説明

疎水性パターンを有する射出品の射出成形方法及び装置

【課題】疎水性パターンを有する製品を多量生産できながらも、疎水性パターンを所定の製品に明確に形成させることができる、疎水性パターンを有する射出品の成形方法及び装置を提供する。
【解決手段】この方法は、疎水性パターンを有するスタンパーが装着されている金型を加熱する段階と、該金型を移動させて金型の内部を密閉する段階と、前記金型の内部に所定の樹脂材料を注入する段階と、該金型を冷却した後、前記金型を分離する段階と、を含む構成とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、疎水性パターンを有する射出品の射出成形方法及び装置に係り、特に、疎水性の表面を有する製品の多量生産を可能にする射出成形方法及び装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、ある物質の表面への液体のぬれ性(wettability)は、表面の接触角(contact angle)を測定することによって測定することができる。
【0003】
ぬれ性とは、固体の表面と液体間の相互作用(固体面への液体の吸着)で、付着力(固体と液体間の付着力(adhesion))及び凝集力(液体分子間の結合力(cohesion))の相互競争状態をいう。
【0004】
液体分子間の凝集力が固体と液体間の付着力よりも大きいとぬれ性が低く、液体間の凝集力が固体と液体間の付着力よりも小さいとぬれ性が高い。
【0005】
液体が水である場合、表面のぬれ性が高いと親水性(hydrophilic)表面といい、ぬれ性が低いと疎水性(hydrophobic)表面という。主に、接触角90°以上の表面を疎水性表面といい、接触角150°以上の表面を超疎水性(superhydrophobic)表面という。
【0006】
このような表面の疎水性は、主に、表面自体の化学的性質と、表面上に存在するマイクロ/ナノサイズの構造物の表面によって決定される。
【0007】
このような疎水性の表面を有する材料は、セルフクリーニング(self-cleaning)、アンチ−フォギング(anti-fogging)、流体による摩擦減少などの効果に優れており、このような効果が要求される産業分野に広く用いられている。
【0008】
1997年W.BarthlottとC.Neinhuisにより、自然界に生息して植物の葉のうち、超疎水性の特性を持つ植物の葉の種類、それらの植物の葉が持つ様々な表面の形状、及びその形状により発生する各種現象が報告されており、これを模倣して、最近では、表面の構造的な特性を変化させることによって上記の植物の葉のような疎水性の表面を製作しようとする多くの技術が紹介されており、このような技術をバイオミメティックス(Biomimetics)という。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところが、このような疎水性の表面を製造するための既存の技術の大部分が、複雑な化学工程を用いて表面のパターンを変えたり、物質自体の表面エネルギーを変化させたりして疎水性の表面を得ている。
【0010】
化学的な方法に依存する方式は、面倒な種々の工程を経たり、人体に有害な化学物質を扱わなければならないという危険性がある。
【0011】
また、この種の方法は、工程自体のコストが高く、長時間がかかることがあり、しかも、製作された表面を大気に露出するとホコリに汚されて疎水性を喪失する場合もあった。
【0012】
一方、化学的方法の他に、ホットスタンピング(hot stamping)方法やキャスティング(casting)方法で製品の表面に疎水性パターンを形成させる方法もあるが、これらの方法も、時間及びコストの面で不利であるという問題点があった。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は上記問題点を解決するためのもので、その目的は、疎水性パターンを有する製品の生産を迅速にさせるととともに、該パターンを製品に正確に形成させることができる、疎水性パターンを有する射出品の成形方法及び装置を提供することにある。
【0014】
上記技術的課題を解決するための本発明は、複数個の金型のうち、疎水性パターンを有するスタンパーが装着されている金型を加熱する段階と、前記スタンパーの装着されている金型と他の金型とを密着させてこれら金型の間を密閉させる段階と、これら金型の間に所定の樹脂材料を注入する段階と、これら金型を冷却した後、これら金型を分離する段階と、を含む、疎水性パターンを有する射出品の射出成形方法を提供する。
【0015】
前記疎水性パターンは、表面接触角が150゜以上180゜未満の超疎水性パターンとすることを特徴とする。
【0016】
また、前記金型を加熱する段階は、前記金型の内部に設けられたヒーターの発熱によって前記金型の表面温度を所定の設定温度とすることを特徴とする。
【0017】
前記設定温度は、120℃と注入される樹脂の溶融温度の範囲であることを特徴とする。
【0018】
前記設定温度は、120℃以上180℃以下の範囲であることを特徴とする。
【0019】
また、前記金型の密閉段階は、前記金型の表面温度が前記所定の設定温度に到達した後に行われることを特徴とする。
【0020】
前記金型の冷却段階は、樹脂材料が注入された直後から行われることを特徴とする。
【0021】
また、前記金型の冷却段階で、前記金型の冷却は、前記金型と接触可能に設けられる冷却金型と前記金型との接触によって行われることを特徴とする。
【0022】
また、本発明に係る射出成形装置は、キャビティが形成される金型と、前記キャビティの内部に配置され、疎水性パターンを有するスタンパーと、前記金型の温度を調節する温度調節装置と、を含むことを特徴とする。
【0023】
前記スタンパーの疎水性パターンは、150゜以上180゜以下の液体の表面接触角を有するように形成されることを特徴とする。
【0024】
前記温度調節装置は、前記金型の内部に配置されるヒーターと、前記金型と接触可能に配置されて、前記金型を冷却させる冷却金型と、前記冷却金型を駆動させる冷却金型駆動部と、を含むことを特徴とする。
【0025】
また、前記ヒーターは、金型の表面温度が金型に注入される樹脂の溶融温度に到達するまで前記金型を加熱させることを特徴とする。
【0026】
また、前記金型は、前記キャビティを備える第1金型部と、前記第1金型部と選択的に接触するように設けられる第2金型部と、を含み、前記冷却金型は、前記第2金型部に収容されるように設けられ、前記第2金型部の内部で移動可能に設けられることを特徴とする。
【0027】
また、前記射出成形装置は、磁力によって前記冷却金型と前記第2金型部とが接離するように、前記第2金型部に設置される第1磁石部及び前記冷却金型に設置される第2磁石部と、前記冷却金型の移動をガイドするように前記第2金型部の内部に設けられるガイド部材と、をさらに含むことを特徴とする。
【0028】
また、前記第1磁石部及び第2磁石部のうちいずれか一方は電磁石で構成され、いずれか他方は永久磁石で構成されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0029】
本発明によると、疎水性または超疎水性パターンを有する射出品を迅速に大量生産することができ、その結果、射出品の成形において経済性及び生産性を向上させることが可能になる。
【0030】
また、金型を高温に加熱できる一方で、瞬間的な冷却が可能なため、射出品に形成される疎水性パターンのパターニングが円滑になり、製品の信頼度を向上させることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】(a)〜(d)にいろいろな表面接触角による液滴の形態を示す概略図である。
【図2】(a)〜(f)に本発明による疎水性パターンを有するスタンパーの製作過程を示す概略図である。
【図3】本発明による射出成形装置及び該射出成形装置を用いるステップを示す側面図である。
【図4】本発明による射出成形装置及び該射出成形装置を用いるステップを示す側面図である。
【図5】本発明による射出成形装置及び該射出成形装置を用いるステップを示す側面図である。
【図6】本発明による射出成形装置及び該射出成形装置を用いるステップを示す側面図である。
【図7】本発明による射出成形方法を示すフローチャートである。
【図8】本発明に係る、疎水性パターンを有する自然物、スタンパー、及び射出成形品の表面をそれぞれ拡大した写真である。
【図9】従来技術の一般金型によって転写されたパターンを有する射出物の表面の写真である。
【図10】本発明の高温金型によって転写されたパターンを有する射出物の表面の写真である。
【図11】金型の温度及び保圧の変化による表面接触角の変化を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、添付の図面を参照しつつ、本発明の実施例について詳細に説明する。
【0033】
図1は、固体の表面に付着される液滴の表面接触角による液滴の形態を示す図である。
【0034】
表面接触角とは、液体が固体の表面で力学的にバランスする時、固体の表面と、固体の表面に当たる液体の部分に対応する接線との角度をいう。
【0035】
図1a乃至図1dに示すように、表面接触角は、液体−固体−気体の接合点で、水玉曲線の終点と固体表面との接触点で測定される。したがって、表面接触角θは、図1aでは0゜に近接し、図1bでは、0〜90゜の範囲とされ、図1cでは、90゜〜180゜の範囲とされる。
【0036】
そして、図1dでは、表面接触角が180゜となる。
【0037】
上述した通り、表面接触角が90゜以上であると疎水性になり、150゜以上であると超疎水性の特性を示す。このように、表面接触角が大きくなるほど固体と液体との接触面積が減少して液体の付着力が低下し、液体が固体の表面を自由に移動するようになる。
【0038】
図2は、自然物に形成された疎水性パターンが形成されるスタンパーを製作する過程を示す図で、ここで、自然物を蓮の葉としたが、これに限定するものではなく、竹葉、モミジの葉、チューリップの葉、稲等を使用することもできる。
【0039】
特に、蓮の葉は、葉の表面に超疎水性パターンが形成されているため、液体が葉に存在する場合、その表面接触角が150°以上となって、液滴が葉の表面に付着されずに流れ落ちるという特性がある。
【0040】
したがって、疎水性または超疎水性パターンを有する自然物のうち、入手しやすい蓮の葉を選択し、疎水性または超疎水性パターンを形成するわけである。
【0041】
このような自然物を用いる、疎水性パターンを有するスタンパーの製作工程について具体的に説明すると、下記の通りである。
【0042】
まず、図2aに示す基板Aの上面に、図2bに示すように第1導電層Bを形成する。本実施例で、第1導電層Bは、電気伝導性物質を基板に蒸着(deposition)して形成し、電気伝導性物質には、クロム、金、または銀を使用することが好ましい。
【0043】
そして、基板Aは、シリコンウエハーのようなシリコン基板とすることが好ましい。
【0044】
図2cに示すように、基板Aに蒸着された第1導電層Bの上面に、所定の疎水性パターンを有する蓮の葉Cを接着剤Dを用いて付着する。ここで、接着剤Dは、エポキシ系のバインダーとすることが好ましい。
【0045】
蓮の葉のように自然物は電気伝導性がないため、図2dに示すように、蓮の葉Cの上面と第1導電層Bの上面に、第2導電層Eを形成する。本実施例で、第2導電層Eは、金イオンコーティング工程によって生成され、第2導電層Eの厚さは、疎水性パターンの形状を正確に具現するとともに、後述するメッキ工程が円滑に実施されうるような程度の厚さにしなければならない。
【0046】
図2eに示すように、この状態で、第2導電層Eの上面及び疎水性パターンを有する蓮の葉Cに電気メッキ工程を行って全体的に金属メッキ層Fを形成させ、ここで使われるメッキ用金属は、ニッケル、銅、銀、金、亜鉛などを含むが、これに限定されない。
【0047】
メッキ工程が完了し、金属メッキ層Fが完全に形成された場合は、ストリッピング(stripping)過程を行って、金属メッキ層Fから基板A、第1及び第2メッキ層B,E及び疎水性パターンを有する蓮の葉Cを除去することで、図2fのような所定の疎水性パターンの逆パターンが形成された金属スタンパー500を完成する。
【0048】
以下では、上述の疎水性パターンを有するスタンパーを用いて、疎水性パターンを有する射出品を射出成形する装置及び該射出成形装置を使用する射出品の生産過程について説明する。
【0049】
図3に示すように、本発明による射出金型を含む射出成形装置の構成は、次の通りである。
【0050】
まず、本発明による射出金型は、第1金型部10と第2金型部20とで構成され、第1金型部10の内部には、溶融樹脂が流入する空間を形成するキャビティ11が形成される。
【0051】
ここで、第1金型部10の内部には、射出成形時に樹脂が凝固することを防止するための第1ヒーター13のような加熱装置、及び冷却水の流れる冷却水流路12が設けられると好ましい。
【0052】
第2金型部20は、内部に、第2金型部20の温度を上げる第2ヒーター22が設けられており、第2ヒーター22の後方には、第2金型部20を冷却させるための冷却金型30が設けられる。
【0053】
冷却金型30は、第2金型部20の内部に設けられる別の収容部25に移動可能に配置され、収容部25の内部には、冷却金型30の移動を案内するガイド部材40が設けられる。
【0054】
冷却金型30及び第2金型部20には、それぞれ、電磁石35及び永久磁石59が配置される。このように電磁石35及び永久磁石59を配置し、電磁石35に一定の電流をかけると、電磁石35と永久磁石59間に引力または斥力が発生する。引力が発生すると、冷却金型30と第2金型部20とが接して、第2金型部20が冷却される。
【0055】
冷却金型30の内部には冷却水の流れる冷却水流路33が設けられ、第2金型部20の冷却が必要な場合、冷却水流路33に冷却水を流し込むと、第2金型部20及びスタンパー500の温度が急速に下がる。
【0056】
これによって第1及び第2金型部10,20内に充填されている樹脂が凝固して成形物となり、該成形物には、スタンパー500に形成されている疎水性パターンの逆パターンが形成される。この逆パターンは、本来の蓮の葉やその他自然物に形成されている疎水性パターンと実質的に同じパターンとされる。
【0057】
一方、第1金型部10の一側には第1金型部10を支持する第1金型支持ブロック58が設けられ、第1金型支持ブロック58と一定間隔離隔した部分には、第2金型部20を支持する第2金型支持ブロック60が設けられる。
【0058】
第2金型部30の後方には、第2金型支持ブロック60から突出して、第2金型部20を第1金型部10に移動させたり第1金型部10から離隔させる金型移動部38が設けられる。
【0059】
第1金型支持ブロック58の一側には、溶溶樹脂を第1金型部10の方向に移動させる樹脂供給装置80が設けられ、樹脂供給装置の上部には、溶融樹脂が収容されるホッパー70が設けられる。
【0060】
ここで、ホッパー70の出口から第1金型部10までに溶融樹脂を案内するように、樹脂供給装置80、第1金型支持ブロック60及び第1金型部10を貫通する樹脂流路82が設けられ、図示してはいないが、樹脂流路82には、溶融樹脂を第1金型部10に迅速に移動させるようにスクリュー83を配置することが好ましい。
【0061】
そして、第1及び第2金型支持ブロック58,60及び樹脂供給装置80の下部には、これらを支持するベースブロック84が設けられる。
【0062】
一方、第2金型部20の一側には、疎水性パターン510を有するスタンパー500が設けられ、第2金型部20の一面には、該スタンパーを取り付けるためのスタンパー付着部20aが設けられる。
【0063】
ただし、図面では、明確な図示のために、疎水性パターン510を拡大して示すが、事実には肉眼では識別されない。
【0064】
スタンパー付着部20aには、スタンパーを固定するためのホルダー(図示せず)またはジグ(図示せず)等のような固定装置を設けることで、射出成形において、スタンパー500と溶融樹脂との接触時に両方の位置が変化することを防止することが好ましい。
【0065】
スタンパー500は、主にニッケルなどの金属材料からなるため、射出成形に用いられる溶融樹脂に比べて表面温度が顕著に低いのが一般的である。
【0066】
したがって、相対的に低い温度のスタンパー500と高温の溶融樹脂とが接触する場合に、疎水性パターン510が成形物に完全にパターニングされるも前に硬くなる問題点があり、よって、スタンパー500及び金型を、樹脂を構成する重合体の溶融温度付近で維持しなければならない。
【0067】
したがって、液状状態の樹脂がスタンパー500と接触することで、該樹脂によって形成される射出物に、スタンパーに形成されている微細パターンと同じパターンが正確に形成されるためには、樹脂の液状状態が所定時間維持されなければならず、このため、この所定時間の間にスタンパーの表面温度も樹脂の溶融温度とされなければならない。
【0068】
一方、射出成形装置のベースブロック84の部分には温度制御装置85が設けられる。
【0069】
特に、第2金型部20に設けられた冷却金型30及び第2ヒーター22は、スタンパー500の急速加熱及び急速冷却を行うことが主な目的であり、よって、温度制御装置85の主な役目も、スタンパー500の表面の急速温度調節となる。
【0070】
本発明の第1実施例によって、疎水性パターン510を有するスタンパー500を用いて射出成形を行う場合について説明する。
【0071】
図3及び図7に示すように、まず、疎水性パターン510を有するスタンパー500を、第2金型部20のスタンパー付着部20aに固着させる(図7のS101)。その後、別途の操作ボタンを入力して、スタンパー500の表面温度と第1及び第2金型部10,20が一定温度以上になるように命令すると、第1及び第2ヒーター部13,22に電流が流れ、熱抵抗によって第1及び第2金型部10,20が加熱されると共に、スタンパー500も加熱される。
【0072】
ここで、加熱される温度は、所定の設定温度(ts)、具体的には、樹脂の溶融温度にさせる(図7のS102)。
【0073】
この時、電磁石35には一定の電流が流れて、永久磁石28と電磁石35との間に斥力が発生することで、第2金型部20及び冷却金型30は互いに離隔状態を維持するようになる。
【0074】
その後、第2金型部20の温度が所定の設定温度(ts)に到達したか判断し(図7のS103)、この温度範囲に到達したと判断されると、上記のように第2金型部20と冷却金型30とが離隔状態を維持し、第1及び第2金型部10,20とスタンパー500が加熱された状態を維持しながら、図4に示すように、第2金型部20が第1金型部10の方向へ移動して両者が結着すると、第1金型部10とスタンパー500との間に射出物形態の密閉されたキャビティ11が形成される(図7、S104)。
【0075】
図5及び図7に示すように、第1及び第2金型部10,20が密着して密閉キャビティ11を形成した状態で、樹脂流路82を通して溶融樹脂Rがキャビティ11内に流入してキャビティ11の内部に充填され、溶融樹脂Rは、スタンパー500の疎水性パターン510の間に流入することで、疎水性パターン510がそのまま転写されることとなる。
【0076】
上記樹脂の流入した直後に、第1及び第2ヒーター13,22の作動を停止させ、電磁石35と永久磁石59とに引力が発生すると、冷却金型30が第2金型部20に接し、同時に冷却金型30の冷却水流路部33と第1金型部10の冷却水流路部12に冷却水が流入すると、第1及び第2金型部10,20とスタンパー500が冷却され、これによって、キャビティ11に充填された樹脂が固化する(図7のS106)。
【0077】
ただし、樹脂が完全に固化する前に、樹脂がキャビティ11内に完全に充填されることで、製品の耐久性が向上するように、樹脂をキャビティ11内に強制に注入する保圧過程を行う(図7のS107)。
【0078】
以降、図6及び図7に示すように、第2金型部20を第1金型部10と離隔させると、開放されたキャビティ11には、スタンパー500の疎水性パターン510がパターニングされた射出物Pが得られる(図7のS108、S109)。
【0079】
図8の写真aは、蓮の葉に現れたナノサイズの疎水性パターンを示しており、写真bは、上述の図2a〜図2fに示すスタンパー製作工程で生成された金属材質(ニッケル)のスタンパーに形成された疎水性パターンである。
【0080】
そして、写真cは、上述の射出成形装置とスタンパーを用いて製作される射出品の表面に形成された疎水性パターンを拡大したものである。
【0081】
図8に示すように、蓮の葉に形成されているナノサイズの疎水性パターンが、金属スタンパーを介して射出品の表面に実質的に同様にパターニングされていることがわかる。ここで、写真aは、蓮の葉の表面状態であり、写真bは、蓮の葉の表面がパターニングされたスタンパーの表面写真であり、写真cは、スタンパーによって形成された製品の表面状態である。
【0082】
図9は、高温金型ではなく一般金型によって蓮の葉のパターンを射出物に転写したものであり、図10は、本発明の高温金型を用いて蓮の葉のパターンを射出物に転写したものである。両図から、パターンの転写された射出物の表面が明確に相異していることがわかる。
【0083】
すなわち、図9に示すように、一般金型で蓮の葉のパターンを転写すると、当該パターンが不明確に現れ、それだけ、疎水性の特徴も弱くなる。
【0084】
しかし、図10のように高温金型を用いると、転写性が増大してパターンが明確に転写され、それだけ、水との接触角が増加して疎水性が増大する。
【0085】
一方、図11では、所定の樹脂を材料とする場合、保圧時間及び金型温度による接触角の変化を表している。使用樹脂はCOC(シクロオレフィン共重合体)であり、COCの溶融点は180℃程度である。
【0086】
図11に示すように、1番目の場合、保圧も金型加熱もしていない状態における表面接触角は104゜であり、2番目の場合、保圧は1秒間103.3MPaで行われるが、金型加熱がない場合には、表面接触角が105゜となる。
【0087】
一方、3番目の場合、金型の温度が180℃に維持され、保圧が103MPa程度で行われる場合、接触角は153゜となり、4番目の場合、金型温度が200℃程度であり、保圧が103MPaで行われる場合、接触角が151゜となり、よって、3番目と4番目の場合、固体の表面が超疎水性を示すこととなる。
【0088】
本実験では、金型を加熱しない場合と加熱する場合、金型の温度が180℃と200℃である場合を想定したが、実質的には、金型の加熱によって樹脂材料の温度は120℃〜樹脂溶融温度の範囲とすることが好ましい。
【0089】
すなわち、具体的には、120℃〜180℃の範囲とすることが好ましい。
【0090】
4つの場合からすると、所定の金型を備える射出成形装置を用いて射出成形をする場合、金型の温度が所定の温度(樹脂の溶融温度)以上に維持された場合に、表面接触角が150゜以上になって固体の表面が超疎水性とされることがわかる。
【0091】
したがって、射出成形時に、金型を一定温度以上、すなわち、樹脂の溶融温度以上に維持することが、超疎水性射出品を製作する工程で最も重要である。
【0092】
このように、疎水性または超疎水性の表面を有する製品は、疎水性によるセルフクリーニング効果が要求される厨房器具、衣類、建築、道路、タイル分野に有用であり、さらには、流動抵抗減少が重要視される航空、船舶、自動車産業においてもその応用が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数個の金型のうち、疎水性パターンを有するスタンパーが装着されている金型を加熱する段階と、
前記スタンパーの装着されている金型と他の金型とを密着させてこれら金型の間を密閉させる段階と、
これら金型の間に所定の樹脂材料を注入する段階と、
これら金型を冷却した後、これら金型を分離する段階と、
を含む、疎水性パターンを有する射出品の射出成形方法。
【請求項2】
前記疎水性パターンは、表面接触角が150゜以上180゜未満の超疎水性パターンとすることを特徴とする、請求項1に記載の疎水性パターンを有する射出品の射出成形方法。
【請求項3】
前記金型を加熱する段階は、前記金型の内部に設けられたヒーターの発熱によって前記金型の表面温度を所定の設定温度とすることを特徴とする、請求項1に記載の疎水性パターンを有する射出品の射出成形方法。
【請求項4】
前記設定温度は、120℃と注入される樹脂の溶融温度の範囲であることを特徴とする、請求項3に記載の疎水性パターンを有する射出品の射出成形方法。
【請求項5】
前記設定温度は、120℃以上180℃以下の範囲であることを特徴とする、請求項4に記載の疎水性パターンを有する射出品の射出成形方法。
【請求項6】
前記金型の密閉段階は、前記金型の表面温度が前記所定の設定温度に到達した後に行われることを特徴とする、請求項3に記載の疎水性パターンを有する射出品の射出成形方法。
【請求項7】
前記金型の冷却段階は、樹脂材料が注入された直後から行われることを特徴とする、請求項1に記載の疎水性パターンを有する射出品の射出成形方法。
【請求項8】
前記金型の冷却段階で、前記金型の冷却は、前記金型と接触可能に設けられる冷却金型と前記金型との接触によって行われることを特徴とする、請求項7に記載の疎水性パターンを有する射出品の射出成形方法。
【請求項9】
キャビティが形成される金型と、
前記キャビティの内部に配置され、疎水性パターンを有するスタンパーと、
前記金型の温度を調節する温度調節装置と、
を含むことを特徴とする、射出成形装置。
【請求項10】
前記スタンパーの疎水性パターンは、150゜以上180゜以下の液体の表面接触角を有するように形成されることを特徴とする、請求項9に記載の射出成形装置。
【請求項11】
前記温度調節装置は、
前記金型の内部に配置されるヒーターと、
前記金型と接触可能に配置されて、前記金型を冷却させる冷却金型と、
前記冷却金型を駆動させる冷却金型駆動部と、
を含むことを特徴とする、請求項9に記載の射出成形装置。
【請求項12】
前記ヒーターは、金型の表面温度が金型に注入される樹脂の溶融温度に到達するまで前記金型を加熱させることを特徴とする、請求項11に記載の射出成形装置。
【請求項13】
前記金型は、前記キャビティを備える第1金型部と、前記第1金型部と選択的に接触するように設けられる第2金型部と、を含み、
前記冷却金型は、前記第2金型部に収容されるように設けられ、前記第2金型部の内部で移動可能に設けられることを特徴とする、請求項11に記載の射出成形装置。
【請求項14】
磁力によって前記冷却金型と前記第2金型部とが接離するように、前記第2金型部に設置される第1磁石部及び前記冷却金型に設置される第2磁石部と、
前記冷却金型の移動をガイドするように前記第2金型部の内部に設けられるガイド部材と、
をさらに含むことを特徴とする、請求項13に記載の射出成形装置。
【請求項15】
前記第1磁石部及び第2磁石部のうちいずれか一方は電磁石で構成され、いずれか他方は永久磁石で構成されることを特徴とする、請求項14に記載の射出成形装置。

【図1】
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【図2(a)】
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【図2(b)】
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【図2(c)】
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【図2(d)】
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【図2(e)】
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【図2(f)】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公表番号】特表2011−525158(P2011−525158A)
【公表日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−516162(P2011−516162)
【出願日】平成21年7月20日(2009.7.20)
【国際出願番号】PCT/KR2009/003991
【国際公開番号】WO2010/011061
【国際公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【出願人】(502032105)エルジー エレクトロニクス インコーポレイティド (2,269)
【Fターム(参考)】