説明

癌免疫療法におけるIi−RNAi関与Ii抑制

【課題】抗原提示経路の改変を目的とした細胞におけるIi発現の阻害に関連する組成物および方法を提供する。また、siRNA、およびIi発現を阻害するのに有効なsiRNAをコードするDNA配列を含む発現構築物、かかるDNA構築物またはsiRNAを含む細胞、ならびにその使用方法を提供する。
【解決手段】ヒトの癌細胞でのIi発現を有効に阻害するヒトIi−RNAi構築物を作製した。Ii mRNAの異なる位置を標的化する異なるIi−RNAi構築物の組合せは、Ii阻害に対して相乗効果を有する。さらに、Ii−RNAi発現を駆動するための特異的プロモーターは、種々の細胞型におけるIi−RNAiの活性に不可欠である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗原提示経路の改変を目的とした細胞におけるIi発現の阻害に関連する組成物および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
特異的抗原に対する免疫応答は、Tリンパ球による該抗原のペプチド断片の認識によって調節される。抗原提示細胞内では、プロセシングされた抗原のペプチド断片が、主要組織適合遺伝子複合体(MHC)分子の抗原ペプチド結合部位内に結合された状態になる。このようなペプチド−MHC複合体は、次いで、細胞表面に輸送され、ヘルパーまたは細胞傷害性Tリンパ球上のT細胞受容体によって(外来ペプチドと、提示しているMHC分子の隣接表面の両方が)認識される。ペプチドを送達するMHC分子には2つのクラス、すなわちMHCクラスIとMHCクラスIIがある。
【0003】
MHCクラスI分子は、抗原をCD8陽性細胞傷害性Tリンパ球(Tキラー細胞)に提示する。すると、Tリンパ球は、活性化状態となり、抗原提示細胞を直接死滅させることができる。MHCクラスI分子は、内因的に合成されたタンパク質(感染性ウイルスなど)に由来するペプチドをその合成中に、小胞体内で独占的に受け取る。
【0004】
MHCクラスII分子は、抗原をCD4陽性ヘルパーTリンパ球(Tヘルパー細胞)に提示する。活性化されると、Tヘルパー細胞は、物理的接触およびサイトカイン放出によって細胞傷害性Tリンパ球とBリンパ球の活性化に寄与する。MHCクラスI分子とは異なり、MHCクラスII分子は、非特異的または特異的エンドサイトーシスによってインターナリゼーションされた外因性抗原に結合する。MHCクラスIIと会合したインバリアント鎖タンパク質(Ii)は、通常、内因性ペプチドのプロセシングを遮断し、MHCへの結合および抗原提示を妨げる。
【0005】
Iiタンパク質の別の主要な機能は、MHCクラスII分子への外因性ペプチドの負荷を強化することである(Xu, M.ら、Mol Immunol 31: 723-731 (1994);Daibata, M.ら、Mol Immunol 31: 255-260 (1994);Reyes, V.E.ら、Ann N Y Acad Sci 730: 338-341 (1994))。Iiタンパク質は、通常、合成時に小胞体内でMHCクラスII分子に結合し、MHCクラスII分子上のエピトープ結合部位を、小胞体内で内部由来のエピトープに結合すること(これは、通常、MHCクラスI分子の場合に起こる)から保護する(Bertolino, P.およびRabourdin-Combe、C., Crit Rev Immunol 16: 359-379 (1996);Bodmer, H.ら、Science 263: 1284-1286 (1994))。このようなMHCクラスII−Iiタンパク質複合体は、小胞体から抗原ペプチド結合区画であるポストゴルジ(post−Golgi)に輸送され、そこでIiがタンパク質分解によって放出され、外因性抗原ペプチドが結合する(Daibataら、Molecular Immunology 31: 255-260 (1994);Xuら、Molecular Immunology 31: 723-731 (1994);Bakke, O.およびDobberstein B., Cell 63: 707-716(1990);Lamb, C.A.およびCresswell, P., J Immunol 148: 3478-3482 (1992);Blum, J.S.およびCresswell, P., Proc Natl Acad Sci USA 85: 3975-3979 (1988))。かかる区画内では、Iiがプロテアーゼによって切断され、外来エピトープの負荷が許容される。エピトープが負荷されると、MHCクラスII/エピトープ複合体は、CD4+ Th細胞への提示のために細胞表面に移動する(Nguyen, Q.Vら、Hum Immunol 24: 153-163 (1989);Shi, G.P.ら、J Exp Med 191: 1177-1186 (2000);Riese, R. J.ら、Immunity 4: 357-366 (1996);Hiltbold, E.M.およびRoche, P.A., Curr Opin Immunol 14: 30-35 (2002))。
【0006】
通常の条件下では、内因性ペプチド(自己免疫疾患に至る可能性のある自己決定基を有する)は、Iiタンパク質が常に発生期のMHCクラスII分子と同時合成されるため、MHCクラスII分子に結合しない。自己決定基ペプチドとMHCクラスII分子とを含む複合体は、身体の免疫監視機構系では決して見られないため、このような決定基に対する耐容性は発現されない。これが発現される個体においてMHCクラスII分子がIiによって阻害されない場合、内因性自己決定基がMHCクラスII分子に提示された状態となり、該内因性抗原に対する自己免疫応答が起始される。これは、ある種の自己免疫疾患における場合である。悪性細胞においてかかる効果を操作することにより、腫瘍の内因性抗原に対する「自己免疫応答」が、増殖を制止させるために、または腫瘍細胞を排除するために、治療的に使用され得る。
【0007】
腫瘍細胞株およびラット腫瘍モデルにおけるIiタンパク質の抑制により、腫瘍抗原提示が誘導され、抗原特異的な腫瘍細胞の死滅が増強されることが示されている。Iiタンパク質が同時に増加することなくMHCクラスII分子発現が増大するという治療効果が、MHCクラスII陰性Ii陰性腫瘍で示されている(Ostrand-Rosenbergら、Journal of Immunol.144: 4068-4071 (1990);Clementsら、Journal of Immunol.149: 2391-2396 (1992);Baskarら、Cell. Immunol. 155: 123-133 (1994);Baskarら、J. Exp.Med.181: 619-629 (1995);およびArmstrongら、Proc. Natl.Acad.Sci. USA 94: 6886-6891 (1997))。これらの研究では、MHCクラスII陰性マウス肉腫へのMHCクラスII分子の遺伝子のトランスフェクションにより、MHCクラスII陽性だがIi陰性の腫瘍細胞株が生じた。この細胞をMHC適合性宿主に注射すると、親腫瘍の増殖遅延がもたらされた。Iiタンパク質の遺伝子を肉腫細胞株内にMHCクラスII遺伝子とともにコトランスフェクションすると、Ii鎖によって内因性腫瘍抗原の提示が遮断されたため、MHCクラスII遺伝子の腫瘍治療効果が阻害された。同等の結果がマウス黒色腫で得られている(ChenおよびAnanthaswamy, Journal of Immunology 151: 244-255 (1993))。
【0008】
この治療アプローチの好成績には、樹状細胞の天然の活性が関与していると考えられる。樹状細胞は、外来抗原をペプチドにプロセシングしてMHC抗原由来のTリンパ球の細胞表面に提示するプロフェッショナルスカベンジャーである。樹状細胞は、MHCクラスIとクラスII分子の両方によって抗原を提示し、両MHC分子がTヘルパーとTキラー細胞の両方を活性化させるのを可能にする能力を有する。強力なTキラー細胞応答を惹起するには有効なTヘルパー細胞応答が必要とされ、樹状細胞によってもたらされた複合活性化により、抗腫瘍応答の増大がもたらされると考えられる(Ridgeら、Nature 193: 474-477 (1998);Schoenbergerら、Nature 193: 480-483 (1998))。マクロファージ系の樹状細胞は、腫瘍細胞を発見すると、腫瘍特異的抗原と腫瘍関連抗原の両方を貪食し、プロセシングする。次いで、該樹状細胞はリンパ節(これは、腫瘍部位を排出する)に遊走し、リンパ節内の皮質付近に留まる。該皮質では新たなT細胞が発生する。リンパ節皮質では、樹状細胞上の腫瘍決定基を認識する休止Tキラー細胞が活性化状態となって増殖し、続いて、循環系内にコンピテントな抗腫瘍キラーT細胞として放出される。
【0009】
Tヘルパー細胞との相互作用により、樹状細胞が活性化、あるいはMHCクラスI分子による抗原提示が「ライセンス許可(license)」され、したがってTキラー細胞が活性化されるが、Tヘルパー細胞とTキラー細胞との同時相互作用は必要ではない。活性化された樹状細胞は、Tヘルパー細胞が媒介する活性化後しばらくの間、Tキラー細胞を刺激する能力を維持している。MHCクラスIIまたはMHCクラスIのいずれかの決定基に提示された状態となったそれぞれの抗原ペプチドは、1種類の抗原タンパク質に由来するものである必要はなく、悪性細胞由来の2種類以上の抗原が樹状細胞によってプロセシングされ、提示されることがあり得る。したがって、1つの決定基に対するライセンス許可は、ある場合には腫瘍特異的でなく、他に対してTキラー細胞の活性化をライセンス許可する力を有し、ある場合には腫瘍特異的決定基である。かかる「マイナー」または「潜在性」決定基は、種々の治療目的に使用されている(Mougdilら、J. Immunol. 159: 2574-2579 (1997))。
【0010】
MHCクラスII抗原提示の実験的な改変は、免疫応答をこのようなマイナー決定基まで拡張すると考えられる。通常はMHCクラスII分子への負荷に利用可能でないこの一連のペプチドは、MHCクラスII提示のための種々のペプチドの豊富な供給源を提供する。この一連の決定基の利用(exploitation)により、応答性Tヘルパー細胞集団の拡張がもたらされる。かかる拡張集団によって樹状細胞のライセンス許可を誘発することができ、その一部は、腫瘍特異的決定基および腫瘍関連決定基に対するものである。正常細胞も腫瘍細胞決定基を共有している可能性があるが、正常細胞に対して起こる細胞損傷は軽微なものにすぎない。これは、抗腫瘍応答の多重エフェクター応答(大量のキラーT細胞、周囲活性化サイトカイン、食作用マクロファージおよびこれらの産物など)が正常細胞に対して指向されないためである。
【0011】
正常なMHCクラスII抗原提示は、MHCクラスII分子とIiタンパク質との相互作用を阻害することにより改変され得る。これは、Iiタンパク質の総量を減少させること(例えば、発現を減少させること)、あるいはIiの免疫調節機能に干渉することによってなされる。Ii発現の阻害は、種々のアンチセンス手法を用いてなされている。Iiタンパク質のmRNAのAUG部位と相互作用するアンチセンスオリゴヌクレオチドは、外因性抗原のMHCクラスII提示を減少させると報告されている(Bertolinoら、Internat. Immunology 3: 435-443 (1991))。しかしながら、Iiタンパク質の発現およびMHCクラスII分子による内因性抗原の提示に対する効果は検討されなかった。最近になって、Humphreysらにより、米国特許第5,726,020号(1998)において、3種類のアンチセンスオリゴヌクレオチドとともに、MHCクラスII分子を発現する抗原提示細胞内に導入されるとIiタンパク質発現を有効に抑制する逆遺伝子構築物が確認された。この機構によってIi抑制された腫瘍細胞を接種したマウスは、未処理親腫瘍細胞を接種したマウスよりも有意に長い期間生存することが示された。この観察結果は、Iiタンパク質の抑制によって抗原決定基の提示範囲の増大が生じ、したがって、腫瘍細胞に対してより有効な免疫応答が誘発されたことを示す。
【0012】
肉腫細胞(Sal1)腫瘍モデルにおいて、このIiアンチセンスオリゴヌクレオチドで処理した腫瘍細胞は、親腫瘍による攻撃に対する強力なワクチンである。臨床的に有用なインビボ治療用アンチセンス試薬として、発現可能なIiアンチセンス逆遺伝子構築物(Ii−RGC)が創製された(米国特許出願第10/127,347号)。これは、種々のIi遺伝子断片を、発現可能なプラスミドまたはアデノウイルス内に逆向きにクローニングし、多数の腫瘍細胞投与方法を評価することにより構築された(Hillmanら、Gene Ther. 10, 1512-8 (2003);Hillmanら、Human Gene Therapy 14, 763-775 (2003))。Ii−RGC遺伝子はDNAトランスフェクションによって、いくつかのマウス腫瘍細胞株、例えば、A20リンパ腫細胞、MC−38結腸腺癌細胞、Renca腎腺癌細胞、B16黒色腫細胞、およびRM−9前立腺癌細胞において評価された。最も活性の高いIi−RGC(−92,97)(AUG開始コドンのAが1位である)が、インビボ研究に使用された。
【0013】
試験された細胞株のうち、A20は既にMHCクラスII+/Ii+である。Ii−RGC(−92,97)は、この構築物を脂質または遺伝子銃によるトランスフェクション法によって送達すると、Ii発現を有意に阻害した。試験されたその他の腫瘍株は、MHCクラスII−/Ii−である。この細胞株は、インビトロでIi−RGC(−92,97)およびCIITAもしくはIFN−γのいずれかまたは両方とともにコトランスフェクトされ、MHCクラスII陽性/Ii抑制表現型が生じた(Luら、Cancer Immunol Immunother 48, 492-8 (2003);Hillmanら、Gene Ther. 10, 1512-8 (2003);Hillmanら Human Gene Therapy 14, 763-775 (2003))。また、MHCクラスII陽性/Ii抑制表現型のインビボ誘導は、脂質を伴うIi−RGCおよびCIITAプラスミドの腫瘍内注射によって生じたり(Luら、Cancer Immunol Immunother 48, 492-8 (2003);Hillmanら、Human Gene Therapy 14, 763-775 (2003))またはIi−RGC(−92,97)、CIITAおよびIFN−γを含有する組換えアデノウイルスベクターの腫瘍内注射によっても生じた(Hillmanら、Gene Ther. 10, 1512-8 (2003))。
【0014】
これらの治療用構築物のインビボ活性は、2つの腫瘍モデル、すなわちRenca腎癌およびRM−9前立腺癌を使用し、定着した皮下腫瘍内への腫瘍内注射によって試験された。両方の腫瘍モデルにおいて、定着した腫瘍の完全な退縮が達成された。Rencaモデルでは、最適より少ない用量のIL−2プラスミドと一緒に4日間にわたってCIITAおよびIi−RGCプラスミド構築物の4回の腫瘍内注射を行なった後、マウスの約50%において腫瘍退縮が観察された(Luら、Cancer Immunol Immunother 48, 492-8 (2003))。CIITA、IFN−γ、Ii−RGC構築物およびIL−2遺伝子を含有する組換えアデノウイルスを、定着したRenca腫瘍内に腫瘍内注射すると、マウスの約60〜70%において完全な腫瘍退縮が誘導され、Renca腫瘍再抗原刺激に対する保護が誘導された(Hillmanら、Gene Ther. 10, 1512-8 (2003))。侵攻性で免疫原性が不充分なRM−9前立腺腫瘍モデルでは、放射線により、最適より少ない用量のIL−2の効果が増大し、マウスの50%において完全な腫瘍退縮をもたらすMHCクラスII陽性/Ii抑制表現型が増大した(Hillmanら、Human Gene Therapy 14, 763-775, 2003)。定着したRM−9皮下腫瘍に選択的に放射線照射し、1日後、腫瘍内プラスミド遺伝子療法により、プラスミドpCIITA、pIFN−γ、pIL−2およびpIi−RGCを用いて連続4日間処置した。4種類のすべてのプラスミドで腫瘍内処置すると、遺伝子療法の1日前に腫瘍放射線照射を行なった場合にのみ、50%を超えるマウスで完全な腫瘍退縮が誘導された。放射線と腫瘍内遺伝子療法によって無腫瘍状態にし、第64日目に再抗原刺激したマウスは、RM−9抗原刺激から保護されたが、同系EL4抗原刺激からは保護されなかった。この所見により、RM−9モデルでは、腫瘍特異的免疫応答のインサイチュ誘導のための腫瘍内遺伝子療法の治療有効性が放射線によって向上したことが示された。
【0015】
最適な治療効果を得るためには、MHCクラスIIおよびIiがCIITAによって誘導されなければならず、RencaおよびRM−9の両方の腫瘍モデルにおいてIiがIi−RGCによって阻害される必要がある(Luら、Cancer Immunol Immunother 48, 492-8 (2003);Hillmanら、Human Gene Therapy 14, 763-775, 2003)。この結果は、マウス肺癌モデルにおいて、CIITAによるMHCクラスIIの誘導では効率的な腫瘍細胞ワクチンが作製されないことを示したMartinら(J Immunol 162, 6663-70 (1999))の結果と整合する。この研究により、Iiも誘導するトランスフェクトCIITAによるMHCクラスIIの誘導は、治療効果に不充分であるという所見が確認される。MHCクラスII+/Ii−の治療性表現型はまた、Iiタンパク質を抑制することによっても得られるはずである。Iiタンパク質の最適な抑制について試験するため、治療用構築物CIITAおよびIi−RGCを種々の比で使用した。良好なIiの阻害を確実にするには、少なくとも1:4の比(CIITA:Ii−RGC)が必要であった。IFN−γは、RM−9前立腺腫瘍において、親細胞では発現されないMHCクラスI分子を誘導するために使用される。Renca細胞はMHCクラスI陽性細胞であり、IFN−γは、MHCクラスI分子を誘導するのに必要とされないが、それらの分子のさらなる発現を上方調節する。両腫瘍モデルにおいて、免疫応答を促進するために必要とされるIL−2プラスミドは、治療量以下の用量である。
【0016】
このようにマウスで定着した腫瘍の治癒における有効性が明白に示されたこと、および最適な処置プロトコルを決定するために前臨床研究が着実に進行していることから、ヒトの癌を処置するための試薬が創製された。マウスの研究で使用されたCIITA遺伝子はヒト由来であり、その産物は、MHCクラスIIおよびIi遺伝子のマウスプロモーターに対して良好に機能を果たす(Tingら、Cell 109, 521-33 (1999))。ヒトBリンパ芽球様細胞株およびHeLa細胞株においてIi発現を阻害するいくつかのヒトIi−RGCが作出された。CIITA構築物で細胞に形質導入すると、細胞表面MHCクラスII分子および細胞内Iiの上方調節が誘導されたが、CIITAとhIi−RGCの両方で細胞に形質導入すると、MHCクラスII発現の増強に影響が及ぶことなくIiの抑制が引き起こされた。このデータは、ヒトBリンパ腫細胞株Rajiおよびヒト黒色腫細胞株などのさらなるヒト腫瘍細胞株で再現された。
【0017】
米国特許第10/999,208号(2004年11月29日出願、引用により本明細書に組み込まれる)では、このような方法が、新たに設計されたRNA干渉(RNAi)遺伝子構築物および合成オリゴヌクレオチドを用いて適用された。二本鎖RNA(dsRNA)は、哺乳動物細胞でのRNAiによる標的遺伝子発現の選択的阻害に使用され得る。アンチセンスとは異なり、RNAiは、RNA誘導型サイレンシング複合体(RISC)と称されるヌクレアーゼ複合体内への二本鎖RNAの組込みによって媒介され、続いて、該複合体が標的RNAを切断する。25ヌクレオチド長未満の二本鎖RNAは、ウイルス感染に特徴的なRNA応答を活性化しないことが示されている。RNA配列は、標的遺伝子RNAの任意の領域(一般的には、コード領域内)に基づいたものであり得る。合成RNAiを使用する場合、細胞は培養物中で、ナノモル濃度のRNAiの送達のためにカチオン性脂質を用いて処理される。また、活性なRNAiは、操作により発現構築物とされ得る。標的配列に相補的でないRNAiが、対照として使用される。遺伝子発現の阻害は、RNAi処理の12〜72時間後に、ウエスタン、FACSおよび/または表現型分類アッセイを用いて測定される。
【0018】
RNAiは、dsRNAが、その相補配列を有する遺伝子の発現を特異的に抑制するプロセスである(Moss, Curr. Biol. 11: R772-5 (2001);Elbashir, Genes Dev. 15: 188-200 (2001))。いくつかの遺伝子産物、例えば、DICERがこのプロセスに関与しており、これは、プロセシングにより長鎖dsRNAを21〜25ヌクレオチド長の二本鎖断片に切断するRnアーゼである。このような断片は、当該技術分野において短鎖干渉または低分子干渉RNA(siRNA)として知られている(Elbashirら、2001)。
【0019】
ショウジョウバエでの研究により、DICERは長鎖dsRNAを、2つの21nt鎖で構成されたsiRNAにプロセシングすることが示されており、ここで、該21nt鎖は各々、他方に正確に相補的な19nt領域を含み、2nt−3’突出端にフランキングされた19nt二本鎖領域が得られる(WO01/75164;Bernsteinら、Nature 409: 363, 2001)。次いで、siRNAにより、標的mRNAを認識して切断するタンパク質複合体の形成が誘導される。DICER酵素のホモログは、大腸菌からヒトにわたる種において確認されており(Sharp, 2001;Zamore, Nat. Struct. Biol. 8: 746, 2001)、このことは、siRNAが多くの異なる細胞型(哺乳動物細胞およびヒト細胞など)において遺伝子発現のサイレンシングを行なう能力を有することを示唆する。
【0020】
続いて、RNAiは哺乳動物細胞において、合成21ヌクレオチド長siRNA二本鎖を導入することにより誘発され得ることが見出された(Elbashirら、2001)。哺乳動物細胞培養物では、RNAiは、トランスフェクションなどの手法によって細胞内に導入された合成siRNAにより、多種多様な異なる細胞型において成功裡に再生成されてきた(Elbashirら、2001)。21ヌクレオチド長siRNAは、哺乳動物細胞においてインターフェロン応答を誘導するには短かすぎる(KumarおよびCarmichael, 1998)が、標的化対象遺伝子の配列特異的阻害をもたらすには充分長いため、研究ツールおよび治療剤としての大きな可能性を有する。
【0021】
IiのRNAi阻害の頑健な性質は、内因的に合成された抗原の提示によって生じる免疫刺激に理想的に好適なものである。免疫刺激を得るためにIiに必要とされることは、細胞の一画分において短期間にわたって抑制されることだけである。これは、事実上全細胞における連続的阻害を必要とする癌細胞増殖関連の他の特異的標的とは全く対照的である。
【0022】
本出願人は、以前に、免疫応答を調節する目的のためのIi阻害を開示する複数の特許出願を出願し、審査手続継続中である。これらの出願には、阻害性コポリマー(これは、細胞内に導入され、Ii mRNAに結合することによりIi合成を直接阻害する)、ならびに逆遺伝子構築物(これは、細胞内に核酸構築物として導入され、続いて該核酸構築物がRNA分子に転写され、該RNA分子は、特異的ハイブリダイゼーション後にIi発現を阻害する)を具体的に開示している。このような先に出願された特許出願としては、米国特許出願第08/661,627号、同第09/205,995号、同第10/054,387号および同第10/127,347号(その開示内容は、引用により本明細書に組み込まれる)が挙げられる。米国特許出願第08/661,627号および同第09/205,995号は、それぞれ、米国特許第5,726,020号および同第6,368,855号として発行済である。米国特許第10/054,387号は放棄されている。
【0023】
上記で簡単に示したように米国特許第09/205,995号は、約10〜約50のヌクレオチド塩基を含む化学合成されたコポリマーに関する広範な開示内容を含む。このようなコポリマーは、RNA分子の標的化対象(あるいはアンチセンス配列として既知)部分に相補的なヌクレオチド塩基配列を含む。かかるコポリマーの例としては、アンチセンスオリゴヌクレオチドおよびsiRNAが挙げられる。アンチセンスコポリマーは、2つの機構によってRNAからのタンパク質の翻訳を阻害する。第1の方法は、リボソーム、スプライセオソームまたはRNAの成熟もしくは翻訳に必須の他の因子と、該RNAが相互作用すべき部分への到達を遮断することである。第2の方法は、DNAにハイブリダイズされたRNAの配列を切断する酵素であるリボヌクレアーゼHの相乗作用を伴うものである。したがって、DNAまたはDNA様コポリマーがRNA内の対応するセグメントに結合することにより、コポリマー結合部位での該RNAの切断がもたらされる。
【0024】
かかるオリゴヌクレオチド修飾およびそれによりもたらされる特徴は、当業者に容易に利用可能である。例示的な修飾は、米国特許第4,469,863号(1984);米国特許第5,216,141号(1993);米国特許第5,264,564号(1993);米国特許第5,514,786号(1996);米国特許第5,587,300号(1996);米国特許第5,587,469号(1996);米国特許第5,602,240号(1997);米国特許第5,610,289号(1997);米国特許第5,614,617号(1997);米国特許第5,623,065号(1997);米国特許第5,623,070号(1997);米国特許第5,700,922号(1997);および米国特許第5,726,297号(1998)(その開示内容は、引用により本明細書に組み込まれる)に示されている。
【0025】
HLA−DR関連インバリアント鎖(Ii)は、抗原提示に関与しており、抗原提示細胞上で発現される。また、Iiは癌細胞によっても発現されるが、その発現は正常組織内に限定される。この観察結果により、Iiは、癌の処置のための価値ある治療標的となる。
【0026】
免疫療法用腫瘍細胞ワクチンの有効性を向上させるため、本出願人は、腫瘍細胞においてMHCクラスII関連インバリアント鎖(Iiタンパク質)の発現を抑制するための方法を開発した。このタンパク質は、通常、合成直後にMHCクラスII分子の抗原ペプチド結合部位を遮断する。Iiタンパク質の阻害により、MHCクラスIとIIの両分子による腫瘍抗原の同時提示がもたらされ、CD4+とCD8+の両方のT細胞の活性化がもたらされ、したがって頑健で長期間持続する抗腫瘍免疫応答が生じる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0027】
(概要)
本発明は、抗原提示経路の改変を目的とした細胞におけるIi発現の阻害に関連する組成物および方法に関する。
【課題を解決するための手段】
【0028】
本発明は、一態様において、Ii発現を阻害するのに有効なsiRNAに関する。本発明の方法および組成物において使用されるsiRNAは、各々、単一の分子内に、Iiのセンス配列、前記センス配列の逆相補鎖、および該センス配列と逆相補鎖配列間の二本鎖形成を可能にする介在配列を含む。別の態様において、本発明は、Ii発現を阻害するのに有効なsiRNAをコードするDNA配列、かかるDNAまたはsiRNAを含む細胞、およびその使用方法を提供する。
【0029】
一態様において、本発明は、細胞内でIiの発現を阻害するための方法に関する。この方法は、2種類の異なるsiRNAをIi発現細胞内に導入することを含み、該siRNAは、直接または間接的に該細胞内に導入される。その後、該siRNAはRNA誘導型サイレンシング複合体を形成し、それにより該細胞でのIiの発現が阻害される。
【0030】
ヒトRaji(B細胞リンパ腫)、AML、前立腺癌、およびヒト胚性腎臓(HEK)−293腎臓細胞においてIi発現を有効に阻害するヒトIi−RNAi構築物が作製されている。本出願書類は、ある種の単独のsiRNAを用いた種々のヒトの癌細胞でのIiの抑制を初めて報告するものである。また、このようなsiRNAを組合せで使用した場合のIiの抑制における有意に大きな効果を開示する。Ii mRNAの異なる位置を標的化する異なるIi−RNAi構築物の組合せは、Ii阻害に対して相乗効果を有する。Iiが阻害された細胞の割合は、Ii−RNAi構築物の組合せを用いた場合には65%であったのに対し、同等量の単独のIi−RNAi構築物を用いた場合には35%であった。
【0031】
別の態様において、本発明は、免疫応答のために動物の細胞型を標的化するための方法であって、該細胞型が1種類以上の既知または未知の抗原の発現を特徴とする方法に関する。この方法では、個体由来の末梢血単核細胞の培養物を準備し、該培養物は抗原提示細胞を含む。Ii発現の1種類または好ましくは2種類の異なるsiRNAインヒビターが、直接または間接的に該培養物の抗原提示細胞内に(siRNAをコードする1種類以上の発現可能な核酸配列などによって、発現に適切な条件下で培養物の細胞内に)導入される。
【0032】
さらに、Ii−RNAi発現を駆動するための特異的プロモーターは、種々の細胞型におけるIi−RNAiの活性に不可欠である。活性なIi−RNAi配列を、Ii−RNAi配列がEF−1αプロモーターによって駆動されるpBudCE4.1プラスミド内にクローニングした。ヒト骨髄性白血病細胞株KG−1の前駆細胞をpBudCE4.1/Ii−RNAi構築物でトランスフェクションすると、KG−1細胞において、EF−1αプロモーターがCMVプロモーターよりも活性であること(これは、Ii阻害がより大きいことによって示される)が示される。
【発明の効果】
【0033】
臨床用途のためのこのストラテジーの実用上の利点は、Ii遺伝子の単形性の性質である。種々のHLA−DR対立遺伝子を有するすべての患者に対して、1種類のIi−RNAi構築物で充分である。癌細胞においてMHCクラスII+/Ii−表現型が良好に生じることにより、AML、前立腺癌およびB細胞リンパ腫を有する患者においてIi抑制癌細胞を使用する治験に対する道が開かれた。いくつかの関連する態様を、以下のセクションで詳細に記載する。
【発明を実施するための形態】
【0034】
発明の詳細な説明
Ii発現の抑制は、抗原提示経路を改変することが意図される。より詳しくは、Ii発現の阻害は、MHCクラスII分子に、通常この状況では提示され得ない抗原エピトープが負荷されるのを促進することが意図される。主題の発明は、抗原提示経路の改変を目的とした細胞におけるIi発現の阻害に関連する組成物および方法に関する。
【0035】
本開示内容のすべての態様に関連する必須要素は、細胞でのIi合成の阻害である。用語「阻害」または「抑制」は、下方調節、またはIiの活性もしくはIi RNAのレベルを本発明のインヒビターまたはサプレッサーの非存在下で観察されるレベルより下に低下させる行為を意味することが意図される。発明の背景のセクションで記載のように、Iiは、MHCクラスII分子と同時調節されるタンパク質である。IiはMHCクラスII分子に結合し、それにより、内因的に合成された抗原(すなわち、MHCクラスII分子発現細胞内で合成された抗原)のMHCクラスII分子への到達が遮断される。MHCクラスII分子/Ii複合体は、小胞体からポストゴルジ区画に輸送され、そこでIiが段階的切断プロセスによって放出され、これにより外因性抗原(すなわち、抗原提示細胞内で合成されたものではなく、食作用、オプソニン作用、細胞表面抗体認識、補体受容体認識およびFc受容体認識などの機構による抗原提示細胞内への取込みのために選択された抗原)の負荷が可能になる。
【0036】
複合体化されたIiタンパク質の存在により小胞体内でのMHCクラスII分子への結合から排除された抗原は、内因的に合成された抗原と称することがあり得る。かかる抗原は、プロテオソームによって消化され、抗原ペプチド輸送体(TAP)によって小胞体内にペプチドとして輸送された一群の細胞質タンパク質を含む。かかる内因的に合成された抗原は、通常、小胞体内でMHCクラスI分子に結合される。かかる抗原断片は、通常、小胞体内でMHCクラスII分子には結合されない。それは、Iiタンパク質がその抗原ペプチド結合部位を遮断するからである。
【0037】
Iiタンパク質の発現を抑制することにより、MHCクラスI分子と結合した後CD8+ Tリンパ球に提示されるために小胞体内に輸送されたこの膨大なペプチドレパートリーが、MHCクラスII分子に結合され得、続いてCD4+ T免疫調節細胞に提示され、該細胞が活性化される。CD4+ T免疫調節細胞は、免疫応答の種々の経路の組織化において、ヘルパー機能またはサプレッサー機能のいずれかを有し得る。該細胞は、物理的接触ならびにサイトカイン放出によって、細胞傷害性Tリンパ球(Tキラー細胞)、Bリンパ球および樹状細胞などの他の細胞の活性化に寄与する。
【0038】
用語「目的の抗原エピトープ」は、本明細書で用いる場合、抗原提示が行なわれる細胞内で産生されたタンパク質由来のペプチド内に存在する抗原エピトープをいう。該用語は、本明細書で用いる場合、既知または未知の抗原エピトープを包含することを意図する。したがって、修飾語句「目的の」は、エピトープが所定のものであることを示すのではない。抗原エピトープは、単に、提示が行なわれる細胞の細胞質内で合成されたタンパク質内に含まれているという理由で「目的の」ものである。
【0039】
治療的介入の機会を提供する有意な生物学的影響は、MHCクラスII分子によるペプチドの結合から得られ、小胞体内に輸送されたペプチドレパートリーは、そこでMHCクラスI分子により結合される。多くの場合、Ii抑制下でMHCクラスII分子に結合されるエピトープは、「潜在性」(cryptic)エピトープであり、それは、かかるエピトープが抗原提示の古典的経路によってMHCクラスII分子と会合された状態で免疫系に、他の形では提示されないためである。潜在性エピトープは、試験抗原のアミノ酸配列のオーバーラップ合成ペプチドのライブラリーを解析することにより、実験によって明らかとなり得る。試験抗原で免疫処置したあるマウス系統の動物では、ライブラリーの一組のペプチドに対する応答が見られ得る(「優性エピトープ」)。しかしながら、他の点では同一のマウスを該ライブラリーの単一のペプチドで免疫処置した場合、事前に未確認のサブセット(免疫処置用ペプチド内の任意の優性エピトープに加えて)が、免疫学的エピトープを含むことがわかる。このような事前に未確認のエピトープは、一組の潜在性エピトープを含む。
【0040】
本発明の方法は、優性エピトープと潜在性エピトープの両方に対する免疫性を促進するが、一部の臨床状況では、潜在性エピトープに対する免疫応答の増強は、治療効果において特別な役割を果たす。例えば、癌関連抗原エピトープに対する治療応答を追加刺激すると、サプレッサーT細胞応答が起こったことのない潜在性エピトープに対するTヘルパー細胞応答により、有効な樹状細胞ライセンス許可がもたらされる可能性が高くなり、それにより頑健な細胞傷害性Tリンパ球抗腫瘍応答が生じる。癌関連抗原の優性エピトープに対するT細胞応答の抑制の発現は、腫瘍微小転移巣の増殖にある役割を果たすことが示されている。したがって、本発明の大きな有用性は、推定潜在性癌関連決定基に対するTヘルパー細胞応答の促進である。
【0041】
「内因的に合成された」類型に包含されるさまざまな抗原(これは、通常、MHCクラスII分子提示から排除される)は、ある種の病状に特異的に関連している。例えば、腫瘍細胞または他の悪性細胞と考えられたい。かかる細胞は、癌特異的および癌関連タンパク質を合成し、該タンパク質は、治療上有用なMHCクラスIIエピトープを含む。しかしながら、このようなタンパク質は抗原提示細胞内で合成されるため、かかるタンパク質の抗原エピトープは、同細胞のMHCクラスII分子との会合による提示から排除される。事象の通常の過程を改変し、それにより、MHCクラスII分子と会合した病態特異的抗原を提示できることにより、新規なMHCクラスII抗原エピトープによって起始される応答の増強がもたらされる。
【0042】
数々の治療モダリティが、本発明の範囲に含まれる。特許性のある組成物は、このような治療モダリティの多くに関連したものである。治療アプローチには、インビボとエキソビボの実施形態が包含される。本発明の目的は、Ii発現を阻害するのに有効な1種類以上のsiRNAを含む組成物を提供すること、また、かかる組成物を含むベクターおよび細胞ならびにその使用方法を提供することである。
【0043】
二本鎖siRNA、およびこのような分子をコードする遺伝子は、RNA干渉によりIiを阻害するために使用され得る。用語「RNA干渉(RNAi)」は、本明細書で用いる場合、dsRNAが、その相補配列を有する遺伝子の発現を特異的に抑制するプロセスをいう(Moss, Curr. Biol. 11(19): R772-5 (2001);Elbashir, Genes Dev. 15(2): 188-200 (2001))。理論に拘束されることを望まないが、RNAiは、4つの主な段階:RNA誘導型サイレンシング複合体(RISC)によるsiRNAの集合、RISCの活性化、標的認識、および標的切断を特徴とする多重RNA−タンパク質相互作用を伴う機構によって起こると理解されたい。用語「短鎖干渉RNA(siRNA)」は、本明細書で用いる場合、RNAiまたは遺伝子サイレンシングの媒介能を有する任意の核酸分子をいうものとする。用語siRNAは、RNAi機能を有する種々の天然に生成される化合物または合成化合物を包含するものとする。かかる化合物としては、限定されないが、2または3塩基対の末端重複部を有する約21〜23塩基対の二本鎖合成オリゴヌクレオチド;センスでありハイブリダイズする相補セグメントであって、約3〜5塩基対のループと連接された約21〜23塩基対のセグメントを有する1つのオリゴヌクレオチド鎖のヘアピン構造;および前述の構造体または機能的同等物の発現をもたらす種々の遺伝子構築物が挙げられる。かかる遺伝子構築物は、通常、インビトロで調製され、試験系内に導入されるが、宿主細胞または動物のゲノムにコードされた天然に存在するsiRNA前駆体由来のsiRNAを含むものであってもよい。
【0044】
本発明のsiRNAがRNAのみで構成されたものであることは、必要条件ではない。本発明のsiRNAは、1つ以上の化学修飾および/またはヌクレオチド類縁体を含むものであってもよい。該修飾および/または類縁体は、それぞれ、siRNAがIi発現を阻害する能力に負の影響を及ぼさない任意の修飾および/または類縁体であり得る。siRNA内に1つ以上の化学修飾および/またはヌクレオチド類縁体が含まれることは、ヌクレアーゼ消化を抑制または遅滞させ、それによって実用向けにより安定なsiRNAを創製するために好ましい場合があり得る。RNAを安定化させる化学修飾および/またはヌクレオチド類縁体は、当該技術分野で知られている。ホスホロチオエート誘導体は、非橋絡ホスホロイル酸素原子がイオウ原子で置き換えられたものであり、これは、ヌクレアーゼ消化に対する抵抗性の増大を示す類縁体の一例である。化学修飾の対象となり得るsiRNAの部位としては、ヘアピン構造のループ領域、ヘアピン構造の5’および3’末端(例えば、キャップ構造)、二本鎖の線状siRNAの3’突出領域、線状siRNAのセンス鎖および/またはアンチセンス鎖の5’または3’末端、ならびに該センスおよび/またはアンチセンス鎖の1つ以上のヌクレオチドが挙げられる。本明細書で用いる場合、用語siRNAは、当該技術分野において、配列特異的RNAiの媒介能を有する分子と定義される任意の用語に相当するものであることが意図される。かかる相当語句としては、例えば、二本鎖RNA(dsRNA)、ミクロRNA(mRNA)、短鎖ヘアピンRNA(shRNA)、短鎖干渉オリゴヌクレオチド、および転写後遺伝子サイレンシングRNA(ptgsRNA)が挙げられる。
【0045】
理論に拘束されることを望まないが、一般的に、RNAiではdsRNAは21〜23塩基対の断片にプロセシングされ、該断片が相補mRNAに結合し、その分解をもたらすと理解されたい(Bernstein, Nature 409(6818): 363-6 (2001)、および国際特許公開公報番号WO0175164)。このようなsiRNAは、配列特異的翻訳後遺伝子サイレンシングを誘導する。かかる分子は、国際特許公開公報番号WO0175164および種々の特許、特許出願ならびに研究論文に記載されているように、治療目的または予防目的で遺伝子発現を抑制するために細胞内に導入され得る。引用により本明細書に組み込まれ、RNAi手法が記載された刊行物としては、限定されないが、下記のもの:米国特許第6,686,463号、米国特許第6,673,611号、米国特許第6,623,962号、米国特許第6,506,559号、米国特許第6,573,099号、および米国特許第6,531,644号;国際特許公開公報番号WO04061081;WO04052093;WO04048596;WO04048594;WO04048581;WO04048566;WO04046320;WO04044537;WO04043406;WO04033620;WO04030660;WO04028471;WO0175164が挙げられる。このような化合物の最適な使用のための方法および概念が記載された研究論文としては、限定されないが、下記のもの:Brummelkamp Science 296: 550-553 (2002);Caplen Expert Opin. Biol. Ther. 3: 575-86 (2003);Brummelkamp, Sciencexpress 21 Mar. 3 1-6 (2003);Yu Proc Natl Acad Sci USA 99: 6047-52 (2002);Paul Nature Biotechnology 29: 505-8 (2002);Paddison Proc Natl Acad Sci USA 99: 1443-8 (2002);Brummelkamp Nature 424: 797-801 (2003);Brummelkamp, Science 296: -550-3 (2003);Sui Proc Natl Acad Sci USA 99: 5515-20 (2002);Paddison, Genes and Development 16: 948-58 (2002)が挙げられる。
【0046】
本発明との関連において、Ii発現を阻害するのに有効なsiRNAを含む組成物は、Iiのセンス配列を含むRNA二本鎖を含むものであり得る。この実施形態では、該RNA二本鎖は、Iiのセンス配列を含む第1の鎖と、該Iiのセンス配列の逆相補鎖を含む第2の鎖とを含む。
【0047】
別の実施形態において、Ii発現を阻害するのに有効なsiRNAを含む組成物は、単一の分子内に、Iiのセンス配列、Iiのセンス配列の逆相補鎖、および該センス配列と逆相補鎖配列間の二本鎖形成を可能にする介在配列を含むものであり得る。本発明のsiRNAは、配列番号:14、配列番号:16および配列番号:17からなる群より選択される配列のRNAを含むものであり得る。
【0048】
本発明のsiRNAは、互いに対して、またはIiの標的化対象領域に対して、完全相補に満たないIiのセンス配列またはIiのセンス配列の逆相補鎖を含むものであってもよいことは、当業者には容易にわかるであろう。換言すると、siRNAは、該センス配列または逆相補鎖配列内にミスマッチまたはバルジ配列(bulge)を含むものであり得る。一態様において、該センス配列またはその逆相補鎖は、完全に連続的でないものであり得る。該配列(1つまたは複数)は、1つ以上の置換、欠失および/または挿入を含むものであり得る。本発明の唯一の必要条件は、siRNAセンス配列が、その逆相補鎖に対して、およびIiの標的化対象領域に対してRNAi活性を可能にするのに充分な相補性を有することである。したがって、本発明の目的は、本発明のsiRNAの配列修飾であって、RNAi活性を可能にするのに充分な相補性が保持される配列修飾を提供することである。当業者には、本発明の修飾siRNA組成物が、Iiの相補配列および標的化対象領域の修飾配列の結合自由エネルギーの計算値に基づいて奏効することが予測され得よう。核酸の結合自由エネルギーの計算および鎖ハイブリダイゼーションに対するかかる値の影響は、当該技術分野で知られている。
【0049】
米国特許出願第10/999,208号には、Ii発現を阻害するのに有効な単独のIi siRNAの使用、およびIi発現を阻害するのに有効な単独のsiRNAをコードするDNA配列の使用による抗原提示経路の改変が記載されている。この阻害は、非癌性細胞であるHEK−293において示された。かかる単独のsiRNAまたはそれをコードするDNAを含む細胞およびその使用方法もまた、報告されている。
【0050】
本発明は、一つには、このようなsiRNAのうち3種類がヒトの癌細胞内でIiを阻害するという知見、さらに、これらのsiRNAのいずれかを組合せて使用すると、単独のsiRNAによってもたらされる効果と比べてIiの阻害が大きく増大するという知見に基づいている。実施例のセクションの実施例1に示すように、配列番号:14、16および17の単独のsiRNAは、対照と比べてIiを27〜32.5%阻害した。これは、単独または組合せのsiRNAによる癌(Raji)細胞でのIiの阻害を初めて示すものである。
【0051】
一実施形態において、本発明は、配列番号:14、16および17からなる群の任意の2種類の異なるsiRNAを投与することを含む、細胞内でIiを抑制する方法を含む。本発明の方法は、これらの3つのsiRNA配列の任意の2つ、特に、配列番号:14と17との組合せ(この組合せで、Raji細胞内でのIiの阻害において最も大きな効果が得られた(表3)ため)を投与することを含むものである。
【0052】
実施例のセクションで詳述するように、Iiは、Raji(B細胞リンパ腫)細胞、AML細胞、および前立腺癌細胞において、本発明の方法および組成物により阻害された。背景のセクションでは、Ii抑制が癌免疫療法の標的であること、およびIiの抑制によって、腫瘍細胞に対するより有効な免疫応答が誘発され得ることを論考している。したがって、一実施形態において、本発明は、配列番号:14、16および17からなる群の任意の2種類の異なるsiRNAを投与することを含む、癌の処置方法を含む。細胞が癌細胞である上記のIiの抑制方法も含む。
【0053】
関連する実施形態において、本発明は、Ii発現を阻害するのに有効なsiRNAの組合せを含む組成物であって、該組合せが配列番号:14、16および17から選択される任意の2種類の異なるsiRNAで構成されたものである組成物を含む。すべての組合せが単独のsiRNAよりも有意に有効であったため、この有効な組成物は、この群の任意の2種類の異なるsiRNAで構成されたものであり得る。本発明の組成物は、最も有効であることが示された配列番号:14と17との組合せを含むものである。
【0054】
多種多様な送達系が、インビトロおよびインビボでの標的細胞への本発明のsiRNAの送達における使用に利用可能である。本発明のsiRNAは、直接または間接的に、Ii阻害が所望される細胞内に導入され得る。siRNAは、直接細胞内に、例えば注射によって導入され得る。したがって、本発明の目的は、Iiを阻害するのに有効なsiRNAを含む組成物を、注射用単位投薬形態で提供することである。本発明のsiRNAは、本発明の方法および組成物と関連する治療用途のため、一例として静脈内または皮下注射され得る。かかる処置としては、所望の組織内でIi発現を阻害するのに治療的に有効なレベルが達成されるまでの、間欠または連続投与が挙げられる。
【0055】
間接的には、該siRNAをコードする発現可能なDNA配列(1つまたは複数)を細胞内に導入すると、その後、siRNAが該DNA配列(1つまたは複数)から転写され得る。したがって、本発明の目的は、Ii発現を阻害するのに有効な1種類以上のsiRNAをコードするDNA配列(1つまたは複数)を含む組成物を提供することである。発現可能なsiRNA構築物は、以下の理由で、合成オリゴヌクレオチドであることが好ましいものであり得る。1)RNAオリゴヌクレオチドでの細胞のトランスフェクションは、DNA発現構築物でのトランスフェクションよりも困難なことがあり得る。2)合成siRNAオリゴヌクレオチドの大規模合成は、DNAプラスミドまたは他のベクターの調製よりも高価である。3)構築物の発現(したがって、Ii抑制活性)は、組織特異的プロモーターを用いて、特定の器官または組織に標的化され得る。4)siRNA(合成のもの、または遺伝子ベクターから発現されたもののいずれの場合も)の活性は、一般に、逆遺伝子構築物の活性よりもずっと高い。これらの理由で、発現可能なsiRNA構築物は、インビボ使用に対してより一層大きな潜在的有益性を有する。
【0056】
本発明のDNA組成物は、Iiのセンス配列を含む第1のRNA配列をコードする第1のDNA配列と、Iiのセンス配列の逆相補鎖を含む第2のRNA配列をコードする第2のDNA配列とを含む。第1および第2のRNA配列は、ハイブリダイズさせると、RNA誘導型サイレンシング複合体の形成能を有するsiRNA二本鎖を形成し、このRNA誘導型サイレンシング複合体は、Ii発現の阻害能を有する。第1および第2のDNA配列は、化学合成されたもの、またはIiに適切なプライマーを用いてPCRによって合成されたものであり得る。あるいはまた、該DNA配列は、当該技術分野でよく知られたクローニング手法を用いて組換え操作によって得られたものであってもよい。得られたら、DNA配列は精製され、合わされ、次いでIi阻害が所望される細胞内に導入され得る。あるいはまた、該配列を単一のベクターまたは別々のベクター内に含め、該ベクターを、Ii阻害が所望される細胞内に導入してもよい。
【0057】
別の実施形態において、本発明は、配列番号:14、16および17からなる群より選択される2種類の異なるsiRNAをコードするDNA配列(1つまたは複数)を含む発現可能な構築物を投与する工程を含む、細胞内でIiを抑制する方法を含む。該構築物は、該群の2種類の異なるsiRNAを一緒にコードする1つ以上のDNA配列で構成されたものであってもよい。上記のsiRNAを用いたIiの直接的な抑制方法と同様、この実施形態の方法は、Iiが抑制される細胞が癌細胞である方法を含む。さらに、本発明は、配列番号:14、16および17からなる群より選択される2種類の異なるsiRNAをコードするDNA配列(1つまたは複数)を含む発現可能な構築物を投与する工程を含む、癌の処置方法を含む。本発明に含まれる別の実施形態は、配列番号:14、16および17からなる群より選択される2種類の異なるsiRNAをコードするDNA配列(1つまたは複数)を含む組成物であって、該siRNAがIi発現を阻害するのに有効である組成物である。
【0058】
標的細胞への本発明のDNA組成物の送達するために使用可能な送達系としては、例えば、ウイルス系および非ウイルス系が挙げられる。適当なウイルス系の例としては、例えば、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルス、レンチウイルス、ポックスウイルス、レトロウイルスベクター、ワクシニア、単純疱疹ウイルス、HIV、マウス微小ウイルス、B型肝炎ウイルスおよびインフルエンザウイルスが挙げられる。また、非ウイルス送達系も使用され得、例えば、非複合体型DNA、DNA−リポソーム複合体、DNA−タンパク質複合体およびDNAコート金粒子、細菌ベクター(サルモネラなど)、ならびに他の手法、例えば、VP22輸送タンパク質、Co−X−Geneおよびレプリコンベクターを伴うものが使用される。
【0059】
本発明の組成物は、配列番号:14、16および17から選択される任意の2種類の異なるsiRNAをコードするDNA配列(1つまたは複数)を含み、該DNA配列(1つまたは複数)は、プラスミドまたはウイルスベクター内に存在する。実施例のセクションで投与した組成物は、pSuppressorAdenoまたはpBudCE4.1プラスミド内にクローニングしたDNA配列とした。
【0060】
動物細胞で目的の核酸配列を発現させるための選択肢の1つは、アデノウイルス系である。以下の実施例のセクションでは、アデノウイルス系の使用を具体的に開示する。アデノウイルスは、二本鎖DNAゲノムを有し、宿主細胞の分裂とは独立して複製される。アデノウイルスベクターは、細胞内に発現可能な構築物を導入する別の方法と比べ、さまざまな利点をもたらす。例えば、アデノウイルスベクターは、広範なヒト組織への形質導入能を有し、高レベルの遺伝子発現が分裂細胞および非分裂細胞において得られ得る。アデノウイルスベクターは、免疫系によるクリアランスおよび標的細胞分裂中の希釈性減損のため、比較的短時間での導入遺伝子発現を特徴とする。いくつかの投与経路、例えば、静脈内、胆管内、腹腔内、小胞内、頭蓋内および髄腔内注射、ならびに標的器官または組織の直接注射が使用され得る。したがって、当該技術分野では、解剖学的境界部(anatomical boundary)に基づく標的化が達成可能であると認識されている。
【0061】
アデノウイルスゲノムは、約15種類のタンパク質をコードしており、感染は、細胞表面受容体に結合する線維タンパク質を伴う。この受容体相互作用により、該ウイルスのインターナリゼーションがもたらされる。ウイルスDNAは、感染細胞の核内に侵入し、細胞分裂の非存在下で転写が開始される。発現および複製は、E1AおよびE1B遺伝子の制御下にある(Horwitz, M. S., In Virology,第2版,1990, pp. 1723-1740参照)。E1遺伝子の除去により、ウイルス複製能がなくなる。アデノウイルス血清型の2型および5型は、ベクターの構築に広く使用されてきた。Beftら(Proc. Nat. Acad. Sci. U.S.A. 91: 8802-8806 (1994))は、E1およびE3アデノウイルス遺伝子を欠失させたアデノウイルス5型ベクター系を使用した。
【0062】
アデノ随伴ウイルス(AAV)(Kotin, R. M., Hum. Gene Ther. 5: 793-801 (1994))は、単鎖DNAであり、非常に広い宿主範囲の非分裂細胞のゲノム内に組み込まれ得る非自律性パルボウイルスである。AAVがヒト疾患と関連していることは示されておらず、免疫応答を惹起しない。AAVは、2つの相違する生活環相を有する。野生型ウイルスは、宿主細胞に感染し、組み込まれるが、潜在状態のままである。アデノウイルスの存在下では、ウイルスの溶菌相が誘導され、この相はアデノウイルス初期遺伝子の発現に依存し、活発なウイルス複製をもたらす。AAVゲノムは、逆方向末端反復(ITR)配列にフランキングされた2つのオープンリーディングフレーム(repおよびcapと呼ばれる)で構成されている。rep領域は、宿主ゲノムへの組込みに使用されるAAV複製、ウイルスDNA転写、およびエンドヌクレアーゼ機能を媒介する4種類のタンパク質をコードしている。rep遺伝子は、ウイルス複製に必要とされる唯一のAAV配列である。cap配列は、ウイルスのキャプシドを形成する構造タンパク質をコードしている。ITRは、ウイルスの複製起点を含み、キャプシド形成シグナルを提供し、ウイルスDNAの組込みに関与する。遺伝子療法のために開発された組換え複製欠損ウイルスは、repおよびcap配列を欠いたものである。複製欠損AAVは、AAV複製に必要な別々のエレメントを許容細胞株内にコトランスフェクションすることにより作製され得る。米国特許第4,797,368号には関連する開示内容が含まれ、かかる開示内容は、引用により本明細書に組み込まれる。
【0063】
レトロウイルスベクターは、分裂細胞の感染に有用であり、宿主細胞膜およびウイルスタンパク質由来のエンベロープ内にパッケージングされるRNAゲノムで構成されている。レトロウイルス遺伝子の発現は、その陽性鎖RNAゲノムが二本鎖DNA合成を指示するための鋳型として使用される逆転写工程を伴い、次いで、該DNAが宿主細胞DNAに組み込まれる。組み込まれたプロウイルスは、宿主細胞の遺伝子発現機構を利用する能力を有する。
【0064】
マウス白血病ウイルスは、一般に用いられているレトロウイルス種である(Millerら、Methods Enzymol. 217: 581-599 (1993))。レトロウイルスベクターは、典型的には、gag、polおよびenv遺伝子の欠失によって構築される。これらの配列の欠失により、目的の核酸配列の挿入のための能力がもたらされ、該ウイルスの複製機能が排除される。多くの場合、選択手段として、抗生物質耐性をコードする遺伝子が含められる。また、例えば、インビボ投与後に組織特異的発現をもたらすため、プロモーター機能およびエンハンサー機能を含めてもよい。また、長い末端反復配列内にプロモーター機能およびエンハンサー機能を含めたものも使用され得る。
【0065】
かかるウイルス、および目的の外因性核酸配列を有するかかるウイルスの修飾体は、ウイルスパッケージング細胞株においてのみ生成され得る。パッケージング細胞株は、欠失ウイルス遺伝子(gag、polおよびenv)を安定的に細胞内に挿入することにより、構築され得る。そして、それにより組換えを防ぐため該遺伝子が異なる染色体上に存在することになる。パッケージング細胞株を用いて、組換えプロウイルスDNAを挿入することによって目的の核酸配列を含む複製欠損レトロウイルスを生成させるプロデューサー細胞株が構築される。キャプシド形成配列を含むgag遺伝子の小部分にフランキングする長い末端反復配列と目的の遺伝子とを含むプラスミドDNAを、パッケージング細胞株内に、DNA導入および取込みのための標準的な手法(エレクトロポレーション、カルシウム沈殿など)を用いてトランスフェクトする。複製能を有するウイルスが生成する可能性を低下させるため、このアプローチの変形型が使用されている(Jolly, D., Cancer Gene Therapy 1: 51-64 (1994))。ウイルスの宿主細胞範囲は、エンベロープ遺伝子(env)によって決定され、種々の細胞特異性を有するenv遺伝子の置換が採用され得る。また、エンベロープタンパク質内への適切なリガンドの組込みも、標的化に使用され得る。
【0066】
組換えレトロウイルスベクターの投与は、任意の適当な手法によってなされ得る。かかる手法としては、例えば、患者の細胞のエキソビボ形質導入、組織内へのウイルスの直接注射、およびレトロウイルスプロデューサー細胞の投与が挙げられる。エキソビボアプローチには、単離と、患者細胞の組織培養物中での維持が必要とされる。この状況では、標的細胞に対するウイルス粒子の高比率が達成でき、したがって、形質導入効率が改善される(例えば、米国特許第5,399,346号(その開示内容は、引用により本明細書に組み込まれる)を参照のこと)。米国特許第4,650,764号には、レトロウイルス発現系の使用に関連する開示内容が含まれ、この参照特許の開示内容もまた、引用により本明細書に組み込まれる。
【0067】
場合によっては、インビボでのウイルスの直接導入が必要であるか、または好ましい。
レトロウイルスは、脳腫瘍を処置するために使用されており、この場合、レトロウイルスが分裂細胞(腫瘍細胞)のみに感染する能力が、特に好都合であり得る。
【0068】
また、レトロウイルスプロデューサー細胞株を直接、患者の脳腫瘍内に投与することも提案されている(例えば、Oldfieldら、Hum. Gene Ther. 4: 39-69 (1993)参照)。かかるプロデューサー細胞は、脳腫瘍内で数日間生存し得、脳腫瘍の周囲で形質導入する能力を有するレトロウイルスを分泌し得る。
【0069】
ポックスウイルスを主体とする発現系が報告されている(MossおよびFlexner, Annu. Rev. Immunol 5: 305-324 (1987);Moss, B., In Virology, 1990, pp. 2079-2111)。例えば、ワクシニアは、エンベロープを有する大型のDNAウイルスであり、感染細胞の細胞質内で複製される。多くの種々の組織の非分裂細胞および分裂細胞が感染し、組み込まれていないゲノムからの遺伝子発現が観察される。組換えウイルスは、導入遺伝子をワクシニア由来プラスミド内に挿入し、このDNAでワクシニア感染細胞をトランスフェクトすると、感染細胞で相同組換えによりウイルス産生がもたらされることにより、作製され得る。大きな不都合点は、150〜200種類のウイルスコードタンパク質に対する宿主免疫応答が惹起され、反復投与が問題となることである。
【0070】
単純疱疹ウイルスは、二本鎖DNAの大型ウイルスであり、感染細胞の核内で複製される。このウイルスは、外因性核酸配列と関連する使用に適合可能である(KennedyおよびSteiner, Q. J. Med. 86: 697-702 (1993)参照)。利点としては、広い宿主細胞範囲、分裂細胞および非分裂細胞の感染、ならびに大きな配列の外来DNAが相同組換えによって該ウイルスゲノム内に挿入され得ることが挙げられる。不都合点は、ウイルス調製物を、複製能を有するウイルスや強力な免疫応答がないものにすることが困難なことである。ウイルスチミジンキナーゼ遺伝子の欠失によって、ウイルスは細胞内で複製欠損となり、チミジンキナーゼレベルが低くなる。活発な細胞分裂を行なっている細胞(例えば、腫瘍細胞)は、複製を可能にするのに充分なチミジンキナーゼ活性を有する。
【0071】
さまざまな他のウイルス、例えば、HIV、マウス微小ウイルス、B型肝炎ウイルス、およびインフルエンザウイルスが、遺伝子導入のためのベクターとして開示されている(Jolly, D., Cancer Gene Therapy 1: 51-64 (1994)参照)。
【0072】
本発明の組成物は、Ii発現を阻害するのに有効なものであって、配列番号:14、16および17からの2種類の異なるsiRNAをコードするDNA配列(1つまたは複数)を含み、該DNA配列(1つまたは複数)がウイルスベクター内に存在するものを包含する。ウイルスベクターは、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、レンチウイルス、ポックスウイルス、インフルエンザ、およびレトロウイルスからなる群より選択され得る。
【0073】
非ウイルスDNA送達ストラテジーもまた適用可能である。このようなDNA送達ストラテジーは、非複合体型プラスミドDNA、DNA−脂質複合体、DNA−リポソーム複合体、DNA−タンパク質複合体、DNAコート金粒子、およびDNAコートポリラクチドコグリコリド粒子に関する。精製核酸は直接、組織内に注射され得、例えば、筋肉組織内で一過性の遺伝子発現をもたらし、筋肉の再生に特に有効である(Wolffら、Science 247: 1465-1468 (1990))。Davisら(Hum. Gene Ther. 4: 733-740 (1993))により、成熟筋肉(骨格筋が一般に好ましい)内へのDNAの直接注射が発表されている。
【0074】
金粒子上のプラスミドDNAは、遺伝子銃を用いて、細胞(例えば、表皮または黒色腫)内に「発射」され得る。DNAは、金粒子上に共沈殿させられ、次いで、電気スパークまたは噴射剤としての加圧ガスを用いて発射される(Fynanら、Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 90: 11478-11482 (1993))。エレクトロポレーションも、充実性腫瘍内へのDNA導入を可能にするために使用されており、マルチニードルアレイとパルス型で回転式の電界を用いたエレクトロポレーションプローブが使用される(Nishiら、Cancer Res. 56: 1050-1055 (1996))。皮下腫瘍への高効率遺伝子導入について、有意な細胞トランスフェクションの増強と、腫瘍内注射手順よりも良好な分布特性が主張されている。
【0075】
脂質媒介型トランスフェクションは、インビトロトランスフェクションとインビボトランスフェクションの両方に好ましい(Hortonら、J. Immunology 162: 6378 (1999))。脂質−DNA複合体は、市販の脂質(DMRIE−C試薬など)を用いて、注射の1〜5分前にDNAと脂質とを混合することにより形成される。
【0076】
リポソームは、親水性分子を疎水性分子で囲み、細胞侵入を助長することにより作用する。リポソームは、脂質から作製された単層(unilamellar)または多層(multilamellar)の球体である。脂質の組成および製造プロセスは、リポソーム構造に影響を及ぼす。他の分子が脂質膜に組み込まれることがあり得る。リポソームは、アニオン性またはカチオン性であり得る。Nicolauら(Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 80: 1068-1072 (1983))は、ラットに注射されたアニオン性リポソームからのインスリン発現に関する研究を発表した。アニオン性リポソームは、他に特に標的化されるものがない限り、主に肝臓の網内系細胞を標的化する。分子はリポソームの表面内に組み込まれ得、その挙動、例えば細胞選択的送達が改変され得る(WuおよびWu, J. Biol. Chem. 262: 4429-4432 (1987))。
【0077】
Feignerら(Proc. Nat Acad. Sci. U.S.A. 84: 7413-7417 (1987))は、カチオン性リポソームに関する研究を発表し、静電気的相互作用による核酸との結合を示し、細胞侵入を示した。カチオン性リポソームの静脈内注射により、ほとんどの臓器において、臓器への求心性血液供給中に注射されると、導入遺伝子の発現がもたらされる。肺上皮を標的化するためには、カチオン性リポソームは、エーロゾルによって投与され得る(Brighamら、Am. J. Med. Sci. 298: 278-281 (1989))。カチオン性リポソーム導入遺伝子送達によるインビボ試験が、発表されている(例えば、Nabelら、Rev. Hum. Gene Ther. 5: 79-92 (1994);Hydeら、Nature 362: 250-255 (1993)および;Conaryら、J. Clin. Invest 93: 1834-1840 (1994)参照)。
【0078】
微粒子は、食作用性細胞へのDNAの送達系として研究されている。かかるアプローチは、Pangaea Pharmaceuticalsによって報告された。かかるDNAマイクロカプセル封入送達系は、ミクロスフェアを貪食する食作用性細胞(マクロファージなど)のより効率的な形質導入を行なうために使用されている。ミクロスフェアは、潜在的に免疫原性のペプチドをコードするプラスミドDNAをカプセル封入するものであり、該ペプチドは、発現されると、MHC分子による細胞表面上へのペプチドディスプレイをもたらすものであり、これにより、かかるペプチドおよび同じエピトープを含むタンパク質配列に対する免疫応答が刺激され得る。このアプローチは、現在、抗腫瘍/病原体ワクチンの開発における潜在的役割に対して意図されたものであるが、他の遺伝子療法適用の可能性も有し得る。
【0079】
ウイルス様粒子(VLP)への均質な自己集合能力を有する天然のウイルスコートタンパク質もまた、送達用DNAのパッケージングに使用されている。ヒトポリオーマウイルスの主な構造コートタンパク質(VP1)は、組換えタンパク質として発現され得、VLPへの自己集合の際にプラスミドDNAをパッケージングする能力を有する。得られた粒子は、続いて、種々の細胞株に形質導入するために使用され得る。
【0080】
また、DNAベクターにおける改善も行なわれており、おそらく非ウイルス送達系の多くに適用可能である。このようなものとしては、スーパーコイルミニサークル(これは、細菌の複製起点も抗生物質耐性遺伝子も有さず、したがって高レベルの生物学的封入を示すため、潜在的に安全である)、エピソーム発現ベクター(プラスミドが核内で増幅されるが染色体外では増幅されず、したがってゲノム組込み事象が回避される複製性エピソーム発現系)、およびT7系(厳密には、ベクター自体がファージT7 RNAポリメラーゼを発現し、治療用遺伝子が、第1のプロモーターによって生成されたポリメラーゼを用いて第2のT7プロモーターから駆動される細胞質発現ベクター)の使用が挙げられる。DNAベクター技術に対する他のより一般的な改善点としては、高レベルの発現をもたらすためのシス作用性エレメント、細胞周期1回あたり1回の複製をもたらすためのアルフォイド(alphoid)反復配列DNA由来の配列および核内標的化配列の使用が挙げられる。
【0081】
2種類の異なるsiRNAをコードするDNA配列(1つまたは複数)を含む発現可能な構築物を投与することによりIiを阻害および/または癌を処置する本発明の方法は、該DNA配列(1つまたは複数)が、カチオン性デンドリマー、脂質、リポソーム、金粒子、ポリラクチドコグリコリド粒子、およびポリアルキルオキシドコポリマーからなる群より選択される媒介物質を用いる方法によって細胞内に導入される実施形態を包含する。実施例のセクションの実施例1に、どのようにしてDNA配列を金粒子上の細胞に送達したかを詳細に記載する。
【0082】
本発明のすべての実施形態において、1種類以上のsiRNAを単一の分子構築物として提供することが可能である(例えば、両方のsiRNAをコードする核酸を受容するのに充分な能力を有するウイルスベクター送達系を用いて)。この単一の分子構築物には、さらなる配列が含まれることがあり得る。あるいはまた、別々の発現構築物を用いて各siRNAを担持させてもよい。独立した様式で送達される別々の構築物の場合、単一の抗原提示細胞が2種類の各構築物を取り込む可能性は、統計的確率上の問題である。さらに、単一のウイルス粒子内に2種類以上の構築物をパッケージングすることは、有害な免疫応答が生じるウイルスタンパク質の合成に対して治療上有効なIi抑制の誘導を最大限にするという有用性を有する。かかる抗ウイルス免疫応答により、例えば、かかる治療的介入がなされ得る頻度を制限することができる。
【0083】
非ウイルス送達系による導入にも、同様に具体的な考慮が必要とされる。非ウイルス送達系を使用することにより、非複合体型DNA、DNA−リポソーム複合体、DNA−タンパク質複合体、およびDNAコート金粒子が細胞内に送達され得る。このような方法は各々、利点と不都合点を有し、これらによって、具体的な病状に対する選択が支配される。複合体化されたDNA(例えば、DNA−リポソーム複合体、DNA−タンパク質複合体、DNAコート金粒子、およびポリラクチドコグリコリド粒子内のマイクロカプセル封入体)の使用は、Ii発現のインヒビターをコードする両方の核酸配列が単一の細胞に送達されることを確実にする傾向があり得る。相違する分子種にコードされている場合であっても、これらは、「パッケージング」されている(例えば、リポソーム内にカプセル封入されているか、または金粒子上にコーティングされている)ため、両方の種が単一の細胞に送達される傾向があり得る。
【0084】
DNAコート金粒子は、一般的には、いわゆる「遺伝子銃」技術を用いて弾動法によって送達される。この手法を用いて、金粒子が皮膚または筋肉組織内に発射され得、細胞への浸透に使用され得る。この浸透細胞は、この様式で導入された核酸配列を発現することが示されている。樹状細胞は、天然に存在する抗原提示細胞であり、この手法を用いて有効にトランスフェクトされ得る。かかる発現構築物は、例えば、単一の樹状細胞内に導入されると、MHCクラスII分子と会合した抗原提示細胞の表面上への目的抗原エピトープのディスプレイをもたらす。抗原提示細胞の表面上へのエピトープ/MHCクラスII分子複合体のディスプレイにより、さらなる免疫細胞が刺激され、免疫応答の増強がもたらされる。
【0085】
あるいはまた、画定された解剖学的位置を有する病状(例えば、原発腫瘍または新生物性疾患の一部の転移巣)に対処する場合、画定された解剖学的部位内への直接注射が指示され得る。かかる部位は、抗原提示細胞(樹状細胞など)が富化されている傾向にある。腫瘍は、かかる局所導入部位の一例である。Ii発現を阻害する構築物が、病態を示す細胞(例えば、腫瘍細胞)によって取り込まれた場合、該細胞は、MHCクラスII分子と会合したその細胞表面上に病態特異的エピトープをディスプレイする。このような細胞もまた、Tヘルパー細胞およびBリンパ球を刺激するだろう。
【0086】
上記のように、本発明は、さまざまな動物細胞型における、インビボまたはエキソビボのいずれかでのIiの阻害に関する。本発明の別の実施形態は、配列番号:14、16および17からなる群より選択される任意の2種類の異なるsiRNAを含む哺乳動物細胞を含む。本発明の別の実施形態は、配列番号:14、16および17からなる群より選択される2種類の異なるsiRNAをコードするDNA配列(1つまたは複数)を含む発現可能な構築物を含む哺乳動物細胞を含む。前述の2つの実施形態のいずれにおいても、哺乳動物細胞は癌細胞であり得る。siRNAの組合せを含むか、または前記組合せをコードする発現可能なDNA構築物を含む3つの型の癌細胞を、実施例のセクションの実施例1〜4において作製した。本発明の哺乳動物細胞としては、該DNA配列(1つまたは複数)がプラスミドまたはウイルスベクター内に存在しているものが挙げられる。哺乳動物細胞内のウイルスベクターは、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、レンチウイルス、ポックスウイルス、インフルエンザ、およびレトロウイルスからなる群より選択され得る。
【0087】
天然に存在する抗原提示細胞について、インビボ適用およびエキソビボ適用が包含される。本開示において、用語「標的化すること」は、場合によっては、抗原タンパク質または抗原タンパク質内の特定の抗原エピトープに対する免疫応答を指令することを示すために用いる。この免疫応答は、一つには、該応答の状況に応じて可変的にTh1またはTh2またはTh3細胞であり得るT免疫調節細胞(Tヘルパー細胞またはTサプレッサー細胞など)の活性化を特徴とする。例えば、Th1応答は、腫瘍抗原に対するCTL応答の発生に関してヘルパー応答であり、該応答によって腫瘍細胞の死滅がもたらされる。しかしながら、アレルゲンに対するTh1応答は、機能的には、アレルゲンに対する応答のTh2応答からの免疫的逸脱(immunodeviating)に関して抑制応答であり得、該応答によって病原性のIgE抗体の産生がもたらされる。また、標的化の概念は、新規であるかまたは量が増加したMHCクラスII提示エピトープの提示によって刺激される免疫応答の最初の部分だけでなく、T免疫調節細胞に対する初期作用によって誘導または調節される下流のエフェクター応答も含む。したがって、例えば、標的化は、本明細書に教示した標的化方法によって開始され得るCTLの抗癌応答または免疫グロブリン抗ウイルス応答を含む。
【0088】
標的化は、抗原が、特定されたものであるか未知のものであるか、さらには必要以上の実験を行なわずに確認可能であるかを問わず、免疫応答が抗原に対するものであっるという概念を含む。例えば、標的化は、各々が免疫応答の発生に寄与し得る多数の抗原を発現し得る細胞に対するものであり得る。細胞内のどの特定の抗原が免疫応答に関与するかは、個体の遺伝子構成に応じて人によって異なり得る。遺伝因子に対する免疫応答の感受性は、充分報告されている。そのため、有用な治療目的または診断目的のための標的化方法の使用において、細胞の特異的抗原成分を特定する必要はなく、多くの場合、特定され得ない。
【0089】
標的化のプロセスは、インビボまたはインビトロいずれかで行なわれるプロセスを含む。インビボでは、例えば、MHCクラスII陽性細胞(これは、腫瘍細胞または樹状細胞のいずれかである)によって提示された抗原に対する免疫調節T細胞の活性化は、腫瘍でない位置または浸潤性腫瘍のいずれかで行なわれ得る。免疫応答のエフェクター部分の拡張も、同様に、インビボまたはインビトロのいずれかで行なわれ得る。インビトロ応答の場合、製剤が作製され得、これがその個体または選択された別の個体に再導入され、治療応答がもたらされ得る。かかる製剤の例としては、樹状細胞調製物、細胞傷害性T細胞調製物、および抗体(これは、インビトロ標的化対象培養物などからのB細胞クローニング後(例えば、B細胞ハイブリドーマの作製後)に生成されたものであってもよい)が挙げられる。
【0090】
この目的のため、末梢血単核細胞を採取した個体への導入に所望される治療用製剤に応じて、元の培養物を分画して所望の細胞集団(例えば、樹状細胞またはTリンパ球)を富化させることがあり得る。また、本明細書に教示した標的化プロセスを行なった後の培養物を、所望の細胞集団(例えば、樹状細胞またはTリンパ球)について分画してもよい。単離直後であって本発明の標的化プロセスの前に、または該標的化プロセスを行なった後に、個体から採取した細胞の分画のための確立された方法が利用可能である。さらに、かかる製剤を、末梢血単核細胞を最初に採取した個体に導入するための確立された手順が利用可能である。この目的のため、本発明の方法は、標的化に関して、末梢血単核細胞に限定されず、個体から採取され得るあらゆる細胞の調製物(例えば、口腔咽頭部または他の領域由来の粘膜細胞、気管支または胃の洗浄後に得られた細胞、生検または任意の器官(例えば、肝臓、膵臓、前立腺、骨格筋、脂肪または皮膚由来の腫瘍組織または正常組織など)からの切除によって得られた細胞の細胞調製物)を包含する。
【0091】
別の実施形態において、本発明は、免疫応答のために個体の細胞型を標的化するための方法であって、該細胞型が1種類以上の確認済または未知の抗原の発現を特徴とする方法を含む。該方法は、培養物中に、抗原提示細胞を含む個体の末梢血単核細胞を準備する工程と、ならびに該抗原提示細胞内に、配列番号:14、16および17からなる群より選択される2種類の異なるsiRNAを導入する工程とを含む。該siRNAは、直接または間接的に該細胞内に導入され得、いずれの場合もIiの発現が阻害される。本発明の別の実施形態は、上記の細胞型を標的化するための方法であって、さらに、siRNAを含む抗原提示細胞を治療効果のために個体に再導入することを含む方法を含む。本発明の方法は、標的化対象細胞が癌細胞である実施形態を含む。
【0092】
エキソビボ適用に関して、腫瘍細胞は個体から単離され、エキソビボ培養物が確立される。かかる培養物は、個体から採取された悪性細胞(付随する正常細胞から分離したもの、または分離していないもの)の非選択集団から確立されたものであってもよく、あるいは細胞は、細胞株またはかかる細胞株のクローンとして得られたものであってもよい。あるいはまた、かかる細胞は、非親族の患者の確立された悪性細胞株から得られたもの、または新鮮悪性組織(例えば、結腸癌もしくは卵巣癌)の外植片として得られたものである。
【0093】
IiサプレッサーsiRNAを培養細胞内に導入すると、腫瘍特異的または腫瘍関連抗原エピトープの所望のMHCクラスII分子関連提示がもたらされる。このようにして処理された細胞は、複製不能状態にされ(例えば、放射線照射または固定によって)、慣用的な免疫処置プロトコル(例えば、皮下、静脈内、腹腔内または筋肉内免疫処置)に使用される。完全体細胞の製剤に加え、その誘導体である他のものも免疫処置製剤に使用され得る。
【0094】
多くの腫瘍細胞は、MHCクラスII分子およびIiに陰性であるが、一部の腫瘍(例えば、ある種のリンパ腫、黒色腫および腺癌(例えば、乳房、肺および結腸を冒すもの))は、MHCクラスII分子陽性かつIi陽性であることは、よく知られている。MHCクラスII分子を発現するこのサブセットでは、所望の免疫刺激を得るのに、Iiサプレッサーのみの導入で充分なはずである。かかる細胞内にMHCクラスII分子の誘導物質を含めることは、MHCクラスII分子関連抗原とのTヘルパー細胞相互作用の可能性を増大させることにより、所望の刺激を増強し得ることが認識されよう。
【0095】
DNAワクチンウイルスおよびRNAワクチンウイルスはともに、感染細胞におけるIiタンパク質発現の抑制をもたらすsiRNAの発現のための構築物を含むものであり得る。DNAウイルス(ワクシニアなど)の場合、該遺伝子は、古典的な哺乳動物プロモーター(CMV、RSV、Ubc、EF−1αおよびU6など)の制御下にある。RNAウイルス、例えばインフルエンザの場合は、挿入された構築物のRNAからの翻訳は、RNAの転写と翻訳の機構を媒介するインフルエンザウイルス酵素によって発現される。ワクチンウイルスは、感染細胞内でのIiタンパク質の発現を抑制する能力により、Iiタンパク質およびMHCクラスII分子を既に内因的に発現している細胞型に標的化される。かかる細胞型としては、皮膚のランゲルハンス細胞、皮膚内または気道もしくは腸の粘膜表面内の他の樹状細胞、あるいは骨髄から分離された可能性があるもの、あるいは骨髄または脾臓から採取されたもの、末梢血または他の体液(腹腔、胸膜腔、心膜腔もしくは他の体腔において生起もしくは誘導された滲出液もしくは漏出液など)のマクロファージが挙げられる。さらなる細胞型としては、B細胞、B細胞系白血病およびリンパ腫、ならびに活性化によってMHCクラスII分子およびIiタンパク質を発現するようになった細胞(一部のT細胞サブセットおよび形質転換された悪性または正常細胞など)が挙げられる。
【0096】
これらのDNAまたはRNAウイルスの例の構築は、標準的な分子生物学的手法によりなされ得る。Ii特異的siRNAをコードするcDNAは、標準的な分子クローニング法を用いて、ワクシニア、カナリア痘または他のDNAウイルスをコードするプラスミドに導入され得る(Panicali D. Proc Natl Acad Sci USA. 1982;16: 4927-31)。インタクトなワクシニアウイルスDNAならびにIi特異的siRNA発現カセットは、ウイルス配列によりフランキングされたベクター内にクローニングされ得る。クローニングされたIi特異的siRNA発現カセット間の相同組換えが起こることがあり得、新規なウイルスは、適切な条件下で選択され得る(Panicali D. Proc Natl Acad Sci USA. 1982;16: 4927-31;Marti W R. Cell Immunol. 1997: 179: 146-52;Bertley F M N. J. Immunol. 2004;172: 3745-57)。組換えRNAウイルスも同様に、ウイルスcDNAをコードするプラスミドを用いて構築され得る。A型インフルエンザウイルスのためのプラスミド系逆遺伝子解析系が開発されている(Pleschka S. J Virol 1996;70: 4188-92)。この系では、ウイルスRNAを発現させる切断型ヒトポリメラーゼIプロモーターを含むプラスミドが使用される。Ii特異的siRNA発現カセットは、インフルエンザHAまたはNA遺伝子をコードするプラスミド内にクローニングされ得る。該ウイルスゲノムの全8セグメントをコードするプラスミドが、組織培養細胞内にコトランスフェクトされ得、感染性の組換えウイルスを回収し、これがワクチン接種の目的に使用され得る。あるいはまた、Ii特異的siRNAをコードする組換えプラスミドが、インフルエンザヘルパーウイルスを用いて感染させた細胞株内にトランスフェクトされ得る。ある選択方法を使用し、遺伝子操作されたトランスフェクタントウイルスを含むウイルスが、単離され得る(Palese P. J. Virol. 1996;93: 11354-8)。このような種々の構築物の設計および調製、ならびにワクチンとしての該構築物の適用は、下記の米国特許の材料および方法により行なわれ得る。米国特許第5,976,552号、米国特許第5,292,506号、米国特許第4,826,687号、米国特許第6,740,325号、米国特許第6,651,655号、米国特許第5,948,410号、米国特許第5,824,536号、米国特許第4,029,763号、米国特許第4,009,258号、米国特許第668,463号、米国特許第667,611号、米国特許第6,623,962号、および米国特許第6,506,559号。
【0097】
本発明の別の実施形態は、2種類の異なるsiRNAをコードするDNA配列(1つまたは複数)を含む発現可能な構築物を投与することにより、細胞内でIiを抑制する方法であって、siRNAをコードする該DNA配列(1つまたは複数)が、RNAポリメラーゼプロモーターに作動可能に連結されている方法を含む。該方法は、RNAポリメラーゼプロモーターが、CMVまたはEF−1αである実施形態を含む。Ii発現を抑制したsiRNAをコードするDNA配列は、実施例1〜4ではCMVプロモーターに連結させたものであり、実施例3〜4ではEF−1αプロモーターに連結させたものであった(以下の実施例のセクションに詳述)。発現可能な構築物は、CMVプロモーターによって駆動させた場合、試験したすべての型の癌で、Iiの阻害において好成績であった。本発明の方法は、発現可能なDNA構築物によりIiを抑制するものであって、細胞が癌細胞であり、プロモーターがCMVであり、癌がAML、前立腺癌またはB細胞リンパ腫であるものを含む。発現可能な構築物に連結させたプロモーターをEF−1αとした場合、Iiは、AMLおよび前立腺癌において好成績で抑制された。本発明の方法は、Iiを抑制するものであって、細胞が癌細胞であり、プロモーターがEF−1αであり、癌がAMLまたは前立腺癌であるものを含む。また、本発明は、Ii発現を阻害するのに有効な2種類の異なるsiRNAをコードするDNA配列(1つまたは複数)を含む組成物であって、該DNA配列(1つまたは複数)がRNAポリメラーゼIIIプロモーター、例えば、CMVまたはEF−1αプロモーターに作動可能に連結されている組成物を含む。
【実施例】
【0098】
[siRNAプラスミドによるヒト細胞におけるIiの阻害]
10種類のIi−siRNA構築物を作製した。これらは米国特許出願第10/999,208号に記載されている。これらの単独のsiRNA構築物を、非癌性ヒト胚性腎臓(HEK)293細胞株においてIi発現の阻害について試験した。
【0099】
[siRNA(Ii)構築物の設計]
10種類のsiRNA(Ii)構築物を設計した。これらの構築に使用したオリゴヌクレオチドを表1に示す。構築物は、siRNAのクローニングのために特別に設計されたpSuppressorAdenoプラスミド(Imgenex.サンディエゴ、カリフォルニア州)を用いて作製した。このプラスミドは、siRNA発現に対して最適化されたCMVプロモーターを含み、siRNA配列の挿入のための簡便なクローニング部位を提供し、さまざまな細胞への送達を可能にする。さらに、このプラスミドはまた、siRNA発現構築物を含む組換えアデノウイルスの構築に対しても使用され得る。これらのsiRNA(Ii)構築物の設計では、2つのアプローチに従った。まず、Imgenexコンピュータプログラムを用いて5種類の構築物(表1の構築物11〜15)を予測した。このプログラムにより、Ii RNAにハイブリダイズしそうな基本組成(すなわち、適切なG−C含量など)を有するRNA配列が特定される。得られた5種類のsiRNA(Ii)構築物は、実際にIi mRNAとハイブリダイズするならば、強力なインヒビターであることが予測される。しかしながら、任意の所与のmRNAの3次構造を予測することは困難なため、かかるコンピュータ設計siRNA(Ii)構築物は、実験によってIi mRNAに到達可能でないとされる場合がみられ得る。したがって、さらに5種類の構築物(表1の構築物16〜20)の設計において、第2のアプローチもまた使用した。Iiタンパク質の発現を阻害するためのIi−RGCの使用に関する先のデータにおいて、一部のIiアンチセンスオリゴヌクレオチド(Qiu Cancer Imm Immunother. 48: 499-506 (1999)(Xu 米国特許第6,368,855号)およびIi逆遺伝子構築物(RGC;Lu Cancer Immunol Immunother. 52: 592-598 (2003))(米国特許第10/127,347号)は、ヒトIi mRNAの最初の400bpにハイブリダイズすること、およびその結果としての強力なIiタンパク質発現の阻害が示されていた。このデータから、ヒトIi mRNAのこの領域は、siRNA構築物に到達する可能性が高いはずであることが推測され得る。さらに、この提案は、翻訳を開始させるAUG部位を含むmRNA領域が、一般に、mRNAに結合するアンチセンス構築物に対して感受性の領域であるという文献のデータと整合する。したがって、検討により、さらに5種類のsiRNA構築物を設計してヒトIi mRNAの最初の400bp以内のAUG開始部位近傍のIi mRNAの部分にハイブリダイズさせた。ヒトIi mRNAの最初には2つのAUGが存在し、これらはともに機能性の翻訳開始部位であると思われるため、siRNA配列は、これらの両方の部位を標的化するように設計した。具体的には、最初のAUGの近傍に2つのオーバーラップ配列を設計し、第2のAUGの近傍に3つのオーバーラップsiRNA配列を設計した。これらの5種類のsiRNA(Ii)配列は、最適なアニーリングパラメータを有するものでない可能性はあるが、Ii RNAとハイブリダイズすることが予測され得る。配列はすべて、発現されたsiRNA配列のヘアピン形成を可能にする短鎖ループ配列を用いて設計した。ヘアピンの形成により、機能性の二本鎖siRNAが生じる。標的mRNAと相互作用し、これを切断するRNA誘導型サイレンシング複合体(RISC)の形成における二本鎖RNAの必要性が、明白に示された(Nature Reviews Genetics 2: 110-119, 2001)。
【0100】
二本鎖オリゴヌクレオチドは、それぞれ上術するようにセンス鎖と相補鎖のshRNA(短鎖ヘアピンRNA)をコードする2つのオリゴヌクレオチドをアニーリングさせることによって作製される。アニーリングされたオリゴヌクレオチドは、「tcga」(上記)および「gatc」突出端を有し、線状化pSuppressorAdenoベクター内へのクローニングを補助する。下記の表1において、センス配列には一重下線を施している。ループ配列は太字である。逆配列には二重下線を施している。
【0101】
【表1】

【0102】
siRNA(Ii)構築物の作製
10種類のsiRNA(Ii)構築物を、標準的な分子生物学的手法に従い、Sal1およびXba1酵素部位を用いて、上記の配列をpSuppressorAdenoプラスミド(Imgenex、サンディエゴ、カリフォルニア州)内にクローニングすることにより作製した。293ヒト腎臓細胞株(ATCC番号CRL−1573)の細胞を、これらの各Ii siRNA構築物(0.82μg)を有するヒトIi cDNA遺伝子プラスミド(0.18μg)とともにコトランスフェクトした。いくつかの活性なIi siRNA構築物を規定した。
【0103】
[腫瘍細胞におけるIi−RNAi関与Ii抑制]
【0104】
(実施例1) Ii−siRNA構築物によるRaji細胞でのIi阻害
本発明では、上記の表1に示した10種類のIi−siRNA構築物を使用し、ヒトリンパ腫細胞株Raji細胞をトランスフェクトした。Raji細胞内へのIi−siRNA構築物のトランスフェクションには、遺伝子銃送達法を使用した。Ii−siRNA配列を、CMVプロモーターによって駆動されるpSuppressorAdenoベクター(Imgenex、サンディエゴ)内にクローニングした(CMV/Ii−siRNAと称する)。このプラスミドDNAを、金微粒子上に沈降させた。金マイクロキャリア(カートリッジ1つに対して0.5mgの1μm金微粒子)を、超音波処理によって100μlの0.1Mスペルミジン中に懸濁させた。表示した量のプラスミドDNA(カートリッジの所望数による)を、内毒素無含有水中1mg/mlの濃度で添加し、超音波処理し、200μlの1M CaClを滴下した。この金−DNA混合物を10分間放置した後、1mlの100%エタノールで3回洗浄した。最後の洗浄後、ペレットを適切な容量(金微粒子の所望量による)の0.02mg/mlのポリビニルピロリドン(PVP)含有100%エタノール中に再懸濁させ、15ml容チューブに移した。すると、カートリッジ1つあたり0.5mgの金のマイクロキャリア負荷量(MLQ)および可変DNA負荷比(DLR)であった。1mlのDNA/マイクロキャリア懸濁液で、17個のコーティングされた0.5インチカートリッジが作製され、これらを使用前に、乾燥剤を用いて4℃で一晩保存した。Raji細胞のトランスフェクションには、10Raji細胞を含む20μlの媒体を組織培養皿上の直径約0.8cmの領域に塗布し、次いで、0.5インチカートリッジによる遺伝子銃射撃に供した(350〜400psiのヘリウム圧を使用)。トランスフェクション後、細胞をさらに36〜48時間培養した。次いで、細胞を収集し、洗浄し、抗HLA−DRおよび抗ヒトIiモノクローナル抗体で染色し、フローサイトメトリーによって解析し、HLA−DR+/Ii−細胞の割合を求めた。Raji細胞におけるIi阻害を表2に示す。表2から、Ii−siRNA配列番号14、番号16および番号17は、Raji細胞におけるIi発現の阻害において活性であることがわかる。この阻害は、MHCクラスII分子提示が、これらのIi−siRNA構築物によって明らかには影響されていないため、Ii特異的である。
【0105】
【表2】

【0106】
(実施例2) Ii−siRNA構築物の単独または組合せでの使用によるRaji細胞でのIi阻害
別の実験において、活性なCMV/Ii−siRNA構築物(表2の配列番号14、番号16および番号17を含む)を、さらに、別々に(1μg/トランスフェクション)または組合せて(0.5μg+0.5μg/トランスフェクション)使用し、Raji細胞においてIi発現を阻害した。金微粒子上へのプラスミドDNAコーティングおよびトランスフェクションの手順は、表2の実験のものと同じとした。Raji細胞をトランスフェクションの36〜48時間後に収集し、洗浄し、抗HLA−DRおよび抗ヒトIi抗体で染色した。結果を表3に示す。表3から、配列番号14と番号17を含むプラスミドの組合せの使用で、Raji細胞における最も著しいIi阻害が得られたことがわかり、これは、Ii遺伝子の異なる部位に標的化されるIi−siRNA配列の組合せの使用によって、単独のIi−siRNA構築物の使用よりも有効なIi阻害がもたらされることを示す。配列番号14と番号16または配列番号16と番号17を含むプラスミドの組合せの使用では、配列番号14と番号17を含むプラスミドの組合せの使用と比べて低いIi阻害がもたらされ、これは、後者の組合せが最良の組合せであることを示す。
【0107】
【表3】

【0108】
(実施例3) CMV/Ii−siRNAおよびEF−1α/siRNA構築物によるKG−1(AML)細胞でのIi阻害
2つの最も活性な(Raji細胞において)Ii−siRNA配列番号14と番号17(表2参照)を、EF−1αプロモーターによって駆動されるpBudCE4.1プラスミド(Invitrogen、CA)内にさらにクローニングした(EF−1α/Ii−siRNAと称する)。これを行なうため、2種類のオリゴヌクレオチド対をまずアニーリングさせてオーバーヘッドBgl IIおよびNot Iクローニング部位を有する番号14および番号17(表2)のDNA配列に対応する2つの二本鎖DNA配列とした。Ii−siRNA配列は、EF−1αプロモーターによって駆動させた。得られたプラスミドを配列決定によって確認した。KG−1細胞(ヒト急性骨髄性白血病(AML)細胞株)を使用し、CMVまたはEF−1αいずれかのプロモーターによって駆動される2種類の活性なIi−siRNAプラスミドの活性を調べた。金微粒子上へのプラスミドコーティングの手順および遺伝子銃関与トランスフェクションの手順は、Raji細胞のトランスフェクションと同じとした。トランスフェクション後、KG−1細胞を36〜48時間さらに培養し、細胞を収集し、洗浄し、抗ヒトIiモノクローナル抗体で染色し、フローサイトメトリーによって解析し、Ii陰性細胞の割合を求めた。表4に示されるように、CMV/Ii−siRNAおよびEF−1α/Ii−siRNA構築物は、KG−1細胞においてほぼ同程度に活性であった。違いは、コーティングおよびトランスフェクションの差異の反映であり得る。CMV駆動プラスミドは、pSuppressorAdenoベクターであり、一方、EF−1α駆動プラスミドは、PBudCE4.1ベクターであった。
【0109】
【表4】

【0110】
(実施例4) CMV/Ii−siRNAおよびEF−1α/siRNA構築物によるPC−3細胞でのIi阻害
CMV/Ii−siRNAおよびEF−1α/Ii−siRNA構築物の活性を、前立腺癌細胞においてさらに試験した。PC−3前立腺癌細胞をCMV/p7(p7=配列番号17)およびEF−1α/P7プラスミドで、Lipofectamine(登録商標)2000(Invitrogen、CA)法により、製造業者の使用説明書に従ってトランスフェクトした。結果(表5)は、PC−3細胞において、CMVプロモーターがEF−1αプロモーターよりもずっと活性であることを示す(CMV/p7とEF−1α/p7を比較)。この結果は、プロモーターの活性が細胞型特異的であることを示す。この試験のデータ全般は、CMVプロモーターが、試験したすべての型の細胞において活性なプロモーターであることを示す。また、EF−1αプロモーターも、試験したすべての型の細胞において活性であるが、前立腺癌細胞でのEF−1αプロモーターの活性は、CMVプロモーターよりもずっと低い。
【0111】
【表5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号:14、16および17からなる群より選択される任意の2種類の異なるsiRNAを投与する工程を含む、細胞内でIiを抑制する方法。
【請求項2】
請求項1において、選択される2種類の異なるsiRNAが、配列番号:14および17である方法。
【請求項3】
配列番号:14、16および17からなる群より選択される2種類の異なるsiRNAをコードするDNA配列(1つまたは複数)を含む発現可能な構築物を投与する工程を含む、細胞内でIiを抑制する方法。
【請求項4】
請求項3において、該siRNAをコードするDNA配列(1つまたは複数)が、RNAポリメラーゼプロモーターに作動可能に連結されている方法。
【請求項5】
請求項4において、RNAポリメラーゼプロモーターが、CMVまたはEF−1αである方法。
【請求項6】
請求項1または3において、細胞が癌細胞である方法。
【請求項7】
請求項5において、細胞が癌細胞であり、プロモーターがCMVであり、癌がAML、前立腺癌またはB細胞リンパ腫である方法。
【請求項8】
請求項5において、細胞が癌細胞であり、プロモーターがEF−1αであり、癌がAMLまたは前立腺癌である方法。
【請求項9】
配列番号:14、16および17からなる群より選択される任意の2種類の異なるsiRNAを投与する工程を含む、癌の処置方法。
【請求項10】
配列番号:14、16および17からなる群より選択される2種類の異なるsiRNAをコードするDNA配列(1つまたは複数)を含む発現可能な構築物を投与する工程を含む、癌の処置方法。
【請求項11】
請求項3または10において、該siRNAをコードするDNA配列(1つまたは複数)が、カチオン性デンドリマー、脂質、リポソーム、金粒子、ポリラクチドコグリコリド粒子、およびポリアルキルオキシドコポリマーからなる群より選択される媒介物質を用いる方法によって細胞内に導入される方法。
【請求項12】
Ii発現を阻害するのに有効なsiRNAの組合せを含む組成物であって、前記組合せが、配列番号:14、16および17からなる群より選択される任意の2種類の異なるsiRNAで構成されたものである組成物。
【請求項13】
請求項12において、該2種類の異なるsiRNAが、配列番号:14および17である組成物。
【請求項14】
配列番号:14、16および17からなる群より選択される2種類の異なるsiRNAをコードするDNA配列(1つまたは複数)を含む組成物であって、該siRNAがIi発現を阻害するのに有効である組成物。
【請求項15】
請求項14において、該siRNAをコードするDNA配列(1つまたは複数)が、RNAポリメラーゼIIIプロモーターに作動可能に連結されている組成物。
【請求項16】
請求項15において、該プロモーターが、CMVまたはEF−1αプロモーターである組成物。
【請求項17】
配列番号:14、16および17からなる群より選択される任意の2種類の異なるsiRNAを含む哺乳動物細胞。
【請求項18】
配列番号:14、16および17からなる群より選択される2種類の異なるsiRNAをコードするDNA配列(1つまたは複数)を含む発現可能な構築物を含む哺乳動物細胞。
【請求項19】
請求項17または18において、癌細胞である哺乳動物細胞。
【請求項20】
免疫応答のために個体の細胞型を標的化するための方法であって、該細胞型が1種類以上の確認済または未知の抗原の発現を特徴とし、
a) 培養物中に、抗原提示細胞を含む個体の末梢血単核細胞を準備する工程;ならびに
b) 工程a)の培養物の抗原提示細胞内に、配列番号:14、16および17からなる群より選択される2種類の異なるsiRNAを導入し、該siRNAは直接または間接的に該細胞内に導入されることによりIiの発現が阻害される工程、
を含む方法。
【請求項21】
請求項20において、さらに、治療効果のために個体に工程b)の細胞を再導入することを含む方法。
【請求項22】
請求項20または21において、標的化される細胞型が、癌細胞である方法。
【請求項23】
請求項14において、該DNA配列(1つまたは複数)が、プラスミドベクター内に存在する組成物。
【請求項24】
請求項14において、該DNA配列(1つまたは複数)が、ウイルスベクター内に存在する組成物。
【請求項25】
請求項18において、該DNA配列(1つまたは複数)が、プラスミドベクター内に存在する哺乳動物細胞。
【請求項26】
請求項18において、該DNA配列(1つまたは複数)が、ウイルスベクター内に存在する哺乳動物細胞。
【請求項27】
請求項24において、ウイルスベクターが、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、レンチウイルス、ポックスウイルス、インフルエンザ、およびレトロウイルスからなる群より選択される組成物。
【請求項28】
請求項26において、ウイルスベクターが、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、レンチウイルス、ポックスウイルス、インフルエンザ、およびレトロウイルスからなる群より選択される哺乳動物細胞。

【公表番号】特表2010−521460(P2010−521460A)
【公表日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−553602(P2009−553602)
【出願日】平成20年3月10日(2008.3.10)
【国際出願番号】PCT/US2008/003208
【国際公開番号】WO2008/112218
【国際公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【出願人】(509255598)アンティジェン・エクスプレス・インコーポレーテッド (3)
【氏名又は名称原語表記】ANTIGEN EXPRESS,INC.
【Fターム(参考)】