説明

癌治療剤

【課題】がんの浸潤・転移におけるヒトアンジオポエチン様因子2(ANGPTL2)の機能を解明して、新規な癌治療剤の提供。
【解決手段】ヒトアンジオポエチン様因子2の発現又は機能を抑制する物質としてヒトアンジオポエチン様因子2に対する中和抗体、又はRNAiによりヒトアンジオポエチン様因子2の発現を抑制することができる物質として、siRNA、shRNA、又はこれらを発現できる発現ベクターを有効成分として含む、癌治療剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ANGPTL2の機能を抑制することを利用した癌治療剤に関する。
【背景技術】
【0002】
血管形成は、血管から新たな毛細血管が形成されるプロセスであり、多数の因子(例えば、血管内皮増殖因子(VEGF)およびアンジオポエチンなど)が関与していることが知られている。アンジオポエチンは、血管新生活性、表皮細胞増殖活性、軟骨細胞増殖活性、創傷治癒促進活性、及び組織再生活性などを有することが示唆されている。
【0003】
本発明者らのこれまでの研究により、アンジオポエチンの1種であるANGPTL2(非特許文献1)はさまざまな癌で上昇することが見出しており、癌の診断に用いることが可能であると考えられているが、がんの浸潤・転移におけるANGPTL2の機能は不明であった。
【0004】
【非特許文献1】J. Biol. Chem. 274, 26523-26528 1999
【非特許文献2】Proc. Natl. Acad. Sci.102:13502-13507 2005
【非特許文献3】Cancer Res. 68:5067-5075 2008
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、がんの浸潤・転移におけるANGPTL2の機能を解明することにより新規な癌治療剤を提供することを解決すべき課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討した結果、ANGPTL2の発現又は機能を抑制することによって癌を治療できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明によれば以下の発明が提供される。
(1) ヒトアンジオポエチン様因子2(ANGPTL2)の発現又は機能を抑制する物質を有効成分として含む、癌治療剤。
(2) 癌が、肺癌、骨肉腫、大腸癌、乳癌、卵巣癌、腎臓癌、肝癌、子宮癌又は皮膚癌である、(1)に記載の癌治療剤。
(3) 発癌及び癌の浸潤・転移を抑制するための薬剤である、(1)又は(2)に記載の癌治療剤。
(4) ヒトアンジオポエチン様因子2(ANGPTL2)の発現又は機能を抑制する物質が、ヒトアンジオポエチン様因子2(ANGPTL2)に対する中和抗体、又はRNAiによりヒトアンジオポエチン様因子2(ANGPTL2) の発現を抑制することができる物質である、(1)から(3)の何れかに記載の癌治療剤。
(5) RNAiによりヒトアンジオポエチン様因子2(ANGPTL2) の発現を抑制することができる物質が、siRNA、shRNA、又はこれらを発現できる発現ベクターである、(1)から(4)の何れかに記載の癌治療剤。
【発明の効果】
【0008】
ANGPTL2は癌細胞から分泌され、血球系細胞に作用することは、以前より明らかとなっていたが、最近、癌細胞へ直接作用し、癌細胞の運動性を亢進させることで、進展・転移促進に関与していることが見出された。本発明においては、癌細胞にてANGPTL2を過剰発現させることにより癌の転移が促進され、逆にANGPTL2を抑制すると癌の転移が抑制されることが見いだされた。これらの結果より、抗ANGPTL2中和抗体などのANGPTL2機能を抑制する物質は、癌を取り巻く微小環境因子及び癌そのものにも作用し、癌の進展及び転移を抑制するものと考えられる。本発明においては、抗ANGPTL2中和抗体、若しくはANGPTL2を標的としたsiRNA又はshRNAを、癌治療薬(癌の進展又は転移の抑制剤)として用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は、ヒト皮膚由来リンパ管内皮細胞(ヒト単球系細胞THP-1)をトランスウエルに入れ、Angptl2存在下にて移動した細胞数を観察した結果を示す。
【図2】図2は、通常栄養と低栄養の培地でH460, LNM35におけるAngptl2 mRNA誘導についてrealtime PCRを行った結果を示す。
【図3】図3は、通常酸素と低酸素条件下におけるH460, LNM35のAngptl2 mRNA誘導についてrealtime PCRを行った結果を示す。
【図4】図4は、免疫不全マウスにH460, LNM35を皮下移植し、移植後4週目に肺を摘出、がんの転移数、転移巣の面積を比較した結果を示す。
【図5】図5は、ANGPTL2過剰発現細胞株を構築した結果を示す。
【図6】図6は、免疫不全マウスに、コントロールベクターH460(pcDNA3.1)、Angptl2過剰発現H460(ANGPTL2)を皮下移植し、移植後4週目に腫瘍そのものを摘出、またリンパ節の腫大について観察した結果を示す。
【図7】図7は、免疫不全マウスに、コントロールベクターH460(pcDNA3.1)、Angptl2過剰発現H460(ANGPTL2)を皮下移植し、移植後4週目に肺を摘出後、肺転移について観察した結果を示す。
【図8】図8は、H460、LNM35、コントロールベクターH460(pcDNA3.1)、Angptl2過剰発現H460(ANGPTL2)の培養面をスクラッチし、12時間後にスクラッチ部分の面積変化の割合を測定することで、それぞれの細胞の運動能を測定した結果を示す。
【図9】図9は、ヒト乳がん細胞株MB231をトランスウエルに入れ、Angptl2存在下にて移動した細胞の形態をギムザ染色にて観察した結果を示す。
【図10】図10は、ANGPTL2ノックダウン細胞株を構築し、低酸素条件下でのAngptl2 mRNA誘導について検討した結果を示す。
【図11】図11は、 ANGPTL2ノックダウン細胞株にて低栄養条件下でのAngptl2 mRNA誘導について検討した結果を示す。
【図12】図12は、免疫不全マウスに、コントロールベクターLNM35、Angptl2ノックダウンLNM35を皮下移植し、移植後4週目に腫瘍そのものを摘出し、またリンパ節の腫大について観察した結果を示す。
【図13】図13は、免疫不全マウスに、コントロールベクターLNM35、Angptl2ノックダウンLNM35を皮下移植し、移植後4週目に肺を摘出後、肺転移について観察した(HE染色)を示す。
【図14】図14は、がん細胞はANGPTL2を発現して、周囲のリンパ管内皮細胞、単球系細胞の遊走能を亢進させて転移への微小環境を整える(1)と同時に、自身の遊走能を高め(2)、がんの転移・進展を促進することを示す。
【図15】図15は、Angptl2高発現がん細胞(H460/Angptl2)と、コントロールがん細胞(H460/Cont)を免疫不全マウス(NOJ)に皮下移植し、カプランマイヤー法にて生存期間を解析した結果を示す。
【図16】図16は、Angptl2ノックダウン細胞(LNM35/miAngptl2)と、コントロールがん細胞(LNM35/miLacZ)を免疫不全マウス(NOJ)に皮下移植し、カプランマイヤー法にて生存期間を解析した結果を示す。
【図17】図17は、(A)ヒト肺がん組織中のがん部、非がん部におけるAngptl2タンパクの発現をELISA法にて測定した結果、(B)ヒト肺がん患者、健常者の血清Angptl2値をELISA法にて測定し、肺がんのStage、T-factor、N-factorの進行度と血清Angptl2値との関連について検討した結果を示す。
【図18】図18は、肺がん患者(Adenocarcinoma、Squamous cell carcinoma)の原発巣、転移巣のAngptl2免疫染色を行い、原発巣におけるAngptl2発現を、高発現(high:61%以上の発現)、中程度発現(middle:10〜60%)、低発現(low:10%未満)に分類し、転移との関連について検討し、さらに転移巣におけるAngptl2の免疫染色も行った結果を示す。
【図19】図19は、肺がん患者の原発巣のAngptl2免疫染色を行い、原発巣におけるAngptl2発現を、高発現(high:61%以上の発現)、中程度発現(middle:10〜60%)、低発現(low:10%未満)に分類し、無病生存期間との関連について検討した結果を示す。
【図20】図20は、皮膚ケラチノサイトにAngptl2を発現するトランスジェニックマウス(K14-Angptl2 Tg)、通常のコントロールマウス(wild-type)、Angptl2ノックアウトマウス(Angptl2 KO)の皮膚に、DMBA(7-12-Dimethylbenz anthracene)、PMA(Phorbol 12-myristate 13-acetate)を塗布し、化学物質による皮膚がん誘発モデルを作成し、発がんを比較した(SCC:扁平上皮癌)結果を示す。
【図21】図21は、ヒト骨肉腫細胞株(saos2、143b)を、低酸素(1%)、タプシガルギン(4μM)、シスプラチン(200μg/ml)で刺激し、24時間後にAngptl2の発現をリアルタイムPCRにて測定した結果を示す。
【図22】図22は、(A)大腸がん患者(転移なし:M0、転移有り:M1)の血清Angptl2値をELISA法にて測定し、転移との関連について検討した。(B)大腸がん患者の原発巣のAngptl2免疫染色を行い、Angptl2発現と転移との関連について検討した結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
ANGPTL2は、がん細胞から分泌され、血球系細胞・リンパ管内皮細胞の運動能を促進させ、がん細胞の進展・転移に重要ながん細胞周囲の微小環境を変化させる(図1)。ヒト肺がん細胞株LNM35は、H460の亜株であり、H460と比較して高度に転移を来す細胞株である。高度に転移を来すLNM35はH460と比較してANGPTL2の発現が高い。また、がんは自身の著しい増殖能により低栄養・低酸素状態に陥りやすいが、LNM35は低栄養・低酸素といった条件下では、より強くANGPTL2を発現する(図2及び3)。次に、免疫不全マウスに、これらのヒト肺がん細胞株を移植したマウス担がんモデルを作成した。ANGPTL2を強く発現しているLNM35はH460と比較して、肺転移巣が多くみられた(図4)。そこで、転移能の低いヒト肺がん細胞株H460にANGPTL2を過剰発現させた細胞株を樹立した(図5)。通常のH460とANGPTL2を過剰発現したH460を免疫不全マウスの皮下に移植すると、腫瘍の増殖能には違いを認めなかったが、ANGPTL2を過剰発現したH460では、リンパ節転移、肺転移が増加した(図6及び7)。また、創傷治癒解析を用いて細胞の運動能を測定したところ、ANGPTL2を過剰発現した細胞株では、細胞の運動性の向上がみられた(図8)。乳がん細胞株(MB231)を用いた実験でも、MB231にANGPTL2を投与すると、細胞の形が変化し運動能が向上した(図9)。LNM35はH460と比較してANGPTL2を高発現しているが、LNM35のANGPTL2を抑制(ノックダウン)した細胞株を樹立した。ANGPTL2を抑制したLNM35では、低栄養・低酸素状態でもANGPTL2の誘導は抑制されていた(図10及び図11)。通常のLNM35とANGPTL2を抑制したLNM35を免疫不全マウスの皮下に移植すると、腫瘍の増殖能には違いを認めなかったが、ANGPTL2を抑制したLNM35では、リンパ節転移、肺転移が減少することを見出した(図12及び13)。以上の結果より、抗ANGPTL2中和抗体などを用いて、がん由来のANGPTL2を抑制することは、がん細胞周囲の微小環境の形成及びがんそのものの運動性を阻害し、結果としてがんの進展・転移を抑制するものであると考えられる(図14)。
【0011】
本発明は、ヒトアンジオポエチン様因子2(ANGPTL2)の発現又は機能を抑制する物質を有効成分として含む癌治療剤に関する。
【0012】
ヒトアンジオポエチン様因子2(ANGPTL2)のアミノ酸配列及び塩基配列は公知であり、例えば、GenBankTM データベースに登録番号AF125175として登録されており、また、J. Biol. Chem. 274 (37), 26523-26528 (1999)に記載されている。従って、ANGPTL2タンパク質、及びそれをコードする遺伝子は当業者であれば容易に取得することができる。
【0013】
本発明で用いるヒトアンジオポエチン様因子2(ANGPTL2)の発現又は機能を抑制する物質の具体例としては、ヒトアンジオポエチン様因子2(ANGPTL2)に対する中和抗体、又はRNAiによりヒトアンジオポエチン様因子2(ANGPTL2) の発現を抑制することができる物質を挙げることができる。
【0014】
本発明で用いるANGPTL2に対する中和抗体は、ポリクローナル抗体でもモノクローナル抗体でもよく、それらは当業者に公知の方法(例えば、「新生化学実験講座1,タンパク質I,389-406,東京化学同人」参照)により調製することが可能である。ANGPTL2はアミノ酸配列が前記のように公知であり、該アミノ酸配列に基づいて通常のタンパク質発現技術を用いて製造することができる。また、ANGPTL2の部分ペプチドは、ANGPTL2のアミノ酸配列から適当な部分配列を選択し、通常のペプチド合成技術を用いて製造できる。
【0015】
ANGPTL2に対するポリクローナル中和抗体の調製は、例えば、ウサギ、モルモット、マウス、ニワトリなどの動物に適量のANGPTL2タンパク質またはその部分ペプチドを投与する。投与は、抗体産生を促進するアジュバント(FIAやFCA)と共に行ってもよい。投与は、通常、数週間ごとに行う。免疫を複数回行うことにより、抗体価を上昇させることができる。最終免疫後、免疫動物から採血を行うことにより抗血清が得られる。この抗血清に対し、例えば、硫酸アンモニウム沈殿や陰イオンクロマトグラフィーによる分画、プロテインAや固定化抗原を用いたアフィニティー精製を行うことにより、ポリクローナル抗体を調製することができる。
【0016】
一方、ANGPTL2に対するモノクローナル中和抗体の調製は、例えば、ANGPTL2タンパク質もしくはその部分ペプチドを、上記と同様に動物に免疫し、最終免疫後、この免疫動物から脾臓またはリンパ節を採取する。この脾臓またはリンパ節に含まれる抗体産生細胞とミエローマ細胞とをポリエチレングリコールなどを用いて融合し、ハイブリドーマを調製する。目的のハイブリドーマをスクリーニングし、これを培養し、その培養上清からモノクローナル抗体を調製することができる。モノクローナル抗体の精製は、例えば、硫酸アンモニウム沈殿や陰イオンクロマトグラフィーによる分画、プロテインAや固定化抗原を用いたアフィニティー精製により行うことができる。尚、本発明の目的のためには、抗体はANGPTL2のいかなるエピトープを認識するものであってもよい。
【0017】
また、本発明では、上記した抗体の断片を使用してもよい。抗体の断片としては、F(ab’)2フラグメント、Fab’フラグメント等が挙げられる。
【0018】
ANGPTL2に対する抗体はヒト型抗体もしくはヒト抗体であってもよい。ヒト型抗体は、例えば、マウス−ヒトキメラ抗体であれば、ANGPTL2タンパク質に対する抗体を産生するマウス細胞から抗体遺伝子を単離し、そのH鎖定常部をヒトIgE H鎖定常部遺伝子に組換え、マウス骨髄腫細胞に導入することにより調製できる。また、ヒト抗体は、免疫系をヒトと入れ換えたマウスにANGPTL2タンパク質を免疫することにより調製することが可能である。
【0019】
本発明の癌治療剤には、上記ANGPTL2に対する中和抗体の他に、必要に応じて薬学的に許容される担体等を適宜含有させることができる。
【0020】
RNAiによりヒトアンジオポエチン様因子2(ANGPTL2) の発現を抑制することができる物質の具体例としては、siRNA、shRNA、又はこれらを発現できる発現ベクターなどが挙げられる。これらが細胞に導入されると、RNAi現象が生じ、相同な配列を有するRNAが分解される。このようなRNAi現象は、線虫,昆虫、原虫、ヒドラ、植物、脊椎動物(哺乳動物を含む)において見られる現象である。
【0021】
好ましい態様によれば、本発明においてはsiRNA と呼ばれる、約20塩基(例えば、約21〜23塩基)またはそれ未満の長さの二本鎖RNAを用いることができる。このようなsiRNA は、細胞に発現させることにより遺伝子発現を抑制し、そのsiRNA の標的となる遺伝子(本発明においては、ヒトアンジオポエチン様因子2(ANGPTL2)遺伝子)の発現を抑制することができる。
【0022】
本発明において用いられるsiRNA は、RNAiを引き起こすことができる限り、どのような形態のものでもよい。ここで、「siRNA 」とは、short interfering RNAの略称であり、人工的に化学合成されるかまたは生化学的に合成されたものか、あるいは生物体内で合成されたものか、あるいは約40塩基以上の二本鎖RNAが体内で分解されてできた10塩基対以上の短鎖二本鎖RNAをいい、通常、5'−リン酸、3'−OHの構造を有しており、3'末端は約2塩基突出している。このsiRNA に特異的なタンパク質が結合して、RISC(RNA−induced−silencing−complex)が形成される。この複合体は、siRNA と同じ配列を有するmRNAを認識して結合し、RNaseIII様の酵素活性によってsiRNA の中央部でmRNAを切断する。
【0023】
siRNA の配列と、標的として切断するmRNAの配列とは100%一致することが好ましい。しかし、siRNA の中央から外れた位置の塩基が一致していない場合については、RNAiによる切断活性は部分的には残存することが多いので、必ずしも100%一致していなくてもよい。
【0024】
siRNAの塩基配列と、発現を抑制すべきANGPTL2遺伝子の塩基配列との間で相同性のある領域は、ANGPTL2遺伝子の翻訳開始領域を含まないことが好ましい。翻訳開始領域には種々の転写因子や翻訳因子が結合することが予想されるため、siRNA が効果的にmRNAに結合することができず、効果が低減することが予測されるからである。従って、相同性を有する配列は、ANGPTL2遺伝子の翻訳開始領域から20塩基離れていることが好ましく、より好ましくはANGPTL2遺伝子の翻訳開始領域から70塩基離れている。相同性を有する配列としては、例えば、ANGPTL2遺伝子の3'末端付近の配列でもよい。
【0025】
本発明では、siRNAをRNAiを引き起こす因子として用いることができるし、siRNA を生成するような因子(例えば、約40塩基以上のdsRNA)をそのような因子として用いることができる。例えば、ANGPTL2遺伝子の核酸配列の一部に対して少なくとも約70%、好ましくは75%以上、より好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上、最も好ましくは100%の相同性を有する配列を含む、二本鎖部分を含むRNAまたはその改変体を使用することができる。相同性を有する配列部分は、通常は、少なくとも約15ヌクレオチド以上であり、好ましくは少なくとも約19ヌクレオチドであり、より好ましくは少なくとも約20ヌクレオチド長であり、さらに好ましくは少なくとも約21ヌクレオチド長である。
【0026】
本発明の別の態様によれば、RNAiによりANGPTL2の発現を抑制することができる因子として、3'末端に突出部を有する短いヘアピン構造から成るshRNA(short hairpin RNA)を使用することができる。shRNAとは、一本鎖RNAで部分的に回文状の塩基配列を含むことにより、分子内で二本鎖構造をとり、ヘアピンのような構造となる約20塩基対以上の分子のことを言う。そのようなshRNAは、細胞内に導入された後、細胞内で約20塩基(代表的には例えば、21塩基、22塩基、23塩基)の長さに分解され、siRNA と同様にRNAiを引き起こすことができる。上記の通りshRNAは、siRNA と同様にRNAiを引き起こすことから、本発明において有効に用いることができる。
【0027】
shRNAは好ましくは、3'突出末端を有している。二本鎖部分の長さは特に限定されないが、好ましくは約10ヌクレオチド以上であり、より好ましくは約20ヌクレオチド以上である。ここで、3'突出末端は、好ましくはDNAであり、より好ましくは少なくとも2ヌクレオチド以上のDNAであり、さらに好ましくは2〜4ヌクレオチドのDNAである。
【0028】
本発明で用いるRNAiによりANGPTL2の発現を抑制することができる物質(即ち、上記したようなsiRNA又はshRNAなど)は、人工的に化学合成してもよいし、センス鎖およびアンチセンス鎖のDNA配列を逆向きに連結したヘアピン構造のDNAをT7 RNAポリメラーゼによってインビトロでRNAを合成することによって作製することもできる。インビトロで合成する場合は、T7 RNAポリメラーゼおよびT7プロモーターを用いて、鋳型DNAからアンチセンスおよびセンスのRNAを合成することができる。これらをインビトロでアニーリングした後、細胞に導入すると、RNAiが引き起こされ、ANGPTL2の発現が抑制される。ここでは、例えば、リン酸カルシウム法、又は各種のトランスフェクション試薬(例えば、oligofectamine、Lipofectamineおよびlipofectionなど)を用いてそのようなRNAを細胞内に導入することができる。
【0029】
さらに本発明においては、RNAiによりANGPTL2の発現を抑制することができる物質(好ましくは、siRNA又はshRNA)をコードする核酸配列を含む発現ベクターを用いてもよい。
【0030】
本発明の癌治療剤は、癌の治療のために広く使用することができるが、好ましくは発癌及び癌の浸潤・転移を抑制するための薬剤として使用することができる。
【0031】
本発明の癌治療剤の投与対象の癌の種類は特に限定されず、例えば、悪性黒色腫、悪性リンパ腫、消化器癌、肺癌、食道癌、胃癌、大腸癌、直腸癌、結腸癌、尿管腫瘍、胆嚢癌、胆管癌、胆道癌、乳癌、肝癌(肝臓癌)、膵臓癌、睾丸腫瘍、上顎癌、舌癌、口唇癌、口腔癌、咽頭癌、喉頭癌、腎臓癌、卵巣癌、子宮癌、前立腺癌、甲状腺癌、脳腫瘍、カポジ肉腫、血管腫、白血病、真性多血症、神経芽腫、網膜芽腫、骨髄腫、膀胱腫、肉腫、骨肉腫、筋肉腫、皮膚癌、基底細胞癌、皮膚付属器癌、皮膚転移癌、皮膚黒色腫などが挙げられる。好ましくは、肺癌、骨肉腫、大腸癌、乳癌、卵巣癌、腎臓癌、肝癌、子宮癌又は皮膚癌であり、さらに好ましくは乳癌又は卵巣癌であり、特に好ましくは乳癌である。
【0032】
本発明の癌治療剤の投与方法は、経口投与、非経口投与(例えば、静脈内投与、筋肉内投与、皮下投与、皮内投与、粘膜投与、直腸内投与、膣内投与、患部への局所投与、皮膚投与など)、患部への直接投与などが挙げられる。
【0033】
本発明の癌治療剤は、医薬組成物として使用する場合、必要に応じて薬学的に許容可能な添加剤を配合することができる。 薬学的に許容可能な添加剤の具体例としては、抗酸化剤、保存剤、着色料、風味料、および希釈剤、乳化剤、懸濁化剤、溶媒、フィラー、増量剤、緩衝剤、送達ビヒクル、希釈剤、キャリア、賦形剤および/または薬学的アジュバントなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0034】
本発明の癌治療剤の製剤形態は特に限定されないが、例えば、液剤、注射剤、徐放剤などが挙げられる。本発明の癌治療剤を上記製剤として処方するために使用される溶媒としては、水性または非水性のいずれでもよい。
【0035】
注射剤は当該分野において周知の方法により調製することができる。例えば、適切な溶剤(生理食塩水、PBSのような緩衝液、滅菌水など)に溶解した後、フィルターなどで濾過滅菌し、次いで無菌容器(例えば、アンプルなど)に充填することにより注射剤を調製することができる。この注射剤には、必要に応じて、慣用の薬学的キャリアを含めてもよい。非侵襲的なカテーテルを用いる投与方法も使用され得る。本発明で用いることができるキャリアとしては、中性緩衝化生理食塩水、または血清アルブミンと混合された生理食塩水などが挙げられる。
【0036】
さらに、本発明の癌治療剤の有効成分であるRNAiによりANGPTL2の発現を抑制することができる因子は、非ウイルスベクターまたはウイルスベクターの形態で投与することができる。このような投与形態は、当該分野において公知である。
【0037】
非ウイルスベクター形態の場合、リポソームを用いて核酸分子を導入する方法(リポソーム法、HVJ−リポソーム法、カチオニックリポソーム法、リポフェクション法、リポフェクトアミン法など)、マイクロインジェクション法、遺伝子銃(Gene Gun)でキャリア(金属粒子)とともに核酸分子を細胞に移入する方法などを利用することができる。発現ベクターとしては、例えば、pCAGGS、pBJ−CMV、pcDNA3.1、pZeoSV(Invitrogen社又はStratagene社から入手可能)などが挙げられる。リポフェクションを用いる場合、例えば、リポフェクトアミン2000、オリゴフェクトアミン(silencer siRNA TransfectionKit,GeneSilencer siRNA Transfection Reagent)などを用いることができる。
【0038】
RNAiによりANGPTL2の発現を抑制することができる因子をウイルスベクターを用いて生体に投与する場合は、組換えアデノウイルス、レトロウイルスなどのウイルスベクターを利用することができる。無毒化したレトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルス、ワクシニアウイルス、ポックスウイルス、ポリオウイルス、シンドビスウイルス、センダイウイルス、SV40などのDNAウイルスまたはRNAウイルスに、RNAiによりANGPTL2の発現を抑制することができる因子を発現するDNAを導入し、細胞または組織にこの組換えウイルスを感染させることにより、細胞または組織内に遺伝子を導入することができる。
【0039】
さらにまた、RNAiによりANGPTL2の発現を抑制することができる因子は、生体の器官や組織などに直接注入することもできる。
【0040】
本発明の癌治療剤の投与量は、使用目的、疾患の重篤度、患者の年齢、体重、性別、既往歴、又は有効成分の種類などを考慮して、当業者が決定することができる。
【0041】
有効成分であるヒトアンジオポエチン様因子2(ANGPTL2)の発現又は機能を抑制する物質の投与量は特に限定されないが、例えば、約0.1ng〜約100mg/kg、好ましくは約1ng〜約10mgである。
【0042】
また本発明の薬剤の投与頻度としては、例えば、一日一回〜数ヶ月に1回(例えば、1週間に1回〜1ヶ月に1回)の頻度で投与することができる。RNAiは、一般に投与後1〜3日間効果が見られる。したがって、毎日〜3日に1回の頻度で投与することが好ましい。発現ベクターを用いる場合、1週間に1回程度投与することも可能である。
【0043】
以下、実施例を挙げて本発明を更に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0044】
実施例1:
ヒト皮膚由来リンパ管内皮細胞(ヒト単球系細胞THP-1)をトランスウエルに入れ(フィルター上部:上室)、Angptl2存在下にて移動した細胞数(フィルター下部:下室)を観察した。
使用細胞:リンパ管内皮細胞、THP-1
培養条件
培地:リンパ管内皮細胞(EBM、通常血清)、THP-1 (RPMI、血清0.1%)
ngptl2を走化性因子 (chemoattractant) として下室に入れる。上室に細胞をまいて3(THP-1は4)時間後にフィルターを通過した細胞をカウントする。フィルターのpore sizeは8μmを用いる。24 well multiwell format (FALCON 35-1158) を使用した。
【0045】
結果を図1に示す。ANGPTL2はリンパ管内皮細胞、単球系細胞の走化性を促進することが示された。
【0046】
実施例2:
通常栄養と低栄養の培地でH460, LNM35におけるAngptl2 mRNA誘導についてrealtime PCRを行った(24時間刺激)。
使用細胞:NCI-H460 (H460), NCI-H460-LNM35 (LNM35)
培養条件
通常培地 : RPMI1640 (10% FCS、 5% CO2)
低栄養培地 : RPMI1640 (Glucose なし、1% FCS、5% CO2)
リアルタイムPCRプライマー
Thermal Cycler Dice Real Time system (Takara Bio)
Forward : GGAGGTTGGACTGTCATCCAGAG (配列番号1)
Reverse : GCCTTGGTTCGTCAGCCAGTA (配列番号2)
【0047】
結果を図2に示す。高転移株であるLNM35は、低栄養条件下にてもANGPTL2の誘導が高いことが示された。
【0048】
実施例3:
通常酸素(約21%O2 )と低酸素条件下(1%O2)におけるH460, LNM35のAngptl2 mRNA誘導についてrealtime PCRを行った(24時間刺激)。
使用細胞:NCI-H460 (H460), NCI-H460-LNM35 (LNM35)
培養条件
通常培地 : RPMI1640 (10% FCS)
【0049】
結果を図3に示す。高転移株であるLNM35は、低酸素条件下にてANGPTL2の誘導が高いことが示された。
【0050】
実施例4:
免疫不全マウスにH460, LNM35を皮下移植し、移植後4週目に肺を摘出、がんの転移数、転移巣の面積を比較した。
使用細胞:NCI-H460 (H460), NCI-H460-LNM35 (LNM35)
移植条件
細胞数:1x106
免疫不全マウス*の背中の皮下に移植(上記細胞数をvolume100 μlのPBSに溶かして注入)
A: scale bar 500 μm
B: 視野あたりの転移数と全面積あたりの転移面積
使用している免疫不全マウスはNOD-SCID & Jak3 double KOマウスである(Tリンパ球、Bリンパ球、ナチ ュラルキラー細胞を欠損し、補体活性(±)、マクロファージ活性(±))
【0051】
結果を図4に示す。LNM35はH460と比較して、極めて肺転移を来し易いことが示された。
【0052】
実施例5:
ANGPTL2過剰発現細胞株を構築した。
使用細胞:NCI-H460 (H460)
トランスフェクト条件
Lipofectamine2000 (invitrogen)を用いて、hAngptl2過剰発現株を作成した。
ELISA kit : hAngptl2 ELISA kit(免疫生物研究所)
(図5の左) 通常培地(RPMI)で培養したときのAngptl2 mRNA(realtime PCR)
(図5の右) 無血清培地(RPMI)で24時間培養後の培地に含まれるAngptl2 蛋白を測定した(ELISA法)
【0053】
結果を図5に示す。ANGPTL2過剰発現H460細胞の樹立が示された。
【0054】
実施例6:
免疫不全マウスに、コントロールベクターH460(pcDNA3.1)、Angptl2過剰発現H460(ANGPTL2)を皮下移植し、移植後4週目に腫瘍そのものを摘出、またリンパ節の腫大について観察した。
使用細胞:コントロールベクターH460, Angptl2過剰発現H460
移植条件
細胞数:1x106
免疫不全マウスの背中の皮下に移植(上記細胞数をvolume100 μlのPBSに溶かしてして注入)
【0055】
結果を図6に示す。
A: 腫瘍そのもののサイズ(縦x横x高さ)mm3
B: 腫瘍写真
C: 右腋窩リンパ節写真
ANGPTL2過剰発現H460は増殖はmockと変わらないが、リンパ節転移を来しやすいことが示された。
【0056】
実施例7:
免疫不全マウスに、コントロールベクターH460(pcDNA3.1)、Angptl2過剰発現H460(ANGPTL2)を皮下移植し、移植後4週目に肺を摘出後、肺転移について観察した(HE染色)。
使用細胞:コントロールベクターH460, Angptl2過剰発現H460
移植条件
細胞数:1x106
免疫不全マウスの背中の皮下に移植(上記細胞数をvolume100 μlのPBSに溶かして注入)
【0057】
結果を図7に示す。低転移株である肺がん細胞H460にANGPTL2を過剰発現させると肺転移を来し易くなることが示された。
【0058】
実施例8:
H460、LNM35、コントロールベクターH460(pcDNA3.1)、Angptl2過剰発現H460(ANGPTL2)の培養面をスクラッチし、12時間後にスクラッチ部分の面積変化の割合を測定することで、それぞれの細胞の運動能を測定した。
使用細胞:H460、LNM35、
コントロールベクターH460、 Angptl2過剰発現H460
創傷治癒アッセイ(wound healing assay)
【0059】
【化1】

【0060】
結果を図8に示す。ANGPTL2を過剰発現した細胞は運動能が高いことが示された。創傷治癒解析では、LNM35の方が運動能が高いが、Angptl2過剰発現 H460ではより運動能が高くなる。
【0061】
実施例9:
ヒト乳がん細胞株MB231をトランスウエルに入れ(フィルター上部:上室)、Angptl2存在下にて移動した細胞(フィルター下部:下室)の形態をギムザ染色にて観察した。
使用細胞:MB231
培養条件
培地:EMEM(FCSなし)
Angptl2を走化性因子 (chemoattractant) として下室に入れる。上室に細胞をまいて6時間後にフィルターを通過した細胞をカウントする。フィルターのpore sizeは8μmを用いる。
【0062】
結果を図9に示す。乳がん細胞株(MB231)にANGPTL2を投与すると運動性が高まることが示された。
【0063】
実施例10:
ANGPTL2ノックダウン細胞株を構築し、低酸素条件下でのAngptl2 mRNA誘導について検討した(realtime PCR)。
使用細胞:LNM35
トランスフェクト条件:Lipofectamine2000 (invitrogen)を用いて、hAngptl2ノックダウン株を作成した。
ノックダウン用ベクター:Invitrogen BLOCK-iTTM Pol II miR RNAi Expression Vector kitを使用した。hANGPTL2 ノックダウン標的配列(アンチセンス標的配列)は、AATACTCGCTCTCAGGTTCCA(配列番号3)である。
通常酸素と低酸素条件下(1%O2)にてLNM35, LNM35ノックダウンにおけるAngptl2 mRNA誘導についてrealtime PCRを行った(24時間刺激)。
【0064】
結果を図10に示す。ANGPTL2ノックダウンLNM35細胞の樹立が示された。
【0065】
実施例11:
ANGPTL2ノックダウン細胞株にて低栄養条件下でのAngptl2 mRNA誘導について検討した。
使用細胞:LNM35、LNM35ノックダウン細胞
低栄養培地 : RPMI1640 (Glucose なし、1% FCS, 5% CO2)
【0066】
結果を図11に示す。ANGPTL2ノックダウンLNM35細胞では低栄養状態でもANGPTL2の誘導は低いことが示された。
【0067】
実施例12:
免疫不全マウスに、コントロールベクターLNM35、Angptl2ノックダウンLNM35を皮下移植し、移植後4週目に腫瘍そのものを摘出し、またリンパ節の腫大について観察した。
使用細胞:コントロールベクターLNM35, Angptl2ノックダウンLNM35
移植条件:細胞数:1x106
免疫不全マウスの背中の皮下に移植(上記細胞数をvolume100 μlのPBSに溶かしてして注入)した。
【0068】
結果を図12に示す。
A: 腫瘍そのもののサイズ(縦x横x高さ)mm3
B: 腫瘍写真
C: 右腋窩リンパ節写真
ANGPTL2ノックダウンLNM35は増殖はmockと変わらないが、リンパ節転移が抑制されることが示された。
【0069】
実施例13:
免疫不全マウスに、コントロールベクターLNM35、Angptl2ノックダウンLNM35を皮下移植し、移植後4週目に肺を摘出後、肺転移について観察した(HE染色)。
使用細胞:コントロールベクターLNM35, Angptl2ノックダウンLNM35
移植条件
細胞数:1x106
免疫不全マウスの背中の皮下に移植(上記細胞数をvolume100 μlのPBSに溶かして注入) した。
【0070】
結果を図13に示す。高転移株である肺がん細胞LNM35のANGPTL2発現を抑制すると肺転移を来しにくくなることが示された。
【0071】
実施例14:
Angptl2高発現がん細胞(H460/Angptl2)と、コントロールがん細胞(H460/Cont)を免疫不全マウス(NOJ)に皮下移植し、カプランマイヤー法にて生存期間を解析した。
結果を図15に示す。Angptl2高発現がん細胞(H460/Angptl2)を免疫不全マウスに移植すると、通常のがん細胞(H460/Cont)と比較して、生存期間が短縮した。
【0072】
実施例15:
Angptl2ノックダウン細胞(LNM35/miAngptl2)と、コントロールがん細胞(LNM35/miLacZ)を免疫不全マウス(NOJ)に皮下移植し、カプランマイヤー法にて生存期間を解析した。
結果を図16に示す。Angptl2ノックダウン細胞(LNM35/miAngptl2)を免疫不全マウスに移植すると、通常のがん細胞(LNM35/miLacZ)と比較して、生存率が上昇する。
【0073】
実施例16:
(A)ヒト肺がん組織中のがん部、非がん部におけるAngptl2タンパクの発現をELISA法にて測定した。
(B)ヒト肺がん患者、健常者の血清Angptl2値をELISA法にて測定し、肺がんのStage、T-factor、N-factorの進行度と血清Angptl2値との関連について検討した。
結果を図17に示す。肺がん腫瘍部のAngptl2タンパクは、非腫瘍部と比較して高値であり(A)、肺がん患者の血清Angptl2値は、肺がんのStage、T-factor、N-factorの進行度に伴い上昇する。
【0074】
実施例17:
肺がん患者(Adenocarcinoma、Squamous cell carcinoma)の原発巣、転移巣のAngptl2免疫染色を行い、原発巣におけるAngptl2発現を、高発現(high:61%以上の発現)、中程度発現(middle:10〜60%)、低発現(low:10%未満)に分類し、転移との関連について検討した。さらに、転移巣におけるAngptl2の免疫染色も行った。
結果を図18に示す。肺がん患者(Adenocarcinoma、Squamous cell carcinoma)の原発巣において、Angptl2が高値の患者は転移を来しやすい。
【0075】
実施例18:
肺がん患者の原発巣のAngptl2免疫染色を行い、原発巣におけるAngptl2発現を、高発現(high:61%以上の発現)、中程度発現(middle:10〜60%)、低発現(low:10%未満)に分類し、無病生存期間との関連について検討した。
結果を図19に示す。原発巣におけるAngptl2の発現がん細胞の占有率は、無病生存期間を予測する。
【0076】
実施例19:
皮膚ケラチノサイトにAngptl2を発現するトランスジェニックマウス(K14-Angptl2 Tg)、通常のコントロールマウス(wild-type)、Angptl2ノックアウトマウス(Angptl2 KO)の皮膚に、DMBA(7-12-Dimethylbenz anthracene)、PMA(Phorbol 12-myristate 13-acetate)を塗布し、化学物質による皮膚がん誘発モデルを作成し、発がんを比較した。SCC:扁平上皮癌
結果を図20に示す。皮膚Angptl2発現マウスでは、化学物質による発がんを来しやすく、Angptl2ノックアウトマウスでは発がんを来しにくい。
【0077】
実施例20:
ヒト骨肉腫細胞株(saos2、143b)を、低酸素(1%)、タプシガルギン(4μM)、シスプラチン(200μg/ml)で刺激し、24時間後にAngptl2の発現をリアルタイムPCRにて測定した。
結果を図21に示す。ヒト骨肉腫細胞株(saos2、143b)を、低酸素、タプシガルギン、シスプラチンで刺激すると、Angptl2が誘導されるが、特に転移能が高い143bではAngptl2の誘導が顕著にみられる。
【0078】
実施例21:
(A)大腸がん患者(転移なし:M0、転移有り:M1)の血清Angptl2値をELISA法にて測定し、転移との関連について検討した。
(B)大腸がん患者の原発巣のAngptl2免疫染色を行い、Angptl2発現と転移との関連について検討した。
結果を図22に示す。大腸がんにおけるAngptl2発現は転移に関与する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトアンジオポエチン様因子2(ANGPTL2)の発現又は機能を抑制する物質を有効成分として含む、癌治療剤。
【請求項2】
癌が、肺癌、骨肉腫、大腸癌、乳癌、卵巣癌、腎臓癌、肝癌、子宮癌又は皮膚癌である、請求項1に記載の癌治療剤。
【請求項3】
発癌及び癌の浸潤・転移を抑制するための薬剤である、請求項1又は2に記載の癌治療剤。
【請求項4】
ヒトアンジオポエチン様因子2(ANGPTL2)の発現又は機能を抑制する物質が、ヒトアンジオポエチン様因子2(ANGPTL2)に対する中和抗体、又はRNAiによりヒトアンジオポエチン様因子2(ANGPTL2) の発現を抑制することができる物質である、請求項1から3の何れかに記載の癌治療剤。
【請求項5】
RNAiによりヒトアンジオポエチン様因子2(ANGPTL2) の発現を抑制することができる物質が、siRNA、shRNA、又はこれらを発現できる発現ベクターである、請求項1から4の何れかに記載の癌治療剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【公開番号】特開2011−93896(P2011−93896A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−221669(P2010−221669)
【出願日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(504159235)国立大学法人 熊本大学 (314)
【Fターム(参考)】