説明

癌治療法

4-キナゾリンアミンおよび同一のものを含む医薬組成物を投与することにより、哺乳動物の脳に転移した乳癌を治療する方法を本明細書で開示する。特に、その方法はN-{3-クロロ-4-[(3-フルオロベンジル)オキシ]フェニル}-6-[5-({[2-(メタンスルホニル)エチル]アミノ}メチル)-2-フリル]-4-キナゾリンアミンならびにその塩および溶媒和物を投与することにより、erbB2が過剰発現した乳癌脳転移を治療する方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
本発明は、4-キナゾリンアミンおよび同一のものを含む医薬組成物を投与することにより、哺乳動物の脳に転移した乳癌を治療する方法に関する。特に、該方法は、N-{3-クロロ-4-[(3-フルオロベンジル)オキシ]フェニル}-6-[5-({[2-(メタンスルホニル)エチル]アミノ}メチル)-2-フリル]-4-キナゾリンアミンならびにその塩および溶媒和物を投与することにより、erbB2が過剰発現している乳癌脳転移を治療する方法に関する。
【0002】
トラスツズマブベースの療法は、転移性のErbB2過剰発現乳癌である患者の全身制御および全生存率の両方を改善した。しかしながら、トラスツズマブは血液脳関門を通過せず、ErbB2陽性の乳癌は、脳を含む遠隔臓器に転移する傾向を有しうる。その結果、中枢神経系(CNS)の進行が主な臨床上の問題として現れる。第1選択のトラスツズマブの2つの臨床試験に参加した523人の転移性乳癌患者の最近の調査により、HER2が過剰発現した腫瘍を有することが確認された患者の中で、CNS疾患の発生率が高いことと共に、CNS単独で進行したものの発生率が10%であることが明らかとなった(Burstein J.C.,ら, Breast Cancer Res Treat., 82:S50-S51, 2003, Supp. 1, abstract 226(非特許文献1))。さらに、レトロスペクティブ分析により、多数の施設において段階IVの乳癌に対してトラスツズマブを用いて治療した女性の中で、CNS転移の発生率が28〜43%であることが開示された(Bendell J.C.,ら, Cancer 97:2972-2977,2003(非特許文献2); Weitzen R.,ら, Proc. Am. Soc. Clin. Oncol., 21:2002, abstract 1936(非特許文献3); Wardley A.M.,ら, Proc. Am. Soc. Clin. Oncol., 21:2002, abstract 241(非特許文献4);およびHeinrich B., Proc. Am. Soc. Clin. Oncol., 22: 2003, abstract 147(非特許文献5))。それに対し、過去一連の分析において無作為に選んだ患者の中でのCNS転移の発生率はたった10〜16%であった(Hagemeister F. B.ら, Cancer 46:162-167, 1980(非特許文献6))。重大なことに、全脳放射線治療(WBRT)または定位的放射線治療(SRS)などのCNS治療にもかかわらず、進行性の全身性疾患よりもむしろ、神経性の原因により死亡する患者の割合が増加している。Bendellらによって行われた一連の分析では、例えば、患者の71%はいまだに治療しているか、またはCNS進行時に全身性の安定疾患となり、半分以上が神経性の原因で死亡した(Bendell J. C.ら, Cancer 97:2972-2977, 2003(非特許文献7))。乳癌由来の脳転移に対する有効かつ十分に容認される治療はいまだに医療ニーズを満たしていない。
【0003】
通常、脳転移の初期治療はそれらの多様性、位置、大きさ、および患者の全身性疾患の状態によって決まる。選択肢には外科的切除、定位的放射線治療(SRS)および全脳放射線治療(WBRT)が含まれ得る。患者がより長く生存するにつれて、WBRTおよび/またはSRS後のCNS進行は重大な臨床上の問題となる。一旦これが起こると、適切な治療に関するコンセンサスは現在のところ存在しない;可能性のある選択肢はSRSを試すこと、もしくは再度試すこと、または化学療法を利用することである。少数の試験において、乳癌由来の脳転移の治療における化学療法の役割が検討され、乳癌に対する新規薬剤のほとんどの研究で、脳転移のある患者は明確に除外された。データは症例集積および症例報告から主に利用する。活性に関する単独の症例報告はカペシタビン、シスプラチン+エトポシドおよびベンダムスチンを含む様々な薬剤に関してある(Wang M. L. H.ら, Am. J. Clin. Oncol. 24:421-424,2001(非特許文献8); Cocconi G.ら, Cancer Invest. 8:327-334, 1990(非特許文献9); Franciosi V.ら, Cancer 85:1599-1605, 1999(非特許文献10);およびZulkowski K.ら, J. Cancer Res. Clin. Oncol. 128:111-113,2001(非特許文献11))。テモゾロマイドは容易に血液脳関門を通過する経口投与可能なアルキル化剤である。フェーズIIの試験では、この集団においてテモゾロマイドの一貫性のない活性が報告された(Christodoulou C.ら, Ann. Oncol. 12:249-254, 2001(非特許文献12))。転移性乳癌の治療において、最も広く使用されている化学療法剤であるパクリタキセル、ドセタキセルまたはナベルビンへの応答は文献中に何も記載されていない。
【0004】
血液脳関門(BBB)は、多くの治療薬剤をCNSから排除する。BBBは脳毛細血管の内皮細胞間での複雑なタイト結合、およびそれらの低いエンドサイトーシス活性により形成されている(Potschkaら, Journal of Pharm. And Exp. Therapeutics 306(1):124-131, 2003 July(非特許文献13))。これにより、連続液体バリアーとして振舞う毛細血管壁となり、極性および液体に不溶な基質の通過を妨げる。加えて、脳毛細血管内皮細胞の膜に見られるP-グリコプロテイン(Pgp;ABCB1)および多剤耐性蛋白質MRP2(ABCC2)などのATP依存性の多剤トランスポーターは、薬物が脳に侵入することを制限することによって、BBB機能における重要な役割を果たすと考えられる。従って、それはCNSに影響を与える病気に有効であり得る薬物にとって大きな障害である。
【0005】
脳腫瘍はBBBの機能を局所的かつ不均一的に破壊しうる。上記のように、これらの薬剤で、使用される用量において無傷の血液脳関門を通過するものはないにもかかわらず、様々な化学療法レジメン(サイトキサン/メトトレキサート/5-フルオロウラシル、ドキソルビシン/サイトキサン、カペシタビン/シスプラチン/エトポシド)を用いたCNS活性が報告されている。さらに、2例の検死解剖では、プラチンの臨床的に関連のある濃度が脳腫瘍内に存在したが、隣接した正常な脳には存在せず、血液腫瘍関門が無傷の血液脳関門よりも非常に特異的な性質を有しているという仮説を支持した(Stewart D. J.ら, Am. J. Clin. Oncol. 11:152-158, 1988(非特許文献14);およびStewart D. J.ら, Cancer Res. 42:2472-2479(非特許文献15))。それに対し、巨大な(Mr 148,000)モノクローナル抗体であるトラスツズマブは、前臨床異種移植モデルおよびCNS転移した患者の両方においてCNSから排除されたままである(Grossi P. M.ら, Clin. Cancer Res. 9:5514-5520, 2003(非特許文献16); およびPestalozzi B. C.ら, J. Cin. Oncol. 18:2349-2351,2000(非特許文献17))。
【0006】
小分子のチロシンキナーゼ阻害剤は破壊された血液脳関門を通過し得る。アジアのNSCLC腺癌である非喫煙者の女性に第1選択のゲフィチニブを用いて、69%の部分寛解率および80%の全身疾患制御率が最近報告された(Lee Jun-Soo, International Assoc. for the Study of Lung Cancer, Baltimore, July 2004(非特許文献18))。ゲフィチニブ(イレッサ)は上皮増殖因子受容体(EGFR)の阻害剤であり、白金ベースの化学療法およびドセタキセルを用いた化学療法の両方に失敗した後に、局所進行性または転移性の非小細胞肺癌である患者を治療するための単剤療法として用いられる。この研究には、新たに診断され、未治療の非小細胞肺癌(NSCLC)が脳転移した8人の被験者が予め含まれていた。これらの被験者8人のうちの7人はゲフィチニブを使用して持続的なCNSの部分寛解を得た。ゲフィチニブを用いた活性は、化学療法 +/- WBRTを受けた後の進行性NSCLC脳転移患者で、予め別に行われていた試験において報告された(Ceresoli G. L., Annals Oncol. 15:1042-1047(非特許文献19))。加えて、これまでに、人道的な使用計画で治療されたNSCLCの患者のうち、ゲフィチニブに対するCNS寛解の文献中に22例の症例報告があった。完全または部分的な客観的寛解は共に注目され、機能状態および生活の質の改善に関係がある。
【0007】
トラスツズマブ療法に対して抵抗性である別の可能性のあるメカニズムは、原発腫瘍および転移部位との間のErbB2発現が異なることである(例えば、ErbB2非過剰発現細胞はトラスツズマブを用いた全身療法を免れる)。しかしながら、脳転移におけるErbB2の転写発現は原発性乳癌のものを一般的に上回ることが知られている(Steeg P., Third Int’l. Symp. On Translational Res. In Onc., Santa Barbara CA, Oct9-12, 2003(非特許文献20); Steeg P.ら, Eur. J. Cancer 2(8):142, Sept 2004, abstract 468(非特許文献21))。あるいは、CNSに転移するクローンは、切断されたErbB2受容体であるp95の発現上昇またはPTEN欠損のようなメカニズムを介してトラスツズマブに抵抗性であり得る(Nagata Y.ら, Cancer Cell 6(2):117-127, 2004(非特許文献22);およびChristianson T. A.ら, Cancer Research 58(22):5123-5129, 1998(非特許文献23))。上記のように、脳転移は、全身性疾患がトラスツズマブによってうまく制御されている間に典型的に発生する。従って、最も妥当な仮説は、巨大なモノクローナル抗体であるトラスツズマブが血液脳関門の状態にかかわらず、CNSに接近することができないことである。
【非特許文献1】Burstein J.C.,ら, Breast Cancer Res Treat., 82:S50-S51, 2003, Supp. 1, abstract 226
【非特許文献2】Bendell J.C.,ら, Cancer 97:2972-2977,2003
【非特許文献3】Weitzen R.,ら, Proc. Am. Soc. Clin. Oncol., 21:2002, abstract 1936
【非特許文献4】Wardley A.M.,ら, Proc. Am. Soc. Clin. Oncol., 21:2002, abstract 241
【非特許文献5】Heinrich B., Proc. Am. Soc. Clin. Oncol., 22: 2003, abstract 147
【非特許文献6】Hagemeister F. B.ら, Cancer 46:162-167, 1980
【非特許文献7】Bendell J. C.ら, Cancer 97:2972-2977, 2003
【非特許文献8】Wang M. L. H.ら, Am. J. Clin. Oncol. 24:421-424,2001
【非特許文献9】Cocconi G.ら, Cancer Invest. 8:327-334, 1990
【非特許文献10】Franciosi V.ら, Cancer 85:1599-1605, 1999
【非特許文献11】Zulkowski K.ら, J. Cancer Res. Clin. Oncol. 128:111-113,2001
【非特許文献12】Christodoulou C.ら, Ann. Oncol. 12:249-254, 2001
【非特許文献13】Potschkaら, Journal of Pharm. And Exp. Therapeutics 306(1):124-131, 2003 July
【非特許文献14】Stewart D. J.ら, Am. J. Clin. Oncol. 11:152-158, 1988
【非特許文献15】Stewart D. J.ら, Cancer Res. 42:2472-2479
【非特許文献16】Grossi P. M.ら, Clin. Cancer Res. 9:5514-5520, 2003
【非特許文献17】Pestalozzi B. C.ら, J. Cin. Oncol. 18:2349-2351,2000
【非特許文献18】Lee Jun-Soo, International Assoc. for the Study of Lung Cancer, Baltimore, July 2004
【非特許文献19】Ceresoli G. L., Annals Oncol. 15:1042-1047
【非特許文献20】Steeg P., Third Int’l. Symp. On Translational Res. In Onc., Santa Barbara CA, Oct9-12, 2003
【非特許文献21】Steeg P.ら, Eur. J. Cancer 2(8):142, Sept 2004, abstract 468
【非特許文献22】Nagata Y.ら, Cancer Cell 6(2):117-127, 2004
【非特許文献23】Christianson T. A.ら, Cancer Research 58(22):5123-5129, 1998
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本願発明者は、脳に転移した乳癌に対する新規治療法を今般特定した。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そのような方法はN-{3-クロロ-4-[(3-フルオロベンジル)オキシ]フェニル}-6-[5-({[2-(メタンスルホニル)エチル]アミノ}メチル)-2-フリル]-4-キナゾリンアミン(GW572016)ならびにその塩および/または溶媒和物をそれを必要としている哺乳動物に投与することを含む。
【0010】
本願発明の第1の観点では、哺乳動物に治療有効量の式(I):
【化1】

【0011】
の化合物、またはその塩もしくは溶媒和物を投与することを含む、哺乳動物の脳に転移した乳癌を治療する方法を提供する。
【0012】
本願発明の第2の観点では、哺乳動物に治療有効量の式(I’):
【化2】

【0013】
の化合物、またはその溶媒和物を投与することを含む、哺乳動物の脳に転移した乳癌を治療する方法を提供する。
【0014】
本願発明の第3の観点では、哺乳動物に治療有効量の式(I’’):
【化3】

【0015】
の化合物を投与することを含む、哺乳動物の脳に転移した乳癌を治療する方法を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本明細書で使用する「腫瘍(neoplasm)」という語は、細胞または組織の異常増殖をさし、良性(すなわち、非癌増殖)、および悪性(すなわち、原発性または転移性癌増殖を含む癌増殖)を含むと理解される。「腫瘍性(neoplastic)」という語は、腫瘍を意味するか、または腫瘍に関する。
【0017】
「erbB-1」としても知られている「EGFR」、および「erb-2」は、erbBファミリーの蛋白質チロシンキナーゼ膜貫通型増殖因子受容体である。蛋白質チロシンキナーゼは、細胞増殖および分化の調節に関与する様々な蛋白質の特定のチロシル残基のリン酸化を触媒する(A.F. Wilks, Progress in Growth Factor Research, 1990, 2, 97-111; S.A. Courtneidge, Dev. Supp.l, 1993, 57-64; J.A. Cooper, Semin. Cell Biol., 1994, 5(6), 377-387; R.F. Paulson, Semin. Immunol., 1995, 7(4), 267-277; A.C. Chan, Curr. Opin. Immunol., 1996, 8(3), 394-401)。I型受容体チロシンキナーゼのErbBファミリーには、ErbB1(上皮細胞増殖因子受容体としても知られる(EGFRまたはHER1))、ErbB2(Her2としても知られる)、ErbB3、およびErbB4が含まれる。これらの受容体チロシンキナーゼは、上皮組織、間葉系組織、およびニューロン組織で広く発現し、そこではこのキナーゼは細胞増殖、生存、および分化を調節する役割を担う(Sibilia and Wagner, Science, 269: 234 (1995); Threadgillら, Science, 269: 230 (1995))。野生型ErbB2もしくはEGFRの発現、または構成的に活性化した受容体突然変異体の発現が増加すると、インビトロで細胞は形質転換する(Di Fioreら, 1987; DiMarcoら, Oncogene, 4: 831 (1989); Hudziakら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA., 84:7159 (1987); Qianら, Oncogene, 10:211 (1995))。いくつかの乳癌や様々な他の悪性腫瘍において、ErbB2またはEGFRの発現の増加は不首尾な臨床結果と相関した(Slamonら, Science, 235: 177 (1987); Slamonら, Science, 244:707 (1989); Bacusら, Am. J. Clin. Path, 102:S13 (1994))。
【0018】
本明細書で使用するErb2「過剰発現」細胞は、同型の細胞上に見られる受容体の平均数に比べて、著しく増加した数の機能的ErbB2受容体を有する細胞をさす。ErbB2の過剰発現は様々な癌型において確認され、胸(Verbeekら, FEBS Letters 425:145 (1998); 結腸 (Grossら, Cancer Research 51:1451 (1991))、肺(Damstrupら, Cancer Research 52:3089 (1992), 腎細胞 (Stummら, Int. J. Cancer 69:17 (1996), Sargentら, J. Urology 142: 1364 (1989))および膀胱(Chowら, Clin. Cancer Res. 7:1957 (2001); Bueら, Int. J. Cancer, 76:189 (1998); Turkeriら, Urology 51: 645 (1998))を含む。ErbB2の過剰発現は、これらに限定されないが、イメージング、遺伝子増幅、存在する細胞表面受容体数、タンパク質発現、およびmRNA発現を含む当該技術分野において周知な任意の適切な方法によって判断され得る。例えば、Piffanelliら, Breast Cancer Res. Treatment 37:267 (1996)を参照されたい。
【0019】
本明細書で使用する、「有効量」という語は、例えば、研究者または臨床医が探索している、組織、系、動物、またはヒトの生物学的または医学応答を引き出す薬物または医薬品の量を意味する。さらに、「治療有効量」という語は、そのような量を与えられていない対応する対象と比較して、疾病、疾患、または副作用の治療、治癒、予防、または寛解を改善し、あるいは疾病または疾患の進行速度を低減する量を意味する。この用語には、本発明の範囲内で、正常な生理機能を亢進するのに有効な量も含まれる。
【0020】
本明細書で使用する、「脳に転移した乳癌の治療」という語は、本発明の範囲内で、乳癌原発部位の治療、全身性乳癌転移部位の治療、脳における乳癌転移部位の治療を含むと理解される。
【0021】
「乳癌脳転移の予防」という語が本明細書中で使用される場合、本発明の範囲内で、乳癌転移の進行を予防および停止、遅滞、または遅延させることを含むと理解される。
【0022】
本明細書で使用する「溶媒和物」という語は、溶質(本発明では、式(I)の化合物もしくはその塩)および溶媒によって形成された可変的な化学量論である複合体をさす。本発明の目的のためのそのような溶媒は、溶質の生物活性を妨げないものである。適当な溶媒の例には、それだけには限らないが、水、メタノール、エタノール、酢酸が含まれる。使用する溶媒は、薬学的に許容される溶媒が好ましい。薬学的に許容される適当な溶媒の例には、それだけには限らないが、水、エタノール、酢酸が含まれる。使用する溶媒は水が最も好ましい。
【0023】
本明細書に開示した癌治療法は、式(I):
【化4】

【0024】
の化合物またはその塩もしくは溶媒和物を投与することを含む。
【0025】
別の実施形態では、この化合物は、式(I)の化合物のジトシル酸塩、およびその無水形もしくは水和物形である式(I’)の化合物である。式(I)の化合物のジトシル酸塩の化学名はN-{3-クロロ-4-[(3-フルオロベンジル)オキシ]フェニル}-6-[5-({[2-(メタンスルホニル)エチル]アミノ}メチル)-2-フリル]-4-キナゾリンアミン(GW572016)ジトシル酸塩であり、ラパチニブとしても知られている。
【化5】

【0026】
一実施形態では、この化合物は式(I’)の化合物の無水ジトシル酸塩である。別の実施形態では、この化合物は、式(I’)の化合物の一水和物ジトシル酸塩である式(I’’)の化合物である。
【化6】

【0027】
式(I)の化合物の遊離塩基、HCL塩、およびジトシル酸塩は、前記の1999年1月8日に出願され、1999年7月15日にWO99/35146として公開された国際特許出願第PCT/EP99/00048号、および2001年6月28日に出願され、2002年1月10日にWO02/02552として公開された国際特許出願第PCT/US01/20706号の手順、ならびに以下に挙げた適当な実施例に従って調製しうる。式(I)の化合物のジトシル酸塩を調製するためのそのような一手順を以下スキーム1に示す。
【0028】
スキーム1
【化7】

【0029】
スキーム1では、式(III)の化合物のジトシル酸塩の調製は、次の4段階:第1段階:表示の二環式化合物とアミンを反応させて表示のヨードキナゾリン誘導体を生成、第2段階:対応するアルデヒド塩の調製、第3段階:そのキナゾリンジトシル酸塩の調製、および第4段階:一水和物ジトシル酸塩調製で進む。
【0030】
典型的には、本発明の塩は薬学的に許容される塩である。「薬学的に許容される塩」という語に包含される塩は、本発明の化合物の無毒塩をさす。本発明の化合物の塩は、本発明の化合物の置換基の窒素に由来する酸付加塩を含みうる。代表的な塩には以下の塩:酢酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、安息香酸塩、重炭酸塩、硫酸水素塩、酒石酸水素塩、ホウ酸塩、臭化物、カルシウムエデト酸塩、カンシル酸塩、炭酸塩、塩化物、クラブラン酸塩、クエン酸塩、二塩酸塩、エデト酸塩、エジシル酸塩(edisylate)、エストール酸塩(estolate)、エシル酸塩、フマル酸塩、グルセプト酸塩(gluceptate)、グルコン酸、グルタミン酸、グリコリルアルサニル酸塩(glycollylarsanilate)、ヘキシルレソルシン酸塩(hexylresorcinate)、ヒドラバミン(hydrabamine)、臭化水素酸塩、塩酸塩、ヒドロキシナフトエ酸塩(hydroxynaphthoate)、ヨウ化物、イセチオン酸塩、ラクト酸塩、ラクトビオン酸塩(lactobionate)、ラウリン酸塩、リンゴ酸塩、マレイン酸塩、マンデル酸塩、メシル酸塩、臭化メチル、メチル硝酸塩、メチル硫酸塩、モノカリウムマレイン酸塩、ムカート(mucate)、ナプシル酸塩、硝酸塩、N−メチルグルカミン、シュウ酸塩、パモ酸塩(エンボン酸塩(embonate))、パルミチン酸塩、パントテン酸塩、リン酸塩/二リン酸塩、ポリガラクツロン酸塩、カリウム、サリチル酸塩、ナトリウム、ステアリン酸塩、塩基性酢酸塩、コハク酸塩、タンニン酸塩、酒石酸塩、テオクル酸塩、トシル化物、トリエトヨウ化物(triethiodide)、トリメチルアンモニウム、および吉草酸塩が含まれる。薬学的に許容されない他の塩も、本発明の化合物の調製に有用である可能性があり、それらは本発明の別の態様を形成する。
【0031】
本発明の癌治療法で使用するために、治療有効量の式(I)の化合物、ならびにその塩または溶媒和物は、その原料化合物のまま投与することができるが、医薬組成物として活性成分を提供することもできる。従って、本発明は、さらに、本発明の癌治療法で投与しうる医薬組成物を提供する。その医薬組成物には、治療有効量の式(I)の化合物、およびその塩もしくは溶媒和物、ならびに一種または複数の薬学的に許容される担体、希釈剤、または賦形剤が含まれる。それらの担体、希釈剤、または賦形剤は、他の製剤成分と適合するという意味で許容可能でなければならず、レシピエントにとって有害なものであってはならない。
【0032】
医薬製剤は、各単位用量(unit dose)あたり所定量の活性成分を含む単位剤形(unit dose form)で提供しうる。そのような単位は、治療される状態、投与経路、ならびに患者の年齢、体重、および状態に応じて、例えば、0.5mg〜1g、好ましくは1mg〜700mg、より好ましくは5mg〜100mgの式(I)の化合物を含むことが可能であり、あるいは医薬製剤は各単位用量あたり所定量の活性成分を含む単位剤形で提供しうる。好ましい単位用量製剤は、本明細書で先に述べた通り日用量またはサブドース(sub-dose)の活性成分、あるいはその適当な画分を含むものである。さらに、そのような医薬製剤は、当薬学技術分野で周知の方法のいずれかによって調製しうる。
【0033】
式(I)の化合物は、任意の適当な経路によって投与しうる。適当な経路には、経口、経直腸、経鼻、局所(頬腔および舌下を含む)、経膣、および非経口(皮下、筋肉内、静脈内、皮内、くも膜下腔内、および硬膜外を含む)が含まれる。好ましい経路は、例えば、その組合せのレシピエントの状態によって異なりうることは理解されよう。
本願発明の方法はまた、癌治療の他の治療法と共に用いられ得る。特に抗腫瘍療法において、上記したもの以外の他の化学療法剤、ホルモン剤、抗体および外科的治療および/または放射線治療との併用療法が想定される。抗腫瘍療法は、例えば2002年1月14日に出願された国際出願第PCT US 02/01130号に記載されており、この出願を参照により、抗腫瘍療法を開示した範囲に組み入れる。本願発明の併用療法は、少なくとも1つの式(I)の化合物の投与、および場合により他の抗腫瘍剤を含む他の治療薬の使用を含む。そのような薬剤の併用は一緒に、または別々に投与され得、そして別々に投与する場合には、同時に投与するか、または任意の順番で逐次的に、短時間間隔、長時間間隔の双方で投与することができる。式(I)の化合物および他の医薬活性物質の量、ならびに投与の相対的なタイミングは、所望の併用治療効果を得るために選択される。
【0034】
経口投与に適応した医薬製剤は、別個の単位、例えば、カプセル剤または錠剤、散剤または顆粒剤、水性または非水性液体の液剤または懸濁剤、食用の泡沫剤(foam)またはホイップ剤、あるいは水中油型乳剤または油中水型乳剤として提供しうる。
【0035】
例えば、錠剤またはカプセル剤の形態での経口投与には、活性薬物成分は、エタノール、グリセロール、水など、経口無毒の薬学的に許容される不活性担体と組み合わせることができる。散剤は、この化合物を適当な微細サイズにまで粉末化し、同様に粉末化した食用炭水化物などの医薬用担体、例えば、澱粉またはマンニトールなどと混合することによって調製する。矯味剤、防腐剤、分散剤、および着色料を入れることもできる。
【0036】
カプセルは、上記の混合粉を調製し、形成したゼラチン鞘に充填し作製する。流動促進剤および滑沢剤、例えば、コロイド状シリカ、タルク、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、または固形ポリエチレングリコールを混合粉に加えた後、充填操作を行うことができる。崩壊剤または可溶化剤、例えば、寒天、炭酸カルシウム、または炭酸ナトリウムを添加して、カプセルを摂取したときの薬物の利用能を改善することもできる。
【0037】
さらに、所望しまたは必要な場合は、適当な結合剤、滑沢剤、崩壊剤、および着色剤を混合物に組み込むこともできる。適当な結合剤には、澱粉末、ゼラチン;グルコースまたはβ−ラクトースなどの天然糖;コーン甘味料;アカシア、トラガカント、またはアルギン酸ナトリウムなどの天然および合成ガム;カルボキシメチルセルロース、ポリエチレングリコール、ワックスなどが含まれる。これらの剤形で使用される滑沢剤には、オレイン酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸マグネシウム、安息香酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、塩化ナトリウムなどが含まれる。崩壊剤には、それだけには限らないが、澱粉、メチルセルロース、寒天、ベントナイト、キサンタンガムなどが含まれる。錠剤は、例えば、混合粉を調製し、造粒またはスラッギングし、滑沢剤および崩壊剤を加え、打錠することによって製剤化する。混合粉は、適切に粉砕した化合物を上記希釈剤または基剤、そして任意で、結合剤、例えば、カルボキシメチルセルロース、アルギン酸塩、ゼラチン、またはポリビニルピロリドン;パラフィンなどの溶解遅延剤、四級塩などの再吸収促進剤、および/またはベントナイト、カオリン、またはリン酸二カルシウムなどの吸収剤と共に混合することによって調製される。その混合粉をシロップ剤、澱粉ペースト、アカディア粘液(acadia mucilage)などの結合剤、またはセルロースもしくはポリマー物質溶液で湿潤にし、強制的にスクリーンを通すことによって造粒することができる。造粒の代わりに、混合粉を打錠機に通すことができ、得られた物は不完全形成スラグであり壊れて顆粒になる。その顆粒をステアリン酸、ステアリン酸塩、タルク、または鉱油を添加することによって潤滑にし、錠剤形成用ダイに固着するのを防止することができる。次いで、潤滑にした混合物を錠剤に圧縮する。本発明の化合物を自由流動性不活性担体と混合し、顆粒化またはスラッギングステップを通さずに錠剤に直接圧縮することもできる。セラックのシーリングコートからなる透明もしくは不透明保護コーティング、糖もしくはポリマー物質コーティング、およびワックスのポリッシュコーティングを施すことができる。これらのコーティングに色素を加えて、異なる単位剤形を区別することもできる。
【0038】
液剤、シロップ剤、およびエリキシル剤などの経口液は、単位剤形で調製して、所定量には所定量の化合物が含まれるようにすることができる。シロップ剤は、適切に香味付けした水溶液に化合物を溶解することによって調製でき、他方、エリキシル剤は無毒のアルコールビヒクルを用いて調製する。懸濁剤は、無毒ビヒクルに化合物を分散させることによって製剤化できる。エトキシル化させたイソステアリルアルコールおよびポリオキシエチレンソルビトールエーテルなどの溶解剤および乳化剤、防腐剤、矯味添加物、例えば、ペパーミント油、天然甘味料、サッカリン、または他の人工甘味料などを加えることもできる。
【0039】
適切であれば、経口投与用の単位用量製剤をマイクロカプセル化することができる。その製剤は、例えば、微粒子物質をポリマー、ワックスなどでコーティングまたは包埋することによって、放出を延長しまたは持続するように調製することもできる。
【0040】
本発明に従って使用するための薬剤は、小型単層ベシクル、大型単層ベシクル、および多重膜ベシクルなど、リポソーム送達系の形で投与することもできる。リポソームは、様々なリン脂質、例えば、コレステロール、ステアリルアミン、またはホスファチジルコリンから形成することができる。
【0041】
本発明に従って使用するための薬剤は、モノクローナル抗体を化合物分子が結合する個々の担体として使用することによっても送達しうる。その化合物を標的となり得る薬物担体としての溶解性ポリマーと結合させることも可能である。そのようなポリマーには、ポリビニルピロリドン、ピランコポリマー、ポリヒドロキシプロピルメタクリルアミド−フェノール、ポリヒドロキシエチルアスパルトアミデフェノール、またはパルミトイル残基で置換したポリエチレンオキシデポリルイシンを含めることができる。さらに、その化合物は、薬物の制御放出の実現に有用な生分解性ポリマークラス、例えば、ポリ乳酸、ポレプシロンカプロラクトン、ポリヒドロキシ酪酸、ポリオルトエステル、ポリアセタール、ポリジヒドロピラン、ポリシアノアクリレート、および架橋した、または両親媒性のヒドロゲルのブロックコポリマーに結合させうる。
【0042】
経皮投与に適応した医薬製剤は、長時間レシピエントの表皮と密着させておくための分離したパッチとして提供することができる。例えば、Pharmaceutical Research, 3(6), 318 (1986)に概括的に記載されているイオン注入によって、活性成分をパッチから送達しうる。
【0043】
局所投与に適応した医薬製剤は、軟膏剤、クリーム剤、懸濁剤、ローション剤、散剤、液剤、ペースト、ゲル、スプレー、エアゾール、または油として製剤化することができる。
【0044】
眼または他の外部組織、例えば、口および皮膚の治療には、その製剤を局所用軟膏またはクリームとして施用するのが好ましい。軟膏に製剤化した場合、活性成分は、パラフィン系または水混和性軟膏基剤と共に使用しうる。あるいは、その活性成分を水中油型クリーム基剤または油中水型基剤と共にクリーム中に製剤化することもできる。
【0045】
眼への局所投与に適応した医薬製剤には、その活性成分が適当な担体、特に水性溶媒に溶解し、または懸濁している点眼剤が含まれる。
【0046】
口中への局所投与に適応した医薬製剤には、トローチ剤、香錠、および洗口剤が含まれる。
【0047】
経直腸投与に適応した医薬製剤は、座薬または浣腸液として提供することができる。
【0048】
担体が固体である経鼻投与に適応した医薬製剤には、粒径が、例えば、20〜500μの範囲の粗粉末が含まれ、この粉末を鼻で吸い取るように、すなわち、鼻に当てた粉末容器から鼻腔を通して速やかに吸入することによって投与する。鼻内スプレーまたは点鼻剤として投与するための、担体が液体である適当な製剤には、その活性成分の水性液剤または油性液剤が含まれる。
【0049】
吸入による投与に適応した医薬製剤には、様々な種類の定量加圧エアゾール、噴霧器、または吸入器によって生じうる微粒子ダストまたはミストが含まれる。
【0050】
膣投与に適応した医薬製剤は、腟坐薬、タンポン、クリーム、ゲル、ペースト、フォーム、またはスプレー製剤として提供することができる。
【0051】
非経口投与に適応した医薬製剤には、酸化防止剤、緩衝液、静菌剤、および製剤をレシピエント予定者の血液と等張にする溶質を含みうる水性および非水性滅菌注射剤、ならびに懸濁化剤および増粘剤を含みうる水性および非水性滅菌懸濁剤が含まれる。その製剤を1回用量または多数回用量容器、例えば、密封アンプルおよびバイアルで提供し、そして使用直前に滅菌液体担体、例えば、注射用水を加えるだけでよい冷凍乾燥(凍結乾燥)状態で貯蔵することもできる。即席注射剤および懸濁剤は、滅菌散剤、顆粒、および錠剤から調製しうる。
【0052】
特に上記の成分に加えて、その製剤は、当該製剤型に関して当技術分野で慣用の他の作用物質を含むことも可能であり、例えば、経口投与に適当なものは矯味剤を含みうることは理解されよう。
【0053】
記載したように、治療有効量の特定の式(I)の化合物は哺乳動物に投与する。典型的には、投与する本発明の薬剤の一種類の治療有効量は、例えば、哺乳動物の年齢や体重、治療を要する正確な状態、状態の重症度、製剤の性質、および投与経路を含むいくつかの要因によって決まる。最終的には、治療有効量は受け持つ内科医または獣医の裁量に任せられる。
【0054】
典型的には、式(I)の化合物は、レシピエント(哺乳動物)の体重に対し1日当たり0.1〜100mg/kgの範囲で投与され、より一般的には、1日当たり1〜10mg/kg体重の範囲で投与される。
【0055】
上記のように、本願発明は脳に転移した乳癌に関する新規治療方法を対象としている。そのような方法は、N-{3-クロロ-4-[(3-フルオロベンジル)オキシ]フェニル}-6-[5-({[2-(メタンスルホニル)エチル]アミノ}メチル)-2-フリル]-4-キナゾリンアミン(GW572016)、ならびにその塩および/または溶媒和物を、それを必要とする哺乳動物に投与することを含む。
【0056】
一実施形態では、乳癌がerbB-2を過剰発現している。別の実施形態では、脳転移部位がerbB-2を過剰発現している。
【0057】
別の実施形態では、トラスツズマブを用いて、予め哺乳動物を治療した。
【0058】
本願発明の他の観点では、式(I)の化合物を投与することを含む、哺乳動物の脳に転移した乳癌を治療する方法を提供する。
【0059】
一実施形態では、式(I)の化合物は式(I’)の化合物である。別の実施形態では、式(I)の化合物は式(I’’)の化合物である。
【0060】
別の実施形態では、乳癌転移はerbB-2が過剰発現している。
【0061】
別の実施形態では、トラスツズマブを用いて、予め哺乳動物を治療した。
【0062】
もし単独、または他の抗腫瘍剤と併用して初期段階の乳がん治療に利用するならば、式(I)、(I’)および(I’’)の化合物が、脳転移の進行を予防または遅らせ得ることもまた意図する。したがって、本願発明の別の観点では、式(I)の化合物を投与することを含む、乳癌脳転移を予防するための方法を提供する。
【0063】
一実施形態では、式(I)の化合物は式(I’)の化合物である。別の実施形態では、式(I)の化合物は式(I’’)の化合物である。
【0064】
本願発明の前述の癌治療方法では、式(I)、(I’)および(I’’)の化合物は上記の通りである。
【0065】
式(I)、(I’)または(I’’)の化合物ならびに少なくとも1つの付加的な癌治療法が、開示された癌治療方法に利用され得ることが意図される。式(I)、(I’)および(I’’)の化合物は、任意に他の抗癌療法などと治療上適切に組み合わせて、同時にまたは逐次的に併用使用され得る。一実施形態では、付加的な抗癌療法は放射線療法であり、定位的放射線治療(SRS)および全脳放射線治療(WBRT)を含む。一実施形態では、他の抗癌療法は、少なくとも1つの抗腫瘍剤を投与することを含む、少なくとも1つの付加的な化学療法である。式(I)の化合物またはその塩、溶媒和物もしくは生理学的に機能性のある誘導体と他の抗腫瘍剤の併用投与は、本発明に従って、(1)両化合物を含む単一の医薬組成物、または(2)それぞれが化合物のうちの1つを含む別々の医薬組成物として同時に投与することにより行うことができる。あるいは、逐次的な方法で別々に併用投与してもよく、その場合、1つの抗腫瘍剤を初めに投与し、もう1つを次に投与するか、またはその逆の順序で投与する。そのような逐次的投与は短時間間隔または長時間間隔でされ得る。
【0066】
抗腫瘍剤は、細胞周期特異的な抗腫瘍効果(すなわち、周期特異的であり、細胞周期の特定の周期で働く)を生じさせるか、またはDNAと結合し、非細胞周期特異的(すなわち、非細胞周期特異的であり、他の機序により作用する)に働き得る。
【0067】
式(I)の化合物およびその塩、溶媒和物または生理学的に機能性のある誘導体との組み合わせで有用な抗腫瘍剤は以下のものを含む:
(1)これらに限定されないが、パクリタキセル、およびその類似物であるドセタキセルなどのジテルペノイド;ビンブラスチン、ビンクリスチン、ビンデシン、およびビノレルビンなどのビンカアルカロイド;エトポシド、およびテニポシドなどのエピポドフィロトキシン;ゲムシタビン;カペシタビン;5-フルオロウラシル、およびフルオロデオキシウリジンなどのフルオロピリミジン;アロピリノール、フルデュラビン、メトトレキサート、クラドラビン、シタラビン、メルカプトプリン、およびチオグアミンなどの代謝拮抗薬;ならびに9-アミノカンプトセシン、イリノテカン、トポテカン、CPT-11、および7-(4-メチルピペラジノ-メチレン)-10,11-メチレンジオキシ-20-カンプトセシンの様々な光学形体などのカンプトセシン;を含む、細胞周期特異的な抗腫瘍剤。
【0068】
(2)これらに限定されないが、メルファラン、クロラムブシル、シクロホスファミド、メクロレタミン、ヘキサメチルメラミン、ブスルファン、カルムスチン、ロムスチン、およびダカルバジンなどのアルキル化剤;ドキソルビシン、ダウノマイシン、エピルビシン、イダルビシン、マイトマイシン-C、ダクトチノマイシン(dacttinomycin)、およびミトラマイシンなどの抗腫瘍抗生物質;ならびにシスプラチン、カルボプラチン、およびオキサリプラチンなどの白金配位錯体;を含む、細胞毒性化学療法剤。
【0069】
(3)これらに限定されないが、タモキシフェン、トレミフェン、ラロキシフェン、ドロロキシフェン、およびヨードキシフェンなどの抗エストロゲン剤;酢酸メゲストロ−ルなどのプロゲストロゲン;アナストロゾール、レトロゾール、ボラゾール、およびエクセメスタンなどのアロマターゼ阻害薬;フルタミド、ニルタミド、ビカルタミド、および酢酸シプロテロンなどの抗アンドロゲン剤;酢酸ゴセレリンおよびリュープロリドなどのLHRHアゴニストおよびアンタゴニスト;フィナステリドなどのテストステロン5α-ジヒドロレダクターゼ阻害剤;マリマスタットなどのメタロプロテイナーゼ阻害剤;抗プロゲストゲン;ウロキナーゼ型プラスミノゲンアクチベーター受容体機能阻害剤;Bcl-2阻害剤;肝細胞増殖因子機能阻害剤などの増殖因子機能阻害剤;erb-B2、erb-B4、ならびにゲフィチニブおよびエルロチニブを含む上皮成長因子受容体(EGFR)、血小板由来成長因子受容体(PDGFR)、インスリン成長因子受容体(IGFR)、血管内皮成長因子受容体(VEGFR)およびTIE-2(本願発明に記載されているVEGFRおよびTIE-2阻害剤以外);ならびにCDK2、CDK4、Akt、c-raf、b-raf、およびAuroraの阻害剤などの他のキナーゼ阻害剤;ならびにメシル酸イマチニブ(Gleevec(登録商標))などのBcr-Abl阻害剤;を含む、他の化学療法剤。
【0070】
従って、一実施形態では、本願の方法は少なくとも1つの付加的な抗腫瘍化合物を投与することを含む。一実施形態では、少なくとも1つの付加的な抗腫瘍剤はトラスツズマブである。
【0071】
本願発明の別の観点では、本願発明の方法は、式(I)、(I’)または(I’’)の化合物ならびにp-グリコプロテイン(P-gp)および乳癌抵抗性タンパク質(BCRP)などの輸送タンパク質の阻害剤を投与すること含みうるということを意図する。米国特許第5,604,237号、米国特許第6,469,022号、米国特許第6,803,373号、および2000年5月17日に出願され、2000年11月23日にWO 00/69390として公開された国際特許出願第PCT/NL00/00331号に記載されたエラクリダル(elacridar)は適当な実施例に含まれる。
【0072】
以下の実施例は、例証のみを目的とし、決して本発明の範囲を制限するものではない。
【0073】
本明細書で使用される限り、これらの過程、スキーム、および実施例で使用する符号および慣例は、現代の科学的文献、例えば、the Journal of the American Chemical Societyまたはthe Journal of Biological Chemistryで使用されているものに一致する。標準的な1文字または3文字の略語は、別段の記載が無い限り、L立体配置を有すると推定されるアミノ酸残基を表すために一般的に使用されている。別段の記載が無い限り、出発物質は全て、民間製造業者から入手し、さらに精製することなく使用した。具体的には、以下の略語が実施例および明細書全体にわたって使用されうる。
【0074】
g(グラム) mg(ミリグラム)
L(リットル) mL(ミリリットル)
μL(マイクロリットル) psi(ポンド/平方インチ)
M(モル) mM(ミリモル)
N(規定) Kg(キログラム)
i.v.(静脈内) Hz(ヘルツ)
MHz(メガヘルツ) mol(モル)
mmol(ミリモル) RT(室温)
min(分) h(時間)
mp(融点) TLC(薄層クロマトグラフィー)
Tr(保持時間) RP(逆相)
DCM(ジクロロメタン) DCE(ジクロロエタン)
DMF(N,N−ジメチルホルムアミド) HOAc(酢酸)
TMSE(2−(トリメチルシリル)エチル) TMS(トリメチルシリル)
TIPS(トリイソプロピルシリル) TBS(t−ブチルジメチルシリル)
HPLC(高圧液体クロマトグラフィー)
THF(テトラヒドロフラン) DMSO(ジメチルスルホキシド)
EtOAc(酢酸エチル) DME(1,2−ジメトキシエタン)
EDTA エチレンジアミンテトラ酢酸
FBS ウシ胎仔血清
IMDM イスコフ改変ダルベッコ培地
PBS リン酸緩衝食塩水
RPMI Roswell Park Memorial Institute
RIPA緩衝液 *
RT 室温
*150mM NaCl、50mM Tris-HCl、pH7.5、0.25%(w/v)-デオキシコール酸、1%NP-40、5mMオルトバナジン酸ナトリウム、2mMフッ化ナトリウム、およびプロテアーゼ阻害薬カクテル。
【0075】
別段の指示が無い限り、温度は全て、℃(摂氏温度)で表す。別段の記載が無い限り、反応は全て、室温、不活性雰囲気下で実施された。
【0076】
GW572016Fは、ラパチニブであり、その化学名はN-{3-クロロ-4-[(3-フルオロベンジル)オキシ]フェニル}-6-[5-({[2-(メタンスルホニル)エチル]アミノ}メチル)-2-フリル]-4-キナゾリンアミンジトシラート一水和物である。
【実施例1】
【0077】
GW572016Fの調製
段階1
【化8】

【0078】
攪拌した3H-6-ヨードキナゾリン-4-オン(化合物A)のトルエン(5容量)懸濁液を20〜25℃のトリ-n-ブチルアミン(1.2当量)で処理し、次いで90℃に加熱した。オキシ塩化リン(1.1当量)を加え、次いで反応混合物を加熱還流した。反応混合物を50℃に冷却し、トルエン(5容量)を加えた。化合物C(1.03当量)を固体のまま加え、そのスラリーを90℃まで再加熱し1時間攪拌した。スラリーを第2の容器に移し、第1の容器をトルエン(2容量)で漱ぎ、反応混合物と混合した。反応混合物を70℃に冷却し、内容物温度を68〜72℃に維持しながら、攪拌したスラリーに1.0M水酸化ナトリウム水溶液(16容量)を1時間かけて滴下した。混合物を65〜70℃で1時間攪拌し、次いで1時間かけて20℃に冷却した。その懸濁液を20℃で2時間攪拌し、ろ過によって生成物を回収し、順次、水(3×5容量)およびエタノール(IMS、2×5容量)で洗浄し、次いで50〜60℃で真空乾燥した。
【0079】
容量は、使用した化合物Aの量に関して述べられている。
【0080】
観察された%収量範囲:白色または黄色結晶として90〜95%。
【0081】
段階2
【化9】

【0082】
N-{3-クロロ-4-[(3-フルオロベンジル)オキシ]フェニル}-6-ヨード-4-キナゾリンアミン-化合物D(1重量)、ボロン酸-化合物E(0.37重量、1.35当量)、および10%パラジウム炭素(0.028重量、50%水で湿潤)の混合物をIMS(15容量)でスラリー化した。得られた懸濁液を5分間攪拌し、ジイソプロピルエチルアミン(0.39容量、1.15当量)で処理し、次いで反応が完了(HPLC分析によって決定)するまで約70℃で約3時間加熱した。混合物をテトラヒドロフラン(THF、15容量)で希釈し、次いで高温でろ過して触媒を除去した。その容器をIMS(2容量)で漱いだ。
【0083】
p-トルエンスルホン酸一水和物(1.5重量、4当量)の水(1.5容量)溶液を65℃に維持したろ液に5〜10分間かけて加えた。結晶化後、その懸濁液を60℃〜65℃で1時間攪拌し、1時間かけて約25℃に冷却し、この温度でさらに2時間攪拌した。固形分をろ過によって回収し、IMS(3容量)で洗浄し、次いで約50℃で真空乾燥すると、所望の化合物Fが黄色から橙色の結晶固体として得られた(約5%w/w EtOH含有エタノール溶媒和物として単離)。
【0084】
段階3
【化10】

【0085】
化合物F(1重量)および2-(メチルスルホニル)エチルアミン塩酸塩(0.4重量、1.62当量)をTHF(10容量)に懸濁させた。逐次、酢酸(0.354容量、4当量)およびジイソプロピルエチルアミン(DIPEA、1.08容量、4.01当量)を加えた。得られた溶液を30℃〜35℃で約1時間攪拌し、次いで約22℃に冷却した。次いで、トリアセトキシ水素化ホウ素ナトリウム(0.66重量、2.01当量)を約15分かけて連続装入して加えた(この時点で多少の発泡が見られる)。得られた混合物を約22℃で約2時間攪拌し、次いでHPLC分析を行うために採取した。水酸化ナトリウム水溶液(25%w/w、3容量)、続いて水(2容量)を加えることによって反応を停止させ、約30分攪拌した(腐食剤添加の開始時に多少発泡が見られた)。
【0086】
次いで、その水相を分離し、THF(2容量)で抽出した後、合わせたTHF抽出物を25%w/v塩化アンモニウム水溶液(2×5容量)2で2度洗浄した。p-トルエンスルホン酸一水和物(p-TSA、0.74重量、2.5当量)の水(1容量)溶液を調製し、約60℃に加熱し、GW572016F(化合物G)(0.002重量)の種を加えた。
【0087】
バッチ温度を60±3℃に維持しながら、そのp-TSA溶液にGW572016の遊離塩基のTHF溶液を少なくとも30分間かけて加えた。得られた懸濁液を約60℃で1〜2時間攪拌し、1時間かけて20〜25℃に冷却し、この温度で約1時間成長させた。固形分をろ過によって回収し、THF:水=95:5(3×2容量)で洗浄し、約35℃で真空乾燥すると、明るい黄色結晶固体としてGW572016F-化合物Gが得られた。推定収量80%理論、117%w/w。
【0088】
最小反応容量約1容量
最大反応容量約17容量
# アッセイ用に修正
段階4
【化11】

【0089】
N-{3-クロロ-4-[(3-フルオロベンジル)オキシ]フェニル}-6-[5-({[2-(メタンスルホニル)エチル]アミノ}メチル)-2-フリル]-4-キナゾリンアミンのジトシル酸塩一水和物塩−化合物G(1重量)を含むテトラヒドロフラン(THF、14容量)および水(6容量)の懸濁液を約55〜60℃で30分間加熱すると溶液が得られ、この溶液をろ過によって澄まし、その水流(line)をTHF/水(7:3割合、2容量)で洗浄して結晶化容器中に入れた。得られた溶液を加熱還流し、テトラヒドロフラン(9容量、95%w/wと共沸)を常圧で留去させた。
【0090】
その溶液にN-{3-クロロ-4-[(3-フルオロベンジル)オキシ]フェニル}-6-[5-({[2-(メタンスルホニル)エチル]アミノ}メチル)-2-フリル]-4-キナゾリンアミンジトシル酸塩一水和物(0.002重量)の種を入れた。一旦、結晶化が確立した後は、55℃を超える反応温度を維持しながら水(6容量)を加えた。混合物を約2時間かけて5〜15℃に冷却した。固形分をろ過によって回収し、テトラヒドロフラン/水(3:7割合、2容量)、次いでテトラヒドロフラン/水(19:1割合、2容量)で洗浄し、45℃で真空乾燥すると、明黄色結晶固体としてN-{3-クロロ-4-[(3フルオロベンジル)オキシ]フェニル}-6-[5-({[2-(メタンスルホニル)エチル]アミノ}メチル)-2-フリル]-4-キナゾリンアミンジトシル酸塩一水和物が得られた。
【実施例2】
【0091】
erbB-2が過剰発現した転移性乳癌(ステージIV)由来の脳転移患者の二次治療での単一薬剤として経口投与したラパチニブの臨床研究
現在進行中の臨床研究において、以前にトラスツズマブを用いて治療した、erbB-2が過剰発現した転移性乳癌から脳転移した患者に、毒性、病気の進行または退薬を主題として、1日2回、750mgのラパチニブを投与したか、もしくは投与し続けている。安全性および有効性の評価(独立評価)は、それぞれ2週間および4週間間隔で行うことになっていた。PETスキャンはベースライン時、1週目および8週目に、そしてMRIはベースライン時、8週目および16週目に行うことになっていた。
【0092】
一人の患者の最初の週の1回のPETスキャンの結果は、1つの病変において劇的な変化を伴う有望な活性を示したが、他の脳病変では変化が乏しいか、または全く変化を示さなかった。その患者は、ゼローダ(登録商標)(カペシタビン)、ナベルビン(登録商標)(ビノレルビン)/ハーセプチン(登録商標)(トラスツズマブ)、および単一薬剤ハーセプチン(登録商標)(トラスツズマブ)で治療したが、疾患が進行していた。彼女は肝臓および脳の進行とともに研究に参加した。ラパニチブを用いて治療した後、最初の一週目でのPETスキャンは有望な活性を示した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
哺乳動物における脳に転移した乳癌を治療する方法であって、治療有効量の式(I):
【化1】

の化合物またはその塩もしくは溶媒和物を該哺乳動物に投与することを含む、前記方法。
【請求項2】
乳癌がerbB-2を過剰発現している、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
脳転移部位がerbB-2を過剰発現している、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
哺乳動物における脳に転移した乳癌を治療する方法であって、治療有効量の式(I’):
【化2】

の化合物またはその溶媒和物を該哺乳動物に投与することを含む、前記方法。
【請求項5】
乳癌がerbB-2を過剰発現している、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
脳転移部位がerbB-2を過剰発現している、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
哺乳動物における脳に転移した乳癌を治療する方法であって、治療有効量の式(I’’):
【化3】

の化合物を該哺乳動物に投与することを含む、前記方法。
【請求項8】
乳癌がerbB-2を過剰発現している、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
脳転移部位がerbB-2を過剰発現している、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
哺乳動物の脳における乳癌転移を治療する方法であって、治療有効量の式(I):
【化4】

の化合物またはその塩もしくは溶媒和物を該哺乳動物に投与することを含む、前記方法。
【請求項11】
乳癌脳転移がerbB-2を過剰発現している、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
哺乳動物の脳における乳癌転移を治療する方法であって、治療有効量の式(I’):
【化5】

の化合物またはその塩もしくは溶媒和物を該哺乳動物に投与することを含む、前記方法。
【請求項13】
乳癌脳転移がerbB-2を過剰発現している、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
哺乳動物の脳における乳癌転移を治療する方法であって、治療有効量の式(I’’):
【化6】

の化合物またはその塩もしくは溶媒和物を該哺乳動物に投与することを含む、前記方法。
【請求項15】
乳癌脳転移がerbB-2を過剰発現している、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
哺乳動物における乳癌脳転移を予防するための方法であって、治療有効量の式(I):
【化7】

の化合物またはその塩もしくは溶媒和物を該哺乳動物に投与することを含む、前記方法。
【請求項17】
乳癌脳転移がerbB-2を過剰発現している、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
哺乳動物における乳癌脳転移を予防するための方法であって、治療有効量の式(I’):
【化8】

の化合物またはその塩もしくは溶媒和物を該哺乳動物に投与することを含む、前記方法。
【請求項19】
乳癌脳転移がerbB-2を過剰発現している、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
哺乳動物における乳癌脳転移を予防するための方法であって、治療有効量の式(I’’):
【化9】

の化合物またはその塩もしくは溶媒和物を該哺乳動物に投与することを含む、前記方法。
【請求項21】
乳癌脳転移がerbB-2を過剰発現している、請求項20に記載の方法。

【公表番号】特表2008−524258(P2008−524258A)
【公表日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−547043(P2007−547043)
【出願日】平成17年12月16日(2005.12.16)
【国際出願番号】PCT/US2005/046350
【国際公開番号】WO2006/066267
【国際公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【出願人】(501412463)スミスクライン ビーチャム (コーク) リミテッド (11)
【Fターム(参考)】