説明

界面活性剤混合物及び洗浄剤組成物

【課題】皮膚に対して低刺激性であり、さらに高希釈領域での泡量に優れ、かつ泡のきめの細かい洗浄剤組成物を提供すること。
【解決手段】下記一般式(I)で表されるモノアルキルリン酸エステル塩の混合物であって、一般式(I)におけるRの炭素数が8〜10であるエステル塩の含有量が0〜10質量%、Rの炭素数が12であるエステル塩の含有量が50〜80質量%、Rの炭素数が14であるエステル塩の含有量が5〜20質量%、Rの炭素数が16であるエステル塩の含有量が5〜15質量%、及びRの炭素数が18であるエステル塩の含有量が0〜8質量%である界面活性剤混合物及び該界面活性剤混合物を含有する洗浄剤組成物。


(式中、Rは炭素数8〜18の直鎖のアルキル基又はアルケニル基を示し、X及びYはそれぞれ水素原子、アルカリ金属、アンモニウム又はアルカノールアンモニウムを示し、XとYは同時に水素原子であることはない。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モノアルキルリン酸エステル塩からなる新規な界面活性剤混合物及びこれを主成分として含む洗浄剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
洗浄剤の界面活性剤としては、アルキル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキル硫酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルファオレフィンスルホン酸塩等のアニオン性界面活性剤が広く用いられていたが、このような界面活性剤は皮膚に対し皮膚荒れを起こすことがあるとされている。これに対して、炭素数10〜16のアルキル基を有するモノアルキルリン酸エステル塩とジアルキルリン酸エステル塩との混合物を含有する低刺激性洗浄剤組成物が提案された(特許文献1参照)。
【0003】
また、ラウリルリン酸エステル塩等の起泡性の高いアルキルリン酸エステル塩にパルミチルリン酸エステル塩あるいはステアリルリン酸エステル塩等の起泡性の低いアルキルリン酸エステル塩を特定の比率で配合することにより、泡状エアゾール型の皮膚洗浄剤として起泡性・安定性に優れたものが提案されている(特許文献2参照)。
【0004】
【特許文献1】特開昭53−26806号公報
【特許文献2】特開平1−221482号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、従来提案されているアルキルリン酸エステル塩を配合した洗浄剤組成物に対して、これらと同様に皮膚に対して低刺激性であり、さらに高希釈領域での泡量に優れ、かつ泡のきめの細かい洗浄剤組成物の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、アルキル又はアルケニル鎖長の分布をある範囲に制御した新規なモノアルキルリン酸エステル塩の混合物が界面活性剤として高い能力を有し、この界面活性剤混合物を含有する洗浄剤組成物を用いることで、上記目的を達成し得ることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、下記一般式(I)で表されるモノアルキルリン酸エステル塩の混合物であって、一般式(I)におけるRの炭素数が8〜10であるエステル塩の含有量が0〜10質量%、Rの炭素数が12であるエステル塩の含有量が50〜80質量%、Rの炭素数が14であるエステル塩の含有量が5〜20質量%、Rの炭素数が16であるエステル塩の含有量が5〜15質量%、及びRの炭素数が18であるエステル塩の含有量が0〜8質量%である界面活性剤混合物、及び該界面活性剤混合物を含有する洗浄剤組成物を提供するものである。
【0007】
【化1】

【0008】
(式中、Rは炭素数8〜18の直鎖のアルキル基又はアルケニル基を示し、X及びYはそれぞれ水素原子、アルカリ金属、アンモニウム又はアルカノールアンモニウムを示し、XとYは同時に水素原子であることはない。)
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、皮膚を荒らさず、良好な洗浄力を有し、泡立ちがよく、しかも高希釈領域での泡量に優れ、かつ泡のきめの細かい洗浄剤組成物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明に係るモノアルキルリン酸エステル塩の混合物は、上記一般式(I)で表され、Rが炭素数8〜18の直鎖のアルキル基又は直鎖のアルケニル基であるモノアルキルリン酸エステル塩(以下、単に「エステル塩」ということがある。)の混合物である。そして、本発明においては、Rの炭素数が8〜10であるエステル塩の含有量が該混合物中に0〜10質量%の範囲で含有される。同様にRの炭素数が12であるエステル塩の含有量が50〜80質量%、Rの炭素数が14であるエステル塩の含有量が5〜20質量%、Rの炭素数が16であるエステル塩の含有量が5〜15質量%、及びRの炭素数が18であるエステル塩の含有量が0〜8質量%である。
【0011】
このエステル塩の混合物(界面活性剤混合物)を洗浄剤組成物として使用した場合、高希釈領域での泡量に優れ、かつ泡のきめの細かい洗浄剤組成物を得る観点から、さらに、Rの炭素数が8〜10であるエステル塩の含有量が5〜10質量%、Rの炭素数が12であるエステル塩の含有量が60〜80質量%、Rの炭素数が14であるエステル塩の含有量が10〜20質量%、Rの炭素数が16であるエステル塩の含有量が5〜10質量%、及びRの炭素数が18であるエステル塩の含有量が5〜8質量%であることが好ましい。
このようにモノアルキルリン酸エステル塩のアルキル又はアルケニル鎖長の分布を制御したエステル塩の混合物を、洗浄基剤となる界面活性剤として用いることで、皮膚に対して低刺激性であり、さらに高希釈領域での泡量に優れ、かつ泡のきめの細かい洗浄剤組成物が得られる。
【0012】
また、上記Rは泡のきめ細かさの点から、直鎖アルキル基であることが好ましい。
【0013】
上記一般式(I)で表されるモノアルキルリン酸エステル塩において、X及びYはそれぞれ水素原子、アルカリ金属、アンモニウム又はアルカノールアンモニウムを示し、XとYは同時に水素原子であることはない。
アルカリ金属としては、ナトリウム、カリウム等が挙げられるが、水への溶解性の点から、カリウムが好ましい。アルカノールアンモニウムとしては、例えば、炭素数2又は3のアルカノールアミンのアンモニウムイオンが挙げられる。中でも、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モノ−n−プロパノールアミン、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール等のアルカノールアミンのアンモニウムイオンが好ましい。
【0014】
本発明のモノアルキルリン酸エステル塩の製造方法に関しては、当該モノアルキルリン酸エステル塩の混合物と同じ炭素数の分布を持つ脂肪族アルコールの混合物に、無水リン酸又はオキシ塩化リン等のリン酸化剤を作用させ、中和剤で中和させる方法により得ることができる。
または、炭素数が8〜18である純度の高い個々の脂肪族アルコールにそれぞれ無水リン酸又はオキシ塩化リン等のリン酸化剤を作用させ、次いで中和剤で中和させて各鎖長のモノアルキルリン酸エステル塩を調製しておき、これらを上記範囲となるように混合することにより得られる。
【0015】
上記方法によりモノアルキルリン酸エステル塩を調製するに際し、副生するジアルキルリン酸エステル塩が多すぎると、水溶性、起泡性などの点で性能を損なう場合があるため、モノアルキルリン酸エステル塩とジアルキルリン酸エステル塩の混合比(質量比)は、100:0〜90:10の範囲であることが好ましく、さらには100:0〜97:3の範囲が好ましく、特には実質的にモノアルキルリン酸エステル塩のみで構成されることが好ましい。
【0016】
次に、本発明の洗浄剤組成物は、上記モノアルキルリン酸エステル塩の混合物を含有するものである。本発明の洗浄剤組成物における、上記モノアルキルリン酸エステル塩の混合物の含有量は、該界面活性剤混合物の特性を最も有効に発揮させる上で、5〜35質量%であるのが好ましい。
【0017】
本発明の洗浄剤組成物は、イオン交換水で5質量%濃度に希釈した時の25℃でのpHが5.0〜6.5の弱酸性であることが好ましい。pHをこの範囲に制御することで、より一層、皮膚への刺激性を低く抑えることができる。
洗浄剤組成物のpHは、酸又は塩基により上記範囲に調整することができる。酸としては、例えばクエン酸、コハク酸、乳酸、リンゴ酸、グルタミン酸、アスパラギン酸、ピロリドンカルボン酸、酒石酸、グリコール酸、アスコルビン酸等の有機酸;塩酸、硫酸、リン酸等の無機酸が挙げられ、特に汎用性及び経済性の点で、リン酸、リンゴ酸が好ましい。また、塩基としては水酸化ナトリウム、水酸化カリウムが好ましい。
さらには、上記一般式(I)で表されるモノアルキルリン酸エステル塩を得る過程で、反応生成物である酸型の混合物を、中和せずに配合原料として用い、洗浄剤組成物とする際に中和を行って、組成物のpHを上記範囲に調整することもできる。
【0018】
本発明の洗浄剤組成物には、必要に応じて、通常の洗浄剤に用いられる他の界面活性剤を配合することもできる。具体的には、アルキル硫酸塩、アルキルエーテル硫酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、α−オレフィンスルホン酸塩、アルカンスルホン酸塩、α−スルホ脂肪酸エステル塩、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルカルボン酸塩、アシル化アミノ酸塩、脂肪酸石鹸等の陰イオン界面活性剤;ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、アルキルグルコシド、脂肪酸モノ又はジアルカノールアミド、ポリオキシアルキレン型ブロックポリマー、グリセリン脂肪酸エステル、アルキルグリセリルエーテル等の非イオン界面活性剤;第4級アンモニウム塩等の陽イオン界面活性剤を配合することができる。また、両性界面活性剤を配合することもでき、カルボベタイン系、スルホベタイン系、イミダゾリニウムベタイン系、ヒドロキシベタイン系、脂肪酸アミドベタイン系等が挙げられる。
【0019】
本発明の洗浄剤組成物には、さらに必要に応じて、通常洗浄剤に添加される各種成分を配合することができる。
具体的には、感触向上を目的として、ポリアクリル酸を主鎖とし、架橋基としてアリルショ糖構造やペンタエリスリトール構造等を含むカルボキシビニルポリマー、アクリル酸・メタクリル酸アルキル(C10−C30)共重合体などのカルボキシル基を有する増粘性高分子を用いることができる。
【0020】
更に、プロピレングリコール、グリセリン、ソルビトール等の保湿剤;メチルセルロース、ポリオキシエチレングリコールジステアレート等の粘度調整剤;トリクロサン、トリクロロカルバン等の殺菌剤;グリチルリチン酸カリウム、酢酸トコフェロール等の抗炎症剤;ジンクピリチオン、オクトピロックス等の抗フケ剤;メチルパラベン、ブチルパラベン等の防腐剤;その他パール化剤、香料、色素、紫外線吸収剤、酸化防止剤等を適宜配合することができる。
これら各種成分の洗浄剤組成物中への配合量は通常、各々0.1〜5質量%程度である。
【0021】
本発明の洗浄剤組成物は、その形態は特に限定されず、シャンプー、ボディーシャンプー、洗顔料等の液体洗浄剤;食器洗い用の液体洗浄剤;化粧石鹸等の固形洗浄剤;洗顔料、歯磨き剤等のペースト状洗浄剤として好適に使用できる。これらは常法に従って製造することができる。液体洗浄剤の場合は、液体媒体として水を用いるのが好ましく、水の含有量は全組成物中に50〜90質量%であることが好ましい。
【実施例】
【0022】
以下、実施例により、本発明を具体的に説明する。評価は以下の方法により行った。
(評価方法)
(1)起泡性能;50mLの活栓つきの目盛り付きガラス円筒管に、サンプル水溶液15mLを加えて栓をし、シェーカーで30秒間振とうし、振とう直後の泡量を読み取った。サンプル水溶液は、各実施例及び比較例にて調製した洗浄剤組成物を精製水で10倍、40倍、及び100倍にそれぞれ希釈し、希釈後すぐに測定した。
【0023】
(2)泡の持続性;上記方法にて起泡させたサンプル(40倍希釈)について、24時間放置後の泡量を測定した。
【0024】
(3)泡質;パネラー10名が、各サンプル水溶液1.0gを片方の手に取り、水道水を用いて希釈し、両手を水洗する手洗い試験を行った。パネラー10名のうち「クリーミーな泡」と判定した人数を表に示した。
【0025】
実施例1
Rが第1表に示される炭素数分布となるように原料アルコールを準備し、それらの混合物に対して無水リン酸を作用させ、リン酸化した。次いで中和剤として水酸化カリウムを用いて中和させ、モノアルキルリン酸エステル塩を調製した(以下「MAP混合物」と記載する)。このときのpHは5.8〜6.2であった。このようにして調製したMAP混合物を水と混合し、MAP混合物の濃度が15質量%の洗浄剤組成物を得た。上記方法にて評価した結果を第1表に示す。
【0026】
実施例2及び3、比較例1〜8
前記式(I)で表されるMAPにおいて、Rが第1表に示される炭素数のアルキル基を有するMAPの混合物であること以外は実施例1と同様にして、MAP混合物の濃度が15質量%である洗浄剤組成物を得た。なお、比較例8は、Rの炭素数分布が天然のヤシ油から誘導される脂肪アルコールの鎖長分布に相当する。実施例1と同様にして評価した結果を第1表に示す。
【0027】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明の洗浄剤組成物は、皮膚を荒らさず、良好な洗浄力を有し、泡立ちがよく、しかも高希釈領域での泡量に優れ、かつ泡のきめが細かい。従って、身体洗浄用の固形石けんやボディーソープ、シャンプー、洗顔料、食器洗い用洗剤、歯磨き剤などとして有用であるが、特に、直接皮膚と洗浄剤とが長時間接触する洗浄剤用としてきわめて有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)で表されるモノアルキルリン酸エステル塩の混合物であって、一般式(I)におけるRの炭素数が8〜10であるエステル塩の含有量が0〜10質量%、Rの炭素数が12であるエステル塩の含有量が50〜80質量%、Rの炭素数が14であるエステル塩の含有量が5〜20質量%、Rの炭素数が16であるエステル塩の含有量が5〜15質量%、及びRの炭素数が18であるエステル塩の含有量が0〜8質量%である界面活性剤混合物。
【化1】

(式中、Rは炭素数8〜18の直鎖のアルキル基又はアルケニル基を示し、X及びYはそれぞれ水素原子、アルカリ金属、アンモニウム又はアルカノールアンモニウムを示し、XとYは同時に水素原子であることはない。)
【請求項2】
Rの炭素数が12であるモノアルキルリン酸エステル塩の含有量が60〜80質量%である請求項1に記載の界面活性剤混合物。
【請求項3】
下記一般式(I)で表されるモノアルキルリン酸エステル塩の混合物であって、一般式(I)におけるRの炭素数が8〜10であるエステル塩の含有量が0〜10質量%、Rの炭素数が12であるエステル塩の含有量が50〜80質量%、Rの炭素数が14であるエステル塩の含有量が5〜20質量%、Rの炭素数が16であるエステル塩の含有量が5〜15質量%、及びRの炭素数が18であるエステル塩の含有量が0〜8質量%であるモノアルキルリン酸エステル塩の混合物を含有する洗浄剤組成物。
【化2】

(式中、Rは炭素数8〜18の直鎖のアルキル基又はアルケニル基を示し、X及びYはそれぞれ水素原子、アルカリ金属、アンモニウム又はアルカノールアンモニウムを示し、XとYは同時に水素原子であることはない。)
【請求項4】
Rの炭素数が12であるモノアルキルリン酸エステル塩の含有量が60〜80質量%である請求項3に記載の洗浄剤組成物。
【請求項5】
前記モノアルキルリン酸エステル塩の混合物の含有量が5〜35質量%である請求項3又は4に記載の洗浄剤組成物。

【公開番号】特開2008−19179(P2008−19179A)
【公開日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−190221(P2006−190221)
【出願日】平成18年7月11日(2006.7.11)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】