説明

疲労状態解析装置及び疲労状態解析プログラム

【課題】 測定対象物の摩耗を考慮して疲労寿命を定量的に評価し管理することができる疲労状態解析装置及び疲労状態解析プログラムを提供する。
【解決手段】 S300において、ひずみ波形からひずみ振幅及び平均ひずみをひずみ振幅/平均ひずみ抽出部が抽出し、S400においてひずみ振幅及び平均ひずみに基づいて等価応力演算部が等価応力を演算する。S500において、等価S-N曲線が読み出されて、S600においてこの等価S-N曲線及び等価応力に基づいて累積疲労損傷度を累積疲労損傷度演算部が演算する。S700において、トロリ線の疲労状態を疲労状態判定部が判定する。その結果、例えば、トロリ線の実働波形に含まれる平均ひずみを考慮してトロリ線の疲労状態を解析することができるため、トロリ線の摩耗を考慮して疲労寿命を定量的に評価し管理することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、測定対象物の疲労状態を解析する疲労状態解析装置及び疲労状態解析プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両のパンタグラフ(集電装置)がしゅう動するトロリ線には、このパンタグラフの通過時に湾曲して表面に曲げ応力(トロリ線応力)が作用し、パンタグラフが通過するたびに繰返し応力を受けるとトロリ線が疲労破壊するおそれがある。このため、トロリ線の疲労を評価し管理することが求められている。従来、トロリ線の疲労管理は、S-N曲線と修正グッドマン線図とに基づいて定められており、パンタグラフ通過時の最大曲げひずみの目安値を500×10-6とし、500×10-6を超える場合にはパンタグラフ通過数による疲労寿命管理を行っている。しかし、実際にトロリ線に発生する曲げひずみ波形には、最大値以外の曲げひずみ成分の数があり、またその値、数によってはトロリ線の疲労寿命に影響を及ぼすのではという懸念がある。そのため、従来のトロリ線の疲労管理手法を改善する必要がある。例えば、従来の疲労状態解析方法は、レインフロー法を適用して、累積疲労損傷度を評価しトロリ線の疲労寿命を評価している(例えば、非特許文献1参照)。また、従来の疲労状態解析方法は、金属材料、高分子材料、セラミックスなどの長期にわたる荷重の繰返し変動によって生ずる疲労現象を、ひずみとその頻度を測定してレインフロー法によって処理し解析している(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
【非特許文献1】「トロリ線疲労評価に対するレインフロー法適用の検討」、貴志 俊英 他、電気学会研究会資料 TER-04-29 2004.6.10
【0004】
【特許文献1】特開平9-264706号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
トロリ線は、パンタグラフのすり板とのしゅう動によって摩耗する。この摩耗によってトロリ線断面積減少に起因する平均応力(平均ひずみ)が増加し、トロリ線の疲労特性が変化する。しかし、従来の疲労状態評価方法では、この摩耗の影響を考慮していない。また、従来の疲労状態評価方法では、実働ひずみ波形に含まれる最大値以外の曲げひずみ成分を考慮していない。このため、従来の疲労状態評価方法では、刻々と摩耗していくトロリ線の疲労寿命を厳密に評価することができない問題点がある。
【0006】
この発明の課題は、測定対象物の実働ひずみ波形と残存断面積を考慮して疲労寿命を定量的に評価し管理することができる疲労状態解析装置及び疲労状態解析プログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明は、以下に記載するような解決手段により、前記課題を解決する。
なお、この発明の実施形態に対応する符号を付して説明するが、この実施形態に限定するものではない。
請求項1の発明は、測定対象物(C1)の疲労状態を解析する疲労状態解析装置であって、前記測定対象物のひずみの時間変化を表すひずみ波形に基づいて、ひずみ振幅(εa)と平均ひずみ(εm)とを抽出するひずみ振幅/平均ひずみ抽出部(4c)と、前記ひずみ振幅と前記平均ひずみとに基づいて等価応力(σe)を演算する等価応力演算部(4e)と、前記等価応力と等価S-N曲線とに基づいて前記測定対象物の累積疲労損傷度(Ri)を演算する累積疲労損傷度演算部(4h)とを備える疲労状態解析装置(4)である。
【0008】
請求項2の発明は、請求項1に記載の疲労状態解析装置において、前記ひずみ振幅/平均ひずみ抽出部は、レインフロー法に基づいて前記ひずみ振幅と前記平均ひずみとを抽出することを特徴とする疲労状態解析装置である。
【0009】
請求項3の発明は、請求項1又は請求項2に記載の疲労状態解析装置において、前記累積疲労損傷度演算部は、修正マイナー法に基づいて前記累積疲労損傷度を演算することを特徴とする疲労状態解析装置である。
【0010】
請求項4の発明は、測定対象物(C1)の疲労状態を解析するための疲労状態解析プログラムであって、前記測定対象物のひずみの時間変化を表すひずみ波形に基づいて、ひずみ振幅(εa)と平均ひずみ(εm)とを抽出するひずみ振幅/平均ひずみ抽出手順(S300)と、前記ひずみ振幅と前記平均ひずみとに基づいて等価応力(σe)を演算する等価応力演算手順(S400)と、前記等価応力と等価S-N曲線とに基づいて前記測定対象物の累積疲労損傷度(Ri)を演算する累積疲労損傷度演算手順(S600)とをコンピュータに実行させる疲労状態解析プログラムである。
【0011】
請求項5の発明は、請求項4に記載の疲労状態解析プログラムにおいて、前記ひずみ振幅/平均ひずみ抽出手順は、レインフロー法に基づいて前記ひずみ振幅と前記平均ひずみとを抽出する手順を含むことを特徴とする疲労状態解析プログラムである。
【0012】
請求項6の発明は、請求項4又は請求項5に記載の疲労状態解析プログラムにおいて、前記累積疲労損傷度演算手順は、修正マイナー法に基づいて前記累積疲労損傷度を演算する手順を含むことを特徴とする疲労状態解析プログラムである。
【発明の効果】
【0013】
この発明によると、測定対象物の実働ひずみ波形と残存断面積を考慮して疲労寿命を定量的に評価し管理することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、図面を参照して、この発明の実施形態について詳しく説明する。
図1は、この発明の実施形態に係る疲労状態解析装置を備える疲労状態解析システムの構成図である。
図1に示す車両Tは、電車や電気機関車などの電気車(鉄道車両)であり、架線Cのトロリ線C1から電力を車両Tに導くパンタグラフ(集電装置)T1と、トロリ線C1と接触移動するすり板T2などを備えている。図1に示す架線Cは、線路上空に架設される架空電車線であり、所定の間隔をあけて支持構造物によって支持点で支持されている。トロリ線C1は、パンタグラフT1のすり板T2が接触する電線であり、すり板T2が接触移動することによって車両Tに負荷電流を供給する。
【0015】
疲労状態解析システム1は、トロリ線C1の疲労状態を解析するシステムである。疲労状態解析システム1は、トロリ線C1のひずみを測定して、この測定結果に基づいてトロリ線C1の累積疲労損傷度などを演算する。疲労状態解析システム1は、図1に示すように、ひずみ測定装置2と、通信装置3と、疲労状態解析装置4と、表示装置5と、印刷装置6などを備えている。
【0016】
ひずみ測定装置2は、トロリ線C1のひずみを測定する装置である。ひずみ測定装置2は、例えば、新幹線などの車両TのパンタグラフT1が通過するときにトロリ線C1に発生するひずみを測定する。ひずみ測定装置2は、図1に示すように、ひずみ検出部2aと、ひずみデータ記録部2bと、ひずみデータ送信部2cと、制御部2dなどを備えている。ひずみ測定装置2は、複数の地点でトロリ線C1のひずみを測定可能なように、車両Tが走行する軌道に沿って数箇所に配置されている。
【0017】
ひずみ検出部2aは、トロリ線C1のひずみを検出する手段であり、トロリ線C1に取り付けられたひずみゲージなどである。ひずみ検出部2aは、パンタグラフT1が通過するときにトロリ線C1に発生するひずみを検出し、このひずみに応じた電気信号(ひずみデータ)を制御部2dに出力する。ひずみデータ記録部2bは、ひずみ検出部2aの検出結果を記録する手段であり、パンタグラフT1が通過する毎に検出されるひずみデータをメモリに記録する。ひずみデータ送信部2cは、ひずみデータ記録部2bが記録したひずみデータを送信する手段である。制御部2dは、ひずみ測定装置2の種々の動作を制御する中央処理部(CPU)である。制御部2dは、例えば、ひずみ検出部2aが出力するひずみデータを所定の処理をしてひずみデータ記録部2bに記録させたり、疲労状態解析装置4の制御部4nからの送信指令に基づいてひずみデータ記録部2bからひずみデータを読み出してひずみデータ送信部2cから送信させたりする。
【0018】
通信装置3は、種々のデータを伝達するための装置である。通信装置3は、複数箇所に配置されたひずみ測定装置2と疲労状態解析装置4とを通信可能に接続する電気通信回線などである。
【0019】
疲労状態解析装置4は、トロリ線C1の疲労状態を解析する装置である。疲労状態解析装置4は、レインフロー法によってひずみ波形を計数し、ひずみ振幅及び平均ひずみを抽出して等価応力を演算し、この等価応力と等価S-N曲線とからトロリ線C1の累積疲労損傷度を演算する。疲労状態解析装置4は、図1に示すように、ひずみデータ受信部4aと、ひずみデータ記憶部4bと、ひずみ振幅/平均ひずみ抽出部4cと、ひずみ振幅/平均ひずみデータ記憶部4dと、等価応力演算部4eと、等価応力データ記憶部4fと、等価S-N曲線データ記憶部4gと、累積疲労損傷度演算部4hと、累積疲労損傷度データ記憶部4iと、疲労状態判定部4jと、プログラム読込部4kと、プログラム記憶部4mと、制御部4nなどを備えている。
【0020】
ひずみデータ受信部4aは、ひずみ測定装置2のひずみデータ送信部2cが送信するひずみデータを受信する手段である。ひずみデータ受信部4aは、受信したひずみデータを制御部4nに出力する。
【0021】
図2は、この発明の実施形態に係る疲労状態解析装置のひずみデータ記憶部のデータ構造の模式図である。
図1に示すひずみデータ記憶部4bは、ひずみデータ受信部4aが受信したひずみデータを記憶する手段である。図2に示す波形は、トロリ線C1のひずみの時間変化を表すひずみ波形であり、縦軸はひずみ(曲げひずみ)であり横軸は時間である。ひずみデータ記憶部4bは、図2に示すように、パンタグラフT1が通過する毎にトロリ線C1に発生するひずみ波形を数値化してひずみ波形データとして時系列順にメモリに記憶している。ひずみデータ記憶部4bは、各ひずみ波形データを特定するためのデータ測定日、データ測定時刻及びデータ測定地点などのデータ特定情報を各ひずみデータと対応させて記憶する。
【0022】
図3は、この発明の実施形態に係る疲労状態解析装置のひずみ振幅/平均ひずみ抽出部のレインフロー法による抽出原理を説明するための図である。
ひずみ振幅/平均ひずみ抽出部4cは、ひずみ波形に基づいてひずみ振幅と平均ひずみとを抽出する手段であり、レインフロー法に基づいてひずみ振幅と平均ひずみとを抽出する。ひずみ振幅/平均ひずみ抽出部4cは、従来のレインフロー法のような平均ひずみを考慮せずにひずみ波形を分割して計数する計数法とは異なり、平均ひずみを考慮する改良型のレインフロー法によってひずみ波形を分割して計数する。図3に示す波形は、図2に示すひずみ波形と同一の波形であり、横軸はひずみであり、縦軸は時間である。ひずみ振幅/平均ひずみ抽出部4cは、ひずみデータ記憶部4bが記憶するひずみ波形毎にレインフロー法によってひずみ振幅と平均ひずみとを抽出する。
【0023】
レインフロー(Rain Flow Method)法では、図3に示すように、縦軸を時間軸とするひずみ波形を想定し、このひずみ波形を多重になった屋根構造P1,P2,…にみたて、各屋根の付け根の位置から山と谷の番号順に雨滴を流すことを想像する。雨滴は、以下の3条件を満たして流れ落ち停止するものとする。
【0024】
雨滴は、屋根の付け根から番号順に流れ始め、停止条件が満たされるまで下の屋根に流れ落ち続ける(条件1)。また、軒先から落下中の雨滴は次の2つの停止条件の一方を満足したときに落下を停止する(条件2)。右向きの流れの場合には、右向きに流れる雨滴の出発点より左側に他の屋根の軒先が現れたときに停止する(停止条件1)。一方、左向きの流れの場合には、左向きに流れる雨滴の出発点より右側に他の屋根の軒先が現れたときには停止する(停止条件2)。例えば、図3に示すP7からP8へ流れる雨滴は、P7よりも左側にあるP9が現れたためにP8で停止する。さらに、屋根の一部を既に雨滴が流れていたらその流れは停止する(条件3)。例えば、P3からP4への流れは、P1からの流れにぶつかるためP2と同じ横位置で停止する。
【0025】
図4は、この発明の実施形態に係る疲労状態解析装置のひずみ振幅/平均ひずみ抽出部によるひずみ振幅及び平均ひずみを説明するための図である。
図1に示すひずみ振幅/平均ひずみ抽出部4cは、図3に示すように、雨滴が停止するまでに流れた横座標を測定して、この測定結果に相当する大きさのひずみ幅をひずみ振幅として抽出する。ひずみ振幅/平均ひずみ抽出部4cは、図4に示すように、レインフロー法によってひずみ波形の山のピーク値Pと谷のピーク値Vとの差の絶対値を演算してこの絶対値をひずみ振幅εaとして抽出する。また、ひずみ振幅/平均ひずみ抽出部4cは、図3に示すように、雨滴が停止するまでに流れた横座標を測定して、この測定結果に相当する大きさのひずみ幅の平均値を平均ひずみとして抽出する。ひずみ振幅/平均ひずみ抽出部4cは、例えば、レインフロー法によってひずみ波形の山のピーク値Pと谷のピーク値Vとの平均値をεmwとして以下の数1によって演算することで平均ひずみεmとして抽出する。
【0026】
【数1】

【0027】
ここで、数1に示すεmは、真の平均ひずみであり、εmwはレインフロー法によって抽出される波形中の平均ひずみであり、Tは張力であり、Aは断面積であり、Eはヤング率である。この数1に示す真の平均ひずみεmは、波形中の平均値と張力Tによる平均ひずみの和であり、この数1によってトロリ線C1の摩耗を考慮することができる。さらに、ひずみ振幅/平均ひずみ抽出部4cは、ひずみ振幅εaに対応する平均ひずみεmの頻度(カウント)Nを計数する。ひずみ振幅/平均ひずみ抽出部4cは、例えば、図3に示す一つのひずみ波形のうちひずみ振幅εaが200×10-6になり平均ひずみεmが600×10-6であるものが3個あるときにはカウント3とする。ひずみ振幅/平均ひずみ抽出部4cは、これらのひずみ振幅εa、平均ひずみεm及びカウントNをひずみ振幅/平均ひずみデータとして制御部4nに出力する。
【0028】
図5は、この発明の実施形態に係る疲労状態解析装置のひずみ振幅/平均ひずみデータ記憶部のデータ構造の模式図である。
図1に示すひずみ振幅/平均ひずみデータ記憶部4dは、ひずみ振幅/平均ひずみ抽出部4cが抽出したひずみ振幅/平均ひずみデータを記憶する手段である。ひずみ振幅/平均ひずみデータ記憶部4dは、例えば、図5に示すように、パンタグラフT1が通過する毎に各ひずみ振幅εaの大きさ、各平均ひずみεmの大きさ及び各ひずみ振幅εaに対応する各平均ひずみεmの頻度(カウント)Nをひずみ波形毎にメモリに記憶する。
【0029】
図1に示す等価応力演算部4eは、ひずみ振幅εaと平均ひずみεmとに基づいて等価応力を演算する手段である。等価応力演算部4eは、以下に示す数2によって等価応力σeを演算する。
【0030】
【数2】

【0031】
ここで、数2に示すEは、ヤング率である。等価応力演算部4eは、等価応力σeを等価応力データとして制御部4nに出力する。
【0032】
図6は、この発明の実施形態に係る疲労状態解析装置の等価応力データ記憶部のデータ構造の模式図である。
等価応力データ記憶部4fは、等価応力演算部4eが演算した等価応力データを記憶する手段である。等価応力データ記憶部4fは、図6に示すように、パンタグラフT1が通過する毎に各等価応力σe1,σe2,…とそれぞれの頻度(カウント)Nをひずみ波形毎にメモリに記憶する。等価応力データ記憶部4fは、例えば、図5に示すようにひずみ振幅εaが200×10-6であり平均ひずみεmが600×10-6であるときに等価応力演算部4eが数2によって演算した等価応力σeの値とその頻度(カウント)3とを記憶する。
【0033】
図7は、この発明の実施形態に係る疲労状態解析装置の等価S-N曲線データ記憶部のデータ構造の模式図である。
図1に示す等価S-N曲線データ記憶部4gは、等価S-N曲線データを記憶する手段である。ここで、等価S-N曲線とは、異なる平均応力(平均ひずみ)に対するS-N曲線を一つのS-N曲線にまとめたものである。この等価S-N曲線は、Smithによって提案されており、硬銅トロリ線についてもSmithの手法を適用可能であることが確認されている。等価S-N曲線データ記憶部4gは、図7に示すように、予め作成された等価S-N曲線に関するデータをメモリに記憶している。ここで、図7に示す縦軸は、数2によって演算される等価応力σeであり、横軸は疲労寿命(繰返し回数)Nfである。
【0034】
図1に示す累積疲労損傷度演算部4hは、等価応力σeと等価S-N曲線とに基づいてトロリ線C1の累積疲労損傷度を演算する手段であり、修正マイナー(Miner)法に基づいて累積疲労損傷度を演算する。ここで、マイナー法とは、負荷レベルが一定ではない場合の疲労寿命を推定する手法としてMainerによって提案された手法であり、修正マイナー法とは銅などの非鉄金属には明確な疲労限がないため、S-N曲線を延ばして疲労寿命を有限として疲労寿命を推定する手法である。累積疲労損傷度演算部4hは、σiの応力レベルでNiサイクルの繰返しを受けた場合の疲労損傷度Diを以下の数3によって演算する。
【0035】
【数3】

【0036】
ここで、数3に示すNfiは、応力レベルσiにおける疲労寿命である。累積疲労損傷度演算部4hは、例えば、図6に示す等価応力σe1,σe2,…を図7に示す等価S-N曲線と照合して、図7に示すようにこれらの等価応力σe1,σe2,…と対応する疲労寿命Nf1,Nf2,…を求め、図6に示す等価応力σe1,σe2,…に対応するカウントN1,N2,…と疲労寿命Nf1,Nf2,…とから数3によって疲労損傷度D1,D2,…を演算する。また、累積疲労損傷度演算部4hは、以下の数4によって累積疲労損傷度Riを演算する。
【0037】
【数4】

【0038】
累積疲労損傷度演算部4hは、例えば、数4によって累積疲労損傷度Ri=D1+D2+…を演算してこの演算結果を累積疲労損傷度データとして制御部4nに出力する。
【0039】
図1に示す累積疲労損傷度データ記憶部4iは、累積疲労損傷度演算部4hが演算した累積疲労損傷度データを記憶する手段である。累積疲労損傷度データ記憶部4iは、例えば、1パンタグラフT1通過当たりの累積疲労損傷度データを時系列順にメモリに記憶する。
【0040】
疲労状態判定部4jは、トロリ線C1の疲労状態を判定する手段である。疲労状態判定部4jは、累積疲労損傷度データ記憶部4iが記憶する累積疲労損傷度データをパンタグラフT1が通過する毎に算出して、トロリ線C1の疲労状態を判定する。各応力レベルにおける損傷が蓄積されて疲労破断に至るとするときの破断条件は、数4に示す累積疲労損傷度Ri=1であり、累積疲労損傷度Ri=1を超えたときにトロリ線C1が破断することになる。疲労状態判定部4jは、パンタグラフT1が通過する毎に累積疲労損傷度Riを算出して、この合計値が所定値(例えば、0.3程度)を超えたときにトロリ線C1が疲労寿命に達したと判定する。疲労状態判定部4jは、この判定結果を疲労状態判定データとして制御部4nに出力する。
【0041】
プログラム読込部4kは、トロリ線C1の疲労状態を解析するための疲労状態解析プログラムを読み込む手段である。プログラム読込部4kは、例えば、インターネットなどの電気通信回線を通じて提供される疲労状態解析プログラムを読み込んだり、CD-ROMなどの情報記録媒体に記録された疲労状態解析プログラムを読み込んだりする。プログラム読込部4kは、電気通信回線や情報記録媒体などから読み取った疲労状態解析プログラムを制御部4nに出力する。
【0042】
プログラム記憶部4mは、疲労状態解析プログラムを記憶する手段である。プログラム記憶部4mは、電気通信回線を通じて取り込まれた疲労状態解析プログラムや、情報記録媒体から読み取った疲労状態解析プログラムなどをメモリに記憶する。
【0043】
制御部4nは、疲労状態解析装置4の種々の動作を制御する中央処理部(CPU)である。制御部4nは、プログラム記憶部4mから疲労状態解析プログラムを読み出して所定の疲労状態解析処理を実行する。制御部4nは、例えば、ひずみ振幅/平均ひずみ抽出部4c、等価応力演算部4e及び累積疲労損傷度演算部4hに演算処理を指令したり、疲労状態判定部4jに判定処理を指令したり、ひずみデータ記憶部4b、ひずみ振幅/平均ひずみデータ記憶部4d、等価応力データ記憶部4f、等価S-N曲線データ記憶部4g及び累積疲労損傷度データ記憶部4iなどに種々のデータの記憶を指令したり、プログラム記憶部4mに疲労状態解析プログラムの記憶を指令したりする。
【0044】
表示装置5は、疲労状態解析装置4の解析結果を表示する装置である。表示装置5は、例えば、図2に示すひずみ波形や、図5に示すひずみ振幅εa、平均ひずみεm及びカウントNの対照表や、図6に示す等価応力σeとカウントNの対照表や、トロリ線C1の使用寿命(残り寿命)や、トロリ線C1の疲労寿命の警告などを画面上に表示する。印刷装置6は、疲労状態解析装置4の解析結果を印刷する装置である。
【0045】
次に、この発明の実施形態に係る疲労状態解析装置の動作を説明する。
図8は、この発明の実施形態に係る疲労状態解析装置の動作を説明するためのフローチャートである。以下では、制御部4nの動作を中心として説明する。
ステップ(以下、Sという)100において、疲労状態解析プログラムを制御部4nが読み込む。プログラム記憶部4mから制御部4nが疲労状態解析プログラムを読み込み一連の疲労状態解析処理を制御部4nが開始する。
【0046】
S200において、ひずみデータ記憶部4bから制御部4nがひずみデータを読み込む。図2に示すようなひずみデータをひずみデータ記憶部4bから制御部4nが読み出して、ひずみ振幅/平均ひずみ抽出部4cに出力する。
【0047】
S300において、ひずみ振幅εa及び平均ひずみεmの抽出をひずみ振幅/平均ひずみ抽出部4cに制御部4nが指令する。その結果、図3に示すように、横軸をひずみとし縦軸を時間とするひずみ波形をひずみ振幅/平均ひずみ抽出部4cが生成して、改良型のレインフロー法によってひずみ波形を分割してひずみ波計数を開始する。図4に示すように、レインフロー法によって分割されたひずみ波形の山のピーク値と谷のピーク値とをひずみ振幅/平均ひずみ抽出部4cが抽出して、ひずみ振幅εa及び平均ひずみεmを演算する。そして、図5に示すようなひずみ振幅εa、平均ひずみεm及び頻度(カウント)Nをひずみ振幅/平均ひずみ抽出部4cが演算して、ひずみ振幅/平均ひずみデータを制御部4nに出力する。
【0048】
S400において、等価応力σeの演算を等価応力演算部4eに制御部4nが指令する。ひずみ振幅/平均ひずみデータが制御部4nから等価応力演算部4eに出力されると、図6に示すような等価応力σe1,σe2,…及び頻度(カウント)Nを等価応力演算部4eが数2に従って演算する。そして、等価応力データを制御部4nに出力するとともに、この等価応力データの記憶を等価応力データ記憶部4fに制御部4nが指令する。
【0049】
S500において、等価S-N曲線データ記憶部4gから等価S-N曲線データを制御部4nが読み込む。図7に示すような等価S-N曲線データを等価S-N曲線データ記憶部4gから制御部4nが読み出して累積疲労損傷度演算部4hに出力するとともに、等価応力データ記憶部4fから等価応力データを制御部4nが読み出して累積疲労損傷度演算部4hに出力する。
【0050】
S600において、累積疲労損傷度Riの演算を累積疲労損傷度演算部4hに制御部4nが指令する。その結果、図6に示すような等価応力σe1,σe2,…を図7に示すような等価S-N曲線と累積疲労損傷度演算部4hが照合して疲労寿命Nf1,Nf2,…を演算する。そして、累積疲労損傷度演算部4hが数3によって疲労損傷度D1,D2,…を演算するとともに数4によって累積疲労損傷度Riを演算して、累積疲労損傷度データを制御部4nに出力する。
【0051】
S700において、トロリ線C1の疲労状態の判定を疲労状態判定部4jに制御部4nが指令する。累積疲労損傷度データが制御部4nから疲労状態判定部4jに出力されると、パンタグラフT1が通過する毎に算出される累積疲労損傷度Riの合計値が所定値を超えたか否かを疲労状態判定部4jが判定し、疲労状態判定データが制御部4nに出力される。その結果、例えば、累積疲労損傷度Riの合計値が所定値を超えたときには、トロリ線C1が疲労寿命に達したことを表示装置5に制御部4nが表示させる。
【0052】
この発明の実施形態に係る疲労状態解析装置には、以下に記載するような効果がある。
(1) この実施形態では、ひずみ振幅/平均ひずみ抽出部4cがひずみ波形に基づいてひずみ振幅εa及び平均ひずみεmを抽出し、等価応力演算部4eがひずみ振幅εa及び平均ひずみεmに基づいて等価応力σeを演算し、累積疲労損傷度演算部4hが等価応力σe及び等価S-N曲線に基づいて累積疲労損傷度Riを演算する。このため、例えば、トロリ線C1の実働波形に含まれる平均ひずみεmも考慮してトロリ線C1の疲労状態を解析することができる。その結果、トロリ線C1の摩耗を考慮して疲労寿命を定量的に評価し管理することができる。
【0053】
(2) この実施形態では、レインフロー法に基づいてひずみ振幅εa及び平均ひずみεmをひずみ振幅/平均ひずみ抽出部4cが抽出する。このため、従来のレインフロー法のようなひずみ振幅εaのみを考慮する場合に比べて、平均ひずみεmも考慮する改良型のレインフロー法の場合には、トロリ線C1の疲労状態を厳密に精度よく解析することができる。
【0054】
(3) この実施形態では、累積疲労損傷度演算部4hが修正マイナー法に基づいて累積疲労損傷度Riを演算する。このため、銅などの非鉄金属であるトロリ線C1などの疲労寿命を厳密に精度よく演算することができる。
【0055】
この発明は、以上説明した実施形態に限定するものではなく、以下に記載するように種々の変形又は変更が可能であり、これらもこの発明の範囲内である。
例えば、この実施形態では、繰返し応力を受けることによって疲労破壊する可能性のある測定対象物(被測定物)としてトロリ線C1を例に挙げて説明したがこれに限定するものではなく、鉄道車両の車軸や鉄道のレールなどについてもこの発明を適用することができる。また、この実施形態では、ひずみ振幅εa及び平均ひずみεmをレインフロー法によって抽出する場合を例に挙げて説明したがこの手法に限定するものではなく、レンジペア法などの他の手法を使用することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】この発明の実施形態に係る疲労状態解析装置を備える疲労状態解析システムの構成図である。
【図2】この発明の実施形態に係る疲労状態解析装置のひずみデータ記憶部のデータ構造の模式図である。
【図3】この発明の実施形態に係る疲労状態解析装置のひずみ振幅/平均ひずみ抽出部のレインフロー法による抽出原理を説明するための図である。
【図4】この発明の実施形態に係る疲労状態解析装置のひずみ振幅/平均ひずみ抽出部によるひずみ振幅及び平均ひずみを説明するための図である。
【図5】この発明の実施形態に係る疲労状態解析装置のひずみ振幅/平均ひずみデータ記憶部のデータ構造の模式図である。
【図6】この発明の実施形態に係る疲労状態解析装置の等価応力データ記憶部のデータ構造の模式図である。
【図7】この発明の実施形態に係る疲労状態解析装置の等価S-N曲線データ記憶部のデータ構造の模式図である。
【図8】この発明の実施形態に係る疲労状態解析装置の動作を説明するためのフローチャートである。
【符号の説明】
【0057】
1 疲労状態解析システム
2 ひずみ測定装置
4 疲労状態解析装置
4c ひずみ振幅/平均ひずみ抽出部
4e 等価応力演算部
4g 等価S-N曲線データ記憶部
4h 累積疲労損傷度演算部
4j 疲労状態判定部
4n 制御部
T 車両
1 パンタグラフ
C 架線
1 トロリ線(測定対象物)
εa ひずみ振幅
εm 平均ひずみ
N カウント
σe 等価応力
i 疲労損傷度
i 累積疲労損傷度


【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象物の疲労状態を解析する疲労状態解析装置であって、
前記測定対象物のひずみの時間変化を表すひずみ波形に基づいて、ひずみ振幅と平均ひずみとを抽出するひずみ振幅/平均ひずみ抽出部と、
前記ひずみ振幅と前記平均ひずみとに基づいて等価応力を演算する等価応力演算部と、
前記等価応力と等価S-N曲線とに基づいて前記測定対象物の累積疲労損傷度を演算する累積疲労損傷度演算部と、
を備える疲労状態解析装置。
【請求項2】
請求項1に記載の疲労状態解析装置において、
前記ひずみ振幅/平均ひずみ抽出部は、レインフロー法に基づいて前記ひずみ振幅と前記平均ひずみとを抽出すること、
を特徴とする疲労状態解析装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の疲労状態解析装置において、
前記累積疲労損傷度演算部は、修正マイナー法に基づいて前記累積疲労損傷度を演算すること、
を特徴とする疲労状態解析装置。
【請求項4】
測定対象物の疲労状態を解析するための疲労状態解析プログラムであって、
前記測定対象物のひずみの時間変化を表すひずみ波形に基づいて、ひずみ振幅と平均ひずみとを抽出するひずみ振幅/平均ひずみ抽出手順と、
前記ひずみ振幅と前記平均ひずみとに基づいて等価応力を演算する等価応力演算手順と、
前記等価応力と等価S-N曲線とに基づいて前記測定対象物の累積疲労損傷度を演算する累積疲労損傷度演算手順と、
をコンピュータに実行させる疲労状態解析プログラム。
【請求項5】
請求項4に記載の疲労状態解析プログラムにおいて、
前記ひずみ振幅/平均ひずみ抽出手順は、レインフロー法に基づいて前記ひずみ振幅と前記平均ひずみとを抽出する手順を含むこと、
を特徴とする疲労状態解析プログラム。
【請求項6】
請求項4又は請求項5に記載の疲労状態解析プログラムにおいて、
前記累積疲労損傷度演算手順は、修正マイナー法に基づいて前記累積疲労損傷度を演算する手順を含むこと、
を特徴とする疲労状態解析プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−329837(P2006−329837A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−154723(P2005−154723)
【出願日】平成17年5月26日(2005.5.26)
【出願人】(000173784)財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)
【Fターム(参考)】