異種金属の接合方法および異種金属からなる接合物
【課題】本発明は、歪や欠陥が少なく高い接合強度を有する健全な接合部を効率的に形成可能な異種金属の接合方法、および歪や欠陥が少なく高い接合強度を備えた健全な接合部を有する接合物を提供することを目的としている。
【解決手段】本発明の異種金属の接合方法の一態様は、接合されるべき被接合面を互いに有する金属からなる第1の部材と第2の部材とを介在物を介することなく直接、所定の継手でレーザ接合する接合方法であって、前記レーザに対するレーザ吸収率および融点が第2の部材よりも低い第1の部材の被接合面と第2の部材の被接合面と密着させて密着面を形成し、当該密着面を挟む双方の表面の隣合う領域に同時にレーザを照射することを特徴とする異種金属の接合方法である。
【解決手段】本発明の異種金属の接合方法の一態様は、接合されるべき被接合面を互いに有する金属からなる第1の部材と第2の部材とを介在物を介することなく直接、所定の継手でレーザ接合する接合方法であって、前記レーザに対するレーザ吸収率および融点が第2の部材よりも低い第1の部材の被接合面と第2の部材の被接合面と密着させて密着面を形成し、当該密着面を挟む双方の表面の隣合う領域に同時にレーザを照射することを特徴とする異種金属の接合方法である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、融点の異なる異種金属同士を接合する接合方法および融点の異なる異種金属が接合されてなる接合物に係わる技術分野に属する発明であり、より詳細には、接合されるべき被接合面を互いに有する金属からなる第1の部材と第1の部材より融点の高い第2の部材とを介在物を介することなく直接、所定の継手でレーザ接合する接合方法および接合されるべき被接合面を互いに有する金属からなる第1の部材と第1の部材より融点の高い第2の部材とが介在物を介することなく直接、所定の継手で接合された接合物に関する技術分野に属する発明である。
【背景技術】
【0002】
従来から、電子部品、輸送機械または一般産業機器などの分野において融点の異なる異種金属が接合されてなる接合物が利用されてきたが、近年の例えば情報処理機器や情報通信機器の小型化・低背化、あるいは地球環境保全の観点からの製品の軽量化、長寿命化など各種の目的を達成するため、歪や欠陥が少なく高い接合強度を備えた健全な接合部を有する接合物を効率的に形成可能な異種金属の接合技術の確立への要請が高まっている。ここで、異種金属とは、被接合物を構成する主たる組成が異なるものを言い、例えば主たる組成が鉄と銅であるそれぞれの合金としてのステンレス鋼と黄銅は異種であり、主たる組成が鉄として共通するその合金としてのステンレス鋼と工具鋼は同種である。
【0003】
ここで、異種金属を接合する技術としては、固相接合である拡散接合や超音波接合、液相接合である溶接やロウ接合などがあるが、いずれの接合技術も接合部の品質面および効率面から一長一短があり、上記要請を満足するレベルにないのが実情である。一方で、高エネルギー密度を有するレーザは、大気中において、ごく微小な領域を瞬時に加熱し溶融して効率的に接合部を形成できるとともに、レーザが照射された領域以外の部分には熱影響が及び難く歪や欠陥が少ない良質な接合部を形成できる接合技術として従来から注目されている。そして、近年、CO2レーザに比べ波長が短いため金属表面における反射が少なく、レーザスポット径の小さなYAGレーザやLDレーザの高出力化に伴い異種金属の接合技術として当該レーザを利用するための研究開発が展開されており、その技術の一例が下記特許文献1〜3に開示されている。
【0004】
特許文献1に開示された異種金属の接合技術は、人体の血管管路に挿入されるニッケルチタン合金からなる円管状のステントの外周面に、ニッケルチタン合金より融点が低い金からなる放射線不透過性のマーカーをレーザで接合する接合方法であって、ステントの外周面にマーカーを接触させる工程と、ニッケルチタン合金および金のレーザに対する反射率が本質的に重なるレーザの最適波長範囲から選択された波長を有するレーザを、ステントの外周面およびマーカーの表面に照射し、接合部を形成する工程を含む異種金属の接合方法である。かかる接合方法によれば、例えばニッケルチタン合金と金とを接合する場合には、0.40〜0.55μmの波長を有する倍周波数化されたNd:YAGレーザを選択することにより、当該レーザに対する両者のレーザ反射率が近接し、レーザが照射された両者の表面の溶融状態がほぼ同一となるので金のみが一方的に融解・気化することがなく、マーカーがステントから剥離することのない信頼性の高い接合部を形成することができると記載されている。
【0005】
下記特許文献2に開示された異種金属の接合技術は、ステンレスとステンレスより融点が低い黄銅系金属との接合面近傍にビームを照射して接合する接合方法であって、前記接合面を挟んで両者の間にビームをウィービングし、黄銅系金属を融点より低い温度までに加熱した後、ビームをステンレス側に照射し、ステンレスが溶融するまで加熱する異種金属の接合方法である。この接合方法によれば、黄銅系金属を直接加熱せず、ステンレスの溶融に伴う輻射熱や伝熱により間接的に加熱して接合面近傍の黄銅系金属を溶融せしめ、相互の金属が混在した溶融池を形成するので強固な接合部を得ることができる、と記載されている。また、ウィービングによる加熱は、伝熱等の間接的な黄銅系金属の溶融までの加熱速度の遅さを考慮して、黄銅系金属を加熱し、ステンレスの溶融と溶融時期を近似させている、と記載されている。
【0006】
下記特許文献3に開示された異種金属の接合技術は、銅系材料からなる第1の部材と第1の部材より溶融温度の高いステンレス鋼材からなる第2の部材をレーザで接合する異種金属の接合方法であって、第1の部材の接合端と第2の部材の接合端とを対向配置する工程と、第1の部材の接合端と第2の部材の接合端とが合わされる接合部に対し該接合部における溶融部のビード幅が1.5mm以下となるようにレーザを照射する工程と、を含む異種金属の接合方法である。かかる接合方法によれば、接合部における溶融部のビード幅が1.5mm以下となるようにレーザを照射するので、接合部への入熱量を小とし比較的短期間とし、入熱部を小さく局部的とし、銅成分が鉄の結晶粒界へ移動しても粒界を割る為の熱エネルギーがなく、溶融部における割れの発生を回避できる、と記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表2003−517872号公報
【特許文献2】特開2002−336983号公報
【特許文献3】特開2006−187795号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
レーザによる異種金属の接合技術に関する従来の技術水準を示した特許文献1〜3に開示された技術は、融点が異なる異種金属の接合において上記した作用効果を有するものの、欠陥が少なく高い接合強度を有する良質な接合部を効率的に形成するという点では不充分である。すなわち、特許文献1の接合方法では、異種金属において両者のレーザ反射率が重複するようにレーザの波長を選択する必要がある。そのため選択可能なレーザの波長範囲が非常に狭く、接合部に要求される品質や工業生産上要求される製造効率を満足する適切な波長のレーザを選択できない恐れがある。また、特許文献1の接合技術で選択されるレーザは、発振器で生成されてなるレーザの原波を適宜調波して所要の波長に制御する必要があるため設備が複雑化し、当該接合方法で接合されてなる接合物が高コスト化する恐れがある。
【0009】
特許文献2の接合方法では、ビームをステンレス側に照射してステンレスを溶融させる工程の前段において黄銅系金属を融点より低い温度まで加熱して予熱するが、その両者の接合面を挟んでビームをウィービングする予熱工程は、接合部を形成するためのステンレスの溶融工程とは別工程で行われる。そのため、図8に示すように、異種金属の一方の金属が熱伝導率の高い黄銅、銅、金、銀またはアルミニウムその他高熱伝導性の金属の場合には、照射領域にレーザから予熱工程において入熱された熱が当該領域の外に即座に拡散してしまい当該領域が充分に予熱されないため、予熱工程後のステンレスの溶融工程で充分に溶融したステンレスと混合せず、良好な接合部を形成できない恐れがある。
【0010】
特許文献3の接合方法は、上記のとおり第1の部材の接合端と第2の部材の接合端とが合わされる接合部における溶融部のビード幅が1.5mm以下となるようにレーザを照射する接合方法であるが、そのような幅の溶融部を形成する具体的な条件は記載されていない。
【0011】
本発明は、従来技術の問題点を鑑みて本願発明者らが鋭意検討の上なされたものであり、接合されるべき被接合面を互いに有する金属からなる第1の部材と第1の部材より融点の高い第2の部材とを介在物を介することなく直接、所定の継手でレーザ接合する接合方法において、レーザの照射による第1の部材の予熱処理と第2の部材の溶融処理とを同時に進行せしめるという技術的課題を解決し、歪や欠陥が少なく高い接合強度を有する健全な接合部を効率的に形成可能な異種金属の接合方法を提供することを目的としている。また、本発明は、接合されるべき被接合面を互いに有する金属からなる第1の部材と第1の部材より融点の高い第2の部材とが介在物を介することなく直接、所定の継手で接合された接合物において、上記課題を解決することにより、歪や欠陥が少なく高い接合強度を備えた健全な接合部を有する接合物を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の課題を解決する、本発明の異種金属の接合方法の一態様は、接合されるべき被接合面を互いに有する金属からなる第1の部材と第2の部材とを介在物を介することなく直接、所定の継手でレーザ接合する接合方法であって、前記レーザに対するレーザ吸収率および融点が第2の部材よりも低い第1の部材の被接合面と第2の部材の被接合面と密着させて密着面を形成し、当該密着面を挟む双方の表面の隣合う領域に同時にレーザを照射することを特徴とする異種金属の接合方法である。
【0013】
かかる接合方法によれば以下の作用効果を奏することができる。すなわち、所定の継手で接合されるように、第2の部材よりも低い融点を有する第1の部材と第2の部材とを相互の被接合面を密着させて密着面を形成する(密着工程)。なお、第1の部材および第2の部材は、突合せ継手、重ね継手、T継手、角継手その他各種の継手様式で接合させることができる。また、相互の被接合面は全ての面で密着している必要はなく、密着面を形成するように両者の少なくとも一部が密着していればよい。したがって、一部が密着した被接合面の間に、例えばV型、X型、U型の開先が形成される面を被接合面は有していてもよい。
【0014】
上記密着工程の後、密着面を挟む第1の部材および第2の部材双方の表面の隣合う領域に同時にレーザを照射する(接合工程)。この接合工程において、密着面を境界として第1の部材および第2の部材の隣接する表面は所定の領域においてレーザを受光する。なお、言うまでもないが、第2の部材に照射されその表面が受光するレーザは、融点の高い第2の部材が溶融するに足る充分なエネルギー密度を有しており、さらに第2の部材のレーザ吸収率は第1の部材より高い。したがって、レーザを受光した表面の所定領域において第2の部材はレーザを吸収し、加熱し、溶融状態となる(第2の部材の溶融処理)。
【0015】
一方で、第1の部材は第2の部材よりもレーザ吸収率が低いので、例えば第2の部材に照射されたレーザと同一レベルのエネルギー密度を有するレーザを第1の部材に照射した場合でも、当該レーザを受光した第1の部材の表面は第2の部材ほどにはレーザを吸収しない。そのため、レーザを受光した表面の所定領域において第1の部材はレーザを吸収するものの、第2の部材に比べ入熱量が低いために加熱が抑制され、第1の部材は溶融せずに予熱状態となる(第1の部材の予熱処理)。
【0016】
ここで、本発明においては、密着面を挟む双方の表面の隣合う位置に、しかも同時にレーザを照射するので、第1の部材の予熱処理と第2の部材の溶融処理は同時に行われることとなる。したがって、第2の部材の溶融処理と同時に予熱処理されている第1の部材の第2の部材の溶融部に接する部分は、当該第2の部材の溶融部から熱伝達や熱輻射で供給される熱により、間接的に加熱され速やかに溶融する。このように第1の部材の予熱処理と第2の部材の溶融処理とを同時に行わせしめることで両部材が溶融する時期が一致し、第1の部材と第2の部材の各々の溶融物が円滑に混合し、欠陥が少なく健全な接合部が形成され、当該接合部を介して第1の部材と第2の部材は高い接合強度で接合される。加えて、第1の部材の予熱処理と第2の部材の溶融処理は同時並行して行われるので、効率も極めて高い。
【0017】
また、本発明に係わる異種金属からなる接合物は、上記接合方法を用いて好適に実現される接合物であって、接合されるべき被接合面を互いに有する金属からなる第1の部材と第2の部材とが介在物を介することなく直接、所定の継手で接合された接合物において、前記第1の部材と前記第2の部材の被接合面が互いに密着されてなる密着面を挟む双方の表面に隣合う領域に照射されたレーザで形成されてなる接合部を有し、前記第1の部材は、前記第2の部材よりも融点が低くかつ前記レーザに対するレーザ吸収率が低いことを特徴とする異種金属からなる接合物である。かかる接合物によれば、その接合部は、欠陥が少なく健全で、高い接合強度を有するので、当該接合物が部品として組み込まれる電子部品、輸送機器、一般産業機器その他各種機器の小型・低背化、軽量化、長寿命化などの要請に応じることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係わる異種金属の接合方法および異種金属からなる接合物は上記説明のとおり構成したので、本発明の課題を解決し、歪や欠陥が少なく高い接合強度を有する接合部を効率的に形成可能な異種金属の接合方法を提供するという本発明の目的を達成することができる。なお、本発明の好ましい実施態様の構成およびその奏する作用効果については、下記で詳述する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明に係わる第1態様の接合物を示す斜視図である。
【図2】図1の接合物を形成する接合装置の概略構成を示す図である。
【図3】図1の接合物の形成する本発明に係わる第1態様の接合方法を説明するための図である。
【図4】本発明に係わる第2態様の接合物およびその接合物を形成するための接合方法を示す図である。
【図5】本発明に係わる第3態様の接合物およびその接合物を形成するための接合方法を示す図である。
【図6】図1の接合物の形成する本発明に係わる第4態様の接合方法を説明するための図である。
【図7】レーザの波長と金属のレーザ吸収率との関係を示す図である。
【図8】各種金属の熱的な諸特性を示す図である。
【図9】実験例1の接合物の破断強度とレーザ照射位置との関係を示す図である。
【図10】実験例1の接合物の破断後の表面および破断面を示す図である。
【図11】実験例1の接合部の表面および裏面および断面を示す図である。
【図12】図10の接合部の断面を電子顕微鏡で観察した結果を示す図である。
【図13】実験例1において照射円の直径を400μmにした場合の接合部の表面および断面を示す図である。
【図14】実験例2の接合部の表面を示す図である。
【図15】実験例2の接合部の断面を示す図である。
【図16】実験例2の接合物の破断強度とレーザ吸収率との関係を示す接合部の図である。
【図17】実験例1の接合部のEPMAによる分析結果を示す図である。
【図18】図17の部分拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明に係わる異種金属の接合方法および異種金属からなる接合物について、その第1〜第4実施態様ならびに実験例1及び2に基づき、図面を参照しつつ説明する。なお、以下、本発明について、異種金属として第1の部材を銅、第2の部材をステンレス鋼で構成した実施態様および実験例で代表させて説明するが、本発明はかかる実施態様に限定されることはない。すなわち、本発明は、第1の部材を黄銅、アルミニウム、金または銀またはそれらの合金で構成し、第2の部材を鋼、ニッケル、チタンまたはそれらの合金で構成した、図8に示す熱的特性を有する各種金属からなる第1の部材と第2の部材との組合せ、すなわち第1の部材を構成する金属が第2の部材を構成する金属よりも融点が低い異種金属の組合せにおいて適用することができる。
【0021】
[第1実施態様]
図1は、本発明に係わる第1実施態様の接合物10を示す斜視図である。全体が平板状の接合物10は、表面における酸化膜の生成が少ない無酸素銅(融点:1083度)からなる第1の部材11とステンレス鋼(融点:1450度)からなる第2の部材12とが接合部13を介して接合されている。図示するように、一対の被接合物である第1の部材11と第2の部材12は、厚みt1・t2が同一で、縦横の寸法w1×v1・w2・v2も同一である矩形板状体であり、下記詳述する接合方法により形成された接合部13による継手形式は、第1の部材11と第2の部材12の各々の一側面である平坦な被接合面11aと12aを相互に突合せて接合した平突合せ継手である。なお、第1の部材11および第2の部材11は全て金属で構成されている必要はなく、少なくとも接合部13を形成すべき部分が銅およびステンレス鋼で構成されていれば足り、他の部分は例えば樹脂・セラミックスなど他の材料で構成されていてもよい。
【0022】
図において符号11b・12bは、各々第1の部材11と第2の部材12の平坦な表面であり、接合部13を形成する際に照射されるレーザを受光する受光面である。なお、図1において、第1の部材11と第2の部材12との被接合面11a・12aは、実際の接合物10では溶融により消滅しているため接合物10の表面では確認することは出来ないが、被接合面11a・12aが密着され形成される密着面14が理解できるように各々破線で示している(図4〜6において同様。)
【0023】
第1の部材11と第2の部材12とを接合して上記被接合物10を形成する接合装置の一例の概略構成を図2に示す。図2に示す接合装置1において、符号1aは、第1の部材11と第2の部材12を所定の姿勢で載置し、固定する固定部である。固定部1aは、受光面(表面)11b・12bが上方に向いた水平な姿勢で、被接合面11aと12aとを密着させた第1の部材11と第2の部材12が載置される載置面1dと、載置面1dに載置された第2の部材12の被接合面12aと反対側の一側面が当接し、紙面において水平な方向(以下、この方向をX軸方向と言い、紙面において上下方向をZ軸方向、両軸に直交する紙面に対し垂直な方向をY軸方向と言う。)に第1の部材11および第2の部材12を位置決めする位置決め基準面1bと、X軸方向に自在に水平移動するとともに載置面1dに載置された第1の部材11の被接合面11aと反対側の一側面に当接し、第1の部材11および第2の部材12をともに位置決め基準面11bの方向へ押圧し、それらを固定する可動固定片1cとを有している。この固定部1aに、第1の部材11と第2の部材12を上記姿勢で載置して固定すれば、双方の被接合面11aと12aが互いに密着して形成された密着面14は、X軸方向に対し直交し、紙面に垂直なY軸方向に沿い延びた状態で配置されることとなる。
【0024】
図2において符号1eは、固定部1aに固定された第1の部材11と第2の部材12を、位置および速度制御しつつX軸およびY軸方向に移動させる、ボールネジやパルスモータなどの駆動要素で構成された周知のX−Yテーブルからなる水平移動部である。この水平移動部1eは電気通信回線を介して制御部1iに接続されており、下記説明するレーザ照射部1fからのレーザLの照射と同期し、制御部1iで制御されつつX軸およびY軸方向に移動する。
【0025】
図2において符号1fは、レーザ照射部である。レーザ照射部1fは、光ファイバー線を介してレーザ発振器1hと接続されており、レーザ発振器1hで発生した波長が1064nmのYAGレーザは、光ファイバー線を通じてレーザ照射部1fに供給され、図示しないミラー・レンズなどの光学系を経てレーザ照射部1fの下方端から1条のレーザLとして第1の部材11および第2の部材12に向かい照射される。レーザ発振器1hは、前記制御部1iに電気通信回線を介して接続されており、レーザ出力、パルス幅その他のレーザ出力条件は制御部1hで制御されている。
【0026】
図において符号1gはレーザ照射部1fが取り付けられた昇降部であり、電気通信回線を介して接続された制御部1iに制御されてZ軸方向に昇降し、当該方向において所定の位置でレーザ照射部1fを位置決め固定する。なお、接合中における接合部13の酸化を抑制するため、部材11・12においてレーザLが照射される領域に、不活性ガスであるアルゴンガス・窒素ガスなどのアシストガスが供給されるようにガス供給ノズルを設け、当該領域を非酸化雰囲気にしてもよい。
【0027】
かかる接合装置1によれば、1条のレーザLの軸線cが、第1の部材11と第2の部材12との密着面14を基準としてX軸方向において所定の位置に位置するように、部材11・12を水平移動部1eでX軸方向に位置決めする。この状態において、レーザ照射部1fよりレーザLを照射すれば、密着面14を挟む受光面11b・12bの隣合い隣接する領域11e・12eを同時に含むように照射円Sが形成され(図3(c)参照)、部材11・12は当該領域11e・12eにおいて各々レーザLを吸収し、加熱する。このようにX軸方向におけるレーザLの照射位置を調整した後、部材11・12を水平移動部1eでY軸方向に移動すれば、Y軸方向に平行に延びた密着面14に沿ってレーザLが照射されるので、X軸方向におけるレーザLの照射位置を維持しつつ密着面14の全長に渡りレーザLを照射することが可能となる。また、Z軸方向におけるレーザ照射部1fの位置を昇降部1gで調整し、レーザスポットの位置をディフォーカスすることにより、照射円の直径を所望の径に設定することができる。
【0028】
以下、上記接合装置1による第1の部材11と第2の部材12の接合方法について説明する前に、まず、本発明に係わる異種金属の接合方法の原理について説明する。融点の異なる第1の部材11と第2の部材12とをレーザで接合するため、密着面14を挟む受光面11b・12bの隣合う領域を含むようにレーザを照射する場合、融点の高い第2の部材12を溶融させるに足るエネルギー密度を有するレーザを照射すると、融点の低い第1の部材11が優先して溶融するため接合部13に欠陥が生じ、健全な接合部13を形成することができない。一方で、言うまでもないが、融点の低い第1の部材11を溶融させるに足るエネルギー密度を有するレーザを照射しても、融点の高い第2の部材12は溶融しないため、接合部13を形成することができない。そのため、上記従来の技術水準を説明した特許文献1〜3の接合技術においては、融点の高い第2の部材12が溶融するに足るエネルギー密度のレーザを照射することを前提としつつ、第1の部材11と第2の部材12のレーザが照射された領域における各々の溶融状態を近似せしめ、互いの溶融物を充分に混合して健全な接合部13を得るため、上述した構成が採られている。
【0029】
この従来の異種金属の接合方法に対し、本発明に係わる異種金属の接合方法は、レーザの照射による第1の部材の予熱処理と第2の部材の溶融処理とを同時に進行せしめるという課題を解決するため、融点の高い第2の部材12が溶融するに足るレベルのエネルギー密度のレーザを照射することを前提としつつ、いずれの実施態様においても、当該レーザの波長に対する第1の部材11のレーザ吸収率を第2の部材12よりも低くするという原理で共通しており、第2の部材12を溶融させるレベルのレーザが照射されても第1の部材11への入熱量を制限するという作用を奏するように構成されている。
【0030】
すなわち、清浄で平滑な表面を有する所定の金属のレーザ吸収率とレーザの波長の常温における関係である図7に示すように、低融点金属である銅2b・銀2c・アルミニウム2eは、高融点金属である鉄2a・ニッケル2dに対し、波長が0.6μm以上の領域では概ね低いレーザ吸収率を有するが、波長が0.6μm未満の領域では高融点金属のレーザ吸収率に近似するようになり、特定の波長では高融点金属のレーザ吸収率を越える場合もある。ここで、本発明では、上記原理を具現するにあたり、例えば本態様のように第1の部材11を構成する低融点金属が銅、第2の部材12を構成する高融点金属が鉄系のステンレス鋼である場合には、図7に示すように、概ね0.6μm以上の波長域のレーザ、好ましくは図において符号2iで示すYAGレーザ2fおよびLDレーザ2hの波長を含む0.6μm〜1.6μmの波長域のレーザを選択し、第1の部材11のレーザ吸収率を第2の部材12よりも低くする。したがって、第1〜4態様の接合方法では、波長が1064nmであるYAGレーザを照射して異種金属を接合する場合を例として説明しているが、レーザの波長はこれに限定されることなく、異種金属の各々の融点・熱伝導率・比熱・質量などを考慮し、上記原理を満足しつつ各々が適切なレーザ吸収率を有するよう設定すればよい。なお、上記原理は融点が相違する異種金属の接合のみならず、同種金属でも適用可能な原理であり、本発明は、融点の異なる金属の接合において広く適用可能な接合技術である。
【0031】
上記金属のレーザ吸収率は、レーザが照射される表面の粗さ・酸化膜の有無・温度その他当該表面の状態とも相関するので、上記のように所定の波長域からの特定波長を有するレーザの選択によることなく、例えば波長が1064nmのYAGレーザなど所定波長のレーザに対し、第1の部材11の受光面11bの表面状態を調整することにより当該受光面11bにおけるレーザ吸収率を調整することもできる。また、上記好ましい波長域には、図7に示すように、金属におけるレーザ吸収率がCO2レーザ2gよりも高く、金属の接合において常用されるYAGレーザ2fやLDレーザ2hが含まれており、レーザ発振器で生成された原波の波長を調整せずそのまま利用できる点は、本発明が工業生産上優れる理由の一つになっている。
【0032】
以下、上記原理に基づく本態様の接合方法について図2および3を参照しつつ詳細に説明する。まず、第1の部材11と第2の部材12の密着工程である。図3(a)に示すように、作業者は、準備した第1の部材11および第2の部材12の互いの被接合面11aと12aとを密着し、各々の受光面11b・12bが上方を向いた姿勢で載置部1aの載置面1dに載置する。その後、可動固定片1cで、部材11・12を位置決め基準面1bに向かい押し付けてX軸方向における位置決めするとともに、部材11・12を固定部1aに固定する。このとき、被接合面11aと12aの密着により密着面14が形成されている。
【0033】
次に、レーザLの位置合わせ工程である。作業者は、まず、昇降部1gでZ軸方向にレーザ照射部1fを手動運転で位置合わせし、図3(b)およびその平面図である(c)に示すレーザLの照射円Sが所望の直径Φsとなるように調整する。ここで、受光面11b・12bに照射されたレーザLが当該受光面11b・12bにおいて形成する照射円Sの直径Φsは、「JIS C6180 レーザ出力測定方法」において定義される直径、すなわち「ビームの断面で、光パワー密度がビーム内の最大値に対してe−2になる点間の最大距離」である。この照射円Sの直径Φsは、ビームプロファイラー(例えばオフィール株式会社製、型式:BA−100)を用いてZ軸方向の調整を行いつつ求めることができる。なお、Z軸方向のレーザLの位置合わせは、上記密着工程の前に接合物10と同寸法のダミー材を固定部1aに固定して行ってもよい。
【0034】
上記Z軸方向における位置合わせが完了した後、作業者は、X軸方向のレーザの位置合わせを手動運転で行う。X軸方向の位置合わせは、図3(b)(c)に示すように、X軸方向における密着面14の位置を原点(基準)として、照射円Sの中心cであるレーザLの中心を通る軸線cと密着面14との間が所望の距離dとなるよう、水平移動部1eで調整することにより行う。具体的には、まず、水平移動部1eで部材11・12のX軸方向の位置を調整し、レーザLの軸線cと密着面14とを一致させ、その後、銅である受光面11bまたはステンレス鋼である受光面12bのいずれかの側(図の場合は受光面11bの側)に所望の距離dだけ部材11・12を移動させて、レーザLの軸線cを位置決めする。
【0035】
ここで、上記説明した本発明の原理を具現するためには、受光面11bおよび12bに形成されたレーザLの照射円Sが、密着面14を挟む受光面11b・12bの隣合い隣接する領域11e・12eを同時に含むように、これを言い換えると図3(c)に示すように平面視で見たとき照射円Sの中に密着面14が含まれるように、X軸方向における照射円Sの中心cを位置決めする必要がある。したがって、受光面11bまたは12bのいずれか一方の面のみに1個の照射円Sが形成される態様は本発明の範囲外であり、距離dの最大値は、照射円Sの半径であるΦs/2とほぼ同値である。
【0036】
なお、レーザLの位置合わせ工程は、X軸方向の調整を先に行い、その後Z軸方向の調整を行っても構わない。また、作業者が、受光面11b・12b、密着面14、レーザLの軸線cの位置を確認しながら水平移動部1eおよび昇降部1fを手動運転で操作してレーザLの位置決めを行うのはなく、例えば制御部1iのROMに記憶した画像処理・位置決め処理その他の処理プログラムを、RAMに記憶した位置決め情報を読み込みつつコンピュータで実行して、両軸の位置決めを自動運転で行うよう接合装置1を構成してもよい。
【0037】
レーザLの位置合わせ工程が完了した後、第1の部材11と第2の部材12の接合工程を行うため、作業者は、接合装置1の自動運転を開始する。接合装置1は、位置合わせ工程で位置決めされたレーザLの位置を維持しつつ、水平移動部1eで部材11・12をY軸方向に所定の速度で移動させ、密着面14の全長に渡りレーザLを照射する。レーザLが照射された密着面14の近傍の部材11・12は溶融し、部材11・12を構成する銅およびステンレス鋼が混合した接合部13が形成され、接合部13を介して第1の部材11と第2の部材12は接合される。
【0038】
ここで、本発明の接合方法を適用した場合の接合部13の形成プロセスは明らかではないが、以下、想定される接合部13の形成プロセスについて説明する。なお、以下では、理解のために形成プロセスを初期・中期・終期と時期を分けて説明しているが、レーザ照射による急熱急冷サイクルにより接合部13は数μ秒の時間で形成されていると想定され、各時期のプロセスは順次進むのではなく、時間差なく一瞬で行われている可能性がある。
【0039】
図3(d)は、形成プロセスの初期であるレーザLが照射された直後の部材11・12における加熱状態を示す概念図である。レーザLが照射された直後において、その照射円Sに含まれるステンレス鋼である受光面12bの領域(以下加熱領域と言う場合がある。)12eは、レーザ吸収率が高いためレーザLを多量に吸収する。加熱領域12eで吸収されたレーザLの多量のエネルギーは、急激な温度上昇を伴い熱として加熱領域12eの周囲に伝導し、ステンレス鋼が溶融した溶融池12cを形成する。一方で、照射円Sに含まれる銅である受光面11bの加熱領域11eは、レーザ吸収率が低いためレーザLを吸収しがたい。したがって、レーザ照射直後の段階では、加熱領域11eから周囲へ伝導する熱量も少ないため、第1の部材11は溶融せず、加熱領域11eの下方に予熱領域11cが形成される。また、この段階では、図において矢印Aで示すように、未溶解の被接合面11aを介して予熱領域11cへ、伝達または輻射により幾分かの熱が溶融池12cから供給されている状態である。
【0040】
図3(e)は、形成プロセスの初期に引き続く中期における部材11・12における加熱状態を示す概念図である。形成プロセスの中期においては、第2の部材12の溶融池12cは、加熱領域12eから入熱する熱により更に拡大する。一方で、予熱されている第1の部材11の予熱領域11cは、図において矢印Bで示すように溶融池12cから多量の熱の供給を受け、溶融池12cに接する部分が速やかに溶解し、銅の溶融池11dを形成する。そして、溶融した銅のレーザ吸収率は高まるので、照射されたレーザLは、銅の溶融池11dで効率よく吸収され、予熱領域11dの未溶解の銅の溶解を加速せしめる。そして、溶融池11dに含まれる溶融銅と溶融池12に含まれる溶融ステンレス鋼は、レーザLによる急激な加熱溶融により攪拌され、混合される。
【0041】
図3(f)は、形成プロセスの中期に引き続く終期における部材11・12における加熱状態を示す概念図である。形成プロセスの終期においては、上記中期のプロセスが引き続き進み、第1の部材11の厚み方向において、第2の部材12の溶融池12cに接する予熱領域11cの部分は全て溶融し、部材11・12の間に銅とステンレス鋼が混合してなる溶融池13aが形成される。その後、部材11・12の移動にともない照射円Sが次の加熱領域に移動すると、レーザLによる入熱が断たれるため溶融池13aは急速に冷却固化し、接合部13が形成される。
【0042】
なお、第1の部材11を構成する金属として、第2の部材12を構成する金属よりも熱伝導率の高い金属を選択すれば、加熱領域11eから入熱した熱は周囲に伝導しやすく、これが第1の部材11のレーザ吸収率の低さと相乗し、あるいは第1の部材11のレーザ吸収率の高さを補うように作用して、第1の部材11の予熱領域11dの予熱温度を適宜なレベルに制御することができる。
【0043】
[第2実施態様]
第1態様の接合方法は、互いに平坦な被接合面11a・12aを有する第1の部材11と第2の部材12とを平突合せ継手で接合する場合における実施態様であるが、当該接合方法は、重ね継手、T継手など他の形式の継手で異種金属を接合する場合、または被接合面の間に開先がある場合でも適用することができる。以下、そのような継手および開先を有する第2態様の接合物の接合部を形成する接合方法について説明する。なお、以下参照する図面において、上記第1態様の接合物および接合装置を構成する要素と同一の要素については、同一符号を付し、詳細な説明を省略する(以下の第3および第4態様の場合について同じ。)。
【0044】
まず、重ね継手の場合について、図4(a)および同図においてレーザLの軸線cに沿って接合部23を見た場合の投影図である同図(b)参照して説明する。図4(a)(b)に示す、銅からなる第1の部材11とステンレス鋼からなる第2の部材12を重ね継手で接合した接合物20は、次の手順で形成することができる。まず、第1の部材11の下面である被接合面21aと、第2の部材12の上面である被接合面22aを密着させ密着面24を形成する(密着工程)。次いで、下記詳述するレーザLの位置合わせ工程を行った後に、第1の部材21の一側面である受光面21bと、当該受光面21bに対向する第2の部材12の上面である受光面22bに対し、密着面24を挟む受光面21b・22bの隣接する加熱領域21e・22eを照射円Sが同時に含むようにレーザLを照射する(接合工程)。すると、第1態様の突合せ継手の場合と同様なプロセスで接合部23が形成され、第1の部材11と第2の部材12は重ね継手で接合される。
【0045】
重ね継手で接合された接合物20を形成する場合の、レーザLの位置合わせ工程について説明する。上記密着工程において被接合面21a・22aが密着されてなる密着面24の露出した前縁辺25を含み受光面22bに対して45度の角度で交わる仮想平面kを設定する。そして、その仮想平面kに対し軸線cが直交する状態でレーザLが照射されるように部材11・12を配置し、さらに仮想平面kの面上において前縁辺25を原点として軸線cの位置を調整する。これにより、第1態様の位置合わせ工程の中のX軸方向の位置合わせに相当するレーザLの位置合わせをすることができる。なお、Z軸方向におけるレーザの位置合わせは、第1態様の場合と基本的に同様であり、当該仮想平面kの面上において照射円Sが所望の直径Φsとなるよう調整すればよい。
【0046】
次に、T継手の場合について図4(c)を参照して説明する。この継手を有する接合物30の場合には形成すべき接合部33が図示するように2ヶ所あるという点以外は、T字型となるよう組合せた第1の部材11と第2の部材12の直交する受光面31bと32bにレーザLを照射して接合部33を形成するという点で重ね継手の接合物20の接合方法と共通している。すなわち、T継手の接合部33は、重ね継手の接合部23と同様に以下の手順で形成することができる。
【0047】
T字型となるよう、第1の部材11の下面である被接合面31aと、第2の部材12の上面である被接合面32aを密着させて密着面24を形成する(密着工程)。次いで、重ね継手の場合と同様に仮想平面kを利用してレーザLの位置合わせ工程を行った後に、第1の部材11の一側面である受光面31bと、当該受光面31bに対向する第2の部材12の上面である受光面32bに対し、密着面34を挟む受光面31b・32bの隣接する領域に同時にレーザLを照射する(接合工程)。すると、第1態様の突合せ継手の場合と同様なプロセスで、一方の接合部33が形成される。そして、他方の接合部33を同一の手順で形成することにより、第1の部材11と第2の部材12とはT継手で接合される。
【0048】
次に、開先を有する接合物を接合する場合について図4(d)を参照して説明する。図4(d)に示す接合物40の部材11・12において、被接合面11a、12aは厚み方向において底面の一方端辺から中央まで垂直に延びており、符号41f・42fで示す傾斜面は、その被接合面11a、12aの上端縁辺から所定の角度で傾斜して上面11b・12bまで延びている。この傾斜面41f・42fは、受光面11b・12bの一部をなす。そして、被接合面11a・12aを密着して密着面14を形成すると、傾斜面41fと42fとの間にV開先46が形成される。なお、傾斜面41f・42fは、密着面14を通る軸に対してX軸方向の断面が軸対称となるよう45度の傾斜角度で形成されている。
【0049】
このV開先46を有する接合物40は、第1態様の突合せ継手および上記重ね継手で接合された各々の接合物の接合方法を組み合わせて形成することができる。すなわち、第1の部材11および第2の部材12の互いの被接合面11aと12aとを密着させ、密着面14を形成する(密着工程)。
【0050】
次いで、重ね継手の場合と同様に、仮想平面kを利用してレーザLの位置合わせ工程を行う。ここで、V開先の場合の仮想平面kは、密着面14の上方で露出した上縁辺45を含むよう受光面11b・12bに対して平行に設定する。この位置合わせ工程の後、受光面11bの一部である第1の部材11の傾斜面41fと、受光面12bの一部である第2の部材12の傾斜面42fを含むように、密着面14を挟む傾斜面41f・42fの隣接する領域に同時にレーザLを照射する(接合工程)。すると、第1態様の突合せ継手の場合と同様なプロセスで、接合部43が形成される。
【0051】
[第3実施態様]
第1態様および第2態様では、異種金属からなる2枚の矩形平板状の部材を接合した接合部を有する接合物およびその接合部の形成方法について説明したが、本発明は、図5に示すように2個の円筒状部材51・52からなる接合物50の接合部53を形成する場合にも、適用することができる。
【0052】
接合物50は、双方ともに略円筒形状をなす無酸素銅からなる第1の部材51およびステンレス鋼からなる第2の部材52と、部材51・52を接合する接合部53を有しており、部材51・52のそれぞれの表面である外周面51b・52bがレーザを受光する受光面、各々の一方端面51a・52aが略円環状の平坦な被接合面を構成している。ここで、第1の部材51は、右端部に形成された被接合面51aから更に右方に延びる小径部51cを有しており、第2の部材52の左端部には、被接合面51a・52aが密着可能なように、小径部51cが嵌め入れされる円柱状の嵌入凹部52cが形成されている。なお、小径部51cおよび嵌入凹部52cは必ずしも必要ではないが、第1の部材51と第2の部材52を接合するために組み合わせた際の組合状態の保持、および接合部53を形成するためレーザLから入熱された熱が外部に伝達することを防止できる点で有利である。
【0053】
この接合物50も、基本的に、第1態様および第2態様と同様な接合方法で形成することができる。すなわち、小径部51cを嵌入凹部52cに挿入し第1の部材51と第2の部材52とを組み合わせ、第1の部材51および第2の部材52の被接合面51aと52aとを密着させて密着面54を形成する(密着工程)。
【0054】
次いで、レーザLの位置合わせ工程を行う。部材51・52の受光面51b・52bは一定の曲率を有する円筒形状をなしているので、曲率が大きく平面と同視できる場合には、第1態様の場合と同様な手順で位置合わせ工程を行えばよい。一方で、曲率が大きな場合は、密着面54の露出した外周縁55に対する接線を含むように仮想平面を設定して、上記第2態様と同様に位置合わせ工程を行えばよい。
【0055】
位置合わせ工程の後、組み合わされた部材51・52の軸心Jの回りに当該部材51・52を所定の速度で回転させつつ、第1の部材51の受光面51bと第2の部材52の受光面52bに対し、レーザLを照射する(接合工程)。すると、レーザLは、密着面54を挟む受光面51b・52bの隣接する領域を同時に含むように照射されるので、第1態様の突合せ継手の場合と同様なプロセスで、接合部53が形成され、第1の部材51と第2の部材52は接合される。
【0056】
[第4実施態様]
第1〜第3態様の接合方法では、第1の部材と第2の部材を接合して接合物を形成するにあたり、第1の部材と第2の部材との密着面に対し一条のレーザを照射して接合部を形成する例について説明したが、本発明では、図6に示すように2条のレーザL1・L2を照射して接合部を形成することも可能である。
【0057】
本態様において接合の対象となる接合物は第1態様と同じ接合物11であり、接合部13を介して接合された銅からなる第1の部材11とステンレス鋼からなる第2の部材12とを有し、部材11・12は、密着面14を形成する被接合面11a・12a、レーザL1・L2が照射される受光面11b・12bを有している。以下、波長が1064nmの2条のYAGレーザL1・L2を用いて接合物11を形成する手順について説明する。
【0058】
まず、第1態様の密着工程と同様な手順で、被接合面11aと12aを密着させて密着面14を形成し、次いで、2条のレーザL1・L2の位置合わせ工程を行う。
【0059】
レーザL1・L2の位置合わせ工程において、第1態様の手順と同様にレーザL1・L2のZ軸方向の位置合わせを行い、図6(a)およびその平面図である同図(b)に示す各々の照射円S1・S2の直径を設定する。また、X軸方向の位置合わせも、各々密着面14を含まず、レーザL1の照射円S1が受光面11bに、レーザL2の照射円S2が受光面12bに位置するよう、レーザL1・L2ごとに第1態様の手順と同様に行えばよい。なお、上記本発明の原理を具現するためには、本態様における加熱領域である照射円S1・S2は、X軸方向において密着面14を挟むように受光面11b・12bの隣合う位置に配置されている必要がある。そのため、レーザL1・L2は、図6(b)に示すように、照射円S1・S2の各々の中心c1・c2がY軸方向においてほぼ同じ位置になるよう位置決めされている。また、照射円S1・S2の直径は図示するように同径である必要はなく、予熱または溶融すべき領域のサイズに応じて各々異なった直径にすることができる。
【0060】
位置合わせ工程の後、第1の部材11の受光面11bと第2の部材12の受光面12bに、同一のエネルギー密度を有するレーザL1とL2を同時に照射しつつ部材11・12をY軸方向に移動させる(接合工程)。ここで、レーザL1の形成する照射円S1は、レーザ吸収率の低い受光面11bに配置されているので、照射円S1から第1の部材11に伝導する熱により、第1態様の場合と同様に照射円S1の近傍は予熱状態となる。一方で、レーザL1と同時に照射されるレーザL2の形成する照射円S2は、レーザ吸収率の高い受光面12bに配置されているので、照射円S2から多量の熱が第2の部材12に伝導し、照射円S2の近傍は溶融状態となる。このように、第1態様の1条のレーザを用いた接合方法の場合と全く同様に、第1の部材11の予熱処理と第2の部材12の溶融処理を同時に進行せしめることにより、第1態様と同様なプロセスで接合部13が形成され、第1の部材11と第2の部材12は接合される。
【0061】
なお、第1の部材11と第2の部材12を構成する金属の融点・熱伝導率・比熱・質量・レーザ吸収率を考慮し、第1の部材11と第2の部材12への総入熱量や単位面積当たりの入熱量を制御したい場合には、照射円S1・S2におけるエネルギー密度が相違するよう、例えば出力が異なるレーザL1・L2を照射したり、ディフォーカス量を変えて照射円S1・S2の直径が異なるようレーザL1・L2を照射してもよい。
【0062】
[実験例1]
以下、適切な接合条件を選定するため、第1の部材11と第2の部材12を第1態様の接合方法で接合した場合の実験例1および2について説明する。実験例1では、健全な接合部13を形成するための、X軸方向における適切なレーザの照射位置を確認し、実験例2では、第1の部材と第2の部材とのレーザ吸収率の適切な組合せについて確認した。
【0063】
以下、実験例1および2に共通する基本的な実験条件について説明する。実験例1・2ともに、使用した第1の部材11および第2の部材12は同じ大きさであり、図1に示す厚みt1・t2が1.5mm、幅w1・w2が50mm、奥行v1・v2が25mmである。また、第1の部材11を構成する銅は融点1083℃、熱伝導率398.5W/KmのJIS規格材であるC1020の無酸素銅を使用し、第2の部材12を構成するステンレス鋼は融点1450℃、熱伝導率16.3W/KmのJIS規格材であるSUS304ステンレス鋼を使用した。使用したレーザは波長が1064nmのYAGレーザであり、真空パッケージされた収納容器から取り出した直後の表面に酸化膜の少ない状態で常温にて測定したYAGレーザに対するレーザ吸収率は、第1の部材11が7%、第2の部材12が45%であった。なお、レーザ吸収率は、各々の部材の表面にエネルギー量が既知のレーザを照射し、表面から反射されたレーザのエネルギー量を測定し、入力したエネルギー量と反射されたレーザのエネルギー量の差を入力したエネルギー量で除することにより求めた。
【0064】
接合装置1において使用した発振器1hはディスクレーザ(トルンプ株式会社製、型式HLD1001.5)、レーザの発振形態は連続発振、またレーザ照射部1fに組み込まれた集光レンズはf200mmで、集光点におけるビーム径は180μmである。そして、基本的な接合条件は、レーザ出力750W、Y軸方向における溶接速度300mm/min、照射円Sの直径Φsを300μmとするためレーザLのディフォーカス量は上方へ0.5mm、とした。
【0065】
実験例1では、図2に示すX軸方向に沿いレーザLの照射位置を50μmピッチで数水準変化させ、第1態様の接合方法の手順に従い第1の部材11と第2の部材12とを上記基本条件で接合して各水準毎に複数個の接合物10を得た。そして、得られた接合物10を引張試験に付し、破断強度を確認した。その結果得られた、X軸方向におけるレーザLの照射位置と接合物10の破断強度の関係を図9に示す。図9において、横軸に示す「レーザ照射位置」とは、図3(b)(c)を参照して説明したように、X軸方向において、密着面14を原点とした場合のレーザLの軸線cの位置である。つまり、レーザLの軸線cは、照射位置が0未満の数値の場合には第1の部材11の側に、0の場合には密着面14と同位置に、0を超える場合には第2の部材12の側に位置している。また、図において「○」と「×」はどの部位で破断が生じたかを示し、「○」は第1の部材11を構成する銅の母材で破断が生じた母材破断の場合、「×」は接合部13で破断が生じた接合部破断の場合を示している。なお、図中示し、かつ下記の説明において記載される「本発明の範囲」は、「本発明に係わる第1態様の接合方法におけるレーザの照射範囲」を略して表示したものであり、本発明を限定するものではない。
【0066】
まず、破断部位について検討すると、図9に示すように、レーザLの軸線cが第1の部材11側、すなわち銅側に位置するときは、照射位置が−100μmの場合の破断写真である図10(a)(b)で例示するように、全て第1の部材11において母材破断しており、接合部13での破断は確認されなかった。母材破断は、全て強度の低い銅からなる第1の部材11側の母材で生じていた。なお、本発明の範囲外である照射円Sが密着面14から離れる照射位置−200μmでは、接合部13が形成されなかった。これは、レーザ吸収率の低い第1の部材11の受光面11bのみにレーザLが照射されるため、第2の部材12が溶融しないためである。
【0067】
さらに、本発明の範囲の限界位置である照射円Sの外周縁と密着面14とが重複する照射位置−150μmでも母材破断しており、良好な接合部13が形成されていることが確認された。これは、照射円Sの直径Φsの上記した定義と関係する。すなわち、本発明において、照射円Sの直径Φsは、JISC6180で規定される直径と定義しているが、この定義した照射円S外の所定範囲でもエネルギー密度は低いがレーザLが照射されている。このため、照射位置が−150μmの場合でも、照射円S外のレーザLの一部が、第2の部材12の受光面12bに照射されて加熱領域12eを形成し、第2の部材12が溶融され、良好な接合部13が形成されたものと考えられる。
【0068】
レーザLの軸線cが第1の部材11側に位置する場合の接合状態について、照射位置が−100μmの場合の、接合部13の表面および裏面ならびにX軸方向に沿う断面である図11(a)〜(c)で例示する。図11(a)(b)に示すように、レーザLの軸線cが第1の部材11側にある場合、接合部13は、Y軸方向に沿い一定ピッチの凹凸を有するように一定幅で均一に形成された特徴的な形態のビード130を有している。このビード130は、下記で述べるように、レーザLによる急激な加熱溶融により、銅とステンレス鋼の溶融物が激しく攪拌され、接合部13の組織中に多量に銅が混入したため形成されたものと考えられる。
【0069】
上記ビード130を有する接合部13の断面写真である図11(c)に示すように、第1の部材11と接合部13との接合界面13bには凹凸が多く乱れていることが判る。これは、レーザLによる急激な加熱溶融により急激に攪拌された溶融物が第1の部材11を洗い、その結果接合部13が第1の部材11へ溶け込んでいるためであると考えられる。また、レーザ照射位置が−100μmである別の接合物10の電子顕微鏡による断面写真である図12(a)およびそのI部の拡大写真である同図(c)に示すように、接合部13の組織には、銅とステンレスが渦状に絡んだ形態で存在する渦状組織が確認された。なお、銅とステンレスは金属間化合物を形成しないと一般的に言われており、この渦状組織は単相の銅およびステンレスで構成されていると考えられる。この渦状組織は、次のようなプロセスで形成されたものと推定される。すなわち、レーザLの照射位置が第1の部材11側へシフトしている場合には、第1の部材11の予熱効果が高いために、第2の部材12側へシフトしている場合よりも、相対的に多量の溶融銅が生成する。そして、この多量の溶融銅が、レーザLによる急激な加熱溶融により溶融ステンレス鋼とともに攪拌され、両溶融物が充分に混合された結果、上記渦状組織が形成されたものと考えられる。
【0070】
図12(a)に示したレーザ照射位置が−100μmの場合の接合部13の断面について、EPMA(Electron Probe MicroAnalyzer:電子線マイクロアナライザー)によりCuおよびFeの各元素の分布を確認した。その結果を図17(a)・(b)および図18に示す。なお、EPMAは、株式会社島津製作所製の型式EPMA−1610を使用し、下記の条件により分析を実施した。また、図17および18は実際の観察画像であるカラー画像を変換したグレースケール画像であり、図17の各図の右側のスケールで示すように、各図においては、その明るい部分にCuまたはFeがより多く含まれていることを表している。
(1)加速電圧:15Kv
(2)ビーム電流:50nA
(3)ビーム径:Φ5μm
(4)ステップ幅:5μm
(5)ビーム照射時間:10msec/point
【0071】
Cuの分布状態である図17(a)およびそのJ部の拡大図である図18(a)、ならびに、Feの分布状態である図17(b)およびそのK部の拡大図である図18(b)に示すように、渦状組織の領域を含め接合部13では、高い濃度でCuが分布している部分ではFeの濃度は低く、高い濃度でFeが分布している部分ではCuの濃度は低い。さらに、電子顕微鏡による画像である図12(a)・(c)では観察されなかったが、EPMA分析では、接合部13においてステンレス鋼のマトリックスの中に銅が点状に分布している組織も確認された。この結果からも、第1の部材11が溶融されてなる溶融銅と、第2の部材12が溶融されてなる溶融ステンレス鋼とは、レーザLによる急激な加熱溶融により攪拌され、両者は充分に混合されつつも、各々単相で接合部13に存在しているものと推察される。
【0072】
以上のように、本発明に係わる第1態様の接合方法によれば、レーザLによる急激な加熱溶融により、接合部13の全長に渡り、銅とステンレス鋼の溶融物が充分に攪拌混合され、もって接合境界よる溶け込みと渦状組織により強固に接合された高い接合強度を有する欠陥の少ない接合部13が形成され、引張試験において母材破断するに至ったものと考えられる。しかるに、接合部13は、第1の部材11を構成する銅からなる渦状組織を有していることが望ましいことが確認された。
【0073】
レーザLの軸線cが第1の部材11側に位置する場合に対し、第2の部材12側に位置する場合には、図9に例示するように、一部の接合物10で接合部破断が確認された。ここで、本発明の範囲である照射位置が150μm以下の場合には、母材破断が8割であり、接合部破断が2割であった。一方で、本発明の範囲外である照射位置が150μmを超える場合には、照射位置が200μmの場合の破断写真である図10(c)(d)で例示するような接合部破断の割合が5割まで高まった。なお、母材破断は、全て第1の部材11の側で生じていた。ここで、接合部破断した接合物10の破断面を見ると、図10(d)に示すように、比較的滑らかな破断面の中に一定方向に伸びる複数の筋が観察され、接合過程で接合部13に生成した微小な欠陥が起点となり接合部破断したものと考えられる。
【0074】
照射位置が100μmおよび300μm各々の場合の、接合部13の表面および裏面ならびにX軸方向に沿う断面を図11(d)〜(i)に示す。図11(d)(e)に示すように、照射位置が100μmの場合には、レーザLの軸線cが第1の部材11側に位置する場合に対し(図11(a)(b)参照)、接合部13のビード131の凹凸が小さくなった。さらに図11(g)(h)に示すように、照射位置が本発明の範囲外である300μmの場合には、ビード132の凹凸のピッチおよびビード幅が不均一となるとともにその凹凸の大きさも非常に小さくなる。下記説明するように、レーザLの照射位置が第2の部材12側へシフトするにつれ、特に本発明の範囲外となると、接合部13の組織中における銅の含有量が少なくなるためであると推定される。
【0075】
照射位置が100μmの場合には、その接合部13の断面である図11(f)および図11(f)の電子顕微鏡による明画像である図12(b)に示すように、接合部13に欠陥は確認されないものの、照射位置が−100μmの場合に比べ、第1の部材11に対する接合部13の溶け込みが少なく接合界面13bが比較的滑らかであり、かつ接合部13の組織はステンレスが主体であり銅の渦状組織は殆ど確認されなかった。レーザLの照射位置が第2の部材12側に設定された場合には、主に接合境界13bにおける溶け込みにより接合物10の接合強度が確保されていると考えられる。また、本発明の範囲外である照射位置が300μmの場合には、その接合部13の断面を示す図11(i)に示すように、接合部13に切り込むように鋭角に生じた欠陥13cが確認され、第1の部材11に対する接合部13の溶け込みも更に少なく、接合界面13bは非常に平滑であり、銅の渦状組織は確認されなかった。上記したように、レーザLの照射位置が第2の部材12側へシフトするにつれ、第1の部材11の予熱効果が低下し、相対的に銅の溶融量が減少し、接合部13への銅の混入量が減少するためであると考えられる。
【0076】
図12(b)に示したレーザ照射位置が100μmの場合の接合部13の断面について、EPMAによりCuおよびFeの各元素の分布を確認した。その結果を、図17(c)・(d)に示す。Cuの分布状態である図17(c)、Feの分布状態である同図(d)に示すように、レーザ照射位置が100μmの場合、すなわちレーザLの中心cが第2の部材12側にシフトしている場合には、接合部13において、銅とステンレス鋼が渦状に混合した渦状組織は確認されず、銅とステンレス鋼とは別離して存在しており、第1の部材11と第2の部材12とは接合境界でのみ接合していることが確認された。
【0077】
上記基本条件のうち照射円Sの直径Φsを400μmとするためレーザLのディフォーカス量を調整した以外は同一の条件で、第1態様の接合方法の手順に従い、X軸方向のレーザLの照射位置を変化させて、第1の部材11と第2の部材12とを接合して接合物10を形成した結果を図13に示す。
【0078】
レーザLの軸線cが第1の部材11側に位置する場合の接合状態について、照射位置が−200μmの場合の、接合部13の表面およびX軸方向に沿う断面である図13(a)(b)で例示する。図13(a)(b)に示すように、軸線cが第1の部材11側である場合、上記照射円Sの直径Φsが300μmの場合(図11(a)〜(c)参照)と同様に、接合部13は、Y軸方向に沿い一定ピッチの凹凸を有するように一定幅で均一に形成された特徴的な形態のビード133を有しており、欠陥の少ない接合部13を形成することができた。
【0079】
レーザLの軸線cが第2の部材12側に位置する場合の接合状態について、照射位置が200μmおよび300μmの場合の、接合部13の表面およびX軸方向に沿う断面である図13(c)〜(f)で例示する。図13(c)に示すように、照射位置が200μmの場合には、接合部13のビード134の凹凸が小さくなり、図13(d)に示すように、第1の部材11と接合部13の接合界面13bに沿い微小な欠陥13cが断面において確認された。また、第1の部材11に対する接合部13の溶け込みも少なく、接合界面13bの凹凸が少なかった。
【0080】
さらに、照射位置が本発明の範囲外である300μmの場合には、図13(e)に示すように、ビード135の凹凸のピッチおよびビード幅が不均一となり、図13(f)に示すように、接合部13に切り込むように鋭角に生じた欠陥13cが確認され、第1の部材11に対する接合部13の溶け込みも少なく、接合界面13bは平滑であることが確認された。
【0081】
以上、第1態様の接合方法、具体的には、第1の部材11の受光面11bと第2の部材12の受光面12bに形成されたレーザLの照射円Sが、密着面14を挟む受光面11bおよび12bの隣合う領域11e・12eを同時に含むように、X軸方向におけるレーザLの位置決めし、レーザLを照射して部材11・12を接合する接合部13を形成する接合方法が、破断強度が高く健全な接合部13を有する接合物10を形成するのに有効であることが確認された。なお、この第1態様の接合方法の奏する効果は、原理的に同一である第2〜第4態様の接合方法およびその接合方法で形成された接合物においても同様である。
【0082】
次に、図9を参照し、母材破断時の破断強度について検討する。一般的に、レーザで金属を加熱溶融して接合すると溶融部から伝導した熱により母材は焼鈍し熱処理に相当する熱履歴を受けるため、接合前より母材の破断強度が低下すると言われている。図9には、上記熱履歴を考慮し、250℃で30分間保持した後に空冷するという熱処理条件で、第1の部材11のみを焼鈍し熱処理した場合の第1の部材の破断強度(230Mpa)を符号Gで示す直線で、熱処理しない第1の部材11の破断強度(260Mpa)を符号Hで示す直線で、表している。
【0083】
図9に示すように、レーザLの軸線cが第1の部材11側に位置する場合の母材破断した接合物10の破断強度は、全て焼鈍し熱処理時の破断強度G以上であり、一部の接合物10の破断強度は未熱処理の破断強度Hと同等であった。一方で、レーザLの軸線cが第2の部材12側に位置する場合で母材破断した接合物10の破断強度は、焼鈍し熱処理の破断強度Gを下回るものが複数片確認された。これは、レーザLの照射位置が第2の部材12側にシフトするにつれ、レーザ吸収率の高い第2の部材12の受光面12bにおけるレーザLからの入熱量が増加し、第2の部材12の溶融量が増え、溶融部から第1の部材11へ伝導する熱が増加するためであると考えられる。
【0084】
レーザLで接合されてなる接合物10では、接合部13の接合強度が高いばかりでなく、第1の部材11と第2の部材12とを接合した後の母材の強度も極度に低下しないことが望ましい。母材の強度が低下すると、強度を回復するため接合工程後に別途熱処理が必要になり、工業生産上不利であるからである。したがって、レーザ接合後の第1の部材11側の母材の破断強度は、図9に示す第1の部材11の焼鈍し熱処理後の破断強度Gと、未熱処理の場合の破断強度Hの間に維持されていることが好ましい。
【0085】
ここで、図9において符号Eで示す直線は、レーザLの照射位置を、−50・−100・−150μmと3水準変化させて接合した場合の、複数片の接合物10の破断強度の平均値とレーザ照射位置との関係について最小二乗法で求めた関係式である。この関係式Eが、焼鈍し熱処理後の破断強度Gと交わるレーザLの照射位置、つまり照射位置の下限値は、図において矢印Fで示す約30μmである。この下限値を、照射円Sの直径300μmとの比で表すと10%となる。また、図9に示すように、照射円Sは、密着面14を挟む受光面11b・12bの隣合う領域を同時に含む必要があるので、X軸方向におけるレーザLの照射位置の上限値は150μmである。この上限値を、上記と同様に照射円Sの直径300μmとの比で表すと50%となる。すなわち、接合後の母材の強度を維持する観点からは、第1態様の接合方法の手順に従って照射されたレーザLにより形成された照射円Sの中心cは、密着面14と直交する方向であるX軸方向において密着面14を基準として第1の部材11側に、照射円Sの直径Φsとの比が10〜50%となるよう偏位していることが望ましい。これにより、接合部13の中で、X軸方向において密着面14を基準とし当該密着面14より第1の部材11側の部分が占める割合は60%以上となる。
【0086】
[実験例2]
実験例2では、第1の部材1と第2の部材12のレーザ吸収率の組合せの最適値を確認した。以下説明するように、第1の部材11および第2の部材12の各々のレーザ吸収率を数水準変更し、上記基本条件で、第1態様の接合方法の手順に従い、第1の部材11と第2の部材12を接合して接合物10を形成した。なお、レーザLの照射位置は、その軸線cを、密着面14を基準として第1の部材11側に100μmシフトした位置である。
【0087】
図14(d)は、図10(a)で示した、銅からなるレーザ吸収率が7%の第1の部材11とステンレス鋼からなるレーザ吸収率が45%の第2の部材12とを接合し、良好なビード130が形成された接合部13を表面から観察した写真である。この実験例2では、レーザ吸収率の組合せの最適値を確認するため、この第1の部材1と第2の部材12のレーザ吸収率の組合せを基準とし、部材11・12のレーザ吸収率の組合せを変化させた。そのため、第1の部材11および第2の部材12の各々の表面(受光面11b・12b)を粗面化または鏡面化し、YAGレーザに対するレーザ吸収率を1%、20%に調整した第1の部材11、27%、45%、55%に調整した第2の部材12を準備し、それぞれを組み合わせて第1態様の接合方法で接合した。
【0088】
図14(a)〜(c)は、レーザ吸収率が1%の第1の部材11と上記3水準のレーザ吸収率の第2の部材12とを組合せて接合した場合の接合部13を表面から観察した写真である。いずれの組合せにおいても、基準となるレーザ吸収率を組合せた場合に得られた接合部のビード130と同様に、一定のピッチの凹凸およびビード幅を有する均一なビード61〜63が形成されていた。また、図14(c)に示す接合部13の断面写真である図15(a)に示すように、接合界面13bには凹凸が多く、第1の部材11に接合部13が充分に溶け込んでおり、かつ接合部13には銅とステンレス鋼の渦状組織が確認された。
【0089】
図14(e)〜(g)は、レーザ吸収率が20%の第1の部材11と上記3水準のレーザ吸収率の第2の部材12とを組合せて接合した場合の接合部13を表面から観察した写真である。この組合せにおいても、一定のピッチの凹凸およびビード幅を有する均一なビード64〜66が形成されていた。また、図14(e)に示す接合部13の断面写真である図15(c)に示すように、接合界面13bには凹凸が多く、第1の部材11に接合部13が充分に溶け込んでおり、かつ接合部13には銅とステンレス鋼の渦状組織が確認された。
【0090】
図14に示す各種のレーザ吸収率の組合せで得られた複数の接合物10を引張試験に付し、得られた破断強度の平均値とレーザ吸収率の組合せの関係を図16に示す。図において吸収率の組合せを示す横軸に示された数値において、「:」の前の数値は第1の部材11のレーザ吸収率であり、後の数値は第2の部材12のレーザ吸収率である。いずれのレーザ吸収率の組合せにおいても、各接合物11は全て母材破断しており、その破断強度は、銅である第1の部材11の焼鈍し熱処理時の破断強度G以上であった。
【0091】
融点の異なる異種金属の接合において、レーザ吸収率の観点から厳しい組合せとなるのは、第1の部材11と第2の部材12とのレーザ吸収率の差が小さく近似する組合せである。すなわち、レーザ吸収率の差が小さい第1の部材11と第2の部材12とを第1態様の接合方法で接合する場合、融点の高い第2の部材12を溶融させるに足るエネルギー密度を有するレーザを照射すると、融点の低い第1の部材11が優先して溶融するため接合部13に欠陥が生じ、健全な接合部13を形成することができない。一方で、融点の低い第1の部材11を溶融させるに足るエネルギー密度を有するレーザを照射しても、融点の高い第2の部材12は溶融し難いので、接合部13を形成することができない。
【0092】
ここで、上記図14〜16で示した結果によれば、20%のレーザ吸収率を有する第1の部材11と、27%のレーザ吸収率を有する第2の部材12の組合せが、条件の厳しいレーザ吸収率の差が最も小さな組合せであり、この組合せでも健全な接合部13を有する接合物10を形成することが可能であった。しかるに、接合物10を構成する、第1の部材11のレーザ吸収率の上限値は20%以下、第2の部材12のレーザ吸収率の下限値は27%以上であることが望ましいことが確認された。
【符号の説明】
【0093】
1 接合装置
1a 固定部
1e 水平移動部
1f レーザ照射部
1g 昇降部
1h レーザ発振器
10(20、30、40、50) 接合物
11(51) 第1の部材
12(52) 第2の部材
13(23、33、43、53) 接合部
14(24、34、54) 密着面
L(L1、L2) レーザ
S(S1、S2) 照射円
【技術分野】
【0001】
本発明は、融点の異なる異種金属同士を接合する接合方法および融点の異なる異種金属が接合されてなる接合物に係わる技術分野に属する発明であり、より詳細には、接合されるべき被接合面を互いに有する金属からなる第1の部材と第1の部材より融点の高い第2の部材とを介在物を介することなく直接、所定の継手でレーザ接合する接合方法および接合されるべき被接合面を互いに有する金属からなる第1の部材と第1の部材より融点の高い第2の部材とが介在物を介することなく直接、所定の継手で接合された接合物に関する技術分野に属する発明である。
【背景技術】
【0002】
従来から、電子部品、輸送機械または一般産業機器などの分野において融点の異なる異種金属が接合されてなる接合物が利用されてきたが、近年の例えば情報処理機器や情報通信機器の小型化・低背化、あるいは地球環境保全の観点からの製品の軽量化、長寿命化など各種の目的を達成するため、歪や欠陥が少なく高い接合強度を備えた健全な接合部を有する接合物を効率的に形成可能な異種金属の接合技術の確立への要請が高まっている。ここで、異種金属とは、被接合物を構成する主たる組成が異なるものを言い、例えば主たる組成が鉄と銅であるそれぞれの合金としてのステンレス鋼と黄銅は異種であり、主たる組成が鉄として共通するその合金としてのステンレス鋼と工具鋼は同種である。
【0003】
ここで、異種金属を接合する技術としては、固相接合である拡散接合や超音波接合、液相接合である溶接やロウ接合などがあるが、いずれの接合技術も接合部の品質面および効率面から一長一短があり、上記要請を満足するレベルにないのが実情である。一方で、高エネルギー密度を有するレーザは、大気中において、ごく微小な領域を瞬時に加熱し溶融して効率的に接合部を形成できるとともに、レーザが照射された領域以外の部分には熱影響が及び難く歪や欠陥が少ない良質な接合部を形成できる接合技術として従来から注目されている。そして、近年、CO2レーザに比べ波長が短いため金属表面における反射が少なく、レーザスポット径の小さなYAGレーザやLDレーザの高出力化に伴い異種金属の接合技術として当該レーザを利用するための研究開発が展開されており、その技術の一例が下記特許文献1〜3に開示されている。
【0004】
特許文献1に開示された異種金属の接合技術は、人体の血管管路に挿入されるニッケルチタン合金からなる円管状のステントの外周面に、ニッケルチタン合金より融点が低い金からなる放射線不透過性のマーカーをレーザで接合する接合方法であって、ステントの外周面にマーカーを接触させる工程と、ニッケルチタン合金および金のレーザに対する反射率が本質的に重なるレーザの最適波長範囲から選択された波長を有するレーザを、ステントの外周面およびマーカーの表面に照射し、接合部を形成する工程を含む異種金属の接合方法である。かかる接合方法によれば、例えばニッケルチタン合金と金とを接合する場合には、0.40〜0.55μmの波長を有する倍周波数化されたNd:YAGレーザを選択することにより、当該レーザに対する両者のレーザ反射率が近接し、レーザが照射された両者の表面の溶融状態がほぼ同一となるので金のみが一方的に融解・気化することがなく、マーカーがステントから剥離することのない信頼性の高い接合部を形成することができると記載されている。
【0005】
下記特許文献2に開示された異種金属の接合技術は、ステンレスとステンレスより融点が低い黄銅系金属との接合面近傍にビームを照射して接合する接合方法であって、前記接合面を挟んで両者の間にビームをウィービングし、黄銅系金属を融点より低い温度までに加熱した後、ビームをステンレス側に照射し、ステンレスが溶融するまで加熱する異種金属の接合方法である。この接合方法によれば、黄銅系金属を直接加熱せず、ステンレスの溶融に伴う輻射熱や伝熱により間接的に加熱して接合面近傍の黄銅系金属を溶融せしめ、相互の金属が混在した溶融池を形成するので強固な接合部を得ることができる、と記載されている。また、ウィービングによる加熱は、伝熱等の間接的な黄銅系金属の溶融までの加熱速度の遅さを考慮して、黄銅系金属を加熱し、ステンレスの溶融と溶融時期を近似させている、と記載されている。
【0006】
下記特許文献3に開示された異種金属の接合技術は、銅系材料からなる第1の部材と第1の部材より溶融温度の高いステンレス鋼材からなる第2の部材をレーザで接合する異種金属の接合方法であって、第1の部材の接合端と第2の部材の接合端とを対向配置する工程と、第1の部材の接合端と第2の部材の接合端とが合わされる接合部に対し該接合部における溶融部のビード幅が1.5mm以下となるようにレーザを照射する工程と、を含む異種金属の接合方法である。かかる接合方法によれば、接合部における溶融部のビード幅が1.5mm以下となるようにレーザを照射するので、接合部への入熱量を小とし比較的短期間とし、入熱部を小さく局部的とし、銅成分が鉄の結晶粒界へ移動しても粒界を割る為の熱エネルギーがなく、溶融部における割れの発生を回避できる、と記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表2003−517872号公報
【特許文献2】特開2002−336983号公報
【特許文献3】特開2006−187795号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
レーザによる異種金属の接合技術に関する従来の技術水準を示した特許文献1〜3に開示された技術は、融点が異なる異種金属の接合において上記した作用効果を有するものの、欠陥が少なく高い接合強度を有する良質な接合部を効率的に形成するという点では不充分である。すなわち、特許文献1の接合方法では、異種金属において両者のレーザ反射率が重複するようにレーザの波長を選択する必要がある。そのため選択可能なレーザの波長範囲が非常に狭く、接合部に要求される品質や工業生産上要求される製造効率を満足する適切な波長のレーザを選択できない恐れがある。また、特許文献1の接合技術で選択されるレーザは、発振器で生成されてなるレーザの原波を適宜調波して所要の波長に制御する必要があるため設備が複雑化し、当該接合方法で接合されてなる接合物が高コスト化する恐れがある。
【0009】
特許文献2の接合方法では、ビームをステンレス側に照射してステンレスを溶融させる工程の前段において黄銅系金属を融点より低い温度まで加熱して予熱するが、その両者の接合面を挟んでビームをウィービングする予熱工程は、接合部を形成するためのステンレスの溶融工程とは別工程で行われる。そのため、図8に示すように、異種金属の一方の金属が熱伝導率の高い黄銅、銅、金、銀またはアルミニウムその他高熱伝導性の金属の場合には、照射領域にレーザから予熱工程において入熱された熱が当該領域の外に即座に拡散してしまい当該領域が充分に予熱されないため、予熱工程後のステンレスの溶融工程で充分に溶融したステンレスと混合せず、良好な接合部を形成できない恐れがある。
【0010】
特許文献3の接合方法は、上記のとおり第1の部材の接合端と第2の部材の接合端とが合わされる接合部における溶融部のビード幅が1.5mm以下となるようにレーザを照射する接合方法であるが、そのような幅の溶融部を形成する具体的な条件は記載されていない。
【0011】
本発明は、従来技術の問題点を鑑みて本願発明者らが鋭意検討の上なされたものであり、接合されるべき被接合面を互いに有する金属からなる第1の部材と第1の部材より融点の高い第2の部材とを介在物を介することなく直接、所定の継手でレーザ接合する接合方法において、レーザの照射による第1の部材の予熱処理と第2の部材の溶融処理とを同時に進行せしめるという技術的課題を解決し、歪や欠陥が少なく高い接合強度を有する健全な接合部を効率的に形成可能な異種金属の接合方法を提供することを目的としている。また、本発明は、接合されるべき被接合面を互いに有する金属からなる第1の部材と第1の部材より融点の高い第2の部材とが介在物を介することなく直接、所定の継手で接合された接合物において、上記課題を解決することにより、歪や欠陥が少なく高い接合強度を備えた健全な接合部を有する接合物を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の課題を解決する、本発明の異種金属の接合方法の一態様は、接合されるべき被接合面を互いに有する金属からなる第1の部材と第2の部材とを介在物を介することなく直接、所定の継手でレーザ接合する接合方法であって、前記レーザに対するレーザ吸収率および融点が第2の部材よりも低い第1の部材の被接合面と第2の部材の被接合面と密着させて密着面を形成し、当該密着面を挟む双方の表面の隣合う領域に同時にレーザを照射することを特徴とする異種金属の接合方法である。
【0013】
かかる接合方法によれば以下の作用効果を奏することができる。すなわち、所定の継手で接合されるように、第2の部材よりも低い融点を有する第1の部材と第2の部材とを相互の被接合面を密着させて密着面を形成する(密着工程)。なお、第1の部材および第2の部材は、突合せ継手、重ね継手、T継手、角継手その他各種の継手様式で接合させることができる。また、相互の被接合面は全ての面で密着している必要はなく、密着面を形成するように両者の少なくとも一部が密着していればよい。したがって、一部が密着した被接合面の間に、例えばV型、X型、U型の開先が形成される面を被接合面は有していてもよい。
【0014】
上記密着工程の後、密着面を挟む第1の部材および第2の部材双方の表面の隣合う領域に同時にレーザを照射する(接合工程)。この接合工程において、密着面を境界として第1の部材および第2の部材の隣接する表面は所定の領域においてレーザを受光する。なお、言うまでもないが、第2の部材に照射されその表面が受光するレーザは、融点の高い第2の部材が溶融するに足る充分なエネルギー密度を有しており、さらに第2の部材のレーザ吸収率は第1の部材より高い。したがって、レーザを受光した表面の所定領域において第2の部材はレーザを吸収し、加熱し、溶融状態となる(第2の部材の溶融処理)。
【0015】
一方で、第1の部材は第2の部材よりもレーザ吸収率が低いので、例えば第2の部材に照射されたレーザと同一レベルのエネルギー密度を有するレーザを第1の部材に照射した場合でも、当該レーザを受光した第1の部材の表面は第2の部材ほどにはレーザを吸収しない。そのため、レーザを受光した表面の所定領域において第1の部材はレーザを吸収するものの、第2の部材に比べ入熱量が低いために加熱が抑制され、第1の部材は溶融せずに予熱状態となる(第1の部材の予熱処理)。
【0016】
ここで、本発明においては、密着面を挟む双方の表面の隣合う位置に、しかも同時にレーザを照射するので、第1の部材の予熱処理と第2の部材の溶融処理は同時に行われることとなる。したがって、第2の部材の溶融処理と同時に予熱処理されている第1の部材の第2の部材の溶融部に接する部分は、当該第2の部材の溶融部から熱伝達や熱輻射で供給される熱により、間接的に加熱され速やかに溶融する。このように第1の部材の予熱処理と第2の部材の溶融処理とを同時に行わせしめることで両部材が溶融する時期が一致し、第1の部材と第2の部材の各々の溶融物が円滑に混合し、欠陥が少なく健全な接合部が形成され、当該接合部を介して第1の部材と第2の部材は高い接合強度で接合される。加えて、第1の部材の予熱処理と第2の部材の溶融処理は同時並行して行われるので、効率も極めて高い。
【0017】
また、本発明に係わる異種金属からなる接合物は、上記接合方法を用いて好適に実現される接合物であって、接合されるべき被接合面を互いに有する金属からなる第1の部材と第2の部材とが介在物を介することなく直接、所定の継手で接合された接合物において、前記第1の部材と前記第2の部材の被接合面が互いに密着されてなる密着面を挟む双方の表面に隣合う領域に照射されたレーザで形成されてなる接合部を有し、前記第1の部材は、前記第2の部材よりも融点が低くかつ前記レーザに対するレーザ吸収率が低いことを特徴とする異種金属からなる接合物である。かかる接合物によれば、その接合部は、欠陥が少なく健全で、高い接合強度を有するので、当該接合物が部品として組み込まれる電子部品、輸送機器、一般産業機器その他各種機器の小型・低背化、軽量化、長寿命化などの要請に応じることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係わる異種金属の接合方法および異種金属からなる接合物は上記説明のとおり構成したので、本発明の課題を解決し、歪や欠陥が少なく高い接合強度を有する接合部を効率的に形成可能な異種金属の接合方法を提供するという本発明の目的を達成することができる。なお、本発明の好ましい実施態様の構成およびその奏する作用効果については、下記で詳述する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明に係わる第1態様の接合物を示す斜視図である。
【図2】図1の接合物を形成する接合装置の概略構成を示す図である。
【図3】図1の接合物の形成する本発明に係わる第1態様の接合方法を説明するための図である。
【図4】本発明に係わる第2態様の接合物およびその接合物を形成するための接合方法を示す図である。
【図5】本発明に係わる第3態様の接合物およびその接合物を形成するための接合方法を示す図である。
【図6】図1の接合物の形成する本発明に係わる第4態様の接合方法を説明するための図である。
【図7】レーザの波長と金属のレーザ吸収率との関係を示す図である。
【図8】各種金属の熱的な諸特性を示す図である。
【図9】実験例1の接合物の破断強度とレーザ照射位置との関係を示す図である。
【図10】実験例1の接合物の破断後の表面および破断面を示す図である。
【図11】実験例1の接合部の表面および裏面および断面を示す図である。
【図12】図10の接合部の断面を電子顕微鏡で観察した結果を示す図である。
【図13】実験例1において照射円の直径を400μmにした場合の接合部の表面および断面を示す図である。
【図14】実験例2の接合部の表面を示す図である。
【図15】実験例2の接合部の断面を示す図である。
【図16】実験例2の接合物の破断強度とレーザ吸収率との関係を示す接合部の図である。
【図17】実験例1の接合部のEPMAによる分析結果を示す図である。
【図18】図17の部分拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明に係わる異種金属の接合方法および異種金属からなる接合物について、その第1〜第4実施態様ならびに実験例1及び2に基づき、図面を参照しつつ説明する。なお、以下、本発明について、異種金属として第1の部材を銅、第2の部材をステンレス鋼で構成した実施態様および実験例で代表させて説明するが、本発明はかかる実施態様に限定されることはない。すなわち、本発明は、第1の部材を黄銅、アルミニウム、金または銀またはそれらの合金で構成し、第2の部材を鋼、ニッケル、チタンまたはそれらの合金で構成した、図8に示す熱的特性を有する各種金属からなる第1の部材と第2の部材との組合せ、すなわち第1の部材を構成する金属が第2の部材を構成する金属よりも融点が低い異種金属の組合せにおいて適用することができる。
【0021】
[第1実施態様]
図1は、本発明に係わる第1実施態様の接合物10を示す斜視図である。全体が平板状の接合物10は、表面における酸化膜の生成が少ない無酸素銅(融点:1083度)からなる第1の部材11とステンレス鋼(融点:1450度)からなる第2の部材12とが接合部13を介して接合されている。図示するように、一対の被接合物である第1の部材11と第2の部材12は、厚みt1・t2が同一で、縦横の寸法w1×v1・w2・v2も同一である矩形板状体であり、下記詳述する接合方法により形成された接合部13による継手形式は、第1の部材11と第2の部材12の各々の一側面である平坦な被接合面11aと12aを相互に突合せて接合した平突合せ継手である。なお、第1の部材11および第2の部材11は全て金属で構成されている必要はなく、少なくとも接合部13を形成すべき部分が銅およびステンレス鋼で構成されていれば足り、他の部分は例えば樹脂・セラミックスなど他の材料で構成されていてもよい。
【0022】
図において符号11b・12bは、各々第1の部材11と第2の部材12の平坦な表面であり、接合部13を形成する際に照射されるレーザを受光する受光面である。なお、図1において、第1の部材11と第2の部材12との被接合面11a・12aは、実際の接合物10では溶融により消滅しているため接合物10の表面では確認することは出来ないが、被接合面11a・12aが密着され形成される密着面14が理解できるように各々破線で示している(図4〜6において同様。)
【0023】
第1の部材11と第2の部材12とを接合して上記被接合物10を形成する接合装置の一例の概略構成を図2に示す。図2に示す接合装置1において、符号1aは、第1の部材11と第2の部材12を所定の姿勢で載置し、固定する固定部である。固定部1aは、受光面(表面)11b・12bが上方に向いた水平な姿勢で、被接合面11aと12aとを密着させた第1の部材11と第2の部材12が載置される載置面1dと、載置面1dに載置された第2の部材12の被接合面12aと反対側の一側面が当接し、紙面において水平な方向(以下、この方向をX軸方向と言い、紙面において上下方向をZ軸方向、両軸に直交する紙面に対し垂直な方向をY軸方向と言う。)に第1の部材11および第2の部材12を位置決めする位置決め基準面1bと、X軸方向に自在に水平移動するとともに載置面1dに載置された第1の部材11の被接合面11aと反対側の一側面に当接し、第1の部材11および第2の部材12をともに位置決め基準面11bの方向へ押圧し、それらを固定する可動固定片1cとを有している。この固定部1aに、第1の部材11と第2の部材12を上記姿勢で載置して固定すれば、双方の被接合面11aと12aが互いに密着して形成された密着面14は、X軸方向に対し直交し、紙面に垂直なY軸方向に沿い延びた状態で配置されることとなる。
【0024】
図2において符号1eは、固定部1aに固定された第1の部材11と第2の部材12を、位置および速度制御しつつX軸およびY軸方向に移動させる、ボールネジやパルスモータなどの駆動要素で構成された周知のX−Yテーブルからなる水平移動部である。この水平移動部1eは電気通信回線を介して制御部1iに接続されており、下記説明するレーザ照射部1fからのレーザLの照射と同期し、制御部1iで制御されつつX軸およびY軸方向に移動する。
【0025】
図2において符号1fは、レーザ照射部である。レーザ照射部1fは、光ファイバー線を介してレーザ発振器1hと接続されており、レーザ発振器1hで発生した波長が1064nmのYAGレーザは、光ファイバー線を通じてレーザ照射部1fに供給され、図示しないミラー・レンズなどの光学系を経てレーザ照射部1fの下方端から1条のレーザLとして第1の部材11および第2の部材12に向かい照射される。レーザ発振器1hは、前記制御部1iに電気通信回線を介して接続されており、レーザ出力、パルス幅その他のレーザ出力条件は制御部1hで制御されている。
【0026】
図において符号1gはレーザ照射部1fが取り付けられた昇降部であり、電気通信回線を介して接続された制御部1iに制御されてZ軸方向に昇降し、当該方向において所定の位置でレーザ照射部1fを位置決め固定する。なお、接合中における接合部13の酸化を抑制するため、部材11・12においてレーザLが照射される領域に、不活性ガスであるアルゴンガス・窒素ガスなどのアシストガスが供給されるようにガス供給ノズルを設け、当該領域を非酸化雰囲気にしてもよい。
【0027】
かかる接合装置1によれば、1条のレーザLの軸線cが、第1の部材11と第2の部材12との密着面14を基準としてX軸方向において所定の位置に位置するように、部材11・12を水平移動部1eでX軸方向に位置決めする。この状態において、レーザ照射部1fよりレーザLを照射すれば、密着面14を挟む受光面11b・12bの隣合い隣接する領域11e・12eを同時に含むように照射円Sが形成され(図3(c)参照)、部材11・12は当該領域11e・12eにおいて各々レーザLを吸収し、加熱する。このようにX軸方向におけるレーザLの照射位置を調整した後、部材11・12を水平移動部1eでY軸方向に移動すれば、Y軸方向に平行に延びた密着面14に沿ってレーザLが照射されるので、X軸方向におけるレーザLの照射位置を維持しつつ密着面14の全長に渡りレーザLを照射することが可能となる。また、Z軸方向におけるレーザ照射部1fの位置を昇降部1gで調整し、レーザスポットの位置をディフォーカスすることにより、照射円の直径を所望の径に設定することができる。
【0028】
以下、上記接合装置1による第1の部材11と第2の部材12の接合方法について説明する前に、まず、本発明に係わる異種金属の接合方法の原理について説明する。融点の異なる第1の部材11と第2の部材12とをレーザで接合するため、密着面14を挟む受光面11b・12bの隣合う領域を含むようにレーザを照射する場合、融点の高い第2の部材12を溶融させるに足るエネルギー密度を有するレーザを照射すると、融点の低い第1の部材11が優先して溶融するため接合部13に欠陥が生じ、健全な接合部13を形成することができない。一方で、言うまでもないが、融点の低い第1の部材11を溶融させるに足るエネルギー密度を有するレーザを照射しても、融点の高い第2の部材12は溶融しないため、接合部13を形成することができない。そのため、上記従来の技術水準を説明した特許文献1〜3の接合技術においては、融点の高い第2の部材12が溶融するに足るエネルギー密度のレーザを照射することを前提としつつ、第1の部材11と第2の部材12のレーザが照射された領域における各々の溶融状態を近似せしめ、互いの溶融物を充分に混合して健全な接合部13を得るため、上述した構成が採られている。
【0029】
この従来の異種金属の接合方法に対し、本発明に係わる異種金属の接合方法は、レーザの照射による第1の部材の予熱処理と第2の部材の溶融処理とを同時に進行せしめるという課題を解決するため、融点の高い第2の部材12が溶融するに足るレベルのエネルギー密度のレーザを照射することを前提としつつ、いずれの実施態様においても、当該レーザの波長に対する第1の部材11のレーザ吸収率を第2の部材12よりも低くするという原理で共通しており、第2の部材12を溶融させるレベルのレーザが照射されても第1の部材11への入熱量を制限するという作用を奏するように構成されている。
【0030】
すなわち、清浄で平滑な表面を有する所定の金属のレーザ吸収率とレーザの波長の常温における関係である図7に示すように、低融点金属である銅2b・銀2c・アルミニウム2eは、高融点金属である鉄2a・ニッケル2dに対し、波長が0.6μm以上の領域では概ね低いレーザ吸収率を有するが、波長が0.6μm未満の領域では高融点金属のレーザ吸収率に近似するようになり、特定の波長では高融点金属のレーザ吸収率を越える場合もある。ここで、本発明では、上記原理を具現するにあたり、例えば本態様のように第1の部材11を構成する低融点金属が銅、第2の部材12を構成する高融点金属が鉄系のステンレス鋼である場合には、図7に示すように、概ね0.6μm以上の波長域のレーザ、好ましくは図において符号2iで示すYAGレーザ2fおよびLDレーザ2hの波長を含む0.6μm〜1.6μmの波長域のレーザを選択し、第1の部材11のレーザ吸収率を第2の部材12よりも低くする。したがって、第1〜4態様の接合方法では、波長が1064nmであるYAGレーザを照射して異種金属を接合する場合を例として説明しているが、レーザの波長はこれに限定されることなく、異種金属の各々の融点・熱伝導率・比熱・質量などを考慮し、上記原理を満足しつつ各々が適切なレーザ吸収率を有するよう設定すればよい。なお、上記原理は融点が相違する異種金属の接合のみならず、同種金属でも適用可能な原理であり、本発明は、融点の異なる金属の接合において広く適用可能な接合技術である。
【0031】
上記金属のレーザ吸収率は、レーザが照射される表面の粗さ・酸化膜の有無・温度その他当該表面の状態とも相関するので、上記のように所定の波長域からの特定波長を有するレーザの選択によることなく、例えば波長が1064nmのYAGレーザなど所定波長のレーザに対し、第1の部材11の受光面11bの表面状態を調整することにより当該受光面11bにおけるレーザ吸収率を調整することもできる。また、上記好ましい波長域には、図7に示すように、金属におけるレーザ吸収率がCO2レーザ2gよりも高く、金属の接合において常用されるYAGレーザ2fやLDレーザ2hが含まれており、レーザ発振器で生成された原波の波長を調整せずそのまま利用できる点は、本発明が工業生産上優れる理由の一つになっている。
【0032】
以下、上記原理に基づく本態様の接合方法について図2および3を参照しつつ詳細に説明する。まず、第1の部材11と第2の部材12の密着工程である。図3(a)に示すように、作業者は、準備した第1の部材11および第2の部材12の互いの被接合面11aと12aとを密着し、各々の受光面11b・12bが上方を向いた姿勢で載置部1aの載置面1dに載置する。その後、可動固定片1cで、部材11・12を位置決め基準面1bに向かい押し付けてX軸方向における位置決めするとともに、部材11・12を固定部1aに固定する。このとき、被接合面11aと12aの密着により密着面14が形成されている。
【0033】
次に、レーザLの位置合わせ工程である。作業者は、まず、昇降部1gでZ軸方向にレーザ照射部1fを手動運転で位置合わせし、図3(b)およびその平面図である(c)に示すレーザLの照射円Sが所望の直径Φsとなるように調整する。ここで、受光面11b・12bに照射されたレーザLが当該受光面11b・12bにおいて形成する照射円Sの直径Φsは、「JIS C6180 レーザ出力測定方法」において定義される直径、すなわち「ビームの断面で、光パワー密度がビーム内の最大値に対してe−2になる点間の最大距離」である。この照射円Sの直径Φsは、ビームプロファイラー(例えばオフィール株式会社製、型式:BA−100)を用いてZ軸方向の調整を行いつつ求めることができる。なお、Z軸方向のレーザLの位置合わせは、上記密着工程の前に接合物10と同寸法のダミー材を固定部1aに固定して行ってもよい。
【0034】
上記Z軸方向における位置合わせが完了した後、作業者は、X軸方向のレーザの位置合わせを手動運転で行う。X軸方向の位置合わせは、図3(b)(c)に示すように、X軸方向における密着面14の位置を原点(基準)として、照射円Sの中心cであるレーザLの中心を通る軸線cと密着面14との間が所望の距離dとなるよう、水平移動部1eで調整することにより行う。具体的には、まず、水平移動部1eで部材11・12のX軸方向の位置を調整し、レーザLの軸線cと密着面14とを一致させ、その後、銅である受光面11bまたはステンレス鋼である受光面12bのいずれかの側(図の場合は受光面11bの側)に所望の距離dだけ部材11・12を移動させて、レーザLの軸線cを位置決めする。
【0035】
ここで、上記説明した本発明の原理を具現するためには、受光面11bおよび12bに形成されたレーザLの照射円Sが、密着面14を挟む受光面11b・12bの隣合い隣接する領域11e・12eを同時に含むように、これを言い換えると図3(c)に示すように平面視で見たとき照射円Sの中に密着面14が含まれるように、X軸方向における照射円Sの中心cを位置決めする必要がある。したがって、受光面11bまたは12bのいずれか一方の面のみに1個の照射円Sが形成される態様は本発明の範囲外であり、距離dの最大値は、照射円Sの半径であるΦs/2とほぼ同値である。
【0036】
なお、レーザLの位置合わせ工程は、X軸方向の調整を先に行い、その後Z軸方向の調整を行っても構わない。また、作業者が、受光面11b・12b、密着面14、レーザLの軸線cの位置を確認しながら水平移動部1eおよび昇降部1fを手動運転で操作してレーザLの位置決めを行うのはなく、例えば制御部1iのROMに記憶した画像処理・位置決め処理その他の処理プログラムを、RAMに記憶した位置決め情報を読み込みつつコンピュータで実行して、両軸の位置決めを自動運転で行うよう接合装置1を構成してもよい。
【0037】
レーザLの位置合わせ工程が完了した後、第1の部材11と第2の部材12の接合工程を行うため、作業者は、接合装置1の自動運転を開始する。接合装置1は、位置合わせ工程で位置決めされたレーザLの位置を維持しつつ、水平移動部1eで部材11・12をY軸方向に所定の速度で移動させ、密着面14の全長に渡りレーザLを照射する。レーザLが照射された密着面14の近傍の部材11・12は溶融し、部材11・12を構成する銅およびステンレス鋼が混合した接合部13が形成され、接合部13を介して第1の部材11と第2の部材12は接合される。
【0038】
ここで、本発明の接合方法を適用した場合の接合部13の形成プロセスは明らかではないが、以下、想定される接合部13の形成プロセスについて説明する。なお、以下では、理解のために形成プロセスを初期・中期・終期と時期を分けて説明しているが、レーザ照射による急熱急冷サイクルにより接合部13は数μ秒の時間で形成されていると想定され、各時期のプロセスは順次進むのではなく、時間差なく一瞬で行われている可能性がある。
【0039】
図3(d)は、形成プロセスの初期であるレーザLが照射された直後の部材11・12における加熱状態を示す概念図である。レーザLが照射された直後において、その照射円Sに含まれるステンレス鋼である受光面12bの領域(以下加熱領域と言う場合がある。)12eは、レーザ吸収率が高いためレーザLを多量に吸収する。加熱領域12eで吸収されたレーザLの多量のエネルギーは、急激な温度上昇を伴い熱として加熱領域12eの周囲に伝導し、ステンレス鋼が溶融した溶融池12cを形成する。一方で、照射円Sに含まれる銅である受光面11bの加熱領域11eは、レーザ吸収率が低いためレーザLを吸収しがたい。したがって、レーザ照射直後の段階では、加熱領域11eから周囲へ伝導する熱量も少ないため、第1の部材11は溶融せず、加熱領域11eの下方に予熱領域11cが形成される。また、この段階では、図において矢印Aで示すように、未溶解の被接合面11aを介して予熱領域11cへ、伝達または輻射により幾分かの熱が溶融池12cから供給されている状態である。
【0040】
図3(e)は、形成プロセスの初期に引き続く中期における部材11・12における加熱状態を示す概念図である。形成プロセスの中期においては、第2の部材12の溶融池12cは、加熱領域12eから入熱する熱により更に拡大する。一方で、予熱されている第1の部材11の予熱領域11cは、図において矢印Bで示すように溶融池12cから多量の熱の供給を受け、溶融池12cに接する部分が速やかに溶解し、銅の溶融池11dを形成する。そして、溶融した銅のレーザ吸収率は高まるので、照射されたレーザLは、銅の溶融池11dで効率よく吸収され、予熱領域11dの未溶解の銅の溶解を加速せしめる。そして、溶融池11dに含まれる溶融銅と溶融池12に含まれる溶融ステンレス鋼は、レーザLによる急激な加熱溶融により攪拌され、混合される。
【0041】
図3(f)は、形成プロセスの中期に引き続く終期における部材11・12における加熱状態を示す概念図である。形成プロセスの終期においては、上記中期のプロセスが引き続き進み、第1の部材11の厚み方向において、第2の部材12の溶融池12cに接する予熱領域11cの部分は全て溶融し、部材11・12の間に銅とステンレス鋼が混合してなる溶融池13aが形成される。その後、部材11・12の移動にともない照射円Sが次の加熱領域に移動すると、レーザLによる入熱が断たれるため溶融池13aは急速に冷却固化し、接合部13が形成される。
【0042】
なお、第1の部材11を構成する金属として、第2の部材12を構成する金属よりも熱伝導率の高い金属を選択すれば、加熱領域11eから入熱した熱は周囲に伝導しやすく、これが第1の部材11のレーザ吸収率の低さと相乗し、あるいは第1の部材11のレーザ吸収率の高さを補うように作用して、第1の部材11の予熱領域11dの予熱温度を適宜なレベルに制御することができる。
【0043】
[第2実施態様]
第1態様の接合方法は、互いに平坦な被接合面11a・12aを有する第1の部材11と第2の部材12とを平突合せ継手で接合する場合における実施態様であるが、当該接合方法は、重ね継手、T継手など他の形式の継手で異種金属を接合する場合、または被接合面の間に開先がある場合でも適用することができる。以下、そのような継手および開先を有する第2態様の接合物の接合部を形成する接合方法について説明する。なお、以下参照する図面において、上記第1態様の接合物および接合装置を構成する要素と同一の要素については、同一符号を付し、詳細な説明を省略する(以下の第3および第4態様の場合について同じ。)。
【0044】
まず、重ね継手の場合について、図4(a)および同図においてレーザLの軸線cに沿って接合部23を見た場合の投影図である同図(b)参照して説明する。図4(a)(b)に示す、銅からなる第1の部材11とステンレス鋼からなる第2の部材12を重ね継手で接合した接合物20は、次の手順で形成することができる。まず、第1の部材11の下面である被接合面21aと、第2の部材12の上面である被接合面22aを密着させ密着面24を形成する(密着工程)。次いで、下記詳述するレーザLの位置合わせ工程を行った後に、第1の部材21の一側面である受光面21bと、当該受光面21bに対向する第2の部材12の上面である受光面22bに対し、密着面24を挟む受光面21b・22bの隣接する加熱領域21e・22eを照射円Sが同時に含むようにレーザLを照射する(接合工程)。すると、第1態様の突合せ継手の場合と同様なプロセスで接合部23が形成され、第1の部材11と第2の部材12は重ね継手で接合される。
【0045】
重ね継手で接合された接合物20を形成する場合の、レーザLの位置合わせ工程について説明する。上記密着工程において被接合面21a・22aが密着されてなる密着面24の露出した前縁辺25を含み受光面22bに対して45度の角度で交わる仮想平面kを設定する。そして、その仮想平面kに対し軸線cが直交する状態でレーザLが照射されるように部材11・12を配置し、さらに仮想平面kの面上において前縁辺25を原点として軸線cの位置を調整する。これにより、第1態様の位置合わせ工程の中のX軸方向の位置合わせに相当するレーザLの位置合わせをすることができる。なお、Z軸方向におけるレーザの位置合わせは、第1態様の場合と基本的に同様であり、当該仮想平面kの面上において照射円Sが所望の直径Φsとなるよう調整すればよい。
【0046】
次に、T継手の場合について図4(c)を参照して説明する。この継手を有する接合物30の場合には形成すべき接合部33が図示するように2ヶ所あるという点以外は、T字型となるよう組合せた第1の部材11と第2の部材12の直交する受光面31bと32bにレーザLを照射して接合部33を形成するという点で重ね継手の接合物20の接合方法と共通している。すなわち、T継手の接合部33は、重ね継手の接合部23と同様に以下の手順で形成することができる。
【0047】
T字型となるよう、第1の部材11の下面である被接合面31aと、第2の部材12の上面である被接合面32aを密着させて密着面24を形成する(密着工程)。次いで、重ね継手の場合と同様に仮想平面kを利用してレーザLの位置合わせ工程を行った後に、第1の部材11の一側面である受光面31bと、当該受光面31bに対向する第2の部材12の上面である受光面32bに対し、密着面34を挟む受光面31b・32bの隣接する領域に同時にレーザLを照射する(接合工程)。すると、第1態様の突合せ継手の場合と同様なプロセスで、一方の接合部33が形成される。そして、他方の接合部33を同一の手順で形成することにより、第1の部材11と第2の部材12とはT継手で接合される。
【0048】
次に、開先を有する接合物を接合する場合について図4(d)を参照して説明する。図4(d)に示す接合物40の部材11・12において、被接合面11a、12aは厚み方向において底面の一方端辺から中央まで垂直に延びており、符号41f・42fで示す傾斜面は、その被接合面11a、12aの上端縁辺から所定の角度で傾斜して上面11b・12bまで延びている。この傾斜面41f・42fは、受光面11b・12bの一部をなす。そして、被接合面11a・12aを密着して密着面14を形成すると、傾斜面41fと42fとの間にV開先46が形成される。なお、傾斜面41f・42fは、密着面14を通る軸に対してX軸方向の断面が軸対称となるよう45度の傾斜角度で形成されている。
【0049】
このV開先46を有する接合物40は、第1態様の突合せ継手および上記重ね継手で接合された各々の接合物の接合方法を組み合わせて形成することができる。すなわち、第1の部材11および第2の部材12の互いの被接合面11aと12aとを密着させ、密着面14を形成する(密着工程)。
【0050】
次いで、重ね継手の場合と同様に、仮想平面kを利用してレーザLの位置合わせ工程を行う。ここで、V開先の場合の仮想平面kは、密着面14の上方で露出した上縁辺45を含むよう受光面11b・12bに対して平行に設定する。この位置合わせ工程の後、受光面11bの一部である第1の部材11の傾斜面41fと、受光面12bの一部である第2の部材12の傾斜面42fを含むように、密着面14を挟む傾斜面41f・42fの隣接する領域に同時にレーザLを照射する(接合工程)。すると、第1態様の突合せ継手の場合と同様なプロセスで、接合部43が形成される。
【0051】
[第3実施態様]
第1態様および第2態様では、異種金属からなる2枚の矩形平板状の部材を接合した接合部を有する接合物およびその接合部の形成方法について説明したが、本発明は、図5に示すように2個の円筒状部材51・52からなる接合物50の接合部53を形成する場合にも、適用することができる。
【0052】
接合物50は、双方ともに略円筒形状をなす無酸素銅からなる第1の部材51およびステンレス鋼からなる第2の部材52と、部材51・52を接合する接合部53を有しており、部材51・52のそれぞれの表面である外周面51b・52bがレーザを受光する受光面、各々の一方端面51a・52aが略円環状の平坦な被接合面を構成している。ここで、第1の部材51は、右端部に形成された被接合面51aから更に右方に延びる小径部51cを有しており、第2の部材52の左端部には、被接合面51a・52aが密着可能なように、小径部51cが嵌め入れされる円柱状の嵌入凹部52cが形成されている。なお、小径部51cおよび嵌入凹部52cは必ずしも必要ではないが、第1の部材51と第2の部材52を接合するために組み合わせた際の組合状態の保持、および接合部53を形成するためレーザLから入熱された熱が外部に伝達することを防止できる点で有利である。
【0053】
この接合物50も、基本的に、第1態様および第2態様と同様な接合方法で形成することができる。すなわち、小径部51cを嵌入凹部52cに挿入し第1の部材51と第2の部材52とを組み合わせ、第1の部材51および第2の部材52の被接合面51aと52aとを密着させて密着面54を形成する(密着工程)。
【0054】
次いで、レーザLの位置合わせ工程を行う。部材51・52の受光面51b・52bは一定の曲率を有する円筒形状をなしているので、曲率が大きく平面と同視できる場合には、第1態様の場合と同様な手順で位置合わせ工程を行えばよい。一方で、曲率が大きな場合は、密着面54の露出した外周縁55に対する接線を含むように仮想平面を設定して、上記第2態様と同様に位置合わせ工程を行えばよい。
【0055】
位置合わせ工程の後、組み合わされた部材51・52の軸心Jの回りに当該部材51・52を所定の速度で回転させつつ、第1の部材51の受光面51bと第2の部材52の受光面52bに対し、レーザLを照射する(接合工程)。すると、レーザLは、密着面54を挟む受光面51b・52bの隣接する領域を同時に含むように照射されるので、第1態様の突合せ継手の場合と同様なプロセスで、接合部53が形成され、第1の部材51と第2の部材52は接合される。
【0056】
[第4実施態様]
第1〜第3態様の接合方法では、第1の部材と第2の部材を接合して接合物を形成するにあたり、第1の部材と第2の部材との密着面に対し一条のレーザを照射して接合部を形成する例について説明したが、本発明では、図6に示すように2条のレーザL1・L2を照射して接合部を形成することも可能である。
【0057】
本態様において接合の対象となる接合物は第1態様と同じ接合物11であり、接合部13を介して接合された銅からなる第1の部材11とステンレス鋼からなる第2の部材12とを有し、部材11・12は、密着面14を形成する被接合面11a・12a、レーザL1・L2が照射される受光面11b・12bを有している。以下、波長が1064nmの2条のYAGレーザL1・L2を用いて接合物11を形成する手順について説明する。
【0058】
まず、第1態様の密着工程と同様な手順で、被接合面11aと12aを密着させて密着面14を形成し、次いで、2条のレーザL1・L2の位置合わせ工程を行う。
【0059】
レーザL1・L2の位置合わせ工程において、第1態様の手順と同様にレーザL1・L2のZ軸方向の位置合わせを行い、図6(a)およびその平面図である同図(b)に示す各々の照射円S1・S2の直径を設定する。また、X軸方向の位置合わせも、各々密着面14を含まず、レーザL1の照射円S1が受光面11bに、レーザL2の照射円S2が受光面12bに位置するよう、レーザL1・L2ごとに第1態様の手順と同様に行えばよい。なお、上記本発明の原理を具現するためには、本態様における加熱領域である照射円S1・S2は、X軸方向において密着面14を挟むように受光面11b・12bの隣合う位置に配置されている必要がある。そのため、レーザL1・L2は、図6(b)に示すように、照射円S1・S2の各々の中心c1・c2がY軸方向においてほぼ同じ位置になるよう位置決めされている。また、照射円S1・S2の直径は図示するように同径である必要はなく、予熱または溶融すべき領域のサイズに応じて各々異なった直径にすることができる。
【0060】
位置合わせ工程の後、第1の部材11の受光面11bと第2の部材12の受光面12bに、同一のエネルギー密度を有するレーザL1とL2を同時に照射しつつ部材11・12をY軸方向に移動させる(接合工程)。ここで、レーザL1の形成する照射円S1は、レーザ吸収率の低い受光面11bに配置されているので、照射円S1から第1の部材11に伝導する熱により、第1態様の場合と同様に照射円S1の近傍は予熱状態となる。一方で、レーザL1と同時に照射されるレーザL2の形成する照射円S2は、レーザ吸収率の高い受光面12bに配置されているので、照射円S2から多量の熱が第2の部材12に伝導し、照射円S2の近傍は溶融状態となる。このように、第1態様の1条のレーザを用いた接合方法の場合と全く同様に、第1の部材11の予熱処理と第2の部材12の溶融処理を同時に進行せしめることにより、第1態様と同様なプロセスで接合部13が形成され、第1の部材11と第2の部材12は接合される。
【0061】
なお、第1の部材11と第2の部材12を構成する金属の融点・熱伝導率・比熱・質量・レーザ吸収率を考慮し、第1の部材11と第2の部材12への総入熱量や単位面積当たりの入熱量を制御したい場合には、照射円S1・S2におけるエネルギー密度が相違するよう、例えば出力が異なるレーザL1・L2を照射したり、ディフォーカス量を変えて照射円S1・S2の直径が異なるようレーザL1・L2を照射してもよい。
【0062】
[実験例1]
以下、適切な接合条件を選定するため、第1の部材11と第2の部材12を第1態様の接合方法で接合した場合の実験例1および2について説明する。実験例1では、健全な接合部13を形成するための、X軸方向における適切なレーザの照射位置を確認し、実験例2では、第1の部材と第2の部材とのレーザ吸収率の適切な組合せについて確認した。
【0063】
以下、実験例1および2に共通する基本的な実験条件について説明する。実験例1・2ともに、使用した第1の部材11および第2の部材12は同じ大きさであり、図1に示す厚みt1・t2が1.5mm、幅w1・w2が50mm、奥行v1・v2が25mmである。また、第1の部材11を構成する銅は融点1083℃、熱伝導率398.5W/KmのJIS規格材であるC1020の無酸素銅を使用し、第2の部材12を構成するステンレス鋼は融点1450℃、熱伝導率16.3W/KmのJIS規格材であるSUS304ステンレス鋼を使用した。使用したレーザは波長が1064nmのYAGレーザであり、真空パッケージされた収納容器から取り出した直後の表面に酸化膜の少ない状態で常温にて測定したYAGレーザに対するレーザ吸収率は、第1の部材11が7%、第2の部材12が45%であった。なお、レーザ吸収率は、各々の部材の表面にエネルギー量が既知のレーザを照射し、表面から反射されたレーザのエネルギー量を測定し、入力したエネルギー量と反射されたレーザのエネルギー量の差を入力したエネルギー量で除することにより求めた。
【0064】
接合装置1において使用した発振器1hはディスクレーザ(トルンプ株式会社製、型式HLD1001.5)、レーザの発振形態は連続発振、またレーザ照射部1fに組み込まれた集光レンズはf200mmで、集光点におけるビーム径は180μmである。そして、基本的な接合条件は、レーザ出力750W、Y軸方向における溶接速度300mm/min、照射円Sの直径Φsを300μmとするためレーザLのディフォーカス量は上方へ0.5mm、とした。
【0065】
実験例1では、図2に示すX軸方向に沿いレーザLの照射位置を50μmピッチで数水準変化させ、第1態様の接合方法の手順に従い第1の部材11と第2の部材12とを上記基本条件で接合して各水準毎に複数個の接合物10を得た。そして、得られた接合物10を引張試験に付し、破断強度を確認した。その結果得られた、X軸方向におけるレーザLの照射位置と接合物10の破断強度の関係を図9に示す。図9において、横軸に示す「レーザ照射位置」とは、図3(b)(c)を参照して説明したように、X軸方向において、密着面14を原点とした場合のレーザLの軸線cの位置である。つまり、レーザLの軸線cは、照射位置が0未満の数値の場合には第1の部材11の側に、0の場合には密着面14と同位置に、0を超える場合には第2の部材12の側に位置している。また、図において「○」と「×」はどの部位で破断が生じたかを示し、「○」は第1の部材11を構成する銅の母材で破断が生じた母材破断の場合、「×」は接合部13で破断が生じた接合部破断の場合を示している。なお、図中示し、かつ下記の説明において記載される「本発明の範囲」は、「本発明に係わる第1態様の接合方法におけるレーザの照射範囲」を略して表示したものであり、本発明を限定するものではない。
【0066】
まず、破断部位について検討すると、図9に示すように、レーザLの軸線cが第1の部材11側、すなわち銅側に位置するときは、照射位置が−100μmの場合の破断写真である図10(a)(b)で例示するように、全て第1の部材11において母材破断しており、接合部13での破断は確認されなかった。母材破断は、全て強度の低い銅からなる第1の部材11側の母材で生じていた。なお、本発明の範囲外である照射円Sが密着面14から離れる照射位置−200μmでは、接合部13が形成されなかった。これは、レーザ吸収率の低い第1の部材11の受光面11bのみにレーザLが照射されるため、第2の部材12が溶融しないためである。
【0067】
さらに、本発明の範囲の限界位置である照射円Sの外周縁と密着面14とが重複する照射位置−150μmでも母材破断しており、良好な接合部13が形成されていることが確認された。これは、照射円Sの直径Φsの上記した定義と関係する。すなわち、本発明において、照射円Sの直径Φsは、JISC6180で規定される直径と定義しているが、この定義した照射円S外の所定範囲でもエネルギー密度は低いがレーザLが照射されている。このため、照射位置が−150μmの場合でも、照射円S外のレーザLの一部が、第2の部材12の受光面12bに照射されて加熱領域12eを形成し、第2の部材12が溶融され、良好な接合部13が形成されたものと考えられる。
【0068】
レーザLの軸線cが第1の部材11側に位置する場合の接合状態について、照射位置が−100μmの場合の、接合部13の表面および裏面ならびにX軸方向に沿う断面である図11(a)〜(c)で例示する。図11(a)(b)に示すように、レーザLの軸線cが第1の部材11側にある場合、接合部13は、Y軸方向に沿い一定ピッチの凹凸を有するように一定幅で均一に形成された特徴的な形態のビード130を有している。このビード130は、下記で述べるように、レーザLによる急激な加熱溶融により、銅とステンレス鋼の溶融物が激しく攪拌され、接合部13の組織中に多量に銅が混入したため形成されたものと考えられる。
【0069】
上記ビード130を有する接合部13の断面写真である図11(c)に示すように、第1の部材11と接合部13との接合界面13bには凹凸が多く乱れていることが判る。これは、レーザLによる急激な加熱溶融により急激に攪拌された溶融物が第1の部材11を洗い、その結果接合部13が第1の部材11へ溶け込んでいるためであると考えられる。また、レーザ照射位置が−100μmである別の接合物10の電子顕微鏡による断面写真である図12(a)およびそのI部の拡大写真である同図(c)に示すように、接合部13の組織には、銅とステンレスが渦状に絡んだ形態で存在する渦状組織が確認された。なお、銅とステンレスは金属間化合物を形成しないと一般的に言われており、この渦状組織は単相の銅およびステンレスで構成されていると考えられる。この渦状組織は、次のようなプロセスで形成されたものと推定される。すなわち、レーザLの照射位置が第1の部材11側へシフトしている場合には、第1の部材11の予熱効果が高いために、第2の部材12側へシフトしている場合よりも、相対的に多量の溶融銅が生成する。そして、この多量の溶融銅が、レーザLによる急激な加熱溶融により溶融ステンレス鋼とともに攪拌され、両溶融物が充分に混合された結果、上記渦状組織が形成されたものと考えられる。
【0070】
図12(a)に示したレーザ照射位置が−100μmの場合の接合部13の断面について、EPMA(Electron Probe MicroAnalyzer:電子線マイクロアナライザー)によりCuおよびFeの各元素の分布を確認した。その結果を図17(a)・(b)および図18に示す。なお、EPMAは、株式会社島津製作所製の型式EPMA−1610を使用し、下記の条件により分析を実施した。また、図17および18は実際の観察画像であるカラー画像を変換したグレースケール画像であり、図17の各図の右側のスケールで示すように、各図においては、その明るい部分にCuまたはFeがより多く含まれていることを表している。
(1)加速電圧:15Kv
(2)ビーム電流:50nA
(3)ビーム径:Φ5μm
(4)ステップ幅:5μm
(5)ビーム照射時間:10msec/point
【0071】
Cuの分布状態である図17(a)およびそのJ部の拡大図である図18(a)、ならびに、Feの分布状態である図17(b)およびそのK部の拡大図である図18(b)に示すように、渦状組織の領域を含め接合部13では、高い濃度でCuが分布している部分ではFeの濃度は低く、高い濃度でFeが分布している部分ではCuの濃度は低い。さらに、電子顕微鏡による画像である図12(a)・(c)では観察されなかったが、EPMA分析では、接合部13においてステンレス鋼のマトリックスの中に銅が点状に分布している組織も確認された。この結果からも、第1の部材11が溶融されてなる溶融銅と、第2の部材12が溶融されてなる溶融ステンレス鋼とは、レーザLによる急激な加熱溶融により攪拌され、両者は充分に混合されつつも、各々単相で接合部13に存在しているものと推察される。
【0072】
以上のように、本発明に係わる第1態様の接合方法によれば、レーザLによる急激な加熱溶融により、接合部13の全長に渡り、銅とステンレス鋼の溶融物が充分に攪拌混合され、もって接合境界よる溶け込みと渦状組織により強固に接合された高い接合強度を有する欠陥の少ない接合部13が形成され、引張試験において母材破断するに至ったものと考えられる。しかるに、接合部13は、第1の部材11を構成する銅からなる渦状組織を有していることが望ましいことが確認された。
【0073】
レーザLの軸線cが第1の部材11側に位置する場合に対し、第2の部材12側に位置する場合には、図9に例示するように、一部の接合物10で接合部破断が確認された。ここで、本発明の範囲である照射位置が150μm以下の場合には、母材破断が8割であり、接合部破断が2割であった。一方で、本発明の範囲外である照射位置が150μmを超える場合には、照射位置が200μmの場合の破断写真である図10(c)(d)で例示するような接合部破断の割合が5割まで高まった。なお、母材破断は、全て第1の部材11の側で生じていた。ここで、接合部破断した接合物10の破断面を見ると、図10(d)に示すように、比較的滑らかな破断面の中に一定方向に伸びる複数の筋が観察され、接合過程で接合部13に生成した微小な欠陥が起点となり接合部破断したものと考えられる。
【0074】
照射位置が100μmおよび300μm各々の場合の、接合部13の表面および裏面ならびにX軸方向に沿う断面を図11(d)〜(i)に示す。図11(d)(e)に示すように、照射位置が100μmの場合には、レーザLの軸線cが第1の部材11側に位置する場合に対し(図11(a)(b)参照)、接合部13のビード131の凹凸が小さくなった。さらに図11(g)(h)に示すように、照射位置が本発明の範囲外である300μmの場合には、ビード132の凹凸のピッチおよびビード幅が不均一となるとともにその凹凸の大きさも非常に小さくなる。下記説明するように、レーザLの照射位置が第2の部材12側へシフトするにつれ、特に本発明の範囲外となると、接合部13の組織中における銅の含有量が少なくなるためであると推定される。
【0075】
照射位置が100μmの場合には、その接合部13の断面である図11(f)および図11(f)の電子顕微鏡による明画像である図12(b)に示すように、接合部13に欠陥は確認されないものの、照射位置が−100μmの場合に比べ、第1の部材11に対する接合部13の溶け込みが少なく接合界面13bが比較的滑らかであり、かつ接合部13の組織はステンレスが主体であり銅の渦状組織は殆ど確認されなかった。レーザLの照射位置が第2の部材12側に設定された場合には、主に接合境界13bにおける溶け込みにより接合物10の接合強度が確保されていると考えられる。また、本発明の範囲外である照射位置が300μmの場合には、その接合部13の断面を示す図11(i)に示すように、接合部13に切り込むように鋭角に生じた欠陥13cが確認され、第1の部材11に対する接合部13の溶け込みも更に少なく、接合界面13bは非常に平滑であり、銅の渦状組織は確認されなかった。上記したように、レーザLの照射位置が第2の部材12側へシフトするにつれ、第1の部材11の予熱効果が低下し、相対的に銅の溶融量が減少し、接合部13への銅の混入量が減少するためであると考えられる。
【0076】
図12(b)に示したレーザ照射位置が100μmの場合の接合部13の断面について、EPMAによりCuおよびFeの各元素の分布を確認した。その結果を、図17(c)・(d)に示す。Cuの分布状態である図17(c)、Feの分布状態である同図(d)に示すように、レーザ照射位置が100μmの場合、すなわちレーザLの中心cが第2の部材12側にシフトしている場合には、接合部13において、銅とステンレス鋼が渦状に混合した渦状組織は確認されず、銅とステンレス鋼とは別離して存在しており、第1の部材11と第2の部材12とは接合境界でのみ接合していることが確認された。
【0077】
上記基本条件のうち照射円Sの直径Φsを400μmとするためレーザLのディフォーカス量を調整した以外は同一の条件で、第1態様の接合方法の手順に従い、X軸方向のレーザLの照射位置を変化させて、第1の部材11と第2の部材12とを接合して接合物10を形成した結果を図13に示す。
【0078】
レーザLの軸線cが第1の部材11側に位置する場合の接合状態について、照射位置が−200μmの場合の、接合部13の表面およびX軸方向に沿う断面である図13(a)(b)で例示する。図13(a)(b)に示すように、軸線cが第1の部材11側である場合、上記照射円Sの直径Φsが300μmの場合(図11(a)〜(c)参照)と同様に、接合部13は、Y軸方向に沿い一定ピッチの凹凸を有するように一定幅で均一に形成された特徴的な形態のビード133を有しており、欠陥の少ない接合部13を形成することができた。
【0079】
レーザLの軸線cが第2の部材12側に位置する場合の接合状態について、照射位置が200μmおよび300μmの場合の、接合部13の表面およびX軸方向に沿う断面である図13(c)〜(f)で例示する。図13(c)に示すように、照射位置が200μmの場合には、接合部13のビード134の凹凸が小さくなり、図13(d)に示すように、第1の部材11と接合部13の接合界面13bに沿い微小な欠陥13cが断面において確認された。また、第1の部材11に対する接合部13の溶け込みも少なく、接合界面13bの凹凸が少なかった。
【0080】
さらに、照射位置が本発明の範囲外である300μmの場合には、図13(e)に示すように、ビード135の凹凸のピッチおよびビード幅が不均一となり、図13(f)に示すように、接合部13に切り込むように鋭角に生じた欠陥13cが確認され、第1の部材11に対する接合部13の溶け込みも少なく、接合界面13bは平滑であることが確認された。
【0081】
以上、第1態様の接合方法、具体的には、第1の部材11の受光面11bと第2の部材12の受光面12bに形成されたレーザLの照射円Sが、密着面14を挟む受光面11bおよび12bの隣合う領域11e・12eを同時に含むように、X軸方向におけるレーザLの位置決めし、レーザLを照射して部材11・12を接合する接合部13を形成する接合方法が、破断強度が高く健全な接合部13を有する接合物10を形成するのに有効であることが確認された。なお、この第1態様の接合方法の奏する効果は、原理的に同一である第2〜第4態様の接合方法およびその接合方法で形成された接合物においても同様である。
【0082】
次に、図9を参照し、母材破断時の破断強度について検討する。一般的に、レーザで金属を加熱溶融して接合すると溶融部から伝導した熱により母材は焼鈍し熱処理に相当する熱履歴を受けるため、接合前より母材の破断強度が低下すると言われている。図9には、上記熱履歴を考慮し、250℃で30分間保持した後に空冷するという熱処理条件で、第1の部材11のみを焼鈍し熱処理した場合の第1の部材の破断強度(230Mpa)を符号Gで示す直線で、熱処理しない第1の部材11の破断強度(260Mpa)を符号Hで示す直線で、表している。
【0083】
図9に示すように、レーザLの軸線cが第1の部材11側に位置する場合の母材破断した接合物10の破断強度は、全て焼鈍し熱処理時の破断強度G以上であり、一部の接合物10の破断強度は未熱処理の破断強度Hと同等であった。一方で、レーザLの軸線cが第2の部材12側に位置する場合で母材破断した接合物10の破断強度は、焼鈍し熱処理の破断強度Gを下回るものが複数片確認された。これは、レーザLの照射位置が第2の部材12側にシフトするにつれ、レーザ吸収率の高い第2の部材12の受光面12bにおけるレーザLからの入熱量が増加し、第2の部材12の溶融量が増え、溶融部から第1の部材11へ伝導する熱が増加するためであると考えられる。
【0084】
レーザLで接合されてなる接合物10では、接合部13の接合強度が高いばかりでなく、第1の部材11と第2の部材12とを接合した後の母材の強度も極度に低下しないことが望ましい。母材の強度が低下すると、強度を回復するため接合工程後に別途熱処理が必要になり、工業生産上不利であるからである。したがって、レーザ接合後の第1の部材11側の母材の破断強度は、図9に示す第1の部材11の焼鈍し熱処理後の破断強度Gと、未熱処理の場合の破断強度Hの間に維持されていることが好ましい。
【0085】
ここで、図9において符号Eで示す直線は、レーザLの照射位置を、−50・−100・−150μmと3水準変化させて接合した場合の、複数片の接合物10の破断強度の平均値とレーザ照射位置との関係について最小二乗法で求めた関係式である。この関係式Eが、焼鈍し熱処理後の破断強度Gと交わるレーザLの照射位置、つまり照射位置の下限値は、図において矢印Fで示す約30μmである。この下限値を、照射円Sの直径300μmとの比で表すと10%となる。また、図9に示すように、照射円Sは、密着面14を挟む受光面11b・12bの隣合う領域を同時に含む必要があるので、X軸方向におけるレーザLの照射位置の上限値は150μmである。この上限値を、上記と同様に照射円Sの直径300μmとの比で表すと50%となる。すなわち、接合後の母材の強度を維持する観点からは、第1態様の接合方法の手順に従って照射されたレーザLにより形成された照射円Sの中心cは、密着面14と直交する方向であるX軸方向において密着面14を基準として第1の部材11側に、照射円Sの直径Φsとの比が10〜50%となるよう偏位していることが望ましい。これにより、接合部13の中で、X軸方向において密着面14を基準とし当該密着面14より第1の部材11側の部分が占める割合は60%以上となる。
【0086】
[実験例2]
実験例2では、第1の部材1と第2の部材12のレーザ吸収率の組合せの最適値を確認した。以下説明するように、第1の部材11および第2の部材12の各々のレーザ吸収率を数水準変更し、上記基本条件で、第1態様の接合方法の手順に従い、第1の部材11と第2の部材12を接合して接合物10を形成した。なお、レーザLの照射位置は、その軸線cを、密着面14を基準として第1の部材11側に100μmシフトした位置である。
【0087】
図14(d)は、図10(a)で示した、銅からなるレーザ吸収率が7%の第1の部材11とステンレス鋼からなるレーザ吸収率が45%の第2の部材12とを接合し、良好なビード130が形成された接合部13を表面から観察した写真である。この実験例2では、レーザ吸収率の組合せの最適値を確認するため、この第1の部材1と第2の部材12のレーザ吸収率の組合せを基準とし、部材11・12のレーザ吸収率の組合せを変化させた。そのため、第1の部材11および第2の部材12の各々の表面(受光面11b・12b)を粗面化または鏡面化し、YAGレーザに対するレーザ吸収率を1%、20%に調整した第1の部材11、27%、45%、55%に調整した第2の部材12を準備し、それぞれを組み合わせて第1態様の接合方法で接合した。
【0088】
図14(a)〜(c)は、レーザ吸収率が1%の第1の部材11と上記3水準のレーザ吸収率の第2の部材12とを組合せて接合した場合の接合部13を表面から観察した写真である。いずれの組合せにおいても、基準となるレーザ吸収率を組合せた場合に得られた接合部のビード130と同様に、一定のピッチの凹凸およびビード幅を有する均一なビード61〜63が形成されていた。また、図14(c)に示す接合部13の断面写真である図15(a)に示すように、接合界面13bには凹凸が多く、第1の部材11に接合部13が充分に溶け込んでおり、かつ接合部13には銅とステンレス鋼の渦状組織が確認された。
【0089】
図14(e)〜(g)は、レーザ吸収率が20%の第1の部材11と上記3水準のレーザ吸収率の第2の部材12とを組合せて接合した場合の接合部13を表面から観察した写真である。この組合せにおいても、一定のピッチの凹凸およびビード幅を有する均一なビード64〜66が形成されていた。また、図14(e)に示す接合部13の断面写真である図15(c)に示すように、接合界面13bには凹凸が多く、第1の部材11に接合部13が充分に溶け込んでおり、かつ接合部13には銅とステンレス鋼の渦状組織が確認された。
【0090】
図14に示す各種のレーザ吸収率の組合せで得られた複数の接合物10を引張試験に付し、得られた破断強度の平均値とレーザ吸収率の組合せの関係を図16に示す。図において吸収率の組合せを示す横軸に示された数値において、「:」の前の数値は第1の部材11のレーザ吸収率であり、後の数値は第2の部材12のレーザ吸収率である。いずれのレーザ吸収率の組合せにおいても、各接合物11は全て母材破断しており、その破断強度は、銅である第1の部材11の焼鈍し熱処理時の破断強度G以上であった。
【0091】
融点の異なる異種金属の接合において、レーザ吸収率の観点から厳しい組合せとなるのは、第1の部材11と第2の部材12とのレーザ吸収率の差が小さく近似する組合せである。すなわち、レーザ吸収率の差が小さい第1の部材11と第2の部材12とを第1態様の接合方法で接合する場合、融点の高い第2の部材12を溶融させるに足るエネルギー密度を有するレーザを照射すると、融点の低い第1の部材11が優先して溶融するため接合部13に欠陥が生じ、健全な接合部13を形成することができない。一方で、融点の低い第1の部材11を溶融させるに足るエネルギー密度を有するレーザを照射しても、融点の高い第2の部材12は溶融し難いので、接合部13を形成することができない。
【0092】
ここで、上記図14〜16で示した結果によれば、20%のレーザ吸収率を有する第1の部材11と、27%のレーザ吸収率を有する第2の部材12の組合せが、条件の厳しいレーザ吸収率の差が最も小さな組合せであり、この組合せでも健全な接合部13を有する接合物10を形成することが可能であった。しかるに、接合物10を構成する、第1の部材11のレーザ吸収率の上限値は20%以下、第2の部材12のレーザ吸収率の下限値は27%以上であることが望ましいことが確認された。
【符号の説明】
【0093】
1 接合装置
1a 固定部
1e 水平移動部
1f レーザ照射部
1g 昇降部
1h レーザ発振器
10(20、30、40、50) 接合物
11(51) 第1の部材
12(52) 第2の部材
13(23、33、43、53) 接合部
14(24、34、54) 密着面
L(L1、L2) レーザ
S(S1、S2) 照射円
【特許請求の範囲】
【請求項1】
接合されるべき被接合面を互いに有する金属からなる第1の部材と第2の部材とを介在物を介することなく直接、所定の継手でレーザ接合する接合方法であって、前記レーザに対するレーザ吸収率および融点が第2の部材よりも低い第1の部材の被接合面と第2の部材の被接合面と密着させて密着面を形成し、当該密着面を挟む双方の表面の隣合う領域に同時にレーザを照射することを特徴とする異種金属の接合方法。
【請求項2】
前記第1の部材のレーザ吸収率が20%以下であり、前記第2の部材のレーザ吸収率が27%以上である請求項1に記載の異種金属の接合方法。
【請求項3】
前記第1の部材の熱伝導率は前記第2の部材よりも高い請求項1または2のいずれかに記載の異種金属の接合方法。
【請求項4】
前記密着面を挟み第1の部材および第2の部材の表面に照射される一条のレーザの当該表面における照射円が、第1の部材と第2の部材との密着面を挟む双方の表面の隣合う領域を同時に含むようにレーザを照射する請求項1乃至3のいずれかに記載の異種金属の接合方法。
【請求項5】
前記継手が突合せ継手である請求項1乃至4のいずれかに記載の異種金属の接合方法。
【請求項6】
前記密着面を挟み第1の部材および第2の部材の表面に照射されるレーザの当該表面における照射円の中心が、当該密着面と直交する方向において密着面を基準として第1の部材側に、照射円の直径との比が10〜50%となるよう偏位している請求項4または5のいずれかに記載の異種金属の接合方法。
【請求項7】
前記密着面を挟み第1の部材の表面に第1のレーザを、第2の部材の表面に第2のレーザを照射する請求項1乃至3のいずれかに記載の異種金属の接合方法。
【請求項8】
第1の部材の表面における第1のレーザの照射円と第2の部材の表面における第2のレーザの照射円とが有するエネルギー密度が相違する請求項7に記載の異種金属の接合方法。
【請求項9】
接合されるべき被接合面を互いに有する金属からなる第1の部材と第2の部材とが介在物を介することなく直接、所定の継手で接合された接合物であって、前記第1の部材と前記第2の部材の被接合面が互いに密着されてなる密着面を挟む双方の表面の隣合う領域に照射されたレーザで形成されてなる接合部を有し、前記第1の部材は、前記第2の部材よりも融点が低くかつ前記レーザに対するレーザ吸収率が低いことを特徴とする異種金属からなる接合物。
【請求項10】
前記第1の部材のレーザ吸収率が20%以下であり、前記第2の部材のレーザ吸収率が27%以上である請求項9に記載の異種金属からなる接合物。
【請求項11】
前記第1の部材の熱伝導率は前記第2の部材よりも高い請求項9または10のいずれかに記載の異種金属からなる接合物。
【請求項12】
前記密着面と直行する方向の前記密着面を基準とした接合部の前記第1の部材側の割合が、60%以上である請求項9乃至11のいずれかに記載の異種金属からなる接合物。
【請求項13】
前記接合部の組織は、前記第1の部材を構成する金属を主体とした渦状組織を有する請求項12に記載の異種金属からなる接合物。
【請求項1】
接合されるべき被接合面を互いに有する金属からなる第1の部材と第2の部材とを介在物を介することなく直接、所定の継手でレーザ接合する接合方法であって、前記レーザに対するレーザ吸収率および融点が第2の部材よりも低い第1の部材の被接合面と第2の部材の被接合面と密着させて密着面を形成し、当該密着面を挟む双方の表面の隣合う領域に同時にレーザを照射することを特徴とする異種金属の接合方法。
【請求項2】
前記第1の部材のレーザ吸収率が20%以下であり、前記第2の部材のレーザ吸収率が27%以上である請求項1に記載の異種金属の接合方法。
【請求項3】
前記第1の部材の熱伝導率は前記第2の部材よりも高い請求項1または2のいずれかに記載の異種金属の接合方法。
【請求項4】
前記密着面を挟み第1の部材および第2の部材の表面に照射される一条のレーザの当該表面における照射円が、第1の部材と第2の部材との密着面を挟む双方の表面の隣合う領域を同時に含むようにレーザを照射する請求項1乃至3のいずれかに記載の異種金属の接合方法。
【請求項5】
前記継手が突合せ継手である請求項1乃至4のいずれかに記載の異種金属の接合方法。
【請求項6】
前記密着面を挟み第1の部材および第2の部材の表面に照射されるレーザの当該表面における照射円の中心が、当該密着面と直交する方向において密着面を基準として第1の部材側に、照射円の直径との比が10〜50%となるよう偏位している請求項4または5のいずれかに記載の異種金属の接合方法。
【請求項7】
前記密着面を挟み第1の部材の表面に第1のレーザを、第2の部材の表面に第2のレーザを照射する請求項1乃至3のいずれかに記載の異種金属の接合方法。
【請求項8】
第1の部材の表面における第1のレーザの照射円と第2の部材の表面における第2のレーザの照射円とが有するエネルギー密度が相違する請求項7に記載の異種金属の接合方法。
【請求項9】
接合されるべき被接合面を互いに有する金属からなる第1の部材と第2の部材とが介在物を介することなく直接、所定の継手で接合された接合物であって、前記第1の部材と前記第2の部材の被接合面が互いに密着されてなる密着面を挟む双方の表面の隣合う領域に照射されたレーザで形成されてなる接合部を有し、前記第1の部材は、前記第2の部材よりも融点が低くかつ前記レーザに対するレーザ吸収率が低いことを特徴とする異種金属からなる接合物。
【請求項10】
前記第1の部材のレーザ吸収率が20%以下であり、前記第2の部材のレーザ吸収率が27%以上である請求項9に記載の異種金属からなる接合物。
【請求項11】
前記第1の部材の熱伝導率は前記第2の部材よりも高い請求項9または10のいずれかに記載の異種金属からなる接合物。
【請求項12】
前記密着面と直行する方向の前記密着面を基準とした接合部の前記第1の部材側の割合が、60%以上である請求項9乃至11のいずれかに記載の異種金属からなる接合物。
【請求項13】
前記接合部の組織は、前記第1の部材を構成する金属を主体とした渦状組織を有する請求項12に記載の異種金属からなる接合物。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図16】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図17】
【図18】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図16】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図17】
【図18】
【公開番号】特開2012−61474(P2012−61474A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−199946(P2010−199946)
【出願日】平成22年9月7日(2010.9.7)
【出願人】(000005083)日立金属株式会社 (2,051)
【出願人】(504190548)国立大学法人埼玉大学 (292)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年9月7日(2010.9.7)
【出願人】(000005083)日立金属株式会社 (2,051)
【出願人】(504190548)国立大学法人埼玉大学 (292)
【Fターム(参考)】
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