考)】
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