説明

画素値補正プログラムおよび記録媒体

【課題】近赤外バンドを含む光学センサにより取得した起伏の大きい地域の可視バンド衛星画像データから、局所的な情報を失なわず見かけが悪くならず大気状態が水平方向に変化する場合も含めてパスラディアンスの影響を除去できる物理的に信頼性の高い画素値補正プログラム等を提供する。
【解決手段】近赤外バンドの衛星画像データの各画素を所定の基準に基づき分類クラスに分類する。同じ分類クラスに分類された各画素に対応する可視バンドの衛星画像データの画素値を抽出する。数値標高モデルの座標データから分類クラス毎に各画素の標高を抽出し、分類クラス毎に分析ステップにより画素毎に大気影響度を求める。各画素の大気影響度に対して中央値フィルタを適用し画素毎に地域的な大気影響度を求め、各画素の画素値及び標高と基準標高と地域的な大気影響度とに基づき各画素の画素値を補正する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象地域に関する可視バンドの衛星画像データの画素値を補正するための画素値補正プログラムおよび記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
地球観測衛星は種々のセンサを搭載しており、収集された衛星画像データは気象現象、陸域の植生被覆、水資源の調査等様々な目的に利用されている。例えば、地球観測衛星の1つであるランドサット(Landsat)4号には7バンドのTM(Thematic Mapper)センサが搭載されており、バンド1〜3は可視バンド、バンド6は温度情報を得るための熱バンド、バンド4、5および7は近赤外バンドとなっている。
【0003】
衛星画像データの輝度値(画素値)には、地表で反射された光等以外に、大気によって散乱された散乱光であるパスラディアンス(path radiance : 光路輝度)が影響を与えている。このパスラディアンスの特性は、大気中のもや、霞または埃のヘイズ(haze)または霧を含む大気状態により異なる。可視バンドから中間赤外バンドのように近赤外バンドを含む光学センサによって取得された衛星画像データには、大気と地形との双方の影響に基づく変動が含まれている。特に、起伏の大きい地域の可視バンド衛星画像データには大気状態の空間的変動に起因するパスラディアンスが大きく影響しているため、この影響を除去することは重要である。
【0004】
非特許文献1では、近赤外バンドにおける各画素は可視バンドにおけるある画素に対応するものと仮定し、散乱が可視バンドで生じている場合は近赤外バンドにおける各画素は可視バンドにおける複数の画素に対応しているものと考えている。そこで、近赤外バンドで土地被覆分類等による分類により同じ分類クラスに分類された可視バンドの各画素の画素値を、それらの画素値の平均値で置き換えるという方法を大気補正法として提案している。この大気補正法は局所的にヘイズがある衛星画像データに対しては見かけ上良くなるが、局所的な情報は失われることになるという問題があった。例えば、近赤外バンドではヘイズのある地域での水田もクリアな地域での水田も同じ分類クラスに属しているが、可視バンドでは両者は異なる分類クラスに属している。ここで水田がヘイズのある地域に偏在していると、可視バンドにおける画素値の平均値はヘイズのある地域側に偏った値となる。このため、クリアな地域の水田の画素値を当該平均値で置き換えると、クリアな地域の水田も汚されてしまうことになる。つまり、非特許文献1の大気補正法では水田がヘイズのある地域に偏在しているというような局所的な情報は失われてしまうことになるという問題があった。さらに、非特許文献1では起伏のある地域を扱っていないため、起伏による陰影の情報という局所的な情報も失われてしまい、見かけも良くなくなってしまうという問題があった。
【0005】
非特許文献2では、起伏の激しい山岳地域では地表面の傾斜による太陽入射照度の違いが重要な問題となる点に着目し、大気・地形効果補正の簡便な方法を提案している。詳しくは、パスラディアンスが標高の一次関数として表すことができるということを放射伝達のシミュレーションと実際の衛星画像データとを用いて示している。しかし、大気状態が水平方向に変化する場合は取り扱っていないという問題があった。
【0006】
非特許文献3では、タセルドキャップ(Tasseled Cap)というランドサットTMの上述の各バンドの画素値を線形変換した指標の中の4番目の指標(簡便にはバンド1とバンド3との差)がヘイズの量と相関が高いという経験式を用いた方法が記載されている。しかし、非特許文献3では画素毎に分光反射特性が異なるということが無視されている。統計的にも変換後のバンド間の相関が高くなることが指摘されており、非特許文献3の方法は物理的に信頼性が低いという問題があった。
【0007】
非特許文献4では、まず赤外バンドを分類し、その分類クラス毎にエアロゾル(ヘイズ)の光学的厚さを求め、次に、当該光学的厚さを空間的に平均した値を求めている。詳しくは、光学的厚さの空間的な平滑化を比較的狭い範囲(150m程度)で通常の平均値を用いて行なっている。この平均値を利用して、画素値から地表面の反射率を補正している。しかし、非特許文献4では起伏のある地域を取り扱っていないという問題があった。さらに、光学的厚さおよび反射率という物理量を用いているため、クリアな地域における大気の散乱等を予め計算しておく必要がある。従って、クリアな地域を厳密に定めておく必要があり、煩雑で非実用的であるという問題があった。加えて、補正に利用する値は比較的狭い範囲における通常の平均値であるため、大きな範囲で平滑化を行った場合、必要とする変化を捉えることができないという問題があった。
【0008】
【非特許文献1】M.J.Carlooto:“Reducingthe effects of space-varying, wavelength-dependent scattering in multispectralimagery”, Int.J.Remote Sensing, 1999, Vol.20, No.17, pp.3333-3344.
【非特許文献2】飯倉善和、横山隆三、「ランドサットTM画像の大気および地形効果の補正」、日本リモートセンシング学会誌、1999年、第19巻、第1号、p.2−16.(Y.Iikura and R.Yokoyama:“Correction of Atmospheric and TopographicEffects on Landsat TM Imagery”, Journal of Remote Sensing Society of Japan, 1999,Vol.19, No.1, pp.2-16.)
【非特許文献3】J.Lavreau:“De-hazingLandsat Thematic Mapper images”, Photogrammetric Engineering & RemoteSensing, 1991, Vol.57, No.10, pp.1297-1302.
【非特許文献4】S.Liang,H.Fang, and M.Chen:“Atmospheric Correction of Landsat ETM+ Land Surface Imagery- Part I:Methods”, IEEE Trans. on Geoscience and Remote Sensing, 2001, Vol.39,No.11, pp.2490-2498.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述のように、近赤外バンドを含む光学センサによって取得された衛星画像データ、特に起伏の大きい地域の可視バンド衛星画像データには大気状態の空間的変動に起因するパスラディアンスが大きく影響しているため、この影響を除去することは重要である。しかし、非特許文献1に記載された大気補正法では、局所的にヘイズがある衛星画像データに対しては見かけ上良くなるが、局所的な情報は失われることになるという問題があった。さらに、非特許文献1では起伏のある地域を扱っていないため、起伏による陰影の情報という局所的な情報も失われてしまい、見かけも良くなくなってしまうという問題があった。非特許文献2に記載された大気・地形効果補正の方法では、起伏のある地域を考慮しているが、大気状態が水平方向に変化する場合は取り扱っていないという問題があった。非特許文献3の方法は物理的に信頼性が低いという問題があった。非特許文献4に記載された方法では、起伏のある地域を取り扱っていないという問題があった。さらに、光学的厚さおよび反射率という物理量を用いているため、クリアな地域における大気の散乱等を予め計算しておく必要がある。従って、クリアな地域を厳密に定めておく必要があり、煩雑で非実用的であるという問題があった。加えて、補正に利用する値は比較的狭い範囲における通常の平均値であるため、大きな範囲で平滑化を行った場合、必要とする変化を捉えることができないという問題があった。
【0010】
そこで、本発明の目的は、上記問題を解決するためになされたものであり、近赤外バンドを含む光学センサによって取得された衛星画像データ、特に起伏の大きい地域の可視バンド衛星画像データから、局所的な情報を失なわず見かけが悪くなることがなく大気状態が水平方向に変化する場合も含めてパスラディアンスの影響を除去することができる物理的に信頼性の高い画素値補正プログラム等を提供することにある。さらに、本発明の目的は、簡便で実用的であり、大きな範囲で平滑化を行った場合でも、必要とする変化を捉えることができる画素値補正プログラム等を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明の画素値補正プログラムは、対象地域に関する可視バンドの衛星画像データの画素値を補正するための画素値補正プログラムであって、コンピュータに、前記対象地域に関する近赤外バンドの衛星画像データを入力し、該近赤外バンドの衛星画像データの各画素を所定の基準に基づき分類クラスに分類する分類ステップ、前記対象地域に関する可視バンドの衛星画像データを入力し、前記分類ステップで同じ分類クラスに分類された各画素に対応する可視バンドの衛星画像データの画素値を抽出する可視バンドデータ抽出ステップ、前記対象地域に関する数値標高モデルの座標データを入力し、前記分類クラス毎に各画素の標高を抽出する数値標高データ抽出ステップ、前記分類クラス毎に、前記可視バンドデータ抽出ステップで抽出された画素値、前記数値標高データ抽出ステップで抽出された標高及び所定の基準標高に基づき画素毎に大気影響度を求める分析ステップ、前記分析ステップで求めた各画素の大気影響度に対して中央値フィルタを適用し、該画素毎に地域的な大気影響度を求めるフィルタステップ、前記可視バンドデータ抽出ステップで抽出した各画素の画素値と、前記数値標高データ抽出ステップで抽出した標高と、前記所定の基準標高と、前記フィルタステップで求めた該画素の地域的な大気影響度とに基づき、各画素の画素値を補正する補正ステップを実行させるための画素値補正プログラムである。
【0012】
ここで、この発明の画素値補正プログラムにおいて、前記所定の基準は、近赤外バンドの衛星画像データの画素値が一致しているか又は所定の範囲内にある画素を同じ分類クラスに分類する基準とすることができる。
【0013】
ここで、この発明の画素値補正プログラムにおいて、前記所定の基準標高は前記分類クラスの画素の標高より高く1000mから1500m程度の範囲内の値とすることができる。
【0014】
ここで、この発明の画素値補正プログラムにおいて、前記分析ステップは、前記分類クラス毎に、横軸を標高、縦軸を画素値とするグラフを用い各画素の標高Xi及び画素値Yiに対応する座標(Xi,Yi)に画素をプロットするグラフ作成ステップと、クリアな領域における傾きB(画素値/標高)を設定する傾き設定ステップと、前記傾き設定ステップで設定された傾きBを用い、前記グラフ作成ステップでプロットされたすべての画素(Xi,Yi)について、基準標高Xにおける仮の画素値Ypiを、Ypi=Yi−B×(X−Xi)、i=1〜前記分類クラスの画素数、を用いて計算する仮の画素値計算ステップと、前記仮の画素値計算ステップで計算された仮の画素値Ypiの中央値を求め該中央値を基準標高Xにおける画素値Yとする画素値決定ステップと、前記画素値決定ステップで決定された画素値Yを用い、前記グラフ作成ステップでプロットされたすべての画素(Xi,Yi)について、基準標高における画素(X,Y)に対する傾きBiを、Bi=(Yi−Y)/(X−Xi)、i=1〜前記分類クラスの画素数、を用いて計算し該傾きBiを画素(Xi,Yi)の大気影響度とするステップとを備えることができる。
【0015】
ここで、この発明の画素値補正プログラムにおいて、前記フィルタステップは、各画素の周囲600m程度以内の画素の大気影響度を抽出し、該大気影響度の中央値を用いて平滑化した結果を各画素の地域的な大気影響度として求めることができる。
【0016】
ここで、この発明の記載の画素値補正プログラムにおいて、前記補正ステップは、各画素の標高Xi、画素値Yi、基準標高X及び地域的な大気影響度Bi’を用いて補正後の画素値Yi’を、Yi’=Yi―Bi’×(X−Xi)、i=1〜全画素数、により計算することができる。
【0017】
この発明の記録媒体は、本発明の画素値補正プログラムを記録したコンピュータ読取り可能な記録媒体である。
【発明の効果】
【0018】
本発明の画素値補正プログラムによれば、大気影響度を土地被覆分類等の分類クラス毎に標高を加味した式により計算しているため、タセルドキャップよりも物理的に信頼性の高い画素値補正プログラム等を提供することができる。画素毎の大気影響度から地域的な大気影響度を求める際に中央値フィルタを利用しているため、ヘイズ等の非連続な大気の状況の変化を自然に把握することができ、大きい範囲で平滑化を行った場合であっても、必要な変化を捉えることができる。さらに、局所的な情報を失なわず見かけが悪くなることがなく大気状態が水平方向に変化する場合も含めた地域的な大気影響度を求めることができる。画素における大気影響度または地域的な大気影響度を基準標高における画素に対する傾きと考えたことにより、補正量を標高の一次式として簡単に求めることができる。
【0019】
この結果、近赤外バンドを含む光学センサによって取得された衛星画像データ、特に起伏の大きい地域の可視バンド衛星画像データから、局所的な情報を失なわず見かけが悪くなることがなく大気状態が水平方向に変化する場合も含めてパスラディアンスの影響を除去することができる物理的に信頼性の高い画素値補正プログラム等を提供することができるという効果がある。さらに、光学的厚さまたは反射率等の物理量を用いていないため、簡便で実用的な画素値補正プログラム等を提供することができるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
まず、本発明の、対象地域に関する可視バンドの衛星画像データの画素値を補正するための画素値補正プログラムの基盤となる理論について説明し、次に各実施例について図面を参照して詳細に説明する。
【0021】
理論の説明.
1.背景技術の非特許文献2で説明した、パスラディアンスを標高の一次関数として表すことができるという点を拡張して、当該一次関数の傾きが場所により異なるという以下の式1および2を本発明の画素値補正プログラムの基本モデルとした。これにより、大気の補正を見通しのよいものとした。標高(m)をX軸、画素値(Digital Number :DN)をY軸とし、標高Xiにおける補正前の画素値をYi、補正量をDi、傾きをBi、パラメータをA、補正された画素値をYi’とすると、
【0022】
Yi’=Yi−Di (1)
【0023】
と表すことができる。補正量Diは、
【0024】
Di=A−Bi×Xi (2)
【0025】
である。ここで、大気の影響が無視できる標高(基準標高X)での補正量を0とすれば、Aは以下のように設定できる。
【0026】
0=A−Bi×X
∴A=Bi×X
【0027】
上記パラメータAを式1に代入すると、式1は、以下の式3のようになり、パラメータはBiのみでよいことになる。
【0028】
Di=Bi×X−Bi×Xi=Bi×(X−Xi) (3)
【0029】
対象画素(Xi,Yi)の傾きBiは、基準標高Xにおける画素値Y(大気の影響がない場合の画素値)がわかれば、以下の式4から求めることができる。
【0030】
Bi=(Yi−Y)/(X−Xi) (4)
【0031】
2.基本モデルのBiを画素(Xi,Yi)毎に求めるためには、式4の計算を行うことになる。ここで、式4における画素値Yは土地被覆分類等により分類された分類クラス毎に必要である。本発明の画素値補正プログラムでは、画素値Yを求めるために、背景技術の非特許文献1で説明したように近赤外バンドで同じ分類クラスに分類された可視バンドの各画素の画素値を利用する。非特許文献1では可視バンドの各画素の平均値に各画素値を置き換えているが、平均値からの差が大気の影響度と考えることもできる。画像の半分以上がクリアな領域である場合、平均値ではなくそれらの中央値に画素値を置き換えた方が良い。画素値Yを求めるためにクリアな領域での傾きBを利用する。Bは6S(Second Simulation of the Satellite Signal in the Solar Spectrumの略で、フランスのLille科学技術大学で開発されたプログラム。)等により設定した値(バンド1で7〜8DN/km)を用いる。まず、同じ分類クラスに含まれるすべての画素(Xi,Yi)について、基準標高Xにおける仮の画素値Ypiを以下の式5を用いて計算する。
【0032】
Ypi=Yi−B×(X−Xi) (5)
【0033】
クリアな領域に含まれる画素のYpiは標高によらず一定となるため、これを大気の影響がない場合における画素値Yとみなすことができる。分類クラスの中でクリアな領域に含まれる画素が多い場合、Ypiの中央値はYとなる。クリアでない領域に含まれる画素のYpiは大きくなるため、このような画素が多い場合には、すべての画素(Xi,Yi)について計算されたYpiの中央値よりもクリアな地域について計算された中央値を使用すればよい。具体的には、クリアな地域が占める画像中の割合をW(%)とした場合、すべての画素(Xi,Yi)について計算されたYpiの度数分布の下からW/2(%)のYpiを用いて計算された中央値を使用すればよい。
【0034】
3.上述した1および2により画素毎に傾きBiを求めることができる。傾きBiは大気の影響度として採用することができる。但し、傾きBiには種々の誤差要因が含まれている。衛星画像データからは、大気の影響度には地域的な特徴があり、ある場所ではクリアであるが他の場所では薄い霧またはヘイズがかかっていることがわかる。大気の影響度はある程度の広がりで緩やかに変化すると考えられる。従って、大気の影響度としては画素単位ではなくその近傍のデータも利用した方が誤差を少なくすることができると考えられる。そこで、対象画素の周囲の画素の傾きBiを抽出してそれらの中央値を利用するという空間的な中央値フィルタを適用して、地域的な大気影響度Bi’を求める。平均値ではなく中央値を利用する理由は、クリアな領域とクリアでない領域とがはっきりと分かれている場合、中央値に比べて平均値を利用すると両領域の境界がぼけてしまうためである。この地域的な大気影響度Bi’を用いて以下の式6により補正量Diを求める。
【0035】
Di=Bi’×(X−Xi) (6)
【0036】
補正された画素値Yi’は、式1および6により、以下の式7のようになる。
【0037】
Yi’=Yi−Bi’×(X−Xi) (7)
【実施例1】
【0038】
図1は、本発明の実施例1における画素値補正プログラムの流れをフローチャートで示す。以下では図1における各処理ブロックの説明を、図2〜4の実例、図5に示される細部のフローチャート、図6に示されるグラフ、図7〜9の実例を用いて説明する。
【0039】
図1に示されるように、コンピュータに、まず、所望の対象地域(例えば岩手県大川地区)に関する近赤外バンドの衛星画像データを入力し、当該近赤外バンドの衛星画像データの各画素を所定の基準に基づき分類クラスに分類する分類ステップ(ステップS10)を実行させる。入力する近赤外バンドの衛星画像データは一般的なものであるため、説明は省略する。所定の基準としては、例えば近赤外バンドの衛星画像データの画素値(DN)が一致しているか又は所定の範囲内にある画素を同じ分類クラスに分類する基準を用いることができる。他の基準を用いてもよいことは勿論である。
【0040】
図2は、分類ステップ(ステップS10)を実行させた結果の分類データ画像を示す。図2に示される分類データ画像はカラー合成画像である。
【0041】
次に、図1に示されるように、コンピュータに、上記対象地域と同じ対象地域に関する可視バンドの衛星画像データを入力し、分類ステップ(ステップS10)で同じ分類クラスに分類された各画素に対応する可視バンドの衛星画像データの画素値を抽出する可視バンドデータ抽出ステップ(ステップS20)を実行させる。
【0042】
図3は、可視バンド分類ステップ(ステップS20)で入力する可視バンド(バンド1)の衛星画像データの一例を示す。図3の右上部Hazeで示されるように、当該部分はヘイズの影響により明るくなっている。
【0043】
続いて、図1に示されるように、コンピュータに、上記対象地域と同じ対象地域に関する数値標高モデルの座標データを入力し、分類ステップ(ステップS10)で分類された分類クラス毎に各画素の標高を抽出する数値標高データ抽出ステップ(ステップS30)を実行させる。
【0044】
図4は、画素値取得ステップ(ステップS30)で入力する数値標高モデルの座標データ画像の一例を示す。当該座標データ画像は、国土地理院の数値データ50mメッシュ(標高)からUTM座標系(Universal Transverse Mercator system)へ変換して作成したものである。
【0045】
次に、図1に示されるように、コンピュータに、上記分類クラス毎に、可視バンドデータ抽出ステップ(ステップS20)で抽出された画素値と、数値標高データ抽出ステップ(ステップS30)で抽出された標高と、所定の基準標高とに基づき画素毎に大気影響度を求める分析ステップ(ステップS40)を実行させる。
【0046】
図5は分析ステップ(ステップS40)の詳細な流れをフローチャートで示し、図6は分析ステップ(ステップS40)の詳細を説明するためのグラフを示す。以下の処理は上記分類クラス毎に実行される。図6に示される横軸を標高(m)、縦軸を画素値(DN)とするグラフを用い、各画素の標高Xi及び画素値Yiに対応する座標(Xi,Yi)に画素をプロットする(グラフ作成ステップ。ステップS41)。
【0047】
次に、クリアな領域における傾きB(画素値/標高)を設定する(傾き設定ステップ。ステップS42)。上述のように、Bは6S等の放射伝達シミュレーションにより設定した値(バンド1で7〜8DN/km)を用いればよい。
【0048】
傾き設定ステップ(ステップS42)で設定された傾きBを用い、グラフ作成ステップ(ステップS41)でプロットされたすべての画素(Xi,Yi)について、基準標高Xにおける仮の画素値Ypiを、上述の式5、
【0049】
Ypi=Yi−B×(X−Xi)、i=1〜上記分類クラスの画素数 (5)
【0050】
を用いて計算する(仮の画素値計算ステップ。ステップS43)。所定の基準標高Xとしては、上記分類クラスの画素の標高より高く1000mから1500m程度の範囲内の値とすることが好適である。図6では所定の基準標高Xとして1200mを用いているが、所定の基準標高Xは1200mに限定されるものではない。
【0051】
仮の画素値計算ステップ(ステップS43)で計算された仮の画素値Ypiの中央値を求め、当該中央値を基準標高Xにおける画素値Yとする(画素値決定ステップ。ステップS44)。図6では、画素値Yは約75(DN)となっている。
【0052】
画素値決定ステップ(ステップS44)で決定された画素値Yを用い、グラフ作成ステップ(ステップS41)でプロットされたすべての画素(Xi,Yi)について、基準標高Xにおける画素(X,Y)に対する傾きBiを、上述の式4、
【0053】
Bi=(Yi−Y)/(X−Xi)、i=1〜上記分類クラスの画素数 (4)
【0054】
を用いて計算し、当該傾きBiを画素(Xi,Yi)の大気影響度とする(ステップS45)。図6では画素(450、90)について基準標高1200mにおける画素(1200、75)に対する傾きBiが直線iにより示されている。この傾きBi、即ち750m(=1200m−450m)当たり15DN(=90DN−75DN)変わるという値が画素(450、90)における大気影響度である。図7は、上述のようにして求められた画素毎の大気影響度Biを示す画像である。
【0055】
図1に戻り、続いてコンピュータに、分析ステップ(ステップS40)で求めた各画素(Xi,Yi)の大気影響度Biに対して中央値フィルタを適用し、画素(Xi,Yi)毎に地域的な大気影響度Bi’を求めるフィルタステップ(ステップS50)を実行させる。図8は、フィルタステップ(ステップS50)の実行結果を示す画像である。図8では、フィルタステップ(ステップS50)において、各画素(Xi,Yi)の周囲600m程度以内の画素の大気影響度Biを抽出し、この大気影響度Biの中央値を用いて平滑化した結果を各画素(Xi,Yi)の地域的な大気影響度Bi’として求めている。
【0056】
最後に、コンピュータに、可視バンドデータ抽出ステップ(ステップ20)で抽出した各画素の画素値Yiと、数値標高データ抽出ステップ(ステップS30)で抽出した標高Xiと、所定の基準標高Xと、フィルタステップ(ステップ50)で求めた当該画素の地域的な大気影響度Bi’とに基づき、上述の式6、
【0057】
Di=Bi’×(X−Xi) (6)
【0058】
により補正量Diを求め、上述の式7、
【0059】
Yi’=Yi−Bi’×(X−Xi) (7)
【0060】
により各画素の画素値Yiを補正してYi’を求める補正ステップ(ステップ60)を実行させる。ここで、i=1〜全画素数である。図9は、上述した補正ステップ(ステップS60)を実行した結果を示す画像である。
【0061】
以上より、本発明の実施例1によれば、コンピュータに、まず、所望の対象地域に関する近赤外バンドの衛星画像データを入力し、当該近赤外バンドの衛星画像データの各画素を所定の基準に基づき分類クラスに分類する分類ステップを実行させる。次に、上記対象地域と同じ対象地域に関する可視バンドの衛星画像データを入力し、分類ステップ(ステップS10)で同じ分類クラスに分類された各画素に対応する可視バンドの衛星画像データの画素値を抽出する可視バンドデータ抽出ステップ(ステップS20)を実行させる。続いて、上記対象地域と同じ対象地域に関する数値標高モデルの座標データを入力し、上記分類クラス毎に、各画素の標高Xiを抽出する数値標高データ抽出ステップ(ステップS30)を実行させる。上記分類クラス毎に、可視バンドデータ抽出ステップ(ステップS30)で抽出された画素値と、数値標高データ抽出ステップ(ステップS30)で抽出された標高と、所定の基準標高とに基づき画素毎に大気影響度を求める分析ステップ(ステップS40)を実行させる。分析ステップ(ステップS40)で求めた各画素(Xi,Yi)の大気影響度Biに対して中央値フィルタを適用し、画素(Xi,Yi)毎に地域的な大気影響度Bi’を求めるフィルタステップ(ステップS50)を実行させる。可視バンドデータ抽出ステップ(ステップS20)で抽出した各画素の画素値Yiと、数値標高データ抽出ステップ(ステップS30)で抽出した標高と、所定の基準標高Xと、フィルタステップ(ステップ50)で求めた当該画素の地域的な大気影響度Bi’とに基づき、上述の式6により補正量Diを求め、上述の式7により各がその画素値Yiを補正してYi’を求める補正ステップ(ステップS60)を実行させる。
【0062】
本発明の画素値補正プログラムでは、大気影響度Biを土地被覆分類等の分類クラス毎に標高Xiを加味した式4により計算しているため、タセルドキャップよりも物理的に信頼性の高い画素値補正プログラム等を提供することができる。本発明の画素値補正プログラムでは、画素毎の大気影響度Biから地域的な大気影響度Bi’を求める際に中央値フィルタを利用しているため、ヘイズ等の非連続な大気の状況の変化を自然に把握することができ、大きい範囲で平滑化を行った場合であっても、必要な変化を捉えることができる。さらに、局所的な情報を失なわず見かけが悪くなることがなく大気状態が水平方向に変化する場合も含めた地域的な大気影響度Bi’を求めることができる。本発明の画素値補正プログラムでは、画素(Xi,Yi)における大気影響度Biまたは地域的な大気影響度Bi’を基準標高Xにおける画素(X,Y)に対する傾きBiと考えたことにより、補正量Diを標高Xiの一次式として簡単に求めることができる。以上より、近赤外バンドを含む光学センサによって取得された衛星画像データ、特に起伏の大きい地域の可視バンド衛星画像データから、局所的な情報を失なわず見かけが悪くなることがなく大気状態が水平方向に変化する場合も含めてパスラディアンスの影響を除去することができる物理的に信頼性の高い画素値補正プログラム等を提供することができる。さらに、光学的厚さまたは反射率等の物理量を用いていないため、簡便で実用的な画素値補正プログラム等を提供することができる。
【実施例2】
【0063】
図10は、上述した実施例1を実現するための本発明のコンピュータ・プログラム(画素値補正プログラム)を実行するコンピュータの内部回路10を示すブロック図である。図10に示されるように、CPU11、ROM12、RAM13、画像制御部14、コントローラ18、入力制御部20および外部インタフェース(I/F)部21はバス22に接続されている。図10において、上述の本発明の画素値補正プログラムは、ROM12、HDD17aまたはDVD17n(あるいはCD−ROM)等の記録媒体(脱着可能な記録媒体を含む)に記録されている。HDD17aまたはDVD17n等には入力した近赤外バンドの衛星画像データ、可視バンドの衛星画像データ、数値標高モデルの座標データ等が記録されている。本発明の画素値補正プログラムは、ROM12からバス22を介し、あるいはHDD17aまたはDVD17n等の記録媒体からコントローラ18を経由してバス22を介しRAM13へロードされる。入力制御部20はマウス、テンキー等の入力操作部19と接続され入力制御等を行う。画像メモリであるVRAM15は、分類データ画像、画素毎の大気影響度Biを示す画像、フィルタステップ(ステップS50)の実行結果を示す画像、補正ステップ(ステップS60)を実行した結果を示す画像等を表示するディスプレイ等の表示部16の少なくとも一画面分のデータ容量に相当する容量を有しており、画像制御部16はVRAM15のデータを画像データへ変換して表示部16へ送出する機能を有している。外部I/F部21は、近赤外バンドの衛星画像データ、可視バンドの衛星画像データ、数値標高モデルの座標データ等を入力する際におけるインタフェース機能を有する。
【0064】
上述のようにCPU11が上述の本発明の画素値補正プログラムを実行することにより、本発明の目的を達成することができる。当該画素値補正プログラムは上述のようにHDD17aまたはDVD17n等の記録媒体の形態でコンピュータCPU11に供給することができ、当該画素値補正プログラムを記録したHDD17aまたはDVD17n等の記録媒体も同様に本発明を構成することになる。当該画素値補正プログラムを記録した記録媒体としては上述された記録媒体の他に、例えばメモリ・カード、メモリ・スティック等を用いることができる。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明の活用例として、ランドサットTMセンサにより取得された衛星画像データの画素値の補正に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明の実施例1における補正プログラムの流れを示すフローチャートである。
【図2】分類ステップ(ステップS10)を実行させた結果の分類データ画像を示す図である。
【図3】可視バンド分類ステップ(ステップS20)で入力する可視バンド(バンド1)の衛星画像データの一例を示す図である。
【図4】分析ステップ(ステップS40)で入力する数値標高モデルの座標データ画像の一例を示す図である。
【図5】分析ステップ(ステップS40)の詳細な流れを示すフローチャートである。
【図6】分析ステップ(ステップS40)の詳細を説明するためのグラフである。
【図7】分析ステップ(ステップS40)で求められた画素毎の大気影響度Biを示す画像である。
【図8】フィルタステップ(ステップS50)の実行結果を示す画像である。
【図9】補正ステップ(ステップS60)を実行した結果を示す画像である。
【図10】本発明の実施例を実現するための本発明の画素値補正プログラムを実行するコンピュータの内部回路10を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0067】
Bi、B 傾き、 Haze ヘイズによる影響がある領域、 X 基準標高、 Y 基準標高における画素値、 10 内部回路、 11 CPU、 12 ROM、 13 RAM、 14 画像制御部、 15 VRAM、 16 表示部、 17a HDD、 17n DVD、 18 コントローラ、 19 入力操作部、 20 入力制御部、 21 外部I/F部、 22 バス。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象地域に関する可視バンドの衛星画像データの画素値を補正するための画素値補正プログラムであって、コンピュータに、
前記対象地域に関する近赤外バンドの衛星画像データを入力し、該近赤外バンドの衛星画像データの各画素を所定の基準に基づき分類クラスに分類する分類ステップ、
前記対象地域に関する可視バンドの衛星画像データを入力し、前記分類ステップで同じ分類クラスに分類された各画素に対応する可視バンドの衛星画像データの画素値を抽出する可視バンドデータ抽出ステップ、
前記対象地域に関する数値標高モデルの座標データを入力し、前記分類クラス毎に各画素の標高を抽出する数値標高データ抽出ステップ、
前記分類クラス毎に、前記可視バンドデータ抽出ステップで抽出された画素値、前記数値標高データ抽出ステップで抽出された標高及び所定の基準標高に基づき画素毎に大気影響度を求める分析ステップ、
前記分析ステップで求めた各画素の大気影響度に対して中央値フィルタを適用し、該画素毎に地域的な大気影響度を求めるフィルタステップ、
前記可視バンドデータ抽出ステップで抽出した各画素の画素値と、前記数値標高データ抽出ステップで抽出した標高と、前記所定の基準標高と、前記フィルタステップで求めた該画素の地域的な大気影響度とに基づき、各画素の画素値を補正する補正ステップを実行させるための画素値補正プログラム。
【請求項2】
請求項1記載の画素値補正プログラムにおいて、前記所定の基準は、近赤外バンドの衛星画像データの画素値が一致しているか又は所定の範囲内にある画素を同じ分類クラスに分類する基準であることを特徴とする画素値補正プログラム。
【請求項3】
請求項1又は2記載の画素値補正プログラムにおいて、前記所定の基準標高は前記分類クラスの画素の標高より高く1000mから1500m程度の範囲内の値であることを特徴とする画素値補正プログラム。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかに記載の画素値補正プログラムにおいて、前記分析ステップは、前記分類クラス毎に、
横軸を標高、縦軸を画素値とするグラフを用い各画素の標高Xi及び画素値Yiに対応する座標(Xi,Yi)に画素をプロットするグラフ作成ステップと、
クリアな領域における傾きB(画素値/標高)を設定する傾き設定ステップと、
前記傾き設定ステップで設定された傾きBを用い、前記グラフ作成ステップでプロットされたすべての画素(Xi,Yi)について、基準標高Xにおける仮の画素値Ypiを、Ypi=Yi−B×(X−Xi)、i=1〜前記分類クラスの画素数、を用いて計算する仮の画素値計算ステップと、
前記仮の画素値計算ステップで計算された仮の画素値Ypiの中央値を求め該中央値を基準標高Xにおける画素値Yとする画素値決定ステップと、
前記画素値決定ステップで決定された画素値Yを用い、前記グラフ作成ステップでプロットされたすべての画素(Xi,Yi)について、基準標高における画素(X,Y)に対する傾きBiを、Bi=(Yi−Y)/(X−Xi)、i=1〜前記分類クラスの画素数、を用いて計算し該傾きBiを画素(Xi,Yi)の大気影響度とするステップとを備えたことを特徴とする画素値補正プログラム。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかに記載の画素値補正プログラムにおいて、前記フィルタステップは、各画素の周囲600m程度以内の画素の大気影響度を抽出し、該大気影響度の中央値を用いて平滑化した結果を各画素の地域的な大気影響度として求めることを特徴とする画素値補正プログラム。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれかに記載の画素値補正プログラムにおいて、前記補正ステップは、各画素の標高Xi、画素値Yi、基準標高X及び地域的な大気影響度Bi’を用いて補正後の画素値Yi’を、Yi’=Yi―Bi’×(X−Xi)、i=1〜全画素数、により計算することを特徴とする画素値補正プログラム。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれかに記載の画素値補正プログラムを記録したコンピュータ読取り可能な記録媒体。

【図1】
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【図5】
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【図10】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−172590(P2007−172590A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−309009(P2006−309009)
【出願日】平成18年11月15日(2006.11.15)
【出願人】(504229284)国立大学法人弘前大学 (162)
【出願人】(591146239)いであ株式会社 (11)
【Fターム(参考)】