説明

病害抵抗性オオムギの選抜方法及び育種方法、並びにこれらの方法で得られる病害抵抗性オオムギ

【課題】脂肪酸ヒドロペルオキシドリアーゼの誘導能の高いオオムギを選抜することにより、病害抵抗性の強いオオムギの選抜方法及び育種方法を提供する。
【解決手段】傷害付与によって誘導されるオオムギ脂肪酸9−/13−ヒドロペルオキシドリアーゼ遺伝子の発現量を指標にして、オオムギ脂肪酸9−/13−ヒドロペルオキシドリアーゼ遺伝子の発現量が多い被検オオムギを病害抵抗性の強いオオムギであるとして選抜する、病害抵抗性オオムギの選抜方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、病害抵抗性オオムギの選抜方法及び育種方法、並びにこれらの方法で得られる病害抵抗性オオムギに関する。
【背景技術】
【0002】
オオムギは、古くから栽培されている主要な農作物の1つであるが、植物病原性微生物の感染による病害が未だ大きな問題となっており、これらの病害の拡大によって収量の大幅な低下が引き起こされている。これら病害を防除する方法としては、農薬を散布して防除する方法が一般的である。
【0003】
脂肪酸ヒドロペルオキシドリアーゼは、アルデヒド類を生成する酵素であり、生成された短鎖アルデヒドの中には、昆虫の忌避作用や植物病原性微生物の増殖を抑制する作用を有するものが含まれている(特許文献1)。
【0004】
双子葉植物においては、植物生体中でのアルデヒド類の合成はオキシリピン合成系が担っていることが明らかにされ(非特許文献1)、アルデヒド類は、リポキシゲナーゼと脂肪酸ヒドロペルオキシドリアーゼのカスケード反応により生成される。また、生成される短鎖アルデヒドの1つであるトランス−2−ノネナールは、リノール酸9−ヒドロペルオキシドが脂肪酸9−ヒドロペルオキシドリアーゼの開裂分解反応触媒作用によって生成されることが解明されている(非特許文献2)。
【0005】
一方、単子葉植物では、植物生体中でのアルデヒド類の合成についてほとんど研究がされておらず、最近になって、イネ及びオオムギにおいて脂肪酸ヒドロペルオキシドリアーゼ遺伝子が単離されたに過ぎない(非特許文献3、特許文献2及び特許文献3)。
【0006】
【特許文献1】特開2005−041782号公報
【特許文献2】特開2006−149341号公報
【特許文献3】特開2007−061017号公報
【非特許文献1】Blee、Prog. Lipid Res.、1998年、37巻、p.33−72
【非特許文献2】Matsuiら、FEBS Lett.、2000年、481巻、p.183−188
【非特許文献3】Koedukaら、Lipids、2003年、38巻、p.1167−1172
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、植物病原微生物によって引き起こされるオオムギの病害を防除するには、従来からの農薬散布では不十分であり、感染の成立後においては防除効果が激減してしまうのが現状である。
【0008】
また、農薬による防除効果が期待できる場合であっても、農作物への農薬の残留が大きな問題となっており、農薬の使用量の削減を実現するオオムギの耐病性育種に期待が寄せられている。
【0009】
さらに、単子葉植物においては、脂肪酸ヒドロペルオキシドリアーゼが人為的に誘導できる酵素であることは明らかにされておらず、オオムギに抗菌性の短鎖アルデヒドを誘導する発想はこれまでに一切されていない。
【0010】
そこで本発明は、脂肪酸ヒドロペルオキシドリアーゼの誘導能の高いオオムギを選抜することにより、病害抵抗性の強いオオムギを得ることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明は、傷害付与によって誘導されるオオムギ脂肪酸9−/13−ヒドロペルオキシドリアーゼ遺伝子の発現量を指標にして、オオムギ脂肪酸9−/13−ヒドロペルオキシドリアーゼ遺伝子の発現量が多い被検オオムギを病害抵抗性の強いオオムギであるとして選抜する、病害抵抗性オオムギの選抜方法を提供する。
【0012】
本発明者らは、オオムギを含む単子葉植物の脂肪酸ヒドロペルオキシドリアーゼについて鋭意研究を重ねた結果、人為的な傷害付与によってオオムギ組織にオオムギ脂肪酸9−/13−ヒドロペルオキシドリアーゼを誘導できることを見出した。
【0013】
これまでにも、植物自身が生来備え持つ誘導抵抗性を制御することにより、農薬を使用しない防除方法の開発が探索されてきたが、単子葉植物については、傷害により脂肪酸ヒドロペルオキシドリアーゼを誘導できることは知られておらず、ましてや抗菌活性を示す単鎖アルデヒドを人為的にオオムギ組織に誘導することは、当業者であっても予測不可能なことであった。
【0014】
上記選抜方法によれば、植物病原微生物の感染に対して抗菌活性を有するヘキサナールを誘導可能なオオムギを選抜でき、オオムギの耐病性育種に利用できる。短鎖アルデヒドは、オオムギに傷を付けることによって内因的に合成されるものであるため、化学合成された農薬と比較して人体への安全性に優れ、収穫されたオオムギに農薬が残留することによって生じる健康への被害を防ぐことができる。
【0015】
上記選抜方法は、被検オオムギの組織に傷を付ける傷害付与ステップと、傷害付与ステップ後に上記組織における上記オオムギ脂肪酸9−/13−ヒドロペルオキシドリアーゼ遺伝子の発現量を定量する定量ステップと、上記オオムギ脂肪酸9−/13−ヒドロペルオキシドリアーゼ遺伝子の発現量を複数の被検オオムギの間で比較し、上記オオムギ脂肪酸9−/13−ヒドロペルオキシドリアーゼ遺伝子の発現量が多い被検オオムギを病害抵抗性の強いオオムギであると判定する判定ステップとを備えることが好ましい。
【0016】
また、上記定量ステップは、傷害付与ステップ後に上記組織における上記オオムギ脂肪酸9−/13−ヒドロペルオキシドリアーゼ遺伝子のmRNAの発現量を定量するステップであることが好ましい。
【0017】
mRNAの発現量の定量は、PCR法やLAMP法といった簡易な方法によって行うことができ、特異性の高い抗体分子や大型の分析機器を用いることなく、上記オオムギ脂肪酸9−/13−ヒドロペルオキシドリアーゼ遺伝子の発現量を迅速に定量できる。
【0018】
また本発明は、上記の選抜方法を利用した病害抵抗性オオムギの育種方法及びこの育種方法により得られる病害抵抗性オオムギを提供する。
【0019】
上記育種方法によれば、植物病原微生物の感染に対して強い防御機構を備えるオオムギ系統を樹立でき、戻し交雑等の育種手法を組み合わせることによって優れた栽培品種を得ることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、植物病原微生物の感染に対して抗菌活性を有するヘキサナールを誘導可能なオオムギを選抜でき、オオムギの耐病性育種に利用できる。また本発明によれば、植物病原微生物の感染に対して強い防御機構を備えるオオムギ系統を樹立でき、戻し交雑等の育種手法を組み合わせることによって優れた栽培品種を得ることができる。こうして選抜されたオオムギは病害抵抗性の強いオオムギであるため、農薬の使用量を削減することが可能となり、農薬が残留することによって生じる健康被害を防ぐことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の好適な実施形態について説明する。
【0022】
本発明の病害抵抗性オオムギの選抜方法は、傷害付与によって誘導されるオオムギ脂肪酸9−/13−ヒドロペルオキシドリアーゼ遺伝子の発現量を指標にして、オオムギ脂肪酸9−/13−ヒドロペルオキシドリアーゼ遺伝子の発現量が多い被検オオムギを病害抵抗性の強いオオムギであるとして選抜することを特徴としている。
【0023】
「傷害付与」とは、オオムギの植物体に傷を付けることであり、例えば、葉の一部を切断したり、茎を切断することなく浅い切り目を入れたり、葉や茎の表面に炭化珪素の粉を撒いて上から軽く擦ったりして、傷を付けることが挙げられる。
【0024】
「オオムギ脂肪酸9−/13−ヒドロペルオキシドリアーゼ遺伝子」とは、オオムギ脂肪酸9−/13−ヒドロペルオキシドリアーゼをコードする遺伝子であって、配列表の配列番号1に示す塩基配列からなる遺伝子のことをいう。但し、オオムギ脂肪酸9−/13−ヒドロペルオキシドリアーゼ遺伝子には、配列表の配列番号1に示す塩基配列からなる遺伝子の変異体も含まれ、このような変異体としては、1又は数個のヌクレオチド置換、欠失、又は付加によって生成され、コードするタンパク質が脂肪酸ヒドロペルオキシドを分解する活性を保持している変異体が挙げられる。
【0025】
「オオムギ脂肪酸9−/13−ヒドロペルオキシドリアーゼ」とは、9位又は13位にヒドロペルオキシドを有する脂肪酸を分解するオオムギ由来の酵素であり、9位又は13位にヒドロペルオキシドを有する脂肪酸としては、例えば、リノール酸ヒドロペルオキシド(9−リノール酸ヒドロペルオキシド(9−HPOD)、13−リノール酸ヒドロペルオキシド(13−HPOD))、9−リノレン酸ヒドロペルオキシド、13−リノレン酸ヒドロペルオキシドが例示できる。
【0026】
また、本明細書において、「遺伝子」の用語は、遺伝情報を担っている二本鎖DNAのみならず、それを構成するセンス鎖及びアンチセンス鎖といった一本鎖DNAやmRNAを包含するものである。
【0027】
上記オオムギ脂肪酸9−/13−ヒドロペルオキシドリアーゼ遺伝子は、例えば、Molecular cloning(Maniatisら、1989年、コールド・スプリング・ハーバー・ラボラトリー・プレス)に記載された方法に従って、配列表の配列番号1に記載の塩基配列情報をもとに合成した標識cDNAプローブを用いて、オオムギcDNAライブラリー又はゲノムライブラリーからクローニングできる。
【0028】
また、上記オオムギ脂肪酸9−/13−ヒドロペルオキシドリアーゼ遺伝子は、オオムギ組織から抽出したトータルRNA又はポリARNAを鋳型として配列表の配列番号1に記載の塩基配列情報をもとにデザインしたプライマーセットを用いてRT−PCR法で合成できる。
【0029】
さらに、上記オオムギ脂肪酸9−/13−ヒドロペルオキシドリアーゼ遺伝子は、配列表の配列番号1に記載の塩基配列の部分配列をDNA合成機で化学合成し、酵素的手法及びサブクローニングの手法を使ってつなぎ合わせることによっても取得できる。
【0030】
オオムギ脂肪酸9−/13−ヒドロペルオキシドリアーゼ遺伝子の発現量は、傷害付与後のオオムギ組織からトータルRNAを抽出し、配列表の配列番号1に示される塩基配列を含む遺伝子の発現量を、RT−PCR、ノーザンブロッティング、又はマイクロアレイ等の手法により定量すればよく、その結果、発現量の高いオオムギ個体を病害抵抗性の強いオオムギ個体であるとして選抜すればよい。
【0031】
また、オオムギ脂肪酸9−/13−ヒドロペルオキシドリアーゼ遺伝子の発現量は、その翻訳産物である脂肪酸ヒドロペルオキシドリアーゼの量を、抗オオムギ脂肪酸9−/13−ヒドロペルオキシドリアーゼ抗体を用いたELISA法やウェスタンブロット法などの免疫学的方法を用いて定量し、比較することもできる。
【0032】
さらに、オオムギ脂肪酸9−/13−ヒドロペルオキシドリアーゼ遺伝子の発現量は、傷害付与後のオオムギ組織から粗酵素液を抽出し、脂肪酸ヒドロペルオキシドリアーゼ活性を測定することによっても比較できる。脂肪酸ヒドロペルオキシドリアーゼ活性の具体的な測定方法としては、オオムギ組織から抽出した粗酵素液に脂肪酸ヒドロペルオキシドを加え、所定条件下(例えば、25℃で15分間)でインキュベートし、脂肪酸ヒドロペルオキシドの分解生成物の量を測定する方法が挙げられる。
【0033】
上記選抜方法は、被検オオムギの組織に傷を付ける傷害付与ステップと、傷害付与ステップ後に上記組織における上記オオムギ脂肪酸9−/13−ヒドロペルオキシドリアーゼ遺伝子の発現量を定量する定量ステップと、上記オオムギ脂肪酸9−/13−ヒドロペルオキシドリアーゼ遺伝子の発現量を複数の被検オオムギの間で比較し、上記オオムギ脂肪酸9−/13−ヒドロペルオキシドリアーゼ遺伝子の発現量が多い被検オオムギを病害抵抗性の強いオオムギであると判定する判定ステップとを備えることが好ましい。
【0034】
傷害付与ステップでは、被検オオムギの生育にダメージを与えることのないように留意して、例えば、葉の一部を切断したり、茎を切断することなく浅い切り目を入れたり、葉や茎の表面に炭化珪素の粉を撒いて上から軽く擦ったりして、被検オオムギの組織に傷を付ければよいが、選抜に供試する被検オオムギ間で、同等程度の傷を付けることが必要である。このため、被検オオムギに傷を与える際には、葉の一部を切断することが特に適している。
【0035】
定量ステップでは、被検オオムギの生育にダメージを与えることのないように留意して被検オオムギ組織の一部をサンプリングし、当該組織中におけるオオムギ脂肪酸9−/13−ヒドロペルオキシドリアーゼ遺伝子の発現量を定量すればよいが、傷害付与後サンプリングまでの時間は、20分〜5時間が好ましく、45分〜3時間がより好ましく、45分〜1時間がさらに好ましい。
【0036】
オオムギ脂肪酸9−/13−ヒドロペルオキシドリアーゼ遺伝子の発現量は、傷害付与後のオオムギ組織で発現誘導されたオオムギ脂肪酸9−/13−ヒドロペルオキシドリアーゼmRNAの発現量、オオムギ脂肪酸9−/13−ヒドロペルオキシドリアーゼ・タンパク質の発現量、及びオオムギ脂肪酸9−/13−ヒドロペルオキシドリアーゼ活性の強さを調べることによって、被検オオムギ間で比較できるが、各組織におけるオオムギ脂肪酸9−/13−ヒドロペルオキシドリアーゼ遺伝子のmRNAの発現量を定量することが好ましい。
【0037】
判定ステップでは、傷害付与後のオオムギ組織で発現誘導されたオオムギ脂肪酸9−/13−ヒドロペルオキシドリアーゼmRNAの発現量、オオムギ脂肪酸9−/13−ヒドロペルオキシドリアーゼ・タンパク質の発現量、及びオオムギ脂肪酸9−/13−ヒドロペルオキシドリアーゼ活性の強さを複数の被検オオムギの間で比較し、これらの値が大きい被検オオムギを病害抵抗性の強いオオムギであると判定すればよい。
【0038】
なお、判定ステップでは、オオムギの葉を先端から1cmの長さで切断後40分の時点において、オオムギ脂肪酸9−/13−ヒドロペルオキシドリアーゼmRNAの発現量(GAPDHに対するHvHPL2の発現量比)が0.05以上、好ましくは0.75以上、さらに好ましくは0.1以上である場合に病害抵抗性の強いオオムギであると判定してもよい。
【0039】
ここで、「病害抵抗性」とは、植物自身が生来備え持つ病気になりにくい性質のことをいい、例えば、ファイトアレキシンや抗菌作用物質・抗ウイルス性物質を植物病原性微生物の感染に先立って又は感染後すぐに誘導し得る能力が挙げられる。
【0040】
オオムギのファイトアレキシンとしてはホルダチンAが知られており、植物病原性微生物の感染後すぐに誘導されて抗菌活性を発揮するが、脂肪酸ヒドロペルオキシドが分解されて生成した抗菌活性を有する短鎖アルデヒド、具体的には、ノネナール(トランス−2−ノネナール)、ヘキサナール、ヘキセナール、ノネンジエナールなどが、傷害付与によってオオムギに誘導されることは知られていない。しかしながら、オオオオムギに上記の短鎖アルデヒドを誘導できれば、オオムギの病害抵抗性の指標とすることができ、これらの産生量が多いオオムギは病害抵抗性の強いオオムギであると判定することが可能となる。
【0041】
本発明の病害抵抗性オオムギの選抜方法は、上記の選抜方法を利用することを特徴としており、当業者であれば上記の選抜方法に、従来法の交雑育種や戻し交雑等の育種方法を取り入れ、病害抵抗性オオムギの育種することが可能である。
【0042】
また、上記育種方法で得られた病害抵抗性オオムギは、農薬の使用を極力抑えたオオムギの栽培を実現し、収穫されたオオムギに農薬が残留することによって生じる健康への被害を防ぐことができる。
【実施例】
【0043】
本発明を以下の実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0044】
(実施例1)
オオムギ脂肪酸9−/13−ヒドロペルオキシドリアーゼ(HvHPL2)遺伝子が、傷によってオオムギの葉に誘導されるか否かを調べるために以下の実験を行った。
【0045】
まず、発芽8日目のオオムギ(品種:はるな二条)の葉を先端から1cmの長さで切断し、得られた葉片(約20枚)を蒸留水の上に浮かべた。その後、5分、15分、45分経過した後に葉片を1枚ずつ別々に計3枚回収し、直ちに液体窒素中で凍結し、−80℃で保存した。この場合、葉を切断する行為が、オオムギに対して傷害を付与する行為に該当する。ネガティブコントロールとして、葉を切断した直後の葉片1枚ずつ別々に計3枚を同様に液体窒素中で凍結し、−80℃で保存した。
【0046】
その後、凍結保存しておいた葉のサンプルを個別に液体窒素中で粉砕し、1mLのRNA抽出試薬(Trizol;インビトロジェン社)を加えてホモジナイズ後、インビトロジェン社のプロトコルに従ってクロロホルム処理とエタノール沈殿を行うことにより全RNAを抽出した。さらにRNeasy mini kit(キアゲン社)を用いて、キアゲン社のプロトコルに従って全RNAをカラム精製した。
【0047】
こうして得られたオオムギの全RNAからQuantiTect Reverse Transcription kit(キアゲン社)を用いてcDNAを合成し、以下のプライマーセットとQuantiTect Cyber Green PCR kit(キアゲン社)を用いてリアルタイムPCR(ライトサイクラー;ロッシュ社)を行い、オオムギ脂肪酸9−/13−ヒドロペルオキシドリアーゼmRNAの発現量を定量した。
・HvHPL2−F:5’−tcttcgggtaccagcctatg−3’(配列番号2)
・HvHPL2−R:5’−caccattagcctcccaacc−3’(配列番号3)
【0048】
その際、オオムギ脂肪酸9−/13−ヒドロペルオキシドリアーゼmRNAの発現量は、グリセルアルデヒドリン酸脱水素酵素(GAPDH)を内部標準遺伝子として使用し、相対値で示した。GAPDHmRNAの発現量を定量するためのプライマーセットは、以下に示した通りである。
・GAPDH−F:5’−ttcatgccatcactgccaca−3’(配列番号4)
・GAPDH−R:5’−taccaacagccttggcagca−3’(配列番号5)
【0049】
図1は、傷害付与によって誘導されるオオムギ脂肪酸9−/13−ヒドロペルオキシドリアーゼmRNAの経時的な発現量を示した図である。
【0050】
その結果、オオムギ脂肪酸9−/13−ヒドロペルオキシドリアーゼmRNAは、傷害付与直後にはほとんど検出されないものの、傷害付与後15分以降にその発現が誘導され、傷害付与後45分にはその発現量が顕著であった。
【0051】
この結果より、オオムギに傷害を付与することによってオオムギ脂肪酸9−/13−ヒドロペルオキシドリアーゼ遺伝子の発現が誘導され、当該遺伝子の下流に存在するアルデヒド類の発現が亢進している可能性が示唆された。
【0052】
(実施例2)
オオムギに傷害を付与することによって、単鎖アルデヒドがオオムギ組織に誘導されるか否かについて調べた。
【0053】
具体的には、発芽5日目のオオムギ(品種:はるな二条)の地上部を切断し、5mmの長さに刻んでバイアルに入れて密封し、1時間静置後にバイアル中に蓄積したアルデヒドをGC−MS(HP6890;Hewlett Packard社)で測定した。ネガティブコントロールとして、オオムギ(品種:はるな二条)の地上部を切断後、5mmの長さに刻むことなくそのままバイアルに入れて密封し、1時間静置後にバイアル中に蓄積したアルデヒドをGC−MS(HP6890;Hewlett Packard社)で測定した。
【0054】
図2は、傷害付与によってヘキサナールの産生が誘導されたことを示したチャートである。図2(A)は、オオムギの地上部を5mmの長さに刻んでバイアルに入れたサンプル、図2(B)は、オオムギの地上部を刻むことなくバイアルに入れたサンプル、図2(C)は、ヘキサナールの標品をGC−MSで測定したチャートである。
【0055】
図2(A)の結果より、ヘキサナールのピークが確認されたことから、オオムギに傷害を付与することによって、ヘキサナールのタンパク質レベルでの発現がオムギ組織に誘導されることが判明した。
【0056】
この結果は、オオムギに傷害を付与することによってオオムギ脂肪酸9−/13−ヒドロペルオキシドリアーゼ遺伝子の発現が誘導され、当該遺伝子の下流に存在するヘキサナールの発現が亢進し、オオムギに病害抵抗性が誘導されたことを示唆された。
【0057】
以上の結果より、被検オオムギの組織に傷を付ける傷害付与ステップと、傷害付与ステップ後にオオムギ組織におけるオオムギ脂肪酸9−/13−ヒドロペルオキシドリアーゼ遺伝子の発現量を定量する定量ステップと、オオムギ脂肪酸9−/13−ヒドロペルオキシドリアーゼ遺伝子の発現量を複数の被検オオムギの間で比較することによって、オオムギ脂肪酸9−/13−ヒドロペルオキシドリアーゼ遺伝子の発現量が多い被検オオムギを病害抵抗性の強いオオムギであると判定できることが明らかとなった。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】傷害付与によって誘導されるオオムギ脂肪酸9−/13−ヒドロペルオキシドリアーゼmRNAの経時的な発現量を示した図である。
【図2】傷害付与によってヘキサナールが発現誘導されたことを示したチャートである。(A)は、オオムギの地上部を5mmの長さに刻んでバイアルに入れたサンプル、(B)は、オオムギの地上部を刻むことなくバイアルに入れたサンプル、(C)は、ヘキサナールの標品をGC−MSで測定したチャートである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
傷害付与によって誘導されるオオムギ脂肪酸9−/13−ヒドロペルオキシドリアーゼ遺伝子の発現量を指標にして、前記オオムギ脂肪酸9−/13−ヒドロペルオキシドリアーゼ遺伝子の発現量が多い被検オオムギを病害抵抗性の強いオオムギであるとして選抜する、病害抵抗性オオムギの選抜方法。
【請求項2】
被検オオムギの組織に傷を付ける傷害付与ステップと、
前記傷害付与ステップ後に前記組織における前記オオムギ脂肪酸9−/13−ヒドロペルオキシドリアーゼ遺伝子の発現量を定量する定量ステップと、
前記オオムギ脂肪酸9−/13−ヒドロペルオキシドリアーゼ遺伝子の発現量を複数の前記被検オオムギの間で比較し、前記オオムギ脂肪酸9−/13−ヒドロペルオキシドリアーゼ遺伝子の発現量が多い被検オオムギを病害抵抗性の強いオオムギであると判定する判定ステップと、
を備える、請求項1記載の選抜方法。
【請求項3】
前記定量ステップは、前記傷害付与ステップ後に前記組織における前記オオムギ脂肪酸9−/13−ヒドロペルオキシドリアーゼ遺伝子のmRNAの発現量を定量するステップである、請求項2記載の選抜方法。
【請求項4】
請求項1〜3記載の選抜方法を利用した、病害抵抗性オオムギの育種方法。
【請求項5】
請求項4記載の育種方法により得られる、病害抵抗性オオムギ。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−39007(P2009−39007A)
【公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−205636(P2007−205636)
【出願日】平成19年8月7日(2007.8.7)
【出願人】(303040183)サッポロビール株式会社 (150)
【Fターム(参考)】