説明

疎水性ポリペプチドの細菌生産

【課題】細菌細胞によるインターフェロン-βポリペプチドの生産方法の提供。
【解決手段】上記課題はIFN-βポリペプチド生産の増大を誘導する条件下で、IFN-βポリペプチドを生産し得る細胞を培養することによる、細菌細胞によるインターフェロン-βポリペプチドの生産方法によって解決される。そのような条件は、例えば、低いカリウムカチオン濃度および/または非常に低いナトリウムカチオン濃度および/または特定のpH範囲を包含する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術分野
本発明は、所望のタンパク質を生産するための細菌細胞の培養に関する。特に、本発明は、エネルギー源、イオン濃度、温度、およびpHのようなある培養パラメーターの下でのインターフェロン-β(「IFN-β」)ポリペプチドのような疎水性ポリペプチドの生産方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
疎水性ポリペプチドの組換え生産は、医療的および商業的用途を有する。例えば、IFN-βはMSを有する患者に対して、有効な、同定された最初の治療法である。それは、再発そして寛解している多発性硬化症(「MS」)を有する患者の発病数を引き下げることが、確認されている。さらにまたIFN-βは、B型あるいはC型肝炎の患者の治療にも使われている。
【0003】
IFN-βのアミノ酸配列およびヌクレオチド配列は、Tanauguichiら、Gene10:11〜15(1980)中に示されているように、公知である。組換えDNA技術は、ウイルス(例えばHIV-1)およびヒト由来の他の混入物質が混入していないIFN-βの生産を可能にしている。そのような技術によって、IFN-βは、IFN-βのアミノ酸配列をコードする遺伝子を含む発現ベクターで形質転換した宿主細胞を培養することによって生産され得る。その宿主細胞はその遺伝子を転写し得、そして所望のタンパク質を生産し得るものである。これらの技術は、例えば、Manteiら、Nature(London)297: 128(1982);Ohnoら、Nucl. Acid. Res. 10: 967(1982);およびSmithら、Mol. Cell. Biol.3: 2156(1983)にそれぞれ記載されているように、哺乳動物、昆虫、および酵母の宿主細胞におけるIFN-βの生産に使用されてきた。さらにまた、改良された性質を有するIFN-βの変異タンパク質も、例えば、Markら、米国特許第4,518,584号に記載されているように生産されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
発明の開示
本発明の目的は、IFN-βポリペプチドのような疎水性ポリペプチドを、従来技術によるよりも高収率で生産する方法を提供することである。また、組換え技術による生産よりも、高収率で組換えポリペプチドを生産する改良法を提供することもまた本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
従って、本発明は、そのようなポリペプチドを生産し得る細菌宿主細胞を利用した疎水性ポリペプチドを生産する改良法に関する。その方法は、ポリペプチド生産を誘導するのに効果的な条件下で、その疎水性ポリペプチドコード配列を含有するベクターで形質転換した宿主細胞を培養する工程を包含し、その条件とは、低濃度のカリウムカチオン(例えば120mM以下(no greater than))、および/または、非常に低濃度のナトリウムカチオン(例えば40mM以下)を含む培地に細胞を接触させることを包含する。
【0006】
本発明はまた、約5.4と約6.6との間のpHで、形質転換した宿主細胞を培養する工程を包含する、疎水性ポリペプチド生産の別の改良法に関する。
【0007】
さらに、本発明は、Escherichia coliのような細菌宿主でのIFN-βポリペプチドの生産法に関する。その方法は、約5.4と約5.7との間のpHで、以下の条件を包含する培地中で、約39.5℃でIFN-βポリペプチドを生産し得る細菌細胞を培養する工程を包含する:
(a) 約120mM以下のカリウムカチオン濃度および約100μM以下のナトリウムカ チオン濃度;および
(b) 効果的なエネルギー源としてのグリセロール。
【0008】
したがって、本発明は、以下を提供する。
1.宿主細胞において疎水性タンパク質を生産するための方法であって、
(a) 疎水性ポリペプチドを生産し得る宿主細胞を提供する工程;および
(b) 疎水性ポリペプチドの生産の誘導に効果的な条件下で細胞を培養する工程であって、該条件は、約120mM以下のカリウムイオンを含有する培地で該細胞を培養することを包含する、工程
を包含する、方法。
2.前記タンパク質がインターフェロン-βである、項目1に記載の方法。
3.前記培地が約40mM以下の濃度のナトリウムカチオンをさらに含有する、項目2に記載の方法。
4.前記カリウムカチオン濃度が約40mM以下である、項目2に記載の方法。
5.前記ナトリウム濃度が約100μM以下である、項目3に記載の方法。
6.前記ナトリウム濃度が約100μM以下である、項目4に記載の方法。
7.前記培地が最終細胞密度を制限しない量のグリセロールを含有する、項目2に記載の方法。
8.前記培地が最終細胞密度を制限しない量のグリセロールを含有する、項目6に記載の方法。
9.前記グリセロール濃度が約2g/Lと約100g/Lとの間である、項目7に記載の方法。
10.前記培養条件が約34℃と約42℃との間で培養することを包含する、項目2に記載の方法。
11.前記培養条件が約34℃と約42℃との間で培養することを包含する、項目8に記載の方法。
12.前記培地がある量のグルコースをさらに含有する、項目2に記載の方法。
13.前記インターフェロン-βポリペプチドのアミノ酸配列が配列番号1であり、アミノ酸17がセリンである、項目11に記載の方法。
14.前記培地がインターフェロン-β生産の誘導期に約5.4と約6.6との間のpHである、項目2に記載の方法。
15.細菌細胞がEscherichia coliである、項目14に記載の方法。
16.前記培地がインターフェロン-β生産の誘導期に約5.4と約6.6との間のpHである、項目8に記載の方法。
17.前記培地がインターフェロン-β生産の誘導期に約5.4と約6.6との間のpHである、項目11に記載の方法。
18.IFN-βポリペプチドを生産するための組成物であって、
(a) IFN-βを生産し得る細菌細胞;および
(b) 以下を包含する培地:
(i) 約120mM以下のKカチオン;
(ii) 約40mM以下のNaカチオン;および
(iii) 約2g/Lと約100g/Lとの間のグリセロール
を含有する、組成物。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の実施の態様
本発明の方法は、IFN-βポリペプチドのような疎水性ポリペプチドの生産を可能にする宿主細胞の培養条件に関する。これらの条件は細胞増殖および生産物収率の改善へと通じる。
【0010】
好ましくは、宿主細胞は、疎水性ポリペプチド(1例にIFN-βポリペプチドがある)のコード配列を含有する発現ベクターで形質転換される。発現ベクターは、所望であるなら、プロモーター、ターミネーター、複製開始点、および選択マーカーもまた含有し得る。これらの構成要素は当該分野では公知であり、そして容易に組み立てられ得る。
【0011】
疎水性ポリペプチドは、ロイシン、イソロイシン、フェニルアラニン、およびバリンのような疎水性アミノ酸を豊富に含有する。疎水性残基は疎水性ポリペプチド中、総残基の約20%を占める;より代表的には総残基の約25%であり;さらにより代表的には約30%である。疎水性ポリペプチドは、他の疎水性物質への結合能を有している。例えば、天然のIFN-βは、ブルーデキストラン、シバクロンブルーF3GA-デキストラン、アミノベンゼン結合アガロース、アミノナフタレン結合アガロース、およびアミノアントラセン結合アガロースのような疎水性物質に結合する(Jankowskiら、Biochem.15(23):5182(1976))。疎水性タンパク質の別の特徴として、αヘリックス残基とβシート残基との比がある。疎水性タンパク質はαヘリックス残基:βシート残基の比は、約2:1の比;より代表的には、約1.5:1の比;さらにより代表的には約1:1の比を示す。代表的な疎水性ポリペプチドの天然IFN-βの一次配列は、Chou-Fasman分析(Hayes,Biochem.Biophys. Res. Commun. 95(2):872-879(1980))に従えば、約1.1:1の比を示す。
【0012】
本発明に関しては、任意のIFN-βが利用され得る。用語「インターフェロン-βポリペプチド」あるいは「IFN-βポリペプチド」は、天然のIFN-β、変異タンパク質、類似体、およびそれらの誘導体を指している。そのようなポリペプチドは天然のIFN-βポリペプチドと類似の生物活性またはレセプター結合活性のいずれかを示す。これらのIFN-βポリペプチドの全てが、天然IFN-βの少なくとも60%のレセプター結合活性または生物活性を示す。より代表的には、そのポリペプチドは天然IFN-βのレセプター結合活性または生物活性の少なくとも75%を示し、さらにより代表的には、そのポリペプチドは天然IFN-βのレセプター結合活性または生物活性の少なくとも80%を示す。生物活性およびレセプター結合活性のアッセイは、Fellousら、Proc.Natl. Acad. Sci. USA 79:3082-3086(1982);Czernieckiら、J. Virol.49(2):490-496(1984);Markら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 81:5662-5666(1984);Brancaら、Nature294:768-770(1981);Williamsら、Nature 282:582-586(1979);Herbermanら、Nature277:221-223(1979);およびAndersonら、J. Biol. Chem. 257(19):11301-11304(1982)に記載されている。
【0013】
IFN-βポリペプチドは、天然IFN-βの変異体、フラグメント、融合体、類似体および誘導体を包含する。これらのポリペプチドは全て、天然IFN-βに対してある程度の配列同一性を示す。天然IFN-βの1例としてヒトIFN-βがある。そのようなヒトIFN-βのアミノ酸配列は公知であり、さらに配列番号1に示されている。このポリペプチドは配列番号1と少なくとも約80%;より代表的には、少なくとも約85%;さらにより代表的には、少なくとも約90%のアミノ酸同一性を保持する。
【0014】
所望の疎水性ポリペプチドは既知の天然の配列から構築され得る。例えば、天然IFN-βは、インビトロ変異誘発技術を用いて、ジスルフィド結合に関係しないシステインを除去し得、セリンへと変異させ得る。そのような変異誘発は、Markら、米国特許第4,518,584号に記載されている。フラグメント、融合体、類似体、および他の誘導体を構築する他の技術は、例えばSambrookら、「MolecularCloning:A Laboratory Manual」(New York, Cold Spring Harbor Laboratory, 1989)に記載されている。
【0015】
一度発現ベクターを構築すれば、それは多数の宿主細胞(細菌細胞および酵母細胞の両方)へ形質転換され得る。例えば、以下の細菌宿主への形質転換技術には、例として次のようなものがある:Bacillus用には、Massonら、(1989)FEMS Microbiol. Lett. 60:273;Palvaら、(1982) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 79:5582;欧州特許公開第036259号ならびに第063 953号;PCT WO 84/04541;そしてCampylobacter用には、Millerら、(1988) Proc.Natl. Acad. Sci. 85:856;Wangら((1990) J. Bacteriol. 172:949;そしてEscherichia用には、Cohenら、(1973)Proc. Natl. Acad. Sci. 69:2110;Dowerら、(1988) Nucleic Acids Res. 16:6127;Kushner、(1978)「Animproved method for transformation of Escherichia coli with ColE1-derivedplasmids」、Genetic Engineering:Proceedings of the International Symposium on GeneticEngineering(H.W.BoyerおよびS.Nicosia編);Mandelら、(1970)J. Mol. Biol. 53:159;Taketo、(1988)Biochim. Biophys. Acta 949:318;そしてLactobacillus用には、Chassyら、(1987) FEMSMicrobiol. Lett. 44:173;そしてPseudomonas用には、Fiedlerら、(1988) Anal. Biochem 170:38;そしてStaphylococcus用には、Augustinら、(1990)FEMS Microbiol. Lett. 66:203;そしてStreptococcus用には、Baranyら、(1980) J. Bacteriol.144:698;Harlander、(1987) 「Transformation of Streptococcus lactis byelectroporation」、Streptococcal Genetics(J. FerrettiおよびR.Curtiss III編);Perryら、(1981)Infec. Immun. 32:1295;Powellら、(1988) Appl. Environ. Microbiol. 54:655;Somkutiら、(1987)Proc. 4th Evr. Cong. Biotechnology 1:412。
【0016】
好適な細菌宿主細胞および発現ベクターは、アメリカンタイプカルチャーコレクション(Rockville,Meryland)に、ATCC番号39517で寄託されている。
【0017】
宿主細胞を構築した後、これは効果的に疎水性ポリペプチドを生産する条件下で培養される。そのような培養条件は所望の疎水性ポリペプチドを生産するためのコード配列の転写および翻訳を可能にする条件を包含する。ポリペプチド生産の誘導期間内では、細胞は、誘導期、対数増殖期、または定常期のいずれかであり得る。従って、細胞はポリペプチド生産誘導期には、急速に分裂している必要はない。細菌生産に影響を与え得る条件は、例えばエアレーション、pH、温度、そして培地組成を包含する。生産に影響を与える培地成分の例は、炭素源(例えばグリセロールおよびグルコース)、微量元素、アミノ酸、カチオン、およびアニオンを包含する。
【0018】
本発明の発明者らは、形質転換宿主細胞中でのIFN-βのような疎水性ポリペプチドの発現を劇的に増加させる、特定の条件を発見した。そのような条件は、培地中のカリウムまたはナトリウムカチオンの濃度、培地のpH、炭素源の選択を包含する。
【0019】
本願発明のためには、カリウムカチオン濃度は「低い」。本発明の培地中のカリウムカチオン濃度は、約120mM以下;好ましくは約75mM以下;より好ましくは約40mM以下である。本発明を実施するためには、カリウムは加えられる必要がないが、しかし、好ましい実施態様中では、カリウム濃度は約10mM以上(noless than);より好ましくは、約30mM以上である。カリウムカチオンをバッチで断続的に、または連続的に培地に添加し、カリウムイオンまたはカリウム塩の連続的な低濃度を供給し得る。便宜上、培養初期にボーラスとして加えるには、以下の濃度を推奨する。
【0020】
本発明の別の実施態様では、ナトリウムカチオン濃度は「非常に低い」。通常、本発明でのナトリウムカチオン濃度は40mM以下;より通常には5mM以下;さらにより通常には50μM以下である。好ましくは、できるだけ、ナトリウムカチオンは、意図的には培地に添加されない。しかし、培地中には、ナトリウムカチオンは、容器からまたは加えた他の成分からの混入物という形で存在し得る。混入ナトリウム濃度は、代表的には約10mM未満;より代表的には約5mM未満;さらにより代表的には約100μM未満である。好ましくは、非ナトリウム含有微量元素、リン酸塩、酸、および塩基が培地において使用され、できるだけナトリウムカチオンの濃度を制限する。例えば、水酸化アンモニウムが、本明細書中では水酸化ナトリウムの代わりに好適に使用される。
【0021】
本発明においてKおよびNa濃度を計算する場合、微量元素、リン酸塩、pH調整剤(titrant)などのような培地の他の成分由来のNaおよびKカチオンが考慮に入れられる。好ましいKおよびNa濃度は非常に低いため、KおよびNaカチオンの添加を避けるために、NH4OHのようなpH調整剤が好ましい。
【0022】
培養および疎水性ポリペプチドの生産期間中には、効果的なエネルギー源を細胞に供給せねばならない。好ましくは、エネルギー源は、培養期間または最終細胞密度またはIFN-βポリペプチド生産のいずれも制限しない。効果的なエネルギー源は一つの化合物または化合物の混合物を包含し得る。以下に考察したように、グリセロールおよびグルコースが好適なエネルギー源である。フルクトース、マルトースなどのような他の化合物もまた効果的であり得る。
【0023】
グリセロールは好ましい効果的なエネルギー源である。出願人はグリセロールを利用すると、増殖速度およびポリペプチド生産速度が増大することを見出した。一つの実施態様において、細胞はグリセロールのみを添加される。しかし、グリセロールが、存在する唯一のエネルギー源である必要はない。グリセロールと同時に代謝され得るエネルギー源が、それらが細胞増殖、培養時間、またはポリペプチド生産を制限しないなら、存在し得る。例えば、細胞の誘導期を短縮するために、少量のグルコースが、グリセロールとともに培地に含有され得る。しかし、本発明の好適な実施態様において、生産がトリプトファンプロモーターに関連付けられているなら、グリセロールの選択的代謝はトリプトファン欠乏の直前または欠乏時に始まるはずである。グルコースの量は、もし存在するのであれば、このような状況下では制限されるべきである。
【0024】
代表的には、グリセロールが炭素源である場合、その濃度は、少なくとも約20g/L、より代表的にはグリセロール濃度は約20g/Lと約100g/Lとの間である。好ましくは、グリセロールは誘導時間を通して利用可能である。通常、他のエネルギー源(例えばグルコース)の濃度は約10g/L未満であり;より通常には、約5g/L未満であり;さらにより通常には約2.5g/L未満である。
【0025】
細胞に添加されるグリセロールの量は、グリセロール量が最終細胞密度を制限しない限り重要ではない。代表的には、グリセロールの十分量は、少なくとも1g/Lである。E. coli細胞はグリセロール濃度100g/Lまで寛容し得る。エネルギー源は、培養期間を通して、連続的にまたはバッチ式で供給され得る。あるいは、エネルギー源は、培養開始時に、一つのボーラスで供給され得る。便宜上、細胞には、培養期間を通して、グリセロールが補充される。
【0026】
別の好適な効果的エネルギー源はグルコースである。一つの実施態様において、
グルコースを制限速度で添加される。この添加ストラテジーは、グリセロール添加と同様ではない。グルコースは細胞が炭素源を代謝する速度かまたはそれよりわずかに低い速度で添加される。グルコースの制限速度を決定する一方法は、いくつかのグルコース供給速度を用いて培養中のポリペプチド生産をモニターすることである。
【0027】
本発明者らはまた、酢酸レベルの増加が、細胞増殖速度を制限するばかりではなく、疎水性ポリペプチド生産速度もまた抑制することを発見した。Yeeら、Biotech. Bioeng. 41:781-790(1993)は、下記の一つ以上の条件が存在するとき、酢酸が生成することを記載した:
(1) 酸素制限、すなわち、嫌気培養;
(2) 細胞の比増殖速度が、酢酸を生成するような増殖速度(株と培地に依存する)を超えるような栄養物の過剰状態(特に炭素源(C-源));
(3) CO2の高い分圧。
酢酸生成は、発酵中の添加グルコースを制限することによって引き下げられ得る。また、細胞を発酵中に過剰の酸素で通気することが勧められる。グリセロールを最終細胞密度を制限しない効果的エネルギー源として利用する場合、グリセロールの代謝には酸素が要求される。
【0028】
本発明者らは、細胞培養期間中の温度の低下とともに、細胞当たりのタンパク質の生成が増加することを発見した。それゆえ、本発明では、細胞を34℃以上;より通常には37℃以上;さらにより通常には39℃以上で増殖させる。代表的には、本願発明に関しては、細胞は42℃以下の温度;さらにより代表的には40℃以下の温度で増殖させる。
【0029】
さらに、本発明者らは、疎水性ポリペプチド生産期間中の培地のpHが細胞の増殖に影響を与え得ることを発見した。従って、本発明の実施態様では、誘導期間中のpHは、好ましくは、少なくとも4.8であり;より好ましくはpHは、少なくとも5.4であり;さらにより好ましくはpHは、少なくとも5.7である。通常、誘導期間中のpHは6.8以下であり;より通常には、pHは6.3以下であり;さらにより通常には6.0以下である。
【0030】
細菌宿主細胞の培養にはさらなるアミノ酸の添加は必要ではあり得ない。しかし、ポリペプチド生産の誘導直前および誘導期間中、あるいは培養の終末期における培養物へのさらなるアミノ酸の補充は有用であり得る。発現を増大させるための、細菌細胞の培養期間中のアミノ酸の補充は、米国特許第4,656,132号および第4,894,334号に記載されている。また、培養物中へのさらなるアミノ酸の添加は、ノルロイシンのような不要なアミノ酸の取り込みを制限するために要望され得る。例えば、ノルロイシンの取り込みは、過剰のイソロイシンとともに制限量のロイシンを添加することによって制限され得る。あるいはまた、ノルロイシンの取り込みを避けるために、スレオニンまたはバリンが培地に添加され得る。他のアミノ酸もまた、ポリペプチドの生産を制限することのないように、培地に補充され得る。
【0031】
接種時間ならびに細胞数のような他の発酵条件は、便宜的に選択される。そしてそのような因子は本願発明には重要ではない。また、ポリペプチド生産誘導のための他の培地成分は微量元素、炭素源、ビタミンなどを包含し得る。微量元素は銅、鉄、マンガン、亜鉛、マグネシウムなどを包含する。他の炭素源はアミノ酸、および脂質を包含する。これらの他の培地成分は、本発明には重要ではなく、そして容易さならびに利便性によって選択され得る因子の一例である。以下は本発明を実施するのには重要ではないけれども、出願者は発酵の間クエン酸およびコハク酸を低濃度で維持することを勧める。好ましくは、クエン酸およびクエン酸塩の濃度は5mM以下である。
【0032】
疎水性ポリペプチドの精製
I. 採取
細胞は誘導後任意の時間に採取され得る。時間-生産研究は、細胞が最大量の疎水性ポリペプチドを生産した誘導後の時間を決定するために行い得る。例えば、IFN-βポリペプチド生産細胞は、細胞の破砕前に、(1)細胞の濃縮、または(2)不必要な培地成分の除去によって採取され得る。具体的には、細胞を4℃で20分間、20,000gで遠心し、上清を除去し、次いで細胞を、0.1Mリン酸ナトリウム(pH7.4),0.15 M NaCl/PBS中に1mL当たり100-200 OD680の濃度に再懸濁し得る。あるいは、細胞を、例えば、材料をミリポアースパイラル限外濾過カートリッジに加圧下で循環させることによって、クロスフロー濾過(crossflow filtration)を循環させることにより、5倍に濃縮し得る。
【0033】
出願人らは、細胞破砕前に培地のイオン強度を低くすると、疎水性ポリペプチドを含有する屈折体(refractile bodies)からの不要な核酸および膜成分の分離を向上させ得ることを発見した。Dorinら、米国特許第5,248,769号(本明細書中で参考として援用される)を参照のこと。例えば、IFN-βポリペプチド生産細胞は、遠心によって発酵培地から分離され得、そして低イオン強度緩衝液中に懸濁され得る。細胞は、必要に応じて1〜2mMEDTAを含有する脱イオン水に再懸濁され得、残存金属イオンをキレート化し得る。また、不必要な培地成分を除去し得、そしてイオン強度を、必要に応じて1〜2mMEDTAを含有する5〜10容量の脱イオン水に細胞をダイアフィルターする(diafiltering)ことによって低め得る。EDTAに代わって、EGTAのような他のキレート剤も使用され得る。
【0034】
II. 初期回収
初期回収の第一工程は、疎水性ポリペプチド生産細胞を破砕し、そして必要に応じて死滅させることである。IFN-βポリペプチド生産細胞を破砕した後、単離IFN-βポリペプチドは可溶化および変性化手順のようなさらなるプロセスに供され得るか、あるいはスクロース密度遠心による単離のような総IFN-β屈折体のさらなる精製に供され得る。
【0035】
例えば、IFN-βポリペプチド生産細胞は、ビーズ、高圧ホモジナイゼーション(highpressure homogenization)、または超音波処理によって破砕され得る。破砕の例は、再循環モードまたは不連続パスモード(好ましくは約10〜15℃で3パス)のいずれかによる6000〜7000psigでのホモジナイゼーションを包含する。あるいは、細胞は、ダイノミル(Dynomill)により特定化されるような0.2μmビーズを加え、細胞を破砕するためにビーズと細胞とを混ぜ合わせることによって破砕され得る。また、細胞は、例えばHeatSystem Model W-375を用い、最大出力で5分間の超音波処理を行うことによっても破砕され得る。
【0036】
次いで、規制ガイドラインに従うため、残存未破砕細胞は死滅させる。細胞は、例えばフェノール、トルエン、またはオクタノールを用いて死滅させ得る。破砕細胞へのこれらの試薬の添加は、屈折体の物理的変化(例えば、密度または疎水性)をもたらし得る。これらの変化は、IFN-βのような所望の疎水性ポリペプチドの下流の処理となる精製において重要であり得る。それゆえ、これら試薬の濃度および破砕細胞とこれら試薬とのインキュベーション時間は、屈折体に対してなされる変化を制御し得る。例えば、IFN-βポリペプチドを生産した破砕細胞は、残存細胞を不活化するために、0℃〜6℃で1%(v/w)オクタノールとともに一晩インキュベートおよび撹拌され得る。あるいは、破砕細胞は、0.25%(v/w)フェノールおよび0.25%(v/w)トルエンとともに約37℃で少なくとも30分間インキュベートされ得る。
【0037】
屈折体からの細胞破砕片の分離を向上させるために、破砕細胞を含有する培地のイオン強度を低め得るか、または培地を脱塩し得る。破砕細胞の再破砕前に培地のイオン強度を低めるためのそのような技術および手順は、米国特許第4,748,234号(本明細書中で参考として援用される)に記載されている。例えば、IFN-βポリペプチドを生産した破砕細胞を、4℃で20分間、20,000gで遠心し、そしてその沈殿物を、必要に応じて1〜2mM EDTAを含有する脱イオン水に再懸濁し、残存イオンをキレート化し得る。あるいは、EGTAが、金属イオンをキレート化するために、1〜2mMの間で添加され得る。また、この混合物は、1〜2mMEDTAを有する5〜10倍容量の脱イオン水に対して、ダイアフィルターされ得る。
【0038】
細胞破砕片は、ホモジナイゼーション技術によって、溶解物中の任意の凝集物を分散させることによって屈折体から解離させ得る。ホモジナイゼーション技術は、超音波処理、機械的撹拌、または小さな開口部を通したホモジナイゼーションを包含する。例えば、IFN-βポリペプチドを生産した破砕細胞は、Heat System Model W-375を用い、最大出力で5分間の超音波処理によって再分散され得る。あるいは、破砕物は、高圧ホモジナイザーに6000〜7000psigで3度通すことで再分散され得る。
【0039】
このポリペプチド屈折体は、サイズまたは密度の差を用いる方法を利用して、不必要な細胞成分からさらに分離され得る。低速遠心は分離法の一つである。Builderら、米国特許第4,511,502号(本明細書中で参考として援用される)を参照のこと。例えば、IFN-βポリペプチド屈折体は、不必要な細胞物質からそれらを分けるために、スクロース密度遠心を用いて沈降させられ得る。スクロース密度遠心の有効性を決定する要因は、スクロース濃度、遠心力、および滞留時間、または流速を包含する。最終スクロース濃度は重要である。1-オクタノールの使用は、沈降するIFN-βポリペプチド屈折体の割合を制限し得る。好ましくは、スクロースは最終密度が1.0g/mlと1.18g/mlとの間になるように添加される。例えば、スクロースは最終密度が1.08±0.01g/mLになるように破砕物に添加される。
【0040】
この屈折体を沈降させるために、連続遠心機(continuous flowcentrifuge)または実験室遠心機が使用され得る。実験室遠心機を用いる場合は、IFN-βポリペプチド屈折体は、例えば8,000 gで少なくとも10分間回転させるのが好ましい。連続フロー遠心機を用いる場合は、遠心力、流速、および遠心のタイプが重要である。例えば、好ましくは、混合物は、WestfaliaKA2遠心機では0.25L/分の流速で、7,000gで遠心され、またSharples AS16遠心機では2〜3L/分の流速で、15,500gで遠心される。粒子ペースト(particlepaste)と呼ばれる沈降物質を集める。これらの遠心機を用いる場合、それらは、遠心容器から屈折体を収集するために停止させなければならない。連続遠心機を用いる場合、上清は連続的に除去される。他のタイプの実験室または連続遠心機も利用され得、当業者は、例えば、効果的な均質スクロースクッションを生成させるために、これら種々の遠心機を用いて、遠心力および流速の必要な調整をし得ることが認識される。
【0041】
疎水性ポリペプチドは、有機相抽出を利用して効果的に単離され得る。例えば、IFN-βポリペプチドは脂肪族アルコールを用いた有機抽出によって混入物から効果的に単離され得る。そのような抽出法は、Konradら、米国特許第4,450,103号;およびHanischら、米国特許第4,462,940号(これらは、本明細書中で参考として援用される)に記載されている。最も重要なことに、このタイプの抽出は不要なエンドトキシンの除去に効果的である。IFN-βポリペプチドのこの抽出は、IFN-βポリペプチドを抽出前に強力な陰イオン性界面活性剤で可溶化する場合、および抽出中に界面活性剤が存在している場合、より効果的となる。強力な陰イオン性界面活性剤は、所望の疎水性ポリペプチドへの混入タンパク質の架橋を減じることで、明らかに有機抽出中の分配効率を引き上げる。
【0042】
脂肪酸のアルカリ金属塩およびアルカリ金属アルキル硫酸塩のような強力な天然または合成陰イオン性界面活性剤が、有機抽出前の可溶化には好ましい。そのような薬剤は通常、10個〜14個の炭素原子を含む。硫酸ドデシルナトリウム(SDS)ならびにラウリン酸ナトリウムが特に好ましい可溶化剤である。このプロセスにおいて使用され得る他の可溶化剤の例は、スルホン酸ドデシルナトリウム、硫酸ドデシルナトリウム、硫酸テトラデシルナトリウム、スルホン酸トリデシルナトリウム、ミリスチン酸ナトリウム、カプロン酸ナトリウム、ナトリウムドデシルN-サルコシネート、およびナトリウムテトラデシルN-サルコシネートを包含するがこれらに限定されない。
【0043】
可溶化において用いられる可溶化剤の量は、その特定の薬剤および可溶化されるタンパク質の量に依存する。代表的には、十分な量の可溶化剤とタンパク質との重量比は約1:1〜10:1の範囲の重量比である。SDSを使用する場合には、SDS:タンパク質の比は、約1:1〜10:1、好ましくは7:1〜2.5:1が用いられる。15℃〜60℃の範囲の温度が、通常、可溶化において用いられる。この可溶化は、溶液が実質的に清澄になるとき完了と考えられる。例えば、溶液のOD280が約4.0〜8.0に達するとき、可溶化プロセスは完了と考えられる。
【0044】
屈折体の完全な可溶化のために、還元剤の添加が勧められる。ジチオスレイトール、β-メルカプトエタノール、およびチオグリコール酸は還元剤の例である。IFN-βポリペプチドを含有する屈折体には、上記の還元剤が、好ましくは、約50mMで使用される。極端なpHおよび/あるいは温度は可溶化を促進または引き起こす。例えば、IFN-βポリペプチドでは、可溶化緩衝液中のpHを9.0と11.0との間に調整する。混合物の50℃〜55℃または95℃くらいの高温での、少なくとも20分間の加熱は可溶化を促進する。屈折体があまりにも濃い場合、可溶化時間は長くなる。IFN-βポリペプチド屈折体の場合、タンパク質濃度は3〜8mg/mLの間の範囲にあり得、そして可溶化は効率的に進行する。しかし、屈折体の可溶化および還元は0.5〜25mg/mLのタンパク質濃度のときが効率的である。
【0045】
EDTA、EGTA、あるいはクエン酸のようなキレート剤が、不要な酸化および再凝集を引き起こし得る不要な金属イオンを捕捉するために、可溶化緩衝液に含有され得る。代表的な疎水性ポリペプチドのIFN-βポリペプチドの場合、以下の濃度、すなわち2mMEDTA、2mM EGTA、または5mM クエン酸が勧められる。
【0046】
可溶化に引き続いて、溶液のイオン強度は、必要ならば、溶液と有機抽出剤とが実質的に混ざらないレベルに調整される。イオン強度は0.05〜0.15の範囲にする。NaClのような無機塩が、この目的のために溶液に添加され得る。そのようなイオン強度は抽出後の相分離を可能にする。このプロセスで使用される抽出剤は、2-ブタノール、2-メチル-ブタノール、あるいはそれらの混合物である。本混合物は好ましくは、約50容量%未満の2-メチル-ブタノールを含有する。IFN-βポリペプチドには2-ブタノールが好ましい抽出剤である。同族のアルコールは非効果的な抽出剤であることが見出された。抽出剤は通常、約0.8:1から約3:1の範囲内、好ましくは約1:1(抽出剤:水溶液)の容量比でIFN-βポリペプチド水溶液と混ぜ合わされる。抽出は従来的なバッチあるいは連続的な液−液抽出技術および装置を用いて実施され得る。抽出は通常、20℃〜約100℃で実施される。抽出は約1分〜約1時間の範囲の接触時間を包含する。最適接触時間は、特定の可溶化剤:抽出剤の組合わせに依存する。SDSを用いる場合、上記範囲内のより短い時間が使用され得る。ラウリン酸ナトリウムを用いる場合、上記範囲内のより長い時間が必要とされる。抽出混合物のpHは、約6と約9との間の範囲であり、SDSを用いる場合には約7.5のpH、そしてラウリン酸ナトリウムを用いる場合には約8.5のpHが好ましい。
【0047】
抽出の完了時には、水相と抽出相とを分け、そして疎水性ポリペプチドは抽出相から単離される。用いられるべき特定の単離手順は、含有される可溶化剤ならびに所望の純度に依存する。沈澱、分子ふるいクロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、および電気泳動のような様々な単離手段が使用され得る。
【0048】
SDSをIFN-βポリペプチドとともに用いる場合、他のタンパク質は、水相緩衝液と容積比、約2:1から約5:1、好ましくは約3:1で混合した抽出剤から、pHを代表的には5と7との間、より代表的には約6.5に引き下げることにより沈澱し得る。IFN-βポリペプチドを含有する有機抽出物は、10mMリン酸、0.9%生理食塩水に溶解した0.1%SDSを含有する緩衝液(pH7.4)と混合され得、そしてIFN-βポリペプチドを還元単量体状態に保持するように、DTTが最終濃度5mMに添加される。その混合液を約20℃にさせる。次いで、有機抽出物のpHは、IFN-βポリペプチドを沈澱させるために、約6.2±0.1に調整され得る。その沈殿物は遠心または濾過によって収集され得る。例えば、その沈殿物は、その混合物を2〜3L/分の流速において、15,500gでSharples AS16遠心機で遠心することによって単離され得る。
【0049】
その沈殿物は、さらなる精製手順または再生反応に都合のよい緩衝液に再懸濁され得る。
【0050】
III. 再生-酸化
再生および酸化条件はポリペプチドごとに変化する。代表的には、ポリペプチドは、酸化および再生の前に、単量体形成に可溶化および還元される。以下はIFN-βポリペプチドの再生に特異的な条件である。
【0051】
IFN-β屈折体の可溶化から生じるIFN-βポリペプチドは、本明細書中で参考として援用されるMarkら、米国特許第4,518,584号に示されているような条件の範囲下で、生物学的に活性なコンフォメーションに再生および酸化され得る。
【0052】
再生および酸化に当たっては、大規模製造における二つの主要な注意点に注意する。第一に、単位時間処理原材料を最大にすること;そして第二に、費用(resources)を最小にすることである。効率的なベンチスケールプロセスは、それを線形でスケールアップした場合、コスト的に効率的でない可能性がある。それゆえ、本発明のプロセスの工程は、利用可能で且つコスト的に効率的な装置および材料に依存して変わり得る。例えば、IFN-βポリペプチドは1mg/ml程の高濃度で再生され得る。この濃度は、反応容器容量および緩衝材料が制限される場合、好適であり得る。しかし、IFN-βポリペプチドは、0.01mg/ml程の低濃度でも再生され得る。再生のためのIFN-β濃度はまた、存在する混入物の量にも依存する。混入物質の濃度が高いほど、IFN-βポリペプチドの濃度が低くなることが、効率的な再生には必要である。例えば、約90%の純度の場合、IFN-βポリペプチドの最適再生濃度は0.13mg/mlである。
【0053】
IFN-βポリペプチドは、還元剤が存在する場合、還元剤を除去し、空気中の酸素によって酸化させることによって、付加的な酸化剤を添加することなく容易に再生され得る。このことは、Markら、米国特許第4,518,584号の実施例8に示されている。
【0054】
所望であれば、IFN-βポリペプチドを再生するのに利用され得る多くの既知の酸化剤(例えば、8μMCuCl2または20μMヨードソ安息香酸(IBA))がある。酸化剤に加えて、酸化緩衝液は、金属イオン混入物による不要な酸化を防ぐため、1mMEDTAまたは1mM EGTAのようなキレート剤を含有し得る。銅イオンが酸化剤である場合にはキレート剤は所望でないことは明らかである。カオトロピック試薬もまた、酸化反応によって生成されるIFN-βポリペプチドオリゴマーの量を引き下げるために酸化緩衝液中に含有され得る。カオトロピック試薬はそれが完全に再生を妨害するような高濃度であるべきではない。有用なカオトロピック試薬は、0.1%SDS、2M尿素、および2M 塩酸グアニジンを包含する。さらに、出願人は再生および酸化の間のpHを5.0と9.0との間に維持することを勧める。
【0055】
一つの再生/酸化プロトコールがMarkら、米国特許第4,518,584号の実施例11に記載されている。IFN-βポリペプチドをヨードソ安息香酸(IBA)に等モル量で、2mMピロリン酸ナトリウム、0.1%SDSおよび1mMEDTAを含有する反応容器に添加した。pHは酸化の間は0.5N NaOHで9.0±0.1に制御し、そして酸化終了時には5.5±0.2に調整した。あるいは、IFN-βポリペプチドは、15μmIBA、2mMピロリン酸、0.1%SDS、そして1mM EDTA緩衝液に等モル量で5時間にわたって添加され得る。そのpHはNaOHで9.0±0.1に維持される。次いで、ヨードソ安息香酸を、さらに1時間20μM過剰に添加する。反応は約7〜7.5時間後にpHを5.2と5.7との間に低下させることによって終結させ得る。IFN-βポリペプチドは、再生IFN-βポリペプチドの量を増加させるために、複酸化反応(multipleoxidation reaction)を受け得る。
【0056】
IV. カラムクロマトグラフィー
カラムクロマトグラフィーは、本明細書中で疎水性ポリペプチドを所望の純度に単離する一手段である。ポリペプチドはサイズ、疎水性、および他の特性に基づいて単離され得る。特定の手順が必須とされるわけではなく、便宜的に基づいて選択される。代表的な疎水性ポリペプチドのIFN-βポリペプチドに使用したカラムクロマトグラフィー手順の例は、Markら、米国特許第4,518,584号、Linら、Meth.Enzym.119:183〜192(1986)に記載されている。
【0057】
IFN-βポリペプチドは荷電、サイズ、または疎水性に基づいて単離され得る。有用なカラムの具体的例は高圧液体クロマトグラフィー(HPLC)、逆相HPLC、およびSephacryl(登録商標)である。種々のカラムの運転またはカラムタイプが、混入物を除去するために必要であり得る。カラムの数またはタイプは所望の精製度、タイミング、および財政的パラメーターに従って選択される。選択した特定の手順が本発明の実施にとって必須となるわけではない。さらに、カラムクロマトグラフィーはIFN-βポリペプチドの再生の前または後に行い得る。カラムクロマトグラフィーは、IFN-βポリペプチドの再生効率を妨害または制限し得る混入物を除去するために、再生前に行うのが有効である。
【0058】
あるカラムクロマトグラフィー手順では二つのSephacryl(登録商標)カラムを利用する。IFN-βポリペプチドは最終精製度99%を達成するために、Sephacryl(登録商標)S-200に供され、そして次に、Sephacryl(登録商標)G-75に供される。
【0059】
初めに、可溶化IFN-βポリペプチド屈折体を有機溶媒で抽出し、そして酸で沈澱させた。次に、IFN-βポリペプチドをSephacrylS-200Superfineを充填した二重の2.6×80cmカラムでクロマトグラフィーを行う。カラムは50mM酢酸ナトリウム(pH5.5)、2mM DTT、および0.5mMEDTAで平衡化し溶出する。サンプル容量は10〜20mL(5〜10mgタンパク質/mL)および流速は1〜2ml/分が勧められる。タンパク質の溶出は280nmでの吸光度でモニターされ得、そして生物活性はインターフェロンアッセイ(CPE)で定量され得る。
【0060】
IFN-βポリペプチド精製度およびIFN-β生物活性が最大のフラクションをプールする。精製度はSDS-PAGEおよびクーマシー染色によって評価され得る。この段階で95%より高い精製度のインターフェロンサンプルが得られる。多くの生物分析および化学分析用には、このレベルの純度が適当である。99%より高い純度の物質が必要な場合は、さらにゲル浸透クロマトグラフィー(SephadexG-75)を実施する。
【0061】
Sephacryl S-200クロマトグラフィー後の主要な混入物(IFN-βポリペプチドフラグメントおよびE.coliタンパク質の混合物様の低分子量種)は、Sephadex G-75(Superfine)での付加的なゲル濾過によって効率的に除去される。Sephacryl S-200クロマトグラフィー後、IFN-βポリペプチドプールを濃縮し、そしてSephadex G-75の2.6×80 cmのカラムにロードする。カラムは予め50mM酢酸ナトリウム(pH5.5)、2mM DTT、および0.5mM EDTAで平衡化した。この緩衝液はタンパク質の溶出にもまた使用される。サンプル容量は5〜15mLそして流速は0.5〜1.0mL/分が勧められる。溶出は再び280nmでのUV吸光度によってモニターされ、そしてフラクションはSDS-PAGE分析およびCPEアッセイで評価される。
【0062】
別のIFN-βポリペプチドカラムクロマトグラフィー手順は、所望の純度レベルを達成するために、再生の前および後のSephacryl(登録商標)S-200カラム運転および最後のSephacryl(登録商標) G-75を用いる3つのSephacryl(登録商標)カラムを利用する。
【0063】
クロマトグラフィー単離に先立ち、可溶化IFN-βポリペプチド屈折体は有機溶媒で抽出され、そして酸沈澱される。IFN-βポリペプチド沈殿物は再可溶化され、そしてIFN-βポリペプチドを還元単量体状態に維持するため、20mMDTTまたは10mM β-メルカプトエタノールのような還元剤で処理される。さらに、IFN-βポリペプチド沈澱物は、5%SDSまたは6M尿素のようなカオトロピック試薬で懸濁され、単量体IFN-βポリペプチドとされ得る。また、不要なIFN-βポリペプチドオリゴマーの形成を防ぐために、5mMEDTAまたは5mM EGTAのようなキレート剤が、スルフヒドリル基の酸化を促進し得る金属イオンを捕捉するために添加され得る。有用な緩衝液は50mMリン酸ナトリウムまたは50mMTris-HClを包含する。
【0064】
pHは水酸化ナトリウムで8.5±0.1に調整され、そしてこの溶液は、還元を促進するために、45℃と55℃との間に約10分間加熱される。この混合物は30℃以下に冷却され、そしてpHが氷酢酸で5.2から5.8の間に調整され、そして0.2μmSartobranカプセルフィルターを通して濾過される。
【0065】
Sephacryl S-200 Superfineは、250,000の排除限界を有する共有結合したアリルデキストランおよびN,N'-メチレンビスアクリルアミドから調製されるゲル濾過液体クロマトグラフィー媒体である。S-200は6部分の(sixsection)ファルマシアスタックカラムに充填される。初めにこのカラムを、50mM酢酸緩衝液、1%SDS、1mM EDTA(pH5.5)のNLT 80Lで平衡化する。このカラムに有機溶媒で抽出しそして酸沈澱させた可溶化IFN-βポリペプチドをロードする。IFN-βポリペプチドは、カラムから50mM酢酸緩衝液、1%SDS、1mMEDTA(pH5.5)で溶出される。IFN-βポリペプチドを再生させた後、これは、Sephacryl(登録商標) S-200カラムにロードし、上記の条件に従って溶出される。所望のフラクションがプールされ、Amicon限外濾過カートリッジを用いて、4L未満に濃縮される。
【0066】
Sephadex(登録商標) G-75は、ビーズ形成架橋デキストランゲル濾過媒体である。このカラムを50mM酢酸緩衝液、0.1%SDS、1mMEDTA(pH5.5)のNLT 80Lで平衡化する。カラムには8g以下のタンパク質をロードし、そしてIFN-βポリペプチドは平衡化緩衝液で溶出される。IFN-βポリペプチドを含有するプールしたフラクションは、製剤化前2〜8℃では6カ月まで、または−20℃以下では1年間保管し得る。
【0067】
V. 製剤化
所望の疎水性ポリペプチドの製剤化は特定のポリペプチドに依存して変化する。ポリペプチドは液体、凍結、あるいは凍結乾燥の形態に製剤化され得る。製剤化は利便性に基づいて選択され得る。以下は、IFN-βポリペプチドを凍結乾燥用に製剤化するのに使用され得る。
【0068】
精製IFN-βポリペプチドは、あらゆる段階の保存および使用中IFN-βポリペプチドを保護するために、適切な滅菌成分を添加することによって製剤化される。
【0069】
本発明により得られるIFN-βポリペプチドは、様々なIFN-βポリペプチドの単一産物または混合物のいずれかとして製剤化され得る。IFN-βポリペプチドは、薬学的に受容可能な調製物および生理的に適合性のキャリアとともに、臨床および治療用に製剤化される。デキストロース、ヒト血清アルブミンなどのような他の生理的に適合性の化合物もまた製剤化に包含され得る。
【0070】
このIFN-β製剤は0.25mg/ml〜15mg/mlの間の濃度のIFN-βポリペプチドを含有し得る。製剤中に含有されるIFN-βポリペプチドの量は本発明には重要ではなく、特定の適応および送達レジュメのために投与すべき用量に依存する。
【0071】
IFN-βポリペプチドの製剤化に利用され得る糖は、マンニトール、デキストロース、およびスクロースを含む。代表的には、凍結乾燥すべき製剤化には、マンニトールの濃度は1%(wt/v)と5%(wt/v)との間であり;より代表的にはその濃度は約2.5%である。デキストロースの場合、その濃度は0.5%(wt/v)と2%(wt/v)との間であり;より普通にはその濃度は約1.25%(wt/v)である。IFN-βポリペプチドの製剤化の場合、スクロース濃度は1%(wt/v)と5%(wt/v)との間であり;より普通にはその濃度は約1.75%である。
【0072】
IFN-βポリペプチド製剤に含有され得る無晶保護剤(amorphousprotectant)の例は、デキストラン、トレハロース、2-ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン、グリシンのようなアミノ酸、またはヒト血清アルブミンである。これらの保護剤は、酸化などのようなIFN-βポリペプチドに対する物理的および化学的変化を抑制するのに役立つ。効果的な量の無晶保護剤は、IFN-βポリペプチドの所望しない凝集、化学的架橋、酸化、および分解を防ぐ。無晶保護剤は多すぎると効果的な凍結乾燥を妨害し、そして少なすぎると凍結乾燥産物の在庫有効期間を引き下げる。
【0073】
グリシンは、IFN-βポリペプチド製剤に少なくとも0.01%(wt/v)、より普通には少なくとも0.3%(wt/v)の最終濃度で添加され得る。好ましくは、製剤中のグリシン濃度は1%(wt/v)以下であり、より好ましくは0.7%(wt/v)以下である。
【0074】
ヒト血清アルブミン(HSA)もまた製剤中に保護剤として添加され得る。代表的には、HSAはIFN-βポリペプチド製剤に少なくとも0.01%(wt/v)、より普通には少なくとも0.5%(wt/v)の最終濃度で添加され得る。好ましくは、製剤中のグリシン濃度は、2.5%(wt/v)以下であり、より好ましくは1.25%(wt/v)以下である。
【0075】
凍結乾燥、保存、およびIFN-βポリペプチドを再構築する間の製剤のpHを維持するために、緩衝液を使用し得る。pHの維持はIFN-βポリペプチド保存期間中の酸化などのような物理的および化学的変化の防止に重要である。pHはIFN-βポリペプチドの寿命を最適化するためばかりではなく、IFN-βポリペプチドのヒトへの投与を容易にするためにもまた選択される。通常、製剤のpHは、ナトリウム含有緩衝化薬剤を使用する場合にはNaOHで6.0と7.5との間に調整する。より好ましくはpHは6.5に調整する。
【0076】
クエン酸ナトリウムまたはリン酸塩が無晶緩衝液の例である。クエン酸ナトリウムは少なくとも1mM、そしてより好ましくは少なくとも4mMの最終濃度で製剤に添加される。代表的には、製剤中のクエン酸ナトリウムの濃度は10mM以下、そしてより代表的には6mM以下である。
【0077】
IFN-βポリペプチドを所望のように製剤化し、そのような製剤を凍結液体状態または凍結乾燥として保存し得る。IFN-βポリペプチド製剤の保存形態は本発明には重要ではなく、便宜的に選択される。
【0078】
米国特許第5,183,746号には凍結乾燥形態に代わる凍結液体として保存されるIFN-β液体製剤が記載されている。米国特許第5,183,746号に従って、凍結液体製剤はグリセロールと生体適合性の非イオン性高分子界面活性剤との組み合わせおよび製剤を所望のpHに維持するための少量の緩衝剤を含有し得る。
【0079】
好ましいグリセロール濃度は約0.005%〜約5%であり;より好ましくは約0.01%〜約3%;さらにより好ましくは約0.05%〜約1.5%である。グリセロールを液体製剤中に、約5%〜約50%、好ましくは約20%〜約30%、より好ましくは約25%の容量の濃度範囲で液体製剤中に存在させる場合、グリセロールとともに作用する非イオン性界面活性剤の組み合わせを、より低濃度に添加し得、そしてこの好適な濃度は約0.0005%〜約5%、好ましくは約0.001%〜約1%、そしてより好ましくは約0.01%〜約0.5%である。好ましい界面活性剤はSDSである。
【0080】
例えば、液体製剤は当該分野で公知の技術によって凍結乾燥され得る。代表的には、凍結乾燥手順は凍結工程、一次乾燥工程、および二次乾燥工程を包含する。
【0081】
製剤は以下のために凍結される:
(1) タンパク質を凍結する;
(2) 所望しない水を凍結する;そして
(3) タンパク質の再構成を容易にするために、マトリックスを形成させる。
凍結工程の間、製剤成分を凍結させ、そして適切に結晶化させるため、製剤はいくつかの温度シフトを受け得る。Williamsら(J.Parent.Sci.Tech. 38(2):48〜59(1984),49頁,右下段)を参照のこと。これらの温度シフトは常圧で行われ、そしてそれゆえ、これらの温度シフト中に製剤は乾燥しない。
【0082】
製剤内の水を凍結させるため、凍結温度は0℃未満;より代表的には-20℃未満;さらにより代表的にはこの製剤は-50℃未満で凍結される。この製剤を含有するバイアルは、大気圧において、凍結乾燥機中で凍結され得る。製剤の温度は凍結乾燥機内の棚の温度で制御される。代表的には、バイアルを予め冷却した棚(例えば、10℃)に置き、次いで棚の温度を製剤を凍結させるために低下させる。その温度は33℃/時間と約45℃/時間との間の速度で低下され得る。製剤は所望の温度に約30分〜2時間以上の時間放置されるべきである。
【0083】
次に、製剤を一次乾燥工程および二次乾燥工程の2工程で乾燥する。両工程の間、水を固相から気相に直接的に進行させる(すなわち、昇華)ために、チャンバの圧力を強制的に大気圧未満に低下させる。一次乾燥は製剤を凍結後に開始し、そして水の大部分がこの工程で除去される。一次乾燥工程の間中、サンプルチャンバ内の圧力を下げ、そして凍結乾燥機の棚の温度を上昇させ、一次乾燥温度の一定値に維持する。棚の温度を一定に維持し、産物の温度をWilliamsら(上記)の49頁、図1に示してあるように棚の温度と平衡化させる。水蒸気を凍結乾燥機のコンデンサー内に放出し、そして蒸気を再凍結する。
【0084】
サンプルチャンバ内の圧力は「大気圧未満の圧力(subatmosphericpressures)」に低下される。大気圧未満の圧力とは1気圧単位未満の任意の圧力をいう。好ましくは、大気圧未満の圧力とは500μmHgと10μmHgとの間であり;より好ましくは200μmHgと50μmHgとの間であり;さらにより好ましくは約70μmHgである。
【0085】
代表的には、液体製剤または凍結産物の温度は凍結乾燥機の棚の温度を変えることで調節される。サンプル温度は、サンプルが固体であろうがまたは液体であろうが、通常、棚の温度に遅れる。サンプルの温度は二つの技術で目的温度に変化され得る。第一に、棚の温度を変化させ、そしてサンプルが棚の温度と平衡化するまで目的温度に一定に保たせ得る。または、棚の温度を、棚とサンプル間の温度差が最小になるように目的温度へとゆっくりと調整させ得る。いずれの方法もサンプル温度を変化させるには効果的である。その技術の選択は温度変化の所望する速度に依存する。しかし、温度は水が生産物から凍結乾燥するのではなく、蒸発してしまうくらいに速く上昇させるべきではない。
【0086】
代表的には、棚の温度は一次乾燥工程の間は-20℃と-5℃との間に上昇される。その温度は約30℃/時間と約60℃/時間との間の速さで一次乾燥温度に上昇される。製剤は所望の一次乾燥温度に約3から約15時間の間保持される。
【0087】
一次乾燥完了後、再びチャンバ圧減圧下で、棚の温度を二次乾燥温度に上昇させ、次いで一定温度に保持する。棚の温度は産物の温度が棚の温度と平衡化するように一定に保持される。二次乾燥の間に、産物に強く結合している水が除去される。
【0088】
代表的には、棚の温度は二次乾燥の間は15℃と30℃との間に上昇される。その温度は約30℃/時間と約60℃/時間との間の速さで三次乾燥温度に上昇される。製剤は所望の一次乾燥温度に約3から約15時間の間保持される。
【0089】
バイアルは加圧下で種々のガスとともに開栓をされ得る。チャンバは所望のガスで12psiの間に加圧され得る。N2のようなIFN-βポリペプチドの化学修飾を制限するようなガスが好ましい。
【0090】
全ての特許、特許出願、および他の出版物を本明細書中に参考として援用する。
【実施例】
【0091】
C.実施例
以下に示す実施例は、当業者に対するさらなるガイドとして提供するもので、そしていかなる場合も本発明を限定するものとして解釈されるものではない。
【0092】
実施例1: IFN-βポリペプチド生産可能な細胞の構築
Escherichia coli宿主細胞を、IFN-βポリペプチドをコードする遺伝子を含有する発現ベクターで形質転換した。コードしたIFN-βは配列番号1の17位のシステインの代わりにセリンを有する以外、配列番号1と同一配列を有する。本細胞株の構築は本明細書中に参考として援用するMarkら(米国特許第4,518,584号)に記載されている。
【0093】
ヒトIFN-β遺伝子を単離し、改変し、そしてIFN-βポリペプチドを生産し得る細胞を作製する原核細胞宿主E.coliに導入した。天然型IFN-β遺伝子を配列番号1に従って、17アミノ酸位置にシステインの代わりにセリンを有するタンパク質をコードするように改変した。
【0094】
この改変は、システイン残基間の誤ったジスルフィド結合のためにに生じる所望しない三次構造を有するIFN-βポリペプチドの形成を妨げるために行った。システイン17は活性な天然型ヒトIFN-βポリペプチドにおけるジスルフィド結合には参加していない。従って、部位特異的変異は、所望しないジスルフィド結合の形成を防ぐためにシステインをセリンに置換するために使用した。
【0095】
これを実施するため、最初に、天然型ヒトIFN-β遺伝子を単離し、そしてそのリーダーペプチド配列を欠失させた。E.coli trpプロモーター配列を単離し、そしてこれらの成分を組み込んだベクターを構築した。IFN-β遺伝子を、天然型ヒトIFN-βコード配列を含有する一本鎖DNAを生成させるため、バクテリオファージM13mp8にサブクローン化した。17位のアミノ酸システインのコドンを、セリンをコードするように改変した。セリン改変型IFN-βポリペプチド遺伝子を含有するファージDNAを単離した。
【0096】
この改変型遺伝子をファージDNAから切り出し、そして正しい方向にE. colitrpプロモーターを含有するベクターに挿入した。このベクターをプラスミドpSY2501と命名した。E. coli株MM294-1をIFN-βポリペプチドを生産し得る細胞を作製するためこのプラスミドで形質転換した。
【0097】
具体的には、天然型成熟ヒトIFN-βタンパク質およびそのリーダーペプチドをコードする完全配列を含有するクローン4E1を使用した。リーダーペプチドに対する配列を除去するためには、そのクローンをHhaI制限酵素で消化することによりその遺伝子を単離し、そしてIFN-β配列を含有する1.2キロベースの二本鎖HhaIフラグメントを融解して、DNAを一本鎖cDNAへ解離させた。配列TATGAGCTACAAC(配列番号2)を有する合成オリゴヌクレオチドを、そのリーダーペプチド配列に隣接するDNAへハイブリダイズさせるために使用した。オリゴヌクレオチドの5'末端は、開始コドンATGの前にHindIII部位(sight)を生じさせるため、塩基Tで始めた。DNAポリメラーゼI処理(3'→5'エキソヌクレアーゼ活性)でリーダーペプチドをコードする一本鎖DNAを除去した。次いでその酵素のポリメラーゼ活性は、天然型ヒトIFN-β配列を5'平滑末端を有する二本鎖cDNAへと回復させた。PstI制限酵素を修復DNAを切断するために使用し、その結果天然型ヒトIFN-β遺伝子のN末端部分をコードする144塩基対(bp)のフラグメントを生じた。その時IFN-βcDNAは、塩基Tで始まり、成熟タンパク質のN末端メチオニンをコードする開始コドンATGへと続き、そしてその遺伝子のPstI部位で終わる5'平滑末端フラグメントであった。
【0098】
天然型ヒトIFN-β配列の全長を得るため、天然型ヒトIFN-β配列のC末端をコードするフラグメントを、PstIおよびBglII制限酵素で消化し、そして359bpのPstI-BglIIフラグメントを回収することによってオリジナルクローン4E1から分離した。IFN-βcDNAの挿入のための調製において、プラスミドpBR322をHindIII制限酵素で切断し、続いてDNAポリメラーゼI処理によりHindIII部位を平滑化した。次いでBamHI制限酵素を、修復したHindIII-BamHIフラグメントと同様に、開環プラスミド(openplasmid)の一部を除去するために使用した。次いで、N末端をコードするIFN-βフラグメントおよびC末端をコードするIFN-βフラグメントを、3ウェイライゲーション(threeway ligation)で、調製pBR322に挿入した:平滑化したIFN-βのN末端フラグメントの修復5'末端を、修復HindIII部位に連結し、N末端フラグメントの3'PstI末端とC末端をコードするフラグメントの5'PstI末端とが連結され、そしてフラグメントをコードするC末端の3'BglII部位をpBR322内のBamHI平滑末端に連結して、XhoII部位を作製した。得られたクローンをpβ1-25と命名した。
【0099】
プラスミドptrp3がtrpプロモーターの起源であった。trpプロモーターはEcoRIおよびHindIII制限酵素を用いた切断によってptrp3から単離した。これらの酵素もまた使用してプラスミドpβ1-25も切断し、介在するEcoRI-HindIII配列を除去した。EcoRI-HindIIIフラグメントとして、trpプロモーターを含有するフラグメントをpβ1-25に連結した。得られたクローンはpβ1-trpと命名した。
【0100】
部位特異的変異用に、制限酵素HindIIIおよびXhoIIをプラスミドpβ1-trpから天然型ヒトIFN-βコード配列を切り出すために使用した。短い二重鎖部分の複製型(RF)M13mp8ファージDNAをIFN-β配列とともに収容するために制限酵素HindIIIおよびBamHIで切断することによって除去し、次いでその場所にIFN-β配列を連結した。XhoIIおよびBamHIで切断した部位は適合性の粘着末端を有する;この場合得られた連結はXhoII部位を再生した。組換えファージDNAを、M13ファージDNAの生成に一般的に使用される株であるE.coli JM103株のコンピテントセルに形質転換した。IFN-β遺伝子を含有するRFクローンの同定に制限酵素を使用した。そのようなクローンの一つであるM13-β1と命名したクローンを、部位特異的変異用の鋳型として用いる一本鎖ファージDNAを調製するために使用した。
【0101】
必要とされる変異は、合成オリゴヌクレオチドプライマーを作成することによって実施した。その配列:GCAATTTTCAGAGTCAG(配列番号3)は、一つの塩基対がミスマッチである以外は、コドン17の領域周辺のIFN-βのセンス鎖中の17ヌクレオチド配列と同一である。天然型Tに対してAに置換されたプライマーの12位のヌクレオチドにおけるこのミスマッチは、17位のアミノ酸のシステインをセリンに置換する結果をもたらす。この塩基置換はまたセリン-17変異の検出を容易にする新しいHinFI部位も作製した。
【0102】
ファージDNAへの合成プライマーのハイブリダイゼーションに引き続き、E. coliJM103株のコンピテントセルを形質転換するために使用する二本鎖DNA(RF)を形成するため、DNAポリメラーゼIクレノウフラグメントを用いてプライマーエクステンションを行った。形質転換されたE.coliコロニーは、DNAが変異IFN-βser17配列または天然型ヒトIFN-βポリペプチドのいずれかをコードする一本鎖子孫(progeny)ファージを放出した(extruded)。変異IFN-β遺伝子を保有するファージ子孫の選択はプローブとして上記合成プライマーの32P標識型を用いて実行した。そのプローブはCys17のSer17への変異を含むDNA領域に完全に相補的であり、それゆえ変異を保有するファージDNAに最も強くハイブリダイズする。そのプローブにハイブリダイズする1ファージクローンをM13-SY2501と命名した;このクローンにおける新規なHinfI制限部位の検出はまた、正確な1塩基変異の存在を示した。M13-SY2501の一本鎖型のジデオキシ法による配列決定によってTGTCysコドンがAGT Serコドンに変換されていることを確認した。
【0103】
変異IFN-β遺伝子をファージM13-SY2501 RF DNAからHindIIIおよびXhoIIを用いた切断によって切り出した。E.coli trpプロモーターを含有するプラスミドptrp3をHindIIIおよびBamHIで切断し、trpプロモーターのちょうど3'のDNA部分を除去した。これはテトラサイクリン耐性に対するプラスミド遺伝子を不活化した。次いで、IFN-βser17フラグメントをT4DNAリガーゼを用いてptrp3のHindIIIおよびBamHI部位に連結し、そしてその連結DNAをE. coli MM294株へ形質転換した。
【0104】
プラスミドpSy2501をMM294-1と命名したコンピテントなサブバリアントE.coli MM294株に形質転換し、そしてIFN-βser17の発現を確かめた。形質転換した細胞のサンプルをCetus MasterCulture CollectionおよびAmerican Type Culture collection(Rockville, Meryland)ATCC番号39517、に寄託した。
【0105】
上記のように、IFN-βser17遺伝子はtrpプロモータ−の制御下にあり、そしてE.coli内ではマルチコピープラスミドとして存在する。その遺伝子の発現はトリプトファンの細胞内レベルによって測定される。このアミノ酸分子は細胞内trpリプレッサータンパク質と複合体を形成し、そしてこの複合体はtrpプロモーター/オペレーターのオペレーター領域に結合し、IFN-βser17遺伝子の転写を妨害する。それゆえ、細胞内トリプトファン供給源の存在下によって、IFN-βser17の生産は抑制される。細胞培養の間に細胞外トリプトファンは消費され、その濃度は低下する。トリプトファン消費速度は細胞増殖量に比例するため、トリプトファンが十分に消費された時点の細胞密度は予測され得る。この時点で、プロモーター/オペレーター領域はtrpリプレッサー/トリプトファン複合体から解放され、そしてRNAポリメラーゼはIFN-βser17遺伝子を転写可能となる。クローン化したtrpプロモーターは、転写されたIFN-βser17mRNAがE. coliのリボソームで翻訳されるようにリボソーム結合部位配列を含む。この同じtrpプロモーター系がトリプトファンの生合成に必要なタンパク質の発現もまた制御するので、細胞は細胞外の供給源がなくてもトリプトファンの適切な供給を維持し得る。
【0106】
プラスミドptrp3を100bpの修復(平滑末端化)HhaI-TaqI部分フラグメントとして、プラスミドpVV1からE.coli trpプロモーターをサブクローニングすることにより作製した。それをEcoRIおよびClaI部位を再生するようにpBR322の修復化(平滑末端化)EcoRI-ClaI部位に挿入した。
【0107】
IFN-βser17の生産に使用した株は、起源的にはMM294株由来のMM294-1として知られるE.coli K-12株である。Meselson1はMM294(1100.293とも呼ばれる)の特徴であり、そしてそれが、形質転換用の株を作るのに有用な特性である外来DNAを破壊する酵素を欠いていることを同定した。この株はチアミン以外は特定の栄養要求性はなく、発酵容器中でチアミンを補充した最小培地で急速に増殖することを可能にする。
【0108】
変異種MM-294を、IFN-βプラスミドpSY201で形質転換し、そしてIFN-β遺伝子の発現レベルがMM294とは異なるMM294のIFN-β生産クローンから単離した。pSY2101プラスミドは、この培養においてIFN-βを他のMM294クローンにおけるよりも高レベルで発現した。それにはCys17を有する天然型ヒトIFN-βポリペプチドをコードするpSY2101プラスミドを除去することが必要であった。細菌を、発現条件下での培養および抗生物質耐性を失ったコロニーを選択するレプリカプレーティングによってpSY2101プラスミドを除去した(cured)。単離した宿主をMM294-1と命名した。
【0109】
その子孫を含有するpSY2501およびpβ1trpの培養物を吸光度(OD600)=1.0まで生育させた。無細胞抽出液を調製し、そしてIFN-βの抗ウイルス活性の量をGM2767細胞によるマイクロタイターアッセイにおいてアッセイした。クローンpSY2501の抽出液はpβ1trpよりも3〜10倍高い活性を示し(表1)、そのことはクローンpSY2501がIFN-β活性を示すより多いタンパク質を合成するか、あるいはその作られたタンパク質がより高い比活性を有することを示す。
【0110】
回収した生産物はウイルス防御に基づくアッセイを用いる天然型ヒトIFN-β活性用にアッセイした。その手順はマイクロタイタープレート中で実施した。最初に、50μLの最小必須培地を各ウエルにチャージし、そして25μLのサンプルを最初のウエルにのせ、そして1:3の容量希釈を続くウエルに順次行った。水疱性口内炎ウイルス、ヒト繊維芽細胞株GM-2767、および参照IFN-βコントロールを各プレートに含有させた。用いた参照IFN-βは1mL当たり100単位であった。次いで、そのプレートを10分間UV照射した。照射後、細胞懸濁液(1.2×105細胞/ml)10μlを各ウエルに添加し、そしてトレイを18〜24時間インキュベートした。1細胞当たり1プラーク形成単位のウイルス溶液をコントロール細胞を除いて、各ウエルに添加した。次いでトレイをウイルスコントロールが100%(CPE)を示すまでインキュベートした。これは通常、ウイルス溶液添加後、18〜24時間で起こった。アッセイ結果は、参照IFN-βコントロールの50%CPEウエルの位置の関連して解釈した。このポイントからプレート上の全サンプルに対するインターフェロンの力価を決定した。
【0111】
ser17置換を有するIFN-βポリペプチドもまた、その抗ウイルス活性を天然型ヒトIFN-βと比較した。二倍体包皮繊維芽細胞(HS27F)中での水疱性口内炎ウイルスの複製阻害は通常分子の阻害と区別がつかなかった。同様に、天然型および変異型タンパク質によるHS27F繊維芽細胞中での単純疱疹ウイルス1型の阻害は類似していた。この手順および結果はMarkら(Proc.Natl. Acad. Sci. USA 81:5662〜5666(1984))に記載された。
【0112】
連続的継代細胞系に対するser17置換IFN-βポリペプチドの抗増殖活性を、天然型ヒトIFN-βと比較した。移行上皮癌由来のT24細胞を200単位/mlのタンパク質で処理した。細胞増殖は両タンパク質によって有意に(p>0.2)阻害された。この手順および結果はMarkら(Proc.Natl. Acad. Sci. USA 81:5662〜5666(1984))に記載された。
【0113】
ser17置換IFN-βポリペプチドのナチュラルキラー(NK)細胞活性(自然発生的細胞媒介性細胞傷害性)の刺激能を試験した。IFN-βポリペプチドを二つの細胞タイプを用いて試験した:(1)フィコール-ハイパック(Ficoll-hypaque)で分離した末梢ヒト単核細胞(PMC);あるいは(2)プラスチック接着による単球およびOKT3抗体+補体の処理によるOKT3陽性T細胞を欠如したNKリッチなリンパ球調製物。細胞を様々な濃度のser17置換IFN-βポリペプチドを含有する増殖培地中で一晩インキュベートした。51CR標識標的細胞をエフェクター細胞とともに2〜4時間インキュベートした。標的細胞に対するエフェクター細胞の比は50:1であった。NK細胞傷害性は培地中へと放出された標識物の量を測定することによって決定した。この手順および結果はMarkら(Proc.Natl. Acad. Sci. USA 81:5662〜5666(1984))に記載された。
【0114】
実施例2: コントロール実験
この実験は、高濃度のカリウムおよびナトリウムカチオン、および効果的な非制限エネルギー供給源としてのグルコースを含む条件下でのIFN-βポリペプチドを生産し得る細胞の培養(fermentation)に関する。さらに、細胞は37℃および滴定剤としてKOHを用い、pH6.8で培養した。
【0115】
実施例1に記載したpSY2501で形質転換したE. coli MM294-1細胞株を以下の培地で培養した:
化合物 g/L水.....................8L
リン酸カリウム(一塩基物).....................................2.94
硫酸アンモニウム.............................................9.52
クエン酸ナトリウム..........................................0.441
硫酸マグネシウム(7水和物)..................................0.492
硫酸鉄(7水和物)...........................................0.0278
硫酸マンガン(1水和物)....................................0.00508
硫酸亜鉛(7水和物)........................................0.00864
硫酸第二銅(7水和物)......................................0.00025
トリプトファン...............................................0.07
チアミン.....................................................0.02
グルコース...................................................50.0

細胞は滴定剤として水酸化カリウムを用いて培養を通してpH6.8に維持した。さらに細胞は40%の溶存酸素、37℃で培養した。
【0116】
これらの手順に従う代表的な培養運転の場合、平均約350mg/LのIFN-βポリペプチドの生産があった。さらに、総細胞タンパク質の平均約5%がIFN-βポリペプチドであった。IFN-βポリペプチド濃度はIFN-βポリペプチド標準物を用いたSDS-PAGE分析によって決定した。総タンパク質含量は標準的なLowryプロトコルを用いてアッセイした。
【0117】
実施例3: 細胞増殖およびIFN-βポリペプチド生産におけるカリウム濃度の影響
これらの発酵容器実験は、IFN-βポリペプチド生産能のある細胞の増殖および細胞の生産がK+カチオン濃度によって制限されることを明らかにした。実施例1に記載のpSY2501で形質転換したE.coli MM294株細胞を、ナトリウムカチオン濃度は固定し、様々なカリウムカチオン濃度を有する下記の基礎培地で培養した。 実施例1に記載のpSY2501で形質転換したE.coli MM294株細胞を、下の、ナトリウムカチオンの濃度を固定し、様々な量のカリウムカチオンを添加した基礎培地で培養した。
【0118】
細胞は下記の三つの培地の一つで培養した:
約40 mMカリウムカチオン培地
4.4mM クエン酸カリウム
26.8 mM KH2PO4
66.8 mM (NH4)2SO4
33.2 mM NH4H2PO4
10 mM MgSO4
2 g/L グルコース
20 g/L グリセロール
140 mg/L トリプトファン
24 mg/L チアミン
4.7 mL/L BTM(微量元素)。
【0119】
約75 mMカリウムカチオン培地
4.4mM クエン酸カリウム
35 mM KH2PO4
72 mM (NH4)2SO4
5 mM MgSO4
2 g/L グルコース
20 g/L グリセロール
30 mM KCl
70 mg/L トリプトファン
24 mg/L チアミン
50 mg/L アンピシリン
4.7 mL/L BTM(微量元素)
OD680=40で5mM MgSO4および15mM KH2PO4を添加した。
【0120】
約120 mMカリウムカチオン培地
4.4mM クエン酸カリウム
35 mM KH2PO4
72 mM (NH4)2SO4
5 mM MgSO4
2 g/L グルコース
20 g/L グリセロール
60 mM KCl
70 mg/L トリプトファン
24 mg/L チアミン
4.7 mL/L BTM(微量元素)
OD680=32で5mM MgSO4、15mM KH2PO4および40 mM (NH4)2SO4を添加した。
【0121】
10mLのポリプロピレングリコール消泡剤(antiform)を添加し、そしてこの発酵容器に約10mg(乾燥重量)の細胞を接種した。
【0122】
発酵培地は7.4N NH4OHでpH5.7に維持した。50%グリセロール(v/v)を水酸化アンモニウムと3.5:1の比で供給した。フィードリザーバー(feedreservoir)中の初発グリセロール容量は発酵容器の作動容積(working volume)を150mL/Lにするべきである。温度は37℃に維持した。細胞は吸光度OD680単位=16に達した7時間後に収穫した。
【0123】
各培養は以下のおおよそのカリウムカチオン濃度の一つを含む:40mM、75mM、および120mM。各培養で得られた増殖速度およびIFN-βポリペプチド生産速度を図1および2に示す。23.5時間で、75mM培養は、120mM培養の35単位と比較して、2倍を超える約85単位の吸光度(OD680)に到達した。
【0124】
75mM培養は40mM培養よりもより高い細胞密度に増殖したが、40mM培養は、75mM培養が1200μg/mLを若干下回る生産しかしなかったのと対照的に、ほとんど2000μg/mLのIFN-βポリペプチドを生産した。IFN-βポリペプチドの生産は、75mMK+の代わりに40mM K+を用いた場合、約60%増大した。120mM培養はIFN-βポリペプチドをほとんど生産しなかった。
【0125】
IFN-βポリペプチドの生産レベルはクマーシーにより染色したSDS-PAGE分析法により測定した。
【0126】
実施例4: 細胞増殖およびIFN-βポリペプチド生産におけるカリウムおよびナトリウム濃度の影響
以下の振盪フラスコ実験はIFN-βポリペプチド生産可能細胞がカリウムおよびナトリウムカチオン濃度に感受性であることを示した。
【0127】
実施例1に記載のpSY2501で形質転換したE. coli MM294株細胞を、下の、様々な量のカリウムおよびナトリウムカチオンを添加した基礎培地で培養した。
【0128】
以下の基礎培地はカリウム/ナトリウムカチオン実験用に使用した:
4.4 mM クエン酸アンモニウム
40 mM (NH4)2SO4
35 mM NH4H2PO4
6 mM MgSO4
5 g/L グリセロール
24 mg/L チアミン
4.7 mL/L BTM(微量元素)
50mM MES緩衝液
BTMの成分は実施例2に記載したものと同じ。
ナトリウムおよびカリウムは個々のフラスコにKClおよびNaClとして所望の濃度
まで添加された。
【0129】
細胞は発酵容器中トリプトファンを含有する規定の培地で対数増殖期まで培養した。次いで細胞を所望のカリウムおよびナトリウムカチオン濃度を有する上記基礎培地に所望の細胞密度で接種した。この培地を滅菌振盪フラスコに加えた。
【0130】
各培養は次のカリウムおよびマトリウム塩濃度の一つを含有した。40mM K+/0mM Na+、30mM K+/10mM Na+、20mM K+/20mMNa+、10mM K+/30mM Na+、0mM K+/40mM Na+。各培養の得られたIFN-βポリペプチド生産速度を図3に示す。K+カチオン無しおよび40mMNa+の培養では総細胞タンパク質1mg当たり約50μgのIFN-βポリペプチドが生産された。40mM K+/0mMNa+の培養では総細胞タンパク質1mg当たり約90μgのIFN-βポリペプチドが生産された。これは約80%の収量の向上である。
【0131】
IFN-βポリペプチド濃度はELISAによって測定した。総タンパク質濃度はBCAアッセイ(PierceChemical)を用いてアッセイした。細胞密度はクレット単位(Klett units)を用いて測定した。
【0132】
実施例5: IFN-βポリペプチド生産誘導後の細胞増殖におけるpHの影響
これらの振盪フラスコ実験はIFN-β生産誘導後の細胞増殖が高いpHによって制限されることを証明した。
【0133】
実施例1に記載のpSY2501で形質転換したE. coli MM294-1株細胞を、下の、様々なpHに滴定した基礎培地で培養した。
【0134】
これらの実験用に、以下の基礎培地を使用し、そしてNH4OHまたはHClのいずれかで所望のpHに調製した。
【0135】
12 mM NH4Cl
26.3 mM KH2PO4
33.7 mM Na2HPO4
10.8 mM K2SO4
0.24 mM MgSO4
5 g/L グリセロール
3.6 μM ZnSO4
3.6 μM MnSO4
0.12 μM CuSO4
50 mM MES 緩衝液
細胞をトリプトファンを含有する前培養培地で対数増殖期まで増殖させた。前培養の期間培養物は様々な所望pHに維持した。次いで細胞を遠心によって分離し、そして次に所望のpHの培地に再懸濁した。温度は37℃に維持した。得られた誘導前後の増殖速度を図4および5に示した。増殖速度は誘導前には有意な変化は示さなかった。しかし、試験した最も高いpH6.6での最終細胞密度は約35であった。培養pHの低下とともに最終細胞密度は増加した。最大細胞密度約110はpH5.4の培養において見られた。これは細胞増殖においては4倍より大きい増加である。しかし、pH5.1で細胞増殖速度は低下した。
【0136】
実施例6: IFN-βポリペプチド生産における異なった非制限エネルギー源の影響
これらの実験は効果的な非制限エネルギー源としてのグリセロールの使用がIFN-βポリペプチド生産速度を上昇させ得ることを証明した。
【0137】
実施例1に記載のpSY2501で形質転換したE. coli MM294株細胞を、効果的、非制限エネルギー源としてグリセロール、フルクトース、またはグルコースのいずれかとともに、下の培地で培養した。
【0138】
グルコース培地
6.6 mM クエン酸カリウム
35 mM KH2PO4
36 mM (NH4)2SO4
5 mM MgSO4
70 mg/L トリプトファン
24 mg/L チアミン
50 mg/L アンピシリン
4.7mL/L BTM(微量元素)
20 g/L グルコース
4 mM MgSO4をOD680=37で添加した。
【0139】
グリセロール/フルクトース培地
4.4 mM クエン酸カリウム
35 mM KH2PO4
72 mM (NH4)2SO4
5 mM MgSO4
2 g/L グルコース
20 g/L グリセロール
30 mM KCl
70 mg/L トリプトファン
24 mg/L チアミン
50 mg/L アンピシリン
4.7 mL/L BTM(微量元素)
フルクトース培養用には、5mM MgSO4、15mM KH2PO4、および20mM(NH4)2SO4をOD680=40の時点で添加した。
グリセロール培養用には、5mM MgSO4および15mM KH2PO4をOD680=40の時点で添加した。
【0140】
各培養用に、10mlのPPG消泡剤を添加しそして発酵容器に10〜20mg(乾燥重量)
の細胞を接種した。培養培地は、pH5.4に維持したグルコース培地以外は、7.4N NH4OHでpH5.7に維持した。50%(v/v)グリセロール、フルクトース、またはグルコースを水酸化アンモニウムと3.5:1の割合で添加した。温度は37℃に維持した。細胞は培養中の様々な時点で採取した。
【0141】
フルクトース培養ではIFN-βポリペプチド生産はほとんど検出されなかった。グリセロール培養では、グルコース培養が0.6mg/Lしか生産されなかったのに対し、1.6mg/LのIFN-βポリペプチド生産があった。これは約2.6倍の増加である。その結果を図6に示す。
【0142】
IFN-βポリペプチド濃度はIFN-βポリペプチドを標準物質として用い、SDS-PAGEによって測定した。
【0143】
実施例7: IFN-βポリペプチド生産における温度の影響
これらの発酵容器実験はIFN-βポリペプチド生産速度が温度とともに上昇することを示した。
【0144】
実施例1に記載のpSY2501で形質転換したE. coli MM294株細胞を、様々な温度で、下の培地で培養した:
4.4 mM クエン酸カリウム
26.8 mM KH2PO4
25.9 mM (NH4)2SO4
48.2 mM NH4H2PO4
10 mM MgSO4
2 g/L グルコース
20 g/L グリセロール
140 mg/L トリプトファン
24 mg/L チアミン
4.7 mL/L BTM(微量元素)。
【0145】
各発酵容器に、10mlのPPG消泡剤(製造者)を添加しそして発酵容器に10〜20mg(乾燥重量)の細胞を接種した。
【0146】
培養培地は、7.4N NH4OHでpH5.7に維持した。50%(v/v)グリセロールを、水酸化アンモニウムと3.5:1の割合で添加した。温度は34℃または37℃または40℃に維持した。
【0147】
異なった培養物の増殖速度は大きくは変化しなかった。しかし、温度の上昇とともに、総細胞タンパク質に比較したIFN-βポリペプチドの収量もまた増大した。
34℃では生産されたタンパク質の8.5%がIFN-βポリペプチドであった。37℃および40℃では、生産された総タンパク質の10.5%および13.5%が、それぞれIFN-βポリペプチドであった。実施例2に記載のコントロール実験ではIFN-βポリペプチドは総タンパク質の5.1%でしかなかった。
【0148】
IFN-βポリペプチド濃度はIFN-βポリペプチド標準物を用いたSDS-PAGE分析によって測定した。総タンパク質濃度はBCAによりアッセイした。
【0149】
実施例8: 最終方法および培養条件
以下の培養手順は低カリウムおよびナトリウムカチオン濃度、低pH、高温、および効果的非制限エネルギー源としてのグリセロールを組み込んでいる。この培養手順による平均IFN-βポリペプチド生産は実施例2に記載の手順の生産の5〜6倍良好であった。
【0150】
実施例1に記載のpSY2501で形質転換したE. coli MM294-1株細胞が、この培養手順に使用した細胞である。
【0151】
10L発酵容器用には、初めに50%(v/v)グリセロール900mlを2L容器に加えそして、脱イオン水(DI)で約1.2Lの最終容量にした。2L容器には以下の成分を列挙した順番に添加した。各成分は次の物を加える前に完全に溶解した。
【0152】
クエン酸カリウム(式量=306.4).............................11.5g
(1水和物の場合12.1g)
BTM........................................................40mL
グルコース..................................................17g
KH2PO4(式量=136.1)........................................31.0g
NH4H2PO4(式量=115)........................................47.1g
(NH4)2SO4(式量=132.1).....................................29.1g
MgSO4・7H2O(式量=246.5)...................................21.0g
チアミン・HCl.............................................204mg
L-トリプトファン...........................................1.19g
この溶液を最終容量1.5Lにしそして濾過滅菌した。BTMは微量元素混合物である。BTMの組成は以下の通りである:
100 mM FeCl3
9.6 mM ZnCl2
8.4 mM CoCl2
8.3 mM Na2MoO4
6.8 mM CaCl2
7.4 mM CuCl2
2.5 mM H3BO3
10%HCl中。
【0153】
この溶液を約7.0LのDI水を含む滅菌発酵容器に加えた。次に、発酵容器中のこの溶液をDI水で最終容量9.0Lにした。PPG消泡剤10mLを加え、そしてその発酵容器に10〜20mg(乾燥重量)の細胞を接種した。
【0154】
発酵培地は7.4N NH4OHでpH5.7に維持した。50%(v/v)グリセロールを水酸化アンモニウムと3.5:1の割合で加えた。ロイシンおよびイソロイシンもまたグリセロールおよび塩基とともに宿主細胞に加えた。これらのアミノ酸は7.4NNH4OH700mLにそれぞれ26.4gのイソロイシンおよび19.7gのロイシンを加えることによって供給する。塩基とアミノ酸のこの混合物は培地のpHを維持するのに使用した。フィードリザーバー中の初発グリセロール容量は1500mLにするべきである。温度は39.5℃に維持した。細胞はOD680単位=16の吸光度に到達した後、7時間後に採取した。
【0155】
これらの手順に従う代表的な培養運転で、平均0.35g/Lを生産した実施例2に記載したコントロール培養に比べ、平均〜2.0〜2.5g/LのIFN-βポリペプチドを生産した。これらの培養条件はコントロールの培養条件より5〜6倍を超える生産を示した。さらに、これらの手順を利用すると、コントロール培養が平均〜5.1%であるのに比べ、総細胞タンパク質の平均〜11.5%がIFN-βポリペプチドであった。このように、この手順によって生産されたIFN-βポリペプチドは約2倍を超える純度を有する。
【0156】
寄託情報:
以下の材料をアメリカンタイプカルチャーコレクションに寄託した。
細胞株 寄託日 アクセッション番号
E. coli MM294-1株 1983年11月18日 39517
pSY2501で形質転換された
上記の材料をアメリカンタイプカルチャーコレクション(Rockville,Maryland)に示したアクセッション番号で寄託した。この寄託物は特許手続き上の微生物の寄託の国際的承認に関するブダペスト条約の協約下で維持される。この寄託物はこの特許の公布後30年間あるいは特許の実施耐用期間中のどちらか長い方の期間維持される。この特許の配給上で、この寄託物は制限無しに、ATCCから公に入手可能となる。
【0157】
これらの寄託物は当業者に単に便利なものとして供給されるものではなく、この寄託物は35米国特許法112条の下で要求される許可ではない。寄託された物質内に含まれるポリペプチドの配列、およびそのコードされたポリペプチドのアミノ酸配列は本明細書中で参考として援用され、そして本明細書中に記載されたものと対立する場合コントロールされる。寄託物を作製、使用、または売却するためには許可が要求され得、そのようなライセンスは本明細書では許可されない。
【0158】
(配列表)
【0159】
【数1】

【0160】
【数2】

【0161】
【数3】

【図面の簡単な説明】
【0162】
【図1】図1は増殖に及ぼすカリウム濃度の影響を示す。
【図2】図2はポリペプチド発現に及ぼすカリウム濃度の影響を示す。
【図3】図3はIFN-βポリペプチド(疎水性ポリペプチドの一例)の発現に及ぼすK+/Na+の影響を示す。
【図4】図4は誘導前の細胞増殖に及ぼすpHの影響を示す。
【図5】図5は誘導後の細胞増殖に及ぼすpHの影響を示す。
【図6】図6は細胞増殖およびポリペプチド発現に及ぼす炭素源の影響を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Escherichia coli宿主細胞においてインターフェロン-βを生産するための方法であって、
(a) インターフェロン-βポリペプチドを生産し得るEscherichia coli宿主細胞を提供する工程;および
(b) インターフェロン-βポリペプチドの生産の誘導に効果的な条件下で細胞を培養する工程であって、該条件は、93.2mM以下のカリウムカチオンと、100μM以下のナトリウムカチオンとを含有する培地で該細胞を培養することを包含し、該培地のpHは、5.4と6.0との間に維持される、工程
を包含する、方法。
【請求項2】
前記カリウムカチオン濃度が40mM以下である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ナトリウムカチオン濃度が50μM以下である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記培地がグリセロールを含有する、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記グリセロール濃度が2g/Lと100g/Lとの間である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記培養条件が34℃と42℃との間で培養することを包含する、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記培養条件が34℃と42℃との間で培養することを包含する、請求項4に記載の方法。
【請求項8】
前記培地がグルコースをさらに含有する、請求項1または4に記載の方法。
【請求項9】
前記インターフェロン-βポリペプチドのアミノ酸配列が配列番号1であり、アミノ酸17がセリンである、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記培地がインターフェロン-β生産の誘導期に5.4と5.7との間のpHに維持される、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記培地がインターフェロン-β生産の誘導期に5.4と5.7との間のpHである、請求項4に記載の方法。
【請求項12】
前記培地がインターフェロン-β生産の誘導期に5.4と5.7との間のpHである、請求項7に記載の方法。
【請求項13】
インターフェロン-βポリペプチドを生産するための組成物であって、
(a) インターフェロン-βを生産し得るEscherichia coli細胞;および
(b) 以下を包含する培地:
(i) 93.2mM以下のKカチオン;
(ii) 100μM以下のNaカチオン;および
(iii) 2g/Lと100g/Lとの間のグリセロール
を含有し、該培地のpHが5.4と5.7との間である、組成物。
【請求項14】
前記カリウムカチオン濃度が10mM以上である、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記カリウムカチオン濃度が10mM以上である、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記カリウムカチオン濃度が40mM以下であり、かつ10mM以上である、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記カリウムカチオン濃度が40mM以上である、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
前記宿主細胞がE.coli株MM294-1(ATCC受託番号39515)である、請求項9に記載の方法。
【請求項19】
前記宿主細胞がプラスミドpSY2501を含むベクターで形質転換されている細胞(ATCC受託番号39517)である、請求項18に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−86331(P2008−86331A)
【公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−335384(P2007−335384)
【出願日】平成19年12月26日(2007.12.26)
【分割の表示】特願平9−501544の分割
【原出願日】平成8年6月5日(1996.6.5)
【出願人】(591076811)カイロン コーポレイション (265)
【Fターム(参考)】