説明

癌の治療標的及び診断マーカーとしてのDKK1癌遺伝子

DKK1の過剰発現及び/又は上方制御と関連する癌を治療又は予防することが可能な抗体及び抗体断片が本明細書中に記載される。該抗体を用いて癌を治療又は予防する方法、並びに癌の診断に利用される方法及びキットも開示される。本明細書中に記載される生成物及び方法は、膵臓癌、胃癌、肝臓癌、前立腺癌、乳癌、子宮頸癌、胆管癌、肺癌、及び食道癌等の多様な癌との関連で有用性が見られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は生物科学の分野、より具体的には癌の治療及び診断の分野に関する。特に、本発明は癌を診断及び予後判定する方法、並びに癌細胞増殖を阻害する組成物及び方法に関する。
【0002】
本願は、その内容全体が参照により本明細書中に援用される、2007年8月24日付で出願された米国仮特許出願第60/957,873号明細書の恩典を主張するものである。
【背景技術】
【0003】
DKK1(配列番号1)は、脊椎動物の発生における頭部形成において重要な役割を果たす分泌タンパク質をコードし、大腸癌細胞におけるWntシグナル経路の負の調節因子として知られている(Niida A. et al. Oncogene 2004; 23: 8520-6.、Gonzalez-Sancho JM. et al. Oncogene 2005; 24: 1098-103.)。DKK1の過剰発現は肝芽腫、ウィルムス腫瘍、肝細胞癌(HCC)、前立腺癌、及び乳癌において周期的に生じることが既に報告されており、これはDKK1の潜在的な発癌機能を示唆するものである(Wirths O. et al. Lab Invest 2003; 83: 429-34.、Patil MA. et al. Oncogene 2005; 24: 3737-47.、Hall CL. et al. Cancer Res. 2005; 65: 7554-60、Forget MA. et al. Br J Cancer. 2007; 96: 646-53.)。また、DKK1タンパク質の血清中濃度が多発性骨髄腫の患者において上昇することが示されている(Politou MC. et al. Int J Cancer. 2006; 119: 1728-31.)。さらに、抗DKK1抗体を用いたDKK1の阻害は、マウスにおいて骨を破壊する関節リウマチを、骨を形成する変形性関節症に逆転させることが示されている(Diarra D et al. Nat Med. 2007; 13: 156-63.)。つい最近では、Yaccoby et al.は、抗体によるDKK1の阻害により、in vivoにおいて腫瘍によって誘導される骨吸収及び多発性骨髄腫の成長が抑制され得ることを実証した。具体的には、骨髄腫の骨の周辺領域におけるDKK1中和抗体の連日皮下注射は、恐らくは骨芽細胞形成を増加させ、破骨細胞形成を減少させることにより骨代謝回転を改善することが示された(Blood. 2007; 109: 2106-11.)。
【0004】
骨病変の発生促進におけるDKK1の役割は、前立腺癌においても研究されている。溶骨性癌細胞株のPC−3は、DKK1を標的とするshRNAをトランスフェクトした場合に、骨芽細胞表現型に戻ることが示された。また、通常は造骨性病変及び溶骨性病変を混合して(a mix of)誘導する造骨性前立腺癌細胞株C4−2Bに、DKK1をトランスフェクトすることで、SCIDマウスにおいて細胞に溶骨性腫瘍を発生させている(Hall CL. et al. Cancer Res. 2005; 65: 7554-60)。
【0005】
本発明者らは以下の戦略を用いて治療標的分子をスクリーニングした:(I)肺癌において上方制御された遺伝子を全ゲノムcDNAマイクロアレイシステムにより同定すること(Kikuchi T et al. Oncogene. 2003; 22: 2192-205.、Kikuchi T et al. Int J Oncol 2006; 28: 799-805.、Kakiuchi S et al. Mol Cancer Res 2003; 1: 485-99.、Kakiuchi S et al. Hum Mol Genet. 2004; 13: 3029-43.、Taniwaki M et al. Int J Oncol 2006; 29: 567-75.、Yamabuki T et al. Int J Oncol: 2006; 28: 1375-84.)、(II)候補遺伝子が正常な組織において発現しないか、又は発現レベルが非常に低いことをノーザンブロット法により確認すること(Saito-Hisaminato A et al. DNA Res. 2002; 9: 35-45.、Ochi K et al. J Hum Genet 2003; 48: 177-82.)、(III)数百の保管肺癌試料を含有する組織マイクロアレイ及びRNAiアッセイを用いて、過剰発現の生物学的意義を実証すること(Kato T et al. Cancer Res. 2005; 65: 5638-46.、Furukawa C. et al. Cancer Res. 2005; 65: 7102-10.、Ishikawa N et al. Cancer Res. 2005; 65: 9176-84.、Suzuki C et al. Cancer Res. 2005: 65: 11314-11325、Ishikawa N et al. Cancer Sci. 2006; 97: 737-745、Takahashi K et al. Cancer Res. 2006; 66: 9408-9419.)、(IV)治療標的分子が腫瘍特異的な膜貫通タンパク質又は分泌タンパク質である場合に、肺癌に関する血清診断/予後バイオマーカーとしての有用性をELISAにより評価すること(Ishikawa N et al. Cancer Res. 2005; 65: 9176-84.、Ishikawa N et al. Clin Cancer Res. 2004; 10: 8363-70.、Yamabuki T et al. Cancer Res 2007; 67: 2517-2525.)。
【0006】
このアプローチを用いて、本発明者らは近年、肺癌及び食道癌に関する新規の血清学的及び組織化学的バイオマーカー、並びに治療標的としてDickkopf−1(DKK1)を同定した(国際公開第2007/013671号パンフレット、Yamabuki T. et al. Cancer Res 2007; 67: 2517-2525(その内容が参照により本明細書中に援用される))。高レベルのDKK1発現は、非小細胞肺癌(NSCLC)及び食道扁平上皮癌(ESCC)の患者の予後不良と関連していた。また、本発明者らは、DKK1の外因性の発現が哺乳類細胞の浸潤活性を増大させることを同定したが、これはDKK1がヒト癌の進行において重要な役割を果たし得ることを示唆するものである。DKK1の血清レベルを測定するためにELISAシステムを確立し、血清DKK1レベルが健常対照におけるよりも肺癌患者及び食道癌患者において有意に高いことを見出した。これらの発見から、本発明者らは次に、癌患者に適用可能な治療抗体を生成するための潜在的標的としてDKK1に着目した。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
総合すると、現在の証拠により、抗DKK1抗体が、少なくとも前立腺、メラニン細胞、及び肺から発生する癌を含む或る特定のタイプのヒト癌において癌細胞の増殖、転移、及び骨吸収を阻害するための理想的な治療試薬となり得ることが示唆される。さらに、血清DKK1は、抗DKK1治療を受けるべき患者を同定するための安全且つ低侵襲性のバイオマーカーであると証明される可能性がある。これらの研究にもかかわらず、DKK1を診断及び治療の標的として確認した報告はほとんどない。
【課題を解決するための手段】
【0008】
したがって、上記を鑑みて、様々なタイプの癌を診断、予後判定、及び治療する新規の方法を提供することが本発明の一目的である。これを受けて、本発明においては、様々なヒト癌を検出するバイオマーカーとしてのDKK1の価値を検証し、癌細胞の浸潤及び成長を阻害するためにDKK1抗体が使用される可能性を調査する。より詳細には、本発明は、5つの器官(膵臓、胃、肝臓、前立腺、及び乳腺)における癌試料においてDKK1転写産物の発現が上昇することを開示する。本発明はまた、膵臓癌、胃癌、肝臓癌、前立腺癌、乳癌、胆管癌、及び子宮癌の患者から得た血清の試料において高レベルのDKK1タンパク質が存在することを開示する。さらに、in vitroにおいて癌細胞、及びDKK1を過剰発現した哺乳類細胞の浸潤を阻害する抗DKK1抗体が開示される。またさらに、該抗DKK1抗体はin vitro及びA549細胞を接種したBALB/Cマウスにおいて癌成長を有意に抑制した。これらのデータにより、広範な癌をスクリーニングするための血清バイオマーカーとしてのDKK1の実用性、並びに癌の転移及び増殖の治療のための候補治療剤としての抗DKK1抗体の実用性が確認される。
【0009】
したがって、DKK1関連癌に関する抑制活性を有する、DKK1タンパク質又はその部分ペプチドに結合することが可能な抗体又は抗体断片を提供することが本発明の一目的である。
【0010】
薬学的に許容可能な担体と共に、有効量の少なくとも1つの抗DKK1抗体又は抗体断片を投与することによって、癌を治療する方法、癌の転移、浸潤、又は移動を阻害する方法を提供することが本発明の別の目的である。
【0011】
癌の治療、又は癌の転移、浸潤、若しくは移動の阻害において有用な、少なくとも1つの抗DKK1抗体又はその抗体断片を含有する医薬組成物を提供することが本発明のさらなる目的である。
【0012】
さらに、抗DKK1抗体の集団から癌細胞の増殖を阻害するものをスクリーニングすることにより、潜在的治療活性を有する抗DKK1抗体をスクリーニングする方法を提供することが本発明のさらなる目的である。
【0013】
さらに、被験体から得た生体試料においてDKK1遺伝子の発現レベルを決定することにより、被験体の癌、又は癌の発症の素因、癌転移、癌浸潤、又は癌細胞移動を診断する方法を提供することが本発明のさらなる目的であり、ここで該遺伝子の正常対照レベルと比較した場合の発現レベルの上昇は、被験体が癌、癌転移、癌浸潤、又は癌細胞移動を患っているか、又はそれを発症する危険性があることを示唆する。
【0014】
さらに、被験体の癌、又は癌の発症の素因、癌転移、癌浸潤、又は癌細胞移動を診断するためのキットを提供することが本発明のさらなる目的である。
【0015】
さらに、抗DKK1抗体を含む、DKK1を検出するためのイムノアッセイ試薬を提供することが本発明のさらなる目的である。抗DKK1抗体はポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、又は各々が異なるDKK1の抗原決定基を認識する少なくとも2つのモノクローナル抗体であり得る。
【0016】
さらに、DKK1ポリペプチドを試験化合物と接触させる工程、及びDKK1ポリペプチドの生物活性を抑制する試験化合物を選択する工程を含む、癌の治療をスクリーニングする方法を提供することが本発明のさらなる目的である。
【0017】
一実施の形態において、本発明は、DKK1の過剰発現及び上方制御のいずれか又は両方を特徴とする癌の治療及びその転移、浸潤、又は移動を阻害するための医薬組成物を製造する上での本発明の抗DKK1抗体又は抗体断片の使用を提供する。
【0018】
別の実施の形態において、本発明は、DKK1の過剰発現及び上方制御のいずれか又は両方を特徴とする癌の治療及びその転移、浸潤、又は移動を阻害するための抗DKK1抗体又は抗体断片を提供する。
【0019】
さらに、さらなる実施の形態において、本発明は、活性成分である抗DKK1抗体又は抗体断片に、薬学的又は生理学的に許容可能な担体を配合する工程を含む、DKK1の過剰発現及び上方制御のいずれか又は両方を特徴とする癌の治療及びその転移、浸潤、又は移動を阻害するための医薬組成物を製造する方法又はプロセスを提供する。
【0020】
さらに別の実施の形態において、本発明は、活性成分を薬学的又は生理学的に許容可能な担体に混和させる工程を含む、DKK1の過剰発現及び上方制御のいずれか又は両方を特徴とする癌の治療及びその転移、浸潤、又は移動を阻害するための医薬組成物を製造する方法又はプロセスを提供するが、ここで活性成分は抗DKK1抗体又は抗体断片である。
【0021】
本発明の1つ又は複数の態様により或る特定の目的を達成することができ、一方で1つ又は複数の他の態様により或る特定の他の目的を達成することができることが当業者には理解される。各々の目的を本発明の全ての態様に、あらゆる点で等しく適用することはできない。このように、前述の目的は、本発明の任意の一態様に関して選択的に考えられ得る。本発明のこれら及び他の目的及び特徴は、以下の詳細な説明を添付の図面及び実施例と併せて読むことでさらに十分に明らかとなる。しかしながら、上述の発明の概要及び以下の詳細な説明は共に好ましい実施の形態のものであり、本発明又は本発明の他の代替的な実施形態を限定するものではないことを理解されたい。
【0022】
本発明の様々な態様及び用途は、以下の図面の簡単な説明、及び本発明の詳細な説明、及びその好ましい実施形態を鑑みて当業者に明らかとなる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】図1は様々な癌細胞におけるDKK1の発現、及び癌患者におけるDKK1の血清レベルを示す図である。パネル(A)は、幾つかの器官(膵臓、胃、肝臓、前立腺、及び乳腺)における臨床癌組織においてDKK1転写産物の発現が上昇することを示す。パネル(B)は、様々な種類の癌の患者におけるDKK1の血清レベルを示す。血清DKK1タンパク質のレベルは、膵臓癌を除いて(P=0.286;マンホイットニーU検定)、健常ドナーにおいてよりも癌患者において有意に高かった(P<0.001;マンホイットニーU検定)。黒線:平均血清レベル。
【図2】DKK1発現の影響を示す図である。パネル(A)は、半定量的RT−PCRにより検証した、早期の原発性ADC(I期〜III A期)、進行した原発性ADC(III B期〜IV期)、及びADCに由来する転移性脳腫瘍の臨床試料におけるDKK1の発現を示す。パネル(B)は、DKK1発現プラスミド又はモック(mock)ベクターをトランスフェクトしたCOS−7細胞を用いた創傷移動アッセイ(wound migration assay)の結果を示す。
【図3】抗DKK1抗体による細胞浸潤活性の阻害を示す図である。パネル(A)は、DKK1発現プラスミドを一過性にトランスフェクトしたCOS−7細胞の浸潤に対する、抗DKK1抗体(50nM又は100nM;y軸)の効果を評価するマトリゲル浸潤アッセイの結果を示す。DKK1の過剰発現及び/又は上方制御に起因する細胞浸潤は、抗DKK1抗体をそれらの培養培地に添加することにより抑制された。各実験は三連で行なった。パネル(B)及びパネル(C)は、DKK1を過剰発現するNSCLC細胞株A549(B)、及びDKK1を発現しないNSCLC細胞株PC−14(C)の浸潤に対する抗DKK1抗体(50nM又は100nM;y軸)の効果を評価するマトリゲル浸潤アッセイの結果を示す。マトリゲルアッセイを用いて検出されるA549細胞の細胞浸潤は、培養培地への抗DKK1抗体の添加により用量依存的に抑制されたが、DKK1をほとんど検出不可能なレベルでしか発現しないPC−14細胞の細胞浸潤は影響を受けなかった。各実験は三連で行なった。
【図4】in vitroにおける抗DKK1抗体による細胞成長の阻害を示す図である。パネル(A)は、DKK1を過剰発現するNSCLC細胞株A549の成長に対する、抗DKK1抗体(50nM又は100nM;y軸)の効果を評価するMTTアッセイの結果を示し、パネル(B)は、DKK1を発現しないNSCLC細胞株PC−14及びSBC−3を示す。MTTアッセイを用いて検出されるA549細胞の細胞成長は、培養培地への抗DKK1抗体の添加により用量依存的に抑制されたが、DKK1をほとんど検出不可能なレベルでしか発現しないPC−14細胞及びPC−3細胞の細胞成長は影響を受けなかった。各実験は三連で行なった。
【図5】ヌードマウスに移植したDKK1発現肺癌細胞に対する抗DKK1抗体の成長抑制効果、及び抗DKK1抗体を用いた組織病理学検査を示す図である。パネル(A)及びパネル(B)には、抗DKK1抗体又はIgG(対照)で処理した3匹のマウスの平均腫瘍体積をプロットした。各々の抗体は腹腔内注射により動物に投与した(100μg/500μl/動物;1日目、3日目、5日目、7日目、及び9日目(合計で5回の注射))。DKK1発現A549細胞に由来する移植腫瘍の成長は、抗DKK1抗体により有意に抑制されたが(A)、DKK1をほとんど発現しないPC−14細胞の成長は影響を受けなかった(B)。パネル(C)は、抗DKK1抗体で処理したHE染色腫瘍(A549)の組織病理学検査の結果を示す。抗DKK1抗体で処理した腫瘍組織において、対照IgGで処理した腫瘍組織と比較して有意な線維化及び生癌細胞数の減少が観察された。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の詳細な説明
本発明の実施形態の実施又は試験に際しては、本明細書中に記載されるものと同様又は等価の方法及び材料を使用することができるが、好ましい方法及び材料をここで記載する。しかしながら、本発明は本明細書中に記載される特定の分子、組成物、方法論、又はプロトコルに限定されず、日常的な実験及び最適化に従って変わり得ることを理解されたい。また、本明細書において使用される専門用語は、単に特定の種類の実施形態の説明を目的とするものであり、添付の特許請求の範囲によってのみ限定される本発明の範囲を限定するよう意図されないことを理解されたい。
【0025】
他に規定のない限り、本明細書中で使用される全ての技術用語及び科学用語は、本発明が属する技術分野の通常の技術を有する者(当業者)により一般に理解されるものと同じ意味を有する。しかしながら、矛盾する場合には、本明細書が定義を含めて支配するものとする。したがって、本発明に関しては以下の定義が適用される。
【0026】
定義
単語「1つの(a)」、「1つの(an)」、及び「その(the)」は、本明細書中で使用される場合、特に指定のない限り、「少なくとも1つの」を意味する。
【0027】
本明細書中で使用される場合、「生物」という用語は少なくとも1つの細胞から成る任意の生命体を指す。生物は例えば、単一の真核細胞のように単純であっても、又は哺乳類(ヒトを含む)のように複雑であってもよい。
【0028】
本明細書中で使用される場合、「生体試料」という用語は生物体全体又はその組織、細胞又は構成部分(例えば、血液、粘液、リンパ液、滑液、脳脊髄液、唾液、羊水、臍帯血(amniotic cord blood)、尿、膣液、及び精液を含む(これらに限定されない)体液)のサブセットを指す。「生体試料」という用語はさらに、生物体全体又はその細胞、組織又は構成部分のサブセット、又はその画分若しくは一部分から調製されるホモジネート、可溶化物、抽出物、細胞培養物、又は組織培養物を指す。最後に、「生体試料」は、タンパク質又はポリヌクレオチド等の細胞成分を含有する、生物を繁殖させたニュートリエントブロス又はゲル等の培地を指す。
【0029】
「ポリペプチド」、「ペプチド」、及び「タンパク質」という用語は本明細書中でアミノ酸残基の重合体を指すのに互換可能に使用される。該用語は天然アミノ酸重合体に加えて、1つ又は複数のアミノ酸残基が修飾残基であるか、又は対応する天然アミノ酸の人工の化学的模倣体(chemical mimetic)のように天然に存在しない残基であるアミノ酸重合体にも適用され得る。
【0030】
「ポリヌクレオチド」、「オリゴヌクレオチド」、「ヌクレオチド」、「核酸」、及び「核酸分子」という用語は本明細書中で核酸残基の重合体を指すのに互換可能に使用され、特に指定のない限りはアミノ酸と同様、それらの一般に認められた1文字のコードにより称される。該用語はアミノ酸と同様に、天然の核酸重合体及び天然に存在しない核酸重合体の両方を包含する。
【0031】
抗体
「抗体」という用語は本明細書中で使用される場合、指定のタンパク質又はそのペプチドと特異的に反応する免疫グロブリン及びその断片を含むことが意図される。本発明は、DKK1のポリペプチドに特異的に結合する抗体を提供する。好ましい実施形態において、本発明は、配列番号2のDKK1アミノ酸配列に結合する抗体を提供する。本発明の抗体はヒト抗体、霊長類化(primatized)抗体、キメラ抗体、二重特異性抗体、ヒト化抗体、他のタンパク質、化学物質、又は放射性標識と融合させた抗体、及び抗体断片を含み得る。さらに、本明細書において「抗体」は広義で使用され、具体的には無傷モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、少なくとも2つの無傷抗体から形成される多特異性抗体(例えば二重特異性抗体)包含し、また所望の生物活性を示す限り、抗体断片を包含する。「抗体」は全てのクラス(例えばIgA、IgD、IgE、IgG、及びIgM)を意味する。「抗体断片」は無傷抗体の一部分、一般に無傷抗体の抗原結合領域又は可変領域を含む。抗体断片の例としてはFab断片、Fab’断片、F(ab’)2断片、及びFv断片;線状抗体(linear antibody);及び一本鎖抗体分子が挙げられる。
【0032】
抗体の生成
主題発明ではDKK1に対する抗体を使用する。これらの抗体は既知の方法により提供され得る。
【0033】
本発明に従って使用される抗体を生成するための例示的な技法は、本明細書中に記載される。
【0034】
(i)ポリクローナル抗体:
ポリクローナル抗体は、動物において関連抗原及びアジュバントの頻回皮下(sc)又は腹腔内(ip)注射により生じさせるのが好ましい。二官能性物質又は誘導体化剤、例えばマレイミドベンゾイルスルホスクシンイミドエステル(システイン残基を介する共役)、N−ヒドロキシスクシンイミド(リシン残基を介する)、グルタルアルデヒド、無水コハク酸、SOC12、又はR’N=C=NR(式中、R及びRは異なるアルキル基である)を用いて、免疫化される種において免疫原性のあるタンパク質、例えばキーホールリンペットヘモシアニン、血清アルブミン、ウシサイログロブリン、又はダイズトリプシン阻害因子と関連抗原とを共役させることが有用であり得る。
【0035】
例えば100μg又は5μgのタンパク質又は複合体(それぞれウサギ又はマウスの場合)を3倍量の完全フロインドアジュバントと合わせ、この溶液を複数の部位で皮内注射することにより、動物を抗原、免疫原性のある複合体、又は誘導体に対して免疫化する。1ヵ月後、ペプチド又は複合体の初期量の1/5〜1/10量を完全フロインドアジュバントに加え、複数の部位で皮下注射することにより動物を追加免疫する。7日〜14日後、動物から採血し、血清を抗体力価について検定する。力価が平衡に達するまで動物を追加免疫する。同じ抗原の異なるタンパク質を共役させた複合体及び/又は異なる架橋試薬による複合体で動物を追加免疫するのが好ましい。
【0036】
複合体は、融合タンパク質(protein fusion)のような組換え細胞培養物においても作製することができる。また、ミョウバン等の凝集剤が、免疫反応を増強するのに適切に使用される。
【0037】
(ii)モノクローナル抗体:
モノクローナル抗体は実質的に均質な抗体集団、すなわち、集団内に含有される個々の抗体が起こり得る自然発生突然変異(若干存在し得る)以外は同一である集団から得ることができる。したがって、「モノクローナル」という修飾詞は、別個の抗体の混合物ではないという抗体の特徴を意味する。
【0038】
例えば、モノクローナル抗体は、Kohler et al., Nature, 256: 495 (1975)に初めて記載されたハイブリドーマ法を用いて作製され得るか、又は組換えDNA法(米国特許第4,816,567号明細書)により作製され得る。
【0039】
ハイブリドーマ法においては、マウス又は他の適当な宿主動物(ハムスター等)を以上に記載されるように免疫化して、免疫化に使用されたタンパク質に特異的に結合する抗体を生成するか、又は生成することが可能なリンパ球を誘導する。代替的には、リンパ球をin vitroで免疫化してもよい。リンパ球を次に、ポリエチレングリコール等の適切な融合剤を用いて骨髄腫細胞と融合させ、ハイブリドーマ細胞を形成する(Goding, Monoclonal Antibodies: Principles and Practice, pp. 59-103 (Academic Press, 1986))。
【0040】
このように調製したハイブリドーマ細胞を、好ましくは融合していない親骨髄腫細胞の成長又は生存を阻害する1つ又は複数の物質を含有する、適切な培養培地に播種して成長させる。例えば、親骨髄腫細胞が酵素ヒポキサンチングアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(HGPRT又はHPRT)を欠く場合、ハイブリドーマ用の培養培地は典型的には、HGPRT欠損細胞の成長を妨げる物質であるヒポキサンチン、アミノプテリン、及びチミジンを含む(HAT培地)。
【0041】
好ましい骨髄腫細胞は、効率的に融合し、選択される抗体産生細胞による安定な高レベルでの抗体の産生を支持し、且つHAT培地等の培地に対して感受性を有する細胞である。これらの中でも好ましい骨髄腫細胞株は、Salk Institute Cell Distribution Center(San Diego,California USA)から入手可能なMOPC−21及びMPC−11マウス腫瘍に由来するもの、並びにAmerican Type Culture Collection(Manassas,Virginia,USA)から入手可能なSP−2細胞又はX63−Ag8−653細胞等のマウス骨髄腫株である。ヒト骨髄腫細胞株及びマウス−ヒトヘテロ骨髄腫細胞株も、ヒトモノクローナル抗体の産生に関して記載されている(Kozbor, J. Immunol., 133: 300 1 (1984)、Brodeur et al., Monoclonal Antibody Production Techniques and Applications, pp. 51-63 (Marcel Dekker, Inc., New York, 1987))。
【0042】
ハイブリドーマ細胞が成長している細胞培地を、抗原に対するモノクローナル抗体の産生に関して検定する。好ましくは、ハイブリドーマ細胞によって産生されるモノクローナル抗体の結合特異性は、免疫沈降法、又はラジオイムノアッセイ(RIA)若しくは酵素結合免疫測定法(ELISA)等のin vitro結合アッセイによって求められる。
【0043】
モノクローナル抗体の結合親和性は、例えばMunson et al., Anal. Biochem., 107: 220 (1980)の30スキャッチャード解析によって決定することができる。
【0044】
所望の特異性、親和性、及び/又は活性を有する抗体を産生するハイブリドーマ細胞を同定した後、そのクローンを限界希釈法によってサブクローニングし、標準的な方法(Goding, Monoclonal Antibodies: Principles and Practice, pp. 59-103 (Academic Press, 1986))によって成長させてもよい。この目的に適した培養培地には、例えばD−MEM培地又はRPML−1640培地が含まれる。また、ハイブリドーマ細胞を動物において腹水腫瘍として、in vivoで成長させてもよい。
【0045】
サブクローンにより分泌されるモノクローナル抗体は、従来の免疫グロブリン精製手順、例えばプロテインAセファロース、ヒドロキシルアパタイトクロマトグラフィー、ゲル電気泳動、透析、又はアフィニティクロマトグラフィー等によって培養培地、腹水、又は血清から適切に分離することができる。
【0046】
モノクローナル抗体をコードするDNAは、従来の手順を用いて(例えば、マウス抗体の重鎖及び軽鎖をコードする遺伝子に特異的に結合することが可能なオリゴヌクレオチドプローブを用いて)容易に単離及び配列決定され得る。ハイブリドーマ細胞は、かかるDNAの好ましい供給源となる。DNAを単離した後、発現ベクターに入れ、それを次に宿主細胞(大腸菌細胞、サルCOS細胞、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、又は免疫グロブリンタンパク質を本来産生しない骨髄腫細胞等)にトランスフェクトすることにより、組換え宿主細胞におけるモノクローナル抗体の合成を達成することができる。抗体をコードするDNAの、細菌における組換え発現に関する総説としては、Skerra et al., Curr. Opinion in Immunol., 5: 256-262 (1993)及びPluckthun, Immunol. Revs., 130: 151-188 (1992)が挙げられる。
【0047】
DKK1に対して反応性を有する特異的抗体又は抗体断片を作り出す別の方法には、DKK1タンパク質又はペプチドによって細菌において発現される、免疫グロブリン遺伝子又はその一部分をコードする発現ライブラリをスクリーニングすることが含まれる。例えば、完全Fab断片、VH領域、及びFv領域を、細菌においてファージ発現ライブラリを用いて発現させることができる。例えば、Ward et al., Nature 341: 544-546 (1989)、Huse et al., Science 246: 1275-1281 (1989)、及びMcCafferty et al., Nature 348: 552-554 (1990)を参照されたい。かかるライブラリを例えばDKK1ペプチドを用いてスクリーニングすることにより、DKK1と反応する免疫グロブリン断片を同定することができる。代替的には、抗体又はその断片を生成するためにSCID−huマウス(Genpharmから入手可能)を使用することができる。
【0048】
さらなる実施形態においては、抗体又は抗体断片を、McCafferty et al., Nature, 348: 552-554 (1990)に記載されている技法を用いて作り出される抗体ファージライブラリから単離することができる。Clackson et al., Nature, 352: 624-628 (1991)及びMarks et al., J Mol Biol, 222: 581-597 (1991)はそれぞれ、ファージライブラリを用いたマウス抗体及びヒト抗体の単離について記載している。その後の刊行物には、鎖シャフリング(chain shuffling)による高親和性(nM範囲)ヒト抗体の生成(Marks et al., BioTechnology, 10: 779-783 (1992))、並びに非常に大きいファージライブラリを構築する戦略として、組合せ感染(combinatorial infection)及びin vivo組換え(Waterhouse et al., Nuc. Acids. Res., 21: 2265-2266 (1993))が記載されている。したがって、これらの技法は、モノクローナル抗体の単離のための、従来のモノクローナル抗体ハイブリドーマ技術に対する実行可能な代替手段である。
【0049】
また、例えば、コード配列を相同なマウス配列の代わりにヒト重鎖及び軽鎖定常ドメインで置換すること(米国特許第4,816,567号明細書、Morrison, et al., Proc. Natl Acad. Sci USA, 81: 6851 (1984))、又は非免疫グロブリンポリペプチドに関するコード配列の全部又は一部を、免疫グロブリンコード配列に共有結合させることによって、DNAを修飾してもよい。
【0050】
典型的には、かかる非免疫グロブリンポリペプチドで、抗体の定常ドメインを置換するか、又は抗体の一抗原結合部位の可変ドメインを置換することによって、第1の抗原に対して特異性を有する1つの抗原結合部位と、異なる抗原に対して特異性を有する別の抗原結合部位とを含むキメラ二価抗体を作製する。
【0051】
(iii)ヒト化抗体:
非ヒト抗体をヒト化する方法は、当該技術分野において記載されている。好ましくは、ヒト化抗体には、ヒト以外の供給源に由来する1つ又は複数のアミノ酸残基が導入されている。これらの非ヒトアミノ酸残基は、「移入(import)」残基と称されることが多く、典型的には「移入」可変ドメインから得られる。ヒト化は基本的に、Winter及び共同研究者らの方法(Jones et al., Nature, 321: 522-525 (1986)、Reichmann et al., Nature, 332: 323-327 (1988)、Verhoeyen et al., Science, 239: 1534-1536 (1988))に従って、超可変領域配列でヒト抗体の対応する配列を置換することによって行なうことができる。したがって、かかる「ヒト化」抗体は、無傷ヒト可変ドメインよりかなり小さな部分が、ヒト以外の種に由来する対応する配列で置換されたキメラ抗体(米国特許第4,816,567号明細書)である。実際には、ヒト化抗体は典型的に、幾つかの超可変領域残基、及び場合によっては幾つかのFR残基が、齧歯動物抗体中の類似部位に由来する残基で置換されているヒト抗体である。
【0052】
抗原性を低下させるためには、ヒト化抗体の作製に使用するヒト可変ドメイン(軽鎖及び重鎖の両方)の選択が非常に重要である。いわゆる「最良適合(best-fit)」法によれば、齧歯動物抗体の可変ドメインの配列を、既知のヒト可変ドメイン配列の全ライブラリに対してスクリーニングする。次に、齧歯動物の配列に最も近いヒト配列を、ヒト化抗体に関するヒトフレームワーク領域(FR)とする(Suns et al., J. Immunol., 151: 2296 (1993)、Chothia et al., J. Mol. Biol, 196: 901 (1987))。別の方法では、軽鎖又は重鎖の特定のサブグループの全てのヒト抗体の共通配列に由来する特定のフレームワーク領域を使用する。幾つかの異なるヒト化抗体に同じフレームワークを使用してもよい(Carter et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 89: 4285 (1992)、Presta et al., J. Immunol., 151: 2623 (1993))。
【0053】
ヒト化される抗体は、抗原に対する高い親和性、及び他の好適な生物学的特性を保持しているのが好ましい。この目標を達成するには、好ましい方法によれば、ヒト化抗体は、親配列及び様々な概念的ヒト化生成物を、親配列及びヒト化配列の三次元モデルを用いて分析するプロセスによって調製され得る。三次元免疫グロブリンモデルは一般に入手可能であり、当業者にはよく知られている。選択した候補免疫グロブリン配列の、考え得る三次元立体配座構造を図解及び表示するコンピュータープログラムが入手可能である。これらの表示を検査することにより、候補免疫グロブリン配列の機能における残基の可能性のある役割の分析、すなわち、候補免疫グロブリンのその抗原に結合する能力に影響を与える残基の分析が可能となる。このようにして、標的抗原に対する増大した親和性等の所望の抗体特徴が達成されるように、受容(recipient)配列及び移入配列からFR残基を選択し、組み合わせることができる。一般に、超可変領域残基は抗原結合の影響に直接的且つ最も実質的に関与する。
【0054】
(iv)ヒト抗体:
ヒト化の代替手段として、ヒト抗体を作り出すことができる。例えば、免疫化の際に内因性免疫グロブリンを産生することなく、ヒト抗体の完全なレパートリーを生産することが可能なトランスジェニック動物(例えばマウス)を作製することが可能である。例えば、キメラマウス及び生殖系列突然変異マウスにおける抗体重鎖結合域(JH)遺伝子のホモ接合体欠失は、内因性抗体産生の完全な阻害をもたらすことが記載されている。かかる生殖系列突然変異マウスへのヒト生殖系列免疫グロブリン遺伝子アレイの移入(transfer)は、抗原チャレンジの際にヒト抗体の産生を引き起こす。例えば、Jakobovits et al., Proc. Mad. Acad. Sci. USA, 90: 255 1 (1993)、Jakobovits et al., Nature, 362: 255-258 (1993)、Bruggermann et al., Year in Immuno., 7: 33 (1993)、並びに米国特許第5,591,669号明細書、同第5,589,369号明細書、及び同第5,545,807号明細書を参照されたい。
【0055】
代替的には、ファージディスプレイ法(McCafferty et al., Nature 348: 552-553 (1990))を使用して、非免疫化ドナーに由来する免疫グロブリン可変(V)ドメイン遺伝子レパートリーから、in vitroでヒト抗体及び抗体断片を生成することができる。この技法によれば、抗体Vドメイン遺伝子は、M13又はfd等の糸状バクテリオファージの主要又は微量コートタンパク質遺伝子のいずれかにインフレームでクローニングされ、ファージ粒子の表面上に機能的抗体断片として提示される。糸状粒子はファージゲノムの一本鎖DNAコピーを含有するため、抗体の機能的特性に基づく選択は、これらの特性を示す抗体をコードする遺伝子の選択ももたらす。したがって、ファージはB細胞の特性の幾つかを模倣する。ファージディスプレイは多様な形式で行なうことができるが、それらの概説については、例えば、Johnson, Kevin S. and Chiswell, David J., Current Opinion in Structural Biology 3: 564-57 1 (1993)を参照されたい。V遺伝子セグメントの幾つかの供給源をファージディスプレイに使用することができる。
【0056】
Clackson et al., Nature, 352: 624-628 (1991)は、免疫化したマウスの脾臓に由来するV遺伝子の小ランダムコンビナトリアルライブラリから抗オキサゾロン抗体の種々のアレイを単離した。Marks et al., J. Mol. Biol, 222: 581-597 (1991)、又はGriffith et al., EMBO J. 12: 725-734 (1993)によって記載される技法に基本的に従って、非免疫化ヒトドナー由来のV遺伝子のレパートリーを構築し、抗原(自己抗原を含む)の種々のアレイに対する抗体を単離することができる。また、米国特許第5,565,332号明細書及び同第5,573,905号明細書を参照されたい。
【0057】
ヒト抗体はまた、in vitro活性化B細胞によって作り出してもよい(米国特許第20 5,567,610号明細書及び同第5,229,275号明細書を参照)。SCIDマウスを用いてヒト抗体を作り出す好ましい手段は、共願の(commonly-owned)同時係属中の出願に開示されている。
【0058】
(v)抗体断片:
機能的抗体断片の生成について、様々な技法が開発されている。本発明に関しては、抗体断片は抗体の可変領域又は抗原結合領域を含み得る。伝統的には、これらの断片は、無傷抗体のタンパク分解によって誘導されていた(例えば、Morimoto et al., Journal of Biochemical and Biophysical Methods 24: 107-117 (1992)及びBrennan et al., Science, 229: 81 (1985)を参照されたい)。しかしながら、現在では、これらの断片は組換え宿主細胞によって直接生成することができる。例えば、上述の抗体ファージライブラリから抗体断片を単離することができる。代替的には、Fab'−SH断片を大腸菌から直接回収し、化学的カップリングを行なってF(ab’)2断片を形成することもできる(Carter et al., Bio/Technology 10: 163-167 (1992))。別のアプローチによれば、F(ab’)2断片を組換え宿主細胞培養物から直接単離することができる。抗体断片を生成するための他の技法は、当業者には明らかである。他の実施形態において、好適な抗体は一本鎖Fv断片(scFv)である。国際公開第93/16185号パンフレット、米国特許第5,571,894号明細書、及び米国特許第5,587,458号明細書を参照されたい。抗体断片はまた、例えば米国特許第5,641,870号明細書に記載されるような「線状抗体」であってもよい。かかる線状抗体断片は単一特異的であっても、又は二重特異的であってもよい。
【0059】
(vi)二重特異性抗体:
二重特異性抗体とは、少なくとも2つの異なるエピトープに対する結合特異性を有する抗体である。例えば、抗癌細胞マーカー(例えばDKK1)結合アームを、白血球上の引き金分子、例えばT細胞受容体分子(例えばCD2又はCD3)、又はFcyRI(CD64)、FcyRII(CD32)、及びFcyRIH(CD16)等のIgGに対するFc受容体(FcyR)と結合するアームと組み合わせて、癌細胞に対する細胞防御機構に焦点を合わせることができる。二重特異性抗体はまた、細胞毒性物質を癌細胞に局在させるために使用してもよい。これらの抗体は、癌細胞マーカー結合アーム、及び細胞毒性物質(例えばサポリン、抗インターフェロンα、ビンカアルカロイド、リシンA鎖、メトトレキサート、又は放射性同位体ハプテン)に結合するアームを有する。二重特異性抗体は完全長抗体又は抗体断片(例えばF(ab’)2二重特異性抗体)として調製することができる。
【0060】
二重特異性抗体を作製する方法は、当該技術分野で既知である。完全長二重特異性抗体の従来の生成は、2つの免疫グロブリン重鎖−軽鎖対の同時発現(ここで、2つの鎖は異なる特異性を有する)に基づく(Millstein et al., Nature, 305: 537-539 (1983))。免疫グロブリン重鎖及び軽鎖の無作為な組み合わせにより、これらのハイブリドーマ(クアドローマ)は10個の異なる抗体分子の可能な混合物を生成するが、このうち正確な二重特異性構造を有するのは1つのみである。通常アフィニティクロマトグラフィー工程により行われる正確な分子の精製はむしろ煩雑であり、生成物収率は低い。同様の手順が国際公開第93/08829号パンフレット、及びTraunecker et al., EMBO J, 10: 3655-3659 (1991)に開示されている。
【0061】
異なるアプローチによれば、所望の結合特異性(抗体−抗原結合部位)を有する抗体可変ドメインを、免疫グロブリン定常ドメイン配列に融合させる。融合は好ましくはヒンジ領域、CH2領域、及びCH3領域の少なくとも一部を含む免疫グロブリン重鎖定常ドメインを用いたものである。軽鎖結合に必要な部位を含有する第1の重鎖定常領域(CH1)が、その融合物の少なくとも1つに存在することが好ましい。免疫グロブリン重鎖融合物をコードするDNA、及び所望であれば免疫グロブリン軽鎖をコードするDNAを、別個の発現ベクターに挿入し、適切な宿主生物に同時トランスフェクトする。これによって、不均一な比率で3つのポリペプチド鎖を構築に使用する場合に最適な収率が得られる実施形態において、3つのポリペプチド断片の相互の割合を調節する際に相当な柔軟性が提供される。しかしながら、少なくとも2つのポリペプチド鎖が等しい比率で発現すると高い収率が得られる場合、又は比率が特に重要でない場合には、2つ又は3つ全てのポリペプチド鎖に対するコード配列を1つの発現ベクターに挿入することも可能である。
【0062】
このアプローチの好ましい実施形態においては、二重特異性抗体は第1の結合特異性を有する一方のアーム中のハイブリッド免疫グロブリン重鎖、及び他方のアーム中のハイブリッド免疫グロブリン重鎖−軽鎖対(第2の結合特異性を提供する)から成る。この非対称構造は、所望の二重特異性化合物の、不要な免疫グロブリン鎖の組み合わせからの分離を容易にすることが見出された。これは免疫グロブリン軽鎖がその二重特異性分子の半分にのみ存在することで、分離が容易になるためである。このアプローチは、国際公開第94/04690号パンフレットに開示されている。二重特異性抗体の作出に関するさらなる詳細については、例えばSuresh et al., Methods in Enzymology, 121: 210 (1986)を参照されたい。
【0063】
米国特許第5,731,168号明細書に記載される別のアプローチによれば、抗体分子対の間の境界面を操作して、組換え細胞培養物から回収されるヘテロ二量体の割合を最大にすることができる。好ましい境界面は、抗体定常ドメインのCH3ドメインの少なくとも一部を含む。この方法においては、第1の抗体分子の境界面の1つ又は複数の小さいアミノ酸側鎖を、より大きい側鎖(例えばチロシン又はトリプトファン)と置き換える。この大きい側鎖と同一又は同様のサイズを有する代償の「穴」を、大きいアミノ酸側鎖をより小さい側鎖(例えばアラニン又はスレオニン)と置き換えることにより、第2の抗体分子の境界面に作製する。これにより、ホモ二量体等の他の不要な最終生成物と比べてヘテロ二量体の収率を上げる機構が提供される。
【0064】
二重特異性抗体には、架橋抗体又は「ヘテロ共役」抗体も含まれる。例えば、ヘテロ複合体中の抗体の一方をアビジンにカップリングし、他方をビオチンにカップリングすることができる。かかる抗体は、例えば、不要な細胞に対する免疫系細胞を標的とするため(米国特許第4,676,980号明細書)、及びHIV感染の治療のため(国際公開第91/00360号パンフレット、国際公開第92/200373号パンフレット、及び欧州特許第03089号明細書)に提案されている。ヘテロ複合抗体は、任意の簡便な架橋方法を用いて作製することができる。適切な架橋剤は当該技術分野でよく知られており、いくつかの架橋法と共に米国特許第4,676,980号明細書に開示されている。
【0065】
二重特異性抗体を抗体断片から作り出す技法も文献に記載されている。例えば、二重特異性抗体は化学結合を用いて調製することができる。Brennan et al., Science, 229: 81 (1985)は、無傷抗体をタンパク質分解的に切断して、F(ab’)2断片を作り出す手順を記述している。これらの断片は、隣接ジチオールを安定化させ、分子内ジスルフィド形成を防止するために、ジチオール錯化剤の亜ヒ酸ナトリウムの存在下で還元される。次に、作出したFab’断片をチオニトロベンゾエート(TNB)誘導体に変換する。次に、そのFab'−TNB誘導体の一つを、メルカプトエチルアミンを用いた還元によってFab'−チオールに再変換し、等モル量の他のFab'−TNB誘導体と混合することによって二重特異性抗体を形成する。生成した二重特異性抗体は、酵素を選択的に固定化するための薬剤として使用することができる。
【0066】
最近の進歩により、大腸菌からのFab'−SH断片の直接回収が容易になったが、このFab'−SH断片を化学的にカップリングして二重特異性抗体を形成することができる。Shalaby et al., J. Exp. Med., 175: 217-225 (1992)は、完全にヒト化した二重特異性抗体F(ab’)2分子の生成について記載している。各Fab’断片を大腸菌から別個に分泌させ、in vitroにおいて指向性(directed)化学的カップリングを行なうことにより二重特異性抗体を形成した。
【0067】
組換え細胞培養物から直接的に二重特異性抗体断片を作製及び単離する様々な技法も記載されている。例えば、二重特異性抗体はロイシンジッパーを用いて生産されている(Kostelny et al., J Immunol. 148 (5): 1547-1553 (1992))。Fosタンパク質及びJunタンパク質に由来するロイシンジッパーペプチドを、遺伝子融合によって2つの異なる抗体のFab’部分に結合した。この抗体ホモ二量体をヒンジ領域で還元してモノマーを形成した後、再酸化によって抗体ヘテロ二量体を形成した。この方法は、抗体ホモ二量体の生成にも利用することができる。Hollinger et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90: 6444-6448 (1993)に記載される「ダイアボディ(diabody)」技術は、二重特異性抗体断片を作製する代替的機構を提供している。該断片は、リンカーによって軽鎖可変ドメイン(VL)に連結した重鎖可変ドメイン(VH)を含むが、このリンカーは、この2つのドメインが同じ鎖上で対合することができないほど短い。したがって、或る断片のVHドメイン及びVLドメインは、別の断片の相補的VLドメイン及びVHドメインと対合することを余儀なくされ、それにより2つの抗原結合部位が形成される。一本鎖Fv(sFv)二量体を使用して二重特異性抗体断片を作製する別の戦略も報告されている。Gruber et al., J; Immunol., 152: 5368 (1994)を参照されたい。
【0068】
3以上の原子価を有する抗体についても考慮されている。例えば、三重特異的抗体を調製することができる(Tutt et al., J Immunol. 147: 60 (1991))。
【0069】
(vii)非抗体結合タンパク質:
「非抗体結合タンパク質」又は「非抗体リガンド」又は「抗原結合タンパク質」という用語は下記でより詳細に論じられる、アドネクチン、アビマー、一本鎖ポリペプチド結合分子、及び抗体様結合ペプチド模倣体を含む非免疫グロブリンタンパク質骨格を使用する抗体模倣体を互換可能に指す。
【0070】
抗体と同様に標的化し、標的に結合する他の化合物も開発されている。これらの「抗体模倣体」の一部は、非免疫グロブリンタンパク質骨格をタンパク質フレームワークの代替として抗体の可変領域に使用する。
【0071】
例えば、Ladner et al.(米国特許第5,260,203号明細書)には、凝集しているが分子的には分離した、抗体の軽鎖可変領域及び重鎖可変領域と同様の結合特異性を有する一本鎖ポリペプチド結合分子が記載されている。該一本鎖結合分子は、ペプチドリンカーにより連結した抗体の重鎖可変領域及び軽鎖可変領域の両方の抗原結合部位を含有し、2つのペプチド抗体と同様の構造に折り畳まれる。一本鎖結合分子は、サイズがより小さい、安定性がより大きい、及びより容易に修飾される等、従来の抗体に優る幾つかの利点を示す。
【0072】
Ku et al.(Proc Natl Acad Sci USA 92(14): 6552-6556 (1995))は、シトクロムb562に基づく、抗体の代替手段を記載している。Ku et al. (1995)は、シトクロムb562のループの2つを無作為化し、ウシ血清アルブミンに対する結合に関して選択したライブラリを作り出した。個々の突然変異体は、抗BSA抗体と同様に選択的にBSAに結合することが見出された。
【0073】
Lipovsek et al.(米国特許第6,818,418号明細書及び同第7,115,396号明細書)は、フィブロネクチン又はフィブロネクチン様タンパク質骨格、及び少なくとも1つの可変ループを特徴とする抗体模倣体を記載している。アドネクチンとして知られるこれらのフィブロネクチンベースの抗体模倣体は、任意の標的リガンドに関する高い親和性及び特異性を含む、自然抗体又は改変抗体と同じ特徴の多くを示す。新たな又は改善された結合タンパク質を発展させる任意の技法を、これらの抗体模倣体と共に使用することができる。
【0074】
これらのフィブロネクチンベースの抗体模倣体の構造は、IgG重鎖の可変領域の構造と同様である。したがって、これらの模倣体は、天然抗体と本質的に同様の抗原結合特性及び親和性を示す。さらに、これらのフィブロネクチンベースの抗体模倣体は、抗体及び抗体断片に優る或る特定の利点を示す。例えば、これらの抗体模倣体は固有の折り畳み安定性に関してジスルフィド結合に依存せず、したがって、通常は抗体を分解する可能性のある条件下で安定である。また、これらのフィブロネクチンベースの抗体模倣体の構造は、IgG重鎖の構造と同様であるため、ループの無作為化及びシャフリングのプロセスは、抗体のin vivo親和性成熟のプロセスと同様、in vitroで採用することができる。
【0075】
Beste et al.(Proc Natl Acad Sci USA 96(5): 1898-1903 (1999))は、リポカリン骨格(Anticalin(登録商標))に基づく抗体模倣体を記載している。リポカリンは、タンパク質末端に4つの超可変ループを有するβバレルから成る。Beste(1999)は、該ループにランダム突然変異誘発を行ない、例えばフルオレセインとの結合に関して選択した。3つの変異体がフルオレセインと特異的な結合を示し、うち1つの変異体が抗フルオレセイン抗体と同様の結合を示した。さらなる分析によって、無作為化位置が全て可変であることが明らかとなったが、これはAnticalin(登録商標)が抗体の代替手段としての使用に適切であり得ることを意味する。
【0076】
Anticalin(登録商標)は、典型的には160残基〜180残基の小さな一本鎖ペプチドであり、生産コストの減少、貯蔵安定性の増大、及び免疫反応の減少を含む、抗体に優る幾つかの利点を提供する。
【0077】
Hamilton et al.(米国特許第5,770,380号明細書)は、結合部位として使用される複数の可変ペプチドループが付着した、カリックスアレーンの強固な非ペプチド有機骨格を使用した合成抗体模倣体を記載している。ペプチドループは全て、互いにカリックスアレーンの幾何学的に同じ側から突出する。この幾何学的構造のために、全てのループが結合に利用可能であり、リガンドに対する結合親和性が増加する。しかしながら、他の抗体模倣体と比較して、カリックスアレーンベースの抗体模倣体はペプチドのみから成るものではなく、したがってプロテアーゼ酵素による攻撃を受けにくい。上記骨格も純粋にペプチド、DNA、又はRNAから成るものではなく、これはこの抗体模倣体が厳しい環境条件において比較的安定であり、寿命が長いことを意味する。さらに、カリックスアレーンベースの抗体模倣体は比較的小さいため、免疫原性反応をもたらす可能性は低い。
【0078】
Murali et al.(Cell Mol Biol. 49(2): 209-216 (2003))は、抗体をより小さいペプチド模倣体にする方法論を記載している。該ペプチド模倣体は「抗体様結合ペプチド模倣体」(ABiP)と称され、これも抗体に対する代替手段として有用であり得る。
【0079】
Silverman et al.(Nat Biotechnol. (2005), 23: 1556-1561)は、「アビマー」と称される複数のドメインを含む一本鎖ポリペプチドである融合タンパク質を記載している。アビマーは、ヒト細胞外受容体ドメインからin vitroエキソンシャフリング及びファージディスプレイにより開発されたため、様々な標的分子に対する親和性及び特異性において抗体と幾らか類似した結合タンパク質群である。得られたマルチドメインタンパク質は、単一エピトープ結合タンパク質と比較して改善された親和性(場合によってはnM以下の)及び特異性を示し得る、複数の独立した結合ドメインを含み得る。アビマーを構築及び使用する方法に関するさらなる詳細は、例えば米国特許出願公開第20040175756号明細書、同第20050048512号明細書、同第20050053973号明細書、同第20050089932号明細書、及び同第20050221384号明細書に開示されている。
【0080】
非免疫グロブリンタンパク質フレームワークに加えて、抗体特性はまた、いずれも本発明による使用に適切である、RNA分子及び非天然オリゴマー(例えばプロテアーゼ阻害剤、ベンゾジアゼピン、プリン誘導体、及びβターン模倣体)を含むがこれらに限定されない化合物において模倣されてきた。
【0081】
当該技術分野において知られるように、アプタマーは、特異的な分子標的に強く結合する核酸から成る巨大分子である。Tuerk and Gold(Science. 249: 505-510 (1990))は、アプタマーの選択に関するSELEX法(試験管内進化法(Systematic Evolution of Ligands by Exponential Enrichment))を開示している。SELEX法では、標的分子を用いて核酸分子の大きなライブラリ(例えば、1015個の異なる分子)を生成及び/又はスクリーニングする。単離したアプタマーを次にさらに精製して、標的の結合及び/又はアプタマー構造に寄与しない任意のヌクレオチド(すなわち、コア結合ドメインを欠くアプタマー)を取り除いてもよい。アプタマー技術の概説に関しては、例えばJayasena, 1999, Clin. Chem. 45: 1628-1650を参照されたい。
【0082】
試験薬剤ライブラリの構築は当該技術分野においてよく知られているが、以下に、本スクリーニング方法のための試験薬剤の同定及びかかる薬剤のライブラリの構築に関するさらなる指針を与える。
【0083】
DKK1活性を中和する抗体
本発明の抗DKK1抗体に関する「中和」という用語、又は「DKK1活性を中和する抗体」という表現は、DKK1と結合又は接触することによって、DKK1により誘導される細胞増殖活性、癌の転移、癌細胞の浸潤、又は癌細胞の移動を阻害する抗体を指すように意図される。DKK1は細胞外に分泌され、癌細胞の増殖、移動、浸潤、及び転移に不可欠な因子として機能するため、幾つかの抗DKK1抗体はこれらの活性を中和し得る。本発明における中和抗体は、難病の癌、及び癌転移の予防又は治療のような治療用途に特に有用である。本発明における中和抗体は、DKK1の過剰発現及び上方制御のいずれか又は両方を特徴とする癌の転移を阻害するために、患者に投与しても、又は細胞と接触させてもよい。
【0084】
抗体複合体及び他の変更形態
本明細書における方法に使用される抗体、又は製造物に含まれる抗体は、任意で細胞毒性物質又は治療剤と共役される。
【0085】
本明細書における治療剤は、癌の治療に有用な化学物質(chemical compound)である化学療法剤に含まれる。化学療法剤の例としては、以下の薬剤及びそれらの薬学的に許容可能な塩、酸、及び誘導体が挙げられるが、これらに限定されない:チオテパ及びシクロホスファミド等のアルキル化剤;ブスルファン、インプロスルファン、及びピポスルファン等のスルホン酸アルキル;ベンゾドーパ(benzodopa)、カルボコン、メツレドーパ(meturedopa)、及びウレドーパ(uredopa)等のアジリジン;アルトレタミン、トリエチレンメラミン、トリエチレンホスホラミド、トリエチレンチオホスホラミド、及びトリメチロールメラミンを含むエチレンイミン及びメチルメラミン;クロラムブシル、クロルナファジン、クロロホスファミド、エストラムスチン、イホスファミド、メクロレタミン、メクロレタミンオキシド塩酸塩、メルファラン、ノブエンビキン、フェネステリン(phenesterine)、プレドニムスチン、トロホスファミド、ウラシルマスタード等のナイトロジェンマスタード;カルムスチン、クロロゾトシン、ホテムスチン、ロムスチン、ニムスチン、ラニムスチン等のニトロソウレア;アクラシノマイシン、アクチノマイシン、アントラマイシン、アザセリン、ブレオマイシン、カクチノマイシン、カリチアマイシン、カルビシン、カルミノマイシン、カルチノフィリン、クロモマイシン、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、デトルビシン、6−ジアゾ−5−オキソ−L−ノルロイシン、ドキソルビシン、エピルビシン、エソルビシン、イダルビシン、マルセロマイシン、マイトマイシン、ミコフェノール酸、ノガラマイシン、オリボマイシン、ペプロマイシン、ポルフィロマイシン、ピューロマイシン、ケラマイシン(quelamycin)、ロドルビシン、ストレプトニグリン、ストレプトゾシン、ツベルシジン、ウベニメクス、ジノスタチン、ゾルビシン等の抗生物質;メトトレキサート及び5−フルオロウラシル(5−FU)等の代謝拮抗物質;デノプテリン、メトトレキサート、プテロプテリン(pteropterin)、トリメトレキサート等の葉酸類似体;フルダラビン、6−メルカプトプリン、チアミプリン(thiamiprine)、チオグアニン等のプリン類似体;アンシタビン、アザシチジン、6−アザウリジン、カルモフール、シタラビン、ジデオキシウリジン、ドキシフルリジン、エノシタビン、フロクスウリジン、5−FU等のピリミジン類似体;カルステロン、プロピオン酸ドロモスタノロン、エピチオスタノール、メピチオスタン、テストラクトン等のアンドロゲン;アミノグルテチミド、ミトタン、トリロスタン等の抗アドレナリン剤(anti-adrenal);フロリン酸等の葉酸補充薬;アセグラトン;アルドホスファミド配糖体;アミノレブリン酸;アムサクリン;ベストラブシル;ビサントレン;エダトレキセート;デフォファミン(defofamine);デメコルチン;ジアジコン;エフロールニチン;酢酸エリプチニウム;エトグルシド;硝酸ガリウム;ヒドロキシ尿素;レンチナン;ロニダミン;ミトグアゾン;ミトキサントロン;モピダモール;ニトラクリン;ペントスタチン;フェナメット;ピラルビシン;ポドフィリン酸;2−エチルヒドラジド;プロカルバジン;PSK@ラゾキサン;シゾフィラン;スピロゲルマニウム;テヌアゾン酸;トリアジコン;2,2’,2’’−トリクロロトリエチルアミン;ウレタン;ビンデシン;ダカルバジン;マンノムスチン;ミトブロニトール;ミトラクトール;ピポブロマン;ガシトシン(gacytosine);アラビノシド(「Ara−C」);シクロホスファミド;チオテパ;タキソイド、例えばパクリタキセル(TAXOLO,Bristol-Myers Squibb Oncology,Princeton,NJ)及びドセタキセル(TAXOTEW,Rh6ne-Poulenc Rorer,Antony,France);クロラムブシル;ゲムシタビン;6−チオグアニン;メルカプトプリン;メトトレキサート;シスプラチン及びカルボプラチン等の白金類似体;ビンブラスチン;白金;エトポシド(VP−16);イホスファミド;マイトマイシンC;ミトキサントロン;ビンクリスチン;ビノレルビン;ナベルビン;ノバントロン;テニポシド;ダウノマイシン;アミノプテリン;ゼローダ;イバンドロネート;CPT−11;トポイソメラーゼ阻害剤RFS 2000;ジフルオロメチルオルニチン(DMFO);レチノイン酸;エスペラミシン;並びにカペシタビン。また、この定義には、腫瘍に対するホルモン作用を調節又は阻害するように働く抗ホルモン剤、例えばタモキシフェン、ラロキシフェン、アロマターゼ阻害4(5)−イミダゾール、4−ヒドロキシタモキシフェン、トリオキシフェン、ケオキシフェン、オナプリストン、及びトレミフェン(Fareston)等の抗エストロゲン;並びにフルタミド、ニルタミド、ビカルタミド、リュープロリド、及びゴセレリン等の抗アンドロゲン;並びに上記のいずれかの薬学的に許容可能な塩、酸、又は誘導体が含まれる。
【0086】
抗体と1つ又は複数の小さな毒素分子(カリチアマイシン、マイタンシン(米国特許第5,208,020号明細書)、トリコテシン、及びCC 1065等)との複合体も本明細書において考慮されている。本発明の好ましい一実施形態では、抗体は1つ又は複数のマイタンシン分子(例えば抗体1分子当たり約1個〜約10個のマイタンシン分子)と共役させる。マイタンシンを、例えばMay−SH3へと還元され得るMay SS−Meに変換し、修飾抗体(Chari et al. Cancer Research 52: 127-131 (1992))と反応させて、マイタンシノイド−抗体複合体を作出してもよい。
【0087】
代替的には、抗体は1つ又は複数のカリケアマイシン分子と共役させてもよい。抗生物質のカリケアマイシン群は、pM以下の濃度で二本鎖DNA切断をもたらすことが可能である。使用され得るカリケアマイシンの構造類似体としてはγ、α、α、N−アセチル−γ、PSAG、及びθが挙げられるが、これらに限定されない(Hinman et al. Cancer Research 53: 3336-3342 (1993)及びLode et al, Cancer Research 58: 2925-2928 (1998))。
【0088】
使用することのできる酵素的に活性な毒素及びその断片としては、ジフテリアA鎖、ジフテリア毒素の結合活性のない断片、外毒素A鎖(緑膿菌に由来する)、リシンA鎖、アブリンA鎖、モデシンA鎖、αサルシン、シナアブラギリ(Aleurites fordii)タンパク質、ジアンチンタンパク質、ヨウシュヤマゴボウタンパク質(PAPI、PAPII、及びPAP−S)、ニガウリ(momordica charantia)阻害剤、クルシン、クロチン、サボンソウ阻害剤、ゲロニン、ミトゲリン(mitogellin)、レストリクトシン、フェノマイシン、ネオマイシン、及びトリコテセン。例えば、1993年10月28日付で公開された国際公開第93/21232号パンフレットを参照されたい。
【0089】
本発明は、多様な放射性同位体と共役させた抗体をさらに考慮する。例としては、211At、131I、125I、90Y、186Re、188Re、153Sm、212Bi、32P、及びLuの放射性同位体が挙げられる。
【0090】
抗体と細胞毒性物質との複合体は、多様な二官能性タンパク質カップリング剤、例えばN−スクシンイミジル−3−(2−ピリジルジチオ)プロピオネート(SPDP)、スクシンイミジル−4−(N−マレイミドメチル)シクロヘキサン−1−カルボキシレート、イミノチオラン(IT)、イミドエステルの二官能性誘導体(アジプイミド酸ジメチル塩酸塩(dimethyl adipimidate HCL)等)、活性エステル(スベリン酸ジスクシンイミジル等)、アルデヒド(グルタルアルデヒド等)、ビスアジド化合物(ビス(p−アジドベンゾイル)ヘキサンジアミン等)、ビスジアゾニウム誘導体(ビス(p−ジアゾニウムベンゾイル)エチレンジアミン等)、ジイソシアネート(トルエン2,6−ジイソシアネート等)、及びビス−活性フッ素化合物(1,5−ジフルオロ−2,4−ジニトロベンゼン等)を用いて作製され得る。例えば、リシン免疫毒素は、Vitetta et al. Science 238: 1098 (1987)に記載されるように調製することができる。炭素14標識1−イソチオシアナートベンジル−3−メチルジエチレントリアミン五酢酸(MX−DTPA)は、放射性核種を抗体に共役させるための例示的なキレート剤である。国際公開第94/11026号パンフレットを参照されたい。リンカーは、細胞における細胞毒性薬の放出を促す「開裂可能なリンカー」であってもよい。例えば、酸に不安定なリンカー、ペプチダーゼ感受性のリンカー、ジメチルリンカー、又はジスルフィド含有リンカー(Charm et al. Cancer Research 52: 127-131 (1992))が使用され得る。
【0091】
代替的には、抗体及び細胞毒性物質を含有する融合タンパク質を、例えば組換え技法又はペプチド合成により作製してもよい。
【0092】
さらに別の実施形態では、抗体を腫瘍プレターゲティング(pretargeting)に利用するために「受容体」(ストレプトアビジン等)と共役させてもよいが、その場合、抗体−受容体複合体を患者に投与した後、非結合複合体を循環系から除去剤(clearing agent)を用いて除去し、次に細胞毒性物質(例えば放射性核種)と共役させた「リガンド」(例えばアビジン)を投与する。
【0093】
本発明の抗体はまた、プロドラッグ(例えばペプチジル化学療法剤、国際公開第81/01145号パンフレットを参照)を活性抗癌薬に変換するプロドラッグ活性化酵素と共役させてもよい。例えば、国際公開第88/07378号パンフレット及び米国特許第4,975,278号明細書を参照されたい。
【0094】
かかる複合体の酵素成分には、プロドラッグをより活性な細胞毒性型に変換するようにプロドラッグに作用することが可能な任意の酵素が含まれる。
【0095】
本発明の方法において有用な酵素の例としては、リン酸塩を含有するプロドラッグを遊離薬物に変換するのに有用なアルカリフォスファターゼ;硫酸塩を含有するプロドラッグを遊離薬物に変換するのに有用なアリールスルファターゼ;非毒性5−フルオロシトシンを抗癌薬(フルオロウラシル)に変換するのに有用なシトシンデアミナーゼ;ペプチドを含有するプロドラッグを遊離薬物に変換するのに有用なプロテアーゼ、例えばセラチア菌(serratia)プロテアーゼ、サーモリシン、サブチリシン、カルボキシペプチダーゼ、並びにカテプシン(カテプシンB及びカテプシンL等);D−アミノ酸置換基を含有するプロドラッグを変換するのに有用なD−アラニルカルボキシペプチダーゼ;グリコシル化プロドラッグを遊離薬物に変換するのに有用な炭水化物分解酵素、例えば13−ガラクトシダーゼ及びノイラミニダーゼ;13−ラクタムで誘導体化された薬物を遊離薬物に変換するのに有用な13−ラクタマーゼ;並びにアミン窒素がフェノキシアセチル基又はフェニルアセチル基で誘導体化された薬物を、遊離薬物に変換するのに有用なペニシリンアミダーゼ、例えばそれぞれペニシリンVアミダーゼ又はペニシリンGアミダーゼが挙げられるが、これらに限定されない。代替的には、当該技術分野において「抗体酵素」としても知られる、酵素活性を有する抗体を、本発明のプロドラッグを遊離活性薬物に変換するために使用することができる(例えばMassey, Nature 328: 457-458 (1987)を参照)。抗体−抗体酵素複合体は、抗体酵素を腫瘍細胞集団に送達するために、本明細書中に記載されるように調製することができる。
【0096】
本発明の酵素は、上述のヘテロ二官能性架橋試薬の使用等、当該技術分野で既知の技法により抗体に共有結合させることができる。代替的には、少なくとも本発明の酵素の機能的に活性な一部分に結合した、少なくとも本発明の抗体の抗原結合領域を含有する融合タンパク質は、当該技術分野で既知の組換えDNA技法を用いて構築することができる(例えば、Neuberger et al., Nature, 312: 604-608 (1984)を参照)。
【0097】
他の抗体修飾も本明細書において考慮されている。例えば、抗体は、多様な非タンパク性重合体、例えばポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリオキシアルキレン、又はポリエチレングリコールとポリプロピレングリコールとの共重合体の1つに結合し得る。
【0098】
本明細書中に開示される抗体はまた、リポソームとして作製してもよい。抗体を含有するリポソームは、Epstein et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 82: 3688 (1985)、Hwang et al., Proc. Natl Acad. Sci. USA, 77: 4030 (1980)、米国特許第4,485,045号明細書及び同第4,544,545号明細書、並びに1997年10月23日付で公開された国際公開第97/38731号パンフレットに記載されるような当該技術分野で既知の方法によって調製される。循環時間が増大したリポソームは、米国特許第5,013,556号明細書に開示されている。
【0099】
特に有用なリポソームは、ホスファチジルコリン、コレステロール、及びホスファチジルエタノールアミンで誘導体化されたPEG(PEG−PE)を含む脂質組成物を用いた逆相蒸発法により作り出すことができる。リポソームを規定の孔径のフィルタから押し出し、所望の直径を有するリポソームを生じさせる。本発明の抗体のFab’断片は、Martin et al., J Biol. Chem. 257: 286-288 (1982)に記載されるように、ジスルフィド交換反応によりリポソームと共役させることができる。化学療法剤は、リポソーム中に任意で含有される。Gabizon et al. National Cancer Inst. 81 (19) 1484 (1989)を参照されたい。
【0100】
本明細書中に記載される抗体のアミノ酸配列修飾も考慮されている。例えば、抗体の結合親和性及び/又は他の生物学的特性を改善するのが望ましい場合もある。抗体のアミノ酸配列変異体は、抗体をコードする核酸に適当なヌクレオチド変化を導入すること、又はペプチド合成により調製される。かかる修飾は、例えば、抗体のアミノ酸配列における残基の欠失及び/又は挿入及び/又は置換を含む。最終的な構築物が所望の特徴を有する限り、最終的な構築物を達成するために欠失、挿入、及び置換の任意の組み合わせが作られる。アミノ酸変化はまた、グリコシル化部位の数又は位置の変化等のように、抗体の翻訳後過程を変更し得る。
【0101】
突然変異誘発に好ましい配置にある、抗体の或る特定の残基又は領域を同定するのに有用な方法は、Cunningham and Wells Science, 244: 1081-1085 (1989)により記載されるように「アラニン走査突然変異誘発」と呼ばれる。ここでは、アミノ酸と抗原との相互作用に影響を与えるために、残基又は標的残基群(例えばアルギニン、アスパラギン酸、ヒスチジン、リシン、及びグルタミン酸等の荷電残基)を同定し、中性アミノ酸又は負に荷電したアミノ酸(最も好ましくはアラニン又はポリアラニン)で置き換える。置換に対する機能感受性を示すこれらのアミノ酸配置を次に、さらなる又は他の変異体を置換部位に(at, or for)導入することにより高める。したがって、アミノ酸配列変異を導入するための部位は予め定められているが、突然変異自体の本質は予め定められている必要はない。例えば、所与の部位での突然変異の効率(performance)を分析するために、アラニン走査突然変異誘発又はランダム突然変異誘発を標的のコドン又は領域で行ない、発現された抗体変異体を所望の活性についてスクリーニングする。
【0102】
アミノ酸配列挿入は、1つの残基から100個以上の残基を含有するポリペプチドにわたる長さのアミノ末端融合及び/又はカルボキシル末端融合、並びに単一又は複数のアミノ酸残基の配列内挿入(intrasequence insertion)を含む。末端挿入の例としては、N末端メチオニル残基を有する抗体、又は細胞毒性ポリペプチドと融合させた抗体が挙げられる。抗体分子の他の挿入変異体は、抗体のN末端又はC末端への酵素の融合、又は抗体の血清中半減期を延長させるポリペプチドの融合を含む。
【0103】
別のタイプの変異体はアミノ酸置換変異体である。これらの変異体は、抗体分子中に異なる残基で置換された少なくとも1つのアミノ酸残基を有する。抗体の置換突然変異誘発として最も興味深い部位は超可変領域を含むが、FR変化もまた考慮されている。
【0104】
抗体の生物学的特性における実質的な変更は、(a)例えばシート立体配座又はらせん立体配座といった置換領域におけるポリペプチド骨格の構造、(b)標的部位での分子の電荷又は疎水性、又は(c)側鎖のかさ高さの維持に対する効果において有意に異なる置換を選択することによって達成される。
【0105】
天然残基は、共通の側鎖特性に基づいて以下の群に分けられる:
(1)疎水性:ノルロイシン、メチオニン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、
(2)中性親水性:システイン、セリン、スレオニン、
(3)酸性:アスパラギン酸、グルタミン酸、
(4)塩基性:アスパラギン、グルタミン、ヒスチジン、リシン、アルギニン、
(5)鎖配向に影響を与える残基:グリシン、プロリン、及び
(6)芳香族:トリプトファン、チロシン、フェニルアラニン。
【0106】
非保存的置換は、これらのクラスの1つの成員を別のクラスと交換することを伴う。
【0107】
また、抗体の適切な立体配座の維持に関与しない任意のシステイン残基は、分子の酸化安定性を改善し、異常な架橋を妨げるために、通常セリンで置換され得る。逆に、システイン結合を抗体の安定性を改善するために抗体に付加させてもよい(特に抗体がFv断片等の断片である場合)。
【0108】
特に好ましいタイプの置換変異体は、親抗体の1つ又は複数の超可変領域残基(例えばヒト化抗体又はヒト抗体)の置換を伴う。通常、さらなる開発のために選択される得られた変異体は、抗体を生じた親抗体に対して生物学的特性が改善されている。かかる置換変異体を作り出す簡便な方途は、ファージディスプレイを用いた親和性成熟である。簡潔には、幾つかの超可変領域部位(例えば6つ〜7つの部位)を突然変異させて、各部位において全ての起こり得るアミノ置換を作り出す。このように作り出した抗体変異体は、糸状ファージ粒子により、各々の粒子内に入ったM13の遺伝子III産物との融合物として一価の形で提示される。ファージに提示された変異体を次に、本明細書中に開示されるそれらの生物活性(例えば結合親和性)についてスクリーニングする。修飾の候補超可変領域部位を同定するために、アラニン走査突然変異誘発を行なって、抗原結合に大きく寄与する超可変領域残基を同定することができる。代替的又は付加的には、抗体と抗原との接触点を同定するために、抗原−抗体複合体の結晶構造を分析するのが有益であり得る。かかる接触残基及び隣接残基は、本明細書中に詳述した技法による置換の候補である。かかる変異体を作り出してから、変異体のパネルを本明細書中に記載されるようにスクリーニングし、1つ又は複数の関連アッセイにおいて優れた特性を有する抗体をさらなる開発のために選択してもよい。
【0109】
抗体の別のタイプのアミノ酸変異体は、抗体の元のグリコシル化パターンを変更する。変更するとは、抗体に見られる1つ又は複数の炭水化物部分を削除すること、及び/又は抗体に存在しない1つ又は複数のグリコシル化部位を付加することを意味する。
【0110】
ポリペプチドのグリコシル化は、典型的にはN−結合型又はO−結合型のいずれかである。N−結合型とは、アスパラギン残基の側鎖への炭水化物部分の付加を指す。トリペプチド配列アスパラギン−X−セリン及びアスパラギン−X−スレオニン(式中、Xはプロリン以外の任意のアミノ酸である)は、アスパラギン側鎖への炭水化物部分の酵素的付加に対する認識配列である。
【0111】
したがって、ポリペプチド中にこれらのトリペプチド配列のいずれかが存在することで、潜在的グリコシル化部位が生じる。O−結合型グリコシル化とは、ヒドロキシアミノ酸、最も一般にはセリン又はスレオニン(5−ヒドロキシプロリン又は5−ヒドロキシリシンも使用することができる)への、糖N−アセチルガラクトサミン、ガラクトース、又はキシロースの1つの付加を指す。
【0112】
抗体へのグリコシル化部位の付加は、アミノ酸配列を、1つ又は複数の上述のトリペプチド配列を含有するように(N−結合型グリコシル化部位のため)変更することにより都合良く達成される。また、元の抗体配列の1つ又は複数のセリン残基又はスレオニン残基による付加又は置換(O−結合型グリコシル化部位のため)によって変更してもよい。
【0113】
抗体のアミノ酸配列変異体をコードする核酸分子は、当該技術分野で既知の多様な方法により調製される。これらの方法としては、自然供給源からの単離(天然アミノ酸配列変異体の場合)、又は先に調製した変異体若しくは非変異体バージョンの抗体のオリゴヌクレオチド媒介(又は部位特異的(site-directed))突然変異誘発、PCR突然変異誘発、及びカセット式突然変異誘発による調製が挙げられるが、これらに限定されない。
【0114】
エフェクター機能を改善して、例えば抗体の抗体依存性細胞媒介性細胞毒性(ADCC)及び/又は補体依存性細胞毒性(CDC)を増強するために、本発明において使用される抗体を修飾するのが望ましいこともある。これは、1つ又は複数のアミノ酸置換を抗体のFc領域に導入することにより達成され得る。代替的又は付加的には、システイン残基(複数可)をFc領域に導入して、それによりこの領域において鎖間ジスルフィド結合を形成させてもよい。このように作り出したホモ二量体型抗体は、改善された内在化能(internalization capability)及び/又は増大した補体媒介性殺細胞効果及び抗体依存性細胞毒性(ADCC)を有し得る。Caron et al., J. Exp Med. 176: 1191-1195 (1992)及びShopes, B. J linmunol 148: 2918-2922 (1992)を参照されたい。
【0115】
また、抗腫瘍活性の向上したホモ二量体型抗体を、Wolff et al. Cancer Research 53: 2560-2565 (1993)に記載されるようにヘテロ二官能性架橋剤を用いて調製してもよい。代替的には、抗体を二重のFc領域を有するように操作することができ、それにより補体溶解能及びADCC能を向上させてもよい。Stevenson et al. Anti-Cancer Drug Design 3: 219-230 (1989)を参照されたい。
【0116】
抗体の血清中半減期を増大させるために、例えば米国特許第5,739,277号明細書に記載されるように、サルベージ受容体(salvage receptor)結合エピトープを抗体(特に抗体断片)に組み込んでもよい。本明細書中で使用される場合、「サルベージ受容体結合エピトープ」という用語は、IgG分子のin vivo血清中半減期の増大に関与する、IgG分子(例えば、IgG1、IgG2、IgG3、又はIgG4)のFc領域のエピトープを指す。
【0117】
in vivoでの腫瘍細胞に対する抗体の集積能力
幾つかの抗体は、in vivoで腫瘍細胞に対する高い集積能力を有するが、幾つかの抗体はこの能力を有しない。この能力の理由の1つは、抗体の体内での安定性であり得る。腫瘍細胞に対する集積能力は、抗体を医薬組成物として利用するために重要である。そのため、in vivo抗体集積を動物施設において施設指針に従って行なう。一実施形態においては、癌マーカー(例えばDKK1)を発現する腫瘍細胞を、適切な緩衝剤に入れ、マウス(例えばBALB/cA Jcl−nuマウス)の脇腹に皮下注射した(s.c.)。生体内分布研究のために、腫瘍が完全に定着したマウスに、放射性同位体標識抗体を尾静脈を介して投与する。マウスの組織の放射活性を測定する。
【0118】
血液、肝臓、腎臓、腸、脾臓、膵臓、肺、心臓、胃、及び筋肉のような組織の放射活性が時間の経過とともに減少したにもかかわらず、腫瘍細胞の放射活性が増大した場合、抗体は高い集積活性を有する。
【0119】
医薬製剤
本発明に従って使用される抗DKK1抗体の治療製剤は、貯蔵のために、所望の純度を有する抗体を任意で薬学的に許容可能な担体、賦形剤、又は安定化剤(Remington's Pharmaceutical Sciences 16th edition, Osol, A. Ed. (1980))と混合することにより、凍結乾燥製剤又は水溶液の形態で調製され得る。許容可能な担体、賦形剤、又は安定化剤は、採用する用量及び濃度でレシピエントに対して毒性がなく、リン酸塩、クエン酸塩、及び他の有機酸等の緩衝剤;アスコルビン酸及びメチオニンを含む抗酸化剤;防腐剤(塩化オクタデシルジメチルベンジルアンモニウム;塩化ヘキサメトニウム;塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム;フェノール、ブチルアルコール、若しくはベンジルアルコール;メチルパラベン若しくはプロピルパラベン等のアルキルパラベン;カテコール;レゾルシノール;シクロヘキサノール;3−ペンタノール;及びm−クレゾール等);低分子量(約10残基未満)ポリペプチド;血清アルブミン、ゼラチン、若しくは免疫グロブリン等のタンパク質;ポリビニルピロリドン等の親水性重合体;グリシン、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン、アルギニン、又はリシン等のアミノ酸;グルコース、マンノース、若しくはデキストリンを含む単糖類、二糖類、及び他の炭水化物;EDTA等のキレート剤;スクロース、マンニトール、トレハロース、若しくはソルビトール等の糖;ナトリウム等の塩形成対イオン;金属錯体(例えばZn−タンパク質錯体);及び/又はTWEEN(登録商標)、PLURONICS(登録商標)又はポリエチレングリコール(PEG)等の非イオン性界面活性剤を含む。
【0120】
皮下投与に適した凍結乾燥製剤は、国際公開第97/04801号パンフレットに記載される。かかる凍結乾燥製剤を適切な希釈剤で高タンパク質濃度に再構成し、再構成した製剤を本明細書において治療される哺乳類に皮下投与してもよい。
【0121】
本明細書における製剤はまた、処理される特定の兆候に対し必要に応じて2つ以上の活性化合物、好ましくは互いに悪影響を与えない、相補的活性を有する活性化合物を含有し得る。例えば、化学療法剤、サイトカイン、又は免疫抑制剤をさらに提供するのが望ましいこともある。かかる他の薬剤の有効量は、製剤中に存在する抗体の量、疾患又は障害又は治療のタイプ、及び上述の他の因子に依存する。これらは一般に、以上で使用したものと同じ用量及び投与経路、又はこれまで採用されてきた用量の約1%〜99%で使用される。
【0122】
活性成分はまた、コロイド状薬物送達システム(例えばリポソーム、アルブミンミクロスフェア、マイクロエマルション、ナノ粒子、及びナノカプセル)又はマクロエマルション中の、例えばコアセルベーション技法又は界面重合により調製されるマイクロカプセル、例えばそれぞれヒドロキシメチルセルロース又はゼラチンのマイクロカプセル、及びポリ(メチルメタクリレート)マイクロカプセルに封入してもよい。かかる技法は、Remington's Pharmaceutical Sciences 16th edition, Osol, A. Ed. (1980)に開示されている。
【0123】
持続放出調製品を調製してもよい。適切な持続放出調製品の例としては、薬剤を含有する固体疎水性重合体の半透過性マトリクス(このマトリクスは造形品、例えばフィルム又はマイクロカプセルの形態である)が挙げられる。持続放出マトリクスの例としては、ポリエステル、ヒドロゲル(例えば、ポリ(2−ヒドロキシエチル−メタクリレート)、又はポリ(ビニルアルコール))、ポリラクチド(米国特許第3,773,919号明細書)、L−グルタミン酸とL−グルタミン酸エチルとの共重合体、非分解性エチレン−酢酸ビニル共重合体、LUPRON DEPOT(乳酸−グリコール酸共重合体及び酢酸ロイプロリドから成る注射可能なミクロスフェア)等の分解性乳酸−グリコール酸共重合体、及びポリ−D(−)−3−ヒドロキシ酪酸が挙げられる。in vivo投与に使用する製剤は滅菌されてなくてはならない。これは滅菌ろ過膜を介したろ過により容易に達成される。
【0124】
抗体を用いた治療
抗DKK1抗体を含む組成物は、適正な医療行為に一致した形で調合、投薬、及び投与され得る。好ましくは、抗DKK1抗体はヒト、キメラ若しくはヒト化抗DKK1抗体scFv、又は抗体断片である。
【0125】
本発明においては、任意の抗体、又は抗体がDKK1に結合することができさえすれば、その抗原結合領域を含む断片が、DKK1を発現する癌を治療又は予防するために使用され得る。好ましい実施形態では、DKK1中和活性を有する抗体を、癌の治療のために使用することができる。したがって、DKK1の少なくとも1つの機能又は活性を中和し得る抗体を本発明に使用することができる。例えば、本発明においては、下記に示す機能が中和される:
細胞増殖を促進又は増強する機能
癌浸潤を促進又は増強する機能
癌の移動を促進又は増強する機能。
【0126】
かかる抗体を得るために、当業者に既知の多くの方法を使用することができる。例えば、本発明においては、細胞増殖を抑制又は阻害する抗体又はその断片は、候補抗体をDKK1が過剰発現及び/又は上方制御されている腫瘍細胞と接触させ、候補抗体の非存在下で検出される場合と比較して、細胞増殖を抑制又は阻害する抗体を選択することにより得られる。
【0127】
代替的には、かかる抗体はまた、候補抗体をDKK1が過剰発現及び/又は上方制御されている腫瘍細胞と接触させ、候補抗体の非存在下で検出される場合と比較して、細胞浸潤又は腫瘍細胞の移動を抑制又は阻害する抗体を選択することにより得ることができる。細胞浸潤又は腫瘍細胞の移動の能力を評価する方法は、当業者に既知である(例えばマトリゲル浸潤アッセイ)。
【0128】
本発明によれば、DKK1に特異的に結合する少なくとも1つの抗体又は抗体断片、並びに薬学的に許容可能な担体を含む、DKK1の過剰発現及び上方制御のいずれか又は両方を特徴とする癌を治療するための医薬組成物が提供される。本発明はまた、DKK1に特異的に結合する少なくとも1つの抗体又は抗体断片、並びに薬学的に許容可能な担体を含む、DKK1の過剰発現及び上方制御のいずれか又は両方を特徴とする癌の転移を阻害するための医薬組成物を提供する。代替的には、本発明は、DKK1に特異的に結合する少なくとも1つの抗体又は抗体断片、並びに薬学的に許容可能な担体を含む、DKK1の過剰発現及び上方制御のいずれか又は両方を特徴とする癌の浸潤又は移動を阻害するための医薬組成物をさらに提供する。
【0129】
別の実施形態では、本発明はまた、DKK1の過剰発現及び上方制御のいずれか又は両方を特徴とする癌を治療するための医薬組成物の製造における、DKK1に特異的に結合する少なくとも1つの抗体又は抗体断片の使用を提供する。本発明はまた、DKK1の過剰発現及び上方制御のいずれか又は両方を特徴とする癌の転移を阻害するための医薬組成物の製造における、DKK1に特異的に結合する少なくとも1つの抗体又は抗体断片の使用を提供する。代替的には、本発明は、DKK1の過剰発現及び上方制御のいずれか又は両方を特徴とする癌の浸潤又は移動を阻害するための医薬組成物の製造における、DKK1に特異的に結合する少なくとも1つの抗体又は抗体断片の使用をさらに提供する。
【0130】
代替的には、本発明は、DKK1に特異的に結合する少なくとも1つの抗体又は抗体断片に、薬学的又は生理学的に許容可能な担体を配合する工程を含む、DKK1の過剰発現及び上方制御のいずれか又は両方を特徴とする癌を治療するための医薬組成物を製造する方法又はプロセスをさらに提供する。本発明はまた、DKK1に特異的に結合する少なくとも1つの抗体又は抗体断片に、薬学的又は生理学的に許容可能な担体を配合する工程を含む、DKK1の過剰発現及び上方制御のいずれか又は両方を特徴とする癌の転移を阻害するための医薬組成物を製造する方法又はプロセスを提供する。代替的には、本発明は、DKK1に特異的に結合する少なくとも1つの抗体又は抗体断片に、薬学的又は生理学的に許容可能な担体を配合する工程を含む、DKK1の過剰発現及び上方制御のいずれか又は両方を特徴とする癌の浸潤又は移動を阻害するための医薬組成物を製造する方法又はプロセスをさらに提供する。
【0131】
別の実施形態では、本発明はまた、活性成分であるDKK1に特異的に結合する少なくとも1つの抗体又は抗体断片に、薬学的又は生理学的に許容可能な担体を混和させる工程を含む、DKK1の過剰発現及び上方制御のいずれか又は両方を特徴とする癌を治療するための医薬組成物を製造する方法又はプロセスを提供する。本発明はまた、DKK1に特異的に結合する少なくとも1つの抗体又は抗体断片に、薬学的又は生理学的に許容可能な担体を混和させる工程を含む、DKK1の過剰発現及び上方制御のいずれか又は両方を特徴とする癌の転移を阻害するための医薬組成物を製造する方法又はプロセスを提供する。代替的には、本発明は、DKK1に特異的に結合する少なくとも1つの抗体又は抗体断片に、薬学的又は生理学的に許容可能な担体を混和させる工程を含む、DKK1の過剰発現及び上方制御のいずれか又は両方を特徴とする癌の浸潤又は移動を阻害するための医薬組成物を製造する方法又はプロセスをさらに提供する。
【0132】
本発明によれば、DKK1の過剰発現及び上方制御のいずれか又は両方を特徴とする任意の癌を治療することができる。例えば、前述されるように、DKK1は膵臓癌、胃癌、肝臓癌、前立腺癌、乳癌、胆管癌、子宮頸癌、肺癌、及び食道癌を含む様々な癌において過剰発現される。したがって、好ましい実施形態では、かかる癌は本発明によって治療することができる。
【0133】
本発明においては、DKK1に「特異的に結合する」又は「特異的な」抗体とは、任意の他のポリペプチド又はポリペプチドエピトープに実質的に結合することなく、DKK1又はその上のエピトープに結合する抗体である。幾つかの実施形態では、抗体がDKK1以外のタンパク質に結合する程度は、抗体がDKK1に結合する程度の約20%未満、好ましくは10%未満、より好ましくは5%未満である。当業者は、対象とされるポリペプチドに対する抗体の結合特異性を、ELISA又はラジオイムノアッセイ(RIA)を含む従来の方法を用いて評価又は決定することができる。抗体のDKK1への結合に関して、DKK1に対して「特異的な結合」又は「特異的に結合する」又は「特異的な」という用語は、非特異的相互作用と測定可能なほど異なるか、又は区別可能な結合を意味する。例えば、抗体とDKK1以外のタンパク質(通常同様の構造を有する分子である)との結合が、抗体とDKK1との結合を検出するのに適切な条件と同じ条件下で実質的に検出することができない場合、かかる抗体はDKK1に特異的に結合するとされる。好ましい実施形態では、抗体とDKK1以外のタンパク質との結合レベルが、アッセイのバックグラウンドレベルと同じか又は同程度であると見なされる場合、抗体はDKK1以外のタンパク質と実質的に結合しない。
【0134】
代替的には、特異的な結合は、例えばDKK1の結合を、対照分子(通常結合活性を有しない同様の構造を有する分子である)の結合と比較して決定することによっても測定することができる。例えば、特異的な結合は、DKK1と同様の対照分子、例えば過剰の非標識標的と競合させることにより決定することができる。この場合、特異的な結合は、標識DKK1と抗体との結合が過剰の対照分子により競合的に阻害されない場合に示される。
【0135】
これに関して検討される因子には、治療される特定の癌、治療される特定の哺乳類、個々の患者の臨床状態、疾患又は障害の原因、薬剤の送達部位、投与の方法、投与のスケジューリング、及び医師に既知の他の因子が含まれる。投与される抗体の治療的に有効な量は、かかる検討に左右される。
【0136】
一般的な提案として、非経口的に投与される抗体の治療的に有効な量は、1回の投与につき、1日当たり約0.1mg/kg〜20mg/kg(患者体重)の範囲であり、使用される抗体の典型的な初期範囲は約2mg/kg〜10mg/kgの範囲である。
【0137】
しかしながら、上述したように、これらの提案された抗体量は治療における裁量に大いに委ねられる。適当な投与量及びスケジューリングの選択において主要な因子は、前述したように、得られた結果である。
【0138】
例えば、進行中及び急性の疾患の治療に関しては、初期に比較的高い投与量が必要とされ得る。最も効果的な結果を得るために、抗体は疾患又は障害に応じて、疾患又は障害の最初の兆候、診断、出現、又は発生に可能な限り近く、又は疾患又は障害の寛解の間に投与され得る。
【0139】
抗体は非経口的投与、皮下投与、腹腔内投与、肺内投与、及び鼻腔内投与、並びに局所免疫抑制治療が所望される場合には、病巣内投与を含む任意の適切な手段により投与され得る。非経口注入には筋肉内投与、静脈内投与、動脈内投与、腹腔内投与、又は皮下投与が含まれる。
【0140】
また、抗体はパルス注入により、例えば抗体の投与量を減少させて適切に投与され得る。好ましくは、投薬は、投与が短期であるか又は長期であるかに一部依存するが、注射、最も好ましくは静脈内又は皮下注射により行なわれる。
【0141】
さらに、細胞毒性物質、化学療法剤、免疫抑制剤、及び/又はサイトカイン等の他の化合物を、本明細書における抗体とともに投与してもよい。併用投与には、別個の製剤又は単一の医薬製剤を用いた同時投与、及びいずれかの順序での連続投与が含まれるが、この場合、両方の(又は全ての)活性薬剤が同時にそれらの生物活性を発揮する期間があるのが好ましい。
【0142】
患者への抗体の投与とは別に、本発明は遺伝子治療による抗体の投与を考慮する。かかる抗体をコードする核酸の投与は、「治療的に有効な量の抗体を投与する」という表現に包含される。例えば、細胞内抗体を作出する遺伝子治療の使用に関する、1996年3月14日付で公開された国際公開第96/07321号パンフレットを参照されたい。
【0143】
核酸(任意でベクター中に含有される)を患者の細胞に入れるには、in vivo及びex vivoでの2つの主要なアプローチがある。in vivo送達については、核酸を患者に、通常は抗体が必要とされる部位に直接注射する。ex vivo治療については、患者の細胞を取り出し、核酸をこれらの単離細胞に導入し、その修飾細胞を患者に直接、又は例えば患者に移植される多孔質膜に封入して投与する(例えば米国特許第4,892,538号明細書及び同第5,283,187号明細書を参照)。核酸を生細胞に導入するには、利用可能な多様な技法がある。技法は、核酸を目的とする宿主の細胞におけるin vitro又はin vivoのいずれで培養細胞に移入させるかに応じて異なる。in vitroでの哺乳類細胞への核酸の移入に適切な技法には、リポソームの使用、エレクトロポレーション、顕微注射、細胞融合、DEAE−デキストラン法、リン酸カルシウム沈殿法等が含まれる。遺伝子のex vivo送達に関して一般に使用されるベクターは、レトロウイルスである。
【0144】
現在のところ好ましいin vivo核酸移入技法としては、ウイルスベクター(アデノウイルス、単純ヘルペスウイルスI型、又はアデノ随伴ウイルス等)を用いたトランスフェクション、及び脂質ベースのシステム(遺伝子の脂質媒介移入に有用な脂質は、例えばDOTMA、DOPE、及びDC−Cholである)が挙げられる。場合によっては、細胞表面膜タンパク質又は標的細胞に特異的な抗体、標的細胞上の受容体に対するリガンド等の標的細胞を標的とする薬剤により、核酸供給源を提供するのが望ましい。リポソームを採用する場合、エンドサイトーシスと関連する細胞表面膜タンパク質に結合するタンパク質が、例えば特定の細胞型に指向性のあるカプシドタンパク質又はその断片、循環中にインターナリゼーションを受けるタンパク質に対する抗体、及び細胞内局在化を標的とし、細胞内半減期を増強するタンパク質の標的化及び/又は取り込みを容易にするために使用され得る。受容体媒介エンドサイトーシス技法は、例えば、Wu et al., J. Biol. Chem. 262: 4429-4432 (1987)及びWagner et al, Proc. Nad. Acad. Sci. USA 87: 3410-3414 (1990)により記載されている。現在知られている遺伝子マーキング及び遺伝子治療のプロトコルの概説に関しては、Anderson et al., Science 256: 808-813 (1992)を参照されたい。また、国際公開第93/25673号パンフレット、及びその中に引用される参考文献も参照されたい。
【0145】
癌又は癌の発症の素因を診断する方法
被験体から得た生体試料においてDKK1レベルを測定することにより、被験体における癌の発生又は癌が発症する素因を決定することができる。好ましくは、癌は膵臓癌、胃癌、肝臓癌、前立腺癌、乳癌、胆管癌、子宮頸癌、肺癌、及び食道癌である。したがって、本発明は生体試料においてDKK1レベルを決定すること(例えば測定すること)を含む。
【0146】
本発明によれば、被験体の状態を検査した中間結果も提供され得る。かかる中間結果を、医師、看護師、又は他の施術者が疾患を患っている被験体を診断する助けとなるさらなる情報と組み合わせてもよい。すなわち、本発明は、癌を検査するための診断マーカーDKK1を提供する。代替的には、本発明は、被験体から得た組織において癌細胞を検出し、疾患を患っている被験体を診断するのに有用な情報を医師に提供するために使用され得る。
【0147】
DKK1遺伝子又はDKK1タンパク質を試料中で検出することができる限り、任意の生体物質がDKK1レベルを決定するための生体試料として使用され得る。好ましくは、生体試料には血液、血清、又は痰等の他の体液が含まれる。好ましい生体試料は血液又は血液に由来する試料である。血液に由来する試料としては血清、血漿、又は全血が挙げられる。
【0148】
本発明の方法により癌の診断を受ける被験体は、哺乳類が好ましく、その例としてはヒト、非ヒト霊長類、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ウマ、及びウシが挙げられるが、これらに限定されない。
【0149】
本発明の一実施形態では、DKK1遺伝子の遺伝子転写産物を、mRNA量を測定することにより検出する。例えば、DKK1遺伝子に対応する配列を使用して、例えばノーザンブロットハイブリダイゼーション分析によりDKK1のmRNAを検出するためのプローブを構成することができる。被験体生体試料におけるプローブと遺伝子転写産物とのハイブリダイゼーションは、DNAアレイ上でも行なうことができる。別の例としては、DKK1配列を使用して、例えば逆転写ポリメラーゼ連鎖反応法(RT−PCR)等の増幅に基づく検出法において、DKK1ポリヌクレオチドを特異的に増幅するためのプライマーを構成することができる。
【0150】
代替的な実施形態では、生体試料におけるDKK1タンパク質の量を測定することにより、DKK1レベルを決定する。生体試料におけるDKK1タンパク質の量を決定する方法には、イムノアッセイ法が含まれる。好ましい実施形態では、イムノアッセイはELISAである。
【0151】
次に、生体試料におけるDKK1レベルを、正常対照試料等の参照試料に関するDKK1レベルと比較する。「正常対照レベル」という表現は、典型的には癌を患っていない集団の生体試料において見られるDKK1レベルを指す。参照試料は好ましくは試験試料と同様の種類のものである。例えば、試験試料が患者の血清である場合、参照試料も血清でなくてはならない。対照被験体及び試験被験体に由来する生体試料におけるDKK1レベルは、同時に求めてもよく、又は代替的には、対照群から予め採取した試料におけるDKK1レベルを分析することにより得られる結果に基づく統計的方法によって、正常対照レベルを求めてもよい。
【0152】
本発明者らは以前、DKK1の血清レベルを測定するためにELISAシステムを確立し、血清DKK1レベルが健常対照におけるよりも肺癌患者及び食道癌患者において有意に高いことを見出した。(国際公開第2007/013671号パンフレット)。本発明においては、膵臓癌、胃癌、肝臓癌、前立腺癌、乳癌、胆管癌、子宮頸癌、肺癌、及び食道癌の患者における血清DKK1レベルを開示したが、これらのレベルも健常対照におけるより有意に高かった。
【0153】
本発明においては、DKK1の血中濃度の標準値は統計的に決定することができる。例えば、健常個体におけるDKK1の血中濃度を測定して、標準的なDKK1の血中濃度を統計的に決定することができる。統計的に十分な集団を集めた場合、平均値から標準偏差(S.D.)の2倍又は3倍の範囲にある値が大抵の場合、標準値として使用される。したがって、平均値+2×S.D.又は平均値+3×S.D.に対応する値が標準値として使用され得る。記載のように設定した標準値には、理論的には健常個体のそれぞれ90%及び99.7%が含まれる。
【0154】
代替的には、標準値はまた、癌患者における実際のDKK1の血中濃度に基づいて設定され得る。通常、このように設定される標準値は偽陽性率を最小限に抑え、検出感度を最大にすることのできる条件を満たす値の範囲から選択される。本明細書においては、偽陽性率とは、健常個体におけるDKK1の血中濃度が標準値より高いと判断される患者の割合を指す。これに対し、健常個体におけるDKK1の血中濃度が標準値より低いと判断される患者の割合は、特異度を示す。すなわち、偽陽性率と特異度との和は常に1となる。検出感度とは、癌の存在が断定された個体集団のうち全ての癌患者における、DKK1の血中濃度が標準値より高いと判断される患者の割合を指す。
【0155】
さらに、本発明に関しては、DKK1の濃度が標準値より高いと判断される患者における癌患者の割合は、陽性予測値を表す。一方、DKK1の濃度が標準値より低いと判断される患者における健常個体の割合は、陰性予測値を表す。これらの値の間の関係を表1にまとめる。下記に示す関係により示唆されるように、癌の診断精度を評価するための指標である感度、特異度、陽性予測値、及び陰性予測値に関する値は各々、DKK1の血中濃度のレベルを判断するための標準値に応じて変化する。
【0156】
【表1】

【0157】
上述したように、標準値は通常、偽陽性率が低く、感度が高いように設定される。しかしながら、上記に示した関係からまた明らかなように、偽陽性率と感度との間にはトレードオフがある。すなわち、標準値を下げると、検出感度は増大する。しかしながら、偽陽性率も増大するため、「偽陽性率を低くする」という条件を満たすのは困難である。この状況を鑑みて、本発明においては、例えば以下の予測結果をもたらす値が好ましい標準値として選択され得る:
偽陽性率が50%以下である標準値(すなわち、特異度が50%以上である標準値)、
感度が20%以上である標準値。
【0158】
本発明に関しては、標準値は受信者操作特性(ROC)曲線を用いて設定することができる。ROC曲線は、縦軸に検出感度、及び横軸に偽陽性率(すなわち、「1−特異度」)を示すグラフである。本発明においては、ROC曲線は、高度/低度のDKK1血中濃度を決定するための標準値を連続的に変化させて得られた、感度及び偽陽性率における変化をプロットすることにより得ることができる。
【0159】
ROC曲線を得るための「標準値」は、統計的分析のために一時的に使用される値である。ROC曲線を得るための「標準値」は一般に、全ての選択可能な標準値を包含可能な範囲内で、連続的に変化させることができる。例えば、標準値は、分析集団における最小及び最大のDKK1測定値の間で変化させることができる。
【0160】
本発明において使用するのに好ましい標準値は、得られたROC曲線に基づいて、上述の条件を満たす範囲から選択することができる。代替的には、標準値は、標準値を変化させることで作成したROC曲線に基づいて、大部分のDKK1測定値を包含する範囲から選択することができる。
【0161】
血中のDKK1は、タンパク質を定量化することのできる任意の方法により測定され得る。例えば、イムノアッセイ、液体クロマトグラフィー、表面プラズモン共鳴(SPR)、質量分析等を本発明に関連して使用することができる。質量分析においては、タンパク質は適切な内部標準を用いて定量化され得る。例えば、同位体標識DKK1を内部標準として使用することができる。DKK1の血中濃度は、血中のDKK1のピーク強度及び内部標準のピーク強度から決定することができる。一般に、マトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)法がタンパク質の質量分析のために使用される。また、質量分析又は液体クロマトグラフィーを使用する分析法を用いて、他の腫瘍マーカー(例えばCEA又はpro−GRP)と同時にDKK1を分析することができる。
【0162】
本発明においては、DKK1を測定するのに好ましい方法はイムノアッセイである。DKK1のアミノ酸配列は既知である(Genbankアクセッション番号:AY359005)。DKK1のアミノ酸配列を配列番号2に示し、それをコードするcDNAのヌクレオチド配列を配列番号1に示す。したがって、当業者は、抗体を、DKK1のアミノ酸配列に基づいて必要な免疫原を合成することにより調製することができる。免疫原として使用されるペプチドは、ペプチドシンセサイザーを用いて容易に合成され得る。合成ペプチドは、担体タンパク質に結合させることにより免疫原として使用することができる。
【0163】
キーホールリンペットヘモシアニン、ミオグロビン、アルブミン等を担体タンパク質として使用することができる。好ましい担体タンパク質はKLH、ウシ血清アルブミン等である。合成ペプチドを担体タンパク質に結合させるために、マレイミドベンゾイル−N−ヒドロキシスクシンイミドエステル法(以下、MBS法と略記する)等が一般に使用される。
【0164】
具体的には、システインを合成ペプチドに導入し、該ペプチドをシステインのSH基を用いてMBSによりKLHと架橋させる。システイン残基は、合成ペプチドのN末端に導入しても、又はC末端に導入してもよい。
【0165】
代替的には、DKK1はDKK1のヌクレオチド配列、又はその一部分を用いて調製することができる。必要なヌクレオチド配列を含むDNAは、DKK1発現組織から調製されるmRNAを用いてクローニングされ得る。代替的には、市販のcDNAライブラリをクローニング供給源として使用することができる。得られたDKK1の遺伝子組換え体、又はその断片も免疫原として使用することができる。このように発現されるDKK1組換え体は、本発明において使用される抗体を得るための免疫原として好ましい。抗DKK1抗体を得る方法は、上述している。
【0166】
DKK1に対する抗体がDKK1と接触すると、抗体は、抗原−抗体反応を介して抗体により認識される抗原決定基(エピトープ)と結合する。抗体と抗原との結合は、様々なイムノアッセイ原理により検出することができる。イムノアッセイは、異種分析法と同種分析法とに大きく分類され得る。イムノアッセイの感度及び特異度を高レベルに維持するためには、モノクローナル抗体の使用が望ましい。DKK1を様々なイムノアッセイ方式により測定する本発明の方法を、具体的に説明する。
【0167】
最初に、異種イムノアッセイを用いてDKK1を測定する方法を記載する。異種イムノアッセイにおいては、DKK1に結合する抗体を、DKK1と結合しない抗体と分離した後検出するための機構が必要とされる。
【0168】
分離を容易にするために、固定化試薬が一般に使用される。例えば、DKK1を認識する抗体が固定化された固相を初めに調製する(固定化抗体)。DKK1をこれらに結合させ、二次抗体をさらにそれらに反応させる。
【0169】
固相を液相から分離し、必要に応じてさらに洗浄した後、固相上に残留する二次抗体はDKK1の濃度に比例する。二次抗体を標識すると、DKK1は標識に由来するシグナルを測定することにより定量化することができる。
【0170】
抗体を固相に結合させるために、任意の方法が使用され得る。例えば、抗体はポリスチレン等の疎水性材料に物理的に吸着させることができる。代替的には、抗体は表面上に官能基を有する多様な材料に化学的に結合させることができる。さらに、結合リガンドで標識した抗体を、リガンドの結合パートナーを用いて捕捉させることにより、固相に結合させることもできる。結合リガンドとその結合パートナーとの組み合わせには、アビジン−ビオチン等が含まれる。固相と抗体とは一次抗体とDKK1との反応と同時に、又はその前に共役させることができる。
【0171】
同様に、二次抗体を直接標識する必要はない。すなわち、二次抗体は抗体に対する抗体を用いて、又はアビジン−ビオチン反応等の結合反応を用いて間接的に標識することができる。
【0172】
試料中のDKK1濃度は、DKK1濃度が既知の標準的な試料を用いて得られるシグナル強度に基づいて求められる。
【0173】
上述した異種イムノアッセイのための固定化抗体及び二次抗体として、それが抗体であるか、又はDKK1を認識するその抗原結合部位を含む断片である限り、任意の抗体を使用することができる。したがって、抗体はモノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、又は両方の混合物若しくは組み合わせであり得る。例えば、モノクローナル抗体とポリクローナル抗体との組み合わせが本発明において好ましい組み合わせである。代替的には、両方の抗体がモノクローナル抗体である場合、異なるエピトープを認識するモノクローナル抗体を組み合わせるのが好ましい。
【0174】
測定される抗原が抗体の間に挟まれるため、かかる異種イムノアッセイはサンドイッチ法と呼ばれる。サンドイッチ法は測定感度及び再現性に優れるため、本発明において好ましい測定原理である。
【0175】
競合的阻害反応の原理も異種イムノアッセイに適用され得る。具体的には、異種イムノアッセイは、試料中のDKK1が既知濃度のDKK1と抗体との結合を競合的に阻害する現象に基づくイムノアッセイである。試料中のDKK1の濃度は、既知濃度のDKK1を標識して、抗体と反応した(又は反応しなかった)DKK1の量を測定することにより決定することができる。
【0176】
既知濃度の抗原及び試料中の抗原が、同時に抗体と反応する競合的反応系が確立される。さらに、抗体を試料中の抗原と反応させ、その後既知濃度の抗原を反応させる阻害反応系による分析が可能である。どちらのタイプの反応系においても、操作性に優れる反応系は、試薬成分として使用される既知濃度の抗原、又は抗体のいずれか一方を標識成分とし、他方を固定化試薬として設定することにより構築することができる。
【0177】
放射性同位体、蛍光物質、発光物質、酵素活性を有する物質、肉眼で観察可能な物質、磁気的に観察可能な物質等がこれらの異種イムノアッセイにおいて使用される。これらの標識物質の具体的な例を下記に示す。
【0178】
酵素活性を有する物質の例としては、
ペルオキシダーゼ、
アルカリフォスファターゼ、
ウレアーゼ、
カタラーゼ、
グルコースオキシダーゼ、
乳酸脱水素酵素、又は
アミラーゼ等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0179】
蛍光物質の例としては、
フルオレセインイソチオシアネート、
テトラメチルローダミンイソチオシアネート、
置換ローダミンイソチオシアネート、又は
ジクロロトリアジンイソチオシアネート等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0180】
放射性同位体の例としては、
トリチウム、
125I、又は
131I等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0181】
これらのうち、酵素等の非放射活性標識が安全性、操作性、感度等の観点から有利な標識である。酵素標識は抗体又はDKK1に、過ヨウ素酸法又はマレイミド法等の既知の方法により結合させることができる。
【0182】
固相として、ビーズ、容器の内壁、微粒子、多孔質担体、磁性粒子等が使用される。ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリビニルトルエン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ナイロン、ポリメタクリレート、ラテックス、ゼラチン、アガロース、ガラス、金属、セラミック等の材料を用いて形成される固相を使用することができる。抗体等を化学的に結合する官能基を表面に導入した固体材料も知られている。ポリ−L−リシン処理又はグルタルアルデヒド処理等の化学的結合、及び物理吸着を含む既知の結合法を、固相及び抗体(又は抗原)に適用することができる。
【0183】
本明細書中に例示される全ての異種イムノアッセイにおいて、固相を液相から分離する工程及び洗浄する工程が必要とされるが、これらの工程はサンドイッチ法の変形である免疫クロマトグラフィー法を用いて容易に行なうことができる。
【0184】
具体的には、固定化される抗体を、試料溶液を毛管現象により輸送することが可能な多孔質担体に固定化し、次にDKK1及び標識抗体を含有する試料の混合物をこの毛管現象よりその中に展開する。展開の間、DKK1は標識抗体と反応し、固定化抗体とさらに接触すると、その位置に捕捉される。DKK1と反応しない標識抗体は、固定化抗体により捕捉されることなく通過する。
【0185】
結果として、固定化抗体の上記位置に残留する標識抗体のシグナルを指標として用いて、DKK1の存在を検出することができる。標識抗体を予め多孔質担体において上流に維持する場合、単に試料溶液中に滴下することで全ての反応を開始及び完了することができ、極めて単純な反応系を構築することができる。免疫クロマトグラフィー法においては、着色粒子等の肉眼で区別することのできる標識成分を組み合わせて、特別な読取装置さえも必要としない分析装置を構成することができる。
【0186】
さらに、従来の免疫クロマトグラフィー法では、DKK1に対する検出感度を調節することができる。例えば、検出感度を下記に記載されるカットオフ値近くに調節することにより、カットオフ値を超えた場合にも上述の標識成分を検出することができる。かかる装置を用いることにより、被験体が陽性であるか、又は陰性であるかを非常に単純に判断することができる。肉眼による標識の区別を可能にする構成を採用することによって、単に血液試料を免疫クロマトグラフィー用の装置に適用することで必要な検査結果が得られ得る。
【0187】
免疫クロマトグラフィー法の検出感度を調節する様々な方法が知られている。例えば、検出感度を調節するための第2の固定化抗体を、試料が適用される位置と固定化抗体との間に位置付けることができる(特開平6−341989号公報(公開特許公報))。試料中のDKK1は、試料を適用した位置から、標識検出のための第1の固定化抗体の位置へと展開される間に第2の固定化抗体により捕捉される。第2の固定化抗体が飽和した後、DKK1は下流に位置する第1の固定化抗体の位置に到達し得る。結果として、試料中のDKK1の濃度が予め定められている濃度を超える場合、標識抗体に結合したDKK1が第1の固定化抗体の位置で検出される。
【0188】
次に、同種イムノアッセイを説明する。上記で記載されるように反応溶液の分離を必要とする異種免疫アッセイ法とは対照的に、DKK1は同種分析法を用いても測定することができる。同種分析法は、抗原−抗体反応の生成物の検出を、それらを反応溶液から分離することなく可能にする。
【0189】
代表的な同種分析法は、免疫沈降反応であるが、この場合抗原性物質は、抗原−抗体反応の後に生成される沈降物を検査することにより定量的に分析される。免疫沈降反応にはポリクローナル抗体が一般に使用される。モノクローナル抗体を適用する場合、DKK1の異なるエピトープに結合する、複数のタイプのモノクローナル抗体を使用するのが好ましい。免疫反応に続く沈降反応の生成物は肉眼で観察するか、又は光学的に測定して数量データに変換することができる。
【0190】
抗原による抗体感作した微粒子の凝集を指標として使用する、免疫学的粒子凝集反応は一般的な同種分析法である。上述の免疫沈降反応と同様に、ポリクローナル抗体又は複数のタイプのモノクローナル抗体の組み合わせを、この方法においても使用することができる。微粒子は、抗体の混合物で感作することにより抗体で感作するか、又は各々の抗体で別個に感作した粒子を混合することにより調製することができる。このようにして得られる微粒子は、DKK1と接触するとマトリクス様反応生成物を生じる。該反応生成物は、粒子の凝集として検出することができる。粒子の凝集は肉眼で観察され得るか、又は光学的に測定して数量データに変換することができる。
【0191】
エネルギー移動及び酵素チャネリングに基づく免疫学的分析法は、同種イムノアッセイとして知られる。エネルギー移動を利用する方法において、ドナー/アクセプタ関係を有する異なる光学標識が、抗原上の隣接エピトープを認識する複数の抗体に結合する。免疫反応が起こると、この2つの部分が接近してエネルギー移動現象が起こり、消光又は蛍光波長における変化等のシグナルが生じる。一方、酵素チャネリングは隣接エピトープに結合する複数の抗体を標識に利用するが、この場合標識は、一方の酵素の反応生成物が他方の酵素の基質であるような関係を有する酵素の組み合わせである。この2つの部分が免疫反応により接近すると、酵素反応が促進され、したがって、それらの結合は酵素反応速度における変化として検出することができる。
【0192】
本発明においては、DKK1の測定のための血液は、患者から採血した血液から調製することができる。好ましい血液試料は血清又は血漿である。血清又は血漿の試料は測定の前に希釈することができる。代替的には、全血を試料として測定することができ、得られた測定値を補正して血清中濃度を決定することができる。例えば、全血における濃度は、同じ血液試料中の血球体積百分率を決定することにより血清中濃度に補正され得る。
【0193】
好ましい実施形態では、イムノアッセイはELISAである。本発明者らは、癌患者における血清DKK1を検出するために、サンドイッチELISAを確立した。
【0194】
次に、血液試料中のDKK1レベルを、正常対照試料又は他の既知の試料(例えば参照癌試料)等の参照試料に関するDKK1レベルと比較した。「正常対照レベル」という表現は、典型的には癌を患っていない集団の血液試料において見られるDKK1レベルを指す。参照試料は好ましくは試験試料と同様の種類のものである。例えば、試験試料が患者の血清である場合、参照試料も血清でなくてはならない。対照被験体及び試験被験体に由来する血液試料におけるDKK1レベルは、同時に求めてもよく、又は代替的には、対照群から予め採取した試料におけるDKK1レベルを分析することにより得られる結果に基づく統計的方法によって、正常対照レベルを求めてもよい。
【0195】
DKK1レベルはまた、癌の治療過程をモニタリングするために使用してもよい。この方法において、試験血液試料は癌に対する治療を受けている被験体から提供される。好ましくは、複数の試験血液試料を治療前、治療中、又は治療後の様々な時点で被験体から得る。次に、治療後の試料におけるDKK1レベルを治療前の試料におけるDKK1レベル、又は代替的には参照試料におけるDKK1レベル(例えば正常対照レベル又は既知の参照レベル)と比較してもよい。例えば、治療後のDKK1レベルが治療前のDKK1レベルより低い場合、その治療は有効であったと結論付けることができる。同様に、治療後のDKK1レベルが正常対照DKK1レベルと同様である場合にも、その治療は有効であったと結論付けることができる。
【0196】
「有効な」治療は、DKK1レベルを低下させるか、又は被験体における癌のサイズ、有病率、又は転移能を減少させる治療である。治療を予防的に適用する場合、「有効な」とは、治療が癌の発生を遅らせる若しくは予防するか、又は癌の臨床症状を緩和することを意味する。癌の判定は標準的な臨床プロトコルを用いて行なうことができる。さらに、治療の有効性は、癌を診断又は治療する任意の既知の方法に関して求められ得る。例えば、癌は病理組織学的に、又は症状の異常を同定することにより日常的に診断される。
【0197】
被験体において癌、又は癌の発症の素因、癌転移、癌浸潤、又は癌細胞移動を予測する方法
本発明によれば、転移性癌又は浸潤性癌において、より高いDKK1遺伝子の発現レベルが測定されることが示された。本発明は、患者の生体試料におけるDKK1遺伝子の発現レベルを検出すること、検出された発現レベルを対照レベルと比較すること、及び対照レベルに対する発現レベルの上昇を癌の発症、癌転移、癌浸潤、又は癌細胞移動の兆候と相関させることにより、被験体において特に膵臓癌、胃癌、肝臓癌、前立腺癌、乳癌、胆管癌、子宮頸癌、肺癌、及び食道癌である癌、又は癌の発症の素因、癌転移、癌浸潤、又は癌細胞移動を予測する方法を提供する。
【0198】
本発明によれば、被験体の状態を検査した中間結果も提供され得る。かかる中間結果を、医師、看護師、又は他の施術者が被験体の癌の転移又は浸潤の開始を診断する助けとなるさらなる情報と組み合わせてもよい。すなわち、本発明は、癌、癌転移、又は癌浸潤を予測するための診断マーカーDKK1を提供する。代替的には、本発明は癌被験体における悪性度を判定するために使用され得る。
【0199】
本発明の本方法によれば、「転移」という用語は、1つの器官又は部分から別の非隣接器官又は部分へと疾患が広がることとして使用される。とりわけ、原発性腫瘍に由来する癌細胞は、リンパ管及び血管に入り、血流中を循環し、体の他の部分の正常な組織内に定着して成長する。本発明において、「癌浸潤」という用語は、癌細胞が周辺組織に侵入し、病変を拡大する現象を指す。
【0200】
好ましくは、本発明は被験体における癌の発症、癌転移、癌浸潤、又は癌細胞移動を予測又は判定する方法を提供するが、該方法は、
(a)上記被験体から採取される検体におけるDKK1の発現レベルを検出する工程、及び
(b)上記検体におけるDKK1の発現レベルを転移、浸潤、又は移動の陽性症例の発現レベル、及び転移、浸潤、又は移動の陰性症例の発現レベルと比較する工程を含み、ここで
(c)転移、浸潤、又は移動の陽性症例の発現レベルと同様の検体発現レベルは癌の転移、浸潤、又は移動の高い危険性を示唆し、且つ転移、浸潤、又は移動の陰性症例の発現レベルと同様の検体発現レベルは癌の転移、浸潤、又は移動の低い危険性を示唆する。
【0201】
代替的には、本発明はまた、被験体における癌の移動活性及び浸潤活性のいずれか又は両方を決定、推定、又は評価する方法を提供するが、該方法は、
(a)上記被験体から採取される検体におけるDKK1の発現レベルを検出する工程、及び
(b)工程(a)において検出される発現レベルと、移動活性及び浸潤活性のいずれか又は両方とを相関させる工程を含む。
【0202】
本発明においては、例えば、上記検体におけるDKK1の発現レベルを、転移、浸潤、又は移動の陽性症例、及び転移、浸潤、又は移動の陰性症例の発現レベルと比較することにより、移動活性又は浸潤活性をDKK1の発現レベルと相関させてもよい。検体における発現レベルが転移、浸潤、又は移動の陽性症例の発現レベルと同様である場合、癌の転移、浸潤、又は移動の高い活性が示唆される。代替的には、検体の発現レベルが転移、浸潤、又は移動の陰性症例の発現レベルと同様であることは、癌の転移、浸潤、又は移動の低い活性を示唆する。さらに、移動活性又は浸潤活性を、DKK1の発現レベル及びこれらの活性を用いて較正する(calibrating)ことにより、DKK1の発現レベルと相関させてもよい。例えば、様々なレベルのこれらの活性を有する細胞のDKK1発現レベルを求めて、発現レベルをかかる活性と相関させてもよい。移動活性又は浸潤活性を評価する方法は既知である。例えば、かかる活性はマトリゲル浸潤アッセイにより評価され得る。
【0203】
方法に使用される、患者から得た生体試料は、DKK1遺伝子を試料中に検出することができる限り、予測される被験体に由来する任意の試料であり得る。好ましくは、生体試料は膵臓、胃、肝臓、前立腺、乳房、胆管、子宮頸部、肺、又は食道の細胞である。さらに、生体試料には痰、血液、血清、又は血漿等の体液が含まれる。さらに、試料は組織から単離される細胞であり得る。生体試料は治療前、治療中、及び/又は治療後を含む様々な時点で患者から得ることができる。例えば、生体試料は外科手術又は生検により得ることができる。
【0204】
本方法によれば、比較のために使用される「対照レベル」は、例えば、治療後に癌の発症、癌転移、癌浸潤、又は癌細胞移動を示さなかった個体又は個体集団(「転移、浸潤、又は移動の陰性症例」)における、任意の種類の治療の前に個体から採取される生体試料において検出されるDKK1遺伝子の発現レベルであり得る。代替的には、「対照レベル」は、治療後に癌の発症、癌転移、癌浸潤、又は癌細胞移動の活性化を示した個体又は個体集団(「転移、浸潤、又は移動の陽性症例」)において、任意の種類の治療の前に検出されるDKK1遺伝子の発現レベルであり得る。代替的には、生体試料を治療、例えば外科手術中に採取した場合にも、「対照レベル」がかかる試料から得られ得る。
【0205】
「対照レベル」は、単一の参照集団又は複数の発現パターンに由来する単一の発現パターンである。好ましくは、癌は膵臓癌、胃癌、肝臓癌、前立腺癌、乳癌、胆管癌、子宮頸癌、肺癌、又は食道癌である。既知の病状を有する患者群におけるDKK1遺伝子の発現レベルの標準値を使用するのが好ましい。標準値は当該技術分野で既知の任意の方法により得ることができる。例えば、平均値±2S.D.又は平均値±3S.D.の範囲が標準値として使用され得る。
【0206】
対照レベルは、任意の種類の治療の前に、病状(「陽性症例又は陰性症例」)が既知である癌患者(複数可)(対照又は対照群)から予め採取及び保管した試料(複数可)を用いることにより、試験生体試料と同時に求めてもよい。
【0207】
代替的には、対照レベルは、対照群から予め採取及び保管した試料におけるDKK1遺伝子の発現レベルを分析することにより得られる結果に基づく、統計的方法により求められ得る。さらに、対照レベルは、以前試験した細胞から得られた発現パターンのデータベースであり得る。さらに、本発明の一態様によれば、生体試料におけるDKK1遺伝子の発現レベルを、複数の参照試料から求められる複数の対照レベルと比較してもよい。患者から得た生体試料と同様の組織型に由来する参照試料から求められる対照レベルを使用するのが好ましい。
【0208】
生体試料におけるDKK1遺伝子の発現レベルは、発現レベルが対照レベルと1.0倍、1.5倍、2.0倍、5.0倍、10.0倍以上異なる場合、変化したと見なすことができる。代替的には、生体試料におけるDKK1遺伝子の発現レベルは、発現レベルが対照レベルより少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、80%、90%以上上昇又は減少した場合、変化したと見なすことができる。
【0209】
試験生体試料と対照レベルとの発現レベルの差は、対照、例えばハウスキーピング遺伝子に対して正規化することができる。例えば、βアクチン、グリセルアルデヒド3−リン酸脱水素酵素、及びリボソームタンパク質P1をコードするポリヌクレオチドを含む、発現レベルが癌細胞と非癌細胞との間で異ならないことが知られているポリヌクレオチドを、DKK1遺伝子の発現レベルを正規化するために使用してもよい。
【0210】
発現レベルは、患者から得た生体試料中の遺伝子転写産物を、当該技術分野で既知の技法を用いて検出することにより決定することができる。本方法により検出される遺伝子転写産物は、mRNA及びタンパク質等の転写産物及び翻訳生成物の両方を含む。
【0211】
例えば、DKK1遺伝子の転写産物は、ハイブリダイゼーション、例えば遺伝子転写産物に対してDKK1遺伝子プローブを使用するノーザンブロットハイブリダイゼーション分析により検出することができる。検出はチップ又はアレイ上で行なうことができる。DKK1遺伝子を含む複数の遺伝子の発現レベルを検出するためには、アレイの使用が好ましい。別の例としては、DKK1遺伝子に特異的なプライマーを使用する逆転写ポリメラーゼ連鎖反応法(RT−PCR)等の、増幅に基づく検出法が検出に採用され得る。DKK1遺伝子に特異的なプローブ又はプライマーは、従来の技法を用いてDKK1遺伝子の全配列を参照することにより設計及び調製することができる。
【0212】
具体的には、本方法に使用されるプローブ又はプライマーは、ストリンジェントな、中程度にストリンジェントな、又は低度にストリンジェントな条件下でDKK1遺伝子のmRNAにハイブリダイズする。本明細書中で使用される場合、「ストリンジェントな(ハイブリダイゼーション)条件」という表現は、プローブ又はプライマーがその標的配列にハイブリダイズするが、他の配列にはハイブリダイズしない条件を指す。ストリンジェントな条件は配列に依存し、異なる状況下で違ってくる。より長い配列の特異的ハイブリダイゼーションは、より短い配列よりも高い温度で観察される。一般に、ストリンジェントな条件の温度は、規定のイオン強度及びpHで、特異的な配列に関して熱融解点(thermal melting point)(Tm)よりも約5℃低いように選択される。Tmは、平衡状態で標的配列に対して相補的なプローブの50%が標的配列にハイブリダイズする温度(規定のイオン強度、pH、及び核酸濃度下)である。標的配列は通常、Tmで過剰に存在するため、平衡状態ではプローブの50%を占めている。典型的には、ストリンジェントな条件とは、塩濃度がpH7.0〜8.3でナトリウムイオンが約1.0M未満、典型的にはナトリウムイオン(又は他の塩)が約0.01M〜1.0Mであり、且つ温度が、短いプローブ又はプライマー(例えば、10ヌクレオチド〜50ヌクレオチド)に関しては少なくとも約30℃、より長いプローブ又はプライマーに関しては少なくとも約60℃である条件である。ストリンジェントな条件は、ホルムアミド等の脱安定化剤を添加することによっても達成することができる。
【0213】
代替的には、翻訳生成物を本発明の判定のために検出してもよい。例えば、DKK1タンパク質の量を決定することができる。翻訳生成物であるタンパク質の量を決定する方法には、DKK1タンパク質を特異的に認識する抗体を使用するイムノアッセイ法が含まれる。抗体はモノクローナルであっても、又はポリクローナルであってもよい。さらに、抗体の任意の断片又は修飾体(例えばキメラ抗体、scFv、Fab、F(ab’)2、Fv等)を、その断片がDKK1タンパク質に対する結合能力を保持する限り、検出に使用することができる。タンパク質の検出のためのこれらの種類の抗体を調製する方法は当該技術分野で既知であり、本発明においては、かかる抗体及びその等価物を調製するために任意の方法を採用することができる。
【0214】
DKK1遺伝子の発現レベルを、その翻訳生成物に基づいて検出する別の方法として、染色強度をDKK1タンパク質に対する抗体を用いた免疫組織化学的分析により観察することができる。すなわち、強い染色が観察されることにより、DKK1タンパク質の存在の増加、及び同時にDKK1遺伝子の高い発現レベルが示唆される。
【0215】
代替的には、本発明は被験体における癌、又は癌の発症の素因、癌転移、癌浸潤、又は癌細胞移動を診断するための試薬を提供する。好ましくは、本発明の試薬は、
(a)ストリンジェントな、中程度にストリンジェントな、又は低度にストリンジェントな条件下でDKK1遺伝子のmRNAにハイブリダイズするプローブ又はプライマー、又は
(b)DKK1タンパク質又はその部分ペプチドに結合することが可能な抗体又は抗体断片を含む。
【0216】
本発明の一実施形態として、試薬がDKK1のmRNAに対するプローブである場合、試薬を多孔質ストリップ等の固体マトリクス上に固定化して、少なくとも1つの検出部位を形成してもよい。多孔質ストリップの測定領域又は検出領域は、各々が核酸(プローブ)を含有する複数の部位を含んでいてもよい。試験ストリップはまた、陰性対照及び/又は陽性対照のための部位を含有してもよい。代替的には、対照部位は試験ストリップと分離したストリップ上に位置していてもよい。任意で、異なる検出部位は異なる量の固定化核酸を含有し得る。すなわち、第1の検出部位における量はより高く、後続の部位における量はより少ない。試験試料の添加時に、検出可能シグナルを提示する部位の数により、試料中に存在するDKK1のmRNA量の量的指標が提供される。検出部位は任意の適切で検出可能な形状に構成されるが、典型的には棒状、又は試験ストリップの全幅にわたる点の形状である。
【0217】
血清学的診断キット
本発明による癌の診断を実行するために使用される成分を予め組み合わせて、試験キットとして供給することができる。したがって、本発明は、
(i)血液試料におけるDKK1レベルを決定するためのイムノアッセイ試薬、及び
(ii)DKK1に対する陽性対照試料を含有する、癌を検出するためのキットを提供する。
【0218】
本発明のキットを構成するイムノアッセイ用の試薬は、上記に記載される様々なイムノアッセイに必要な試薬を含み得る。具体的には、イムノアッセイ用の試薬には、例えば測定される物質を認識する抗体が含まれる。抗体はイムノアッセイのアッセイ形式に応じて修飾することができる。本発明の好ましいアッセイ形式としてELISAを使用することができる。ELISAにおいては、例えば固相上に固定化される第1の抗体、及び標識を有する第2の抗体が一般に使用される。
【0219】
したがって、ELISA用のイムノアッセイ試薬は、固相担体上に固定化される第1の抗体を含み得る。微粒子又は反応容器の内壁を固相担体として使用することができる。微粒子として磁性粒子を使用することができる。代替的には、96ウェルマイクロプレート等のマルチウェルプレートが、反応容器として使用されることが多い。96ウェルマイクロプレートよりも体積の小さいウェルを高密度で備える、多数の試料を処理するための容器も知られている。本発明においては、これらの反応容器の内壁を固相担体として使用することができる。
【0220】
ELISA用のイムノアッセイ試薬は、標識を有する第2の抗体をさらに含み得る。ELISA用の第2の抗体は、酵素が直接又は間接的に結合した抗体であり得る。酵素を抗体に化学的に結合させる方法は既知である。例えば、免疫グロブリンを酵素的に切断して、可変領域を含有する断片を得ることができる。これらの断片において−SS−結合を−SH基に還元することにより、二官能性リンカーを付着させることができる。酵素を二官能性リンカーに予め結合させることにより、酵素を抗体断片に結合させることができる。代替的には、酵素を間接的に結合させるために、例えばアビジン−ビオチン結合を使用してもよい。すなわち、ビオチン化した抗体をアビジンが付着した酵素と接触させることにより、酵素を抗体に間接的に結合させることができる。また、第2の抗体を認識する酵素で標識した第3の抗体を用いて、酵素を第2の抗体に間接的に結合させることができる。例えば、上記で例示される酵素等の酵素を、抗体を標識するための酵素として使用することができる。
【0221】
本発明のキットは、DKK1に対する陽性対照をさらに含み得る。DKK1に対する陽性対照は、濃度を予め求めたDKK1を含む。好ましい濃度は、例えば本発明の試験方法における標準値として設定された濃度である。代替的には、より濃度の高い陽性対照も組み合わせることができる。陽性対照DKK1が本発明の陽性対照として好ましい。
【0222】
したがって、本発明はDKK1を正常値より高い濃度で含む、癌を検出するための陽性対照を提供する。代替的には、本発明は、癌の検出のための陽性対照の生成における、DKK1を正常値より高い濃度で含有する血液試料の使用に関する。肺癌及び食道癌の指標であるDKK1は以前に記載されている。しかしながら、広範な異なる癌に関する指標となり得るDKK1は本発明の新たな発見である。
【0223】
本発明における陽性対照は好ましくは液体形態である。本発明においては、血液試料が試料として使用される。したがって、対照として使用される試料も液体形態である必要がある。代替的には、乾燥陽性対照を使用時に所定の量の液体で溶解することにより、試験濃度を与える対照を調製することができる。乾燥陽性対照と共に、それを溶解するのに必要な量の液体を梱包することにより、使用者はそれらを単に混合するだけで必要な陽性対照を得ることができる。陽性対照として使用されるDKK1は天然由来のタンパク質であっても、又は組換えタンパク質であってもよい。陽性対照だけでなく、陰性対照を本発明のキットにおいて組み合わせることもできる。陽性対照又は陰性対照は、イムノアッセイにより示される結果が正確であることを確認するために使用される。
【0224】
DKK1レベルはまた、癌の治療過程をモニタリングするために使用してもよい。この方法において、試験生体試料は癌に対する治療を受けている被験体から提供される。好ましくは、癌は膵臓癌、胃癌、肝臓癌、前立腺癌、乳癌、胆管癌、子宮頸癌、食道癌、又は肺癌である。好ましくは、複数の試験生体試料を治療前、治療中、又は治療後の様々な時点で被験体から得る。次に、治療後の試料におけるDKK1レベルを治療前の試料におけるDKK1レベル、又は代替的には参照試料におけるDKK1レベル(例えば正常対照レベル)と比較してもよい。例えば、治療後のDKK1レベルが治療前のDKK1レベルより低い場合、その治療は有効であったと結論付けることができる。同様に、治療後のDKK1レベルが正常対照DKK1レベルと同様である場合にも、その治療は有効であったと結論付けることができる。
【0225】
「有効な」治療は、DKK1レベルを低下させるか、又は被験体における癌のサイズ、有病率、又は転移能を減少させる治療である。治療を予防的に適用する場合、「有効な」とは、治療が癌の発生を遅らせる若しくは予防するか、又は癌の臨床症状を緩和することを意味する。癌の判定は標準的な臨床プロトコルを用いて行なうことができる。さらに、治療の有効性は、癌を診断又は治療する任意の既知の方法に関して求められ得る。例えば、癌は病理組織学的に、又は慢性咳、嗄声、喀血、体重減少、食欲不振、息切れ、喘鳴、繰り返し起こる気管支炎若しくは肺炎の発作、及び胸痛等の症状の異常を同定することにより日常的に診断される。
【0226】
さらに、癌を診断する本方法は、患者から得た生体試料におけるDKK1レベルを参照試料におけるDKK1レベルと比較することにより、癌患者の予後を判定するために適用することもできる。好ましくは、癌は膵臓癌、胃癌、肝臓癌、前立腺癌、乳癌、胆管癌、子宮頸癌、肺癌、又は食道癌である。代替的には、生体試料におけるDKK1レベルを広範な病期にわたって測定し、患者の予後を判定してもよい。正常対照レベルと比較した場合のDKK1レベルの上昇は、あまり良好でない予後を示唆する。正常対照レベルと比較してDKK1レベルが同様であった場合、より良好な患者の予後が示唆される。
【0227】
抗癌化合物に関するスクリーニング
本発明に関して、本スクリーニング法により同定される薬剤は任意の化合物であっても、又は幾つかの化合物を含む組成物であってもよい。さらに、本発明のスクリーニング法によって細胞又はタンパク質に曝露される試験薬剤は、単一の化合物であっても、又は化合物の組み合わせであってもよい。化合物の組み合わせを方法に使用する場合、化合物は順次又は同時に接触させることができる。
【0228】
本発明のスクリーニング法においては、任意の試験薬剤、例えば細胞抽出物、細胞培養上清、微生物発酵産物、海洋生物の抽出物、植物抽出物、精製タンパク質又は粗タンパク質、ペプチド、非ペプチド化合物、合成微小分子化合物(アンチセンスRNA、siRNA、リボザイム等の核酸構築物等を含む)、及び天然化合物を使用することができる。本発明の試験薬剤はまた、(1)生物学的ライブラリ法、(2)空間的にアドレス可能なパラレル固相又は溶液相ライブラリ法、(3)デコンボリューションを必要とする合成ライブラリ法、(4)「一ビーズ一化合物」ライブラリ法、及び(5)アフィニティクロマトグラフィー選択を用いる合成ライブラリ法を含む、当該技術分野で既知のコンビナトリアルライブラリ法における多数のアプローチのいずれかを用いて得ることができる。アフィニティクロマトグラフィー選択を用いる生物学的ライブラリ法はペプチドライブラリに限定されるが、他の4つのアプローチは化合物のペプチドライブラリ、非ペプチドオリゴマーライブラリ、又は低分子ライブラリにも適用可能である(Lam, Anticancer Drug Des 1997, 12: 145-67)。分子ライブラリを合成する方法の例は、当該技術分野において見つけることができる(DeWitt et al., Proc Natl Acad Sci USA 1993, 90: 6909-13、Erb et al., Proc Natl Acad Sci USA 1994, 91: 11422-6、Zuckermann et al., J Med Chem 37: 2678-85, 1994、Cho et al., Science 1993, 261: 1303-5、Carell et al., Angew Chem Int Ed Engl 1994, 33: 2059、Carell et al., Angew Chem Int Ed Engl 1994, 33: 2061、Gallop et al., J Med Chem 1994, 37: 1233-51)。化合物のライブラリは、溶液中(Houghten, Bio/Techniques 1992, 13: 412-21を参照)、又はビーズ(Lam, Nature 1991, 354: 82-4)、チップ(Fodor, Nature 1993, 364: 555-6)、細菌(米国特許第5,223,409号明細書)、胞子(米国特許第5,571,698号明細書、同第5,403,484号明細書、及び同第5,223,409号明細書)、プラスミド(Cull et al., Proc Natl Acad Sci USA 1992, 89: 1865-9)、若しくはファージ(Scott and Smith, Science 1990, 249: 386-90、Devlin, Science 1990, 249: 404-6、Cwirla et al., Proc Natl Acad Sci USA 1990, 87: 6378-82、Felici, J Mol Biol 1991, 222: 301-10、米国特許出願第2002103360号明細書)上に提供され得る。
【0229】
本スクリーニング法のいずれかによってスクリーニングした化合物の構造の一部を付加、欠失、及び/又は置換により変換した化合物は、本発明のスクリーニング法により得られる薬剤に含まれる。
【0230】
さらに、スクリーニングした試験薬剤がタンパク質である場合、該タンパク質をコードするDNAを得るために、該タンパク質の全アミノ酸配列の各々を求めて、該タンパク質をコードする核酸配列を推測するか、又は得られるタンパク質の部分アミノ酸配列を分析して、該配列に基づいてオリゴDNAをプローブとして調製し、該プローブを用いてcDNAライブラリをスクリーニングして、該タンパク質をコードするDNAを得ることができる。得られるDNAについて、癌を治療又は予防するための候補である試験薬剤を調製する上でのその有用性を確認する。本明細書中に記載されるスクリーニングに有用な試験薬剤はまた、DKK1タンパク質、又はin vivoで元のタンパク質の生物活性を欠くその部分ペプチドに特異的に結合する抗体であり得る。抗体は上記に記載される。
【0231】
試験薬剤ライブラリの構築は当該技術分野で既知であるが、以下に本スクリーニング法のための試験薬剤、及びかかる薬剤のライブラリ構築を同定する際のさらなる指針を提供する。
【0232】
(i)分子モデリング:
試験薬剤ライブラリの構築は、求められる特性を有することが知られる化合物の分子構造、及び/又は阻害される標的分子、すなわちDKK1の分子構造の情報により容易になる。さらなる評価に適切な試験薬剤を予備スクリーニングする一アプローチは、試験薬剤とその標的との間の相互作用のコンピュータモデリングである。
【0233】
コンピュータモデリング技術により、選択した分子の三次元原子構造の可視化、及び該分子と相互作用する新たな化合物の合理的設計が可能になる。三次元構成は典型的には選択した分子のx線結晶学的分析又はNMRイメージングのデータに依存する。分子ダイナミクスは力場データを必要とする。コンピュータグラフィックスシステムは、新たな化合物が標的分子にどのように結合するかを予測可能にし、結合特異性を完全なものにする化合物及び標的分子の構造の実験的操作を可能にする。分子−化合物相互作用が、小さい変化が一方又は両方に加えられる場合に何であるか予測するには、通常は分子設計プログラム及び使用者間の使い勝手の良いメニュー形式のインターフェースで連結した、分子力学ソフトウェア及び計算主体の(computationally intensive)コンピュータが必要とされる。
【0234】
上記に概説される分子モデリングシステムの例には、CHARMmプログラム及びQUANTAプログラム(Polygen Corporation,Waltham,Mass)が含まれる。CHARMmは、エネルギー最小化及び分子ダイナミクスの機能を実行する。QUANTAは分子構造の構築、グラフィックモデリング、及び分析を実行する。QUANTAは、分子の互いの相互作用的構築、修飾、可視化、及び挙動分析を可能にする。
【0235】
Rotivinen et al. Acta Pharmaceutica Fennica 1988, 97: 159-66、Ripka, New Scientist 1988, 54-8、McKinlay & Rossmann, Annu Rev Pharmacol Toxiciol 1989, 29: 111-22、Perry & Davies, Prog Clin Biol Res 1989, 291: 189-93、Lewis & Dean, Proc R Soc Lond 1989, 236: 125-40, 141-62、及び核酸成分のモデル受容体に関するAskew et al., J Am Chem Soc 1989, 111: 1082-90等の多数の論文が、特異的タンパク質と相互作用する薬物のコンピュータモデリングを概説している。
【0236】
化学物質をスクリーニング及び図式化する他のコンピュータプログラムは、BioDesign, Inc.(Pasadena,Calif.)、Allelix, Inc.(Mississauga,Ontario,Canada)、及びHypercube, Inc.(Cambridge,Ontario)等の会社から入手可能である。例えば、DesJarlais et al., J Med Chem 1988, 31: 722-9、Meng et al., J Computer Chem 1992, 13: 505-24、Meng et al., Proteins 1993, 17: 266-78、Shoichet et al., Science 1993, 259: 1445-50を参照されたい。
【0237】
DKK1活性の推定阻害剤を同定した後、下記に詳述するように、コンビナトリアル化学技法を採用し、同定した推定阻害剤の化学的構造に基づいて、任意の数の変異体を構成することができる。得られた推定阻害剤又は「試験薬剤」のライブラリを本発明の方法を用いてスクリーニングし、DKK1活性を障害するライブラリの試験薬剤を同定してもよい。
【0238】
(ii)コンビナトリアル化学合成:
試験薬剤のコンビナトリアルライブラリは、DKK1活性の既知の阻害剤中に存在するコア構造の情報を含む、合理的薬物設計プログラムの一部として作製される。このアプローチにより、ハイスループットスクリーニングを促す適度なサイズにライブラリを維持することが可能になる。代替的には、単純にライブラリを構成する分子ファミリーの全順列を合成することにより単純な、特に短い重合体分子ライブラリが構築され得る。この後者のアプローチの一例は、6アミノ酸長の全ペプチドのライブラリである。かかるペプチドライブラリは6アミノ酸おきの配列順列を含み得る。このタイプのライブラリは、線形コンビナトリアル化学ライブラリと称される。
【0239】
コンビナトリアル化学ライブラリの調製は当業者に既知であり、化学合成又は生物学的合成のいずれかにより作り出すことができる。コンビナトリアル化学ライブラリとしては、ペプチドライブラリ(例えば米国特許第5,010,175号明細書、Furka, Int J Pept Prot Res 1991, 37: 487-93、Houghten et al., Nature 1991, 354: 84-6を参照)が挙げられるが、これらに限定されない。化学的多様性ライブラリを作り出すための他の化学を使用することもできる。かかる化学としては、ペプチド(例えば国際公開第91/19735号パンフレット)、コード化ペプチド(例えば国際公開第93/20242号パンフレット)、ランダムバイオオリゴマー(random bio-oligomer)(例えば国際公開第92/00091号パンフレット)、ベンゾジアゼピン(例えば米国特許第5,288,514号明細書)、ヒダントイン、ベンゾジアゼピン、及びジペプチド等のダイバーソマー(diversomer)(DeWitt et al., Proc Natl Acad Sci USA 1993, 90: 6909-13)、ビニル性ポリペプチド(Hagihara et al., J Amer Chem Soc 1992, 114: 6568)、グルコース骨格を有する非ペプチド性(nonpeptidal)ペプチド模倣体(Hirschmann et al., J Amer Chem Soc 1992, 114: 9217-8)、低分子化合物ライブラリの類似有機合成(Chen et al., J. Amer Chem Soc 1994, 116: 2661)、オリゴカルバメート(oligocarbamate)(Cho et al., Science 1993, 261: 1303)、及び/又はペプチジルホスホネート(peptidylphosphonate)(Campbell et al., J Org Chem 1994, 59: 658)、核酸ライブラリ(Ausubel, Current Protocols in Molecular Biology 1995 supplement、Sambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 1989, Cold Spring Harbor Laboratory, New York, USAを参照)、ペプチド核酸ライブラリ(例えば米国特許第5,539,083号明細書を参照)、抗体ライブラリ(例えば、Vaughan et al., Nature Biotechnology 1996, 14(3): 309-14、及び国際出願PCT/US96/10287号明細書を参照)、炭水化物ライブラリ(例えば、Liang et al., Science 1996, 274: 1520-22、米国特許第5,593,853号明細書を参照)、並びに有機低分子ライブラリ(例えば、ベンゾジアゼピン(Gordon EM. Curr Opin Biotechnol. 1995 Dec 1; 6(6): 624-31.)、イソプレノイド(米国特許第5,569,588号明細書)、チアゾリジノン及びメタチアゾノン(metathiazanone)(米国特許第5,549,974号明細書)、ピロリジン(米国特許第5,525,735号明細書及び同第5,519,134号明細書)、モルホリノ化合物(米国特許第5,506,337号明細書)、ベンゾジアゼピン(米国特許第5,288,514号明細書)等を参照)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0240】
(iii)ファージディスプレイ:
別のアプローチは、ライブラリを作製するために組換えバクテリオファージを使用する。この「ファージ法」(Scott & Smith, Science 1990, 249: 386-90、Cwirla et al., Proc Natl Acad Sci USA 1990, 87: 6378-82、Devlin et al., Science 1990, 249: 404-6)を用いて、非常に大きいライブラリを構築することができる(例えば106個〜108個の化学物質)。第2のアプローチは、主として化学的な方法を使用するが、Geysenの方法(Geysen et al., Molecular Immunology 1986, 23: 709-15、Geysen et al., J Immunologic Method 1987, 102: 259-74)、及びFodor et al.の方法(Science 1991, 251: 767-73)がその例である。Furka et al.(14th International Congress of Biochemistry 1988, Volume #5, Abstract FR: 013; Furka, Int J Peptide Protein Res 1991, 37: 487-93)、Houghten(米国特許第4,631,211号明細書)、及びRutter et al.(米国特許第5,010,175号明細書)は、アゴニスト又はアンタゴニストとして試験することのできるペプチドの混合物を生成する方法を記載している。
【0241】
コンビナトリアルライブラリを調製するための装置は市販されている(例えば、357 MPS、390 MPS(Advanced Chem Tech,Louisville KY)、Symphony(Rainin,Woburn,MA)、433A(Applied Biosystems,Foster City,CA)、9050 Plus(Millipore,Bedford,MA)を参照)。また、多数のコンビナトリアルライブラリ自体も市販されている(例えば、ComGenex(Princeton,N.J.)、Tripos, Inc.(St. Louis,MO)、3D Pharmaceuticals(Exton,PA)、Martek Biosciences(Columbia,MD)等を参照)。
【0242】
DKK1に結合する化合物のスクリーニング
本発明では、DKK1の過剰発現が膵臓癌、胃癌、肝臓癌、前立腺癌、乳癌、胆管癌、及び子宮頸癌の試料において検出されたが、正常な器官においては検出されなかった(図1B)。肺癌及び食道癌におけるDKK1過剰発現は、以前に記載されている(Yamabuki T et al. Cancer Res 2007; 67: 2517-2525.)。したがって、本発明はDKK1遺伝子、該遺伝子によりコードされるタンパク質を用いて、DKK1に結合する化合物をスクリーニングする方法を提供する。膵臓癌、胃癌、肝臓癌、前立腺癌、乳癌、胆管癌、子宮頸癌、肺癌、及び食道癌におけるDKK1の発現のために、DKK1に結合する化合物は膵臓癌、胃癌、肝臓癌、前立腺癌、乳癌、胆管癌、子宮頸癌、肺癌、及び食道癌の細胞の増殖又は浸潤を抑制し、したがってこれらの癌の治療又は予防に有用であると期待される。したがって、本発明はまた、膵臓癌、胃癌、肝臓癌、前立腺癌、乳癌、胆管癌、子宮頸癌、肺癌、及び食道癌の細胞の増殖又は浸潤を抑制する化合物をスクリーニングする方法、並びにDKK1ポリペプチドを用いて膵臓癌、胃癌、肝臓癌、前立腺癌、乳癌、胆管癌、子宮頸癌、肺癌、及び食道癌を治療又は予防する化合物をスクリーニングする方法を提供する。特に、このスクリーニング法の一実施形態は、
(a)試験化合物を、DKK1のポリヌクレオチドによりコードされるポリペプチドと接触させる工程、
(b)前記ポリペプチドと試験化合物との間の結合活性を検出する工程、及び
(c)前記ポリペプチドに結合する試験化合物を選択する工程を含む。
【0243】
本発明の方法を下記により詳細に記載する。
【0244】
スクリーニングに使用されるDKK1ポリペプチドは、組換えポリペプチド、又は天然に由来するタンパク質、又はその部分ペプチドであり得る。試験化合物に接触させるポリペプチドは、例えば精製ポリペプチド、可溶性タンパク質、担体に結合した形態、又は他のポリペプチドと融合した融合タンパク質であり得る。
【0245】
本発明に関して、幾つかの癌においてDKK1の過剰発現が検出されることが明らかとなった。したがって、DKK1に結合する試験化合物をスクリーニングすることにより、DKK1の過剰発現及び上方制御のいずれか又は両方を特徴とする癌を治療又は予防する可能性のある候補化合物を同定することができる。これらの候補化合物が癌を治療又は予防する可能性は、癌に対する治療剤を同定する第2のスクリーニング及び/又はさらなるスクリーニングにより評価することができる。
【0246】
DKK1ポリペプチドを用いて、例えばDKK1ポリペプチドに結合するタンパク質をスクリーニングする方法として、当業者に既知の多くの方法を使用することができる。かかるスクリーニングは、例えば免疫沈降法により、具体的には以下のように行なうことができる。DKK1ポリペプチドをコードする遺伝子を、pSV2neo、pcDNA I、pcDNA3.1、pCAGGS、及びpCD8等の外来遺伝子用の発現ベクターにインサートすることにより、宿主(例えば動物)細胞等において発現させる。発現に使用するプロモーターは一般に使用され得る任意のプロモーターであり、例えば、SV40初期プロモーター(Rigby in Williamson (ed.), Genetic Engineering, vol. 3. Academic Press, London, 83-141 (1982))、EF−αプロモーター(Kim et al., Gene 91: 217-23 (1990))、CAGプロモーター(Niwa et al., Gene 108: 193 (1991))、RSV LTRプロモーター(Cullen, Methods in Enzymology 152: 684-704 (1987))、SRalphaプロモーター(Takebe et al., Mol Cell Biol 8: 466 (1988))、CMV前初期プロモーター(Seed and Aruffo, Proc Natl Acad Sci USA 84: 3365-9 (1987))、SV40後期プロモーター(Gheysen and Fiers, J Mol Appl Genet 1: 385-94 (1982))、アデノウイルス後期プロモーター(Kaufman et al., Mol Cell Biol 9: 946 (1989))、HSV TKプロモーター等を含み得る。外来遺伝子を発現するための宿主細胞への遺伝子の導入は、任意の方法、例えばエレクトロポレーション法(Chu et al., Nucleic Acids Res 15: 1311-26 (1987))、リン酸カルシウム法(Chen and Okayama, Mol Cell Biol 7: 2745-52 (1987))、DEAEデキストラン法(Lopata et al., Nucleic Acids Res 12: 5707-17 (1984)、Sussman and Milman, Mol Cell Biol 4: 1641-3 (1984))、リポフェクチン法(Derijard B., Cell 76: 1025-37 (1994)、Lamb et al., Nature Genetics 5: 22-30 (1993)、Rabindran et al., Science 259: 230-4 (1993))等によって行なうことができる。DKK1遺伝子によりコードされるポリペプチドは、該ポリペプチドのN末端又はC末端に対する特異性が明らかとなっているモノクローナル抗体のエピトープを導入することにより、モノクローナル抗体の認識部位(エピトープ)を含有する融合タンパク質として発現させることができる。市販のエピトープ−抗体システムを使用することができる(Experimental Medicine 13: 85-90 (1995))。その複数のクローニング部位を使用して、例えばβガラクトシダーゼ、マルトース結合タンパク質、グルタチオンS−トランスフェラーゼ、緑色蛍光タンパク質(GFP)等との融合タンパク質を発現することのできるベクターが市販されている。また、融合によりDKK1ポリペプチドの特性が変化しないように、数個〜十数個のアミノ酸の中からわずかなエピトープのみを導入することにより調製される融合タンパク質も報告されている。ポリヒスチジン(His−tag)、インフルエンザウイルスの血球凝集素(influenza aggregate)HA、ヒトc−myc、FLAG、水疱性口内炎ウイルス糖タンパク質(VSV−GP)、T7遺伝子10タンパク質(T7−tag)、ヒト単純ヘルペスウイルス糖タンパク質(HSV−tag)、E−tag(モノクローナルファージ(monoclonal phage)上のエピトープ)等のエピトープ、及びこれらを認識するモノクローナル抗体をエピトープ−抗体システムとして、DKK1ポリペプチドに結合するタンパク質のスクリーニングに使用することができる(Experimental Medicine 13: 85-90 (1995))。
【0247】
免疫沈降においては、これらの抗体を適当な界面活性剤を用いて調製される細胞可溶化物に添加することにより免疫複合体を形成する。免疫複合体はDKK1ポリペプチド、DKK1ポリペプチドと結合する能力を有するポリペプチド、及び抗体から成る。免疫沈降は、上記エピトープに対する抗体を使用する以外に、DKK1ポリペプチドに対する抗体を用いて行なうこともでき、この抗体は上記で記載されるように調製することができる。抗体がマウスIgG抗体である場合、免疫複合体は、例えばプロテインAセファロース又はプロテインGセファロースにより沈降し得る。DKK1遺伝子によりコードされるポリペプチドをGST等のエピトープを有する融合タンパク質として調製する場合、免疫複合体は、グルタチオン−セファロース4B等のこれらのエピトープと特異的に結合する物質を用いて、DKK1ポリペプチドに対する抗体を使用する場合と同じようにして形成することができる。
【0248】
免疫沈降は以下のように、又は例えば文献(Harlow and Lane, Antibodies, 511-52, Cold Spring Harbor Laboratory publications, New York (1988))における方法に従って行なうことができる。
【0249】
SDS−PAGEは、免疫沈降タンパク質の分析に一般に使用され、結合したタンパク質は、適当な濃度のゲルを用いてタンパク質の分子量により分析される。DKK1ポリペプチドに結合したタンパク質は、クマシー染色又は銀染色等の一般の染色法によって検出することが困難であるため、タンパク質に対する検出感度は細胞を、細胞中のタンパク質を標識する放射性同位体35S−メチオニン又は35S−システインを含有する培養培地中で培養し、タンパク質を検出することにより改善され得る。標的タンパク質はSDS−ポリアクリルアミドゲルから直接精製することができ、タンパク質の分子量が明らかとなっている場合にその配列を決定することができる。
【0250】
DKK1ポリペプチドに結合するタンパク質を、該ポリペプチドを用いてスクリーニングする方法として、例えばウエストウエスタンブロット分析(Skolnik et al., Cell 65: 83-90 (1991))を使用することができる。具体的には、DKK1ポリペプチドに結合するタンパク質は、DKK1ポリペプチドに結合するタンパク質を発現することが期待される培養細胞(例えばLNCaP、22Rv1、PC−3、DU−145、及びC4−2B)からcDNAライブラリを、ファージベクター(例えばZAP)を用いて調製し、LB−アガロース上でタンパク質を発現させ、発現されたタンパク質をフィルタ上に固定し、精製及び標識したDKK1ポリペプチドを該フィルタと反応させ、DKK1ポリペプチドに結合したタンパク質を発現するプラークを標識によって検出することにより得ることができる。本発明のポリペプチドは、ビオチンとアビジンとの間の結合を利用するか、又はDKK1ポリペプチドと特異的に結合する抗体、又はDKK1ポリペプチドに融合させたペプチド若しくはポリペプチド(例えばGST)を利用することにより標識してもよい。放射性同位体又は蛍光等を用いる方法も使用することができる。
【0251】
代替的には、本発明のスクリーニング法の別の実施形態では、細胞を利用するツーハイブリッドシステムを使用してもよい(「MATCHMAKER Two−Hybrid system」、「Mammalian MATCHMAKER Two−Hybrid Assay Kit」、「MATCHMAKER one−Hybrid system」(Clontech);「HybriZAP Two−Hybrid Vector System」(Stratagene);参考文献は"Dalton and Treisman, Cell 68: 597-612 (1992)"、"Fields and Sternglanz, Trends Genet 10: 286-92 (1994)")。
【0252】
ツーハイブリッドシステムにおいては、本発明のポリペプチドをSRF−結合領域又はGAL4−結合領域に融合させ、酵母細胞において発現させる。cDNAライブラリを、本発明のポリペプチドに結合するタンパク質を発現することが期待される細胞から、ライブラリが発現される場合に、VP16転写活性化領域又はGAL4転写活性化領域に融合するように調製することができる。次に、cDNAライブラリを上記酵母細胞に導入し、ライブラリに由来するcDNAを検出される陽性クローンから単離する(本発明のポリペプチドに結合するタンパク質が酵母細胞において発現される場合、その2つの結合がレポーター遺伝子を活性化するため、陽性クローンが検出可能となる)。cDNAによりコードされるタンパク質は、上記で単離されるcDNAを大腸菌に導入し、タンパク質を発現させることにより調製することができる。レポーター遺伝子として、HIS3遺伝子に加えて、例えばAde2遺伝子、lacZ遺伝子、CAT遺伝子、ルシフェラーゼ遺伝子等も使用することができる。
【0253】
DKK1遺伝子によりコードされるポリペプチドに結合する化合物は、アフィニティクロマトグラフィーを用いてもスクリーニングすることができる。例えば、本発明のポリペプチドをアフィニティーカラムの担体上に固定化させ、本発明のポリペプチドに結合することが可能なタンパク質を含有する試験化合物をカラムに適用してもよい。本明細書における試験化合物は、例えば細胞抽出物、細胞可溶化物等であり得る。試験化合物を投入した後、カラムを洗浄し、本発明のポリペプチドに結合した化合物を調製することができる。試験化合物がタンパク質である場合、得られるタンパク質のアミノ酸配列を分析して、該配列に基づいてオリゴDNAを合成し、オリゴDNAをプローブとして用いてcDNAライブラリをスクリーニングして、タンパク質をコードするDNAを得る。
【0254】
本発明においては、表面プラズモン共鳴現象を用いるバイオセンサーを、結合した化合物を検出又は定量化する手段として使用してもよい。かかるバイオセンサーを使用する場合、本発明のポリペプチドと試験化合物との間の相互作用は、わずかな量のポリペプチドを用いて、標識することなく、表面プラズモン共鳴シグナルとして即時に観察することができる(例えばBIAcore(Pharmacia))。したがって、BIAcore等のバイオセンサーを用いて、本発明のポリペプチドと試験化合物との間の結合を評価することが可能である。
【0255】
タンパク質だけでなくDKK1タンパク質に結合する化学物質(アゴニスト及びアンタゴニストを含む)をも単離するために、固定化したDKK1ポリペプチドを合成化学物質、又は天然物質バンク、又はランダムファージペプチドディスプレイライブラリに曝露する場合に結合する分子をスクリーニングする方法、及びコンビナトリアル化学技法に基づくハイスループット技法を用いてスクリーニングする方法(Wrighton et al., Science 273: 458-64 (1996)、Verdine, Nature 384: 11-13 (1996)、Hogan, Nature 384: 17-9 (1996))が当業者に既知である。
【0256】
DKK1の生物活性を抑制する化合物のスクリーニング
本発明において、DKK1タンパク質は癌細胞の細胞増殖(図4及び図5)、癌浸潤(図3)、及び癌の移動(図2B)を促進する活性を有する。本発明は、この生物活性を指標として用いて膵臓癌、胃癌、肝臓癌、前立腺癌、乳癌、胆管癌、子宮頸癌、肺癌、及び食道癌の細胞の増殖、浸潤、若しくは移動を抑制する化合物をスクリーニングする方法、並びに種々の癌を治療若しくは予防するか、又は膵臓癌、胃癌、肝臓癌、前立腺癌、乳癌、胆管癌、子宮頸癌、肺癌、及び食道癌の転移、浸潤、若しくは移動を阻害する化合物をスクリーニングする方法を提供する。したがって、本発明は、
(a)試験化合物を、DKK1のポリヌクレオチドによりコードされるポリペプチドと接触させる工程、
(b)工程(a)のポリペプチドの生物活性を検出する工程、及び
(c)DKK1のポリヌクレオチドによりコードされるポリペプチドの生物活性を、試験化合物の非存在下で検出される該ポリペプチドの生物活性と比較して、抑制する試験化合物を選択する工程を含む、DKK1遺伝子によりコードされるポリペプチドを用いて膵臓癌、胃癌、肝臓癌、前立腺癌、乳癌、胆管癌、子宮頸癌、肺癌、及び食道癌を治療若しくは予防するか、又は癌の転移、浸潤、若しくは移動を阻害する化合物をスクリーニングする方法を提供する。
【0257】
本発明の方法を下記により詳細に記載する。
【0258】
DKK1タンパク質の生物活性を保持する限り、任意のポリペプチドをスクリーニングに使用することができる。かかる生物活性には、DKK1タンパク質の細胞増殖活性、癌浸潤、及び癌細胞移動が含まれる。例えば、DKK1タンパク質を使用することができるが、これらのタンパク質に機能的に等価なポリペプチドもまた使用することができる。かかるポリペプチドは、細胞により内因的又は外因的に発現され得る。
【0259】
このスクリーニングにより単離される化合物は、DKK1遺伝子によりコードされるポリペプチドのアンタゴニストの候補である。「アンタゴニスト」という用語は、ポリペプチドの機能を、それに結合することにより阻害する分子を指す。該用語はまた、DKK1をコードする遺伝子の発現を低下させるか又は阻害する分子を指す。さらに、このスクリーニングにより単離される化合物は、DKK1ポリペプチドの分子(DNA及びタンパク質を含む)とのin vivo相互作用を阻害する化合物の候補である。
【0260】
本方法において検出される生物活性が細胞増殖、癌浸潤、及び癌細胞移動である場合、この生物活性は、例えばDKK1ポリペプチドを発現する細胞を調製し、該細胞を試験化合物の存在下で培養し、細胞周期等の測定、及びコロニー形成能の測定(例えば図4に示す)、マトリゲル浸潤アッセイ(実施例に記載)又は創傷移動アッセイ(下記実施例に記載)によって細胞増殖の速度を決定することにより検出することができる。
【0261】
本明細書中に規定する「生物活性を抑制する」とは、DKK1の生物活性を、化合物の非存在下での生物活性と比較して、少なくとも10%、より好ましくは少なくとも25%、50%、又は75%、最も好ましくは90%抑制することを包含する。本発明に関して、DKK1タンパク質が以下の活性を促進することが明らかとなった:
癌細胞の細胞増殖
癌浸潤
癌転移
癌の移動。
【0262】
したがって、DKK1の過剰発現及び上方制御のいずれか又は両方を特徴とする癌のこれらの活性を抑制する試験化合物をスクリーニングすることにより、癌を治療又は予防する可能性のある候補化合物を同定することができる。これらの候補化合物の癌を治療又は予防する可能性は、癌に対する治療剤を同定する第2の及び/又はさらなるスクリーニングにより評価され得る。例えば、DKK1タンパク質に結合する化合物が上記に記載される癌の活性を阻害する場合、かかる化合物はDKK1に特異的な治療効果を有すると結論付けることができる。
【0263】
DKK1の発現を変更する化合物のスクリーニング
本発明においては、抗DKK1抗体は癌細胞増殖及び浸潤の阻害を引き起こす(図3及び図4)。したがって、DKK1の発現を阻害する化合物は、膵臓癌、胃癌、肝臓癌、前立腺癌、乳癌、胆管癌、子宮頸癌、肺癌、及び食道癌の細胞の増殖及び浸潤を抑制し、したがってこれらの癌を治療若しくは予防するか、又はその転移又は浸潤を阻害するのに有用であると期待される。したがって、本発明はまた、膵臓癌、胃癌、肝臓癌、前立腺癌、乳癌、胆管癌、子宮頸癌、肺癌、及び食道癌の細胞の増殖又は浸潤を抑制する化合物をスクリーニングする方法、並びに膵臓癌、胃癌、肝臓癌、前立腺癌、乳癌、胆管癌、子宮頸癌、肺癌、及び食道癌を治療若しくは予防するか、又はその転移又は浸潤を阻害する化合物をスクリーニングする方法を提供する。本発明に関して、かかるスクリーニングには、例えば、
(a)候補化合物を、DKK1を発現する細胞と接触させる工程、及び
(b)対照と比較して、DKK1の発現レベルを低下させる候補化合物を選択する工程が含まれ得る。
【0264】
本発明の方法を下記により詳細に記載する。
【0265】
DKK1を発現する細胞には、例えば膵臓癌、胃癌、肝臓癌、前立腺癌、乳癌、胆管癌、子宮頸癌、肺癌、及び食道癌から樹立される細胞株が含まれ、かかる細胞は本発明の上記スクリーニングに使用することができる(例えばA549、Capan−2、HPAF−11、Panc02.03、SUIT−2、HepG2、HUH−6、HUH−7、SNU−398、SNU−423、SNU−449、SNU−475、BT−549、HCC1937、MCF−7、MDA−MB−157、DU145、LNCap、及びPC−3)。発現レベルは当業者に既知の方法、例えばRT−PCR、ノーザンブロットアッセイ、ウェスタンブロットアッセイ、免疫染色、及びフローサイトメトリー分析により予想することができる。本明細書中に規定する「発現レベルを低下させる」とは、DKK1の発現レベルを、化合物の非存在下での発現レベルと比較して、好ましくは少なくとも10%、より好ましくは少なくとも25%、50%、又は75%、最も好ましくは95%低下させることである。本明細書における化合物は化学物質、二本鎖ヌクレオチドを含む。スクリーニング法においては、DKK1の発現レベルを低下させる化合物を膵臓癌、胃癌、肝臓癌、前立腺癌、乳癌、胆管癌、子宮頸癌、肺癌、及び食道癌の治療又は予防に使用される候補化合物として選択することができる。
【0266】
代替的には、本発明のスクリーニング法には、
(a)候補化合物を、DKK1の転写調節領域及び転写調節領域の制御下で発現されるレポーター遺伝子から成るベクターを導入した細胞と接触させる工程、
(b)上記レポーター遺伝子の発現又は活性を測定する工程、並びに
(c)上記レポーター遺伝子の発現又は活性を低下させる候補化合物を選択する工程が含まれ得る。
【0267】
適切なレポーター遺伝子及び宿主細胞は当該技術分野で既知である。適切なレポーター遺伝子の例としては、ルシフェラーゼ、緑色蛍光タンパク質(GFP)、イソギンチャクモドキ(Discosoma sp.)赤色蛍光タンパク質(DsRed)、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)、lacZ、及びβグルクロニダーゼ(GUS)が挙げられるが、これらに限定されない。宿主細胞はCOS7、HEK293、HeLa等である。スクリーニングに必要とされるレポーター構築物は、レポーター遺伝子配列とDKK1の転写調節領域とを連結することにより調製することができる。本明細書におけるDKK1の転写調節領域は、開始コドンから少なくとも500bp上流、好ましくは1000bp、より好ましくは5000bp又は10000bp上流までの領域である。転写調節領域を含有するヌクレオチドセグメントは、ゲノムライブラリから単離することができ、又はPCRによって増幅させる(propagated)ことができる。転写調節領域を同定する方法、さらにアッセイプロトコルは既知である(Molecular Cloning third edition chapter 17, 2001, Cold Springs Harbor Laboratory Press)。上記レポーター構築物を含有するベクターを、宿主細胞に感染させ、レポーター遺伝子の発現又は活性を当該技術分野で既知の方法により(例えばルミノメーター、吸光度計、フローサイトメーター等を用いて)検出する。本明細書中に規定する「発現又は活性を低下させる」とは、レポーター遺伝子の発現又は活性を、化合物の非存在下での発現又は活性と比較して、好ましくは少なくとも10%、より好ましくは少なくとも25%、50%、又は75%、最も好ましくは95%低下させることである。
【0268】
本発明に関して、DKK1の過剰発現及び上方制御のいずれか又は両方を特徴とする癌においてDKK1の過剰発現が検出されることが明らかとなった。したがって、DKK1の発現レベルを低下させる試験化合物をスクリーニングすることにより、癌を治療又は予防する可能性のある候補化合物を同定することができる。これらの候補化合物の癌を治療又は予防する可能性は、癌に対する治療剤を同定する第2の及び/又はさらなるスクリーニングにより評価され得る。
【実施例】
【0269】
以下に、実施例を参照して本発明を詳細に記載する。しかしながら、実施例に記載される材料、方法等は、本発明の態様の例示にすぎず、決して本発明の範囲の限定を意図するものではない。したがって、実施例に記載されるものと同様又は等価の材料、方法等を本発明の実施又は試験に際して使用してもよい。
【0270】
実施例1 一般的方法
細胞株及び組織試料
この研究に使用した3種のヒト肺癌細胞株は、2種の腺癌(A549及びPC−14)、及び小細胞肺癌(SBC−3)を含むものであった。この研究に使用したヒト癌細胞株は、13種の膵臓癌細胞株(Capan−1、Capan−2、HPAF−11、KLM−1、KP−1N、Miapaca−2、Panc02.03、Panc08.13、PK−1、PK−59、PK−9、PL−45、及びSUIT−2)、4種の胃癌細胞株(MKN1、MKN45、MKN7、及びMKN74)、7種の肝臓癌細胞株(HepG2、HUH−6、HUH−7、SNU−398、SNU−423、SNU−449、及びSNU−475)、14種の乳癌細胞株(BT−20、BT−474、BT−549、HCC1143、HCC1500、HCC1937、MCF−7、MDA−MB−157、MDA−MB−231、MDA−MB−453、MDA−MB−4365、SK−BR−3、T47D、及びZR−75−1)、並びに4種の前立腺癌細胞株(DU145、LNCap、PC−3、及び22RV1)であった。全ての細胞を10%ウシ胎仔血清(FCS)を補充した適当な培地において単層で成長させ、5%COの加湿空気中37℃に維持した。原発性癌試料は、神奈川県立がんセンター(神奈川県、日本)において根治的外科手術を受ける患者からインフォームドコンセントを得た上で先に入手した。臨床病期はUICC TNM分類(Diarra D et al. Nat Med. 2007; 13:156-63.)に従って判断した。この研究及び言及した全ての臨床材料の使用は、個々の倫理審査委員会によって認可されたものであった。
【0271】
血清試料
血清試料は、207人の健常対照個体から書面によるインフォームドコンセントを得た上で入手した。日本のオーダーメイド医療実現化プロジェクト(バイオバンクジャパン)に登録された97人の結腸直腸癌患者、41人の膵臓癌患者、101人の胃癌患者、168人のHCC患者、27人の前立腺癌患者、169人の乳癌患者、107人の胆管癌患者、及び182人の子宮頸癌患者からもインフォームドコンセントを得た上で血清試料を入手した。合計で892人の癌患者から得たこれらの血清試料を、以下の基準に基づいて研究に選択した:(a)患者は新たに診断され、未治療であった、及び(b)患者の腫瘍が病理学的に癌であると診断された(I期〜IV期)。診断時に血清を得て、−150℃で保管した。
【0272】
半定量的RT−PCR
各々の試料から得た合計で3μgアリコートのmRNAを、ランダムプライマー(Roche Diagnostics)及びSuperscript II(Invitrogen,Carlsbad,CA)を用いて一本鎖cDNAに逆転写させた。DKK1に特異的な以下の合成プライマーセット、又は内部対照としてβアクチン(ACTB)に特異的なプライマーを用いて半定量的RT−PCR実験を行なった:
Dickkopf相同体1(DKK1)、
5'−TAGAGTCTAGAACGCAAGGATCTC−3'(配列番号3)及び
5'−CAAAAACTATCACAGCCTAAAGGG−3'(配列番号4)、
ACTB、
5'−GAGGTGATAGCATTGCTTTCG−3'(配列番号5)及び
5'−CAAGTCAGTGTACAGGTAAGC−3’(配列番号6)。
【0273】
PCR反応は、生成物強度が増幅の直線位相(linear phase)内に確実に収まるように、サイクル数に関して最適化した。
【0274】
ELISA
DKK1の血清レベルは、最初に構築されたELISAシステムにより測定した(20)。まず初めに、捕捉抗体としてDKK1に特異的なウサギポリクローナル抗体(Santa Cruz,Santa Cruz,CA)を96ウェルマイクロプレート(Nunc,Roskilde,Denmark)に添加し、室温で2時間インキュベートした。非結合抗体を残らず洗い落とした後、ブロッキングのために5%BSAをウェルに添加し、4℃で16時間インキュベートした。洗浄後、3倍希釈した血清をウェルに添加し、室温で2時間インキュベートした。非結合物質を残らず洗い落とした後、ビオチン標識用キット−NH(同仁化学研究所、熊本県、日本)を用いてDKK1に特異的なビオチン化したポリクローナル抗体を、検出抗体としてウェルに添加し、室温で2時間インキュベートした。洗浄して非結合抗体−酵素試薬を残らず除去した後、HRP−ストレプトアビジンをウェルに添加し、20分間インキュベートした。洗浄後、基質溶液(R&D Systems, Inc.,Minneapolis,MN)をウェルに添加し、30分間反応させた。100μlの2N硫酸を添加することにより反応を停止した。色強度を光度計を用いて参照波長570nmで450nmの波長で求めた。
【0275】
マトリゲル浸潤アッセイ
DKK1を発現するp3XFLAGタグ付き(C末端)プラスミド、又はモックプラスミドのいずれかをトランスフェクトしたNIH3T3細胞及びCOS−7細胞を、10%FCSを含有するDMEM中でコンフルエント近くまで増殖させた。細胞をトリプシン処理により採取し、血清又はプロテイナーゼ阻害剤を添加していないDMEM中で洗浄し、1×10細胞/mlの濃度でDMEM中に懸濁した。細胞懸濁液を調製する前に、マトリゲルマトリクス(Becton Dickinson Labware)の乾燥層を室温で2時間、DMEMを用いて再水和した。10%FCSを含有するDMEM(0.75ml)を、24ウェルマトリゲルインベージョンチャンバにおける各々の下部チャンバ(lower chamber)に添加し、0.5ml(5×10細胞)の細胞懸濁液を上部チャンバの各々のインサートに添加した。インサートのプレートを37℃で24時間インキュベートした。インキュベート後、チャンバを処理した;供給業者(Becton Dickinson Labware,Franklin Lakes,NJ)の指示通りに、マトリゲルを通過して浸潤した細胞を固定し、ギムザ染色した。
【0276】
創傷移動アッセイ
DKK1を発現するp3XFLAGタグ付き(C末端)プラスミド、又はモックプラスミドのいずれかをトランスフェクトしたNIH−3T3細胞を、1%FCSを含有するDMEM中でコンフルエント近くまで増殖させた。200μlの滅菌ピペットチップを用いて、ディッシュを引っ掻いて3つの別個の創傷をつけ、ディッシュを10%FCSを含有するDMEM中、37℃で12時間インキュベートした。0時間、8時間、12時間に創傷を観察した。
【0277】
マウスモデル
動物実験は、機関及び国家の実験動物の管理及び使用に関する指針に従って行ない、動物実験委員会により認可された。1×10個のA549細胞又はPC−14細胞を、6週齢雄BALB/cヌードマウス(nu/nu)の右肩に皮下移植した。腫瘍(平均で体積50mm)を有するマウスを無作為に2つの群に分け、1日目、3日目、5日目、7日目、及び9日目(合計で5回の注射)に100μg/500μlのウサギポリクローナル抗ヒトDKK1抗体(Santa Cruz)、又は100μg/500μlの正常なウサギIgG(対照;Santa Cruz)を腹腔内投与した。腫瘍体積をキャリパーを用いて1日1回測定し、そのデータを式(体積=0.52×(幅)×(長さ))に適用して、スフェロイドの体積を算出した。
【0278】
実施例2 DKK1の、様々な癌組織における発現、及び癌患者における血清レベル
DKK1のヒト癌スクリーニングの診断用バイオマーカーとしての可能性を検証するために、初めにDKK1転写産物の発現の上昇を、幾つかの器官(膵臓、大腸、胃、肝臓、前立腺、乳腺、胆管、及び子宮)の癌細胞株において確認した。その発現を13種の膵臓癌細胞株のうち5種、4種の胃癌細胞株のうち2種、7種の肝臓癌細胞株の7種、14種の乳癌細胞株のうち6種、及び4種の前立腺癌細胞株の4種において半定量的RT−PCR実験によって検出したが、DKKIの転写産物は、対応する正常な組織においてはほとんど検出不可能であった(図1A)。
【0279】
DKK1タンパク質は、肺癌又は食道癌を有する患者の血清中に分泌されることから(Yamabuki T et al. Cancer Res 2007; 67: 2517-2525.)、様々な種類の癌を有する患者からの血清学的試料においてELISA実験を行なった。血清DKK1の平均(±1SD)は、41人の膵臓癌患者において14.8±18.6U/ml、101人の胃癌患者において17.2±18.0U/ml、168人のHCC患者において18.3±16.9U/ml、27人の前立腺癌患者において29.7±25.3U/ml、169人の乳癌患者において27.0±22.4U/ml、107人の胆管癌患者において12.5±12.2U/ml、182人の子宮頸癌患者において28.7±28.0U/mlであった(図1B)。対照的に、207人の健常個体におけるDKK1の血清レベルの平均(±1SD)は、6.1±5.0U/mlであった。血清DKK1タンパク質レベルは、膵臓癌(P=0.286;マンホイットニーU検定)を除き、健常ドナーより癌患者において有意に高かった(P<0.001;マンホイットニーU検定)。血清DKK1陽性症例の割合は、膵臓癌が34.1%(41人中14人)、胃癌が38.6%(101人中39人)、HCCが53.0%(168人中89人)、前立腺癌が55.6%(27人中15人)、乳癌が65.1%(169人中110人)、胆管癌が29.9%(107人中32人)、子宮頸癌が59.3%(182人中108人)であった。この結果によって、様々な組織に由来する癌の大多数の検出に関するバイオマーカーとしての血清DKK1の大きな可能性が示された。
【0280】
実施例3 DKK1による細胞移動の活性化
本発明者らは以前、DKK1陽性腫瘍を有する肺癌及び食道癌の患者が、DKK1陰性腫瘍を有する患者より短い癌特異的生存期間を示し、DKK1がin vitroにおいて細胞浸潤活性を有することを実証した(Yamabuki T et al. Cancer Res 2007; 67: 2517-2525.)。本発明において、DKK1を過剰発現する細胞の転移能をさらに確認した。最初にRT−PCR分析によって、原発性肺腺癌に由来する転移性脳腫瘍におけるDKK1発現レベルは、原発性肺腺癌におけるDKK1発現レベルより高い可能性があることが観察された(図2A)。また、細胞移動においてDKK1が果たし得る役割を、NIH3T3細胞を用いて創傷移動アッセイにより検証した。いずれの細胞株へのDKK1のcDNAのトランスフェクションも、モックベクターをトランスフェクトした細胞と比較して、その移動活性を有意に向上させた(図2B)。
【0281】
実施例4 抗DKK1抗体による細胞浸潤活性の阻害
DKK1は哺乳類細胞の非常に浸潤性の表現型に寄与し得ることから(Yamabuki T et al. Cancer Res 2007; 67: 2517-2525.)、抗DKK1抗体(50nM又は100nM)がDKK1発現プラスミドをトランスフェクトしたCOS−7細胞の浸潤を阻害することができるかどうかを調査した。期待されたように、DKK1過剰発現に起因する細胞浸潤は抗DKK1抗体により抑制され、マトリゲルを通過して浸潤したCOS−7細胞の数は、DKK1をトランスフェクトしていないCOS−7細胞の数とほぼ同等となった(図3A)。
【0282】
次に、マトリゲルを通過する肺癌浸潤活性に対する抗DKK1抗体(50nM又は100nM)の効果を、高い内因性DKK1発現レベルを示すA549細胞を用いて調査した。マトリゲルアッセイを用いて検出されたA549細胞の細胞浸潤は、その培養培地への抗DKK1抗体の添加により用量依存的に抑制されたが(100nMについてはP<0.0001、50nMについてはP=0.0003;各々対応のあるt検定;図3B)、DKK1をほとんど検出不可能なレベルでしか発現しないPC−14細胞の細胞浸潤は影響を受けなかった(図3C)。
【0283】
実施例5 抗DKK1抗体による肺癌細胞成長の阻害
高い内因性DKK1発現レベルを示すA549細胞の成長に対する抗DKK1抗体(50nM又は100nM)の効果を次に調査した。A549細胞の成長は、その培養培地への抗DKK1抗体の添加により用量依存的に抑制されたが(100nMについてはP=0.006、50nMについてはP=0.136;各々対応のあるt検定;図4A)、DKK1をほとんど発現しない2つの肺癌細胞株PC−14及びSBC−3の成長は影響を受けなかった(図4B)。
【0284】
実施例6 マウスにおける抗DKK1抗体による肺癌細胞成長の阻害
in vitro研究に基づき、腫瘍移植したマウスモデルにおける腫瘍成長に対する抗DKK1抗体の効果を検証した。抗DKK1抗体の腹腔内全身投与によるマウスの処理(100μg/500μl/動物;1日目、3日目、5日目、7日目、及び9日目(合計で5回の注射))によって、同じ投与量の対照IgGで処理したマウスと比較して、腫瘍成長の有意な阻害がもたらされた(図5A)。一方、マウスに移植したDKK1陰性細胞(PC−14)の細胞成長は、同投与量の抗DKK1抗体による治療には影響されなかった(図5B)。切除腫瘍の凍結切片を用いたHE染色により、抗DKK1抗体で処理した腫瘍組織において、対照IgGで処理した腫瘍組織と比較して有意な線維化及び生癌細胞数の減少が検出された(図5C)。これらの結果によって、抗DKK1抗体がin vitro及びin vivoにおいて癌細胞に対する成長抑制効果を有することが明らかとなった。
【0285】
産業上の利用可能性
多様な癌の診断上の指標としてのDKK1の実用性が本明細書において実証される。このように、本発明は、癌を診断する必要がある被験体において癌を診断する一般的な非侵襲的方法を提供する。
【0286】
本発明はさらに、癌の予後指標としてのDKK1の使用を記載する。このように、本発明は、癌の予後を判定又は決定する必要がある被験体において癌の予後を判定又は決定する方法を提供する。したがって、本発明は、臨床医が、従来の疾患の臨床病期の情報がなくとも、組織試料採取に関する日常的な手順のみを用いて個々の患者各々に対して最も適当な治療を予め選択することを可能にする。
【0287】
本発明は、抗DKK1抗体、並びにそれを用いて癌細胞の浸潤、増殖、及び/又は転移を阻害する方法をさらに記載する。したがって、本発明は、かかる抗体並びにその誘導体及び医薬製剤を用いて癌を治療又は予防する方法を提供する。
【0288】
本発明は、抗DKK1抗体の集団をスクリーニングする工程を含む、癌治療活性を有する可能性のある抗DKK1抗体をスクリーニングする方法をさらに記載する。
【0289】
本発明は、癌を治療又は予防するための化合物をスクリーニングする方法をさらに記載する。
【0290】
本明細書中に引用される全ての刊行物、データベース、配列、特許、及び特許出願は、参照により本明細書中に援用される。
【0291】
本発明をその具体的な実施形態を参照して詳細に記載したが、本発明の精神及び範囲から逸脱することなく、様々な変更及び修正をその実施形態に加えることができることは当業者には明らかであり、その境界及び限界は添付の特許請求の範囲により設けられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
DKK1の過剰発現及び上方制御のいずれか又は両方を特徴とする癌を治療する方法であって、薬学的に許容可能な担体と共に、少なくとも1つの抗DKK1抗体又は抗体断片の有効量を投与する工程を含む、方法。
【請求項2】
DKK1の過剰発現及び上方制御のいずれか又は両方を特徴とする癌の転移を阻害する方法であって、薬学的に許容可能な担体と共に、DKK1と特異的に結合する少なくとも1つの抗体又は抗体断片の有効量を投与する工程を含む、方法。
【請求項3】
DKK1の過剰発現及び上方制御のいずれか又は両方を特徴とする癌の浸潤又は移動を阻害する方法であって、DKK1と特異的に結合する少なくとも1つの抗体又は抗体断片の有効量、及び薬学的に許容可能な担体を投与する工程を含む、方法。
【請求項4】
前記癌が膵臓癌、胃癌、肝臓癌、前立腺癌、乳癌、胆管癌、子宮頸癌、肺癌、及び食道癌の群から選択される、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記抗体又は抗体断片が中和活性を有する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
DKK1の過剰発現及び上方制御のいずれか又は両方を特徴とする癌を治療するための医薬組成物であって、DKK1に特異的に結合する少なくとも1つの抗体又は抗体断片、及び薬学的に許容可能な担体を含む、医薬組成物。
【請求項7】
DKK1の過剰発現及び上方制御のいずれか又は両方を特徴とする癌の転移を阻害するための医薬組成物であって、DKK1に特異的に結合する少なくとも1つの抗体又は抗体断片、及び薬学的に許容可能な担体を含む、医薬組成物。
【請求項8】
DKK1の過剰発現及び上方制御のいずれか又は両方を特徴とする癌の浸潤又は移動を阻害するための医薬組成物であって、DKK1に特異的に結合する少なくとも1つの抗体又は抗体断片、及び薬学的に許容可能な担体を含む、医薬組成物。
【請求項9】
前記癌が膵臓癌、胃癌、肝臓癌、前立腺癌、乳癌、胆管癌、子宮頸癌、肺癌、及び食道癌の群から選択される、請求項6〜8のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項10】
前記抗体又は抗体断片が中和活性を有する、請求項6〜8のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項11】
被験体から得た生体試料におけるDKK1遺伝子の発現レベルを決定する工程を含む、被験体において癌、又は癌の発症の素因、癌又は転移を診断する方法であって、前記遺伝子の正常対照レベルと比較した場合の発現レベルの上昇が、前記被験体が癌、癌又は転移を患っているか、又はそれを発症する危険性があることを示唆する、方法。
【請求項12】
前記癌が膵臓癌、胃癌、肝臓癌、前立腺癌、乳癌、胆管癌、子宮頸癌、肺癌、及び食道癌である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記発現レベルが前記正常対照レベルより少なくとも10%高い、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記発現レベルが、
(a)前記遺伝子のmRNAを検出すること、
(b)前記遺伝子によりコードされるタンパク質を検出すること、及び
(c)前記遺伝子によりコードされる前記タンパク質の生物活性を検出すること
から成る群から選択されるいずれかの方法により決定される、請求項11に記載の方法。
【請求項15】
前記生体試料が生検材料、痰、血液、又は尿を含む、請求項11に記載の方法。
【請求項16】
血液における前記発現レベルの検出をELISAにより行なう、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
被験体において癌、又は癌の発症の素因、癌又は転移を診断するためのキットであって、
(a)DKK1遺伝子のmRNAを検出するための試薬、
(b)DKK1タンパク質を検出するための試薬、及び
(c)DKK1タンパク質の生物活性を検出するための試薬
から成る群から選択される試薬を含む、キット。
【請求項18】
前記試薬がDKK1タンパク質に対する抗体である、請求項17に記載のキット。
【請求項19】
前記癌が膵臓癌、胃癌、肝臓癌、前立腺癌、乳癌、胆管癌、子宮頸癌、肺癌、及び食道癌である、請求項17に記載のキット。
【請求項20】
癌を治療又は予防するための化合物をスクリーニングする方法であって、
a)試験化合物を、DKK1のポリヌクレオチドによりコードされるポリペプチドと接触させる工程、
b)前記ポリペプチドと前記試験化合物との間の結合活性を検出する工程、及び
c)前記ポリペプチドに結合する前記試験化合物を選択する工程
を含む、方法。
【請求項21】
癌を治療又は予防するための化合物をスクリーニングする方法であって、
a)試験化合物を、DKK1のポリヌクレオチドによりコードされるポリペプチドと接触させる工程、
b)工程(a)のポリペプチドの生物活性を検出する工程、及び
c)前記試験化合物の非存在下で検出されるポリペプチドの生物活性と比較して、DKK1のポリヌクレオチドによりコードされるポリペプチドの生物活性を抑制する前記試験化合物を選択する工程
を含む、方法。
【請求項22】
前記生物活性が細胞増殖、癌の移動、癌浸潤、癌転移、又は細胞外分泌の促進である、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
癌を治療又は予防するための化合物をスクリーニングする方法であって、
a)候補化合物を、DKK1を発現する細胞と接触させる工程、及び
b)前記試験化合物の非存在下で検出される発現レベルと比較して、DKK1の発現レベルを低下させる前記候補化合物を選択する工程
を含む、方法。
【請求項24】
癌を治療又は予防するための化合物をスクリーニングする方法であって、
a)候補化合物を、DKK1の転写調節領域及び該転写調節領域の制御下で発現されるレポーター遺伝子を含むベクターを導入した細胞と接触させる工程、
b)前記レポーター遺伝子の発現又は活性を測定する工程、並びに
c)対照と比較して、前記レポーター遺伝子の発現又は活性レベルを低下させる候補化合物を選択する工程
を含む、方法。
【請求項25】
前記癌が膵臓癌、胃癌、肝臓癌、前立腺癌、乳癌、胆管癌、及び子宮頸癌である、請求項20〜24のいずれか1項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2010−536844(P2010−536844A)
【公表日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−521547(P2010−521547)
【出願日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際出願番号】PCT/JP2008/002270
【国際公開番号】WO2009/028158
【国際公開日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【出願人】(502240113)オンコセラピー・サイエンス株式会社 (142)
【Fターム(参考)】