説明

異常蛋白質除去及び8−ヒドロキシ2’−デオキシグアノシン増加抑制用組成物

【課題】本発明の目的は、効果の高い異常蛋白質除去成分を配合した異常蛋白質除去用組成物を提供すること、またこの異常蛋白質除去成分を用いて、蛋白質分解異常による疾患の予防及び治療に寄与する抗老化用組成物を提供することである。
【解決手段】異常蛋白質除去成分としてαリポ酸を含有した組成物、健康食品、美容食品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、αリポ酸を含有することを特徴とする異常蛋白質除去用組成物および異常蛋白質蓄積を伴う疾病、酸化塩基化合物である8−ヒドロキシ2’−デオキシグアノシン生成が関与する疾病及び皮膚水分量の低下を伴う疾病の予防・改善に有効な組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
異常蛋白質とは、加齢などに伴い、酸化又は糖化又はアルデヒド修飾を受けた蛋白言い、本発明においては、カルボニル化蛋白質を言う。
異常蛋白質は年齢とともに増加し、蛋白質分解異常による生体内に蓄積した異常蛋白質が原因となる疾患又は障害(アルツハイマー病、パーキンソン病、レビー小体病、トリプレットリピート病、筋萎縮性側索硬化症、白内障、動脈硬化、糖尿病性腎症、皮膚の光老化、皮膚におけるしわ等)等、多くの疾病に関与することが明らかとなってきた(非特許文献1、2)。また、若年であっても、過度のストレス・紫外線等により生体内に慢性的に活性酸素が多量発生している場合、異常蛋白質の蓄積は加速する。
現在では蛋白質分解異常に起因する疾病の予防および治療が大きな課題となっているが、従来、これらの疾病への予防及び治療研究において、異常蛋白質の生体内蓄積防御に関しては、蛋白質の酸化修飾を防御する観点から研究がなされてきた。即ち、酸化ストレスにより生体防御機構で対応できない程度まで生成した活性酸素を、抗酸化物質を摂取することで消去し、蛋白質の酸化を抑えるという試みである。代表的な抗酸化物質としてはトコフェノール類やカロテノイド類、そして多種の植物に含まれるポリフェノール類がある。
【0003】
しかしながら、抗酸化物質の摂取は、生体内で発生する活性酸素の消去には寄与するが、既に蓄積している異常蛋白質の除去には何ら寄与しない。従って、加齢に伴って生体内に蓄積した異常蛋白質が関与する種々の疾患の予防及び治療には、異常蛋白質の除去が必須となる。既に異常蛋白質を除去する成分を探索した結果、大豆サポニン(特許文献1)及びケール(特許文献2)にその効果を見出されている。
また、最も主要なプリン塩基修飾物として知られる8−ヒドロキシ2’−デオキシグアノシンは、皮膚組織においても紫外線などの酸化ストレスにより増加することが知られている。表皮を構成するケラチノサイトにおける8−ヒドロキシ2’−デオキシグアノシンの増加は、p53の発現やピリミジン塩基修飾物のシクロチミジンダイマーの増加を相伴って皮膚がんの一因となりえる。また、DNA塩基中の8−ヒドロキシ2’−デオキシグアノシンはメラノサイトに作用してメラニン産生を促進する。よって、紫外線照射による8−ヒドロキシ2’−デオキシグアノシンの生成を抑制することによりメラニン産生が抑制されることになる。尚且つ、8−ヒドロキシ2’−デオキシグアノシンの生成を抑制することは、それだけ細胞のDNAの損傷を抑制することになり、線維芽細胞においてはコラーゲンの産生が促進されることになり、シワの改善につながることが期待される(特許文献3)。
【0004】
酸化カルボニル量と8−ヒドロキシ2’−デオキシグアノシンとは、イエバエなどの短寿命な生物種において加齢と共に正相関で増加することが知られている(非特許文献3)。また、単回の酸化ストレスを生体に与えた時、酸化カルボニル量と8−ヒドロキシ2’−デオキシグアノシンの量の増加は、8−ヒドロキシ2’−デオキシグアノシンが酸化カルボニルよりも一早く増加することが知られている(非特許文献4)。これらから予測される8−ヒドロキシ2’−デオキシグアノシンの異常増加を抑制することが異常蛋白除去効果に繋がるという見地に基づいて鋭意研鑽を重ねた結果、皮膚老化改善効果や皮膚水分量改善効果をはじめとする異常蛋白蓄積によって引き起こされる各種疾病の予防・治療になることを発見した。
【0005】
【特許文献1】特開2002-179592号公報
【特許文献2】特開2004−91398号公報
【特許文献3】特開2003−2819号公報
【非特許文献1】BIO clinica,11巻、第5号、1996年
【非特許文献2】The FASEB Journal、9巻、1173〜1182頁、1995年
【非特許文献3】Proc Natl Acad Sci U S A. 91巻、25号、1994年、12332-5頁
【非特許文献4】Free Radic Biol Med.;30巻、6号、2001年、613-24頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、さらに効果の高い異常蛋白質除去成分を特定し、その成分を配合した異常蛋白質除去用組成物を提供すること、またこの異常蛋白質除去成分を用いて、蛋白質分解異常による疾患の予防及び治療に寄与する抗老化用組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記の目的を達成するために、αリポ酸を用いて、異常蛋白質を除去する成分を探索した。その結果、αリポ酸に求める効果を見出し、本発明を完成するに至った。
本発明の主な構成は、以下のとおりである。
(1)αリポ酸を含有することを特徴とする異常蛋白質除去用組成物。
(2)αリポ酸を含有することを特徴とする8−ヒドロキシ2’−デオキシグアノシンの増加抑制用組成物。
(3)αリポ酸を含有することを特徴とする抗老化用組成物。
(4)αリポ酸を含有することを特徴とする皮膚水分量向上組成物。
(5)αリポ酸を含有することを特徴とする紫外線障害予防用組成物。
(6)αリポ酸を含有することを特徴とする皮膚のくすみ抑制用組成物。
(7)αリポ酸を含有することを特徴とするしわ抑制用組成物。
(8)(1)〜(7)いずれかに記載の組成物を含有することを特徴とする食品。
(9)αリポ酸の摂食量は50mg/日以上とすることを特徴とする(8)記載の食品。
【発明の効果】
【0008】
本発明の異常蛋白質蓄積抑制剤および8−ヒドロキシ2’−デオキシグアノシン増加抑制剤を用いれば、異常蛋白質の蓄積を抑制することができる。従って、本発明の製剤は、蛋白質分解異常による疾患又は障害(アルツハイマー病、パーキンソン病、レビー小体病、トリプレットリピート病、筋萎縮性側索硬化症、白内障、動脈硬化、糖尿病性腎症、皮膚の光老化、皮膚におけるしわ)等蛋白質分解異常による疾病の予防または治療において有効である。
異常蛋白質除去用有効成分として、αリポ酸を提供することで、摂取者は負担のない量を摂取するだけで高い異常蛋白質除去効果を得られ、上記のような異常蛋白質が原因となる疾病や障害の予防及び治療を行うことができる。さらに、抗老化用の食品としても有用である。
美容上の抗老化効果としては、皮膚の水分量低下、しわやくすみの防止などがあげられる。すなわち本発明の組成物は、老化予防および老化防止用健康食品、アンチエイジング美容食品、サビ予防およびサビ防止健康食品として用いることができる。本発明の異常蛋白質除去用組成物は、哺乳動物に対して、優れた作用を示し、且つ安全性が高い。
本発明の組成物は、溶血性のないものは注射剤として投与する等、非経口で適用することができる。また、医薬品、あるいは健康食品などの食品として、経口的に摂取することもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下に、本発明を詳細に説明する。
αリポ酸は1940年代の中頃肝臓及び酵母エキス中の微生物の生育を促進する含硫因子として発見されたビタミン様作用物質であり、1950年代の始めウシ及びブタの肝臓から単離・結晶化され、化学構造が決定された。リポ酸は動物・微生物界に広く存在しているが、現在、市販されているのは天然からの物ではなく、殆ど化学合成による造られた物である。αリポ酸およびその誘導体の合成は幾つかの方法が開発されている。現在専ら使われているのはアジピン酸からスタートする合成方法である。また、天然型のαリポ酸はD型体となっているが、一般的に利用されているαリポ酸は合成された光学異性体の1:1混合物(DL型体、ラセミ体)である。
【0010】
本発明において用い得るαリポ酸はD型体、L型体、またはラセミ体、或いはそれらの油脂コーティング物などが挙げられる。リポ酸の塩としては、ナトリウム塩,カリウム塩等のアルカリ金属の塩の他、アミン塩,アンモニウム塩等が挙げられる。また、本発明において用い得るリポ酸の誘導体としては、アルキル又はアルケニルエステル類、アミド類、還元体であるジヒドロリポ酸,そのアルキル又はアルケニルエステル及びアミド等が挙げられる。本発明においては、前記より1種又は2種以上を選択して用いる。基剤又は担体への添加量としては、全量中0.001〜5.0重量%程度とするのが適当である。
【0011】
本発明の異常蛋白質除去用組成物は、αリポ酸の他に抗酸化作用を有する化合物を含有させることができる。異常蛋白質除去作用を示す化合物と抗酸化作用を有する化合物とを含有する組成物は、抗老化作用を有し、異常蛋白質の蓄積防御および異常蛋白質除去機能を持つ抗老化用組成物を提供することができる。
抗酸化作用を示す化合物は、特に限定されるものではないが、例えばビタミンEやトコトリエノール等の様な各種ビタミン類、アスタキサンチンやリコペン等の様な各種カロチノイド類、シリマリンやカテキン等の様な各種ポリフェノール類、システインやグルタチオンの様な各種含硫化合物、あるいは補酵素Q10およびそれらを含有する天然成分などが挙げられる。
【0012】
本発明の異常蛋白質除去作用を有する組成物は、抗老化用の、健康食品や美容食品として使用することができる。美容上の抗老化効果としては、皮膚の水分量低下、しわやくすみの防止などがあげられる。すなわち本発明の組成物は、老化予防および老化防止用健康食品、アンチエイジング美容食品、サビ予防およびサビ防止健康食品として用いることができる。本発明の異常蛋白質除去用組成物は、哺乳動物に対して、優れた作用を示し、且つ安全性が高い。
【0013】
本発明の組成物は、溶血性のないものは注射剤として投与する等、非経口で適用することができる。また、医薬品、あるいは健康食品などの食品として、経口的に摂取することもできる。
本発明の組成物は、例えば水溶液、油剤、乳液、懸濁液等の液剤、ゲル、クリーム等の半固形剤、散剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤等の固形剤の形態で適用可能である。従来から公知の方法でこれらの形態に調製し、種々の剤型とすることができる。
本発明の組成物を食品の形態とする場合、食品の分野で通常使用されているでんぷんなどの添加成分を配合することができる。顆粒剤、錠剤、粉末剤、カプセル剤、液体の形態とすることができ、そのような製剤は、通常採用されている製剤化技術により製造することができる。
【0014】
本発明の異常蛋白質除去用組成物は、αリポ酸を有効成分として含有する他に、必要に応じ薬学的に許容される希釈剤または担体等の添加剤を含有することができる。また、本発明の組成物は、必要により、薬学的に活性な他の薬効成分を含有することができる。
【0015】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例等に限定されるものではない。
以下に本発明を実施例で、各種試験例に基づいて詳細に説明する。
【0016】
〔試験例1:過酸化脂質由来ラジカル消去能の測定〕
αリポ酸を含め各種抗酸化剤について、オレイン酸の紫外線照射によって発生する過酸化脂質由来ラジカルの消去能を測定し、比較検討した。
以下(1)〜(5)の各成分を50℃で混和させ、水 で全量を500mgに調整し、各種抗酸化剤を含む25%(w/w)オレイン酸含有ミセル溶液とした。抗酸化剤としては、αリポ酸、ジヒドロαリポ酸、L−システイン、グルタチオン(還元型)、グルタチオン(酸化型)をミセル溶液中に混合させた。
(1)水素添加レシチン((株)日光ケミカル製レシノールS−10)10.75mg
(2)PBS (pH7.4) 100μM
(3)抗酸化剤/1,3-ブチレングリコール:グリセロール(1:1;w/w)抗酸化剤の配合濃度は100μMから2000μMの間で任意で数濃度設定した。
(4)αPBN(α-Phenyl N−Butylnitrone/1,3-ブチレングリコール:グリセロール(1:1;w/w))100mM
(5)オレイン酸 125mg
【0017】
調整したオレイン酸含有ミセル溶液を市販の24ウェルプレートに加え、積算量100kJ/m(紫外線強度強度50W/mで20分間)の紫外線A波(FL32SBL/DMR:(株)クリニカルサプライ製)を溶液に照射してオレイン酸の過酸化を誘発し、過酸化脂質由来のラジカルを発生させた。
過酸化脂質由来のラジカルはオレイン酸含有ミセル溶液中のαPBNでトラップされ、PBN spin adductが形成されることから、ESRシグナル強度として検出できる。ESRシグナルは、JES−TE200(日本電子製)を用いて測定した。個々の試験条件におけるESRシグナル強度をSn、ラジカル消去率をQ(%)として、そのESRシグナルの大小から以下の計算式を用いてIC50濃度を算出し、各種抗酸化剤の過酸化ラジカル消去能を比較した。
【0018】
Q(%)=1−{(Sn〔sample〕−Sn〔blank〕)
/( Sn〔control〕−Sn〔blank〕)}
sample=各種抗酸化剤
blank=UV−A波未照射、及び抗酸化剤無添加
control=UV−A波100kJ/m照射、及び抗酸化剤無添加
ラジカル消去率Q(%)よりラジカル消去因子F:F=Q/100を算出し、
任意の抗酸化剤濃度における[抗酸化剤濃度]vs[F/1−F]の一次曲線を求めた。
【0019】
この一次曲線は、
[抗酸化剤濃度]vs[S/s−1]
*S/s−1 (S;抗酸化剤が無い条件下でのESRシグナル強度)
(s;抗酸化剤が在る条件下でのESRシグナル強度)
に相当する。
x軸→[抗酸化剤濃度] y軸→[F/1−F] にブロットして、y=1、すなわちF=0.5およびQ=50%の値に対するx値(濃度)からIC50濃度を算出した。
各種抗酸化剤の過酸化脂質由来ラジカル消去能(IC50濃度)を表1に示す。
【0020】
【表1】

【0021】
図1、および表1から、αリポ酸の濃度依存的に紫外線照射によって発生するラジカルの消去能が変化すること、およびαリポ酸の紫外線惹起性ラジカルの消去について、他の抗酸化剤よりも優れていることが理解できる。
【0022】
〔試験例2:αリポ酸のUV照射マウスの皮膚への効果試験〕
UVA波およびUVB波をヘアレスマウスに照射させてシワを形成させる試験系においてαリポ酸を経口摂取させてシワの抑制および皮膚老化抑制効果について検討を行った。
導入時6週齢のヘアレスマウス(Hos:HR−1雌)を用いて以下の1)〜9)の条件で試験を行った。
【0023】
1)試験対象物の調製および投与
ヘアレスマウスの群分けは投与開始日に、一般状態が良好な動物を体重により、群間での差が無いように1群5匹に振り分けた。なお、各々の個体は1ゲージ/群で飼育とした。
実施例2及び3では、マウス用飼料NF(オリエンタルバイオサービス製)に、それぞれαリポ酸が均一混ざるように混合処理を施し、混餌にて自由摂取させた。混合処理過程でγ線30kGy照射による滅菌工程を行っているが、αリポ酸が分解していないことをDTNB法(Archives of Biochemistry and Biophysics,Vol.120,Issue 1,1967,p.192−197)で確認した。
【0024】
比較対照として、比較例7及び8では、カロテノイド類の一種であるβカロテンとマウス用飼料NF(オリエンタルバイオサービス製)を均一混合処理し、混餌にて自由摂取させた。また本試験の対照群として、比較例5及び6にはαリポ酸及びβカロテンを混合しない飼料を摂取させ、比較例5はUV照射せず、比較例6はUV照射を行った。表2に投与群の一覧を示す。
【0025】
【表2】

【0026】
2)皮膚形態観察
皮膚表面部の写真撮影と採取したレプリカの判定を行った。シワ形成度合を指標として表3に示す判定基準に従って点数化して行った。
【0027】
【表3】

【0028】
但し、判定が困難な場合は0.5点、1.5点、2.5点の判定を認めるものとした。
【0029】
3)皮膚水分量の測定
水分量の測定は、モイスチャーチェッカーを用い、背部の尾付け根より首に向かい2cm、腰椎から右側に0.5cm部位を3回測定して平均を求めた。測定日は、試験開始日、中間観察日として紫外線照射4週間後および解剖日とした。
【0030】
4)皮膚粘弾性(硬度)の測定
皮膚粘弾性測定装置(Vesmeter:E−100S/ウエイブサイバー製)を用いて、背部の尾付け根より首に向かい2cm、腰椎から右側に0.5cm部位を3回測定して硬度の平均を求めた。測定日は解剖日とした。
【0031】
5)皮膚組織中酸化蛋白質の測定
酸化タンパク質即ちカルボニル化タンパク質は、酸化障害により生じたタンパク質のカルボニル基に特異的に結合する2,4-ジニトロフェニルヒドラジン(DNPH)を用いてカルボニル化タンパク質を標識後、DNPHに特異的に結合する抗DNPH抗体を用いて検出した。具体的な方法は以下の通りである。UV照射部位の皮膚1cmを切り取り、4℃にてPMSFを含む0.1Mトリスバッファー(pH7.5)1mlを加えてホモジナイズし、12000g×20分間遠心し、その上清をフィルターろ過したものを用いて、解析を行った。蛋白質のジニトロフェニルヒドラジン(DNPH)化は公知の方法(Nakamura他、Jounal of Biochemistry、119巻、768〜774頁、1996年)で行った。DNPH化した蛋白質をSDS−PAGEにより分離し、蛋白質転写装置を用いてPolyvinylidene difluoride(PVDF)膜に転写した。転写後の膜は常温下で30分5%スキム4℃でミルクを含むPBS(−)溶液中でブロッキングし、スキムミルクをPBS(−)で洗浄後、抗DNPH抗体と4℃で一晩反応させ、洗浄後、ビオチン化抗ラビットイムノグルブリンGと1時間反応させた。洗浄後、蛍光検出キット(ECL PLUS)を用いてPVDF膜を感光し、医療用自動現像装置にて画像を転写した。画像解析はトランスイルミネーターを用いて行なった。
【0032】
6)皮膚組織中8−ヒドロキシ2’−デオキシグアノシンの測定
8−ヒドロキシ2’−デオキシグアノシンは免疫組織化学的手法を用いて測定した。動物の解剖時に皮膚組織背部の尾付け根より首に向かい2cm、腰椎から右側に0.5cm部位の皮膚1cmを切り取り、ブアン固定、及びパラフィン包埋して皮膚組織を保存した。3μm厚の切片を適宜作製し、脱パラフィン、親水化は公知の方法に基づいて実施した。抗原賦活化は0.01Mクエン酸緩衝液(pH6.0)中でマイクロウェーブ処理5分を実施した。室温まで冷却後、常温下0.3%過酸化水素含有メタノールで20分反応させて内因性ペルオキシダーゼを阻害した。水洗、10mMPBS(−)洗浄後、ヤギ血清75倍10mMPBS(−)希釈溶液で5分間マイクロウェーブ処理を実施してブロッキング、血清を落として1次抗体(N45.1:日研ザイル(株)製)を5μg/mlで20分間マイクロウェーブ処理により抗体を反応させた。10mMPBS(−)で2回洗浄し、ビオチン化二次抗体(ビオチン化ヤギ免疫グロブリンM;DAKO製)を300倍希釈したものを5分間マイクロウェーブ処理で抗体を反応させた。10mMPBS(−)で2回洗浄し、ABC試薬(ABC−HRP;Vectastain製)を5分間マイクロウェーブ処理により反応させた。発色試薬としてDAB(3,3-ジアミノベンジジンテトラヒドロクロライド:DAKO製)を用いて3分30秒常温下で反応させた。水洗後、公知の方法に基づいて脱水、封入処理を行った。顕微鏡下で皮膚組織の染色状況を観察し、Adobe Photoshopを用いて画像を取り込み、画像中の一定面積中の染色箇所をNIH Imagingにて数値化した。
【0033】
7)UV照射
UV照射時は、動物を専用のPCケージに移し、1群ずつUVB20mJ/cmおよびUVA14J/cmを照射した。照射は隔日で10週間実施した。
【0034】
8)解剖
各群、本飼育期間終了翌日より18時間絶食後、ネンブタール(40mg/kg)腹腔内投与により麻酔を導入し解剖を実施した。4)皮膚組織中酸化蛋白質の測定用に皮膚切片を凍結保存し、5)皮膚組織中8−ヒドロキシ2’−デオキシグアノシンの測定用に皮膚切片をブアン液に浸潤した。
【0035】
9)統計処理
試験結果は平均値±標準偏差で表し、エクセル統計Student‘s t−testにより有意差検定を行った。
【0036】
以下に、試験例2の結果を順次示す。
1.一般状態観察
第4週目頃よりUV照射動物において、頭部の皮膚の軽度褐色化や頸部のしわの深さならびに後肢背部のしわがUV非照射動物に比較して目立つようになった。
解剖時の外観観察にでは、UV照射動物で顔、頸部および後肢背部のしわが明瞭に確認されたが、UV照射においてもαリポ酸高濃度およびαリポ酸低濃度摂取動物はその症状は軽度であり、特にαリポ酸高濃度摂取動物のしわの深度が浅く、肉眼的にはしわの色が薄く観られた。また、αリポ酸高濃度摂取動物は、コントロール群に比較して皮膚にしっとり感があり、特にUV+αリポ酸高濃度でその症状は顕著に感じられた。
【0037】
図2に示すように、紫外線照射により明確なシワの形成が認められ、同一紫外線照射条件下でαリポ酸混餌群では濃度依存的にシワ抑制効果が有意に認められた。一方、βカロテン混餌群ではシワの抑制効果は極僅かなものであり、濃度依存性も認められなかった。
【0038】
2.体重推移
体重推移は、各群大きな差異は認められなかった。
3.摂餌量
摂餌量についても体重推移同様に大きな差異は認められなかった。
4.肝臓重量
肝臓重量についても大きな差異は認められず異常な症状は観察されなかった。また、他の臓器についても異常は認められなかった。
【0039】
5.皮膚水分量
結果を図3に示す。
皮膚水分量はその数値が高いほど、皮膚中の水分が高い即ち保湿力が高いことが推測できる。UV照射により皮膚の水分量が低下することが一般的に知られており、本試験でも中間観察日、解剖日の水分量はコントロール群に比較してUV照射群では低くなっている。皮膚水分量の測定では、中間観察日で、UV 照射群に比較し、UV照射+αリポ酸摂取群は高い値を示した。解剖日の測定においても、UV照射群に比較してUV照射+αリポ酸低濃度摂食群が有意ではないものの高い値を示し、UV照射+αリポ酸高濃度摂食群では平均値において高い値を示した。
【0040】
6.皮膚粘弾性(硬度)
皮膚粘弾性の指標として知られる硬度は、その数値が高いほど皮膚老化が進行しUV照射により皮膚の弾力性が低下していることが一般的に知られている。この結果を図4に示す。UV非照射群において、UV照射+αリポ酸摂取群はUV照射群と比較して弾力性が有意に低かった。
【0041】
7.酸化蛋白質量
この結果を図5に示す。酸化蛋白質量はカルボニル化蛋白質量として検出される。カルボニル化タンパク質は、その数値が低いほど臓器における蓄積量が少ないことを示す。図5から明らかなように、酸化蛋白質量はUV照射によって、非照射に比べて著しく増加するものの、UV照射と並行してαリポ酸を投与した群では有意に減少し、高純度αリポ酸の酸化蛋白質除去効果を示した。
【0042】
8.皮膚組織中8−ヒドロキシ2’−デオキシグアノシンの測定
この結果を図6から図8に示す。図6のコントロール群の皮膚組織は表皮基底細胞(Basal Layer)の細胞核のみが僅かに染まる程度であるが、図7のUV照射群では表皮基底細胞よりも上層の細胞核も明確に染色されていることから、塩基の酸化損傷が起きていることが明確である。一方、図8のUV照射+αリポ酸摂食群の皮膚組織は表皮組織の染色がほとんど起こらず、基底細胞の染色程度もコントロール群と大差ない。図9にNIH Imagingで染色面積部分を数値化した結果を示す。コントロール群に対してUV照射群は約3倍8−ヒドロキシ2’−デオキシグアノシンの染色が亢進しているのに対して、UV照射+αリポ酸摂食群は濃度依存的に8−ヒドロキシ2’−デオキシグアノシンの生成抑制が認められた。
【0043】
以上の結果より、UV+αリポ酸摂食群は、UV照射+βカロテン摂食群やコントロール群に比べ、紫外線照射による皮膚ストレスに対しては水分量の減少を抑制し、さらに、かさつきやしわなどの生成を予防する効果を示す物質であることが確認された。また、αリポ酸摂取群は、酸化蛋白質量をβカロテン摂食群やコントロール群に比べ著しく減少させ、αリポ酸の酸化蛋白質除去効果の有効性を示した。さらに、αリポ酸投与により皮膚弾力性が高まる事が明らかになった。
【0044】
αリポ酸のマウスへの投与は、マウス一日の摂食量4g、体表面積換算式y=(3√x)2を用いてヒトへの投与量に換算するとαリポ酸高濃度摂食群0.1%の混餌自由摂取で約500mg/60kg体重、αリポ酸低濃度摂食群0.01%の混餌自由摂取で約50mg/日/60kg体重に相当し、食品として無理なく摂取することが可能な量である。
【0045】
[処方例]
処方例1 表4に示す様なリポ酸を含有するハードカプセル剤である。
処方例2 表4に示す様なリポ酸を含有するソフトカプセル剤である。
処方例3 表4に示す様なリポ酸を含有する植物性ソフトカプセル剤である。
処方例4 表4に示す様なリポ酸を含有する抗酸化目的とするソフトカプセル剤である。
【0046】
【表4】

【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】αリポ酸存在下での紫外線A波照射による脂質過酸化ラジカルの抑制効果を示した図である。αリポ酸の濃度依存的にESRシグナルが増減した。
【図2】UV照射試験におけるシワの発生程度を示した図である。グラフの高さはMeans±S.D(平均値±標準偏差)を表した。
【図3】UV照射試験におけるαリポ酸摂食と皮膚水分量の関係を表した図である。グラフの高さはMeans±S.D(平均値±標準偏差)を表した。
【図4】UV照射試験におけるαリポ酸摂食と皮膚弾力性(硬度)の関係を表した図である。グラフの高さはMeans±S.D(平均値±標準偏差)を表した。
【図5】UV照射試験におけるαリポ酸摂食と皮膚カルボニル化蛋白質の関係を表した図である。グラフの高さはMeans±S.D(平均値±標準偏差)を表した。
【図6】UV照射試験におけるコントロール群の皮膚切片の8−ヒドロキシ 2’−デオキシグアノシンの免疫化学染色図である。
【図7】UV照射試験におけるUV照射群の皮膚切片の8−ヒドロキシ 2’−デオキシグアノシンの免疫化学染色図である。
【図8】UV照射試験におけるUV照射+αリポ酸摂食群の皮膚切片の8−ヒドロキシ 2’−デオキシグアノシンの免疫化学染色図である。
【図9】UV照射試験における8−ヒドロキシ 2’−デオキシグアノシン染色の画像取り込みから色素を数値化した図である。グラフの高さはMeans±S.D(平均値±標準偏差)を表した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
αリポ酸を含有することを特徴とする異常蛋白質除去用組成物。
【請求項2】
αリポ酸を含有することを特徴とする8−ヒドロキシ2’−デオキシグアノシンの増加抑制用組成物。
【請求項3】
αリポ酸を含有することを特徴とする抗老化用組成物。
【請求項4】
αリポ酸を含有することを特徴とする皮膚水分量向上組成物。
【請求項5】
αリポ酸を含有することを特徴とする紫外線障害予防用組成物。
【請求項6】
αリポ酸を含有することを特徴とする皮膚のくすみ抑制用組成物。
【請求項7】
αリポ酸を含有することを特徴とするしわ抑制用組成物。
【請求項8】
請求項1〜7いずれかに記載の組成物を含有することを特徴とする食品。
【請求項9】
αリポ酸の摂食量は50mg/日以上とすることを特徴とする請求項8記載の食品。

【図3】
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【図4】
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【図1】
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【図2】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−321732(P2006−321732A)
【公開日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−144853(P2005−144853)
【出願日】平成17年5月18日(2005.5.18)
【出願人】(593106918)株式会社ファンケル (310)
【Fターム(参考)】