説明

異材接合用フラックスコアードワイヤおよび異材接合方法

【課題】高張力鋼材と6000系アルミニウム合金材との、高強度な異材同士の溶融溶接接合において、接合強度を高めるとともに、溶接効率も良い異材接合用フラックスコアードワイヤおよび異材接合方法を提供することを目的とする。
【解決手段】フラックスコアードワイヤにおけるフラックスを、AlF3 を特定量含み、かつ塩化物を含まないフッ化物組成とし、かつ、外皮アルミニウム合金をSiを1〜13質量%含有するものとして、高張力鋼材と6000系アルミニウム合金材との高強度な異材同士の溶融溶接接合において、高い接合強度を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車、鉄道車両などの輸送分野、機械部品、建築構造物等における鉄系材料とアルミニウム系材料との異種金属部材同士の、異材接合用フラックスコアードワイヤ(FCW:Flux cored wire )および異材接合方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
溶接は、一般には同種の金属部材同士を接合する。しかし、鉄系材料(以下、単に鋼材と言う)とアルミニウム系材料(純アルミニウムおよびアルミニウム合金を総称したもので、以下、単にアルミニウム合金材と言う)という異種の金属部材の接合(異材接合体) に適用することができれば、鋼材のみの部材の軽量化に著しく寄与することができる。
【0003】
しかし、鋼材とアルミニウム合金材とを溶接接合する場合、接合部に脆いFe−Al金属間化合物が生成しやすいために、信頼性のある高強度を有する接合部( 接合強度) を得ることは非常に困難であった。したがって、従来では、これら異種接合体(異種金属部材)の接合にはボルトやリベット等による接合がなされているが、接合継手の信頼性、気密性、コスト等の問題がある。
【0004】
また、一方では、自動車車体などの部材の軽量化のために、鋼材やアルミニウム合金材の高強度化が図られ、鋼材では高張力鋼材(ハイテン)、アルミニウム合金材では合金元素が少なくリサイクル性にも優れた高強度なA6000系アルミニウム合金材が使用される傾向にある。
【0005】
このため、異材同士の溶接接合においても、これまでの軟鋼と純アルミニウム合金やA5000系アルミニウム合金などの、従来の低強度の異材同士の溶接接合から、高張力鋼材と6000系アルミニウム合金材との高強度の異材同士の溶接接合へと、接合対象が変わってきている。これら高強度の異材同士の溶接接合では、接合部での脆いFe−Al金属間化合物の生成条件が異なり、信頼性のある高い接合強度を得るためには、従来の低強度の異材同士の溶接接合に対して、新たな接合条件の工夫が必要となる。
【0006】
鋼材とアルミニウム合金材との異材同士を接合する場合、鋼材はアルミニウム合金材と比較して、融点、電気抵抗が高く、熱伝導率が小さいため、鋼側の発熱が大きくなり、まず低融点のアルミニウムが溶融する。次に鋼材の表面が溶融し、結果として界面にて、Fe−Al系の脆い金属間化合物層が形成するため、高い接合強度が得られない。
【0007】
このため、従来より、これら異種接合体の溶融溶接法について、多くの検討、提案がなされてきている。例えば、接合部に脆いFe−Al金属間化合物が生成しないように、低温でロウ付けする方法が提案されている(特許文献1、2参照)。
【0008】
また、より高温において接合を行う、これら異種接合体の溶融溶接では、少なくともシリコンを3〜15wt%添加したアルミニウム合金製のソリッドワイヤを溶接ワイヤとし、アルミニウム合金材と亜鉛メッキなどを表面に施した鋼材とをパルスMIG溶接によって接合する方法が提案されている(特許文献3参照)。この方法では、溶接ワイヤの溶融と共に、シリコンも母材へと移行させ、溶融池界面に浸透して、アークの熱によって高温となり、溶融金属のぬれ性を良くして接着性を向上させている。
【0009】
更に、異種接合体の溶融溶接に用いるフラックスの組成を改善して、溶接継手強度を高めようとするも提案されている。この例として、フッ化物(フッ化セシウム、フッ化アルミニウム、フッ化カリウム及び酸化アルミニウム)を含むフラックスを芯材とし、アルミニウム又はアルミニウム合金で被覆して形成されるフラックス入りワイヤにより、軟鋼と純アルミニウムや5000系アルミニウム合金材とをアーク溶接する方法が提案されている(特許文献4参照)。
【0010】
また、フッ化カリウムとフッ化アルミニウムなど、フッ化セシウム、フッ化アルミニウム、フッ化カリウム、フッ化亜鉛の一種以上を含むフッ化物系混合フラックスを塗布して用い、マグネチック、超音波、高周波、スポットなどの種々の溶接法により溶接する、鋼材とアルミニウム材との異材接合方法が提案されている(特許文献5参照)。これらの方法は、上記フラックスの化学反応によって、鉄鋼表面の清浄作用を促すと共に、アルミニウムから成る溶融金属のぬれ性及び接着性を良好にし、脆弱な厚い金属間化合物層の形成を阻止する。
【0011】
更に、強固な酸化皮膜が形成されているアルミニウム合金材の表面から、酸化皮膜を還元、溶解除去する効果を有するフッ化物系フラックスをアルミニウム合金材表面に塗布して、軟鋼と6000系アルミニウム合金材とをスポット溶接する方法も提案されている(特許文献6参照)。また、これらフッ化物系フラックスは、アルミニウム合金材同士の溶融溶接接合などにも用いられている(特許文献7、8参照)。
【特許文献1】特開平7−148571号公報
【特許文献2】特開平10−314933号公報
【特許文献3】特開2004−223548号公報
【特許文献4】特開2003−211270号公報
【特許文献5】特開2003- 48077号公報
【特許文献6】特開2004−351507号公報
【特許文献7】特開2004−210013号公報
【特許文献8】特開2004−210023号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
特許文献1、2のような低温ロウ付けでは、アルミニウム系ロウ材、あるいは、フラックスとアルミニウム系ロウ材とを使用したロウ付けが行われてきた。しかし、低温ロウ付けでは、被接合材の接合温度範囲の管理が、ロウ材の溶融温度以上で、被接合材の溶融温度以下と厳密であり、自動車のボディなどの大型部材の接合に適用するためには、精密な温度制御を行える大型炉が必要である。また、接合に長時間を要するため、高い生産性が要求される自動車のボディなどの大型部材には適用できない。
【0013】
特許文献3のようなシリコンを添加したアルミニウム合金製ソリッドワイヤを溶接ワイヤとしてMIG溶接する方法は、入熱条件など高精度な制御のための、高価な制御電源を必要とするだけでなく、継ぎ手形状も大きく限定される問題がある。このため、やはり、継ぎ手形状の自由な設計が要求される自動車のボディなどの大型部材などには適用できない。
【0014】
更に、特許文献4、5に開示されるようなフッ化物組成のフラックス入りアルミニウム製ワイヤでは、軟鋼と純アルミニウムや5000系アルミニウム合金材との異材接合は可能である。しかし、特許文献4、5に開示されているフッ化物組成のフラックス入りアルミニウム製ワイヤは、高張力鋼材と6000系アルミニウム合金材との高強度な異材同士の溶接接合では、高い接合強度が得られない。これは、特許文献6に開示されているスポット溶接におけるフッ化物組成のフラックスでも同様である。
【0015】
前記した通り、低強度の異材同士と高強度の異材同士とでは、接合部での脆いFe−Al金属間化合物の生成条件が異なり、信頼性のある高い接合強度を得るためには、高強度の異材同士における、新たな接合条件の工夫と創出が必要だからである。言い換えると、高張力鋼材と6000系アルミニウム合金材との高強度な異材同士の溶融溶接接合におけるフラックスの組成などの条件は、これまで提案されてこなかったのが実情である。
【0016】
本発明はかかる課題を解決するためになされたものであり、特に、高張力鋼材と6000系アルミニウム合金材との、高強度な異材同士の溶融溶接接合において、接合強度を高めるとともに、溶接効率も良い異材接合用フラックスコアードワイヤおよび異材接合方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記目的を達成するための、本発明における異材接合用フラックスコアードワイヤの要旨は、鋼材とアルミニウム合金材との異材同士を接合するための、フラックスがアルミニウム合金外皮内に充填されたフラックスコアードワイヤであって、前記フラックスを、AlF3 をフラックスコアードワイヤ全質量に対して0.1〜15質量%含み、かつ塩化物を含まないフッ化物組成とするとともに、フラックスコアードワイヤ全質量に対して0.3〜20質量%充填したことである。
【0018】
ここで、接合強度を高めるために、更に、以下の態様とすることが好ましい。即ち、前記外皮アルミニウム合金が、Siを1〜13質量%含有し、残部Alおよび不可避的不純物からなることが好ましい。また、前記外皮アルミニウム合金が更にMnを0.1〜0.3質量%含有することが好ましい。更に、前記鋼材が亜鉛めっき鋼材であることが好ましい。
【0019】
本発明異材接合用フラックスコアードワイヤは、高張力鋼材と6000系アルミニウム合金材との接合に適用されて特に好ましい。
【0020】
上記目的を達成するための、本発明異材接合方法の要旨は、上記要旨の、あるいは上記および後述する好ましい態様の、フラックスコアードワイヤを用いて、高張力鋼材と6000系アルミニウム合金材との異材同士を、溶融溶接により接合することである。
【発明の効果】
【0021】
高張力鋼材と6000系アルミニウム合金材となどの高強度な異材同士の溶融溶接接合において、接合強度を信頼性レベルや実用性レベルに高めるためには、接合部での脆いFe−Al金属間化合物の生成を、これまでの低強度の異材同士の接合以上に、抑制する必要がある。
【0022】
このため、異材同士の溶融溶接接合に用いるフラックスにも、これまでのような、アルミニウム合金材などの被溶接材の表面酸化膜還元除去効果だけではなく、鋼材溶接部に生成する脆弱なFe−Al金属間化合物層成長の抑制効果が求められる。このFe−Al金属間化合物層成長の抑制効果の発揮のためには、異材同士の溶融溶接接合に用いるフラックスが、鋼材表面に作用して、FeとAlの相互拡散を阻害する作用を果たす必要がある。
【0023】
本発明者らの知見によれば、この様なFeとAlの相互拡散を阻害する作用効果は、フッ化物組成あるいはフッ化物系のフラックスにおいては、特にAlF3 (フッ化アルミニウム)を含むフラックスにおいて顕著である。言い換えると、AlF3 を含まないフッ化物組成のフラックスは、AlF3 を含むフッ化物組成のフラックスに比して、FeとAlの相互拡散を阻害する作用効果が小さい。このため、AlF3 を含まないフッ化物組成のフラックスは、低強度の異材同士の溶融溶接接合においては接合強度を高められるが、高張力鋼材と6000系アルミニウム合金材となどの高強度な異材同士の溶融溶接接合においては、接合強度を信頼性レベルや実用性レベルに高めることができない。
【0024】
AlF3 を含むフッ化物組成のフラックスによる、FeとAlの相互拡散を阻害する作用効果、Fe−Al金属間化合物層成長の抑制効果の機構は定かではない。ただ、AlF3 を含むフッ化物組成のフラックスは、特定の化合物が鋼材表面(接合面)に予め薄く生成することによって、この生成物が、FeとAlの相互拡散を阻害乃至抑制している可能性が高いと推考される。
【0025】
即ち、この鋼材表面の特定生成物は、溶融溶接中に、鋼とアルミニウム合金材との間にFe−Al金属間化合物層(界面反応層)が形成される時間を遅らせるものであるために、溶融溶接進行に伴う、FeとAlとの直接的な接合を阻害しないとも推考される。
【0026】
以上のように、本発明では、AlF3 を含むフッ化物組成のフラックスを用いて、しかも、このフラックスが外皮内に充填されたフラックスコアードワイヤとしたために、特に、高張力鋼材と6000系アルミニウム合金材との、高強度な異材同士の溶融溶接接合において、接合強度を高めるとともに、溶接効率も良い異材接合体や異材接合方法を提供できる優れた効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下に、本発明の各要件の限定理由と、その作用について説明する。
【0028】
(フラックスコアードワイヤ)
本発明における異材接合用フラックスコアードワイヤは、溶融溶接の効率化のために、フラックスが管状の外皮(フープとも言う)に充填されたフラックスコアードワイヤとする。フラックスコアードワイヤは、高効率の全自動溶接若しくは半自動溶接として、溶融溶接に適用できる利点がある。
【0029】
フラックスコアードワイヤの線径は、高効率の全自動溶接若しくは半自動溶接として用いられている溶接施工用として、ワイヤ送給機の特性なども含めた溶接作業性に応じて最適な径を選定すれば良い。例えば、一般的なCO2 ガスシールドアーク溶接、MIG 溶接等であれば、汎用されている0.8〜1.6mmφ程度の細径であれば良い。
【0030】
フラックスコアードワイヤの製造方法としては、外皮アルミニウム合金フープのU 字状成型工程、U 字状成型フープへのフラックス充填工程、U 字状フープから管状ワイヤへの成型工程などの工程によって、フラックスを内部に充填した管状成型ワイヤを製作する。そして、その後、この管状成型ワイヤを製品FCW径まで伸線する工程からなる、一般的な製造工程で製造可能である。
【0031】
フラックスコアードワイヤ(以下単にワイヤあるいはFCWとも言う)には、一般的に、フープに合わせ目(隙間、開口部:以下シームとも言う)を有するタイプと、合わせ目を溶接等で接合して隙間を有さない(合わせ目のない)シームレスタイプがある。本発明は、このいずれのタイプでも良い。また、管状ワイヤへの成形時に、アルミ板端部の巻き込み形状やシーム溶接の有無などに関しても幾つかの種類があるが、本発明は、このいずれのタイプでも良い。
【0032】
(外皮アルミニウム合金)
フラックスコアードワイヤの管状の外皮(フープとも言う)には、鋼とアルミニウム合金材との間でのFe−Al金属間化合物層の形成抑制のために、通常用いる鋼帯ではなく、アルミニウム合金帯を用いる。
【0033】
この際、外皮であるアルミニウム合金は、Siを1〜13質量%含有し、残部Alおよび不可避的不純物からなることが好ましい。これは、主に溶融状態におけるアルミニウム合金の流動性と凝固後の継手強度、外皮としての強度などを確保するためである。Si含有量が少なすぎると流動性および強度が低下する。逆にSi含有量が増大しすぎると、流動性の向上は飽和傾向になる他、溶着金属が脆くなる傾向が増す。このために、含有させる場合のSi量は1〜13質量%の範囲とする。
【0034】
ここで、Si量が少ない方が延性が向上する傾向が強く、衝撃特性などを要求される自動車部材への適用においては、Si量が少なめの、特に、1〜3質量%のSi含有量が好適である。逆に、MIG溶接などのFCWの送給性に高い精度が要求される場合には、外皮の強度が必要であり、その場合には9〜13質量%のSi含有量が好ましい。
【0035】
外皮アルミニウム合金は、このSiに加えて、更にMnを0.1〜0.3質量%含有し、残部Alおよび不可避的不純物からなることが好ましい。これは、主に溶融状態におけるアルミニウム合金の流動性と凝固後の継手強度、外皮としての強度などをより確保するためである。Mn含有量が少なすぎると、これらの効果が無い。逆にMn含有量が増大しすぎると、流動性の向上は飽和傾向になる他、溶着金属が脆くなる傾向が増す。このために、含有させる場合のMn量は0.1〜0.3質量%の範囲とする。
【0036】
このようなアルミニウム合金組成を有する外皮として、規格化され、汎用されているアルミニウム合金溶加材を用いることが好ましい。このようなアルミニウム合金組成を有するアルミニウム合金溶加材としては、Siを11.0〜13.0質量%、Mnを0.15質量%以下含有するA4047の使用が好ましい。また、Siを4.5〜6.0質量%、Mnを0.05質量%以下含有するA4043も使用できる。
【0037】
(フラックス組成)
本発明における外皮内に充填するフラックスは、前提として、塩化物を含まないフッ化物組成とする。塩化物は、溶接部に残留すると、溶接部乃至異材接合体の腐食促進因子として作用するために、その含有量を規制する。フラックス中には全く塩化物を含まないことが好ましいが、コストや実用性も考慮すると、本発明では、腐食を促進しない範囲での塩化物含有は許容する。この目安として、フラックス全量に対して、塩化物量を1mol%以下とする。
【0038】
同様に、本発明におけるフラックスは、フラックス成分として酸化物を含有する場合を許容する。具体的には、フッ化物の効果を損なわない範囲で、酸化アルミニウム、酸化ナトリウム、酸化リチウム、5酸化リン等を適宜添加してもかまわない。それらの上限はフラックス全量に対して、概ね30mol%程度である。
【0039】
本発明におけるフラックスに、アルミニウム合金粉末を混合添加すると、溶接時のスパッタが減少する他、溶融金属の過大な濡れが抑制される等の効果が得られる場合がある。フラックスは芯材としてアルミニウム合金外皮に包まれる構造となるが、外皮へのフラックス充填量が少ないと、フラックス量が安定せず、FCWの部位によってフラックス充填量(充填率、含有率)がばらつく問題が生じる。これに対して、特に、フラックス充填量が少ない場合に、フラックスとアルミニウム合金粉末を外皮に混合して充填すると、この問題が解消乃至緩和されるし、同時に、FCWの製造自体も容易になる利点も得られて好ましい。
【0040】
なお、フラックスへのアルミニウム合金金粉末の添加量が過大になると、アーク溶接ではアークが不安定になることがある他、FCWの送給性にも問題が生じることがある。このため、フラックスへのアルミニウム合金金粉末の過大な添加は避けるべきである。フラックスへ添加するアルミニウム合金粉末の材種は、基本的には、アルミニウム合金外皮の成分組成と同一とすれば良い。また、あるいは、アルミニウム合金外皮の成分組成とは異なるアルミニウム合金粉末を使用してもかまわない。このアルミニウム合金粉末として、例えば、A1000系、3000系、4000系、5000系、6000系等のアルミニウム合金粉末が挙げられる。
【0041】
(フッ化物組成)
本発明におけるフラックスの基本組成は、アルミニウム合金材などの被溶接材の表面酸化膜を還元除去、あるいは溶解除去する効果発揮のために、フッ化物組成とする。接合前のアルミニウム合金材の表面には極めて強固な酸化皮膜が形成されており、これが溶接時の通電を阻害する。したがって、フラックスの、この表面酸化膜還元除去効果が弱ければ、高張力鋼材と6000系アルミニウム合金材となどの高強度な異材同士の溶融溶接接合において、接合強度を信頼性レベルや実用性レベルに高めることができない。
【0042】
これらの効果を有するフッ化物としては、K3 AlF6 、K2 AlF5 、KF、AlF、CaF、LiF、KAlF4 、K2 TiF6 、K2 ZrF6 、ZnF2 、ZnSiF6 などから選ばれる1種以上のフッ素化合物を含有するものを用いることが好ましい。なお、フッ化物であっても、塩化物と同様に、溶接部に残留すると腐食促進因子として作用するフッ化物の使用は避ける。上記例示するフッ化物は、水溶液への溶解度が低く、このような弊害が少ない。これに対して、水溶液への溶解度が100g/mlを大きく超えるフッ化セシウム(CsAlF4 )等のフッ化物は、腐食促進因子として作用しやすく、使用を避ける。
【0043】
(AlF3
本発明では、FeとAlの相互拡散を阻害する作用効果、Fe−Al金属間化合物層成長の抑制効果を発揮させるために、上記フッ化物組成のフラックスに、AlF3 (フッ化アルミニウム)を、フラックスコアードワイヤ全質量に対して0.1〜15質量%、好ましくは0.4〜15質量%の範囲で含むことを最大の特徴とする。
【0044】
前記した通り、フッ化物組成のフラックスにおいては、特にAlF3 を含むフラックスにおいて、FeとAlの相互拡散を阻害する作用効果、Fe−Al金属間化合物層成長の抑制効果が顕著である。AlF3 を含むフッ化物組成のフラックスは、特定の化合物が鋼材表面(接合面)に予め薄く生成し、溶融溶接中に、鋼とアルミニウム合金材との間にFe−Al金属間化合物層(界面反応層)が形成される時間を遅らせ、FeとAlの相互拡散を阻害乃至抑制する。
【0045】
AlF3 の含有量が少なすぎると、AlF3 を含まないフッ化物組成のフラックス同様に、FeとAlの相互拡散を阻害する作用効果が小さい。このため、高張力鋼材と6000系アルミニウム合金材となどの高強度な異材同士の溶融溶接接合においては、接合強度を信頼性レベルや実用性レベルに高めることができない。
【0046】
一方、AlF3 の含有量が多くなるにつれて、Fe−Al金属間化合物層の厚さは薄くなるが、多すぎてもその効果が飽和してくる他、スパッタやヒュームが増加する新たな問題を生じる。このため、フッ化物組成のフラックスへのAlF3 の含有量は、フラックスコアードワイヤ全質量に対して0.1〜15質量%、好ましくは0.4〜15質量%の範囲とする。
【0047】
AlF3 は、AlF3 自体でなくとも、K3 AlF6 (25AlF3 +75KF)、K2 AlF5 (33AlF3 +67KF)の形で含有させても良い。
【0048】
(フラックス充填量)
アルミニウム合金外皮へのフッ化物系フラックス充填量(フラックスコアードワイヤ中のフッ化物系フラックス量)は、フラックスコアードワイヤ全重量に対して0.3〜20質量%の範囲とする。アルミニウム合金外皮へのフッ化物系フラックス充填量が、フラックスコアードワイヤ全重量に対して20質量%を超えると、被溶接材の表面酸化膜を還元除去する効果が過大となる。このために、溶融域が拡大し過ぎて、却ってFe−Al金属間化合物層が成長して、溶接強度の問題が生じる。このほか、スパッタやヒュームが増加して作業性や溶接部外観が損なわれる問題もある。逆に、アルミニウム合金外皮へのフッ化物系フラックス充填量が、フラックスコアードワイヤ全重量に対して0.3質量%未満では、フッ化物系フラックスの添加効果が不足する。フラックスの効果を確実に補償するためには、より好ましくは、フラックスコアードワイヤ全重量に対して、5〜15質量%の範囲のフラックス充填量とする。
【0049】
(溶融溶接法)
本発明の異材接合における、使用溶融溶接方法は特に制限されるものではなく、アークやレーザなどの熱源を使用した汎用の溶融溶接法を使用することができる。例えば、MIG法、TIG法、レーザ法あるいはそれらのハイブリッド溶接法が適用可能である。実際の溶融溶接の施工に際しては、被溶接材の種類・形状、これらの異材接合体の形状や構造、あるいは要求接合特性に応じて、フラックスコアードワイヤの外皮、フラックス成分などの諸因子を考慮し、溶接方法を選定し、溶接条件を最適化する。
【0050】
本発明フラックスコアードワイヤを、鋼材−アルミニウム合金材の異材溶融溶接法に適用した場合の溶接機構(プロセス)は、これらの使用溶融溶接方法にかかわらず、共通して以下の通りである。
【0051】
まず、適当な熱源からの入熱によって、アルミニウム合金材と鋼材の被溶接部分のアルミニウム合金が部分溶融する。それとほぼ同時に、鋼材−アルミニウム合金材の被溶接部近傍に送給された本発明フラックスコアードワイヤが溶融する。ここで、適切な入熱条件を設定すれば、鋼材側は溶融しない。また、溶融したフラックスがアルミニウム合金材の表面酸化膜を還元除去することにより、フラックスコアードワイヤ外皮のアルミニウム合金成分が、アルミニウム合金材の表面に濡れ広がる。その後入熱量が低下して溶融部が凝固することによって接合部が形成される。
【0052】
この溶接機構において、本発明フラックスコアードワイヤは、上記フラックス溶融時に、被溶接材の表面酸化膜還元除去だけではなく、鋼材溶接部に生成する脆弱なFe−Al金属間化合物層の成長を抑制する。即ち、本発明におけるAlF3 を含有するフラックスは、溶融時に鋼表面に作用して、FeとAlの相互拡散を阻害する作用を果たし、異材接合体の接合強度を高める。
【0053】
(鋼材の板厚)
異材接合される鋼材の板厚は0.3〜3.0mmの範囲が好ましい。鋼材の板厚が0.3mm未満の場合、前記した構造部材や構造材料として必要な強度や剛性を確保できず不適正である。鋼材の板厚が3.0mmを越えると前記した構造部材や構造材料としての軽量化を図れなくなる。
【0054】
(鋼材)
本発明においては、使用する鋼材の形状を特に限定するものではなく、構造部材に汎用される、あるいは構造部材用途から選択される、鋼板、鋼形材、鋼管などの適宜の形状が使用可能である。ただ、自動車部材などの軽量な高強度構造部材(異材接合体)を得るためには、鋼材の引張強度が400MPa以上、望ましくは500MPa以上の高張力鋼(ハイテン)とする。
【0055】
引張強度が400MPa未満の低強度鋼や軟鋼では、一般に低合金鋼が多く、酸化皮膜が鉄酸化物からなるため、FeとAlの拡散が容易となり、脆い金属間化合物が形成しやすい。また、必要強度を得るための板厚が厚くなり、軽量化が犠牲となる。
【0056】
(亜鉛めっき)
接合される鋼材表面(少なくともアルミニウム合金材との接合面)に亜鉛めっきを予め設けておくと、フラックスの濡れ性が向上する。また、アルミニウム合金材との接合面に亜鉛めっきが介在しているために、異材接合体の耐食性も優れる利点が得られる。更に、以下の作用で接合強度を高める効果もある。亜鉛めっきには、溶接時に、鋼とアルミの金属間化合物である界面反応層が形成する時間を遅らせる効果もある。更に、亜鉛めっきの存在(介在)によって、溶融溶接時の抵抗発熱量が増し、アルミニウムの鋼との界面での拡散速度が著しく速くなり、鋼側にアルミニウムが拡散して、良好な接合状態がいち早く確保される効果もある。
【0057】
これら亜鉛めっきは、純亜鉛めっき、合金亜鉛めっき、合金化亜鉛めっき等、公知の鋼材の亜鉛めっきが適用可能である。また、めっきの手段は、電気めっきや溶融めっき、溶融めっき後に合金化処理を行うなど、特に問わない。亜鉛めっきの厚みは、通常の1〜20μm の膜厚 (平均膜厚) 範囲でよい。厚みが薄すぎる場合は、亜鉛めっき皮膜が溶接時の接合初期に、接合部から溶融排出してしまい、界面反応層の形成を抑制できる効果を発揮できない。これに対して、亜鉛めっき皮膜の厚みが厚すぎる場合は、接合部からの亜鉛の溶融排出のために大きな入熱量が必要となる。この入熱量が大きくなると、アルミニウム合金材の溶融量が増加し、チリの発生によりアルミニウム合金材側の減肉量が大きくなるため、異材接合体を構造部材として使用できなくなる可能性もある。
【0058】
(アルミニウム合金材)
本発明で用いるアルミニウム合金材はその形状を特に限定するものではなく、各構造用部材としての要求特性に応じて、汎用されている板材、形材、鍛造材、鋳造材などが適宜選択される。ただ、アルミニウム合金材の強度についても、上記鋼材の場合と同様に、高い方が望ましい。この点、アルミニウム合金材の中でも強度が高く、合金元素量が少なく、リサイクル性にも優れた、この種構造用部材として汎用されている、Al−Mg−Si系のA6000系アルミニウム合金とする。
【0059】
本発明で使用するこれらアルミニウム合金材の板厚0.5〜4.0mmの範囲が好ましい。アルミニウム合金材の板厚が0.5mm未満の場合、自動車などの構造材料としての強度や、車体衝突時のエネルギ吸収性が不足して不適切である。一方、アルミニウム合金材の板厚が4.0mmを越える場合は、前記した鋼材の板厚の場合と同様に、前記した構造部材や構造材料としての軽量化を図れなくなる。
【0060】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより、下記実施例によって制限を受けるものではなく、前記、後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【実施例】
【0061】
市販のA6063アルミニウム合金板と、市販の590MPa級合金化溶融亜鉛めっき(GA)鋼板(ハイテン)とを重ね合わせた上で溶融溶接を行い、異材接合体を製作し、接合強度を評価した。
【0062】
表1、2には、フラックスの成分、フラックスの含有量(質量%:全FCW質量に対する含有量)、フラックス中のAlF3 含有量(質量%:全FCW質量に対する含有量)、溶接方法を種々変えた場合の実施例を示す。
【0063】
表3には、フラックスの成分はK3 AlF6 (混合mol比:25AlF3 +75KF)と一定にし、上記フラックスの含有量、上記フラックス中のAlF3 含有量も一定にした上で、溶接方法、外皮アルミニウム合金のSi、Mn量を種々変えた場合の実施例を示す。
【0064】
(被溶接材)
表1〜3とも、共通して、A6063アルミニウム合金板は板厚2.5mm、GA鋼板は板厚1.2mmとし、溶接時の配置は、GA鋼板を下にしてアルミニウム合金板を上に重ね合わせ、互いのラップ幅は5〜20mmとした。
【0065】
(溶融溶接方法)
表1〜3とも、レーザ法あるいはMIG法によって、上記重ね合わせ部分の中央部(単層重ね継手)の溶接を、両板の幅方向全域に亙って行った。レーザ法については、デフォーカスさせた連続発振YAGレーザにより、出力2〜4kW、速度0.8〜2.0m/minの条件とし、シールドガスはArとした。MIG法については、交流溶接電流30〜80A、溶接電圧7〜18V、溶接速度15〜60cm/minの条件とした。
【0066】
(フラックスコアードワイヤ)
表1、2では、外皮としてA4047相当のアルミニウム合金溶加材(Si:12.0質量%、Mn:0.1質量%)を共通して使用し、フラックスの組成のみを種々変えた。また、フラックスコアードワイヤ中のフラックス量が、フラックスコアードワイヤ全重量に対して1質量%以下の場合には、共通して、金属粉を添加した。金属粉は、共通して、外皮と同じA4047相当の組成のアルミニウム合金粉末(粒度150μm)とし、フラックスコアードワイヤ全重量に対して20質量%添加した。
【0067】
表1〜3とも、フラックスは以下の種類(組成)を、溶解・粉砕して準備し、前記した方法にて、線径1.2mmφのFCWの形に加工して用いた。なお、表1〜3とも、フラックスの成分組成の数値は、フラックス成分の混合mol比(トータルが100)を示している(数値を記載していないものはそのフラックス成分が100であることを示す)。なお、共通して、下記Na2 O、P2 5 を含む(2)の場合以外は、フラックスは、酸化物を含有せず、塩化物量もフラックス全量に対して0.1mol%未満であり、実質的に含まれていなかった。
【0068】
(フラックスの種類)
(1) 20CaF−80KF
(2)10AlF3 −45LiF−30Na2 O−15P2 5
(3)K3 AlF6 (25AlF3 +75KF)
(4)K2 AlF5 (33AlF3 +67KF)
(5)75AlF3 −25KF
(6)40AlF3 −60KF
【0069】
(ビード外観評価方法)
表1〜3とも、溶接中のスパッタ発生量などを含む、ビード外観を目視観察して4段階評価を行った。ビード外観(評価官能試験)は最も優れるものを4、最も劣るものを1として4段階の評価を行った。
【0070】
(継手強度)
表1〜3とも、異材接合体の接合強度としての継手強度は、接合継手から接合部を含む30mm幅の接合試験片を切り出して、単位溶接線当たりの破断強度を測定した。破断強度が250N/mm以上であれば◎、破断強度が200〜250N/mm未満であれば○、破断強度が100〜200N/mm未満であれば△、破断強度が100N/mm未満であれば×とした。ここで、破断強度が200N/mm( ○) 以上なければ、自動車などの構造材用の異材接合体としては使用できない。
【0071】
(継手伸び)
表3は、異材接合体の接合強度としての継手の伸び(%)も測定、評価した。この伸びも、接合継手から接合部を含む30mm幅の接合試験片を切り出して、単位溶接線当たりの伸びを測定した。伸びが10%以上であれば○○○(三重丸)、7.5〜10%未満であれば◎(二重丸)、5.0〜7.5%未満であれば○、2.5〜5.0%未満であれば△、2.5%未満であれば×とした。ここで、伸びが5.0%( ○) 以上なければ、自動車などの構造材用の異材接合体としては使用できない。
【0072】
(表1、2の結果)
表1、2から分かる通り、アルミニウム合金外皮へのフッ化物系フラックス充填量やAlF3 の含有量が、本発明の条件範囲で溶融溶接接合された発明例1〜30の異材接合体は、優れたビード外観、継手強度を有する。
【0073】
これに対して、アルミニウム合金外皮へのフッ化物系フラックス充填量や、AlF3 の含有量が、本発明の条件範囲から外れて少なすぎるか多すぎる、比較例31〜42の異材接合体は、ビード外観、継手強度が、上記発明例に比して、著しく劣っている。
【0074】
(表3の結果)
表3から分かる通り、外皮アルミニウム合金のSi、Mn量が、本発明の条件範囲で溶融溶接接合された発明例43〜64の異材接合体は、アルミニウム合金外皮へのフッ化物系フラックス充填量や、AlF3 の含有量も本発明範囲を満足しており、優れたビード外観、継手強度、伸びを有する。
【0075】
これに対して、外皮アルミニウム合金のSi、Mn量が本発明の条件範囲から外れて少なすぎるか多すぎる、比較例65〜70の異材接合体は、アルミニウム合金外皮へのフッ化物系フラックス充填量や、AlF3 の含有量が本発明範囲を満足しているにもかかわらず、ビード外観、継手強度、伸びが、上記発明例に比して、著しく劣っている。
【0076】
以上の実施例の結果から、高張力鋼材と6000系アルミニウム合金材との、高強度な異材同士の溶融溶接接合において、溶接効率が良く、特に、接合強度を高めるための、本発明異材接合用フラックスコアードワイヤの各要件の臨界的な意義が分かる。
【0077】
【表1】

【0078】
【表2】

【0079】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明によれば、高張力鋼材と6000系アルミニウム合金材との、高強度な異材同士の溶融溶接接合において、接合強度を高めるとともに、溶接効率も良い異材接合用フラックスコアードワイヤおよび異材接合方法を提供できる。これによって得られた異材接合体は、接合強度や溶接効率を高めたために、自動車、鉄道車両などの輸送分野、機械部品、建築構造物等における各種構造部材として大変有用に適用できる。したがって、本発明は鋼材とアルミニウムとの高強度な異種接合体の用途を大きく拡大するものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼材とアルミニウム合金材との異材同士を接合するための、フラックスがアルミニウム合金外皮内に充填されたフラックスコアードワイヤであって、前記フラックスを、AlF3 をフラックスコアードワイヤ全質量に対して0.1〜15質量%含み、かつ塩化物を含まないフッ化物組成とするとともに、フラックスコアードワイヤ全質量に対して0.3〜20質量%充填したことを特徴とする異材接合用フラックスコアードワイヤ。
【請求項2】
前記外皮アルミニウム合金が、Siを1〜13質量%含有し、残部Alおよび不可避的不純物からなる請求項1に記載の異材接合用フラックスコアードワイヤ。
【請求項3】
前記外皮アルミニウム合金が更にMnを0.1〜0.3質量%含有する請求項3に記載の異材接合用フラックスコアードワイヤ。
【請求項4】
前記鋼材が亜鉛めっき鋼材である請求項1乃至3のいずれか1項に記載の異材接合用フラックスコアードワイヤ。
【請求項5】
前記異材接合が高張力鋼材と6000系アルミニウム合金材とを接合するものである請求項1乃至4のいずれか1項に記載の異材接合用フラックスコアードワイヤ。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかのフラックスコアードワイヤを用いて、高張力鋼材と6000系アルミニウム合金材との異材同士を、溶融溶接により接合することを特徴とする異材接合方法。

【公開番号】特開2008−68290(P2008−68290A)
【公開日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−249679(P2006−249679)
【出願日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願〔平成18年度 独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)からの委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受けるもの〕
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】