説明

異なる弾性特性を有する組み立てパーツから三次元形状を製造する方法及びシステム

【解決手段】本発明は、互いに異なる弾性特性を有する2種類の組み立てパーツ(構造パーツと変形パーツ)を組み立てることにより皮革製のバッグ又は類似アイテムの三次元形状を製造する方法であって、相対的により高い弾性特性を有する変形パーツにテンションを負荷する工程;相対的により低い弾性特性を有する構造パーツをテンションを負荷した状態の前記変形パーツに接着する工程;及び前記構造パーツにストレスを与えている前記変形パーツに負荷されているテンションを解放し、該構造パーツを変形し所望の三次元形状を得る工程とを含んでなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異なる弾性特性を有する組み立てパーツから三次元形状を製造する方法、該方法を実施するためのシステム、並びに本発明方法により製造されるバッグ及び類似アイテム、あるいは、より概括的に三次元形状を有する製品のような皮革製品に関する。本発明は、特に、皮革製品又は少なくとも一部が皮革製の三次元形状を有する製品に応用されるが、これらに限定されるものではない。
【0002】
本発明は、三次元形状を製造する目的でフラットな材料を変形する産業分野に関する。本願では、“形状”という用語は、本来の意味(“幾何学的形状”)で用いているばかりではなく、たとえて言うと、三次元形状を作り出すための上述した幾何学的特性を有する対象物又は組立体をも意味する。
【0003】
本発明者が特に関心のある皮革製品の分野について考えてみよう。今日、皮革職人が三次元形状を有する皮革バッグ作ろうとする場合、皮革パーツが組み立てられ、所望の形状に保持される基礎材料上でバッグの骨格(原型)を作るため、特定の構造又は骨組みパーツを使用することを強いられる。この構造又は骨組みパーツはバッグの最終形状を決定するものである。その結果、多数の要素や組み立てなどが必要となる製造は複雑でコストも割高になる。さらに、一旦バッグが組み立てられ形作られてしまうと、変形を防止する構造又は骨組みパーツの存在のため、予定した形状とは少し異なる形状のものを作ることがとても困難になる。従って、元の形状に戻せる可能性を維持しつつ、かさ、保管などの理由で予め決められた形状を有するバッグを容易に変形できることは有用である。
【0004】
本発明の目的は、特定の構造又は骨組みパーツを必要とせずに三次元形状を得ることを可能にする方法を提供することである。
【0005】
本発明の上記目的は、異なる弾性特性を有する2種類の組み立てパーツから三次元形状を作る下記の工程からなる方法によって達成することができる。
相対的により高い弾性特性を有する変形パーツにテンションを負荷し維持する工程;
相対的により低い弾性特性を有する構造パーツをテンションを負荷した状態の変形パーツと接着する工程;及び
構造パーツにストレスを与える変形パーツに負荷していたテンションを解放し、構造パーツを変形し、所望の三次元形状を得る工程。
【0006】
かかる本発明の方法によれば、安定性と柔軟性の両方の特性を示すバランスの取れた三次元形状を得ることが可能になる。安定性は、ボディ(本体)自身を三次元形状に作り出す構造パーツの自己保持特性に起因している。しかしながら、構造パーツは所望の柔軟性を示し、それ自身変形に役立ち、特に湾曲には必須のものである。
【0007】
本発明の特定の態様では、他の寸法に比較してより薄い厚さのシートあるいはスキン状に形成された構造パーツと変形パーツが用いられる。
【0008】
本発明の別の態様では、構造パーツと変形パーツの2種類のパーツの少なくとも1つを、三次元形状を形成した後カットする工程を含む。
【0009】
本発明のさらに別の態様では、構造パーツと変形パーツの2種類のパーツの少なくとも1つを、三次元形状を形成する前にカットする工程を含む。
【0010】
接着工程は、耐湿性を有する接着剤を構造パーツと変形パーツの上にスプレーすることからなる。
【0011】
接着される構造パーツの領域の限界設定が有利に行われる。
【0012】
皮革製の構造パーツが本発明の方法に用いられる。
【0013】
本発明は、また、上述の特性の全て又は一部を有する方法によって予め形成された少なくとも2種類の構造パーツを組み立てる方法に関する。
【0014】
本発明の別の観点によれば、異なる弾性特性を有する2種類の組み立てパーツから三次元形状を製造するための下記からなるシステムが提案される。
相対的により高い弾性特性を有する変形パーツにテンションを負荷し、所定時間そのテンションを維持する手段;
相対的により低い弾性特性を有する構造パーツをテンションを負荷した状態の変形パーツと接着する手段;
三次元形状にするため、変形パーツをテンション負荷状態に維持する手段の失活。
【0015】
本発明のシステムは、また、2種類のパーツの少なくとも1つを、三次元形状を得た後にカットする手段を含む。
【0016】
本発明のシステムは、また、2種類のパーツの少なくとも1つを、変形パーツにテンションを負荷する前にカットする手段を含む。
【0017】
本発明によれば、皮革製の構造パーツが本発明システムにおいて用いられる。
【0018】
本発明は、また、前述の特性の全て又は一部を有するシステムによって予め形成された構造パーツを組み立てる手段を含む、少なくとも2種利の構造パーツを組み立てるためのシステムに関する。
【0019】
本発明のまた別の観点によれば、少なくとも一部が変形パーツと構造パーツの組立体から作られており、特に皮革製で、かつ、すでに詳細に記載した特性の全て又は一部を有する方法によって三次元形状に形成されたバッグのような皮革製品及び類似アイテムが提案されている。
【0020】
本発明の他の利点と特徴は、実施態様の記載にのみ限定されることはないが、各実施態様についての詳細な記載と添付下記図面によって明らかになる。
図1は、本発明方法の異なる各工程を示し、図2は、本発明方法を用いて得られた複合筒(包)体の断面図である。
【0021】
以下図1を用いて本発明の方法及び当該方法において実施した技術手段についても合わせて述べる。
【0022】
他の寸法に比較して薄く形成された厚さを有する、ある意味、スキン、シート又は層を形成する2種類のパーツが、本発明の方法を用いて組み立てられる。これら2種類のパーツは、それぞれ互いに異なる弾性特性を有する。製造される組立体のそれぞれの機能との関連から、相対的により高い弾性特性を有するパーツを“変形パーツ”と表現し、相対的により低い弾性特性を有するパーツを“構造パーツ”と表現する。
【0023】
構造パーツは、典型的には、皮革製である。構造パーツには、特に表面(フラットである場合)の平面又は接線方向におけるトラクション(摩擦)/圧縮においては必須の機械的安定性と剛性が求められる。構造パーツは、その表面に垂直に与えられたストレスの影響下で変形に抵抗する。この構造パーツには、また、相対的に良好な湾曲適性も求められる。このように、構造パーツは、材料の機械的強度と柔軟性の質を備えている。構造パーツに比較して優れた弾性特性を示す変形パーツに関しては、これらの機械的安定性、強度及び剛性について考慮する必要がある。
【0024】
最初に、“Bengaline Lycra”(登録商標)などの材料又は“elastane”(登録商標)に基づく材料から、変形パーツ1が調製されカットされる。この変形パーツは、装飾的又は想像的なデザインで織られていてもよい裏張り(裏地)を構成する。
【0025】
第1工程では、変形パーツ1が、求められる三次元形状の機能、即ち、結果的に構造パーツに変形を与える機能として、予め設定されたパターンに従ってカットされる。
【0026】
次いで、変形パーツ1は、その端部が挿入される2つの部品(治具)10、11を含んでなるテンション負荷機にセットされ、変形パーツの特性の一機能、特に弾性機能を発揮するように決められたテンション力Fにてテンションを負荷した状態で維持される(第2工程)。
【0027】
このテンション力Fは、変形パーツに負荷するテンションをその破断力未満になるように維持されなければならない。
【0028】
次いで、変形パーツ1の面の一つが、変形パーツ1に対向して配置された適当な装置12によってスプレーにより接着剤を塗布される(第3工程)。使用する接着剤は、環境条件、特に湿度レベル及び温度変化に対する最小限の感応性を有する強力な接着剤が好ましい。その接着剤は、水や熱に曝された場合収縮してはならない。例えば、“neoprene”(登録商標)又はその等価物が使用されうるが、環境と健康を尊重したものが好ましい。
【0029】
この工程と同時又はその前に、構造パーツ2が、皮革又は類似の材料から調整され、カットされる。この材料は、ボディ本体と三次元形状の袋状体の両方を構成する。変形パーツに応用されるために設計されたこれらの面の一つに、構造パーツが配置され、変形パーツを接着するために用いたものと同じ接着剤が施される(第4工程)。構造パーツ2が皮革である場合、接着剤はいわゆる“ヌバック(裏皮)面に施すことが好ましい。
【0030】
接着剤が塗布された変形パーツ1と構造パーツ2は、次いで、一緒にセットされ接着されるが、このとき、変形パーツ1は依然としてテンションが負荷した状態である(第5工程)。
【0031】
接着剤のセット時間が経過したら、テンション力Fは解放され、形成された複合パーツ1+2が外され、直ちに三次元湾曲形状に形成される(第6工程)。
【0032】
テンション力Fの解放により、以前伸長していた変形パーツ1は、元の形状に戻るため収縮する。しかしながら、変形パーツ1は、構造パーツ2による抵抗力が作用するため、正確には元の初期の形状に戻ることはない。複合パーツ1+2の湾曲は、構造パーツ2(剛性に関して)上と変形パーツ1(弾性に関して)上にそれぞれ作用するテンション力の相違、及び、これら2種類のパーツがお互いに堅固に接着される層1、2を形成するという事実とによって引き起こされる。変形パーツ1によって構造パーツ2へ与えられたストレスにより、構造パーツ2が凸状側に、変形パーツ1が凹状側に位置するように湾曲形状が形成される。
【0033】
構造パーツは、湾曲において作用する場合には、スプリングの機能を果たすということは留意されるべき事項でもある。
【0034】
この複合パーツ1+2は、他の構造パーツをアッセンブリすることにより完成される(第7工程)。
【0035】
このアッセンブリ(組み立て)は、縫製や接着などの公知の方法によって行うことができる。構造パーツ2の皮革製品への応用においては、バッグ20を形成するように、袋状体の端部を閉じる皮革22の他のピースによって完成される、例えば、袋状体形状を採用する。その後、取手21や締具(ファスナー)のような付属品がバッグ20に取り付けられる。
【0036】
上記の製造工程は、最新の工業的製造方法を用いて自動化することもできる。パーツのカット、テンションの負荷、接着剤の塗布、層の接着及びアッセンブリ(組み立て)のための装置には種々のものがあり、デジタル監視/操作手段と共に種々の装置を用いることができ、必要であれば、ロボット化することもできる。変形パーツのために用いる織物のような材料は、標準化された材料であり、それによって結果(最終完成品)に関する確実性、即ち、求められる三次元形状を確実に達成することができる。
【0037】
本発明方法は、構造パーツ及び変形パーツの表面が小さな場合及び大きな場合の両方に適用可能であることに留意すべきである。実際、パーツの表面は本発明の実施における決定的要因ではない。
【0038】
上記した皮革製品への応用において、得られたバッグ20は、構造(骨格)又は骨組みを形成するための特定の補強又は保持パーツを使用することなく永久に三次元形状を呈する。図2から分かるように、維持は皮革2(構造パーツ)の層を通して直接的に達成され、その皮革のグレイン側(表皮)23が筒の外面を構成する。変形は弾性特性を有する織物1(変形パーツ)の層によって引き起こされ、その一つの面はバッグの裏張りを構成し、接着剤3の層は皮革2の層のヌバック(裏皮)と織物1の層の対向する面との間に施されている。本発明の一つの利点は、構造パーツと変形パーツのそれぞれが3つの機能を演じているという事実にある。第1の機能は、所望の三次元形状を得るために必要な機械的特性、構造パーツの場合には強度特性、変形パーツの場合には収縮特性である。第2の機能は、容器(バッグの内壁)として覆い同時に形成することである。そして、第3の機能は、バッグの内外スタイル(視覚又は触覚)を作り上げることである。これらの3つの機能は共に接着された2種類のパーツによってのみ達成されるということは注目すべきことである。
【0039】
本発明は、勿論、上記の実施例のみに限定されるものではなく、数多くの変形が発明の範囲を超えない範囲でこれらの実施例に応用され得ることは言うまでもないことである。
【0040】
特に、三次元形状を製造する本発明の方法は、皮革製品の分野以外においても、種々の用途の対象物又は産業用創造物の製造に応用することができる。
【0041】
使用する材料は、2種類の組み立てパーツが異なる弾性特性を有しているという条件を満たしている限り、実質的に上記の材料と異なっていてもよいのである。
【図1】

【図2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに異なる弾性特性を有する構造パーツと変形パーツを組み立てることにより皮革製のバッグ又は類似アイテムの三次元形状を製造する方法であって、下記の工程からなることを特徴とする方法。
相対的により高い弾性特性を有する変形パーツにテンションを負荷する工程;
相対的により低い弾性特性を有する構造パーツをテンションを負荷した状態の前記変形パーツに接着する工程;
前記構造パーツにストレスを与えている前記変形パーツに負荷されているテンションを解放し、該構造パーツを湾曲することにより変形し、該構造パーツが凸状側に、前記変形パーツが凹状側に位置するように湾曲した状態の所望の三次元形状を得る工程。
【請求項2】
前記構造パーツと変形パーツが、厚さ以外の他の寸法に比べて厚さの薄いシート又はスキン状に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
三次元形状を製造するために用いる2種類の前記構造パーツと変形パーツの少なくとも1つをカットする工程を更に含むことを特徴とする請求項1〜2のいずれかに記載の方法。
【請求項4】
前記変形パーツにテンションを負荷する前に、前記2種類の構造パーツと変形パーツの少なくとも1つをカットする工程を更に含むことを特徴とする請求項1〜2のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記構造パーツと変形パーツに耐湿性の接着剤をスプレー塗布する接着工程を含んでなることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記構造パーツ上の接着剤塗布領域を定める工程を更に含むことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記構造パーツが皮革製であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
少なくとも2種類の構造パーツと変形パーツを用いる組み立て方法であって、前記構造パーツと変形パーツの少なくとも1つは、前記請求項1〜7のいずれかに記載の方法によって、予め形成されていることを特徴とする組み立て方法。
【請求項9】
互いに異なる弾性特性を有する構造パーツと変形パーツを組み立てることにより皮革製のバッグ又は類似アイテムの三次元形状を製造するシステムであって、下記の手段からなることを特徴とするシステム。
相対的により高い弾性特性を有する変形パーツにテンションを負荷し、所定時間当該テンションを維持する手段;
相対的により低い弾性特性を有する構造パーツをテンションを負荷した状態の前記変形パーツに接着する手段;
前記変形パーツに負荷されているテンションを解放し、前記構造パーツが凸状側に、前記変形パーツが凹状側に位置するように湾曲した状態の所望の三次元形状を得る手段。
【請求項10】
三次元形状を製造するために用いる前記2種類の構造パーツと変形パーツの少なくとも1つをカットする手段を更に含むことを特徴とする請求項9に記載のシステム。
【請求項11】
前記変形パーツにテンションを負荷する前に、前記2種類の構造パーツと変形パーツの少なくとも1つをカットする手段を更に含むことを特徴とする請求項9に記載のシステム。
【請求項12】
前記構造パーツが皮革製であることを特徴とする請求項9〜11のいずれかに記載のシステム。
【請求項13】
少なくとも2種類の構造パーツを用いて三次元形状に組み立てる方法であって、前記構造パーツの少なくとも1つは、前記請求項9〜12のいずれかに記載のシステムによって、予め形成されていることを特徴とする組み立て方法。
【請求項14】
少なくとも一部が互いに異なる弾性特性を有する2種類の組み立てパーツによって製造された皮革製品であって、前記2種類の組み立てパーツのうちの1つは、相対的により高い弾性特性を有する変形パーツであり、前記2種類の組み立てパーツのうちの他の1つは、相対的により低い弾性特性を有する構造パーツであり、これらの変形パーツと構造パーツは共に皮革製であり、該変形パーツに所定時間テンションを負荷し該構造パーツにストレスを与え、その後前記変形パーツに負荷したテンションを解放することにより、前記構造パーツが凸状側に、前記変形パーツが凹状側に位置するように湾曲した状態の所望の三次元形状が形成されてなることを特徴とする皮革製品。
【請求項15】
少なくとも一部が互いに異なる弾性特性を有する2種類の組み立てパーツによって製造されたバッグであって、前記2種類の組み立てパーツのうちの1つは、相対的により高い弾性特性を有する変形パーツであり、前記2種類の組み立てパーツのうちの他の1つは、相対的により低い弾性特性を有する構造パーツであり、これらの変形パーツと構造パーツは共に皮革製であり、該変形パーツに所定時間テンションを負荷し該構造パーツにストレスを与え、その後前記変形パーツに負荷したテンションを解放することにより、前記構造パーツが凸状側に、前記変形パーツが凹状側に位置するように湾曲した状態の所望の三次元形状が形成されてなることを特徴とするバッグ。

【公表番号】特表2011−525823(P2011−525823A)
【公表日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−515527(P2011−515527)
【出願日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際出願番号】PCT/FR2009/000793
【国際公開番号】WO2010/007242
【国際公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【出願人】(511000522)スカレラ ソシエテ ア レスポンサビリテ リミテ (1)
【氏名又は名称原語表記】SCALERA SARL
【住所又は居所原語表記】4 rue des gardes,F−75018 Paris(FR)
【Fターム(参考)】