説明

畜肉加工食品及びその製造方法

【課題】従来よりも保水性及び弾力性を更に高めた畜肉加工食品の製造方法を提供する。
【解決手段】脱脂豆乳の酸沈処理を経て得られたカードを水に分散させた水分散液を中和して中和蛋白溶液を得る第1の工程と、前記中和蛋白溶液をそのBrixが10%未満の状態で加熱して被加熱蛋白溶液を得る第2の工程と、前記被加熱蛋白溶液を乾燥して大豆蛋白を得る第3の工程とを有する製造方法により得られた大豆蛋白を、畜肉に添加する工程を有する、畜肉加工食品の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、畜肉加工食品及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ハム類及びソーセージ類などの畜肉加工食品には、保水性及び弾力性の向上を意図して、リン酸塩を主剤とする添加剤を配合することがなされてきた。ところが、リン酸塩は、健康上の観点及び環境上の観点等から、その使用を敬遠される傾向にあるため、それに代わる種々の添加剤を配合することが提案されている。例えば、特許文献1には、リン酸塩を添加しないソーセージに保水性、乳化性及び弾力性を付与することを意図して、熱凝固性蛋白質にカルシウム剤を配合した組成物を用いることが開示されている。また、特許文献2では、良好な弾力性及び保水性等を有する畜肉加工食品の製造法を提供することを意図して、所定量のガラクトースを含有するガラクトマンナンにα−ガラクトシダーゼを作用させてガラクトース含量を減少させたところの所定のガラクトース含量のガラクトマンナンを添加する畜肉加工食品の製造法が提案されている。
【0003】
さらに、畜肉加工食品に種々の添加剤を配合するために、その添加剤を含有するピックル液を畜肉加工食品に注入する手法が知られている。例えば、特許文献3には、高加水系のハムやベーコン等の畜肉加工品の製造において、最終製品の保水性、強度を高め、更には、食品添加物として利用される重合リン酸塩等を代替することのできるとされる大豆蛋白を含有する添加剤をピックル液に添加して、そのピックル液を畜肉に打ち込む方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭64−60354号公報
【特許文献2】特開平1−247061号公報
【特許文献3】特開2003−154号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、本発明者らが、上記特許文献1〜3を始めとする従来の畜肉加工食品の製造方法について詳細に検討したところ、それらの製造方法では、畜肉加工食品の保水性及び弾力性が必ずしも十分ではなく、更に改善の余地があることが判明した。
【0006】
本発明は上記事情にかんがみてなされたものであり、従来よりも保水性及び弾力性を更に高めた畜肉加工食品及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討した結果、驚くべきことに、Brix10%未満の蛋白含有水溶液を、特定の条件で加熱処理することにより得られた大豆蛋白を、畜肉に添加することにより、保水性及び弾力性を従来よりも更に高めた畜肉加工食品を製造することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は下記のとおりである。
[1]脱脂豆乳の酸沈処理を経て得られたカードを水に分散させた水分散液を中和して中和蛋白溶液を得る第1の工程と、前記中和蛋白溶液をそのBrixが10%未満の状態で加熱して被加熱蛋白溶液を得る第2の工程と、前記被加熱蛋白溶液を乾燥して大豆蛋白を得る第3の工程とを有する製造方法により得られた大豆蛋白を畜肉に添加する工程を有する、畜肉加工食品の製造方法。
[2]前記カードが、前記酸沈処理により得られた酸沈カードを更に水で洗浄して得られた水洗カードを含有する、[1]の畜肉加工食品の製造方法。
[3]前記第2の工程において前記中和蛋白溶液を110〜160℃の温度で0.5〜60秒間加熱する、[1]又は[2]の畜肉加工食品の製造方法。
[4]前記第2の工程において、前記中和蛋白溶液を直接蒸気で加熱する、[1]〜[3]のいずれか1つの畜肉加工食品の製造方法。
[5]前記中和蛋白溶液に生醤油を添加して醤油添加蛋白溶液を得る第4の工程を更に有し、前記第2の工程は、前記醤油添加蛋白溶液をそのBrixが10%未満の状態で加熱して前記被加熱蛋白溶液を得る工程である、[1]〜[4]のいずれか1つの畜肉加工食品の製造方法。
[6]前記添加する工程において、1000質量部の前記畜肉に対して、1〜200質量部の前記大豆蛋白を添加する、[1]〜[5]のいずれか1つの畜肉加工食品の製造方法。
[7][1]〜[6]のいずれか1つの畜肉加工食品の製造方法により得られた畜肉加工食品。
【発明の効果】
【0009】
本発明によると、従来よりも保水性及び弾力性を更に高めた畜肉加工食品及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。
【0011】
本実施形態の畜肉加工食品の製造方法は、大豆蛋白を畜肉に添加する工程を有する。上記大豆蛋白の製造方法は、脱脂豆乳の酸沈処理を経て得られたカードを水に分散させた水分散液を中和して中和蛋白溶液を得る第1の工程と、上記中和蛋白溶液をそのBrixが10%未満の状態で加熱して被加熱蛋白溶液を得る第2の工程と、上記被加熱蛋白溶液を乾燥して大豆蛋白を得る第3の工程とを有するものである。以下、まずは、大豆蛋白の製造方法について詳述する。
【0012】
この製造方法では、まず、第1の工程において、脱脂豆乳の酸沈処理を経て得られたカードを水に分散させた水分散液を中和して中和蛋白溶液を得る。脱脂豆乳は、脱脂大豆から蛋白を抽出して蛋白抽出液を得る抽出工程と、蛋白抽出液を固液に分離しておからを除去し、上澄み液を脱脂豆乳として回収する豆乳回収工程とを経る通常の脱脂豆乳の製造方法により得られるものであれば、特に限定されない。
【0013】
脱脂大豆は、大豆から大豆油を除去して残った固形分であり、大豆の品種や産地は特に限定されない。脱脂大豆は、大豆の圧搾又は大豆からの大豆油の抽出により得られ、例えば、大豆に対してn−ヘキサンを抽出溶剤として60〜80℃の低温抽出処理を施すことにより得られる。脱脂大豆の窒素可溶係数(NSI)は、60以上であると好ましく、80以上であるとより好ましい。このような所謂低変性脱脂大豆を用いることで、所望の大豆蛋白を得やすくなる。
【0014】
抽出工程では、脱脂大豆と抽出溶媒とを混合した混合液を撹拌羽根などを用いて撹拌して、抽出溶媒側に蛋白を抽出して蛋白抽出液を得る。抽出溶媒としては、通常用いられるものであれば特に限定されず、例えば水(常温水、温水)、水酸化ナトリウム等のアルカリ水溶液などが挙げられる。その液温は10〜80℃、好ましくは20〜80℃、より好ましくは25℃〜60℃である。抽出溶媒は中性〜弱アルカリ性であると好ましく、具体的には、そのpHが6.0〜8.5であると好ましく、6.5〜8.0であるとより好ましい。ただし、抽出溶媒が弱酸性であっても用いることは可能である。これ以外の抽出工程における諸条件は、従来と同様であればよい。抽出溶媒の使用量は、通常採用される範囲であれば特に限定されず、例えば、脱脂大豆に対して質量基準で4〜15倍量であることが好ましい。
【0015】
上記混合液は、ピロ亜硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム等の還元剤を更に含んでもよい。これにより、大豆蛋白水溶液の粘度を更に低下させることが可能となり、作業性が一層向上する。混合液中の還元剤の含有量は、例えば、混合液の全質量に対して1〜300ppmであることが好ましい。
【0016】
次に、豆乳回収工程では、蛋白抽出液を固液に分離し、固形分であるおからを除去し、上澄み液である脱脂豆乳を回収する。蛋白抽出液の分離方法として、遠心分離、フィルタープレスなどのろ過法を用いることができるが、これらの中では、遠心分離が好ましい。
遠心分離において用いられる分離機としては、例えば、小型の連続遠心分離機である、冷却式連続遠心分離機(ロータータイプ)、デカンター連続式横型遠心分離機(以下、単に「デカンター連続遠心分離機」という。)、ディスク型連続遠心分離機が挙げられるが、これらに限定されない。これらの分離機の回転数など、分離の際の諸条件は適宜設定される。
【0017】
次いで、得られた脱脂豆乳を酸性条件に調節して酸沈処理により固液に分離し、上澄みであるホエーを除去すると共に、固形分である酸沈カード(水で洗浄をしていないカード)を回収する。ここで、酸性条件に調節する際、上記豆乳回収工程を経て得られた上澄み液の脱脂豆乳をそのまま酸性条件に調節してもよく、一旦乾燥させて得られた粉末状の脱脂豆乳を水などの溶媒に溶解すると共に酸性条件に調節してもよい。酸性条件は、pHが2.0〜6.5であると好ましく、4.0〜5.5であるとより好ましい。酸性条件に調節するには、脱脂豆乳に塩酸などの酸水溶液を所望のpHとなるように添加すればよい。
また、酸沈処理の際の脱脂豆乳の液温は、例えば15〜25℃であることが好ましい。
【0018】
酸沈処理は、酸水溶液の添加と共に脱脂豆乳を必要に応じて撹拌後、静置することによって行ってもよいが、脱脂豆乳を酸沈カードとホエーとに効率よく分離するために、遠心分離などの分離方法を用いてもよい。遠心分離を採用する場合に用いられる分離機としては、上記と同様のものを例示でき、それらの中ではデカンター連続遠心分離機が好ましい。遠心分離機を用いる場合、その回転数は1000〜10000rpmであると好ましく、1500〜8000rpmであるとより好ましく、3000〜8000rpmであると更に好ましい。また、その他の分離の際の諸条件は、適宜設定される。なお、酸沈処理の際に発生し得る発泡を抑制するために、シリコン等の消泡剤を脱脂豆乳に添加してもよい。
【0019】
第1の工程において用いるカードは、上記酸沈カードであってもよいが、得られる蛋白ゲルの透明度をより高めるためには、酸沈処理により得られた酸沈カードを更に水で洗浄して得られた水洗カードを用いることが好ましい。
酸沈カードを洗浄する場合、高効率で洗浄するために、酸沈カードを水中に分散して洗浄するのが好ましい。分散させる水の量は、ペースト状のカードの固形分質量に対して、3〜20倍量であると好ましく、4〜15倍量であるとより好ましく、5〜12倍量であると更に好ましい。これにより、酸沈カードを更に効率よく洗浄できると共に、水洗カードを回収する際の作業効率を高めることが可能となる。また、酸沈カードを洗浄するのに用いる水の温度は15〜70℃であると好ましく、15〜25℃であるとより好ましい。
この水の温度を15℃以上にすることにより、不純物をより有効に除去することができ、70℃以下にすることにより、蛋白の変性を防ぐという効果をより有効に奏することができる。
【0020】
水中に酸沈カードを分散して洗浄する場合、酸沈カードが分散した水をホモミキサー、ホモジナイザー等を用いて撹拌しながら洗浄するのが好ましい。ホモミキサーを用いる場合、その回転数は500〜12000rpmであると好ましく、500〜10000rpmであるとより好ましく、500〜8000rpmであると更に好ましい。また、撹拌時間は1〜30分間であると好ましく、5〜25分間であるとより好ましく、10〜15分間であると更に好ましい。回転数又は撹拌時間が上記下限値以上であると、カードを水により効率よく分散させることができ、その洗浄効果が一層高まり、蛋白ゲルの透明性がより向上する傾向にある。また、回転数又は撹拌時間が上記上限値以下であると、泡の発生を抑え、水洗カードを回収する際の作業効率を更に高めることができる傾向にある。
【0021】
次に、上述のように洗浄して得られた水洗カードを回収する。回収方法は、通常の固液分離方法を用いるものであれば特に限定されず、例えば連続遠心機を用いた遠心分離によって水洗カードと水とを分離して、水を除去することによって水洗カードを回収することができる。この場合、連続遠心機としてデカンター連続遠心分離機を用いると好ましいが、連続遠心機はこれに限定されない。遠心分離機を用いる場合、その回転数は1000〜10000rpmであると好ましく、1500〜8000rpmであるとより好ましく、3000〜8000rpmであると更に好ましい。
【0022】
第1の工程では、上述のカードを更に水中に分散した水分散液を中和して中和蛋白溶液を得る。カードを水中に分散する方法は、通常の中和前にカードを分散する方法であれば特に限定されず、必要に応じてホモミキサー等の分散機を用いてもよい。カードに対する水の量は、例えば、カードの固形分質量に対して3〜15倍量であることが好ましい。中和処理は、カードが分散した水中に、例えば水酸化ナトリウムなどのアルカリを添加することによって行われる。この際、得られる中和蛋白溶液のpHが6.0〜8.0となるように中和処理を施すのが好ましく、そのpHはより好ましくは6.8〜7.8、更に好ましくは7.0〜7.4である。なお、第1の工程における中和時に、併せて中和蛋白溶液に水を添加してそのBrixを10%未満に調整してもよい。ここで、本明細書における溶液のBrixは、糖度計により測定された屈折率から算出することができ、上記糖度計としては、例えば、有限会社アタゴ社製のデジタル糖度計(商品名「PR−101α」)が挙げられる。
【0023】
次に、第2の工程において、中和蛋白溶液をそのBrixが10%未満の状態で加熱して被加熱蛋白溶液を得る。この第2の工程では、加熱により中和蛋白溶液を殺菌することができる。第1の工程を経て得られた中和蛋白溶液のBrixが10%未満である場合、その中和蛋白溶液をそのまま第2の工程に用いてもよく、水の添加により希釈して更にBrxを低下させてもよい。あるいは、第1の工程を経て得られた中和蛋白溶液のBrixが10%以上である場合、その中和蛋白溶液を水の添加により希釈して、そのBrixを10%未満に調整してから加熱する。このように中和蛋白溶液のBrixを10%未満に調整することにより、透明感を有する蛋白溶液を得ることができる。特に、中和蛋白溶液のBrixを10%未満に調整し、かつ後述の直接蒸気加熱を採用することにより、大豆蛋白の大豆臭を格別に低減することができる。また、その大豆蛋白を用いることで、透明度をより高めた蛋白ゲルを得ることができる。中和蛋白溶液のBrixは1%以上10%未満であると好ましく、3〜9.5%であるとより好ましく、4〜9.5%であると更に好ましい。そのBrixが1%未満であっても、本実施形態に係る大豆蛋白を製造することはできるが、製造コストの点から、Brixを1%以上にすることが好ましい。
【0024】
加熱方法は、中和蛋白溶液を直接水蒸気と接触させる直接蒸気加熱、あるいは、プレート式のヒーター等を用いて中和蛋白溶液を収容する容器を加熱する等の間接加熱のいずれであってもよい。ただし、蛋白ゲルの透明性を更に高めると共に、大豆蛋白の大豆臭を低減する観点から、直接蒸気加熱が好ましい。加熱温度は110〜160℃であると好ましく、130〜150℃であるとより好ましく、140〜150℃であると更に好ましい。
また、加熱時間は0.5〜60秒間であると好ましく、2〜30秒間であるとより好ましく、3〜15秒間であると更に好ましい。加熱温度が110℃以上であると、また、加熱時間が0.5秒間以上であると、蛋白ゲルの透明性を更に優れたものとすることができる。加熱温度が160℃以下であると、また、加熱時間が60秒間以下であると、より風味の良い大豆蛋白を得ることができる。
【0025】
なお、中和蛋白溶液にプロテアーゼなどの酵素類を更に添加してもよく、これにより、第2の工程において酵素反応を進行させることが可能となる。
【0026】
そして、第3の工程において、被加熱蛋白溶液を乾燥して大豆蛋白を得る。乾燥方法としては、通常の大豆蛋白を得るための乾燥方法であれば特に限定されず、例えば、被加熱蛋白溶液をスプレードライヤーによって噴霧する等の噴霧乾燥、凍結乾燥、加熱真空乾燥などを採用することができる。これらの中では、水分散性の高い粉末状の大豆蛋白を得ることができるという点から、噴霧乾燥が好ましい。上記スプレードライヤーを用いた噴霧乾燥の場合、スプレードライヤーの噴霧ノズル入口における乾燥空気等の熱風の温度(入口温度)は110〜200℃であると好ましく、115〜190℃であるとより好ましく、120〜185℃であると更に好ましい。また、噴霧後の熱風の温度(出口温度)は50〜100℃であると好ましく、55〜90℃であるとより好ましく、60〜85℃であると更に好ましい。
【0027】
また、第3の工程における被加熱蛋白溶液のBrixは10%未満であると好ましく、1%以上10%未満であるとより好ましく、2〜9.5%であると更に好ましく、3〜9.5%であると特に好ましく、5〜9.5%であると極めて好ましい。
【0028】
本実施形態に係る大豆蛋白の製造方法は、第1の工程の後に、第1の工程で得られた中和蛋白溶液に生醤油を添加して醤油添加蛋白溶液を得る第4の工程を更に有し、かつ、第2の工程が上記醤油添加蛋白溶液をそのBrixが10%未満の状態で加熱して上記被加熱蛋白溶液を得る工程であると好ましい。これにより、大豆蛋白溶液の粘度を更に低減することができる。また、醤油添加蛋白溶液をそのBrixが10%未満の状態で加熱するので、透明感を有する蛋白溶液を得ることができる。ここで、「生醤油」とは、醤油諸味又は醤油様発酵調味料から不溶性固形分を除去して得られた液体調味料を意味する。
【0029】
市販の醤油は通常、醤油諸味から不溶性固形分を除去して得られた生醤油を更に加熱(火入れ)し、生じた沈殿物(滓)を除去する工程を経て製造される。本実施形態に係る生醤油は、醤油諸味の不溶性固形分を除去してから火入れを行うまでの状態を指し、滓が生じない程度にまで加熱されたものをも含む。生醤油は、原料の大豆と小麦との比率、原料処理の方法、塩分濃度等の製法の違いによって種々のものがあるが、色沢や風味の異なるこいくち、うすくち、たまり、しろ、さいしこみ等が知られている。本実施形態に係る生醤油はこれらのいずれであってもよい。
【0030】
また、醤油諸味を醤油様発酵調味料の諸味に代え、その諸味から同様に不溶性固形分を除去して得られた生発酵分解調味液も本実施形態の生醤油に含まれる。醤油様発酵調味料としては、例えば、発酵分解調味液(植物由来原料に麹菌培養物を加えて発酵させたもの)、魚醤(魚介類を発酵、又は麹菌培養物を加えて発酵させたもの)、肉醤(蓄肉類を発酵、又は麹菌培養物を加えて発酵させたもの)が挙げられる。
これらの中でも、醤油諸味から得られる生醤油が好ましい。本実施形態において、生醤油は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0031】
生醤油を添加する中和蛋白溶液のBrixは1%以上20%未満であると好ましく、5%以上10%未満であるとより好ましい。生醤油の添加量は、得られる醤油添加蛋白溶液の全量に対して0.00001〜10質量%であると好ましく、0.001〜0.5質量%であるとより好ましい。生醤油の添加量が0.00001質量%以上であることにより、生醤油による上述の効果をより有効に発揮することができ、10質量%以下であることにより、醤油の風味や色が過剰に醤油添加蛋白溶液に付与されないという効果が得られる傾向にある。また、生醤油を中和蛋白溶液に添加した液を所定時間、所定温度で静置又は撹拌することが好ましい。その液を撹拌する場合、上記所定時間は6分間〜6時間であると好ましく、所定温度は5〜80℃であると好ましい。これにより、生醤油による上述の効果を更に有効に発揮することができる。
【0032】
本実施形態に係る大豆蛋白は、その固形分20質量%の3質量%食塩水溶液を80℃で30分間加熱した後に20℃まで冷却して得たゲルが、600〜1000gの破断応力を有すると好ましく、700〜900gの破断応力を有するとより好ましい。この破断応力が600g以上であると、蛋白ゲルのゲル強度をより高くすることができる。上記ゲルの破断応力は、テクスチャーアナライザー(例えば、Stable Micro Systems社製、商品名「TA XTPlus」)により測定される。その破断応力を上記数値範囲内に調節するには、上記還元剤を添加したり、その還元剤の添加量を調整したり、中和蛋白溶液又は醤油添加蛋白溶液のBrixを調整したり、上記第4の工程を経たり、そのときの生醤油の種類や混合量を調整したり、第2の工程における加熱温度や加熱時間を調整したり、直接蒸気加熱を選択したりすればよい。
【0033】
本実施形態に係る大豆蛋白は、その固形分20質量%の3質量%食塩水溶液を80℃で30分間加熱した後に20℃まで冷却して得たゲルが、900〜2000g・cmのゼリー強度を有するものであると好ましく、1000〜1800g・cmのゼリー強度を有するとより好ましい。このゼリー強度が900g・cm以上であると、蛋白ゲルのゲル強度をより高くすることができる。上記ゲルのゼリー強度は、テクスチャーアナライザー(例えば、Stable Micro Systems社製、商品名「TA XTPlus」)により測定される。そのゼリー強度を上記数値範囲内に調節するには、上記還元剤を添加したり、その還元剤の添加量を調整したり、中和蛋白溶液又は醤油添加蛋白溶液のBrixを調整したり、上記第4の工程を経たり、そのときの生醤油の種類や混合量を調整したり、第2の工程における加熱温度や加熱時間を調整したり、直接蒸気加熱を選択したりすればよい。
【0034】
本実施形態の畜肉加工食品の製造方法は、上述のようにして得られた大豆蛋白を畜肉に添加する工程(以下、「蛋白添加工程」という。)を有するものであり、上記大豆蛋白を用いる他は、従来の畜肉加工食品の製造方法と同様であってもよい。上記大豆蛋白は、予め水と共に混合して得られる大豆蛋白カードとして、あるいは、予め水及び油と共に混合して乳化する工程を経て得られるエマルジョンカードとして、例えばミンチ状の畜肉(挽肉)に添加されてもよい。上記油としては、菜種油、大豆油等の植物油やラード等の動物油脂が挙げられる。
大豆蛋白カードとしては、大豆蛋白1質量部に対して、水が例えば3〜8質量部配合されたものを使用することができる。また、エマルジョンカードには、上述のものに加えて、カルシウム等の凝固剤を配合することもできる。
エマルジョンカードとしては、大豆蛋白1質量部に対して、水が例えば4〜10質量部、油が例えば0.5〜5質量部配合されたものを使用することができる。また、エマルジョンカードには、上述のものに加えて、カルシウム等の凝固剤を配合することもできる。
【0035】
大豆蛋白は、ピックル液に配合された状態で畜肉に注入又は混合されてもよく、そのピックル液に畜肉を浸漬してもよい。そのピックル液は、大豆蛋白及び水以外に、必要に応じて、食塩、各種糖、リン酸塩、発色剤、調味料、大豆蛋白以外の蛋白質、油脂、増粘剤、保存料、酸化防止剤、香辛料及び乳化安定剤等、公知のピックル液に配合されるものを含んでもよい。
本実施形態のピックル液において大豆蛋白の配合量が高くても粘度を低く抑えることができるため、そのピックル液を畜肉加工食品の原料である畜肉に注入する際の作業効率は良好であり、しかも肉の硬さや弾力性などの食感改良効果を高く維持することができる。
ピックル液は、例えば、上記本実施形態に係る大豆蛋白5〜10質量%、グルコース4〜6質量%、食塩3〜5質量%、ポリリン酸ナトリウム0.3〜0.6質量%、化学調味料1〜3質量%、及び水(残部)を配合したものであってもよい。
【0036】
本実施形態に用いられる畜肉としては、特に限定されず、例えば、豚肉、牛肉、鶏肉、羊肉及び馬肉が挙げられ、その部位も特に限定されない。畜肉は、家畜から採肉したものであってもよく、最終的に得られる畜肉加工食品の種類に応じて各種加工を施されたものであってもよい。あるいは、その畜肉として、市販の畜肉が用いられてもよく、各種添加剤が配合された畜肉が用いられてもよい。
【0037】
蛋白添加工程において、大豆蛋白の配合(添加)量は、畜肉1000質量部に対して、1〜200質量部であることが好ましく、10〜150質量部であることがより好ましく、20〜100質量部であることが更に好ましい。
また、蛋白添加工程において、大豆蛋白をピックル液に配合した状態で畜肉に添加する場合、ピックル液の配合量は、大豆蛋白の配合量が、畜肉1000質量部に対して、1〜200質量部となる量であることが好ましく、10〜150質量部となる量であることがより好ましく、20〜100質量部となる量であることが更に好ましい。
【0038】
本実施形態の畜肉加工食品の製造方法は、蛋白添加工程に加えて、例えば、畜肉の整形工程、肉挽き工程、カッティング工程、水洗工程、タンブリング工程、熟成工程、ケーシングへの充填工程、結紮工程、加熱工程、冷却工程など、従来の畜肉加工食品の製造方法に備えられる各工程を有することができる。加熱工程での加熱処理としては、水煮加熱処理、煮沸加熱処理、燻煙加熱処理、乾燥加熱工程、蒸し加熱処理、焼き加熱処理、揚げ加熱処理等の処理が挙げられ、これらの処理を複数併用して加熱処理することもできる。
【0039】
蛋白添加工程における大豆蛋白の畜肉への添加は、特に限定されないが、本発明による保水性及び弾力性をより有効且つ確実に畜肉加工食品に付与する観点から、タンブリング工程、熟成工程及び加熱工程のうちの少なくとも1つの工程よりも前に行うことが好ましい。また、ピックル液に大豆蛋白を配合した状態で添加する場合、ピックル液を効率よく添加する観点から、整形工程、肉挽き工程及びカッティング工程のうちの少なくとも1つの工程よりも後にピックル液を畜肉に添加することが好ましい。
【0040】
本実施形態の畜肉加工食品の製造方法は、更に、澱粉、カルシウム塩、えだ豆、タコ、イカ、ごぼう、ねぎ、たまねぎ、にんじん、しいたけ、昆布、コーン、ごま等の具材、及び/又は、乳化剤、アスコルビン酸、アスコルビン酸塩、酸化防止剤、トランスグルタミナーゼ、グルテン、卵白、食塩、糖類、糖アルコール、調味料、香辛料、着色料、保存料等の添加剤を、畜肉、大豆蛋白、及びそれらのうちの少なくとも一方を含む中間品からなる群より選ばれるものに添加する工程を有してもよい。乳化剤としては、例えば、グリセリン脂肪酸モノエステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリソルベート、レシチンが挙げられる。
【0041】
上記具材及び/又は添加剤を添加する工程は、いずれのタイミングで行ってもよく、蛋白添加工程よりも前に行っても後に行ってもよく、蛋白添加工程と同時に行ってもよい。さらに、澱粉、カルシウム塩、乳化剤、アスコルビン酸、アスコルビン酸塩、酸化防止剤、トランスグルタミナーゼ、グルテン、卵白、糖類、糖アルコール、調味料、香辛料、着色料、保存料等は、加熱工程の前に添加するのであればいつでもよい。
【0042】
本実施形態の畜肉加工食品は、本実施形態の畜肉加工食品の製造方法により得られたものであれば特に限定されない。畜肉加工食品としては、例えば、骨付ハム、ボンレスハム、ロースハム、ショルダーハム、ベリーハム、ラックスハム、チョップドハム及びプレスハムなどのハム類、ドメスチックソーセージ(生ソーセージ、燻煙ソーセージ及び煮沸ソーセージのどの態様であってもよい)、ドライソーセージ(生ソーセージ、燻煙ソーセージ及び煮沸ソーセージのどの態様であってもよい)並びに発酵ソーセージなどのソーセージ類、ベーコン、焼き豚、ハンバーグ、パテ、メンチカツ、ミートボール、餃子、酒米が挙げられる。本実施形態の畜肉加工食品の製造方法は、畜肉加工食品の種類に応じて、その畜肉加工食品の製造に適した工程を更に有していてもよい。
【0043】
以下、本実施形態の畜肉加工食品の製造方法の一例として、ロースハムの製造方法について、より詳細に説明する。まず、冷凍豚ロース肉を室温で自然解凍し、所定の形状に整形する。次いで、整形後の豚ロース肉に、上記大豆蛋白を配合したピックル液を、専用の注射器を用いて注入する。このときのピックル液の注入圧力は、例えば0.1〜0.5MPaである。また、ピックル液の注入回数は1回でも2回以上でもよい。次に、豚ロース肉を柔らかくしたりピックル液の豚ロース肉への浸透度を高めたりする目的で、ピックル液注入後の豚ロース肉をタンブリングする。次いで、タンブリング後の豚ロース肉を熟成する工程を経ることもできる。熟成する際の温度は、例えば−5〜15℃であり、時間は、例えば1時間〜10日間である。
【0044】
次に、豚ロース肉をファイブラスケーシングに充填する。続いて、充填後の豚ロース肉をスモークチャンバー内で加熱処理する。加熱処理は、例えば、40〜80℃の乾燥加熱処理を30分間〜6時間、45〜85℃の燻製加熱処理を30分間〜6時間、及び60〜100℃の蒸し加熱処理を30分間〜6時間、この順に行う。次に、加熱処理後の豚ロース肉に対して水を散布して水洗処理を施す。これにより、豚ロース肉の表面や肉中に過剰に含まれる塩分を除去すると共に、付着した異物をも取り除く。そして、水洗処理後の豚ロース肉を、冷却する。この際の冷却温度は、例えば−10〜30℃であり、冷却時間は、例えば1時間〜1日間である。こうしてロースハムが得られる。得られたロースハムは、所定の大きさに切断されてもよい。
【0045】
また、本実施形態の畜肉加工食品の製造方法の別の一例として、チョップドハムの製造方法について、より詳細に説明する。まず、冷凍豚ロース肉を室温で自然解凍し、所定の形状に整形する。次いで、整形後の豚ロース肉を、例えば1〜20mmの厚さにチョッピングする。続いて、チョッピングされた豚ロース肉を、上記大豆蛋白を配合したピックル液と共に、ミキサーにより混合(混練)する。このときのピックル液と豚ロース肉との混合比(ピックル液/豚ロース肉)は、例えば1/10〜5/1である。次に、ピックル液と豚ロース肉とを混合した際に混入した空気を取り除くために、それらの混合物に対して、例えば真空包装機により脱気処理を施す。次に、脱気処理後の豚ロース肉をケーシングに充填する。続いて、充填後の豚ロース肉をスモークチャンバーのボイル槽内で加熱処理する。加熱処理は、例えば、65〜95℃で30分間〜3時間の加熱処理である。このとき、製品芯温が63℃を超える温度で30分間以上加熱処理されることが好ましい。そして、加熱処理後の豚ロース肉を、冷却する。この際の冷却温度は、例えば−10〜30℃であり、冷却時間は、例えば1時間〜1日間である。こうしてチョップドハムが得られる。
【0046】
本実施形態の畜肉加工食品の製造方法の更に別の一例として、ドメスチックソーセージの製造方法について、より詳細に説明する。まず、冷凍豚ロース肉を室温で自然解凍し、赤肉と脂肪に分割した後、赤肉を3〜5cm角に細断し、細断後の赤肉と脂肪との混合物を原料肉とする。次いで、原料肉をミキサーにて混合しながら、その原料肉に上記大豆蛋白を配合したピックル液を噴霧する。次いで、ピックル液を噴霧した後の原料肉を熟成する。熟成する際の温度は、例えば1〜10℃、好ましくは3〜5℃であり、時間は、例えば1時間〜10日間、好ましくは3〜5日間である。次に、熟成後の原料肉を、チョッパーを用いて肉挽きする。肉挽きに際しては原料肉の温度上昇を抑えるために、肉挽き前の原料肉の温度を0℃付近まで冷却し、かつ、肉挽き後の原料肉の温度が10℃を超えないように冷却したり、肉挽きの速度を調節したりする。次いで、肉挽き後の原料肉を、サイレントカッターを用いてカッティングしてエマルジョンを得る。この際、必要に応じて各種の香辛料及び調味料などを添加する。カッティングの時も、肉の温度が10℃を超えないよう、カッティング前の原料肉を冷却したり、氷水や砕氷を添加したり、カッティングの条件を調節したりする。また、このカッティングの際に脂肪を加えてもよい。
【0047】
続いて、例えばスタッファーを用いて、カッティング後のエマルジョンをケーシングに充填する。ケーシングとしては、牛、豚及び羊等の腸などの天然ケーシング、動物の生皮及び腱などから作製されるコラーゲンケーシング、セルロース、ビスコース、ファイブラス、塩化ビニリデンなどの人工ケーシングが挙げられる。次に、上記のように充填された充填物を、例えば35〜60℃で20分間〜2時間、燻煙加熱処理する。更に、燻煙加熱処理後の充填物を、70〜95℃の湯中で20分間〜3時間水煮加熱処理する。そして、水煮加熱処理後の充填物を、冷却する。この際の冷却温度は、例えば−10〜30℃であり、冷却時間は、例えば1時間〜1日間である。こうしてドメスチックソーセージが得られる。
【0048】
本実施形態の畜肉加工食品の製造方法のなおも別の一例として、ハンバーグの製造方法について、より詳細に説明する。まず、冷凍豚ロース肉を室温で自然解凍し、赤肉と脂肪に分割した後、赤肉を3〜5cm角に細断し、細断後の赤肉と脂肪との混合物を原料肉とする。次いで、原料肉をミキサーにて混合する。次に、混合後の原料肉を、チョッパーを用いて肉挽きする。肉挽きに際しては原料肉の温度上昇を抑えるために、肉挽き前の原料肉の温度を0℃付近まで冷却し、かつ、肉挽き後の原料肉の温度が10℃を超えないように冷却したり、肉挽きの速度を調節したりする。次いで、肉挽き後の原料肉に、タマネギ、卵、食塩及び上記大豆蛋白を配合したピックル液をニーダーで混練する。そして、混練後の混練物を所望の形状に成型した後、焼成してハンバーグを得る。
【0049】
本実施形態によると、従来よりも保水性及び弾力性を更に高めた畜肉加工食品及びその製造方法を提供することができる。また、本実施形態の畜肉加工食品のうち、ハムやソーセージなどは、その外観に光沢感(艶)があり、しっとりとした新鮮な印象を与えるものである。
【0050】
以上、本発明を実施するための形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【実施例】
【0051】
以下、実施例によって本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0052】
〔製造例1〕大豆蛋白の製造
脱脂大豆に、その6倍量の水を加え、水酸化ナトリウム水溶液を添加してpHを7.2に調整した後、蛋白を抽出した。抽出後、遠心分離により固形分であるおからを分離、除去し、上澄み液である脱脂豆乳を回収した。次いで、回収した脱脂豆乳に塩酸を添加してpH4.5に調整して酸沈処理を行い、酸沈カードを沈殿させた。酸沈カードが沈殿した液を遠心分離し、ペースト状の酸沈カードを回収した。
回収したペースト状の酸沈カードに、その8倍量の水を添加して酸沈カードを水中に分散した。次に、常温の下、ホモミキサーで15分間撹拌して酸沈カードを洗浄した。その後、遠心分離を行い、沈殿した水洗カード8kgを回収した。
次に、回収したペースト状の水洗カードに、その7.5倍量の水を添加し、ホモミキサーで撹拌した。その後、水酸化ナトリウム水溶液を添加してpHを7.4に調整して中和蛋白溶液を得た。また、このpH調整を行う際に、中和蛋白溶液に水を更に添加することで、中和蛋白溶液のBrixを9.1%に調整した(以上、第1の工程)。
次に、Brix9.1%の中和蛋白溶液を145℃の水蒸気に3秒間直接接触させて加熱して、被加熱蛋白溶液を得た(第2の工程)。その後、被加熱蛋白溶液を冷却し、更に噴霧乾燥して、粉末状の大豆蛋白を得た(第3の工程)。
なお、溶液のBrixは、糖度計(有限会社アタゴ社製デジタル糖度計、商品名「PR−101α」)により測定された屈折率から算出した。
【0053】
(大豆蛋白の物性の評価)
製造例1において製造した粉末状の大豆蛋白、及び市販の粉末状の分離大豆蛋白について、蛋白含量、水分及びNSIを測定した。さらに、それらの大豆蛋白の固形分20質量%の3%食塩水溶液を加熱及び冷却して得られたゲルについて、破断応力、破断変形、ゼリー強度をそれぞれ測定した。測定方法等は下記のとおりある。
【0054】
(1)蛋白含量
大豆蛋白における蛋白含量は、大豆蛋白試料の全窒素分を、ケルダール法により定量し、大豆蛋白試料に対する百分率で表し、これに6.25を乗じて粗蛋白の含量とする方法で導出した。この方法は、JAS(社団法人日本農林規格協会)による植物性たん白の日本農林規格における植物たん白質含有率の測定法に準じたものである。
(2)水分
大豆蛋白における水分は、大豆蛋白試料を105℃の恒温槽中に4時間静置した後に、JAS(社団法人日本農林規格協会)による植物性たん白の日本農林規格における水分の測定法に準じて測定した。
(3)NSI
大豆蛋白におけるNSIは、大豆蛋白試料から40℃の水で抽出される窒素量を測定し、全窒素に対する百分率で示した。これは、日本油化学協会の基準油脂分析試験法に準じたものである。
【0055】
(4)ゲルの破断応力、破断変形、ゼリー強度
大豆蛋白の固形分20質量%の3質量%食塩水溶液を調製し、それをケーシング(株式会社クレハ製、クレハロンシームA08、55mm×300mm No.4)に充填した後、そのケーシング内の水溶液を80℃で30分間加熱し、さらに20℃まで冷却して蛋白ゲルを得た。
得られた蛋白ゲルの破断応力〔g〕及び破断変形〔cm〕を、Stable Micro Systems社製のテクスチャーアナライザーであるXTplus(商品名、XTPL15型、直径8mm球状プランジャー)を用いて20℃で測定した。それら破断応力及び破断変形の値の積をゼリー強度〔g・cm〕として算出して、ゲルの強度を評価した。
【0056】
大豆蛋白の物性の評価結果を表1に示す。
【表1】

【0057】
〔実施例1、比較例1〕
まず、表2に示す配合のピックル液を調製した。具体的には、まず、ミルクミキサーに冷水(2℃)を約7.5kg添加し、ミルクミキサーにより撹拌しながら、そこに消泡剤(商品名「ポエムZ−1000」、理研ビタミン社製)及びコチニール色素の10%水溶液を添加した。更に撹拌を続けながら、ミルクミキサーに粉々混合したその他の原料を徐々に添加した。原料の全てを添加した後、更に5分間撹拌して得られた原料の混合物全量を、所定の容器に移した。これらの操作を4回行った後、最後に容器内に冷水を注入して、容器内の内容物を40kgとした。そのまま、容器内の内容物を一晩(約17時間)、0℃にて静置した。こうして製造例1の大豆蛋白を含む実施例1に係るピックル液、及び市販の分離大豆蛋白を含む比較例1に係るピックル液を得た。
【0058】
次に、上記ピックル液を用いてロースハムを製造した。具体的には、まず、解凍豚M/Mロイン(Danish Crown)を自然解凍し、頭側を5cm除去後、中央から頭側の肉を原料肉として用いた。その原料肉に、インジェクション装置(連続インジェクター、商品名「FRM−46」、双葉電機工業社製)を用いて、圧力0.36MPa、ピッチ9.9mm/sの条件で、ピックル液を2回注入した。このインジェクション(注入)処理により、インジェクション処理の前と比較して、原料肉の質量が、実施例1については2.3倍、比較例1について2.25倍、それぞれ増加していた。
【0059】
次いで、ピックル液を注入した後の原料肉に対して、タンブリング装置(マッサージマシーン、商品名「FRM−A−100」、双葉電機工業製)を用いて、20rpm、5時間の条件で、タンブリングを行った。更にタンブリング後の原料肉を1晩(約17時間)、熟成した後、手動充填機(商品名「FB−85」、双葉電機工業社製)を用いて、ファイブラスケーシングに熟成後の原料肉を充填した。なお、ケーシングの直径は60mmであった。
【0060】
次に、充填後の原料肉をスモークチャンバー(アイディー技研社製)内で加熱処理した。加熱処理は、60℃、45%RHの乾燥加熱処理を90分間、60℃、45%RHの燻製加熱処理を90分間、及び85℃、100%RHの蒸し加熱処理を90分間、この順に行った。次に、加熱処理後の原料肉に対して20℃の水を15分間散布して水洗処理を施した。そして、水洗処理後の原料肉を1晩(約17時間)0℃で冷却して、それぞれ実施例1及び比較例1のロースハムを得た。
【0061】
得られたロースハムを1mmの厚さにスライスして、円板状のスライスハムを得た。その円板の直径方向両端の部分を合わせるようにして、折り目が付かない程度にスライスハムを湾曲させた。このとき、比較例1のロースハムと対比して、実施例1のロースハムは、湾曲させることによって対向した円板の同一面間の距離の最も長い部分が、比較例1のものよりも長くなった。これにより、実施例1のロースハムの方が、比較例1のロースハムよりも弾力性に優れていることが判明した。また、それらの外観を比較すると、実施例1のロースハムの方が、比較例1のロースハムよりも光沢感(艶)があり、しっとりした印象を持たせるものであった。しかも、それらのロースハムを長時間放置すると、実施例1のロースハムの方が、比較例1のロースハムよりも、当初の外観及び折り曲げた時の状態からの変化が小さかった。
【0062】
【表2】

【0063】
〔実施例2、比較例2〕
まず、表2に示す配合のピックル液を上記と同様にして調製した。次に、上記ピックル液を用いてチョップドハムを製造した。具体的には、まず、解凍豚M/Mロイン(Danish Crown)を自然解凍し、頭側を5cm除去後、更に脂肪を取り除いた中央から頭側の肉を原料肉として用いた。その原料肉を厚さ6mmにチョッピングした。続いて、チョッピングされた原料肉250gを、上記ピックル液250gと共に、ケンウッドミキサー(商品名「KENMIX CHEF」、愛工舎製作所製)を用いて混合した。このときの混合条件は、弱い混合(目盛り1)で1分間、次いで中程度の混合(目盛り2)で1分間、更に強い混合(目盛り3)で1分間とした。次に、ピックル液と混合した原料肉に対して、真空包装機を用いて、真空度95%以上の条件で1分間、脱気処理を施した。次いで、脱気処理後の原料肉を、折径3cmの塩化ビニリデンケーシングに充填した。続いて、塩化ビニリデンケーシングに充填された原料肉をスモークチャンバーのボイル槽内で、75℃で60分間加熱処理した。そして、加熱処理後の原料肉を0℃で2時間冷却して、それぞれ実施例2及び比較例2のチョップドハムを得た。
【0064】
得られたチョップドハムの保水性を評価するために、その離水率を下記のようにして測定した。まず、ケーシングに充填された状態のチョップドハムの質量G1を測定した。次いで、ケーシングを剥離して、そのケーシングに付着した水分(油分)を、紙を用いて拭き取った後、ケーシングの質量G2を測定した。続いて、ケーシングを剥離して露出したチョップドハムの表面に付着した水分(油分)を、布巾を用いてきれいに拭き取った後、そのチョップドハムの質量G3を測定した。それらG1、G2及びG3より、下記式(1)から離水率Aを求めた。
@ A(%)=(G1−G2−G3)/(G1−G2)×100 (1)
【0065】
その結果、実施例2のチョップドハムの離水率は0%であったのに対して、比較例2のチョップドハムの離水率は0.795%であり、実施例2のチョップドハムの方が離水率が低く、保湿性に優れていることが判明した。
【0066】
得られたチョップドハムの硬さを評価するために、その降伏応力を下記のようにして測定した。まず、チョップドハムからケーシングを剥離除去した後、チョップドハムを2cm角に切り取って試験片とした。その試験片の降伏応力を、レオメーター(商品名「RHEONER II CREEP METER RE2−3305S」、YAMADEN社製)を用いて測定した。プランジャーには5mmφの円柱形のものを用い、測定温度は10℃、試験片へのプランジャーの貫入速度は0.1mm/sとした。
【0067】
その結果、実施例2のチョップドハムの降伏応力は576kPaであったのに対して、比較例2のチョップドハムの降伏応力は470kPaであった。このことから、実施例2のチョップドハムの方が、比較例2のチョップドハムよりも硬いものであることが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明の畜肉加工食品の製造方法は、畜肉加工食品の保水性や弾力性を高めることができるため、特にハムやソーセージ等、外観や食感から新鮮な印象を受け得る畜肉加工食品に特に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脱脂豆乳の酸沈処理を経て得られたカードを水に分散させた水分散液を中和して中和蛋白溶液を得る第1の工程と、
前記中和蛋白溶液をそのBrixが10%未満の状態で加熱して被加熱蛋白溶液を得る第2の工程と、
前記被加熱蛋白溶液を乾燥して大豆蛋白を得る第3の工程と、
を有する製造方法により得られた大豆蛋白を畜肉に添加する工程を有する、畜肉加工食品の製造方法。
【請求項2】
前記カードが、前記酸沈処理により得られた酸沈カードを更に水で洗浄して得られた水洗カードを含有する、請求項1に記載の畜肉加工食品の製造方法。
【請求項3】
前記第2の工程において前記中和蛋白溶液を110〜160℃の温度で0.5〜60秒間加熱する、請求項1又は2に記載の畜肉加工食品の製造方法。
【請求項4】
前記第2の工程において、前記中和蛋白溶液を直接蒸気で加熱する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の畜肉加工食品の製造方法。
【請求項5】
前記中和蛋白溶液に生醤油を添加して醤油添加蛋白溶液を得る第4の工程を更に有し、前記第2の工程は、前記醤油添加蛋白溶液をそのBrixが10%未満の状態で加熱して前記被加熱蛋白溶液を得る工程である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の畜肉加工食品の製造方法。
【請求項6】
前記添加する工程において、1000質量部の前記畜肉に対して、1〜200質量部の前記大豆蛋白を添加する、請求項1〜5のいずれか1項に記載の畜肉加工食品の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の畜肉加工食品の製造方法により得られた畜肉加工食品。

【公開番号】特開2011−254702(P2011−254702A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−129053(P2010−129053)
【出願日】平成22年6月4日(2010.6.4)
【出願人】(000227009)日清オイリオグループ株式会社 (251)
【出願人】(000004477)キッコーマン株式会社 (212)
【Fターム(参考)】