説明

異方性色素膜の製造方法、異方性色素膜および偏光素子

【課題】二色比の高い異方性色素膜を得る製造方法、二色比の高い異方性色素膜およびこれを用いた偏光素子を提供する。
【解決手段】色素溶液を基材上に塗布して異方性色素膜を製造する方法であって、水蒸気圧が1600Pa以下の環境条件下で塗布することを特徴とする異方性色素膜の製造方法、あるいは色素溶液を基材上に塗布して異方性色素膜を製造する方法であって、相対湿度が50%以下の環境条件下で塗布することを特徴とする異方性色素膜の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異方性色素膜の製造方法に関するもので、詳しくは二色性の高い異方性色素膜を得られる製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
LCD(液晶表示ディスプレイ)では、表示における旋光性や複屈折性を制御するために直線偏光板や円偏光板が用いられている。OLED(有機EL素子)においても、外光の反射防止のために円偏光板が使用されている。
従来、これらの偏光板(偏光素子)には、ヨウ素や二色性を有する有機色素を、ポリビニルアルコール等の高分子材料に溶解または吸着させ、その膜を一方向にフィルム状に延伸して、色素等を配向させることにより得られる偏光素子が広く使用されてきた。しかしながら、このようにして製造される従来の偏光素子は、用いる色素や高分子材料によっては耐熱性や耐光性が十分でない;液晶装置製造時における膜の貼り合わせの歩留りが悪い;等の問題があった。
【0003】
そのため、ガラスや透明フィルムなどの基材上に、二色性色素を含む溶液を塗布して二色性色素を含む膜を形成し、分子間相互作用などを利用して二色性色素を配向させることにより偏光膜を製造する方法(例えば、特許文献1、2および非特許文献1、2参照)が検討されている。偏光素子としての用途においては、より高い偏光性能を得るために、二色比の高い偏光膜が求められているが、従来の方法で製造された偏光膜は、高い二色比を得ることが出来ず、より優れた偏光性能を得ることはできないという問題点があった。
【特許文献1】米国特許第2,400,877号明細書
【特許文献2】特表平8−511109号公報
【非特許文献1】Dreyer,J.F.,Phys.And Colloid Chem.,1948,52,808.,“The Fixing of Molecular Orientation”
【非特許文献2】Dreyer,J.F.,Journal de Physique,1969,4,114.,“Light Polarization From Films of Lyotropic Nematic Liquid Crystals”
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、欠陥が少なく二色比の高い異方性色素膜(偏光膜)を得る為の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らが、鋭意検討した結果、膜を形成する際の環境条件を制御することにより、欠陥が少なく二色比の高い異方性色素膜を得られることがわかり、本発明に到達した。
すなわち、本発明は、色素溶液を基材上に塗布して異方性色素膜を製造する方法であって、水蒸気圧が1600Pa以下或いは相対湿度が50%以下の環境条件下で塗布することを特徴とする異方性色素膜の製造方法、該製造方法により得られた異方性色素膜および該異方性色素膜を用いた偏光素子に存する。
【発明の効果】
【0006】
本発明の製造方法によれば、欠陥が少なく高い二色比を有する異方性色素膜を得ることができる。
また、表面の平滑性が高い異方性色素膜を得ることができ、偏光素子として使用したときに光の散乱防止の効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、これらの内容に特定はされない。
尚、本発明でいう異方性色素膜とは、色素膜の厚み方向及び任意の直交する面内2方向の立体座標系における合計3方向から選ばれる任意の2方向における電磁気学的性質に異方性を有する色素膜である。電磁気学的性質としては、吸収、屈折などの光学的性質、抵抗、容量などの電気的性質などが挙げられる。吸収、屈折などの光学的異方性を有する膜としては、例えば、直線偏光膜、円偏光膜、位相差膜、導電異方性膜などがある。
【0008】
すなわち、本発明は、偏光膜、位相差膜、導電異方性膜に用いられることが好ましく、偏光膜に用いられることがより好ましい。
本発明は、色素溶液を基材上に塗布して異方性色素膜を製造する方法であって、水蒸気圧が1600Pa以下或いは相対湿度が50%以下の環境条件下で塗布することを特徴とする異方性色素膜の製造方法に関する。
【0009】
(基材)
基材としては、ガラスやトリアセテート樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、トリアセチルセルロース又はウレタン系の樹脂フィルム等が挙げられる。また、この基材表面には、色素の配向方向を制御するために、「液晶便覧」(丸善株式会社、平成12年10月30日発行)226頁〜239頁などに記載の公知の方法により、配向処理層を施しておいてもよい。
基材上に色素溶液を塗布して形成するが、色素溶液とは、通常、色素及び溶剤を含むものをいい、さらに添加剤を含んでいてもよい。
【0010】
(色素)
色素溶液に用いられる色素としては、通常二色性色素が用いられる。また、色素は、配向制御のため液晶相を有する色素であることが好ましい。ここで、液晶相を有する色素とは、溶剤中でリオトロピック液晶性を示す色素を意味する。
色素として、具体的には、アゾ系色素、スチルベン系色素、シアニン系色素、フタロシアニン系色素、縮合多環系色素(ペリレン系、オキサジン系)等が挙げられる。これら色素の中でも、異方性色素膜中で高い分子配列をとりうるアゾ系色素が好ましい。
アゾ系色素とは、アゾ基を少なくとも1個以上持つ色素をいう。その一分子中のアゾ基の数は、色調および製造面の観点から、2以上が好ましく、6以下が好ましく、さらに好ましくは4以下である。
アゾ系色素の中でも、下記式(1)で表されるトリスアゾ色素が好ましい。
【0011】
【化1】

【0012】
(式中、D1およびE1は、それぞれ独立に、置換基を有していてもよいフェニレン基、または置換基を有していてもよいナフチレン基を表し、
1はカルボキシ基、スルホ基、またはリン酸基を表し、
1はハロゲン原子、水酸基、ニトロ基、置換基を有していてもよいアミノ基、置換基
を有していてもよい炭素数1〜4のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数1〜3のアルコキシ基、カルボキシ基、或いはスルホ基を表し、Q2およびQ3はそれぞれ独立に、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜4のアルキル基、或いは置換基を有していてもよいフェニル基を表し、pは0または1を表し、tは1または2を表す。)尚、本発明において、置換基を有していてもよいとは、置換基を1以上有していてもよいことを意味する。
【0013】
ここで、上記式(1)で表されるトリスアゾ色素について説明する。
該トリスアゾ色素は、通常黒色の水溶性二色性色素である。該トリスアゾ色素は、分子長軸の両端の特定位置に他の分子に強い引力を与える置換基を配した分子構造、およびD1,E1に疎水性を有するため、互いの分子同士が疎水性による相互作用(疎水性相互作用)を有し、分子同士が会合状態を作りやすくなっている。
【0014】
上記式(1)において、D1およびE1は、置換基を有していてもよいフェニレン基または置換基を有していてもよいナフチレン基を表す。フェニレン基としては1,4−フェニレン基が好ましく、ナフチレン基としては1,4−ナフチレン基が、疎水性相互作用を示すために好ましい。このフェニレン基の置換基としては、置換基を有していてもよい、炭素数1〜4のアルキル基(例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基等)、置換基を有していてもよい、炭素数1〜4のアルコキシ基(例えば、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、n−ブトキシ基等)、置換基を有していてもよい、炭素数2〜7のアシルアミノ基(例えばアセチルアミノ基、ベンゾイルアミノ基等)等の極性の小さい基がリオトロピック液晶を形成する上での疎水性相互作用による会合性向上の点で好ましい。
【0015】
ナフチレン基の置換基としては、置換基を有していてもよい、炭素数1〜4のアルコキシ基(例えば、メトキシ基、エトキシ基等)等の極性の小さい基がリオトロピック液晶を形成する上での疎水性相互作用による会合性向上の点で好ましい。前記アルキル基、アルコキシ基、アシルアミノ基の有し得る置換基としては、ヒドロキシ基、アルキル基、アルコキシ基等が挙げられる。
【0016】
1としては、スルホ基、カルボキシ基、リン酸基が上記のように強い引力を与える置
換基であることから好ましく、広いpH範囲で引力を与えるという点で特に好ましくはスルホ基が挙げられる。
1は、ハロゲン原子、水酸基、ニトロ基、置換基を有していてもよいアミノ基(好ま
しくはアセチルアミノ基、ベンゾイルアミノ基等のアシルアミノ基)、置換基を有していてもよい、炭素数1〜4のアルキル基(例えば、メチル基、エチル基等)、置換基を有していてもよい、炭素数1〜3のアルコキシ基、カルボキシ基およびスルホ基を表し、特に好ましくは水素原子、水酸基、カルボキシ基、スルホ基が挙げられる。前記アルキル基、アルコキシ基の有し得る置換基としては、ヒドロキシ基、アルキル基、アルコキシ基等が挙げられる。ここで、本発明において、置換基を有していてもよいとは、置換基を1以上有していてもよいことを意味する。
【0017】
2およびQ3は、それぞれ独立に、水素原子、置換基を有していてもよい、炭素数1〜4のアルキル基(例えば、メチル基、エチル基等)、置換基を有していてもよいフェニル基であり、特に好ましくはQ2あるいはQ3のいずれかが水素原子であることが挙げられる。前記アルキル基およびフェニル基の有し得る置換基としては、ヒドロキシ基、カルボキシ基、スルホ基が挙げられる。
【0018】
pは、0または1を表し、tは1または2の数を表す。
前記式(1)で表されるアゾ色素は黒色を示すものであるが、中でも異方性色素膜に使用するためには刺激純度0%〜12%の色素であることが好ましい。即ち、刺激純度0%〜12%の色素を使用すれば、特に、異なる分子を混合することによる分子配向の乱れがなく、高い二色性を示すことができる。
【0019】
ここで、刺激純度とは、色度図より標準の光の色度座標Nと求めた色素の色度座標Cを直線で結び、その延長のスペクトル軌跡との交点に対応する波長を主波長とし、各点の比率からを算出する。色度座標Cは、水に色素を加え色素水溶液とし、この水溶液の可視光透過率を分光光度計で測定し、CIE1964 XYZ表色系、D65標準光源下での色度xyを算出して得ることができる。色素の刺激純度とは、色素を水に加えて色素水溶液として測定、算出されたものをいう。また、その算出法としては、日本色彩学会編「新編
色彩科学ハンドブック」財団法人東京大学出版会、1989年11月25日(第2回改訂)発行、104ページから105ページなどに記載の公知の方法により求めることができる。
【0020】
前記式(1)で表されるアゾ色素は、刺激純度0%以上12%以下の色素であれば好ましいが、刺激純度は0%以上、更に好ましくは9%以下、最も好ましくは6%以下である。
また、前記式(1)で表される色素の分子量は、遊離酸の形で、通常595以上、通常1500以下、好ましくは1200以下である。
【0021】
また、本発明における色素は、色素溶液として使用するため溶剤に可溶であることが好ましく、水溶性であることが更に好ましい。従って、水溶性を与える置換基として、スルホ基、カルボキシ基、リン酸基等の酸性基、アミノ酸基等の塩基性基、水酸基等の可溶性基を有する色素が好ましく、水溶性の高さから、特にスルホ基、カルボキシ基を有することが好ましい。
【0022】
本発明における色素の分子量は、塩型をとらない遊離の状態で通常200以上、特に350以上で、通常5000以下、特に3500以下であることが、色調および製造面の観点から好ましい。
また、色素は、その配向の緩和時間が10秒以下であることが好ましい。本発明において、配向の緩和時間とは粟屋裕著「高分子素材の偏光顕微鏡入門」(株式会社アグネ技術センター出版、2001年10月15日発行)などに記載の、クロスニコル下での偏光顕微鏡で観察したときに色素溶液に1000[1/s]のずりを10秒かけた後の光線透過率がずりを
かける前の光線透過率に戻る時間を表す。
【0023】
本発明において、上述したような色素は単独で使用することができるが、これらの2種以上を併用してもよく、また、配向を低下させない程度に上記例示色素以外の色素を配合して用いることもでき、これにより各種の色相を有する異方性色素膜を製造することができる。
他の色素を配合する場合の配合用色素の例としては、C.I.Direct Yellow 12、C.I.Direct Yellow 34、C.I.Direct Yellow 86、C.I.Direct Yellow 142、C.I.Direct
Yellow 132、C.I.Acid Yellow 25、C.I.Direct Orange 39、C.I.Direct Orange 72、C.I.Direct Orange 79,、C.I.Acid Orange 28、C.I.Direct Red 39、C.I.Direct Red 79、C.I.Direct
Red 81、C.I.Direct Red 83、C.I.Direct Red
89、C.I.Acid Red 37、C.I.Direct Violet 9、C.I.Direct Violet 35、C.I.Direct Violet 48、C.I.Direct Violet 57、C.I.Direct Blue 1、C.I.Direct Blue 67、C.I.Direct Blue 83、C.I.Direct Blue 90、C.I.Direct Green 42、C.I.Direct Green 51、C.I.Direct Green 59等が挙げられる。
【0024】
(溶剤)
溶剤としては、水、水混和性のある有機溶剤、或いはこれらの混合物が適している。有機溶剤の具体例としては、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、グリセリン等のアルコール類、エチレングリコール、ジエチレングリコール等のグリコール類、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ等のセロソルブ類などの単独又は2種以上の混合溶剤が挙げられる。
【0025】
(濃度)
色素溶液中の色素の濃度としては、通常0.01重量%以上、特に0.1重量%以上であることが好ましく、通常50重量%以下、特に30重量%以下であることが好ましい。色素濃度が低すぎると得られる異方性色素膜において十分な二色性を得ることができず、高すぎると粘度が高くなり均一な薄膜塗布が難しくなったり、色素が析出する恐れがある。
【0026】
(添加剤)
色素溶液には、さらに必要に応じて、界面活性剤、pH調整剤等の添加剤が配合されていてもよい。添加剤により、濡れ性、塗布性を向上させることができる。
界面活性剤としては、アニオン性、カチオン性およびノニオン性のいずれも使用可能である。その添加濃度は、目的の効果を得るために十分であって、かつ色素分子の配向を阻害しない量として、色素溶液中の濃度として通常0.05重量%以上、0.5重量%以下が好ましい。
また、色素溶液中での色素の造塩や凝集などの不安定性を抑制する等の目的のために、通常公知の酸、アルカリ等のpH調整剤などを、色素溶液の構成成分の混合の前後或いは混合中のいずれかで添加してpH調整を行ってもよい。
【0027】
さらに、上記以外の添加剤として、“Additive for Coating”,Edited by J.Bieleman,Willey-VCH(2000)記載の公知の添加剤を用いることもできる。
また、保湿効果を有する添加剤を配合することができる。例えばグリセリン、尿素、エチレングリコールなどが挙げられる。これら保湿効果を有する添加剤を使用する場合には、色素溶液が吸湿してしまう可能性が高く、下記詳述の通り色素溶液の性状が変化する可能性がある。よって、この様な添加剤を配合する場合には、特に本発明の効果が期待できる。
【0028】
(異方性色素膜の製造方法)
本発明において、色素溶液を基材に塗布する方法としては、原崎勇次著「コーティング工学」(株式会社朝倉書店、1971年3月20日発行)253頁〜277頁や市村國宏監修「分子協調材料の創製と応用」(株式会社シーエムシー出版、1998年3月3日発行)118頁〜149頁などに記載の公知の方法や、例えば、予め配向処理を施した基材上に、スピンコート法、スプレーコート法、バーコート法、ロールコート法、ブレードコート法などで塗布する方法が挙げられる。
【0029】
(環境条件)
本発明は、色素溶液を基材上に塗布する際、水蒸気圧が1600Pa以下の環境条件下で塗布することを特徴とする。好ましくは1000Pa以下、更に好ましくは500Pa以下、最も好ましくは300Pa以下である。尚、従来、塗布は通常の室内で行われており、ドライ雰囲気で行われるものではなかったため、その環境は、水蒸気圧が1600Paよりも高い、或いは、相対湿度が50%よりも高いものであった。ここで、本発明で言う環境条件とは、膜が形成される周囲の環境のことであり、望ましくは塗布時の塗布装置の中の塗布部と基材部の環境のことであり、さらに望ましくは塗布時の塗布装置が設置されている環境のことである。
【0030】
また、本発明は、色素溶液を基材上に塗布する際、相対湿度が50RH%以下の環境条件下で塗布することを特徴とする。好ましくは30RH%以下、更に好ましくは20RH%以下、特に好ましくは10RH%以下である。尚、水蒸気圧が1600Pa以下及び相対湿度が50RH%以下の両方を満たすことが更に好ましい。
上記の通り、環境条件として水蒸気圧或いは相対湿度を制御することにより、異方性色素膜の二色比を向上させ、かつ、欠陥の少ない異方性色素膜を得ることができる。
【0031】
上記効果が得られる理由は以下の通りと推測される。上記塗布時の水蒸気圧や相対湿度を制御することにより、色素膜を形成時に色素溶液が吸湿するのを防ぐことができる。これにより、色素溶液の粘弾性などの液物性の変化を防ぐことが出来るため、再現性よく、二色比が高く、欠陥の少ない色素膜を形成することができるものと推測される。
このように、環境条件を水蒸気圧が1600Pa以下或いは相対湿度が50RH%以下とする方法としては、例えば、クリーンルームやドライルームなどの湿度の制御が可能な空間で塗布する方法が挙げられる。
また、塗布時の温度は、通常0℃以上、好ましくは10℃以上、通常80℃以下、好ましくは40℃以下である。
【0032】
(乾燥)
塗布して形成された塗膜は、通常乾燥する。乾燥の条件としては、配向の緩和や熱対流等によると考えられる塗膜の配向の乱れを防ぐことから、水蒸気圧が1600Pa以下の環境条件下で乾燥させることが好ましい。好ましくは1000Pa以下、更に好ましくは500Pa以下、最も好ましくは300Pa以下である。また、同様に、相対湿度が50RH%以下の環境条件下で乾燥させることが好ましい。好ましくは30RH%以下、更に好ましくは20RH%以下、特に好ましくは10RH%以下である。該水蒸気圧及び相対湿度の制御方法としては、前記の塗布時のものと同様である。
【0033】
該乾燥条件により、塗膜を形成後、急速に塗膜を乾燥することが出来ると推測される。この急速な乾燥により、配向の緩和や熱対流等によると考えられる塗膜の配向の乱れを防ぐことができる。これにより、高い配向性を有する異方性色素膜が得ることができ、またこの異方性色素膜は高い二色比を奏するものと推測される。
また、乾燥は、通常0℃以上、好ましくは10℃以上、通常180℃以下、好ましくは120℃以下で行う。上限を超えると結晶構造が変化する又は基材が変形する恐れがあり好ましくなく、下限を下回ると塗膜中の会合体同士の相互作用が強くなることにより乾燥時の応力が強くなり色素膜の歪が多くなる恐れがあり好ましくない。
【0034】
乾燥方法としては、減圧処理を使用することが好ましい。減圧処理の方法としては、例えば以下のような方法が挙げられる。色素溶液を基材上に塗布し得られた塗膜を、減圧処理装置に入れて減圧処理する。例えば、図3や図4のような減圧処理装置を使用することができる。減圧処理装置の詳細については、特開2004-169975号公報に記載された方法が
挙げられる。
【0035】
減圧条件については、最終的に到達する圧力が好ましくは2×104Pa以下、さらに好ましくは1×104Pa以下、特に好ましくは1×103Pa以下である。また、好ましくは1Pa以上、更に好ましくは1×101Pa以上である。減圧処理条件については、特願2004−372264号に記載されている。
また乾燥方法として風乾を使用することも好ましい。風乾の方法としては、色素膜の表面が乱れないように、望ましくは露点−30℃以下の空気を0.6MPa以下で使用するのが望ましい。
【0036】
さらに乾燥方法として基材加熱を併用してもよい。これにより、塗膜の温度を180℃以下、望ましくは120℃以下にすることが好ましい。
尚、本発明においては、乾燥後、更に延伸処理、光配向等の処理を施して色素の配向性を向上させてもよい。
【0037】
(異方性色素膜)
本発明の異方性色素膜の膜厚は、通常乾燥後の膜厚で、好ましくは10nm以上、さらに好ましくは50nm以上で、好ましくは30μm以下、さらに好ましくは1μm以下である。異方性色素膜の膜厚が30μmを超えると、膜内で色素分子の均一な配向を得ることが難しくなるおそれがあり、10nmを下回ると均一な膜厚とすることが難しくなるおそれがあるため、好ましくない。
【0038】
本発明の異方性色素膜は、必要に応じ、保護層を設けて使用する。この保護層は、例えば、トリアセテート、アクリル、ポリエステル、ポリイミド、トリアセチルセルロース又はウレタン系のフィルム等の透明な高分子膜によりラミネーションして形成され、実用に供される。
【0039】
(偏光素子)
また、本発明の異方性色素膜をLCDやOLEDなどの各種の表示素子に用いる場合には、これらの表示素子を構成する電極基板などに直接、該異方性色素膜を形成したり、該異方性色素膜を形成した基材をこれら表示素子の構成部材として用いればよい。
本発明の異方性色素膜は、光吸収の異方性を利用し直線偏光、円偏光、楕円偏光等を得る偏光膜として機能する他、膜形成プロセスと基材や色素を含有する色素溶液の選択により、屈折異方性や伝導異方性などの各種異方性膜として機能化が可能となり、様々な種類の、多様な用途に使用可能な偏光素子とすることができる。
本発明の偏光素子は、本発明の異方性色素膜を用いたものであるが、本発明の異方性色素膜を基材上に形成して本発明の偏光素子とする場合、形成された異方性色素膜そのものを使用してもよく、また上記の様な保護層のほか、粘着層、反射防止層など、様々な機能の有する層を積層形成し、積層体として使用してもよい。
【実施例】
【0040】
次に、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。
また、二色比(D)はヨウ素系偏光素子を入射光学系に配した分光光度計(大塚電子社製「瞬間マルチ測光システムMCPD2000」)で異方性色素膜の透過率を測定した後、次式により計算した。
【0041】
二色比(D)=Az/Ay
Az=−log(Tz)
Ay=−log(Ty)
Tz:色素膜の吸収軸方向の偏光に対する透過率
Ty:色素膜の偏光軸方向の偏光に対する透過率
以下において「部」は「重量部」を示す。
【0042】
(実施例1)
水80.8部に下記例示色素(I)15部とガラクトース5部とノニオン系界面活性剤エマルゲン109P(花王社製)0.2部を撹拌溶解させて色素溶液を得た。
【0043】
【化2】

【0044】
ガラス製基板(75mm×25mm、厚さ1mm)上にシルク印刷法によりポリイミドの配向膜が形成された基材(ポリイミド膜厚 約800Å)に、予め布でラビング処理を施したものを用意しておき、これに前記色素溶液を水蒸気圧が317Pa、相対湿度が10%RH及び温度が25℃の環境条件でバーコータ(テスター産業社製「No.2」使用)で塗布し異方性色素膜を得た。その後、25℃、317Pa及び10%RHの環境条件で、乾燥させることにより膜厚約0.4μmの異方性色素膜を得た。水蒸気圧及び相対湿度は、タバイエスペック(株)(現エスペック(株))社製環境試験室エスペックEX−DSP6−12Eにより制御した。
得られた異方性色素膜の二色比を測定したところ図1及び図2のような結果を得た。二色比は8であった。高い二色比が得られることがわかった。
【0045】
(実施例2)
塗布時の環境条件を、水蒸気圧が1583Pa、相対湿度が50%RH及び25℃にしたこと及び乾燥時の環境条件を水蒸気圧が1583Pa、相対湿度が50%RH及び25℃にしたこと以外は、実施例1と同様にして異方性色素膜を得た。
得られた異方性色素膜の二色比を測定したところ図1及び図2のような結果を得た。二色比は7であった。高い二色比が得られることがわかった。
【0046】
(比較例1)
塗布時の環境条件を、水蒸気圧が2691Pa、相対湿度が85%RH及び25℃にしたこと及び乾燥時の環境条件を水蒸気圧が2691Pa、相対湿度が85%RH及び25℃にしたこと以外は、実施例1と同様にして異方性色素膜を得た。
得られた異方性色素膜の二色比を測定したところ図1及び図2のような結果を得た。二色比は3であり、実施例1、2に比べて二色比は低かった。
実施例1、実施例2及び比較例1の結果から、塗布時の環境条件を水蒸気圧が1600Pa以下或いは相対湿度が50RH%以下に制御することにより、二色比の高い異方性色素膜が得られることがわかった。また、水蒸気圧或いは相対湿度が低いほど高い二色比が得られることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】水蒸気圧と二色比の関係を示したグラフ
【図2】相対湿度と二色比の関係を示したグラフ
【図3】減圧処理装置の例を示す図
【図4】減圧処理装置の例を示す図
【符号の説明】
【0048】
1 上部チャンバー
2 下部チャンバー
3 ステージ
4 塗布基板
5 昇降シャフト
6 真空シール部材
7 排気ポート
8 真空シール部材
9 気体導入ポート
10 気流制御板
11 副減圧室
12 開閉弁
13 減圧室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
色素溶液を基材上に塗布して異方性色素膜を製造する方法であって、水蒸気圧が1600Pa以下の環境条件下で塗布することを特徴とする異方性色素膜の製造方法。
【請求項2】
色素溶液を基材上に塗布して異方性色素膜を製造する方法であって、相対湿度が50%以下の環境条件下で塗布することを特徴とする異方性色素膜の製造方法。
【請求項3】
塗布後、水蒸気圧が1600Pa以下の環境条件下で乾燥させることを特徴とする、請求項1または2に記載の異方性色素膜の製造方法。
【請求項4】
塗布後、相対湿度が50%以下の環境条件下で乾燥させることを特徴とする、請求項1または2に記載の異方性色素膜の製造方法。
【請求項5】
色素溶液に含まれる色素が液晶相を有する色素である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の異方性色素膜の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の製造方法により製造された異方性色素膜。
【請求項7】
請求項6に記載の異方性色素膜を用いた偏光素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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