異形断面材及びその製造方法
【課題】複雑な断面形状であっても、通常の安価な塑性加工法により、製品形状の自由度を高くして、複雑な形状の異形断面材を製造する異形断面材の製造方法、およびこのような製造方法により得られた異形断面材を提供する。
【解決手段】ポーラス金属を素材1として、塑性加工法により異形断面材3を製造することを特徴とする異形断面材3の製造方法および前記製造方法により製造された異形断面材3。塑性加工法が、少なくとも一方のロールに溝ロール11を用いた圧延加工法である。薄部を形成する圧延部分に対する圧下率が、ポーラス金属の気孔率以下の圧下率である。
【解決手段】ポーラス金属を素材1として、塑性加工法により異形断面材3を製造することを特徴とする異形断面材3の製造方法および前記製造方法により製造された異形断面材3。塑性加工法が、少なくとも一方のロールに溝ロール11を用いた圧延加工法である。薄部を形成する圧延部分に対する圧下率が、ポーラス金属の気孔率以下の圧下率である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異形断面材及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
異形断面材は、断面が長方形や円形などの単純形状ではない素形材(例えば、板、条、棒など)であり、自動車や電子機器など様々な製品の部品として用いられている。特に、幅中央部が厚く両端部が薄いT形異形断面条は、パワートランジスタ用のリードフレーム材として多用されている。
【0003】
このような異形断面材の製造方法としては、従来より、金属材料を切削することにより所定の形状とする方法や、溶接を用いて金属材料を接合することにより所定の形状とする方法、あるいは圧延や鍛造、押出、引抜加工などを用いて金属材料を塑性加工することにより所定の形状とする方法などが採用されている。
【0004】
しかし、これら従来の方法には、以下のような問題点があった。即ち、切削や溶接を用いた方法の場合には、製品形状の自由度は大きいものの、製品強度、材料歩留まり、生産性の点で問題がある。一方、塑性加工を用いた方法の場合には、製品強度、材料歩留まり、生産性は優れているものの、製品形状の自由度が限られる点で問題がある。
【0005】
このように、従来の方法のいずれにも問題点があるが、塑性加工法により製造された異形断面材は、製品として重要な特性である強度特性に優れており、さらに、接合法により製造された異形断面材と異なり、締結部品を必要としないため、軽量化に対して貢献することができるため好ましい。
【0006】
しかし、塑性加工法の一例として、通常の中実の金属材料を用いて、一般的な圧延方法である溝ロールによる圧延により、平条から複雑断面を一方向にもつ異形断面条を製造する場合、塑性変形において体積変化が生じず、板材の圧延においては、幅方向の材料流動(幅広がり)は無視できるほど小さい。このため、薄く圧延された部分と厚く圧延された部分とにメタルフロー、即ち、長手方向に伸びの差が生じ、薄部では過剰伸びが生じて座屈波が発生して、しわ状の形状欠陥が生じる(図11参照)。一方、厚部も薄部に拘束されているため、厚部にも多少の伸びが生じて、板厚の減少(欠肉)を招く。この結果、所定の断面形状を得ることができない。
【0007】
また、平条の上部と下部では非対称圧延となるため、上部と下部に伸びの差が生じて、
平条の搬送方向に対して、顕著な上下反りを発生させる。
【0008】
このように、一般的な圧延方法である溝ロールにより、製品形状の自由度を高くして、複雑な形状の異形断面材を製造することは非常に困難であった。
【0009】
そこで、従来より、一般的な圧延方法に替えて、製品形状の自由度を高くして、複雑な形状の異形断面材を製造する塑性加工方法として、金型に往復運動するロールで材料を押し込んで成形を行うVミル圧延法や、多数の溝ロールを用いて徐々に薄部の幅を広げる多スタンドの連続圧延法などの特殊な圧延方法が採用されている(例えば、特許文献1、2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特公昭52−908号公報
【特許文献2】特公昭52−36512号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、これら、Vミル圧延法や多スタンドの連続圧延法などは、高い設備費を必要とし、また、金型に往復運動させたり、多数の溝ロールを用いて徐々に薄部の幅を広げる方法であるため、生産性を高めることが困難であった。このため、これらの圧延方法による異形断面材の価格は非常に高くならざるを得ず、本来塑性加工法が有する前記の優れた製品強度などの利点を充分に発揮させることができなかった。
【0012】
本発明者は、高価格にならざるを得ないVミル圧延法や多スタンドの連続圧延機による方法に替えて、溝ロールを用いた圧延加工法など通常の安価な塑性加工法により、安価に製品形状の自由度を高くして、複雑な形状の異形断面材を製造することができれば、塑性加工法が有する前記の利点、即ち、製品強度、軽量化、材料歩留まり、生産性が優れている特徴を充分に発揮させることができ、機械や自動車部品の製造工程において、経済的に大きなメリットを得ることができると考えた。
【0013】
そこで、本発明は、複雑な断面形状(例えば、厚部と薄部の板厚比が大きい形状)であっても、通常の安価な塑性加工法により、製品形状の自由度を高くして、複雑な形状の異形断面材を製造する異形断面材の製造方法、およびこのような製造方法により得られた異形断面材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、上記課題の解決につき鋭意検討の結果、以下の各請求項に示す発明により、上記課題が解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0015】
請求項1に記載の発明は、
ポーラス金属を素材として、塑性加工法により異形断面材を製造することを特徴とする異形断面材の製造方法である。
【0016】
本発明者は、上記の課題を解決するにあたり、塑性加工法に工夫を加えることを検討すると共に、発想を変えて、素材についても検討を行い、素材として、軽量構造材料、熱交換器材料、制振材料、フィルター、触媒担体材料として近年注目を集めているポーラス金属に着目した。
【0017】
そして、多くの実験により、ポーラス金属を素材として通常の塑性加工を行ったところ、複雑な断面形状の異形断面材であっても、容易に、良好な形状に形成することができ、異形断面材を高い生産性で安価に提供することができることが分かった。
【0018】
即ち、通常の塑性加工に用いられる中実の金属材料の場合、前記したように、溝ロールを用いて平条から板厚比の大きな異形断面材を成形することは困難であった。これに対し、ポーラス金属の場合には、内部に多くの気孔を有している。このため、圧延などの塑性変形に際しては、気孔が圧着、閉塞されることにより、板厚が減少して薄部が形成され、長手方向の延伸が抑制される。そして、薄部における延伸が抑制されるため、厚部における板厚の減少も抑制される。また、上下の伸びの差が抑制されることにより、上下反りの発生も抑制されるため、Vミル圧延法などを用いなくても、形状欠陥を発生させることなく、容易に複雑な断面形状の異形断面材を得ることができることが分かった。
【0019】
即ち、図4に示すように、ポーラス金属を用いて圧延を行った場合、気孔の閉塞により延伸が抑制されて、形状欠陥の発生が抑制されるため、容易に複雑な断面形状の異形断面材を得ることができることが分かった。なお、図4において、(a)は圧延前のポーラス金属(素材)を、(b)は圧延後のポーラス金属(異形断面材)の様子を示している。
【0020】
そして、ポーラス金属の気孔率やポーラス金属に対する圧縮率を調整することにより、中実の異形断面材からポーラス部を一部意図的に残した軽量化された異形断面材まで、幅広い製品に、容易に対応することができることが分かった。
【0021】
従来、ポーラス金属の技術分野においては、強度を維持させながら、如何にして気孔率を高くすることができるかなど、気孔の作製方法に研究の着眼が置かれており、わざわざ気孔を設けて作製したポーラス金属の気孔を閉塞させることや、中実体を作製するためにわざわざポーラス金属を作製することなどは、考えられないことであった。
【0022】
本発明者は、塑性加工の方法と共に、発想を変えて、用いる素材そのものに着目し、さらに、わざわざ種々の目的のために気孔が設けられたポーラス金属に着目するという発想の転換により本発明にたどりついたものである。
【0023】
ポーラス金属としては、内部に多数の気孔を有する金属材料であれば、オープンセル型、クローズドセル型、いずれのタイプのポーラス金属であってもよく、製造方法も限定されない。
【0024】
前記の通り、本請求項の発明においては、通常の塑性加工法を採用しているため、Vミル圧延法や連続圧延法などのように、特殊な加工機械や工具を必要とせず、通常の塑性加工機のみを用いて、高い生産性で成形することができる。
【0025】
そして、成形時には、ポーラス金属の気孔を閉塞させる方法を採用しているため、少ないパス数で充分に成形することができる。また、圧延荷重などの加工力を小さくすることができるため、コンパクトな加工機械で高い生産性を得ることができる。
【0026】
なお、本請求項の発明における異形断面材としては、例えば、前記したT形異形条の他、H形鋼やU形異形線などを挙げることができる。
【0027】
請求項2に記載の発明は、
前記塑性加工法が、少なくとも一方のロールに溝ロールを用いた圧延加工法であることを特徴とする請求項1に記載の異形断面材の製造方法である。
【0028】
塑性加工法としては、圧延加工法、鍛造加工法、押出加工法、引抜加工法など、種々の加工法を採用することができるが、生産性の観点から、溝ロールを用いた圧延加工法が好ましい。
【0029】
請求項3に記載の発明は、
前記圧延加工法において、薄部を形成する圧延部分に対する圧下率が、前記ポーラス金属の気孔率以下の圧下率であることを特徴とする請求項2に記載の異形断面材の製造方法である。
【0030】
ポーラス金属の場合、圧下率の増加に比例して、気孔が閉塞されてポーラス金属の体積が減少する。このため、気孔率を超える圧下率、即ち、薄部の気孔が全て閉塞した状態で圧延を行うと、前記した中実の素材を塑性加工する際の問題が発生する恐れがある。
【0031】
従って、薄部の気孔が全て閉塞した状態での圧延を避けるためには、圧下率はポーラス金属の気孔率以下とすることが好ましい。
【0032】
請求項4に記載の発明は、
前記ポーラス金属の一方の面がポーラス面、他方の面が平滑面であり、前記平滑面が前記溝ロールと接触するように圧延することを特徴とする請求項2または請求項3に記載の異形断面材の製造方法である。
【0033】
平滑面(スキン層)を溝ロール側に配置することにより、異形した面を所望する形状通りに正確に作製することができる。
【0034】
請求項5に記載の発明は、
前記ポーラス金属が、ロータス型ポーラス金属であることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の異形断面材の製造方法である。
【0035】
ロータス型ポーラス金属は、気孔が一方向に伸長したポーラス金属であり、通常の発泡金属に比べて、気孔の伸長方向に強い強度を有しているため、素材として好ましい。
【0036】
請求項6に記載の発明は、
前記ポーラス金属における気孔の伸長方向と一致する方向に圧延することを特徴とする請求項2ないし請求項5のいずれか1項に記載の異形断面材の製造方法である。
【0037】
気孔の伸長方向と一致する方向への圧延加工は割れの発生が抑制され、圧延も容易であるため好ましい。また、気孔の伸長方向と一致する方向へ圧延することにより、強度の低下を抑制することができる。
【0038】
請求項7に記載の発明は、
幅方向および/または長手方向に、異なる横断面形状および/または密度分布を有する異形断面材を製造することを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載の異形断面材の製造方法である。
【0039】
前記したように、ポーラス金属を塑性加工した場合、その気孔を圧着、閉塞することにより、長手方向の伸びの発生を抑制することができる。そして、圧下率の増加と気孔率の減少は相関しており、気孔率の変化は密度を変化させるため、圧下率を調整することにより、密度分布を有する異形断面材を成形することが可能となる。
【0040】
この密度分布は、幅方向(横断面内)および長手方向のいずれにも設定することができ、例えば、幅方向や長手方向の板厚に勾配がある異形断面材を製造することができる。
【0041】
また、ロールの周方向に突起を設けたりすることにより、三次元造形を容易に行うことも可能となるため、ラビットプロトタイピングへの応用も期待できる。
【0042】
請求項8に記載の発明は、
請求項1ないし請求項7のいずれか1項に記載の異形断面材の製造方法を用いて製造されていることを特徴とする異形断面材である。
【0043】
前記した各製造方法を用いて製造された異形断面材は、複雑な断面形状であっても、良好な形状に形成された異形断面材を、安価に提供することができる。
【0044】
請求項9に記載の発明は、
前記異形断面材が、パワートランジスタ用のリードフレーム材として用いられることを特徴とする請求項8に記載の異形断面材である。
【0045】
本発明に係る異形断面材は、パワートランジスタ用のリードフレーム材として用いた場合、特に顕著な効果を発揮する。
【発明の効果】
【0046】
本発明により、複雑な断面形状であっても、通常の安価な塑性加工法により、製品形状の自由度を高くして、複雑な形状の異形断面材を製造する異形断面材の製造方法、およびこのような製造方法により得られた異形断面材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】圧延素材の幅方向の断面を撮影した写真である。
【図2】切断されたスラブおよびスライスされた素材を模式的に示す斜視図である。
【図3】ノンポーラス材とポーラス材における圧下率と延伸率との関係を示す図である。
【図4】ポーラス金属を用いて圧延を行うことにより得られる異形断面材の断面図である。
【図5】実施の形態に用いた圧延機の斜視図である。
【図6】実施の形態における圧延を説明する図である。
【図7】圧延された各素材の圧延面を撮影した写真である。
【図8】圧延された各素材の側面を撮影した写真である。
【図9】圧延された各素材の断面を撮影した写真である。
【図10】圧下率と延伸率、および圧下率と厚部における板厚減少率の関係を説明する図である。
【図11】中実の金属材料の圧延における形状欠陥の発生を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0048】
以下、本発明を実施例に基づいて、図面を参照しつつ説明する。なお、以下の実施例においては、ポーラス金属としてロータス型ポーラス銅を用いたT形異形断面材の製造を例に挙げて説明する。
【実施例】
【0049】
1.圧延用素材の準備
(1)ポーラス金属の作製
最初に、純度99.99%の電気銅(住友金属鉱山社製)を用いて、連続鋳造法により、ロータス型ポーラス銅のスラブ(厚さ10mm、幅30mm)を作製した。スラブは、鋳造ガス雰囲気を変えることにより、気孔率30.9%のポーラス銅と、気孔率40.5%のポーラス銅の2種類を作製した。
【0050】
(2)圧延用素材の作製
得られた各スラブをマイクロカッターを用いて切断し、さらに、ワイヤー放電加工機(ブラザー工業社製、HS−300)にて厚さ2.9mmにスライスした後、長さを150mmに揃え、片面にスキン層を有する外側の2枚を圧延用素材とした(以下、各素材を、それぞれ「30%ポーラス材」および「40%ポーラス材」という)。
【0051】
(3)比較用素材の作成
また、比較のために、連続鋳造法により気孔率0%のノンポーラス銅のスラブを作製し、同じ寸法(厚さ2.9mm、幅30mm、長さ150mm)の比較用素材(以下、「ノンポーラス材」という)を作製した。
【0052】
図1に各素材の幅方向の断面を撮影した写真を示す。また、図2に切断されたスラブ(a)およびスライスされた素材(b)を模式的に示す。
【0053】
2.ポーラス金属による延伸抑制効果の確認
ノンポーラス材とポーラス材について、圧下率と延伸率との関係を測定した。結果を図3に示す。図3に示すように、ノンポーラス材では30%程度の圧下率で既に40%の延伸率に達しており、60%の圧下率では130%程度の延伸率を示している。これに対して、ポーラス材では60%の圧下率でも40%弱の延伸率に留まっており、ポーラス材には圧延時の延伸を抑制する効果があることが分かる。これは、ポーラス材が内部に多くの気孔を有しており、圧延時にはこの気孔が閉塞して素材を体積収縮させているためである。
【0054】
3.圧延
(イ)圧延機
圧延機としては、図5に示す圧延機を用い、図6に示すように圧延を行った。図5および図6に示すように、二段圧延機10は、上ロールとして幅方向の中央部に幅12mm、深さ1.5mmの溝11aが形成された溝ロール11を用い、下ロールとして溝の形成がない平ロール12を用いることにより、孔型ロールを構成している。ロール径は、いずれも100mmである。
【0055】
(ロ)圧延方法
鉱油ベース圧延油(出光興産社製、出光CU−50)を潤滑剤とし、ロール周速1m/minで、各素材のスキン層を溝ロール11に接触させながら、30%および50%の圧下率で1パス圧延を行った。なお、圧下率30%の場合の圧延荷重は、ノンポーラス材で43kN、30%ポーラス材で18kN、40%ポーラス材で12kNであった。
【0056】
なお、ここで言う「圧下率」とは、薄部の板厚減少率を指しており、以下の式により定義される。
【0057】
【数1】
【0058】
なお、上式において、h0は圧延前の板厚であり、hfは圧延後の薄部の板厚である。上式を用いると、板厚が2.9mm、溝深さが1.5mmのポーラス材の場合、52%の圧下率で厚部が溝に充満することが分かる。
【0059】
(ハ)圧延された素材について
各圧下率で圧延された各素材の圧延面、側面、および断面を撮影した写真をそれぞれ、図7、図8、図9に示す。図7〜図9において、TDは幅方向(Transverse Direction)を、NDは厚さ方向(Normal Direction)を、RDはロール方向(Rolling Direction)を示している。また、ウエブは厚部を、フランジは薄部を示している。
【0060】
図7に示すように、圧延面を観察すると、ノンポーラス材の場合、30%の圧下率でも、板幅の大きなうねりが生じており、圧下率50%ではうねりがさらに大きくなっていることが分かる。一方、30%ポーラス材の場合、圧下率30%ではうねりが生じていないが、圧下率50%ではうねりが生じていることが分かる。そして、40%ポーラス材の場合、圧下率30%ではうねりが生じておらず、圧下率50%でも殆どうねりが生じていないことが分かる。
【0061】
また、図8に示すように、側面を観察すると、ノンポーラス材の場合、30%の圧下率でも端部が上方(溝ロール側)に大きな反りが生じており、圧下率50%ではさらに大きな反りが生じていることが分かる。一方、30%ポーラス材の場合、圧下率30%では端部が下方に反っているが、圧下率50%では端部が上方に反っていることが分かる。そして、40%ポーラス材の場合、圧下率30%では端部が下方に反っており、圧下率50%では殆ど反りが生じていないことが分かる。
【0062】
また、図9に示すように、断面を観察すると、ノンポーラス材の場合、30%の圧下率でも、下ロールと厚部の間に欠肉が生じており、圧下率50%では欠肉がさらに大きくなっていることが分かる。一方、30%ポーラス材の場合、圧下率30%では欠肉が生じていないが、圧下率50%では欠肉が生じていることが分かる。そして、40%ポーラス材の場合、圧下率50%でも殆ど欠肉が生じていないことが分かる。
【0063】
このように、ノンポーラス材で大きなうねりや、反り、欠肉が生じたのは、圧延により薄部に過剰伸びが形成されたためである。一方、ポーラス材の場合には、気孔が閉塞されることにより過剰伸びの発生が抑制されるため、気孔が完全に閉塞されるまでは延伸が小さく、うねりや、反り、欠肉の発生を抑制する。
【0064】
このように過剰伸びの発生が抑制されるため、ポーラス材の圧延材は、ノンポーラス材の圧延材に比べ、長さが短い。その一方、うねりや、反り、欠肉の発生が抑制されるため、ポーラス材の圧延材に比べ、極めて平坦な形状の異形断面台材を得ることができる。
【0065】
(ニ)圧下率について
前記したように、ポーラス金属の場合、気孔率を超える圧下率、即ち、薄部の気孔が全て閉塞した状態で圧延を行うと、前記した中実の素材を塑性加工する際の問題が発生する恐れがあるため、圧下率はポーラス材の気孔率以下とすることが好ましい。しかし、本実施例においては、図7〜9に示すように、40%ポーラス材の場合、圧下率50%でも良好な圧延が得られている。これは、実際の板厚の減少は気孔の閉塞だけではなく、マトリックス部の変形も関係していることによる。
【0066】
(ホ)圧下率と延伸率、厚部における板厚減少率との関係について
上記に関し、圧下率と延伸率、および圧下率と厚部における板厚減少率の関係について、圧下率を10%ずつ変化させて(ノンポーラス材は圧下率50%まで、30%ポーラス材、40%ポーラス材は圧下率70%まで)、そのときの延伸率および厚部における板厚減少率を測定した。結果を、図10に示す。図10において、(a)は圧下率と延伸率の関係を示す図であり、(b)は圧下率と厚部における板厚減少率の関係を示す図である。なお、厚部における板厚減少率は、前記した圧下率を求める式におけるhf(圧延後の薄部の板厚)を、圧延後の厚部の板厚に置き換えることにより求められる。また、図10(a)、(b)に示す破線部は圧延により大きな破断が生じた箇所である。
【0067】
図10(a)より、ノンポーラス材の場合には、延伸率は直線的に増加するが、30%ポーラス材の場合には、圧下率30%までは緩やかな傾きで増加し、その後は急激に傾きが大きくなって増加している。また、40%ポーラス材の場合には、圧下率50%までは緩やかな傾きで増加し、その後は急激に傾きが大きくなって増加している。
【0068】
このように、ポーラス材の場合には、低圧下率では緩やかな傾きで増加し、一定以上の圧下率となると急激に傾きが大きくなって増加することが分かる。
【0069】
また、図10(b)よりノンポーラス材の場合には、圧下率の増加に対してほぼ直線的に厚部の板厚減少率が大きくなっているが、30%ポーラス材の場合には、圧下率40%までは比較的小さい傾きで増加し、それ以降は急激に大きくなっており、40%ポーラス材の場合も同様に、圧下率60%以上で急激に大きくなっていることが分かる。
【0070】
(ヘ)まとめ
このように本実施の形態においては、ポーラス材を用いて気孔が完全に閉塞されない状態で圧延することにより、横断面形状が優れた異形断面材を得ることができる。また、気孔が閉塞される時まで圧延することにより、従来のような気孔がない中実タイプの製品でありながら、横断面形状が優れた異形断面材を得ることができる。
【0071】
また、加工に際しては、上記した通り一般的な圧延機を用いることができる。そして、1パスという少ないパス数で成形することができる。また、小さい圧延荷重で成形することができる。この結果、生産性を著しく高めることができる。
【0072】
以上、本発明を実施の形態に基づき説明したが、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではない。本発明と同一および均等の範囲内において、上記の実施の形態に対して種々の変更を加えることが可能である。
【符号の説明】
【0073】
1 素材
2 気孔
3 異形断面材
4 薄部
5 厚部
10 圧延機
11 溝ロール
11a 溝
12 平ロール
【技術分野】
【0001】
本発明は、異形断面材及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
異形断面材は、断面が長方形や円形などの単純形状ではない素形材(例えば、板、条、棒など)であり、自動車や電子機器など様々な製品の部品として用いられている。特に、幅中央部が厚く両端部が薄いT形異形断面条は、パワートランジスタ用のリードフレーム材として多用されている。
【0003】
このような異形断面材の製造方法としては、従来より、金属材料を切削することにより所定の形状とする方法や、溶接を用いて金属材料を接合することにより所定の形状とする方法、あるいは圧延や鍛造、押出、引抜加工などを用いて金属材料を塑性加工することにより所定の形状とする方法などが採用されている。
【0004】
しかし、これら従来の方法には、以下のような問題点があった。即ち、切削や溶接を用いた方法の場合には、製品形状の自由度は大きいものの、製品強度、材料歩留まり、生産性の点で問題がある。一方、塑性加工を用いた方法の場合には、製品強度、材料歩留まり、生産性は優れているものの、製品形状の自由度が限られる点で問題がある。
【0005】
このように、従来の方法のいずれにも問題点があるが、塑性加工法により製造された異形断面材は、製品として重要な特性である強度特性に優れており、さらに、接合法により製造された異形断面材と異なり、締結部品を必要としないため、軽量化に対して貢献することができるため好ましい。
【0006】
しかし、塑性加工法の一例として、通常の中実の金属材料を用いて、一般的な圧延方法である溝ロールによる圧延により、平条から複雑断面を一方向にもつ異形断面条を製造する場合、塑性変形において体積変化が生じず、板材の圧延においては、幅方向の材料流動(幅広がり)は無視できるほど小さい。このため、薄く圧延された部分と厚く圧延された部分とにメタルフロー、即ち、長手方向に伸びの差が生じ、薄部では過剰伸びが生じて座屈波が発生して、しわ状の形状欠陥が生じる(図11参照)。一方、厚部も薄部に拘束されているため、厚部にも多少の伸びが生じて、板厚の減少(欠肉)を招く。この結果、所定の断面形状を得ることができない。
【0007】
また、平条の上部と下部では非対称圧延となるため、上部と下部に伸びの差が生じて、
平条の搬送方向に対して、顕著な上下反りを発生させる。
【0008】
このように、一般的な圧延方法である溝ロールにより、製品形状の自由度を高くして、複雑な形状の異形断面材を製造することは非常に困難であった。
【0009】
そこで、従来より、一般的な圧延方法に替えて、製品形状の自由度を高くして、複雑な形状の異形断面材を製造する塑性加工方法として、金型に往復運動するロールで材料を押し込んで成形を行うVミル圧延法や、多数の溝ロールを用いて徐々に薄部の幅を広げる多スタンドの連続圧延法などの特殊な圧延方法が採用されている(例えば、特許文献1、2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特公昭52−908号公報
【特許文献2】特公昭52−36512号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、これら、Vミル圧延法や多スタンドの連続圧延法などは、高い設備費を必要とし、また、金型に往復運動させたり、多数の溝ロールを用いて徐々に薄部の幅を広げる方法であるため、生産性を高めることが困難であった。このため、これらの圧延方法による異形断面材の価格は非常に高くならざるを得ず、本来塑性加工法が有する前記の優れた製品強度などの利点を充分に発揮させることができなかった。
【0012】
本発明者は、高価格にならざるを得ないVミル圧延法や多スタンドの連続圧延機による方法に替えて、溝ロールを用いた圧延加工法など通常の安価な塑性加工法により、安価に製品形状の自由度を高くして、複雑な形状の異形断面材を製造することができれば、塑性加工法が有する前記の利点、即ち、製品強度、軽量化、材料歩留まり、生産性が優れている特徴を充分に発揮させることができ、機械や自動車部品の製造工程において、経済的に大きなメリットを得ることができると考えた。
【0013】
そこで、本発明は、複雑な断面形状(例えば、厚部と薄部の板厚比が大きい形状)であっても、通常の安価な塑性加工法により、製品形状の自由度を高くして、複雑な形状の異形断面材を製造する異形断面材の製造方法、およびこのような製造方法により得られた異形断面材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、上記課題の解決につき鋭意検討の結果、以下の各請求項に示す発明により、上記課題が解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0015】
請求項1に記載の発明は、
ポーラス金属を素材として、塑性加工法により異形断面材を製造することを特徴とする異形断面材の製造方法である。
【0016】
本発明者は、上記の課題を解決するにあたり、塑性加工法に工夫を加えることを検討すると共に、発想を変えて、素材についても検討を行い、素材として、軽量構造材料、熱交換器材料、制振材料、フィルター、触媒担体材料として近年注目を集めているポーラス金属に着目した。
【0017】
そして、多くの実験により、ポーラス金属を素材として通常の塑性加工を行ったところ、複雑な断面形状の異形断面材であっても、容易に、良好な形状に形成することができ、異形断面材を高い生産性で安価に提供することができることが分かった。
【0018】
即ち、通常の塑性加工に用いられる中実の金属材料の場合、前記したように、溝ロールを用いて平条から板厚比の大きな異形断面材を成形することは困難であった。これに対し、ポーラス金属の場合には、内部に多くの気孔を有している。このため、圧延などの塑性変形に際しては、気孔が圧着、閉塞されることにより、板厚が減少して薄部が形成され、長手方向の延伸が抑制される。そして、薄部における延伸が抑制されるため、厚部における板厚の減少も抑制される。また、上下の伸びの差が抑制されることにより、上下反りの発生も抑制されるため、Vミル圧延法などを用いなくても、形状欠陥を発生させることなく、容易に複雑な断面形状の異形断面材を得ることができることが分かった。
【0019】
即ち、図4に示すように、ポーラス金属を用いて圧延を行った場合、気孔の閉塞により延伸が抑制されて、形状欠陥の発生が抑制されるため、容易に複雑な断面形状の異形断面材を得ることができることが分かった。なお、図4において、(a)は圧延前のポーラス金属(素材)を、(b)は圧延後のポーラス金属(異形断面材)の様子を示している。
【0020】
そして、ポーラス金属の気孔率やポーラス金属に対する圧縮率を調整することにより、中実の異形断面材からポーラス部を一部意図的に残した軽量化された異形断面材まで、幅広い製品に、容易に対応することができることが分かった。
【0021】
従来、ポーラス金属の技術分野においては、強度を維持させながら、如何にして気孔率を高くすることができるかなど、気孔の作製方法に研究の着眼が置かれており、わざわざ気孔を設けて作製したポーラス金属の気孔を閉塞させることや、中実体を作製するためにわざわざポーラス金属を作製することなどは、考えられないことであった。
【0022】
本発明者は、塑性加工の方法と共に、発想を変えて、用いる素材そのものに着目し、さらに、わざわざ種々の目的のために気孔が設けられたポーラス金属に着目するという発想の転換により本発明にたどりついたものである。
【0023】
ポーラス金属としては、内部に多数の気孔を有する金属材料であれば、オープンセル型、クローズドセル型、いずれのタイプのポーラス金属であってもよく、製造方法も限定されない。
【0024】
前記の通り、本請求項の発明においては、通常の塑性加工法を採用しているため、Vミル圧延法や連続圧延法などのように、特殊な加工機械や工具を必要とせず、通常の塑性加工機のみを用いて、高い生産性で成形することができる。
【0025】
そして、成形時には、ポーラス金属の気孔を閉塞させる方法を採用しているため、少ないパス数で充分に成形することができる。また、圧延荷重などの加工力を小さくすることができるため、コンパクトな加工機械で高い生産性を得ることができる。
【0026】
なお、本請求項の発明における異形断面材としては、例えば、前記したT形異形条の他、H形鋼やU形異形線などを挙げることができる。
【0027】
請求項2に記載の発明は、
前記塑性加工法が、少なくとも一方のロールに溝ロールを用いた圧延加工法であることを特徴とする請求項1に記載の異形断面材の製造方法である。
【0028】
塑性加工法としては、圧延加工法、鍛造加工法、押出加工法、引抜加工法など、種々の加工法を採用することができるが、生産性の観点から、溝ロールを用いた圧延加工法が好ましい。
【0029】
請求項3に記載の発明は、
前記圧延加工法において、薄部を形成する圧延部分に対する圧下率が、前記ポーラス金属の気孔率以下の圧下率であることを特徴とする請求項2に記載の異形断面材の製造方法である。
【0030】
ポーラス金属の場合、圧下率の増加に比例して、気孔が閉塞されてポーラス金属の体積が減少する。このため、気孔率を超える圧下率、即ち、薄部の気孔が全て閉塞した状態で圧延を行うと、前記した中実の素材を塑性加工する際の問題が発生する恐れがある。
【0031】
従って、薄部の気孔が全て閉塞した状態での圧延を避けるためには、圧下率はポーラス金属の気孔率以下とすることが好ましい。
【0032】
請求項4に記載の発明は、
前記ポーラス金属の一方の面がポーラス面、他方の面が平滑面であり、前記平滑面が前記溝ロールと接触するように圧延することを特徴とする請求項2または請求項3に記載の異形断面材の製造方法である。
【0033】
平滑面(スキン層)を溝ロール側に配置することにより、異形した面を所望する形状通りに正確に作製することができる。
【0034】
請求項5に記載の発明は、
前記ポーラス金属が、ロータス型ポーラス金属であることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の異形断面材の製造方法である。
【0035】
ロータス型ポーラス金属は、気孔が一方向に伸長したポーラス金属であり、通常の発泡金属に比べて、気孔の伸長方向に強い強度を有しているため、素材として好ましい。
【0036】
請求項6に記載の発明は、
前記ポーラス金属における気孔の伸長方向と一致する方向に圧延することを特徴とする請求項2ないし請求項5のいずれか1項に記載の異形断面材の製造方法である。
【0037】
気孔の伸長方向と一致する方向への圧延加工は割れの発生が抑制され、圧延も容易であるため好ましい。また、気孔の伸長方向と一致する方向へ圧延することにより、強度の低下を抑制することができる。
【0038】
請求項7に記載の発明は、
幅方向および/または長手方向に、異なる横断面形状および/または密度分布を有する異形断面材を製造することを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載の異形断面材の製造方法である。
【0039】
前記したように、ポーラス金属を塑性加工した場合、その気孔を圧着、閉塞することにより、長手方向の伸びの発生を抑制することができる。そして、圧下率の増加と気孔率の減少は相関しており、気孔率の変化は密度を変化させるため、圧下率を調整することにより、密度分布を有する異形断面材を成形することが可能となる。
【0040】
この密度分布は、幅方向(横断面内)および長手方向のいずれにも設定することができ、例えば、幅方向や長手方向の板厚に勾配がある異形断面材を製造することができる。
【0041】
また、ロールの周方向に突起を設けたりすることにより、三次元造形を容易に行うことも可能となるため、ラビットプロトタイピングへの応用も期待できる。
【0042】
請求項8に記載の発明は、
請求項1ないし請求項7のいずれか1項に記載の異形断面材の製造方法を用いて製造されていることを特徴とする異形断面材である。
【0043】
前記した各製造方法を用いて製造された異形断面材は、複雑な断面形状であっても、良好な形状に形成された異形断面材を、安価に提供することができる。
【0044】
請求項9に記載の発明は、
前記異形断面材が、パワートランジスタ用のリードフレーム材として用いられることを特徴とする請求項8に記載の異形断面材である。
【0045】
本発明に係る異形断面材は、パワートランジスタ用のリードフレーム材として用いた場合、特に顕著な効果を発揮する。
【発明の効果】
【0046】
本発明により、複雑な断面形状であっても、通常の安価な塑性加工法により、製品形状の自由度を高くして、複雑な形状の異形断面材を製造する異形断面材の製造方法、およびこのような製造方法により得られた異形断面材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】圧延素材の幅方向の断面を撮影した写真である。
【図2】切断されたスラブおよびスライスされた素材を模式的に示す斜視図である。
【図3】ノンポーラス材とポーラス材における圧下率と延伸率との関係を示す図である。
【図4】ポーラス金属を用いて圧延を行うことにより得られる異形断面材の断面図である。
【図5】実施の形態に用いた圧延機の斜視図である。
【図6】実施の形態における圧延を説明する図である。
【図7】圧延された各素材の圧延面を撮影した写真である。
【図8】圧延された各素材の側面を撮影した写真である。
【図9】圧延された各素材の断面を撮影した写真である。
【図10】圧下率と延伸率、および圧下率と厚部における板厚減少率の関係を説明する図である。
【図11】中実の金属材料の圧延における形状欠陥の発生を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0048】
以下、本発明を実施例に基づいて、図面を参照しつつ説明する。なお、以下の実施例においては、ポーラス金属としてロータス型ポーラス銅を用いたT形異形断面材の製造を例に挙げて説明する。
【実施例】
【0049】
1.圧延用素材の準備
(1)ポーラス金属の作製
最初に、純度99.99%の電気銅(住友金属鉱山社製)を用いて、連続鋳造法により、ロータス型ポーラス銅のスラブ(厚さ10mm、幅30mm)を作製した。スラブは、鋳造ガス雰囲気を変えることにより、気孔率30.9%のポーラス銅と、気孔率40.5%のポーラス銅の2種類を作製した。
【0050】
(2)圧延用素材の作製
得られた各スラブをマイクロカッターを用いて切断し、さらに、ワイヤー放電加工機(ブラザー工業社製、HS−300)にて厚さ2.9mmにスライスした後、長さを150mmに揃え、片面にスキン層を有する外側の2枚を圧延用素材とした(以下、各素材を、それぞれ「30%ポーラス材」および「40%ポーラス材」という)。
【0051】
(3)比較用素材の作成
また、比較のために、連続鋳造法により気孔率0%のノンポーラス銅のスラブを作製し、同じ寸法(厚さ2.9mm、幅30mm、長さ150mm)の比較用素材(以下、「ノンポーラス材」という)を作製した。
【0052】
図1に各素材の幅方向の断面を撮影した写真を示す。また、図2に切断されたスラブ(a)およびスライスされた素材(b)を模式的に示す。
【0053】
2.ポーラス金属による延伸抑制効果の確認
ノンポーラス材とポーラス材について、圧下率と延伸率との関係を測定した。結果を図3に示す。図3に示すように、ノンポーラス材では30%程度の圧下率で既に40%の延伸率に達しており、60%の圧下率では130%程度の延伸率を示している。これに対して、ポーラス材では60%の圧下率でも40%弱の延伸率に留まっており、ポーラス材には圧延時の延伸を抑制する効果があることが分かる。これは、ポーラス材が内部に多くの気孔を有しており、圧延時にはこの気孔が閉塞して素材を体積収縮させているためである。
【0054】
3.圧延
(イ)圧延機
圧延機としては、図5に示す圧延機を用い、図6に示すように圧延を行った。図5および図6に示すように、二段圧延機10は、上ロールとして幅方向の中央部に幅12mm、深さ1.5mmの溝11aが形成された溝ロール11を用い、下ロールとして溝の形成がない平ロール12を用いることにより、孔型ロールを構成している。ロール径は、いずれも100mmである。
【0055】
(ロ)圧延方法
鉱油ベース圧延油(出光興産社製、出光CU−50)を潤滑剤とし、ロール周速1m/minで、各素材のスキン層を溝ロール11に接触させながら、30%および50%の圧下率で1パス圧延を行った。なお、圧下率30%の場合の圧延荷重は、ノンポーラス材で43kN、30%ポーラス材で18kN、40%ポーラス材で12kNであった。
【0056】
なお、ここで言う「圧下率」とは、薄部の板厚減少率を指しており、以下の式により定義される。
【0057】
【数1】
【0058】
なお、上式において、h0は圧延前の板厚であり、hfは圧延後の薄部の板厚である。上式を用いると、板厚が2.9mm、溝深さが1.5mmのポーラス材の場合、52%の圧下率で厚部が溝に充満することが分かる。
【0059】
(ハ)圧延された素材について
各圧下率で圧延された各素材の圧延面、側面、および断面を撮影した写真をそれぞれ、図7、図8、図9に示す。図7〜図9において、TDは幅方向(Transverse Direction)を、NDは厚さ方向(Normal Direction)を、RDはロール方向(Rolling Direction)を示している。また、ウエブは厚部を、フランジは薄部を示している。
【0060】
図7に示すように、圧延面を観察すると、ノンポーラス材の場合、30%の圧下率でも、板幅の大きなうねりが生じており、圧下率50%ではうねりがさらに大きくなっていることが分かる。一方、30%ポーラス材の場合、圧下率30%ではうねりが生じていないが、圧下率50%ではうねりが生じていることが分かる。そして、40%ポーラス材の場合、圧下率30%ではうねりが生じておらず、圧下率50%でも殆どうねりが生じていないことが分かる。
【0061】
また、図8に示すように、側面を観察すると、ノンポーラス材の場合、30%の圧下率でも端部が上方(溝ロール側)に大きな反りが生じており、圧下率50%ではさらに大きな反りが生じていることが分かる。一方、30%ポーラス材の場合、圧下率30%では端部が下方に反っているが、圧下率50%では端部が上方に反っていることが分かる。そして、40%ポーラス材の場合、圧下率30%では端部が下方に反っており、圧下率50%では殆ど反りが生じていないことが分かる。
【0062】
また、図9に示すように、断面を観察すると、ノンポーラス材の場合、30%の圧下率でも、下ロールと厚部の間に欠肉が生じており、圧下率50%では欠肉がさらに大きくなっていることが分かる。一方、30%ポーラス材の場合、圧下率30%では欠肉が生じていないが、圧下率50%では欠肉が生じていることが分かる。そして、40%ポーラス材の場合、圧下率50%でも殆ど欠肉が生じていないことが分かる。
【0063】
このように、ノンポーラス材で大きなうねりや、反り、欠肉が生じたのは、圧延により薄部に過剰伸びが形成されたためである。一方、ポーラス材の場合には、気孔が閉塞されることにより過剰伸びの発生が抑制されるため、気孔が完全に閉塞されるまでは延伸が小さく、うねりや、反り、欠肉の発生を抑制する。
【0064】
このように過剰伸びの発生が抑制されるため、ポーラス材の圧延材は、ノンポーラス材の圧延材に比べ、長さが短い。その一方、うねりや、反り、欠肉の発生が抑制されるため、ポーラス材の圧延材に比べ、極めて平坦な形状の異形断面台材を得ることができる。
【0065】
(ニ)圧下率について
前記したように、ポーラス金属の場合、気孔率を超える圧下率、即ち、薄部の気孔が全て閉塞した状態で圧延を行うと、前記した中実の素材を塑性加工する際の問題が発生する恐れがあるため、圧下率はポーラス材の気孔率以下とすることが好ましい。しかし、本実施例においては、図7〜9に示すように、40%ポーラス材の場合、圧下率50%でも良好な圧延が得られている。これは、実際の板厚の減少は気孔の閉塞だけではなく、マトリックス部の変形も関係していることによる。
【0066】
(ホ)圧下率と延伸率、厚部における板厚減少率との関係について
上記に関し、圧下率と延伸率、および圧下率と厚部における板厚減少率の関係について、圧下率を10%ずつ変化させて(ノンポーラス材は圧下率50%まで、30%ポーラス材、40%ポーラス材は圧下率70%まで)、そのときの延伸率および厚部における板厚減少率を測定した。結果を、図10に示す。図10において、(a)は圧下率と延伸率の関係を示す図であり、(b)は圧下率と厚部における板厚減少率の関係を示す図である。なお、厚部における板厚減少率は、前記した圧下率を求める式におけるhf(圧延後の薄部の板厚)を、圧延後の厚部の板厚に置き換えることにより求められる。また、図10(a)、(b)に示す破線部は圧延により大きな破断が生じた箇所である。
【0067】
図10(a)より、ノンポーラス材の場合には、延伸率は直線的に増加するが、30%ポーラス材の場合には、圧下率30%までは緩やかな傾きで増加し、その後は急激に傾きが大きくなって増加している。また、40%ポーラス材の場合には、圧下率50%までは緩やかな傾きで増加し、その後は急激に傾きが大きくなって増加している。
【0068】
このように、ポーラス材の場合には、低圧下率では緩やかな傾きで増加し、一定以上の圧下率となると急激に傾きが大きくなって増加することが分かる。
【0069】
また、図10(b)よりノンポーラス材の場合には、圧下率の増加に対してほぼ直線的に厚部の板厚減少率が大きくなっているが、30%ポーラス材の場合には、圧下率40%までは比較的小さい傾きで増加し、それ以降は急激に大きくなっており、40%ポーラス材の場合も同様に、圧下率60%以上で急激に大きくなっていることが分かる。
【0070】
(ヘ)まとめ
このように本実施の形態においては、ポーラス材を用いて気孔が完全に閉塞されない状態で圧延することにより、横断面形状が優れた異形断面材を得ることができる。また、気孔が閉塞される時まで圧延することにより、従来のような気孔がない中実タイプの製品でありながら、横断面形状が優れた異形断面材を得ることができる。
【0071】
また、加工に際しては、上記した通り一般的な圧延機を用いることができる。そして、1パスという少ないパス数で成形することができる。また、小さい圧延荷重で成形することができる。この結果、生産性を著しく高めることができる。
【0072】
以上、本発明を実施の形態に基づき説明したが、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではない。本発明と同一および均等の範囲内において、上記の実施の形態に対して種々の変更を加えることが可能である。
【符号の説明】
【0073】
1 素材
2 気孔
3 異形断面材
4 薄部
5 厚部
10 圧延機
11 溝ロール
11a 溝
12 平ロール
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポーラス金属を素材として、塑性加工法により異形断面材を製造することを特徴とする異形断面材の製造方法。
【請求項2】
前記塑性加工法が、少なくとも一方のロールに溝ロールを用いた圧延加工法であることを特徴とする請求項1に記載の異形断面材の製造方法。
【請求項3】
前記圧延加工法において、薄部を形成する圧延部分に対する圧下率が、前記ポーラス金属の気孔率以下の圧下率であることを特徴とする請求項2に記載の異形断面材の製造方法。
【請求項4】
前記ポーラス金属の一方の面がポーラス面、他方の面が平滑面であり、前記平滑面が前記溝ロールと接触するように圧延することを特徴とする請求項2または請求項3に記載の異形断面材の製造方法。
【請求項5】
前記ポーラス金属が、ロータス型ポーラス金属であることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の異形断面材の製造方法。
【請求項6】
前記ポーラス金属における気孔の伸長方向と一致する方向に圧延することを特徴とする請求項2ないし請求項5のいずれか1項に記載の異形断面材の製造方法。
【請求項7】
幅方向および/または長手方向に、異なる横断面形状および/または密度分布を有する異形断面材を製造することを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載の異形断面材の製造方法。
【請求項8】
請求項1ないし請求項7のいずれか1項に記載の異形断面材の製造方法を用いて製造されていることを特徴とする異形断面材。
【請求項9】
前記異形断面材が、パワートランジスタ用のリードフレーム材として用いられることを特徴とする請求項8に記載の異形断面材。
【請求項1】
ポーラス金属を素材として、塑性加工法により異形断面材を製造することを特徴とする異形断面材の製造方法。
【請求項2】
前記塑性加工法が、少なくとも一方のロールに溝ロールを用いた圧延加工法であることを特徴とする請求項1に記載の異形断面材の製造方法。
【請求項3】
前記圧延加工法において、薄部を形成する圧延部分に対する圧下率が、前記ポーラス金属の気孔率以下の圧下率であることを特徴とする請求項2に記載の異形断面材の製造方法。
【請求項4】
前記ポーラス金属の一方の面がポーラス面、他方の面が平滑面であり、前記平滑面が前記溝ロールと接触するように圧延することを特徴とする請求項2または請求項3に記載の異形断面材の製造方法。
【請求項5】
前記ポーラス金属が、ロータス型ポーラス金属であることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の異形断面材の製造方法。
【請求項6】
前記ポーラス金属における気孔の伸長方向と一致する方向に圧延することを特徴とする請求項2ないし請求項5のいずれか1項に記載の異形断面材の製造方法。
【請求項7】
幅方向および/または長手方向に、異なる横断面形状および/または密度分布を有する異形断面材を製造することを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載の異形断面材の製造方法。
【請求項8】
請求項1ないし請求項7のいずれか1項に記載の異形断面材の製造方法を用いて製造されていることを特徴とする異形断面材。
【請求項9】
前記異形断面材が、パワートランジスタ用のリードフレーム材として用いられることを特徴とする請求項8に記載の異形断面材。
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図10】
【図1】
【図7】
【図8】
【図9】
【図11】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図10】
【図1】
【図7】
【図8】
【図9】
【図11】
【公開番号】特開2012−196693(P2012−196693A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−62677(P2011−62677)
【出願日】平成23年3月22日(2011.3.22)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年3月22日(2011.3.22)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【Fターム(参考)】
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