癌の阻害剤としてのMUC−1細胞質ドメインペプチド
本発明は、MUC1細胞質ドメイン由来のペプチドおよびその使用方法を提供する。これらのペプチドは、インビボで、MUC1のオリゴマー化を阻害することができ、それにより腫瘍細胞増殖を防止し、腫瘍細胞アポトーシスおよびインビボでの腫瘍組織の壊死を誘導することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、2008年10月17日出願の米国仮出願第61/106,380号および2009年5月11日出願の米国仮出願第61/177,109号(両出願の全内容が参照により本明細書に組み入れられる)の恩典を主張する。
【0002】
1. 発明の領域
本発明は、細胞増殖の調節、より具体的には、癌細胞増殖の調節に関する。特に、MUC1細胞質ドメインの特定の領域に由来するMUC1ペプチドは、MUC1のオリゴマー化および核転移を阻害し、MUC1発現腫瘍細胞の阻害、さらには死滅を引き起こすことが示された。
【背景技術】
【0003】
2. 関連分野
ムチンは、上皮細胞により主に発現される、広範囲にO-グリコシル化されたタンパク質である。分泌型ムチンおよび膜結合型ムチンは、毒素、微生物によって誘導される傷害、および外部環境との境界面で起こるその他の型のストレスから、上皮細胞の頂端境界を防御する、物理的障壁を形成する。膜貫通型ムチン1(MUC1)は、細胞質ドメインを通して、細胞の内部へシグナルを伝達することもできる。MUC1は、ウニ精子タンパク質-エンテロキナーゼ-アグリン(sea urchin sperm protein-enterokinase-agrin/SEA)ドメイン(Duraisamy et al., 2006)の存在を除き、他の膜結合型ムチンとの配列類似性を有していない。それに関して、MUC1は、単一のポリペプチドとして翻訳され、次いで、SEAドメインで自己切断を受ける(Macao, 2006)。
【0004】
MUC1 N末端サブユニット(MUC1-N)は、O-グリコシル化により修飾されている高い割合のセリンおよびトレオニンを含む、可変の数のタンデムリピートを含有している(Siddiqui, 1988)。MUC1-Nは、細胞の多糖外被を超えて延び、膜貫通MUC1 C末端サブユニット(MUC1-C)との非共有結合性の結合を通して細胞表面に繋留されている(Merlo, 1989)。MUC1-Cは、58アミノ酸の細胞外ドメイン、28アミノ酸の膜貫通ドメイン、および多様なシグナル伝達分子と相互作用する72アミノ酸の細胞質ドメインからなる(Kufe, 2008)。防御的な物理的障壁へのMUC1-Nの脱落は、増殖および生存を付与する細胞内シグナルを伝達する推定受容体として、細胞表面にMUC1-Cを残す(Ramasamy et al., 2007;Ahmad et al., 2007)。
【0005】
入手可能な証拠は、ヒト癌が、腫瘍原性の促進においてMUC1の機能を活用することを示している。これに関して、形質転換および極性喪失により、MUC1は、乳房およびその他の上皮の癌において細胞表面全体に高レベルに発現される(Kufe, 1984)。他の研究は、MUC1の過剰発現が、少なくとも部分的にはβカテニンの安定化を通して(Huang et al., 2005)、足場非依存性の増殖および腫瘍原性を付与することを示した(Li et al., 2003a;Raina et al., 2004;Ren et al., 2004;Wei et al., 2005)。さらに、正常上皮細胞のための生存機能と一致して、MUC1の過剰発現は、ストレスにより誘導されるアポトーシスに対する癌細胞の抵抗性を付与する(Ren et al., 2004;Yin and Kufe, 2003;Yin et al., 2004;Yin et al., 2007)。
【0006】
頂端膜への制限の喪失は、表皮増殖因子受容体(EGFR)との複合体の形成、およびEGFRにより媒介されるシグナル伝達の同時活性化を可能にする(Li et al., 2001;Ramasamy et al., 2007)。癌細胞によるMUC1の過剰発現は、サイトゾルにおけるMUC1-Cの蓄積、ならびにこのサブユニットの核(Li et al., 2003b;Li et al., 2003c)およびミトコンドリア(Ren et al., 2004;Ren et al., 2006)へのターゲティングにも関連している。重要なことに、核へのターゲティング、および多様なエフェクターとの相互作用には、MUC1-Cのオリゴマー化が必要である(Leng et al., 2007)。例えば、MUC1-C細胞質ドメイン(MUC1-CD)は、c-Src(Li et al., 2001)、c-Abl(Raina et al., 2006)、プロテインキナーゼCδ(Ren et al., 2002)、およびグリコーゲン合成酵素キナーゼ3β(Li et al., 1998)の基質として機能し、Wnt経路エフェクターであるβカテニン(Yamamoto et al., 1997;Huang et al., 2005)およびp53腫瘍抑制因子(Wei et al., 2005)と直接相互作用する。従って、オリゴマー化は重要であると考えられるが、MUC1オリゴマー形成への干渉が、腫瘍細胞における有益な効果を有するであろうとの直接証拠は存在せず、ましてや、これが如何にして達成され得るかは未知である。
【発明の概要】
【0007】
従って、本発明によると、MUC1ペプチドを対象へ投与する工程を含む、対象におけるMUC1陽性腫瘍細胞を阻害する方法が提供され、ここでMUC1ペプチドは、少なくとも4個、多くとも20個の連続MUC1残基であり、かつ配列CQCを含み、CQCのアミノ末端システインは、そのNH2末端において、ネイティブMUC-1膜貫通配列に相当しなくてもよい少なくとも1個のアミノ酸残基によりカバーされている。ペプチドは、少なくとも5個の連続MUC1残基、少なくとも6個の連続MUC1残基、少なくとも7個の連続MUC1残基、少なくとも8個の連続MUC1残基を含み得、配列は、さらに具体的には、CQCR(SEQ ID NO:54)、CQCRR(SEQ ID NO:50)、CQCRRR(SEQ ID NO:51)、CQCRRRR(SEQ ID NO:52)、CQCRRK(SEQ ID NO:4)、またはCQCRRKN(SEQ ID NO:53)を含み得る。ペプチドは、MUC1の多くとも10個の連続残基、11個の連続残基、12個の連続残基、13個の連続残基、14個の連続残基、15個の連続残基、16個の連続残基、17個の連続残基、18個の連続残基、または19個の連続残基を含有し得る。ペプチドは、ポリD-R、ポリD-P、またはポリD-Kのような細胞送達ドメイン(cell delivery domain)と融合していてもよい。ペプチドは、全てLアミノ酸を含んでいてもよいし、全てDアミノ酸を含んでいてもよいし、またはLアミノ酸とDアミノ酸との混合物を含んでいてもよい。
【0008】
MUC1陽性腫瘍細胞は、前立腺癌細胞または乳癌細胞のような、癌細胞、白血病細胞、または骨髄腫細胞であり得る。投与する工程は、静脈内投与、動脈内投与、腫瘍内投与、皮下投与、局所(topical)投与、もしくは腹腔内投与、または局所(local)投与、局部投与、全身投与、もしくは連続投与を含み得る。阻害することは、腫瘍細胞の増殖停止、腫瘍細胞のアポトーシス、および/または腫瘍細胞を含む腫瘍組織の壊死の誘導を含み得る。対象はヒトであり得る。
【0009】
方法は、第二の抗癌治療を対象へ投与する工程をさらに含んでいてもよい。第二の抗癌治療は、手術、化学療法、放射線療法、ホルモン療法、毒素療法、免疫療法、および凍結療法であり得る。第二の抗癌治療は、ペプチドより前に適用されてもよいし、ペプチドより後に適用されてもよいし、またはペプチドと同時に適用されてもよい。方法は、ペプチドを投与する工程の前に、対象の腫瘍細胞におけるMUC1の発現を査定する工程をさらに含んでいてもよく、かつ/または、方法は、対象の腫瘍におけるMUC1の発現に対するペプチドの効果を査定する工程をさらに含んでいてもよい。
【0010】
ペプチドは0.1〜500mg/kg/日または10〜100mg/kg/日で投与され得る。ペプチドは、例えば、7日間、2週間、3週間、4週間、1ヶ月間、6週間、8週間、2ヶ月間、12週間、または3ヶ月間、毎日投与され得る。ペプチドは、例えば、2週間、3週間、4週間、6週間、8週間、10週間、または12週間、毎週投与され得る。
【0011】
別の態様において、(a)少なくとも4個、多くとも20個の連続MUC1残基であり、かつ配列CQCを含むMUC1ペプチドであって、CQCのアミノ末端システインが、そのNH2末端において、ネイティブMUC1膜貫通配列に相当しなくてもよい少なくとも1個のアミノ酸残基によりカバーされている、MUC1ペプチドと、(b)薬学的に許容される担体、緩衝剤、または希釈剤とを含む薬学的組成物が提供される。ペプチドは、少なくとも5個、6個、7個、または8個の連続MUC1残基であり得る。ペプチドは、MUC1の多くとも10個の連続残基、11個の連続残基、12個の連続残基、13個の連続残基、14個の連続残基、15個の連続残基、16個の連続残基、17個の連続残基、18個の連続残基、または19個の連続残基であり得る。ペプチドは、ポリD-R、ポリD-P、またはポリD-Kのような細胞送達ドメイン、またはHIV tat細胞導入ドメイン(cell transduction domain)のような細胞導入ドメインと融合していてもよい。ペプチドは、少なくとも8残基長であり得、少なくとも2個の非隣接残基が側鎖を介したブリッジを形成する。ブリッジは、リンカー、化学的に修飾された側鎖、または炭化水素ステープリングを含み得る。リンカーは、ペプチドのαヘリックス構造を安定化させる修飾を含み得る。緩衝剤には、β-メルカプトエタノール、グルタチオン、もしくはアスコルビン酸、またはペプチドをモノマー状態に維持するその他の還元剤が含まれ得る。
【0012】
さらに別の態様において、MUC1発現細胞をMUC1ペプチドと接触させる工程を含む、細胞におけるMUC1のオリゴマー化および核輸送を阻害する方法が提供され、ここでMUC1ペプチドは、少なくとも4個、多くとも20個の連続MUC1残基であり、かつ配列CQCを含み、CQCのアミノ末端システインは、そのNH2末端において、ネイティブMUC1膜貫通配列に相当しなくてもよい少なくとも1個のアミノ酸残基によりカバーされている。ペプチドは、少なくとも5個の連続MUC1残基、少なくとも6個の連続MUC1残基、少なくとも7個の連続MUC1残基、少なくとも8個の連続MUC1残基を含み得、配列は、より具体的には、CQCR、CQCRR、CQCRRR、CQCRRRR、CQCRRK、またはCQCRRKNを含み得る。ペプチドは、MUC1の多くとも10個の連続残基、11個の連続残基、12個の連続残基、13個の連続残基、14個の連続残基、15個の連続残基、16個の連続残基、17個の連続残基、18個の連続残基、または19個の連続残基を含有し得る。ペプチドは、ポリD-R、ポリD-P、またはポリD-Kのような細胞送達ドメインと融合していてもよい。ペプチドは、全てLアミノ酸を含んでいてもよいし、全てDアミノ酸を含んでいてもよいし、またはLアミノ酸とDアミノ酸との混合物を含んでいてもよい。
【0013】
MUC1発現細胞は、前立腺癌細胞または乳癌細胞のような、癌細胞、白血病細胞、または骨髄腫細胞のような、腫瘍細胞であり得る。腫瘍細胞は、生存している対象に存在していてもよい。生存している対象はヒト対象であり得る。
【0014】
さらに別の態様において、MUC1ペプチドの構造およびMUC-1結合能を模倣するペプチド模倣体が提供され、ここでMUC1ペプチドは、少なくとも4個、多くとも20個の連続MUC1残基であり、かつ配列CQCを含み、CQCのアミノ末端システインは、そのNH2末端において、ネイティブMUC1膜貫通配列に相当しなくてもよい少なくとも1個のアミノ酸残基によりカバーされている。さらなる態様は、少なくとも3個、多くとも20個の連続MUC1残基であり、かつ配列CQCを含むMUC1ペプチドを提供し、ここで該ペプチドの全アミノ酸残基はD-アミノ酸である。ペプチドは、配列KRRCQC(SEQ ID NO:49)をさらに含み得る。
【0015】
癌細胞は、例えば、乳癌、肺癌、結腸癌、膵臓癌、腎臓癌、胃癌、肝臓癌、骨癌、血液系癌、神経組織癌、黒色腫、卵巣癌、精巣癌、前立腺癌、子宮頸癌、膣癌、または膀胱癌の細胞であり得る。
【0016】
癌細胞を死滅させる方法も、本発明に包含される。方法は、上記の方法を実施する前、後、または同時に、一つまたは複数の付加的な治療に対象を曝す工程を含んでいてもよい。治療は、例えば、一つまたは複数の型の電離放射線、および/または一つもしくは複数の化学療法剤であり得る。一つまたは複数の化学療法剤は、例えば、シスプラチン、カルボプラチン、プロカルバジン、メクロレタミン、シクロホスファミド、カンプトテシン、イホスファミド、メルファラン、クロラムブシル、ビスルファン(bisulfan)、ニトロソウレア、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、ドキソルビシン、ブレオマイシン、プリコマイシン(plicomycin)、マイトマイシン、エトポシド、ベラムピル(verampil)、ポドフィロトキシン、タモキシフェン、タキソール、トランスプラチナ(transplatinum)、5-フルオロウラシル、ビンクリスチン、ビンブラスチン、メトトレキサート、または上記のいずれかのアナログであり得る。ホルモン療法、免疫療法、毒素療法、凍結療法、および手術も、組み合わせ治療として企図される。
【0017】
本明細書に記載された任意の方法または組成物は、本明細書に記載された他の任意の方法または組成物に関して実行され得ることが企図される。
【0018】
特許請求の範囲および/または本明細書において、「含む」という用語と共に使用される場合、「(a)」または「(an)」という単語の使用は、「一つ」を意味するかもしれないが、、それは「一つまたは複数の」、「少なくとも一つの」、および「一つまたは一つより多い」の意味とも一致している。「約」という単語は、明示された数のプラスマイナス5%を意味する。
【0019】
本発明の他の目的、特色、および利点は、以下の詳細な説明から明白になるであろう。しかしながら、本発明の本旨および範囲に含まれる様々な変化および修飾が、この詳細な説明から当業者には明白になるため、詳細な説明および具体例は、本発明の特定の態様を示すが、例示として与えられるに過ぎないことが、理解されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0020】
以下の図面は、本明細書の一部を形成し、本発明のある種の局面をさらに示すために含まれる。本発明は、詳細と組み合わせて、これらの図面のうちの一つまたは複数を参照することにより、よりよく理解され得る。
【0021】
【図1A−D】MUC1/CQCペプチドはMUC1のオリゴマー化を阻止する。(図1A)MUC1-Cサブユニットの模式図、およびMUC1-CDの72アミノ酸配列が示される。N末端15アミノ酸(影付きの配列)MUC1/CQCペプチド、および変異型MUC1/AQAペプチドを、ポリdArg伝達ドメインを用いて合成した。(図1B)His-MUC1-CD(1.4mg/ml)を、BIAcoreのセンサーチップ上に固定化した。MUC1/CQCを10μMでチップ上に注入した。生結合データをBIAevaluationソフトウェアバージョン3.0により分析し、1:1 Languir結合モデルに適合させた。(図1C)精製されたHis-MUC1-CD(1.5mg/ml)を、室温で、1時間、PBS、200μM MUC1/CQC、または200μM MUC1/AQAと共にインキュベートした。タンパク質を非還元SDS-ポリアクリルアミドゲルで分離し、抗MUC1-Cによるイムノブロッティングにより分析した。(図1D)293細胞を、空ベクターまたはGFP-MUC1-CDおよびFlag-MUC1-CDを発現するよう一過性トランスフェクトした。トランスフェクションの48時間後、細胞を、3日間、5μM MUC1/CQCまたはMUC1/AQAにより処理した。次いで、細胞を抗MUC1-Cによるイムノブロッティングのため採集した(左パネル)。全細胞溶解物を抗Flagによっても沈殿させ、沈殿物を、示された抗体によりイムノブロットした(右パネル)。
【図2A−C】MUC1/CQCペプチドはMUC1-Cの核移行を阻止する。(図2A)ZR-75-1細胞を、示された時間、5μM FITC標識MUC1/CQCペプチドと共にインキュベートし、次いで、フローサイトメトリーにより分析した。平均蛍光指数(MFI)が各パネルに含まれている。(図2B〜C)ZR-75-1細胞(図2B)およびMCF-7細胞(図2C)を、3日間、5μM MUC1/CQCペプチドまたはMUC1/AQAペプチドの存在下でインキュベートした。全細胞溶解物(WCL)(左パネル)および核溶解物(右パネル)を、示された抗体によりイムノブロットした。
【図3A−D】MUC1/CQCペプチドはS期停止および壊死を誘導する。ZR-75-1細胞(図2A〜B)およびMCF-7細胞(図2C〜D)を、3日間および4日間、5μM MUC1/CQCまたはMUC1/AQAにより処理した。細胞を固定し、フローサイトメトリーにより細胞周期分布について分析した(図2Aおよび2C)。G1期、S期、およびG2/M期の細胞の割合が、パネルに含まれている。細胞をヨウ化プロピジウムによっても染色し、壊死についてフローサイトメトリーにより分析した(図2Bおよび2D)。壊死細胞の割合がパネルに含まれている。
【図4A−E】MUC1発現乳癌細胞に対するMUC1/CQCの選択性。(図4A)ZR-75-1細胞に、空レンチウイルス(ベクター)またはMUC1 siRNAを発現するものを安定的に感染させた。感染細胞についての溶解物を、示された抗体によりイムノブロットした。(図4B)ZR-75-1/ベクター細胞を未処理のままにし(菱形)、ZR-75-1/ベクター細胞(四角)およびZR-75-1/MUC1siRNA細胞(三角)を、示された時間、5μM MUC1/CQCペプチドにより処理した。生細胞数をトリパンブルー排除により決定した。(図4C)293細胞を未処理のままにし(菱形)、示された時間、5μM MUC1/CQC(四角)またはMUC1/AQA(三角)により処理した。生細胞数をトリパンブルー排除により決定した。(図4D)MCF-10A細胞を未処理のままにし(左パネル)、5μM MUC1/CQC(中央パネル)またはMUC1/AQA(右パネル)により処理した。3日目、細胞を細胞周期分布について分析した。(図4E)MCF-10A細胞を未処理のままにし(菱形)、示された時間、5μM MUC1/CQC(四角)またはMUC1/AQA(三角)により処理した。生細胞数をトリパンブルー排除により決定した。
【図5A−C】MUC1/CQCペプチドはZR-75-1乳房腫瘍異種移植片の増殖を阻止する。(図5A)4〜6週齢の雌Balb-c nu/nuマウスに、17-β-エストラジオールプラグを移植した。24時間後、(マトリゲルに埋め込まれた)ZR-75-1乳癌細胞を、側腹部に皮下注射した。腫瘍がおよそ150mm3になった時点で、マウスを群へとペアマッチングし、21日間、毎日、PBS(媒体対照;黒四角)、50mg/kg MUC1/AQAペプチド(対照ペプチド;白四角)、または10mg/kg MUC1/CQCペプチド(黒三角)を腹腔内注射した。もう一つの群は、6日間、50mg/kg MUC1/CQCペプチドにより毎日処理した(白三角)。マウスを週2回計量し、腫瘍測定を4日毎に実施した。(図5Bおよび5C)24日目(アスタリスク)、対照群、および50mg/kg/日×6日により処理された群から採集された腫瘍を、H&E(図5B)およびMUC1に対する抗体(図5C)により染色した。
【図6A−B】ZR-75-1腫瘍に対するMUC1/CQCペプチドの長期的な効果。(図6A)図5 Aの説明に記載されたようにして、マウスにZR-75-1細胞を注射した。腫瘍がおよそ275mm3になった時点で、マウスを群へとペアマッチングし、21日間、毎日、PBS(媒体対照;白四角)または30mg/kg MUC1/CQCペプチド(黒四角)を腹腔内注射した。対照マウスは、腫瘍がおよそ1200mm3に到達した32日目に屠殺した。処理されたマウスは、52日目までモニタリングし、52日目に、腫瘍をH&E染色のために採集した(図6B)。
【図7】MUC1 7-merは前立腺癌を阻害する。DU145前立腺癌細胞を、4日間、5μM CQC short(7-mer)ペプチドまたは 5μM CQC long(15-mer)ペプチドにより処理した。細胞増殖をMTTアッセイにより測定した。データは、未処理の細胞(対照)と比較した増殖阻害率を表す。
【図8】MUC1-CDステープルドペプチドの配列。
【図9A】H1650非小細胞肺癌細胞の増殖に対するMUC1-CDステープルドペプチドの効果。MUC1機能の阻害に対する感受性を査定するために、H1650 NSCLC細胞を、7日間、1μMおよび5μM MUC1 CQCステープルドペプチド(GO-200-1B)により処理した。5μM GO-200-1BによるH1650細胞の処理は、増殖の有意な阻害、次いで、細胞数の減少に関連していた。
【図9B】細胞増殖に対するGO-200-2Bの効果。H-1975非小細胞肺癌細胞株を、100単位/mLペニシリン、100μg/mlストレプトマイシン、および2mmol/L L-グルタミンと共に10%熱不活化ウシ胎仔血清を含むDMEMで培養した。細胞を、処理の1日前に再播種した。細胞を、3日間、5μM GO-200-2Bにより処理し、細胞生存能をトリパンブルー排除により決定した。
【図10】ホルモン依存性乳癌細胞の増殖に対する異なるMUC1-CD CQC領域ペプチドの効果。異なるMUC1-CD CQC領域含有ペプチドへの曝露が、増殖に影響を与えるか否かを決定するため、ZR-75-1乳癌細胞を、4日間、5μMの異なるペプチドにより処理し、細胞増殖についてモニタリングした。意義深いことに、未処理にしておかれた細胞と比較して、実質的な増殖阻害が存在した。
【図11】非小細胞癌細胞の増殖に対する異なるMUC1-CD CQC領域ペプチドの効果。A549非小細胞肺癌細胞を、7日間、5μM GO-203、GO-203-2、またはGO-203cycにより処理した。7日目の生細胞数をトリパンブルー排除により決定し、未処理細胞の細胞増殖を比較することにより増殖阻害率を計算した。
【図12】H1975非小細胞癌細胞の増殖に対する異なるMUC1-CD CQC領域ペプチドの効果。H1975非小細胞肺癌細胞を、6日間、5μMの異なるMUC1-CD CQC領域ペプチドにより処理した。6日目の生細胞数をトリパンブルー排除により決定した。結果は、5μMの異なるペプチドによるH1975細胞の処理が、増殖の有意な阻害に関連していたことを証明している。
【図13】三重陰性乳癌細胞の増殖に対する異なるMUC1-CD CQC領域ペプチドの効果。MDA-MB-231三重陰性乳癌細胞を、6日間、5μMの異なるMUC1-CD CQC領域ペプチドにより処理した。6日目の生細胞数をトリパンブルー排除により決定した。結果は、異なるペプチドによるMDA-MB-231細胞の処理が、増殖の有意な阻害に関連していたことを証明している。
【図14】ZR-75-1乳癌細胞の増殖に対するより短いGO-203ペプチドの効果。ヒトZR-75-1乳癌細胞を、10%熱不活化ウシ胎仔血清、100単位/mlペニシリン、100μg/mlストレプトマイシンが補足されたRPMI1640で培養した。細胞を、4日間、毎日、5μMの異なるペプチドにより処理し、細胞生存能をトリパンブルー排除により決定した。GO-210とは対照的に、4日間、毎日の5μM GO-203(SEQ ID NO:53)、GO-207(SEQ ID NO:4)、GO-208(SEQ ID NO:50)、およびGO-209(SEQ ID NO:54)によるZR-75-1乳癌細胞の処理は、増殖の有意な阻害に関連していた。
【図15A−D】異なる抗癌薬と組み合わせられたGO-203の効果。ZR-75-1細胞を、示された濃度の単独のシスプラチン(図15A)、ドキソルビシン(図15B)、rh-TNF-α(図15C)、およびタキソール(図15D)、ならびにそれらとGO-203との組み合わせに曝した。処理は、シスプラチン、ドキソルビシン、およびタキソールについては連続的であり、細胞を、これらの薬剤に72時間曝した後、5μMのGO-203により72時間処理した。rh-TNFを用いた研究においては、細胞を、異なる濃度の単独のrh-TNF、および5μMのGO-203との組み合わせに、72時間、同時に曝した。MTSアッセイを細胞生存を決定するために使用した。
【図16】GO-203は抗癌剤と相加的または相乗的である。プロットは、異なる効果レベル(影響を受けた画分(fraction affected))に対する組み合わせ指数(combination indexes)を示す。効果レベルは、抗癌薬とGO-203との示された組み合わせにより細胞を処理することにより入手された。
【発明を実施するための形態】
【0022】
例示的な態様の説明
I. 本発明
MUC1は、癌における役割について、本発明者ら他により広範囲に研究されている。上述のように、ヒトMUC1は、単一のポリペプチドとして翻訳され、小胞体においてN末端サブユニットおよびC末端サブユニットへと切断されるヘテロ二量体糖タンパク質である(Ligtenberg et al., 1992;Macao et al., 2006;Levitin et al., 2005)。大部分のヒト癌に見出されるようなMUC1の異常な過剰発現(Kufe et al., 1984)は、足場非依存性の増殖および腫瘍原性を付与する(Li et al., 2003a;Huang et al., 2003;Schroeder et al., 2004;Huang et al., 2005)。他の研究は、MUC1の過剰発現が、酸化ストレスおよび遺伝毒性抗癌剤により誘導されるアポトーシスに対する抵抗性を付与することを証明している(Yin and Kufe, 2003;Ren et al., 2004;Raina et al., 2004;Yin et al., 2004;Raina et al., 2006;Yin et al., 2007)。
【0023】
繋留型ムチンおよび分泌型ムチンのファミリーは、上皮細胞表面の防護壁の提供において機能する。上皮層に対する傷害により、隣接細胞間の密着結合が破壊され、細胞がヘレグリンにより誘導される修復プログラムを開始するにつれ、極性が失われる(Vermeer et al., 2003)。MUC1-Nは、細胞表面から脱落し(Abe and Kufe, 1989)、細胞の内部への環境ストレスシグナルの伝達物質として機能するようMUC1-Cを残す。これに関して、MUC1-Cは、ErbB受容体ファミリーのメンバーと細胞表面複合体を形成し、MUC1-Cは、ヘレグリン刺激に応答して核へとターゲティングされる(Li et al., 2001;Li et al., 2003c)。MUC1-Cは、MUC1細胞質ドメイン(CD)とカテニンファミリーのメンバーとの間の直接相互作用を通して、ErbB受容体およびWntのシグナル伝達経路の統合においても機能する(Huang et al., 2005;Li et al., 2003c;Yamamoto et al., 1997;Li et al., 1998;Li et al., 2001;Li and Kufe, 2001)。他の研究は、MUC1-CDが、グリコーゲン合成酵素キナーゼ3β、c-Src、プロテインキナーゼCδ、およびc-Ablによりリン酸化されることを証明している(Raina et al., 2006;Li et al., 1998;Li et al., 2001;Ren et al., 2002)。
【0024】
MUC1-Cの核へのターゲティングを担う機序は不明である。古典的核移行シグナル(NLS)を含有しているタンパク質は、まずインポーチンαと結合し、次いで、インポーチンβと結合することにより、核へ輸入される(Weis, 2003)。カーゴ-インポーチンα/β複合体は、ヌクレオポリンと結合することにより核膜孔へドッキングし、Ran GTPaseに依存する機序により孔を通して輸送される。古典的NLSは、4〜5個の塩基性アミノ酸の単一のクラスタを含む単極性(monopartite)または10〜12アミノ酸のリンカーにより分離された塩基性アミノ酸の2個のクラスタを含む二極性(bipartite)である。MUC1-CDは、原型の単極性NLSに一致しないRRKモチーフを含有している(Hodel et al., 2002)。しかしながら、非古典的NLSを含有しているある種のタンパク質は、インポーチンβと直接結合することにより、核膜孔を通して輸送される(Kau et al., 2004)。インポーチンβは、核膜孔複合体の細胞質面および核質面の両方に位置しているNup62(Percipalle et al., 1997)を含む、いくつかのヌクレオポリンと会合する(Ryan and Wente, 2000)。他の研究は、βカテニンがインポーチンおよびヌクレオポリンに非依存性の機序により核へ輸入されることを示した(Suh and Gumbiner, 2003)。
【0025】
2006年、本発明者らは、MUC1がNup62との結合を含む機序により核へ輸入されると報告した。本発明者らは、MUC1がMUC1細胞質ドメインのCQCモチーフを通してオリゴマーを形成すること、およびMUC1オリゴマー化が核輸入に必要であることも証明した。本発明において、本発明者らは、CQCモチーフがオリゴマー形成において果たす役割のさらなる理解を包含するよう、この研究を拡張した。本発明者らは、この領域に相当する短いペプチドが、MUC1オリゴマー形成を破壊し、腫瘍細胞の核への輸送を防止することができることも証明した。これらのペプチドは、腫瘍細胞増殖を阻害することができ、さらに、そのような細胞のアポトーシスを誘導し、腫瘍組織の壊死すら誘導することができる。本発明のこれらおよびその他の局面を、以下に詳細に記載する。
【0026】
II. MUC1
A. 構造
MUC1は、正常分泌上皮細胞の頂端境界に発現されるムチン型糖タンパク質である(Kufe et al., 1984)。MUC1は、単一のポリペプチドとして合成され、小胞体において前駆物質が二つのサブユニットへと切断された後、ヘテロ二量体を形成する(Ligtenberg et al., 1992)。切断は、自己触媒過程により媒介され得る(Levitan et al., 2005)。>250kDaのMUC1 N末端(MUC1 N-ter、MUC1-N)サブユニットは、高度に保存された変動を含み不完全であり、O結合型グリカンにより修飾されている可変の数の20アミノ酸タンデムリピートを含有している(Gendler et al., 1988;Siddiqui et al., 1988)。MUC1-Nは、58アミノ酸の細胞外領域、28アミノ酸の膜貫通ドメイン、および72アミノ酸の細胞質ドメイン(CD;SEQ ID NO:1)を含む、およそ23kDaのC末端サブユニット(MUC1 C-ter、MUC1-C)との二量体化により細胞表面に繋留される(Merlo et al., 1989)。ヒトMUC1配列を以下に示す:
太字の配列はCDを示し、下線部は実施例に記載されるオリゴマー阻害ペプチド(SEQ ID NO:3)である。
【0027】
正常上皮の癌への形質転換により、MUC1は、サイトゾルおよび細胞膜全体に異常に過剰発現される(Kufe et al., 1984;Perey et al., 1992)。細胞膜と会合したMUC1は、クラスリンにより媒介されるエンドサイトーシスによりエンドソームへとターゲティングされる(Kinlough et al., 2004)。さらに、MUC1-Cは、核(Baldus et al., 2004;Huang et al., 2003;Li et al., 2003a;Li et al., 2003b;Li et al., 2003c;Wei et al., 2005;Wen et al., 2003)およびミトコンドリア(Ren et al., 2004)へとターゲティングされるが、MUC1-Nはそうでない。
【0028】
B. 機能
MUC1は、ErbB受容体ファミリーのメンバー(Li et al., 2001b;Li et al., 2003c;Schroeder et al., 2001)およびWntエフェクターであるβカテニン(Yamamoto et al., 1997)と相互作用する。表皮増殖因子受容体およびc-Srcは、Y-46上のMUC1細胞質ドメイン(MUC1-CD)をリン酸化し、それにより、MUC1とβカテニンとの結合を増加させる(Li et al., 2001a;Li et al., 2001b)。MUC1とβカテニンとの結合は、グリコーゲン合成酵素キナーゼ3βおよびプロテインキナーゼCδによっても調節される(Li et al., 1998;Ren et al., 2002)。MUC1は核内にβカテニンと共存し(Baldus et al., 2004;Li et al., 2003a;Li et al., 2003c;Wen et al., 2003)、Wnt標的遺伝子の転写を同時活性化する(Huang et al., 2003)。他の研究は、MUC1がp53とも直接結合し、p53標的遺伝子の転写を調節することを示した(Wei et al., 2005)。顕著に、MUC1の過剰発現は、足場非依存性の増殖および腫瘍原性を誘導するのに十分である(Huang et al., 2003;Li et al., 2003b;Ren et al., 2002;Schroeder et al., 2004)。
【0029】
大部分のミトコンドリアタンパク質は核内にコードされ、ミトコンドリア外膜および内膜にある移行複合体によりミトコンドリアへ輸入される。ある種のミトコンドリアタンパク質は、N末端ミトコンドリアターゲティング配列を含有しており、ミトコンドリア外膜にあるTom20と相互作用する(Truscott et al., 2003)。内部ターゲティング配列を含有し、Tom70受容体と相互作用するミトコンドリアタンパク質もある(Truscott et al., 2003)。最近の研究は、内部ターゲティング配列を含まないミトコンドリアタンパク質が、HSP70とHSP90との複合体により、Tom70へ送達されることを示した(Young et al., 2003)。
【0030】
III. MUC1ペプチド
A. 構造
本発明は、様々なMUC1ペプチドの設計、作製、および使用を企図する。これらのペプチドの構造的特色は、以下の通りである。第一に、該ペプチドはMUC1の多くとも20個の連続残基を有する。従って、「多くとも20個の連続残基を有するペプチド」という用語は、「含む」という用語を含む場合ですら、それより多い数の連続MUC1残基を含むとは理解され得ない。第二に、前記ペプチドは、CQCモチーフを含有し、CQCRモチーフ、CQCRRモチーフ、およびCQCRRKモチーフも含むことができる。従って、前記ペプチドは、少なくとも、MUC1-Cドメインのこれらの3個の連続残基を有するであろう。第3に、前記ペプチドは、CQCモチーフ内の最初のC残基のNH2末端側に付着した少なくとも1個のアミノ酸残基を有し、従って、最初のC残基は、それに付着した少なくとも1個のアミノ酸によって「カバー」されているであろう。この残基は、MUC1にネイティブ(即ち、膜貫通ドメイン由来)であってもよいし、ランダムに選択されてもよいし(20種の天然に存在するアミノ酸もしくはそれらのアナログのいずれか)、または別のペプチド配列の一部(例えば、精製のためのタグ配列、安定化配列、もしくは細胞送達ドメイン)であってもよい。
【0031】
一般に、ペプチドは、MUC1の、50残基以下であり、また、多くとも20個の連続残基を含むであろう。全長は、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、または50残基であり得る。4〜50残基、5〜50残基、6〜50残基、7〜50残基、7〜25残基、4〜20残基、5〜20残基、6〜20残基、7〜20残基、および7〜15残基のペプチド長の範囲が企図される。連続MUC1残基の数は、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、または20であり得る。4〜20残基、5〜20残基、6〜20残基、7〜20残基、4〜15残基、5〜15残基、6〜15残基、または7〜15残基の連続残基の範囲が企図される。
【0032】
本発明は、L-配置アミノ酸、D-配置アミノ酸、またはそれらの混合物を利用し得る。L-アミノ酸は、タンパク質に見出されるアミノ酸の大部分を表し、D-アミノ酸は、イモガイ(cone snails)のような外来の海生生物により産生されるいくつかのタンパク質に見出される。それらは、細菌のペプチドグリカン細胞壁の豊富な成分でもある。D-セリンは、脳内で神経伝達物質として作用し得る。アミノ酸配置についてのLおよびDの慣習は、アミノ酸自体の光学活性ではなく、そのアミノ酸が理論上合成され得るグリセルアルデヒドの異性体の光学活性をさす(D-グリセルアルデヒドが右旋性であり;L-グリセルアルデヒドが左旋性である)。
【0033】
「全D」ペプチドの一つの形態はレトロインバーソ(retro-inverso)ペプチドである。天然に存在するポリペプチドのレトロインバーソ修飾は、ネイティブペプチド配列に対して逆方向の順序の、対応するL-アミノ酸のものと反対のα炭素立体化学を有するアミノ酸、即ち、Dアミノ酸の合成集合体を含む。従って、レトロインバーソアナログは、ネイティブペプチド配列と同様の側鎖のトポロジーをおよそ維持しつつ、逆転した末端、および逆転したペプチド結合の方向(CO-NHではなくNH-CO)を有している。参照により本明細書に組み入れられる米国特許第6,261,569号を参照のこと。
【0034】
上述のように、本発明は、細胞送達ドメイン(細胞送達ベクターまたは細胞導入ドメインとも呼ばれる)の融合または接合を企図する。そのようなドメインは当技術分野において周知であり、複数のリジン残基およびアルギニン残基をしばしば含有している、短い両親媒性または陽イオン性のペプチドおよびペプチド誘導体として一般に特徴決定される(Fischer, 2007)。特に興味深いのは、ポリD-Arg配列およびポリD-Lys配列(例えば、8残基長の右旋性残基)であり、その他は下記表1に示される。
【0035】
【表1】
【0036】
また、上述のように、インビボでのペプチドの残存を容易にするため、アミノ末端および/またはカルボキシル末端へのブロッキング剤の付加により、インビボ使用のために修飾されたペプチドが企図される。これは、ペプチド末端が細胞取り込み前にプロテアーゼにより分解される傾向があるような情況において有用であり得る。そのようなブロッキング剤には、非限定的に、投与されるペプチドのアミノ末端および/またはカルボキシル末端の残基へ付着させられ得る、付加的な関連ペプチド配列または非関連ペプチド配列が含まれ得る。これらの薬剤は、当技術分野において周知の方法により、ペプチドの合成の間に化学的に付加させられてもよいし、または組換えDNA技術により付加させられてもよい。あるいは、当技術分野において公知のピログルタミン酸またはその他の分子のようなブロッキング剤を、アミノ末端および/またはカルボキシル末端の残基へ付着させてもよい。
【0037】
B. 合成
固相合成技術(Merrifield, 1963)を使用して、ペプチドを作製することは有利であろう。その他のペプチド合成技術は、当業者に周知である(Bodanszky et al., 1976;Peptide Synthesis, 1985;Solid Phase Peptide Synthelia, 1984)。そのような合成において使用するための適切な保護基は、上記のテキスト、およびProtective Groups in Organic Chemistry, 1973に見出されるであろう。これらの合成法は、一つまたは複数のアミノ酸残基または適当な保護されたアミノ酸残基の、成長中のペプチド鎖への連続的な付加を含む。通常、最初のアミノ酸残基のアミノ基またはカルボキシル基のいずれかを、適当な、選択的に除去可能な保護基により保護する。リジンのような反応性側鎖を含有しているアミノ酸のためには、異なる選択的に除去可能な保護基が利用される。
【0038】
固相合成を例として使用すると、保護または誘導体化されたアミノ酸を、その保護されていないカルボキシル基またはアミノ基を通して、不活性の固体支持体へ付着させる。次いで、アミノ基またはカルボキシル基の保護基を選択的に除去し、適切に保護された相補的な(アミノまたはカルボキシル)基を有する配列内の次のアミノ酸を混和し、固体支持体へ既に付着している残基と反応させる。次いで、この新たに付加されたアミノ酸残基からアミノ基またはカルボキシル基の保護基を除去し、次いで、(適当に保護された)次のアミノ酸を付加させる(以下同様)。全ての所望のアミノ酸が適切な配列で連結された後、残りの末端および側鎖の保護基(および固体支持体)を、連続的にまたは同時に除去し、最終的なペプチドを得る。本発明のペプチドは、好ましくは、ベンジル化またはメチルベンジル化されたアミノ酸を欠く。そのような保護基モエティは合成の過程で使用されてもよいが、ペプチドが使用される前に除去される。他の箇所に記載されるように、コンフォメーションを制約するための分子内結合を形成するため、付加的な反応が必要であるかもしれない。
【0039】
使用され得る20種の標準アミノ酸に加えて、莫大な数の「非標準」アミノ酸が存在する。これらのうちの2種は、遺伝暗号によって指定され得るが、タンパク質には極めて稀である。セレノシステインは、通常は終止コドンであるUGAコドンにおいて、いくつかのタンパク質に組み入れられる。ピロリジンは、いくつかのメタン生成古細菌により、メタンを産生するために使用する酵素において使用されている。それはコドンUAGによりコードされる。タンパク質に見出されない非標準アミノ酸の例には、ランチオニン、2-アミノイソ酪酸、デヒドロアラニン、および神経伝達物質γアミノ酪酸が含まれる。非標準アミノ酸は、しばしば、標準アミノ酸のための代謝経路に中間体として存在する。例えば、オルニチンおよびシトルリンは、アミノ酸異化の一部である尿素回路に存在する。非標準アミノ酸は、通常、標準アミノ酸への修飾を通して形成される。例えば、ホモシステインは、含硫基移動経路を通して、または中間代謝物S-アデノシルメチオニンを介したメチオニンの脱メチルにより形成され、ヒドロキシプロリンはプロリンの翻訳後修飾により作成される。
【0040】
C. リンカー
リンカーまたは架橋剤は、MUC1ペプチドを他のタンパク質性配列と融合させるために使用され得る。二官能性架橋試薬は、アフィニティマトリックスの調製、多様な構造の修飾および安定化、リガンドおよび受容体結合部位の同定、ならびに構造研究を含む多様な目的のために広範囲に使用されている。2個の同一の官能基を保持するホモ二官能性試薬は、同一の高分子または高分子のサブユニットおよび異なる高分子または高分子のサブユニットの間の架橋の誘導、ならびにポリペプチドリガンドの特定の結合部位への連結において高度に効率的であることが判明した。ヘテロ二官能性試薬は、2個の異なる官能基を含有している。2個の異なる官能基の差動的な反応性を活用することにより、架橋は、選択的かつ連続的に制御され得る。二官能性架橋試薬は、官能基、例えば、アミノ、スルフヒドリル、グアニジノ、インドール、またはカルボキシルに特異的な基の特異性によって分類され得る。これらのうち、遊離アミノ基に対する試薬は、商業的入手可溶性、合成の容易さ、およびそれらが適用され得る温和な反応条件のため、特に人気になっている。二官能性架橋試薬の大多数は、一級アミン反応基およびチオール反応基を含有している。
【0041】
別の例において、ヘテロ二官能性架橋試薬および架橋試薬を使用する方法は、参照によりその全体が具体的に本明細書に組み入れられる米国特許第5,889,155号に記載されている。架橋試薬は、求核性のヒドラジド残基を求電子性のマレイミド残基と化合させ、一例において、アルデヒドの遊離チオールとのカップリングを可能にする。架橋試薬は、様々な官能基を架橋するために修飾され得、従って、ポリペプチドを架橋するために有用である。特定のペプチドが、そのネイティブ配列において所定の架橋試薬を受け入れる残基を含有していない場合には、遺伝学的なまたは合成による一次配列内の保存的アミノ酸変化が利用され得る。
【0042】
治療薬としてのペプチドに関するリンカーの別の用途は、Aileron Therapeuticsのいわゆる「ステープルドペプチド(Stapled Peptide)」技術である。ペプチドを「ステープリングする」ための一般的なアプローチは、ペプチド内の2個のキー残基をアミノ酸側鎖を介したリンカーの付着により修飾するというものである。合成された後、リンカーは触媒により接続され、それにより、ペプチドをネイティブのαヘリックス形へと物理的に制約するブリッジを作出する。標的分子と相互作用するために必要とされるネイティブ構造の保持を補助することに加えて、このコンフォメーションは、ペプチダーゼに対する安定性および細胞透過特性を提供する。この技術を記載している米国特許第7,192,713号および第7,183,059号は、参照により本明細書に組み入れられる。Schafmeister et al., Journal of the American Chemical Society, 2000. 122(24): p. 5891-5892も参照のこと。
【0043】
D. 設計、バリアント、およびアナログ
本発明は、配列CQCを含むペプチドに焦点を当てる。MUC1オリゴマー形成におけるこのキー構造を同定したため、本発明者らは、CQC配列のバリアントが利用され得ることも企図する。例えば、CQC配列の構造的制約を満たすある種の非天然アミノ酸が、生物学的機能の損失なしに、もしかすると生物学的機能を改善しつつ、置換され得る。さらに、本発明者らは、本発明のペプチドまたはポリペプチドのキー部分を模倣する、構造的に類似している化合物が、製剤化され得ることも企図する。ペプチド模倣体とも呼ばれるそのような化合物は、本発明のペプチドと同様に使用され得、従って、それらも機能的等価物である。
【0044】
タンパク質の二次構造および三次構造の要素を模倣するある種の模倣体が、Johnson et al. (1993)に記載されている。ペプチド模倣体の使用の基礎をなす原理は、タンパク質のペプチド骨格が、主として、抗体および/または抗原の相互作用のような分子的相互作用を容易にするよう、アミノ酸側鎖を方向付けるよう存在するということである。従って、ペプチド模倣体は、天然分子に類似した分子的相互作用を可能にするために設計される。
【0045】
特定の構造を生成する方法は、当技術分野において開示されている。例えば、αヘリックス模倣体は、米国特許第5,446,128号;第5,710,245号;第5,840,833号;および第5,859,184号に開示されている。コンフォメーションが制約されたβターンおよびβバルジを生成する方法は、例えば、米国特許第5,440,013号;第5,618,914号;および第5,670,155号に記載されている。他の型の模倣ターンには、逆向ターンおよびγターンが含まれる。逆向ターン模倣体は米国特許第5,475,085号および第5,929,237号に開示されており、γターン模倣体は米国特許第5,672,681号および第5,674,976号に記載されている。
【0046】
本明細書において使用されるように、「分子モデリング」とは、三次元的な構造的情報およびタンパク質間相互作用モデルに基づく、タンパク質間の物理的相互作用の構造および機能の定量的かつ/または定性的な分析を意味する。これには、従来の数値に基づく分子動力学およびエネルギー最小化モデル、相互作用コンピュータグラフィックモデル、修飾された分子力学モデル、ディスタンスジオメトリー、およびその他の構造に基づく制約モデルが含まれる。分子モデリングは、典型的には、コンピュータを使用して実施され、公知の方法を使用して、さらに最適化され得る。X線結晶学データを使用するコンピュータプログラムは、そのような化合物を設計するために特に有用である。例えば、RasMolのようなプログラムが、三次元モデルを生成するために使用され得る。INSIGHT(Accelrys, Burlington, MA)、GRASP(Anthony Nicholls, Columbia University)、Dock(Molecular Design Institute, University of California at San Francisco)、およびAuto-Dock(Accelrys)のようなコンピュータプログラムは、さらなる操作および新たな構造を導入する能力を可能にする。方法は、化合物の3D構造のモデルを出力装置へと出力する付加的な工程を含み得る。さらに、候補化合物の3Dデータは、例えば、3D構造のコンピュータデータベースと比較され得る。
【0047】
本発明の化合物は、その他の構造に基づく設計/モデリング技術(例えば、Jackson, 1997;Jones et al., 1996を参照のこと)を使用して、本明細書に記載された化合物の構造的情報から相互作用的に設計されてもよい。次いで、候補化合物は、当業者に周知の標準的なアッセイにおいて試験され得る。例示的なアッセイは本明細書に記載される。
【0048】
生物学的高分子(例えば、タンパク質、核酸、炭水化物、および脂質)の3D構造は、多様な方法論により入手されたデータから決定され得る。タンパク質の3D構造の査定に最も効率的に適用されているこれらの方法論には、以下のものが含まれる:(a)X線結晶学;(b)核磁気共鳴(NMR)分光法;(c)高分子上の明確な部位の間に形成された物理的な距離の制約、例えば、タンパク質上の残基間の分子内化学的架橋の分析(例えば、PCT/US00/14667(これの開示は参照によりその全体が本明細書に組み入れられる))、および(d)関心対象のタンパク質の一次構造の知識に基づく分子モデリング法、例えば、ホモロジーモデリング技術、スレッディング(threading)アルゴリズム、またはMONSSTER(Modeling Of New Structures from Secondary and Tertiary Restraints)(例えば、国際出願第PCT/US99/11913号(これの開示は参照によりその全体が本明細書に組み入れられる)を参照のこと)のようなコンピュータプログラムを使用したアブイニシオ(ab initio)構造モデリング。その他の分子モデリング技術も、本発明に従って利用され得る(例えば、Cohen et al., 1990;Navia et al., 1992(これらの開示は、参照によりその全体が本明細書に組み入れられる))。これらの方法は、全て、コンピュータ分析を受け入れるデータを生成する。本発明の方法において有用であり得るが、現在は生体分子に関する原子レベルの構造的詳細を提供していない、その他の分光法には、円二色性分光法、蛍光分光法、および紫外/可視光吸光分光法が含まれる。好ましい分析法は、X線結晶学である。この手法およびNMR分光法の説明を、以下に提供する。
【0049】
X線結晶学。X線結晶学は、関心対象の分子または分子複合体の結晶における原子核を取り巻く電子雲による特徴的な波長のX線照射の回折に基づく。その技術は、特定の生物学的高分子を構成する原子の近原子(near atomic)分解を決定するため、精製された生物学的高分子または分子複合体(しかし、これらは、しばしば、溶媒成分、補因子、基質、またはその他のリガンドを含んでいる)の結晶を使用する。X線結晶学により3D構造を解析するための必要条件は、X線を強く回折するであろう規則正しい結晶である。方法は、多くの同一分子の規則的な反復するアレイへとX線ビームを差し向けるため、X線があるパターンでアレイから回折され、そのパターンから個々の分子の構造を回収することができる。例えば、球状タンパク質分子の規則正しい結晶は、不規則の表面を有する、大きい、球状または楕円体の物体である。結晶は、個々の分子の間に大きいチャンネルを含有している。通常、結晶の体積の過半を占めるこれらのチャンネルには、無秩序の溶媒分子が充填されており、タンパク質分子は、ほんの少数の小さな領域で相互に接している。これは、結晶内のタンパク質の構造が、溶液中のタンパク質のものと概して同一である、一つの理由である。
【0050】
関心対象のタンパク質を入手する方法を、以下に記載する。結晶の形成は、pH、温度、生物学的高分子の濃度、溶媒および沈殿剤の性質、ならびに添加されるイオンまたはタンパク質のリガンドの存在を含む、多数の異なるパラメータに依存する。X線回折分析に適した結晶を与える組み合わせのため、これらの全てのパラメータをスクリーニングするためには、多くのルーチンの結晶化実験が必要とされるかもしれない。結晶化ロボットは、多数の結晶化実験を再現性よく設定する作業を自動化し加速することができる(例えば、米国特許第5,790,421号(これの開示は参照によりその全体が本明細書に組み入れられる)を参照のこと)。
【0051】
ポリペプチド結晶化は、ポリペプチド濃度がその最大溶解度を越えている(即ち、ポリペプチド溶液が過飽和されている)溶液で起こる。そのような溶液は、好ましくは、ポリペプチド結晶の沈殿を通して、ポリペプチド濃度を低下させることにより、平衡状態へと回復し得る。しばしば、ポリペプチドは、結晶化をもたらす会合を促進するため、ポリペプチド表面の電荷を改変するか、またはポリペプチドとバルク水との間の相互作用を妨害する薬剤を添加することにより、過飽和溶液から結晶化するよう誘導され得る。
【0052】
結晶化は、一般に、4℃〜20℃の間で実施される。「沈殿剤」として公知の物質が、ポリペプチド分子の周りにエネルギー的に不利な沈殿枯渇層(precipitating depleted layer)を形成することにより、濃縮溶液中のポリペプチドの溶解度を減少させるためにしばしば使用される(Weber, 1991)。沈殿剤に加えて、その他の材料が、ポリペプチド結晶化溶液に添加される場合もある。これらには、溶液のpHを調整するための緩衝剤、およびポリペプチドの溶解度を低下させるための塩が含まれる。様々な沈殿剤が当技術分野において公知であり、以下のものを含む:エタノール、3-エチル-2-4ペンタンジオール、およびポリエチレングリコール(PEG)のようなポリグリコールの多く。沈殿溶液は、例えば、13〜24%PEG4000、5〜41%硫酸アンモニウム、および1.0〜1.5M塩化ナトリウム、ならびに5.0〜7.5の範囲のpHを含み得る。その他の添加剤には、0.1M Hepes、2〜4%ブタノール、20〜100mM酢酸ナトリウム、50〜70mMクエン酸、120〜130mMリン酸ナトリウム、1mMエチレンジアミン四酢酸(EDTA)、および1mMジチオスレイトール(DTT)が含まれ得る。これらの薬剤は、緩衝液中で調製され、結晶化緩衝液に様々な組み合わせで滴下にて添加される。結晶化させるタンパク質は、例えば、リン酸化により、またはリン酸模倣体(例えば、タングステン酸、カコジル酸、または硫酸)を使用することにより、修飾されてもよい。
【0053】
一般的に使用されるポリペプチド結晶化法には、以下の技術が含まれる:バッチ、ハンギングドロップ、種開始(seed initiation)、および透析。これらの方法の各々において、過飽和溶液を維持することにより、核形成後に継続的な結晶化を促進することが重要である。バッチ法においては、過飽和を達成するため、ポリペプチドを沈殿剤と混合し、容器を密封し、結晶が出現するまで放置する。透析法においては、ポリペプチドを、密封した透析膜内に保持し、それを沈殿剤を含有している溶液中に置く。膜を介した平衡化が、ポリペプチドおよび沈殿剤の濃度を増加させ、それにより、ポリペプチドが過飽和レベルに到達するようになる。
【0054】
好ましいハンギングドロップ技術(McPherson, 1976)においては、濃縮ポリペプチド溶液に沈殿剤を添加することにより、初期ポリペプチド混合物を作出する。ポリペプチドおよび沈殿剤の濃度は、この初期の形態において、ポリペプチドが結晶化しないようなものである。この混合物の小滴を、ガラススライド上に置き、それを、第二の溶液のレザバーの上方に逆さにしてつるす。次いで、系を密封する。典型的には、第二の溶液は、より高い濃度の沈殿剤またはその他の脱水剤を含有している。沈殿剤濃度の差によって、タンパク質溶液は、第二の溶液より高い蒸気圧を有するようになる。二つの溶液を含有している系は密封されているため、平衡状態が確立され、ポリペプチド混合物からの水が第二の溶液に移動する。この平衡状態は、ポリペプチド溶液中のポリペプチドおよび沈殿剤の濃度を増加させる。ポリペプチドおよび沈殿剤の臨界濃度時に、ポリペプチドの結晶が形成され得る。
【0055】
別の結晶化法は、濃縮ポリペプチド溶液へ核形成部位を導入する。一般に、濃縮ポリペプチド溶液を調製し、ポリペプチドの種晶をこの溶液へ導入する。ポリペプチドおよび沈殿剤の濃度が正確である場合には、種晶が核形成部位を提供し、その周りにより大きい結晶が形成されるであろう。
【0056】
さらに別の結晶化法は、電極に隣接しているヘルムホルツ層において自己整列するタンパク質高分子の双極子モーメントが使用される結晶電析法である(例えば、米国特許第5,597,457号参照(これの開示は参照によりその全体が本明細書に組み入れられる)を参照のこと)。
【0057】
結晶化が困難なタンパク質も存在する。しかしながら、結晶化を誘導するためのいくつかの技術が当業者に利用可能である。例えば、タンパク質のアミノ末端またはカルボキシル末端のフレキシブルなポリペプチドセグメントの除去は、結晶タンパク質試料の作製を容易にし得る。そのようなセグメントの除去は、分子生物学技術、またはトリプシン、キモトリプシン、もしくはスブチリシンのようなプロテアーゼによるタンパク質の処理を使用してなされ得る。
【0058】
回折実験においては、狭く平行のX線ビームがX線源から発せられ、回折ビームを生ずるために結晶へ差し向けられる。投射一次ビームは、高分子および溶媒分子の両方に傷害を引き起こす。従って、結晶は、その寿命を延長するために(例えば、-220℃〜-50℃の間に)冷却される。一次ビームは、全ての可能な回折スポットを作製するために多くの方向から結晶に衝突しなければならず、従って、実験中は結晶をビーム内で回転させる。回折スポットは、フィルム上に、または電子検出器により記録される。感光したフィルムは、スキャニング装置においてディジタル化され定量化されなければならないが、電子検出器は、それらが検出するシグナルをコンピュータへ直接送り込む。電子面検出器は、回折データを収集し測定するのに必要とされる時間を有意に低下させる。フィルムまたは検出器プレートの上にスポットとして記録される各回折ビームは、以下の三つの特性により定義される:スポットの強度から測定される振幅;X線源により設定される波長;およびX線実験において失われる位相。回折ビームを与える原子の位置を決定するためには、回折ビームの全てについて、三つの特性全てが必要とされる。位相を決定する一つの方式は、多重同形置換(Multiple Isomorphous Replacement/MIR)と呼ばれ、それは、結晶の単位格子への外因性のX線分散剤(例えば、金属原子のような重原子)の導入を必要とする。MIRのより詳細な説明に関しては、米国特許第6,093,573号(第15カラム)(これの開示は参照によりその全体が本明細書に組み入れられる)を参照のこと。
【0059】
原子座標とは、結晶形の関心対象の生物学的高分子の原子(分散中心)によるX線の単色ビームの回折を介して入手されたパターンに由来するデータの、フーリエ合成を含む数学的な方程式に由来するデカルト座標(x位、y位、およびz位)をさす。回折データは、結晶内の反復単位(単位格子)の電子密度マップを計算するために使用される。電子密度マップは、結晶の単位格子内の個々の原子の位置(原子座標)を確立するために使用される。原子座標に割り当てられた絶対値は、原子間の同一の相対的空間的関係を維持しながら、共に、または別々に、x軸、y軸、および/またはz軸に沿って回転運動および/または並進運動により変化し得るため、原子座標の絶対値は、原子間の空間的関係を示唆する。従って、原子座標の絶対値のセットが、別の試料の分析から事前に決定された値のセットと一致するよう、回転または翻訳により調整され得る生物学的高分子(例えば、タンパク質)は、他の試料から入手されたものと同一の原子座標を有すると見なされる。
【0060】
X線結晶学に関するさらなる詳細は、同時係属中の米国出願第2005/0015232号、米国特許第6,093,573号、ならびに国際出願第PCT/US99/18441号、第PCT/US99/11913号、および第PCT/US00/03745号から入手され得る。これらの全ての特許文献の開示は、参照によりその全体が本明細書に組み入れられる。
【0061】
NMR分光法。X線結晶学は関心対象の高分子の単結晶を必要とするが、NMR測定は近生理的条件下の溶液中で実施される。しかしながら、NMRに由来する構造は、結晶に由来する構造ほど詳細ではない。
【0062】
NMR分光法の使用は、比較的最近まで、比較的低分子(例えば、100〜150アミノ酸残基のタンパク質)の3D構造の解明に限定されていたが、関心対象の分子の同位体標識および横緩和最適化分光法(transverse relaxation-optimized spectroscopy/TROSY)を含む最近の進歩は、はるかに大きい分子、例えば、110kDaの分子量を有するタンパク質の分析へと方法論を拡張することを可能にした(Wider, 2000)。
【0063】
NMRは、特定の高周波によりパルス処理された均一磁場において磁性原子核の環境を調査するために高周波照射を使用する。パルスは、スピンがゼロでない核を有する原子の核磁化を混乱させる。系が平衡状態に戻る際に、一過性の時間領域シグナルが検出される。一過性シグナルの周波数領域へのフーリエ変換が、一次元NMRスペクトルを与える。これらのスペクトルにおけるピークは、様々な活性の核の化学シフトを表す。原子の化学シフトは、その局所的な電子環境により決定される。二次元NMR実験は、構造および三次元空間における様々な原子の近接に関する情報を提供することができる。タンパク質構造は、多数の二次元(時には三次元または四次元)NMR実験を実施し、得られた情報を一連のタンパク質折り畳みシミュレーションにおいて制約として使用することにより決定され得る。
【0064】
NMR実験から入手された生データが高分子の3D構造を決定するために使用され得る方法の詳細な説明を含む、NMR分光法に関するさらなる情報は、Protein NMR Spectroscopy, Principles and Practice, (1996);Gronenborn et al. (1990);およびWider (2000)(前記)(これらの全ての開示は参照によりその全体が本明細書に組み入れられる)に見出され得る。
【0065】
ペプチドである本発明の化合物のアミノ酸配列に基づき設計されるペプチド模倣体化合物も、関心対象である。ペプチド模倣体化合物は、選択されたペプチドの三次元コンフォメーションと実質的に同一の三次元コンフォメーション「モチーフ」を有する合成化合物である。ペプチドモチーフは、ペプチド模倣体化合物に、MUC1のオリゴマー化を阻害する能力を提供する。ペプチド模倣体化合物は、増加した細胞透過性および延長された生物学的半減期のような、インビボの利用可能性を増強する付加的な特徴を有することができる。ペプチド模倣体は、典型的には、部分的にまたは完全に非ペプチドである骨格を有するが、そのペプチド模倣体の基となるペプチドに存在するアミノ酸残基の側鎖と同一の側鎖を有する。いくつかの型の化学結合、例えば、エステル結合、チオエステル結合、チオアミド結合、レトロアミド結合、還元カルボニル結合、ジメチレン結合、およびケトメチレン結合が、プロテアーゼ抵抗性のペプチド模倣体の構築において、ペプチド結合の一般に有用な代替物であることが、当技術分野において公知である。
【0066】
IV. 治療
A. 薬学的製剤および投与経路
臨床的適用が企図される場合、意図された適用にとって適切な形態で医薬組成物を調製することが必要であろう。一般に、これは、発熱性物質、およびヒトまたは動物にとって有害であり得るその他の不純物を本質的に含まない組成物を調製することを要するであろう。
【0067】
送達ベクターを安定化させ、標的細胞による取り込みを可能にするために適切な塩および緩衝剤を利用することが一般に望まれるであろう。緩衝剤は、組換え細胞が患者へ導入される場合にも利用されるであろう。本発明の水性組成物は、薬学的に許容される担体または水性媒体に溶解または分散した、有効な量のベクターから細胞までを含む。そのような組成物は接種物とも呼ばれる。「薬学的にまたは薬理学的に許容される」という語句は、動物またはヒトへ投与された場合に、有害反応、アレルギー反応、またはその他の不都合な反応を生じない分子エンティティおよび組成物をさす。本明細書において使用されるように、「薬学的に許容される担体」には、全ての任意の溶媒、分散媒、コーティング、抗菌剤、抗真菌剤、等張剤、および吸収遅延剤等が含まれる。薬学的活性物質のためのそのような媒体および薬剤の使用は、当技術分野において周知である。任意の従来の媒体または薬剤が、本発明のベクターまたは細胞と不適合性でない限り、治療用組成物において使用されることが企図される。補足的な活性成分が、組成物に組み入れられてもよい。
【0068】
本発明の活性組成物には、古典的な薬学的調製物が含まれ得る。標的組織がその経路を介して利用可能である限り、本発明に係るこれらの組成物の投与は、任意の一般的な経路を介してなされるであろう。そのような経路には、経口、鼻、頬、直腸、膣、または局所の経路が含まれる。あるいは、投与は、正所、皮内、皮下、筋肉内、腹腔内、または静脈内の注射によってもよい。そのような組成物は、通常、前記の薬学的に許容される組成物として投与されるであろう。直接腫瘍内投与、腫瘍の灌流、または、腫瘍への局所的もしくは局部的な投与、例えば、局所的もしくは局部的な血管系もしくはリンパ系、もしくは切除された腫瘍床への投与が、特に関心対象である。
【0069】
活性化合物は、非経口投与または腹腔内投与されてもよい。遊離塩基または薬理学的に許容される塩としての活性化合物の溶液は、ヒドロキシプロピルセルロースのような界面活性剤と適当に混合された水で調製され得る。分散物も、グリセロール、液体ポリエチレングリコール、およびそれらの混合物、ならびに油で調製され得る。保管および使用の通常の条件の下で、これらの調製物は、微生物の増殖を防止するための保存剤を含有する。
【0070】
注射可能な使用に適している薬学的形態には、無菌の水性溶液または分散物、および無菌の注射可能な溶液または分散物の即時調製のための無菌の粉末が含まれる。全ての場合に、型は無菌でなければならず、容易な注射可能性が存在する程度に液体でなければならない。それは製造および保管の条件の下で安定していなければならず、細菌および真菌のような微生物の汚染作用に対して保存されなければならない。担体は、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、および液体ポリエチレングリコール等)、それらの適当な混合物、および植物油を含有している溶媒または分散媒であり得る。適切な流動度は、例えば、レシチンのようなコーティングの使用、分散物の場合には必要とされる粒径の維持、および界面活性剤の使用により維持され得る。微生物の作用の防止は、様々な抗菌剤および抗真菌剤、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸、チメロサール等によりもたらされ得る。多くの場合、等張剤、例えば、糖または塩化ナトリウムを含むことが好ましいであろう。注射可能組成物の長期的な吸収は、吸収を遅延させる薬剤、例えば、モノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチンの組成物における使用によりもたらされ得る。
【0071】
無菌の注射可能溶液は、必要に応じて、上に列挙されたその他の様々な成分と共に、必要量の活性化合物を適切な溶媒に組み入れ、その後、ろ過減菌することにより調製される。一般に、分散物は、基本の分散媒と、上に列挙されたもののうちの必要とされる他の成分とを含有している無菌の媒体に、様々な滅菌された活性成分を組み入れることにより調製される。無菌の注射可能溶液の調製のための無菌の粉末の場合、好ましい調製法は、事前に滅菌ろ過された溶液から、活性成分+付加的な所望の成分の粉末を与える、真空乾燥技術および凍結乾燥技術である。
【0072】
本明細書において使用されるように、「薬学的に許容される担体」には、全ての任意の溶媒、分散媒、コーティング、抗菌剤、抗真菌剤、等張剤、および吸収遅延剤等が含まれる。薬学的活性物質のためのそのような媒体および薬剤の使用は、当技術分野において周知である。任意の従来の媒体または薬剤が、活性成分と不適合性でない限り、治療用組成物において使用されることが企図される。補足的な活性成分が、組成物に組み入れられてもよい。
【0073】
経口投与のため、本発明のポリペプチドは、摂取可能ではない口腔洗浄剤および歯磨剤の形態に賦形剤と共に組み入れられ、使用されてもよい。口腔洗浄剤は、ホウ酸ナトリウム溶液(ドベル(Dobell)溶液)のような適切な溶媒に必要量の活性成分を組み入れて、調製され得る。あるいは、活性成分は、ホウ酸ナトリウム、グリセリン、および重炭酸カリウムを含有している消毒洗浄剤に組み入れられてもよい。活性成分は、ゲル、ペースト、粉末、およびスラリーを含む歯磨剤に分散させられてもよい。活性成分は、水、結合剤、研摩剤、風味剤、発泡剤、および湿潤剤を含み得るペースト歯磨剤に治療的に有効な量で添加されてもよい。
【0074】
本発明の組成物は、中性型または塩型で製剤化され得る。薬学的に許容される塩には、例えば、塩酸またはリン酸のような無機酸、または酢酸、シュウ酸、酒石酸、マンデル酸等のような有機酸により形成された(タンパク質の遊離アミノ基により形成された)酸付加塩が含まれる。遊離カルボキシル基により形成された塩も、例えば、ナトリウム、カリウム、アンモニウム、カルシウム、または水酸化鉄のような無機塩基、およびイソプロピルアミン、トリメチルアミン、ヒスチジン、プロカイン等のような有機塩基に由来し得る。
【0075】
製剤化の後、溶液は、剤形と適合性の様式で、かつ治療的に有効であるような量で投与されるであろう。製剤は、注射可能溶液、薬物放出カプセル等のような多様な剤形で容易に投与される。水性溶液での非経口投与のため、例えば、溶液は、必要であれば、適当に緩衝されるべきであり、液体希釈剤は、まず、十分な生理食塩水またはグルコースにより等張にされるべきである。これらの特定の水性溶液は、静脈内投与、筋肉内投与、皮下投与、および腹腔内投与に特に適している。この関係において、利用され得る無菌の水性媒体は、本開示を考慮すれば、当業者に公知であろう。例えば、一つの投薬量を等張NaCl溶液1mlに溶解させ、皮下点滴液1000mlに添加するか、または提唱された注入部位に注射する(例えば、"Remington's Pharmaceutical Sciences," 15th Edition, pages 1035-1038 and 1570-1580を参照のこと)。投薬量のいくらかの変動が、必然的に、処置される対象の条件に依って起こるであろう。投与を担う者は、いかなる場合にも、個々の対象のための適切な用量を決定するであろう。さらに、ヒトへの投与のため、調製物は、FDA Office of Biologicsの基準により要求されるような無菌性、発熱性、一般的安全性、および純度の基準を満たすべきである。
【0076】
B. 癌の型および対象
本発明の方法が適用され得る癌細胞には、一般に、MUC1を発現する細胞、より具体的には、MUC1を過剰発現する細胞が含まれる。適切な癌細胞は、乳癌、肺癌、結腸癌、膵臓癌、腎臓癌、胃癌、肝臓癌、骨癌、血液系癌(例えば、白血病またはリンパ腫)、神経組織癌、黒色腫、卵巣癌、精巣癌、前立腺癌、子宮頸癌、膣癌、または膀胱癌の細胞であり得る。さらに、本発明の方法は、広範囲の種、例えば、ヒト、非ヒト霊長類(例えば、サル、ヒヒ、またはチンパンジー)、ウマ、ウシ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、イヌ、ネコ、ウサギ、モルモット、スナネズミ、ハムスター、ラット、およびマウスに適用され得る。
【0077】
C. 処置方法
MUC1オリゴマー形成を阻害するペプチドまたはアナログは、一般に、抗癌の治療薬または予防薬として有用である。それらは、哺乳動物対象(例えば、ヒト乳癌患者)に、単独で、または他の薬物および/もしくは放射線療法と共に投与され得る。化合物は、(例えば、生理学的要因および/または環境要因のために)遺伝学的にかつ/または環境的に癌への感受性が高い対象、例えば、癌(例えば、乳癌)の家族歴を有する対象、慢性炎症を有するかもしくは慢性ストレスを受けている対象、または天然もしくは非天然の環境的な発癌性条件(例えば、日光、産業的発癌物質、もしくはタバコ煙への過度の曝露)に曝されている対象にも投与され得る。
【0078】
方法が癌を有する対象に適用される場合、任意で、化合物の投与前に、当技術分野において公知の方法により、MUC1発現(MUC1タンパク質またはMUC1 mRNAの発現)について癌を試験することができる。このようにして、対象は、MUC1を発現または過剰発現する癌を有するとして同定され得る。そのような方法は、対象から入手された癌細胞に対してインビトロで実施され得る。あるいは、例えば、MUC1に特異的な放射標識された抗体を使用するインビボ画像技術が実施され得る。さらに、癌を有する対象からの体液(例えば、血液または尿)が、MUC1タンパク質またはMUC1タンパク質断片の上昇したレベルについて試験され得る。
【0079】
必要とされる投薬量は、投与経路の選択;製剤の性質;患者の疾病の性質;対象のサイズ、体重、表面積、年齢、および性別;投与される他の薬物;ならびに主治医の判断に依る。適当な投薬量は、0.0001mg/kg〜100mg/kgの範囲にある。利用可能な化合物の多様性および様々な投与経路の異なる効率を考慮すると、必要投薬量の広い変動が予想される。例えば、経口投与は、静脈注射による投与より高い投薬量を必要とすると予想されるであろう。これらの投薬量レベルの変動は、当技術分野においてよく理解されているような最適化のための標準的な経験的なルーチンを使用して調整され得る。投与は、単回であってもよいし、または複数回(例えば、2回、3回、4回、5回、6回、8回、10回、20回、50回、100回、150回、もしくはそれ以上)であってもよい。適当な送達媒体(例えば、ポリマー性微粒子または埋め込み可能装置)へのポリペプチドの封入は、特に、経口送達のため、送達の効率を増加させ得る。
【0080】
V. 組み合わせ治療
DNA傷害剤に対する腫瘍細胞の抵抗性は、臨床的な腫瘍学において大きな問題となっている。現在の癌研究の一つの目標は、化学療法および放射線療法の効力を改善するための方式を見出すことである。一つの方式は、そのような伝統的な治療を遺伝子治療と組み合わせることによる。本発明に関しても、同様に、化学療法、放射線療法、または免疫療法による介入と共に、MUC1ペプチド治療が使用され得ることが企図される。
【0081】
本発明の方法および組成物を使用して、細胞を死滅させ、細胞増殖を阻害し、転移を阻害し、血管形成を阻害し、またはその他の様式で腫瘍細胞の悪性表現型を逆転もしくは低下させるには、一般に、標的細胞を、MUC1ペプチドおよび少なくとも一つの他の治療と接触させるであろう。これらの治療は、細胞を死滅させるかまたは細胞の増殖を阻害するのに有効な組み合わせ量で提供されるであろう。この過程は、細胞を薬剤/治療と同時に接触させることを含み得る。これは、細胞を、両方の薬剤を含む単一の組成物もしくは薬理学的製剤と接触させること、または、細胞を、二つの別個の組成物もしくは製剤(ここで、一方の組成物はMUC1ペプチドを含んでおり、他方は薬剤を含んでいる)と同時に接触させることにより達成され得る。
【0082】
あるいは、MUC1処置は、数分から数週までの範囲の間隔で、他の処置と前後してもよい。他の処置とMUC1ペプチドとが別々に細胞に適用される態様においては、一般に、治療が、有利に組み合わせられた効果を細胞に対して発揮することができるよう、各送達の時点の間に有意な期間が空かないことが確実にされるであろう。そのような情況においては、相互の約12〜24時間以内、相互の約6〜12時間以内、または約12時間のみの遅延時間で、細胞を両方のモダリティと接触させることが企図される。しかしながら、いくつかの情況においては、それぞれの投与の間に数日(2日、3日、4日、5日、6日、または7日)〜数週(1週、2週、3週、4週、5週、6週、7週、または8週)が経過するよう、処置のための期間を有意に延長することが望ましいかもしれない。
【0083】
MUC1ペプチドまたは他の治療のいずれかの複数回の投与が望まれるであろうことも想像される。以下に例示されるような、様々な組み合わせが利用され得る(ここで、MUC1ペプチドが「A」であり、他の治療が「B」である):
その他の組み合わせも企図される。再び、細胞死滅を達成するために、両方の治療は、細胞を死滅させるのに有効な組み合わせ量で細胞に送達される。
【0084】
組み合わせ治療における使用に適している薬剤または因子には、細胞に適用された場合にDNA傷害を誘導する任意の化学的化合物または処置法が含まれる。そのような薬剤および因子には、γ線照射、X線、紫外線照射、マイクロ波、電子放射等のようなDNA傷害を誘導する放射線および波が含まれる。「化学療法薬」または「遺伝毒性剤」とも記載される多様な化学的化合物が、本明細書に開示された組み合わせ処置法において有用であるものとする。本発明による癌の処置において、腫瘍細胞は発現構築物に加えて薬剤と接触させられるであろう。これは、X線、紫外光線、γ線、またはマイクロ波のような放射線を限局性の腫瘍部位に照射することにより達成され得る。あるいは、腫瘍細胞は、治療的に有効な量の薬学的組成物を対象へ投与することにより、薬剤と接触させられてもよい。
【0085】
様々なクラスの化学療法剤が、本発明のペプチドと組み合わせて使用されることが企図される。例えば、タモキシフェン、4-ヒドロキシタモキシフェン(アフィモキシフェン)、ファルソデックス(Falsodex)、ラロキシフェン、バゼドキシフェン、クロミフェン、フェマレル(Femarelle)、ラソフォキシフェン、オルメロキシフェン(Ormeloxifene)、およびトレミフェンのような選択的エストロゲン受容体アンタゴニスト(「SERM」)。
【0086】
有用であると企図される化学療法剤には、例えば、カンプトテシン、アクチノマイシンD、マイトマイシンCが含まれる。本発明は、X線とシスプラチンとの併用、またはシスプラチンとエトポシドとの併用のような、放射線に基づくものであってもよいし、または実際の化合物であってもよい、一つまたは複数のDNA傷害剤の組み合わせの使用も包含する。薬剤は、上記のように、それをMUC1ペプチドと組み合わせることにより、組み合わせ治療用組成物またはキットとして調製され使用され得る。
【0087】
熱ショックタンパク質90は、多くの真核細胞に見出される調節タンパク質である。HSP90阻害剤は、癌の処置において有用であることが示されている。そのような阻害剤には、ゲルダナマイシン、17-(アリルアミノ)-17-デメトキシゲルダナマイシン、PU-H71、およびリファブチンが含まれる。
【0088】
DNAを直接架橋するか、または付加物を形成する薬剤も、構想される。シスプラチンのような薬剤、およびその他のDNAアルキル化剤が使用され得る。シスプラチンは、癌を処置するために広く使用されており、臨床的な適用において使用される有効用量は、20mg/m2、3週毎に5日間、計3コースである。シスプラチンは、経口では吸収されず、従って、静脈内、皮下、腫瘍内、または腹腔内への注射を介して送達されなければならない。
【0089】
DNAに傷害を与える薬剤には、DNAの複製、有糸分裂、および染色体分離に干渉する化合物も含まれる。そのような化学療法化合物には、ドキソルビシンとしても公知のアドリアマイシン、エトポシド、ベラパミル、ポドフィロトキシン等が含まれる。臨床的な設定において新生物の処置のために広く使用されている、これらの化合物は、ドキソルビシンについては、21日間隔で、25〜75mg/m2の範囲の用量でボーラス注射を通して静脈内に投与され、エトポシドについては35〜50mg/m2の用量で静脈内に投与されるか、または静脈内用量の2倍が経口投与される。タキサンのような微小管阻害剤も企図される。これらの分子は、イチイ属の植物により産生されるジテルペンであり、パクリタクセルおよびドセタキセルを含む。
【0090】
イレッサ(Iressa)のような表皮増殖因子受容体阻害剤、
FK506結合タンパク質12-ラパマイシン関連タンパク質1(FRAP1)としても公知の哺乳類ラパマイシン標的タンパク質mTORは、細胞増殖、細胞増幅、細胞運動、細胞生存、タンパク質合成、および転写を調節するセリン/トレオニンプロテインキナーゼである。従って、ラパマイシンおよびそのアナログ(「ラパログ(rapalogs)」)は、本発明に係る組み合わせ癌治療において使用されることが企図される。
【0091】
特許請求の範囲に記載されたペプチドとの、別の可能な組み合わせ治療は、全身炎症に関与しているサイトカインであり、かつ急性期反応を刺激するサイトカイン群のメンバーである、TNF-α(腫瘍壊死因子α)である。TNFの主要な役割は、免疫細胞の調節にある。TNFは、アポトーシス細胞死を誘導すること、炎症を誘導すること、そして腫瘍原性およびウイルス複製を阻害することもできる。
【0092】
核酸前駆物質およびサブユニットの合成および正確さを破壊する薬剤も、DNA傷害をもたらす。そのため、多数の核酸前駆物質が開発されている。特に有用なのは、広範囲の試験を受けており、容易に入手可能な薬剤である。そのため、5-フルオロウラシル(5-FU)のような薬剤は、新生物組織により優先的に使用され、従って、この薬剤は新生物細胞へのターゲティングのために特に有用である。極めて毒性ではあるが、5-FUは、局所適用を含めて広範囲のキャリアにおいて適用可能であり、しかしながら3〜15mg/kg/日の範囲の用量での静脈内投与が一般的に使用されている。
【0093】
DNA傷害を引き起こす、広範囲に使用されているその他の因子には、γ線、X線として一般的に公知であるもの、および/または放射性同位元素の腫瘍細胞への定方向送達が含まれる。マイクロ波および紫外線照射のような、その他の型のDNA傷害因子も企図される。これらの因子は、全て、DNA、DNAの前駆物質、DNAの複製および修復、ならびに染色体の組み立ておよび維持に対して広範囲の傷害をもたらす可能性が最も高い。X線の線量範囲は、長期間(3〜4週間)の50〜200レントゲンという1日線量から、2000〜6000レントゲンという単回線量までの範囲である。放射性同位元素のための線量範囲は、広く変動し、同位体の半減期、放射される放射線の強度および型、ならびに新生物細胞による取り込みに依る。
【0094】
当業者は、"Remington's Pharmaceutical Sciences" 15th Edition, chapter 33, in particular pages 624-652の指示を受ける。投薬量のいくらかの変動が、必然的に、処置される対象の条件に依って起こるであろう。投与を担う者は、いかなる場合にも、個々の対象のための適切な用量を決定するであろう。さらに、ヒトへの投与のため、調製物は、FDA Office of Biologicsの基準により要求されるような無菌性、発熱性、一般的安全性、および純度の基準を満たすべきである。
【0095】
本発明者らは、癌を有する患者へのMUC1ペプチドの局所的または局部的な送達が、臨床的な疾患を処置するための極めて効率的な方法であり得ることを提唱する。同様に、化学療法または放射線療法が、対象の身体の特定の影響を受けた領域に差し向けられてもよい。あるいは、発現構築物および/または薬剤の局部送達または全身送達が、ある種の状況において、例えば、広範囲の転移が起こった場合には、適切であるかもしれない。
【0096】
MUC1治療の、化学療法および放射線療法との組み合わせに加えて、免疫療法、ホルモン療法、毒素療法、および手術との組み合わせも企図される。特に、アバスチン、アービタックス、グリーベック、ハーセプチン、およびリツキサンのような標的治療を利用することができる。
【0097】
上記の治療のいずれかが、癌の処置において単独で有用であると判明するかもしれないことも、指摘されるべきである。
【実施例】
【0098】
VI. 実施例
以下の実施例は、本発明の特定の態様を示すために含まれる。以下の実施例に開示される技術は、本発明の実施においてよく機能することが本発明者らにより発見された技術を表し、従って、その実施のための特定の様式を構成すると見され得ることが、当業者により認識されるべきである。しかしながら、当業者は、本開示を考慮すれば、開示された特定の態様に多くの変化を施しても、本発明の本旨および範囲から逸脱することなく、同様のまたは類似の結果を入手することが可能であることを認識するべきである。
【0099】
実施例1−材料および方法
細胞培養。ヒト乳癌ZR-75-1細胞株、ZR-75-1/ベクター細胞株、ZR-75-1/MUC1siRNA細胞株(Ren et al., 2004)を、10%熱不活化ウシ胎仔血清(HI-FBS)、100U/mlペニシリン、および100μg/mlストレプトマイシン(Invitrogen)が補足されたRPMI1640培地で、37℃および5%CO2の加湿インキュベーター内で培養した。ヒトMCF-7乳癌細胞および293細胞を、10%HI-FBS、抗生物質、および2mM L-グルタミンを含むダルベッコ修飾イーグル培地で培養した。ヒトMCF-10A乳房上皮細胞を、乳房上皮細胞増殖培地(MEGM;Lonza)で培養した。細胞を、MIT Biopolymer Laboratory(Cambridge, MA)により合成されたMUC1/CQCペプチドまたはMUC1/AQAペプチドにより処理した。生存能をトリパンブルー排除により決定した。
【0100】
免疫沈降およびイムノブロット分析。記載されたようにして(Leng et al., 2007)、全細胞溶解物および核溶解物を調製した。可溶性タンパク質を、抗Flag(Sigma, St. Louis, MO)による免疫沈降に供した。免疫沈降物および可溶性タンパク質を、抗His(Cell Signaling Technology, Danvers, MA)、抗GFP(Millipore, Danvers, MA)、抗Flag、抗MUC1-C(Ab1;NeoMarkers, Fremont, CA)、抗ラミンB(EMD, La Jolla, CA)、または抗βアクチン(Sigma)によるイムノブロッティングにより分析した。反応性を、西洋ワサビペルオキシダーゼ結合二次抗体および化学発光により検出した。
【0101】
細胞トランスフェクション。記載されたようにして(Leng et al., 2007)、293細胞を、リポフェクタミンの存在下で、GFP、GFP-MUC1-CD、またはFlag-MUC1-CDを発現するベクターによりトランスフェクトした。
【0102】
ペプチド取り込み。細胞をFITC標識MUC1/CQCペプチド(MIT Biopolymer Laboratory)と共にインキュベートし、冷PBSにより洗浄し、1%パラホルムアルデヒド/PBSで固定し、フローサイトメトリーにより蛍光について分析した。
【0103】
細胞周期分布、アポトーシス、および壊死の分析。細胞を採集し、PBSで洗浄し、80%エタノールで固定し、40μg/ml RNAseおよび40μg/mlヨウ化プロピジウムを含有しているPBSの中で37℃で30分間インキュベートした。細胞周期分布をフローサイトメトリーにより決定した。記載されたようにして(Yin et al., 2007)、エタノール固定されクエン酸緩衝液で透過性化された細胞を、ヨウ化プロピジウムにより染色し、フローサイトメトリーによりモニタリングすることにより、sub-G1 DNA含量を査定した。壊死の査定のためには、記載されたようにして(Yin et al., 2007)、細胞を、室温で、5分間、1μg/mlヨウ化プロピジウム/PBSと共にインキュベートし、次いで、フローサイトメトリーによりモニタリングした。
【0104】
ヒト乳房腫瘍異種移植片モデル。4〜6週齢、体重18〜22グラムのBalb-c nu/nu雌マウス(Charles River Laboratories, Wilmington, MA)に、トロカールガン(trocar gun)を使用して、17-β-エストラジオールプラグ(0.72mg;Innovative Research, Sarasota, FL)を皮下移植した。24時間後、マトリゲル(BD Biosciences)に埋め込まれた1×107個のZR-75-1細胞を、側腹部に皮下注射した。腫瘍が、およそ150mm3(コホート1)または275mm3(コホート2)で検出可能になった時点で、マウスを処置群および対照群へとペアマッチングした。各群が5匹のマウスを含有し、その各々に耳タグを付け、研究の全体にわたって追跡した。初回投薬はペアマッチングの時点で投与された(1日目)。リン酸緩衝生理食塩水(媒体)、MUC1/CQCペプチド、およびMUC1/AQAペプチドを、腹腔内注射により毎日投与した。マウスを週2回計量し、4日毎にノギスを使用して腫瘍測定を実施した。腫瘍体積(V)を、式V=W2×L/2[式中、Wは小さい方の直径であり、Lは大きい方の直径である]を使用して計算した。屠殺時、マウスを心臓投与により生理食塩水により灌流し、次いで、リン酸緩衝ホルマリンにより灌流した。腫瘍を切除し、4時間浸漬固定し、一連の段階的なエタノールを通して脱水し、ルーチンのパラフィン包埋のため加工した。記載されたようにして(Kufe, 1984)、H&E染色、および抗MUC1による免疫ペルオキシダーゼ染色により、腫瘍を評価した。
【0105】
薬物およびサイトカイン。シスジアミンジクロロプラチナ(Cisdiaminedichloroplatinum)(II)、ドキソルビシン(アドリアマイシン)、タキソール(パクリタクセル)を、Sigma(St. Louis, MO)から購入した。rh-TNF-αをPromega(Madison, WI)から購入した。GO-203ペプチドはAnaspec Inc.により合成された。
【0106】
インビトロ細胞障害性および組み合わせアッセイ。細胞を、6日間実験の場合には1ウェル1000細胞、3日間実験の場合には1ウェル3000細胞で、96穴平底マイクロタイタープレート(Fisher)に播種した。次いで、細胞を24時間培養した。抗癌薬およびGO-203を、示された濃度に希釈し、細胞へ添加した。GO-203(5μmol/L)を、72時間、24時間毎に添加した。MTS試薬を細胞へ添加し、マイクロプレートリーダにより490nmでの吸光度を読み取ることにより、細胞生存能を決定した。
【0107】
データ分析。全ての抗癌薬についてのIC50値を、Graphpad Prism(GraphPad Software, San Diego CA)を使用して、非線形回帰分析により決定した。CombiToolコンピュータプログラム(version 2.001, IMB Jena Biocomputing Group)を、5μmol/L GO-203の存在下での用量範囲内での組み合わせ指数を計算するために使用した。
【0108】
実施例2−結果
MUC1オリゴマー形成に対するMUC1/CQCペプチドの効果。MUC1細胞質ドメイン(MUC1-CD)は、オリゴマーの形成および核移行のために必要なCQCモチーフを含有している(Leng et al., 2007)。オリゴマー化を阻止する低分子を設計し得るか否かを決定するため、本発明者らは、CQCモチーフを含有しているMUC1-CDのN末端領域に由来するペプチド(MUC1/CQCペプチド;図1A)を合成した。細胞へのペプチドの進入を容易にするために、ポリD-アルギニン伝達ドメインを合成中に含めた(Fischer, 2007)(図1A)。対照として、CQCモチーフをAQAに改変した類似ペプチド(MUC1/AQAペプチド;図1A)を合成した。MUC1-CDへのペプチドの結合を査定するため、本発明者らは、Hisタグ付きMUC1-CDをBIAcoreセンサーチップへ固定化した。MUC1/CQCペプチドは、MUC1-CDオリゴマー(Leng et al., 2007)により入手されたものと類似した、30nMという解離定数(Kd)で、His-MUC1-CDに結合した(図1B)。対照的に、MUC1/AQAペプチドの明白な結合はなかった(示されないデータ)。精製されたHisタグ付きMUC1-CDは、ポリアクリルアミドゲル電気泳動により検出されるようなオリゴマーを形成する(図1C)。His-MUC1-CDのMUC1/CQCペプチドとのインキュベーションは、オリゴマー形成を実質的に減少させ、モノマーを増加させた(図1C)。さらに、MUC1/AQAペプチドとのインキュベーションは、効果を、たとえ有していたとしても、ほとんど有していなかった(図1C)。インビボのMUC1オリゴマー化に対する効果を査定するため、293細胞をGFP-MUC1-CDおよびFlag-MUC1-CDを発現するベクターによりトランスフェクトした(図1D、左)。GFP-MUC1-CDとFlag-MUC1-CDとの複合体が、ペプチドに曝されていない細胞からの溶解物の共沈により検出可能であった(図1D、右)。インビトロの結果と一致して、トランスフェクトされた293細胞のMUC1/CQCペプチドとのインキュベーションは、Flag-MUC1-CDとGFP-MUC1-CDとの間の相互作用の破壊に関連していた(図1D、右)。さらに、MUC1/AQAペプチドは明白な効果を有していなかった(図1D、右)。これらの結果は、インビトロおよび細胞内で、MUC1/CQCペプチドがMUC1-CDに結合し、MUC1-CDオリゴマーの形成を阻止することを示している。
【0109】
MUC1/CQCペプチドはMUC1-Cの核へのターゲティングを阻止する。ヒト乳癌細胞ZR-75-1およびMCF-7は、内在性MUC1を過剰発現しており、従って、MUC1/CQCペプチドの効果を評価するための可能性のあるモデルを表す(Ramasamy et al., 2007)。取り込みを査定するため、ZR-75-1細胞を5μM FITC-MUC1/CQCペプチドと共にインキュベートした(図2A)。2時間目、フローサイトメトリーによる細胞の分析は、蛍光強度の実質的な増加を示し、平均(MFI)は145であった(図2A)。MFIのさらなる増加が、6時間目および24時間目に同定された(図2A)。MUC1-Cのオリゴマー化は、その核輸入のために必要である(Leng et al., 2007)。MUC1/CQCペプチドまたはMUC1/AQAペプチドによるZR-75-1細胞の処理は、細胞MUC1-Cレベルに対する効果を有していなかった(図2B)。しかしながら、オリゴマー化に対する効果と一致して、MUC1/CQCペプチドによる処理は、核MUC1-Cレベルの減少に関連しており、MUC1/AQAペプチドによる処理はそうでなかった(図2B)。類似の効果が、MCF-7細胞においても観察され、MUC1/CQCペプチドによる処理に応答して、核MUC1-Cレベルのダウンレギュレーションが起こった(図2C)。これらの所見は、MUC1/CQCペプチドが、MUC1-Cオリゴマー化を阻止し、それにより、MUC1-Cの核へのターゲティングを阻止することを示す。
【0110】
MUC1/CQCペプチドは増殖を阻止し、壊死を誘導する。MUC1/CQCペプチドが増殖に影響を与えるか否かを決定するため、ZR-75-1細胞を、72時間、5μM MUC1/CQCにより処理し、細胞周期分布についてモニタリングした。意義深いことに、未処理のままにされた細胞、またはMUC1/AQAペプチドにより処理された細胞と比較して、実質的なS期における停止が存在した(図3A)。96時間目までに、S期集団は減少したが、これは、細胞死による減少によった可能性がある(図3A)。アポトーシスの誘導を支持するsub-G1 DNA含量を有する細胞の蓄積は、たとえあったとしても、ほとんどなかった(図3A)。しかしながら、MUC1/CQCペプチドによるZR-75-1細胞の処理は、72時間目に検出可能となり、96時間目により顕著になった、壊死の誘導に関連しており、MUC1/AQAペプチドによる処理はそうでなかった(図3B)。MCF-7細胞も同様にMUC1/CQCペプチドに応答し、S期での増殖の停止(図3C)および壊死の誘導(図3D)が起こった。これらの所見は、MUC1/CQCペプチドがヒト乳癌細胞の増殖を阻害し壊死を誘導することを示している。
【0111】
MUC1発現癌細胞に対するMUC1/CQCペプチドの特異性。MUC1/CQCペプチドが内在性MUC1を過剰発現する乳癌細胞に対して選択的な活性を有するか否かを決定するため、本発明者らは、MUC1siRNAによりMUC1発現について安定的にサイレンシングされているZR-75-1細胞を処理した(図4A)。対照ZR-75-1/ベクター細胞の増殖停止および死滅とは対照的に、MUC1/CQCペプチドは、ZR-75-1/MUC1siRNA細胞に対して実質的に少ない効果を有していた(図4B)。さらに、MUC1/CQCペプチドは、MUC1陰性293細胞の増殖に対しては明白な効果を有していなかった(図4C)。MUC1を発現するが、ZR-75-1細胞およびMCF-7細胞に見出されるより低レベルで発現する(Ahmad et al., 2007)MCF-10A非形質転換乳房上皮細胞株(Muthuswamy, 2001;Soule, 1990)に対しても、研究を実施した。顕著に、ZR-75-1細胞およびMCF-7細胞とは対照的に、MUC1/CQCペプチドは、MCF-10A細胞の周期分布(図4D)および増殖(図4E)に対して効果を有していなかった。これらの所見は、MUC1/CQCペプチドが、内在性MUC1を過剰発現する乳癌細胞に対して選択的な活性を有することを示している。
【0112】
MUC1/CQCペプチドはインビボで腫瘍原性を阻害する。MUC1/CQCペプチドの投与が体重に対する効果に関連しているか否かを決定するため、5匹の雌ヌード(nu/nu)マウスに、毎日1回、50mg/kgの用量で腹腔内(IP)注射した。11日にわたるペプチドの投与は、個々のマウスの体重に対して明白な効果を有していなかった。さらに、MUC1/CQC投与の中止後、次の28日にわたって体重に対する続発的な効果はなかった(示されないデータ)。抗腫瘍活性を査定するため、ZR-75-1細胞(1×107個)を、ヌードマウスの側腹部へ皮下移植した。12日後、およそ150mm3の腫瘍を保持するマウスを、10mg/kg/日および50mg/kg/日の用量でMUC1/CQCペプチドにより処理した。対照として、マウスを、媒体単独またはMUC1/AQAペプチドにより処理した。50mg/kg/日で与えられたMUC1/AQAペプチドで入手されたものと比較して、10mg/kg/日×21日のMUC1/CQCペプチドの投与は、増殖を遅くした(図5A)。さらに、50mg/kg/日のMUC1/CQCペプチドの投与は、処理の最初の7日にわたって増殖を阻止した(図5A)。従って、処理を中止し、マウスを再増殖についてモニタリングした。意義深いことに、次の17 日にわたって腫瘍の検出可能な増殖はなかった(図5A)。活性の基礎を部分的に査定するため、対照マウスおよび処理されたマウスから採集された腫瘍を、組織病理学により調査した。媒体またはMUC1/AQAペプチドにより処理されたマウスからのものと比較して、MUC1/CQC(10mg/kgおよび50mg/kg)により処理されたマウスからの腫瘍は、著しく壊死性であった(図5Bおよび示されないデータ)。しかしながら、顕著に、腫瘍細胞は、壊死区域の近くにも検出可能であった(図5B)。腫瘍切片をMUC1に対する抗体によっても染色した。MUC1/AQAペプチドによる処理は、対照腫瘍およびMUC1/AQAペプチドにより処理されたものと比較して、MUC1発現の著しいダウンレギュレーションに関連していた(図5Cおよび示されないデータ)。
【0113】
より大きい腫瘍(およそ275mm3)に対しても研究を実施した(図6A)。30mg/kg/日×21日という中間用量のMUC1/CQCペプチドの投与は、腫瘍増殖の停止に関連していた(図6A)。さらに、処理後の31日にわたって明白な再増殖はなく(図6A)、MUC1/CQCペプチドが腫瘍増殖の停止において有効であることがさらに示された。52日目に採集された腫瘍は、広範囲の壊死区域(図6B)およびMUC1発現のダウンレギュレーションを示した。これらの所見は、MUC1/CQCペプチドが、MUC1発現をダウンレギュレートし、壊死の誘導および腫瘍増殖の長期的な停止に関連していることを示している。
【0114】
MUC1-C末端CQCステープルドペプチド。多くの生物学的経路を支配する細胞内タンパク質間相互作用は、高頻度に、タンパク質のαヘリックス構造により媒介される。ヘリックス状ペプチドも、タンパク質間相互作用に干渉するかまたはタンパク質間相互作用を安定化させることができる。ネイティブのヘリックス状ペプチドは、低い効力、不安定性、および細胞への非効率的な送達のため、治療剤としての主要な欠点を有する。最近の研究は、炭化水素ステープリングと名付けられたαヘリックス状ペプチドの化学的修飾により、これらの問題が克服され得ることを示した。
【0115】
本発明者らは、MUC1-C末端内在性ペプチド配列
を使用し、炭化水素ステープリングを使用して、2種のαヘリックス状ペプチドGO-200-1BおよびGO-200-2Bを作成した。
【0116】
GO-200-1Bへの曝露が、非小細胞肺癌細胞の増殖に影響を与えるか否かを判定するため、H-1650細胞を、7日間、1μMおよび5μM GO-200-1Bにより処理し、増殖についてモニタリングした。結果は、5μM GO-200-1Bによる細胞の処理が、増殖の有意な阻害に関連していたことを証明している(図9A)。さらに、別の非小細胞肺癌細胞株H-1975を、3日間、5μM GO-200-2Bにより処理し、細胞増殖および細胞死についてモニタリングした。結果は、3日間のGO-200-2BによるH-1975細胞の処理が、細胞増殖の80%を越える阻害に関連していたことを証明している。さらに、GO-200-2Bは、細胞死の有意な誘導にも関連していた(図9B)。これらの所見は、ステープルドMUC1-Cペプチドが、ヒトMUC1陽性癌細胞の増殖停止および死滅の誘導において有効であることを示している。
【0117】
GO-203アナログ。本発明者らの最近の研究は、MUC1 C末端ペプチド
が、複数の癌細胞株の増殖を阻害する活性を有することを示した。本発明者らは、より短いMUC1 C末端ペプチドCQCRRKNを腫瘍細胞を死滅させる活性を有することを証明した。しかしながら、これらのMUC1-C末端ペプチドはL-アミノ酸からなる。重要なことに、L-アミノ酸を含むペプチドは、タンパク分解酵素による分解への感受性が高く、D-アミノ酸を含有しているものは、より安定していることが示されている。従って、本発明者らは、L-アミノ酸をD-アミノ酸に変化させた、上記のより短いMUC1 C末端ペプチドの全右旋性型(GO-203)を作成した。さらに、細胞死滅活性を保持するために必要とされる、MUC1-C末端領域からの最低アミノ酸残基を決定するため、図8に記載されるようなGO-203の多くの異なるバージョンも作成した。
【0118】
複数の腫瘍細胞株(ZR-75-1ホルモン依存性乳癌;MDA-MB-231三重陰性乳癌;A549非小細胞肺癌;H-1975非小細胞肺癌)を、10%熱不活化ウシ胎仔血清、100単位/mLペニシリンおよび100μg/mLストレプトマイシン、ならびに2mmol/L L-グルタミンが補足されたRPMI-1640で培養した。細胞を、3〜7日間、5μMのGO-203の異なるアナログ(図8)により別々に処理し、生存能をトリパンブルー排除により決定した。異なる細胞株の増殖を、媒体のみにより処理された細胞と比較した。結果は、5μMのGO-203の異なるアナログによる複数の腫瘍細胞株の処理が、増殖の有意な阻害に関連していたことを証明している(図10〜14)。
【0119】
組み合わせ治療。CombiToolプログラムにより生成された組み合わせ指数(CI)値を、薬物組み合わせにより影響を受けた画分に対してプロットした。シスプラチンとGO-203についてのCI値は、1に近く、相加的な相互作用が示された。ドキソルビシン(25nM、50nM、100nM、200nM)とGO-203、タキソール(25nM、50nM、100nM)とGO-203、およびTNF(10ng/ml、20ng/ml、40ng/ml)とGO-203について入手されたCI値は、1未満であり、強力な相加効果または相乗性が支持された(図15A〜Dおよび16)。
【0120】
実施例3−考察
MUC1/CQCペプチドはMUC1オリゴマー化を阻止する。MUC1の過剰発現は、足場非依存性の増殖および腫瘍原性の誘導のために十分である(Li et al., 2003a;Huang et al., 2003;Huang et al., 2005)。しかしながら、顕著に、MUC1の形質転換機能は、細胞質ドメイン内のCQCモチーフのAQAへの変異により排除される(Leng et al., 2007)。MUC1はオリゴマーを形成し、CQCモチーフはこのオリゴマー化のために必要である(Leng et al., 2007)。さらに、オリゴマー形成は、MUC1-Cサブユニットの核へのターゲティングのために必要である(Leng et al., 2007)。Wnt/βカテニンおよびIKKβ→NF-κB経路の活性化のようなMUC1-Cサブユニットのその他の機能も、MUC1-Cオリゴマーの形成に依存する(未公表のデータ)。これらの所見に基づき、本発明者らは、低分子によるMUC1オリゴマー化の破壊がMUC1の形質転換機能を阻止する可能性を有するであろうと推論した。それに関して、本発明者らは、CQCモチーフと、細胞への進入のためのポリArg細胞送達ドメインとを含有しているMUC1由来ペプチドを合成した。このMUC1/CQCペプチドによる初期の研究は、それがインビトロでMUC1-CDのオリゴマー化を阻害することを示した。BIAcore分析により以前に示されたように、MUC1-CDは、33nMという解離定数(Kd)で二量体を形成する(Leng et a1, 2007)。MUC1/CQCペプチドは、同様に、30nMというKdでMUC1-CDに結合した。さらに、MUC1/AQAペプチドが、MUC1オリゴマー化に対する効果を、たとえ有していたとしても、ほとんど有していなかったことの証明は、CQCモチーフへの依存性についての支持を提供した。MUC1/CQCは、細胞におけるMUC1-CDオリゴマー化の阻止においても有効であったが、MUC1/AQAはそうでなかった。従って、これらの所見は、MUC1/CQCペプチドが、MUC1オリゴマー化を破壊し、それにより、可能性として、ヒト乳癌細胞におけるMUC1の機能を破壊するために使用され得ることを示した。
【0121】
MUC1過剰発現癌細胞に対するMUC1/CQCペプチドの選択性。ポリD-Argのような細胞送達ドメインおよびそれらのコンジュゲートは、少なくとも大部分が、エンドサイトーシスにより細胞に進入し、次いで、それらの意図された標的に到達する必要がある(Fischer, 2007)。ZR-75-1乳癌細胞へのMUC1/CQCペプチドの進入は、容易に検出可能であり、少なくとも24時間持続した。意義深いことに、そしてMUC1の核へのターゲティングがオリゴマー化に依存すること(Leng et al., 2007)と一致して、MUC1/CQCペプチドの取り込みは、核におけるMUC1-Cレベルのダウンレギュレーションに関連していた。類似の結果がMCF-7乳癌細胞でも入手され、MUC1/CQCペプチドに対するこの応答が細胞特異的ではないことが示された。さらに、顕著に、MUC1/CQCへのこれらの細胞の曝露は、増殖停止および壊死の誘導に関連していたが、MUC1/AQAではそうでなかった。重要であるのは、MUC1/CQCがその意図された標的の発現に依存する機序により死滅を誘導するのか、それとも非特異的な細胞毒素であるのか、である。それに関して、ZR-75-1細胞におけるMUC1のサイレンシングは、MUC1/CQC細胞毒性効果を排除した。対照的に、非悪性MCF-10A乳房上皮細胞のMUC1/CQCペプチドへの曝露は、効果をほとんど有していなかった。これらの所見は、MUC1/CQCペプチドに対する感受性が、MUC1の過剰発現および悪性表現型に関連したMUC1の機能に依存することを示している。従って、MUC1/CQCペプチドは、MUC1を過剰発現する癌細胞に対して選択的なドミナントネガティブ活性を有すると考えられる。
【0122】
MUC1/CQCペプチドの抗腫瘍活性。細胞送達ドメインは、治療用カーゴを送達するために使用されている(Fischer, 2007)。しかしながら、これらの薬剤の場合と同様に、最も重要な問題は、MUC1/CQCペプチドが、抗腫瘍活性および許容される毒性プロファイルである有効な治療指数でインビボ送達され得るか否かである。この問題を解決するため、本発明者らは、21日間の10mg/kg/日および30mg/kg/日のMUC1/CQCペプチドの投与が、明白な急性毒性なしによく耐容されることを見出した。また、これらの用量での処理が、腫瘍増殖を排除するために有効であることも見出した。これらの結果は、抗腫瘍活性を有していなかった、21日間の50mg/kg/日のMUC1/AQAペプチドの投与とは対照的であった。さらに、多少驚くべきことに、21日間の30mg/kg/日での投薬の後、腫瘍再増殖の証拠はなかった。7日間の50mg/kg/日でのMUC1/CQCペプチドの投与は、腫瘍増殖が、処理後も長期にわたり阻止され続けることも証明した。これらの結果は、少なくとも部分的には、MUC1/CQCペプチドによる処理が、腫瘍壊死の誘導に関連しているという所見によって説明される。
【0123】
MUC1/CQC 7-merのインビトロ活性はMUC1/CQC 15-merと同等に強力である。これらの所見に基づき、MUC1/CQC 7-merも、インビボ腫瘍モデルにおいて抗腫瘍剤としての活性を有するであろうと期待される。
【0124】
本明細書に開示され特許請求の範囲に記載された組成物および/または方法は、全て、本開示を考慮すれば、過度の実験なしに作成され実行され得る。本発明の組成物および方法を好ましい態様に関して記載したが、本発明の概念、本旨、および範囲から逸脱することなく、本明細書に記載された組成物および/または方法、方法の工程、または方法の工程の順序に、変動が適用され得ることは、当業者には明白であろう。より具体的には、化学的にも生理学的にも関連しているある種の薬剤を、本明細書に記載された薬剤の代わりに用いても、同一または類似の結果が達成され得ることが、明白であろう。当業者に明白なそのような類似の代替物および修飾は、全て、添付の特許請求の範囲により定義されるような本発明の本旨、範囲、および概念に含まれると見なされる。
【0125】
VII. 参照
以下の参照は、本明細書に示されたものを補足する例示的な手順またはその他の詳細を提供する程度に、参照により具体的に本明細書に組み入れられる。
【図1A】
【図1B】
【図1C】
【図1D】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図3D】
【図4A】
【図4B】
【図4C】
【図4D】
【図4E】
【図5A】
【図5B】
【図5C】
【図6A】
【図6B】
【技術分野】
【0001】
本願は、2008年10月17日出願の米国仮出願第61/106,380号および2009年5月11日出願の米国仮出願第61/177,109号(両出願の全内容が参照により本明細書に組み入れられる)の恩典を主張する。
【0002】
1. 発明の領域
本発明は、細胞増殖の調節、より具体的には、癌細胞増殖の調節に関する。特に、MUC1細胞質ドメインの特定の領域に由来するMUC1ペプチドは、MUC1のオリゴマー化および核転移を阻害し、MUC1発現腫瘍細胞の阻害、さらには死滅を引き起こすことが示された。
【背景技術】
【0003】
2. 関連分野
ムチンは、上皮細胞により主に発現される、広範囲にO-グリコシル化されたタンパク質である。分泌型ムチンおよび膜結合型ムチンは、毒素、微生物によって誘導される傷害、および外部環境との境界面で起こるその他の型のストレスから、上皮細胞の頂端境界を防御する、物理的障壁を形成する。膜貫通型ムチン1(MUC1)は、細胞質ドメインを通して、細胞の内部へシグナルを伝達することもできる。MUC1は、ウニ精子タンパク質-エンテロキナーゼ-アグリン(sea urchin sperm protein-enterokinase-agrin/SEA)ドメイン(Duraisamy et al., 2006)の存在を除き、他の膜結合型ムチンとの配列類似性を有していない。それに関して、MUC1は、単一のポリペプチドとして翻訳され、次いで、SEAドメインで自己切断を受ける(Macao, 2006)。
【0004】
MUC1 N末端サブユニット(MUC1-N)は、O-グリコシル化により修飾されている高い割合のセリンおよびトレオニンを含む、可変の数のタンデムリピートを含有している(Siddiqui, 1988)。MUC1-Nは、細胞の多糖外被を超えて延び、膜貫通MUC1 C末端サブユニット(MUC1-C)との非共有結合性の結合を通して細胞表面に繋留されている(Merlo, 1989)。MUC1-Cは、58アミノ酸の細胞外ドメイン、28アミノ酸の膜貫通ドメイン、および多様なシグナル伝達分子と相互作用する72アミノ酸の細胞質ドメインからなる(Kufe, 2008)。防御的な物理的障壁へのMUC1-Nの脱落は、増殖および生存を付与する細胞内シグナルを伝達する推定受容体として、細胞表面にMUC1-Cを残す(Ramasamy et al., 2007;Ahmad et al., 2007)。
【0005】
入手可能な証拠は、ヒト癌が、腫瘍原性の促進においてMUC1の機能を活用することを示している。これに関して、形質転換および極性喪失により、MUC1は、乳房およびその他の上皮の癌において細胞表面全体に高レベルに発現される(Kufe, 1984)。他の研究は、MUC1の過剰発現が、少なくとも部分的にはβカテニンの安定化を通して(Huang et al., 2005)、足場非依存性の増殖および腫瘍原性を付与することを示した(Li et al., 2003a;Raina et al., 2004;Ren et al., 2004;Wei et al., 2005)。さらに、正常上皮細胞のための生存機能と一致して、MUC1の過剰発現は、ストレスにより誘導されるアポトーシスに対する癌細胞の抵抗性を付与する(Ren et al., 2004;Yin and Kufe, 2003;Yin et al., 2004;Yin et al., 2007)。
【0006】
頂端膜への制限の喪失は、表皮増殖因子受容体(EGFR)との複合体の形成、およびEGFRにより媒介されるシグナル伝達の同時活性化を可能にする(Li et al., 2001;Ramasamy et al., 2007)。癌細胞によるMUC1の過剰発現は、サイトゾルにおけるMUC1-Cの蓄積、ならびにこのサブユニットの核(Li et al., 2003b;Li et al., 2003c)およびミトコンドリア(Ren et al., 2004;Ren et al., 2006)へのターゲティングにも関連している。重要なことに、核へのターゲティング、および多様なエフェクターとの相互作用には、MUC1-Cのオリゴマー化が必要である(Leng et al., 2007)。例えば、MUC1-C細胞質ドメイン(MUC1-CD)は、c-Src(Li et al., 2001)、c-Abl(Raina et al., 2006)、プロテインキナーゼCδ(Ren et al., 2002)、およびグリコーゲン合成酵素キナーゼ3β(Li et al., 1998)の基質として機能し、Wnt経路エフェクターであるβカテニン(Yamamoto et al., 1997;Huang et al., 2005)およびp53腫瘍抑制因子(Wei et al., 2005)と直接相互作用する。従って、オリゴマー化は重要であると考えられるが、MUC1オリゴマー形成への干渉が、腫瘍細胞における有益な効果を有するであろうとの直接証拠は存在せず、ましてや、これが如何にして達成され得るかは未知である。
【発明の概要】
【0007】
従って、本発明によると、MUC1ペプチドを対象へ投与する工程を含む、対象におけるMUC1陽性腫瘍細胞を阻害する方法が提供され、ここでMUC1ペプチドは、少なくとも4個、多くとも20個の連続MUC1残基であり、かつ配列CQCを含み、CQCのアミノ末端システインは、そのNH2末端において、ネイティブMUC-1膜貫通配列に相当しなくてもよい少なくとも1個のアミノ酸残基によりカバーされている。ペプチドは、少なくとも5個の連続MUC1残基、少なくとも6個の連続MUC1残基、少なくとも7個の連続MUC1残基、少なくとも8個の連続MUC1残基を含み得、配列は、さらに具体的には、CQCR(SEQ ID NO:54)、CQCRR(SEQ ID NO:50)、CQCRRR(SEQ ID NO:51)、CQCRRRR(SEQ ID NO:52)、CQCRRK(SEQ ID NO:4)、またはCQCRRKN(SEQ ID NO:53)を含み得る。ペプチドは、MUC1の多くとも10個の連続残基、11個の連続残基、12個の連続残基、13個の連続残基、14個の連続残基、15個の連続残基、16個の連続残基、17個の連続残基、18個の連続残基、または19個の連続残基を含有し得る。ペプチドは、ポリD-R、ポリD-P、またはポリD-Kのような細胞送達ドメイン(cell delivery domain)と融合していてもよい。ペプチドは、全てLアミノ酸を含んでいてもよいし、全てDアミノ酸を含んでいてもよいし、またはLアミノ酸とDアミノ酸との混合物を含んでいてもよい。
【0008】
MUC1陽性腫瘍細胞は、前立腺癌細胞または乳癌細胞のような、癌細胞、白血病細胞、または骨髄腫細胞であり得る。投与する工程は、静脈内投与、動脈内投与、腫瘍内投与、皮下投与、局所(topical)投与、もしくは腹腔内投与、または局所(local)投与、局部投与、全身投与、もしくは連続投与を含み得る。阻害することは、腫瘍細胞の増殖停止、腫瘍細胞のアポトーシス、および/または腫瘍細胞を含む腫瘍組織の壊死の誘導を含み得る。対象はヒトであり得る。
【0009】
方法は、第二の抗癌治療を対象へ投与する工程をさらに含んでいてもよい。第二の抗癌治療は、手術、化学療法、放射線療法、ホルモン療法、毒素療法、免疫療法、および凍結療法であり得る。第二の抗癌治療は、ペプチドより前に適用されてもよいし、ペプチドより後に適用されてもよいし、またはペプチドと同時に適用されてもよい。方法は、ペプチドを投与する工程の前に、対象の腫瘍細胞におけるMUC1の発現を査定する工程をさらに含んでいてもよく、かつ/または、方法は、対象の腫瘍におけるMUC1の発現に対するペプチドの効果を査定する工程をさらに含んでいてもよい。
【0010】
ペプチドは0.1〜500mg/kg/日または10〜100mg/kg/日で投与され得る。ペプチドは、例えば、7日間、2週間、3週間、4週間、1ヶ月間、6週間、8週間、2ヶ月間、12週間、または3ヶ月間、毎日投与され得る。ペプチドは、例えば、2週間、3週間、4週間、6週間、8週間、10週間、または12週間、毎週投与され得る。
【0011】
別の態様において、(a)少なくとも4個、多くとも20個の連続MUC1残基であり、かつ配列CQCを含むMUC1ペプチドであって、CQCのアミノ末端システインが、そのNH2末端において、ネイティブMUC1膜貫通配列に相当しなくてもよい少なくとも1個のアミノ酸残基によりカバーされている、MUC1ペプチドと、(b)薬学的に許容される担体、緩衝剤、または希釈剤とを含む薬学的組成物が提供される。ペプチドは、少なくとも5個、6個、7個、または8個の連続MUC1残基であり得る。ペプチドは、MUC1の多くとも10個の連続残基、11個の連続残基、12個の連続残基、13個の連続残基、14個の連続残基、15個の連続残基、16個の連続残基、17個の連続残基、18個の連続残基、または19個の連続残基であり得る。ペプチドは、ポリD-R、ポリD-P、またはポリD-Kのような細胞送達ドメイン、またはHIV tat細胞導入ドメイン(cell transduction domain)のような細胞導入ドメインと融合していてもよい。ペプチドは、少なくとも8残基長であり得、少なくとも2個の非隣接残基が側鎖を介したブリッジを形成する。ブリッジは、リンカー、化学的に修飾された側鎖、または炭化水素ステープリングを含み得る。リンカーは、ペプチドのαヘリックス構造を安定化させる修飾を含み得る。緩衝剤には、β-メルカプトエタノール、グルタチオン、もしくはアスコルビン酸、またはペプチドをモノマー状態に維持するその他の還元剤が含まれ得る。
【0012】
さらに別の態様において、MUC1発現細胞をMUC1ペプチドと接触させる工程を含む、細胞におけるMUC1のオリゴマー化および核輸送を阻害する方法が提供され、ここでMUC1ペプチドは、少なくとも4個、多くとも20個の連続MUC1残基であり、かつ配列CQCを含み、CQCのアミノ末端システインは、そのNH2末端において、ネイティブMUC1膜貫通配列に相当しなくてもよい少なくとも1個のアミノ酸残基によりカバーされている。ペプチドは、少なくとも5個の連続MUC1残基、少なくとも6個の連続MUC1残基、少なくとも7個の連続MUC1残基、少なくとも8個の連続MUC1残基を含み得、配列は、より具体的には、CQCR、CQCRR、CQCRRR、CQCRRRR、CQCRRK、またはCQCRRKNを含み得る。ペプチドは、MUC1の多くとも10個の連続残基、11個の連続残基、12個の連続残基、13個の連続残基、14個の連続残基、15個の連続残基、16個の連続残基、17個の連続残基、18個の連続残基、または19個の連続残基を含有し得る。ペプチドは、ポリD-R、ポリD-P、またはポリD-Kのような細胞送達ドメインと融合していてもよい。ペプチドは、全てLアミノ酸を含んでいてもよいし、全てDアミノ酸を含んでいてもよいし、またはLアミノ酸とDアミノ酸との混合物を含んでいてもよい。
【0013】
MUC1発現細胞は、前立腺癌細胞または乳癌細胞のような、癌細胞、白血病細胞、または骨髄腫細胞のような、腫瘍細胞であり得る。腫瘍細胞は、生存している対象に存在していてもよい。生存している対象はヒト対象であり得る。
【0014】
さらに別の態様において、MUC1ペプチドの構造およびMUC-1結合能を模倣するペプチド模倣体が提供され、ここでMUC1ペプチドは、少なくとも4個、多くとも20個の連続MUC1残基であり、かつ配列CQCを含み、CQCのアミノ末端システインは、そのNH2末端において、ネイティブMUC1膜貫通配列に相当しなくてもよい少なくとも1個のアミノ酸残基によりカバーされている。さらなる態様は、少なくとも3個、多くとも20個の連続MUC1残基であり、かつ配列CQCを含むMUC1ペプチドを提供し、ここで該ペプチドの全アミノ酸残基はD-アミノ酸である。ペプチドは、配列KRRCQC(SEQ ID NO:49)をさらに含み得る。
【0015】
癌細胞は、例えば、乳癌、肺癌、結腸癌、膵臓癌、腎臓癌、胃癌、肝臓癌、骨癌、血液系癌、神経組織癌、黒色腫、卵巣癌、精巣癌、前立腺癌、子宮頸癌、膣癌、または膀胱癌の細胞であり得る。
【0016】
癌細胞を死滅させる方法も、本発明に包含される。方法は、上記の方法を実施する前、後、または同時に、一つまたは複数の付加的な治療に対象を曝す工程を含んでいてもよい。治療は、例えば、一つまたは複数の型の電離放射線、および/または一つもしくは複数の化学療法剤であり得る。一つまたは複数の化学療法剤は、例えば、シスプラチン、カルボプラチン、プロカルバジン、メクロレタミン、シクロホスファミド、カンプトテシン、イホスファミド、メルファラン、クロラムブシル、ビスルファン(bisulfan)、ニトロソウレア、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、ドキソルビシン、ブレオマイシン、プリコマイシン(plicomycin)、マイトマイシン、エトポシド、ベラムピル(verampil)、ポドフィロトキシン、タモキシフェン、タキソール、トランスプラチナ(transplatinum)、5-フルオロウラシル、ビンクリスチン、ビンブラスチン、メトトレキサート、または上記のいずれかのアナログであり得る。ホルモン療法、免疫療法、毒素療法、凍結療法、および手術も、組み合わせ治療として企図される。
【0017】
本明細書に記載された任意の方法または組成物は、本明細書に記載された他の任意の方法または組成物に関して実行され得ることが企図される。
【0018】
特許請求の範囲および/または本明細書において、「含む」という用語と共に使用される場合、「(a)」または「(an)」という単語の使用は、「一つ」を意味するかもしれないが、、それは「一つまたは複数の」、「少なくとも一つの」、および「一つまたは一つより多い」の意味とも一致している。「約」という単語は、明示された数のプラスマイナス5%を意味する。
【0019】
本発明の他の目的、特色、および利点は、以下の詳細な説明から明白になるであろう。しかしながら、本発明の本旨および範囲に含まれる様々な変化および修飾が、この詳細な説明から当業者には明白になるため、詳細な説明および具体例は、本発明の特定の態様を示すが、例示として与えられるに過ぎないことが、理解されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0020】
以下の図面は、本明細書の一部を形成し、本発明のある種の局面をさらに示すために含まれる。本発明は、詳細と組み合わせて、これらの図面のうちの一つまたは複数を参照することにより、よりよく理解され得る。
【0021】
【図1A−D】MUC1/CQCペプチドはMUC1のオリゴマー化を阻止する。(図1A)MUC1-Cサブユニットの模式図、およびMUC1-CDの72アミノ酸配列が示される。N末端15アミノ酸(影付きの配列)MUC1/CQCペプチド、および変異型MUC1/AQAペプチドを、ポリdArg伝達ドメインを用いて合成した。(図1B)His-MUC1-CD(1.4mg/ml)を、BIAcoreのセンサーチップ上に固定化した。MUC1/CQCを10μMでチップ上に注入した。生結合データをBIAevaluationソフトウェアバージョン3.0により分析し、1:1 Languir結合モデルに適合させた。(図1C)精製されたHis-MUC1-CD(1.5mg/ml)を、室温で、1時間、PBS、200μM MUC1/CQC、または200μM MUC1/AQAと共にインキュベートした。タンパク質を非還元SDS-ポリアクリルアミドゲルで分離し、抗MUC1-Cによるイムノブロッティングにより分析した。(図1D)293細胞を、空ベクターまたはGFP-MUC1-CDおよびFlag-MUC1-CDを発現するよう一過性トランスフェクトした。トランスフェクションの48時間後、細胞を、3日間、5μM MUC1/CQCまたはMUC1/AQAにより処理した。次いで、細胞を抗MUC1-Cによるイムノブロッティングのため採集した(左パネル)。全細胞溶解物を抗Flagによっても沈殿させ、沈殿物を、示された抗体によりイムノブロットした(右パネル)。
【図2A−C】MUC1/CQCペプチドはMUC1-Cの核移行を阻止する。(図2A)ZR-75-1細胞を、示された時間、5μM FITC標識MUC1/CQCペプチドと共にインキュベートし、次いで、フローサイトメトリーにより分析した。平均蛍光指数(MFI)が各パネルに含まれている。(図2B〜C)ZR-75-1細胞(図2B)およびMCF-7細胞(図2C)を、3日間、5μM MUC1/CQCペプチドまたはMUC1/AQAペプチドの存在下でインキュベートした。全細胞溶解物(WCL)(左パネル)および核溶解物(右パネル)を、示された抗体によりイムノブロットした。
【図3A−D】MUC1/CQCペプチドはS期停止および壊死を誘導する。ZR-75-1細胞(図2A〜B)およびMCF-7細胞(図2C〜D)を、3日間および4日間、5μM MUC1/CQCまたはMUC1/AQAにより処理した。細胞を固定し、フローサイトメトリーにより細胞周期分布について分析した(図2Aおよび2C)。G1期、S期、およびG2/M期の細胞の割合が、パネルに含まれている。細胞をヨウ化プロピジウムによっても染色し、壊死についてフローサイトメトリーにより分析した(図2Bおよび2D)。壊死細胞の割合がパネルに含まれている。
【図4A−E】MUC1発現乳癌細胞に対するMUC1/CQCの選択性。(図4A)ZR-75-1細胞に、空レンチウイルス(ベクター)またはMUC1 siRNAを発現するものを安定的に感染させた。感染細胞についての溶解物を、示された抗体によりイムノブロットした。(図4B)ZR-75-1/ベクター細胞を未処理のままにし(菱形)、ZR-75-1/ベクター細胞(四角)およびZR-75-1/MUC1siRNA細胞(三角)を、示された時間、5μM MUC1/CQCペプチドにより処理した。生細胞数をトリパンブルー排除により決定した。(図4C)293細胞を未処理のままにし(菱形)、示された時間、5μM MUC1/CQC(四角)またはMUC1/AQA(三角)により処理した。生細胞数をトリパンブルー排除により決定した。(図4D)MCF-10A細胞を未処理のままにし(左パネル)、5μM MUC1/CQC(中央パネル)またはMUC1/AQA(右パネル)により処理した。3日目、細胞を細胞周期分布について分析した。(図4E)MCF-10A細胞を未処理のままにし(菱形)、示された時間、5μM MUC1/CQC(四角)またはMUC1/AQA(三角)により処理した。生細胞数をトリパンブルー排除により決定した。
【図5A−C】MUC1/CQCペプチドはZR-75-1乳房腫瘍異種移植片の増殖を阻止する。(図5A)4〜6週齢の雌Balb-c nu/nuマウスに、17-β-エストラジオールプラグを移植した。24時間後、(マトリゲルに埋め込まれた)ZR-75-1乳癌細胞を、側腹部に皮下注射した。腫瘍がおよそ150mm3になった時点で、マウスを群へとペアマッチングし、21日間、毎日、PBS(媒体対照;黒四角)、50mg/kg MUC1/AQAペプチド(対照ペプチド;白四角)、または10mg/kg MUC1/CQCペプチド(黒三角)を腹腔内注射した。もう一つの群は、6日間、50mg/kg MUC1/CQCペプチドにより毎日処理した(白三角)。マウスを週2回計量し、腫瘍測定を4日毎に実施した。(図5Bおよび5C)24日目(アスタリスク)、対照群、および50mg/kg/日×6日により処理された群から採集された腫瘍を、H&E(図5B)およびMUC1に対する抗体(図5C)により染色した。
【図6A−B】ZR-75-1腫瘍に対するMUC1/CQCペプチドの長期的な効果。(図6A)図5 Aの説明に記載されたようにして、マウスにZR-75-1細胞を注射した。腫瘍がおよそ275mm3になった時点で、マウスを群へとペアマッチングし、21日間、毎日、PBS(媒体対照;白四角)または30mg/kg MUC1/CQCペプチド(黒四角)を腹腔内注射した。対照マウスは、腫瘍がおよそ1200mm3に到達した32日目に屠殺した。処理されたマウスは、52日目までモニタリングし、52日目に、腫瘍をH&E染色のために採集した(図6B)。
【図7】MUC1 7-merは前立腺癌を阻害する。DU145前立腺癌細胞を、4日間、5μM CQC short(7-mer)ペプチドまたは 5μM CQC long(15-mer)ペプチドにより処理した。細胞増殖をMTTアッセイにより測定した。データは、未処理の細胞(対照)と比較した増殖阻害率を表す。
【図8】MUC1-CDステープルドペプチドの配列。
【図9A】H1650非小細胞肺癌細胞の増殖に対するMUC1-CDステープルドペプチドの効果。MUC1機能の阻害に対する感受性を査定するために、H1650 NSCLC細胞を、7日間、1μMおよび5μM MUC1 CQCステープルドペプチド(GO-200-1B)により処理した。5μM GO-200-1BによるH1650細胞の処理は、増殖の有意な阻害、次いで、細胞数の減少に関連していた。
【図9B】細胞増殖に対するGO-200-2Bの効果。H-1975非小細胞肺癌細胞株を、100単位/mLペニシリン、100μg/mlストレプトマイシン、および2mmol/L L-グルタミンと共に10%熱不活化ウシ胎仔血清を含むDMEMで培養した。細胞を、処理の1日前に再播種した。細胞を、3日間、5μM GO-200-2Bにより処理し、細胞生存能をトリパンブルー排除により決定した。
【図10】ホルモン依存性乳癌細胞の増殖に対する異なるMUC1-CD CQC領域ペプチドの効果。異なるMUC1-CD CQC領域含有ペプチドへの曝露が、増殖に影響を与えるか否かを決定するため、ZR-75-1乳癌細胞を、4日間、5μMの異なるペプチドにより処理し、細胞増殖についてモニタリングした。意義深いことに、未処理にしておかれた細胞と比較して、実質的な増殖阻害が存在した。
【図11】非小細胞癌細胞の増殖に対する異なるMUC1-CD CQC領域ペプチドの効果。A549非小細胞肺癌細胞を、7日間、5μM GO-203、GO-203-2、またはGO-203cycにより処理した。7日目の生細胞数をトリパンブルー排除により決定し、未処理細胞の細胞増殖を比較することにより増殖阻害率を計算した。
【図12】H1975非小細胞癌細胞の増殖に対する異なるMUC1-CD CQC領域ペプチドの効果。H1975非小細胞肺癌細胞を、6日間、5μMの異なるMUC1-CD CQC領域ペプチドにより処理した。6日目の生細胞数をトリパンブルー排除により決定した。結果は、5μMの異なるペプチドによるH1975細胞の処理が、増殖の有意な阻害に関連していたことを証明している。
【図13】三重陰性乳癌細胞の増殖に対する異なるMUC1-CD CQC領域ペプチドの効果。MDA-MB-231三重陰性乳癌細胞を、6日間、5μMの異なるMUC1-CD CQC領域ペプチドにより処理した。6日目の生細胞数をトリパンブルー排除により決定した。結果は、異なるペプチドによるMDA-MB-231細胞の処理が、増殖の有意な阻害に関連していたことを証明している。
【図14】ZR-75-1乳癌細胞の増殖に対するより短いGO-203ペプチドの効果。ヒトZR-75-1乳癌細胞を、10%熱不活化ウシ胎仔血清、100単位/mlペニシリン、100μg/mlストレプトマイシンが補足されたRPMI1640で培養した。細胞を、4日間、毎日、5μMの異なるペプチドにより処理し、細胞生存能をトリパンブルー排除により決定した。GO-210とは対照的に、4日間、毎日の5μM GO-203(SEQ ID NO:53)、GO-207(SEQ ID NO:4)、GO-208(SEQ ID NO:50)、およびGO-209(SEQ ID NO:54)によるZR-75-1乳癌細胞の処理は、増殖の有意な阻害に関連していた。
【図15A−D】異なる抗癌薬と組み合わせられたGO-203の効果。ZR-75-1細胞を、示された濃度の単独のシスプラチン(図15A)、ドキソルビシン(図15B)、rh-TNF-α(図15C)、およびタキソール(図15D)、ならびにそれらとGO-203との組み合わせに曝した。処理は、シスプラチン、ドキソルビシン、およびタキソールについては連続的であり、細胞を、これらの薬剤に72時間曝した後、5μMのGO-203により72時間処理した。rh-TNFを用いた研究においては、細胞を、異なる濃度の単独のrh-TNF、および5μMのGO-203との組み合わせに、72時間、同時に曝した。MTSアッセイを細胞生存を決定するために使用した。
【図16】GO-203は抗癌剤と相加的または相乗的である。プロットは、異なる効果レベル(影響を受けた画分(fraction affected))に対する組み合わせ指数(combination indexes)を示す。効果レベルは、抗癌薬とGO-203との示された組み合わせにより細胞を処理することにより入手された。
【発明を実施するための形態】
【0022】
例示的な態様の説明
I. 本発明
MUC1は、癌における役割について、本発明者ら他により広範囲に研究されている。上述のように、ヒトMUC1は、単一のポリペプチドとして翻訳され、小胞体においてN末端サブユニットおよびC末端サブユニットへと切断されるヘテロ二量体糖タンパク質である(Ligtenberg et al., 1992;Macao et al., 2006;Levitin et al., 2005)。大部分のヒト癌に見出されるようなMUC1の異常な過剰発現(Kufe et al., 1984)は、足場非依存性の増殖および腫瘍原性を付与する(Li et al., 2003a;Huang et al., 2003;Schroeder et al., 2004;Huang et al., 2005)。他の研究は、MUC1の過剰発現が、酸化ストレスおよび遺伝毒性抗癌剤により誘導されるアポトーシスに対する抵抗性を付与することを証明している(Yin and Kufe, 2003;Ren et al., 2004;Raina et al., 2004;Yin et al., 2004;Raina et al., 2006;Yin et al., 2007)。
【0023】
繋留型ムチンおよび分泌型ムチンのファミリーは、上皮細胞表面の防護壁の提供において機能する。上皮層に対する傷害により、隣接細胞間の密着結合が破壊され、細胞がヘレグリンにより誘導される修復プログラムを開始するにつれ、極性が失われる(Vermeer et al., 2003)。MUC1-Nは、細胞表面から脱落し(Abe and Kufe, 1989)、細胞の内部への環境ストレスシグナルの伝達物質として機能するようMUC1-Cを残す。これに関して、MUC1-Cは、ErbB受容体ファミリーのメンバーと細胞表面複合体を形成し、MUC1-Cは、ヘレグリン刺激に応答して核へとターゲティングされる(Li et al., 2001;Li et al., 2003c)。MUC1-Cは、MUC1細胞質ドメイン(CD)とカテニンファミリーのメンバーとの間の直接相互作用を通して、ErbB受容体およびWntのシグナル伝達経路の統合においても機能する(Huang et al., 2005;Li et al., 2003c;Yamamoto et al., 1997;Li et al., 1998;Li et al., 2001;Li and Kufe, 2001)。他の研究は、MUC1-CDが、グリコーゲン合成酵素キナーゼ3β、c-Src、プロテインキナーゼCδ、およびc-Ablによりリン酸化されることを証明している(Raina et al., 2006;Li et al., 1998;Li et al., 2001;Ren et al., 2002)。
【0024】
MUC1-Cの核へのターゲティングを担う機序は不明である。古典的核移行シグナル(NLS)を含有しているタンパク質は、まずインポーチンαと結合し、次いで、インポーチンβと結合することにより、核へ輸入される(Weis, 2003)。カーゴ-インポーチンα/β複合体は、ヌクレオポリンと結合することにより核膜孔へドッキングし、Ran GTPaseに依存する機序により孔を通して輸送される。古典的NLSは、4〜5個の塩基性アミノ酸の単一のクラスタを含む単極性(monopartite)または10〜12アミノ酸のリンカーにより分離された塩基性アミノ酸の2個のクラスタを含む二極性(bipartite)である。MUC1-CDは、原型の単極性NLSに一致しないRRKモチーフを含有している(Hodel et al., 2002)。しかしながら、非古典的NLSを含有しているある種のタンパク質は、インポーチンβと直接結合することにより、核膜孔を通して輸送される(Kau et al., 2004)。インポーチンβは、核膜孔複合体の細胞質面および核質面の両方に位置しているNup62(Percipalle et al., 1997)を含む、いくつかのヌクレオポリンと会合する(Ryan and Wente, 2000)。他の研究は、βカテニンがインポーチンおよびヌクレオポリンに非依存性の機序により核へ輸入されることを示した(Suh and Gumbiner, 2003)。
【0025】
2006年、本発明者らは、MUC1がNup62との結合を含む機序により核へ輸入されると報告した。本発明者らは、MUC1がMUC1細胞質ドメインのCQCモチーフを通してオリゴマーを形成すること、およびMUC1オリゴマー化が核輸入に必要であることも証明した。本発明において、本発明者らは、CQCモチーフがオリゴマー形成において果たす役割のさらなる理解を包含するよう、この研究を拡張した。本発明者らは、この領域に相当する短いペプチドが、MUC1オリゴマー形成を破壊し、腫瘍細胞の核への輸送を防止することができることも証明した。これらのペプチドは、腫瘍細胞増殖を阻害することができ、さらに、そのような細胞のアポトーシスを誘導し、腫瘍組織の壊死すら誘導することができる。本発明のこれらおよびその他の局面を、以下に詳細に記載する。
【0026】
II. MUC1
A. 構造
MUC1は、正常分泌上皮細胞の頂端境界に発現されるムチン型糖タンパク質である(Kufe et al., 1984)。MUC1は、単一のポリペプチドとして合成され、小胞体において前駆物質が二つのサブユニットへと切断された後、ヘテロ二量体を形成する(Ligtenberg et al., 1992)。切断は、自己触媒過程により媒介され得る(Levitan et al., 2005)。>250kDaのMUC1 N末端(MUC1 N-ter、MUC1-N)サブユニットは、高度に保存された変動を含み不完全であり、O結合型グリカンにより修飾されている可変の数の20アミノ酸タンデムリピートを含有している(Gendler et al., 1988;Siddiqui et al., 1988)。MUC1-Nは、58アミノ酸の細胞外領域、28アミノ酸の膜貫通ドメイン、および72アミノ酸の細胞質ドメイン(CD;SEQ ID NO:1)を含む、およそ23kDaのC末端サブユニット(MUC1 C-ter、MUC1-C)との二量体化により細胞表面に繋留される(Merlo et al., 1989)。ヒトMUC1配列を以下に示す:
太字の配列はCDを示し、下線部は実施例に記載されるオリゴマー阻害ペプチド(SEQ ID NO:3)である。
【0027】
正常上皮の癌への形質転換により、MUC1は、サイトゾルおよび細胞膜全体に異常に過剰発現される(Kufe et al., 1984;Perey et al., 1992)。細胞膜と会合したMUC1は、クラスリンにより媒介されるエンドサイトーシスによりエンドソームへとターゲティングされる(Kinlough et al., 2004)。さらに、MUC1-Cは、核(Baldus et al., 2004;Huang et al., 2003;Li et al., 2003a;Li et al., 2003b;Li et al., 2003c;Wei et al., 2005;Wen et al., 2003)およびミトコンドリア(Ren et al., 2004)へとターゲティングされるが、MUC1-Nはそうでない。
【0028】
B. 機能
MUC1は、ErbB受容体ファミリーのメンバー(Li et al., 2001b;Li et al., 2003c;Schroeder et al., 2001)およびWntエフェクターであるβカテニン(Yamamoto et al., 1997)と相互作用する。表皮増殖因子受容体およびc-Srcは、Y-46上のMUC1細胞質ドメイン(MUC1-CD)をリン酸化し、それにより、MUC1とβカテニンとの結合を増加させる(Li et al., 2001a;Li et al., 2001b)。MUC1とβカテニンとの結合は、グリコーゲン合成酵素キナーゼ3βおよびプロテインキナーゼCδによっても調節される(Li et al., 1998;Ren et al., 2002)。MUC1は核内にβカテニンと共存し(Baldus et al., 2004;Li et al., 2003a;Li et al., 2003c;Wen et al., 2003)、Wnt標的遺伝子の転写を同時活性化する(Huang et al., 2003)。他の研究は、MUC1がp53とも直接結合し、p53標的遺伝子の転写を調節することを示した(Wei et al., 2005)。顕著に、MUC1の過剰発現は、足場非依存性の増殖および腫瘍原性を誘導するのに十分である(Huang et al., 2003;Li et al., 2003b;Ren et al., 2002;Schroeder et al., 2004)。
【0029】
大部分のミトコンドリアタンパク質は核内にコードされ、ミトコンドリア外膜および内膜にある移行複合体によりミトコンドリアへ輸入される。ある種のミトコンドリアタンパク質は、N末端ミトコンドリアターゲティング配列を含有しており、ミトコンドリア外膜にあるTom20と相互作用する(Truscott et al., 2003)。内部ターゲティング配列を含有し、Tom70受容体と相互作用するミトコンドリアタンパク質もある(Truscott et al., 2003)。最近の研究は、内部ターゲティング配列を含まないミトコンドリアタンパク質が、HSP70とHSP90との複合体により、Tom70へ送達されることを示した(Young et al., 2003)。
【0030】
III. MUC1ペプチド
A. 構造
本発明は、様々なMUC1ペプチドの設計、作製、および使用を企図する。これらのペプチドの構造的特色は、以下の通りである。第一に、該ペプチドはMUC1の多くとも20個の連続残基を有する。従って、「多くとも20個の連続残基を有するペプチド」という用語は、「含む」という用語を含む場合ですら、それより多い数の連続MUC1残基を含むとは理解され得ない。第二に、前記ペプチドは、CQCモチーフを含有し、CQCRモチーフ、CQCRRモチーフ、およびCQCRRKモチーフも含むことができる。従って、前記ペプチドは、少なくとも、MUC1-Cドメインのこれらの3個の連続残基を有するであろう。第3に、前記ペプチドは、CQCモチーフ内の最初のC残基のNH2末端側に付着した少なくとも1個のアミノ酸残基を有し、従って、最初のC残基は、それに付着した少なくとも1個のアミノ酸によって「カバー」されているであろう。この残基は、MUC1にネイティブ(即ち、膜貫通ドメイン由来)であってもよいし、ランダムに選択されてもよいし(20種の天然に存在するアミノ酸もしくはそれらのアナログのいずれか)、または別のペプチド配列の一部(例えば、精製のためのタグ配列、安定化配列、もしくは細胞送達ドメイン)であってもよい。
【0031】
一般に、ペプチドは、MUC1の、50残基以下であり、また、多くとも20個の連続残基を含むであろう。全長は、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、または50残基であり得る。4〜50残基、5〜50残基、6〜50残基、7〜50残基、7〜25残基、4〜20残基、5〜20残基、6〜20残基、7〜20残基、および7〜15残基のペプチド長の範囲が企図される。連続MUC1残基の数は、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、または20であり得る。4〜20残基、5〜20残基、6〜20残基、7〜20残基、4〜15残基、5〜15残基、6〜15残基、または7〜15残基の連続残基の範囲が企図される。
【0032】
本発明は、L-配置アミノ酸、D-配置アミノ酸、またはそれらの混合物を利用し得る。L-アミノ酸は、タンパク質に見出されるアミノ酸の大部分を表し、D-アミノ酸は、イモガイ(cone snails)のような外来の海生生物により産生されるいくつかのタンパク質に見出される。それらは、細菌のペプチドグリカン細胞壁の豊富な成分でもある。D-セリンは、脳内で神経伝達物質として作用し得る。アミノ酸配置についてのLおよびDの慣習は、アミノ酸自体の光学活性ではなく、そのアミノ酸が理論上合成され得るグリセルアルデヒドの異性体の光学活性をさす(D-グリセルアルデヒドが右旋性であり;L-グリセルアルデヒドが左旋性である)。
【0033】
「全D」ペプチドの一つの形態はレトロインバーソ(retro-inverso)ペプチドである。天然に存在するポリペプチドのレトロインバーソ修飾は、ネイティブペプチド配列に対して逆方向の順序の、対応するL-アミノ酸のものと反対のα炭素立体化学を有するアミノ酸、即ち、Dアミノ酸の合成集合体を含む。従って、レトロインバーソアナログは、ネイティブペプチド配列と同様の側鎖のトポロジーをおよそ維持しつつ、逆転した末端、および逆転したペプチド結合の方向(CO-NHではなくNH-CO)を有している。参照により本明細書に組み入れられる米国特許第6,261,569号を参照のこと。
【0034】
上述のように、本発明は、細胞送達ドメイン(細胞送達ベクターまたは細胞導入ドメインとも呼ばれる)の融合または接合を企図する。そのようなドメインは当技術分野において周知であり、複数のリジン残基およびアルギニン残基をしばしば含有している、短い両親媒性または陽イオン性のペプチドおよびペプチド誘導体として一般に特徴決定される(Fischer, 2007)。特に興味深いのは、ポリD-Arg配列およびポリD-Lys配列(例えば、8残基長の右旋性残基)であり、その他は下記表1に示される。
【0035】
【表1】
【0036】
また、上述のように、インビボでのペプチドの残存を容易にするため、アミノ末端および/またはカルボキシル末端へのブロッキング剤の付加により、インビボ使用のために修飾されたペプチドが企図される。これは、ペプチド末端が細胞取り込み前にプロテアーゼにより分解される傾向があるような情況において有用であり得る。そのようなブロッキング剤には、非限定的に、投与されるペプチドのアミノ末端および/またはカルボキシル末端の残基へ付着させられ得る、付加的な関連ペプチド配列または非関連ペプチド配列が含まれ得る。これらの薬剤は、当技術分野において周知の方法により、ペプチドの合成の間に化学的に付加させられてもよいし、または組換えDNA技術により付加させられてもよい。あるいは、当技術分野において公知のピログルタミン酸またはその他の分子のようなブロッキング剤を、アミノ末端および/またはカルボキシル末端の残基へ付着させてもよい。
【0037】
B. 合成
固相合成技術(Merrifield, 1963)を使用して、ペプチドを作製することは有利であろう。その他のペプチド合成技術は、当業者に周知である(Bodanszky et al., 1976;Peptide Synthesis, 1985;Solid Phase Peptide Synthelia, 1984)。そのような合成において使用するための適切な保護基は、上記のテキスト、およびProtective Groups in Organic Chemistry, 1973に見出されるであろう。これらの合成法は、一つまたは複数のアミノ酸残基または適当な保護されたアミノ酸残基の、成長中のペプチド鎖への連続的な付加を含む。通常、最初のアミノ酸残基のアミノ基またはカルボキシル基のいずれかを、適当な、選択的に除去可能な保護基により保護する。リジンのような反応性側鎖を含有しているアミノ酸のためには、異なる選択的に除去可能な保護基が利用される。
【0038】
固相合成を例として使用すると、保護または誘導体化されたアミノ酸を、その保護されていないカルボキシル基またはアミノ基を通して、不活性の固体支持体へ付着させる。次いで、アミノ基またはカルボキシル基の保護基を選択的に除去し、適切に保護された相補的な(アミノまたはカルボキシル)基を有する配列内の次のアミノ酸を混和し、固体支持体へ既に付着している残基と反応させる。次いで、この新たに付加されたアミノ酸残基からアミノ基またはカルボキシル基の保護基を除去し、次いで、(適当に保護された)次のアミノ酸を付加させる(以下同様)。全ての所望のアミノ酸が適切な配列で連結された後、残りの末端および側鎖の保護基(および固体支持体)を、連続的にまたは同時に除去し、最終的なペプチドを得る。本発明のペプチドは、好ましくは、ベンジル化またはメチルベンジル化されたアミノ酸を欠く。そのような保護基モエティは合成の過程で使用されてもよいが、ペプチドが使用される前に除去される。他の箇所に記載されるように、コンフォメーションを制約するための分子内結合を形成するため、付加的な反応が必要であるかもしれない。
【0039】
使用され得る20種の標準アミノ酸に加えて、莫大な数の「非標準」アミノ酸が存在する。これらのうちの2種は、遺伝暗号によって指定され得るが、タンパク質には極めて稀である。セレノシステインは、通常は終止コドンであるUGAコドンにおいて、いくつかのタンパク質に組み入れられる。ピロリジンは、いくつかのメタン生成古細菌により、メタンを産生するために使用する酵素において使用されている。それはコドンUAGによりコードされる。タンパク質に見出されない非標準アミノ酸の例には、ランチオニン、2-アミノイソ酪酸、デヒドロアラニン、および神経伝達物質γアミノ酪酸が含まれる。非標準アミノ酸は、しばしば、標準アミノ酸のための代謝経路に中間体として存在する。例えば、オルニチンおよびシトルリンは、アミノ酸異化の一部である尿素回路に存在する。非標準アミノ酸は、通常、標準アミノ酸への修飾を通して形成される。例えば、ホモシステインは、含硫基移動経路を通して、または中間代謝物S-アデノシルメチオニンを介したメチオニンの脱メチルにより形成され、ヒドロキシプロリンはプロリンの翻訳後修飾により作成される。
【0040】
C. リンカー
リンカーまたは架橋剤は、MUC1ペプチドを他のタンパク質性配列と融合させるために使用され得る。二官能性架橋試薬は、アフィニティマトリックスの調製、多様な構造の修飾および安定化、リガンドおよび受容体結合部位の同定、ならびに構造研究を含む多様な目的のために広範囲に使用されている。2個の同一の官能基を保持するホモ二官能性試薬は、同一の高分子または高分子のサブユニットおよび異なる高分子または高分子のサブユニットの間の架橋の誘導、ならびにポリペプチドリガンドの特定の結合部位への連結において高度に効率的であることが判明した。ヘテロ二官能性試薬は、2個の異なる官能基を含有している。2個の異なる官能基の差動的な反応性を活用することにより、架橋は、選択的かつ連続的に制御され得る。二官能性架橋試薬は、官能基、例えば、アミノ、スルフヒドリル、グアニジノ、インドール、またはカルボキシルに特異的な基の特異性によって分類され得る。これらのうち、遊離アミノ基に対する試薬は、商業的入手可溶性、合成の容易さ、およびそれらが適用され得る温和な反応条件のため、特に人気になっている。二官能性架橋試薬の大多数は、一級アミン反応基およびチオール反応基を含有している。
【0041】
別の例において、ヘテロ二官能性架橋試薬および架橋試薬を使用する方法は、参照によりその全体が具体的に本明細書に組み入れられる米国特許第5,889,155号に記載されている。架橋試薬は、求核性のヒドラジド残基を求電子性のマレイミド残基と化合させ、一例において、アルデヒドの遊離チオールとのカップリングを可能にする。架橋試薬は、様々な官能基を架橋するために修飾され得、従って、ポリペプチドを架橋するために有用である。特定のペプチドが、そのネイティブ配列において所定の架橋試薬を受け入れる残基を含有していない場合には、遺伝学的なまたは合成による一次配列内の保存的アミノ酸変化が利用され得る。
【0042】
治療薬としてのペプチドに関するリンカーの別の用途は、Aileron Therapeuticsのいわゆる「ステープルドペプチド(Stapled Peptide)」技術である。ペプチドを「ステープリングする」ための一般的なアプローチは、ペプチド内の2個のキー残基をアミノ酸側鎖を介したリンカーの付着により修飾するというものである。合成された後、リンカーは触媒により接続され、それにより、ペプチドをネイティブのαヘリックス形へと物理的に制約するブリッジを作出する。標的分子と相互作用するために必要とされるネイティブ構造の保持を補助することに加えて、このコンフォメーションは、ペプチダーゼに対する安定性および細胞透過特性を提供する。この技術を記載している米国特許第7,192,713号および第7,183,059号は、参照により本明細書に組み入れられる。Schafmeister et al., Journal of the American Chemical Society, 2000. 122(24): p. 5891-5892も参照のこと。
【0043】
D. 設計、バリアント、およびアナログ
本発明は、配列CQCを含むペプチドに焦点を当てる。MUC1オリゴマー形成におけるこのキー構造を同定したため、本発明者らは、CQC配列のバリアントが利用され得ることも企図する。例えば、CQC配列の構造的制約を満たすある種の非天然アミノ酸が、生物学的機能の損失なしに、もしかすると生物学的機能を改善しつつ、置換され得る。さらに、本発明者らは、本発明のペプチドまたはポリペプチドのキー部分を模倣する、構造的に類似している化合物が、製剤化され得ることも企図する。ペプチド模倣体とも呼ばれるそのような化合物は、本発明のペプチドと同様に使用され得、従って、それらも機能的等価物である。
【0044】
タンパク質の二次構造および三次構造の要素を模倣するある種の模倣体が、Johnson et al. (1993)に記載されている。ペプチド模倣体の使用の基礎をなす原理は、タンパク質のペプチド骨格が、主として、抗体および/または抗原の相互作用のような分子的相互作用を容易にするよう、アミノ酸側鎖を方向付けるよう存在するということである。従って、ペプチド模倣体は、天然分子に類似した分子的相互作用を可能にするために設計される。
【0045】
特定の構造を生成する方法は、当技術分野において開示されている。例えば、αヘリックス模倣体は、米国特許第5,446,128号;第5,710,245号;第5,840,833号;および第5,859,184号に開示されている。コンフォメーションが制約されたβターンおよびβバルジを生成する方法は、例えば、米国特許第5,440,013号;第5,618,914号;および第5,670,155号に記載されている。他の型の模倣ターンには、逆向ターンおよびγターンが含まれる。逆向ターン模倣体は米国特許第5,475,085号および第5,929,237号に開示されており、γターン模倣体は米国特許第5,672,681号および第5,674,976号に記載されている。
【0046】
本明細書において使用されるように、「分子モデリング」とは、三次元的な構造的情報およびタンパク質間相互作用モデルに基づく、タンパク質間の物理的相互作用の構造および機能の定量的かつ/または定性的な分析を意味する。これには、従来の数値に基づく分子動力学およびエネルギー最小化モデル、相互作用コンピュータグラフィックモデル、修飾された分子力学モデル、ディスタンスジオメトリー、およびその他の構造に基づく制約モデルが含まれる。分子モデリングは、典型的には、コンピュータを使用して実施され、公知の方法を使用して、さらに最適化され得る。X線結晶学データを使用するコンピュータプログラムは、そのような化合物を設計するために特に有用である。例えば、RasMolのようなプログラムが、三次元モデルを生成するために使用され得る。INSIGHT(Accelrys, Burlington, MA)、GRASP(Anthony Nicholls, Columbia University)、Dock(Molecular Design Institute, University of California at San Francisco)、およびAuto-Dock(Accelrys)のようなコンピュータプログラムは、さらなる操作および新たな構造を導入する能力を可能にする。方法は、化合物の3D構造のモデルを出力装置へと出力する付加的な工程を含み得る。さらに、候補化合物の3Dデータは、例えば、3D構造のコンピュータデータベースと比較され得る。
【0047】
本発明の化合物は、その他の構造に基づく設計/モデリング技術(例えば、Jackson, 1997;Jones et al., 1996を参照のこと)を使用して、本明細書に記載された化合物の構造的情報から相互作用的に設計されてもよい。次いで、候補化合物は、当業者に周知の標準的なアッセイにおいて試験され得る。例示的なアッセイは本明細書に記載される。
【0048】
生物学的高分子(例えば、タンパク質、核酸、炭水化物、および脂質)の3D構造は、多様な方法論により入手されたデータから決定され得る。タンパク質の3D構造の査定に最も効率的に適用されているこれらの方法論には、以下のものが含まれる:(a)X線結晶学;(b)核磁気共鳴(NMR)分光法;(c)高分子上の明確な部位の間に形成された物理的な距離の制約、例えば、タンパク質上の残基間の分子内化学的架橋の分析(例えば、PCT/US00/14667(これの開示は参照によりその全体が本明細書に組み入れられる))、および(d)関心対象のタンパク質の一次構造の知識に基づく分子モデリング法、例えば、ホモロジーモデリング技術、スレッディング(threading)アルゴリズム、またはMONSSTER(Modeling Of New Structures from Secondary and Tertiary Restraints)(例えば、国際出願第PCT/US99/11913号(これの開示は参照によりその全体が本明細書に組み入れられる)を参照のこと)のようなコンピュータプログラムを使用したアブイニシオ(ab initio)構造モデリング。その他の分子モデリング技術も、本発明に従って利用され得る(例えば、Cohen et al., 1990;Navia et al., 1992(これらの開示は、参照によりその全体が本明細書に組み入れられる))。これらの方法は、全て、コンピュータ分析を受け入れるデータを生成する。本発明の方法において有用であり得るが、現在は生体分子に関する原子レベルの構造的詳細を提供していない、その他の分光法には、円二色性分光法、蛍光分光法、および紫外/可視光吸光分光法が含まれる。好ましい分析法は、X線結晶学である。この手法およびNMR分光法の説明を、以下に提供する。
【0049】
X線結晶学。X線結晶学は、関心対象の分子または分子複合体の結晶における原子核を取り巻く電子雲による特徴的な波長のX線照射の回折に基づく。その技術は、特定の生物学的高分子を構成する原子の近原子(near atomic)分解を決定するため、精製された生物学的高分子または分子複合体(しかし、これらは、しばしば、溶媒成分、補因子、基質、またはその他のリガンドを含んでいる)の結晶を使用する。X線結晶学により3D構造を解析するための必要条件は、X線を強く回折するであろう規則正しい結晶である。方法は、多くの同一分子の規則的な反復するアレイへとX線ビームを差し向けるため、X線があるパターンでアレイから回折され、そのパターンから個々の分子の構造を回収することができる。例えば、球状タンパク質分子の規則正しい結晶は、不規則の表面を有する、大きい、球状または楕円体の物体である。結晶は、個々の分子の間に大きいチャンネルを含有している。通常、結晶の体積の過半を占めるこれらのチャンネルには、無秩序の溶媒分子が充填されており、タンパク質分子は、ほんの少数の小さな領域で相互に接している。これは、結晶内のタンパク質の構造が、溶液中のタンパク質のものと概して同一である、一つの理由である。
【0050】
関心対象のタンパク質を入手する方法を、以下に記載する。結晶の形成は、pH、温度、生物学的高分子の濃度、溶媒および沈殿剤の性質、ならびに添加されるイオンまたはタンパク質のリガンドの存在を含む、多数の異なるパラメータに依存する。X線回折分析に適した結晶を与える組み合わせのため、これらの全てのパラメータをスクリーニングするためには、多くのルーチンの結晶化実験が必要とされるかもしれない。結晶化ロボットは、多数の結晶化実験を再現性よく設定する作業を自動化し加速することができる(例えば、米国特許第5,790,421号(これの開示は参照によりその全体が本明細書に組み入れられる)を参照のこと)。
【0051】
ポリペプチド結晶化は、ポリペプチド濃度がその最大溶解度を越えている(即ち、ポリペプチド溶液が過飽和されている)溶液で起こる。そのような溶液は、好ましくは、ポリペプチド結晶の沈殿を通して、ポリペプチド濃度を低下させることにより、平衡状態へと回復し得る。しばしば、ポリペプチドは、結晶化をもたらす会合を促進するため、ポリペプチド表面の電荷を改変するか、またはポリペプチドとバルク水との間の相互作用を妨害する薬剤を添加することにより、過飽和溶液から結晶化するよう誘導され得る。
【0052】
結晶化は、一般に、4℃〜20℃の間で実施される。「沈殿剤」として公知の物質が、ポリペプチド分子の周りにエネルギー的に不利な沈殿枯渇層(precipitating depleted layer)を形成することにより、濃縮溶液中のポリペプチドの溶解度を減少させるためにしばしば使用される(Weber, 1991)。沈殿剤に加えて、その他の材料が、ポリペプチド結晶化溶液に添加される場合もある。これらには、溶液のpHを調整するための緩衝剤、およびポリペプチドの溶解度を低下させるための塩が含まれる。様々な沈殿剤が当技術分野において公知であり、以下のものを含む:エタノール、3-エチル-2-4ペンタンジオール、およびポリエチレングリコール(PEG)のようなポリグリコールの多く。沈殿溶液は、例えば、13〜24%PEG4000、5〜41%硫酸アンモニウム、および1.0〜1.5M塩化ナトリウム、ならびに5.0〜7.5の範囲のpHを含み得る。その他の添加剤には、0.1M Hepes、2〜4%ブタノール、20〜100mM酢酸ナトリウム、50〜70mMクエン酸、120〜130mMリン酸ナトリウム、1mMエチレンジアミン四酢酸(EDTA)、および1mMジチオスレイトール(DTT)が含まれ得る。これらの薬剤は、緩衝液中で調製され、結晶化緩衝液に様々な組み合わせで滴下にて添加される。結晶化させるタンパク質は、例えば、リン酸化により、またはリン酸模倣体(例えば、タングステン酸、カコジル酸、または硫酸)を使用することにより、修飾されてもよい。
【0053】
一般的に使用されるポリペプチド結晶化法には、以下の技術が含まれる:バッチ、ハンギングドロップ、種開始(seed initiation)、および透析。これらの方法の各々において、過飽和溶液を維持することにより、核形成後に継続的な結晶化を促進することが重要である。バッチ法においては、過飽和を達成するため、ポリペプチドを沈殿剤と混合し、容器を密封し、結晶が出現するまで放置する。透析法においては、ポリペプチドを、密封した透析膜内に保持し、それを沈殿剤を含有している溶液中に置く。膜を介した平衡化が、ポリペプチドおよび沈殿剤の濃度を増加させ、それにより、ポリペプチドが過飽和レベルに到達するようになる。
【0054】
好ましいハンギングドロップ技術(McPherson, 1976)においては、濃縮ポリペプチド溶液に沈殿剤を添加することにより、初期ポリペプチド混合物を作出する。ポリペプチドおよび沈殿剤の濃度は、この初期の形態において、ポリペプチドが結晶化しないようなものである。この混合物の小滴を、ガラススライド上に置き、それを、第二の溶液のレザバーの上方に逆さにしてつるす。次いで、系を密封する。典型的には、第二の溶液は、より高い濃度の沈殿剤またはその他の脱水剤を含有している。沈殿剤濃度の差によって、タンパク質溶液は、第二の溶液より高い蒸気圧を有するようになる。二つの溶液を含有している系は密封されているため、平衡状態が確立され、ポリペプチド混合物からの水が第二の溶液に移動する。この平衡状態は、ポリペプチド溶液中のポリペプチドおよび沈殿剤の濃度を増加させる。ポリペプチドおよび沈殿剤の臨界濃度時に、ポリペプチドの結晶が形成され得る。
【0055】
別の結晶化法は、濃縮ポリペプチド溶液へ核形成部位を導入する。一般に、濃縮ポリペプチド溶液を調製し、ポリペプチドの種晶をこの溶液へ導入する。ポリペプチドおよび沈殿剤の濃度が正確である場合には、種晶が核形成部位を提供し、その周りにより大きい結晶が形成されるであろう。
【0056】
さらに別の結晶化法は、電極に隣接しているヘルムホルツ層において自己整列するタンパク質高分子の双極子モーメントが使用される結晶電析法である(例えば、米国特許第5,597,457号参照(これの開示は参照によりその全体が本明細書に組み入れられる)を参照のこと)。
【0057】
結晶化が困難なタンパク質も存在する。しかしながら、結晶化を誘導するためのいくつかの技術が当業者に利用可能である。例えば、タンパク質のアミノ末端またはカルボキシル末端のフレキシブルなポリペプチドセグメントの除去は、結晶タンパク質試料の作製を容易にし得る。そのようなセグメントの除去は、分子生物学技術、またはトリプシン、キモトリプシン、もしくはスブチリシンのようなプロテアーゼによるタンパク質の処理を使用してなされ得る。
【0058】
回折実験においては、狭く平行のX線ビームがX線源から発せられ、回折ビームを生ずるために結晶へ差し向けられる。投射一次ビームは、高分子および溶媒分子の両方に傷害を引き起こす。従って、結晶は、その寿命を延長するために(例えば、-220℃〜-50℃の間に)冷却される。一次ビームは、全ての可能な回折スポットを作製するために多くの方向から結晶に衝突しなければならず、従って、実験中は結晶をビーム内で回転させる。回折スポットは、フィルム上に、または電子検出器により記録される。感光したフィルムは、スキャニング装置においてディジタル化され定量化されなければならないが、電子検出器は、それらが検出するシグナルをコンピュータへ直接送り込む。電子面検出器は、回折データを収集し測定するのに必要とされる時間を有意に低下させる。フィルムまたは検出器プレートの上にスポットとして記録される各回折ビームは、以下の三つの特性により定義される:スポットの強度から測定される振幅;X線源により設定される波長;およびX線実験において失われる位相。回折ビームを与える原子の位置を決定するためには、回折ビームの全てについて、三つの特性全てが必要とされる。位相を決定する一つの方式は、多重同形置換(Multiple Isomorphous Replacement/MIR)と呼ばれ、それは、結晶の単位格子への外因性のX線分散剤(例えば、金属原子のような重原子)の導入を必要とする。MIRのより詳細な説明に関しては、米国特許第6,093,573号(第15カラム)(これの開示は参照によりその全体が本明細書に組み入れられる)を参照のこと。
【0059】
原子座標とは、結晶形の関心対象の生物学的高分子の原子(分散中心)によるX線の単色ビームの回折を介して入手されたパターンに由来するデータの、フーリエ合成を含む数学的な方程式に由来するデカルト座標(x位、y位、およびz位)をさす。回折データは、結晶内の反復単位(単位格子)の電子密度マップを計算するために使用される。電子密度マップは、結晶の単位格子内の個々の原子の位置(原子座標)を確立するために使用される。原子座標に割り当てられた絶対値は、原子間の同一の相対的空間的関係を維持しながら、共に、または別々に、x軸、y軸、および/またはz軸に沿って回転運動および/または並進運動により変化し得るため、原子座標の絶対値は、原子間の空間的関係を示唆する。従って、原子座標の絶対値のセットが、別の試料の分析から事前に決定された値のセットと一致するよう、回転または翻訳により調整され得る生物学的高分子(例えば、タンパク質)は、他の試料から入手されたものと同一の原子座標を有すると見なされる。
【0060】
X線結晶学に関するさらなる詳細は、同時係属中の米国出願第2005/0015232号、米国特許第6,093,573号、ならびに国際出願第PCT/US99/18441号、第PCT/US99/11913号、および第PCT/US00/03745号から入手され得る。これらの全ての特許文献の開示は、参照によりその全体が本明細書に組み入れられる。
【0061】
NMR分光法。X線結晶学は関心対象の高分子の単結晶を必要とするが、NMR測定は近生理的条件下の溶液中で実施される。しかしながら、NMRに由来する構造は、結晶に由来する構造ほど詳細ではない。
【0062】
NMR分光法の使用は、比較的最近まで、比較的低分子(例えば、100〜150アミノ酸残基のタンパク質)の3D構造の解明に限定されていたが、関心対象の分子の同位体標識および横緩和最適化分光法(transverse relaxation-optimized spectroscopy/TROSY)を含む最近の進歩は、はるかに大きい分子、例えば、110kDaの分子量を有するタンパク質の分析へと方法論を拡張することを可能にした(Wider, 2000)。
【0063】
NMRは、特定の高周波によりパルス処理された均一磁場において磁性原子核の環境を調査するために高周波照射を使用する。パルスは、スピンがゼロでない核を有する原子の核磁化を混乱させる。系が平衡状態に戻る際に、一過性の時間領域シグナルが検出される。一過性シグナルの周波数領域へのフーリエ変換が、一次元NMRスペクトルを与える。これらのスペクトルにおけるピークは、様々な活性の核の化学シフトを表す。原子の化学シフトは、その局所的な電子環境により決定される。二次元NMR実験は、構造および三次元空間における様々な原子の近接に関する情報を提供することができる。タンパク質構造は、多数の二次元(時には三次元または四次元)NMR実験を実施し、得られた情報を一連のタンパク質折り畳みシミュレーションにおいて制約として使用することにより決定され得る。
【0064】
NMR実験から入手された生データが高分子の3D構造を決定するために使用され得る方法の詳細な説明を含む、NMR分光法に関するさらなる情報は、Protein NMR Spectroscopy, Principles and Practice, (1996);Gronenborn et al. (1990);およびWider (2000)(前記)(これらの全ての開示は参照によりその全体が本明細書に組み入れられる)に見出され得る。
【0065】
ペプチドである本発明の化合物のアミノ酸配列に基づき設計されるペプチド模倣体化合物も、関心対象である。ペプチド模倣体化合物は、選択されたペプチドの三次元コンフォメーションと実質的に同一の三次元コンフォメーション「モチーフ」を有する合成化合物である。ペプチドモチーフは、ペプチド模倣体化合物に、MUC1のオリゴマー化を阻害する能力を提供する。ペプチド模倣体化合物は、増加した細胞透過性および延長された生物学的半減期のような、インビボの利用可能性を増強する付加的な特徴を有することができる。ペプチド模倣体は、典型的には、部分的にまたは完全に非ペプチドである骨格を有するが、そのペプチド模倣体の基となるペプチドに存在するアミノ酸残基の側鎖と同一の側鎖を有する。いくつかの型の化学結合、例えば、エステル結合、チオエステル結合、チオアミド結合、レトロアミド結合、還元カルボニル結合、ジメチレン結合、およびケトメチレン結合が、プロテアーゼ抵抗性のペプチド模倣体の構築において、ペプチド結合の一般に有用な代替物であることが、当技術分野において公知である。
【0066】
IV. 治療
A. 薬学的製剤および投与経路
臨床的適用が企図される場合、意図された適用にとって適切な形態で医薬組成物を調製することが必要であろう。一般に、これは、発熱性物質、およびヒトまたは動物にとって有害であり得るその他の不純物を本質的に含まない組成物を調製することを要するであろう。
【0067】
送達ベクターを安定化させ、標的細胞による取り込みを可能にするために適切な塩および緩衝剤を利用することが一般に望まれるであろう。緩衝剤は、組換え細胞が患者へ導入される場合にも利用されるであろう。本発明の水性組成物は、薬学的に許容される担体または水性媒体に溶解または分散した、有効な量のベクターから細胞までを含む。そのような組成物は接種物とも呼ばれる。「薬学的にまたは薬理学的に許容される」という語句は、動物またはヒトへ投与された場合に、有害反応、アレルギー反応、またはその他の不都合な反応を生じない分子エンティティおよび組成物をさす。本明細書において使用されるように、「薬学的に許容される担体」には、全ての任意の溶媒、分散媒、コーティング、抗菌剤、抗真菌剤、等張剤、および吸収遅延剤等が含まれる。薬学的活性物質のためのそのような媒体および薬剤の使用は、当技術分野において周知である。任意の従来の媒体または薬剤が、本発明のベクターまたは細胞と不適合性でない限り、治療用組成物において使用されることが企図される。補足的な活性成分が、組成物に組み入れられてもよい。
【0068】
本発明の活性組成物には、古典的な薬学的調製物が含まれ得る。標的組織がその経路を介して利用可能である限り、本発明に係るこれらの組成物の投与は、任意の一般的な経路を介してなされるであろう。そのような経路には、経口、鼻、頬、直腸、膣、または局所の経路が含まれる。あるいは、投与は、正所、皮内、皮下、筋肉内、腹腔内、または静脈内の注射によってもよい。そのような組成物は、通常、前記の薬学的に許容される組成物として投与されるであろう。直接腫瘍内投与、腫瘍の灌流、または、腫瘍への局所的もしくは局部的な投与、例えば、局所的もしくは局部的な血管系もしくはリンパ系、もしくは切除された腫瘍床への投与が、特に関心対象である。
【0069】
活性化合物は、非経口投与または腹腔内投与されてもよい。遊離塩基または薬理学的に許容される塩としての活性化合物の溶液は、ヒドロキシプロピルセルロースのような界面活性剤と適当に混合された水で調製され得る。分散物も、グリセロール、液体ポリエチレングリコール、およびそれらの混合物、ならびに油で調製され得る。保管および使用の通常の条件の下で、これらの調製物は、微生物の増殖を防止するための保存剤を含有する。
【0070】
注射可能な使用に適している薬学的形態には、無菌の水性溶液または分散物、および無菌の注射可能な溶液または分散物の即時調製のための無菌の粉末が含まれる。全ての場合に、型は無菌でなければならず、容易な注射可能性が存在する程度に液体でなければならない。それは製造および保管の条件の下で安定していなければならず、細菌および真菌のような微生物の汚染作用に対して保存されなければならない。担体は、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、および液体ポリエチレングリコール等)、それらの適当な混合物、および植物油を含有している溶媒または分散媒であり得る。適切な流動度は、例えば、レシチンのようなコーティングの使用、分散物の場合には必要とされる粒径の維持、および界面活性剤の使用により維持され得る。微生物の作用の防止は、様々な抗菌剤および抗真菌剤、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸、チメロサール等によりもたらされ得る。多くの場合、等張剤、例えば、糖または塩化ナトリウムを含むことが好ましいであろう。注射可能組成物の長期的な吸収は、吸収を遅延させる薬剤、例えば、モノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチンの組成物における使用によりもたらされ得る。
【0071】
無菌の注射可能溶液は、必要に応じて、上に列挙されたその他の様々な成分と共に、必要量の活性化合物を適切な溶媒に組み入れ、その後、ろ過減菌することにより調製される。一般に、分散物は、基本の分散媒と、上に列挙されたもののうちの必要とされる他の成分とを含有している無菌の媒体に、様々な滅菌された活性成分を組み入れることにより調製される。無菌の注射可能溶液の調製のための無菌の粉末の場合、好ましい調製法は、事前に滅菌ろ過された溶液から、活性成分+付加的な所望の成分の粉末を与える、真空乾燥技術および凍結乾燥技術である。
【0072】
本明細書において使用されるように、「薬学的に許容される担体」には、全ての任意の溶媒、分散媒、コーティング、抗菌剤、抗真菌剤、等張剤、および吸収遅延剤等が含まれる。薬学的活性物質のためのそのような媒体および薬剤の使用は、当技術分野において周知である。任意の従来の媒体または薬剤が、活性成分と不適合性でない限り、治療用組成物において使用されることが企図される。補足的な活性成分が、組成物に組み入れられてもよい。
【0073】
経口投与のため、本発明のポリペプチドは、摂取可能ではない口腔洗浄剤および歯磨剤の形態に賦形剤と共に組み入れられ、使用されてもよい。口腔洗浄剤は、ホウ酸ナトリウム溶液(ドベル(Dobell)溶液)のような適切な溶媒に必要量の活性成分を組み入れて、調製され得る。あるいは、活性成分は、ホウ酸ナトリウム、グリセリン、および重炭酸カリウムを含有している消毒洗浄剤に組み入れられてもよい。活性成分は、ゲル、ペースト、粉末、およびスラリーを含む歯磨剤に分散させられてもよい。活性成分は、水、結合剤、研摩剤、風味剤、発泡剤、および湿潤剤を含み得るペースト歯磨剤に治療的に有効な量で添加されてもよい。
【0074】
本発明の組成物は、中性型または塩型で製剤化され得る。薬学的に許容される塩には、例えば、塩酸またはリン酸のような無機酸、または酢酸、シュウ酸、酒石酸、マンデル酸等のような有機酸により形成された(タンパク質の遊離アミノ基により形成された)酸付加塩が含まれる。遊離カルボキシル基により形成された塩も、例えば、ナトリウム、カリウム、アンモニウム、カルシウム、または水酸化鉄のような無機塩基、およびイソプロピルアミン、トリメチルアミン、ヒスチジン、プロカイン等のような有機塩基に由来し得る。
【0075】
製剤化の後、溶液は、剤形と適合性の様式で、かつ治療的に有効であるような量で投与されるであろう。製剤は、注射可能溶液、薬物放出カプセル等のような多様な剤形で容易に投与される。水性溶液での非経口投与のため、例えば、溶液は、必要であれば、適当に緩衝されるべきであり、液体希釈剤は、まず、十分な生理食塩水またはグルコースにより等張にされるべきである。これらの特定の水性溶液は、静脈内投与、筋肉内投与、皮下投与、および腹腔内投与に特に適している。この関係において、利用され得る無菌の水性媒体は、本開示を考慮すれば、当業者に公知であろう。例えば、一つの投薬量を等張NaCl溶液1mlに溶解させ、皮下点滴液1000mlに添加するか、または提唱された注入部位に注射する(例えば、"Remington's Pharmaceutical Sciences," 15th Edition, pages 1035-1038 and 1570-1580を参照のこと)。投薬量のいくらかの変動が、必然的に、処置される対象の条件に依って起こるであろう。投与を担う者は、いかなる場合にも、個々の対象のための適切な用量を決定するであろう。さらに、ヒトへの投与のため、調製物は、FDA Office of Biologicsの基準により要求されるような無菌性、発熱性、一般的安全性、および純度の基準を満たすべきである。
【0076】
B. 癌の型および対象
本発明の方法が適用され得る癌細胞には、一般に、MUC1を発現する細胞、より具体的には、MUC1を過剰発現する細胞が含まれる。適切な癌細胞は、乳癌、肺癌、結腸癌、膵臓癌、腎臓癌、胃癌、肝臓癌、骨癌、血液系癌(例えば、白血病またはリンパ腫)、神経組織癌、黒色腫、卵巣癌、精巣癌、前立腺癌、子宮頸癌、膣癌、または膀胱癌の細胞であり得る。さらに、本発明の方法は、広範囲の種、例えば、ヒト、非ヒト霊長類(例えば、サル、ヒヒ、またはチンパンジー)、ウマ、ウシ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、イヌ、ネコ、ウサギ、モルモット、スナネズミ、ハムスター、ラット、およびマウスに適用され得る。
【0077】
C. 処置方法
MUC1オリゴマー形成を阻害するペプチドまたはアナログは、一般に、抗癌の治療薬または予防薬として有用である。それらは、哺乳動物対象(例えば、ヒト乳癌患者)に、単独で、または他の薬物および/もしくは放射線療法と共に投与され得る。化合物は、(例えば、生理学的要因および/または環境要因のために)遺伝学的にかつ/または環境的に癌への感受性が高い対象、例えば、癌(例えば、乳癌)の家族歴を有する対象、慢性炎症を有するかもしくは慢性ストレスを受けている対象、または天然もしくは非天然の環境的な発癌性条件(例えば、日光、産業的発癌物質、もしくはタバコ煙への過度の曝露)に曝されている対象にも投与され得る。
【0078】
方法が癌を有する対象に適用される場合、任意で、化合物の投与前に、当技術分野において公知の方法により、MUC1発現(MUC1タンパク質またはMUC1 mRNAの発現)について癌を試験することができる。このようにして、対象は、MUC1を発現または過剰発現する癌を有するとして同定され得る。そのような方法は、対象から入手された癌細胞に対してインビトロで実施され得る。あるいは、例えば、MUC1に特異的な放射標識された抗体を使用するインビボ画像技術が実施され得る。さらに、癌を有する対象からの体液(例えば、血液または尿)が、MUC1タンパク質またはMUC1タンパク質断片の上昇したレベルについて試験され得る。
【0079】
必要とされる投薬量は、投与経路の選択;製剤の性質;患者の疾病の性質;対象のサイズ、体重、表面積、年齢、および性別;投与される他の薬物;ならびに主治医の判断に依る。適当な投薬量は、0.0001mg/kg〜100mg/kgの範囲にある。利用可能な化合物の多様性および様々な投与経路の異なる効率を考慮すると、必要投薬量の広い変動が予想される。例えば、経口投与は、静脈注射による投与より高い投薬量を必要とすると予想されるであろう。これらの投薬量レベルの変動は、当技術分野においてよく理解されているような最適化のための標準的な経験的なルーチンを使用して調整され得る。投与は、単回であってもよいし、または複数回(例えば、2回、3回、4回、5回、6回、8回、10回、20回、50回、100回、150回、もしくはそれ以上)であってもよい。適当な送達媒体(例えば、ポリマー性微粒子または埋め込み可能装置)へのポリペプチドの封入は、特に、経口送達のため、送達の効率を増加させ得る。
【0080】
V. 組み合わせ治療
DNA傷害剤に対する腫瘍細胞の抵抗性は、臨床的な腫瘍学において大きな問題となっている。現在の癌研究の一つの目標は、化学療法および放射線療法の効力を改善するための方式を見出すことである。一つの方式は、そのような伝統的な治療を遺伝子治療と組み合わせることによる。本発明に関しても、同様に、化学療法、放射線療法、または免疫療法による介入と共に、MUC1ペプチド治療が使用され得ることが企図される。
【0081】
本発明の方法および組成物を使用して、細胞を死滅させ、細胞増殖を阻害し、転移を阻害し、血管形成を阻害し、またはその他の様式で腫瘍細胞の悪性表現型を逆転もしくは低下させるには、一般に、標的細胞を、MUC1ペプチドおよび少なくとも一つの他の治療と接触させるであろう。これらの治療は、細胞を死滅させるかまたは細胞の増殖を阻害するのに有効な組み合わせ量で提供されるであろう。この過程は、細胞を薬剤/治療と同時に接触させることを含み得る。これは、細胞を、両方の薬剤を含む単一の組成物もしくは薬理学的製剤と接触させること、または、細胞を、二つの別個の組成物もしくは製剤(ここで、一方の組成物はMUC1ペプチドを含んでおり、他方は薬剤を含んでいる)と同時に接触させることにより達成され得る。
【0082】
あるいは、MUC1処置は、数分から数週までの範囲の間隔で、他の処置と前後してもよい。他の処置とMUC1ペプチドとが別々に細胞に適用される態様においては、一般に、治療が、有利に組み合わせられた効果を細胞に対して発揮することができるよう、各送達の時点の間に有意な期間が空かないことが確実にされるであろう。そのような情況においては、相互の約12〜24時間以内、相互の約6〜12時間以内、または約12時間のみの遅延時間で、細胞を両方のモダリティと接触させることが企図される。しかしながら、いくつかの情況においては、それぞれの投与の間に数日(2日、3日、4日、5日、6日、または7日)〜数週(1週、2週、3週、4週、5週、6週、7週、または8週)が経過するよう、処置のための期間を有意に延長することが望ましいかもしれない。
【0083】
MUC1ペプチドまたは他の治療のいずれかの複数回の投与が望まれるであろうことも想像される。以下に例示されるような、様々な組み合わせが利用され得る(ここで、MUC1ペプチドが「A」であり、他の治療が「B」である):
その他の組み合わせも企図される。再び、細胞死滅を達成するために、両方の治療は、細胞を死滅させるのに有効な組み合わせ量で細胞に送達される。
【0084】
組み合わせ治療における使用に適している薬剤または因子には、細胞に適用された場合にDNA傷害を誘導する任意の化学的化合物または処置法が含まれる。そのような薬剤および因子には、γ線照射、X線、紫外線照射、マイクロ波、電子放射等のようなDNA傷害を誘導する放射線および波が含まれる。「化学療法薬」または「遺伝毒性剤」とも記載される多様な化学的化合物が、本明細書に開示された組み合わせ処置法において有用であるものとする。本発明による癌の処置において、腫瘍細胞は発現構築物に加えて薬剤と接触させられるであろう。これは、X線、紫外光線、γ線、またはマイクロ波のような放射線を限局性の腫瘍部位に照射することにより達成され得る。あるいは、腫瘍細胞は、治療的に有効な量の薬学的組成物を対象へ投与することにより、薬剤と接触させられてもよい。
【0085】
様々なクラスの化学療法剤が、本発明のペプチドと組み合わせて使用されることが企図される。例えば、タモキシフェン、4-ヒドロキシタモキシフェン(アフィモキシフェン)、ファルソデックス(Falsodex)、ラロキシフェン、バゼドキシフェン、クロミフェン、フェマレル(Femarelle)、ラソフォキシフェン、オルメロキシフェン(Ormeloxifene)、およびトレミフェンのような選択的エストロゲン受容体アンタゴニスト(「SERM」)。
【0086】
有用であると企図される化学療法剤には、例えば、カンプトテシン、アクチノマイシンD、マイトマイシンCが含まれる。本発明は、X線とシスプラチンとの併用、またはシスプラチンとエトポシドとの併用のような、放射線に基づくものであってもよいし、または実際の化合物であってもよい、一つまたは複数のDNA傷害剤の組み合わせの使用も包含する。薬剤は、上記のように、それをMUC1ペプチドと組み合わせることにより、組み合わせ治療用組成物またはキットとして調製され使用され得る。
【0087】
熱ショックタンパク質90は、多くの真核細胞に見出される調節タンパク質である。HSP90阻害剤は、癌の処置において有用であることが示されている。そのような阻害剤には、ゲルダナマイシン、17-(アリルアミノ)-17-デメトキシゲルダナマイシン、PU-H71、およびリファブチンが含まれる。
【0088】
DNAを直接架橋するか、または付加物を形成する薬剤も、構想される。シスプラチンのような薬剤、およびその他のDNAアルキル化剤が使用され得る。シスプラチンは、癌を処置するために広く使用されており、臨床的な適用において使用される有効用量は、20mg/m2、3週毎に5日間、計3コースである。シスプラチンは、経口では吸収されず、従って、静脈内、皮下、腫瘍内、または腹腔内への注射を介して送達されなければならない。
【0089】
DNAに傷害を与える薬剤には、DNAの複製、有糸分裂、および染色体分離に干渉する化合物も含まれる。そのような化学療法化合物には、ドキソルビシンとしても公知のアドリアマイシン、エトポシド、ベラパミル、ポドフィロトキシン等が含まれる。臨床的な設定において新生物の処置のために広く使用されている、これらの化合物は、ドキソルビシンについては、21日間隔で、25〜75mg/m2の範囲の用量でボーラス注射を通して静脈内に投与され、エトポシドについては35〜50mg/m2の用量で静脈内に投与されるか、または静脈内用量の2倍が経口投与される。タキサンのような微小管阻害剤も企図される。これらの分子は、イチイ属の植物により産生されるジテルペンであり、パクリタクセルおよびドセタキセルを含む。
【0090】
イレッサ(Iressa)のような表皮増殖因子受容体阻害剤、
FK506結合タンパク質12-ラパマイシン関連タンパク質1(FRAP1)としても公知の哺乳類ラパマイシン標的タンパク質mTORは、細胞増殖、細胞増幅、細胞運動、細胞生存、タンパク質合成、および転写を調節するセリン/トレオニンプロテインキナーゼである。従って、ラパマイシンおよびそのアナログ(「ラパログ(rapalogs)」)は、本発明に係る組み合わせ癌治療において使用されることが企図される。
【0091】
特許請求の範囲に記載されたペプチドとの、別の可能な組み合わせ治療は、全身炎症に関与しているサイトカインであり、かつ急性期反応を刺激するサイトカイン群のメンバーである、TNF-α(腫瘍壊死因子α)である。TNFの主要な役割は、免疫細胞の調節にある。TNFは、アポトーシス細胞死を誘導すること、炎症を誘導すること、そして腫瘍原性およびウイルス複製を阻害することもできる。
【0092】
核酸前駆物質およびサブユニットの合成および正確さを破壊する薬剤も、DNA傷害をもたらす。そのため、多数の核酸前駆物質が開発されている。特に有用なのは、広範囲の試験を受けており、容易に入手可能な薬剤である。そのため、5-フルオロウラシル(5-FU)のような薬剤は、新生物組織により優先的に使用され、従って、この薬剤は新生物細胞へのターゲティングのために特に有用である。極めて毒性ではあるが、5-FUは、局所適用を含めて広範囲のキャリアにおいて適用可能であり、しかしながら3〜15mg/kg/日の範囲の用量での静脈内投与が一般的に使用されている。
【0093】
DNA傷害を引き起こす、広範囲に使用されているその他の因子には、γ線、X線として一般的に公知であるもの、および/または放射性同位元素の腫瘍細胞への定方向送達が含まれる。マイクロ波および紫外線照射のような、その他の型のDNA傷害因子も企図される。これらの因子は、全て、DNA、DNAの前駆物質、DNAの複製および修復、ならびに染色体の組み立ておよび維持に対して広範囲の傷害をもたらす可能性が最も高い。X線の線量範囲は、長期間(3〜4週間)の50〜200レントゲンという1日線量から、2000〜6000レントゲンという単回線量までの範囲である。放射性同位元素のための線量範囲は、広く変動し、同位体の半減期、放射される放射線の強度および型、ならびに新生物細胞による取り込みに依る。
【0094】
当業者は、"Remington's Pharmaceutical Sciences" 15th Edition, chapter 33, in particular pages 624-652の指示を受ける。投薬量のいくらかの変動が、必然的に、処置される対象の条件に依って起こるであろう。投与を担う者は、いかなる場合にも、個々の対象のための適切な用量を決定するであろう。さらに、ヒトへの投与のため、調製物は、FDA Office of Biologicsの基準により要求されるような無菌性、発熱性、一般的安全性、および純度の基準を満たすべきである。
【0095】
本発明者らは、癌を有する患者へのMUC1ペプチドの局所的または局部的な送達が、臨床的な疾患を処置するための極めて効率的な方法であり得ることを提唱する。同様に、化学療法または放射線療法が、対象の身体の特定の影響を受けた領域に差し向けられてもよい。あるいは、発現構築物および/または薬剤の局部送達または全身送達が、ある種の状況において、例えば、広範囲の転移が起こった場合には、適切であるかもしれない。
【0096】
MUC1治療の、化学療法および放射線療法との組み合わせに加えて、免疫療法、ホルモン療法、毒素療法、および手術との組み合わせも企図される。特に、アバスチン、アービタックス、グリーベック、ハーセプチン、およびリツキサンのような標的治療を利用することができる。
【0097】
上記の治療のいずれかが、癌の処置において単独で有用であると判明するかもしれないことも、指摘されるべきである。
【実施例】
【0098】
VI. 実施例
以下の実施例は、本発明の特定の態様を示すために含まれる。以下の実施例に開示される技術は、本発明の実施においてよく機能することが本発明者らにより発見された技術を表し、従って、その実施のための特定の様式を構成すると見され得ることが、当業者により認識されるべきである。しかしながら、当業者は、本開示を考慮すれば、開示された特定の態様に多くの変化を施しても、本発明の本旨および範囲から逸脱することなく、同様のまたは類似の結果を入手することが可能であることを認識するべきである。
【0099】
実施例1−材料および方法
細胞培養。ヒト乳癌ZR-75-1細胞株、ZR-75-1/ベクター細胞株、ZR-75-1/MUC1siRNA細胞株(Ren et al., 2004)を、10%熱不活化ウシ胎仔血清(HI-FBS)、100U/mlペニシリン、および100μg/mlストレプトマイシン(Invitrogen)が補足されたRPMI1640培地で、37℃および5%CO2の加湿インキュベーター内で培養した。ヒトMCF-7乳癌細胞および293細胞を、10%HI-FBS、抗生物質、および2mM L-グルタミンを含むダルベッコ修飾イーグル培地で培養した。ヒトMCF-10A乳房上皮細胞を、乳房上皮細胞増殖培地(MEGM;Lonza)で培養した。細胞を、MIT Biopolymer Laboratory(Cambridge, MA)により合成されたMUC1/CQCペプチドまたはMUC1/AQAペプチドにより処理した。生存能をトリパンブルー排除により決定した。
【0100】
免疫沈降およびイムノブロット分析。記載されたようにして(Leng et al., 2007)、全細胞溶解物および核溶解物を調製した。可溶性タンパク質を、抗Flag(Sigma, St. Louis, MO)による免疫沈降に供した。免疫沈降物および可溶性タンパク質を、抗His(Cell Signaling Technology, Danvers, MA)、抗GFP(Millipore, Danvers, MA)、抗Flag、抗MUC1-C(Ab1;NeoMarkers, Fremont, CA)、抗ラミンB(EMD, La Jolla, CA)、または抗βアクチン(Sigma)によるイムノブロッティングにより分析した。反応性を、西洋ワサビペルオキシダーゼ結合二次抗体および化学発光により検出した。
【0101】
細胞トランスフェクション。記載されたようにして(Leng et al., 2007)、293細胞を、リポフェクタミンの存在下で、GFP、GFP-MUC1-CD、またはFlag-MUC1-CDを発現するベクターによりトランスフェクトした。
【0102】
ペプチド取り込み。細胞をFITC標識MUC1/CQCペプチド(MIT Biopolymer Laboratory)と共にインキュベートし、冷PBSにより洗浄し、1%パラホルムアルデヒド/PBSで固定し、フローサイトメトリーにより蛍光について分析した。
【0103】
細胞周期分布、アポトーシス、および壊死の分析。細胞を採集し、PBSで洗浄し、80%エタノールで固定し、40μg/ml RNAseおよび40μg/mlヨウ化プロピジウムを含有しているPBSの中で37℃で30分間インキュベートした。細胞周期分布をフローサイトメトリーにより決定した。記載されたようにして(Yin et al., 2007)、エタノール固定されクエン酸緩衝液で透過性化された細胞を、ヨウ化プロピジウムにより染色し、フローサイトメトリーによりモニタリングすることにより、sub-G1 DNA含量を査定した。壊死の査定のためには、記載されたようにして(Yin et al., 2007)、細胞を、室温で、5分間、1μg/mlヨウ化プロピジウム/PBSと共にインキュベートし、次いで、フローサイトメトリーによりモニタリングした。
【0104】
ヒト乳房腫瘍異種移植片モデル。4〜6週齢、体重18〜22グラムのBalb-c nu/nu雌マウス(Charles River Laboratories, Wilmington, MA)に、トロカールガン(trocar gun)を使用して、17-β-エストラジオールプラグ(0.72mg;Innovative Research, Sarasota, FL)を皮下移植した。24時間後、マトリゲル(BD Biosciences)に埋め込まれた1×107個のZR-75-1細胞を、側腹部に皮下注射した。腫瘍が、およそ150mm3(コホート1)または275mm3(コホート2)で検出可能になった時点で、マウスを処置群および対照群へとペアマッチングした。各群が5匹のマウスを含有し、その各々に耳タグを付け、研究の全体にわたって追跡した。初回投薬はペアマッチングの時点で投与された(1日目)。リン酸緩衝生理食塩水(媒体)、MUC1/CQCペプチド、およびMUC1/AQAペプチドを、腹腔内注射により毎日投与した。マウスを週2回計量し、4日毎にノギスを使用して腫瘍測定を実施した。腫瘍体積(V)を、式V=W2×L/2[式中、Wは小さい方の直径であり、Lは大きい方の直径である]を使用して計算した。屠殺時、マウスを心臓投与により生理食塩水により灌流し、次いで、リン酸緩衝ホルマリンにより灌流した。腫瘍を切除し、4時間浸漬固定し、一連の段階的なエタノールを通して脱水し、ルーチンのパラフィン包埋のため加工した。記載されたようにして(Kufe, 1984)、H&E染色、および抗MUC1による免疫ペルオキシダーゼ染色により、腫瘍を評価した。
【0105】
薬物およびサイトカイン。シスジアミンジクロロプラチナ(Cisdiaminedichloroplatinum)(II)、ドキソルビシン(アドリアマイシン)、タキソール(パクリタクセル)を、Sigma(St. Louis, MO)から購入した。rh-TNF-αをPromega(Madison, WI)から購入した。GO-203ペプチドはAnaspec Inc.により合成された。
【0106】
インビトロ細胞障害性および組み合わせアッセイ。細胞を、6日間実験の場合には1ウェル1000細胞、3日間実験の場合には1ウェル3000細胞で、96穴平底マイクロタイタープレート(Fisher)に播種した。次いで、細胞を24時間培養した。抗癌薬およびGO-203を、示された濃度に希釈し、細胞へ添加した。GO-203(5μmol/L)を、72時間、24時間毎に添加した。MTS試薬を細胞へ添加し、マイクロプレートリーダにより490nmでの吸光度を読み取ることにより、細胞生存能を決定した。
【0107】
データ分析。全ての抗癌薬についてのIC50値を、Graphpad Prism(GraphPad Software, San Diego CA)を使用して、非線形回帰分析により決定した。CombiToolコンピュータプログラム(version 2.001, IMB Jena Biocomputing Group)を、5μmol/L GO-203の存在下での用量範囲内での組み合わせ指数を計算するために使用した。
【0108】
実施例2−結果
MUC1オリゴマー形成に対するMUC1/CQCペプチドの効果。MUC1細胞質ドメイン(MUC1-CD)は、オリゴマーの形成および核移行のために必要なCQCモチーフを含有している(Leng et al., 2007)。オリゴマー化を阻止する低分子を設計し得るか否かを決定するため、本発明者らは、CQCモチーフを含有しているMUC1-CDのN末端領域に由来するペプチド(MUC1/CQCペプチド;図1A)を合成した。細胞へのペプチドの進入を容易にするために、ポリD-アルギニン伝達ドメインを合成中に含めた(Fischer, 2007)(図1A)。対照として、CQCモチーフをAQAに改変した類似ペプチド(MUC1/AQAペプチド;図1A)を合成した。MUC1-CDへのペプチドの結合を査定するため、本発明者らは、Hisタグ付きMUC1-CDをBIAcoreセンサーチップへ固定化した。MUC1/CQCペプチドは、MUC1-CDオリゴマー(Leng et al., 2007)により入手されたものと類似した、30nMという解離定数(Kd)で、His-MUC1-CDに結合した(図1B)。対照的に、MUC1/AQAペプチドの明白な結合はなかった(示されないデータ)。精製されたHisタグ付きMUC1-CDは、ポリアクリルアミドゲル電気泳動により検出されるようなオリゴマーを形成する(図1C)。His-MUC1-CDのMUC1/CQCペプチドとのインキュベーションは、オリゴマー形成を実質的に減少させ、モノマーを増加させた(図1C)。さらに、MUC1/AQAペプチドとのインキュベーションは、効果を、たとえ有していたとしても、ほとんど有していなかった(図1C)。インビボのMUC1オリゴマー化に対する効果を査定するため、293細胞をGFP-MUC1-CDおよびFlag-MUC1-CDを発現するベクターによりトランスフェクトした(図1D、左)。GFP-MUC1-CDとFlag-MUC1-CDとの複合体が、ペプチドに曝されていない細胞からの溶解物の共沈により検出可能であった(図1D、右)。インビトロの結果と一致して、トランスフェクトされた293細胞のMUC1/CQCペプチドとのインキュベーションは、Flag-MUC1-CDとGFP-MUC1-CDとの間の相互作用の破壊に関連していた(図1D、右)。さらに、MUC1/AQAペプチドは明白な効果を有していなかった(図1D、右)。これらの結果は、インビトロおよび細胞内で、MUC1/CQCペプチドがMUC1-CDに結合し、MUC1-CDオリゴマーの形成を阻止することを示している。
【0109】
MUC1/CQCペプチドはMUC1-Cの核へのターゲティングを阻止する。ヒト乳癌細胞ZR-75-1およびMCF-7は、内在性MUC1を過剰発現しており、従って、MUC1/CQCペプチドの効果を評価するための可能性のあるモデルを表す(Ramasamy et al., 2007)。取り込みを査定するため、ZR-75-1細胞を5μM FITC-MUC1/CQCペプチドと共にインキュベートした(図2A)。2時間目、フローサイトメトリーによる細胞の分析は、蛍光強度の実質的な増加を示し、平均(MFI)は145であった(図2A)。MFIのさらなる増加が、6時間目および24時間目に同定された(図2A)。MUC1-Cのオリゴマー化は、その核輸入のために必要である(Leng et al., 2007)。MUC1/CQCペプチドまたはMUC1/AQAペプチドによるZR-75-1細胞の処理は、細胞MUC1-Cレベルに対する効果を有していなかった(図2B)。しかしながら、オリゴマー化に対する効果と一致して、MUC1/CQCペプチドによる処理は、核MUC1-Cレベルの減少に関連しており、MUC1/AQAペプチドによる処理はそうでなかった(図2B)。類似の効果が、MCF-7細胞においても観察され、MUC1/CQCペプチドによる処理に応答して、核MUC1-Cレベルのダウンレギュレーションが起こった(図2C)。これらの所見は、MUC1/CQCペプチドが、MUC1-Cオリゴマー化を阻止し、それにより、MUC1-Cの核へのターゲティングを阻止することを示す。
【0110】
MUC1/CQCペプチドは増殖を阻止し、壊死を誘導する。MUC1/CQCペプチドが増殖に影響を与えるか否かを決定するため、ZR-75-1細胞を、72時間、5μM MUC1/CQCにより処理し、細胞周期分布についてモニタリングした。意義深いことに、未処理のままにされた細胞、またはMUC1/AQAペプチドにより処理された細胞と比較して、実質的なS期における停止が存在した(図3A)。96時間目までに、S期集団は減少したが、これは、細胞死による減少によった可能性がある(図3A)。アポトーシスの誘導を支持するsub-G1 DNA含量を有する細胞の蓄積は、たとえあったとしても、ほとんどなかった(図3A)。しかしながら、MUC1/CQCペプチドによるZR-75-1細胞の処理は、72時間目に検出可能となり、96時間目により顕著になった、壊死の誘導に関連しており、MUC1/AQAペプチドによる処理はそうでなかった(図3B)。MCF-7細胞も同様にMUC1/CQCペプチドに応答し、S期での増殖の停止(図3C)および壊死の誘導(図3D)が起こった。これらの所見は、MUC1/CQCペプチドがヒト乳癌細胞の増殖を阻害し壊死を誘導することを示している。
【0111】
MUC1発現癌細胞に対するMUC1/CQCペプチドの特異性。MUC1/CQCペプチドが内在性MUC1を過剰発現する乳癌細胞に対して選択的な活性を有するか否かを決定するため、本発明者らは、MUC1siRNAによりMUC1発現について安定的にサイレンシングされているZR-75-1細胞を処理した(図4A)。対照ZR-75-1/ベクター細胞の増殖停止および死滅とは対照的に、MUC1/CQCペプチドは、ZR-75-1/MUC1siRNA細胞に対して実質的に少ない効果を有していた(図4B)。さらに、MUC1/CQCペプチドは、MUC1陰性293細胞の増殖に対しては明白な効果を有していなかった(図4C)。MUC1を発現するが、ZR-75-1細胞およびMCF-7細胞に見出されるより低レベルで発現する(Ahmad et al., 2007)MCF-10A非形質転換乳房上皮細胞株(Muthuswamy, 2001;Soule, 1990)に対しても、研究を実施した。顕著に、ZR-75-1細胞およびMCF-7細胞とは対照的に、MUC1/CQCペプチドは、MCF-10A細胞の周期分布(図4D)および増殖(図4E)に対して効果を有していなかった。これらの所見は、MUC1/CQCペプチドが、内在性MUC1を過剰発現する乳癌細胞に対して選択的な活性を有することを示している。
【0112】
MUC1/CQCペプチドはインビボで腫瘍原性を阻害する。MUC1/CQCペプチドの投与が体重に対する効果に関連しているか否かを決定するため、5匹の雌ヌード(nu/nu)マウスに、毎日1回、50mg/kgの用量で腹腔内(IP)注射した。11日にわたるペプチドの投与は、個々のマウスの体重に対して明白な効果を有していなかった。さらに、MUC1/CQC投与の中止後、次の28日にわたって体重に対する続発的な効果はなかった(示されないデータ)。抗腫瘍活性を査定するため、ZR-75-1細胞(1×107個)を、ヌードマウスの側腹部へ皮下移植した。12日後、およそ150mm3の腫瘍を保持するマウスを、10mg/kg/日および50mg/kg/日の用量でMUC1/CQCペプチドにより処理した。対照として、マウスを、媒体単独またはMUC1/AQAペプチドにより処理した。50mg/kg/日で与えられたMUC1/AQAペプチドで入手されたものと比較して、10mg/kg/日×21日のMUC1/CQCペプチドの投与は、増殖を遅くした(図5A)。さらに、50mg/kg/日のMUC1/CQCペプチドの投与は、処理の最初の7日にわたって増殖を阻止した(図5A)。従って、処理を中止し、マウスを再増殖についてモニタリングした。意義深いことに、次の17 日にわたって腫瘍の検出可能な増殖はなかった(図5A)。活性の基礎を部分的に査定するため、対照マウスおよび処理されたマウスから採集された腫瘍を、組織病理学により調査した。媒体またはMUC1/AQAペプチドにより処理されたマウスからのものと比較して、MUC1/CQC(10mg/kgおよび50mg/kg)により処理されたマウスからの腫瘍は、著しく壊死性であった(図5Bおよび示されないデータ)。しかしながら、顕著に、腫瘍細胞は、壊死区域の近くにも検出可能であった(図5B)。腫瘍切片をMUC1に対する抗体によっても染色した。MUC1/AQAペプチドによる処理は、対照腫瘍およびMUC1/AQAペプチドにより処理されたものと比較して、MUC1発現の著しいダウンレギュレーションに関連していた(図5Cおよび示されないデータ)。
【0113】
より大きい腫瘍(およそ275mm3)に対しても研究を実施した(図6A)。30mg/kg/日×21日という中間用量のMUC1/CQCペプチドの投与は、腫瘍増殖の停止に関連していた(図6A)。さらに、処理後の31日にわたって明白な再増殖はなく(図6A)、MUC1/CQCペプチドが腫瘍増殖の停止において有効であることがさらに示された。52日目に採集された腫瘍は、広範囲の壊死区域(図6B)およびMUC1発現のダウンレギュレーションを示した。これらの所見は、MUC1/CQCペプチドが、MUC1発現をダウンレギュレートし、壊死の誘導および腫瘍増殖の長期的な停止に関連していることを示している。
【0114】
MUC1-C末端CQCステープルドペプチド。多くの生物学的経路を支配する細胞内タンパク質間相互作用は、高頻度に、タンパク質のαヘリックス構造により媒介される。ヘリックス状ペプチドも、タンパク質間相互作用に干渉するかまたはタンパク質間相互作用を安定化させることができる。ネイティブのヘリックス状ペプチドは、低い効力、不安定性、および細胞への非効率的な送達のため、治療剤としての主要な欠点を有する。最近の研究は、炭化水素ステープリングと名付けられたαヘリックス状ペプチドの化学的修飾により、これらの問題が克服され得ることを示した。
【0115】
本発明者らは、MUC1-C末端内在性ペプチド配列
を使用し、炭化水素ステープリングを使用して、2種のαヘリックス状ペプチドGO-200-1BおよびGO-200-2Bを作成した。
【0116】
GO-200-1Bへの曝露が、非小細胞肺癌細胞の増殖に影響を与えるか否かを判定するため、H-1650細胞を、7日間、1μMおよび5μM GO-200-1Bにより処理し、増殖についてモニタリングした。結果は、5μM GO-200-1Bによる細胞の処理が、増殖の有意な阻害に関連していたことを証明している(図9A)。さらに、別の非小細胞肺癌細胞株H-1975を、3日間、5μM GO-200-2Bにより処理し、細胞増殖および細胞死についてモニタリングした。結果は、3日間のGO-200-2BによるH-1975細胞の処理が、細胞増殖の80%を越える阻害に関連していたことを証明している。さらに、GO-200-2Bは、細胞死の有意な誘導にも関連していた(図9B)。これらの所見は、ステープルドMUC1-Cペプチドが、ヒトMUC1陽性癌細胞の増殖停止および死滅の誘導において有効であることを示している。
【0117】
GO-203アナログ。本発明者らの最近の研究は、MUC1 C末端ペプチド
が、複数の癌細胞株の増殖を阻害する活性を有することを示した。本発明者らは、より短いMUC1 C末端ペプチドCQCRRKNを腫瘍細胞を死滅させる活性を有することを証明した。しかしながら、これらのMUC1-C末端ペプチドはL-アミノ酸からなる。重要なことに、L-アミノ酸を含むペプチドは、タンパク分解酵素による分解への感受性が高く、D-アミノ酸を含有しているものは、より安定していることが示されている。従って、本発明者らは、L-アミノ酸をD-アミノ酸に変化させた、上記のより短いMUC1 C末端ペプチドの全右旋性型(GO-203)を作成した。さらに、細胞死滅活性を保持するために必要とされる、MUC1-C末端領域からの最低アミノ酸残基を決定するため、図8に記載されるようなGO-203の多くの異なるバージョンも作成した。
【0118】
複数の腫瘍細胞株(ZR-75-1ホルモン依存性乳癌;MDA-MB-231三重陰性乳癌;A549非小細胞肺癌;H-1975非小細胞肺癌)を、10%熱不活化ウシ胎仔血清、100単位/mLペニシリンおよび100μg/mLストレプトマイシン、ならびに2mmol/L L-グルタミンが補足されたRPMI-1640で培養した。細胞を、3〜7日間、5μMのGO-203の異なるアナログ(図8)により別々に処理し、生存能をトリパンブルー排除により決定した。異なる細胞株の増殖を、媒体のみにより処理された細胞と比較した。結果は、5μMのGO-203の異なるアナログによる複数の腫瘍細胞株の処理が、増殖の有意な阻害に関連していたことを証明している(図10〜14)。
【0119】
組み合わせ治療。CombiToolプログラムにより生成された組み合わせ指数(CI)値を、薬物組み合わせにより影響を受けた画分に対してプロットした。シスプラチンとGO-203についてのCI値は、1に近く、相加的な相互作用が示された。ドキソルビシン(25nM、50nM、100nM、200nM)とGO-203、タキソール(25nM、50nM、100nM)とGO-203、およびTNF(10ng/ml、20ng/ml、40ng/ml)とGO-203について入手されたCI値は、1未満であり、強力な相加効果または相乗性が支持された(図15A〜Dおよび16)。
【0120】
実施例3−考察
MUC1/CQCペプチドはMUC1オリゴマー化を阻止する。MUC1の過剰発現は、足場非依存性の増殖および腫瘍原性の誘導のために十分である(Li et al., 2003a;Huang et al., 2003;Huang et al., 2005)。しかしながら、顕著に、MUC1の形質転換機能は、細胞質ドメイン内のCQCモチーフのAQAへの変異により排除される(Leng et al., 2007)。MUC1はオリゴマーを形成し、CQCモチーフはこのオリゴマー化のために必要である(Leng et al., 2007)。さらに、オリゴマー形成は、MUC1-Cサブユニットの核へのターゲティングのために必要である(Leng et al., 2007)。Wnt/βカテニンおよびIKKβ→NF-κB経路の活性化のようなMUC1-Cサブユニットのその他の機能も、MUC1-Cオリゴマーの形成に依存する(未公表のデータ)。これらの所見に基づき、本発明者らは、低分子によるMUC1オリゴマー化の破壊がMUC1の形質転換機能を阻止する可能性を有するであろうと推論した。それに関して、本発明者らは、CQCモチーフと、細胞への進入のためのポリArg細胞送達ドメインとを含有しているMUC1由来ペプチドを合成した。このMUC1/CQCペプチドによる初期の研究は、それがインビトロでMUC1-CDのオリゴマー化を阻害することを示した。BIAcore分析により以前に示されたように、MUC1-CDは、33nMという解離定数(Kd)で二量体を形成する(Leng et a1, 2007)。MUC1/CQCペプチドは、同様に、30nMというKdでMUC1-CDに結合した。さらに、MUC1/AQAペプチドが、MUC1オリゴマー化に対する効果を、たとえ有していたとしても、ほとんど有していなかったことの証明は、CQCモチーフへの依存性についての支持を提供した。MUC1/CQCは、細胞におけるMUC1-CDオリゴマー化の阻止においても有効であったが、MUC1/AQAはそうでなかった。従って、これらの所見は、MUC1/CQCペプチドが、MUC1オリゴマー化を破壊し、それにより、可能性として、ヒト乳癌細胞におけるMUC1の機能を破壊するために使用され得ることを示した。
【0121】
MUC1過剰発現癌細胞に対するMUC1/CQCペプチドの選択性。ポリD-Argのような細胞送達ドメインおよびそれらのコンジュゲートは、少なくとも大部分が、エンドサイトーシスにより細胞に進入し、次いで、それらの意図された標的に到達する必要がある(Fischer, 2007)。ZR-75-1乳癌細胞へのMUC1/CQCペプチドの進入は、容易に検出可能であり、少なくとも24時間持続した。意義深いことに、そしてMUC1の核へのターゲティングがオリゴマー化に依存すること(Leng et al., 2007)と一致して、MUC1/CQCペプチドの取り込みは、核におけるMUC1-Cレベルのダウンレギュレーションに関連していた。類似の結果がMCF-7乳癌細胞でも入手され、MUC1/CQCペプチドに対するこの応答が細胞特異的ではないことが示された。さらに、顕著に、MUC1/CQCへのこれらの細胞の曝露は、増殖停止および壊死の誘導に関連していたが、MUC1/AQAではそうでなかった。重要であるのは、MUC1/CQCがその意図された標的の発現に依存する機序により死滅を誘導するのか、それとも非特異的な細胞毒素であるのか、である。それに関して、ZR-75-1細胞におけるMUC1のサイレンシングは、MUC1/CQC細胞毒性効果を排除した。対照的に、非悪性MCF-10A乳房上皮細胞のMUC1/CQCペプチドへの曝露は、効果をほとんど有していなかった。これらの所見は、MUC1/CQCペプチドに対する感受性が、MUC1の過剰発現および悪性表現型に関連したMUC1の機能に依存することを示している。従って、MUC1/CQCペプチドは、MUC1を過剰発現する癌細胞に対して選択的なドミナントネガティブ活性を有すると考えられる。
【0122】
MUC1/CQCペプチドの抗腫瘍活性。細胞送達ドメインは、治療用カーゴを送達するために使用されている(Fischer, 2007)。しかしながら、これらの薬剤の場合と同様に、最も重要な問題は、MUC1/CQCペプチドが、抗腫瘍活性および許容される毒性プロファイルである有効な治療指数でインビボ送達され得るか否かである。この問題を解決するため、本発明者らは、21日間の10mg/kg/日および30mg/kg/日のMUC1/CQCペプチドの投与が、明白な急性毒性なしによく耐容されることを見出した。また、これらの用量での処理が、腫瘍増殖を排除するために有効であることも見出した。これらの結果は、抗腫瘍活性を有していなかった、21日間の50mg/kg/日のMUC1/AQAペプチドの投与とは対照的であった。さらに、多少驚くべきことに、21日間の30mg/kg/日での投薬の後、腫瘍再増殖の証拠はなかった。7日間の50mg/kg/日でのMUC1/CQCペプチドの投与は、腫瘍増殖が、処理後も長期にわたり阻止され続けることも証明した。これらの結果は、少なくとも部分的には、MUC1/CQCペプチドによる処理が、腫瘍壊死の誘導に関連しているという所見によって説明される。
【0123】
MUC1/CQC 7-merのインビトロ活性はMUC1/CQC 15-merと同等に強力である。これらの所見に基づき、MUC1/CQC 7-merも、インビボ腫瘍モデルにおいて抗腫瘍剤としての活性を有するであろうと期待される。
【0124】
本明細書に開示され特許請求の範囲に記載された組成物および/または方法は、全て、本開示を考慮すれば、過度の実験なしに作成され実行され得る。本発明の組成物および方法を好ましい態様に関して記載したが、本発明の概念、本旨、および範囲から逸脱することなく、本明細書に記載された組成物および/または方法、方法の工程、または方法の工程の順序に、変動が適用され得ることは、当業者には明白であろう。より具体的には、化学的にも生理学的にも関連しているある種の薬剤を、本明細書に記載された薬剤の代わりに用いても、同一または類似の結果が達成され得ることが、明白であろう。当業者に明白なそのような類似の代替物および修飾は、全て、添付の特許請求の範囲により定義されるような本発明の本旨、範囲、および概念に含まれると見なされる。
【0125】
VII. 参照
以下の参照は、本明細書に示されたものを補足する例示的な手順またはその他の詳細を提供する程度に、参照により具体的に本明細書に組み入れられる。
【図1A】
【図1B】
【図1C】
【図1D】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図3D】
【図4A】
【図4B】
【図4C】
【図4D】
【図4E】
【図5A】
【図5B】
【図5C】
【図6A】
【図6B】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
MUC1ペプチドを対象へ投与する工程を含む、対象におけるMUC1陽性腫瘍細胞を阻害する方法であって、MUC1ペプチドが、少なくとも4個、多くとも20個の連続MUC1残基であり、かつ配列CQC(SEQ ID NO:4)を含み、CQCのアミノ末端システインが、そのNH2末端において、ネイティブMUC-1膜貫通配列に相当しなくてもよい少なくとも1個のアミノ酸残基によりカバーされている、方法。
【請求項2】
ペプチドが、少なくとも5個、6個、7個、または8個の連続MUC1残基を含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
ペプチドが、MUC1の多くとも10個の連続残基、11個の連続残基、12個の連続残基、13個の連続残基、14個の連続残基、15個の連続残基、16個の連続残基、17個の連続残基、18個の連続残基、または19個の連続残基を含有している、請求項1記載の方法。
【請求項4】
MUC1陽性腫瘍細胞が、癌細胞、白血病細胞、または骨髄腫細胞である、請求項1記載の方法。
【請求項5】
癌細胞が、前立腺癌細胞または乳癌細胞である、請求項4記載の方法。
【請求項6】
ペプチドが細胞送達ドメインと融合している、請求項1記載の方法。
【請求項7】
細胞送達ドメインが、ポリD-R、ポリD-P、またはポリD-Kである、請求項6記載の方法。
【請求項8】
投与する工程が、静脈内投与、動脈内投与、腫瘍内投与、皮下投与、局所投与、または腹腔内投与を含む、請求項1記載の方法。
【請求項9】
投与する工程が、局所投与、局部投与、全身投与、または連続投与を含む、請求項1記載の方法。
【請求項10】
阻害することが、腫瘍細胞の増殖停止、腫瘍細胞のアポトーシス、および/または腫瘍細胞を含む腫瘍組織の壊死の誘導を含む、請求項1記載の方法。
【請求項11】
対象に第二の抗癌治療を適用する工程をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項12】
第二の抗癌治療が、手術、化学療法、放射線療法、ホルモン療法、毒素療法、免疫療法、および凍結療法である、請求項11記載の方法。
【請求項13】
第二の抗癌治療がペプチドより前に適用される、請求項11記載の方法。
【請求項14】
第二の抗癌治療がペプチドより後に適用される、請求項11記載の方法。
【請求項15】
第二の抗癌治療がペプチドと同時に適用される、請求項11記載の方法。
【請求項16】
対象がヒトである、請求項1記載の方法。
【請求項17】
ペプチドが0.1〜500mg/kg/日で投与される、請求項1記載の方法。
【請求項18】
ペプチドが10〜100mg/kg/日で投与される、請求項1記載の方法。
【請求項19】
ペプチドが毎日投与される、請求項1記載の方法。
【請求項20】
ペプチドが、7日間、2週間、3週間、4週間、1ヶ月間、6週間、8週間、2ヶ月間、12週間、または3ヶ月間、毎日投与される、請求項19記載の方法。
【請求項21】
ペプチドが毎週投与される、請求項1記載の方法。
【請求項22】
ペプチドが、2週間、3週間、4週間、6週間、8週間、10週間、または12週間、毎週投与される、請求項21記載の方法。
【請求項23】
ペプチドが全てLアミノ酸を含む、請求項1記載の方法。
【請求項24】
ペプチドが全てDアミノ酸を含む、請求項1記載の方法。
【請求項25】
ペプチドがLアミノ酸とDアミノ酸との混合物を含む、請求項1記載の方法。
【請求項26】
ペプチドを投与する工程の前に、対象の腫瘍細胞におけるMUC1の発現を査定する工程をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項27】
対象の腫瘍細胞におけるMUC1の発現に対するペプチドの効果を査定する工程をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項28】
(a)少なくとも4個、多くとも20個の連続MUC1残基であり、かつ配列CQCを含むMUC1ペプチドであって、CQCのアミノ末端システインが、そのNH2末端において、ネイティブMUC1膜貫通配列に相当しなくてもよい少なくとも1個のアミノ酸残基によりカバーされている、MUC1ペプチドと、(b)薬学的に許容される担体、緩衝剤、または希釈剤とを含む、薬学的組成物。
【請求項29】
ペプチドが、少なくとも5個、6個、7個、または8個の連続MUC1残基である、請求項28記載の組成物。
【請求項30】
ペプチドが、MUC1の多くとも10個の連続残基、11個の連続残基、12個の連続残基、13個の連続残基、14個の連続残基、15個の連続残基、16個の連続残基、17個の連続残基、18個の連続残基、または19個の連続残基である、請求項28記載の組成物。
【請求項31】
ペプチドが細胞送達ドメインまたは細胞導入ドメインと融合している、請求項28記載の組成物。
【請求項32】
細胞導入ドメインがHIV tat細胞導入ドメインである、請求項31記載の組成物。
【請求項33】
細胞送達ドメインが、ポリD-R、ポリD-P、またはポリD-Kである、請求項31記載の組成物。
【請求項34】
ペプチドが少なくとも8残基長であり、少なくとも2個の非隣接残基が側鎖を介したブリッジを形成する、請求項28記載の組成物。
【請求項35】
ブリッジが、リンカー、化学的に修飾された側鎖、または炭化水素ステープリングを含む、請求項34記載の組成物。
【請求項36】
リンカーが、ペプチドのαヘリックス構造を安定化させる修飾を含む、請求項34記載の組成物。
【請求項37】
緩衝剤が、β-メルカプトエタノール、グルタチオン、またはアスコルビン酸を含む、請求項28記載の組成物。
【請求項38】
MUC1発現細胞をMUC1ペプチドと接触させる工程を含む、細胞におけるMUC1のオリゴマー化および核輸送を阻害する方法であって、MUC1ペプチドが、少なくとも4個、多くとも20個の連続MUC1残基であり、かつ配列CQCを含み、CQCのアミノ末端システインが、そのNH2末端において、ネイティブMUC1膜貫通配列に相当しなくてもよい少なくとも1個のアミノ酸残基によりカバーされている、方法。
【請求項39】
ペプチドが、MUC1の少なくとも5個、6個、7個、または8個の連続残基である、請求項38記載の方法。
【請求項40】
ペプチドが、MUC1の多くとも10個の連続残基、11個の連続残基、12個の連続残基、13個の連続残基、14個の連続残基、15個の連続残基、16個の連続残基、17個の連続残基、18個の連続残基、または19個の連続残基である、請求項38記載の方法。
【請求項41】
ペプチドが細胞送達ドメインと融合している、請求項38記載の方法。
【請求項42】
細胞送達ドメインが、ポリD-R、ポリD-P、またはポリD-Kである、請求項41記載の方法。
【請求項43】
MUC1発現細胞が腫瘍細胞である、請求項43記載の方法。
【請求項44】
MUC1陽性腫瘍細胞が、癌細胞、白血病細胞、または骨髄腫細胞である、請求項43記載の方法。
【請求項45】
癌細胞が、前立腺癌細胞または乳癌細胞である、請求項44記載の方法。
【請求項46】
腫瘍細胞が、生存している対象に存在する、請求項43記載の方法。
【請求項47】
生存している対象がヒト対象である、請求項46記載の方法。
【請求項48】
MUC1ペプチドの構造およびMUC-1結合能を模倣するペプチド模倣体であって、MUC1ペプチドが、少なくとも4個、多くとも20個の連続MUC1残基であり、かつ配列CQCを含み、CQCのアミノ末端システインが、そのNH2末端において、ネイティブMUC1膜貫通配列に相当しなくてもよい少なくとも1個のアミノ酸残基によりカバーされている、ペプチド模倣体。
【請求項49】
少なくとも4個、多くとも20個の連続MUC1残基であり、かつ配列CQCを含むMUC1ペプチドであって、該ペプチドの全アミノ酸残基がD-アミノ酸である、MUC1ペプチド。
【請求項50】
配列KRRCQCを含む、請求項49記載のペプチド。
【請求項1】
MUC1ペプチドを対象へ投与する工程を含む、対象におけるMUC1陽性腫瘍細胞を阻害する方法であって、MUC1ペプチドが、少なくとも4個、多くとも20個の連続MUC1残基であり、かつ配列CQC(SEQ ID NO:4)を含み、CQCのアミノ末端システインが、そのNH2末端において、ネイティブMUC-1膜貫通配列に相当しなくてもよい少なくとも1個のアミノ酸残基によりカバーされている、方法。
【請求項2】
ペプチドが、少なくとも5個、6個、7個、または8個の連続MUC1残基を含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
ペプチドが、MUC1の多くとも10個の連続残基、11個の連続残基、12個の連続残基、13個の連続残基、14個の連続残基、15個の連続残基、16個の連続残基、17個の連続残基、18個の連続残基、または19個の連続残基を含有している、請求項1記載の方法。
【請求項4】
MUC1陽性腫瘍細胞が、癌細胞、白血病細胞、または骨髄腫細胞である、請求項1記載の方法。
【請求項5】
癌細胞が、前立腺癌細胞または乳癌細胞である、請求項4記載の方法。
【請求項6】
ペプチドが細胞送達ドメインと融合している、請求項1記載の方法。
【請求項7】
細胞送達ドメインが、ポリD-R、ポリD-P、またはポリD-Kである、請求項6記載の方法。
【請求項8】
投与する工程が、静脈内投与、動脈内投与、腫瘍内投与、皮下投与、局所投与、または腹腔内投与を含む、請求項1記載の方法。
【請求項9】
投与する工程が、局所投与、局部投与、全身投与、または連続投与を含む、請求項1記載の方法。
【請求項10】
阻害することが、腫瘍細胞の増殖停止、腫瘍細胞のアポトーシス、および/または腫瘍細胞を含む腫瘍組織の壊死の誘導を含む、請求項1記載の方法。
【請求項11】
対象に第二の抗癌治療を適用する工程をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項12】
第二の抗癌治療が、手術、化学療法、放射線療法、ホルモン療法、毒素療法、免疫療法、および凍結療法である、請求項11記載の方法。
【請求項13】
第二の抗癌治療がペプチドより前に適用される、請求項11記載の方法。
【請求項14】
第二の抗癌治療がペプチドより後に適用される、請求項11記載の方法。
【請求項15】
第二の抗癌治療がペプチドと同時に適用される、請求項11記載の方法。
【請求項16】
対象がヒトである、請求項1記載の方法。
【請求項17】
ペプチドが0.1〜500mg/kg/日で投与される、請求項1記載の方法。
【請求項18】
ペプチドが10〜100mg/kg/日で投与される、請求項1記載の方法。
【請求項19】
ペプチドが毎日投与される、請求項1記載の方法。
【請求項20】
ペプチドが、7日間、2週間、3週間、4週間、1ヶ月間、6週間、8週間、2ヶ月間、12週間、または3ヶ月間、毎日投与される、請求項19記載の方法。
【請求項21】
ペプチドが毎週投与される、請求項1記載の方法。
【請求項22】
ペプチドが、2週間、3週間、4週間、6週間、8週間、10週間、または12週間、毎週投与される、請求項21記載の方法。
【請求項23】
ペプチドが全てLアミノ酸を含む、請求項1記載の方法。
【請求項24】
ペプチドが全てDアミノ酸を含む、請求項1記載の方法。
【請求項25】
ペプチドがLアミノ酸とDアミノ酸との混合物を含む、請求項1記載の方法。
【請求項26】
ペプチドを投与する工程の前に、対象の腫瘍細胞におけるMUC1の発現を査定する工程をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項27】
対象の腫瘍細胞におけるMUC1の発現に対するペプチドの効果を査定する工程をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項28】
(a)少なくとも4個、多くとも20個の連続MUC1残基であり、かつ配列CQCを含むMUC1ペプチドであって、CQCのアミノ末端システインが、そのNH2末端において、ネイティブMUC1膜貫通配列に相当しなくてもよい少なくとも1個のアミノ酸残基によりカバーされている、MUC1ペプチドと、(b)薬学的に許容される担体、緩衝剤、または希釈剤とを含む、薬学的組成物。
【請求項29】
ペプチドが、少なくとも5個、6個、7個、または8個の連続MUC1残基である、請求項28記載の組成物。
【請求項30】
ペプチドが、MUC1の多くとも10個の連続残基、11個の連続残基、12個の連続残基、13個の連続残基、14個の連続残基、15個の連続残基、16個の連続残基、17個の連続残基、18個の連続残基、または19個の連続残基である、請求項28記載の組成物。
【請求項31】
ペプチドが細胞送達ドメインまたは細胞導入ドメインと融合している、請求項28記載の組成物。
【請求項32】
細胞導入ドメインがHIV tat細胞導入ドメインである、請求項31記載の組成物。
【請求項33】
細胞送達ドメインが、ポリD-R、ポリD-P、またはポリD-Kである、請求項31記載の組成物。
【請求項34】
ペプチドが少なくとも8残基長であり、少なくとも2個の非隣接残基が側鎖を介したブリッジを形成する、請求項28記載の組成物。
【請求項35】
ブリッジが、リンカー、化学的に修飾された側鎖、または炭化水素ステープリングを含む、請求項34記載の組成物。
【請求項36】
リンカーが、ペプチドのαヘリックス構造を安定化させる修飾を含む、請求項34記載の組成物。
【請求項37】
緩衝剤が、β-メルカプトエタノール、グルタチオン、またはアスコルビン酸を含む、請求項28記載の組成物。
【請求項38】
MUC1発現細胞をMUC1ペプチドと接触させる工程を含む、細胞におけるMUC1のオリゴマー化および核輸送を阻害する方法であって、MUC1ペプチドが、少なくとも4個、多くとも20個の連続MUC1残基であり、かつ配列CQCを含み、CQCのアミノ末端システインが、そのNH2末端において、ネイティブMUC1膜貫通配列に相当しなくてもよい少なくとも1個のアミノ酸残基によりカバーされている、方法。
【請求項39】
ペプチドが、MUC1の少なくとも5個、6個、7個、または8個の連続残基である、請求項38記載の方法。
【請求項40】
ペプチドが、MUC1の多くとも10個の連続残基、11個の連続残基、12個の連続残基、13個の連続残基、14個の連続残基、15個の連続残基、16個の連続残基、17個の連続残基、18個の連続残基、または19個の連続残基である、請求項38記載の方法。
【請求項41】
ペプチドが細胞送達ドメインと融合している、請求項38記載の方法。
【請求項42】
細胞送達ドメインが、ポリD-R、ポリD-P、またはポリD-Kである、請求項41記載の方法。
【請求項43】
MUC1発現細胞が腫瘍細胞である、請求項43記載の方法。
【請求項44】
MUC1陽性腫瘍細胞が、癌細胞、白血病細胞、または骨髄腫細胞である、請求項43記載の方法。
【請求項45】
癌細胞が、前立腺癌細胞または乳癌細胞である、請求項44記載の方法。
【請求項46】
腫瘍細胞が、生存している対象に存在する、請求項43記載の方法。
【請求項47】
生存している対象がヒト対象である、請求項46記載の方法。
【請求項48】
MUC1ペプチドの構造およびMUC-1結合能を模倣するペプチド模倣体であって、MUC1ペプチドが、少なくとも4個、多くとも20個の連続MUC1残基であり、かつ配列CQCを含み、CQCのアミノ末端システインが、そのNH2末端において、ネイティブMUC1膜貫通配列に相当しなくてもよい少なくとも1個のアミノ酸残基によりカバーされている、ペプチド模倣体。
【請求項49】
少なくとも4個、多くとも20個の連続MUC1残基であり、かつ配列CQCを含むMUC1ペプチドであって、該ペプチドの全アミノ酸残基がD-アミノ酸である、MUC1ペプチド。
【請求項50】
配列KRRCQCを含む、請求項49記載のペプチド。
【図7】
【図8】
【図9A】
【図9B】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15A】
【図15B】
【図15C】
【図15D】
【図16】
【図8】
【図9A】
【図9B】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15A】
【図15B】
【図15C】
【図15D】
【図16】
【公表番号】特表2012−505922(P2012−505922A)
【公表日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−532295(P2011−532295)
【出願日】平成21年10月16日(2009.10.16)
【国際出願番号】PCT/US2009/061051
【国際公開番号】WO2010/045586
【国際公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【出願人】(399052796)デイナ ファーバー キャンサー インスティチュート,インコーポレイテッド (36)
【出願人】(511095713)ジーナス オンコロジー リミテッド ライアビリティ カンパニー (2)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年10月16日(2009.10.16)
【国際出願番号】PCT/US2009/061051
【国際公開番号】WO2010/045586
【国際公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【出願人】(399052796)デイナ ファーバー キャンサー インスティチュート,インコーポレイテッド (36)
【出願人】(511095713)ジーナス オンコロジー リミテッド ライアビリティ カンパニー (2)
【Fターム(参考)】
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