説明

界面活性剤濃度制御装置及びこれを備えた熱搬送システム

【課題】 熱搬送媒体として用いる界面活性剤溶液の濃度を比較的簡単に検出し、界面活性剤溶液の濃度を所定濃度に維持することができる界面活性剤濃度制御装置を提供すること。
【解決手段】 熱供給側システム2と熱利用側システム4との間を循環する界面活性剤溶液を用いて熱を搬送する熱搬送システムにおける界面活性剤溶液の濃度を制御する界面活性剤濃度制御装置。この界面活性剤濃度制御手段は、界面活性剤を供給するための界面活性剤供給手段12と、界面活性剤供給手段12から供給される界面活性剤の供給量を制御するための制御手段14と、循環される界面活性剤溶液の屈折率を検出するための屈折率検出手段20と、を備え、制御手段14は、屈折率検出手段20からの検出信号に基づいて、界面活性剤供給手段12から界面活性剤溶液に供給される界面活性剤の供給量を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱搬送システムの熱搬送媒体として用いる界面活性剤溶液の濃度を制御する界面活性剤濃度制御装置及びこれを備えた熱搬送システムに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、地域冷暖房システムにおいては、熱供給側システムと熱利用側システム(例えば、ビルの冷暖房装置)とが供給側流路及び戻り側流路を介して接続され、熱を搬送する熱搬送媒体としての例えば水が、供給側流路及び戻り側流路を通して熱供給側システムと熱利用側システムとの間を循環される。このような地域冷暖房システムにおける供給側流路及び戻り側流路を規定する配管の長さは数km以上になり、その水搬送動力はかなり大きく、この水を搬送するために費やすコストは、地域冷暖房システムのランニングコストの約30〜50%であるとも言われている。
【0003】
この水搬送動力を低減させる有効な方法として、粘弾性を示す界面活性剤水溶液を熱搬送媒体として用い、配管との間の流動摩擦抵抗を低減させる方法が提案されている(例えば、特許文献1、特許文献2、特許文献3及び特許文献4)。この方法では、配管を通して循環する水に特定の陽イオン性界面活性剤とサリチル酸塩との双方がそれぞれ数10〜数1000ppmずつ溶解され、このように溶解させた界面活性剤水溶液では、界面活性剤が水中で、疎水基部を中心に親水基部を外周部に配置してミセルを形成し、そのミセルが棒状の形態をなして高次に絡まって粘弾性を示し、このことに起因して界面活性剤水溶液の流動摩擦抵抗が低減すると言われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公平3−76360号公報
【特許文献2】特公平4−6231号公報
【特許文献3】特公平5−47534号公報
【特許文献4】特開平8−311431号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような効果を示す界面活性剤水溶液の濃度には特定の範囲があることが知られており、摩擦低減効果を得るためには、配管内の界面活性剤水溶液の濃度を常に所望の効果が得られる所定範囲内に保つ必要がある。
【0006】
しかしながら、長期間熱搬送システムを運転すると、動力ポンプのシール部分からの漏れなどの原因により、熱搬送媒体である界面活性剤水溶液の量が減少し、この減少量を補うために、減少した量だけ例えば膨張タンクから水が補給するようになる。このように水を補給すると、界面活性剤水溶液中の界面活性剤の濃度が下がり、界面活性剤による摩擦低減効果が低下する。この時、界面活性剤水溶液を搬送するポンプ動力が一定であると、界面活性剤による摩擦低減効果の低下により、圧力損失が増大するようになり、その結果、配管内を流れる界面活性剤水溶液の流量が減少する。このように流量が低下すると、熱利用側システムでの熱量が不足し、この熱量不足を解消するためには、動力ポンプの動力を増加しなければならず、熱搬送システムの省エネルギー運転が難しくなる。
【0007】
そこで、常に摩擦低減効果を維持しながら熱搬送システムを省エネルギー運転するためには、界面活性剤水溶液の濃度を一定に維持する(換言すると、界面活性剤水溶液の濃度が低下する度に界面活性剤を添加する)ようにすればよいが、従来、界面活性剤水溶液の濃度を簡単に且つ正確に検出することができず、このことに起因して、界面活性剤を添加して所定の濃度にするのに手間がかかり、熱搬送システムの運転効率が悪くなる問題があった。
【0008】
本発明の目的は、熱搬送媒体として用いる界面活性剤溶液の濃度を比較的簡単に検出し、界面活性剤溶液の濃度を所定濃度に維持することができる界面活性剤濃度制御装置を提供することである。
【0009】
また、本発明の他の目的は、熱搬送媒体の流動摩擦抵抗を低減してその搬送動力を小さくすることができる熱搬送システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は、界面活性剤溶液中の界面活性剤の濃度が屈折率と密接な関係にあることに注目し、この界面活性剤の濃度と屈折率との関係を利用して、界面活性剤溶液の屈折率を所定範囲に保つように界面活性剤の供給を制御することによって、その濃度を所定範囲に維持することができ、上記目的が達成されることを見出した。
【0011】
本発明の請求項1に記載の界面活性剤濃度制御装置は、熱供給側システムと熱利用側システムとの間を循環する界面活性剤溶液を用いて熱を搬送する熱搬送システムにおける界面活性剤溶液の濃度を制御する界面活性剤濃度制御装置であって、
界面活性剤を供給するための界面活性剤供給手段と、前記界面活性剤供給手段から供給される界面活性剤の供給量を制御するための制御手段と、循環される界面活性剤溶液の屈折率を検出するための屈折率検出手段と、を備え、
前記制御手段は、前記屈折率検出手段からの検出信号に基づいて、前記界面活性剤供給手段から界面活性剤溶液に供給される界面活性剤の供給量を制御することを特徴とする。
【0012】
また、本発明の請求項2に記載の界面活性剤濃度制御装置では、前記熱供給側システムと前記熱利用側システムとの間には、前記熱供給側システムからの界面活性剤溶液を前記熱利用側システムに供給する供給側流路と、前記熱利用側システムからの界面活性剤溶液を前記熱供給側システムに戻す戻り側流路が設けられており、前記界面活性剤供給手段は前記供給側流路及び前記戻り側流路のいずれか一方に接続され、前記屈折率検出手段はそれらの他方に配設されていることを特徴とする。
【0013】
また、本発明の請求項3に記載の界面活性剤濃度制御装置では、前記供給側流路及び前記戻り側流路の前記他方には、その一部をバイパスしてバイパス検出流路が設けられ、前記バイパス検出流路に溶液溜め部が設けられ、前記屈折率検出手段は前記溶液溜め部を流れる界面活性剤溶液の屈折率を検出することを特徴とする。
【0014】
更に、本発明の請求項4に記載の熱搬送システムは、請求項1〜3のいずれかに記載の界面活性剤濃度制御装置を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明の請求項1に記載の界面活性剤濃度制御装置によれば、屈折率検出手段は界面活性剤溶液の屈折率を検出し、制御手段はこの屈折率検出手段からの検出信号に基づいて、界面活性剤供給手段から界面活性剤溶液に供給される界面活性剤供給量を制御するので、溶液中の界面活性剤の濃度を所定範囲に維持することができる。その結果、熱搬送システムにおいて熱供給側システムと熱利用側システムとの間を循環する界面活性剤溶液の摩擦抵抗が低減され、熱搬送システムの省エネルギー化が達成される。特に、界面活性剤溶液の屈折率を利用して溶液中の界面活性剤の濃度を検出するので、溶液中のイオンなどの影響を受けずに濃度を検出することができ、例えば水道水に界面活性剤を溶解させた界面活性剤溶液を用いたときにも比較的簡単に且つ正確に界面活性剤の濃度を検出することができる。
【0016】
また、本発明の請求項2に記載の界面活性剤濃度制御装置によれば、界面活性剤供給手段が熱搬送システムの供給側流路(又は戻り側流路)に接続され、屈折率検出手段が熱搬送システムの戻り側流路(又は供給側流路)に配設されているので、界面活性剤の補給箇所と屈折率の検出箇所とが離れており、従って、補給された界面活性剤が溶液中に充分に混合された後に屈折率を検出するようになり、界面活性剤溶液の屈折率(換言すると、界面活性剤の濃度)をより正確に検出することができる。
【0017】
また、本発明の請求項3に記載の界面活性剤濃度制御装置によれば、熱搬送システムの戻り側流路(又は供給側流路)に、溶液溜め部を有するバイパス流路が設けられているので、この溶液溜め部における界面活性剤溶液の流速は遅くなる。そして、屈折率検出手段はこの溶液溜め部の界面活性剤溶液の屈折率を検知するので、流速の影響を少なくしてその屈折率を正確に検出することができる。
【0018】
更に、本発明の請求項4に記載の熱搬送システムによれば、上述した界面活性剤濃度制御装置を備えているので、この界面活性剤濃度制御装置によって界面活性剤溶液の濃度を所定範囲に維持することができ、熱搬送システムにおいて熱供給側システムと熱利用側システムとの間を循環する界面活性剤溶液の摩擦抵抗が低減され、省エネルギー化した熱搬送システムが実現可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明に従う熱搬送システムの一実施形態を簡略的に示すブロック図。
【図2】図1の熱搬送システムに装備された界面活性剤濃度制御装置を簡略的に示す簡略図。
【図3】図2の界面活性剤濃度制御装置における屈折率センサの検出原理を説明するための説明図。
【図4】界面活性剤溶液に溶解された界面活性剤の濃度と屈折率の関係を示す図。
【図5】実施例におけるポンプ動力削減率と界面活性剤の濃度及び屈折率との関係を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、添付図面を参照して、本発明に従う界面活性剤濃度制御装置及びこれを備えた熱搬送システムについて説明する。図1は、本発明に従う熱搬送システムの一実施形態を簡略的に示すブロック図であり、図2は、熱搬送システムに装備された界面活性剤濃度制御装置を示す簡略図であり、図3は、界面活性剤濃度制御装置の屈折率センサの検出原理を説明するための説明図である。
【0021】
図1において、図示の熱搬送システムは、熱供給側システム2と、熱利用側システム4と、これらの間に設けられる供給側流路6及び戻り側流路8とを備え、例えば供給側流路6に送給ポンプ10が配設され、この送給ポンプ10の作用によって、供給側流路6及び戻り側流路8を通して熱搬送媒体が循環される。
【0022】
熱供給側システム2は、例えば暖房用に用いるときには熱搬送媒体を加熱するボイラなどであり、また例えば冷房用に用いるときには熱搬送媒体を冷却するガス吸収冷凍機などであり、また熱利用側システム4はビルの空調装置などである。このような熱搬送システムでは、供給側流路6及び戻り側流路8は、各種形状の配管から構成される。
【0023】
この形態の熱搬送システムでは、熱搬送媒体として界面活性剤溶液、例えば水(水道水など)に界面活性剤を溶解させた界面活性剤水溶液が用いられる。一般的に、界面活性剤水溶液中の界面活性剤濃度によって、配管との間の摩擦抵抗が大きく変わり、界面活性剤による摩擦低減効果が大きく変わることが知られている。例えば、漏れなどにより界面活性剤水溶液中の界面活性剤の濃度が低下すると、その摩擦低減効果も減少し、配管内を流れる界面活性剤水溶液の圧力損失が増大する。
【0024】
界面活性剤水溶液濃度の変動に伴う摩擦低減効果の低下を防止するために、この熱搬送システムでは、界面活性剤濃度制御装置10が設けられている。図示の界面活性剤濃度制御装置10は、界面活性剤を供給するための界面活性剤供給手段12と、この界面活性剤供給手段12から供給される界面活性剤の供給量を制御するための制御手段14とを備え、界面活性剤供給手段12は、例えば補給する界面活性剤を貯めるタンク16と、このタンク16の排出口を開閉制御する供給制御弁18から構成される。この形態では、界面活性剤供給手段12は供給側流路6に接続され、供給制御弁18が開放されると、タンク16内の界面活性剤(又は濃い濃度の界面活性剤水溶液)が供給側流路6に供給される。
【0025】
このような界面活性剤水溶液の濃度は、その屈折率と密接な関係にあり、この密接な関係を利用して界面活性剤濃度制御装置10によって界面活性剤水溶液の濃度を後述するように所定の濃度に維持する。例えば、界面活性剤としてオレイルトリ(ヒドロキシエチル)アンモニウムサリチレートを用いた場合、その水溶液中の界面活性剤の濃度と屈折率の関係は、図4に示す通りの比例関係にあり、後述する各種界面活性剤においても、その水溶液中の界面活性剤の濃度と屈折率の関係は同様の比例関係にある。
【0026】
上述した密接な関係を利用して界面活性剤の濃度を制御する界面活性剤濃度制御装置10は、更に、界面活性剤水溶液の屈折率を検出するための屈折率検出手段20を備え、この屈折率検出手段20は例えば屈折率センサ22から構成される。
【0027】
ここで、図2及び図3を参照して、屈折率検出手段20に関連する構成について説明すると、戻り側流路8には、その所定部位をバイパスしてバイパス流路24が設けられ、このバイパス流路24に、流路容積が拡大した溶液溜め部26が設けられ、この溶液溜め部26に屈折率センサ22が配設されている。バイパス流路24の流入側はその流出側よりも界面活性剤水溶液の流れ方向(図2において矢印28で示す)に見て上流側に位置し、戻り管側流路8を流れる界面活性剤水溶液の一部が流入側からバイパス流路24に流入し、矢印30で示す方向にバイパス流路24及び溶液溜め部26を流れ、流出側から戻り側流路8に戻される。この実施形態では、バイパス流路24の上流側部、即ち溶液溜め部26より上流側の部位に、界面活性剤溶液を加熱するための加熱手段32が配設されている。
【0028】
次に、屈折率センサ22の屈折率計測原理について説明すると、屈折率センサ22は、計測液体L(この具体例では、溶液溜め部26を流れる界面活性剤溶液)に向けて光を投射する光源部34と、この計測液体に接触して投射光の一部を反射させるプリズム36と、プリズム36からの反射光を受光する受光部38とを備えている。このような屈折率センサ22では、光源部34からの光は、実線矢印で示すように、プリズム36と計測液体Lとの境界面Pに向けて投射され、投射された光は、異なる角度方向の光としてこの境界面Pに当たる。光源部34からの光がこのように投射されると、ある角度方向の光はこの境界面Pで全反射し、また他の角度方向の一部の光は部分反射し、ほとんどの光は屈折して計測液体(界面活性剤溶液)に入る。一方、この境界面Pにて反射された反射光は受光部38に向けて反射され、この反射光は、破線矢印で示すように受光部38に受光される。受光部38においては、境界面Pからの全反射の光は明るい領域aとして受光され、また境界面Pからの部分反射の光は暗い領域bとして受光され、暗い領域bと明るい領域aとの間には明確な境界線40が出現する。この出現する境界線40に相当する角度は、全反射の臨界角と呼ばれ、この臨界角から屈折率が求められ、この境界線40が図3において左側に移動する、換言すると暗い領域bが大きくなるほど屈折率が大きくなり、図3において右側に移動する、換言すると明るい領域aが大きくなるほど屈折率が小さくなる。
【0029】
バイパス流路24に溶液溜め部26を設けることによって、この溶液溜め部26において界面活性剤溶液の流速が一時的に低下し、界面活性剤溶液の屈折率を後述するようにして正確に検出することができる。バイパス流路24における溶液溜め部26の形状、容積などは特に限定されるものではないが、計測精度の観点から、そこを流れる界面活性剤水溶液の流速が0.2〜0.5m/sになるようにするのが好ましく、界面活性剤水溶液の流速が0.3〜0.4m/sにするのが更に好ましい。流速が遅くなると、界面活性剤溶液が溶液溜め部26において淀むようになり、またその流速が速くなると、流れの影響を受けて正確な屈折率の計測が難しくなる。
【0030】
加熱手段32は、各種の加熱ヒータを用いることができるが、バイパス流路24を規定する配管の外部より設置できるテープ状ヒータから構成するのが好ましい。界面活性剤水溶液の濃度と屈折率の関係は、約20℃を境にして顕著に変化することを本発明者は確認し、このことより、屈折率計測における温度条件を満たすために、加熱手段32により、界面活性剤水溶液の温度を20℃以上(例えば、20℃)に加温するのが望ましい。戻り側流路8内を流れる界面活性剤水溶液の温度が20℃以上ある場合、例えば熱供給システム2において加温された界面活性剤水溶液(界面活性剤水溶液が温熱を搬送する)を熱利用側システム4において消費する場合は、加熱手段32により界面活性剤水溶液を加熱する必要はないが、戻り側流路8内を流れる界面活性剤水溶液の温度が20℃より低い場合、例えば熱供給側システム2において冷却された界面活性剤水溶液(界面活性剤水溶液が冷熱を搬送する)を熱利用側システム4において消費する場合は、加熱手段32により界面活性剤水溶液を加熱するのが望ましい。
【0031】
バイパス流路24の溶液溜め部26に配設される屈折率センサ22は、その屈折率計測部が界面活性剤溶液L(計測液体)に接触するように配設され、この溶液溜め部26の下部に位置するように設けるのが好ましい。このように配設することにより、界面活性剤水溶液中に微小な空気泡があった場合にでも、屈折率センサ22の屈折率計測部にその空気泡が捕捉され、屈折率計測の妨害になることを防止することができる。
【0032】
また、この屈折率センサ22は、図2に示すように、界面活性剤水溶液の流れ方向に対して傾斜対向するような角度位置でもって配設させる。このように配設することにより、界面活性剤水溶液中に含まれた微小なゴミが屈折率センサ22の屈折率計測部に付着することを防止することができる。界面活性剤水溶液の流れ方向に対する屈折率センサ22の屈折率計測部の傾斜角度α(図2)は、0〜80度であるのが好ましく、30〜60度であるのが更に好ましい。
【0033】
バイパス流路24を規定する配管及び溶液溜め部26を規定する計測容器の材質についても特に制限はなく、鉄、銅、ステンレスなどの金属やポリエチレン、ポリブテン、シリコン、テフロン(登録商標)などの樹脂などを用いることができる。
【0034】
この形態では、屈折率検出手段20は戻り側流路8に配設され、戻り側流路8を流れる界面活性剤水溶液の屈折率を検出し、この屈折率検出手段20からの検出信号は制御手段14に送給され、制御手段14はこの検出信号に基づいて供給制御弁18を後述するように開閉制御する。
【0035】
この実施形態では、界面活性剤供給手段12を供給側流路6に接続し、屈折率検出手段20を戻り側流路8に設けているので、供給側流路6にて後述する如く補給された界面活性剤は熱利用側システム4を流れる間に充分混合され、屈折率検出手段20にはこの混合された界面活性剤水溶液の屈折率を検出するようになり、かくして界面活性剤水溶液の濃度を正確に検出することができる。上述した構成に代えて、界面活性剤供給手段12を戻り側流路8に接続し、屈折率検出手段20を供給側流路6に設けるようにしても、その屈折率を正確に検出することができる。なお、これら界面活性剤供給手段12及び屈折率検出手段20の双方を供給側流路6又は戻り側流路8に設けるようにしてもよい。
【0036】
この熱搬送システムにおける界面活性剤水溶液中の界面活性剤の濃度制御は、例えば次のようにして行われる。戻り側流路8を流れる界面活性剤水溶液の一部がバイパス流路24を通して流れ、このバイパス流路24を流れる界面活性剤水溶液が溶液溜め部26を流れる際に屈折率検出手段20が界面活性剤水溶液の濃度を検出し、屈折率検出手段20からの検出信号が制御手段14に送給される。
【0037】
界面活性剤水溶液の濃度とその屈折率とは、上述したように図4に示す通りの比例関係にあるので、界面活性剤水溶液の濃度が低下すると、その屈折率も低下する。このようなことから、屈折率検出手段20の検出屈折率が第1の所定値T1(例えば、0.180Brix%)より小さくなると、制御手段14は供給信号を生成し、この供給信号に基づいて供給制御弁18を開放する。かくすると、タンク16内の界面活性剤が供給制御弁18を通して供給側流路6に供給され、循環する界面活性剤水溶液の濃度が上昇し、それに伴い界面活性剤による摩擦低減効果が回復して圧力損失が減少し、供給側流路6及び戻り側流路8を流れる界面活性剤水溶液の流量も増大する。
【0038】
このように界面活性剤水溶液の濃度が上昇して屈折率検出手段20の検出屈折率が、第1の所定値T1より大きい第2の所定値T2(例えば、0.330Brix%)(T1<T2)に達すると、制御手段14は、屈折率検出手段20からの検出信号に基づいて供給制御弁18を閉塞する。かくすると、タンク16からの界面活性剤の供給が停止し、循環する界面活性剤水溶液の濃度はその濃度に維持される。
【0039】
かくの通りであるので、界面活性剤水溶液の濃度は、屈折率の第1の所定値T1に対応する第1の濃度値と屈折率の第2の所定値T2に対応する第2の濃度値との間に保たれ、かくして界面活性剤水溶液の濃度を所定範囲(例えば、400〜800ppm)に保ってその流動摩擦抵抗を低減して熱搬送システムの搬送動力を小さくすることができる。
【0040】
上述した形態では、屈折率の第2の所定値T2(界面活性剤の供給を停止する値)を第1の所定値T1(界面活性剤の供給を開始する値)よりも大きい値に設定して、界面活性剤水溶液の濃度制御の安定化を図っているが、上記第1の所定値と上記第2の所定値とを同じ値に設定するようにしてもよい。熱搬送媒体として用いる界面活性剤水溶液中の界面活性剤の種類については、特に制限されるものではなく、例えば、セチルトリメチルアンモニウムクロライド、セチルトリメチルアンモニウムサリチレート、セチルトリメチルアンモニウムナフトエート、ステアリルトリメチルアンモニウムクロライド、ステアリルトリメチルアンモニウムサリチレート、ステアリルトリメチルアンモニウムナフトエート、オレイルビス(ヒドロキシエチル)メチルアンモニウムクロライド、オレイルビス(ヒドロキシエチル)メチルアンモニウムサリチレート、オレイルビス(ヒドロキシエチル)メチルアンモニウムナフトエートなどを用いることができる。この界面活性剤の濃度は、少ないと摩擦低減効果が発現せず、また多すぎると粘度が増大し、これもまた摩擦低減効果が発現しない。このようなことから、その濃度は、200〜4000ppmが好ましく、300〜2500ppmがより好ましい。
【実施例】
【0041】
本発明の効果を確認するために、ビル空調の冷房ラインを用い、この冷房ラインに図2に示す形態の界面活性剤濃度制御装置を取り付けて次の通りの実験を行った。この実験では、3階建ての事務所ビル(延床面積約2900m)の冷房ラインに、摩擦低減効果のある界面活性剤を添加した。冷房システムでは、冷房能力528kWのガス吸収冷凍機を用い、熱搬送媒体として、水に界面活性剤(以下、「摩擦低減剤」ともいう)としてオレイルトリ(ヒドロキシエチル)アンモニウムサリチレートを溶解させた水溶液(以下、「摩擦抵抗低減水溶液」ともいう)を用いた。摩擦抵抗低減水溶液の冷凍機出口温度は、冷凍機の定格値である7℃に制御した。また、摩擦抵抗低減水溶液を循環させるポンプの動力は定格(60Hz)で15kWであり、インバーター制御を行うことにより、ポンプ動力の調整を行うことができるものであった。更に、屈折率検出手段20により計測される摩擦抵抗低減水溶液(即ち、バイパス流路の溶液溜め部を流れる摩擦抵抗低減水溶液)の水温を20℃となるように加熱手段で加熱した。
【0042】
まず、摩擦抵抗低減水溶液の流量をポンプの定格流量値(91m/min)で一定になるように、ポンプ動力をインバーター制御した。このように制御すると、循環流路内の摩擦抵抗低減水溶液中の界面活性剤の濃度が低下して摩擦低減効果が減少すると、この循環流路内を流れる摩擦抵抗低減水溶液の流量が減少する。一般に、ポンプ動力はインバーター周波数の3乗に比例するので、ポンプ動力低減率は、{1−(インバーター周波数/60)}×100で求められ、これより算出したポンプ動力低減率と摩擦低減剤の濃度との関係は、図5に示す通りであった。図5には、予め計測した摩擦低減剤の濃度に対応する屈折率値も示してある。図5から明らかな通り、摩擦低減剤の濃度が300ppm以下ではポンプ動力低減率が低く、250ppm以下では殆どポンプ動力低減効果がないことが分かる。次に、ポンプ動力を、ポンプ動力低減率が35%になるインバーター周波数53.5Hzに固定してガス吸収冷凍機の運転を行った。まず、界面活性剤を熱搬送媒体に注入したすぐ後、即ち界面活性剤の濃度が低下していない状態での屈折率を記録した。この実験においてこのときの屈折率は0.320Brix%であった。この運転状態を継続し、循環流路内の摩擦抵抗低減水溶液中の界面活性剤の濃度が低下して摩擦低減効果が減少すると、循環流路内を流れる摩擦抵抗低減水溶液の流量が減少し、このとき、界面活性剤水溶液の屈折率も減少し、屈折率が0.180Brix%(界面活性剤の濃度:400ppm)に低下すると、制御手段から界面活性剤供給手段(栗田工業株式会社製、製品名「クリフィーダーCS−31」)に供給信号を送り、自動的に循環流路内に摩擦低減剤(界面活性剤薬液)を注入した。摩擦低減剤を注入すると、摩擦抵抗低減水溶液中の界面活性剤の濃度が上昇し、それに伴って摩擦低減効果が回復して圧力損失が減少し、循環流路内の摩擦抵抗低減水溶液の流量が増加し、これと同時に摩擦抵抗低減水溶液の屈折率値も上昇した。そして、循環流路内の摩擦抵抗低減水溶液の屈折率値が0.330Brix%(界面活性剤の濃度:800ppm)に達すると、制御手段から界面活性剤供給手段に供給停止信号を送り、摩擦低減剤の注入を停止させた。
【0043】
上述した運転を行うことにより、循環流路内の摩擦抵抗低減水溶液中の界面活性剤の濃度が低下しても、摩擦低減剤を循環流路内に自動的に供給することで、常に摩擦低減効果を維持することができ、摩擦抵抗低減水溶液の屈折率値を0.180〜0.330Brix%に維持した時、ガス吸収冷凍機のポンプ動力を36%削減できた。
【符号の説明】
【0044】
2 熱供給側システム
4 熱利用側システム
6 供給側流路
8 戻り側流路
10 界面活性剤濃度制御装置
12 界面活性剤供給手段
14 制御手段
20 屈折率検出手段


















【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱供給側システムと熱利用側システムとの間を循環する界面活性剤溶液を用いて熱を搬送する熱搬送システムにおける界面活性剤溶液の濃度を制御する界面活性剤濃度制御装置であって、
界面活性剤を供給するための界面活性剤供給手段と、前記界面活性剤供給手段から供給される界面活性剤の供給量を制御するための制御手段と、循環される界面活性剤溶液の屈折率を検出するための屈折率検出手段と、を備え、
前記制御手段は、前記屈折率検出手段からの検出信号に基づいて、前記界面活性剤供給手段から界面活性剤溶液に供給される界面活性剤の供給量を制御することを特徴とする界面活性剤濃度制御装置。
【請求項2】
前記熱供給側システムと前記熱利用側システムとの間には、前記熱供給側システムからの界面活性剤溶液を前記熱利用側システムに供給する供給側流路と、前記熱利用側システムからの界面活性剤溶液を前記熱供給側システムに戻す戻り側流路が設けられており、前記界面活性剤供給手段は前記供給側流路及び前記戻り側流路のいずれか一方に接続され、前記屈折率検出手段はそれらの他方に配設されていることを特徴とする請求項1記載の界面活性剤濃度制御装置。
【請求項3】
前記供給側流路及び前記戻り側流路の前記他方には、その一部をバイパスしてバイパス検出流路が設けられ、前記バイパス検出流路に溶液溜め部が設けられ、前記屈折率検出手段は前記溶液溜め部を流れる界面活性剤溶液の屈折率を検出することを特徴とする請求項2に記載の界面活性剤濃度制御装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の界面活性剤濃度制御装置を備えたことを特徴とする熱搬送システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−185671(P2011−185671A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−49500(P2010−49500)
【出願日】平成22年3月5日(2010.3.5)
【出願人】(000000284)大阪瓦斯株式会社 (2,453)
【Fターム(参考)】