説明

異なる熱伝達領域を有する超電導磁気コイル

本発明は超電導磁気コイルに関する。この磁気コイルは冷却のために、或る一定の充填レベルまでしか液体ヘリウムが充填されていないクライオスタット内に設置されている。このヘリウム溜まりの上部に或る温度層を有するヘリウムガス相が在り、そこには超電導が破られるかもしれない温度が部分的に存在する。そこでこの磁気コイルは、コイルとこれを取囲む媒体との間の熱伝達が異なる少なくとも2つの部分領域に分割されている。冷却のために十分な低温が支配的な状態下にある第1部分領域では熱伝達性が大きく、冷媒温度が臨界値を超えている状態下にある第2部分領域は熱絶縁性を有する。これにより第2部分領域ではコイルと冷媒との間の熱交換が生じず、第1部分領域ではコイルの冷却が行なわれる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は超電導磁気コイルおよびこの超電導磁気コイルを有する磁気共鳴トモグラフィー設備に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気共鳴トモグラフィー(MRT)では数テスラ程度、例えば3Tの主磁界を発生するために通常は複数の超電導コイルを有する複数の磁気コイルが利用され、これらのコイル巻線は1つの巻線支持体の中に及び/又は巻線支持体上に設置されている。これらの磁気コイルは冷却のために、一般には液体ヘリウムで運転されるクライオスタットの中に配置されている。
【0003】
通常、クライオスタットは少なくとも一部に液体ヘリウムが充填されている。しかしこれは一方ではコスト面から、他方、長期的には減少するヘリウム貯蔵量から不利である。
【0004】
超電導磁気コイルの冷却のための他の手段では液体ヘリウムが適切な配管内を循環する。しかしこの冷却システムは費用がかかり、同様に高コストである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで本発明の目的は、MRT設備に用いられる超電導磁気コイルのコスト的に有利で、かつ省資源的な冷却の可能性を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この課題は本願独立請求項に挙げられた発明により解決される。有利な実施形態は従属請求項に示されている。
【0007】
下方に、下部で、上方に、上部で、などの空間的な定義は鉛直線、すなわち、重力方向を基準にしている。
【0008】
本発明の基礎となる知見はCFD解析(コンピュータによる流体力学解析、あるいは数値的な流体力学解析)に拠るもので、これにより例えばMRT設備に使用されるクライオスタット中の予め与えられた様々なヘリウム充填レベル高さあるいはヘリウム充填レベルNにおけるガス状ヘリウムの流れ挙動が調査された。ここでは、クライオスタットは充填レベルNまで液体ヘリウムが充填され、液体ヘリウムHeliqの上部にはヘリウムガス相Hegasが存在していることが前提とされている。ヘリウムガス相の中にはさらに温度層が生じている。ヘリウムガス相Hegasの中は液相Heliq中よりも高温であり、これにより例えばクライオスタット中に組み込まれた磁気コイルにとってクエンチ、すなわち超電導の喪失、の危険が除外できない。
【0009】
上記解析の結果、超電導コイル巻線と巻線支持体とを有しクライオスタット中に配置された超電導磁気コイルを十分に冷却するクライオスタットは実際には液体ヘリウムで完全に充填する必要は無いことが分かった。この磁気コイルの温度は液体ヘリウムの貯蔵量が減少した場合にも、すなわちヘリウム充填レベルNが低下した場合にも、超電導臨界値より低く維持できる。
【0010】
CFD解析が具体的に示すところによれば、クライオスタットの充填レベルNが低い場合に、ヘリウムガス相において、すなわち液相の上方で、対流循環領域があるにもかかわらず温度の異なる複数の領域が存在し、これらが磁気コイルの冷却に有効に作用する。図1はクライオスタット20と、コイル巻線11と巻線支持体12とを有する磁気コイル10と、クライオスタット20内に存在する温度の異なる複数の領域A〜Dとによる断面の概略表示である。ここに示された断面においてコイル巻線11は巻線支持体12に埋め込まれている:すなわち、
クライオスタット20の領域Aには液体ヘリウムHeliqが在る。すなわち、ここではコイル巻線の理想的な冷却が行なわれる。コイル巻線温度と巻線支持体温度はヘリウムの沸点(4.2〜4.3K)の範囲に留まる。この領域Aは重力により当然ながらクライオスタット20の「下方」に存在する。
領域Aの上部に直接接するクライオスタット20の領域Bにはガス状ヘリウム(Hegas)が在る。このヘリウムガス温度THeは磁気コイル10のコイル巻線および巻線支持体の温度Tcoilよりも低い。すなわちTHe(B)<Tcoil(B)であり、これによりここでもまだ効果的な冷却が行なわれる。
領域Bのすぐ上部に在るクライオスタット20の領域Cにもガス状ヘリウム(Hegas)が在る。ヘリウムガス温度THeと、コイル巻線温度Tcoilおよび巻線支持体温度は等しい。すなわちTHe(C)=Tcoil(C)である。
領域Cのすぐ上部に在るクライオスタット20の領域Dにもガス状ヘリウム(Hegas)が在る。このヘリウムガス温度THeはコイル巻線温度Tcoilおよび巻線支持体温度よりも高い。すなわちTHe(D)>Tcoil(D)である。というのは、特にクライオスタット20の内壁21を介して熱が侵入するからである。この結果、領域D内のコイル巻線はヘリウムガスにより直接的に、巻線支持体により間接的に暖められ、それによりこの領域ではクエンチ発生の公算が高くなる。
【0011】
領域A〜Dの鉛直方向の広がりはクライオスタット内の液体ヘリウムHeliqの充填レベルNと、場合により生じるクライオスタットの外部から侵入する熱とに依存する。
【0012】
これらの知見を基に、磁気コイルとこれを取囲む冷媒との間の熱伝達を、異なる領域A〜Dをそれぞれ局所的に支配する条件に適合させることを提案する。すなわち、磁気コイルの冷却が行なわれる領域内に在る磁気コイルの複数の部分領域を、コイルを取囲む冷媒の温度が磁気コイルの温度より低いので、磁気コイルと冷媒との間で大きな熱伝達が可能となるように構成する。すなわちこの場合、磁気コイルとこれを取囲む冷媒との間で大きな熱量の交換が行なわれると良く、これにより磁気コイルから大量の熱をヘリウムに伝達することができる。これは上記の名称ではクライオスタットの領域AとBに該当する。
【0013】
これに加えて、あるいはこの替わりに、磁気コイルの温度よりもこれを取囲む冷媒の温度が高い領域に在る磁気コイルの部分領域を、磁気コイルとこれを取囲む媒体との間の熱伝達が妨げられるように構成し、これにより、理想的には冷媒から磁気コイルに熱が伝達されないようにする。その結果、この領域内の磁気コイルはこれを取囲む媒体により暖められないか、ほんの少ししか暖められない。これは特に領域Dに該当する。
【0014】
本発明によればこれにより少なくとも第1の部分領域と第2の部分領域とを備えた超電導磁気コイルが提案され、これらの部分領域は互いに空間的に分離されており、かつ、冷媒によって熱的にコンタクトしている。ここで、第1の部分領域と冷媒との熱伝達は、第2の部分領域と冷媒との熱伝達よりも大きい。
【0015】
磁気コイルの両部分領域の熱伝達係数が異なるように実現されると有利である。第1部分領域の熱伝達係数は第2部分領域の熱伝達係数よりも大きい。磁気コイルとこれを取囲む冷媒の特性をこのように互いに整合することによって、第1部分領域において第2部分領域よりも大きな熱量の交換が可能となる。
【0016】
有利な形態においては磁気コイルの複数の部分領域は異なる熱伝導率を有し、第1部分領域の熱伝導率は第2部分領域の熱伝導率よりも大きい。磁気コイルのこのように最適化された特性により、磁気コイルの第1部分領域が大量の熱量を冷媒に放出し、他方、第2部分領域がこれを取囲む冷媒から比較的僅かな熱量のみを受け取るように構成することが可能となる。
【0017】
磁気コイルがその第1部分領域に、この磁気コイルの表面積を大きくするために複数の表面パターン、特に複数の溝、複数のフィンまたは複数のテクスチャーを有すると有利である。これによりこの第1部分領域と冷媒との境界面での熱伝達がより高められる。
【0018】
磁気コイルがその第2部分領域に、この磁気コイルを冷媒から熱的に絶縁する熱絶縁性を有すると有利である。これによりこの第2部分領域と冷媒との間の熱伝達が低減される。
【0019】
磁気コイルがその第2部分領域に熱絶縁のための被覆、特に合成樹脂被覆を備えているか、熱絶縁材で巻かれていると有利である。これによりこの第2部分領域と冷媒との間の熱伝達が低減される。
【0020】
特別な形態では、この磁気コイルは本来の通電用コイルの他に1つの巻線支持体を有する。この巻線支持体の熱伝達係数は磁気コイルの第1部分領域において、磁気コイルの第2部分領域における巻線支持体の熱伝達係数よりも大きい。
【0021】
別の形態では、この巻線支持体の熱伝導率が磁気コイルの第1部分領域において、磁気コイルの第2部分領域における巻線支持体の熱伝導率よりも大きい。
【0022】
この磁気コイルが絶縁材、特に電気絶縁材を有していると有利であり、この場合、磁気コイルの第1部分領域におけるこの絶縁材の熱伝導率が磁気コイルの第2部分領域における絶縁材よりも大きい。
【0023】
本発明による磁気共鳴トモグラフィー設備は、本発明による超電導磁気コイルと内部に冷媒が在る1つのクライオスタットとを有する。ここでこの磁気コイルはこのクライオスタット内に設置されている。
【0024】
冷媒がこのクライオスタット内で少なくとも2つの集合体の状態、特にガスの状態および液の状態で存在すると有利である。
【0025】
有利な形態において、磁気コイルは、この磁気コイルの第1部分領域が少なくともその一部が液状冷媒によって、そして、この磁気コイルの第2部分領域が少なくともその一部がガス状冷媒によって取囲まれているように、クライオスタット内に配置されている。
【0026】
本発明の利点、特徴および個別事項は以下に記載される実施例と図面により明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】クライオスタットとその中に配置された磁気コイルの断面図であり、 この磁気コイルの異なる温度領域が示されている。
【図2】クライオスタットと磁気コイルの3次元図である。
【図3】クライオスタットとその中に配置された磁気コイルの断面図であり、 この磁気コイルの異なる温度領域と2つの部分領域が示されている。
【図4】クライオスタットとその中に配置された磁気コイルの断面図であり、 この磁気コイルの異なる温度領域と2つの異なる時点におけるこの磁 気コイルの3つの部分領域が示されている。
【発明を実施するための形態】
【0028】
これらの図においては同一の、あるいは互いに対応する領域、部分、部分グループまたは工程ステップは同一の符号で示されている。
【0029】
図2は冷却される超電導磁気コイル10とクライオスタット20の一例を簡略に分かり易く示したものである。図2では磁気コイル10とクライオスタット20が別々に示されている。例えばMRT設備用に組立てられた状態では磁気コイル10はクライオスタット20内に嵌め込まれている。これらの図では簡略化のためにただ1つの磁気コイル10が示されているが、このコイルは実際には一般的に複数の個別コイルからなる1つのシステムを含んでいる。
【0030】
この磁気コイル10は円筒状断面の肉厚の中空円筒形状を有し、ここでは詳細には示されていないが、一般に1つの巻線支持体と、多数の超電導導体巻線からなる超電導コイル巻線とで構成されている。このコイル巻線は、一部は巻線支持体に埋め込み、他の一部は巻線支持体の外側あるいは内側で巻線支持体に取り付けることができる。さらに磁気コイル10を電気絶縁体13で取囲むと良く(図3)、これによって、場合により生じる、隣接コイルおよび接地電位にある部品への短絡と電圧フラッシュオーバを防ぐことができる。この電気絶縁体13は種々のプラスチックやモールド樹脂、例えば酸化アルミニウム粉あるいはガラス球を有するエポキシ樹脂(例えば、商品名「Stycast」)で構成することができる。
【0031】
クライオスタット20は原理的に、異なる直径を有し、互いに嵌り合う同心状に配置された2つの中空円筒21、22で構成されている。この円筒21、22の外被表面間の空間は円筒の両端で閉鎖されており、この空間に冷媒、例えばヘリウムを溜めておくことができる。一般的には外側円筒21の直径は約2mであり、内側円筒22の直径は約1mである。円筒の長さは約2mである。患者をMRT設備で検査するためには、患者は内側円筒22の内部で図示されていない患者用ベッドに寝かされる。
【0032】
磁気コイル10あるいはコイル巻線の超電導を保証するためには、このコイルは相応の温度に冷却されねばならない。このために磁気コイル10はクライオスタット20内で円筒21、22の外被表面間の上述した空間内に設置されている。上述したように、そこには磁気コイル10、特に超電導コイル巻線の冷却に必要な冷媒(ヘリウム)も在る。磁気コイル10はヘリウムと接触しており、これにより磁気コイル10とヘリウムとの間の熱伝達が保証されている。しかし、前記空間は液体ヘリウムHeliqで完全には充填されておらず、重力によりクライオスタット内の下方でヘリウム溜まりに溜まった一部のみである。
【0033】
充填された量に応じてヘリウム溜まりの表面は充填レベルNとなる。この充填レベルNの下部には冒頭で「領域A」と記された領域が生じ、そこには液体ヘリウムが在る。レベルNの上部でこの液相Heliqにヘリウムガス相Hegasが直接接し、そこには領域Bが形成され、ここではガス温度THeは磁気コイル温度Tcoilよりも低い。さらに領域Bのすぐ上部、すなわち領域Cではガス温度THeは磁気コイル温度Tcoilと等しい。さらにその上の領域Dではガス温度THeは磁気コイル温度Tcoilよりも高い。このことから生じる磁気コイル10の冷却への効果は既に要約済である。:すなわち、磁気コイル10がクライオスタット20に組み込まれた状態で、有利にクライオスタット20の領域Aおよび場合によっては少なくとも部分的に領域Bに在る磁気コイル10の部分領域100(図2、図3)は冷却することができるが、他方、領域Dに在る磁気コイル10の部分領域200は加熱されるという不利が生じる。
【0034】
本発明によれば磁気コイル10は、少なくとも2つの部分領域100、200を有するように構成され、これらの領域が異なる熱伝導率あるいは熱伝達係数を有する。
【0035】
熱伝導率は1つの材料パラメータであり、単位はW/m/Kである。熱伝達係数は熱伝導率とは異なり、2つの固体間あるいは1つの固体と1つの流体の間の熱流を表す数値であって、その単位はW/m2/Kである。換言すると熱伝達係数は2つの媒体間の表面で交換される熱量ないしは熱エネルギを表す量、すなわち、或る温度差が在る場合に1つの媒体からもう1つの媒体への熱伝達の量を表す。熱伝達係数が大きいということは、温度差が小さい場合にも大きな熱量を1つの媒体からもう1つの媒体へ伝達することができることを意味する。このことは、熱伝達係数が大きい場合には、冷媒が対象物よりも冷たいという条件下では磁気コイルのようなこの対象物を効果的に冷却できることを意味する。
【0036】
熱伝達係数は一方では材料に依存している。例えば熱絶縁材は小さい熱伝達係数を有する。具体的には熱伝達係数は媒体間の温度差と比熱容量、密度、および排熱媒体ならびに熱搬送媒体の熱伝導率とに依存する。さらに熱伝達は当然ながら境界面の大きさないしは媒体間の表面の大きさにも依存する。
【0037】
磁気コイル10がクライオスタット20に組み込まれた状態で、磁気コイル10の第1部分領域100が例えばクライオスタット20の領域A、Bに在る場合には、この第1部分領域100では熱伝達係数が大きい。この大きな熱伝達係数により冷媒30と磁気コイル10の間で強い熱伝達が保証され、これにより磁気コイル10から大量の熱量が冷媒30に搬送される、あるいは所与の搬送熱量ではコイル温度は冷媒温度よりごく僅かだけ高くなる。
【0038】
磁気コイル10がクライオスタット20に組み込まれた状態では、磁気コイル10の第2部分領域200は領域Dに在る。この第2部分領域200では熱伝達係数が小さく、磁気コイル10と冷媒30との間の熱交換は最小となる。この小さい熱伝達係数は第2部分領域200における磁気コイル10の温度がほぼ一定に留まるように作用する、というのは磁気コイル10と冷媒30との間の熱伝導はこの場所で最小であるからである。領域Dでコイルに入ってくる熱は領域AとBで再び排出されねばならない。すなわち、領域Dにおける小さい熱伝達係数は、このコイルが領域AとBにおける冷媒温度よりもずっと高温にはならないようにするのに役立つ。
【0039】
磁気コイル10、特に巻線支持体12の材料を適切に選択することにより、熱伝達係数を必要に応じて調整することができる。さらに、この熱伝達係数は媒体間の、すなわち、磁気コイル10と冷媒30との間の境界面積を大きくすることにより高めることができる。
【0040】
部分領域100における熱伝達係数を高めるために、磁気コイル10とこれを取囲む冷媒30との間の境界面積を、たとえば平滑な表面を有する磁気コイルよりも大きくするとよい。このために磁気コイル10の表面に、複数の溝、複数のフィンあるいはその他の複数のテクスチャーなどの複数の表面パターンが付けられる。これに加えて、或いはこれに替えて、磁気コイル10の電気絶縁体13用に高い熱伝達性を有する、あるいは大きい熱伝導率を有する材料を選択することができる。これは例えば、0.2W/m/Kを大きく超える熱伝導率を有する絶縁材である。さらに、部分領域100における巻線支持体12も高い熱伝導率を有する材料で造ると良い。この巻線支持体12は一般的にはアルミニウム合金からなっている。しかし、例えばグラスファイバーで強化されたプラスチック(GFK)も適している。
【0041】
部分領域200での熱伝達を最小にすべく、この部分領域200を最も簡単な場合には小さい熱伝達係数と熱伝導率を有する断熱材210で構成する。例えば、磁気コイル10のこの部分領域200を、クライオスタット20に組み込む前に、合成樹脂(レジン)槽に浸漬し、部分領域200に付加的に絶縁性を有する合成樹脂被覆210を付けることができる。これに替えてこの絶縁被覆を例えば吹きつける、または塗りつけることもできる。また、この部分領域200を絶縁性材料、例えばTeflon(商品名)またはKapton(商品名)の包帯あるいは薄膜で包む、あるいは巻くことも考えられる。合成樹脂含浸された巻線も適している。
【0042】
部分領域200における巻線支持体12を熱伝導率の低い材料で造り、部分領域100における巻線支持体を熱伝導率の高い材料で造ることも可能である。
【0043】
特に充填レベルNが時間と共に低下する開放系では、磁気コイル10の部分領域100と200を決定し、寸法を決めるに際して、液体ヘリウム30の充填レベルNが、クライオスタット20に最初に充填した後で通常の運転において時間と共に低下することに留意すべきである。充填レベルNと共に領域BとCも磁気コイル10に対して相対的に下方に低下するが、領域Dは下方へ拡大する。この結果、最初は例えば領域Bに含まれていた領域がある時間後には領域Cに含まれることとなる。これにより、最初はまだ冷却されていた磁気コイル(領域BではTHe<Tcoil)が、その後、領域Cが大きく低下すると、もはや冷却されなくなる。極端な場合には充填レベルNと領域B、Cが大きく低下し、最初はまだ磁気コイル10の冷却が行なわれていた領域にまで領域Dが拡大することになる。
【0044】
他の実施形態では磁気コイル10が、部分領域100と200の間に設置されたもう1つの部分領域300を有することができる。部分領域300における熱伝達係数の値は部分領域100と200のおける熱伝達係数の間にある。
【0045】
部分領域100、200、300の寸法は理想的にはクライオスタット20内の液体ヘリウムの最初の充填レベルNに応じて決められる。その前提条件は、既述したように、クライオスタットのどの充填レベルまで通常は充填されるかである。クライオスタットの通常の運転については、充填レベルNと領域A、B、C、Dの位置と広がりが時間と共にどのように変化するか、そしてどの最低充填レベルNで液体ヘリウムが追加充填されるか、が分かっているので、磁気コイル10の部分領域100、200、300の寸法決めをこれらの変化を基に最適化することができる。
【0046】
この寸法決めは例えば図4に示されたように行うことができる。図4Aはクライオスタットを充填レベルNに充填した直後の時点t0における領域A、B、C、Dの位置と広がりを示す。図4Bは通常ならばこのクライオスタット20が液体ヘリウムを追加充填される、遅い時点t1における領域A、B、C、Dを示す。磁気コイル10の部分領域100、200、300は例えば、部分領域300が時点t1において領域Cにより最も広くカバーされるように寸法決めすることができる。これにより、磁気コイル10と冷媒30の間の大きな熱伝達が可能な磁気コイル10の部分領域100にまでは比較的高温の領域Dが広がらないことが保証される。ここで提案された寸法決めは当然ながら多くの可能性の中の1つを示したに過ぎない。同様に、部分領域100、200、300の寸法決めのための他のモデルも可能であるが、ここで注意すべきは、領域A、B、C、Dの位置と広がりが時間と共に変化するということである。
【0047】
磁気コイル10を4つあるいはそれ以上の部分領域で構成することにより、更に進んだ適合も可能である。
【符号の説明】
【0048】
10 磁気コイル
11 コイル巻線
12 巻線支持体
13 電気絶縁体
20 クライオスタット
100 磁気コイルの第1部分領域
200 磁気コイルの第2部分領域
300 磁気コイルの第3部分領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも第1の部分領域(100)と第2の部分領域(200)とを有する超電導磁気コイル(10)であって、これらの部分領域(100、200)が空間的には互いに分離され、冷媒(30)により熱的にコンタクトしているものにおいて、第1部分領域(100)と冷媒(30)との熱伝達が第2部分領域(200)と冷媒(30)との熱伝達よりも大きいことを特徴とする超電導磁気コイル(10)。
【請求項2】
前記磁気コイル(10)の部分領域(100)と部分領域(200)における熱伝達係数が異なり、第1部分領域(100)における熱伝達係数が第2部分領域(200)における熱伝達係数よりも大きいことを特徴とする請求項1に記載の超電導磁気コイル(10)。
【請求項3】
前記磁気コイル(10)の部分領域(100)と部分領域(200)における熱伝導率が異なり、第1部分領域(100)における熱伝導率が第2部分領域(200)における熱伝導率よりも大きいことを特徴とする請求項1または2に記載の超電導磁気コイル(10)。
【請求項4】
前記磁気コイル(10)がその表面積を大きくすべく、第1部分領域(100)に複数の表面パターン、特に複数の溝、複数のフィンまたは複数のテクスチャーを有することを特徴とする請求項1から3の1つに記載の超電導磁気コイル(10)。
【請求項5】
前記磁気コイル(10)が第2部分領域(200)にこの磁気コイル(10)を冷媒(30)から熱的に絶縁する熱絶縁体(210)を有することを特徴とする請求項1から4の1つに記載の超電導磁気コイル(10)。
【請求項6】
前記磁気コイル(10)が熱絶縁のために第2部分領域(200)において、
−被覆(210)、特に合成樹脂被覆で構成されているか、あるいは
−断熱性の材料(210)で巻かれている
ことを特徴とする請求項1から5の1つに記載の超電導磁気コイル(10)。
【請求項7】
前記磁気コイル(10)が1つの巻線支持体(12)を有し、この磁気コイル(10)の第1部分領域(100)における巻線支持体(12)の熱伝達係数がこの磁気コイル(10)の第2部分領域(200)における巻線支持体(12)の熱伝達係数よりも大きいことを特徴とする請求項1から6の1つに記載の超電導磁気コイル(10)。
【請求項8】
前記磁気コイル(10)が1つの巻線支持体(12)を有し、この磁気コイル(10)の第1部分領域(100)における巻線支持体(12)の熱伝導率がこの磁気コイル(10)の第2部分領域(200)における巻線支持体(12)の熱伝導率よりも大きいことを特徴とする請求項1から7の1つに記載の超電導磁気コイル(10)。
【請求項9】
前記磁気コイル(10)が絶縁体(13)、特に電気絶縁体を有し、この絶縁体(13)が磁気コイル(10)の第1部分領域(100)においてこの磁気コイル(10)の第2部分領域(200)よりも大きな熱伝導率を有することを特徴とする請求項1から8の1つに記載の超電導磁気コイル(10)。
【請求項10】
内部に冷媒(30)が在るクライオスタット(20)と請求項1から9の1つに記載の超電導磁気コイル(10)とを備え、この磁気コイル(10)がクライオスタット(20)の中に設置されている磁気共鳴トモグラフィー設備(MRT)。
【請求項11】
前記冷媒が前記クライオスタット中で少なくとも2つの集合体の状態、特にガスの状態と液体の状態で存在していることを特徴とする請求項10に記載の磁気共鳴トモグラフィー設備(MRT)。
【請求項12】
前記磁気コイル(10)の第1部分領域(100)が少なくとも部分的に液状冷媒により、第2部分領域(200)が少なくとも部分的にガス状冷媒により取囲まれていることを特徴とする請求項11に記載の磁気共鳴トモグラフィー設備(MRT)。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【公表番号】特表2012−523257(P2012−523257A)
【公表日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−503944(P2012−503944)
【出願日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際出願番号】PCT/EP2010/053493
【国際公開番号】WO2010/115690
【国際公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【出願人】(390039413)シーメンス アクチエンゲゼルシヤフト (2,104)
【氏名又は名称原語表記】Siemens Aktiengesellschaft
【住所又は居所原語表記】Wittelsbacherplatz 2, D−80333 Muenchen, Germany
【Fターム(参考)】