説明

癌の分類および使用法

本発明は、チロシンキナーゼまたはリン酸化型チロシンキナーゼの有無またはレベルに基づいて癌細胞を分類する方法に関する。また、本発明は、癌の分類を用いて癌を治療する方法にも関する。さらに、本発明は、癌の分類を用いて癌に対する治療の有効性を判定する方法にも関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チロシンキナーゼまたはリン酸化型チロシンキナーゼの有無またはレベルに基づいて癌細胞を分類する方法に関する。また、本発明は、癌の分類を用いて癌を治療する方法にも関する。本発明はさらに、癌の分類を用いて癌の治療の有効性を判定する方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
肺癌は、現在世界中で、癌死の主要な原因となっている。何十年もの集中的な解析にもかかわらず、肺癌発症の原因となる役割を果たしている分子的な異常の大多数は未知のままである。肺癌で重要な発癌遺伝子には、K−RASおよびEGFRの2つがあり、NSCLC患者の15%および10%においてこれらに変異が生じている。大規模なDNA配列決定の試みにより、PI3KCA、ERBB2、およびB−RAFの変異が確認されており、これは、合わせてさらに5%のNSCLC患者に相当する(Greenman, C.,
Stephens, P., Smith, R., Dalgliesh, G. L., Hunter, C., Bignell, G., Davies, H.,
Teague, J., Butler,
A., Stevens, C.ら(2007)Patterns of
somatic mutation in human cancer genomes. Nature 446, 153-158;Thomas, R.K., Baker, A.C., Debiasi, R.M., Winckler, W., Laframboise,
T., Lin, W.M., Wang, M., Feng, W., Zander, T., Macconnaill, L. E.ら(2007)High-throughput oncogene mutation profiling
in human cancer. Nat. Genet. 39, 347-351)。CGHアレイおよびSNPアレイを用いた、増幅および欠失を含む再発性の染色体異常の解析により、癌において変化している多数のさらなる遺伝子が特定される見込みが出てきている(Chin, K., DeVries, S., Fridlyand, J., Spellman, P.T., Roydasgupta, R.,
Kuo, W. L., Lapuk, A., Neve, R.M., Qian, Z., Ryder, T.ら(2006)Genomic and transcriptional aberrations linked to breast cancer
pathophysiologies. Cancer Cell 10, 529-541;Neve, R.M.,
Chin, K., Fridlyand, J., Yeh, J., Baehner, F. L., Fevr, T., Clark, L., Bayani, N.,
Coppe, J.P., Tong, F.ら(2006)A
collection of breast cancer cell lines for the study of functionally distinct
cancer subtypes. Cancer Cell 10, 515-527)。しかし、遺伝学的なアプローチでは、ゲノム不安定性に関連した多くの変化の中で、原因となるわずかな変化を特定するのは困難である。したがって、疾患を引き起こしている鍵となる損傷に焦点を当てた方法が必要とされている。
【0003】
このような一戦略には、癌における間違った細胞のシグナル伝達経路の解析が含まれる(Vogelstein, B.およびKinzler, K. W.(2004)Cancer
genes and the pathways they control. Nat. Med. 10, 789-799)。チロシンキナーゼを介したシグナル伝達は、癌において無秩序であることが多く、これは、多細胞生物においてこれらの酵素が多くの増殖および生存のシグナル伝達を媒介しているためである(Blume-Jensen, P.およびHunter, T.(2001)Oncogenic kinase signalling. Nature 411,
355-365)。近年、癌の治療において、選択的なチロシンキナーゼの阻害剤による成功が示されてきている。しかし、この成功は、活性化したキナーゼによって引き起こされる腫瘍の特定によるものであって、したがって、腫瘍の生存および臨床的な有用性は、標的とするキナーゼによって決まる(Dowell, J. E.およびMinna, J. D.(2005)Chasing
mutations in the epidermal growth factor in lung cancer. N. Engl. J. Med. 352,
830-832; Weinstein, I. B.(2002)Cancer. Addiction to oncogenes-the Achilles
heal of cancer. Science 297, 63-64)。したがって、疾患の惹起および進行における活性化チロシンキナーゼを特定する方法が必要とされている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
異常なチロシンキナーゼに基づいて癌細胞を分類できることが見出されている。このような分類は、癌を治療する際および癌の治療の有効性を判定する際に有用である。
【0005】
したがって、本発明は、少なくとも1つのシグナル伝達経路にある1種または複数種のチロシンキナーゼの有無またはレベルに基づいて、試料中の癌細胞を分類する方法を提供する。また、本発明は、少なくとも1つのシグナル伝達経路にある1種または複数種のリン酸化型チロシンキナーゼの有無またはレベルに基づいて、癌細胞を分類する方法も提供する。
【0006】
さらに、本発明は、少なくとも1つのシグナル伝達経路にある1種または複数種の異常に発現したチロシンキナーゼのレベルに基づいて癌細胞を分類し、その分類に基づいて有効量の1種または複数種のチロシンキナーゼ阻害剤を投与することによって、対象者の癌を治療する方法を提供する。また、本発明は、少なくとも1つのシグナル伝達経路にある1種または複数種の異常にリン酸化されたチロシンキナーゼのレベルに基づいて癌細胞を分類し、その分類に基づいて有効量の1種または複数種のチロシンキナーゼ阻害剤を投与することによって、癌を治療する方法も提供する。
【0007】
さらに、本発明は、1種または複数種のチロシンキナーゼの有無またはレベルが治療の有効性と相関している場合に、試料中の少なくとも1つのシグナル伝達経路にある1種または複数種のチロシンキナーゼの有無またはレベルを検出することに基づいて、対象者における癌治療の有効性を判定する方法を提供する。また、本発明は、1種または複数種のチロシンキナーゼの有無またはレベルが治療の有効性と相関している場合に、試料中の少なくとも1つのシグナル伝達経路にある1種または複数種のリン酸化型チロシンキナーゼの有無またはレベルを検出することに基づいて、癌治療の有効性を判定する方法も提供する。
【0008】
いくつかの実施形態では、1つまたは複数のFISH、IHC、PCR、MS、フローサイトメトリー、ウエスタンブロット、またはELISAを用いて、1種または複数種のチロシンキナーゼの有無またはレベルを測定する。
【0009】
いくつかの実施形態では、リン酸化ペプチドを免疫沈降して、免疫沈降したリン酸化ペプチドを解析することによって、1種または複数種のリン酸化型チロシンキナーゼの有無またはレベルを測定する。
【0010】
いくつかの実施形態では、チロシンキナーゼは、EGFR、FAK、Src、ALK、PDGFRa、Erb2、ROS、cMet、Axl,ephA2、DDR1、DDR2、またはFGFRから選択される。
【0011】
いくつかの実施形態では、1つまたは複数の統計的な方法を用いて、癌細胞を分類する。この実施形態のいくつかの態様では、この統計的な方法は教師なしピアソンクラスタ分析である。
【0012】
いくつかの実施形態では、癌細胞を、1種または2種のみの高度にリン酸化されたチロシンキナーゼを有するものとして分類する。他の実施形態では、癌細胞を、リン酸化型のFak、Src、Abl、ならびにEGFR、ALK、PDGFRa、Erb2、ROS、cMet、Axl、ephA2、DDR1、DDR2、FGFR、VEGR−2、IGFR1、LYN、HCK、HER2、IRS1、IRS2、BRK、EphB4、FGFR1、ErbB3、VEGFR−1、EphB1、EphA4、EphA1、EphA5、Tyro3、EphB2、IGF1R、EphA2、EphB3、Mer、EphB4、およびKitからなる群から選択される少なくとも1つの受容体チロシンキナーゼを発現しているものとして分類する。他の実施形態では、癌細胞を、リン酸化型のDDR1、Src、およびAblを発現しているものとして分類する。他の実施形態では、癌細胞を、リン酸化型のSrcならびにEGFR、ALK、PDGFRa、Erb2、ROS、cMet、Axl、ephA2、DDR1、DDR2、FGFR、VEGR−2、IGFR1、LYN、HCK、HER2、IRS1、IRS2、 BRK、EphB4、FGFR1、ErbB3、VEGFR−1、EphB1、EphA4、EphA1、 EphA5、Tyro3、EphB2、IGF1R、EphA2、EphB3、Mer、EphB4、およびKitからなる群から選択される少なくとも1つの受容体チロシンキナーゼを発現しているものとして分類する。他の実施形態では、癌細胞を、リン酸化型のSrcおよびAblを発現しているものとして分類する。
【0013】
他の実施形態では、癌細胞は肺癌、血液癌、前立腺癌、乳癌、または消化管の腫瘍に由来する癌細胞である。いくつかの実施形態では、これらの方法を、非小細胞肺癌(NSCLC)を分類するために用いる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1Aは、高度、中程度、および低度のリン酸化チロシンの発現を示した、パラフィン包埋したヒト非小細胞肺癌腫瘍組織のIHC染色の顕微鏡写真である。図1Bは、異なるパターンのリン酸化チロシン反応性を示す22種の異なる非小細胞肺癌細胞株におけるリン酸化チロシンのシグナル伝達を示したウエスタンブロットである。図1Cは、免疫親和性のプロファイリング法の実施形態を示した略図である。細胞または組織を尿素緩衝液に溶解し、タンパク質分解酵素で消化する。結果として生じたペプチドを、固定化リン酸化チロシン特異的抗体(P−Tyr−100)を用いて免疫親和性精製し、LC−MS/MSで解析する。より大きな液体クロマトグラフィーのピークは小さなピークよりも多く抽出されるため、特定のタンパク質に割り当てられた観測スペクトル数は、このタンパク質の存在量の半定量的測定である。図1Dは、NSCLC細胞株でMetおよびリン酸化型Met(Tyr1234/5)の発現を示したウエスタンブロットである。免疫ブロットとMS/MSで同定したリン酸化ペプチド数の比較を下に示している。同定した異なる部位数を括弧内に示している。
【図2】図2Aは、リン酸化タンパク質の種類の分布を示した円グラフである。観測した各リン酸化タンパク質をPhosphoSiteの概念体系からタンパク質の区分に割り当てた。各区分にある固有のタンパク質の数は、全体の一部分として円グラフの楔型で表されている。図2Bは、受容体チロシンキナーゼ(RTK)間のスペクトル数の分布を示した円グラフである。細胞株(上)または腫瘍(下)のすべてにわたる各RTKに割り当てた観測スペクトルの総数を、観測された総RTKスペクトルの割合として表している。図2Cは、非受容体チロシンキナーゼのスペクトル数の分布を示した円グラフである。細胞株(上)または腫瘍(下)のすべてにわたる各TK(非受容体)に割り当てた観測スペクトルの総数を、観測された総TK(非受容体)スペクトルの割合として表している。図2Dおよび図2Eは、肺癌細胞株でのチロシンキナーゼのリン酸化を示したグラフである。各細胞株での各TKに割り当てられた観測スペクトルの総数を、ピアソン相関の距離メトリックおよび平均連結法を使用したクラスタ分析の基盤として使用した。図2Dでは、標準化を適用していない。図2Eにおいて、行列にある各値は行平均を差し引いたものである。
【図3】図3Aは、チロシンリン酸化による腫瘍のクラスタ分析を示したグラフである。患者の腫瘍にあるチロシンキナーゼのスペクトル数をGSK3βに対する数値に標準化し、次いで、図2Eに記載のようにクラスタ分析を行った。クラスタ分析によって、異なる組の優勢なチロシンキナーゼを含む腫瘍の群が5つ生じた。図3B〜図3Dは、異なる腫瘍群において選択された非キナーゼタンパク質のリン酸化を示したグラフである。腫瘍試料を図3Aでのクラスタ分析によって定められた群に配分し、スペクトル数をGSK3βに対する数値に標準化した。タンパク質群からすべてのキナーゼを除去した後に、図2Eのようにデータをクラスタ化し、上位30タンパク質を表示した。図3Bで用いた腫瘍は図3Aの第1群由来であり、図3Cのものは第2群由来であり、図3Dのものは第4群由来である。図3E〜図3Gは、最も顕著なリン酸化タンパク質を示したグラフである。スペクトル数に基づいてタンパク質をランク付けして、上位25を示している。腫瘍のタンパク質をランク付けする前に、各タンパク質の数値をGSK3βに対する数値に標準化して、次いで、全腫瘍のそのタンパク質の平均数値を差し引いた。細胞株のタンパク質では、すべての細胞株の平均数値を差し引いた。矢印は細胞株と腫瘍との間で共通しているタンパク質を指している。
【図4】図4Aおよび図4Bは、H2228細胞株およびHCC78細胞株にある受容体チロシンキナーゼ間のスペクトル数の分布を示した円グラフである。各RTKに割り当てた観測スペクトルの総数を、観測した総RTKスペクトルの割合として表している。図4Cは、EML4、ALK、およびEML4−ALK融合タンパク質の略図である。矢印は染色体切断点を指している。図4Dは、TFG、ALK、およびTFG−ALK融合タンパク質の略図である。矢印は染色体切断点を指している。図4Eは、SLC34A2、ROS、およびSLC34A2−ROS融合タンパク質の略図である。矢印は染色体切断点を指している。図4Fは、CD74、ROS、およびCD74−ROS融合タンパク質の略図である。矢印は染色体切断点を指している。
【図5】図5Aは、H1703にある受容体チロシンキナーゼ間のスペクトル数の分布を示した円グラフである。図5Bは、Aktのリン酸化に対する、EGFR阻害剤およびPDGFR阻害剤の効果を示したウエスタンブロットである。H1703細胞は、EGF、イレッサとEGF、またはグリベックで1時間の処置をするかしないかのいずれかを行い、EGFR、PDGFRα、およびAktのレベルをウエスタンブロットによって測定した。EGFR(Tyr1068)およびAkt(Ser473)のリン酸化は、リン酸化状態特異的抗体を用いて測定した。図5Cは、H1703細胞においてメシル酸イマチニブが細胞増殖を阻害し、アポトーシスを誘発することを示したグラフである。H1703細胞をグリベックで72時間処置して、MTSアッセイを行った。3回の実験の平均による結果を示した(エラーバーは標準偏差を示す)。図5Dは、H1703マウス異種移植片に対するイマチニブ治療を示したグラフである。同様のサイズの腫瘍を有するマウスを2群に分けて、一方の群(5匹のマウス)をグリベックで治療し、他方の群(5匹のマウス)は治療しなかった。治療の7日後に、各腫瘍のサイズ(mm長×mm幅)を測定した。図5Eは、H1703細胞におけるイマチニブによるPDGFRαのリン酸化の調節を示したイメージ図である。H1703細胞を軽いアミノ酸および重いアミノ酸で標識して、SILACについて記載のように、LC−MS/MSタンデム質量分析によって分析した。質量分析によって検出されたPDGFRαのリン酸化部位を、イマチニブの処置の3時間後に測定したフォールドの変化と共に示した。図5Fは、SILACおよびLC−MS/MSによって測定されるような、H1703細胞におけるPDGFRαの下流のシグナル伝達の調節を示したイメージ図である。赤い円は、イマチニブ処置後にリン酸化が減少したタンパク質を表している。黒および赤の矢印はそれぞれ、既知の基質および予測される基質(scansiteおよびnetphosK)を指している。
【図6】チロシンキナーゼにおけるリン酸化部位のクラスタ分析を示したグラフである。各腫瘍試料について、その部位の全試料の平均数値を差し引いた。次いで、試料を、全試料の最も高い標準偏差、ピアソン相関距離メトリック、および平均連結法を用いて、120部位を使用してクラスタ化した。
【図7】腫瘍と隣接組織との間のシグナル伝達の差異を示したt検定比較である。腫瘍および隣接組織にある各タンパク質のスペクトル数を、GSK3βに対する数値に標準化した。全腫瘍および全隣接組織から隣接組織の平均数値を差し引いた。ピアソン相関距離および平均連結のクラスタ分析と共にTIGRのMeVプログラム(Saeed, A.I., Sharov, V.,White, J., Li, J., Liang, W., Bhagabati, N., Braisted, J., Klapa, M., Currier,T., Thiagarajan, M.ら(2003)TM4: a free, open-source system formicroarray data management and analysis. Biotechniques 34, 374-378)を用いてt検定を行って、隣接組織と腫瘍組織との間で著しい相違を示したチロシンリン酸化型タンパク質を特定した。
【図8】図8Aは、NSCLC細胞株におけるALKの発現を示したウエスタンブロットである。ALKの発現はH2228細胞にきわめて限定されている。図8Bは、NSCLC細胞株におけるROSの発現を示したウエスタンブロットである。ROSの発現はHCC78細胞株にきわめて限定されている。図8Cおよび図8Dはそれぞれ、HCC78細胞においてROSのノックダウンが細胞増殖を阻害し、細胞死を誘発することを示した棒グラフおよびウエスタンブロットである。HCC78細胞およびH2066細胞を、ROSに対するsiRNAで48時間トランスフェクトした。対照細胞およびトランスフェクトした細胞の生存率を、トリパンブルー除去法によって測定した。生存細胞の(4実験の)平均百分率+/−SDを棒グラフで表している。対照のsiRNAおよびROSのsiRNA(100nM)の両方からの細胞溶解液を、ROS、切断PARP、およびβ−アクチンの抗体を用いて免疫ブロットした。図8Eは、in vitroキナーゼアッセイを示した棒グラフおよびウエスタンブロットである。pExchange−2ベクターまたはpExchange−2/SLC34A2−ROS(S)ベクターを293T細胞に一過的にトランスフェクトし、ROS融合タンパク質をMycタグ抗体で免疫沈降して、キナーゼアッセイを実施した。図8Fは、ROS融合タンパク質の細胞小器官の局在を示したウエスタンブロットである。pExchange−2ベクターまたはpExchange−2/SLC34A2−ROS(S)ベクターを293T細胞に一過的にトランスフェクトした。融合タンパク質の細胞小器官の局在をMycタグ抗体で検出した。原形質膜(PM)、サイトゾル、および核の分画のマーカーとして、IGF1R、β−アクチン、およびラミンA/Cを使用した。図8Gは、ALKの切断分離再編成のプローブがALK遺伝子の切断点の両側を別々に標識する2つのプローブを含むことを示した、図および顕微鏡写真である。ハイブッド形成した際に、天然のALK領域は橙色/緑色(黄色)の融合シグナルのように見えるが、この遺伝子座における再編成によって橙色と緑色の別々のシグナルが生じることとなる。H2228細胞株および患者の試料には、2コピーの正常なALK(黄色)ならびにALK遺伝子座の3’部分に由来する1つの近位プローブ(赤色;白色の矢印)が含まれる。この遺伝子座の5’部分は欠失するようである。EML4、ALKおよびEML4−ALK融合タンパク質の略図である。矢印は染色体切断点を指している。図8Hは、ROS遺伝子座内における再編成を示した、図および顕微鏡写真である。分離プローブを用いて、ROS遺伝子座内での再編成を解析した。ROS遺伝子座内における転座によって、HCC78細胞株(左)およびNSCLC腺癌の試料(右)で見られるように、黄色のシグナルが分離して赤色または緑色のシグナルとなる。
【図9】図9Aは、NSCLC細胞株におけるPDGFRαを示したウエスタンブロットである。PDGFRαの発現はH1703細胞株にきわめて限定されている。図9Bは、H1703細胞におけるメシル酸イマチニブ(グリベック)によるPDGFRαおよびAktのリン酸化の用量依存的な阻害剤を示したウエスタンブロットである。示した量のメシル酸イマチニブでH1703細胞を1時間処置して、リン酸化型PDGFRα(Tyr754)、リン酸化型Akt(Ser473)、およびリン酸化型MAPK(Thr202/Tyr204)のレベルをウエスタンブロットによって測定した。PDGFRα、Akt、およびMAPKの総タンパク質レベルも同じ試料で測定した。図9Cは、アポトーシスアッセイの結果を示した棒グラフである。メシル酸イマチニブ(1μM、10μM)またはDMSO(対照)を40%コンフルエントのH1703細胞に添加し、24時間後、接着細胞および浮遊細胞の両方を収集して、フローサイトメトリーによって切断カスパーゼ3を定量化してアポトーシスを測定した。独立した3実験の平均による結果を示している(エラーバーは標準偏差を示す)。図9Dは、H1703細胞においてイマチニブが切断PARPの発現を誘発することを示したウエスタンブロットである。H1703細胞を漸増濃度のグリベックで3時間処置して、切断PARPを免疫ブロットによって測定した。PDGFRアルファのレベルを測定して、総タンパク質のローディングを調節した。図9Eは、グリベック感受性のリン酸化部位を確認するウエスタンブロットである。部位特異的かつリン酸化特異的な抗体を用いたウエスタン分析によって、同イマチニブ処置条件下(1μM、3時間)で質量分析により同定された同部位において、グリベックによってPDGFRα、PLCγ1、およびSHP2のリン酸化が減少していることが確認される。Stat3のリン酸化は、質量分析によって予測されたとおり、変化しなかった。図9Fは、H1703細胞から調製したマウス異種移植片において、メシル酸イマチニブが腫瘍増殖を阻止することを示した写真である。3匹の未治療マウス(赤色矢印)および50mg/kgのイマチニブ治療7日後の3匹のグリベック治療マウス(青色矢印)の典型的な腫瘍サイズである。図9Gは、PDGFRaの発現が腺癌および細気管支肺胞癌においてより著しく認められることを示した顕微鏡写真である。図9Hは、PDGFRαの増幅を示した図および顕微鏡写真である。正常な対照試料を左側に示す。赤色のシグナルはPDGFRαプローブ(白色矢印)を示し、緑色のシグナルは4番染色体に位置しPDGFRαの近位にあるセントロメアを示している。扁平上皮癌患者由来の中間期核におけるPDGFRαの増幅を右側に示す。大きな増幅を黄色の矢印で印した。この細胞は3コピーの4番染色体を有しており、そのうちの1つによってPDGFRα遺伝子座における増幅が示される。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本明細書に記載の本発明が完全に理解され得るように、以下に詳細な説明を記載する。
【0016】
他に定義しない限り、本明細書中で用いているすべての技術用語および科学用語は、本発明が属する当技術分野の当業者に共通して理解される意味と同じ意味を有する。本明細書での記載と類似または等価の方法および物質を本発明の実施または試験に用いることができるが、好ましい方法および物質を以下に記載する。材料、方法、および実施例は例示的なものにすぎず、限定することを意図しない。本明細書で言及するあらゆる刊行物、特許、およびその他の文書は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0017】
本明細書を通じて、「含む」という言葉または「含んでいる」などのその変形は、言及した整数または整数群の包含を意味するように理解されることとなるが、他のいずれの整数または整数群の排除を意味するように理解されるものではない。
【0018】
発明をさらに定義するために、以下の用語および定義をここに記載する。
【0019】
「試料」という用語は、腫瘍組織、脳組織、脳脊髄液、血液、血漿、血清、リンパ、リンパ節、脾臓、肝臓、骨髄、または他のあらゆる生物学的標本(癌細胞を含む)として得られる標本、あるいはこれらから単離される標本のことをいう。
【0020】
「治療する」または「治療」という用語は、哺乳類において癌の症状の進行を後退、軽減、抑制すること、あるいはその症状を予防または緩和すること、あるいは癌に関連する確証可能な測定法を改良することを意味することを意図する。
【0021】
「対象者」という用語は、これらに限定されるものではないがヒト、霊長類、ウマ、トリ、ウシ、ブタ、イヌ、ネコ、およびマウスを含む、哺乳類のことをいう。
【0022】
「有効量」という用語は、チロシンキナーゼを阻害するのに十分な阻害剤の量のことをいう。
【0023】
「治療の有効性」という用語は、治療によって障害または病態、あるいはその1つまたは複数の症状を、後退、緩和、または予防する程度、あるいは障害または病態の進行を抑制する程度のことをいう。
【0024】
癌細胞を分類する方法
本発明は、試料中の癌細胞を分類する方法を提供する。いくつかの実施形態では、この方法には、癌細胞の試料を得るステップと、その試料中の少なくとも1つのシグナル伝達経路にある1種または複数種のチロシンキナーゼの有無またはレベルを検出するステップと、その1種または複数種のチロシンキナーゼの有無またはレベルに基づいて癌細胞を分類するステップとが含まれる。他の実施形態では、この方法には、癌細胞の試料を得るステップと、その試料中の少なくとも1つのシグナル伝達経路にある1種または複数種のリン酸化型チロシンキナーゼの有無またはレベルを検出するステップと、その1種または複数種のリン酸化型チロシンキナーゼの有無またはレベルに基づいて癌細胞を分類するステップとが含まれる。
【0025】
本発明の方法に用い得る癌細胞には、癌細胞株由来または対象者の固形腫瘍由来の細胞が含まれるが、これらに限定されない。癌細胞は、いかなる種類の癌からも得ることができ、これには、肺癌(肺の扁平上皮癌を含む)、血液癌(リンパ腫を含む)、前立腺癌、乳癌、および胃腸管の腫瘍が含まれるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態では、この癌は肺細胞である。好ましい実施形態では、この癌は非小細胞肺癌である。
【0026】
本明細書で用いているように、通常、チロシンキナーゼという用語は、非受容体チロシンキナーゼおよび受容体チロシンキナーゼのことをいう。非受容体チロシンキナーゼには、ABL、ACK、CSK、FAK、FES、FRK、JAK、SRC、TEC、およびSYKが含まれるが、これらに限定されない。受容体チロシンキナーゼには、ALK、AXL、DDR1、DDR2、EGFR、EPH、ERB2、FGFR、INSR、MET、MUSK、PDGFR、PTK7、PET、ROR、ROS、TYK、TIE、TRK、VEGFR、AATYK、ephA2、VEGR−2、IGFR1、LYN、HCK、HER2、IRS1、IRS2、BRK、EphB4、FGFR1、ErbB3、EphB1、EphA4、EphA1、EphA5、Tyro3、EphB2、IGF1R、EphA2、EphB3、Mer,EphB4、およびKitが含まれるが、これらに限定されない。Robinson, WuおよびLin、2000を参照されたく、参照によりその内容全体が本明細書に組み込まれる。
【0027】
一実施形態によれば、チロシンキナーゼの有無またはレベルを検出することに基づいて試料中の癌細胞を分類する。好適な検出方法は当業者に周知であり、これには、蛍光in
situハイブリダイゼーション(FISH)、免疫組織化学(IHC)、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、質量分析(MS)、フローサイトメトリー、ウエスタンブロット、および酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)が含まれるが、これらに限定されない。
【0028】
他の一実施形態によれば、リン酸化型チロシンキナーゼの有無またはレベルを検出することに基づいて試料中の癌細胞を分類する。好適な検出方法は当業者に周知であり、これには、試料からのリン酸化ペプチドの免疫沈降および免疫沈降したリン酸化ペプチドの分析、例えば液体クロマトグラフィー(LC)MS/MSを用いた分析が含まれるが、これらに限定されない。
【0029】
さらに他の一実施形態によれば、試料中の少なくとも1つのシグナル伝達経路にある1種または複数種のチロシンキナーゼの活性の有無またはレベルを検出することに基づいて試料中の癌細胞を分類する。好適な検出方法は当業者に周知であり、これには、これらに限定されるものではないが、米国特許の第6,066,462号、第6,348,310号、および第6,753,157号、ならびに欧州特許第0760678B9号に開示される方法が含まれ、参照によりこれらの内容全体が本明細書に組み込まれる。
【0030】
いくつかの実施形態では、いかなる統計的な方法またはコンピュータの方法の補助も用いることなく、この分類のステップを実施する。この実施形態は、検査する試料の数またはチロシンキナーゼの数が少ない場合に好ましい。
【0031】
他の実施形態では、統計的な方法またはコンピュータの方法の補助を用いて、この分類のステップを実施する。この実施形態は、検査する試料の数またはチロシンキナーゼの数が多い場合に好ましい。統計的な方法は当業者に知られており、コンピュータプログラムを含むが、これに限定されない。好適なコンピュータプログラムには教師なしピアソンクラスタ分析が含まれるが、これに限定されない。
【0032】
いくつかの実施形態では、1種または2種のみの高度にリン酸化されたチロシンキナーゼを有するものとして癌細胞を分類する(クラスI)。他の実施形態では、リン酸化型のFak、Src、Abl、ならびにEGFR、ALK、PDGFRa、Erb2、ROS、cMet、Axl、ephA2、DDR1、DDR2、FGFR、VEGR−2、IGFR1、LYN、HCK、HER2、IRS1、IRS2、およびBRKからなる群から選択される少なくとも1つの受容体チロシンキナーゼを発現しているものとして癌細胞を分類する(クラスII)。他の実施形態では、リン酸化型のDDR1、Src、およびAblを発現しているものとして癌細胞を分類する(クラスIII)。他の実施形態では、リン酸化型のSrc、ならびにEGFR、ALK、PDGFRa、Erb2、ROS、cMet、Axl、ephA2、DDR1、DDR2、FGFR、VEGR−2、IGFR1、LYN、HCK、HER2、IRS1、IRS2、およびBRKからなる群から選択される少なくとも1つの受容体チロシンキナーゼを発現しているものとして癌細胞を分類する(クラスIV)。他の実施形態では、リン酸化型のSrcおよびAblを発現しているものとして癌細胞を分類する(クラスV)。
【0033】
好ましい実施形態では、本発明は、非小細胞肺癌細胞を分類するための方法を提供する。この実施形態の一態様によれば、この方法には、NSCLC細胞の試料を得るステップと、その試料中の少なくとも1つのシグナル伝達経路にある1種または複数種のチロシンキナーゼの有無またはレベルを検出するステップと、その1種または複数種のチロシンキナーゼの有無またはレベルに基づいてNSCLC細胞を分類するステップとが含まれる。この実施形態の他の一態様によれば、この方法には、NSCLC細胞の試料を得るステップと、その試料中の少なくとも1つのシグナル伝達経路にある1種または複数種のリン酸化型チロシンキナーゼの有無またはレベルを検出するステップと、その1種または複数種のリン酸化型チロシンキナーゼの有無またはレベルに基づいてNSCLC細胞を分類するステップとが含まれる。
【0034】
癌を治療する方法
また、本発明は、対象者の癌を治療する方法も提供する。いくつかの実施形態では、この方法には、対象者から癌細胞の試料を採取するステップと、その試料中の少なくとも1つのシグナル伝達経路にある1種または複数種の異常に発現したチロシンキナーゼのレベルに基づいて癌細胞を分類するステップと、その分類に基づいて有効量の1種または複数種のチロシンキナーゼ阻害剤を投与するステップとが含まれる。他の実施形態では、この方法には、対象者から癌細胞の試料を採取するステップと、その試料中の少なくとも1つのシグナル伝達経路にある1種または複数種の異常にリン酸化されたチロシンキナーゼのレベルに基づいて癌細胞を分類するステップと、その分類に基づいて有効量の1種または複数種のチロシンキナーゼ阻害剤を投与するステップとが含まれる。
【0035】
この方法に用い得る癌細胞には、肺癌(肺の扁平上皮癌を含む)、血液癌(リンパ腫を含む)、前立腺癌、乳癌、および胃腸管の腫瘍に由来する癌細胞が含まれるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態では、この癌は肺細胞である。好ましい実施形態では、この癌は非小細胞肺癌である。
【0036】
この癌細胞の試料は当技術分野で知られている任意の方法によって得ることができ、これには、対象者から腫瘍の標本を採取することが含まれるが、これに限定されない。
【0037】
いくつかの実施形態では、異常に発現したチロシンキナーゼに基づいて癌細胞を分類する。他の実施形態では、異常に発現したリン酸化型チロシンキナーゼに基づいて癌細胞を分類する。これらの実施形態によれば、チロシンキナーゼ(またはリン酸化型チロシンキナーゼ)の発現、あるいはそれらのリン酸化レベルまたは活性を検出して、正常な細胞を含有する試料中で検出したものと比較する。
【0038】
いくつかの実施形態では、1種または2種のみの高度にリン酸化されたチロシンキナーゼを有するものとして癌細胞を分類する(クラスI)。他の実施形態では、リン酸化型のFak、Src、Abl、ならびにEGFR、ALK、PDGFRa、Erb2、ROS、cMet、Axl、ephA2、DDR1、DDR2、FGFR、 VEGR−2、IGFR1、LYN、HCK、HER2、IRS1、IRS2、およびBRKからなる群から選択される少なくとも1つの受容体チロシンキナーゼを発現しているものとして癌細胞を分類する(クラスII)。他の実施形態では、リン酸化型のDDR1、Src、およびAblを発現しているものとして癌細胞を分類する(クラスIII)。他の実施形態では、リン酸化型のSrc、ならびにEGFR、ALK、PDGFRa、Erb2、ROS、cMet、Axl、ephA2、
DDR1、DDR2、FGFR、VEGR−2、IGFR1、LYN、HCK、HER2、IRS1、IRS2、およびBRKからなる群から選択される少なくとも1つの受容体チロシンキナーゼを発現しているものとして癌細胞を分類する(クラスIV)。他の実施形態では、リン酸化型のSrcおよびAblを発現しているものとして癌細胞を分類する(クラスV)。
【0039】
癌を治療する方法では、この分類に基づいて、有効量の1種または複数種のチロシンキナーゼ阻害剤を対象者に投与する。本発明の方法において投与することができる好適なチロシンキナーゼ阻害剤は当技術分野で知られており、これには、アキシチニブ(AG013736としても知られる;Rugo, H.S., Herbst, R.S., Liu,
G., Park, J.W., Kies, M.S., Steinfeldt, H.M., Pithavala, Y.K., Reich, S.D.,
Freddo, J.L.およびWilding, G.(2005)Phase I
Trial of the Oral Antiangiogenesis Agent AG-013736 in Patients With Advanced
Solid Tumors:Pharmacokinetic and Clinical Results. Journal
of Clinical Oncology 23, 5474-5483)、ボスチニブ(Gambacorti-Passerini,
C., Kantarjian, H.M., Baccarani, M., Porkka, K., Turkina, A., Zaritskey, A.Y.,
Agarwal, S., Hewes, B.およびKhoury, H.J.(2008)Activity and tolerance of bosutinib in
patients with AP and BP CML and Ph+ ALL. J. Clin. Oncol. 26(May 20 suppl;abstr 7049))、セディラニブ(AZD2171としても知られる;Wedge, S.R., Kendrew, J.,
Hennequin, L.F., Valentine, P.J., Barry, S.T., Brave, S.R., Smith, N.R., James,
N. H., Dukes, M., Curwen, J.O., Chester, R., Jackson, J.A., Boffey, S.J.,
Kilburn, L.L., Barnett, S., Richmond, G.H.P., Wadsworth, P.F., Walker, M.,
Bigley, A.L., Taylor, S.T., Cooper, L., Beck, S., Jurgensmeier, J.M.およびOgilvie, D.J.(2005)AZD2171:A Highly Potent, Orally Bioavailable, Vascular Endothelial Growth
Factor Receptor-2 Tyrosine Kinase Inhibitor for the Treatment of Cancer. Cancer
Res. 65, 4389-4400)、ダサチニブ(Talpaz, M., Shah, N.P.,
Kantarjian, H., Donato, N., Nicoll, J., Paquette, R., Cortes, J., O'Brien, S.,
Nicaise, C., Bleickardt, E., Blackwood-Chirchir, M.A., Iyer, V., Chen, T.-T.,
Phil., Huang, F., Decillis, A.P.およびSawyers, C.L.(2006)Dasatinib in Imatinib-Resistant Philadelphia
Chromosome-Positive Leukemias. N. Eng. J. Med. 354, 2531-2541)、エルロチニブ(Perez-Soler, R., Chachoua, A., Hammond, L.A., Rowinsky, E.K., Huberman,
M. Karp, D., Rigas, J., Clark, G.M., Santabarbara, P.およびBonomi,
P.(2004)Determinants of Tumor
Response and Survival With Erlotinib in Patients With Non-Small-Cell Lung
Cancer. Journal of Clinical Oncology 22, 3238-3247、Rappsilber,
J., Ishihama, Y.およびMann, M.(2003)Stop and go extraction tips for matrix-assisted laser
desorption/ionization, nanoelectrospray, and LC/MS sample pretreatment in
proteomics. Anal Chem.75(3):663-70)、ゲフィチニブ(Pao, W., Miller, V., Zakowski, M., Doherty, J., Politi, K., Sarkaria,
I., Singh, B., Heelan, R., Rusch, V., Fulton, L.ら(2004)EGF receptor gene mutations are common in lung cancers from“never smokers”and are associated with sensitivity
of tumors to gefitinib and erlotinib. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 101,
13306-13311、Peduto, L., Reuter, V.E., Shaffer, D.R.,
Scher, H.I.およびBlobel, C.P.(2005)Critical function for ADAM9 in mouse prostate cancer. Cancer Res. 65,
9312-9319)、イマチニブ(Deininger, M.W.N.およびDruker
B.J.(2003)Specific Targeted Therapy
of Chronic Myelogenous Leukemia with Imatinib. Pharmacological Reviews 55, 401-423)、ラパチニブ(Burris III, H.A.(2004)Dual
kinase inhibition in the treatment of breast cancer:initial experience with the
EGFR/ErbB-2 inhibitor Lapatinib. The Ongologist 9(suppl 3), 10-15)、レスタウルチニブ(Cephalon, Frazer, PA)、ニロチニブ(Kantarjian, H., Giles, F., Wunderle, L., Bhalla, K., O'Brien, S.,
Wassmann, B., Tanaka, C., Manley, P., Rae, P., Mietlowski, W., Bochinski, K.,
Hochhaus, A., Griffin, J.D., Hoelzer, D., Albitar, M., Dugan, M., Cortes, J.,
Alland, L.およびOttmann, O.G.(2006)Nilotinib in Imatinib-Resistant CML and Philadelphia Chromosome-Positive ALL. N. Eng.
J. Med. 354, 2542-2551)、セマキサニブ(O'Donnell, A., Padhani, A.,
Hayes, C., Kakkar, A.J., Leach, M., Trigo, J.M., Scurr, M., Raynaud, F.およびPhillips, S.(2005)A Phase I
study of the angiogenesis inhibitor SU5416(semaxanib)in solid tumours, incorporating dynamic contrast MR pharmacodynamic end
points. British Journal of Cancer 93, 876-883)、スニチニブ(Motzer,
R.J., Hutson, T.E., Tomczak, P., Michaelson, M.D., Bukowski, R.M., Rixe, O.,
Oudard, S., Negrier, S., Szczylik, C., Kim, S.T., Chen, I., Bycott, P.W., Baum,
C.M.およびFiglin, R.A.(2007)Sunitinib versus Interferon Alfa in Metastatic Renal-Cell Carcinoma. N.
Eng. J. Med. 356, 115-124)、およびバンデタニブ(AstraZeneca, London, England)が含まれるが、これらに限定されない。
【0040】
当技術分野で知られる多様な方法のうち任意の方法を用いてチロシンキナーゼ阻害剤を投与することができる。いくつかの実施形態では、チロシンキナーゼ阻害剤を静脈内に投与する。いくつかの実施形態では、チロシンキナーゼ阻害剤を筋肉内に投与する。いくつかの実施形態では、チロシンキナーゼ阻害剤を皮下に投与する。
【0041】
治療の有効性を判定する方法
本発明はさらに、対象者における癌の治療の有効性を判定する方法を提供する。いくつかの実施形態では、この方法には、対象者から癌細胞の試料を採取するステップと、その試料中の少なくとも1つのシグナル伝達経路にある1種または複数種のチロシンキナーゼの有無またはレベルを検出するステップとが含まれ、このとき、1種または複数種のチロシンキナーゼの有無またはレベルが治療の有効性と相関している。他の実施形態では、この方法には、対象者から癌細胞の試料を採取するステップと、その試料中の少なくとも1つのシグナル伝達経路にある1種または複数種のリン酸化型チロシンキナーゼの有無またはレベルを検出するステップとが含まれ、このとき、1種または複数種のチロシンキナーゼの有無またはレベルが治療の有効性と相関している。
【0042】
この方法に用い得る癌細胞には、肺癌(肺の扁平上皮癌を含む)、血液癌(リンパ腫を含む)、前立腺癌、乳癌、および胃腸管の腫瘍に由来する癌細胞が含まれるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態では、この癌は肺細胞である。好ましい実施形態では、この癌は非小細胞肺癌である。
【0043】
いくつかの実施形態では、1種または複数種のチロシンキナーゼの有無またはレベルを検出する。他の実施形態では、1種または複数種のリン酸化型チロシンキナーゼの有無またはレベルを検出する。チロシンキナーゼを検出する好適な方法には、FISH、IHC、PCR、MS、フローサイトメトリー、ウエスタンブロット、およびELISAが含まれるが、これらに限定されない。リン酸化型チロシンキナーゼを検出する好適な方法は、当技術分野で知られている(例えば、米国特許の第7,198,896号および第7,300,753号、これらは両方とも参照によりその内容全体が本明細書に組み込まれる)。
【0044】
いかなる理論にも拘束されることを望むものではないが、タンパク質チロシンのリン酸化は、癌細胞と正常細胞との間および種々の癌細胞間で著しい相違を示すため、種々の癌細胞において、シグナル伝達経路にあるチロシンキナーゼまたはリン酸化型チロシンキナーゼの有無またはレベルを、癌の重症度、病期、または種類の指標とすることができ、したがって、癌の治療の有効性と相関しているものと考えられる。
【0045】
本発明がより完全に理解されるように、以下の実施例を記載する。これらの実施例は例示のみを目的とし、いかなる形であれ本発明の範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。
【実施例】
【0046】
実施例1
NSCLCの腫瘍および細胞株のリン酸化チロシンプロファイル
パラフィン包埋しホルマリン固定した、NSCLC患者の96個の組織試料を、免疫組織化学(IHC)およびリン酸化特異的抗体を用いてスクリーニングした(図1A)。約30%の腫瘍が高レベルのリン酸化チロシンの発現を示した。また、この群の患者の試料は高レベルの受容体チロシンキナーゼ(RTK)発現も示しており、RTK活性がこれらの肺腫瘍の発生に関与し得ることが示唆される。リン酸化特異的抗体を用いた、41種のNSCLC細胞株の免疫ブロットによっても、特に受容体チロシンキナーゼの分子量範囲の特性において不均一な反応性が示された(図1B)。
【0047】
NSCLC細胞株および固形腫瘍におけるチロシンキナーゼの活性をさらに特徴付けるために、免疫親和性のリン酸化プロテオミクスのアプローチを用いた。タンデム質量分析(MS/MS)による測定では、リン酸化チロシンは細胞のリン酸化プロテオームの1%未満に相当し(Olsen, J.V.,
Blagoev, B., Gnad, F., Macek, B., Kumar, C., Mortensen, P.およびMann, M.(2006)Global, in
vivo, and site-specific phosphorylation dynamics in signaling networks. Cell
127, 635-648)、従来の方法による分析は困難なため、タンデム質量分析による分析の前に、リン酸化チロシン抗体を用いた免疫親和性の精製を用いてリン酸化チロシン含有ペプチドを濃縮した(Rush, J.,
Moritz, A., Lee, K.A., Guo, A., Goss, V.L., Spek, E.J., Zhang, H., Zha, X.M.,
Polakiewicz, R.D.およびComb, M.J.(2005)Immunoaffinity profiling of tyrosine phosphorylation in cancer cells.
Nat. Biotechnol. 23, 94-101)。標準的な病理に基づき、全腫瘍をNSCLCとして同定した。癌細胞を50%以上含有する腫瘍のみを分析した。培養条件によって生じるバックグラウンドのリン酸化を抑えるため、分析前にNSCLC細胞株を低血清中で一晩増殖させた。
【0048】
この方法を用いて多数の部位(重複していない150〜1200部位/細胞株または腫瘍に及ぶ)のリン酸化状態を検出し、合計で41種のNSCLC細胞株および150個のNSCLC腫瘍からのリン酸化チロシンのプロファイルを得た。2700種を超えるさまざまなタンパク質上の4551個のチロシンリン酸化部位が特定され、NSCLCにおけるチロシンキナーゼシグナル伝達の知識が劇的に広がった。これらの部位を、既知のリン酸化部位の包括的な供給源であるPhosphoSite(www.phosphosite.org)(Hornbeck, P.V., Chabra, I., Kornhauser,
J.M., Skrzypek, E.およびZhang, B.(2004)PhosphoSite:A bioinformatics resource dedicated to
physiological protein phosphorylation. Proteomics 4, 1551-1561)と照合させ、85%を超えるものが新規であると考えられることが明らかとなった。これらのデータはPhosphoSiteに寄託されており、このデータセットはhttp://www.phosphosite.org/papers/rikova01.htmlを通して無料公開されている。
【0049】
実施例2
NSCLCのチロシンリン酸化
リン酸化ペプチドのデータセットに基づいて、リン酸化チロシンシグナル伝達の異常をスクリーニングし、NSCLCのタンパク質を比較するための最初のステップとして、リン酸化ペプチドの帰属の数を使用した半定量的な方法を用いて、試料中に存在するリン酸化ペプチドの量を概算した。簡潔に述べると、LCカラムからの溶出のピークが大きいほど、LC
MS/MSによってより多くのリン酸化ペプチドが検出されており、したがって、試料中により多くのリン酸化ペプチドが存在している(図1Cを参照されたい)。例えば、c−Metのリン酸化ペプチド数と、ウエスタン分析で認められるリン酸化型c−Metタンパク質のレベルとの比較はよく一致している(Gilchrist, A., Au, C.E.,
Hiding, J., Bell,
A.W., Fernandez-Rodriguez, J., Lesimple, S., Nagaya, H., Roy, L., Gosline,
S.J., Hallett, M.ら(2006)Quantitative proteomics analysis of the
secretory pathway. Cell 127, 1265-1281;Old, W.M.,
Meyer-Arendt, K., Aveline-Wolf, L., Pierce, K.G., Mendoza, A., Sevinsky, J.R.,
Resing, K.A.およびAhn, N.G.(2005)Comparison of label-free methods for quantifying human proteins by
shotgun proteomics. Mol. Cell. Proteomics 4, 1487-1502;Zybailov,
B., Coleman, M.K., Florens, L.およびWashburn, M.P.(2005)Correlation of relative abundance ratios
derived from peptide ion chromatograms and spectrum counting for quantitative
proteomic analysis using stable isotope labeling. Anal. Chem. 77, 6218-6224)(図1Dを参照されたい)。所定のタンパク質上のすべての部位を組み合わせることによって分析を簡易化できるため、このアプローチは、親イオンのピークの高さなどの他の方法よりも好ましいことが判明した。
【0050】
次に、タンパク質の分類に基づいて、NSCLC細胞株および固形腫瘍におけるタンパク質のチロシンリン酸化の分布を比較した。
【0051】
図2Aに示すように、タンパク質キナーゼ、接着性タンパク質、および細胞骨格の構成成分が、最も高度にリン酸化されるタンパク質の種類であった。腫瘍は、癌細胞50%〜90%に及ぶ複合組織に相当する。細胞株では、c−Met、EGFR、およびEphA2のチロシンキナーゼで最も高い受容体チロシンキナーゼのリン酸化のレベルが示された一方、腫瘍では、DDR1、EGFR、DDR2、およびEphの受容体チロシンキナーゼのリン酸化で高いレベルが示された(図2B)。FakキナーゼおよびSrcファミリーキナーゼはNSCLCの非受容体チロシンキナーゼのリン酸化の大多数を構成していた(図2C)。ほとんどのリン酸化はこれらのキナーゼの活性ループから生じている。56種にわたるさまざまなチロシンキナーゼ上の266個の異なるリン酸化部位を分析し、実質的にすべての部位(srcファミリーのC末端部位のような少数の例外はある)が明確にキナーゼ活性と関連していることが明らかとなった(Blume-Jensen, P.およびHunter, T.(2001)Oncogenic kinase signalling. Nature 411, 355-365; Ullrich, A.およびSchlessinger, J.(1990)Signal
transduction by receptors with tyrosine kinase activity. Cell 61, 203-212)。いかなる理論にも拘束されることを望むものではないが、チロシンキナーゼのリン酸化はキナーゼの活性を表すのに役立つと考えられる。
【0052】
実施例3
NSCLCにおけるチロシンキナーゼの活性化
NSCLCの腫瘍および細胞株の一部において、活性化/過剰発現したチロシンキナーゼに起因した高いチロシンリン酸化が示された(図1Aおよび図1B)。異常に活性化されたチロシンキナーゼを特定するために、41種のさまざまなNSCLC細胞株または150個のNSCLC腫瘍のいずれかから得られたシグナル伝達プロファイルの平均を差し引いて、図2Eおよび図3Aに示す教師なし階層的クラスタ分析の結果を得た。この分析によって細胞株間の差異を強調させて、高度にリン酸化された(活性化された)チロシンキナーゼを特定した(図2Dおよび図2Fを比較されたい)。結果は、NSCLC細胞株における活性化EGFR(Amann, J., Kalyankrishna, S.,
Massion, P.P., Ohm, J.E., Girard, L., Shigematsu, H., Peyton, M., Juroske, D.,
Huang, Y., Stuart Salmon, J.ら(2005)Aberrant epidermal growth factor receptor
signaling and enhanced sensitivity to EGFR inhibitors in lung cancer. Cancer
Res. 65, 226-235)、ErbB2(Stephens,
P., Hunter, C., Bignell, G., Edkins, S., Davies, H., Teague, J., Stevens, C.,
O'Meara, S., Smith, R., Parker, A.ら(2004)Lung cancer:intragenic ERBB2 kinase mutations in tumours. Nature 431, 525-526)、ErbB3(Engelman, J.A., Janne, P.A.,
Mermel, C., Pearlberg, J., Mukohara, T., Fleet, C., Cichowski, K., Johnson,
B.E.およびCantley, L.C.(2005)ErbB-3
mediates phosphoinositide 3-kinase activity in gefitinib-sensitive nonsmall
cell lung cancer cell lines. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 102, 3788-3793)、EphA2(Kinch, M.S., Moore, M.B.およびHarpole, D.H., Jr.(2003)Predictive value of the EphA2 receptor
tyrosine kinase in lung cancer recurrence and survival. Clin. Cancer Res. 9,
613-618)、およびc−Met(Ma, P.C., Jagadeeswaran, R.,
Jagadeesh, S., Tretiakova, M.S., Nallasura, V., Fox, E.A., Hansen, M.,
Schaefer, E., Naoki, K., Lader, A.ら(2005)Functional
expression and mutations of c-Met and its therapeutic inhibition with SU11274
and small interfering RNA in nonsmall cell lung cancer. Cancer Res. 65,
1479-1488)の受容体チロシンキナーゼについての先行文献と一致している。11種の細胞株においてEGFRキナーゼ活性が亢進しており(図2E)、このうち5種の細胞株がEGFRを活性化させる変異を潜伏させていた。例えば、増幅され変異したEGFRを発現させることが知られている、HCC827(Amann, J., Kalyankrishna, S.,
Massion, P.P., Ohm, J.E., Girard, L., Shigematsu, H., Peyton, M., Juroske, D.,
Huang, Y., Stuart Salmon, J.ら(2005)Aberrant epidermal growth factor receptor
signaling and enhanced sensitivity to EGFR inhibitors in lung cancer. Cancer
Res. 65, 226-235)およびH3255(Paez,
J.G., Janne, P.A., Lee, J.C., Tracy,
S., Greulich, H., Gabriel, S., Herman, P., Kaye, F.J., Lindeman, N., Boggon,
T.J.ら(2004)EGFR mutations in lung cancer:correlation with clinical response to gefitinib therapy. Science 304,
1497-1500;Tracy, S., Mukohara, T., Hansen, M., Meyerson,
M., Johnson, B.E.およびJanne, P.A.(2004)Gefitinib induces apoptosis in the EGFRL858R non-small-cell lung cancer
cell line H3255. Cancer Res. 64, 7241-7244)において、高レベルのEGFRリン酸化ペプチドが認められた。H1993細胞株およびCalu−3細胞株においてそれぞれ、高レベルのc−MetおよびErbB2が認められ、これは、先行文献(Lutterbach, B., Zeng, Q.,
Davis, L.J., Hatch, H., Hang, G., Kohl, N.E., Gibbs, J.B.およびPan, B.S.(2007)Lung cancer cell lines harboring MET gene
amplification are dependent on Met for growth and survival. Cancer Res. 67,
2081-2088;Ma. P.C., Jagadeeswaran, R., Jagadeesh, S.,
Tretiakova, M.S., Nallasura, V., Fox, E.A., Hansen, M., Schaefer, E., Naoki,
K., Lader, A.ら(2005)Functional
expression and mutations of c-Met and its therapeutic inhibition with SU11274
and small interfering RNA in nonsmall cell lung cancer. Cancer Res. 65,
1479-1488;Minami, Y., Shimamura, T., Shah, K.,
Laframboise, T., Glatt, K.A., Liniker, E., Borgman, C.L., Haringsma, H.J.,
Feng, W., Weir, B.A.ら(2007)The major
lung cancer-derived mutants of ERBB2 are oncogenic and are associated with
sensitivity to the irreversible EGFR/ERBB2 inhibitor HK1-272. Oncogene 26,
5023-5027)と一致し、NSCLC細胞株において知られている受容体チロシンキナーゼ活性を確証している。
【0053】
NSCLC腫瘍の同様の分析を、すべてのチロシンキナーゼついては図3Aに、すべてのチロシンキナーゼのリン酸化部位については図6に示している。教師なしピアソンクラスタ分析を用いて、5つの主要な腫瘍群を特定した(図3A)。左から右に、以下を異常に発現している腫瘍である:1種または2種のみの高い活性のあるチロシンキナーゼを発現している腫瘍(第1群)、多種多様のSrcチロシンキナーゼ、Ablチロシンキナーゼ、および受容体チロシンキナーゼと共に活性のあるFakを発現している腫瘍(第2群)、srcキナーゼおよびablキナーゼと共に活性化DDR1を発現している腫瘍(第3群)、EGFRなどのRTKと共にSrcキナーゼを発現している腫瘍(第4群)、優位にsrcチロシンキナーゼおよびAblチロシンキナーゼを発現している腫瘍(第5群)。
【0054】
実施例4
チロシンキナーゼの基質
実施例3に記載の各群から、分析したリン酸化基質(チロシンキナーゼおよびセリン/スレオニンキナーゼを除く)を分離した。第1群、第2群、および第4群について、(2500を超えるリン酸化タンパク質から)30種の最も有益な基質を特定した(図3B〜図3D)。これらの異なる群は、異なる活性キナーゼおよび異なるリン酸化基質を有している。多くの活性チロシンキナーゼを有する第2群の腫瘍は、第1群の腫瘍よりも高いレベルの下流でのリン酸化を示した。例えば、第2群の腫瘍は、運動性および細胞骨格動態に関与するタンパク質ならびに細胞表面受容体および糖分解酵素のリン酸化を示した。全体的に、第1群の腫瘍は比較的低いレベルの基質リン酸化を示し、高いSHP−1、IRS−1/2、およびPI3KR1/2を示すいくつかのサブグループに分類される。第4群の腫瘍は、PTENおよびヒストンを含むさまざまな基質のリン酸化を示した。
【0055】
全体的に、第2群の腫瘍について、MS/MSの結果と一致して、高いリン酸化チロシンのIHC染色が観察された。入手可能な患者の臨床データおよび腫瘍病理と、階層的クラスタ分析の群の著しい相関は認められなかった。また、t検定比較を用いて、48個の隣接肺組織試料に対する腫瘍のタンパク質チロシンリン酸化も比較した(図7)。この分析によって、腫瘍と正常組織との間の有意なシグナル伝達の差異を識別し、これには、多くの細胞骨格およびシグナル伝達のタンパク質が含まれていた。
【0056】
実施例5
活性化チロシンキナーゼのランク付け
一部の細胞株および腫瘍で複数の活性化チロシンキナーゼが発現していることが明らかとなり(第2群の腫瘍を参照されたい)、「誘起因子」キナーゼ(必然的に病因に関係する)の特定は、下流のネットワークで機能している他の活性化キナーゼによって困難となっている。さらに、階層的クラスタ分析が、高いEGFRのリン酸化を有する腫瘍をグループ化するのには有益ではないことも明らかとなった(図3Aを参照されたい)。これにより、患者のサブグループにおいて異常に高いレベルのチロシンキナーゼ活性を識別することに基づいて誘起因子のチロシンキナーゼの候補を特定するアプローチを代わりに開発することとなった。図2Eもしくは図3Aにわたる各キナーゼについて全リン酸化を総計して、平均を超えるリン酸化を示す細胞株または患者の数でこれを割った。表1は、平均リン酸化/患者または細胞株によりランク付けした、きわめて高度にリン酸化された受容体チロシンキナーゼを示している。この分析によって、細胞株または患者のサブセットにおける異常に高いチロシンキナーゼリン酸化を識別した。上位20種の受容体チロシンキナーゼのうち、15種が細胞株および腫瘍の両方で特定された。上位10種のうち、Met、ALK、ROS、PDGFRa、DDR1、およびEGFRは、細胞株および腫瘍の両方で認められた(表1)。
【表1】

略記:RTK、受容体チロシンキナーゼ;NSCLC、非小細胞肺癌。
細胞株および患者のサブセットにおける高いキナーゼ活性(リン酸化)の識別。患者の試料では、リン酸化ペプチドの総計は各タンパク質のスペクトル数を表しており、これは、GSK3ベータのスペクトル数に標準化して150個の腫瘍すべてにわたり総計したもので、すべての腫瘍にわたるそのタンパク質の平均数を差し引いてある。試料の数は、平均を超えるリン酸化ペプチド数を示す腫瘍の数を表している。細胞株では、リン酸化ペプチドの総数は41種の細胞株すべてにわたるそのタンパク質の平均数を差し引いた後の各タンパク質のスペクトル数を表しており、各実験において同数の細胞を用いたため、標準化を省略した。試料あたりの数値が大きい順に細胞株および組織をランク付けした。
【0057】
次に、ランク付けのプロセスを適用して、リン酸化の総数に基づいてキナーゼをランク付けすることによって疾患の誘起因子の候補を特定した。EGFRのランクが最上位のすべての細胞株の間では、EGFRが最も高度にリン酸化されたチロシンキナーゼであることが多く、他では上位2番目または3番目のキナーゼであることが明らかとなった。EGFRのランクが最上位のこれらの細胞株の中には、既知のEGFR活性化変異を有する全5種の細胞株および既知のEGFRゲノム増幅を有する細胞株が認められた。
【0058】
NSCLC腫瘍試料についてリン酸化のランクを用いた同様な分析を実施して、活性化EGFRを示す腫瘍を特定した(表2)。この試験においてNSCLC腫瘍はすべてステージ1またはステージ2であり、74%男性、52%喫煙者、30%腺癌で構成される。EGFRのランクが最上位の18腫瘍のうち、16腫瘍から解読可能なEGFRキナーゼドメインのDNA配列が得られ(表2)、このうち、9/16個の腫瘍がキナーゼドメイン活性化変異を示し、8/8個の腺癌および5/5名の女性非喫煙者がEGFR活性化変異を示していることが明らかとなり、女性非喫煙者および腺癌に多いことを示す先行文献と一致している(Lynch, T.J., Bell, D.W.,
Sordella, R., Gurubhagavatula, S., Okimoto, R.A., Brannigan, B.W., Harris,
P.L., Haserlat, S.M., Supko, J.G., Haluska, F.G.ら(2004)Activating
mutations in the epidermal growth factor receptor underlying responsiveness of
non-small-cell lung cancer to gefitinib. N. Engl. J. Med. 350, 2129-2139;Pao, W., Miller, V., Zakowski, M., Doherty, J., Politi, K., Sarkaria,
I., Singh, B., Heelan, R., Rusch, V., Fulton, L.ら(2004)EGF receptor gene mutations are common in lung cancers from“never smokers”and are associated with sensitivity
of tumors to gefitinib and erlotinib. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 101,
13306-13311)(表2)。
【表2】


略記:AD、腺癌;SCC、扁平上皮癌。
EGFR、Alk、Ros、Met、およびPDFGRaの高度なリン酸化によって患者を分類した。患者の試料については、各患者のスペクトル数をGSK3ベータのスペクトル数に標準化して、全腫瘍にわたるそのタンパク質の平均数を差し引いた。受容体チロシンキナーゼのリン酸化の数値が平均を超えたものを示している。EGFR活性化変異、AlkおよびRosの転座を示している。
【0059】
EGFRのリン酸化ランクによってEGFR活性化変異を有する腫瘍を特定できることが実証されたため、新しい誘起因子の候補のチロシンキナーゼの特定を行うために、同じアプローチを適用した。表1に示したように、Met、ALK、ROS、PDGFRa、DDR1、およびEGFRは細胞株および腫瘍の両方に存在することが明らかとなった。患者の試料の1つにおいてC−Metが高度にリン酸化されており(表2)、c−Metが誘起因子であることが知られるH1993細胞で示されるような増幅を示唆している(Lutterbach, B., Zeng, Q.,
Davis, L.J., Hatch, H., Hang, G., Kohl, N.E., Gibbs, J. B.およびPan, B.S.(2007)Lung cancer cell lines harboring MET gene
amplification are dependent on Met for growth and survival. Cancer Res. 67,
2081-2088)。EGFRおよびc−Metとは対照的に、ALK、ROS、PDGFRa、およびDDR1のキナーゼが肺癌と関連することを示す文献はきわめて少ない。疾患を引き起こす際の活性化キナーゼの役割をさらに試験するには細胞株モデルが決定的であるため、NSCLC細胞株にいてこれらの候補の発現を試験した。ROS、ALK、およびPDGFRaのタンパク質発現は、少なくとも1つのNSCLC細胞株において高度に上方制御されているようであった(図8A、図8B、および図9A)。DDR1は多くの腫瘍において活性を有するが(Ford, C.E., Lau, S.K., Zhu,
C.Q., Andersson, T., Tsao, M.S.およびVogel, W.F.(2007)Expression
and mutation analysis of the discoidin domain receptors 1 and 2 in non-small
cell lung carcinoma. Br. J. Cancer 96, 808-814)、H1993細胞だけがリン酸化型DDR1を発現しており、この細胞はc−Metにより引き起こされることが知られている。優れたDDR1細胞株モデルが欠けていたため、NSCLC細胞株モデルに相当するMS/MSデータが確認されたALK、c−ROS、およびPDGFRαに焦点を移した。表2は、きわめて高レベルのALK、c−ROS、c−MetおよびPDGFRαのリン酸化を示す細胞株および腫瘍を示している。EGFRで認められたように、これらのRTKが、常にではないが、最も高度にリン酸化されたチロシンキナーゼであることが多く(表2)、これらが疾患を引き起こす役割を果たし得ることが示唆される。また、細胞株の全リン酸化タンパク質のランク付けも行い、ALK(図3E)、c−ROS(図3F)、およびPDGFRa(図3G)を発現している腫瘍を選択した。きわめて高度にリン酸化された基質のうち、多くが細胞株と腫瘍との間で共通しており、下流の腫瘍形成のシグナル伝達に関与している(図3E〜図3Gの矢印を参照されたい)。HCC78、H2228、およびH1703の細胞株、ならびにROS、ALK、EGFR、PDFGRアルファ、およびc−Metを発現している6つの異なるNSCLC腫瘍においてリン酸化ペプチド(2000を超える多様なリン酸化チロシン部位)が認められた。
【0060】
EGFR活性化変異により引き起こされるNSCLC腫瘍を特定した。細胞株および腫瘍の全体のEGFRのチロシンキナーゼ活性をランク付けすることにより、EGFRが上位のランクでは、EGFR活性化変異が劇的に多いことが明らかになった。上位ランクの11種の細胞株のうち、5種が既知のEGFR活性化変異を含有し、配列情報を得た16個のEGFR腫瘍のうち、8/9個が腺癌であり、9個がキナーゼドメイン活性化変異を含有していた。残りの扁平上皮癌(SCC)患者は高いEGFR活性を示した。
【0061】
EGFRが上位ランクの細胞株および腫瘍のうちおよそ半数がEGFR活性化変異を有していた。したがって、チロシンキナーゼのランクに基づいて腫瘍をグループ化して、平均レベルを超えて活性化されたキナーゼを発現している腫瘍の特定を行った。NSCLCにおいて、RTK(Met、ALK、DDR1、ROS、VEGER−2、IGF1R、PDGFRa、EGFR、およびAxl)ならびに非RTK(FAK、LYN、FYN、HCK、FRK、BRK、および図3Aに示す他のもの)が高度にリン酸化されることが明らかとなった。
【0062】
実施例6
NSCLCの細胞株および腫瘍におけるALKおよびROSの融合タンパク質
図3Aの上方左端の患者群および細胞株H2228(図2E、図4A、および表1)においてALKの高レベルのリン酸化が認められ、1つの腫瘍試料およびHCC78細胞株(図4Bおよび表1)においてROSの高レベルのリン酸化が認められた。これらの試料中のリン酸化のランクでは、ALKおよびROSが最上位かそれに近いところにある(表1)。ALKおよびROSのタンパク質の発現は、NSCLS細胞株間で制限されかつ予測した分子量よりも小さいことが示された(図8Aおよび図8B)。RT−PCRおよびDNA配列決定を行い、発現したRNA転写産物を調査した。H2228細胞および3つの異なる腫瘍試料に由来するRNA転写産物の50のRACE分析により、ALKが微小管結合タンパク質であるEML4と融合していることが示された(図4Cを参照されたい)。EML4の短いN末端領域は、NPM−ALK(Morris, S.W., Kirstein, M.N.,
Valentine, M.B., Dittmer, K.G., Shapiro, D.N., Saltman, D.L.およびLook, A.T.(1994)Fusion of a kinase gene, ALK, to a nucleolar
protein gene, NPM, in non-Hodgkin's lymphoma. Science 263, 1281-1284)のような以前に解析された他のALKの融合で認められた正確な融合部位でALKのキナーゼドメインと融合していた(図4C)。また、1つの腫瘍試料では、ALKがTFG(Hernandez, L.,
Pinyol, M., Hernandez, S., Bea, S., Pulford, K., Rosenwald, A., Lamant, L.,
Falini, B., Ott, G., Mason, D.Y.ら(1999)TRK-fused gene(TFG) is a new partner of ALK in
anaplastic large cell lymphoma producing two structurally different TFG-ALK
translocations. Blood 94, 3265-3268)と融合していることも判明した(図4D)。この融合は、以前に認められている短い形態のTFG−ALK(Hernandez, L.,
Bea, S., Bellosillo, B., Pinyol, M., Falini, B., Carbone, A., Ott, G., Rosenwald,
A., Fernandez, A., Pulford, K.ら(2002)Diversity
of genomic breakpoints in TFG-ALK translocations in anaplastic large cell
lymphomas:identification of a new TFG-ALK(XL)chimeric gene with transforming activity. Am. J. Pathol. 160, 1487-1494)と同じである。EML4およびTFGの両方の融合において、コイルドコイルドメインがALKキナーゼドメインと融合しており、これによって二量体/オリゴマーが形成され、構成的なキナーゼ活性を与えている可能性が高い。
【0063】
HCC78細胞について同様な分析を行い、ROSが膜貫通型溶質輸送体タンパク質SLC34A2と融合していることが判明した。最初の膜貫通ドメインの直後で終結するSLC34A2のN末端領域のN末端がROSの膜貫通ドメインと融合しており、2つの膜貫通ドメインを有する切断型融合タンパク質を形成していた。HCC78細胞において2つの型のこの融合タンパク質が認められ、これは同じ転座現象から生じた異なるスプライシング産物を示しているようである(図4Eを参照されたい)。c−ROS陽性のNSCLC腫瘍において別のROSの融合を確認した。図4Fに示したように、c−ROSは、MIF免疫サイトカインに対して高い親和性を有するII型の膜貫通タンパク質であるCD74(Leng, L., Metz,
C.N., Fang, Y., Xu, J., Donnelly, S., Baugh, J., Delohery, T., Chen, Y.,
Mitchell, R.A.およびBucala, R.(2003)MIF signal
transduction initiated by binding to CD74. J. Exp. Med. 197, 1467-1476)のN末端の半分と融合している。CD74のN末端領域がSLC34A2−ROSの融合(図4Eを参照されたい)の正確な部位でROSと融合しており、SLC34A2の融合で認められたような2つの膜貫通ドメインを有する融合タンパク質を生じていた。哺乳類細胞において、タグをつけたSLC34A2−ROS融合タンパク質を発現させることによって、膜画分に集中した構成的なキナーゼ活性が示された(図8Eおよび図8F)。ALKおよびROSのキナーゼドメインを配列決定して、変異がないことを確認した。
【0064】
ALKに対するsiRNAを用いた実験では、H2228細胞において細胞死が誘発されないことが明らかとなり、これは、PI3Kの変異の活性化(Samuels, Y., Diaz, L.A., Jr.,
Schmidt-Kittler, O., Cummins, J.M., Delong, L., Cheong, I, Rago, C., Huso,
D.L., Lengauer, C., Kinzler, K.W.ら(2005)Mutant PIK3CA
promotes cell growth and invasion of human cancer cells. Cancer Cell 7, 561-573;Samuels, Y.およびVelculescu, V.E.(2004)Oncogenic mutations of PIK3CA in human
cancers. Cell Cycle 3, 1221-1224)またはPTENの不活性化(Mellinghoff, I.K., Wang, M.Y.,
Vivanco, I., Haas-Kogan, D.A., Zhu, S., Dia,
E.Q., Lu, K.V., Yoshimoto, K., Huang, J.H., Chute, D.J.ら(2005)Molecular determinants of the response of glioblastomas to EGFR kinase
inhibitors. N. Engl. J. Med. 353, 2012-2024)のように、ALKに非依存的な生存シグナル伝達を示唆している。ROSに対するsiRNAを用いた同様の実験を行い、ROSに対する2つの異なるsiRNAは、ROSタンパク質の発現を低減させ、HCC78細胞において細胞死を誘発させるのに効果的であった(図8Cおよび図8D)。これは、HCC78細胞の生存がROSのシグナル伝達に強く依存していることを示している。
【0065】
ALKを発現している細胞株および腫瘍試料(図3E)において最も高度にリン酸化されている基質の解析を行い、未分化大細胞リンパ腫においてALKシグナル伝達の重要な下流のメディエーターであることが以前に示されているSHIP2、IRS−1、IRS−2などの下流のシグナル伝達分子の候補を特定した。さらに、融合相手であるEML4のリン酸化が顕著に認められた(図3E)。c−ROSを発現している試料(図3F)において高度にリン酸化されているものとして、神経膠芽腫においてROSの重要な下流のエフェクターであることが以前に報告されているPTPN11およびIRS−2を特定した(Charest, A., Wilker, E.W., McLaughlin, M.E.,
Lane, K., Gowda, R., Coven, S., McMahon, K., Kovach, S., Feng, Y., Yaffe, M.B.ら(2006)ROS fusion tyrosine kinase activates a SH2 domain-containing
phosphatase-2/phosphatidylinositol 3-kinase/mammalian target of rapamycin
signaling axis to form glioblastoma in mice. Cancer Res. 66, 7473-7481)。
【0066】
ALKまたはROSの遺伝子座のいずれかの側に対するFISH分離プローブを作製して、c−ROSを発現している細胞株および腫瘍の両方における転座を特定した(図3H)。ALKおよびEML4は2番染色体の同じアームに位置するため、その間のDNAの欠失によって予測どおりの分離パターンが確認された(図3G)。MS/MSで分析した103個のNSCLC腫瘍からALKおよびEML4のプライマーを用いてRT−PCR分析を行い、陽性な3つの試料(表2)を特定し、EML4−ALKの頻度は3%であった;さらに、TGF−ALKの試料も加えると、全体のALKの融合の頻度は中国の人口の4%となる。
【0067】
実施例7
NSCLCにおけるPDGFRαの活性化:イマチニブに対する感受性
1種のNSCLC細胞株H1703および8つの異なる腫瘍試料において異常に活性化されたものとしてPDGFRαを確認した(図5Aおよび表1)。また、H1703細胞もリン酸化型のEGFR、FGFR1、および他のRTKを発現していることが判明した(図5A)。ウエスタンブロットによってPDGFRαのタンパク質発現を確認した(図9A)。PDGFR阻害剤イマチニブ(グリベック)およびEGFR阻害剤ゲフィチニブ(イレッサ)に対するH1703細胞の感受性を調べた。Ser473におけるAktのリン酸化は、イマチニブによって阻止されるが、ゲフィチニブ処置によっては阻止されないことが判明した(図5B)。また、イマチニブの用量反応実験(図9B)によって、p44/42MAPKのリン酸化にはたとえあるにせよわずかな効果しかない100nMのイマチニブで、PDGFRαおよびAktのリン酸化のほぼ完全な阻害が示されることが判明した。
【0068】
20種のNSCLC細胞株のイマチニブに対する感受性をさらに調査するために、細胞増殖のMTTアッセイを実施した。図5Cに示したように、H1703細胞は、Bcr−Abl融合タンパク質を過剰発現するK562細胞(Druker, B.J., Sawyers, C.L.,
Kantarjian, H., Resta, D.J., Reese, S.F., Ford, J.M., Capdeville, R.およびTalpaz, M.(2001)Activity of a specific inhibitor of the
BCR-ABL tyrosine kinase in the blast crisis of chronic myeloid leukemia and
acute lymphoblastic leukemia with the Philadelphia
chromosome. N. Engl. J. Med. 344, 1038-1042;Mahon, F.X.,
Deininger, M.W., Schultheis, B., Chabrol, J., Reiffers, J., Goldman, J.M.およびMelo, J.V.(2000)Selection and
characterization of BCR-ABL positive cell lines with differential sensitivity
to the tyrosine kinase inhibitor STI571:diverse mechanisms
of resistance. Blood 96, 1070-1079)と類似した感受性プロファイルを示した。対照的に、19種のNSCLC細胞株(A549、H1373、H441、およびPDGFRa発現について陰性である他の多くの細胞株)はイマチニブに対し非感受性であり(図5C)、薬物感受性とキナーゼリン酸化との相関がみられた。得られたイマチニブの感受性プロファイルは、A549細胞におけるPDGFRαの発現を確認し、イマチニブに対する感受性を示した先行文献(Zhang, P., Gao, W.Y., Turner,
S.およびDucatman, B.S.(2003)Gleevec(STI-571)inhibits lung cancer cell growth(A549)and potentiates the cisplatin effect in
vitro. Mol. Cancer 2, 1)とは異なっていた。アポトーシスにおけるイマチニブの効果を試験するために、H1703細胞をイマチニブで処置して、PARPおよびカスパーゼ3の切断をそれぞれ、ウエスタンブロットおよびフローサイトメトリーによって試験した。イマチニブ(0.1mM)によって、H1703細胞における切断カスパーゼ3および切断PARPの発現は著しく上昇した(図8Cおよび図8D)。次に、in vivoにおけるイマチニブの効果をマウス異種移植モデルを用いて試験した。ヌードマウスの皮下にH1703細胞を注入し、数週間にわたり腫瘍の形成を監視した。最初の目視可能な腫瘍の出現に応じて、イマチニブ(50mg/kg)または賦形剤を1日1回で2週間マウスに処置した。イマチニブ処置したマウスは腫瘍の増殖に対して即時かつ顕著な効果を示した一方、対照マウスでは腫瘍の増殖が続いた(図5Dおよび図8F)。対照動物およびイマチニブ処置した動物の腫瘍増殖を定量化し(図5D)、複雑な腫瘍環境においてもイマチニブに対する強い感受性が示された。
【0069】
リン酸化チロシンのシグナル伝達におけるイマチニブの効果を解析するため、重いアミノ酸の標識培地中および軽いアミノ酸の標識培地中でH1703細胞を増殖させ、イマチニブで処置し、あるいはイマチニブで処置せずに、質量分析法/SILACによってリン酸化ペプチドを分析した(Everley, P.A., Bakalarski,
C.E., Elias, J.E., Waghorne, C.G., Beausoleil, S.A., Gerber, S.A., Faherty,
B.K., Zetter, B.R.およびGygi, S.P.(2006)Enhanced
analysis of metastatic prostate cancer using stable isotopes and high mass
accuracy instrumentation. J. Proteome Res. 5, 1224-1231;Ong,
S.E., Blagoev, B., Kratchmarova, I., Kristensen, D.B., Steen, H., Pandey, A.およびMann, M.(2002)Stable isotope
labeling by amino acids in cell culture, SILAC, as a simple and accurate
approach to expression proteomics. Mol. Cell. Proteomics 1, 376-386)。いくつかのタンパク質およびリン酸化部位がイマチニブを用いた処置によって変化した。イマチニブを用いたH1703細胞の処置により、PDGFRα受容体の異なる部位で異なる効果があった(図5E)。10部位のチロシンリン酸化が認められ、3つの新規部位を特定した(Tyr613、926、962)。また、イマチニブは、ホスホリパーゼCg1、調節サブユニットのPI3K、Stat5、およびSHP−2を含む重要な下流のシグナル伝達タンパク質のいくつかのチロシンリン酸化も抑圧した(図5Fを参照されたい)。さらに、イマチニブは、細胞骨格およびアクチンの再編成を制御するタンパク質ならびに膜のリサイクルおよびエンドサイトーシスに関わるシグナル伝達分子のチロシンリン酸化を抑圧した。EGFRおよびFGFRに対するリガンドを遊離させる(Peduto, L., Reuter, V.E.,
Shaffer, D.R., Scher, H.I.およびBlobel, C.P.(2005)Critical
function for ADAM9 in mouse prostate cancer. Cancer Res. 65, 9312-9319)既知の細胞表面メタロプロテアーゼAdam9(Mazzocca, A., Coppari, R., De
Franco, R., Cho, J.Y., Libermann, T.A., Pinzani, M.およびToker, A.(2005)A secreted form of ADAM9 promotes carcinoma
invasion through tumor-stromal interactions. Cancer Res. 65, 4728-4738)がH1703細胞において高度にリン酸化されることが明らかとなった。また、イマチニブは、rasエフェクターRin1(Hu, H., Bliss,
J.M., Wang, Y.およびColicelli, J.(2005)RIN1 is an ABL tyrosine kinase activator and a regulator of
epithelial-cell adhesion and migration. Curr. Biol. 15, 815-823)のリン酸化も阻害し、セラミド合成に関わる酵素であるSMS2(Taguchi, Y., Kondo, T.,
Watanabe, M., Miyaji, M., Umehara, H., Kozutsumi, Y.およびOkazaki, T.(2004)Interleukin-2-induced survival of natural
killer(NK)cells involving
phosphatidylinositol-3 kinasedependent reduction of ceramide through acid
sphingomyelinase, sphingomyelin synthase, and glucosylceramide synthase. Blood
104, 3285-3293)のリン酸化も阻害した。選択したSILACの結果をウエスタン分析によって確認した(図9E)。この実験を別々に3回繰り返し、同様の結果を得た。
【0070】
実施例8
NSCLC腫瘍試料中のPDGFRa
表2で最も高いレベルのPDGFRリン酸化を有する5個の腫瘍からのペプチドを分析した。これらの腫瘍(第2群、図3A)は、他の多くの活性チロシンキナーゼに加えて、FAK、Abl、DDR1/2およびVGEF1/2を発現していることが明らかとなった。H1703細胞と同様に、これらのNSCLC腫瘍も、高度にリン酸化された接着タンパク質および細胞骨格タンパク質を示しており(図3G)、これは、細胞運動性の経路の関与を示唆している。PDGFRα特異的抗体を用いたIHCによって独自の分析を実施し、NSCLC腫瘍の試料をスクリーニングして、患者の試料の2%〜3%で強いPDGFRα染色を確認した(図9G)。この結果も、NSCLCの腺癌の100%がPDGFRαを発現するという報告(Zhang, P., Gao, W.Y., Turner,
S.およびDucatman, B.S.(2003)Gleevec(STI-571)inhibits lung cancer cell growth(A549)and potentiates the cisplatin effect in
vitro. Mol. Cancer 2, 1)とは異なっていた。蛍光in situ ハイブリダイゼーション(FISH)解析により、このIHC陽性のNSCLC試料の1つでPDGFRα遺伝子座における増幅が認められた(図9H)。
【0071】
実施例に記載の実験手順がより完全に理解されるように、実施例で用いたいくつかの材料および方法を以下に記載する。これらの材料および方法は例示のみを目的とし、いかなる形であれ本発明の範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。
【0072】
細胞培養、試薬、ウエスタンブロット分析、および免疫沈降分析
細胞培養試薬をInvitrogenから購入した。アメリカ培養細胞系統保存機関からヒトNSCLC細胞株を入手した。ROSおよびリン酸化型PDGFRαの抗体をSanta Cruzから、その他すべての抗体をCell Signaling
Technology(CST)から購入した。CSTのプロトコルに従ってウエスタンブロット分析および免疫沈降分析を実施した。
【0073】
ヒトNSCLC細胞株のH520、H838、H1437、H1563、H1568、H1792、H1944、H2170、H2172、HCC827、H2228、H2347、A549、H441、H1703、H1373、H358、H1993、Calu−3、H1648、H1975、H1666、H1869、H1650、H1734、H1793、H2023、H661、H2444、H1299、H1693、H226、H1623、H1651、H460、H2122、およびSKMES−1をアメリカ培養細胞系統保存機関から入手した。これらの細胞を、10%FBSを含有し、かつ2mM
L−グルタミン、1.5g/L 炭酸水素ナトリウム、4.5g/L グルコース、10mM HEPES、1.0mM ピルビン酸ナトリウム、ペニシリン/ストレプトマイシンを含有するように調整したRPMI1640培地で培養した。NSCLC細胞株のHCC78、Cal−12T、HCC366、HCC15、HCC44、およびLOU−NH91をDSMZから購入し、これらを10%FBSおよびペニシリン/ストレプトマイシンを含有するRPMI1640で培養した。細胞を5%CO2インキュベーター内で37℃で維持した。免疫親和性の沈降および免疫ブロットの実験用には、細胞を80%コンフルエンスまで増殖させた後に、FBSなしのRPMI培地で回収前に一晩飢餓させた。薬剤(イレッサおよびグリベック)をDMSO中に溶解し、10mMの保存溶液を調製して、−20℃で保存した。
【0074】
処置した細胞を冷却したPBSで2回洗浄し、次いで、これらを、Complete, Mini, EDTA-freeプロテアーゼ阻害剤カクテル(Roche)を添加した1×細胞溶解緩衝液(20mM
Tris−HCl、pH7.5、150mM NaCl、1mM Na2EDTA、1mM EGTA、1% Triton、2.5mM ピロリン酸ナトリウム、1mM β−グリセロリン酸、1mM
Na3VO4、1μg/mL ロイペプチン)に溶解した。溶解液を超音波で破砕して、14000rpmで15分間遠心分離した。Coomassieタンパク質アッセイ試薬(Pierce Chemical社、Rockford, IL)を用いてタンパク質濃度を測定した。等量の総タンパク質を8〜10%のSDS−PAGEゲルによって分離し、ニトロセルロース膜に転写した。CSTのプロトコルに従い、ブロットを適切な抗体と共に4℃で一晩インキュベートした。免疫沈降には500ugのタンパク質溶解液を使用した。清澄化したタンパク質溶解液を2ugの適切な抗体および15uLのプロテインGアガロースビーズ(Pierce)と共に4℃で一晩揺動させた。1×細胞溶解緩衝液を用いてこのビーズを3回洗浄し、30uLの2×SDS−PAGE試料緩衝液中で5分間煮沸した。次いで、ウエスタンブロット法によって、結合したタンパク質を分析した。
【0075】
リン酸化ペプチドの免疫沈降およびLC−MS/MS質量分析による分析
種々の細胞株からのリン酸化ペプチドの免疫沈降を、以前に記載されているように(Rush, J., Moritz, A., Lee,
K.A., Guo, A., Goss, V.L., Spek, E.J., Zhang, H., Zha, X.M., Polakiewicz, R.D.およびComb, M.J.(2005)Immunoaffinity profiling of tyrosine
phosphorylation in cancer cells. Nat. Biotechnol. 23, 94-101)、CSTのPhosphoScanキット(P-Tyr-100)を用いて実施した。簡単に説明すると、尿素溶解緩衝液(20mM Hepes、pH8.0、9M 尿素、1mM バナジン酸ナトリウム、2.5mM ピロリン酸ナトリウム、1mM β−グリセロリン酸)中に1億個の細胞を溶解した。
【0076】
腫瘍の試料では、電子ホモジナイザーPolyTronを使用して、200〜500mgの組織を尿素溶解緩衝液(1mL/100mgの組織)中で各30秒の2パルスでホモジナイズした。溶解液を超音波で破砕し、遠心分離によって清澄化した。清澄化した溶解液を、DTTによって還元して、ヨードアセトアミドでアルキル化した。次いで、20mMのHepesを用いて試料を4回希釈して尿素濃度を2Mに低下させて、穏やかに振盪しながらトリプシンによって室温で一晩消化させた。Sep-Pak C18カートリッジを用いてペプチドを粗製した。溶出液を凍結乾燥し、乾燥させたペプチドを1.4mLのMOPS IP緩衝液(50mM MOPS/NaOH pH7.2、10mM NaPO、50mM
NaCl)中に溶解して、遠心分離によって不溶性物質を除去した。プロテインGアガロースビーズ(Roche)に結合させた160ugのリン酸化チロシン100抗体(CST)を用いて、4℃で一晩、免疫沈降を行った。次いで、冷却しながら、ビーズを1mLのMOPS IP緩衝液で3回、1mLの冷却したHPLCグレードのdHOで2回洗浄した。ペプチドをIAP溶出液中で濃縮し、0.2μLの逆相StageTips上でさらに精製した(Rappsilber, J., Ishihama, Y.およびMann, M.(2003)Stop and go extraction tips for
matrix-assisted laser desorption/ionization, nanoelectrospray, and LC/MS sample
pretreatment in proteomics. Anal Chem.75(3):663-70)。5μLの60%MeCN、0.1%TFAを用いてStageTipsからLC−MS試料バイアル中にペプチドを溶出し、真空濃縮装置を用いて乾燥させた。乾燥試料を5μLの5%ギ酸、5%MeCNに溶解した。この試料(4μL)を、不活性のサンプルインジェクションバルブを有するFamosオートサンプラー(Dionex)を用いて、Magic C18 AQ逆相樹脂(Michrom Bioresources)を充填した10cm×75μmのPicoFritキャピラリーカラム(New Objective)上にロードした。次いで、このカラムを、0.4%酢酸、0.005%HFBA中のアセトニトリルの45分間の直線濃度勾配によって、流速280nL/分(Ultimate、Dionex)で展開した。タンデムマススペクトルを、LTQイオントラップ質量分析計(ThermoFinnigan)により、トップ10法を用いて、動的除外反復カウント1、反復期間30秒間、データ従属方式で収集した。試料を回収して、LTQ-Orbitrapハイブリッド質量分析計により、トップ10法を用いて、動的除外反復カウント1、反復期間30秒間で、LTQ-Orbitrapタンデムマススペクトルについて実行した。質量分析計を構成しているOrbitrap内でMSスペクトルを収集し、LTQ内でMS/MSスペクトルを収集した。
【0077】
グリベックで処置したH1703細胞のSILAC分析
同数のH1703細胞を、軽いSILAC培地または重いSILAC培地(軽い培地には通常のL−リジン:HClおよびL−アルギニン:HCl(Sigma)、あるいは重い培地にはL−アルギニン:HCl(U−13C6、98%)およびL−リジン:2HCl(U−13C6、98%;U−15N2、98%)(Cambridge Isotope Laboratories)のいずれかを補充した、アルギニンおよびリジン欠乏RPMI培地)のいずれかに分割して増殖させた。また、この培地には10%のFBSおよびペニシリン/ストレプトマイシンも入れた。それぞれの種類の培地中で細胞が1億個になるまで細胞を少なくとも5世代増殖させた。次いで、重い培地中で増殖させた細胞を1μMのグリベックで3時間処置した。処置した細胞および対照細胞の両方を尿素溶解緩衝液中に溶解し、上記のようなリン酸化ペプチドの免疫沈降実験に進めた。
【0078】
リン酸化部位データセットの分析
ペプチド配列を帰属するために、PhosphoSiteでタンパク質を探索するためにBiofacet(Gene-IT)において実行されるハッシュの文字列照合アルゴリズムを用いた。ペプチド配列が複数のタンパク質と合致した場合には、アルファベット順に最初の登録番号を持つタンパク質が代表として選択される。例えば、GASQAGM#TGYGMPRはSM22−アルファ(P37802)およびTAGLN3(Q9UI15)の両方と合致し、SM22−アルファに帰属することとなる。少量のペプチドであれば最もよく調べられているタンパク質のセットを代表として手動で選択する。GSK3α(P49840)およびGSK3β(P49841)の両方に照合するペプチドGEPNVSYICSRの場合は、代表としてGSK3βに帰属した。
【0079】
質量分析を行う中で各ペプチド配列について観測されたスペクトルの数を計数した(Liu, H., Sadygov, R.G.およびYates, J.R.,
3rd.(2004)A model for random sampling
and estimation of relative protein abundance in shotgun proteomics. Anal. Chem.
76, 4193-4201)。スペクトルを下記の質の判断基準に当てた(すなわち「LTQ−FT MS、Sequest Search、およびVistaの方法(pTyr SILACの試料)」で)。タンパク質のスペクトル数を計算するために、その実行において各タンパク質に帰属したすべてのペプチド数を合計した。ピアソン相関距離および平均連結法のクラスタ分析と共にTIGRのMeVプログラムを用いて階層的クラスタ分析を行った(Saeed, A.I., Sharov, V.,
White, J., Li, J., Liang, W., Bhagabati, N., Braisted, J., Klapa, M., Currier,
T., Thiagarajan, M.ら(2003)TM4:a free, open-source
system for microarray data management and analysis. Biotechniques 34, 374-378)。所定のリン酸化タンパク質が確認された回数(そのタンパク質に帰属した観測された全スペクトルの合計)をMeVに取り込み、それを用いてヒートマップを構築した。
【0080】
各患者の試料について、各タンパク質のスペクトル数をGSK3βのスペクトル数に標準化し、全腫瘍にわたるタンパク質の平均数を差し引いた。
【0081】
LTQ−FT MS、Sequest Search、およびVistaの方法(pTyr SILACの試料)
各リン酸化ペプチドの試料を2回ずつLC−MS分析した。融合シリカミクロキャピラリーカラム(125μm×18cm)をC18逆相樹脂(Magic C18AQ、粒子5μm、ポアサイズ200A、Michrom Bioresources、Auburn、CA)で充填した。オートサンプラー(LC Packings Famos、San Francisco、CA)を用いて、試料(4μL)をこのカラム上にロードして、0.1%ギ酸中の7〜30%アセトニトリルの55分間の直線濃度勾配によって、質量分析計中に溶出した。インラインフロースプリッタを用いてバイナリHPLCポンプ(Agilent 1100、Palo Alto、CA)を使用しておよそ600nL/分でこの勾配を行った。ハイブリッド直線イオントラップ−7のTeslaイオンサイクロトロン共鳴フーリエ変換装置(LTQ-FT、Thermo Electron、San Jose、CA)を用いて溶出したペプチドイオンを質量分析した。トップ7法を用いて、ICR細胞において事前にMS調査走査の間に行われた測定に基づいて、直線的イオントラップおよびフーリエ変換装置の同時走査を用いて、7データに従属したMS/MS走査を収集した。自動利得制御(AGC)標的3×10かつ質量解像度10を用いて、MS走査を375−1800m/zで実施した。MS/MSについてAGCは4000、動的除外時間は25秒であり、わずかに荷電したイオンは荷電状態スクリーニングにより除去した。
【0082】
Sequestソフトウェア(v.27, rev.12)および複合前方/逆行IPIヒトタンパク質データベースを用いて、ペプチド配列をMS/MSスペクトルに帰属した。検索パラメータは以下の通りであった:プロテアーゼとしてトリプシン;1.08Da前駆体質量耐性;システイン上の静的修飾(+57.02146、カルボキシアミドメチル化);ならびにセリン、スレオニンおよびチロシン(+79.96633Da、リン酸化)、リジン(+8.01420、1315)、アルギニン(+6.02013、13)、およびメチオニン(+15.99491、酸化)上の動的修飾。予測擬陽性帰属率が1%より低くなる適切なスコア選別基準を確立するために、標的/デコイデータベース法を用いた。電荷依存XCorr閾値(z=2ではXCorr2.2以上、z=3ではXCorr3.3以上、z=4ではXCorr3.5以上)を上回ることに加え、リン酸化チロシンを含み、−5〜+25ppmの質量精度を有し、かつすべて軽いリジン/アルギニン残基もしくはすべて重いリジン/アルギニン残基を含むように帰属を求めた。さらに、ピーク面積および各ペプチドの重い形態と軽い形態との間の最終的な相対的存在量を計算するために、カスタム定量化プログラムVistaを使用して基準を満たす帰属を評価した(Bakalarski, C. E., Elias, J.
E., Villen, J. Haas, W., Gerber, S.A., Everley, P.A.およびGygi, S.P.(2008)The Impact of Peptide Abundance and Dynamic
Range on Stable-Isotope-Based Quantitative Proteomic Analyses. J. Proteome Res.
10.1021 /pr800333e)。MS走査で信号対ノイズが15未満と確認されたペプチドは定量化について考慮しなかった。1つの状態にのみ見出されたペプチドについては、信号対ノイズ比を代わりに使用した。
【0083】
5'RACE法およびRT−PCR
5'
RACEシステム(Invitrogen)を用いてcDNA末端の高速増幅を行った。RNeasy Miniキット(Qiagen)を用いて細胞株および患者から全RNAを抽出した。5'RACE反応において細胞株および患者の異常なAlk転写産物を特定するために、プライマーには、cDNA合成用のAlk−GSP1プライマー(5'−GCAGTAGTTGGGGTTGTAGTC)ならびにネストPCR反応用のAlk−GSP2プライマー(5'−GCGGAGCTTGCTCAGCTTGT)およびAlk−GSP3プライマー(5'−TGCAGCTCCTGGTGCTTCC)を用いた。5'RACE反応において細胞株および患者の異常なRos転写産物を特定するために、プライマーには、cDNA合成用のRos−GSP1プライマー(5'−TGGAAACGAAGAACCGAGAAGGGT)ならびにネストPCR反応用のRos−GSP2プライマー(5'−AAGACAAAGAGTTGGCTGAGCTGCG)およびRos−GSP3プライマー(5'−AATCCCACTGACCTTTGTCTGGCAT)を用いた。PCR精製キット(Qiagen)を用いてこれらのPCR産物を精製して、それぞれAlk−GSP3およびRos−GSP3を用いてABI 3130キャピラリー型自動DNAシークエンサー(Applied
biosystem)を使用してこれらの配列決定を行った。
【0084】
SiRNA
Proligoから以下のROSのsiRNAオリゴヌクレオチドを得た:ROS1(6318−6340)5'−AAGCCCGGAUGGCAACGUUTT−3'、ROS1(7181−7203)5'−AAGCCUGAAGGCCUGAACUTT−3'。トランスフェクション前日に12ウェルプレート中にNSCLC細胞を播種し、Mirus TransIT-TKOトランスフェクション試薬を用いて100nMのROSのsiRNAをトランスフェクトし、トランスフェクション48時間後にさらに24時間細胞を血清飢餓させた。トリプシン処理によって細胞を回収して計数し、細胞溶解液を調製して、ウエスタンブロットでROSのタンパク質レベルを調べた。
【0085】
動物試験
Taconicから4〜6週齢の雌のNCRヌードマウスを購入し、それらを用いてH1703の異種移植片を作製した。IACUCが承認したプロトコルのもとで実験を行った。調査における適切かつ人道的な動物の使用のため、機関のガイドラインに従った。5×10のH1703細胞を10匹のマウスに注入することにより腫瘍を発生させ、基底膜Matrigel(BD Biosciences)をPBS中に1:1の割合で再構成させた。腫瘍サイズが約1mm×1mmの時に薬剤治療を開始した。50mg/kg/日でグリベックを用いて、先端丸型の給餌管を使用した経口胃管栄養法によって、5匹のマウスを治療した。5匹のマウスは未治療であった。治療開始7日後に、動物を屠殺し、腫瘍を切除して秤量した。キャリパーを使用してマウスの対照群および治療群の両方にある腫瘍の平均直径を測定した。
【0086】
増殖阻害アッセイおよびアポトーシスアッセイ
製造業者の指示に従って、CellTiter 96 Aqueous One Solution細胞増殖アッセイ(Promega)を用いて細胞増殖阻害アッセイを実施した。簡単に説明すると、平底96ウェルプレート上に1000〜5000個の細胞を播種して、10%FBS入りの完全培地で増殖させた。24時間後、細胞の培地を、さまざまな濃度のグリベックを含む10%FBS入りの完全増殖培地100μLに変更して、細胞をさらに72時間インキュベートした。薬剤の各濃度を3通りのウェルの細胞に加えた。インキュベーションの終わりに20μLのCellTiter 96 AQUESOUS One溶液を各ウェルに加え、プレートを1〜4時間インキュベートした。Titan Multiskan Ascentマイクロプレートリーダー(Titertek
Instrument)を使用して490nmで吸光度を読み取った。未処置細胞に対する処置細胞の吸光度測定値の平均±SD値の百分率として増殖阻害を表した。このアッセイを少なくとも3回繰り返した。OriginPro 6.1ソフトウェア(OriginLab、Northampton、MA)を用いてIC50を計算した。
【0087】
フローサイトメトリーを用いてカスパーゼの活性化を定量化することにより、グリベック誘発アポトーシスを測定した。細胞をグリベック(1μM、10μM、またはDMSOのみ)で24時間、3通りの15cmプレート中で処置した。PBSで短時間細胞をすすぎ、セルスクレイパーを用いてPBS中で細胞をプレートから静かにかき集め、これをペレット化して、直ちに、PBS中の3%ホルムアルデヒドを用いて37℃で10分間固定した。次いで、氷冷の90%メタノールで細胞を透過処理し、さらに分析するため、この溶液中で−20℃で保存した。固定化し透過処理した細胞(5×10)を12×75mmのポリプロピレンの培養管に分注し、遠心分離によってPBS中ですすぎ、次いで、非特異的な結合を防ぐために、0.5%BSA(PBS/BSA)を含むPBS中、室温で10分間インキュベートした。次いで、AlexaFluor 488を結合させ(Asp175)、PBS/BSA中に1:10で希釈した切断カスパーゼ3抗体(#9669、Cell Signaling
Technology、Danvers、MA)と共に、細胞を室温で1時間インキュベートした。続いて、遠心分離によってPBS/BSA中で細胞をすすぎ、これを0.5mLのPBS/BSA中に再懸濁して、励起のため488nmのアルゴンレーザーを使用するBeckman-Coulter FC500フローサイトメーターで分析した。
【0088】
In vitroキナーゼアッセイ
SLC34A2−ROS(S)融合遺伝子の短い型のオープンリーディングフレームをHCC78のcDNAからPCRにより増幅して、C末端にMycタグを付けてインフレームでpExchange−2ベクター(Strategene、CA)にクローニングした。10%ウシ胎児血清を含むDMEMで増殖させた293T細胞を、pExchange−2およびpExchange−2/SLC34A2−ROS(S)のそれぞれでトランスフェクトした。トランスフェクション48時間後に、細胞溶解液を回収した。Mycタグ抗体を用いて免疫沈降した後に、キナーゼ緩衝液(60mM
HEPES、5mM MgCl、3μM NaVO、および2.5mM DTT)でRos免疫複合体を3回洗浄した。基質として1mg/mLのPoly(EY、4:1)またはAAAEEEYMMMFAKKKのいずれかと共に、25μMのATP、0.2uCi/uLの(ガンマ32p)ATPを含む50μLキナーゼ緩衝液にRos免疫複合体を再懸濁することによりキナーゼ反応を開始させた。反応混合液をp81の濾紙にスポットすることにより反応を停止させた。次いで、試料を洗浄して、シンチレーションカウンターを用いた検出によってキナーゼ活性についてアッセイした。
【0089】
免疫組織化学染色
病理組織診断の確認および組織マイクロアレイ(TMA)の構築に適した試料の選別のために、NSCLCのヘマトキシリンおよびエオシンのスライドを再調査した。Beecher組織パンチャー/アレイシステム(Beecher Instruments)を用いてTMAを構築した。各症例について、提供者の腫瘍塊から腫瘍組織の3つのコア試料を得た。免疫組織化学試験用にTMAから連続的な厚さ4μmの組織切片を切断した。病理組織を検証するため、ヘマトキシリンおよびエオシンで最初の切片を染色した。このスライドをキシレン中で脱パラフィン化し、段階的な濃度系列のエタノールで再水和した。抗原検索(0.01M
EDTA緩衝液中で18分間のマイクロ波加熱)を行った。3%の過酸化水素によって10分間、内因性ペルオキシダーゼを阻止した。非特異的抗体の結合を阻止するために10%のヤギ血清(Sigma)溶液を使用し、かつ製造者の推奨する濃度で一次抗体を使用した。スライドを4℃で一晩放置した。TBST中で5分間×3回洗浄することによって一次抗体を除去した後に、スライドを二次抗体と共に室温で30分間インキュベートした。TBSTでさらに3回洗浄した後に、ストレプトアビジン−ビオチンペルオキシダーゼを用いてスライドを可視化した。低倍率で断片を走査した。染色した腫瘍細胞の割合および強度に基づいて0〜3の免疫染色スコアを評価した。また、膜または細胞質の染色の分布も記録し、高倍率で評価した。腫瘍細胞の染色の割合および強度を考慮して半定量的に免疫反応性をスコア化した。また高倍率においても膜または細胞質の染色の分布を査定した。免疫組織化学染色を可視的な4列規模(0〜3)でスコア化した。弱く染色した細胞が5%ある試料を陰性(スコア0)とした。弱い染色強度の陽性細胞が5%超〜20%ある試料を弱陽性(スコア1)とスコア化した。中程度から強い染色の陽性細胞が20%超〜50%ある試料を中程度の陽性(スコア2)、強い強度の陽性細胞が50%を超える試料を強陽性(スコア3)としてスコア化した。IHCスコア1を有するNSCLC試料を陽性試料とみなした。
【0090】
蛍光in situハイブリダイゼーション
PDGFRα遺伝子座にかかる2つのBACクローン(RP11−231C18、RP11−8OL11)からなるプローブセット、およびセントロメアプローブ(CEP4、Vysis(Vysis、Dowers Grove、IL、USA))を用いたFISHにより、PDGFRα遺伝子座における増幅を確認した。セントロメアプローブの多染色性によって、増幅を、PDGFRα遺伝子座それ自体の増幅と識別することができる。PDGFRαのプローブをSpectrum Orange dUTP(Vysis)で、CEP4をSpectrum Green dUTPで標識した。ROSに関わる再編成を解析するために、二色分離プローブを設計した。近位プローブ(BACクローンRP1−179P9)および2種類の遠位プローブ(BACクローンRP11−323O17、RP1−94G16)をそれぞれ、Spectrum Orange dUTPまたはSpectrum Green dUTPで標識した。ALKについては、二色分離再編成プローブをVysis(Vysis、Dowers Grove、IL、USA)から得た。この二色分離再編成プローブには、ALKの切断点の両側を別々に標識する2つの異なるプローブが含まれる。ROSおよびALKのプローブセットの両方について、ハイブッド形成した際に、陰性領域は橙色/緑色の融合シグナルのように見えるが、これらの遺伝子座における再編成によって橙色と緑色の別々のシグナルが生じることとなる。プローブの標識を行った。ニックトランスレーションによるこれらのプローブの標識およびホルマリン固定しパラフィン包埋した(FFPE)組織切片を用いた間期FISHは、製品使用説明書(Vysis)に従って、以下の点を変更して行った。簡単に説明すると、パラフィン包埋組織切片を再水和して、0.01Mのクエン酸緩衝液(pH6.0)中で11分間、マイクロ波抗原賦活化を行った。切片を、プロテアーゼ(4mg/mLペプシン、2000〜3000U/mg)で37℃で25分間消化し、脱水して、該FISHプローブセットと共に37℃で18時間ハイブリッド形成させた。洗浄後、Vectashieldマウンティングメディウム(Vector Laboratories、Burlingame、CA)中の4’,6−ジアミジノ−2−フェニルインドール(DAPI;0.5ug/mL)を核対比染色に適用した。スクリーニングには、NSCLC患者の試料由来の0.1mmの組織コアのアレイを用いた。切片全体を用いて陽性試料をさらに解析して、少なくとも50細胞を計数して細胞遺伝学的な変化の頻度を解析した。該FISHプローブセットを用いたスクリーニングのためのPDGFRαのIHC陽性試料のセットから18名の患者の試料が利用可能であった。14試料のスコア化に成功し、1つは大型の増幅を含んでいることが判明した。癌細胞の大多数が増幅を含んでいた。H1703の異種移植片を解析したが増幅は認められなかった。
【0091】
受託番号
ヌクレオチド配列CD74−ROS:EU236945、SLC34A2−ROS(ロング):EU236946、SLC34A2−ROS(ショート):EU236947、EML4−ALK:EU236948、およびタンパク質配列CD74/ROS:ABX59671、SLC34A2/ROS融合タンパク質ロングアイソフォーム:ABX59672、SLC34A2/ROS融合タンパク質ショートアイソフォーム:ABX59673、EML4/ALK:ABX59674をGenBankに寄託した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料中の癌細胞を分類する方法であって、
(a)癌細胞の試料を得るステップと、
(b)前記試料中の少なくとも1つのシグナル伝達経路にある1種または複数種のチロシンキナーゼの有無またはレベルを検出するステップと、
(c)1種または複数種の前記チロシンキナーゼの有無またはレベルに基づいて前記癌細胞を分類するステップと
を含む方法。
【請求項2】
ステップ(b)が、FISH、IHC、PCR、MS、フローサイトメトリー、ウエスタンブロット、およびELISAからなる群から選択される1つまたは複数の方法を用いることを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
試料中の癌細胞を分類する方法であって、
(a)癌細胞の試料を得るステップと、
(b)前記試料中の少なくとも1つのシグナル伝達経路にある1種または複数種のリン酸化型チロシンキナーゼの有無またはレベルを検出するステップと、
(c)1種または複数種のリン酸化型チロシンキナーゼの有無またはレベルに基づいて前記癌細胞を分類するステップと
を含む方法。
【請求項4】
ステップ(b)が、リン酸化ペプチドを免疫沈降することと、免疫沈降した前記リン酸化ペプチドを分析することとを含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
1種または複数種の前記チロシンキナーゼが、EGFR、FAK、Src、ALK、PDGFRa、Erb2、ROS、cMet、Axl、ephA2、DDR1、DDR2、およびFGFRからなる群から選択される、請求項1または3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
ステップ(c)が、1つまたは複数の統計的な方法を含む、請求項1または3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
ステップ(c)が、教師なしピアソンクラスタ分析を用いることを含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
ステップ(c)が、1種または2種のみの高度にリン酸化されたチロシンキナーゼを有するものとして前記癌細胞を分類することを含む、請求項3に記載の方法。
【請求項9】
ステップ(c)が、リン酸化型のFak、Src、Abl、ならびにEGFR、ALK、PDGFRa、Erb2、ROS、cMet、Axl、ephA2、DDR1、DDR2、FGFR、VEGR−2、IGFR1、LYN、HCK、HER2、IRS1、IRS2、およびBRKからなる群から選択される少なくとも1つの受容体チロシンキナーゼを発現しているものとして前記癌細胞を分類することを含む、請求項3に記載の方法。
【請求項10】
ステップ(c)が、リン酸化型のDDR1、Src、およびAblを発現しているものとして前記癌細胞を分類することを含む、請求項3に記載の方法。
【請求項11】
ステップ(c)が、リン酸化型のSrc、ならびにEGFR、ALK、PDGFRa、Erb2、ROS、cMet、Axl、ephA2、DDR1、DDR2、FGFR、VEGR−2、IGFR1、LYN、HCK、HER2、IRS1、IRS2、およびBRKからなる群から選択される少なくとも1つの受容体チロシンキナーゼを発現しているものとして前記癌細胞を分類することを含む、請求項3に記載の方法。
【請求項12】
ステップ(c)が、リン酸化型のSrcおよびAblを発現しているものとして前記癌細胞を分類することを含む、請求項3に記載の方法。
【請求項13】
前記癌細胞が、肺癌、血液癌、前立腺癌、乳癌、および胃腸管の腫瘍からなる群から選択される癌に由来する、請求項1または3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
非小細胞肺癌(NSCLC)を分類する方法であって、
(a)NSCLC細胞の試料を得るステップと、
(b)前記試料中の少なくとも1つのシグナル伝達経路にある1種または複数種のチロシンキナーゼの有無またはレベルを測定するステップと、
(c)1種または複数種の前記チロシンキナーゼの有無またはレベルに基づいて前記NSCLC細胞を分類するステップと
を含む方法。
【請求項15】
ステップ(b)が、FISH、IHC、PCR、MS、フローサイトメトリー、ウエスタンブロット、およびELISAからなる群から選択される1つまたは複数の方法を用いることを含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
非小細胞肺癌(NSCLC)を分類する方法であって、
(a)NSCLC細胞の試料を得るステップと、
(b)前記試料中の少なくとも1つのシグナル伝達経路にある1種または複数種のリン酸化型チロシンキナーゼの有無またはレベルを測定するステップと、
(c)1種または複数種のリン酸化型チロシンキナーゼの有無またはレベルに基づいて前記NSCLC細胞を分類するステップと
を含む方法。
【請求項17】
ステップ(b)が、リン酸化ペプチドを免疫沈降することと、免疫沈降した前記リン酸化ペプチドを分析することとを含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
1種または複数種の前記チロシンキナーゼのうちの少なくとも1つが、EGFR、FAK、Src、ALK、PDGFRa、Erb2、ROS、cMet、Axl、ephA2、DDR1、DDR2、およびFGFRからなる群から選択される、請求項14または16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
ステップ(c)が、1つまたは複数の統計的な方法を含む、請求項14または16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
ステップ(c)が、教師なしピアソンクラスタ分析を含む、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
ステップ(c)が、1種または2種のみの高度にリン酸化されたチロシンキナーゼを有するものとして前記NSCLC細胞を分類することを含む、請求項16に記載の方法。
【請求項22】
ステップ(c)が、リン酸化型のFak、Src、Abl、ならびにEGFR、ALK、PDGFRa、Erb2、ROS、cMet、Axl、ephA2、DDR1、DDR2、FGFR、VEGR−2、IGFR1、LYN、HCK、HER2、IRS1、IRS2、およびBRKからなる群から選択される少なくとも1つの受容体チロシンキナーゼを発現しているものとして前記NSCLC細胞を分類することを含む、請求項16に記載の方法。
【請求項23】
ステップ(c)が、リン酸化型のDDR1、Src、およびAblを発現しているものとして前記NSCLC細胞を分類することを含む、請求項16に記載の方法。
【請求項24】
ステップ(c)が、リン酸化型のSrc、ならびにEGFR、ALK、PDGFRa、Erb2、ROS、cMet、Axl、ephA2、DDR1、DDR2、FGFR、VEGR−2、IGFR1、LYN、HCK、HER2、IRS1、IRS2、およびBRKからなる群から選択される少なくとも1つの受容体チロシンキナーゼを発現しているものとして前記NSCLC細胞を分類することを含む、請求項16に記載の方法。
【請求項25】
ステップ(c)が、リン酸化型のSrcおよびAblを発現しているものとして前記NSCLC細胞を分類することを含む、請求項16に記載の方法。
【請求項26】
対象者において癌を治療する方法であって、
(a)前記対象者から癌細胞の試料を採取するステップと、
(b)前記試料中の少なくとも1つのシグナル伝達経路にある1種または複数種の異常に発現したチロシンキナーゼのレベルに基づいて前記癌細胞を分類するステップと、
(c)前記分類に基づいて有効量の1種または複数種のチロシンキナーゼ阻害剤を投与するステップと
を含む方法。
【請求項27】
ステップ(b)が、FISH、IHC、PCR、MS、フローサイトメトリー、ウエスタンブロット、およびELISAからなる群から選択される1つまたは複数の方法を用いることを含む、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
対象者において癌を治療する方法であって、
(a)前記対象者から癌細胞の試料を採取するステップと、
(b)前記試料中の少なくとも1つのシグナル伝達経路にある1種または複数種の異常にリン酸化されたチロシンキナーゼのレベルに基づいて前記癌細胞を分類するステップと、
(c)前記分類に基づいて有効量の1種または複数種のチロシンキナーゼ阻害剤を投与するステップと
を含む方法。
【請求項29】
ステップ(b)が、リン酸化ペプチドを免疫沈降することと、免疫沈降した前記リン酸化ペプチドを分析することとを含む、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
1種または複数種の前記チロシンキナーゼ阻害剤が、EGFR、Fak、Src、Alk、PDGFRa、Erb2、ROS、cMet、Axl、ephA2、DDR1、DDR2、およびFGFRからなる群から選択される1種または複数種のチロシンキナーゼを阻害する、請求項26または28のいずれか1項に記載の方法。
【請求項31】
前記癌細胞が、1種または2種のみの高度にリン酸化されたチロシンキナーゼを有するものとして分類される、請求項28に記載の方法。
【請求項32】
前記癌細胞が、リン酸化型のFak、Src、Abl、ならびにEGFR、ALK、PDGFRa、Erb2、ROS、cMet、Axl、ephA2、DDR1、DDR2、FGFR、VEGR−2、IGFR1、LYN、HCK、HER2、IRS1、IRS2、およびBRKからなる群から選択される少なくとも1つの受容体チロシンキナーゼを発現しているものとして分類される、請求項28に記載の方法。
【請求項33】
前記癌細胞が、リン酸化型のDDR1、Src、およびAblを発現しているものとして分類される、請求項28に記載の方法。
【請求項34】
前記癌細胞が、リン酸化型のSrc、ならびにEGFR、ALK、PDGFRa、Erb2、ROS、cMet、Axl、ephA2、DDR1、DDR2、FGFR、VEGR−2、IGFR1、LYN、HCK、HER2、IRS1、IRS2、およびBRKからなる群から選択される少なくとも1つの受容体チロシンキナーゼを発現しているものとして分類される、請求項28に記載の方法。
【請求項35】
前記癌細胞が、リン酸化型のSrcおよびAblを発現しているものとして分類される、請求項28に記載の方法。
【請求項36】
前記癌細胞が、肺癌、血液癌、前立腺癌、乳癌、および胃腸管の腫瘍からなる群から選択される癌に由来する、請求項28に記載の方法。
【請求項37】
対象者において非小細胞肺癌(NSCL(C)を治療する方法であって、
(a)前記対象者からNSCLC細胞の試料を採取するステップと、
(b)前記試料中の少なくとも1つのシグナル伝達経路にある1種または複数種の異常に発現したチロシンキナーゼのレベルに基づいて前記NSCLC細胞を分類するステップと、
(c)前記分類に基づいて有効量の1種または複数種のチロシンキナーゼ阻害剤を投与するステップと
を含む方法。
【請求項38】
ステップ(b)が、FISH、IHC、PCR、MS、フローサイトメトリー、ウエスタンブロット、およびELISAからなる群から選択される1つまたは複数の方法を用いることを含む、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
対象者において非小細胞肺癌(NSCL(C)を治療する方法であって、
(a)前記対象者からNSCLC細胞の試料を採取するステップと、
(b)前記試料中の少なくとも1つのシグナル伝達経路にある1種または複数種の異常にリン酸化されたチロシンキナーゼのレベルに基づいて前記NSCLC細胞を分類するステップと、
(c)前記分類に基づいて有効量の1種または複数種のチロシンキナーゼ阻害剤を投与するステップと
を含む方法。
【請求項40】
ステップ(b)が、リン酸化ペプチドを免疫沈降することと、免疫沈降した前記リン酸化ペプチドを分析することとを含む、請求項39に記載の方法。
【請求項41】
1種または複数種の前記チロシンキナーゼ阻害剤が、EGFR、Fak、Src、Alk、PDGFRa、Erb2、ROS、cMet、Axl、ephA2、DDR1、DDR2、およびFGFRからなる群から選択される1種または複数種のチロシンキナーゼを阻害する、請求項37または39のいずれか1項に記載の方法。
【請求項42】
前記NSCLC細胞が1種または2種のみの高度にリン酸化されたチロシンキナーゼを有するものとして分類される、請求項39に記載の方法。
【請求項43】
前記NSCLC細胞がリン酸化型のFak、Src、Abl、ならびにEGFR、ALK、PDGFRa、Erb2、ROS、cMet、Axl、ephA2、DDR1、DDR2、FGFR、VEGR−2、IGFR1、LYN、HCK、HER2、IRS1、IRS2、およびBRKからなる群から選択される少なくとも1つの受容体チロシンキナーゼを発現しているものとして分類される、請求項39に記載の方法。
【請求項44】
前記NSCLC細胞がリン酸化型のDDR1、Src、およびAblを発現しているものとして分類される、請求項39に記載の方法。
【請求項45】
前記NSCLC細胞がリン酸化型のSrc、ならびにEGFR、ALK、PDGFRa、Erb2、ROS、cMet、Axl、ephA2、DDR1、DDR2、FGFR、VEGR−2、IGFR1、LYN、HCK、HER2、IRS1、IRS2、およびBRKからなる群から選択される少なくとも1つの受容体チロシンキナーゼを発現しているものとして分類される、請求項39に記載の方法。
【請求項46】
前記NSCLC細胞がリン酸化型のSrcおよびAblを発現しているものとして分類される、請求項39に記載の方法。
【請求項47】
対象者における癌に対する治療の有効性を判定する方法であって、
(a)前記対象者から癌細胞の試料を採取するステップと、
(b)前記試料中の少なくとも1つのシグナル伝達経路にある1種または複数種のチロシンキナーゼの有無またはレベルを検出するステップと
を含み、1種または複数種の前記チロシンキナーゼの有無またはレベルが前記治療の有効性と相関している方法。
【請求項48】
ステップ(b)が、FISH、IHC、PCR、MS、フローサイトメトリー、ウエスタンブロット、およびELISAからなる群から選択される1つまたは複数の方法を用いることを含む、請求項47に記載の方法。
【請求項49】
対象者における癌に対する治療の有効性を判定する方法であって、
(a)前記対象者から癌細胞の試料を採取するステップと、
(b)前記試料中の少なくとも1つのシグナル伝達経路にある1種または複数種のリン酸化型チロシンキナーゼの有無またはレベルを検出するステップと
を含み、1種または複数種の前記チロシンキナーゼの有無またはレベルが前記治療の有効性と相関している方法。
【請求項50】
ステップ(b)が、リン酸化ペプチドを免疫沈降することと、免疫沈降した前記リン酸化ペプチドを分析することとを含む、請求項49に記載の方法。
【請求項51】
1種または複数種の前記チロシンキナーゼが、EGFR、FAK、Src、ALK、PDGFRa、Erb2、ROS、cMet、Axl、ephA2、DDR1、DDR2、およびFGFRからなる群から選択される、請求項47または49のいずれか1項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2011−522212(P2011−522212A)
【公表日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−529984(P2010−529984)
【出願日】平成20年10月20日(2008.10.20)
【国際出願番号】PCT/US2008/011969
【国際公開番号】WO2009/054939
【国際公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【出願人】(501087490)セル・シグナリング・テクノロジー・インコーポレイテツド (11)
【Fターム(参考)】