説明

画像読取装置

【課題】スペクトラム拡散クロックの周波数変動の影響を受けずに読み取りを実行すること。
【解決手段】複合機1は、所定の反射率を有し、原稿を載置する原稿データ取得領域Pに対して隣接して配置される基準白板81と、原稿データ取得領域Pと補正データ取得領域Qを主走査方向に読取可能な長さを有する読取部30を含む。読取部30では、所定の周波数領域を一定の周期で周波数が変化するスペクトラム拡散クロックを用いて、原稿データ取得領域Pと補正データ取得領域Qを読み取り、読み取ったアナログ信号を取り込んでデジタル信号の画像データに変換して取得する。読取部30には、所定の反射率を読み取った画像に基づいて、変調度と補正係数が定められた補正テーブルが記憶されており、補正テーブルに基づいて取得された画像データの変調度を特定し、補正係数を用いて画像データを補正する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像読取装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、EMI(電磁波干渉)対策の一環として、所定の周波数領域を一定の周期で周波数が変化するスペクトラム拡散クロックを用いる画像読取装置がある(例えば、特許文献1)。
CIS等の読取部は、読み取った画像に対応するアナログ信号の出力を開始すると、そのアナログ信号はある程度の遅延時間を持って変化した後、安定期間に入る。そして、アナログ信号の出力を開始してから所定のクロック数経過後に、アナログ信号の値を取り込んでA/D変換回路がデジタル信号の読取画像信号に変換していた。そのため、スペクトラム拡散クロックの周波数の変化によってアナログ信号をデジタル信号にA/D変換するタイミングがずれ、A/D変換回路によって変換されたデジタル信号の読取画像信号の値が異なる、可能性があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−87805号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来技術では、スペクトラム拡散クロック信号の周波数の周波数レベルを検出する検出回路を設け、検出回路が検出した周波数レベルに応じて読取部が読み取る読み取りタイミングを遅延補正することによって、スペクトラム拡散クロック信号の周波数の変化の影響を受けずに、A/D変換回路がアナログ信号の値を取り込むタイミングを一定とする技術が開示されている。しかし、従来技術では、周波数が変動するクロック信号の周波数の周波数レベルを検出するための検出回路を別途、設ける必要があった。
【0005】
本明細書では、スペクトラム拡散クロックの周波数変動の影響を受けずに読み取りを実行する技術を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本明細書によって開示される画像読取装置は、所定の反射率を有し、原稿を載置する原稿載置領域に対して隣接して配置される基準部材と、前記原稿載置領域及び前記基準部材を主走査方向に読取可能な長さを有し、その読取可能な長さ1ライン分読み取った各アナログ信号を順次出力する読取部と、前記原稿載置領域及び前記基準部材を、前記読取部が主走査方向に該1ライン読み取るように制御する制御部と、所定の周波数領域を一定の周期で周波数が変化するスペクトラム拡散クロックを生成するスペクトラム拡散クロック生成部と、前記読取部に対して前記アナログ信号の出力の開始が指示されてから前記スペクトラム拡散クロックの所定数のクロック経過した時点で、前記アナログ信号を取り込んでデジタル信号の読取画像信号に変換する変換部と、前記変換部によって変換された前記所定の反射率を読み取った画像に対応する読取画像信号の各値である基準読取データと、前記基準読取データの各値における前記スペクトラム拡散クロックの周波数レベルと、前記基準読取データの各値が所定の一定値となるように、前記周波数レベルに応じて定められた補正係数と、で構成された補正テーブルを記憶する記憶部と、前記制御部の制御によって前記読取部が読み取った前記基準部材における読取画像信号の各値と、前記補正テーブルの前記基準読取データの各値と、を比較し、前記原稿載置領域における前記スペクトラム拡散クロックの周波数レベルの分布を特定する特定部と、前記制御部の制御によって前記読取部が読み取り、前記変換部によって変換された前記原稿載置領域の読取画像信号の各値を、前記特定部が特定した前記周波数レベルの分布に応じて前記補正係数を用いて補正する補正部と、を備える。
【0007】
また、上記の画像読取装置では、前記基準部材は、前記原稿載置領域に対して主走査方向に平行に隣接して配置される第1基準部材と、前記原稿載置領域に対して副走査方向に平行に隣接して配置される第2基準部材と、を有し、前記制御部は、前記第1基準部材を、前記読取部が読み取るように制御し、副走査方向に前記原稿に沿って移動した後に、前記読取部が前記原稿載置領域及び前記第2基準部材を主走査方向1ライン読み取るように制御し、前記補正テーブルは、前記制御部の制御によって前記読取部が前記第1基準部材を読み取った読取画像信号に基づいて作成される構成としても良い。
【0008】
また、上記の画像読取装置では、前記第2基準部材を読み取った読取画像信号は、少なくとも前記スペクトラム拡散クロックの半周期分の読取画像信号を含んでおり、前記特定部は、前記制御部の制御によって前記第2基準部材を読み取った読取画像信号の各値における最大値と最小値の少なくとも一方を検出し、前記補正テーブルを用いて前記原稿載置領域における前記スペクトラム拡散クロックの周波数レベルの分布を特定する構成としても良い。
【0009】
また、上記の画像読取装置では、前記特定部は、前記第2基準部材を読み取った読取画像信号のうち、第一の読取画像信号を選出し、前記読取画像信号のうち、前記第一の読取画像信号と異なる値の第二の読取画像信号を選出し、前記第一の読取画像信号の値と、前記第二の読取画像信号の値と、前記補正テーブルと、から、前記原稿載置領域における前記スペクトラム拡散クロックの周波数レベルの分布を特定する構成としても良い。
【0010】
また、上記の画像読取装置では、原稿台を有する装置本体と、前記原稿台を開閉可能に覆う原稿カバーと、を備え、前記読取部は、前記装置本体に設けられており、前記原稿台に静止して配置された原稿を原稿台に沿って移動しながら読み取る構成としても良い。
【発明の効果】
【0011】
本明細書によって開示される画像読取装置では、原稿配置領域に隣接して基準部材が配置されており、読取部はスペクトラム拡散クロックを用いて原稿配置領域及び基準部材を読み取る。この画像読取装置は補正テーブルを記憶しており、読取部が基準部材を読み取った場合の読取画像信号と補正テーブルに基づいて、当該読取画像信号と同時に読取部が原稿配置領域を読み取った読取画像信号を補正する。これにより、読取画像信号からスペクトラム拡散クロックの周波数変動の影響を除去することができ、スペクトラム拡散クロックの周波数変動の影響を受けずに読み取りを実行することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】複合機1の原稿カバー48を上げた状態を示す図
【図2】複合機1の原稿カバー48を下げた状態の断面図
【図3】複合機1の電気的構成を概略的に示す図
【図4】読取部30の原稿データ取得領域Pと補正データ取得領域Qを概略的に示す図
【図5】アナログフロントエンド13によるアナログ信号の電圧値VAの取り込みを説明する図
【図6】スペクトラム拡散クロックの周波数領域Fと変調周期THを示す図
【図7】スペクトラム拡散クロックを用いてアナログ信号の電圧値VAを取り込む場合の問題点を説明する図
【図8】実施形態1の補正テーブル生成処理を示すフローチャート
【図9】実施形態1の画像データ補正処理を示すフローチャート
【図10】基準画像データDを示す図
【図11】補正テーブルHを示す表
【図12】実施形態1においてスペクトラム拡散クロックの変調度SLの分布を特定する処理を説明する図
【図13】実施形態2においてスペクトラム拡散クロックの変調度SLの分布を特定する処理を説明する図
【図14】実施形態2の画像データ補正処理を示すフローチャート
【図15】読取部60の原稿データ取得領域Pと補正データ取得領域Qを概略的に示す図
【発明を実施するための形態】
【0013】
<実施形態1>
実施形態1を、図1ないし図12を用いて説明する。
【0014】
1.複合機の機械的構成
図1は、本発明の画像形成装置の一例である複合機1の外観を示す斜視図であり、原稿カバー48を上げた開状態における複合機1の外観を示す。この複合機1は、プリンタ機能、スキャナ機能、コピー機能、ファクシミリ機能などを備えた多機能周辺装置である。図2は、原稿カバー48を下げた閉姿勢における画像読取装置3の断面図である。
【0015】
図1に示すように、複合機1は、装置本体2の上方に原稿を読み取るための画像読取装置3を備えている。画像読取装置3は、後述する読取部(読取部の一例)30、原稿自動送り装置(ADF)40、及び原稿載置部50等を含む。
【0016】
原稿載置部50は、台枠51、透明なガラス板からなる第1プラテンガラス(原稿載置領域の一例)52、第2プラテンガラス53、及びこれらのガラス52、53の中間に配置された中間枠54を含む。原稿載置部50は、原稿カバー48によって開閉可能に覆われている。
【0017】
原稿カバー48は、原稿載置部50を覆う閉姿勢と原稿載置部50を開放する開姿勢とに回動可能であり、操作部11、表示部12等が設けられる側を前側とする複合機1の装置本体2の後側に連結されている。原稿カバー48には、ADF40が設けられている。
【0018】
図2に示すように、ADF40は、ADFカバー41、原稿トレイ42、押圧部材43、44、各種ローラ46、排紙トレイ47、透明なガラス板からなる第3プラテンガラス55、読取部60等を含む。
【0019】
ADF40には、ローラ46等によって原稿が原稿トレイ42から排紙トレイ47へと搬送される経路である搬送路45が設けられており、搬送路45に隣接して読取部30及び読取部60が配置されている。
【0020】
読取部30は、装置本体2内に配置されており、図2の紙面垂直方向である主走査方向(図4の矢印83参照)に広がって形成されているとともに、図2に矢印84で示す副走査方向に移動可能に支持されている。読取部30は、副走査方向に移動しながら第1プラテンガラス52上に静止して載置された原稿を読み取る。また、図2に実線で示す第2プラテンガラス53下の読取位置Lに移動し、搬送路45を搬送される原稿を読み取る。この際、読取部30は、搬送路45を搬送される原稿が第2プラテンガラス53上を通過する際に当該原稿を読み取る。押圧部材44は、第2プラテンガラス53を介して読取位置Lに移動した状態の読取部30と対向して配置され、第2プラテンガラス53上を通過する原稿が第2プラテンガラス53から浮かないように、原稿を第2プラテンガラス53に押圧する。なお、以下の説明において、特に記載がない場合には、第1プラテンガラス52に対向して配置された読取部30の状態及び動作を説明しているものとする。
【0021】
図4に、台枠51、第1プラテンガラス52、中間枠54、及び読取部30を装置本体2内部から観察した図を示す。中間枠54及び台枠51の下部には、その表面がガラス52、53の下面と同一高さとなるように一定の反射率を有する基準白板(基準部材の一例)81が配置されている。基準白板81は、中間枠54の下部に配置されており、第1プラテンガラス52の主走査方向に平行に隣接して配置されている第1基準白板81Aと、台枠51の下部に配置されており、第1プラテンガラス52の副走査方向に平行に隣接して配置されている第2基準白板81Bと、を含む。第2基準白板81Bは、主走査方向において幅Wを有している。読取部30は、副走査方向に移動することで第1基準白板81Aを読み取る。読取部30は、主走査方向において、第1プラテンガラス52に対応し、第1プラテンガラス52上に載置された原稿を読み取る原稿データ取得領域(原稿配置領域の一例)Pだけでなく、第2基準白板81Bに対応した補正データ取得領域Qに亘って形成されている。つまり、読取部30は、主走査方向において、原稿データ取得領域Pと補正データ取得領域Qを読取可能な長さを有しており、補正データ取得領域Qに配置された部分30Aを用いて第2基準白板81Bを読み取る。読取部30は基準白板81を読み取ることで、シェーディング補正や色調補正等の補正処理の他、後述するスペクトラム拡散クロック(以下、SSC)の変調度に対する補正処理に必要な読取結果を検出する。
【0022】
読取部60は、原稿カバー48内に配置され、ADF40に対して移動不能に支持されている。読取部60は、搬送路45を搬送される原稿が第3プラテンガラス55上を通過する際に当該原稿を読み取る。押圧部材43は、第3プラテンガラス55を介して読取部60と対向して配置され、第3プラテンガラス55上を通過する原稿が第3プラテンガラス55から浮かないように、原稿を第3プラテンガラス55に押圧する。
【0023】
押圧部材43の読取部60に対向する面には、一定の反射率を有する白色テープ80が貼り付けられており、読取部60はこの白色テープ80を用いて各種補正処理に必要な読取結果を検出する。
【0024】
ADF40では、原稿トレイ42に原稿が載置されたことを検知すると、ローラ46を駆動して原稿トレイ42に載置されている原稿を一枚ずつ搬送路45に搬送する。搬送路45に搬送された原稿は、搬送路45上に位置する第3プラテンガラス55及び第2プラテンガラス53上を通過し、排紙トレイ47に排出される。
【0025】
次に、読取部30の構造について説明する。読取部30は、CIS(Contact Image Sensor)を用いた、いわゆるCIS方式で第1プラテンガラス52上に載置された原稿を読み取る。読取部30は、複数の受光素子が主走査方向に直線状に配列されているリニアイメージセンサ(不図示)、発光ダイオードなどで構成される光源(不図示)、光源から照射される光を第1プラテンガラス52上に配置された原稿等へと導く導光体(不図示)、原稿等で反射された反射光をリニアイメージセンサ(不図示)の各受光素子に結像させるロッドレンズアレイ(不図示)、これらが搭載されるキャリッジ34を含む。
【0026】
読取部60の構成も読取部30の構成と基本的に同じものである。しかし、読取部30及び60の構造は、必ずしも同一の構造である必要はなく、例えば、読取部30又は読取部60のいずれか一方がCISであって、他方がCCD(Charge Coupled Device)であってもよい。
【0027】
さらに、複合機1の前側には、各種のボタンからなり、ユーザからの操作指令を受け付ける操作部11、複合機1の状態を表示する液晶ディスプレイからなる表示部12が設けられている。
【0028】
2.複合機の電気的構成
図3は、複合機1の電気的構成を概略的に示す図である。図3に示すように、複合機1は、複合機1の各部を制御するASIC(特定用途向け集積回路)10を含む。ASIC10は、CPU20、RAMコントローラ21、ROMコントローラ23、制御部25、画像処理部26、スペクトラム拡散クロック生成部(以下、SSCG)28、駆動回路制御部111、UI制御部110、を備え、これらが内部バス27を介してお互いに接続されている。
【0029】
SSCG28は、発振器29と接続されており、スペクトラム拡散をかけたクロック112をASIC10内部に分配している。画像処理部26は、A/D変換器を有するアナログフロントエンド(変換部の一例、以下AFE)13に接続されている。RAM22は、RAMバス101を介してRAMコントローラ21と接続されている。ROM24は、ROMバス102を介してROMコントローラ23と接続されている。駆動回路16は、駆動回路制御部111と接続されており、読取部30を移動させている。操作部11及び表示部12は、UI制御部110と接続されている。
【0030】
ROM24には、複合機1の動作を制御するための各種のプログラムが記憶されており、CPU20は、ROMコントローラ23を介してROM24から読み出したプログラムに従って、特定部20A、補正部20Bとして機能し、各部の制御を行う。
【0031】
SSCG28は、発振器29に接続されている。図6に示すように、SSCG28は、発振器29から発振される一定周波数のクロック信号(48MHz)を一定周波数F0(96MHz)となるように逓倍し、さらにこのクロック信号をもとに、一定の周波数領域Fを一定の変調周期THで周波数が変化するSSCを生成する。複合機1では、SSCG28が生成したSSCを読取部30、60の読取タイミングやAFE14の変換タイミング等を決定するクロック信号として用いる。そのため、一定周波数F0のクロック信号を用いる場合に比べて、EMIによるノイズのピーク値を減少させることができる。本実施形態では、SSCG28は、一定の変調周期THで一定周波数の±1.5%の範囲で周波数が変化するSSCを生成している。
【0032】
制御部25は、読取部30、60に接続されており、CPU20からの命令に基づいて、読取部30、60にライン周期信号(以下、TRIG)及び、画素周期信号(以下、DEVCLK)を送信する。DEVCLKは1画素周期でH/Lが切り替わる信号である。読取部30、60は、これらの信号に従って、ガラス52、55上に配置された原稿、基準白板81及び白色テープ80を読み取る。具体的には、読取部30、60のリニアイメージセンサ33,63は、TRIGに従って、原稿等からの反射光を受光素子毎に検出して蓄積し、各受光素子が蓄積した光量に基づくアナログ信号をDEVCLKに同期して順次AFE13へ出力する。
【0033】
画像処理部26は、AFE13に接続されており、CPU20からの命令に基づいて、AFE13にADCLKを送信する。詳細には、後述して説明するように、AFE13は、この信号に従って、読取部30、60から受信したアナログ信号の電圧値を読み取ってデジタル信号の画像データ(読取画像信号の一例)Dに変換し、画像処理部26に送信する。
【0034】
また、画像処理部26は、AFE13から画像データDを受信すると、CPU20からの命令に基づいてRAMコントローラ21を介してRAM22から補正テーブルHを読み出し、この補正テーブルHに基づいて画像データDを補正する。画像処理部26は、補正後の画像データDを、RAMコントローラ21を介してRAM22に記憶する。
【0035】
3.生成処理
次に、図5を参照して、AFE13における画像データDの生成する処理について説明する。
【0036】
図5は、AFE13においてアナログ信号を取り込むタイミングを説明する図面である。図5において、DEVCLKは前述のリニアイメージセンサ33の画素周期信号である。ADCLKは、リニアイメージセンサ33からのアナログ信号をAD変換するタイミング信号である。DEVCLKとADCLKはともにSSCに同期した信号である。t0は、DEVCLKがHになるタイミングであり、リニアイメージセンサ33の受光素子からアナログ信号の出力が開始される時間を示している。TAは、DEVCLKの1周期(本実施形態ではSSCの4クロック分)であり、リニアイメージセンサ33の各受光素子に応じたアナログ信号が出力される出力期間である。t1は、ADCLKがHになるタイミングであり、リニアイメージセンサ33の受光素子からアナログ信号の出力をAD変換する時間を示している。本実施形態では、DEVCLKがHになってから3クロック経過後にHになるように制御している。従って、AFE13は、出力期間TA内において、t0からSSCの3クロック分経過した時点t1のアナログ信号の電圧値VA、つまりt0から取込期間TB経過した時点でのアナログ信号の電圧値VAを取り込み、デジタル信号の画像データDに変換し、画像処理部26に送信する。
【0037】
4.補正処理
上述したように、SSCでは一定の変調周期THで周波数が変化しており、それに伴って取込期間TBが変化する。そのため、図5に示すように、t0から徐々に電圧値VAが変化するアナログ信号を読み取る場合、読取部30から同じアナログ信号が出力されているにも関わらず、取込期間TBの変化に伴って取り込む電圧値VAが変化する。
【0038】
図7を用いて、取り込む電圧値VAの変化について説明する。図7では、説明のため、SSCの周波数領域Fで、最も低い周波数で出力したクロック信号SSC1(−1.5%)を用いてアナログ信号の電圧値VAを取り込む場合と、最も高い周波数で出力したクロック信号SSC2(+1.5%)を用いてアナログ信号の電圧値VAを取り込む場合と、を用いて説明を行う。
【0039】
図7に示すように、クロック信号SSC1を用いた場合の取込期間TB1は、クロック信号SSC2を用いた場合の取込期間TB2に比べて長い。そのため、読取部30から徐々に電圧値VAが変化するアナログ信号が出力されていると、クロック信号SSC1を用いた場合にAFE13が取り込む電圧値VA1は、クロック信号SSC2を用いた場合にAFE13が取り込む電圧値VA2に比べてΔVAだけ大きくなる。この結果、読取部30から同じアナログ信号が出力されているにも関わらず、AFE13から出力される画像データDが変化してしまう。本実施形態では、SSCの周波数の変化に基づいて画像データDを補正することで、読取部30から同じアナログ信号が出力されている場合、同じ画像データDが得られるようにする。
【0040】
図8ないし図12を参照して、複合機1を用いて第1プラテンガラス52に載置された原稿を読み取る場合の、CPU20における処理について説明する。
(補正テーブル生成処理)
CPU20は、画像データDを補正するに先だって、画像データDの補正に用いられる補正テーブルHを生成する処理を実行する。図8に、CPU20が所定のプログラムに従って実行する読取部30の補正テーブル生成処理のフローチャートを示す。なお、読取部60の補正テーブルHを生成する処理も読取部30における処理と基本的に同じものである。CPU20は、ユーザによって電源がオンされると、処理を開始する。CPU20は、処理を開始すると、駆動制御部111、駆動回路16を介して読取部30を図4に示す第1基準白板81Aに対応する位置に移動させる(S2)。CPU20は、読取部30を用いて第1基準白板81Aを読み取り(S4)、この際にAFE13から送信される基準画像データDをRAM22に記憶する(S6)。
【0041】
図10に、S4で取得された基準画像データD(基準読取データの一例)の一部を示す。図10において、縦軸は各基準画像データDの値を示し、横軸は各基準画像データDが取得された時間を示す。
第1基準白板81Aは、一定の反射率を有しており、読取部30のリニアイメージセンサに含まれる各受光素子には、同一量の反射光が蓄積され、AFE13には各受光素子に応じた同一のアナログ信号が順次出力される。しかし、上述したように、SSCの周波数の変化に基づいて、AFE13で取得される電圧値VAが変化することで、変換されて出力される画像データDが変化する。本実施形態では、SSCの周波数の変化に基づいて、AFE13から出力される画像データDの10進数における値が801から840まで変化している。予め、この所定の反射率を有する第1基準白板81Aを、読取部30が読み取ったに対応する基準画像データDがRAM22に記憶されている。
【0042】
CPU20は、RAM22に記憶された基準画像データDから最小値Dmin及び最大値Dmaxを検出する(S8、S10)。具体的には、基準画像データDの値が801及び840となる画像データDを検出する。図7を用いて説明したように、基準画像データDが最小値Dminとなるのは、SSCの周波数が最も高い(+1.5%)場合である。また、基準画像データDが最大値Dmaxとなるのは、SSCの周波数が最も低い(−1.5%)場合である。そのため、S4において、最小値Dminが取得されてから最大値Dmaxが取得されるまでの期間TC1と、最大値Dmaxが取得されてから最小値Dminが取得されるまでの期間TC2の和は、SSCの周波数が最も高くなってから再びSSCの周波数が最も高くなるまでの期間、つまり変調周期THに相当する。
【0043】
図11に示すように、CPU20は、期間TC1に亘る基準画像データDを選出する(S12)。図10、11に示すように、CPU20は、基準画像データDの最小値Dminから最大値Dmaxまでの範囲を、データレベル(周波数レベルの一例)DL0〜DL7に8等分し(S14)、各データレベルDL0〜DL7における基準画像データDの中間値DM0〜DM7を選出する(S16)。CPU20は、各中間値DM0〜DM7を中間値DM0(一定値の一例)へと補正する補正係数HV0〜HV7を算出する(S18)。例えば、データレベルDL7の中間値DM7は803であり、中間値DM7に乗じて中間値DM0である838とする場合における補正係数HV7は、1.043となる。
【0044】
次に、CPU20は、S12で選出された各基準画像データDの変調度SLを推定し(S20)、補正テーブルHを生成する。CPU20は、基準画像データDが最小値Dminである場合の変調度SLを「+1.5%」と推定し、基準画像データDが最大値Dmaxである場合の変調度SLを「−1.5%」と推定する。CPU20は、この他の基準画像データDについて、その基準画像データDと最大値Dmax及び最小値Dminの差分値に基づいて変調度SLを推定する。CPU20は、図11に示す補正テーブルHを生成後、その補正テーブルHをRAM22に記憶し(S22)、処理を終了する。
【0045】
(画像データ補正処理)
次に、画像データDの補正処理について説明する。図9に、CPU20が所定のプログラムに従って実行する読取部30の画像データ補正処理のフローチャートを示す。なお、読取部60の画像データDを補正する処理も読取部30における処理と基本的に同じものである。CPU20は、ユーザによって第1プラテンガラス52に原稿が載置され、操作部11または入力可能な表示部12を介して原稿の読取指示が入力されると、処理を開始する。
【0046】
CPU20は、処理を開始すると、図12に示すように、読取部30を用いて、第1プラテンガラス52に対応した原稿データ取得領域Pを読み取るとともに、第2基準白板81Bに対応した補正データ取得領域Qを読み取る(S32)。CPU20は、原稿データ取得領域Pと補正データ取得領域Qを連続して読み取る。すなわち、CPU20は、原稿データ取得領域Pと補正データ取得領域Qを、連続するSSCを用いて読み取り、この際にAFE13から送信される画像データDをRAM22に記憶する(S34)。以下、読取部30を用いて原稿データ取得領域Pを読み取った際の画像データDを原稿データDGと呼び、読取部30を用いて補正データ取得領域Qを読み取った際の画像データDを補正データDHと呼ぶ。
【0047】
図12に示すように、本実施形態の複合機1では、第2基準白板81Bの主走査方向における幅Wが、SSCの変調周期THの半周期以上に亘って変化する程度に広がっている。つまり、補正データDHには、少なくともSSCの半周期分のデータを含んでいる。そのため、RAM22に記憶された補正データDHには、第1基準白板81Aを読み取った場合の基準画像データDにおける最大値Dmax又は最小値Dminの少なくとも一方が含まれる。本実施形態では最小値Dminが含まれていることとする。CPU20は、補正データDHから最小値を検出し、当該データを最小値Dminと特定し(S36)、当該最小値Dminを読み取った受光素子PAが、受光素子の中でどの位置にあたるかを特定する(S38)。
【0048】
次に、CPU20は、特定した受光素子PA及び補正テーブルHを用いて、補正データDHの変調度SLを特定する(S40)。
【0049】
次に、CPU20は、特定した補正データDHの変調度SL、及び補正テーブルHを用いて、各原稿データDGの変調度SLを特定する(S42)。この際、CPU20は、特定部20Aとして機能する。上述したように、CPU20は、原稿データ取得領域Pと補正データ取得領域Qを、連続するSSCを用いて読み取っており、特定した補正データDHの変調度SLと連続するように、原稿データDGの変調度SLを特定する。
【0050】
CPU20は、特定した変調度SLに基づいて、原稿データDGの補正係数HVを決定する(S44)。CPU20は、補正テーブルHにおいて、S42で特定した変調度SLに対応して記憶されている補正係数HVを、原稿データDGの補正係数HVとして決定する。CPU20は、補正部20Bとして機能し、RAM22に記憶された画像データDに決定された補正係数HVを乗じて画像データDを補正(S46)し、補正後の画像データDをRAM22に記憶する(S48)。
【0051】
5.本実施形態の効果
(1)本実施形態の複合機1では、第1プラテンガラス52に隣接して第1基準白板81Aが配置されており、読取部30はSSCを用いて第1プラテンガラス52に相当する原稿データ取得領域P及び基準白板81に相当する補正データ取得領域Qを読み取る。複合機1は、補正テーブルHを記憶しており、読取部30が補正データ取得領域Qを読み取った画像データDと補正テーブルHに基づいて、当該補正データ取得領域Qと同時に読取部30が原稿データ取得領域Pを読み取った画像データDを補正する。これにより、画像データDからSSCの周波数変動の影響を除去することができ、SSCの周波数変動の影響を受けずに読み取りを実行することができる。
【0052】
(2)本実施形態の複合機1では、基準画像データDを読み取るための第2基準白板81Bを内在している。そのため、読取部30は、原稿データ取得領域Pと同時に第2基準白板81Bを読み取ることで、画像データDからSSCの周波数変動の影響を除去することができ、SSCの周波数変動の影響を受けずに読み取りを実行することができる。
【0053】
(3)本実施形態の複合機1では、補正データDHが最小値Dminである受光素子PAを特定することで、補正データDHの変調度SLを特定することができ、原稿データDGの変調度SLを特定することができる。
【0054】
(4)本実施形態の複合機1では、装置本体2に設けられ、第1プラテンガラス52に静止された配置された原稿を読み取る読取部30において、SSCの周波数変動の影響を除去することができ、SSCの周波数変動の影響を受けずに読み取りを実行することができる。
【0055】
<実施形態2>
実施形態2を、図13ないし図14を用いて説明する。本実施形態では、補正データDHから受光素子PB、PCを選出する。そして、選出した受光素子PB、PC及び補正テーブルHを用いて、画像データ補正処理において各補正データDHの変調度SLを特定する点で、実施形態1と異なる。以下の説明では、実施形態1と同一の内容については重複した記載を省略する。
【0056】
1.補正処理
(画像データ補正処理)
図13に示すように、CPU20は、原稿データDGと補正データDHをRAM22に記憶する(S34)と、RAM22に記憶した補正データDHから、任意の2つの補正データDHを選出する(S52)。このとき、任意の2つの補正データDHの値が、同一の場合は、片方を再度選出し直す。続いて、当該2つの補正データDHを読み取った受光素子PB、PCが、受光素子の中でどの位置にあたるかを特定する(S54)。本実施形態の複合機1では、第2基準白板81Bの主走査方向における幅Wが、必ずしもSSCの変調周期THが半周期以上に亘って変化する程度に広がっている必要はない。つまり、補正データDHには、少なくともSSCの半周期分のデータを含んでいる必要もない。そのため、上記選出した受光素子PB、PCの補正データDHの値は、第1基準白板81Aを読み取った場合の基準画像データDにおける最大値Dmax又は最小値Dminを必ずしも含んでいない。
【0057】
次に、CPU20は、特定した受光素子PB、PCにおける変調度SLを特定する(S56)。CPU20は、受光素子PB、PCの補正データDHの値を補正テーブルHに含まれる基準画像データDの値と比較し、最も近い基準画像データDに対応付けられた変調度SLを受光素子PB、PCの変調度SLとして特定する。
【0058】
次に、CPU20は、特定した受光素子PB、PCにおける変調度SL及び補正テーブルHを用いて、データDHの変調度SLを特定する(S58)。
【0059】
2.本実施形態の効果
本実施形態の複合機1では、読取部30の異なる2つの受光素子PB、PCで読み取られた補正データDHの変調度SLを特定しておくことで、受光素子PB、PCを基準として用いて、補正データDHの変調度SLを特定することができ、原稿データDGの変調度SLを特定することができる。
【0060】
<他の実施形態>
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような種々の態様も本発明の技術的範囲に含まれる。
(1)上記実施形態では、複合機1を用いて説明を行ったが、本発明はこれに限られない。例えば、プリンタ機能、スキャナ機能、コピー機能、ファクシミリ機能の少なくとも1つの機能を備えた装置であっても良い。
【0061】
(2)上記実施形態では、複合機1が1つのASIC10を有し、特定部20A、補正部20B等の機能をASIC10が有する1つのCPU20によって実行する例を用いて示したが、本発明はこれに限られない。例えば、お互いに異なるCPU、ASICなどによって各部が構成されても良い。
【0062】
(3)上記実施形態では、読取部30を用いて画像データDの生成処理及び補正処理の説明を行ったが、読取部60を用いた処理も読取部30における処理と基本的に同じものである。図15に、第3プラテンガラス55、押圧部材43、及び読取部60を装置本体2側から観察した図を示す。押圧部材43の読取部60に対向する面に、白色テープ80が貼り付けられている。読取部60は、原稿が通過する原稿データ取得領域Pだけでなく、原稿が通過することがない補正データ取得領域Qに亘って形成されており、白色テープ80は、原稿データ取得領域P及び補正データ取得領域Qに亘って押圧部材43に貼り付けられている。読取部60は、補正データ取得領域Qに配置された部分60Aを用いて白色テープ80を読み取ることで、SSCの変調度に対する補正処理に必要な読取結果を検出する。
【符号の説明】
【0063】
1:複合機、2:装置本体、3:画像読取装置、13:AFE、16:駆動回路、20:CPU、20A:特定部、20B:補正部、22:RAM、24:ROM、25:制御部、26:画像処理部、28:SSCG、30、60:読取部、80:白色テープ、81:基準白板、D:画像データ、DG:原稿データ、DH:補正データ、DL:データレベル、H:補正テーブル、HV:補正係数、P:原稿データ取得領域、Q:補正データ取得領域、SL:変調度、111:駆動回路制御部、110:UI制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の反射率を有し、原稿を載置する原稿載置領域に対して隣接して配置される基準部材と、
前記原稿載置領域及び前記基準部材を主走査方向に読取可能な長さを有し、その読取可能な長さ1ライン分読み取った各アナログ信号を順次出力する読取部と、
前記原稿載置領域及び前記基準部材を、前記読取部が主走査方向に該1ライン読み取るように制御する制御部と、
所定の周波数領域を一定の周期で周波数が変化するスペクトラム拡散クロックを生成するスペクトラム拡散クロック生成部と、
前記読取部に対して前記アナログ信号の出力の開始が指示されてから前記スペクトラム拡散クロックの所定数のクロック経過した時点で、前記アナログ信号を取り込んでデジタル信号の読取画像信号に変換する変換部と、
前記変換部によって変換された前記所定の反射率を読み取った画像に対応する読取画像信号の各値である基準読取データと、前記基準読取データの各値における前記スペクトラム拡散クロックの周波数レベルと、前記基準読取データの各値が所定の一定値となるように、前記周波数レベルに応じて定められた補正係数と、で構成された補正テーブルを記憶する記憶部と、
前記制御部の制御によって前記読取部が読み取った前記基準部材における読取画像信号の各値と、前記補正テーブルの前記基準読取データの各値と、を比較し、前記原稿載置領域における前記スペクトラム拡散クロックの周波数レベルの分布を特定する特定部と、
前記制御部の制御によって前記読取部が読み取り、前記変換部によって変換された前記原稿載置領域の読取画像信号の各値を、前記特定部が特定した前記周波数レベルの分布に応じて前記補正係数を用いて補正する補正部と、
を備えることを特徴とする画像読取装置。
【請求項2】
請求項1に記載の画像読取装置であって、
前記基準部材は、前記原稿載置領域に対して主走査方向に平行に隣接して配置される第1基準部材と、前記原稿載置領域に対して副走査方向に平行に隣接して配置される第2基準部材と、を有し、
前記制御部は、前記第1基準部材を、前記読取部が読み取るように制御し、副走査方向に前記原稿に沿って移動した後に、前記読取部が前記原稿載置領域及び前記第2基準部材を主走査方向1ライン読み取るように制御し、
前記補正テーブルは、前記制御部の制御によって前記読取部が前記第1基準部材を読み取った読取画像信号に基づいて作成されること、
を特徴とする画像読取装置。
【請求項3】
請求項2に記載の画像読取装置であって、
前記第2基準部材を読み取った読取画像信号は、少なくとも前記スペクトラム拡散クロックの半周期分の読取画像信号を含んでおり、
前記特定部は、前記制御部の制御によって前記第2基準部材を読み取った読取画像信号の各値における最大値と最小値の少なくとも一方を検出し、前記補正テーブルを用いて前記原稿載置領域における前記スペクトラム拡散クロックの周波数レベルの分布を特定すること、
を特徴とする画像読取装置。
【請求項4】
請求項2に記載の画像読取装置であって、
前記特定部は、前記第2基準部材を読み取った読み取り画像信号のうち、第一の読取画像信号を選出し、前記読取画像信号のうち、前記第一の読取画像信号と異なる値の第二の読取画像信号を選出し、前記第一の読取画像信号の値と、前記第二の読取画像信号の値と、前記補正テーブルと、から、前記原稿載置領域における前記スペクトラム拡散クロックの周波数レベルの分布を特定すること、
を特徴とする画像読取装置。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載の画像読取装置であって、
原稿台を有する装置本体と、
前記原稿台を開閉可能に覆う原稿カバーと、
を備え、
前記読取部は、前記装置本体に設けられており、前記原稿台に静止して配置された原稿を原稿台に沿って移動しながら読み取ること、
を特徴とする画像読取装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2012−178787(P2012−178787A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−41688(P2011−41688)
【出願日】平成23年2月28日(2011.2.28)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】