説明

異常燃焼検出装置及び内燃機関制御装置

【課題】コストが大きく増加することなくAD変換回路の入力レンジ範囲内の小さな異常燃焼から入力レンジ範囲を超える大きな異常燃焼を検出することができる異常燃焼検出装置及び内燃機関制御装置を安価に提供する。
【解決手段】AD変換回路8から出力されたデジタルデータに基づいて異常燃焼の大きさを判定すると共に、オーバーレンジ検出回路10がオーバーレンジを検出した場合は大きな異常燃焼を特定する。これにより、大きな異常燃焼と小さな異常燃焼を判断するための別々のAD変換回路を準備する必要がないので、安価に異常燃焼検出を実現できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の異常燃焼を検出する異常燃焼検出装置、及びこの異常燃焼検出装置を備えた内燃機関制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関の異常燃焼を検出する手段として内燃機関に振動センサを取付け、その振動センサからの波形を解析することにより内燃機関の異常燃焼を検出する方法が知られている(特許文献1参照)。尚、特許文献1には、検出方法は記載されているものの、振動センサからの波形を取得する具体的な回路の構成については記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2008−524489号公報
【特許文献2】特開平5−340331号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば過給式小型エンジンにおいて、振動センサから出力される波形を確実に取得するためには、正常燃焼による波形からその約40倍となる大きな異常燃焼による波形までを取得する必要がある。1つのAD変換回路を用いて異常燃焼を検出する場合、AD変換回路の入力レンジ範囲に波形(入力電圧)を収める必要があることから、大きな異常燃焼による波形に合わせると、ゲイン回路のゲインを小さく(例えば1/40倍)設定しなければならない。このため、小さな異常燃焼による波形が小さくなってしまうので、小さな異常燃焼の検出が困難となるという課題を生じる。
【0005】
このような課題を解決する方法として、ゲイン切替方法(特許文献2参照)、高分解能のAD変換回路を用いる方法、大きな異常燃焼と小さな異常燃焼とを判定するために別々のAD変換回路を用いる方法を容易に考え付くが、ゲイン切替方法は波形の大きさを検出してからゲインを切替えることから、ゲイン切替の遅延時間が生じ、異常燃焼判定期間毎に波形が激しく変化する場合にゲインが追従できず、微小波形の異常燃焼を正しく検出できないという課題がある。
一方、ノイズ成分と見分けが可能なように波形を正確に再現させる必要があることから、高速(例えば1MHzサンプリング)且つ高分解能(例えば16bit)のAD変換回路を用いているものの、このAD変換回路より更なる高分解能品や、このAD変換回路を2つ用いることは大変高価になるという課題もある。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、その目的は、振動センサから出力される波形をAD変換回路でデジタルデータに変換することにより内燃機関の異常燃焼を検出する構成において、AD変換回路の入力レンジ範囲内の小さな異常燃焼から入力レンジ範囲を超える大きな異常燃焼を検出することができる異常燃焼検出装置及び内燃機関制御装置を安価に提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
小さな異常燃焼による波形は正常燃焼による波形やノイズによる波形と正確に区別する必要があることから、正確な波形再現が必要となるが、大きな異常燃焼による大振幅の波形は振幅の大きさから明らかに異常と判断できる。そこで、請求項1の発明によれば、ゲインを正常燃焼と小さな異常燃焼とを比較できる適切な設定とし、AD変換回路の入力レンジ範囲を超えるような大振幅の波形では大きな異常燃焼を特定する。これにより、大きな異常燃焼と小さな異常燃焼を判定するための別々のAD変換回路を準備する必要がないことから、安価に異常燃焼検出を実現できる。
【0008】
請求項2の発明によれば、瞬間的に一定振幅を超えるノイズによる誤判定を防止することができる。
振動センサから出力される異常燃焼による波形には所定周波数以下、例えば23KHz以下の周波数成分を主に含むことが分っていることから、この周波数成分以外の23KHzを超えた周波数成分はノイズと判断してフィルタにより除き、23KHz以下の周波数成分のみの波形にて異常燃焼検出を実施する。この場合、AD変換回路の入力レンジ範囲を超える波形がAD変換回路に入力された場合は、超えた部分の波形が保護ダイオードにより削られることから、フィルタから出力される周波数成分がずれてしまうが、請求項3の発明によれば、フィルタにより誤って異なった周波数成分に変換されたデータにて異常燃焼を判断してしまうことを防止できる。
【0009】
請求項4の発明によれば、AD変換回路へ入力する波形の頂点が入力レンジ範囲の上限値と一致した場合は、波形の頂点が入力レンジ範囲の例えば上限値と点で接することになり検出が不安定となるが、このような場合であってもAD変換回路の入力レンジ範囲を超えることを確実に検出することができる。
請求項5の発明によれば、異常燃焼で発生しえる波形の最大周波数(例えば23KHz)にて一定電圧以上若しくは一定電圧以下となったとみなすことができる最小時間にて検出するようにしたので、異常燃焼で発生しえる波形が一定電圧以上若しくは一定電圧以下となったことを確実に検出できると共に、瞬間的なノイズによる誤判定を防止することができる。
請求項6の発明によれば、大きな異常燃焼は自然着火であり、最適な燃焼タイミングより早く発生することから、大きな異常燃焼が発生したタイミングでのクランク角度を検出することで内燃機関の点火タイミングを適切に制御することが可能となる。
【0010】
請求項7の発明によれば、アナログフィルタにより高周波のノイズを除去し、その後段にAD変換回路と検出回路を配置することでAD変換回路に入力される波形と同じ波形を検出回路に入力することができるので、AD変換回路入力する波形が一定電圧以上若しくは一定電圧以下となったことを確実に検出することができる。
請求項8の発明によれば、AD変換回路の基準電圧がずれた場合であっても検出回路の検出閾値も同様にずれることから、AD変換回路の基準電圧のズレに影響なく一定電圧以上若しくは一定電圧以下となったことを検出することができる。
請求項9の発明によれば、異常燃焼の大きさに応じて内燃機関を適正に制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施形態におけるエンジン制御装置の構成を示すブロック図
【図2】集積回路を示す機能ブロック図
【図3】波形の頂点がオーバーレンジ検出閾値と一致する場合のオーバーレンジ検出を説明する図
【図4】AD変換回路の入力波形の周波数と振幅の関係を示す図
【図5】異常燃焼信号を示す図
【図6】異常燃焼判定期間設定処理を示すフローチャート
【図7】異常燃焼判定処理を示すフローチャート
【図8】オーバーレンジ検出処理を示すフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一実施形態について図面を参照して説明する。
図1は、エンジン制御装置の構成を示すブロック図である。このエンジン制御装置1(異常燃焼検出装置、内燃機関制御装置に相当)は、4気筒式のガソリン式エンジン(内燃機関に相当)を制御するものである。
図示しないエンジンのシリンダブロックには振動センサ2が取付けられている。この振動センサ2はシリンダブロックの振動を検出するセンサで、異常燃焼検出時にシリンダブロックの振動に対応する信号(以下、異常燃焼信号という)を出力する。この異常燃焼信号の波形の大きさに基づいて燃焼の大きさ、つまり小さな異常燃焼か大きな異常燃焼かが判定される。小さな異常燃焼(ノック)とは、燃焼室内の混合気中に燃料と空気の混合状態が不均一となっている部分(特に、燃料が濃くなっている部分等、シリンダの端のガス(エンドガス)で自己着火し得る状態の燃料が残っている部分)が存在し、スパークプラグの点火により火炎伝播される前にその不均一部分で自己着火してしまう異常燃焼に起因してシリンダブロックが振動する現象である。大きな異常燃焼(プレイグニッション)とは、スパークプラグで点火する前にエンジン内部のカーボンが燃焼により赤熱状態になったものやスパークプラグそのものが過熱したヒートスポット(熱源)により自然着火してしまう異常燃焼に起因してシリンダブロックが振動する現象である。
【0013】
振動センサ2からの異常燃焼信号は、コネクタ3を介してエンジン制御装置1に接続されており、入力信号のうち、異常燃焼信号に対応した高周波信号成分を通過させ、直流成分を含む不要な低周波信号成分(例えば5KHz以下)を除去し、2.5Vを中心の信号に変換する入力回路4に入力され、入力回路4から入力された信号をゲイン回路5において所定のゲイン(例えば5倍〜1/5倍)で増幅若しくは減衰されてから集積回路6に与えられる。この集積回路6は、アナログフィルタ7、AD変換回路8、デジタルフィルタ9、オーバーレンジ検出回路10(検出回路に相当)、クランクタイマ11から構成されており、処理したデータをエンジン制御マイコン12(判定手段、クランク角度検出手段に相当)に出力する。
【0014】
一方、エンジンにはクランクセンサ13が取付けられており、クランク軸が所定のクランク角度(例えば180°)回転する毎にクランクタイマ11にパルス信号を出力する。クランクタイマ11は、クランクセンサ13からの信号に基づいて圧縮行程上死点(以下、TDCという)から次のTDCとなるまでのTDC間周期を検出してエンジン制御マイコン12に出力する。
【0015】
エンジン制御マイコン12は、CPU14、図示しないROM、及びRAM等から構成されており、ROMに記憶された各種のエンジン制御プログラムを実行することで、燃料噴射弁の燃料噴射量、燃料噴射時期、点火プラグの点火時期、吸気バルブ及び排気バルブの開弁タイミング等を制御する。また、エンジン制御マイコン12は、上記TDC間周期に基づいてTDCタイミングを基準としてクランク角度を推定し、推定したクランク角度が所定範囲角となる期間を異常燃焼判定期間に設定している。本実施形態では、各気筒のTDCタイミングの−20°CA前のタイミング(BTDC20°CAのタイミング)から、TDCタイミングの70°CA後のタイミング(ATDC70°CAタイミング)までの期間を異常燃焼判定区間に設定している。
【0016】
図2は集積回路6の機能ブロック図であり、アナログフィルタ7、このアナログフィルタ7の後段に並列接続されたAD変換回路8及びオーバーレンジ検出回路10、AD変換回路8の後段に接続されたデジタルフィルタ9を含んで構成されている。アナログフィルタ7の前段には内部電源ライン15及び内部グランドライン16とそれぞれ一端が接続されたクランプ用の保護ダイオード17,18の他端が接続されており、アナログフィルタ7に内部電源電位(一定電圧に相当)を超える波形が入力したときは内部電源電位にクランプされ、グランド電位(一定電圧に相当)を下回る波形が入力したときは内部グランド電位にクランプされる。
【0017】
振動センサ2から出力される異常燃焼信号は、異常燃焼信号に対応した高周波信号成分を通過させ、直流成分を含む不要な低周波信号成分を除去し、2.5Vを中心の信号に変換する入力回路4に入力され、異常燃焼成分として23KHz以下の信号成分を主に含んでいる。アナログフィルタ7は、AD変換回路8による1MHzサンプリングに対するエイリアシング除去を目的としたアンチエイリアスフィルタであり、遮断周波数は318KHzに設定されている。AD変換回路8は16bitの分解能を有し、サンプリング周波数は1MHzである。このようにサンプリング周波数が1MHzに設定されている理由は、異常燃焼信号に含まれる最大周波数である23KHzに対して十分なオーバーサンプリングとなるように設定することで、23KHz以下の信号帯域の減衰を抑制すると共に、折り返しノイズを縮小するためである。デジタルフィルタ9は、デシメーションに対するエイリアシング除去と、オーバーサンプリングによるナイキスト周波数(サンプリング周波数の1/2)以上の雑音低下を目的として設けられており、通過帯域は23KHz以下に設定されている。
【0018】
オーバーレンジ検出回路10は、AD変換回路8への入力レベルが所定のオーバーレンジ検出閾値を超えたかを検出するためのもので、第1の比較回路19、第2の比較回路20、アンド回路21から構成されている。オーバーレンジ検出閾値とは、AD変換回路8の入力レンジ範囲を超えたことを検出するための閾値のことで、本来はAD変換回路8の入力レンジ範囲の上限値及び下限値に設定すればよいが、オーバーレンジ検出閾値をAD変換回路8の入力レンジ範囲の上限値及び下限値と一致させた場合は後述するような不具合が発生することから、本実施形態では、オーバーレンジ検出閾値をAD変換回路8の入力レンジ範囲内の4.4V及び0.6Vに設定した。即ち、第1の比較回路19の非反転入力端子には4.4V(オーバーレンジ検出閾値に相当)の基準電圧が接続され、反転入力端子にアナログフィルタ7の出力側が接続されている。第2の比較回路20の非反転入力端子にはアナログフィルタ7の出力側が接続され、反転入力端子に0.6V(オーバーレンジ検出閾値に相当)の基準電圧が接続されている。これらの基準電圧は、図2に示すようにAD変換回路8の内部で直列接続された内部抵抗22で生成された基準電圧を用いている。尚、図2に示す内部抵抗22の数は実際の数とは異なっている。
【0019】
第1の比較回路19及び第2の比較回路20の出力端子はアンド回路21の入力端子と接続されており、アンド回路21の出力端子がエンジン制御マイコン12に接続されている。このような構成により、オーバーレンジ検出回路10からは、AD変換回路8に入力する異常燃焼信号の信号レベルが0.6V〜4.4Vの場合はハイレベル信号が出力され、4.4V以上または0.6V以下の場合はローベレル信号が出力されるので、ローレベル信号が出力されることを検出することでオーバーレンジを検出することができる。
【0020】
ここで、オーバーレンジ検出回路10によるオーバーレンジ検出の考え方について説明する。AD変換回路8の入力レンジ範囲が2.5Vを中心とした±2Vの0.5〜4.5Vであることから、例えば上限値の4.5Vをオーバーレンジ検出閾値として設定し、4.5Vを超える信号レベルをオーバーレンジとして検出すればよい。しかし、このように設定した場合において、図3に示すようにAD変換回路8へ入力する波形の頂点がオーバーレンジ検出閾値である4.5Vであった場合には、入力波形がオーバーレンジ検出閾値に点で接することになり、オーバーレンジ検出が不安定となる。そこで、本実施形態では、異常燃焼信号の中心レベルである2.5Vの±2Vの振幅95%である4.4V以上または0.6V以下(2.5中心±1.9V)をオーバーレンジ検出閾値として設定するようにした。これにより、AD変換回路8への入力波形の頂点が入力レンジ範囲の上限値或いは下限値であってもオーバーレンジを安定して検出することが可能となる。この場合、2.5V中心±2Vの波形がオーバーレンジ検出閾値以上となる時間は、振幅95%(一定振幅に相当)以上の時間比率T=ArcSin(V/Vpeak)/π=20%とした場合、1/23KHz(ノックMAX周波数)/2(半周期)×20%=4.3μs(所定時間に相当)と求めることができる。つまり、振幅1.9V以上を4.3μs間継続することを条件としてオーバーレンジを検出したと判定すればよい。この場合、23KHz以下の周波数の波形が入力レンジ範囲をオーバーレンジする波形(4.5V以上または0.5V以下)は検出閾値4.4V以上または0.6V以下の時間が4.3μs以上となることから、異常燃焼に対応する23KHz以下の異常燃焼の周波数を検出することができる。
【0021】
図4は4.3μ以上の時間4.4V以上または0.6V以下となるAD変換回路8の入力波形の周波数と振幅の関係を示す図である。図中に斜線で示す領域が、オーバーレンジ検出回路10がオーバーレンジを検出となる領域であり、それ以外はオーバーレンジを未検出となる領域である。斜線で示した領域のうち右斜線で示した領域が4.3μ以上の時間継続して4.4V以上または0.6V以下となる領域であり、左斜線で示した領域がそれ以外のノイズをオーバーレンジ検出として誤検出した領域である。従って、オーバーレンジ検出回路10から出力される信号がローレベルとなる時間が4.3μ以上となることを検出することで、AD変換回路8に入力レンジ範囲を超える波形が入力したことを判定することができる。
【0022】
さて、エンジン制御マイコン12は、異常燃焼信号の波形から異常燃焼の大きさを判定するために異常燃焼判定期間を設定する。
図6は、エンジン制御マイコン12による異常燃焼判定期間設定処理を示すフローチャートである。エンジン制御マイコン12は、クランクタイマ11からTDC間周期、つまりクランクが180°回転する時間を入力したときは(S601:YES)、そのTDC時間に基づいて5°CA時間、つまりクランクが5°回転する時間を演算する(S602)。次に、TDCタイミングに基づいて−20°CA(BTDC20°)〜70°CA(ATDC70°)となる期間を異常燃焼判定期間として設定する(S603)。
【0023】
図7はエンジン制御マイコン12による異常燃焼判定処理を示すフローチャートである。エンジン制御マイコン12は、上述のように設定した異常燃焼判定期間の開始であると判定したときは(S701:YES)、AD変換回路8のサンプリンタイムとなったかを判定し(S702)、サンプリンタイムとなったときは(S702:YES)、オーバーレンジ検出回路10がオーバーレンジを検出、つまりオーバーレンジ検出回路10からの検出信号がローレベルかを判定する(S703)。オーバーレンジを検出しなかった場合は(S703:NO)、AD変換回路8から出力されるデジタルデータを積算することを繰返す(S704、S705)。5°CA時間経過したときは(S705:YES)、クランクが5°回転したと判定し、積算値を記憶する(S706)。
【0024】
エンジン制御マイコン12は、上述した動作を繰返して実行し、異常燃焼判定期間が終了したときは(S707:YES)、異常燃焼を判定する(S708)。つまり、上述したようにBTDC20°〜ATDC70°のサンプリングタイム毎のデジタルデータが5°CA毎に積算して記憶されているので、その積算値のレベルから異常燃焼を判定することができる。異常燃焼の判定の結果、異常燃焼を検出したときは(S709:YES)、波形の大きさを判定する(S710)。
【0025】
図5は振動センサ2から出力される異常燃焼信号を示している。異常燃焼信号が示す異常燃焼は、小さな異常燃焼と大きな異常燃焼とに分類することができる。さらに、大きな異常燃焼は、波形がAD変換回路8の入力レンジ範囲内である場合と、入力レンジ範囲を超える場合とがあり、この異常燃焼判定処理では、AD変換回路8の入力レンジ範囲内で異常燃焼の大きさを判定する。つまり、エンジン制御マイコン12は、波形振幅が大きいときは(S710:大)、大きな異常燃焼を特定してから(S711)、クランク角度を特定し(S712)、波形振幅が小さいときは(S710:小)、小さな異常燃焼を特定してから(S713)、クランク角度を特定する(S714)。
そして、エンジン制御マイコン12は、上述のようにして特定した異常燃焼の大きさに基づいて、エンジンの点火タイミングを制御したり、燃料噴射量を制御したりする。
【0026】
一方、エンジン制御マイコン12は、オーバーレンジ検出処理を実行している。図8は、エンジン制御マイコン12によるオーバーレンジ検出処理を示すフローチャートである。エンジン制御マイコン12は、オーバーレンジ検出回路10からの検出信号がローレベル、つまりAD変換回路8に入力する波形が一定電圧以上である4.4V以上若しくは一定電圧以下である0.6V以下のときは(S801:YES)、検出時間を測定し(S802)、検出時間は4.3μs以上かを判定する(S803)。4.3μs以上のときは(S803:YES)、オーバーレンジを検出することになる(S804)。
そして、エンジン制御マイコン12は、上述のようにして特定した大きな異常燃焼に基づいて、エンジンの点火タイミングを制御したり、燃料噴射量を制御したりする。
【0027】
ところで、集積回路6の入力段にはクランプ用の保護ダイオード17,18が設けられていること及びAD変換回路8の入力レンジ以上の電圧が入力された場合は入力電圧のレンジ境界の値を出力することから、AD変換回路8に入力する波形が入力レンジ範囲を超えた場合は、オーバーレンジした入力波形が内部電源電位或いは内部グランド電位にクランプされてしまってその部分の波形が削られてしまうことから、AD変換回路8に入力する周波数成分がずれてしまい、デジタルフィルタ9により誤って異なる周波数成分に変換されたデジタルデータに基づいて異常燃焼を判定してしまうことになる。そこで、本実施形態では、エンジン制御マイコン12は、図7の異常燃焼判定において、オーバーレンジ検出回路10がオーバーレンジを検出した場合は(S703:YES)、ステップS707に移行することによりそのデータを使用しないようにした。これにより、エンジン制御マイコン12は、AD変換回路8に入力する波形の周波数成分がずれた場合であっても、デジタルデータに基づいて異常燃焼の大きさを正確に判定することが可能となる。
【0028】
このような実施形態によれば、AD変換回路8から出力されたデジタルデータに基づいて異常燃焼の大きさを判定すると共に、オーバーレンジ検出回路10がオーバーレンジを検出した場合は大きな異常燃焼を特定するようにしたので、大きな異常燃焼と小さな異常燃焼を判断するための別々のAD変換回路を準備する必要がなく、安価に異常燃焼検出を実現できる。
AD変換回路8に入力レンジ範囲を超える波形が入力した場合は、超えた部分の波形が保護ダイオード17,18により削られるにしても、入力電圧のレンジ境界の値を出力するにしても、デジタルフィルタ9により誤って異なった周波数成分に変換されたデジタルデータにて異常燃焼計算することを防止できる。
【0029】
オーバーレンジ検出閾値としてAD変換回路8の入力レンジ範囲内の4.4V或いは0.6Vに設定したので、AD変換回路8へ入力する波形の頂点が入力レンジ範囲の上限値である4.5Vと一致することによりオーバーレンジの検出が不安定となる場合であっても、AD変換回路8の入力レンジ範囲を超えることを確実に検出することができる。
異常燃焼で発生しえる波形の最大周波数である23KHzにてオーバーレンジしたとみなすことができる最小時間である4.3μsにてオーバーレンジを検出するようにしたので、異常燃焼で発生しえる波形がオーバーレンジすることを確実に検出できると共に、瞬間的なノイズによる誤判定を防止することができる。
【0030】
オーバーレンジを検出したタイミングのクランク角度を検出するようにしたので、大きな異常燃焼が最適な燃焼タイミングより早く発生するにしても、エンジンの点火タイミングを適切に制御することが可能となる。
アナログフィルタ7により高周波のノイズを除去し、その後段にAD変換回路8とオーバーレンジ検出回路10を配置することにより、AD変換回路8に入力される波形と同じ波形をオーバーレンジ検出回路10に入力するようにしたので、AD変換回路8に入力する波形のオーバーレンジを確実に検出することができる。
オーバーレンジ検出回路10の検出閾値としてAD変換回路8の内部で生成した基準電圧を用いるようにしたので、AD変換回路8の基準電圧がずれた場合であってもオーバーレンジ検出回路10の検出閾値も同様にずれることから、AD変換回路8の基準電圧のズレに影響なくオーバーレンジを検出することができる。
【0031】
(その他の実施形態)
オーバーレンジ検出回路10のオーバーレンジ検出閾値としてはAD変換回路8の入力レンジ範囲内であれば任意に設定すれば良い。
オーバーレンジ検出回路10のオーバーレンジレンジ検出閾値をAD変換回路8の入力レンジ範囲の上限値に設定しても良い。
保護ダイオード、フィルタは適宜設ければ良い。
【符号の説明】
【0032】
図面中、1はエンジン制御装置(異常燃焼検出装置、内燃機関制御装置)、2は振動センサ、5はゲイン回路、6は集積回路、7はアナログフィルタ、8はAD変換回路、9はデジタルフィルタ、10はオーバーレンジ検出回路(検出回路)、12はエンジン制御マイコン(判定手段、クランク角度検出手段)、17,18は保護ダイオードである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関に取付けた振動センサから出力される波形により異常燃焼を検出する異常燃焼検出装置において
前記振動センサから出力される波形を増幅若しくは減衰するゲイン回路と、
前記ゲイン回路から出力された波形をデジタルデータに変換するAD変換回路と、
前記AD変換回路に入力する波形が一定電圧以上若しくは一定電圧以下となったことを検出する回路と、
前記AD変換回路から出力されたデジタルデータに基づいて異常燃焼を判定すると共に、前記検出回路が一定電圧以上若しくは一定電圧以下を検出したときは大きな異常燃焼であると判定する判定手段と、
を備えたことを特徴とする異常燃焼検出装置。
【請求項2】
前記検出回路は、一定振幅以上の波形を所定時間以上検出したときに前記一定電圧以上若しくは一定電圧以下を検出したとすることを特徴とする請求項1記載の異常燃焼検出装置。
【請求項3】
前記AD変換回路から出力されたデジタルデータから特定周波数以上の周波数成分を除去するデジタルフィルタと、前記AD変換回路に入力する一定電圧を超える若しくは一定電圧を下回る波形を所定電圧にクランプする保護ダイオードとを備えた集積回路として構成され、
前記判定手段は、前記検出回路が前記一定振幅以上を検出した場合は、前記AD変換回路から出力されたデジタルデータを異常燃焼の判定として用いないことを特徴とする請求項2記載の異常燃焼検出装置。
【請求項4】
前記一定振幅は、前記AD変換回路の入力レンジ範囲内とすることを特徴とする請求項2または3に記載の異常燃焼検出装置。
【請求項5】
前記検出回路は、波形が以下の演算式で求めた継続時間T以上を満足した場合に前記一定振幅以上の波形であると判定することを特徴とする請求項2ないし4の何れかに記載の異常燃焼検出装置。
T=Arc Sin(V/Vpeak)π×{1/(2×f)}
f:周波数=異常燃焼で発生しえる最大周波数
V:入力レンジ超え検出範囲
Vpeak:入力レンジ範囲の上限値
【請求項6】
前記内燃機関のクランク角度を検出するクランク角度検出手段を備え、
前記クランク角度検出手段は、前記検出回路が前記一定振幅以上の波形を検出したタイミングでクランク角度を検出することを特徴とする請求項2ないし5の何れかに記載の異常燃焼検出装置。
【請求項7】
前記振動センサからの波形が入力するアナログフィルタを備え、
前記アナログフィルタの後段に前記AD変換回路及び前記検出回路が並列に設けられていることを特徴とする請求項1ないし6の何れかに記載の異常燃焼検出装置。
【請求項8】
前記一定振幅は、前記AD変換回路の内部で生成した基準電圧を用いることを特徴とする請求項2ないし7の何れかに記載の異常燃焼検出装置。
【請求項9】
請求項1ないし8の何れかの異常燃焼検出装置を備え、
前記異常燃焼検出装置が検出した異常燃焼の大きさに応じて前記内燃機関の燃料噴射量、燃料噴射時期、点火プラグの点火時期などを制御することを特徴とする内燃機関制御装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2013−19341(P2013−19341A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−153837(P2011−153837)
【出願日】平成23年7月12日(2011.7.12)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】