説明

異形断面条材の製造方法

【課題】コイル交換後の作業開始時に生じる板厚変動を低減することにより、仕上げ圧延時の不良発生を防ぎ、歩留を向上させ製造コストを低減することができる異形断面条材の製造方法を提供する。
【解決手段】圧延加工面が先端側からV字状に末広がりとなっている突起部61a,61bを有する平盤状V型ダイス60と、平盤状V型ダイス60の圧延加工面に対向して設けられた遊星圧延ロール71とを備えた異形断面条材製造装置70を用い、平盤状V型ダイス60と遊星圧延ロール71との間に平板状条材73を導入して平板状条材73を異形断面条材82へ圧延加工する異形断面条材の製造方法において、平盤状V型ダイス60に温度調整機構1を設け、異形断面条材製造装置70の停止時に平盤状V型ダイス60の温度低下を防止する方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、平盤状V型ダイスと圧延ロールとを組み合わせてなる異形断面条材製造装置を用いて異形断面条材を製造する方法に係り、特に、歩留の向上を図った異形断面条材の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
平板状条材を加工して、薄板部と厚板部とを有する段付きの異形断面を備えた異形断面条材を製造する方法としては、一般に、所定の部分を研削除去する方法、溝ロールと平ロールとで交互に圧延する方法、V字状の突起部が設けられた平盤状V型ダイス(金型)を用いた圧延方法があるが、近年、例えば特許文献1や特許文献2等によって、平盤状V型ダイスを用いた圧延による製造方法や装置が提案され、高い生産性で段付きの異形断面条材を製造することが可能となってきている。
【0003】
図6は、そのような平盤状V型ダイスを示す図である。
【0004】
図6に示すように、平盤状V型ダイス60は、先端からV字状に末広がりの形状をなすV字状の突起部61a,61bと、そのほぼ中央部を貫通するように設けられた溝部62とが、基台63上に形成されている。
【0005】
突起部61a,61bの両脇には、平坦な基面64a,64bが設けられており、この基面64a,64bと突起部61a,61bとは、斜面65a,65bで接続され、これらの面は連続的に形成されている。
【0006】
この平盤状V型ダイス60は一般に、金型製作用の金属ブロック材を研削加工する工程等を含んだ製造方法によって作製される。
【0007】
このような平盤状V型ダイス60の突起部61a,61bが形成された面(以下、圧延加工面という)に対して加工対象の平板状条材を配置し、その平板状条材上を移動する押圧用ロール等によって押圧力を印加することで、その平板状条材を平盤状V型ダイス60に押圧プレス加工する。図7に、平板状条材を平盤状V型ダイス60に押圧プレス加工する異形断面条材製造装置の概略を示す。
【0008】
図7に示すように、異形断面条材製造装置70は、円周上に複数の遊星圧延ロール71を配置してなる遊星圧延機72の外周に、突起部61a,61bを有する圧延加工面を内側にして湾曲させた平盤状V型ダイス60を配置して構成され、その平盤状V型ダイス60と遊星圧延機72の間に平板状条材73を供給(導入)することにより、平板状条材73を連続的に押圧プレス加工する。
【0009】
そして、図8に示すように、その押圧プレス加工した後に平板状条材73を平盤状V型ダイス60の先端(V字先端)から末広がりの後方(図6,8の白抜き矢印の方向)へと移動させる前方張力を加える。この動作を所定の長さごとに繰り返すことにより、平板状条材73のうち平盤状V型ダイス60の溝部62を通過した部分を厚板部80となし、平盤状V型ダイス60の突起部61a,61bを経由した部分(つまり、平板状条材73の左右両脇の部分)は薄板部81となる。
【0010】
他方、平盤状V型ダイス60の溝部62では、突起部61a,61bが設けられておらず、底面が平坦な基面64a,64bと連続した平面となっているのであるから、この溝部62を通った部分の平板状条材73は、突起部61a,61bよりも圧延量が少ないままに平盤状V型ダイス60を通過する。従って、この部分が厚板部80となる。
【0011】
このようにして、厚板部80と薄板部81とを幅方向に混在するように形成してなる段付きの異形断面条材82が、高い生産性で製造される。このような作業はコイル(所定長さの平板状条材が巻かれたもの)74ごとに行われ、コイル74を交換する間装置は停止する。
【0012】
前記のような方法で製造された異形断面条材82は、通常、形状安定化のため、その後、圧延機で仕上げ圧延が行われる。その際、異形断面条材82の板厚が変動していると、厚板部80と薄板部81の加工度バランスが崩れ、波打ちや表面粗さ不良が生じやすくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特許第3520770号公報
【特許文献2】特許第2756402号公報
【特許文献3】特許第3798299号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
ここでの問題点は、コイル交換のため装置が停止すると、特に平盤状V型ダイス60の温度の低下が顕著に起こり、コイル交換後の作業開始時、狙い厚さに対し板厚の変動が大きく、仕上げ圧延工程で波打ちや表面粗さ不良、形状不良が発生してしまい、歩留が低下しコストアップにつながることである。
【0015】
そこで、本発明の目的は、コイル交換後の作業開始時に生じる板厚変動を低減することにより、仕上げ圧延時の不良発生を防ぎ、歩留を向上させ製造コストを低減することができる異形断面条材の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は上記目的を達成するために創案されたものであり、請求項1の発明は、圧延加工面が先端側からV字状に末広がりとなっている突起部を有する平盤状V型ダイスと、該平盤状V型ダイスの圧延加工面に対向して設けられた圧延ロールとを備えた異形断面条材製造装置を用い、前記平盤状V型ダイスと前記圧延ロールとの間に平板状条材を導入して該平板状条材を異形断面条材へ圧延加工する異形断面条材の製造方法において、前記平盤状V型ダイスに温度調整機構を設け、前記異形断面条材製造装置の停止時に前記平盤状V型ダイスの温度低下を防止する異形断面条材の製造方法である。
【0017】
請求項2の発明は、前記温度調整機構を、本体部と、該本体部内に設けられたクーラント配管と、該クーラント配管のクーラント温度を測定する熱電対と、前記クーラント温度を調整するヒータ及びチラーとで構成する請求項1に記載の異形断面条材の製造方法である。
【0018】
請求項3の発明は、前記温度調整機構を前記平盤状V型ダイスを固定する装置ハウジングに真空断熱シートを介して取り付け、前記装置ハウジングに取り付けた前記温度調整機構に前記平盤状V型ダイスを固定する請求項1又は2に記載の異形断面条材の製造方法である。
【0019】
請求項4の発明は、前記本体部を、高純度アルミナで形成する請求項2又は3に記載の異形断面条材の製造方法である。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、コイル交換後の作業開始時に生じる板厚変動を低減することにより、仕上げ圧延時の不良発生を防ぎ、歩留を向上させ製造コストを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】温度調整機構を示す図である。
【図2】温度調整機構と平盤状V型ダイスの装置ハウジングへの取り付け構造を示す図である。
【図3】温度調整機構の構造を示す図である。
【図4】コイル間における装置停止時間が約25分の場合について、温度調整機構有無のコイル板厚変動を示す図である。
【図5】コイル間における装置停止時間が約90分の場合について、温度調整機構有無のコイル板厚変動を示す図である。
【図6】異形断面条材製造装置に用いられる平盤状V型ダイスを示す図である。
【図7】異形断面条材製造装置を示す図である。
【図8】平盤状V型ダイスを用いて行われる加工工程を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の好適な実施の形態を添付図面にしたがって説明する。
【0023】
先ず、本実施の形態に係る異形断面条材の製造方法に用いる平盤状V型ダイス及び異形断面条材製造装置について説明する。
【0024】
図6に示したように、平盤状V型ダイス60は、先端からV字状に末広がりの形状をなすV字状の突起部61a,61bと、そのほぼ中央部を貫通するように設けられた溝部62とを、基台63の平坦な上面に設けてなるものである。
【0025】
突起部61a,61bの平面的な形状は、尖った先端から末広がりにV字状となっており、その中央部を貫通するように溝部62が設けられている。この突起部61a,61bのV字状の外形を構成している斜面65a,65bには、加工対象の平板状条材に対して円滑な圧延を行うことができるように、適度な傾斜角度が与えられている。
【0026】
突起部61a,61bの両脇には、平坦な基面64a,64bが露出している。この基面64a,64bと溝部62の底面とは、同一の平面として連続している。換言すれば、基面64a,64bと溝部62の底面とは同じ高さとなっている。
【0027】
この平盤状V型ダイス60は、例えば金型製作用の金属ブロック材を研削加工して作製される。
【0028】
図7に示したように、異形断面条材製造装置70は、円周上に複数の遊星圧延ロール71を配置してなる遊星圧延機72の外周に、突起部61a,61bを有する圧延加工面を内側にして湾曲させた平盤状V型ダイス60を配置して構成される。
【0029】
図示していないが、平盤状V型ダイス60の圧延加工面と反対側の面は、装置ハウジングに取り付けられた寸法調整手段等で支持されている。
【0030】
遊星圧延機72は、軸75を中心に回転自在に設けられたロータ76と、このロータ76と軸芯を同じくするが回転はしない車輪状レール77と、その円周上に等間隔に支持された複数(図7では、8個)の遊星圧延ロール71とからなる。
【0031】
車輪状レール77の平盤状V型ダイス60と対向する部分は、その平盤状V型ダイス60とほぼ同じ長さの直線部78となっている。この直線部78は、遊星圧延機72の軸芯と対称の位置になるように設けられている。従って、平盤状V型ダイス60も遊星圧延機72の軸芯と対称の位置になるように設けられている。
【0032】
遊星圧延機72の円周上に等間隔に支持された8個の遊星圧延ロール71は、その軸芯がロータ76の軸75に対してその放射方向に動き得るように弾性部材79により弾性的に支持されている。弾性部材79としては、例えば圧縮バネや引張バネ、流体圧シリンダ、ゴム等を用いる。
【0033】
なお、遊星圧延ロール71の数は、8個に限定されるものではなく、所望に応じて適宜変更可能である。
【0034】
次に、この異形断面条材製造装置70を用いた異形断面条材の製造方法を説明する。
【0035】
平盤状V型ダイス60と遊星圧延機72の間に銅などからなる平板状条材73を供給(導入)することにより、平板状条材73を連続的に押圧プレス加工する。
【0036】
そして、図8に示したように、その押圧プレス加工した後に平板状条材73を平盤状V型ダイス60の先端(V字先端)から末広がりの後方(図6,8の白抜き矢印の方向)へと移動させる前方張力を加える。この動作を所定の長さごとに繰り返すことにより、加工対象の平板状条材73がV字状の突起部61a,61bに沿ってそのV字の先端から斜面65a,65bを通り、さらにその後方へと末広がりに圧延されていく。このような加工により、平板状条材73のうち平盤状V型ダイス60の溝部62を通過した部分を厚板部80となし、平盤状V型ダイス60の突起部61a,61bを経由した部分(つまり、平板状条材73の左右両脇の部分)は薄板部81となる。
【0037】
他方、平盤状V型ダイス60の溝部62では、突起部61a,61bが設けられておらず、底面が平坦な基面64a,64bと連続した平面となっているのであるから、この溝部62を通った部分の平板状条材73は、突起部61a,61bよりも圧延量が少ないままに平盤状V型ダイス60を通過する。従って、この部分が厚板部80となる。
【0038】
このように加工が行われるが、平板状条材73が巻かれてなるコイル(素材)74の長さには制限があるため、コイル交換が必要となる。その間、加工は停止するため、装置フレームや遊星圧延ロール71、圧延油等の温度低下が起こる。
【0039】
遊星圧延ロール71は複数本あることや、圧延油も数百リットルあるため、これらの温度低下は緩やかであるが、平盤状V型ダイス60はサイズも小さく、常に加工が行われている部分であるため、加工中は高温になっており、また、装置停止による温度低下は顕著である。
【0040】
そのため、本実施の形態においては、図1,2に示すように、平盤状V型ダイス60に温度調整機構1を設けることにより、装置が停止しても平盤状V型ダイス60の温度低下を防ぎ、コイル交換後の作業開始時に生じる板厚変動を抑えるようにした。
【0041】
温度調整機構1は平盤状V型ダイス60を固定する装置ハウジング2に真空断熱シート3を介して取り付けられ、装置ハウジング2に取り付けた温度調整機構1に平盤状V型ダイス60が固定される。
【0042】
温度調整機構1は、図3に示すように、本体部4と、本体部4内に設けられたクーラント配管5と、クーラント配管5のクーラント温度を測定する熱電対(図示せず)と、クーラント温度を調整するヒータ及びチラー(図示せず)とで構成される。
【0043】
本体部4は、高熱伝導率、高強度、高温における耐酸化特性、耐熱衝撃抵抗、熱変形が少ないなどの観点から高純度アルミナで形成するとよい。
【0044】
クーラント配管5は、温度調整機構1における熱分布を均一にするために、本体部4内の全体に亘って設けられている。本実施の形態においては、本体部4内にクーラント配管5を渦巻き状に設けた。クーラント配管5内には、ヒータ及びチラーで温度調整された液体又は気体が循環するようになっている。
【0045】
再び図2を参照し、平盤状V型ダイス60を固定する温度調整機構1の本体部4の面には、異形断面形状の切り欠き溝6が形成され、温度調整機構1に固定される平盤状V型ダイス60の面には、切り欠き溝6に係合する凸部7が形成される。これら切り欠き溝6と凸部7とを係合させることで、温度調整機構1に平盤状V型ダイス60が面で接触するように固定される。これにより、温度調整機構1と平盤状V型ダイス60との熱交換が効率よく行える。
【0046】
この温度調整機構1によって、熱電対でクーラント配管5のクーラント温度を測定しつつ、クーラント温度をヒータ及びチラーで調整することで、平盤状V型ダイス60の温度をほぼ一定に保つことができる。これにより、装置が停止しても平盤状V型ダイス60の温度低下を防ぎ、コイル交換後の作業開始時に生じる板厚変動を抑えることができる。
【0047】
以上要するに、本実施の形態に係る異形断面条材の製造方法によれば、圧延加工面が先端側からV字状に末広がりとなっている突起部61a,61bを有する平盤状V型ダイス60と、平盤状V型ダイス60の圧延加工面に対向して設けられた遊星圧延ロール71とを備えた異形断面条材製造装置70を用い、平盤状V型ダイス60と遊星圧延ロール71との間に平板状条材73を導入して平板状条材73を異形断面条材82へ圧延加工する異形断面条材の製造方法において、平盤状V型ダイス60に温度調整機構1を設け、異形断面条材製造装置70の停止時に平盤状V型ダイス60の温度低下を防止するようにしたため、コイル交換後の作業開始時に生じる板厚変動を低減することにより、仕上げ圧延時の不良発生を防ぎ、歩留を向上させ製造コストを低減することができる。
【実施例】
【0048】
上述した平盤状V型ダイス60及び温度調整機構1を備えた異形断面条材製造装置70を用い、温度調整機構1で平盤状V型ダイス60の温度調整を行って、或いは行わずに異形断面条材を製造した。
【0049】
このときの板厚変動結果を図4,5に示す。図4は装置停止時間が約25分だった場合、図5は装置停止時間が約90分だった場合の結果である。
【0050】
これら図4,5から分かるように、平盤状V型ダイス60の温度調整を行うと、板厚変動が抑えられていた、また、装置停止時間が約90分と長い場合であっても板厚変動は少なく良好な結果が得られた。
【符号の説明】
【0051】
1 温度調整機構
60 平盤状V型ダイス
61a,61b 突起部
70 異形断面条材製造装置
71 遊星圧延ロール
73 平板状条材
82 異形断面条材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧延加工面が先端側からV字状に末広がりとなっている突起部を有する平盤状V型ダイスと、該平盤状V型ダイスの圧延加工面に対向して設けられた圧延ロールとを備えた異形断面条材製造装置を用い、前記平盤状V型ダイスと前記圧延ロールとの間に平板状条材を導入して該平板状条材を異形断面条材へ圧延加工する異形断面条材の製造方法において、
前記平盤状V型ダイスに温度調整機構を設け、前記異形断面条材製造装置の停止時に前記平盤状V型ダイスの温度低下を防止することを特徴とする異形断面条材の製造方法。
【請求項2】
前記温度調整機構を、本体部と、該本体部内に設けられたクーラント配管と、該クーラント配管のクーラント温度を測定する熱電対と、前記クーラント温度を調整するヒータ及びチラーとで構成する請求項1に記載の異形断面条材の製造方法。
【請求項3】
前記温度調整機構を前記平盤状V型ダイスを固定する装置ハウジングに真空断熱シートを介して取り付け、前記装置ハウジングに取り付けた前記温度調整機構に前記平盤状V型ダイスを固定する請求項1又は2に記載の異形断面条材の製造方法。
【請求項4】
前記本体部を、高純度アルミナで形成する請求項2又は3に記載の異形断面条材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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