説明

癌の診断支援装置

【課題】癌の診断に用いる指標の基準値をユーザによって変更することでき、常に精度の高い基準値を設定して癌の診断の精度を高めることが可能となる癌の診断支援装置を提供する。
【解決手段】被検癌患者から採取した悪性腫瘍を用いて当該患者に対する癌の診断を支援する装着。前記悪性腫瘍から所定の項目を測定する測定手段と、測定値と比較することにより癌の診断支援情報を取得するための基準値を記憶する第1記憶手段と、前記測定手段により得られた測定値と前記第1記憶手段に記憶された基準値とを比較して、癌の診断支援情報を取得する診断情報取得手段と、得られた診断支援情報を出力する第1出力手段と、ユーザから基準値の変更を受け付ける変更手段と、前記第1記憶手段に記憶された基準値を、変更された基準値へ更新する更新手段とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は癌の診断支援装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、癌診断として、血清中の腫瘍マーカーを調べる血清診断や、生検(バイオプシイ)による組織診、細胞診が知られている。しかし、これらは信頼性が低いか、又は個々人の判断や医療機関の判定にバラツキがあることから、近年、診断医によるバラツキが少ない癌の画一的診断方法として、生体で発現される遺伝子やタンパク質に基づく分子診断が検討されている。そして、タンパク質に基づく分子診断としては、例えば、サイクリン依存性キナーゼ(以下、単に「CDK」ともいう)を利用した方法が種々提案されている(例えば、特許文献1〜4参照)。
【0003】
特許文献1には、試料のCDK1及びCDK4の発現量、さらには必要に応じてp53の突然変異状態を指標とする診断方法が記載されている。また、特許文献2には、CDK4、CDK6、サイクリン依存性キナーゼインヒビター(CDKインヒビター)の過剰発現を指標とする癌及び前癌状態の診断方法が記載されている。さらに、特許文献3には、CDKの活性値を蛍光を用いて測定する方法、及びその方法を用いて癌を診断する方法が記載されている。また、特許文献4には、CDK1及びCDK2の活性値と発現量との比を指標として癌の悪性度を判定する方法が記載されている。
【0004】
【特許文献1】特表2002−504683号公報
【特許文献2】特表2002−519681号公報
【特許文献3】特開2002−335997号公報
【特許文献4】国際公開第2005/116241号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
CDKの発現量や比活性など、特定の測定値を指標として用いて判定を行なう場合、通常、前記指標に特定の基準値を設定し、この基準値と、患者から採取した試料を測定して得られた測定値との比較に基づいて各種の判定が行われる。
【0006】
癌の診断の場合は、多数の患者から、前述した指標に係る測定値の情報と、リンパ節転移の有無、術後療法(無治療、ホルモン療法、化学療法など)の内容、再発の有無、癌を摘出してから再発までの日数などの臨床情報とを取得し、これらの情報(サンプルデータ)をライブラリー情報として集積し、このライブラリー情報に基づいて最も精度よく判定できる値が基準値として設定される。
すなわち、前記指標の基準値は必ずしも確定又は固定されているものではなく、ライブラリー情報が更新、追加されることによって、前記基準値を変更する必要が生じる場合もある。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、癌の診断に用いる指標の基準値をユーザによって変更することできる癌の診断支援装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の癌の診断支援装置は、被検癌患者から採取した悪性腫瘍を用いて当該患者に対する癌の診断を支援する装置であって、
前記悪性腫瘍から所定の項目を測定する測定手段と、
測定値と比較することにより癌の診断支援情報を取得するための基準値を記憶する第1記憶手段と、
前記測定手段により得られた測定値と前記第1記憶手段に記憶された基準値とを比較して、癌の診断支援情報を取得する診断支援情報取得手段と、
得られた診断支援情報を出力する第1出力手段と、
ユーザから基準値の変更を受け付ける変更手段と、
前記第1記憶手段に記憶された基準値を、変更された基準値へ更新する更新手段と
を備えることを特徴としている。
【0009】
本発明の癌の診断支援装置は、前記変更手段を用いてユーザ自らが癌の診断支援情報を取得するための基準値の設定を変更することができる。これにより、ユーザは常に精度の高い基準値を設定することが可能になり、その結果、癌の診断の精度を高めることができる。
【0010】
また、診断支援装置は、他の癌患者の前記所定の項目の測定値と当該他の癌患者の悪性腫瘍摘出後の臨床情報とが対応付けられたサンプルデータを記憶する第2記憶手段と、
この第2記憶手段に記憶されたサンプルデータを出力する第2出力手段と、
を更に備えることができ、
前記第2出力手段がサンプルデータを出力しているときに前記変更手段が基準値の変更を受け付けるように構成することができる。
このような構成の診断支援装置は、複数の癌患者の所定項目の測定値と当該複数の癌患者の悪性腫瘍摘出後の臨床情報とが対応付けられたサンプルデータを蓄積しており、この蓄積されたサンプルデータに基づいて、前記変更手段を用いてユーザが癌の診断支援情報を取得するための基準値の設定を変更することができる。
【0011】
前記第2出力手段が、前記第2記憶手段に記憶されたサンプルデータの各測定値及び各臨床情報と、前記第1記憶手段に記憶された基準値との関係を示す画面を出力し、且つ
前記変更手段が、前記画面において基準値の変更を受け付けるように構成することができる。
【0012】
前記画面が、前記測定値及び前記臨床情報と、前記基準値との関係を示すグラフを含んでおり、
前記基準値が、前記グラフ上において移動可能な線として表示され、且つ
前記変更手段が、ユーザから前記グラフ上の前記基準値の線の移動指示を受け付けることにより、当該基準値の変更を受け付けるように構成することができる。
【0013】
本発明の癌の診断支援装置は、前記第2記憶手段に記憶されたサンプルデータの各臨床情報を変更するためのデータ変更手段を更に備えることができる。また、前記第2記憶手段に記憶されたサンプルデータに、前記所定の項目の測定値及び前記臨床情報を新たに追加するためのデータ追加手段を更に備えることができる。
このような構成の診断支援装置は、追加・変更により更新されたサンプルデータに基づいても、前記変更手段を用いてユーザが基準値の設定を変更することができる。
前記臨床情報を、再発の有無、抗癌剤感受性及び生存率からなる群より選ばれる少なくとも1つとすることができる。
【0014】
前記所定の項目が、細胞周期タンパク質の発現及び/又は活性に関する項目を含むものとすることができる。また、前記細胞周期タンパク質を、サイクリン依存性キナーゼとすることができる。
【0015】
前記測定手段が、
悪性腫瘍から第1のサイクリン依存性キナーゼ(第1CDK)及び第2のサイクリン依存性キナーゼ(第2CDK)の各活性値を測定する活性測定手段と、
悪性腫瘍から前記第1CDK及び第2CDKの各発現量を測定する発現測定手段と、
前記活性測定手段により得られた第1CDKの活性値と前記発現測定手段により得られた第1CDKの発現量との比(第1比活性)、及び、前記活性測定手段により得られた第2CDKの活性値と前記発現測定手段により得られた第2CDKの発現量との比(第2比活性)を算出する比活性算出手段と、
この比活性算出手段により得られた第1比活性と第2比活性との比(比活性比)を算出する比活性比算出手段とを含んでおり、
前記診断支援情報取得手段が、前記測定手段により得られた比活性比と前記第1記憶手段に記憶された基準値とを比較して癌の診断支援情報を取得するように構成することができる。
【0016】
前記癌の診断支援情報を、被検癌患者の悪性腫瘍摘出後の再発リスク又は抗癌剤感受性とすることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の癌の診断支援装置によれば、癌の診断に用いる指標の基準値をユーザによって変更することでき、常に精度の高い基準値を設定して癌の診断の精度を高めることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、添付図面を参照しつつ、本発明の癌の診断支援装置(以下、単に「診断支援装置」ともいう)の実施の形態を詳細に説明する。
本実施の形態の診断支援装置は、癌患者から採取した悪性腫瘍を用いて所定の項目を測定し、得られた測定値に基づいて癌の診断支援情報を取得することができる。
悪性腫瘍とは、他の組織に浸潤又は転移し、身体の各所で増大することで生命を脅かす腫瘍である。悪性腫瘍には、上皮組織由来の悪性腫瘍である癌腫、及び非上皮性組織由来の悪性腫瘍である肉腫が含まれる。具体的には、乳、肺、肝臓、胃、大腸、膵臓、子宮、精巣、卵巣、甲状腺、副甲状腺、リンパ系統などの位置にできる悪性腫瘍が挙げられる。また、悪性腫瘍は、乳癌、肺癌、肝臓癌、胃癌、大腸癌、膵臓癌、前立腺癌などの癌患者から採取することができる。
【0019】
癌の診断支援情報とは、癌の悪性度や抗癌剤の感受性などが挙げられる。癌の悪性度とは、具体的には、転移のしやすさ、再発のしやすさ、予後の悪さなどが挙げられる。
診断支援装置において測定される所定の項目は、悪性腫瘍における遺伝子及び/又はタンパク質に関する測定値であれば特に限定されず、遺伝子やタンパク質の種類及び測定項目の種類は、癌の種類や取得する診断支援情報などによって適宜選択される。
【0020】
所定の項目としては、例えば、上記で示した特許文献1(特表2002−504683号公報)、特許文献2(特表2002−519681号公報)、特許文献3(特開2002−335997号公報)、特許文献4(国際公開第2005/116241号パンフレット)で記載されているCDKに関する測定値が挙げられる。具体的には、CDKの発現量、CDKの活性値、CDKの活性値と発現量との比(比活性比)などが挙げられる。CDK以外にも、特開2005−58113号公報や特開2006−223303号公報などで、癌の再発リスクを予測するのに利用される遺伝子の発現量を所定の項目としてもよい。また、国際公開第2005/007846号パンフレットや特開2005−341862号公報などで、抗癌剤の感受性を予測するのに利用されている遺伝子の発現量を所定の項目としてもよい。
【0021】
以下に、本実施の形態の診断支援装置として、癌患者から採取した悪性腫瘍を用いてCDKの発現量や活性値を測定し、得られた測定値に基づいて癌の悪性度(再発リスクの高さ)の判定を行う診断支援装置を例に挙げて説明する。
当該診断支援装置の説明に先立って、まず、[1]CDKを用いた癌の悪性度を判定する方法について説明をする。
【0022】
[1]CDKを用いた癌の悪性度を判定する方法
癌の悪性度を判定する方法は、悪性腫瘍を含む組織の2種以上のサイクリン依存性キナーゼの発現量及び活性値を測定し、第1のサイクリン依存性キナーゼの活性値と発現量との比及び第2のサイクリン依存性キナーゼの活性値と発現量との比を含むCDKプロファイルに基づいて、当該腫瘍組織の悪性度を判定するものである。腫瘍細胞を含む組織にかかる判定方法を適用することにより、腫瘍細胞を含む組織の性質、癌の悪性度を診断することができる。なお、CDKプロファイルとは、ある組織が有する少なくとも1種類のCDKの活性値と発現量との比(例えば比活性)及び/又は複数のCDKの活性値、発現量より計算される数値(例えば、第1CDKの活性値と発現量との比(A1)と、第2CDKの活性値と発現量との比(A2)との比(例えば、A1/A2又はA2/A1)など)を含む情報のことである。
【0023】
前記判定方法では、上記で示したような悪性腫瘍を用いることができる。また、腫瘍細胞の悪性度とは、具体的には、転移のしやすさ、再発のしやすさ、予後の悪さなどが挙げられる。
【0024】
ここで、再発とは、悪性腫瘍を摘出するために臓器を部分切除した後、残存臓器に同じ悪性腫瘍が再現する場合、及び原発巣から腫瘍細胞が分離して遠隔組織(遠隔臓器)へ運ばれ、そこで自立的に増殖する場合(転移再発)をいう。一般に5年以内に再発する可能性がある場合に「再発しやすい」という。それは、5年以内に再発が認められる患者の死亡率は高く、ゆえに、摘出手術後5年以内の再発を予測することは臨床的に意義があるからである。また、ステージ分類ではステージIIIは再発率50%であり、ステージII(再発率20%)に比して再発しやすい。予後とは、疾病の経過及び終末を予知することで、5年又は10年後の死亡率が高い程予後は悪く、例えばステージIIIは死亡率50%であり、ステージII(死亡率20%)よりも予後が悪い。
【0025】
サイクリン依存性キナーゼとは、サイクリンと結合して活性化される酵素群の総称であり、その種類に応じて、細胞周期の特定時期で機能している。また、CDKインヒビターとは、サイクリン・CDK複合体に結合し、その活性を阻害する因子群の総称である。
【0026】
ここで、細胞が増殖を開始し、DNA複製、染色体の分配、核分裂、細胞質分裂などの事象を経て、2つの娘細胞となって出発点に戻るまでのサイクルである細胞周期は、図13に示されるように、G1期、S期、G2期、M期の4期に分けられる。S期はDNAの複製期であり、M期は分裂期である。G1期は有糸分裂の完了からDNA合成の開始までの間で、M期に入るための準備点検期である。G1期にある臨界点(動物細胞ではR点)を過ぎると、細胞周期は始動し、通常途中で止まることなく、一巡する。G2期は、DNA合成の終了から有糸分裂の開始の間である。細胞周期の主なチェックポイントは、G1期からS期にはいる直前、G2期から有糸分裂への入り口である。特にG1期チェックポイントはS期開始の引き金を引くため、重要である。G1期のある点を過ぎると、細胞は増殖シグナルがなくなっても、増殖を停止することなく、S→G2→M→G1と細胞周期を進行させるからである。なお、増殖を停止した細胞で、G1期のDNA含量をもった休止期(G0)があり、細胞周期からはずれた状態にある。増殖誘導により細胞周期内のG1期よりやや長い時間の後にS期へ進行することができる。
【0027】
前記判定方法で用いられるサイクリン依存性キナーゼ(CDK)は、CDK1、CDK2、CDK4、CDK6、サイクリンA依存性キナーゼ、サイクリンB依存性キナーゼ、、サイクリンD依存性キナーゼ、及びサイクリンE依存性キナーゼからなる群より選ばれることが好ましい。サイクリンA依存性キナーゼとは、サイクリンAと結合して活性を示すCDKのことで、現在判明しているところでは、CDK1及びCDK2の双方をいう。またサイクリンB依存性キナーゼとはサイクリンBと結合して活性を示すCDKのことで、現在判明しているところではCDK1が該当する。サイクリンD依存性キナーゼとはサイクリンDと結合して活性を示すCDKのことで、現在判明しているところではCDK4及びCDK6の双方が該当する。サイクリンE依存性キナーゼとはサイクリンEと結合して活性を示すCDKのことで、現在判明しているところではCDK2が該当する。
【0028】
これらのCDKは、現在判明しているところ、表1に示されるように、それぞれ対応するサイクリンと結合したサイクリン・CDK複合体(以下、「活性型CDK」ともいう)となって、表1に示されるような細胞周期の特定時期を活性化している。例えば、CDK1はサイクリンA又はBと、CDK2はサイクリンA又はEと、CDK4及びCDK6はサイクリンD1、D2、又はD3と結合して活性型となる。一方、CDK活性は表1に示されるようなCDKインヒビターによって活性が阻害されることもある。例えば、p21はCDK1,2を阻害、p27はCDK2,4,6を阻害、p16がCDK4,6を阻害する。
【0029】
【表1】

【0030】
前記CDKのうち、2種類以上のCDKの発現量と活性値を測定し、各CDKにおけるこれらの比(すなわち、下記式で表されるCDK比活性又はその逆数)を求めて、CDKプロファイルを得る。CDKの比活性=CDK活性値/CDK発現量 従って、CDKプロファイルとしては、具体的には、例えば、CDK比活性を含むプロファイル(CDK比活性プロファイル)やCDK比活性の逆数を含むプロファイル(CDK比活性の逆数プロファイル)などが挙げられる。
【0031】
CDK活性値とは、特定のサイクリンと結合して、どれだけの基質(例えば、活性型CDK1、活性型CDK2はヒストンH1、活性型CDK4及び活性型CDK6はRb(網膜芽細胞腫タンパク、Retinoblastoma protein))をリン酸化するかというキナーゼ活性のレベル(単位をU(ユニット)で現す)をいい、従来より知られている酵素活性測定方法で測定することができる。具体的には、測定試料の細胞溶解液から活性型CDKを含む試料を調製し、32P標識したATP(γ−〔32P〕−ATP)を用いて、基質タンパク質に32Pを取り込ませ、標識されたリン酸化基質の標識量を測定し、標準品で作成された検量線をもとに定量する方法がある。また放射性物質の標識を用いない方法としては、特開2002−335997号公報に開示の方法が挙げられる。この方法は、測定試料の細胞可溶化液から、目的の活性型CDKを含む試料を調製し、アデノシン5’−O−(3−チオトリホスフェート)(ATP−γS)と基質を反応させて、該基質タンパク質のセリン又はスレオニン残基にモノチオリン酸基を導入し、導入されたモノチオリン酸基の硫黄原子に標識蛍光物質又は標識酵素を結合させることによって基質タンパク質を標識し、標識されたチオリン酸基質の標識量(標識蛍光物質を用いた場合には蛍光量)を測定し、標準品で作成された検量線に基づいて定量する方法である。
【0032】
活性測定に供する試料は、測定対象となる悪性腫瘍を含む組織の可溶化液から目的のCDKを特異的に採取することにより調製する。この場合、目的のCDKに特異的な抗CDK抗体を用いて調製してもよいし、特定のサイクリン依存性キナーゼ(例えばサイクリンA依存性キナーゼ、サイクリンB依存性キナーゼ、サイクリンE依存性キナーゼ)の活性測定の場合には、抗サイクリン抗体を用いて調製する。いずれの場合も活性型CDK以外のCDKが試料に含まれることになる。例えばサイクリン・CDK複合体にCDKインヒビターが結合した複合体も含まれる。また、抗CDK抗体を用いた場合には、CDK単体、CDKとサイクリン及び/又はCDKインヒビターの複合体、CDKとその他の化合物との複合体などが含まれる。従って、活性値は、活性型、不活性型、各種競合反応が混在する状態下で、リン酸化された基質の単位(U)として測定される。
【0033】
CDK発現量とは、細胞可溶化液から測定される目的のCDK量(分子個数に対応する単位)であって、タンパク質混合物から目的のタンパク質量を測定する従来公知の方法で測定できる。例えば、ELISA法、ウェスタンブロット法などを使用してもよいし、特開2003−130871号公報に開示の方法で測定することもできる。目的のタンパク質(CDK)は、特異的抗体を用いて捕捉すればよい。例えば、抗CDK1抗体を用いることにより、細胞内に存在するCDK1のすべて(CDK単体、CDKとサイクリン及び/又はCDKインヒビターの複合体、CDKとその他の化合物との複合体を含む)を捕捉できる。
【0034】
従って、前記式により算出される比活性は、細胞に存在しているCDKのうち、活性を示すCDKの割合に相当し、判定対象である悪性腫瘍細胞の増殖状態に基づくCDK活性レベルといえる。このようにして求められるCDK比活性は、測定試料調製方法に依存しない。特に生検材料から調製される測定試料(細胞可溶化液)は、実際に採取された組織中に含まれる非細胞性組織、例えば細胞外基質の多寡による影響を受けやすい。従って、このような影響を控除した比活性又はその逆数を用いる意義は大きく、従来の単なる活性値と比べて、臨床的性格との相関性が高い。
【0035】
2種類以上のCDK比活性又はその逆数を含むCDKプロファイルを知ることにより、いずれのCDK活性が優位になっているかを知ることができ、これにより細胞周期のいずれの時期にある細胞割合がどの程度であるか、又はいずれの時期の細胞割合が優勢であるかなどを知ることができる。
【0036】
比活性を測定するCDKの種類は、特に限定されず、適宜選択すればよい。一般に、癌細胞は正常な増殖制御を逸脱して増殖が活発に行われていることから、S期、G2期にある細胞割合が多いと考えられ、このような場合に癌化していると考えられる。また、このような癌は、進行が早く、悪性であるといえる。さらに、異数媒体性は、異常なM期を経過したか、又はM期を経ずにG1期へ進んで、S期に入ったときに起ると考えられているため、M期に存在する細胞割合が少ないことも悪性であるといえる。従って、第1のサイクリン依存性キナーゼとしてCDK1、第2のサイクリン依存性キナーゼとしてCDK2を使用し、CDK1比活性の大きさに従い群に分類し、類似したCDK1比活性を持つ群の中ではCDK2比活性値がS期の細胞比率を反映する値となる。S期にある細胞が多い場合、当該細胞が構成細胞となっている組織が臨床的に悪性、すなわち転移しやすい予後の悪い悪性の癌であると判定することができる。
【0037】
なお、CDKの種類、判明している作用から、2種類以上のCDK比活性を含むCDK比活性プロファイルにより細胞周期の特定時期の存在割合を推測し、細胞の悪性度を判定してもよいし、予め対応する正常組織細胞を標準細胞として測定した2種類以上のCDKの比活性プロファイルを求め、正常細胞との比較から悪性度を判定してもよい。 CDK比活性プロファイルとして、2種類のサイクリン依存性キナーゼの比活性の比を採用することが好ましい。この場合、2種類のサイクリン依存性キナーゼの比活性の比を、該比に対応する所定の基準値ないしは閾値と比較することにより、悪性度を判定する。
【0038】
前記判定方法で用いられる基準値は、測定対象の悪性腫瘍の種類などにより適宜決められる。基準値の設定は、癌の悪性度に関する多数の細胞、個体のデータベースと、当該細胞のCDK比活性のデータベースとから、悪性度に対してボーダーとなる比活性の比の値を選択すればよい。例えば、癌の悪性度について病理医の判定が既知の複数の患者から採取された腫瘍細胞について、相関性があるとされる2種類のCDKの比活性の比をそれぞれ求め、求められた比を小さい順に並べて集団を2等分できる中央値を基準値とすることができる。
【0039】
[2]診断支援装置
つぎに、前述した[1]CDKを用いた癌の悪性度を判定する方法を好適に実施することができる、本発明の一実施の形態に係る診断支援装置について説明をする。
【0040】
図1は本発明の一実施の形態に係る診断支援装置Aの斜視説明図である。この診断支援装置Aは、タンパク質(本実施の形態においては、組織に含まれるサイクリン依存性キナーゼ(CDK))の活性値及び発現量の測定を行うものであり、装置本体部20の前方部分に配設された検出部4、チップセット部1、第1試薬セット部5及び第2試薬セット部6、前記装置本体部20の後方部分に配設された活性測定ユニット2、廃液を収容するための廃液槽7及びピペットを洗浄するためのピペット洗浄槽8、前記装置本体部20の上方に配設されており、ピペットを3方向(X方向、Y方向及びZ方向)に移動させることができる分注機構部3、前記装置本体部20の背部に配設された流体部9及び本体制御部10、並びに本体制御部10と通信可能に接続されたデータ処理部であるパーソナルコンピュータ12とで主に構成されている。また、本実施の形態の診断支援装置Aには、純水タンク13、洗浄液タンク14、廃液タンク15及び空圧源11が設けられている。純水タンク13には、測定終了時の流路洗浄用純水が貯留されており、配管21により流体部9に接続されており、洗浄液タンク14にはピペットを洗浄する洗浄液が貯留されており、配管22によりピペット洗浄槽8に接続されており、さらに廃液を収容するための廃液タンク15は配管23により廃液槽7に接続されている。さらに、診断支援装置Aには、生体試料から当該診断支援装置Aで処理可能な検体を得るための可溶化装置Bが並設されている。
以下、可溶化装置B及び診断支援装置Aについて順に説明をする。
【0041】
[可溶化装置]
可溶化装置Bは、診断支援装置Aによる処理に先立って、患者から摘出した組織などの生体試料から、診断支援装置Aで処理可能な液状の検体を調製するものであり、筐体部30、この筐体部30の前面上方に配置された操作部31、前記生体試料を押し付けたり、すりつぶしたりするための一対のペッスル34を備えた駆動部32、及び前記生体試料が収容されるエッペンチューブ35がセットされる検体セット部33とで主に構成されている。
【0042】
前記駆動部32は、ペッスル34を上下動させるとともに当該ペッスル34に回転運動を与えることができ、これによりエッペンチューブ35内に注入された生体試料が押し付けられたり、すりつぶされたりする。そして、前記筐体部30内には、かかる駆動部32の動作を制御する制御部(図示せず)が内蔵されている。
前記操作部31には、操作ボタン31a、運転ランプ31b、装置の状態やエラーメッセージなどを表示するための表示部31cが配設されている。また、検体セット部33内には、図示しない冷却手段が配設されており、当該検体セット部33上面の凹所にセットされたエッペンチューブ内の生体試料を一定の温度に保っている。
可溶化装置Bにより可溶化され、さらに図示しない遠心分離機により遠心分離処理された生体試料の上澄み液は、所定の検体容器に採取されて診断支援装置Aの第1試薬セット部5にセットされる。
【0043】
[第1試薬セット部]
第1試薬セット部5内には、前記検体セット部33と同様に図示しない冷却手段が配設されており、当該第1試薬セット部5上面の凹所にセットされるスクリューキャップなどの容器内の検体や、CDK1抗原(キャリブレーション1)、CDK2抗原(キャリブレーション2)などの各種抗原や、蛍光標識されたCDK1抗体、蛍光標識されたCDK2抗体などの各種蛍光標識化抗体などを一定の温度に保っている。本実施の形態では、縦5列、横4列、合計20箇所の凹所が設けられており、最大20個のスクリューキャップなどの容器をセットすることができるようになっている。
【0044】
[第2試薬セット部]
前記第1試薬セット部5の隣りには、第2試薬セット部6が配設されている。この第2試薬セット部6には、前記第1試薬セット部5と同様に複数の凹所が形成されており、これら凹所内にバッファー、基質溶液、蛍光増強試薬などが入れられた、エッペンチューブやスクリューキャップなどの容器がセットされる。
また、診断支援装置Aによる処理に先立って、チップセット部1にタンパク固相用チップがセットされるとともに、活性測定ユニット2にカラムがセットされる。
【0045】
[チップセット部]
チップセット部1は、アルミニウム製のブロックからなっており、図2〜3に示されるように、上面にタンパク固相用チップ101を載置するための凹部102を有するとともに、底部に3つの吸引口103を有している。より詳細には、チップセット部1は、上面に長方形の第1凹部102と、この第1凹部102の底部に同じく長方形の3つの第2凹部104とを備えている。この第2凹部104は、隔壁105により互いに独立した状態にされており、前記タンパク固相用チップ101をチップセット部1に載置したとき、互いに非連通状態になる。前記第1凹部102の底面には前記第2凹部104の周縁に長方形の枠状のゴム製弾性ガスケット106が配設されている。
【0046】
前記第2凹部104は、その底部に、十字形の溝107と、底部中心に吸引口103とを備え、前記溝107の溝底は第2凹部104の周縁から中心に向かって深くなるように傾斜している。吸引口103は、外部の吸引用空圧源11へ接続するために設けられたニップル108と連通している。このニップル108には、一端が前記吸引用空圧源11側に接続されたチューブ109の他端が接続されている。このチューブ109には、開閉バルブ110が配設されている。
そして、後に詳述するタンパク固相用チップ101は、第1凹部102の底面ガスケット106を介して水平に装填される。タンパク固相用チップ101の各ウェルにタンパク含有試料液が注入又は滴下された後、吸引ポンプが作動する。
【0047】
これにより、タンパク固相用チップ101が第1凹部102の底面へガスケット106を介して気密的に吸着されるとともに、各ウェル内の試料液が後述する多孔質膜を介して吸引され、測定目的のタンパクが当該多孔質膜に固相形成される。なお、図2〜3において、130は、タンパク固相用チップ101を第1凹部102の底面に押し付けて固定するための押付け機構である。この押付け機構130は、タンパク固相用チップ101が第1凹部102上に載置された後、図中矢印方向にスライドさせることにより、その上部がタンパク固相用チップ101の上面を押し付けて第1凹部102に固定する。
【0048】
前記タンパク固相用チップ101は、図4〜5に示されるように、多孔質膜111及びろ紙112と、これら多孔質膜111及びろ紙112を挟持するための上部プレート113及び下部プレート114とで構成されている。このタンパク固相用チップ101が、サイクリン依存性キナーゼの抗体を含む抗体溶液と、生体試料(検体)とを接触させる機能を有している。
【0049】
図4〜5に示されるように、上部プレート113は、3つの互いに独立したプレート、すなわち第1上部プレート113a、第2上部プレート113b、及び第3上部プレート113cから構成されている。各上部プレートは、長方形の板状を呈しており、第1上部プレート113a及び第2上部プレート113bは、いずれもマトリックス状に4行3列に配列された12個の長円形の貫通孔115が穿設されており、第3上部プレート113cは同じくマトリックス状に4行4列に配列された16個の長円形の貫通孔115が穿設されている。各上部プレートは、複数の貫通孔が形成された、試料処理のための互いに独立した領域を有している。また、各上部プレートの底面には、短辺に沿って溝116が形成されている。
【0050】
一方、長方形の板状の下部プレート114には、前記上部プレート113a、113b、113cの各貫通孔115に対応する位置にそれぞれマトリックス状に配列された合計40個の長円形の貫通孔117が形成されている。貫通孔117は、貫通孔115と同じ形状及び断面積を有している。下部プレート114は、前記上部プレート113a、113b、113cの各領域に対応した、複数の貫通孔が形成された領域を有している。
下部プレート114の上面には、40個の貫通孔117の周囲を1周する畝状の凸部118、及び貫通孔117を上部プレート113a、113b、113cの各領域に対応させて3つの領域に区画する隔壁119が形成されている。そして、前記凸部118及び隔壁119によりその内側に3つの長方形の多孔質膜設置領域が区画される。なお、前記上部プレート113及び下部プレート114は、例えば塩化ビニル樹脂で作製することができる。
【0051】
図2〜5に示されるように、下部プレート114の多孔質膜設置領域に多孔質膜111とろ紙(フィルター)112との積層体を載置し、ついで各上部プレート113a、113b、113cの溝116を順次対応する下部プレート114の凸部118に嵌めるようにして、当該上部プレート113a、113b、113cを下部プレート114に装着することによりタンパク固相用チップ101を形成することができる。これにより、各貫通孔115と各貫通孔117とが互いに同軸となる。
なお、前述したタンパク固相用チップは、上部プレートが3つに分割されており、3つの領域を独立して吸引することができるが、上部プレートの数は2であってもよいし、4以上であってもよく、本発明において特に限定されるものではない。測定項目の数や検体の数を考慮して、適宜選定することができる。
【0052】
[活性測定用試料調製ユニット]
活性測定用試料調製ユニット2は、図6〜10に示されるように、それぞれがカラム201及び流体マニホールド213を備えた複数の試料調製部211からなっており、CDKの活性値を測定するのに用いられる。
【0053】
図6に示されるカラム201は、塩化ビニル樹脂で作製された円筒体からなっており、内部には、液体試料中の目的物質を単離するために用いる担体206を保持する担体保持部202と、この担体保持部202に液体試料を導入する液体試料を受け入れて貯留するための液体貯留部204とを有している。前記カラム201は、外部から液体試料を注入又は採取可能な開口205を液体貯留部204の上部に備え、担体保持部202の下部に流体マニホールド213へ液体試料を導入するとともに、流体マニホールド213から液体試料を受け入れる接続流路203を有している。前記カラム201が、所定の基質を含む基質溶液と、生体試料(検体)とを接触させる手段を構成している。
【0054】
担体206は、円柱形のモノリスシリカゲルからなっており、このモノリスシリカゲルは、粒子担体とは異なり、3次元ネットワーク状の骨格とその空隙が一体となった構造を有している。また、モノリスシリカゲルには、所定のCDK抗体が固定されている。担体206はカラム201の下部開口から担体保持部202に挿入され、Oリング207を介して固定用パイプ208によって弾性的に押圧されて支持される。なお、前記固定用パイプ208は、カラム201の下部開口から圧入され、固定用パイプ208とOリング207の孔が接続流路203を形成する。
【0055】
また、カラム201の下端には当該カラム201を前記試料調製部211に装填して固定するための装填用フランジ209が形成されている。このフランジ209は、直径Dの円盤状のフランジの両側を幅W(W<D)になるように平行に切り欠いて形成された長円形のフランジである。
【0056】
図7は試料調製部211の斜視図であり、同図に示されるように、試料調製部211は、L字形の支持プレート212を備え、この支持プレート212には流体マニホールド213と、シリンジポンプ214と、減速機付きステッピングモータ215とが固定されている。
ステッピングモータ215の出力軸にはスクリューシャフト216が接続されている。そして、このスクリューシャフト216に螺合する駆動アーム217がシリンジポンプ214のピストン218の先端に接続されている。ステッピングモータ215によりスクリューシャフト216が回転すると、ピストン218が上下運動するようになっている。シリンジポンプ214と流体マニホールド213とは、コネクタ219、220を介して送液チューブ250により接続されている。また、シリンジポンプ214は、コネクタ220aを介して送液チューブ220bにより、流路を満たすための液体(洗浄液)が収容されているチャンバ234(図10参照)と接続されている。
【0057】
図8〜9に示されるように、流体マニホールド213は、前記カラム201の下部開口が接続されるカラム接続部221を備えている。
流体マニホールド213は、内部に流路223を備え、下面に、流路223とカラム接続部221との間を開閉する電磁バルブ225を備えている。また、流体マニホールド213は、側面にコネクタ220を接続するためのコネクタ接続用ねじ穴226を有しており、このねじ穴226は流路223に接続されている。
【0058】
図10は試料調製部211の流体回路図であり、流体マニホールド213にシリンジポンプ214がコネクタ220を介して接続された状態を示している。そして、シリンジポンプ214には、電磁バルブ233を介してチャンバ234が接続され、当該チャンバ234には陽圧源235から陽圧が印加されている。
【0059】
ここで、カラム201を流体マニホールド213に装填する方法を説明する。
図8〜10に示されるように、流体マニホールド213の上面には、カラム201の下端を受け入れるカラム装填用凹部227が形成され、この凹部227の底部の中心がカラム接続部221に貫通するとともに底部の円周にOリング228が装着されている。また、流体マニホールド213の上面には2枚の断面L字形押さえ板229、230がカラム装填用凹部227を中心として前記幅Wより広くDより狭い間隔で平行に固定されている。
【0060】
流体マニホールド213に固定されたカラム201内部の担体206を通過した検体又は試薬が流体マニホールド213内部の流路223を満たす液体(洗浄液)と接触して希釈されることを防ぐため、カラム201をカラム装填用凹部227に固定する前に電磁バルブ225を開き(電磁バルブ233は閉)、約16μL分だけシリンジポンプ214を吸引動作させる。これによって、カラム接続部221の液面が下がりエアギャップが形成される。
【0061】
その後、カラム201をカラム装填用凹部227に、フランジ209が押さえ板229、230の間を通るように装填し、時計方向又は反時計方向に90度だけ回転させる。これによって、フランジ209の直径Dの部分が押さえ板229、230に係合するとともに、Oリング228の弾性によりフランジ209が押さえ板229、230により固定される。なお、カラム201を除去する場合には、カラム201を押さえながら、左右いずれかの方向に90度だけ回転させればよい。
【0062】
カラム201が試料調製部211の流体マニホールド213に装填されるとき、気泡混入を防止するため当該流体マニホールド213の凹部227は手作業又は自動で分注された流体で満たされているが、カラム201の先端を凹部227に挿入するとその体積によって流体が溢れ出す。この液体が周辺へ流出することを防止するために、カラム装着用凹部227の周囲に溢れ液貯留凹部231が設けられており、溢れ液貯留凹部231の一部にピペットにより溢れ液を吸引排出するための溢れ液排出凹部232が設けられている。
各種の検体及び試薬は、ピペットを備えた分注機構部3によって、所定の箇所に、又は所定の箇所から注入又は吸引される。
【0063】
ここで、カラム201の上部開口205の検体又は試薬が注入された場合の動作について説明する。開口205に検体又は試薬が注入されると、まず電磁バルブ225が開き(電磁バルブ233は閉)、シリンジポンプが吸引動作する。これによって、エアギャップと検体又は試薬は、電磁バルブ225を通過し、シリンジポンプ側に吸引される。つぎにシリンジポンプが吐出動作をする。これによって、検体又は試薬は、電磁バルブ225を通過し、カラム201内に送液される。
【0064】
[分注機構部]
分注機構部3は、図1に示されるように、ピペットX方向移動用のフレーム352と、ピペットY方向移動用のフレーム353と、ピペットZ方向移動用のプレート354とを備えている。
フレーム352は、プレート354を矢印X方向に移動させるためのスクリューシャフト355と、プレート354を支持して摺動させるためのガイドバー356と、スクリューシャフト355を回転させるステッピングモータ357を備えている。
【0065】
フレーム353は、フレーム352を矢印Y方向に移動させるためのスクリューシャフト358と、フレーム352を支持して摺動させるためのガイドバー359と、スクリューシャフト358を回転させるステッピングモータ361とを備えている。
また、プレート354は、ピペット362を支持するアーム368を矢印Z方向に移動させるためのスクリューシャフト367と、アーム368を支持して摺動させるためのガイドバー、スクリューシャフト367を回転させるステッピングモータ370とを備えている。
なお、本実施の形態では、分注機構部3が一対のピペット362を備えているので、同時に2つの検体容器に試薬などを注入したり、同時に2つの検体容器から内容物を吸引したりすることができ、測定処理を効率よく行うことができる。
【0066】
[流体部]
装置本体部20の背部には、図1に示されるように、前記ピペット362を洗浄するためのピペット洗浄槽8及び各試料調製部211などに接続されて流体を操作する流体部9が配設されている。この流体部9は、図10に示されるように、各試料調製部211の電磁バルブ225、洗浄液チャンバからシリンジ214に液体を充填する際に流体を制御する電磁バルブ233、ピペット362による液体の吸引、吐出の際に流体を制御する電磁バルブ、廃液槽7におけるピペット362から廃棄される液体を吸引する際に流体を制御する電磁バルブ、及びピペット洗浄槽8においてピペット362を洗浄する際に流体を制御する電磁バルブを備えている。
【0067】
[検出部]
検出部4は、タンパク固相用チップ101の多孔質膜111に捕捉されたタンパク量を反映する蛍光物質量及び、リン酸基の量を反映する蛍光物質量を測定するものであり、前記タンパク固相用チップ101に励起光を照射し、発生する蛍光を検出し、検出した蛍光の強度に対応する大きさの電気信号を本体制御部10に出力する。検出部4としては、一般に用いられている、光源部、照明系及び受光系からなるものを適宜採用することができる。
【0068】
[データ処理部]
図11は、本実施の形態の診断支援装置Aの構成を示すブロック図である。データ処理部であるパーソナルコンピュータ12は、図11に示されるように、制御部77と、入力部78と、表示部79とを備えている。
【0069】
制御部77は、後述する本体制御部10に装置の動作開始信号を送信するための機能を有している。制御部77から動作開始の指令が送信されると、本体制御部10は、各試料調製部211のステッピングモータ215を駆動するための駆動信号、第1試薬セット部5の温度調節をするための駆動信号、ステッピングモータ357、361、370を駆動するための駆動信号、及び流体部9にある電磁バルブを駆動するための駆動信号を出力する。また、制御部77は、検出部4で得られた検出結果を分析するための機能を有している。検出部4で得られた検出結果は、本体制御部10へ送信される。本体制御部10は、検出部4で得られた検出結果を制御部77に送信する。制御部77は、本体制御部10から送信された検出結果を分析する。
【0070】
表示部79は、制御部77で得られた分析結果などを表示するために設けられている。この表示部79が、本発明における第1出力手段及び第2出力手段を構成している。
次に、パーソナルコンピュータ12の構成について詳細に説明する。制御部77は、図12に示すように、CPU91a、ROM91b、RAM91c、入出力インターフェース91d、画像出力インターフェース91e、通信インターフェース91f、ハードディスク91gから主として構成されている。CPU91a、ROM91b、RAM91c、入出力インターフェース91d、画像出力インターフェース91e、及び通信インターフェース91f、ハードディスク91gは、電気信号を通信することが可能であるように電気信号線(バス)で接続されている。
【0071】
CPU91aは、ROM91bに記憶されているコンピュータプログラムおよびRAM91cにロードされたコンピュータプログラムを実行することが可能である。そして、後述するようなアプリケーションプログラム91hをCPU91aが実行することにより、パーソナルコンピュータ12がデータ処理部として機能する。
ROM91bは、マスクROM、PROM、EPROM、EEPROMなどによって構成されており、CPU91aに実行されるコンピュータプログラムおよびこれに用いるデータなどが記録されている。
【0072】
RAM91cは、SRAMまたはDRAMなどによって構成されている。RAM91cは、ROM91bおよびハードディスク91gに記録されているコンピュータプログラムの読み出しに用いられる。また、これらのコンピュータプログラムを実行するときに、CPU91aの作業領域として利用される。
【0073】
ハードディスク91gは、オペレーティングシステムおよびアプリケーションプログラムなど、CPU91aに実行させるための種々のコンピュータプログラムおよびそのコンピュータプログラムの実行に用いるデータがインストールされている。本実施形態に係るサイクリン依存性キナーゼの発現量や活性値を取得し、活性値と発現量との比を算出し、
第1のサイクリン依存性キナーゼの当該比と、第2のサイクリン依存性キナーゼの当該比との比(比活性比)を算出し、算出した比や比活性比と、基準値とを比較して癌の診断支援情報を取得するためのアプリケーションプログラム91hも、このハードディスク91gにインストールされている。さらに、前記発現量や活性値を取得するために、前記ハードディスク91gには、蛍光強度を発現量又は活性値に変換するための変換データである検量線が記憶されている。なお、検量線は、発現量又は活性値の測定ごとに求めるようにしてもよい。また、ハードディスク91gは、前記測定値と比較することにより癌の診断支援情報を取得するための基準値を記憶する第1データベース91iを含んでいる。さらに、ハードディスク91gは、癌患者の前記活性値や発現量などの測定値と、当該患者の臨床情報とが対応付けられたサンプルデータを記憶する第2データベース91jを含んでいる。
【0074】
また、ハードディスク91gには、たとえば、米マイクロソフト社が製造販売するWindows(登録商標)などのグラフィカルユーザインタフェース環境を提供するオペレーティングシステムがインストールされている。以下の説明においては、本実施形態に係るアプリケーションプログラム91hは上記オペレーティングシステム上で動作するものとしている。
【0075】
入出力インターフェース91dは、たとえば、USB、IEEE1394、RS−232Cなどのシリアルインタフェース、SCSI、IDE、IEEE1284などのパラレルインタフェース、およびD/A変換器、A/D変換器などからなるアナログインタフェースなどから構成されている。入出力インターフェース91dには、入力部78が接続されており、ユーザがその入力部78を使用することにより、パーソナルコンピュータ12にデータを入力することが可能である。
【0076】
通信インターフェース91fは、たとえば、Ethernet(登録商標)インターフェースである。パーソナルコンピュータ12は、その通信インターフェース91fにより、所定の通信プロトコルを使用して本体制御部10との間でデータの送受信が可能である。
画像出力インターフェース91eは、LCDまたはCRTなどで構成された表示部79に接続されており、CPU91aから与えられた画像データに応じた映像信号を表示部79に出力するようになっている。表示部79は、入力された映像信号にしたがって、画像(画面)を表示する。
【0077】
[本体制御部]
装置本体部20の背部には、各試料調製部211、検出部4、ステッピングモータ357、361、370、流体部9などに接続され、これらを制御するための本体制御部10が配設されている。
【0078】
前記本体制御部10は、図13に示されるように、CPU301aと、ROM301bと、RAM301cと、通信インターフェース301dと、回路部301eとを備えている。
CPU301aは、ROM301bに記憶されているコンピュータプログラムおよびRAM301cに読み出されたコンピュータプログラムを実行することが可能である。
ROM301bは、CPU301aに実行させるためのコンピュータプログラム及び当該コンピュータプログラムの実行に用いるデータ等を記憶している。
【0079】
RAM301cは、ROM301bに記憶しているコンピュータプログラムの読み出しに用いられる。また、これらのコンピュータプログラムを実行するときに、CPU301aの作業領域として利用される。
通信インターフェース301dは、たとえば、Ethernet(登録商標)インターフェースである。本体制御部10は、その通信インターフェース301dにより、所定の通信プロトコルを使用してパーソナルコンピュータ12との間でデータの送受信が可能である。
【0080】
回路部301eは、複数の駆動回路と信号処理回路とを備えている(図示せず)。駆動回路は、試料調製部211、第1試薬セット部5、検出部4、ステッピングモータ357,361,370、流体部9にそれぞれ対応して設けられている。各駆動回路は、CPU301aから与えられる指示データに応じて、対応するユニット(試料調製部211に対応する駆動回路であれば、試料調製部211)を制御するための制御信号(駆動信号)を生成し、上記ユニットへ制御信号を送信する。また、ユニットに設けられたセンサの出力信号が駆動回路に与えられ、駆動回路はこの出力信号をデジタル信号に変換してCPU301aへと与える。CPU301aは、与えられたセンサの出力信号に基づいて上述の指示データを生成する。
【0081】
信号処理回路は、検出部4に接続されている。検出部4からは、蛍光強度を示す検出信号が出力され、この検出信号が信号処理回路に与えられる。信号処理回路は、検出信号に対してノイズ除去処理、増幅処理、及びA/D変換処理等の信号処理を実行する。信号処理の結果得られた検出結果のデータは、CPU301aに与えられる。
【0082】
[3]癌の診断支援
つぎに、本実施の形態に係る診断支援装置Aを用いてヒトの癌細胞の悪性度(再発リスクの高さ)を判定する場合の一例を説明する。
(1)可溶化装置Bによる前処理
診断支援装置Aによる処理に先立って、可溶化装置Bを用いて癌患者から摘出した悪性腫瘍を含むから液状の検体を採取する。その手順としては、まず、前記組織がピンセットを用いてエッペンチューブに投入される。ついで、このエッペンチューブがを図1に示される可溶化装置Bの検体セット部33にセットされ、操作部31のスタートボタンが押されると、ペッスル34が所定位置まで下降し、エッペンチューブ内の組織を当該エッペンチューブの底部に押し付ける。
【0083】
この状態で、界面活性剤及びタンパク質分解酵素阻害剤などを含有する緩衝液などの可溶化液が自動又はマニュアルでエッペンチューブ内に注入される。その後、ペッスル34の回転により前記組織がすりつぶされる。所定時間経過後にペッスル34の駆動を停止させ、さらに当該ペッスル34を上方に移動させた後にエッペンチューブが検体セット部33から取り出される。ついで、可溶化されたエッペンチューブ内の内容物が遠心分離機にかられ、得られる上澄み液が検体としてマニュアルで採取される。
【0084】
(2)診断支援装置Aへの検体などのセッティング
前記上澄み液を2つの検体容器に入れ、互いに異なる希釈倍率で希釈した後に、当該検体容器を第1試薬セット部5の所定位置にセットする。2つの検体のうち、一方は発現量測定用の検体であり、他方は活性値測定用の検体である。
また、前記タンパク固相用チップ101がチップセット部1にセットされるとともに、8つのカラム201が活性測定ユニット2の試料調製部211にそれぞれにセットされる。
【0085】
(3)診断支援装置Aによる処理の全体フロー(実施の形態1)
診断支援装置Aによる実施の形態1に係る処理の全体のフローを図15、16及び17に示す。なお、以下のフローチャート中の判断において、「Yes」及び「No」を図示しない場合は、下がYes、右(左)がNoである。また、以下に説明する処理は、制御部77及び本体制御部10によって制御される処理である。
【0086】
まず、装置本体20の電源が投入されると、本体制御部10の初期化が行われる(ステップS1)。この初期化動作では、プログラムの初期化や装置本体20の駆動部分の原位置復帰などが行われる。
【0087】
パーソナルコンピュータ12の電源が投入されると、制御部77の初期化が行われる(ステップS201)。この初期化動作では、プログラムの初期化などが行われる。初期化が完了すると、入力用画面の表示を指示するための入力画面表示ボタンを含むメニュー画面(図示せず)が表示部79に表示される。ユーザは、入力部78を操作することによって、メニュー画面の入力用画面の表示を指示するための入力画面ボタンを選択することができる。
【0088】
ついでステップS202において、制御部77によって、入力用画面が表示中であるか否かの判断が行われる。制御部77は、入力用画面が表示中であると判断した場合(Yes)にはステップS205へ処理を進め、入力用画面が表示中でないと判断した場合(No)にはステップS203へ処理を進める。
ついでステップS203において、制御部77によって、入力用画面の表示指示が行われたか否か(メニュー画面の入力用画面の表示を指示するための入力画面ボタンが選択されたか否か)が判断される。制御部77は、入力用画面の表示指示が行われたと判断した場合(Yes)にはステップS204へ処理を進め、入力用画面の表示指示が行われなかったと判断した場合(No)にはステップS209へ処理を進める。
【0089】
ついでステップS204において、制御部77によって、入力用画面が表示部79に表示される。ここでは、ユーザが入力部78を操作することによって、検体番号などの測定に関する情報が入力される。そして、ユーザが入力部78を操作して入力用画面に表示されたスタートボタンを選択することにより、測定開始の指示が行われる。
【0090】
ついでステップS205において、制御部77によって、測定開始の指示が行われたか否かが判断される。制御部77は、測定開始の指示が行われたと判断した場合(Yes)にはステップS206へ処理を進め、測定開始の指示が行われなかったと判断した場合(No)にはステップS209へ処理を進める。そして、ステップS206において、測定開始信号が制御部77から本体制御部10へ送信される。
ついでステップS2において、本体制御部10によって測定開始信号の受信が行われたか否かの判断をする。本体制御部10が、測定開始信号の受信が行われたと判断した場合(Yes)にはステップS3へ処理を進め、測定開始信号の受信が行われなかったと判断した場合(No)にはステップS8へ処理を進める。
【0091】
ついでステップS3において、発現量測定用の試料が調製される。ここでは、第1試薬セット部5にセットした検体容器から検体が吸引される。そして、吸引された検体に所定の処理が施されて、発現量測定用の試料が調製される。
さらに、ステップS4において、活性値測定用の試料が調製される。ここでは、第1試薬セット部5にセットした検体容器から検体が吸引される。そして、吸引された検体に所定の処理が施されて、活性値測定用の試料が調製される。
【0092】
ついでステップS5において、発現量測定用の試料及び活性値測定用の試料を含むタンパク固相用チップ101がセットされたチップセット部1が、図1に示される位置から検出部4の中に移動する。
ついでステップS6において、タンパク固相用チップ101の各ウェルに励起光が照射され、前記各試料から放射される蛍光が検出される。
そしてステップS7において、検出された検出結果が、本体制御部10から制御部77に送信される。
【0093】
つぎにステップS207において、制御部77によって、検出結果の受信が行われたか否かが判断される。制御部77は、検出結果の受信が行われたと判断した場合(Yes)にはステップS208に処理を進める。一方、検出結果の受信が行われなかった場合には、制御部77は再びステップS207の処理を実行する。
【0094】
そして、ステップS208において、制御部77によって、取得した検出結果から解析処理が実行され、解析結果が出力される。
ついでステップS209において、制御部77によって、サンプルデータ更新画面が表示中であるか否かの判断が行われる。制御部77は、サンプルデータ更新画面が表示中であると判断した場合(Yes)にはステップS213へ処理を進め、サンプルデータ更新画面が表示中でないと判断した場合(No)にはステップS210へ処理を進める。
【0095】
ついでステップS210において、制御部77によって、サンプルデータ更新画面の表示指示が行われたか否かが判断される。制御部77は、サンプルデータ更新画面の表示指示が行われたと判断した場合(Yes)にはステップS211へ処理を進め、サンプルデータ更新画面の表示指示が行われなかったと判断した場合(No)にはステップS215へ処理を進める。
ついでステップS211において、制御部77のRAM91gが、ハードディスク91gの第2データベース91jに記憶されているサンプルデータを読み出す。
【0096】
そして、ステップS212において、読み出されたサンプルデータを含むサンプルデータ更新画面が表示部79に表示される。ここでは、ユーザが入力部78を操作することによって、変更する項目が選択され、選択された項目について変更後の情報が入力される。
サンプルデータ更新画面は、第2データベース91jにサンプルデータとして記憶されている患者の測定値や臨床情報などを、例えば図25〜26に示されるような一覧形式で表示することができるように構成されている。その際、患者に対して蓄積されている全ての測定値や臨床情報を表示してもよいが、項目が多くなりすぎると見にくくなったり、操作しにくくなることから、前記ステップS210においてサンプル更新画面の表示指示が行われた後に、ユーザ(オペレータ)が表示する項目を選択できるように、表示項目選択用の画面を表示するようにしてもよい。本実施の形態の場合、表示する項目の例としては、リンパ節転移の有無、再発の有無、術後から再発するまでの日数、CDK1、2の各発現量、活性値及び比活性、比活性比をあげることができる。
【0097】
ついでステップS213において、制御部77によって、新たなサンプルデータの入力が行われたか否かが判断される。制御部77は、新たなサンプルデータの入力が行われたと判断した場合(Yes)にはステップS214へ処理を進め、新たなサンプルデータの入力が行われなかったと判断した場合(No)にはステップS215へ処理を進める。
ついでステップS214において、入力された新たなサンプルデータがハードディスク91gの第2データベース91jに記憶される。
【0098】
ついでステップS215において、制御部77によって、基準値更新画面が表示中であるか否かの判断が行われる。制御部77は、基準値更新画面が表示中であると判断した場合(Yes)にはステップS219へ処理を進め、基準値更新画面が表示中でないと判断した場合(No)にはステップS216へ処理を進める。
ついでステップS216において、制御部77によって、基準値更新画面の表示指示が行われたか否かが判断される。制御部77は、基準値更新画面の表示指示が行われたと判断した場合(Yes)にはステップS217へ処理を進め、基準値更新画面の表示指示が行われなかったと判断した場合(No)にはステップS221へ処理を進める。
【0099】
ついでステップS217において、制御部77のRAM91gが、ハードディスク91gの第2データベース91jに記憶されているサンプルデータ及び第1データベース91iに記憶されている基準値を読み出す。
そして、ステップS218において、読み出されたサンプルデータ及び基準値に基づき作成されたグラフを含む基準値更新画面が表示部79に表示される。
【0100】
図23は、このような基準値変更画面(変更前)の例を示している。この例では、CDK1の比活性、及びCDK1の比活性とCDK2の比活性の比が再発リスク判定のための基準として選定されている。また、CDK1の比活性について、低位基準値である第2基準値(=6)及び高位基準値である第3基準値(=90)が設定され、また比活性の比の基準値(第1基準値)は「5.0」に設定されている。そして、これら3つの基準値により区分けされる6つの領域が、図23の左下に示されるように、「高(H)」又は「低(L)」の領域に設定されている。
【0101】
図23の左上のグラフPは、横軸を術後日数、縦軸を非再発率(単位は%)とした生存曲線であり、前記「高」領域及び「低」領域の再発率を示している。上側の曲線が再発リスク「低」領域の再発率を示し、下側の曲線が再発リスク「高」領域の再発率を示している。このグラフは、例えば、次のようにして作成される。
前述したようにして、基準値の設定、及び領域の設定(「高」領域又は「低」領域の設定)が行われると、領域毎に非再発率の演算が制御部77にて行われる。サンプルデータには、再発の有無、及び摘出手術をしてから再発するまでの日数(再発していない患者にとっては、術後の経過日数)に関する情報(履歴情報)が含まれている。そこで、各領域に含まれるすべてのサンプルデータを母集団として、手術後の日数を変数として、非再発率の演算を行い、その結果をグラフ化する。例えば、簡単のために、「低」領域内のサンプル数を100として、サンプル1、サンプル2、サンプル3がそれぞれ術後600日、900日、1200日で再発し、残りのサンプルは術後5年間(約1826日)再発しなかったと仮定する。この場合、術後600日までの非再発率は100(%)であり、術後600日の時点で99(%)となり、さらに術後900日までは99(%)のままである。そして、術後900日の時点で98(%)となり、さらに術後1200日までは98(%)のままである。そして、術後1200日の時点で97(%)となり、さらに術後1826日までは97(%)のままである。すなわち、術後5年間の再発リスクは3%となる。なお、術後に癌を再発することなく、当該癌以外の理由で患者が死亡した場合は、死亡した時点でサンプルデータの母集団から削除される。また、摘出手術をしてから再発するまでの日数について、再発をした患者の場合は来院して検診及び検査をすることで、かかる日数を把握することができる。一方、それ以外の患者については、病院の方から患者に対し定期的にフォローアップの連絡をし、これに対し「異常なし」の回答をした患者は、その日までは「再発なし」と判断する。フォローアップに対し回答のない患者、又はフォローアップをしなくなった患者については、サンプルデータの母集団から削除される。したがって、術後の日数が経過するにつれて、母集団の数は次第に少なくなっていき、1人の患者が再発したことによる前記非再発率の低下割合は大きくなる。
【0102】
ここで、前記基準値の変更は、ユーザが入力部78を操作することによって、グラフにおいて基準値を表す直線にポインタを合わせてドラッグすることで行うようにしてもよいし、また画面中にスクロールバーやボタン(図示せず)を設け、これらを操作することで変更するようにしてもよい。
【0103】
図24は基準値変更後の画面を示しており、この例では、第1基準値(比活性の比)を5.0から2.8に変更している。基準値を変更することにより、再発リスクの「高」領域及び「低」領域も変動するが、本実施の形態では、基準値を変更させると、変更後の基準値により区分けされる領域内に含まれるサンプルデータに基づいて、制御部77が前述した生存曲線を作成し、表示部79に表示する。したがって、ユーザは、この生存曲線を見ながら、5年経過時における再発率が所定の範囲内の値になるように、適宜基準値を変更させることができ、その結果、判定精度の高い基準値を設定することができる。図24において生存曲線を示すグラフPでは、再発リスク「高」領域の再発率を示す曲線しか存在していないように見える。これは、基準値を変更した結果、再発リスク「低」領域の患者に再発した事例が含まれなくなり、再発リスク「低」領域の非再発率が100%のままとなり、横軸の100%を示す線と重なったことによるものであり、現実には2本の曲線が表示されている。なお、図24に示される例では、第1基準値だけ変更させたが、第2基準値及び/又は第3基準値を変更させることもできる。
【0104】
ついでステップS219において、制御部77によって、基準値を変更する入力が行われたか否かが判断される。制御部77は、新たな基準値の入力が行われたと判断した場合(Yes)にはステップS220へ処理を進め、新たな基準値の入力が行われなかったと判断した場合(No)にはステップS221へ処理を進める。
ついでステップS220において、入力された新たな基準値がハードディスク91gの第1データベース91iに記憶される。
【0105】
ついでステップS221において、制御部77によって、シャットダウンする指示を受け付けているか否かが判断される。制御部77は、シャットダウンする指示を受け付けていると判断した場合(Yes)にはステップS222に処理を進め、シャットダウンする指示を受け付けていないと判断した場合(No)にはステップS202に戻る。そして、ステップS222において、シャットダウン信号が制御部77から本体制御部10へ送信される。ついで、ステップS223において、制御部77によりパーソナルコンピュータ12のシャットダウンの処理が行われ、処理が完了する。
【0106】
また、ステップS8において、本体制御部10によって、シャットダウン信号の受信が行われたか否かの判断が行われる。本体制御部10は、シャットダウン信号の受信が行われたと判断した場合(Yes)にはステップS9に処理を進め、シャットダウン信号の受信が行われていないと判断した場合(No)にはステップS2に戻る。そして、ステップS9において、本体制御部10により、装置本体20のシャットダウンが行われ、処理が終了する。
【0107】
(4)発現量測定用試料の調製処理
前記ステップS3における発現量測定用試料の調製処理のフローを図18に示す。
まず、ステップS21において、タンパク固相用チップの各ウェルに予め貯留している保存液が排出され、各ウェル内が洗浄される。洗浄は、分注機構部3のピペットを介して洗浄液を上方から各ウェルに注入し、ついでタンパク固相用チップの下方から陰圧により注入された洗浄液を多孔質膜を通して吸引することによって行われる。以下の洗浄工程も同様である。
【0108】
つぎに、第1試薬セット部5にセットされた検体容器から発現量測定用の検体がピペットで吸引され、この検体は所定の複数のウェルに注入され、ついで検体がタンパク固相用チップの下方から陰圧により吸引される。これにより、タンパク固相用チップの多孔質膜にタンパク質が固相化される(ステップS22)。
ついで、ステップS21と同様にして前記所定のウェル内が洗浄液で洗浄される。これによって、タンパク質以外の成分がタンパク固相用チップの多孔質膜から取り除かれる(ステップS23)。
【0109】
その後、ブロッキング液が前記所定のウェル内に注入され、15分以上(例えば、30分間)放置された後にウェル内に残っているブロッキング液が排出される(ステップS24)。これにより、タンパク質が固相化されていない多孔質膜の部位に蛍光標識されたCDK1抗体(蛍光標識CDK1抗体)、及び蛍光標識されたCDK2抗体(蛍光標識CDK2抗体)が固相化するのを防止することができる。なお、蛍光標識CDK1抗体、及び蛍光標識CDK2抗体としては、市販品を使用することができる。
【0110】
つぎに、蛍光標識CDK1抗体及び蛍光標識CDK2抗体がそれぞれ所定のウェルに注入される。その際、それぞれの蛍光標識抗体について、2つのウェルに注入される。20〜30分経過して、蛍光標識抗体と多孔質膜に固相化されたタンパク質(CDK1、又はCDK2)との反応が終了した後に注入した蛍光標識が排出される(ステップS25)。
最後に、ステップS23と同様にして、前記所定のウェル内が洗浄液で洗浄される(ステップS26)。
【0111】
(5)活性値測定用試料の調製処理
前記ステップS4における活性値測定用試料の調製処理のフローを図19に示す。なお、この活性値測定用試料の調製処理においては、図1に示される活性測定ユニット2として、図中手前側に4つの試料調製部211を備え、図中奥側にも4つの試料調製部211を備えたものが用いられる。この活性測定ユニット2の各試料調製部211を、図中奥側の左から第1試料調製部(Ac1)、第2試料調製部(Ac2)、第3試料調製部(Ac3)、第4試料調製部(Ac4)とし、また、図中手前の左から第5試料調製部(Ac5)、第6試料調製部(Ac6)、第7試料調製部(Ac7)、第8試料調製部(Ac8)とする。
【0112】
まず、第1〜第8試料調製部(Ac1〜Ac8)のそれぞれについて、開口205に、分注機構部3のピペットで洗浄用の試薬であるバッファーが注入される。そして、第1〜第8試料調製部(Ac1〜Ac8)のそれぞれについて、シリンジポンプ214及び電磁バルブ225が前述したように動作することにより、液体貯留部204のバッファーは、担体206を通過し流路223へ引き込まれた後、再び担体206を通過して液体貯留部204へ戻される。全てのカラム201中の液体貯留部204へ戻されたバッファーは、分注機構部3のピペットで吸引され廃棄される(ステップS31)。
【0113】
つぎに、免疫沈降(抗体とCDKの反応)をさせる(ステップS32)。まず、第1試薬セット部5にセットされた1つの検体容器から、活性値測定用の検体1が一方のピペットで、活性値測定用の検体2が他方のピペットで吸引される。
そして、検体容器から吸引された活性値測定用の検体1は、図20に示されるように、まず、第1試料調製部(Ac1)の液体貯留部204に注入される。そして、検体1は、シリンジポンプ214及び電磁バルブ225が前述したように動作することにより、第1試料調製部(Ac1)の担体206に送液される。その際、ピストン218を上下に1往復(吸引→排出)させることにより、検体1は、カラム201の担体206を1往復する。
【0114】
一方、検体容器から吸引された活性値測定用の検体2は、まず、第5試料調製部(Ac5)の液体貯留部204に注入される。そして、検体2は、前記と同様に、第5試料調製部(Ac5)の担体206に送液される。
第1試料調製部(Ac1)及び第5試料調製部(Ac5)のカラム201の担体206には、CDK1の抗体もCDK2の抗体も固定されていない。従って、第1試料調製部(Ac1)及び第5試料調製部(Ac5)では、CDK1及びCDK2は固相化されず、第1試料調製部(Ac1)のカラム201には、CDK1及びCDK2を含む検体1が貯留され、第5試料調製部(Ac5)のカラム201には、CDK1及びCDK2を含む検体2が貯留される。
【0115】
つぎに、第1試料調製部(Ac1)のカラム201に貯留された検体1は、ピペットによって吸引され、第3試料調製部(Ac3)の液体貯留部204に注入される。そして、検体1は、前記と同様に、第3試料調製部(Ac3)の担体206に送液される。
一方、第5試料調製部(Ac5)のカラム201に貯留された検体2は、ピペットによって吸引され、第4試料調製部(Ac4)の液体貯留部204に注入される。そして、検体2は、前記と同様に、第4試料調製部(Ac4)の担体206に送液される。
【0116】
第3試料調製部(Ac3)及び第4試料調製部(Ac4)のカラム201の担体206には、CDK1の抗体が固定されている。従って、第3試料調製部(Ac3)及び第4試料調製部(Ac4)では、CDK1は固相化されるが、CDK2は固相化されず、第3試料調製部(Ac3)のカラム201には、CDK1を含まずCDK2を含む検体1が貯留され、第4試料調製部(Ac4)のカラム201には、CDK1を含まずCDK2を含む検体2が貯留される。
【0117】
つぎに、第3試料調製部(Ac3)のカラム201に貯留された検体1は、ピペットによって吸引され、第7試料調製部(Ac7)の液体貯留部204に注入される。そして、検体1は、前記と同様に、第7試料調製部(Ac7)の担体206に送液される。
【0118】
一方、第4試料調製部(Ac4)のカラム201に貯留された検体2は、ピペットによって吸引され、第8試料調製部(Ac8)の液体貯留部204に注入される。そして、検体2は、前記と同様に、第8試料調製部(Ac8)の担体206に送液される。
第7試料調製部(Ac7)及び第8試料調製部(Ac8)のカラム201の担体206には、CDK2の抗体が固定されている。従って、第7試料調製部(Ac7)及び第8試料調製部(Ac8)では、CDK2が固相化されるので、第7試料調製部(Ac7)のカラム201には、CDK1もCDK2も含まない検体1が貯留され、第8試料調製部(Ac8)のカラム201には、CDK1もCDK2も含まない検体2が貯留される。
【0119】
第7試料調製部(Ac7)及び第8試料調製部(Ac8)のカラム201に貯留された検体1及び検体2は、それぞれピペットによって吸引され、廃液槽7に廃棄される。
そして、第1試料調製部(Ac1)及び第5試料調製部(Ac5)は、バックグラウンドの活性測定用に、第3試料調製部(Ac3)及び第4試料調製部(Ac4)は、CDK1の活性測定用に、第7試料調製部(Ac7)及び第8試料調製部(Ac8)は、CDK2の活性測定用に使用される。
【0120】
このように、カラム内に残った検体を他のカラムに注入することによって、少ない検体量で、バックグラウンド活性測定、CDK1活性測定及びCDK2活性測定が可能となる。
ついで、検体中の不要成分を洗浄して取り除くために、バッファー1がカラム201に送液される(ステップS33)。
【0121】
その後、前記バッファー1はステップS25で実行される酵素反応に影響を与えることから、かかる酵素反応のためのコンディションを作ることを主目的に、バッファー2がカラム201に送液されて、前記バッファー1の成分が洗い流される(ステップS34)。
つぎに、基質HistonH1とATPγSを含む基質反応液がカラム201に注入され、ピストン219が1往復させられる(ステップS35)。カラム201中にカラム201の下側から押し出された液は、そのまま貯留される。このステップによって、CDK1又はCDK2を酵素として、HistonH1にリン酸基が導入される。そして、このリン酸基の量は、CDK1又はCDK2の酵素として働きの強さ(すなわち活性値)に左右されることから、前記リン酸基の量を測定することによって、CDK1又はCDK2の活性値を求めることができる。なお、図20に示される第1試料調製部(Ac1)及び第5試料調製部(Ac5)を使用して求められるバックグラウンド活性値は、後述するように、バックグラウンド補正をするために用いられる。
【0122】
ついで、蛍光標識化試薬が、ピペットを用いてカラム201の上方より直接カラム201内に分注され、HistonH1に導入されたリン酸基に蛍光標識が結合させられる(ステップS36)。その際、ピペットが、所定の時間、カラム内の液体の吸入及び吐出を繰り返すことにより、カラム201内の液体が撹拌される。
ステップS26の開始から所定時間(例えば、20分間)経過後に反応停止液が前記蛍光標識化試薬と同様にカラム201に直接分注される。そして、ステップS26と同じく所定の時間、カラム内の液体の吸入及び吐出を繰り返すことによりカラム201内の液体が撹拌される(ステップS37)。これにより、蛍光標識の結合が停止する。
【0123】
つぎに、第1試料調製部(Ac1),第3試料調製部(Ac3),第4試料調製部(Ac4),第5試料調製部(Ac5),第7試料調製部(Ac7)、及び第8試料調製部(Ac8)のカラム201内の液体が、それぞれ、タンパク固相用チップ101の6つのウェルに分注された後に当該タンパク固相用チップ101が下方から吸引される(ステップS38)。これによって、蛍光標識が結合したリン酸基を有するHistonH1がタンパク固相用チップ101の多孔質膜に固相化される。
【0124】
ついで、前記発現量測定用試料の調製処理におけるステップS21と同様にしてウェルの洗浄が行なわれる(ステップS39)。
最後に、HistonH1に導入されたリン酸基に結合しなかった蛍光標識を消光(バックグラウンド消光)させるための消光用試薬がウェルに分注され、排出する操作が6回繰り返される(ステップS40)。
【0125】
(6)解析処理
解析処理のステップ(ステップS208)では、図21に示されるように、検出部で得られた蛍光強度から解析がなされ、その解析結果が表示部79に出力される。
まず、制御部77は、検出部4の受光系から本体制御部10を介して、CDK1の活性、CDK1の発現、CDK2の活性、CDK2の発現、バックグラウンドの活性、及びバックグラウンドの発現のそれぞれについて、2つずつ蛍光強度が取得する(ステップS51)。
【0126】
ついで、制御部77は、各項目について2つずつ得られた蛍光強度の平均値を算出する(ステップS52)。
つぎに、CDK1活性の蛍光強度(平均値)からバックグラウンド活性(平均値)を引くとともに、CDK2活性の蛍光強度(平均値)からバックグラウンド活性(平均値)を引くことにより、CDK1活性及びCDK2活性についてバックグラウンド補正が行なわれる。CDK1発現及びCDK2発現についても同様にしてバックグラウンド補正が行なわれる(ステップS53)。
【0127】
ついで、それぞれの項目について、検量線を用いて発現量及び活性値が取得される(ステップS54)。なお、この検量線は、蛍光強度を発現量又は活性値に変換するためのデータであり、試薬のロットが変更されたときに、発現量又は活性値が既知である2種類以上の検体を用いて予め作成され、制御部77のハードディスク91gに記憶される。
つぎに、以下の式に従い、CDK1比活性及びCDK2比活性が算出される(ステップS55)。
CDK1比活性=CDK1活性値/CDK1発現量
CDK2比活性=CDK2活性値/CDK2発現量
【0128】
また、以下の式に従いCDK1比活性とCDK2比活性との比が算出される(ステップS56)。
CDK1比活性とCDK2比活性との比=CDK2比活性/CDK1比活性
ついで、前記CDK1比活性とCDK2比活性との比が第1基準値以上であるか否かが判断され(ステップS57)、Yesの場合はステップS58に進み、CDK1比活性が第2基準値以上であるか否かが判断され、一方、Noの場合はステップS59に進み、CDK1比活性が第3基準値以上であるか否かが判断される。
【0129】
ステップS58では、CDK1比活性が第2基準値以上であるか否かが判断され、Yesの場合は再発リスクが「高」であると判断され、一方、Noの場合は再発リスクが「低」であると判定される。
また、ステップS59では、CDK1比活性が第3基準値以上であるか否かが判断され、Yesの場合は、再発リスクが「高」であると判定され、一方、Noの場合は再発リスクが「低」であると判定される。
【0130】
そして、図22に示されるように、再発リスクの大きさを判定する根拠となるCDK1比活性及びCDK2比活性がグラフ上にプロットされて表示(図中、★印で表示している)されるとともに、再発リスクの判定結果が表示される(ステップS60)。図22に示されるグラフは、横軸にCDK1比活性をログ(log)表示し、縦軸にCDK2比活性をログ(log)表示している。また、直線L1、直線L2及び直線L3は、それぞれ第1〜第3基準値を示している。なお、図22に示される例では、参考のために、再発リスクを判定するのに用いたサンプルデータを薄く表示している。
【0131】
1)基準値設定方法
ここで、再発リスクの「高」又は「低」を判定するための前記第1〜第3基準値の設定方法について説明する。
[サンプルデータの蓄積]
まず、癌再発の可能性の高低、特定の抗癌剤に対する感受性(有効性)の高低などの癌の診断支援情報を取得するための基準値を求めるには、多数の癌患者の所定の項目(前記CDK1比活性など)の測定値と、当該癌患者の悪性腫瘍摘出後の臨床情報とが対応付けられたサンプルデータを蓄積する必要がある。かかるサンプルデータは、制御部77のハードディスク91gの第2データベース91jに記憶される。
【0132】
前記所定の項目としては、例えば第1のサイクリン依存性キナーゼ(第1CDK)及び第2のサイクリン依存性キナーゼ(第2CDK)の各活性値、第1CDK及び第2CDKの各発現量、第1CDKの活性値と当該第1CDKの発現量との比(第1比活性)、第1CDKの活性値と当該第2CDKの発現量との比(第2比活性)、前記第1比活性と第2比活性との比(比活性比)などを挙げることができ、これらは前述した本発明の診断支援装置を用いて測定することができる。
また、臨床情報とは、悪性腫瘍を摘出した癌患者の治療内容や術後の経過などを含む情報であり、例えばリンパ節転移の有無、術後療法(無治療、ホルモン療法、化学療法など)、再発の有無、摘出してから再発までの日数、抗癌剤に対する感受性(有効性)、生存率などの情報を挙げることができる。
【0133】
図25〜26は、乳癌の摘出手術を受けた患者から収集したサンプルデータの例の一部を表で示している。表において、「No.」は患者を識別するための検体番号、患者番号などの番号であり、「Age」及び「Mens」はそれぞれ患者の年齢及び閉経の前後を示している。また、「T」は摘出した腫瘍の大きさを示しており、表記が数字の場合、単位は「mm」であり、表記がローマ字の場合、「a」が2cm以下、「b」が2〜5cm、「c」が5cm以上を表している。なお、前記サンプルデータに、測定対象となる検体の採取量や血液混入度などの検体に関する情報を適宜含ませることもできる。
【0134】
図25〜26において、Mで示す部分が測定項目であり、Cで示す部分が臨床情報である。各測定項目の内容は、以下のとおりである。
CDK1A:CDK1の活性値
CDK2A:CDK2の活性値
CDK1E:CDK1の発現量
CDK2E:CDK2の発現量
CDK1SA:CDK1の比活性
CDK2SA:CDK2の比活性
CDK2/1:CDK1の比活性とCDK2の比活性の比
【0135】
また、各臨床情報の内容は、以下のとおりである。
術後補助:摘出手術後に行われた療法の情報であり、術後補助1がホルモン療法、術後補助2が化学療法を示す。ホルモン療法の場合は、治療で使用したホルモン剤の種類が記載されている。
TAM;タモキシフェン
TOR;トレミフェン
ZOL;ゾラデックス
Aromacin;Aromatase Inhibitor
Arimidex;Aromatase Inhibitor
【0136】
また、化学療法の場合は、抗癌剤の種類が記載されている。
CMF;Cyclo−phosphamide、Methotrexate、Fluorouracil
CEF;Cyclo−phosphamide、Epirubicin(アンスラサイクリン系抗生物質)、Fluorouracil
CE;Cyclo−phosphamide、Epirubicin
なお、「0」は実施無しを示す。
再発:再発の有無を示し、「1」が再発無、「0」が再発有である。
DFS:摘出手術から再発までの日数
【0137】
さらに、図25には示していないが、サンプルデータが以下のような臨床情報を含んでもよい。
LN:リンパ節転移の有無(0:無、1:有)
ER、PR:ホルモン療法の有効性の判定であり、ERがEstrogen receptorの有無、PRがProgesterone receptorの有無を示す。それぞれ「1」が有、「0」が無である。
HG:病理学的悪性度を1〜3の3段階で示し、「3」が最も悪い。
HER2:HER2の発現量又は遺伝子数
以上のようなサンプルデータは、乳癌に限らず、胃癌、肺癌など各種の癌に対応して、それぞれ作成することができる。その際、前記臨床情報は、癌の種類に応じて適宜選定することができる。
【0138】
[基準値の設定]
癌の再発のリスクと相関関係があると考えられる測定項目を選定し、この測定項目に関する情報を指標ないしはパラメータとする。例えば、ある種の癌の再発リスクとCDK1の比活性との間に強い相関関係があり、CDK1の比活性が大きくなると癌再発のリスクが大きくなると判断される場合、このCDK1の比活性を指標とし、かかる比活性のある値を基準値とし、この値より大きいケースを再発リスク「高」とし、前記値より小さいケースを再発リスク「低」とする。前記基準値としては、例えば術後5年間における再発の可能性が50%以上を「高」とし、50%未満を「低」とするように選定することができる。なお、再発リスクの区分けとしては、「高」と「低」の2段階だけでなく、「高」、「中」及び「低」の3段階、又はそれ以上とすることができ、本発明において特に限定されるものではない。
【0139】
癌の再発リスクと相関関係のある指標としては、1つに限らず、2以上を選定することができる。例えば、前記CDK1の比活性に加えて、CDK2の比活性、及びCDK1の比活性とCDK2の比活性の比(比活性比)を、基準値を設定する測定項目とすることができる。なお、本明細書において、「測定項目」とは、測定装置によって直接値を得ることができる、前記CDKの活性値や発現量以外に、この活性値や発現量を基に算出される比活性や、比活性比なども含む概念である。また、CDKに関する項目以外に、例えばHER2なども含まれる。
【0140】
前記サンプルデータを用いて、癌の再発リスクと測定項目との関係をグラフ化することができる。図23の右上に示される図は、乳癌の患者のうち、リンパ節転移がなく、且つホルモン療法のみの患者について、以下の情報を利用して作成した散布図である。
再発:再発の有無
CDK1SA:CDK1の比活性
CDK2SA:CDK2の比活性
CDK2/1:CDK1の比活性とCDK2の比活性の比
【0141】
散布図の縦軸はCDK2の比活性のlog値(分かり易くするためにlog値としている)、横軸はCDK1の比活性のlog値である。リスク判定に使用する基準値として、以下の3つを設定している。
第1基準値:比活性の比が5.0
第2基準値:CDK1の比活性が6
第3基準値:CDK1の比活性が90
【0142】
乳癌の場合、一般に、ホルモン療法のみ行ったときに術後5年間の再発率が5%以下となることが予測されるケースを再発リスクが低いと判定し、同様に術後5年間の再発率が15%を超えることが予測されるケースを再発リスクが高いと判定していることから、術後5年以内に再発した事例が前記所定の割合となるように、前記第1〜3基準値が設定される。図23に示される散布図では、CDK1の比活性がある値よりも小さくなると再発例がなく、また、比活性の比がある値よりも大きくなると再発例が増え、さらに、CDK1の比活性がある値よりも大きくなると、比活性の比の値にかかわらず再発例が存在することから、サンプルデータを6つの領域に分け、図23の左下に示されるように「高(H)」領域、及び「低(L)」領域を設定している。そして、「低」領域内に含まれるサンプルデータの術後5年以内に再発した割合が5%以下となり、「高」領域に含まれるサンプルデータの術後5年以内に再発した割合が15%を超えた値(約20%)となるように、3つの基準値を設定している。前記図23の左下に示される図において、各領域に対応してボタンが設けられており、このボタンをクリックすることにより、「高」又は「低」を設定することができる。図23に示されるような散布図は、癌の種類に応じて作成することができ、また、特定の療法(無治療を含む)毎に作成することができる。例えば、同じ乳癌の患者であっても、特定の化学療法を行った患者群に対して、CDK1の比活性、CDK2の比活性、及びCDK1の比活性とCDK2の比活性の比を指標とした同様の散布図を作成することができる。
【0143】
(9)診断支援装置Aによる処理の全体フロー(実施の形態2)
つぎに、診断支援装置Aによる実施の形態2に係る処理の全体のフローを図27〜29に示す。この実施の形態2に係る処理は、検体番号などの情報の入力が受け付けられた後に、ユーザが、単に測定及び解析を行う判定モードと、測定及び解析した結果を新たなサンプルデータとして装置の記憶部に蓄積するサンプルデータ更新モードとの何れかを選択する工程を含む点が、実施の形態1に係る処理と主に異なっている。
【0144】
まず、装置本体20の電源が投入されると、本体制御部10の初期化が行われる(ステップS301)。この初期化動作では、プログラムの初期化や装置本体20の駆動部分の原位置復帰などが行われる。
パーソナルコンピュータ12の電源が投入されると、制御部77の初期化が行われる(ステップS501)。この初期化動作では、プログラムの初期化などが行われる。初期化が完了すると、入力用画面の表示を指示するための入力画面表示ボタンを含むメニュー画面(図示せず)が表示部79に表示される。ユーザは、入力部78を操作することによって、メニュー画面の入力用画面の表示を指示するための入力画面ボタンを選択することができる。
【0145】
ついでステップS502において、制御部77によって、入力用画面が表示中であるか否かの判断が行われる。制御部77は、入力用画面が表示中であると判断した場合(Yes)にはステップS504−2へ処理を進め、入力用画面が表示中でないと判断した場合(No)にはステップS503へ処理を進める。
ついでステップS503において、制御部77によって、入力用画面の表示指示が行われたか否か(メニュー画面の入力用画面の表示を指示するための入力画面ボタンが選択されたか否か)が判断される。制御部77は、入力用画面の表示指示が行われたと判断した場合(Yes)にはステップS504−1へ処理を進め、入力用画面の表示指示が行われなかったと判断した場合(No)にはステップS509へ処理を進める。
【0146】
ついでステップS504−1において、制御部77によって、入力用画面が表示部79に表示される。ここでは、ユーザが入力部78を操作することによって、検体番号などの測定に関する情報が入力される。さらに、ユーザが入力部78を操作することによって、判定モード(単に測定及び解析を行うモード)及びサンプルデータ更新モード(測定及び解析した結果を新たなサンプルデータとして装置の記憶部に蓄積するモード)のいずれかのモードが選択される。具体的には、パーソナルコンピュータ12の表示部79に、2つのモードの入力ボタンが表示される。オペレータ(ユーザ)は入力部78を操作して希望するモードの入力ボタンを選択する。また、ユーザが入力部78を操作して入力用画面に表示されたスタートボタンを選択することにより、測定開始の指示が行われる。
そして、ユーザが入力部78を操作して入力用画面に表示されたスタートボタンを選択することにより、測定開始の指示が行われる。
【0147】
ついで、ステップS504−2において、制御部77によって、判定モードが選択されたか否かの判断が行われる。制御部77は、判定モードが選択されたと判断した場合(Yes)にはステップS505−1へ処理を進め、判定モードが選択されなかったと判断した場合(No)にはステップS505−2へ処理を進める。
【0148】
ステップS504−2において判定モードが選択されたと判断された場合、ついでステップS505−1において、制御部77によって、測定開始の指示が行われたか否かが判断される。制御部77は、測定開始の指示が行われたと判断した場合(Yes)にはステップS506−1へ処理を進め、測定開始の指示が行われなかったと判断した場合(No)にはステップS509へ処理を進める。そして、ステップS506−1において、測定開始信号が制御部77から本体制御部10へ送信される。
【0149】
ついでステップS302において、本体制御部10によって測定開始信号の受信が行われたか否かの判断をする。本体制御部10が、測定開始信号の受信が行われたと判断した場合(Yes)にはステップS303へ処理を進め、測定開始信号の受信が行われなかったと判断した場合(No)にはステップS308へ処理を進める。
ついでステップS303において、発現量測定用の試料が調製される。ここでは、第1試薬セット部5にセットした検体容器から検体が吸引される。そして、吸引された検体に所定の処理が施されて、発現量測定用の試料が調製される。
【0150】
さらに、ステップS304において、活性値測定用の試料が調製される。ここでは、第1試薬セット部5にセットした検体容器から検体が吸引される。そして、吸引された検体に所定の処理が施されて、活性値測定用の試料が調製される。
なお、ステップS303における発現量測定用試料の調製、及びステップS304における活性値測定用試料が調製の詳細は、それぞれ実施の形態1におけるステップS3(図18)及びステップS4(図19)と同様であるので、その説明を省略する。
【0151】
ついでステップS305において、発現量測定用の試料及び活性値測定用の試料を含むタンパク固相用チップ101がセットされたチップセット部1が、図1に示される位置から検出部4の中に移動する。
ついでステップS306において、タンパク固相用チップ101の各ウェルに励起光が照射され、前記各試料から放射される蛍光が検出される。
そしてステップS307において、検出された検出結果が、本体制御部10から制御部77に送信される。
【0152】
つぎにステップS507−1において、制御部77によって、検出結果の受信が行われたか否かが判断される。制御部77は、検出結果の受信が行われたと判断した場合(Yes)にはステップS508−1に処理を進める。一方、検出結果の受信が行われなかった場合には、制御部77は再びステップS507−1の処理を実行する。
そして、ステップS508−1において、制御部77によって、取得した検出結果から解析処理(解析処理A)が実行され、解析結果が出力される。
【0153】
一方、サンプルデータ蓄積モードが選択されたためにステップS504−2において判定モードが選択されなかったと判断された場合、ついでステップS505−2において、制御部77によって、測定開始の指示が行われたか否かが判断される。このステップS505−2からステップS507−2に至る処理は、前記ステップS505−1からステップS507−1と同様であるので、説明を省略する。
そして、ステップS508−2において、制御部77によって、取得した検出結果から解析処理(解析処理B)が実行され、解析結果が出力される。
【0154】
ついでステップS509において、制御部77によって、サンプルデータ更新画面が表示中であるか否かの判断が行われる。制御部77は、サンプルデータ更新画面が表示中であると判断した場合(Yes)にはステップS513へ処理を進め、サンプルデータ更新画面が表示中でないと判断した場合(No)にはステップS510へ処理を進める。
ついでステップS510において、制御部77によって、サンプルデータ更新画面の表示指示が行われたか否かが判断される。制御部77は、サンプルデータ更新画面の表示指示が行われたと判断した場合(Yes)にはステップS511へ処理を進め、サンプルデータ更新画面の表示指示が行われなかったと判断した場合(No)にはステップS515へ処理を進める。
【0155】
ついでステップS511において、制御部77のRAM91gが、ハードディスク91gの第2データベース91jに記憶されているサンプルデータを読み出す。
そして、ステップS512において、読み出されたサンプルデータを含むサンプルデータ更新画面が表示部79に表示される。ここでは、実施の形態1と同様にして、ユーザが入力部78を操作することによって、変更する項目が選択され、選択された項目について変更後の情報が入力される。
【0156】
ついでステップS513において、制御部77によって、新たなサンプルデータの入力が行われたか否かが判断される。制御部77は、新たなサンプルデータの入力が行われたと判断した場合(Yes)にはステップS514へ処理を進め、新たなサンプルデータの入力が行われなかったと判断した場合(No)にはステップS515へ処理を進める。
ついでステップS514において、入力された新たなサンプルデータがハードディスク91gの第2データベース91jに記憶される。
【0157】
ついでステップS515において、制御部77によって、基準値更新画面が表示中であるか否かの判断が行われる。制御部77は、基準値更新画面が表示中であると判断した場合(Yes)にはステップS519へ処理を進め、基準値更新画面が表示中でないと判断した場合(No)にはステップS516へ処理を進める。
ついでステップS516において、制御部77によって、基準値更新画面の表示指示が行われたか否かが判断される。制御部77は、基準値更新画面の表示指示が行われたと判断した場合(Yes)にはステップS517へ処理を進め、基準値更新画面の表示指示が行われなかったと判断した場合(No)にはステップS521へ処理を進める。
【0158】
ついでステップS517において、制御部77のRAM91gが、ハードディスク91gの第2データベース91jに記憶されているサンプルデータ及び第1データベース91iに記憶されている基準値を読み出す。
そして、ステップS518において、読み出されたサンプルデータ及び基準値に基づき作成されたグラフを含む基準値更新画面(実施の形態1に関連して説明をした図23〜24参照)が表示部79に表示される。
【0159】
ついでステップS519において、制御部77によって、基準値を変更する入力が行われたか否かが判断される。制御部77は、新たな基準値の入力が行われたと判断した場合(Yes)にはステップS520へ処理を進め、新たな基準値の入力が行われなかったと判断した場合(No)にはステップS521へ処理を進める。
ついでステップS520において、入力された新たな基準値がハードディスク91gの第1データベース91iに記憶される。
【0160】
ついでステップS521において、制御部77によって、シャットダウンする指示を受け付けているか否かが判断される。制御部77は、シャットダウンする指示を受け付けていると判断した場合(Yes)にはステップS522に処理を進め、シャットダウンする指示を受け付けていないと判断した場合(No)にはステップS502に戻る。そして、ステップS522において、シャットダウン信号が制御部77から本体制御部10へ送信される。ついで、ステップS523において、制御部77によりパーソナルコンピュータ12のシャットダウンの処理が行われ、処理が完了する。
【0161】
また、ステップS308において、本体制御部10によって、シャットダウン信号の受信が行われたか否かの判断が行われる。本体制御部10は、シャットダウン信号の受信が行われたと判断した場合(Yes)にはステップS309に処理を進め、シャットダウン信号の受信が行われていないと判断した場合(No)にはステップS302に戻る。そして、ステップS309において、本体制御部10により、装置本体20のシャットダウンが行われ、処理が終了する。
【0162】
(10)解析処理A(ステップS508−1)
図30に示されるように、検出部で得られた蛍光強度から解析がなされ、その解析結果が出力される。この処理は、図21に示される解析処理と同様である。
【0163】
まず、制御部77は、検出部4の受光系から本体制御部10を介して、CDK1の活性、CDK1の発現、CDK2の活性、CDK2の発現、バックグラウンドの活性、及びバックグラウンドの発現のそれぞれについて、2つずつ蛍光強度を取得する(ステップS351)。
【0164】
ついで、制御部77は、各項目について2つずつ得られた蛍光強度の平均値を算出する(ステップS352)。
つぎに、CDK1活性の蛍光強度(平均値)からバックグラウンド活性(平均値)を引くとともに、CDK2活性の蛍光強度(平均値)からバックグラウンド活性(平均値)を引くことにより、CDK1活性及びCDK2活性についてバックグラウンド補正が行なわれる。CDK1発現及びCDK2発現についても同様にしてバックグラウンド補正が行なわれる(ステップS353)。
【0165】
ついで、それぞれの項目について、検量線を用いて発現量及び活性値が取得される(ステップS354)。なお、この検量線は、蛍光強度を発現量又は活性値に変換するためのデータであり、試薬のロットが変更されたときに、発現量又は活性値が既知である2種類以上の検体を用いて予め作成され、制御部77のハードディスク91gに記憶される。
つぎに、以下の式に従い、CDK1比活性及びCDK2比活性が算出される(ステップS355)。
CDK1比活性=CDK1活性値/CDK1発現量
CDK2比活性=CDK2活性値/CDK2発現量
【0166】
また、以下の式に従いCDK1比活性とCDK2比活性との比が算出される(ステップS356)。
CDK1比活性とCDK2比活性との比=CDK2比活性/CDK1比活性
ついで、前記CDK1比活性とCDK2比活性との比が第1基準値以上であるか否かが判断され(ステップS357)、Yesの場合はステップS58に進み、CDK1比活性が第2基準値以上であるか否かが判断され、一方、Noの場合はステップS359に進み、CDK1比活性が第3基準値以上であるか否かが判断される。
【0167】
ステップS358では、CDK1比活性が第2基準値以上であるか否かが判断され、Yesの場合は再発リスクが「高」であると判断され、一方、Noの場合は再発リスクが「低」であると判定される。
また、ステップS359では、CDK1比活性が第3基準値以上であるか否かが判断され、Yesの場合は、再発リスクが「高」であると判定され、一方、Noの場合は再発リスクが「低」であると判定される。
【0168】
そして、図22に示されるように、再発リスクの大きさを判定する根拠となるCDK1比活性及びCDK2比活性がグラフ上にプロットされて表示(図中、★印で表示している)されるとともに、再発リスクの判定結果が表示される(ステップS360)。図22に示されるグラフは、横軸にCDK1比活性をログ(log)表示し、縦軸にCDK2比活性をログ(log)表示している。また、直線L1、直線L2及び直線L3は、それぞれ第1〜第3基準値を示している。なお、図22に示される例では、参考のために、再発リスクを判定するのに用いたサンプルデータを薄く表示している。
【0169】
(11)解析処理B(ステップS508−2)
図31に示されるように、検出部で得られた蛍光強度から解析がなされ、その解析結果が出力される。この解析処理Bにおいて、蛍光強度を取得するステップS451からCDK1の比活性と第3基準値とを比較するステップS459までは、前記解析処理AにおけるステップS351〜359までと全く同様であるので、それらについての説明は省略する。
【0170】
解析処理Bでは、再発リスクの判定が行われた後に、検体の測定値及び解析結果(判定結果を含む)がサンプルデータに追加される、換言すれば制御部77のハードディスク91gに蓄積される(ステップS460)。
そして、図22に示されるように、再発リスクの大きさを判定する根拠となるCDK1比活性及びCDK2比活性をグラフ上にプロットして表示するとともに、再発リスクの判定結果を表示する(ステップS461)。
【0171】
なお、実施の形態1及び2では、再発リスクを「高」又は「低」と判定しているが、前述したように、判定の区分けは2つだけでなく、3以上とすることもできる。図32は、判定領域を「高」、「中」及び「低」の3つとした基準値変更画面の例を示している。この例は、CDK1の比活性、及びCDK1の比活性とCDK2の比活性との比(比活性比)を再発リスク判定のための指標としている点は、図23に示される例と同じである。ただし、図32に示される例では、CDK1の比活性について、低位基準値(=5)及び高位基準値(=90)に加え、中位基準値(=20)を設定し、前記比活性比を含めて4つの基準値を採用している。
【0172】
そして、前記4つの基準値により区分けされる8つの領域を、再発リスク「高」、再発リスク「中」又は再発リスク「低」にいずれかに設定している。具体的には、前記比活性比に係る基準値よりも大きく、且つ中位基準値よりも大きい領域を「高」領域としている。また、前記比活性比に係る基準値よりも大きく、中位基準値よりも小さく、且つ低位基準値よりも大きい領域を「中」領域としている。さらに、前記比活性比に係る基準値よりも大きく、且つ低位基準値よりも小さい領域を「低」領域としている。
【0173】
一方、前記比活性比に係る基準値よりも小さい領域については、高位基準値よりも大きい領域を「高」領域とし、当該高位基準値よりも小さい領域を「低」領域としている。
この例においても、グラフにおいて基準値を表す直線にポインタを合わせてドラッグすることで、又は、画面中にスクロールバーやボタン(図示せず)を設け、これらを操作することで、基準値を変更することができる。また、図32に示される例では、リスクの高中低に対応して3種類の生存曲線が作成され、表示される。この例でも、基準値を変更させると、変更後の基準値により区分けされる領域内に含まれるサンプルデータに基づいて前述した生存曲線が新たに作成され、表示される。したがって、ユーザは、この生存曲線を見ながら、5年経過時における再発率が所定の範囲内の値になるように、適宜基準値を変更させることができ、その結果、判定精度の高い基準値を設定することができる。
【0174】
また、前述した実施の形態では、CDK1及びCDK2の活性値や発現量から算出される値を再発リスク判定用の指標としているが、本発明は、これに限定されるものではなく、前記CDK1及びCDK2の活性値や発現量から算出される値とは異なる指標を用いることもでき、さらには前記CDK1及びCDK2の活性値や発現量から算出される値と他の指標を組み合わせて用いることもできる。
【0175】
図33は、CDK1の比活性とCDK2の比活性との比(比活性比)と、HER2の発現量とを組み合わせて再発リスクの判定を行う場合の基準値変更画面の例を示している。
この例では、HER2の発現量の基準値を0.7に設定しており、HER2の発現量が0.7以上の場合を「High」とし、0.7未満の場合を「Low」としている。また、前記比活性比(CDK2/1)の基準値を5.0に設定しており、CDK2/1が5.0以上を「High」とし、5.0未満の場合を「Low」としている。
【0176】
図33において、Xで示されるグラフは、各患者検体のHER2発現量を示しており、黒く塗りつぶされている検体番号は、CDK2/1が「High」であることを表している。
この例では、例えばつぎのようにして、再発リスクの高中低が判定される。比活性比及びHER2発現量がともに「Low」の場合は、再発リスクは「低」であると判定する。また、両方とも「High」である場合は、再発リスクは「高」であると判定する。さらに、一方が「High」で、他方がLow」の場合は、再発リスクは「中」であると判定する。
なお、この図33に示される例においても、実施の形態1及び2、並びに図32に示される例と同様の方法で基準値を変更することができ、また基準値の変更により新たな生存曲線が作成され、表示される。
【0177】
また、前述した実施の形態では、癌の悪性度(再発リスク)の判定を行う診断支援装置を例に挙げて説明しているが、本発明は、これに限定されるものではない。本発明は、抗癌剤の有効性(感受性)の判定を行う診断支援装置に適用することもできる。
【0178】
CDKを用いた抗癌剤の感受性を予測する方法について説明をする。
抗癌剤の感受性を予測する方法は、患者から採取した悪性腫瘍細胞のサイクリン依存性キナーゼの活性値、発現量、及び活性値と発現量との比からなる群より選択される少なくとも1つのパラメータと、選択されたパラメータに対応する基準値とを比較する工程;及び前記比較工程の結果に基づいて、前記患者の抗癌剤の感受性を予測する工程を含んでいる。
【0179】
前記予測方法で抗癌剤の感受性が高いと予測された場合、術前であれば、原発巣が存在する状態で抗癌剤を投与し続けた結果、原発巣が縮小ないし消失する可能性が高いと考えられる。また、術後であれば、腫瘍の摘出手術を行なった後に抗癌剤を投与することにより癌が再発しない可能性が高いと考えられる。
逆に、前記予測方法で抗癌剤の感受性が低いと予測された場合、術前であれば、原発巣が存在する状態で抗癌剤を投与し続けた結果、原発巣が縮小ないし消失する可能性が低いと考えられる。また、術後であれば、腫瘍の摘出手術を行なった後に抗癌剤を投与し続けても癌が再発する可能性が高いと考えられる。
【0180】
前記予測方法に用いられる試料となる組織は、患者から採取した悪性腫瘍細胞を含む組織である。術後療法の場合、癌の摘出手術によりこれらの組織を入手できるので、これを利用することができる。術前療法の場合には、患者の腫瘍組織から生検した組織(バイオプシー)などを用いることができる。
前記予測方法で用いられるサイクリン依存性キナーゼ(CDK)としては、CDK1、CDK2、CDK4、CDK6、サイクリンA依存性キナーゼ、サイクリンB依存性キナーゼ、サイクリンD依存性キナーゼ、及びサイクリンE依存性キナーゼなどが挙げられ、癌の種類、抗癌剤の種類に応じて適宜選択される。つまり、癌には種々の種類があり、各患者の癌細胞がもっている細胞周期に関連する性格が、抗癌剤の感受性に大いに関係するからである。
【0181】
癌の種類としては、乳癌、胃癌、大腸癌、食道癌、卵巣癌、前立腺癌などが挙げられる。また、抗癌剤としては、乳癌に対しては、例えばCMF群(シクロフォスファミド、メトトレキシエート、フルオロウラシルの3剤を併用して投与する療法)、ドセタキセル、パクリタキセルなどのタキサン系抗癌剤、CE(シクロフォスファミド、エピルビシンの2剤を併用して投与する療法)、AC(ドキソルビシン、シクロフォスファミドの2剤を併用して投与する療法)、CAF(フルオロウラシル、ドキソルビシン、シクロフォスファミドの3剤を併用して投与する療法)、FEC(フルオロウラシル、エピルビシン、シクロフォスファミドの3剤を併用して投与する療法)、トラスツズマブとパクリタキセルの2剤を併用して投与する療法、カペシタビンなどが挙げられ、胃癌に対しては、例えばFAM(フルオロウラシル、ドキソルビシン、マイトマイシンCの3剤を併用して投与する療法)、FAP(フルオロウラシル、ドキソルビシン、シスプラチンの3剤を併用して投与する療法)、ECF(エピルビシン、シスプラチン、フルオロウラシルの3剤を併用して投与する療法)、マイトマイシンCとテガフールの2剤を併用して投与する療法、フルオロウラシルとカルムスチンの2剤を併用して投与する療法などが挙げられ、大腸癌に対しては、例えばフルオロウラシルとロイコボリンの2剤を併用して投与する療法、マイトマイシンとフルオロウラシルの2剤を併用して投与する療法などが挙げられ、卵巣癌に対しては、例えばTP(パクリタキセル、シスプラチンの2剤を併用して投与する療法)、TJ(パクリタキセル、カルボプラチンの2剤を併用して投与する療法)、CP(シクロフォスファミド、シスプラチンの2剤を併用して投与する療法)、CJ(シクロフォスファミド、カルボプラチンの2剤を併用して投与する療法)などが挙げられる。
【0182】
抗癌剤の感受性を予測する際に指標とするのは、CDKの活性値、発現量、及び活性値と発現量との比から選択される1つ又は2つのパラメータである。活性値と発現量との比は、CDK活性値/CDK発現量で示されるCDK比活性であってもよいし、CDK発現量/CDK活性値で示される値(CDK比活性の逆数)であってもよい。
前記パラメータを所定の基準値と比較することにより細胞の抗癌剤に対する感受性を予測することができる。ここで活性値、発現量、及び活性値と発現量との比から選択されるパラメータとは、抗癌剤の種類、癌の種類により適宜選択されるパラメータである。このパラメータは、過去に抗癌剤治療が行われ、その結果が判明している癌患者から抗癌剤治療の前に摘出されて保存されていた腫瘍細胞について、CDKの活性値と発現量を測定し、それぞれのパラメータについて、抗癌剤治療結果を解析し、抗癌剤治療結果と相関のあるパラメータを抗癌剤の感受性予測に用いるパラメータとして選択したものである。
【0183】
基準値と比較するパラメータは、所定のCDKにおける1つのパラメータであってもよいし、2つのパラメータの組合せであってもよい。2つのパラメータを選択する場合、それぞれにおけるパラメータをそれぞれの基準値と比較する。
判定の指標となるCDKは、1種類であってもよいし(第1の感受性予測方法)、2種類以上であってもよい(第2の感受性予測方法)。
【0184】
2種類以上のCDKを採用する場合、複数のCDKについて、それぞれにおけるパラメータをそれぞれの基準値と比較し、各キナーゼの比較結果の組み合わせにより、有効性を予測してもよい(第2−1の感受性予測方法)。この場合、基準値と比較するパラメータの種類は、複数のCDKにおいて、同じ種類のパラメータ(例えば発現量)を用いてもよいし、異なる種類のパラメータ(例えば、一方のCDKについては発現量を比較し、他方のCDKについては活性値を比較する)を用いてもよい。
【0185】
また、複数種類のCDKを採用する場合において、まず第1の感受性予測方法で、第1のCDKに基づいて予測し、第1の感受性予測方法で感受性が低いと予測された腫瘍細胞に関して、第1のCDKとは異なるCDKについて、活性値、発現量、及び活性値と発現量との比から選択されるパラメータと、該パラメータに対応する基準値と比較することによって、感受性を予測してもよい(第2−2の感受性予測方法)。第2−2の感受性予測方法で、第1CDKと異なるCDKは、1種類のCDK(第2CDK)であってもよいし、複数種類のCDK(第3、第4・・・CDK)を用いてもよい。複数種類のCDKを用いる場合、それぞれのCDKについて、各CDKの活性値、発現量、及び活性値と発現量との比からなる群より選択される少なくとも1つのパラメータと、該パラメータに対応する基準値とを比較し、これらの比較結果の組み合わせに基づいて、前記患者の抗癌剤の感受性を予測する。
【0186】
第2のCDKについて、感受性の予測に用いるパラメータは、前述した群から選ばれる。パラメータは1つだけ選択してもよいし、2つのパラメータを選択して、それぞれの基準値と比較してもよい。また、異なるCDKとして複数種類のCDK、すなわち第2、さらには第3、第4のCDKについて測定する場合、判定に使用するパラメータは、全て同種のパラメータ(例えば発現量)を用いてもよいし、異なる種類のパラメータ(例えば、第2のCDKは発現量とし、第3のCDKは活性値とするなどの組み合わせ)を用いてもよい。
【0187】
前記第2の感受性予測方法は、予測の正答率を上げる点で有効である。さらに第2−2の感受性予測方法により、第1の感受性予測方法で感受性が低いと予測された場合であっても、抗癌剤が有効に作用する場合が少なくないので、第2の感受性予測方法を採用する意義がある。
また、抗癌剤の効き方にも、さらに病状が悪化することを防止するレベルと、腫瘍を縮小させて、病状を快方に向かわせることができるレベルとに分類することができ、第2の感受性予測方法、特に第2−2の感受性予測方法により、抗癌剤の効き方のレベルを加味した予測を行なうこともできる。
【0188】
前記予測方法は、CDKだけでなく、さらにサイクリン依存性キナーゼインヒビター(CDKインヒビター)の発現量を、対応する基準値と比較し、前記CDKの比較結果と、前記CDKインヒビターの比較結果との組み合わせに基づいて、前記患者の抗癌剤の感受性を予測してもよい(第3の感受性予測方法)。CDKインヒビターは、サイクリン・CDK複合体に結合し、その活性を阻害する因子群で、INK4ファミリーとCIP/KIPファミリーに分類される。前記感受性予測方法では、CIP/KIPファミリーが好ましく用いられ、特にp21が好ましく用いられる。p21は、細胞増殖サイクルにおけるG1期及びG2期チェックポイントの双方で進行を阻害するインヒビターで、損傷したDNAの修復のための時間を与えることができる。
【0189】
第3の感受性予測方法は、CDKを所定パラメータについて基準値と比較した結果と、CDKインヒビターの発現量を基準値と比較した結果の組み合わせに基づいて、抗癌剤の感受性を予測してもよいし、第1段階でCDKを所定パラメータについて基準値と比較し、感受性を予測判定した(第1の感受性予測方法)後、感受性が低いと予測された腫瘍細胞について、第2段階でCDKインヒビターの発現量を基準値と比較し、感受性が高いものを選び出すようにしてもよい。
【0190】
なお、CMF投与群の治療有効性予測因子として、HER2やp21が報告されている。The international Breast Cancer Study Group(IBCSG)のトライアルでは、HER2が過剰発現している乳癌患者に対してCMF投与が無効であることが示され、p21に関しては、p21高発現患者群における無病生存率が、低発現患者群よりも有意に悪いことが報告されている。しかし、HER2,p21ともにCMF療法に対する効果の低い患者群に予測する因子であり、積極的に治療効果のある患者群を予測する因子の報告例はない。一方、前記予測方法は、抗癌剤の治療が有効であることを積極的に示すことができるもので、しかも基準値を厳格にすることで、100%に近い有効性を期待できる場合を提示することができる。
【0191】
前記予測方法において、基準値は、抗癌剤の種類、癌の種類により適宜設定される値である。具体的には、所定の癌患者に対して所定の抗癌剤を投与した抗癌剤治療結果と前記のパラメータとの関係を、多くの抗癌剤治療結果について調べ、多数の抗癌剤治療結果と相関のあるパラメータに関して、その抗癌剤治療結果が有効であった場合を選択できるように設定された値である。好ましくは抗癌剤治療結果が全て有効であった場合のみを選択できるように基準値を設定する。なお、癌患者における抗癌剤治療の結果は、その癌患者の腫瘍細胞の抗癌剤に対する感受性を反映している。ゆえに、癌患者における抗癌剤治療結果が有効であった場合、その癌患者の腫瘍細胞の抗癌剤に対する感受性は高いといえる。このように、実際の臨床治療結果に基づいて基準値の設定が行われるため、確度の高い感受性の予測が可能となる。基準値の設定に用いる臨床治療結果の数を増加させることにより、感受性予測の確度を向上させることができる。なお、抗癌剤治療結果としては、所定の抗癌剤治療を続けることにより生じた腫瘍サイズの変化や、抗癌剤投与を5〜6年続けて再発の有無を調べた結果などがあげられる。
【0192】
なお、CDK活性値/CDK発現量で算出されるCDK比活性は、細胞に存在しているCDKのうち、活性を示すCDKの割合に相当し、測定対象である悪性腫瘍細胞の増殖状態に基づくCDK活性レベルといえる。このようにして求められるCDK比活性は、測定に供する試料の調製方法に依存しない。測定試料調製方法、特に生検材料から調製される細胞可溶化液は、実際に採取された組織中に含まれる非細胞性組織、例えば細胞外基質の多寡による影響を受けやすい。従って、CDK比活性又はその逆数を用いることにより、測定試料調製時に不可避の影響を控除することができ、タンパク質に着目した判定方法であっても、高精度に感受性を予測することができる。
【0193】
CDKインヒビター発現量とは、細胞可溶化液から測定される目的のCDKインヒビター量(分子個数に対応する単位)であって、タンパク質混合物から目的の蛋白質量を測定する従来公知の方法で測定できる。例えば、ELISA法、ウェスタンブロット法などを使用してもよい。目的の蛋白質(CDKインヒビター)は、特異的抗体を用いて捕捉すればよい。目的のタンパク質と特異的に結合できるものであれば、モノクローナル抗体であっても、ポリクローナル抗体であってもよい。例えば、p21を捕捉する場合、抗p21モノクローナル抗体、抗p21ポリクローナル抗体のいずれも用いることができる。
【0194】
抗癌剤の感受性を判定する診断支援装置としては、上述したような第1の感受性予測方法を用いて抗癌剤の感受性を判定する構成とすることもできるし、第2の感受性予測方法又は第3の感受性予測方法を用いて抗癌剤の感受性を判定する構成とすることもできる。ここでは、第3の感受性予測方法として、CDK2とp21とを用いてTaxaneの感受性を判定する診断支援装置を例に挙げて、抗癌剤の感受性判定に用いられる基準値を変更する構成について説明する。この診断支援装置では、試料を分析することによりCDK2の比活性と、p21の発現量とを取得する。取得されたCDK2の比活性とp21の発現量とが所定の基準値と比較され、これによって患者のTaxaneに対する感受性が判定される。この診断支援装置では、Taxane感受性判定に用いられるCDK2の基準値と、p21の基準値とがハードディスク等の記憶部に記憶されている。これらのCDK2の基準値と、p21の基準値とは、それぞれ画面上で変更することが可能となっている。
図34は、CDK2の比活性とp21の発現量とを組み合わせて抗癌剤であるTaxaneの感受性の予測を行う場合の基準値変更画面の例を示している。この例では、CDK2の比活性の基準値を400に設定しており、CDK2の比活性が400以上の場合を「High」とし、400未満の場合を「Low」としている。また、p21の発現量の基準値を8と設定しており、p21の発現量が8以上の場合は「High」とし、p21の発現量が8未満の場合は「Low」としている。
【0195】
図34において示されるグラフは、縦軸にp21の発現量をとり横軸にCDK2の比活性をとった場合の散布図を示している。図中において、Taxaneの感受性が高いタイプIの患者から得られたデータは丸で示されており、Taxaneの感受性が中位であるタイプIIの患者から得られたデータは四角で示されており、Taxaneの感受性が低いタイプIIIの患者から得られたデータは三角で示されている。
この例では、例えばつぎのようにして、再発リスクの高中低が判定される。CDK2比活性が「High」の場合には、感受性が高いタイプIであると判定する。また、CDK2比活性が「Low」でありp21発現量が「High」の場合には、感受性が低いタイプIIIと判定する。さらに、CDK2比活性及びp21発現量が共に「Low」の場合には、感受性が中位であるタイプIIと判定する。
なお、この図34に示される例においても、グラフにおいて基準値を表す直線にポインタを合わせてドラッグすることで、又は、画面中にスクロールバーやボタン(図示せず)を設け、これらを操作することで、基準値を変更することができる。
【図面の簡単な説明】
【0196】
【図1】本発明の診断支援装置の一実施の形態の斜視説明図である。
【図2】図1に示される診断支援装置におけるチップセット部及びタンパク固相用チップの斜視説明図である。
【図3】図1に示される診断支援装置におけるチップセット部及びタンパク固相用チップの断面説明図である。
【図4】タンパク固相用チップの上部プレート及び下部プレートの分解説明図である。
【図5】上部プレートを下部プレートに装着した状態のタンパク固相用チップの斜視説明図である。
【図6】図1に示される診断支援装置における活性測定ユニットの試料調製部のカラムの断面説明図である。
【図7】図1に示される診断支援装置における活性測定ユニットの試料調製部の斜視図である。
【図8】図7に示される試料調製部の流体マニホールドの上面図である。
【図9】図8のD−D矢視断面図である。
【図10】図7に示される試料調製部の流体回路図である。
【図11】診断支援装置を制御する制御系を示すブロック図である。
【図12】データ処理部のハードウェア構成を示すブロック図である。
【図13】本体制御部のハードウェア構成を示すブロック図である。
【図14】細胞周期を説明するための図である。
【図15】診断支援装置による処理の一例の全体フローを示す図である。
【図16】診断支援装置による処理の一例の全体フローを示す図である。
【図17】診断支援装置による処理の一例の全体フローを示す図である。
【図18】発現量測定用試料の調製処理のフローを示す図である。
【図19】活性測定用試料の調製処理のフローを示す図である。
【図20】診断支援装置における検体などの利用手順を示す説明図である。
【図21】診断支援装置による解析処理の一例の全体フローを示す図である。
【図22】診断支援情報表示画面の例を示す図である。
【図23】基準値変更画面(変更前)の例を示す図である。
【図24】基準値変更画面(変更後)の例を示す図である。
【図25】サンプルデータの例を示す図である。
【図26】サンプルデータの例を示す図である。
【図27】診断支援装置による処理の他の例の全体フローを示す図である。
【図28】診断支援装置による処理の他の例の全体フローを示す図である。
【図29】診断支援装置による処理の他の例の全体フローを示す図である。
【図30】診断支援装置による解析処理の他の例の全体フローを示す図である。
【図31】診断支援装置による解析処理のさらに他の例の全体フローを示す図である。
【図32】3段階の判定を行う場合の基準値変更画面の例を示す図である。
【図33】CDK1及びCDK2以外にHER2を指標として用いた基準値変更画面の例を示す図である。
【図34】CDK2とp21を指標として用いた基準値変更画面の例を示す図である。
【符号の説明】
【0197】
1チップセット部
2活性測定ユニット
3分注機構部
4検出部
5第1試薬セット部
6第2試薬セット部
7廃液槽
8ピペット洗浄槽
9流体部
10本体制御部
11空圧源
12パーソナルコンピュータ(データ処理部)
13純水タンク
14洗浄液タンク
15廃液タンク
20装置本体部
30筐体部
31操作部
32駆動部
33検体セット部
34ペッスル
77制御部
78入力部
79表示部
91aCPU
91bROM
91cRAM
91d入力出力インターフェース
91e画像出力インターフェース
91f通信インターフェース
91gハードディスク
101タンパク固相用チップ
111多孔質膜
112ろ紙
113上部プレート
114下部プレート
115貫通孔
117貫通孔
201カラム
202担体保持部
206担体
211試料調製部
213流体マニホールド
301aCPU
301bROM
301cRAM
301d通信インターフェース
301e回路部
A測定装置
B可溶化装置
L1第1基準値
L2第2基準値
L3第3基準値

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検癌患者から採取した悪性腫瘍を用いて当該患者に対する癌の診断を支援する装置であって、
前記悪性腫瘍から所定の項目を測定する測定手段と、
測定値と比較することにより癌の診断支援情報を取得するための基準値を記憶する第1記憶手段と、
前記測定手段により得られた測定値と前記第1記憶手段に記憶された基準値とを比較して、癌の診断支援情報を取得する診断支援情報取得手段と、
得られた診断支援情報を出力する第1出力手段と、
ユーザから基準値の変更を受け付ける変更手段と、
前記第1記憶手段に記憶された基準値を、変更された基準値へ更新する更新手段と
を備えることを特徴とする癌の診断支援装置。
【請求項2】
他の癌患者の前記所定の項目の測定値と当該他の癌患者の悪性腫瘍摘出後の臨床情報とが対応付けられたサンプルデータを記憶する第2記憶手段と、
この第2記憶手段に記憶されたサンプルデータを出力する第2出力手段と、
を更に備え、
前記第2出力手段がサンプルデータを出力しているときに前記変更手段が基準値の変更を受け付けるように構成されている請求項1に記載の癌の診断支援装置。
【請求項3】
前記第2出力手段が、前記第2記憶手段に記憶されたサンプルデータの各測定値及び各臨床情報と、前記第1記憶手段に記憶された基準値との関係を示す画面を出力し、且つ
前記変更手段が、前記画面において基準値の変更を受け付けるように構成されている請求項2に記載の癌の診断支援装置。
【請求項4】
前記画面が、前記測定値及び前記臨床情報と、前記基準値との関係を示すグラフを含んでおり、
前記基準値が、前記グラフ上において移動可能な線として表示され、且つ
前記変更手段が、ユーザから前記グラフ上の前記基準値の線の移動指示を受け付けることにより、当該基準値の変更を受け付けるように構成されている請求項3に記載の癌の診断支援装置。
【請求項5】
前記第2記憶手段に記憶されたサンプルデータの各臨床情報を変更するためのデータ変更手段を更に備える請求項2〜4のいずれかに記載の癌の診断支援装置。
【請求項6】
前記第2記憶手段に記憶されたサンプルデータに、前記所定の項目の測定値及び前記臨床情報を新たに追加するためのデータ追加手段を更に備える請求項2〜5のいずれかに記載の癌の診断支援装置。
【請求項7】
前記臨床情報が、再発の有無、抗癌剤感受性及び生存率からなる群より選ばれる少なくとも1つである請求項2〜6のいずれかに記載の癌の診断支援装置。
【請求項8】
前記所定の項目が、細胞周期タンパク質の発現及び/又は活性に関する項目を含む請求項1〜7のいずれかに記載の癌の診断支援装置。
【請求項9】
前記細胞周期タンパク質が、サイクリン依存性キナーゼである請求項8に記載の癌の診断支援装置。
【請求項10】
前記測定手段が、
悪性腫瘍から第1のサイクリン依存性キナーゼ(第1CDK)及び第2のサイクリン依存性キナーゼ(第2CDK)の各活性値を測定する活性測定手段と、
悪性腫瘍から前記第1CDK及び第2CDKの各発現量を測定する発現測定手段と、
前記活性測定手段により得られた第1CDKの活性値と前記発現測定手段により得られた第1CDKの発現量との比(第1比活性)、及び、前記活性測定手段により得られた第2CDKの活性値と前記発現測定手段により得られた第2CDKの発現量との比(第2比活性)を算出する比活性算出手段と、
この比活性算出手段により得られた第1比活性と第2比活性との比(比活性比)を算出する比活性比算出手段とを含んでおり、
前記診断支援情報取得手段が、前記測定手段により得られた比活性比と前記第1記憶手段に記憶された基準値とを比較して癌の診断支援情報を取得するように構成されている請求項9に記載の癌の診断支援装置。
【請求項11】
前記癌の診断支援情報が、被検癌患者の悪性腫瘍摘出後の再発リスク又は抗癌剤感受性である請求項1〜10のいずれかに記載の癌の診断支援装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図34】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図32】
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【図33】
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【公開番号】特開2008−220299(P2008−220299A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−65029(P2007−65029)
【出願日】平成19年3月14日(2007.3.14)
【出願人】(390014960)シスメックス株式会社 (810)
【Fターム(参考)】