説明

異音防止シート

【課題】アクリル系粘着剤を用いてなる異音防止シートであって、トルエン放散量が極めて少なく且つ高性能な異音防止シートを提供する。
【解決手段】本発明により提供される異音防止シート10は、不織布122を備えた基材12と、該基材の第一面側12Aに設けられた粘着剤層14とを有する。粘着剤層14を構成する粘着剤は、アクリル系ポリマーと粘着付与樹脂とを含む。このシート10は、粘着剤層14を80℃で30分間加熱したときのトルエン放散量が、該粘着剤層1g当たり20μg以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製品の振動や変形等に起因する異音の発生を防止または抑制する異音防止シートに関する。
【背景技術】
【0002】
車両、家電、OA機器等のように駆動部を有する製品では、該駆動部の動作に伴う振動等により、該製品を構成する部材が相互に干渉して打音(ビビリ音)やキシミ音等の異音が発生することがある。また、自動車等の車両では、走行時の路面状態による振動、加減速時やカーブ走行時における車両の撓み等も、異音発生の原因となり得る。このような異音の発生を防止または抑制するために、異音を発生する部材間(すなわち、振動や撓みにより干渉し得る部材の間)に異音防止シートを介在させることが行われている。かかる異音防止シートの一形態として、基材の一方の面側に粘着剤層を有し、該粘着剤層を部材に貼り付けることで所望の箇所に固定し得るように構成されたものがある。基材としては、振動等を吸収(緩衝)する性能に優れることから、不織布を主構成要素とするものが好ましく用いられる。異音防止シートに関する技術文献として特許文献1が挙げられる。特許文献2は、電線結束用の粘着テープに関する技術文献である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実開平2−53950号公報
【特許文献2】特開2003−286455号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、近年、粘着シートから放散するトルエン量(トルエン放散量)や総揮発性有機化合物(Total Volatile Organic Compounds;TVOC)量の低減に対する要望が高まっている。このため、種々の用途分野において、従来の粘着シートから、よりトルエン放散量等の少ない粘着シート(以下、低VOC粘着シートということもある。)への置き換えが進められている。特に、自動車の室内のように比較的狭い閉空間で使用される粘着シートや、家電やOA機器のように屋内空間で使用される粘着シートでは、低VOC粘着シートへの置き換えが強く望まれている。
【0005】
しかしながら、これまで異音防止シートの分野では低VOC粘着シートへの置き換えが遅れていた。その主な理由として、一般に異音防止シート用の粘着剤には高度な粘着性能(例えば、粗面に対する良好な接着性、ポリオレフィン等の低極性材料に対する良好な接着性等)が求められ、かかる粘着性能を実現するためには粘着付与樹脂の使用が有効であるところ、粘着付与樹脂を含む組成の粘着剤は殊に低VOC化が困難であるという、異音防止シートに特有の事情が挙げられる。車両(自動車等)の内装材に用いられる材料は、表面が粗面となっているものが多いため、車両に適用される異音防止シートでは、良好な粗面接着性と低VOC化とを両立させることが特に重要である。
【0006】
また、異音防止シート用の粘着剤としては、耐久性(耐候性、耐熱性、老化防止性等)に優れること、被着体を変質させ難いこと等から、アクリル系ポリマーをベースポリマーとする粘着剤(アクリル系粘着剤)が好ましい。そこで本発明は、アクリル系粘着剤を用いてなる異音防止シートであって、トルエン放散量が極めて少なく且つ高性能な異音防止シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によると、不織布を備えた基材と、該基材の片面(第一面)側に設けられた粘着剤層と、を有する異音防止シートが提供される。前記粘着剤層を構成する粘着剤は、ベースポリマーとしてのアクリル系ポリマーと、粘着付与樹脂とを含む。そして、この異音防止シートは、80℃で30分間加熱したときのトルエン放散量が、上記粘着剤層1g当たり20μg以下である。
【0008】
かかる構成の異音防止シートは、基材の片面側に粘着剤層を有するので、該粘着剤層を所望の箇所に圧着するという簡単な操作により設置することができる。上記粘着剤層は、該粘着剤層を構成する粘着剤が粘着付与樹脂を含む組成であるにも拘わらず、トルエン放散量が極めて低く抑えられている。そして、上記粘着剤が粘着付与樹脂を含む組成であることから、上記異音防止シートは、粘着性能(例えば接着性。特に、粗面に対する接着性)のよいものとなり得る。例えば、不織布に対する180°引き剥がし粘着力が凡そ4N/20mm以上の異音防止シートが実現され得る。したがって、例えば異音防止シートに外力(圧力、剪断力等)が加わっても該シートの剥がれやズレが生じ難く、長期に亘って安定した異音防止性能を発揮することができる。
【0009】
前記アクリル系ポリマーとしては、エマルション重合により合成されたアクリル系ポリマーが好適である。かかるアクリル系ポリマーをベースポリマーとする粘着剤によると、トルエン放散量のより少ない異音防止シートが構成され得る。前記粘着剤としては、前記アクリル系ポリマーの水性エマルションと、前記粘着付与樹脂の水性エマルションとを混合して調製された粘着剤組成物から形成されたものが好ましい。かかる粘着剤によると、トルエン放散量のより少ない異音防止シートが構成され得る。
【0010】
ここに開示される異音防止シートの好ましい一態様では、前記基材の第二面側表面(すなわち、異音防止シートの背面)が、前記不織布の露出した面となっている。このような構成の異音防止シートは、上記背面と相手材(製品の振動や撓みにより異音防止シートの背面に当接し得る部材)との擦れ音が生じ難いので異音防止性能に優れる。また、上記構成の異音防止シートは振動吸収性の点でも有利である。上記構成の異音防止シートであって、VDA230−206に準拠した手法にてスティックスリップ(Stick-Slip)試験を行った場合において、前記基材の背面への粘着剤の染み出しが認められない異音防止シートが好ましい。かかる異音防止シートによると、該シートの背面の外観および触感を長期に亘って良好に維持することができる。例えば、ジグラー(ZIEGLER)社製スティック&スリップ測定装置を使用し、相手材にポリプロピレン板を用いて測定される異音レベルが、荷重5N、10N、40N、摺動速度1mm/秒、4mm/秒、10mm/秒の全ての測定条件(荷重と摺動速度との組み合わせ)において3以下である異音防止シートが好ましい。
【0011】
ここに開示される異音防止シートの好ましい一態様では、前記基材の前記第一面側(すなわち粘着剤層側)表面に樹脂被膜が設けられている。かかる構成によると、異音防止シートの背面に粘着剤が染み出す事象を効果的に防止することができる。
【0012】
前記基材を構成する不織布としては、嵩密度が凡そ0.1〜0.5g/cmのものを好ましく使用し得る。かかる嵩密度の不織布によると、異音防止性能に優れ、且つ適度な強度を有する異音防止シートが実現され得る。このように比較的嵩密度の低い不織布を備える異音防止シートでは、基材の第一面側表面に樹脂被膜を有する上記構成を採用することが特に好ましい。かかる構成の異音防止シートは、異音防止性能に優れ、且つ背面への粘着剤の染み出しが高度に防止されたものとなり得る。
【0013】
ここに開示される異音防止シートの好ましい一態様では、前記粘着剤層が、支持体の両面に粘着剤を有する両面粘着シートとして構成されている。このように粘着剤層が支持体を有する構成の異音防止シートによると、上記支持体によって粘着剤の移動(例えば、不織布の内部に浸透すること)を抑えることができる。したがって、例えば基材を構成する不織布の厚みの割に粘着剤層の厚みを大きくしても、該粘着剤層を構成する粘着剤が異音防止シートの背面に染み出しにくい。このように粘着剤層の厚みを大きくし得ることは、被着体に対する接着性(特に粗面接着性)の観点から有利である。また、粘着剤層中の支持体は、該粘着剤層の凝集性向上に寄与し得る。このような接着性および凝集性の向上効果が相まって、外力や経時による異音防止シートの剥がれやズレをよりよく防止し、長期に亘って安定した異音防止性能を発揮する異音防止シートが実現され得る。
【0014】
ここに開示されるいずれかの異音防止シートは、上述のように低VOCであって且つ高性能であることから、例えば、車両、家電、OA機器等における異音の発生防止に好ましく用いることができる。特に、車両の室内空間または該室内空間に連通する空間に面する箇所に前記粘着剤層を貼り付けて用いられる異音防止シートとして好適である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係る異音防止シートの一構成例を模式的に示す断面図である。
【図2】本発明に係る異音防止シートの他の一構成例を模式的に示す断面図である。
【図3】本発明に係る異音防止シートの使用態様を例示する模式的説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。また、以下の説明において、同様の作用を奏する部材または部位には同じ符号を付し、重複する説明は省略または簡略化することがある。
【0017】
ここに開示される異音防止シートの典型的な構成例を図1に模式的に示す。この異音防止シート10は、シート状の基材12と、基材12の片面(第一面側表面)12A上に設けられた粘着剤層14とを有する。基材12は、不織布122(例えばフェルト)と、その片面を覆う樹脂被膜124とを有する。この樹脂被膜124が基材12の片面12Aを構成している。不織布122の他面は、基材12の背面12B(異音防止シート10自体の背面としても把握され得る。)に露出している。換言すれば、基材12の背面12Bは、不織布122の他面により構成されている。粘着剤層14は、不織布(例えば薄紙)からなる支持体142の両面に粘着剤143,144を有する両面粘着シートとして構成されており、該両面粘着シート14の一方の粘着面144Aが基材12の片面12Aに貼り合わされることで基材12と一体化されている。この異音防止シート10は、粘着剤層14の表面14A(両面粘着シート14の他方の粘着面に相当し、異音防止シート10の粘着面としても把握され得る。)を、異音発生の原因となり得る部材(被着体)に貼り付けて使用される。使用前(すなわち、被着体に貼り付けられる前)の異音防止シート10では、図示するように、粘着剤層14の表面14Aは、少なくとも粘着剤層14側が剥離面となっている剥離ライナー16により保護されている。なお、図1では図解の便宜のため粘着剤143,144と支持体142との界面を直線で表しているが、実際には粘着剤143,144の下部(支持体側)は支持体142に含浸している。
【0018】
ここに開示される異音防止シートの他の構成例を図2に模式的に示す。この異音防止シート20は、図1に示す異音防止シート10と同様の基材12を備え、その基材12の片面12A上に粘着剤層24を有する。この粘着剤層24は、図1に示す異音防止シート10の粘着剤層14とは異なり、支持体を有しない。すなわち、粘着剤層24は、その全体が粘着剤(粘弾性体)243により構成されている。使用前の異音防止シート20では、図1に示す異音防止シート10と同様、粘着剤層24の表面24Aが、少なくとも粘着剤層14側が剥離面となっている剥離ライナー16によって保護されている。
【0019】
本発明に係る異音防止シートは、該シートを80℃で30分間加熱したときのトルエン放散量(以下、単に「トルエン放散量」ということもある。)が、粘着剤層1g当たり20μg以下(以下、これを「20μg/g」等と表記することもある。)であることによって特徴付けられる。好ましい一態様では、上記トルエン放散量が10μg/g以下である。トルエン放散量の下限は特に限定されないが、粘着特性や生産効率等を考慮して、通常は0.5μg/g以上であり、典型的には1μg/g以上である。なお、トルエン放散量としては、下記のトルエン放散量測定方法により得られた値を採用するものとする。
【0020】
[トルエン放散量測定方法]
所定サイズ(例えば、面積5cm)の粘着剤層を含む試料をバイアル瓶に入れて密栓する。そのバイアル瓶を80℃で30分間加熱し、ヘッドスペースオートサンプラーを用いて、加熱状態のガス1.0mLをガスクロマトグラフ測定装置(GC測定装置)に注入してトルエンの量を測定する。その測定結果から、上記試料に含まれる粘着剤層1g当たりのトルエン発生量(放散量)[μg/g]を算出する。
【0021】
なお、粘着剤層1g当たりのトルエン放散量を算出する基準となる粘着剤層の質量は、例えば図1に示されるように支持体の両面に粘着剤を有する形態の粘着剤層を備える異音防止シートについては、粘着剤および支持体を含む粘着剤層全体の質量とする。また、上記試料としては、基材と一体化される前の粘着剤層(例えば、両面粘着シートの形態に構成された粘着剤層)を所定サイズに切り取ったものを用いてもよく、異音防止シートから採取した粘着剤層を用いてもよい。あるいは、粘着剤層以外の構成要素からのトルエン放散量を事実上無視し得る場合(例えば、異音防止シートから放散するトルエン量の95質量%以上が粘着剤層に由来する場合)には、異音防止シートを所定サイズに切り取ったものを試料に用いて、粘着剤層からのトルエン放散量を測定してもよい。
【0022】
ここに開示される異音防止シートの好ましい一態様では、該シートを80℃で30分間加熱したときのTVOC量(以下、単に「TVOC量」ということもある。)が、粘着剤層1g当たり凡そ150μg以下である。このTVOC量が凡そ120μg/g以下であることがより好ましい。TVOC量の下限は特に限定されないが、粘着特性や生産効率等を考慮して、通常は5μg/g以上、典型的には10μg/g以上である。なお、TVOC量としては、下記のTVOC量測定方法により得られた値を採用するものとする。
【0023】
[TVOC量測定方法]
上記トルエン放散量測定方法と同様の試料を入れたバイアル瓶を80℃で30分間加熱し、ヘッドスペースオートサンプラーを用いて、加熱状態のガス1.0mLをGC測定装置に注入する。得られたガスクロマトグラムに基づいて、粘着剤層の作製に使用した材料から予測される揮発物質(アクリル系ポリマーの合成に用いたモノマー、後述する粘着付与樹脂エマルションの製造に用いた溶剤等)については標準物質によりピークの帰属および定量を行い、その他の(帰属困難な)ピークについてはトルエン換算として定量することにより、上記試料に含まれる粘着剤層1g当たりのTVOC量[μg/g]を求める。
【0024】
なお、粘着剤層1g当たりのTVOC量を算出する基準となる粘着剤層の質量は、トルエン放散量の場合と同様、支持体を内蔵する形態の粘着剤層を備える異音防止シートについては、粘着剤および支持体を含む粘着剤層全体の質量とする。また、上記試料としては、基材と一体化される前の粘着剤層を所定サイズに切り取ったものを用いてもよく、異音防止シートから採取した粘着剤層を用いてもよい。あるいは、粘着剤層以外の構成要素からのTVOC量を事実上無視し得る場合(例えば、異音防止シートから放散するTVOCの95質量%以上が粘着剤層に由来する場合)には、異音防止シートを所定サイズに切り取ったものを試料に用いて、粘着剤層からのTVOC量を測定してもよい。
【0025】
上記トルエン放散量測定方法およびTVOC量測定方法のいずれについても、ガスクロマトグラフの測定条件は次の通りとする。
・カラム:DB−FFAP 1.0μm(0.535mmφ×30m)
・キャリアガス:He 5.0mL/min
・カラムヘッド圧:23kPa(40℃)
・注入口:スプリット(スプリット比12:1、温度250℃)
・カラム温度:40℃(0min)−<+10℃/min>−250(9min)[40℃より、昇温速度10℃/minで250℃まで昇温させた後、250℃で9分間保持させるという意味]
・検出器:FID(温度250℃)
【0026】
ここに開示される技術において、粘着剤層を構成する粘着剤は、アクリル系ポリマーと粘着付与樹脂とを含む。上記粘着剤は、典型的には、アクリル系ポリマーと粘着付与樹脂と適当な媒体とを含む液状(溶液状、エマルション状等)の粘着剤組成物から形成される。例えば、かかる粘着剤組成物を乾燥または硬化させてなる粘着剤であり得る。
【0027】
上記アクリル系ポリマーは、粘着剤のベースポリマー(ポリマー成分のなかの主成分、すなわち50質量%以上を占める成分)をなすものであって、所定のモノマー原料を重合(例えばエマルション重合)してなる重合体である。上記モノマー原料は、典型的には、アルキル(メタ)アクリレート、すなわちアルキルアルコールの(メタ)アクリル酸エステルを主モノマー(主構成単量体)とする。ここで「(メタ)アクリル酸」とは、アクリル酸およびメタクリル酸を包含する概念である。また、「アルキル(メタ)アクリレートを主モノマーとする」とは、上記モノマー原料の総量に占めるアルキル(メタ)アクリレートの含有量(二種以上のアルキル(メタ)アクリレートを含有する場合にはそれらの合計含有量)の割合が50質量%を超えることをいう。このアルキル(メタ)アクリレート含有割合は、例えば前記モノマー原料の50質量%を超えて99.8質量%以下の範囲であり得る。アルキル(メタ)アクリレートの含有割合が凡そ80質量%以上(典型的には凡そ80〜99.8質量%)であるモノマー原料が好ましく、凡そ85質量%以上(典型的には凡そ85〜99.5質量%)であるモノマー原料がより好ましい。モノマー原料に占めるアルキル(メタ)アクリレートの割合が凡そ90質量%以上(典型的には凡そ90〜99質量%)であってもよい。この割合は、該モノマー原料を重合して得られるアクリル系ポリマーにおけるアルキル(メタ)アクリレートの(共)重合割合に概ね対応する。
【0028】
上記モノマー原料を構成するアルキル(メタ)アクリレートは、下記式(1):
CH=C(R)COOR (1);
で表される化合物から選択される一種または二種以上であり得る。ここで、上記式(1)中のRは水素原子またはメチル基である。また、該式(1)中のRは炭素数1〜20のアルキル基である。上記Rの具体例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、イソアミル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、イソオクチル基、2−エチルヘキシル基、ノニル基、イソノニル基、デシル基、イソデシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、エイコシル基等が挙げられる。これらのうち炭素数が2〜14(以下、このような炭素数の範囲を「C2−14」と表すことがある。)のアルキル基が好ましく、C2−10のアルキル基(例えばブチル基、2−エチルヘキシル基等)がより好ましい。
【0029】
好ましい一つの態様では、上記モノマー原料に含まれるアルキル(メタ)アクリレートの総量のうち凡そ80質量%以上(より好ましくは凡そ90質量%以上)が、上記式(1)におけるRがC2−10(より好ましくはC4−8)のアルキルアルコールの(メタ)アクリル酸エステルである。該モノマー原料に含まれるアルキル(メタ)アクリレートの実質的に全部がC2−10アルキル(より好ましくはC4−8アルキル)(メタ)アクリレートであってもよい。かかるアルキル(メタ)アクリレートは、単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。例えば、アルキル(メタ)アクリレートとしてブチルアクリレートを単独で含む組成、2−エチルヘキシルアクリレートを単独で含む組成、ブチルアクリレートおよび2−エチルヘキシルアクリレートの二種を任意の割合で含む組成、等のモノマー原料であり得る。
【0030】
上記モノマー原料は、主モノマーとしてのアルキル(メタ)アクリレートに加えて、任意成分としてその他のモノマー(共重合成分)を含有することができる。当該「その他のモノマー」は、ここで使用するアルキル(メタ)アクリレートと共重合可能な種々のモノマーから選択される一種または二種以上であり得る。かかる共重合成分は、例えば、アクリル系ポリマーに架橋点を導入する、アクリル系ポリマーの凝集力を高める、等の目的で使用することができる。なお、アクリル系ポリマーを構成するモノマー成分全量に対するアルキル(メタ)アクリレートの割合は凡そ80質量%以上(例えば凡そ80〜99.8質量%)であることが好ましく、より好ましくは凡そ85質量%以上(例えば凡そ85〜99.5質量%)、さらに好ましくは凡そ90質量以上(例えば凡そ90〜99質量%)である。
【0031】
具体的には、アクリル系ポリマーに架橋点を導入するために、上記共重合成分として官能基含有モノマー(特に、アクリル系重合体に熱架橋する架橋点を導入させるための熱架橋性官能基含有モノマー)を用いることができる。かかる官能基含有モノマーを用いることにより、被着体に対する接着力を向上させることができる。このような官能基含有モノマーとしては、アルキル(メタ)アクリレートと共重合可能であって且つ架橋点となる官能基を有しているモノマー(典型的にはエチレン性不飽和単量体)であれば特に制限されず、例えば、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、イソクロトン酸等の、カルボキシル基含有モノマーまたはその酸無水物(無水マレイン酸、無水イコタン酸等);2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルホスフェート等の、カルボン酸以外の不飽和酸;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、6−ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートの他、ビニルアルコール、アリルアルコール等の、水酸基含有モノマー;(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N−ブチル(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−メチロールプロパン(メタ)アクリルアミド、N−メトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド等の、アミド基含有モノマー;アミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、t−ブチルアミノエチル(メタ)アクリレート等の、アミノ基含有モノマー;グリシジル(メタ)アクリレート、メチルグリシジル(メタ)アクリレート等の、エポキシ基含有モノマー;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアノ含有モノマー;N−ビニル−2−ピロリドン、N−メチルビニルピロリドン、N−ビニルピリジン、N−ビニルピペリドン、N−ビニルピリミジン、N−ビニルピペラジン、N−ビニルピラジン、N−ビニルピロール、N−ビニルイミダゾール、N−ビニルオキサゾール、N−ビニルモルホリン、N−ビニルカプロラクタム、N−(メタ)アクリロイルモルホリン等の、複素環(例えば窒素原子含有環)を有するモノマー;3−(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−(メタ)アクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン等の、アルコキシシリル基を有するモノマー;等が挙げられる。
【0032】
このような官能基含有モノマーは、一種のみを用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。好ましく使用される官能基含有モノマーの一例として、カルボキシル基含有モノマーまたはその無水物(より好ましくはエチレン性不飽和モノカルボン酸)が挙げられる。なかでもアクリル酸および/またはメタクリル酸の使用が好ましい。好ましく使用される官能基含有モノマーの他の一例として、アルコキシシリル基を有するモノマーが挙げられる。かかる官能基含有モノマーを含む組成のモノマー原料では、アルキル(メタ)アクリレート100質量部に対する官能基含有モノマー(二種以上を含む場合にはそれらの合計)の含有割合を、例えば凡そ12質量部以下(典型的には凡そ0.5〜12質量部)とすることができる。この割合がアルキル(メタ)アクリレート100質量部に対して凡そ8質量部以下(典型的には凡そ1〜8質量部)であってもよい。
【0033】
また、アクリル系ポリマーの凝集力を高めるために、上述した官能基含有モノマー以外の他の共重合成分を用いることができる。かかる共重合成分としては、例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル系モノマー;スチレン、置換スチレン(α−メチルスチレン等)、ビニルトルエン等のスチレン系モノマー;シクロヘキシル(メタ)アクリレート、シクロペンチルジ(メタ)アクリレート等(メタ)アクリル酸シクロアルキルエステル、イソボルニル(メタ)アクリレートのような、非芳香族性の環を含有する(メタ)アクリルレート;フェニル(メタ)アクリレート等のアリール(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート等のアリールオキシアルキル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート等のアリールアルキル(メタ)アクリレートのような、芳香族性の環を含有する(メタ)アクリレート;エチレン、プロピレン、イソプレン、ブタジエン、イソブチレン等のオレフィン系モノマー;塩化ビニル、塩化ビニリデン;2−(メタ)アクリロイルオキシエチルイソシアネート等のイソシアネート基含有モノマー;メトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシエチル(メタ)アクリレート等のアルコキシ基含有モノマー;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル等のビニルエーテル系モノマーの他、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、(ポリ)エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、(ポリ)プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、エポキシアクリレート、ポリエステルアクリレート、ウレタンアクリレート、ジビニルベンゼン、ブチルジ(メタ)アクリレート、ヘキシルジ(メタ)アクリレート等の多官能モノマー等が挙げられる。
【0034】
このような共重合成分は、一種のみを用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。上記共重合成分を含む組成のモノマー原料では、アルキル(メタ)アクリレート100質量部に対する共重合成分(二種以上を含む場合にはそれらの合計)の含有割合を、例えば凡そ12質量部以下(典型的には凡そ0.5〜12質量部)とすることができる。この割合がアルキル(メタ)アクリレート100質量部に対して凡そ8質量部以下(典型的には凡そ1〜8質量部)であってもよい。かかる共重合成分を実質的に含まない共重合組成のアクリル系ポリマーであってもよい。
【0035】
かかる組成のモノマー原料からアクリル系ポリマーを得るための重合方法は特に限定されず、従来公知の各種重合方法を適宜採用し得る。例えば、熱重合開始剤を用いて行う重合方法(溶液重合法、エマルション重合法、塊状重合法等の熱重合法);光や放射線等の活性エネルギー線(高エネルギー線ともいう。)を照射して行う重合方法;等を採用することができる。これらのうち、本発明にとり特に好ましい重合方法として、重合溶媒に水を用いるエマルション重合法が挙げられる。
【0036】
ここに開示される技術の好ましい一態様では、上記モノマー原料をエマルション重合に付すことによりアクリル系ポリマーを合成する。該エマルション重合の態様は特に限定されず、従来公知の一般的なエマルション重合と同様の態様により、例えば公知の各種モノマー供給方法、重合条件(重合温度、重合時間、重合圧力等)、使用材料(重合開始剤、界面活性剤等)を適宜採用して行うことができる。例えば、モノマー供給方法としては、全モノマー原料を一度に重合容器に供給する一括仕込み方式、連続供給(滴下)方式、分割供給(滴下)方式等のいずれも採用可能である。モノマー原料の一部または全部をあらかじめ水と混合して乳化し、その乳化液(すなわち、モノマー原料のエマルション)を反応容器内に供給してもよい。重合温度は、使用するモノマーの種類や重合開始剤の種類等に応じて適宜選択することができ、例えば常温より高く100℃以下(典型的には40〜100℃、例えば40〜80℃)の範囲から選択することができる。
【0037】
界面活性剤(乳化剤)としては、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸アンモニウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸アンモニウム、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸ナトリウム等のアニオン系乳化剤;ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル等のノニオン系乳化剤;等を使用できる。上記のようなアニオン系またはノニオン系乳化剤にラジカル重合性基(プロペニル基等)が導入された構造のラジカル重合性乳化剤(反応性乳化剤)を用いてもよい。このような乳化剤は、一種を単独で用いてもよく、あるいは二種以上を組み合わせて用いてもよい。乳化剤の使用量(固形分基準)は、モノマー原料100質量部に対して、例えば凡そ0.2〜10質量部程度(好ましくは凡そ0.5〜5質量部程度)とすることができる。
【0038】
重合時に用いられる重合開始剤は、重合方法の種類および態様(重合条件)に応じて、公知または慣用の重合開始剤から適宜選択することができる。重合開始剤としては、例えば、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)二硫酸塩、2,2’−アゾビス[N−(2−カルボキシエチル)−2−メチルプロピオンアミジン]ハイドレート、2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)ジヒドロクロライド、2,2’−アゾビス[2−(5−メチル−2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]ジヒドロクロライド、2,2’−アゾビス(N,N’−ジメチレンイソブチルアミジン)、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4,4−トリメチルペンタン)、ジメチル−2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)等のアゾ系重合開始剤;過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩;ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシベンゾエート、ジクミルパーオキサイド、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロドデカン、過酸化水素等の過酸化物系重合開始剤;フェニル置換エタン等の置換エタン系重合開始剤;芳香族カルボニル化合物;過酸化物と還元剤との組み合わせによるレドックス系開始剤;が挙げられる。重合開始剤は単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。
重合開始剤の使用量は、通常と同程度の使用量であればよく、例えばモノマー原料100質量部に対して凡そ0.005〜1質量部程度の範囲から選択することができる。
【0039】
重合の際には、必要に応じて連鎖移動剤(分子量調節剤あるいは重合度調節剤としても把握され得る。)を使用することができる。連鎖移動剤としては、公知または慣用の連鎖移動剤を用いることができ、例えば、ドデシルメルカプタン(ドデカンチオール)、ラウリルメルカプタン、グリシジルメルカプタン、2−メルカプトエタノール、メルカプト酢酸、チオグリコール酸2−エチルヘキシル、2,3−ジメチルカプト−1−プロパノール等のメルカプタン類の他、α−メチルスチレンダイマー等が挙げられる。このような連鎖移動剤は、単独でまたは2種以上組み合わせて使用することができる。連鎖移動剤の使用量は、通常と同程度の使用量であればよく、例えば、モノマー原料100質量部に対して凡そ0.001〜0.5質量部程度の範囲から選択することができる。
【0040】
ここに開示される技術においてモノマー原料をエマルション重合させる好ましい一態様では、重合開始剤を有する反応容器に上記モノマー原料を供給して系を常温よりも高い重合温度(好ましくは凡そ40℃〜80℃、例えば凡そ50℃〜70℃)に維持することにより、該モノマー原料の重合反応を行う。その後、反応容器の内容物(反応液)を典型的には常温まで冷却する。例えば、重合開始剤の全量が仕込まれた反応容器にモノマー原料の全量を一括して供給してもよく、モノマー原料の全量を所定時間に亘って連続的に供給してもよく(連続供給)、あるいはモノマー原料の全量をいくつかに分割して所定時間(例えば凡そ5分〜60分)毎に供給してもよい(分割供給)。上記モノマー原料の連続供給を行う場合、該供給を行う時間は、通常は凡そ1時間〜8時間程度とすることが適当であり、好ましくは凡そ2時間〜6時間程度(例えば凡そ3時間〜5時間程度)である。また、上記モノマー原料の分割供給を行う場合には、最初のモノマー原料画分が供給されてから最後のモノマー原料画分が供給されるまでの時間を通常は凡そ1時間〜8時間程度とすることが適当であり、好ましくは凡そ2時間〜6時間程度(例えば凡そ3時間〜5時間程度)である。あるいは、重合開始剤の一部が仕込まれた反応容器にモノマー原料の少なくとも一部を供給して該モノマー原料の重合を開始させ、残りの重合開始剤は所定時間に亘って連続的に、あるいはいくつかに分割して所定時間毎に供給してもよい。通常は、モノマー原料の供給終了とほぼ同時あるいはモノマー原料の供給終了よりも前に、重合開始剤の供給を終了することが好ましい。
【0041】
重合時間(モノマー原料の重合反応を行う時間をいい、該重合反応を開始させてから系を重合温度に保つ時間として把握され得る。)は、使用する重合開始剤の種類、重合温度、重合開始剤およびモノマー原料の供給態様等に応じて適宜設定することができる。例えば、重合時間を凡そ2時間〜12時間程度とすることができ、生産性等の観点から通常は凡そ4時間〜8時間程度とすることが好ましい。また、モノマー原料の全量を反応容器に供給し終えてから所定時間は反応容器の内容物(反応液)を重合温度に保持する(いわゆる熟成を行う)ことが好ましい。かかる熟成を行うことによって、反応液中に残存するモノマーの量を減らし、よりTVOC量の少ない粘着剤層を形成可能なアクリル系ポリマーを得ることができる。この熟成期間は例えば凡そ30分〜4時間程度とすることができ、生産性等の観点から通常は凡そ1時間〜3時間程度とすることが好ましい。なお、ここでいう重合時間は上記熟成期間を含む。したがって、例えば重合開始剤の全量が仕込まれた反応容器を重合温度に保持してここにモノマー原料の全量を4時間かけて連続的に供給し、該モノマー原料の供給を終えてから2時間に亘り系を引き続き該重合温度に保持して反応液の熟成を行った場合の重合時間は6時間となる。重合温度は重合時間の全期間に亘って一定でもよく、一部の期間と他の期間とで異なってもよい。例えば、所定の重合温度でモノマー原料を供給した後、より高い重合温度で熟成を行ってもよい。
【0042】
ここに開示される技術においてモノマー原料をエマルション重合させる好ましい一態様では、モノマー原料を反応容器に供給し終えてから間隔をあけて、該反応容器の内容物(反応液)に追加の重合開始剤を供給する。このように追加の重合開始剤(以下「追加開始剤」ともいう。)を供給することにより、反応液中に残存するモノマーの量を効果的に減少させる(典型的には、該残存モノマーの重合を促進する)ことができる。このことによって、よりTVOC量の少ない粘着剤層を形成可能なアクリル系ポリマーを得ることができる。使用する追加開始剤は、先にモノマー原料の重合反応に使用された重合開始剤(すなわち、モノマー原料の供給終了前に反応容器に導入された重合開始剤。以下「主開始剤」ともいう。)と同一であってもよく異なってもよい。残存モノマー量の減少を効率よく行い得る追加開始剤として、主開始剤(例えば、アゾ系重合開始剤、過硫酸塩、過酸化物系重合開始剤等から選択される開始剤)よりも半減期温度の低い重合開始剤(例えば、アゾ系重合開始剤、過硫酸塩、過酸化物系重合開始剤等から選択される開始剤)を好ましく用いることができる。また、追加開始剤としてレドックス系重合開始剤を用いることも好ましい。例えば、過酸化物(過酸化水素等)とアスコルビン酸との組み合わせ、過酸化物(過酸化水素等)と鉄(II)塩との組み合わせ、過硫酸塩(過硫酸アンモニウム等)と亜硫酸水素ナトリウムとの組み合わせ等によるレドックス系重合開始剤を好ましく採用することができる。なかでも、レドックス反応後に余分な残留物を生じないことから、過酸化水素(典型的には、濃度1〜35%程度の過酸化水素水の形態で用いられる。)とアスコルビン酸との組み合わせが好適である。追加開始剤の使用量は特に限定されず、例えばモノマー原料100質量部に対して凡そ0.005〜1質量部程度の範囲から選択することができる。
【0043】
かかる追加開始剤を反応液に供給(添加)する好適なタイミングは、該追加開始剤の種類によっても異なり得る。モノマー原料を反応容器に供給し終えてから間隔をあけて(典型的には凡そ10分〜4時間、例えば凡そ1時間〜3時間程度経過後に)、且つ反応液の冷却を終える前に行うことが好ましい。例えば、熱により分解してラジカルを発生することで残存モノマーを減少させるタイプの追加開始剤(アゾ系重合開始剤、過硫酸塩、過酸化物系重合開始剤等)では、上記熟成期間の途中で(例えば、該熟成期間の凡そ30〜95%が経過した時点で)追加開始剤を添加することが好ましい。また、レドックス系の追加開始剤を使用する場合には、熟成期間の終了前後(例えば、追加開始剤の投入とほぼ同時に冷却を開始する態様)または反応液を冷却する途中で追加開始剤を添加する態様を好ましく採用することができる。このことによって、生産性への影響を抑えつつ残存モノマー量を効果的に減少させることができる。なお、追加開始剤の添加は一度に行ってもよく、連続的にまたは分割して行ってもよい。操作が簡便であることから、追加開始剤を一度に添加する態様を好ましく採用することができる。
【0044】
なお、上記エマルション重合においては、上記追加開始剤の使用により残存モノマー量を効率よく減少させ得ることから、重合時間を極端に長くしなくても(例えば、重合時間を凡そ8時間以下としても)、残存モノマー量が十分に低減されたアクリル系ポリマーのエマルションを得ることができる。かかるアクリル系ポリマーエマルションに粘着付与樹脂を配合してなる粘着剤組成物によると、トルエン放散量およびTVOC量が高度に低減された粘着剤層が形成され得る。このように極端に長い重合時間を必要とすることなく粘着剤の低VOC化を実現し得ることは、粘着剤組成物および該組成物を用いて製造される異音防止シートの生産性向上の観点から好ましい。
【0045】
上記粘着剤組成物は、上述のようなエマルション重合により得られたアクリル系ポリマーエマルションに粘着付与樹脂を配合することにより、好ましく調製され得る。かかる記粘着付与樹脂としては、例えば、ロジン系樹脂、ロジン誘導体樹脂、石油系樹脂、テルペン系樹脂、フェノール系樹脂、ケトン系樹脂等の各種粘着付与樹脂から選択される一種または二種以上を用いることができる。上記ロジン系樹脂としては、例えば、ガムロジン、ウッドロジン、トール油ロジン等のロジンの他、安定化ロジン(例えば、前記ロジンを不均化もしくは水素添加処理した安定化ロジン)、重合ロジン(例えば、前記ロジンの多量体、典型的には二量体)、変性ロジン(例えば、マレイン酸、フマル酸、(メタ)アクリル酸等の不飽和酸により変性された不飽和酸変性ロジン等)等が挙げられる。上記ロジン誘導体樹脂としては、前記ロジン系樹脂のエステル化物、フェノール変性物およびそのエステル化物等が挙げられる。上記石油系樹脂としては、脂肪族系石油樹脂、芳香族系石油樹脂、共重合系石油樹脂、脂環族系石油樹脂、これらの水素化物等が例示される。上記テルペン系樹脂としては、α−ピネン樹脂、β−ピネン樹脂、芳香族変性テルペン系樹脂、テルペンフェノール系樹脂等が挙げられる。上記ケトン系樹脂としては、例えば、ケトン類(例えば、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、アセトフェノン等の脂肪族ケトン;シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン等の脂環式ケトン等)とホルムアルデヒドとの縮合によるケトン系樹脂が例示される。
【0046】
ここに開示される技術では、軟化点(軟化温度)が凡そ100℃以上(典型的には凡そ110℃以上、好ましくは凡そ120℃以上、さらに好ましくは凡そ140℃以上)の粘着付与樹脂が好ましく使用される。かかる軟化点を有する粘着付与樹脂によると、より高性能な(例えば、接着性および耐熱性のうち少なくとも一方が更に改善された)異音防止シートが実現され得る。粘着付与樹脂の軟化点の上限は特に制限されず、例えば凡そ170℃以下(好ましくは凡そ160℃以下、さらに好ましくは凡そ155℃以下)であり得る。
【0047】
かかる粘着付与樹脂は、該樹脂が水に分散した水性エマルション(粘着付与樹脂エマルション)の形態で好ましく使用され得る。例えば、アクリル系ポリマーの水性エマルションと上記粘着付与樹脂の水性エマルションとを混合することにより、これらの成分を所望の割合で含有する粘着剤組成物を容易に調製することができる。粘着付与樹脂エマルションとしては、少なくとも芳香族炭化水素系溶剤を実質的に含有しない(より好ましくは、芳香族炭化水素系溶剤その他の有機溶剤を実質的に含有しない)ものを用いることが好ましい。このことによって、よりトルエン放散量の少ない粘着シートが提供され得る。
【0048】
ここに開示される技術において好ましく使用し得る粘着付与樹脂エマルションとしては、例えば、商品名「SK−253NS」(ハリマ化成株式会社製;軟化点145℃;有機溶剤を実質上全く用いずに製造された粘着付与樹脂含有エマルション)、商品名「タマノルE−200−NT」(荒川化学株式会社製;軟化点150℃;脂環式炭化水素系有機溶剤を用いて製造された粘着付与樹脂含有エマルション)等が挙げられる。
【0049】
粘着付与樹脂は、一種を単独で使用してもよく、二種以上を組み合わせて使用してもよい。例えば、高軟化点(例えば凡そ130℃以上)の粘着付与樹脂と、より軟化点の低い(例えば、軟化点が凡そ80〜120℃の)粘着付与樹脂とを、適宜の割合で組み合わせて使用することができる。このことによって、他の特性の低下を抑えつつ、低温特性(低温条件下における接着性、タック等)を向上させることができる。高温環境下における凝集性等の観点から、使用する粘着付与樹脂の合計質量のうち凡そ50%以上は高軟化点の粘着付与樹脂とすることが好ましい。
【0050】
ここに開示される技術において、アクリル系ポリマーに配合される粘着付与樹脂の量は特に制限されず、目的とする粘着性能(粗面接着性、ポリオレフィン等の低極性材料に対する接着性等)に応じて適宜設定することができる。アクリル系ポリマー100質量部に対して粘着付与樹脂(固形分基準)を凡そ10〜100質量部(好ましくは凡そ15〜80質量部、より好ましくは凡そ20〜60質量部、例えば凡そ20〜40部)の割合で使用することができる。粘着付与樹脂の使用量が少なすぎると、該粘着樹脂の添加による接着性(例えば、粗面やポリオレフィン製部材のように難接着性の被着体に対する接着性)向上効果が十分に発揮され難くなる場合がある。また、粘着付与樹脂の使用量が多すぎると、アクリル系ポリマーとの相溶性が不足しやすく、また低温特性が低下しがちとなることがある。また、粘着剤層(ひいては異音防止シート)のトルエン放散量やTVOC量を高度に低減するためにも、粘着付与樹脂の過剰な使用は避けることが望ましい。
【0051】
上記粘着剤組成物には、必要に応じて架橋剤が配合されていてもよい。架橋剤の種類は特に制限されず、公知または慣用の架橋剤(例えば、イソシアネート系架橋剤、エポキシ系架橋剤、オキサゾリン系架橋剤、アジリジン系架橋剤、メラミン系架橋剤、過酸化物系架橋剤、尿素系架橋剤、金属アルコキシド系架橋剤、金属キレート系架橋剤、金属塩系架橋剤、カルボジイミド系架橋剤、アミン系架橋剤等)から適宜選択して用いることができる。油溶性架橋剤、水溶性架橋剤のいずれも使用可能である。架橋剤は単独でまたは2種以上組み合わせて用いることができる。架橋剤の使用量は特に制限されず、例えば、アクリル系ポリマー100質量部に対して凡そ20質量部以下(例えば凡そ0.005〜20質量部、好ましくは凡そ0.01〜10質量部)程度の範囲から選択することができる。なお、このような架橋剤を用いる代わりに、あるいは該架橋剤の使用に加えて、電子線や紫外線の活性エネルギー線を照射することによって粘着剤を架橋させてもよい。
【0052】
上記粘着剤組成物は、必要に応じて、pH調整等の目的で使用される酸または塩基(アンモニア水等)を含有するものであり得る。該組成物に含有され得る他の任意成分としては、粘度調整剤(増粘剤等)、レベリング剤、剥離調整剤、可塑剤、軟化剤、充填剤、顔料や染料等の着色剤、界面活性剤、帯電防止剤、防腐剤、老化防止剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、光安定剤等の、水性粘着剤組成物の分野において一般的な各種の添加剤が例示される。
【0053】
ここに開示される異音防止シートの基材を構成する不織布(基材用不織布)は、典型的には、シート状の繊維集積体(すなわち、繊維がシート状に集積したもの)である。かかる不織布を構成する繊維は、ポリエステル繊維、レーヨン、ビニロン、アセテート繊維、ポリビニルアルコール(PVA)繊維、ポリアミド繊維(ナイロン等)、ポリオレフィン繊維(ポリプロピレン繊維等)、ポリウレタン繊維等の化学繊維(合成繊維、半合成繊維および再生繊維を包含する。);木材パルプ、綿、麻(例えばマニラ麻)等の天然繊維;等であり得る。このような繊維のいずれか単独から構成された不織布であってもよく、二種以上の繊維から構成された不織布であってもよい。異音防止シートの強度および耐久性の観点から、主として化学繊維から構成される不織布の使用が好ましい。例えば、ナイロン、ポリプロピレン繊維およびポリエステル繊維のうち、いずれか一種または二種以上から構成された不織布を好ましく採用し得る。特に好ましい例として、構成繊維がナイロン単独またはポリプロピレン単独である不織布が挙げられる。
【0054】
上記基材用不織布としては、厚みが凡そ0.1mm以上(より好ましくは凡そ0.2mm以上)のものが好ましく用いられる。この厚みが小さすぎると、異音防止性能が低下しやすくなったり、異音防止シートの強度が低下傾向となったりすることがあり得る。不織布の厚みの上限は特に限定されないが、異音防止シートの厚みが大きすぎると、該シートを設置可能な箇所が制約される不都合が生じ得る。このため、通常は上記不織布の厚みを凡そ3mm以下とすることが好ましく、凡そ2mm以下(例えば凡そ1mm以下)とすることがより好ましい。ここに開示される異音防止シートの好ましい一態様では、上記基材用不織布の厚みが凡そ0.2mm〜0.6mmである。
【0055】
上記基材用不織布は、その目付けが例えば凡そ25〜250g/m程度の不織布であり得る。通常は、目付けが凡そ30〜200g/m(より好ましくは凡そ40〜100g/m、例えば凡そ40〜80g/m)である不織布が好ましい。不織布の目付けが小さすぎると、異音防止性能が低下しやすくなったり、異音防止シートの強度が低下傾向となったりすることがあり得る。不織布の目付けが大きすぎると、異音防止シートの設置箇所が制約される場合が生じ得る。
【0056】
上記基材用不織布の嵩密度(該不織布の目付けを厚みで割ることにより算出され得る。)は、例えば凡そ0.05〜0.5g/cm程度であり得る。通常は、嵩密度が凡そ0.1〜0.3g/cm(例えば凡そ0.1〜0.2g/cm)である不織布が好ましい。不織布の嵩密度が低すぎると、異音防止性能が低下しやすくなる場合がある。目付けが大きすぎると、異音防止シートの設置箇所が制約される場合が生じ得る。
【0057】
かかる基材用不織布の製造方法は特に限定されず、従来公知の各種方法を適用して製造された不織布であり得る。例えば、繊維の集積方法は、一般的なスパンボンド法、乾式法および湿式法等のいずれであってもよく、一好適例としてスパンボンド法が挙げられる。また、繊維間の結合方法としては、一般的なサーマルボンド(熱圧着)法、ケミカルボンド法、ニードルパンチ法等の各種方法を、単独で、あるいは適宜組み合わせて用いることができる。
【0058】
上記基材用不織布の表面形状は、フラットであってもよく、規則的またはランダムな凹凸模様が付されていてもよい。かかる凹凸模様は、例えば、表面に相補的な凹凸形状を有するエンボスロールに不織布を挟んで圧縮することにより形成することができる。このような凹凸模様が付された不織布を用いてなる異音防止シート(特に、該不織布が基材の背面に露出した構成の異音防止シート)は、より良好な異音防止性を示すものとなり得る。
【0059】
トルエン放散量やTVOC量が高度に低減された異音防止シートを実現するという観点からは、接着剤(バインダ等)を実質的に使用することなく製造された基材用不織布が好ましい。例えば、粘着剤層と同様の方法により測定されるトルエン放散量が、不織布10cm当たり0.13μg以下(典型的には、0〜0.1μg)である不織布が好ましい。また、粘着剤層と同様の方法により測定されるTVOC量が、不織布10cm当たり1.25μg以下(典型的には、0〜1μg)である不織布が好ましい。
【0060】
基材用不織布の強度としては、流れ方向(MD、縦方向)の引張強度が凡そ60N/50mm以上であることが好ましく、凡そ100N/50mm以上であることがより好ましい。また、幅方向(TD、横方向)の引張強度が凡そ30N/50mm以上であることが好ましく、凡そ50N/50mm以上であることがより好ましい。かかる強度の不織布を用いてなる異音防止シートは、取り扱い性および耐久性に優れたものとなり得る。
【0061】
ここに開示される技術における基材用不織布としては、難燃性が付与されたものを好ましく採用し得る。特に、車両における異音防止に用いられる異音防止シートでは、かかる難燃性不織布の使用が好ましい。不織布の難燃化手法は特に限定されず、従来公知の難燃性不織布を適宜選択して用いることができる。例えば、難燃剤が練り込まれた合成繊維を構成繊維として含む不織布(例えば、実質的に該合成繊維からなる不織布)、難燃剤による表面処理が施された不織布、等を好ましく採用し得る。難燃剤としては、一般的なリン系、塩素系、臭素系その他の難燃剤を、単独で、あるいは二種以上を組み合わせて用いることができる。ここに開示される異音防止シートの好ましい一態様では、基材を構成する不織布の難燃性のレベルがFMV SS No.302に合格するレベルである。
【0062】
基材用不織布として好ましく使用し得る不織布の市販品として、旭化成せんい株式会社の商品名「エルタス」シリーズ、日本バイリーン株式会社の不織布(特に、ポリプロピレンまたはナイロンを主構成繊維とするグレード)、等が例示される。
【0063】
ここに開示される異音防止シートの好ましい一態様では、該シートを構成する基材の第一面側(粘着剤層側)の表面に樹脂被膜が設けられている。典型的には、基材用不織布のの粘着剤層側表面に樹脂被膜が設けられている。かかる樹脂被膜を有する基材を用いることにより得られる効果につき、図3を用いて説明する。この図3は、図1に示す構成の異音防止シート10の一使用形態を示すものであって、該シート10を自動車の異音防止に適用した例である。異音防止シート10は、自動車を構成する一つの部材(第一部材)30に貼り付けて設置されている。自動車を構成する他の一つの部材(第二部材)32は、該シート10がなければエンジン振動等に伴って第一部材30に対し相対的に往復移動(図3中に両矢印参照)することで第一部材30と干渉し(典型的には、第一部材30と第二部材32とが接触および離隔を繰り返し、すなわち衝突を繰り返し)、これによりビビリ音等の異音を生じ得る部材である。この使用形態では、第一部材30の適切な位置(第二部材32と干渉する位置)に異音防止シート10が設置されているので、第二部材32と第一部材30との直接衝突を回避し、第二部材32の衝突を異音防止シート10の背面12Bで受け止めることができる。このことによって異音の発生を防止することができる。また、自動車ボディの撓みにより第二部材32が第一部材30に押し付けられることで異音を生じる場合にも、第一部材30の適切な位置に異音防止シート10を貼り付けることにより、第二部材32の押圧力を異音防止シート10で受け止めることができる。
【0064】
ここで、異音防止シート10の背面12Bで第二部材32の衝突または押し付けを受け止めると、該シート10が第一部材30との間で圧迫(圧縮)される。かかる圧迫が繰り返されると、不織布表面に粘着剤層が直接配置された構成の異音防止シートでは、使用状況(圧迫の強さ、頻度、使用期間等)によっては、粘着剤層を構成する粘着剤が上記圧迫により不織布の内部に浸透し、さらに基材の背面から染み出す事態が生じ得る。基材の背面に染み出した粘着剤が第二部材32に接触すると、新たな異音(ベタつき音、擦れ音等)の発生要因となり得る。また、基材背面に粘着剤が染み出すと、該背面の触感を損なったり(例えば、ベタつきによる不快感)、外観品質を低下させたり(埃の付着等)する虞がある。粗面接着性を重視して比較的柔らかい粘着剤を用いた態様では、かかる粘着剤の染み出しが特に起こりやすい。
【0065】
図1または図2に示すように、基材12の粘着剤層側表面12Aに樹脂被膜124が設けられた構成によると、この樹脂被膜124によって粘着剤143,144,243が不織布122に浸透することを阻止することができる。したがって、かかる構成の異音防止シートは、粘着剤が背面に染み出す事象が高度に防止されたものとなり得る。基材を構成する不織布の嵩密度が比較的低い(例えば凡そ0.5g/cm以下、典型的には凡そ0.1〜0.5g/cm)、該不織布の目付けが比較的小さい(例えば凡そ100g/m以下、典型的には凡そ40〜100g/m、特に40〜80g/m)、該不織布の厚みが比較的小さい(例えば凡そ0.5mm以下、典型的には0.2〜0.6mm)、のうち少なくとも一つの条件を満たす場合には、上記樹脂被膜のない構成では粘着剤の染み出しが起こりやすい。したがって、かかる不織布を用いてなる異音防止シートでは、上記樹脂被膜を設けることが特に有意義である。
【0066】
上記樹脂被膜を構成する樹脂材料は、成膜可能な樹脂材料(典型的には、熱可塑性樹脂を主成分とする樹脂材料)であれば特に限定されず、例えば、ポリオレフィン樹脂(ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂等)、エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂(EVA)、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリエステル樹脂等を主成分とする樹脂材料であり得る。樹脂被膜の形成が容易であり且つ環境負荷が少ないことから、上記樹脂材料としてポリエチレン樹脂を好ましく採用し得る。かかるポリエチレン樹脂としては、いわゆる低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)等のいずれも使用可能である。成膜容易性の観点からは、LDPEの使用が好ましい。このような樹脂材料をフィルム状に成形する方法としては、従来公知の押出成形法を好ましく採用することができる。例えば、Tダイを備える押出成形機を用いて、溶融状態の樹脂材料をダイス温度300℃以上の条件でTダイから押し出すことにより、該樹脂材料をフィルム状に成形することができる。
【0067】
基材用不織布の片面に樹脂被膜を設ける方法としては、フィルム状に成形された樹脂材料(樹脂フィルム)を不織布の表面に樹脂フィルムを熱溶着により接合する方法(押出ラミネート法)、該樹脂フィルムを不織布の表面に接着剤で接合する方法、溶融状態の樹脂材料を不織布の表面に直接付与する方法(溶融ラミネート法)、等を適宜採用することができる。トルエン放散量やTVOC量が高度に低減された異音防止シートを実現するという観点からは、接着剤を使用することなく設けられた樹脂被膜が好ましい。例えば、押出ラミネート法を好ましく採用することができる。樹脂フィルムと不織布との接合強度を高めるため、該接合に係るフィルム表面および不織布表面の一方または両方に、コロナ処理、プラズマ処理等の表面処理を施した上で両者を接合してもよい。このような表面処理は、樹脂フィルムの粘着剤層側表面にも適用することができ、これにより粘着剤層と基材との接合強度(粘着剤層の投錨性)を高めることができる。
【0068】
樹脂被膜の厚みは、例えば凡そ0.01mm〜0.1mm程度とすることができる。通常は、該樹脂被膜の厚みを凡そ0.03mm〜0.05mmとすることが好ましい。樹脂被膜の厚みが小さすぎると、使用状況によっては樹脂被膜が破れ、そこから粘着剤が不織布に浸透して背面への染み出しを生じることがあり得る。一方、樹脂被膜の厚みが大きすぎると、異音防止シートの厚みが大きくなって、該シートの設置箇所が制約されることがあり得る。また、異音防止シートの可撓性が低くなることから該シートの曲面接着性が低下しやすくなり、これにより異音防止シートの剥がれを生じることがあり得る。
【0069】
ここに開示される異音防止シートの好ましい一態様では、前記基材を構成する不織布の厚みT1と前記粘着剤層の厚みT2との比(T1/T2)が2〜5である。このように、不織布の厚みの割に厚い粘着剤層を備える異音防止シートは、粗面接着性に優れたものとなり得るので好ましい。なお、T1/T2が上記範囲にある異音防止シートは、不織布の表面に直接粘着剤層が配置された構成では基材(不織布)の背面に粘着剤が染み出しやすい。したがって、かかる異音防止シートでは、基材の第一面側表面に樹脂被膜が設けられた構成を採用することが特に有意義である。
【0070】
ここに開示される異音防止シートに具備される粘着剤層は、支持体の両面に粘着剤を有する両面粘着シートの形態であり得る(図1参照)。かかる形態の粘着剤層を有する異音防止シートは、粘着剤層の厚みを比較的大きくしても、上記支持体により粘着剤の移動を抑えることができるので、基材背面から粘着剤が染み出す事象が生じにくい。このように粘着剤層の厚みを大きくすることは、粗面接着性を向上させる上で有利である。また、基材とは独立に作製した両面粘着シートを該基材の第一面側表面に貼り合わせることにより基材上に粘着剤層を設けることができるので、異音防止シートの生産性がよく好ましい。
【0071】
上記支持体としては、基材用不織布と同様の繊維により構成された不織布(粘着剤層用不織布)、織布、プラスチックフィルム(例えばポリエステル系樹脂フィルム)、等のいずれも使用可能である。天然繊維により構成された不織布が好ましい。例えば、一般的な抄紙機を用いて作製されるような不織布(いわゆる「紙」と称されることもある。)を好ましく採用し得る。上記粘着剤層用不織布の厚みは、例えば凡そ20μm〜100μm程度であることが好ましい。坪量が凡そ10〜25g/mの範囲にある不織布を好ましく使用することができる。また、不織布の嵩密度は凡そ0.25g/cm3〜0.5g/cm3の範囲にあることが好ましい。
【0072】
かかる支持体を備える両面粘着シートは、例えば、(1)剥離性表面を有するシート材(剥離ライナー)に粘着剤組成物を塗布して乾燥させることにより該剥離ライナー上に膜状の粘着剤を形成し、該粘着剤を支持体に貼り合わせて転写(積層)する方法(以下、「転写法」ともいう。);および、(2)粘着剤組成物を支持体に直接塗布して乾燥させる方法(以下、「直接塗布法」または「直接法」ともいう。);から選択されるいずれかの方法を、該支持体の一方の面および他方の面のそれぞれに適用することにより作製され得る。例えば、支持体の両面に転写法を適用して両面粘着シートを作製してもよく、あるいは支持体の一方の面には転写法を適用し、他方の面には直接塗布法を適用して両面粘着シートを作製してもよい。かかる両面粘着シートの一方の粘着面を基材に貼り付けることにより、基材の第一面側に粘着剤層が設けられる。
【0073】
粘着剤組成物の塗布は、例えば、グラビアロールコーター、リバースロールコーター、キスロールコーター、ディップロールコーター、バーコーター、ナイフコーター、スプレーコーター等の慣用のコーターを用いて行うことができる。残留モノマー等の揮発分の除去効率向上や、架橋反応促進等の観点から、該組成物の乾燥は加熱下で行うことが好ましい。特に限定するものではないが、例えば凡そ40℃〜140℃(好ましくは60℃〜120℃)程度の乾燥温度を採用することができる。乾燥時間は例えば凡そ1分〜5分程度とすることができる。乾燥後の粘着剤層を適当な条件で(例えば、40℃以上(典型的には40℃〜70℃)の環境下で)熟成(養生)することにより、さらに架橋反応を進行させることができる。
【0074】
特に限定するものではないが、上記両面粘着シートに具備される粘着剤膜の厚みは、支持体の片面当たり、例えば凡そ20μm〜150μm(好ましくは凡そ40μm〜100μm)であり得る。また、支持体と粘着剤とを含む両面粘着シート全体の厚みは、例えば凡50μm〜400μm(典型的には100μm〜200μm)程度であり得る。この厚みが小さすぎると、粘着性能(粗面接着性等)が低下傾向となることがある。一方、両面粘着シートの厚みが大きすぎると、異音防止シート全体の厚みが大きくなって設置箇所が制限されることがあり得る。
【0075】
ここに開示される異音防止シートは、例えば図2に示すように、支持体を含まない形態の粘着剤層を有する構成であり得る。かかる構成の異音防止シートにおいて基材上に粘着剤層を設ける方法としては、例えば、粘着剤組成物を剥離ライナー塗布して乾燥させることにより該剥離ライナー上に膜状の粘着剤を形成し、該粘着剤を基材の第一面側表面に貼り合わせて転写する方法を好ましく採用することができる。
【0076】
ここに開示される異音防止シートは、該異音防止シート全体の厚みが凡そ150μm〜2mm程度(より好ましくは凡そ300μm〜1mm程度)であることが好ましい。この厚みが小さすぎると、粘着性能および異音防止性能の一方または両方が低くなりがちである。一方、異音防止シートの厚みが大きすぎると、該シートの設置箇所が制約されることがあり得る。
【0077】
ここに開示される異音防止シートは、後述する実施例に記載の方法で測定される対不織布粘着力(180°引き剥がし粘着力)が凡そ4N/20mm以上のものであり得る。より好ましい一態様では上記粘着力が凡そ5N/20mm以上であり、さらに好ましくは凡そ5.5N/20mm以上である。ここに開示される異音防止シートは、また、ジグラー(ZIEGLER)社製のスティック&スリップ測定装置を用いて後述する実施例に記載の方法で測定されるスティックスリップ試験において、相手材がPP(ポリプロピレン板)である場合、5N、10Nおよび40Nの各荷重で、1mm/秒、4mm/秒および10mm/秒の各摺動速度のいずれにおいても異音レベルが3以下であることが好ましい。また、後述する実施例に記載の方法で行われる粘着剤染み出し試験において、背面への染み出しが認められない異音防止シートであることが好ましい。
【0078】
ここに開示される異音防止シートは、該シートを80℃で30分間加熱したときのトルエン放散量が、該異音防止シート1cm当たり凡そ0.25μg以下のものであり得る。ここで、異音防止シートの面積当たりのトルエン放散量[μg/cm]は、異音防止シートを所定サイズ(例えば、面積5cm)に切り取った試料を用い、上述した粘着剤層1g当たりのトルエン放散量測定方法と同様にして該試料から発生したトルエンの量を測定し、その測定結果を異音防止シートの面積当たりの値に換算することにより求めることができる。好ましい一態様では、異音防止シートを構成する粘着剤層の面積1cm当たりのトルエン放散量が凡そ0.25μg以下である。
【0079】
ここに開示される異音防止シートは、また、該シートを80℃で30分間加熱したときのTVOC量が、該異音防止シート1cm当たり凡そ1.9μg以下のものであり得る。ここで、異音防止シートの面積当たりのTVOC量[μg/cm]は、異音防止シートを所定サイズ(例えば、面積5cm)に切り取った試料を用い、上述した粘着剤層1g当たりのTVOC測定方法と同様にして該試料から発生したTVOC量を測定し、その測定結果を異音防止シートの面積当たりの値に換算することにより求めることができる。好ましい一態様では、異音防止シートを構成する粘着剤層の面積1cm当たりのTVOC量が凡そ1.9μg以下である。
【0080】
以下、本発明に関するいくつかの実施例を説明するが、本発明をかかる実施例に示すものに限定することを意図したものではない。なお、以下の説明において「部」および「%」は、特に断りがない限り質量基準である。
【0081】
<例1>
冷却管、窒素導入管、温度計および攪拌機を備えた反応容器に、2,2’−アゾビス[N−(2−カルボキシエチル)−2−メチルプロピオンアミジン]ハイドレート(重合開始剤)(和光純薬工業株式会社から入手可能な商品名「VA−057」を使用した。)0.1部およびイオン交換水35部を投入し、窒素ガスを導入しながら1時間攪拌して60℃に昇温した。該重合温度(ここでは60℃)を維持しつつ、ここにブチルアクリレート70部、2−エチルヘキシルアクリレート30部、アクリル酸3部、3―メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業株式会社製、商品名「KBM−503」)0.03部、ドデカンチオール(連鎖移動剤)0.05部およびポリオキシエチレンアルキル硫酸ナトリウム(花王株式会社製の乳化剤、商品名「ラテムルE−118B」)2部をイオン交換水40部に添加して乳化したもの(すなわち、モノマー原料のエマルション)を4時間かけて徐々に滴下して乳化重合反応を進行させた。モノマー原料エマルションの滴下終了後、さらに2時間同温度(ここでは60℃)に保持して熟成した。熟成終了後、アスコルビン酸0.1部および35%過酸化水素水0.1部を添加して、系を常温まで冷却した。このようにしてアクリル系ポリマーを含む反応混合物を得た。
【0082】
上記反応混合物(アクリル系ポリマーエマルション)に10%アンモニア水を添加してpHを7に調整した。このアクリル系ポリマーエマルションに対し、該エマルションに含まれるアクリル系ポリマー100部当たり30部(固形分基準)の割合で粘着付与樹脂エマルションを添加して、水性エマルション形態のアクリル系粘着剤組成物(粘着剤組成物P1)を調製した。上記粘着付与樹脂エマルションとしては、荒川化学株式会社製の商品名「タマノルE−200−NT」(重合ロジン系樹脂(軟化点150℃)の水性エマルション)を使用した。なお、「タマノルE−200−NT」は、脂環式炭化水素系有機溶剤(すなわち、非芳香族炭化水素系有機溶剤)を用いて製造された粘着付与樹脂エマルションである。
【0083】
上質紙をシリコーン系剥離剤で処理してなる剥離ライナーに上記粘着剤組成物を塗布した。これを100℃で2分間乾燥することにより、該剥離ライナー上に厚さ60μmの粘着剤層を形成した。この粘着剤層を、支持体としての不織布(大福製紙株式会社製、商品名「SP−14K 加工紙」)の両面に貼り合わせて、両面粘着シートを作製した。
【0084】
東ソー株式会社製のLDPE(商品名「ペトロセン203」)を、端部310℃、中央部350℃のダイス温度で、厚み0.035mm、幅980mmのフィルム状にTダイから押し出した。旭化成せんい株式会社製の難燃不織布、商品名「エルタス N03050」(厚み0.3mm、繊維材質ナイロン、目付け量50g/m、嵩密度0.17g/cm)の片面に、上記フィルムを熱圧着して、該フィルムと不織布とを一体化させた(押出ラミネート法)。このようにして、不織布の片面にLDPEフィルムがラミネートされた基材を作製した。なお、本例において基材の構成要素として使用した不織布は、例えばスパンボンド法を用いて、接着剤を使用することなく製造された不織布である。
【0085】
上記基材のLDPEフィルム面に、上記両面粘着シートの一方の粘着面を貼り合わせることにより、該基材の第一面側に粘着剤層を形成した。このようにして、例1に係る異音防止シートを作製した。
【0086】
<例2>
本例では、基材用の不織布として、旭化成せんい株式会社製の難燃不織布、商品名「エルタス N03100」(厚み0.5mm、繊維材質ナイロン、目付け量100g/m嵩密度0.20g/cm)を使用した。その他の点については例1と同様にして、不織布の片面にLDPEフィルムがラミネートされた基材を作製した。この基材に例1と同じ両面粘着シートを貼り合わせて、例2に係る異音防止シートを作製した。
【0087】
<例3>
本例では、上記LDPEを押し出してなるフィルムの厚みを、例1における0.035mmから0.05mmに変更した。その他の点については例1と同様にして、不織布の片面にLDPEフィルムがラミネートされた基材を作製した。この基材に例1と同じ両面粘着シートを貼り合わせて、例3に係る異音防止シートを作製した。
【0088】
<例4>
本例では、上記LDPEを押し出してなるフィルムの厚みを、例1における0.035mmから0.025mmに変更した。その他の点については例1と同様にして、不織布の片面にLDPEフィルムがラミネートされた基材を作製した。この基材に例1と同じ両面粘着シートを貼り合わせて、例4に係る異音防止シートを作製した。
【0089】
<例5>
本例では、基材として、例1で用いたものと同じ難燃不織布をそのまま(したがって、LDPEフィルム等の合成樹脂被膜を設けることなく)使用した。すなわち、上記不織布の片面に、例1と同様に作製した両面粘着シートの一方の粘着面を貼り合わせた。このようにして、例5に係る異音防止シートを作製した。この異音防止シートは、不織布の片面に粘着剤層が直接設けられた構成を有する。
【0090】
<例6>
本例では、例1で用いた粘着剤組成物に代えて、該組成物から粘着付与樹脂エマルションを除いた組成のアクリル系粘着剤組成物(粘着剤組成物P2)を使用した。この粘着剤組成物を用いた点以外は、例1と同様にして両面粘着シートを作製した。この両面粘着シートの一方の粘着面を、例1と同じ基材のLDPE面に貼り合わせて、例6に係る異音防止シートを作製した。
【0091】
<性能評価>
[対不織布粘着力]
ステンレス板の表面に、旭化成せんい株式会社製の難燃不織布、商品名「エルタス N03050」を貼り付けて、対不織布粘着力測定用の被着体を作製した。上記貼り付けは、日東電工株式会社製の両面接着テープ(グレード名「No.500」)を用いて、上記不織布をステンレス板表面にハンドローラーで圧着することにより行った。
【0092】
両面粘着シートの一方の粘着面を覆う剥離ライナーを剥がし、厚さ25μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムを貼り付けて裏打ちした。この裏打ちされた粘着シートを幅20mm、長さ100mmのサイズにカットしたものを測定用サンプルとした。上記サンプルの他方の粘着面から剥離ライナーを剥がし、上記被着体の不織布側表面に、2kgのローラを1往復させる方法で圧着した。これを23℃に30分間保持した後、引張試験機を用い、JIS Z 0237に準拠して、温度23℃、RH50%の測定環境にて引張速度300mm/分の条件で、上記不織布に対する180°引き剥がし粘着力を測定した。
【0093】
[スティックスリップ試験(対PP)]
ジグラー社製のスティック&スリップ測定装置を用いて、以下の条件により異音レベルを測定した。
相手材:ポリプロピレン板
荷重:5N、10N、40N
摺動速度:1mm/秒、4mm/秒、10mm/秒
【0094】
日東電工株式会社製の両面接着テープ(グレード名「No.5000NS」)を用いて、厚み1.0mmのステンレス板上に厚み2.0mmのポリプロピレン板(プライムポリマー社製のPP板、グレード名「J830HV」)を貼り付けた。このPP板付きステンレス板を、PP板側が測定面側となる向きで、上記測定装置の治具に固定した。各例に係る異音防止シートを幅50mm×40mmの短冊状にカットしてサンプルを作製し、三角柱形状の可動部の一稜線(相手材に擦りあわされる稜線)に上記サンプルの幅中心を合わせるようにして、該サンプルを可動部に貼り付けた。そして、相手材の使用箇所を変えながら、上記の各荷重と速度の組み合わせにつき夫々3回づつ可動部を摺動させ、このときの異音レベルを上記可動部に設けられた加速度センサで数値化した。なお、ドイツ自動車工業会の基準によれば、上記異音レベルが3以下なら合格、4以上なら不合格である。
【0095】
各例に係る異音防止シートの概略構成と、上述した方法により測定したトルエン放散量およびTVOC量、ならびに対不織布粘着力および対PPスティックスリップ試験の結果を表1に示す。また、各測定条件(荷重と摺動速度との組み合わせ)においてスティックスリップ試験を行った後のサンプル表面を指で軽く押さえ、粘着剤の染み出しの有無を官能評価した。その結果を、全ての測定条件においてベタつきが認められなかった場合には粘着剤の染み出し「無」、一つ以上の測定条件においてベタつきが認められた場合には粘着剤の染み出し「有」として、表1に合わせて示す。
【0096】
【表1】

【0097】
この表に示されるように、粘着付与樹脂を含まないアクリル系粘着剤組成物P2から形成された粘着剤層を備える例6の異音防止シートによると、トルエン放散量20μg/g以下およびTVOC量150μg/gは達成できるものの、粗面接着性の一つの目安である対不織布粘着力が低いことからもわかるように、粘着性能が不十分であった。このため、スティックスリップ試験において荷重10N且つ摺動速度4mm/s以上の厳しい条件になると、可動部から異音防止シートが剥がれてしまい、有意な測定結果を得ることができなかった(表1中ではマイナス(−)で表している)。
【0098】
これに対して、例1〜5に係る異音防止シートによると、トルエン放散量20μg/g以下およびTVOC量150μg/gを満足しつつ、対不織布粘着力5N/20mm以上の粘着性能が実現された。特に、樹脂被膜の厚みが0.035mm以上である例1〜3の異音防止シートは、対不織布粘着力5.5N/20mm以上という優れた粗面接着性を示すことが確認された。なお、例1〜5に係る異音防止シートは、PPを相手材とするスティックスリップ試験において、ここで評価した全ての条件で異音レベルが3以下という、良好な異音防止性能を示した。基材の粘着剤層側表面に樹脂被膜が設けられた例1〜4に係る異音防止シートでは、該樹脂被膜を有しない例5の異音防止シートに比べて、異音防止性能(特に、強荷重条件における異音防止性能)がより高くなる傾向がみられた。また、樹脂被膜の厚みが0.035mm以上である例1〜3の異音防止シートは、いずれも粘着剤の染み出し防止性に優れることが確認された。
【0099】
例1〜6に係る異音防止シートにつき、さらに以下の性能評価を行った。
[スティックスリップ試験(対ABS、TPE)]
相手材として、PP板に代えて厚み2.0mmのABS板(東レ社製、グレード名「トヨラック40Y」)または厚み2.0mmの熱可塑性エラストマー板(三菱化学社製のTPE板、グレード名「サーモラン3555B/N」)を使用して、上記と同様の各荷重および摺動速度の組み合わせにつき異音レベルを評価した。また、スティックスリップ試験後のサンプルについて、上記と同様にして粘着剤の染み出しの有無を評価した。それらの結果を表2,3に示す。
【0100】
【表2】

【0101】
【表3】

【0102】
これらの表に示されるように、基材の粘着剤層側表面に樹脂被膜が設けられた例1〜4に係る異音防止シートは、ABSおよびTPEのいずれを相手材とするスティックスリップ試験においても、ここで評価した全ての条件で異音レベルが3以下という、良好な異音防止性能を示した。また、樹脂被膜の厚みが0.035mm以上である例1〜3の異音防止シートは、いずれも粘着剤の染み出し防止性に優れることが確認された。
【0103】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、請求の範囲を限定するものではない。請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0104】
ここに開示される異音防止シートは、粘着性能(例えば粗面接着性)に優れ且つトルエン放散量が極めて低く抑えられていることから、車両、家電、OA機器等における異音の発生防止に好ましく用いることができる。特に、車両の室内空間または該室内空間に連通する空間に面する箇所に前記粘着剤層を貼り付けて用いられる異音防止シート(例えば、車両内装材に貼り付けて用いられる異音防止シート)として好適である。
【符号の説明】
【0105】
10,20 異音防止シート
12 基材
122 不織布(基材用不織布)
124 樹脂被膜
14,24 粘着剤層
14A 表面(粘着面)
142 支持体
143,144,243 粘着剤
16 剥離ライナー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
不織布を備えた基材と、該基材の第一面側に設けられた粘着剤層と、を有する異音防止シートであって、
前記粘着剤層を構成する粘着剤は、ベースポリマーとしてのアクリル系ポリマーと、粘着付与樹脂とを含み、
前記粘着剤層を80℃で30分間加熱したときのトルエン放散量が、該粘着剤層1g当たり20μg以下である、異音防止シート。
【請求項2】
不織布に対する180°引き剥がし粘着力が4N/20mm以上である、請求項1に記載の異音防止シート。
【請求項3】
前記基材の第二面側表面は前記不織布が露出した面となっており、且つ、VDA230−206に準拠した手法にてスティックスリップ試験を行った場合において前記第二面側表面への粘着剤の染み出しが認められないことを特徴とする、請求項1または2に記載の異音防止シート。
【請求項4】
前記基材の前記第一面側表面に樹脂被膜が設けられている、請求項1から3のいずれか一項に記載の異音防止シート。
【請求項5】
前記基材を構成する不織布の嵩密度が0.1〜0.5g/cmである、請求項1から4のいずれか一項に記載の異音防止シート。
【請求項6】
前記粘着剤層は、支持体の両面に粘着剤を有する両面粘着シートとして構成されている、請求項1から5のいずれか一項に記載の異音防止シート。
【請求項7】
車両の室内空間または該室内空間に連通する空間に面する箇所に前記粘着剤層を貼り付けて用いられる、請求項1から6のいずれか一項に記載の異音防止シート。
【請求項8】
ジグラー(ZIEGLER)社製スティック&スリップ測定装置を使用し、相手材にポリプロピレン板を用いて測定される異音レベルが、以下の全ての測定条件において3以下であることを特徴とする、請求項1から7のいずれか一項に記載の異音防止シート。
測定条件
荷重:5N、10N、40N
摺動速度:1mm/秒、4mm/秒、10mm/秒
【請求項9】
前記アクリル系ポリマーは、エマルション重合により合成されたアクリル系ポリマーである、請求項1から8のいずれか一項に記載の異音防止シート。
【請求項10】
前記粘着剤は、前記アクリル系ポリマーの水性エマルションと、前記粘着付与樹脂の水性エマルションとを混合して調製された粘着剤組成物から形成されたものである、請求項1から9のいずれか一項に記載の異音防止シート。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2011−1399(P2011−1399A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−143341(P2009−143341)
【出願日】平成21年6月16日(2009.6.16)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】