異種金属の接合方法及び接合装置
【課題】継手重量の増加や、新たな設備投資によるコストの増加を招くことなく、シール材による耐食性の確保と、シール材の残存による継手強度低下の防止とを両立することができる異種金属の接合方法と、このような方法に用いる接合装置を提供する。
【解決手段】接合部Wの近傍位置に熱硬化性樹脂から成るシール材Sを塗布した状態で重ね合わせた異種金属材料10,20に高エネルギービームBwを照射して両材料を重ね接合するに際して、例えばダイオードレーザビームBdによって、塗布されたシール材Sの少なくとも接合部側の端部を加熱することによりシール材Sを硬化あるいは、その流動性を低下させた後、高エネルギービームBwを接合部Wに照射して両材料10,20を接合する。
【解決手段】接合部Wの近傍位置に熱硬化性樹脂から成るシール材Sを塗布した状態で重ね合わせた異種金属材料10,20に高エネルギービームBwを照射して両材料を重ね接合するに際して、例えばダイオードレーザビームBdによって、塗布されたシール材Sの少なくとも接合部側の端部を加熱することによりシール材Sを硬化あるいは、その流動性を低下させた後、高エネルギービームBwを接合部Wに照射して両材料10,20を接合する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば鋼材とアルミニウム合金材などといった異種金属の電子ビームやレーザビームのような高エネルギービームの照射による接合方法と、このような方法に好適に用いることができる異種金属の接合装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車等の車体には、その軽量化を目的として、従来から広く使われている鋼材に加えて、アルミニウム合金等の軽金属で形成された車体部材(例えば、アルミニウム合金製ルーフパネル等)の適用が進んでいる。
【0003】
これらの部材における接合部位に異種金属を組み合わせて用いると、異種金属が互いに接触して電気的に導通するために腐食が促進されることが知られている。
このような異種金属の接触による腐食は、金属のイオン化傾向の違いによって、金属間に電位差が生じ腐食電流が流れることによって発生し、従来、こうした異種金属間接触による腐食を防止するには、以下のような対策が採用されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、スチール製の第1の部材と、アルミニウムやその合金などから成る第2の部材を両部材の間にシール材を介在させた状態で、例えばリベットや補強部材などの接合手段によって接合するようにした車体部材の接合構造が提案されている。
【0005】
また、特許文献2には、鉄系材料とアルミニウム又はアルミニウム合金材料が接合された部材をフルオロ錯イオン及び亜鉛イオンを含有する溶液中に浸漬する提案がなされている。溶液中への浸漬によって、部材の接合部近傍に緻密かつ強固で密着性が高く、しかもアルミニウムと鉄との中間的なイオン化傾向を有する金属亜鉛を析出させ、これによって接合部における異種金属接触耐食性を向上させることができるとされている。
【特許文献1】特開2000−272541号公報
【特許文献2】特開2005−154844号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1に記載の技術においては、両材料の融点や線膨張係数が異なることから、溶接を行うことなく、リベットやボルトなどの機械的締結を採用しており、接合に用いる部品点数の増加により、車体部材の重量やコストが増加するという問題点がある。
【0007】
特許文献2に記載の技術においては、接合された部材をフルオロ錯イオン及び亜鉛イオンを含有する溶液中に浸漬するようにしているが、自動車の生産工程中に、このような溶液に車体部品を浸漬する工程を組み込むことは、浸漬タンク等の新たな設備投資を必要とし、コストが増加することが問題となる。加えて、接合材表面に析出した亜鉛だけでは、自動車部品に求められるような耐食性能を十分に満足させることが難しいことも問題となる。
【0008】
このように、異種金属材料の接合においては、異種金属接触による腐食を防止するための電食対策が必須となるため、接合界面にシール材を挟んで接合する方法が考えられている。
このとき、抵抗スポット溶接のように、溶接部を直接加圧することができる溶接法の場合には、加圧によって、接合界面に挟んだシール材を接合界面より排出することができる。
【0009】
ところが、レーザ溶接のように、高エネルギービームの照射による接合の場合には、高エネルギービームを照射する位置を加圧手段で直接加圧することが構造上困難である。
したがって、高エネルギービームを照射して材料を加熱した直後を加圧ローラ等で加圧して接合する方法が採られているため、この方法だと接合界面にシール材が残存しやすく、接合強度が大きく低下するという問題があった。
【0010】
また、高エネルギービームの照射に際して、シール材を接合部から排除するための加圧ローラを先行させることも行われる。
しかし、シール材として用いられる熱硬化性樹脂は、図14に示すように、温度上昇によってその変形抵抗(粘度)が一旦下がるために、高エネルギービーム照射によってこの温度に加熱されると、粘度が下がったシール材が再び接合部に流入してしまうため、シール材の残存を防止することは難しい。
【0011】
さらには、接合部を避けて、接合部から離れた近傍位置にシール材を塗布してから溶接する方法もある。
しかし、この場合でも、高エネルギービームを接合部に照射した際に接合部からの伝熱によってシール材が加熱され、同様に粘度が低下したシール材が高温となる接合部側へ入り込むため、溶接ビードに乱れが発生したり、シール材が残存したりするという問題がある。また、塗布されたシール材にポロシティーが多数発生して、シール機能が低下してしまうという問題があった。
【0012】
本発明は、高エネルギービームによる従来の異種金属接合における上記課題に鑑みてなされたものである。そして、その目的とするところは、継手重量の増加や、新たな設備投資によるコストの増加を招くことなく、シール材による耐食性の確保と、シール材の残存による継手強度低下の防止とを両立することができる異種金属の接合方法を提供することにある。また、このような方法に用いる接合装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、接合部の近傍に、接合部を避けてシール材を塗布しておくと共に、接合のための高エネルギービーム照射に先だって、シール材を加熱し、もってシール材を硬化又は少なくともその流動性を低下させるようになすことによって、上記課題が解決できることを見出し、本発明を完成するに到った。
【0014】
すなわち、本発明はこのような知見に基づくものであって、本発明の異種金属の接合方法においては、接合部の近傍位置に熱硬化性樹脂から成るシール材を塗布した状態で重ね合わせた異種金属材料に高エネルギービームを照射して両材料を重ね接合するに際して、塗布されたシール材の少なくとも接合部側の端部を加熱することによりシール材の流動性を低下させた後、高エネルギービームの照射によって接合部を接合することを特徴としている。
【0015】
また、本発明の異種金属の接合装置は、本発明の上記異種金属接合方法に好適に用いることができ、接合部の近傍位置に熱硬化性樹脂から成るシール材を塗布した状態で重ね合わせた異種金属材料の接合部に高エネルギービームを照射するための高エネルギービーム照射ヘッドと、該高エネルギービーム照射ヘッドに取付けられて、上記シール材の少なくとも接合部側端部を加熱するための加熱手段を備え、当該加熱手段が上記異種金属材料に対して高エネルギービーム照射ヘッドと一体的に相対移動するようになっていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、高エネルギービームの照射による接合に先立って、接合部の近傍位置に塗布したシール材を加熱することによって、熱硬化性樹脂から成るシール材の流動性を低下させたのち、高エネルギービームを接合部に照射して異種金属材料を接合するようにしている。すなわち、一旦硬化を開始し、流動性が低下したシール材は再度加熱しても、それ以上軟化しないため、接合時の高エネルギービーム照射による伝熱でシール材が軟化して接合部へ流入するようなことがなくなる。したがって、接合部界面にシール材がない状態で接合ができ、安定した接合が可能となり、高い接合強度とシール材による耐食性の確保との両立を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下に、本発明の異種金属の接合方法及び接合構造について、図面に基づいて、具体的かつ詳細に説明する。
【0018】
図1(a)〜(d)は、本発明に用いるレーザ溶接装置、すなわち本発明の異種金属の接合装置の一例を示すものであって、図1(a)に示すレーザ溶接装置は、高エネルギービーム照射ヘッドとしてのレーザ照射ヘッド50と、加圧ローラ51と、加熱手段としてのダイオードレーザ照射ヘッド52から主に構成される。なお、これらレーザ照射ヘッド50、加圧ローラ51及びダイオードレーザ照射ヘッド52は、互いに連結されており、図中左方向に一体的に移動するようになっている。
【0019】
上記レーザ照射ヘッド50は、図外のレーザ発振器に接続されている。そして、後述するように、接合部から離れた近傍位置に熱硬化性樹脂から成るシール材Sを塗布した状態で重ね合わされた異種金属材料(例えばアルミニウム合金板10と鋼板20)の接合部に、図中上方、すなわち高融点側材料である鋼板20の斜め前方側からデフォーカスした状態のレーザビームBwを照射する(レーザ照射位置における進行方向前方側からの正面図である図1(c)参照)ように配置されている。
【0020】
一方、上記ローラ51は、レーザ照射ヘッド50によるレーザ照射位置の直後を加圧して両材料を接合する(加圧位置における正面図を示す図1(d)参照)ようになっている。
【0021】
また、ダイオードレーザ照射ヘッド52は、上記レーザ照射ヘッド50及び加圧ローラ51のさらに前方位置に配置されている(レーザ照射位置における正面図である図1(b)参照)。そして、接合に先立って、接合部の近傍位置に塗布されたシール材Sの少なくとも接合部側端部にダイオードレーザビームBdを照射して加熱し、シール材Sを硬化、あるいは少なくともその流動性を低下させ、シール材Sが接合部にまで流れ込まないようにしている。
【0022】
なお、当該溶接装置においては、移動とレーザ照射を連続的に行うことによって、両材料を連続した線状に接合することができ、レーザ照射を断続させることによってステッチ状接合あるいはスポット状の多点接合ができる。
【0023】
また、上記においては、シール材Sを加熱してその流動性を低下、あるいは硬化させるための加熱手段として、ダイオードレーザ照射ヘッド52を採用し、ダイオードレーザビームBdを照射する例を示したが、加熱手段としてはレーザ照射に限定されることはない。例えば、高温の空気によるブロアー加熱や、ガス燃焼炎による加熱、さらには高周波過熱装置、シーム溶接装置、ヒータ内蔵のホットローラなどを採用することも可能である。
本発明において、接合対象としての異種金属材料の組合せについて、特に限定はなく、高融点の材料側からレーザなどの高エネルギービームを照射し、高融点材料からの伝熱によって両材料が接合されるものであるが、以下、上記したようなアルミニウム合金板と鋼板の組合せを例として説明を続ける。
【0024】
図2は、本発明の異種金属接合方法の第1の実施形態を示すものである。
まず、アルミニウム合金板10の上に鋼板20を重ねるに際して、アルミニウム合金板10の接合部Wを避けた近傍位置であるシール材の塗布位置Cに、熱硬化型のシール材Sを接合部Wに沿って連続的に塗布した後、この上に鋼板20を重ねる。
【0025】
そして、鋼板20の側から、シール材Sの接合部Wに最も近い側の端部直上位置に、加熱手段であるダイオードレーザ照射ヘッド52によりダイオードレーザビームBdを移動させながら照射し、シール材Sを部分的に硬化させる
続いて、デフォーカスさせたレーザビームBwを接合線に沿って移動させながら接合部Wに照射して鋼板20を加熱し、レーザ照射位置の直後をローラ51によって、鋼板20をアルミニウム合金板10に押し付ける方向に加圧する。これにより、レーザビームBwで加熱された鋼板20からの伝熱によって鋼板20とアルミニウム合金板10の接合部Wの接合界面が加熱され、所定の温度に保持されると共に、ローラ51によって所定の圧力に保持されるため、鋼板20とアルミニウム合金板10が接合部Wにおいて接合されることになる。
【0026】
そして、レーザビームBwの照射とローラ51による加圧によって両材料10,20を接合した後、鋼板20の図中右側端部にシール材Sを端部に沿って連続的に塗布する。これによって、異種金属の重ね部分が両側からシール材Sによってシールされ、重ね部の水密が保たれることから、電食の防止が可能となる。
【0027】
このように、シール材Sは、その接合部Wに最も近い側の端部が硬化しており、一度硬化したシール材Sは再度加熱しても軟化は起こらないため、接合に際して、高エネルギービームBwを照射しても、その伝熱によってシール材Sが軟化することはない。したがって、接合部Wへシール材Sが流入することはなく、接合部界面にシール材Sがない状態で接合ができるため、安定した接合が可能で、高い接合強度とシール材による優れた耐食性が得られることになる。
【0028】
図3は、本発明による異種金属接合方法の第2の実施形態を示すものである。
この実施形態例においては、より低融点の材料であるアルミニウム合金板10に、その接合部Wとシール材の塗布位置Cとの間の位置に、シール材Sの接合部Wへの流入を防止する手段として、接合面から立ち上がって凸形状をなす堤部11を接合線に沿って連続的に設けておく。一方、高融点材料である鋼板20にはアルミニウム合金板10に設けた凸形状の堤部11に沿うように段差21を連続的に形成しておく。
【0029】
次に、アルミニウム合金板10のシール材の塗布位置Cにシール材Sを堤部11に沿って連続的に塗布した後、鋼板20をアルミニウム合金板10に重ねる。
このとき厚み方向に押圧されたシール材Sが潰されて、横方向に広がることになるが、凸形状の堤部11がシール材Sの広がりを阻止し、接合部Wへのシール材Sの流入を防止することができる。
【0030】
接合に際しては、凸形状をなす堤部11に堰き止められたシール材Sの接合部Wに最も近い側の直上位置に、鋼板20の側からダイオードレーザビームBdを移動させながら照射し、これによりシール材Sを部分的に加熱して硬化させる。
【0031】
そして、鋼板20の側からデフォーカスさせたレーザビームBwを接合線に沿って移動させながら接合部Wに照射して鋼板20を加熱する。続いて、レーザ照射位置の直後をローラ51によって、鋼板20をアルミニウム合金板10に押し付ける方向に加圧する。
レーザビームBwにより加熱された鋼板20からの伝熱によって、鋼板20とアルミニウム合金板10の接合部Wの接合界面が加熱され、所定温度に保持された状態でローラ51によって所定の圧力に保持されるため、鋼板20とアルミニウム合金板10が接合部Wにおいて接合される。
【0032】
そして最後に、レーザビームの照射とローラ51による加圧によって両材料10,20を接合した後、鋼板20の図中右側端部にシール材Sを端部に沿って連続的に塗布する。これによって、異種金属の重ね部分が両側からシール材Sによってシールされ、重ね部の水密が保たれることから、電食の防止が可能となる。
【0033】
このような方法によれば、両材料10,20を重ねた際に、堤部11がシール材Sの広がりを堰き止めることによってシール材Sの接合部Wへの流入がなく、しかもシール材Sの接合部Wに最も近い側が硬化している。一旦硬化したシール材Sは再度加熱しても軟化しないことから、接合時に高エネルギービームBwが照射されてもシール材Sが軟化することがなく、接合部Wへ流入するのをより確実に阻止することができる。その結果、接合部界面にシール材Sが存在しない状態で接合ができるため、安定した接合が可能で、高い接合強度と耐食性を両立させることができる。
【0034】
シール材Sの接合部Wへの流入を防止する流入阻止手段としての堤部の形状としては、上記したような凸状のものに限定されず、他の形状によっても同様の効果を発揮することができる。
例えば、図4に示すように、アルミニウム合金板10のシール材塗布面から段差状に立ち上がる形状の堤部12とすることができ、このとき、鋼板20の側に段差を形成する必要はない。この場合にも、上記した第2の実施形態例と同様に、当該堤部12が押し潰されたシール材Sの広がりを堰き止めて、接合部Wにシール材Sが流入するのを阻止することができる。
【0035】
また、上記堤部の形状として、図5及び6に示すように、塗布位置Cの側の立ち上がりが2段形状をなし、相手接合材を重ね合わせた際に両材料間に生じる隙間が、接合部Wに近い側に向かってより狭くなるような構造を備えた堤部13とすることが望ましい。
また、図7に示すように、塗布位置Cの側の立ち上がり角度をより緩やかなものとして、相手接合材を重ね合わせた際に両材料間に生じる隙間が、接合部Wに近い側に向かって徐々に狭くなるような構造を備えた堤部14とすることも望ましい。
【0036】
すなわち、熱硬化性樹脂からなるシール材Sが接合部Wに近い側の狭い隙間に入り込むと、シール材Sのこの部分が薄い、体積の小さなものとなることから、より少ない入熱で樹脂の硬化温度に容易に加熱することができ、より速やかに硬化させることができるようになる。したがって、シール材Sの加熱手段を簡略化することができ、例えばレーザビームを用いる場合にはより小出力のレーザビーム装置を採用することができ、設備コストを削減することができる。
そして、レーザビーム等のエネルギー密度の高い加熱手段以外にも、高周波過熱装置やシーム溶接装置、ヒータを内蔵したホットローラ等といった簡便な装置を用いることも可能となり、設備コストを低減することができる。
【0037】
また、上記したような形状を備えた堤部は、シール材の流入防止効果に加えて、次のような派生的な効果をも発揮することができる。
すなわち、堤部11が接合線と平行して連続的に設けられているため、図8に示すように、当該堤部11が補強ビードとしての機能を果たし、この堤部11がない場合と比較して、接合線方向の曲げに対する部材の剛性、強度が向上することになる。
【0038】
また、図9に示すように、上側から被せる鋼板20の側にもアルミニウム合金板10に形成した堤部11に沿うような段差21を連続的に設けておき、両材料10,20の重ね合わせに際して、上記堤部11と段差21の縦壁同士を接触させるようにする。これによって、接合される2枚の板の接合線に対する垂直方向の位置決めが容易なものとなり、製造時のタクトタイムの縮小に貢献することができる。
これに加えて、両材料10,20における堤部11と段差21の縦壁同士が接触していることにより、図10に示すように、接合線と垂直方向で板と平行な方向に引張り荷重がかかった場合、縦壁同士の荷重を受けて接合部Wにかかる荷重を減少させる効果が得られる。この結果、継手の強度を向上させることができる。
【0039】
さらに、異種金属材料の接合においては、両材料の線膨張係数が異なるため、これらに熱が加わった場合に両材料の伸びの相違によって材料間にずれが生じ、接合部にせん断力が生じるという問題がある。
鋼板20とアルミニウム合金板10との組合せの場合、図11に示すように、アルミニウム合金板10の伸びの方が鋼板20の伸びよりも大きくなる。しかし、鋼板20の段差21がアルミニウム合金板10の堤部11の縦壁を押さえ込み、縦壁間で荷重を受け持つことになるため、実際に接合部Wに掛かるせん断力を段差21や堤部11がない場合に較べて、小さくすることができるようになる。
【0040】
図12は、本発明の他の実施形態として、シール材Sの接合部11への流入を防止する手段として、被接合材料に溝部を形成した例を示すものである。
すなわち、図に示すように、アルミニウム合金板10には、接合部Wとシール材Sの塗布位置Cの間に、接合面から凹状に窪んだ溝部15を接合線に沿って連続的に形成しておく。一方、鋼板20の側にも、接合面から窪んだ形状の溝部22をアルミニウム合金板10の溝部14に対応する位置に連続的に形成しておく。
【0041】
次に、アルミニウム合金板10におけるシール材の塗布位置Cに、溝部15に沿ってシール材Sを連続的に塗布した後、鋼板20をアルミニウム合金板10に重ねる。
このとき厚み方向に押圧されたシール材Sが図中の横方向に広がることになるが、移動してきたシール材Sが凹形状をなす溝部15及び22の内部空間に流入するため、接合部Wへのシール材Sの流入を防止することができる。
【0042】
そして、凹形状の溝部15及び22に溜まったシール材Sの直上位置に、鋼板20の側からダイオードレーザビームBdを移動させながら照射して加熱し、溝部15及び22の中に溜まったシール材Sを硬化させる。
次に、上記各実施形態と同様に、鋼板20の側からデフォーカスさせたレーザビームBwを移動させながら、接合部Wに照射して鋼板20を加熱する。続いて、レーザ照射位置の直後をローラ51によって加圧すると、レーザビームBの照射によって加熱された鋼板20からの伝熱によって接合界面が所定温度に加熱され、同様に鋼板20とアルミニウム合金板10の接合部Wにおいて接合される。
【0043】
最後に、両材料10,20を接合した後、鋼板20の図中右側端部にシール材Sを連続的に塗布することによって、異種金属の重ね部分が両側からシール材Sによってシールされて、重ね部の水密が保たれることから、異種金属接触による電食の防止が可能となる。
【0044】
このように、溝部15及び22を接合部Wとシール材の塗布位置Cの間に形成することによって、両異種金属材料10,20を重ねた際に、溝部15,22がシール材Sの広がりを阻止するので、シール材Sが接合部に流入することがない。しかもシール材Sの接合部Wに最も近い側が硬化しており、接合時における高エネルギービームBwの照射によってもシール材Sが軟化して、接合部Wに流入するようなことがなく、安定した接合が可能となって、高い接合強度と耐食性を兼ね備えた異材接合継手を得ることができる。
【0045】
図13は、シール材Sが接合部へ流入しないように防止する手段として、被接合材料に溝部と堤部の両方を形成した例を示すものである。
図に示すように、アルミニウム合金板10には、接合部Wとシール材の塗布位置Cの間に、接合面から凹状に窪んだ溝部16と凸形状に立ち上がる堤部17を隣接した状態に、接合線に沿って連続的に形成しておく。一方、鋼板20の側には、接合面から窪んだ形状の溝部22をアルミニウム合金板10の堤部17に対応する位置に連続的に形成しておく。
【0046】
そして、アルミニウム合金板10におけるシール材の塗布位置Cに、溝部16に沿ってシール材Sを連続的に塗布した後、鋼板20をアルミニウム合金板10に重ねる。
このとき、鋼板20の溝部22をアルミニウム合金板10の堤部16に被せるようにするので、両板材の位置合わせが容易なものとなる。また、シール材Sが押し潰されて、図中横方向に広がることになるが、シール材Sが凹形状の溝部16の内部に流入すると共に、堤部17によって堰き止められることから、接合部Wへのシール材Sの流入が防止されることになる。
【0047】
次に、凹形状をなす溝部15内に流入したシール材Sの直上位置に、鋼板20の側からダイオードレーザビームBdを移動させながら照射して加熱し、溝部16の中に溜まったシール材Sを硬化させる。
続いて、上記各例と同様に、デフォーカスさせたレーザビームBwの照射による加熱と、その直後位置のローラ51による加圧によって、鋼板20とアルミニウム合金板10が接合部Wにおいて接合される。このとき、上記同様に、溝部16と堤部17によるシール材Sの流入防止効果と、ダイオードレーザビームBdによるシール材Sの硬化とによって、シール材Sの接合部Wへの流入をより確実に防止することができ、安定した接合が可能となって、高い接合強度を得ることができる。
【0048】
そして、最後に、鋼板20の端部にシール材Sを連続的に塗布することによって、両金属材料の接合及びシール処理が完了し、高い接合強度と良好な耐食性を兼ね備えた異材接合継手が得られる。
【0049】
以上、アルミニウム合金板と鋼板から成る異種金属の接合について説明してきたが、本発明はこれらの形態例に限定されるものではない。
例えば、異種金属の組合せは、アルミニウム合金板と鋼板に限定されるわけではなく、異種金属の接触による電食が懸念される種々の組合せに適用することができ、施工方法も、線状接合のみならず、ステッチ状の接合や、多点スポット接合にも適用可能である。さらに、加圧手段も円筒状ローラの他に種々の形態が考えられ、本発明の基本的な考え方の中で種々応用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明による異種金属の接合装置の一例を示す概略説明図である。
【図2】本発明の第1の実施形態を示す断面説明図である。
【図3】シール材の流入阻止手段として堤部を形成した本発明の第2の実施形態を示す断面説明図である。
【図4】堤部の他の形状例による本発明の第3の実施形態を示す断面説明図である。
【図5】堤部のさらに他の形状例による本発明の第4の実施形態を示す断面説明図である。
【図6】堤部の別の形状例による本発明の第5の実施形態を示す断面説明図である。
【図7】堤部のさらに別の形状例による本発明の第6の実施形態を示す断面説明図である。
【図8】図3に示した異材継手における他の効果を示す概略説明図である。
【図9】図3に示した異材継手におけるさらに他の効果を示す概略説明図である。
【図10】図3に示した異材継手における別の効果を示す概略説明図である。
【図11】図3に示した異材継手におけるさらに別の効果を示す概略説明図である。
【図12】シール材の流入阻止手段として溝部を形成した本発明の第7の実施形態を示す断面説明図である。
【図13】シール材の流入阻止手段として溝部と堤部の両方を形成した本発明の第8の実施形態を示す断面説明図である。
【図14】熱硬化性樹脂からなるシール材の温度と変形抵抗の関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0051】
10 アルミニウム合金板材鋼板(異種金属材料)
11,12,13,14,17 堤部
15,16 溝部
20 鋼板(異種金属材料)
22 溝部
50 レーザ照射ヘッド(高エネルギービーム照射ヘッド)
52 ダイオードレーザ照射ヘッド(加熱手段)
W 接合部
C シール材の塗布位置
Bw レーザビーム(高エネルギービーム)
S シール材
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば鋼材とアルミニウム合金材などといった異種金属の電子ビームやレーザビームのような高エネルギービームの照射による接合方法と、このような方法に好適に用いることができる異種金属の接合装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車等の車体には、その軽量化を目的として、従来から広く使われている鋼材に加えて、アルミニウム合金等の軽金属で形成された車体部材(例えば、アルミニウム合金製ルーフパネル等)の適用が進んでいる。
【0003】
これらの部材における接合部位に異種金属を組み合わせて用いると、異種金属が互いに接触して電気的に導通するために腐食が促進されることが知られている。
このような異種金属の接触による腐食は、金属のイオン化傾向の違いによって、金属間に電位差が生じ腐食電流が流れることによって発生し、従来、こうした異種金属間接触による腐食を防止するには、以下のような対策が採用されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、スチール製の第1の部材と、アルミニウムやその合金などから成る第2の部材を両部材の間にシール材を介在させた状態で、例えばリベットや補強部材などの接合手段によって接合するようにした車体部材の接合構造が提案されている。
【0005】
また、特許文献2には、鉄系材料とアルミニウム又はアルミニウム合金材料が接合された部材をフルオロ錯イオン及び亜鉛イオンを含有する溶液中に浸漬する提案がなされている。溶液中への浸漬によって、部材の接合部近傍に緻密かつ強固で密着性が高く、しかもアルミニウムと鉄との中間的なイオン化傾向を有する金属亜鉛を析出させ、これによって接合部における異種金属接触耐食性を向上させることができるとされている。
【特許文献1】特開2000−272541号公報
【特許文献2】特開2005−154844号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1に記載の技術においては、両材料の融点や線膨張係数が異なることから、溶接を行うことなく、リベットやボルトなどの機械的締結を採用しており、接合に用いる部品点数の増加により、車体部材の重量やコストが増加するという問題点がある。
【0007】
特許文献2に記載の技術においては、接合された部材をフルオロ錯イオン及び亜鉛イオンを含有する溶液中に浸漬するようにしているが、自動車の生産工程中に、このような溶液に車体部品を浸漬する工程を組み込むことは、浸漬タンク等の新たな設備投資を必要とし、コストが増加することが問題となる。加えて、接合材表面に析出した亜鉛だけでは、自動車部品に求められるような耐食性能を十分に満足させることが難しいことも問題となる。
【0008】
このように、異種金属材料の接合においては、異種金属接触による腐食を防止するための電食対策が必須となるため、接合界面にシール材を挟んで接合する方法が考えられている。
このとき、抵抗スポット溶接のように、溶接部を直接加圧することができる溶接法の場合には、加圧によって、接合界面に挟んだシール材を接合界面より排出することができる。
【0009】
ところが、レーザ溶接のように、高エネルギービームの照射による接合の場合には、高エネルギービームを照射する位置を加圧手段で直接加圧することが構造上困難である。
したがって、高エネルギービームを照射して材料を加熱した直後を加圧ローラ等で加圧して接合する方法が採られているため、この方法だと接合界面にシール材が残存しやすく、接合強度が大きく低下するという問題があった。
【0010】
また、高エネルギービームの照射に際して、シール材を接合部から排除するための加圧ローラを先行させることも行われる。
しかし、シール材として用いられる熱硬化性樹脂は、図14に示すように、温度上昇によってその変形抵抗(粘度)が一旦下がるために、高エネルギービーム照射によってこの温度に加熱されると、粘度が下がったシール材が再び接合部に流入してしまうため、シール材の残存を防止することは難しい。
【0011】
さらには、接合部を避けて、接合部から離れた近傍位置にシール材を塗布してから溶接する方法もある。
しかし、この場合でも、高エネルギービームを接合部に照射した際に接合部からの伝熱によってシール材が加熱され、同様に粘度が低下したシール材が高温となる接合部側へ入り込むため、溶接ビードに乱れが発生したり、シール材が残存したりするという問題がある。また、塗布されたシール材にポロシティーが多数発生して、シール機能が低下してしまうという問題があった。
【0012】
本発明は、高エネルギービームによる従来の異種金属接合における上記課題に鑑みてなされたものである。そして、その目的とするところは、継手重量の増加や、新たな設備投資によるコストの増加を招くことなく、シール材による耐食性の確保と、シール材の残存による継手強度低下の防止とを両立することができる異種金属の接合方法を提供することにある。また、このような方法に用いる接合装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、接合部の近傍に、接合部を避けてシール材を塗布しておくと共に、接合のための高エネルギービーム照射に先だって、シール材を加熱し、もってシール材を硬化又は少なくともその流動性を低下させるようになすことによって、上記課題が解決できることを見出し、本発明を完成するに到った。
【0014】
すなわち、本発明はこのような知見に基づくものであって、本発明の異種金属の接合方法においては、接合部の近傍位置に熱硬化性樹脂から成るシール材を塗布した状態で重ね合わせた異種金属材料に高エネルギービームを照射して両材料を重ね接合するに際して、塗布されたシール材の少なくとも接合部側の端部を加熱することによりシール材の流動性を低下させた後、高エネルギービームの照射によって接合部を接合することを特徴としている。
【0015】
また、本発明の異種金属の接合装置は、本発明の上記異種金属接合方法に好適に用いることができ、接合部の近傍位置に熱硬化性樹脂から成るシール材を塗布した状態で重ね合わせた異種金属材料の接合部に高エネルギービームを照射するための高エネルギービーム照射ヘッドと、該高エネルギービーム照射ヘッドに取付けられて、上記シール材の少なくとも接合部側端部を加熱するための加熱手段を備え、当該加熱手段が上記異種金属材料に対して高エネルギービーム照射ヘッドと一体的に相対移動するようになっていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、高エネルギービームの照射による接合に先立って、接合部の近傍位置に塗布したシール材を加熱することによって、熱硬化性樹脂から成るシール材の流動性を低下させたのち、高エネルギービームを接合部に照射して異種金属材料を接合するようにしている。すなわち、一旦硬化を開始し、流動性が低下したシール材は再度加熱しても、それ以上軟化しないため、接合時の高エネルギービーム照射による伝熱でシール材が軟化して接合部へ流入するようなことがなくなる。したがって、接合部界面にシール材がない状態で接合ができ、安定した接合が可能となり、高い接合強度とシール材による耐食性の確保との両立を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下に、本発明の異種金属の接合方法及び接合構造について、図面に基づいて、具体的かつ詳細に説明する。
【0018】
図1(a)〜(d)は、本発明に用いるレーザ溶接装置、すなわち本発明の異種金属の接合装置の一例を示すものであって、図1(a)に示すレーザ溶接装置は、高エネルギービーム照射ヘッドとしてのレーザ照射ヘッド50と、加圧ローラ51と、加熱手段としてのダイオードレーザ照射ヘッド52から主に構成される。なお、これらレーザ照射ヘッド50、加圧ローラ51及びダイオードレーザ照射ヘッド52は、互いに連結されており、図中左方向に一体的に移動するようになっている。
【0019】
上記レーザ照射ヘッド50は、図外のレーザ発振器に接続されている。そして、後述するように、接合部から離れた近傍位置に熱硬化性樹脂から成るシール材Sを塗布した状態で重ね合わされた異種金属材料(例えばアルミニウム合金板10と鋼板20)の接合部に、図中上方、すなわち高融点側材料である鋼板20の斜め前方側からデフォーカスした状態のレーザビームBwを照射する(レーザ照射位置における進行方向前方側からの正面図である図1(c)参照)ように配置されている。
【0020】
一方、上記ローラ51は、レーザ照射ヘッド50によるレーザ照射位置の直後を加圧して両材料を接合する(加圧位置における正面図を示す図1(d)参照)ようになっている。
【0021】
また、ダイオードレーザ照射ヘッド52は、上記レーザ照射ヘッド50及び加圧ローラ51のさらに前方位置に配置されている(レーザ照射位置における正面図である図1(b)参照)。そして、接合に先立って、接合部の近傍位置に塗布されたシール材Sの少なくとも接合部側端部にダイオードレーザビームBdを照射して加熱し、シール材Sを硬化、あるいは少なくともその流動性を低下させ、シール材Sが接合部にまで流れ込まないようにしている。
【0022】
なお、当該溶接装置においては、移動とレーザ照射を連続的に行うことによって、両材料を連続した線状に接合することができ、レーザ照射を断続させることによってステッチ状接合あるいはスポット状の多点接合ができる。
【0023】
また、上記においては、シール材Sを加熱してその流動性を低下、あるいは硬化させるための加熱手段として、ダイオードレーザ照射ヘッド52を採用し、ダイオードレーザビームBdを照射する例を示したが、加熱手段としてはレーザ照射に限定されることはない。例えば、高温の空気によるブロアー加熱や、ガス燃焼炎による加熱、さらには高周波過熱装置、シーム溶接装置、ヒータ内蔵のホットローラなどを採用することも可能である。
本発明において、接合対象としての異種金属材料の組合せについて、特に限定はなく、高融点の材料側からレーザなどの高エネルギービームを照射し、高融点材料からの伝熱によって両材料が接合されるものであるが、以下、上記したようなアルミニウム合金板と鋼板の組合せを例として説明を続ける。
【0024】
図2は、本発明の異種金属接合方法の第1の実施形態を示すものである。
まず、アルミニウム合金板10の上に鋼板20を重ねるに際して、アルミニウム合金板10の接合部Wを避けた近傍位置であるシール材の塗布位置Cに、熱硬化型のシール材Sを接合部Wに沿って連続的に塗布した後、この上に鋼板20を重ねる。
【0025】
そして、鋼板20の側から、シール材Sの接合部Wに最も近い側の端部直上位置に、加熱手段であるダイオードレーザ照射ヘッド52によりダイオードレーザビームBdを移動させながら照射し、シール材Sを部分的に硬化させる
続いて、デフォーカスさせたレーザビームBwを接合線に沿って移動させながら接合部Wに照射して鋼板20を加熱し、レーザ照射位置の直後をローラ51によって、鋼板20をアルミニウム合金板10に押し付ける方向に加圧する。これにより、レーザビームBwで加熱された鋼板20からの伝熱によって鋼板20とアルミニウム合金板10の接合部Wの接合界面が加熱され、所定の温度に保持されると共に、ローラ51によって所定の圧力に保持されるため、鋼板20とアルミニウム合金板10が接合部Wにおいて接合されることになる。
【0026】
そして、レーザビームBwの照射とローラ51による加圧によって両材料10,20を接合した後、鋼板20の図中右側端部にシール材Sを端部に沿って連続的に塗布する。これによって、異種金属の重ね部分が両側からシール材Sによってシールされ、重ね部の水密が保たれることから、電食の防止が可能となる。
【0027】
このように、シール材Sは、その接合部Wに最も近い側の端部が硬化しており、一度硬化したシール材Sは再度加熱しても軟化は起こらないため、接合に際して、高エネルギービームBwを照射しても、その伝熱によってシール材Sが軟化することはない。したがって、接合部Wへシール材Sが流入することはなく、接合部界面にシール材Sがない状態で接合ができるため、安定した接合が可能で、高い接合強度とシール材による優れた耐食性が得られることになる。
【0028】
図3は、本発明による異種金属接合方法の第2の実施形態を示すものである。
この実施形態例においては、より低融点の材料であるアルミニウム合金板10に、その接合部Wとシール材の塗布位置Cとの間の位置に、シール材Sの接合部Wへの流入を防止する手段として、接合面から立ち上がって凸形状をなす堤部11を接合線に沿って連続的に設けておく。一方、高融点材料である鋼板20にはアルミニウム合金板10に設けた凸形状の堤部11に沿うように段差21を連続的に形成しておく。
【0029】
次に、アルミニウム合金板10のシール材の塗布位置Cにシール材Sを堤部11に沿って連続的に塗布した後、鋼板20をアルミニウム合金板10に重ねる。
このとき厚み方向に押圧されたシール材Sが潰されて、横方向に広がることになるが、凸形状の堤部11がシール材Sの広がりを阻止し、接合部Wへのシール材Sの流入を防止することができる。
【0030】
接合に際しては、凸形状をなす堤部11に堰き止められたシール材Sの接合部Wに最も近い側の直上位置に、鋼板20の側からダイオードレーザビームBdを移動させながら照射し、これによりシール材Sを部分的に加熱して硬化させる。
【0031】
そして、鋼板20の側からデフォーカスさせたレーザビームBwを接合線に沿って移動させながら接合部Wに照射して鋼板20を加熱する。続いて、レーザ照射位置の直後をローラ51によって、鋼板20をアルミニウム合金板10に押し付ける方向に加圧する。
レーザビームBwにより加熱された鋼板20からの伝熱によって、鋼板20とアルミニウム合金板10の接合部Wの接合界面が加熱され、所定温度に保持された状態でローラ51によって所定の圧力に保持されるため、鋼板20とアルミニウム合金板10が接合部Wにおいて接合される。
【0032】
そして最後に、レーザビームの照射とローラ51による加圧によって両材料10,20を接合した後、鋼板20の図中右側端部にシール材Sを端部に沿って連続的に塗布する。これによって、異種金属の重ね部分が両側からシール材Sによってシールされ、重ね部の水密が保たれることから、電食の防止が可能となる。
【0033】
このような方法によれば、両材料10,20を重ねた際に、堤部11がシール材Sの広がりを堰き止めることによってシール材Sの接合部Wへの流入がなく、しかもシール材Sの接合部Wに最も近い側が硬化している。一旦硬化したシール材Sは再度加熱しても軟化しないことから、接合時に高エネルギービームBwが照射されてもシール材Sが軟化することがなく、接合部Wへ流入するのをより確実に阻止することができる。その結果、接合部界面にシール材Sが存在しない状態で接合ができるため、安定した接合が可能で、高い接合強度と耐食性を両立させることができる。
【0034】
シール材Sの接合部Wへの流入を防止する流入阻止手段としての堤部の形状としては、上記したような凸状のものに限定されず、他の形状によっても同様の効果を発揮することができる。
例えば、図4に示すように、アルミニウム合金板10のシール材塗布面から段差状に立ち上がる形状の堤部12とすることができ、このとき、鋼板20の側に段差を形成する必要はない。この場合にも、上記した第2の実施形態例と同様に、当該堤部12が押し潰されたシール材Sの広がりを堰き止めて、接合部Wにシール材Sが流入するのを阻止することができる。
【0035】
また、上記堤部の形状として、図5及び6に示すように、塗布位置Cの側の立ち上がりが2段形状をなし、相手接合材を重ね合わせた際に両材料間に生じる隙間が、接合部Wに近い側に向かってより狭くなるような構造を備えた堤部13とすることが望ましい。
また、図7に示すように、塗布位置Cの側の立ち上がり角度をより緩やかなものとして、相手接合材を重ね合わせた際に両材料間に生じる隙間が、接合部Wに近い側に向かって徐々に狭くなるような構造を備えた堤部14とすることも望ましい。
【0036】
すなわち、熱硬化性樹脂からなるシール材Sが接合部Wに近い側の狭い隙間に入り込むと、シール材Sのこの部分が薄い、体積の小さなものとなることから、より少ない入熱で樹脂の硬化温度に容易に加熱することができ、より速やかに硬化させることができるようになる。したがって、シール材Sの加熱手段を簡略化することができ、例えばレーザビームを用いる場合にはより小出力のレーザビーム装置を採用することができ、設備コストを削減することができる。
そして、レーザビーム等のエネルギー密度の高い加熱手段以外にも、高周波過熱装置やシーム溶接装置、ヒータを内蔵したホットローラ等といった簡便な装置を用いることも可能となり、設備コストを低減することができる。
【0037】
また、上記したような形状を備えた堤部は、シール材の流入防止効果に加えて、次のような派生的な効果をも発揮することができる。
すなわち、堤部11が接合線と平行して連続的に設けられているため、図8に示すように、当該堤部11が補強ビードとしての機能を果たし、この堤部11がない場合と比較して、接合線方向の曲げに対する部材の剛性、強度が向上することになる。
【0038】
また、図9に示すように、上側から被せる鋼板20の側にもアルミニウム合金板10に形成した堤部11に沿うような段差21を連続的に設けておき、両材料10,20の重ね合わせに際して、上記堤部11と段差21の縦壁同士を接触させるようにする。これによって、接合される2枚の板の接合線に対する垂直方向の位置決めが容易なものとなり、製造時のタクトタイムの縮小に貢献することができる。
これに加えて、両材料10,20における堤部11と段差21の縦壁同士が接触していることにより、図10に示すように、接合線と垂直方向で板と平行な方向に引張り荷重がかかった場合、縦壁同士の荷重を受けて接合部Wにかかる荷重を減少させる効果が得られる。この結果、継手の強度を向上させることができる。
【0039】
さらに、異種金属材料の接合においては、両材料の線膨張係数が異なるため、これらに熱が加わった場合に両材料の伸びの相違によって材料間にずれが生じ、接合部にせん断力が生じるという問題がある。
鋼板20とアルミニウム合金板10との組合せの場合、図11に示すように、アルミニウム合金板10の伸びの方が鋼板20の伸びよりも大きくなる。しかし、鋼板20の段差21がアルミニウム合金板10の堤部11の縦壁を押さえ込み、縦壁間で荷重を受け持つことになるため、実際に接合部Wに掛かるせん断力を段差21や堤部11がない場合に較べて、小さくすることができるようになる。
【0040】
図12は、本発明の他の実施形態として、シール材Sの接合部11への流入を防止する手段として、被接合材料に溝部を形成した例を示すものである。
すなわち、図に示すように、アルミニウム合金板10には、接合部Wとシール材Sの塗布位置Cの間に、接合面から凹状に窪んだ溝部15を接合線に沿って連続的に形成しておく。一方、鋼板20の側にも、接合面から窪んだ形状の溝部22をアルミニウム合金板10の溝部14に対応する位置に連続的に形成しておく。
【0041】
次に、アルミニウム合金板10におけるシール材の塗布位置Cに、溝部15に沿ってシール材Sを連続的に塗布した後、鋼板20をアルミニウム合金板10に重ねる。
このとき厚み方向に押圧されたシール材Sが図中の横方向に広がることになるが、移動してきたシール材Sが凹形状をなす溝部15及び22の内部空間に流入するため、接合部Wへのシール材Sの流入を防止することができる。
【0042】
そして、凹形状の溝部15及び22に溜まったシール材Sの直上位置に、鋼板20の側からダイオードレーザビームBdを移動させながら照射して加熱し、溝部15及び22の中に溜まったシール材Sを硬化させる。
次に、上記各実施形態と同様に、鋼板20の側からデフォーカスさせたレーザビームBwを移動させながら、接合部Wに照射して鋼板20を加熱する。続いて、レーザ照射位置の直後をローラ51によって加圧すると、レーザビームBの照射によって加熱された鋼板20からの伝熱によって接合界面が所定温度に加熱され、同様に鋼板20とアルミニウム合金板10の接合部Wにおいて接合される。
【0043】
最後に、両材料10,20を接合した後、鋼板20の図中右側端部にシール材Sを連続的に塗布することによって、異種金属の重ね部分が両側からシール材Sによってシールされて、重ね部の水密が保たれることから、異種金属接触による電食の防止が可能となる。
【0044】
このように、溝部15及び22を接合部Wとシール材の塗布位置Cの間に形成することによって、両異種金属材料10,20を重ねた際に、溝部15,22がシール材Sの広がりを阻止するので、シール材Sが接合部に流入することがない。しかもシール材Sの接合部Wに最も近い側が硬化しており、接合時における高エネルギービームBwの照射によってもシール材Sが軟化して、接合部Wに流入するようなことがなく、安定した接合が可能となって、高い接合強度と耐食性を兼ね備えた異材接合継手を得ることができる。
【0045】
図13は、シール材Sが接合部へ流入しないように防止する手段として、被接合材料に溝部と堤部の両方を形成した例を示すものである。
図に示すように、アルミニウム合金板10には、接合部Wとシール材の塗布位置Cの間に、接合面から凹状に窪んだ溝部16と凸形状に立ち上がる堤部17を隣接した状態に、接合線に沿って連続的に形成しておく。一方、鋼板20の側には、接合面から窪んだ形状の溝部22をアルミニウム合金板10の堤部17に対応する位置に連続的に形成しておく。
【0046】
そして、アルミニウム合金板10におけるシール材の塗布位置Cに、溝部16に沿ってシール材Sを連続的に塗布した後、鋼板20をアルミニウム合金板10に重ねる。
このとき、鋼板20の溝部22をアルミニウム合金板10の堤部16に被せるようにするので、両板材の位置合わせが容易なものとなる。また、シール材Sが押し潰されて、図中横方向に広がることになるが、シール材Sが凹形状の溝部16の内部に流入すると共に、堤部17によって堰き止められることから、接合部Wへのシール材Sの流入が防止されることになる。
【0047】
次に、凹形状をなす溝部15内に流入したシール材Sの直上位置に、鋼板20の側からダイオードレーザビームBdを移動させながら照射して加熱し、溝部16の中に溜まったシール材Sを硬化させる。
続いて、上記各例と同様に、デフォーカスさせたレーザビームBwの照射による加熱と、その直後位置のローラ51による加圧によって、鋼板20とアルミニウム合金板10が接合部Wにおいて接合される。このとき、上記同様に、溝部16と堤部17によるシール材Sの流入防止効果と、ダイオードレーザビームBdによるシール材Sの硬化とによって、シール材Sの接合部Wへの流入をより確実に防止することができ、安定した接合が可能となって、高い接合強度を得ることができる。
【0048】
そして、最後に、鋼板20の端部にシール材Sを連続的に塗布することによって、両金属材料の接合及びシール処理が完了し、高い接合強度と良好な耐食性を兼ね備えた異材接合継手が得られる。
【0049】
以上、アルミニウム合金板と鋼板から成る異種金属の接合について説明してきたが、本発明はこれらの形態例に限定されるものではない。
例えば、異種金属の組合せは、アルミニウム合金板と鋼板に限定されるわけではなく、異種金属の接触による電食が懸念される種々の組合せに適用することができ、施工方法も、線状接合のみならず、ステッチ状の接合や、多点スポット接合にも適用可能である。さらに、加圧手段も円筒状ローラの他に種々の形態が考えられ、本発明の基本的な考え方の中で種々応用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明による異種金属の接合装置の一例を示す概略説明図である。
【図2】本発明の第1の実施形態を示す断面説明図である。
【図3】シール材の流入阻止手段として堤部を形成した本発明の第2の実施形態を示す断面説明図である。
【図4】堤部の他の形状例による本発明の第3の実施形態を示す断面説明図である。
【図5】堤部のさらに他の形状例による本発明の第4の実施形態を示す断面説明図である。
【図6】堤部の別の形状例による本発明の第5の実施形態を示す断面説明図である。
【図7】堤部のさらに別の形状例による本発明の第6の実施形態を示す断面説明図である。
【図8】図3に示した異材継手における他の効果を示す概略説明図である。
【図9】図3に示した異材継手におけるさらに他の効果を示す概略説明図である。
【図10】図3に示した異材継手における別の効果を示す概略説明図である。
【図11】図3に示した異材継手におけるさらに別の効果を示す概略説明図である。
【図12】シール材の流入阻止手段として溝部を形成した本発明の第7の実施形態を示す断面説明図である。
【図13】シール材の流入阻止手段として溝部と堤部の両方を形成した本発明の第8の実施形態を示す断面説明図である。
【図14】熱硬化性樹脂からなるシール材の温度と変形抵抗の関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0051】
10 アルミニウム合金板材鋼板(異種金属材料)
11,12,13,14,17 堤部
15,16 溝部
20 鋼板(異種金属材料)
22 溝部
50 レーザ照射ヘッド(高エネルギービーム照射ヘッド)
52 ダイオードレーザ照射ヘッド(加熱手段)
W 接合部
C シール材の塗布位置
Bw レーザビーム(高エネルギービーム)
S シール材
【特許請求の範囲】
【請求項1】
接合部の近傍位置に熱硬化性樹脂から成るシール材を塗布した状態で重ね合わせた異種金属材料に高エネルギービームを照射して両材料を重ね接合するに際して、
塗布されたシール材の少なくとも接合部側の端部を加熱してシール材の流動性を低下させた後、接合部に高エネルギービームを照射して接合することを特徴とする異種金属の接合方法。
【請求項2】
シール材の塗布位置と接合部の間に、シール材の接合部への流入を防止する流入阻止手段を設けることを特徴とする請求項1に異種金属の接合方法。
【請求項3】
上記流入阻止手段が接合面に対して凸状又は段差状をなす堤部であることを特徴とする請求項2に記載の異種金属の接合方法。
【請求項4】
上記流入阻止手段が接合面に対して凹状に窪んだ溝部であることを特徴とする請求項2又は3に記載の異種金属の接合方法。
【請求項5】
上記堤部が多段形状を備えていることを特徴とする請求項3に記載の異種材料の接合方法。
【請求項6】
接合部の近傍位置に熱硬化性樹脂から成るシール材を塗布した状態で重ね合わせた異種金属材料の上記接合部に高エネルギービームを照射する高エネルギービーム照射ヘッドと、該高エネルギービーム照射ヘッドと一体的に取付けられて、上記シール材の少なくとも接合部側端部を加熱する加熱手段を備え、当該加熱手段が上記異種金属材料に対して高エネルギービーム照射ヘッドと一体的に相対移動することを特徴とする異種金属の接合装置。
【請求項1】
接合部の近傍位置に熱硬化性樹脂から成るシール材を塗布した状態で重ね合わせた異種金属材料に高エネルギービームを照射して両材料を重ね接合するに際して、
塗布されたシール材の少なくとも接合部側の端部を加熱してシール材の流動性を低下させた後、接合部に高エネルギービームを照射して接合することを特徴とする異種金属の接合方法。
【請求項2】
シール材の塗布位置と接合部の間に、シール材の接合部への流入を防止する流入阻止手段を設けることを特徴とする請求項1に異種金属の接合方法。
【請求項3】
上記流入阻止手段が接合面に対して凸状又は段差状をなす堤部であることを特徴とする請求項2に記載の異種金属の接合方法。
【請求項4】
上記流入阻止手段が接合面に対して凹状に窪んだ溝部であることを特徴とする請求項2又は3に記載の異種金属の接合方法。
【請求項5】
上記堤部が多段形状を備えていることを特徴とする請求項3に記載の異種材料の接合方法。
【請求項6】
接合部の近傍位置に熱硬化性樹脂から成るシール材を塗布した状態で重ね合わせた異種金属材料の上記接合部に高エネルギービームを照射する高エネルギービーム照射ヘッドと、該高エネルギービーム照射ヘッドと一体的に取付けられて、上記シール材の少なくとも接合部側端部を加熱する加熱手段を備え、当該加熱手段が上記異種金属材料に対して高エネルギービーム照射ヘッドと一体的に相対移動することを特徴とする異種金属の接合装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2009−39720(P2009−39720A)
【公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−204239(P2007−204239)
【出願日】平成19年8月6日(2007.8.6)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年8月6日(2007.8.6)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】
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