説明

癌診断のための発現プロフィールアルゴリズムおよび試験

本発明は、癌患者における予後診断決定のための非侵襲性定量試験を提供する。この試験は、特定のメッセンジャーRNA(mRNA)の腫瘍レベルの測定値に依存する。これらのmRNAレベルは、再発リスクを示す数値的再発スコアを得る多項式(アルゴリズム)に代入される。具体的には、本発明は、癌再発の可能性および/または患者が治療法によく応答する可能性を決定するための、アルゴリズムに基づく予後試験を提供する。特定の局面において、本発明は、浸潤乳癌を有する患者における乳癌の再発および/または処置に対する患者応答の可能性を決定するためのアルゴリズムおよび予後試験を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の分野)
本発明は、癌患者における予後診断決定のための非侵襲性定量試験を提供する。この試験は、特定のメッセンジャーRNA(mRNA)または対応する遺伝子発現産物の腫瘍レベルの測定値に依存する。これらのmRNAレベルまたはタンパク質レベルは、再発リスク(再発スコア)または治療に対する患者応答の可能性(応答スコア)を示す、数値的スコアを得る多項式(アルゴリズム)に代入される。
【背景技術】
【0002】
(関連技術の説明)
癌専門医が十分に道理に基づいた処置決定を下すのに役立つ臨床試験が必要である。癌専門医が日常の診療で直面する最も基本的な決定の1つは、化学療法剤を用いて特定の患者の処置を行うか先送りするかの決定である。癌のための現在の治療薬は、一般に、かなりの毒性を伴うが、効力はそれほど大きくない。従って、患者(原発腫瘍の切除後)が転移性再発を有する可能性があることを予め決定することは非常に望ましい。この情報を得るのに信頼できる方法があったならば、高リスク患者には補助的化学療法が選択され得、そして癌の再発を有する可能性のない患者は化学療法に伴う有害事象への不必要な曝露を回避し得たはずである。同様に、患者(原発腫瘍の切除前または後のいずれか)を特定の治療に供する前に、患者がこのような処置に応答を示す可能性があるか否かを知ることが望ましい。特定の治療法(例えば、特定の化学療法剤および/または放射線学を用いる処置)に応答を示す可能性のない患者については、貴重な時間を浪費することなく、他の処置が計画されそして用いられ得る。
【0003】
現代分子生物学および生化学により、若干の例外はあるものの、その活性が腫瘍細胞の挙動および分化の状態ならびに特定の治療薬に対する感受性または耐性に影響を及ぼす、何百もの遺伝子を明らかになってきたが、これらの遺伝子の状態は、薬物処置についての臨床決定を日常的に行う目的で開発されてきたものではない。1つの注目すべき例外は、抗エストロゲン薬(例えばタモキシフェン)を用いて処置する患者を選択するための、乳癌におけるエストロゲン受容体(ER)タンパク質発現の利用である。別の例外的な例は、抗Her2抗体であるハーセプチン(登録商標)(Genentech,Inc.,South San Francisco,CA)で処置する患者を選択するための、乳癌におけるErbB2(Her2)タンパク質発現の利用である。
【0004】
本発明は、その生物学的理解が依然として進展していない癌(例えば乳癌)に関する。ErbB2亜群のような少数の亜群、ならびにエストロゲン受容体(ER)および少数の付加的な因子の遺伝子発現が低いか欠如していることを特徴とする亜群への乳癌の分類(Perou et al.,Nature 406:747〜752(2000))は、乳癌の細胞および分子多様性を反映せず、かつ患者の処置および医療の最適化を可能にしないことは明らかである。他のタイプの癌も同様であり、これらの癌の多くは、乳癌よりずっと少ししか研究および理解されていない。
【0005】
現在、臨床診療で用いられる診断学的検査は単一分析物であり、従って数十の異なる腫瘍マーカー間の関連性を知ることの潜在的意義を捉え損なう。さらに、診断学的検査は、免疫組織化学に依存し、定量的でないことが多い。この方法は、しばしば異なる研究室において異なる結果をもたらす。なぜなら、1つにはこれらの試薬が標準化されておらず、そして1つには解釈が主観的であり容易に定量化され得ないためである。RNAベースの試験はあまり頻繁には用いられていない。なぜなら、経時的なRNA分解の問題および新鮮な組織サンプルを患者から分析のために入手することが困難であるという事実のためである。固定パラフィン包埋組織はより入手しやすく、固定組織中のRNAを検出するために方法が確立されてきた。しかしながら、これらの方法は代表的には、少量の材料に由来する多数の遺伝子の研究を可能にしない。従って、伝統的に、固定組織はタンパク質の免疫組織化学検出以外にはめったに用いられてこなかった。
【0006】
過去数年において、いくつかのグループが、マイクロアレイ遺伝子発現分析による種々の癌タイプの分類に関する研究を発表してきた{例えば、Golub et al.,Science 286:531〜537(1999);Bhattacharjae et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 98:13790〜13795(2001);Chen−Hsiang et al.,Bioinformatics 17(補遺1):S316〜S322(2001);Ramaswamy et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 98:15149〜15154(2001)を参照のこと}。遺伝子発現パターンに基づくヒト乳癌のある種の分類もまた、報告されている{Martin et al.,Cancer Res.60:2232〜2238(2000);West et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 98:11462〜11467(2001)}。これらの研究のほとんどが、種々のタイプの癌(乳癌を含む)の既に確立された分類を改良および精緻化することに重点を置いている。少数の研究により、予後兆候である可能性がある遺伝子発現パターンが同定されているが{Sorlie et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 98:10869〜10874(2001);Yan et al.,Cancer Res.61:8375〜8380(2001);Van De Vivjer et al.,New England Journal of Medicine 347:1999〜2009(2002)}、スクリーニングされた患者の数が不十分であるため、臨床的に広く用いられるほど十分に有効ではない。
【非特許文献1】Perou et al.,Nature 406:747〜752(2000)
【非特許文献2】Golub et al.,Science 286:531〜537(1999);Bhattacharjae et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 98:13790〜13795(2001);Chen−Hsiang et al.,Bioinformatics 17(補遺1):S316〜S322(2001)
【非特許文献3】Ramaswamy et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 98:15149〜15154(2001)
【非特許文献4】Martin et al.,Cancer Res.60:2232〜2238(2000);West et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 98:11462〜11467(2001)
【非特許文献5】Sorlie et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 98:10869〜10874(2001)
【非特許文献6】Yan et al.,Cancer Res.61:8375〜8380(2001)
【非特許文献7】Van De Vivjer et al.,New England Journal of Medicine 347:1999〜2009(2002)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、癌再発の可能性および/または患者が治療法によく応答する可能性を決定するための、アルゴリズムに基づく予後試験を提供する。特定の局面において、本発明は、浸潤乳癌を有する患者における乳癌の再発および/または処置に対する患者応答の可能性を決定するためのアルゴリズムおよび予後試験を提供する。従って、本発明は、例えば腫瘍の外科的切除を受けたリンパ節陰性乳癌患者のような癌患者の治療に関する処置決定に有用性を見出す。具体的には、このアルゴリズムおよび関連する予後試験はそのような患者を補助的化学療法で処置するか否かを決定するのに役立ち、その答えが肯定的である場合、その処置選択肢が選択される。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このアルゴリズムを他の乳癌予測法と区別する特徴としては、以下の1)〜3)が挙げられる:1)再発可能性を決定するのに用いられる試験mRNA(または対応する遺伝子発現産物)のユニークな組合せ、2)発現データを式に組み入れるのに用いられる特定の重み、3)患者をリスクのレベルが異なる群(例えば、低リスク群、中程度リスク群、および高リスク群)に分類するのに用いられる閾値。このアルゴリズムによって、数値的再発スコア(RS)を得るか、または処置に対する患者応答が評価される場合は、治療への応答スコア(RTS)を得る。この試験は、特定のmRNAまたはそれらの発現産物のレベルを測定するために研究室アッセイを必要とするが、極めて少量の、新鮮な組織か、または既に患者から必然的に収集されそして保存されている凍結組織もしくは固定パラフィン包埋腫瘍生検標本のいずれかを利用し得る。従って、この試験は非侵襲性であり得る。この試験はまた、いくつかの異なる腫瘍組織収集方法(例えば、コア生検または細針吸引による方法)と両立し得る。この腫瘍組織は、正常な組織から肉眼で見て切除が可能であるが、そのようにする必要はない。さらに、遺伝子セットの各メンバーについて、本発明は、この試験に用いられ得るオリゴヌクレオチド配列を特定する。これらのmRNAレベルは、参照遺伝子の特定のセットに対して正規化される。本発明は、類似の様式で、試験遺伝子および参照遺伝子の全ての部分列を包含する。
【0009】
従って、1つの局面において、本発明は、哺乳動物被験体における癌の再発または治療への応答の可能性に基づいて腫瘍を分類する方法に関し、該方法は以下の工程:
(a)前記被験体から得た癌細胞を含む生物学的サンプルを遺伝子またはタンパク質発現プロファイリングに供する工程;
(b)各遺伝子についての発現値を決定するために、複数の個々の遺伝子の遺伝子またはタンパク質発現レベルを定量化する工程;
(c)遺伝子またはタンパク質発現値のサブセットであって、各サブセットが癌に関連した生物学的機能によっておよび/または同時発現によって連関している遺伝子またはタンパク質についての発現値を含む、サブセットを作製する工程;
(d)サブセット内の各遺伝子の発現レベルに、前記サブセット内の癌の再発または治療への応答に対するその相対的寄与率を反映する係数を掛け、この積を加算して前記サブセットについての項を得る工程;
(e)各サブセットの項に、癌の再発または治療への応答に対するその寄与率を反映する換算係数を掛ける工程;ならびに
(f)前記換算係数を掛けた各サブセットについての項の合計を求めて、再発スコア(RS)または治療への応答スコア(RTS)を得る工程、を包含し、
ここで、癌の再発または治療への応答と線形相関を示さない各サブセットの寄与率は、所定の閾値を超える場合に限り算入され、そして
ここで、含まれる遺伝子またはタンパク質の発現の増大により癌再発のリスクが低下するサブセットには、負の値が付与され、そして、含まれる遺伝子またはタンパク質の発現の増大により癌の再発のリスクが増大するサブセットには、正の値が付与される。
【0010】
このアルゴリズムは、任意のタイプの癌(乳癌が例示されるが、限定されない)について、癌再発のリスクまたは治療への応答を評価するのに適している。
【0011】
乳癌の場合、この再発アルゴリズムに寄与する遺伝子は、16個の試験遺伝子および5個の参照遺伝子を含む。
【0012】
指定された試験遺伝子/mRNAは:Grb7;Her2;ER;PR;BCl2;CEGP1;SURV;Ki−67;MYBL2;CCNB1;STK15;CTSL2;STMY3;GSTM1;BAG1;CD68である。
【0013】
参照遺伝子/mRNAは:β−ACTIN;GAPDH;RPLPO;TFRC;GUSである。
【0014】
乳癌について、上記の16個の試験遺伝子のセットは、4つの多重遺伝子サブセットを含む。これらのサブセットの遺伝子メンバーは、相関発現および以下の生物学的機能のカテゴリーの両方に共通点がある:SURV、Ki−67、MYBL2、CCNB1およびSTK15を含む増殖サブセット;Her2およびGrb7を含む成長因子サブセット;ER、PR、BCl2、およびCEGP1を含むエストロゲン受容体サブセット;侵襲性プロテアーゼCTSL2およびSTMY3のための遺伝子を含む侵襲サブセット。
【0015】
従って、特定の局面において、本発明は哺乳動物被験体における乳癌の再発またはホルモン療法への応答の可能性を決定する方法に関し、該方法は、以下の工程:
(a)前記被験体から得た腫瘍細胞を含む生物学的サンプルにおいて、GRB7、HER2、ER、PR、Bcl2、CEGP1、SURV、Ki.67、MYBL2、CCNB1、STK15、CTSL2、およびSTMY3のRNA転写物、またはそれらの発現産物、あるいは対応する代替遺伝子またはそれらの発現産物の発現レベルを決定する工程;
(b)以下の遺伝子サブセット:
(i)成長因子サブセット:GRB7およびHER2;
(ii)分化(エストロゲン受容体)サブセット:ER、PR、Bcl2、およびCEGP1;
(iii)増殖サブセット:SURV、Ki.67、MYBL2、CCNB1、およびSTK15;ならびに
(iv)侵襲サブセット:CTSL2、およびSTMY3;
を作製する工程であって、
ここで、(i)〜(iv)の任意のサブセット内の遺伝子は、ピアソンの相関係数が0.40以上である前記腫瘍中の前記遺伝子と同時発現する代替遺伝子で置換され得る、工程;ならびに
(c)乳癌の再発または治療への応答に対する(i)〜(iv)の各サブセットの寄与率を重み付けすることによって、前記被験体についての再発スコア(RS)または治療への応答スコア(RTS)を算出する工程、を包含する。
【0016】
特定の実施形態において、この方法は、CD68、GSTM1およびBAG1のRNA転写物またはそれらの発現産物、あるいは対応する代替遺伝子またはそれらの発現産物の発現レベルを決定する工程、ならびに乳癌の再発または治療への応答に対する前記遺伝子または代替遺伝子の寄与率をRSまたはRTSの計算に組み込む工程をさらに包含し、
ここで、より高いRSまたはRTSは、乳癌の再発の可能性の増大または治療(適用可能な場合)に対する応答の可能性の低下を表す。
【0017】
特定の局面において、本発明は哺乳動物被験体における乳癌の再発の可能性を決定する方法に関し、該方法は、以下の工程:
(a)前記被験体から得た腫瘍細胞を含む生物学的サンプルにおいて、GRB7、HER2、EstRl、PR、Bcl2、CEGP1、SURV、Ki.67、MYBL2、CCNB1、STK15、CTSL2、STMY3、CD68、GSTM1、およびBAG1、またはそれらの発現産物の発現レベルを決定する工程;ならびに
(b)以下の方程式:
RS=(0.23〜0.70)×GRB7軸閾値(axisthresh)−(0.17〜0.51)×ER軸+(0.53〜1.56)×増殖軸閾値(prolifaxisthresh)+(0.07〜0.21)×侵襲軸(invasionaxis)+(0.03〜0.15)×CD68−(0.04〜0.25)×GSTM1−(0.05〜0.22)×BAG1
によって再発スコア(RS)を算出する工程であって、
ここで、
(i)GRB7軸=(0.45〜1.35)×GRB7+(0.05〜0.15)×HER2;
(ii)GRB7軸<−2であれば、GRB7軸閾値=−2であり、そして
GRB7軸≧−2であれば、GRB7軸閾値=GRB7軸である;
(iii)ER軸=(Est1+PR+Bcl2+CEGP1)/4;
(iv)増殖軸=(SURV+Ki.67+MYBL2+CCNB1+STK15)/5;
(v)増殖軸<−3.5であれば、増殖軸閾値=−3.5であり、
増殖軸≧−3.5であれば、増殖軸閾値=増殖軸である;および
(vi)侵襲軸=(CTSL2+STMY3)/2であって、
ここで、範囲が具体的には示されていない全ての個々の遺伝子についての項は約0.5〜1.5の間で変動し得、そしてここで、より高いRSは乳癌の再発の可能性の増大を表す、工程
を包含する。
【0018】
遺伝子発現についての研究室アッセイは、種々の異なるプラットフォームを用い得る。固定パラフィン包埋組織とともに用いるのに好ましい実施形態は、定量的逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応(qRT−PCR)である。しかしながら、質量分析およびDNAマイクロアレイを含む他のテクノロジープラットフォームもまた用いられ得る。DNAマイクロアレイの場合、ポリヌクレオチドプローブは代表的に約500〜5000塩基長のcDNA(「cDNAアレイ」)であり得るが、より短いかまたはより長いcDNAも用いられ得、かつこれらは本発明の範囲内である。あるいは、これらのポリヌクレオチドは、オリゴヌクレオチド(DNAマイクロアレイ)であり得、代表的に約20〜80塩基長であるが、より短いかまたはより長いオリゴヌクレオチドも適しており、かつこれらは本発明の範囲内である。この固体表面は、例えば、ガラスまたはナイロンであるか、あるいはアレイ(例えばマイクロアレイ)の調製に代表的に用いられる任意の他の固体表面であり得、代表的にはガラスである。
(好ましい実施形態の詳細な説明)
A.定義
他に規定しない限り、本明細書において使用される技術用語および科学用語は、本発明が属する技術の当業者によって通常理解されるのと同様の意味を有する。Singleton et al.,Dictionary of Microbiology and Molecular Biology 2nd ed., J.Wiley & Sons(New York, NY 1994)、およびMarch、Advanced Organic Chemistry Reactions, Mechanisms and Structure 4th ed., John Wiley & Sons(New York, NY 1992)は、本願に用いた多数の用語に対する一般指針を当業者に提供する。
【0019】
当業者は、本明細書中に記載の方法および材料と類似しているかまたはこれらに相当する多くの方法および材料を認識し、これらは本発明の実施において用いられ得る。実際に、本発明は、記載されている方法および材料に全く限定されない。本発明の目的のために、下記の用語を以下に定義する。
【0020】
用語「マイクロアレイ」とは、基材上のハイブリダイズ可能なアレイエレメント、好ましくはポリヌクレオチドプローブの、規則正しい配列をいう。
【0021】
用語「ポリヌクレオチド」とは、単数形または複数形で用いられる場合、一般に任意のポリリボヌクレオチドまたはポリデオキシリボヌクレオチドをいい、修飾されていないRNAもしくはDNAであっても修飾されたRNAもしくはDNAであってもよい。従って、例えば、本明細書中で定義されるようなポリヌクレオチドとしては、非限定的に、一本鎖および二本鎖DNA、一本鎖および二本鎖領域を含むDNA、一本鎖および二本鎖RNA、ならびに一本鎖および二本鎖領域を含むRNA、一本鎖またはより代表的には二本鎖であり得るかあるいは一本鎖および二本鎖領域を含み得るDNAおよびRNAを含むハイブリッド分子が挙げられる。さらに、本明細書中で使用される場合、用語「ポリヌクレオチド」とは、RNAまたはDNAあるいはRNAおよびDNAの両方を含む三本鎖領域をいう。このような領域中の鎖は、同一分子に由来するかまたは異なる分子に由来し得る。これらの領域は、1以上の分子の全てを含み得るが、より代表的にはこれらの分子のいくつかの一領域のみを含む。これらの三重らせん領域の分子の1つはオリゴヌクレオチドである場合が多い。用語「ポリヌクレオチド」は、具体的にはcDNAを含む。この用語は、1以上の修飾塩基を含むDNA(cDNAを含む)およびRNAを含む。従って、安定性のためにまたは他の理由で修飾された主鎖を有するDNAまたはRNAは、本明細書においてその用語が意図されるような「ポリヌクレオチド」である。さらに、異常塩基(例えば、イノシン)または修飾塩基(例えば、トリチウム化塩基)を含むDNAまたはRNAは、本明細書中で定義されるような用語「ポリヌクレオチド」の中に含まれる。一般に、用語「ポリヌクレオチド」は、修飾されていないポリヌクレオチドの、化学的に、酵素的におよび/または代謝的に修飾された全ての形態、ならびに単純型細胞および複雑型細胞を含む細胞およびウイルスに特有のDNAおよびRNAの化学的形態を包含する。
【0022】
用語「オリゴヌクレオチド」とは比較的短いポリヌクレオチドをいい、非限定的に、一本鎖デオキシリボヌクレオチド、一本鎖または二本鎖リボヌクレオチド、RNA:DNAハイブリッドおよび二本鎖DNAが挙げられる。オリゴヌクレオチド(例えば、一本鎖DNAプローブオリゴヌクレオチド)は、化学的方法で(例えば、市販の自動オリゴヌクレオチドシンセサイザーを使用して)合成される場合が多い。しかしながら、オリゴヌクレオチドは、インビトロ組換えDNA媒介技術を含む種々の他の方法によって、ならびに細胞および生物体内でのDNAの発現によって、作製され得る。
【0023】
交換可能に用いられる、用語「差次的発現遺伝子」、「差次的遺伝子発現」およびそれらの同義語は、疾患(具体的には、乳癌のような、癌)に罹患している被験体において、正常またはコントロール被験体における発現と比較して、より高いかまたはより低いレベルにその発現が活性化される遺伝子をいう。これらの用語はまた、同一の疾患の異なる段階で、より高いかまたはより低いレベルにその発現が活性化される遺伝子も包含する。差次的発現遺伝子は、核酸レベルもしくはタンパク質レベルで活性化または阻害されてもよく、あるいは選択的スプライシングを受けた結果として異なるポリペプチド産物を生成してもよいことも理解される。このような差異は、例えば、mRNAレベル、表面発現、分泌または他のポリペプチドの区分の変化によって証明され得る。差次的遺伝子発現は、2以上の遺伝子またはそれらの遺伝子産物の間の発現の比較、あるいは2以上の遺伝子またはそれらの遺伝子産物の間の発現比率の比較、あるいは同一遺伝子の2つの異なるプロセス産物の比較さえも包含し得、これらは正常な被験体と疾患(具体的には癌)に罹患した被験体との間で、あるいは同一疾患の種々の段階間で異なる。差次的発現は、例えば、正常細胞と異常細胞の間、あるいは異なる疾患事象または疾患段階を経験した細胞間の、遺伝子またはその発現産物の一過性または細胞性発現パターンにおける量的差異および質的差異の両方を含む。本発明の目的のために、正常被験体および疾患被験体における、または疾患被験体の種々の疾患進行段階における所定の遺伝子の発現の間に、少なくとも約2倍、好ましくは少なくとも約4倍、より好ましくは少なくとも約6倍、最も好ましくは少なくとも約10倍の差異がある場合に、「差次的遺伝子発現」が存在しているとみなされる。
【0024】
「遺伝子増幅」との語句は、遺伝子または遺伝子フラグメントの複数のコピーが特定の細胞または細胞株において形成されるプロセスをいう。この複製領域(増幅されたDNAの伸長)は、しばしば「アンプリコン」と呼ばれる。通常、生成されたメッセンジャーRNA(mRNA)の量(すなわち、遺伝子発現のレベル)もまた、発現された特定の遺伝子の作製されたコピー数に比例して増加する。
【0025】
用語「予後診断」は、癌に起因する死亡または新生物性疾患(例えば、乳癌)の再発、転移性拡散、および薬剤耐性を含む進行の可能性の予測をいうのに本明細書中で使用される。
【0026】
用語「予測」は、患者が1つの薬物または一連の薬物に対して有利にまたは不利に応答する可能性、そしてまたそれらの応答の程度、あるいは患者が原発腫瘍の外科的切除および/または化学療法の後に癌を再発することなく一定期間生存する可能性をいうのに本明細書中で使用される。本発明の予測方法は、患者が処置レジメン(例えば、外科的処置、所定の薬物または薬物の組合せを用いた化学療法、および/または放射線療法)に対して有利に応答する可能性が高いか否か、あるいは外科手術後および/または化学療法もしくは他の治療法の終了後に患者の長期生存が有望であるか否かを予測するのに有益なツールである。
【0027】
用語「長期」生存は、外科手術または他の処置の後の少なくとも5年間、より好ましくは少なくとも8年間、最も好ましくは少なくとも10年間の生存をいうのに本明細書中で使用される。
【0028】
用語「腫瘍」は、本明細書中で使用される場合、悪性であろうと良性であろうと、全ての新生細胞の成長および増殖、ならびに全ての前癌性および癌性の細胞および組織をいう。
【0029】
用語「癌」および「癌性」とは、代表的には無秩序な細胞増殖を特徴とする、哺乳動物における生理学的状態をいうかまたは記述する。癌の例としては、乳癌、結腸癌、肺癌、前立腺癌、肝細胞癌、胃癌、膵癌、子宮頸癌、卵巣癌、肝臓癌、膀胱癌、尿路癌、甲状腺癌、腎臓癌、癌腫、黒色腫、および脳腫瘍が挙げられるが、これらに限定されない。
【0030】
(腫瘍)癌の「病理」は、患者の健康を損なう全ての現象を包含する。これは、非限定的に、異常なまたは制御できない細胞増殖、転移、周辺細胞の正常機能への干渉、異常なレベルでのサイトカインまたは他の分泌物の放出、炎症応答または免疫応答の抑制または悪化、新生物形成、前悪性腫瘍、悪性腫瘍、周囲または遠隔の組織または器官(例えばリンパ節)の侵襲などを包含する。
【0031】
ハイブリダイゼーション反応の「ストリンジェンシー」は、当業者によって容易に決定可能であり、そして一般には、プローブ長、洗浄温度、および塩濃度に依存する経験的計算である。一般的には、より長いプローブは、適切なアニーリングのためにより高い温度を必要とするが、より短いプローブは、より低い温度を必要とする。ハイブリダイゼーションは、一般的に、相補鎖がこれらの融点未満の環境に存在する場合、変性したDNAが再アニールする能力に依存する。プローブとハイブリダイズ可能な配列との間の所望の相同性の程度が高いほど、使用され得る相対温度が高くなる。結果として、より高い相対温度は、反応条件をよりストリンジェントにするが、より低い温度は、反応条件をあまりストリンジェントにしない傾向にある。ハイブリダイゼーション反応のストリンジェンシーのさらなる詳細および説明については、Ausubel et al.,Current Protocols in Molecular Biology,Wiley Interscience Publishers,(1995)を参照のこと。
【0032】
本明細書中で規定されるように、「ストリンジェント条件」または「高いストリンジェント条件」は、代表的には以下:(1)洗浄のために、低いイオン強度および高温を使用し、例えば、50℃で0.015M塩化ナトリウム/0.0015Mクエン酸ナトリウム/0.1%ドデシル硫酸ナトリウムを使用する;(2)ハイブリダイゼーションの間、変性剤(例えば、ホルムアミド)を使用し、例えば、42℃で0.1%ウシ血清アルブミン/0.1%Ficoll/0.1%ポリビニルピロリドン/750mM塩化ナトリウム、75mMクエン酸ナトリウムを含有する50mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH6.5)を含有する50%(v/v)ホルムアミドを使用する;または(3)42℃で50%ホルムアミド、5×SSC(0.75M NaCl、0.075Mクエン酸ナトリウム)、50mMリン酸ナトリウム(pH6.8)、0.1%ピロリン酸ナトリウム、5×Denhardt溶液、超音波処理したサケ精子DNA(50μg/mL)、0.1%SDS、および10%硫酸デキストランを使用し、42℃で0.2×SSC(塩化ナトリウム/クエン酸ナトリウム)、55℃で50%ホルムアミド、続いて55℃でEDTAを含む0.1×SSCから構成される高ストリンジェンシー洗浄液で洗浄する。
【0033】
「中程度にストリンジェントな条件」は、Sambrook et al.,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,New York:Cold Spring Harbor Press,1989によって記載されるように特定され得、そして上記される条件よりもあまりストリンジェントでない洗浄溶液およびハイブリダイゼーション条件(例えば、温度、イオン強度およびSDS%)の使用を含む。中程度にストリンジェントな条件の例は、溶液(以下を含む:20%ホルムアミド、5×SSC(150mM NaCl、15mMクエン酸三ナトリウム)、50mMリン酸ナトリウム(pH7.6)、5×Denhardt溶液、10%硫酸デキストラン、および20mg/mL変性切断サケ精子DNA)中で37℃で一晩インキュベーションし、その後に約37〜50℃で1×SSC中でフィルターを洗浄することである。当業者は、プローブ長などのような因子を適応させるために必要な温度、イオン強度などを調整する方法を認識している。
【0034】
本発明に関連して、任意の特定の遺伝子セットに記載された遺伝子の「少なくとも1つ」、「少なくとも2つ」、「少なくとも5つ」などは、リストに記載された遺伝子のうちのいずれか1つまたはありとあらゆる組合せを意味する。
【0035】
用語「(リンパ)節陰性」癌、例えば「(リンパ)節陰性」乳癌は、リンパ節にまで転移していない癌をいうのに本明細書中で使用される。
【0036】
用語「遺伝子発現プロファイリング」は、最も広い意味で使用され、生物学的サンプル中のmRNAレベルおよび/またはタンパク質レベルの定量方法を含む。
【0037】
用語「アジュバント療法」は、一次(初期)治療に加えて供される処置に一般に使用される。癌治療において、用語「アジュバント療法」は、癌再発のリスクを低下させることを主要目的とする、腫瘍の外科的切除後の化学療法、ホルモン療法および/または放射線療法をいうのに使用される。
【0038】
「ネオアジュバント療法」は、一次(主要)療法の前に供される補助的療法またはアジュバント療法である。ネオアジュバント療法としては、例えば、化学療法、放射線療法、およびホルモン療法が挙げられる。従って、化学療法を外科手術の前に実施して腫瘍を縮小させ得、その結果、外科手術がより有効になり得るか、または既に手術不可能な腫瘍の場合には外科手術が可能になり得る。
【0039】
用語「癌に関連した生物学的機能」は、宿主に逆らって癌の成立(cancer success)に影響を与える分子活性(非限定的に、細胞増殖、プログラム細胞死(アポトーシス)、分化、侵襲、転移、腫瘍抑制、免疫監視に対する感受性、血管形成、不死の維持または獲得を調節する活性が挙げられる)をいうのに本明細書中で使用される。
【0040】
B.詳細な説明
本発明の実施には、他に指示がない限り、分子生物学(組換え技術を含む)、微生物学、細胞生物学、および生化学の従来技術を用い、これらは当該分野の技術範囲内である。このような技術は、例えば、「Molecular Cloning:A Laboratory Manual」,2nd edition(Sambrook et al.,1989);「Oligonucleotide Synthesis」(M.J.Gait,編,1984);「Animal Cell Culture」(R.I.Freshney,編,1987);「Methods in Enzymology」(Academic Press,Inc.);「Handbook of Experimental Immunology」,4th edition(D.M.Weir & C.C.Blackwell,編,Blackwell Science Inc.,1987);「Gene Transfer Vectors for Mammalian Cells」(J.M.Miller & M.P.Calos,編,1987);「Current Protocols in Molecular Biology」(F.M.Ausubelら,編,1987);および「PCR:The Polymerase Chain Reaction」、(Mullisら,編,1994)のような文献中で十分に説明される。
【0041】
本発明は、癌患者における癌の再発または治療への応答の可能性を決定するためのアルゴリズムを提供する。この方法は、以下の(1)〜(3)に基づく:(1)癌再発のマーカーとして機能し得る遺伝子セットの同定およびクラスター形成または特定の治療に対する患者応答の可能性、(2)クラスターおよびクラスター内の個々の遺伝子(癌の再発または治療への応答を予測する際にそれらの値を反映する)に割り当てられ、そして発現データを式に組み入れるのに用いられる、特定の重み;ならびに(3)癌再発の種々の危険度を有する群、または処置に対する応答の種々の可能性を有する群(例えば、低リスク群、中程度リスク群、および高リスク群、あるいは特定の処置に対する患者応答の可能性が低い群、中程度の群または高い群)に患者を分類するのに用いられる閾値の決定。このアルゴリズムは数値的再発スコア(RS)または処置への応答スコア(RTS)をもたらし、これらは癌患者の治療に関して処置決定を行うのに用いられ得る。
【0042】
本発明のアルゴリズムによって分析されるデータを作成する第一工程は、遺伝子またはタンパク質発現プロファイリングである。
【0043】
1.発現プロファイリングの技術
本発明は、癌細胞を含む生物学的サンプル中の特定遺伝子(mRNA)またはそれらの発現産物(タンパク質)のレベルを測定するのにアッセイを必要とする。代表的には、この生物学的サンプルは、例えば腫瘍生検または吸引によって腫瘍から得た、新鮮なまたは保存された組織サンプルであるが、腫瘍細胞を含む生物学的流体も分析に用いられ得る。
【0044】
最も一般的な形態において、遺伝子発現プロファイリングは、例えば、既に患者から収集しそして保存されている固定パラフィン包埋腫瘍生検標本のような組織サンプル中のmRNAレベルの決定を包含する。従って、この試験は完全に非侵襲であり得る。この試験はまた、いくつかの異なる腫瘍組織収集方法(例えば、コア生検または細針吸引)と両立し得る。この腫瘍組織は、正常な組織から肉眼で見て切除が可能であるが、そのようにする必要はない。
【0045】
mRNAレベルの測定に指向される遺伝子発現プロファイリングの方法は、以下の2つの大きな群に分類され得る:ポリヌクレオチドのハイブリダイゼーション分析に基づく方法、およびポリヌクレオチドの配列決定に基づく方法。サンプル中のmRNA発現の定量に最も一般に用いられる当該分野で公知の方法としては、ノーザンブロット法およびインサイチュハイブリダイゼーション(Parker&Barnes, Methods in Molecular Biology 106:247〜283(1999));RNAse保護アッセイ(Hod, Biotechniques 13:852〜854(1992));ならびに逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)(Weis et al.,Trends in Genetics 8:263〜264(1992))が挙げられる。あるいは、DNA二重鎖、RNA二重鎖、およびDNA−RNAハイブリッド二重鎖またはDNA−タンパク質二重鎖を含む特定の二重鎖を認識し得る抗体が用いられ得る。配列決定に基づく遺伝子発現分析のための代表的な方法としては、連続的遺伝子発現解析法(SAGE)、および超並列的な遺伝子ビーズクローン解析法(MPSS)による遺伝子発現分析が挙げられる。
【0046】
これらの技術の全てにおいて、第一工程は、標的サンプルからのmRNAの単離である。この出発物質は、代表的にはヒト腫瘍または腫瘍細胞株、およびそれぞれ対応する正常組織または細胞株から単離された全RNAである。従って、RNAは、健康なドナーからのプールDNAを用いて、乳房、肺、大腸、前立腺、脳、肝臓、腎臓、膵臓、脾臓、胸腺、精巣、卵巣、子宮などの腫瘍を含む種々の原発腫瘍、または腫瘍細胞株から単離され得る。mRNAの供給源が原発腫瘍である場合、mRNAは、例えば、凍結または保存されているパラフィン包埋および固定(例えば、ホルマリン固定)組織サンプルから抽出され得る。
【0047】
mRNA抽出の一般的方法は周知の技術であり、Ausubel et al.,Current Protocols of Molecular Biology,John Wiley and Sons(1997)を含む、分子生物学の標準的テキストに開示されている。パラフィン包埋組織からのRNA抽出の方法は、例えば、RuppおよびLocker、Lab Invest.56:A67(1987)、ならびにDe Andres et al.,BioTechniques 18:42044(1995)に開示されている。特に、RNAの単離は、商業製造者(例えばQiagen)が提供している精製キット、緩衝液セットおよびプロテアーゼを用い、製造業者の指示に従って実施され得る。例えば、培養細胞からの全RNAは、Qiagen RNeasyミニカラムを用いて単離され得る。他の市販のRNA単離キットとしては、MasterPureTM完全DNAおよびRNA精製キット(EPICENTRE(登録商標),Madison,WI)、およびパラフィンブロックRNA単離キット(Paraffin Block RNA Isolation Kit)(Ambion,Inc.)が挙げられる。組織サンプルからの全RNAは、RNA Stat−60(Tel−Test)を用いて単離され得る。腫瘍から調製されたRNAは、例えば、塩化セシウム密度勾配遠心分離によって単離され得る。
【0048】
本発明の実施は、生物学的(例えば組織)サンプル中のmRNAレベルを決定するために開発された技術を参照して説明されるが、プロテオミクス分析の方法のような他の技術もまた、広い概念の遺伝子発現プロファイリングに含まれ、かつ本明細書の範囲内である。一般に、パラフィン包埋組織を用いる好ましい遺伝子発現プロファイリング方法は、定量的逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応(qRT−PCR)であるが、質量分析およびDNAマイクロアレイを含む、他のテクノロジープラットフォームも使用され得る。
【0049】
以下の節において、代表的であるが網羅的ではない一連の遺伝子発現プロファイリング技術が、さらに詳細に議論される。
【0050】
2.逆転写酵素PCT(RT−PCR)
上記の技術のうち、最も高感度かつ最も適応性のある定量方法はqRT−PCRであり、これは、薬物処置を受けたかまたは受けていない、正常および腫瘍組織中の、異なるサンプル集団のmRNAレベルを比較して、遺伝子発現のパターンを特徴付けし、近縁種のmRNA間を区別し、そしてRNA構造を分析するのに用いられ得る。
【0051】
RNAはPCRのテンプレートとなり得ないため、RT−PCRによる遺伝子発現プロファイリングの第一工程は、cDNAへのRNAテンプレートの逆転写であり、その後にPCR反応における指数関数的増幅が続く。最も一般に用いられる2つの逆転写酵素は、鳥骨髄芽球症ウイルス逆転写酵素(AMV−RT)およびモロニーマウス白血病ウイルス逆転写酵素(MMLV−RT)である。逆転写工程を、発現プロファイリングの状況および目的に応じて、代表的には特定のプライマー、ランダムヘキサマー、またはオリゴ−dTプライマーを用いてプライムする。例えば、抽出したRNAを、製造業者の指示に従って、GeneAmp RNA PCRキット(Perkin Elmer,CA,USA)を用いて逆転写させ得る。次いで、生成されたcDNAを、その後のPCR反応のテンプレートとして用い得る。
【0052】
PCR工程は、種々の耐熱性DNA依存性DNAポリメラーゼを用い得るが、代表的にはTaq DNAポリメラーゼを用い、この酵素は、5’−3’ヌクレアーゼ活性を有するが3’−5’プルーフリーディングエンドヌクレアーゼ活性を欠く。従って、TaqMan(登録商標)PCRは、代表的には、TaqまたはTthポリメラーゼの5’−ヌクレアーゼ活性を利用して標的アンプリコンに結合したハイブリダイゼーションプローブを加水分解するが、等価の5’ヌクレアーゼ活性を有する任意の酵素が用いられ得る。2つのオリゴヌクレオチドプライマーを用いて、PCR反応に典型的なアンプリコンを生成する。第3のオリゴヌクレオチド(すなわちプローブ)を設計して、2つのPCRプライマーの間に位置するヌクレオチド配列を検出する。このプローブは、Taq DNAポリメラーゼ酵素によって伸長不可能であり、かつレポーター蛍光色素およびクエンチャー蛍光色素で標識される。これらの2つの色素がこのプローブ上にあるように、互いに近接して位置する場合、レポーター色素からのいかなるレーザー誘起発光もクエンチング色素によってクエンチされる。この増幅反応の間、Taq DNAポリメラーゼ酵素はテンプレート依存的な様式でプローブを切断する。結果として生じたプローブフラグメントを溶液中に分離させ、そして遊離したレポーター色素からのシグナルが第2フルオロフォアのクエンチング作用を受けないようにする。合成された新規分子の各々につき1分子のレポーター色素が遊離され、そしてクエンチされていないレポーター色素を検出することにより、このデータの定量的解釈の根拠を得る。
【0053】
TaqMan(登録商標)RT−PCRは、例えば、ABI PRISM 7700TM配列検出システムTM(Perkin−Elmer−Applied Biosystems,Foster City,CA,USA)、またはLightcycler(Roche Molecular Biochemicals,Mannheim,Germany)のような市販の装置を用いて実施され得る。好ましい実施形態において、5’ヌクレアーゼ手順は、ABI PRISM 7700TM配列検出システムTMのようなリアルタイム定量的PCRデバイスで実行される。このシステムは、サーモサイクラー、レーザー、電荷結合素子(CCD)、カメラおよびコンピュータで構成される。このシステムは、この機器を作動させるためおよびデータを解析するためのソフトウェアを備える。
【0054】
5’−ヌクレアーゼアッセイデータは、初めにCt(すなわち閾値サイクル)として表される。上記のように、蛍光値はサイクル毎に記録され、増幅反応におけるその時点までで増幅された産物の量を表す。蛍光シグナルが初めて統計学的有意として記録される時点が、閾値サイクル(Ct)である。
【0055】
誤差およびサンプル間変動の影響を最小にするために、通常、内部標準を用いてRT−PCRを行う。理想的な内部標準は、異なる組織間で一定のレベルで発現され、かつ実験的処理によって影響を受けない。遺伝子発現のパターンを正規化するのに最も頻繁に用いられるRNAは、ハウスキーピング遺伝子グリセルアルデヒド3リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)およびβアクチンのmRNAである。
【0056】
RT−PCR技術の最近のバリエーションは、リアルタイム定量的PCRであり、これは、二重標識蛍光発光性プローブ(すなわち、TaqMan(登録商標)プローブ)によってPCR産物蓄積を測定する。リアルタイムPCRは、各標的配列に対する内部競合体を正規化に用いる定量的競合PCR、およびサンプル内に含まれる正規化遺伝子またはハウスキーピング遺伝子をRT−PCRに用いる定量的比較PCRの両方と適合する。さらなる詳細については、例えば、Heldら,Genome Research 6:986〜994(1996)を参照のこと。
【0057】
3.マイクロアレイ
差次的遺伝子発現もまたマイクロアレイ技術を用いて同定され得るか、または確認され得る。従って、乳癌関連遺伝子の発現プロフィールは、マイクロアレイ技術を用いて、新鮮な腫瘍組織かまたはパラフィン包埋腫瘍組織のいずれかにおいて測定され得る。この方法では、目的のポリヌクレオチド配列(cDNAおよびオリゴヌクレオチドを含む)をマイクロチップ基材上にプレートするかまたはアレイ化する。次いで、これらのアレイ化配列を、目的の細胞または組織由来の特定のDNAプローブとハイブリダイズさせる。RT−PCR法と同様に、mRNAの供給源は、代表的にはヒト腫瘍または腫瘍細胞株、および対応する正常組織または細胞株から単離された全RNAである。従って、RNAは、種々の原発腫瘍または腫瘍細胞株から単離され得る。mRNAの供給源が原発腫瘍である場合、mRNAは、例えば、凍結されているかまたは保存されているパラフィン包埋および固定(例えば、ホルマリン固定)組織サンプル(これらは、日々の臨床診療において日常的に調製されかつ保存される)から抽出され得る。
【0058】
マイクロアレイ技術の特定の実施形態において、PCR増幅したcDNAクローンのインサートを緻密アレイ中の基材にアプライする。好ましくは、少なくとも10,000個のヌクレオチド配列をこの基材にアプライする。マイクロチップ上に各々10,000エレメントで固定化されたマイクロアレイ化遺伝子が、ストリンジェントな条件下でのハイブリダイゼーションに適する。蛍光標識化cDNAプローブは、目的の組織から抽出されたRNAの逆転写による蛍光ヌクレオチドの取り込みによって生成され得る。チップにアプライされた標識化cDNAプローブを、アレイ上のDNAの各スポットに対する特異性でハイブリダイズする。ストリンジェントな洗浄を行って非特異的結合プローブを除去した後、このチップを共焦点レーザー顕微鏡によって、または別の検出方法(例えば、CCDカメラ)によってスキャンする。各アレイ化エレメントのハイブリダイゼーションの定量化によって、対応するmRNA存在量の評価が可能になる。2つのRNA供給源から生成した、二色蛍光を用いて別々に標識化されたcDNAプローブを、このアレイに2つ1組でハイブリダイズさせる。従って、各々の特定遺伝子に対応する2つの供給源由来の転写物の相対存在量は、同時に決定される。ハイブリダイゼーションの規模を縮小することにより、多数の遺伝子についての発現パターンの簡便かつ迅速な評価が得られる。このような方法は、稀な転写物(細胞当たり数コピーで発現される)を検出するために、かつ発現レベルに少なくとも約2倍の差異を再現可能に検出するために必要な感度を有することが示されている(Schenaら,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 93(2):106〜149(1996))。マイクロアレイ分析は、製造業者のプロトコールに従い、市販の装置によって(例えば、Affymetrix GenChip技術、またはIncyteのマイクロアレイ技術を用いることによって)実施され得る。
【0059】
遺伝子発現の大規模解析のためのマイクロアレイ法の開発により、種々の腫瘍タイプにおける癌分類および予後予測の分子マーカーについて系統的に検索することが可能になる。
【0060】
4.連続的遺伝子発現解析法(SAGE)
連続的遺伝子発現解析法(SAGE)は、各転写物についての個々のハイブリダイゼーションプローブを提供する必要なく、多数の遺伝子転写物の同時定量分析を可能にする方法である。まず、転写物を固有に同定するのに十分な情報を含む短配列タグ(約10〜14塩基対)が、このタグが各転写物中の固有の位置から得られるという条件で生成される。次いで、多数の転写物を連結させて、配列決定され得る長い連続分子を形成し、同時に多重タグの同一性を明らかにする。転写物の任意の集団の発現パターンが、個々のタグの存在量を決定し、そして各タグに対応する遺伝子を同定することによって定量的に評価され得る。さらに詳細には、例えば、Velculescu et al.,Science 270:484〜487(1995);およびVelculescu et al.,Cell 88:243〜51(1997)を参照のこと。
【0061】
5.超並列的な遺伝子ビーズクローン解析法(MPSS)による遺伝子発現分析
この方法は、Brenner et al.,Nature Biotechnology 18:630〜634(2000)によって記載され、非ゲルベースのシグニチャー配列決定と個々の直径5μmのマイクロビーズ上の何百万ものテンプレートのインビトロクローニングを組み合わせる配列決定アプローチである。まず、DNAテンプレートのマイクロビーズライブラリーが、インビトロクローニングによって構築される。続いて、高密度で(代表的には、3×10個のマイクロビーズ/cmよりも高い密度で)フローセル中のテンプレート含有マイクロビーズの平面アレイを組み立てる。各マイクロビーズ上のクローン化テンプレートの自由端は、DNAフラグメント分離を必要としない蛍光ベースのシグニチャー配列決定法を用いて同時に分析される。この方法により、単一の操作で、酵母cDNAライブラリーから数十万の遺伝子シグニチャー配列が同時にかつ正確にもたらされることが示されている。
【0062】
6.免疫組織化学
免疫組織化学法もまた、本発明の予後マーカーの発現レベルを検出するのに適する。従って、抗体または抗血清、好ましくはポリクローナル抗血清、そして最も好ましくは各マーカーに特異的なモノクローナル抗体が、発現を検出するのに用いられる。これらの抗体は、例えば、放射活性標識、蛍光標識、ビオチンのようなハプテン標識、またはセイヨウワサビペルオキシダーゼもしくはアルカリホスファターゼのような酵素を用いた、抗体自体の直接標識によって検出され得る。あるいは、非標識一次抗体を、この一次抗体に特異的な抗血清、ポリクローナル抗血清またはモノクローナル抗体を含む、標識二次抗体と併せて用いる。免疫組織化学プロトコールおよびキットは当該分野において周知であり、かつ市販されている。
【0063】
7.プロテオミクス
用語「プロテオーム」は、特定の時点でサンプル(例えば組織、生物体、または細胞培養物)中に存在するタンパク質全体と定義される。中でも、プロテオミクスは、サンプル中のタンパク質発現の全体的な変化の研究(「発現プロテオミクス」とも呼ばれる)を包含する。プロテオミクスは、代表的には以下の工程を包含する:(1)2次元ゲル電気泳動(2−D PAGE)によるサンプル中の個々のタンパク質の分離;(2)例えば質量分析またはN末端配列決定による、ゲルから回収した個々のタンパク質の同定、および(3)バイオインフォマティクスを用いたデータの分析。プロテオミクス法は、遺伝子発現プロファイリングの他の方法への有益な補足であり、単独でも他の方法と組み合わせても、本発明の予後マーカーの産生を検出するのに用いられ得る。
【0064】
8.癌遺伝子セット、アッセイした遺伝子配列および遺伝子発現データの臨床応用
本発明の重要な局面は、癌(例えば乳癌)組織による特定の遺伝子の発現(またはそれらの発現産物)を測定し、予後情報を得るのに用いることである。このために、アッセイしたRNAの量における差および用いたRNAの質における可変性の両方について補正(正規化)する必要がある。従って、このアッセイは、代表的には、周知のハウスキーピング遺伝子(例えば、GAPDHおよびβ−ACTIN)を含む特定の正規化遺伝子の発現を測定し、そして組み込む。あるいは、正規化は、全てのアッセイした遺伝子またはそれらの大サブユニットの平均または中央シグナル(Ct)に基づいたものであり得る(全体的な正規化アプローチ)。開示全体にわたって、他に記述のない限り、遺伝子の発現レベルへの言及は、必ずしも明記されているとは限らないが、参照セットと比較して正規化された発現とみなす。
【0065】
9.癌再発スコアを得るためのアルゴリズム
qRT−PCRを用いてmRNAレベルを測定する場合、mRNA量は、Ct(閾値サイクル)単位で表される(Heldら,Genome Research 6:986〜994(1996))。参照mRNA Ctの合計の平均をゼロに設定し、そして各々の測定した試験mRNA Ctを、このゼロ点を参照して得た。例えば、特定の患者腫瘍検体について、5つの参照遺伝子のCtの平均が31であり、かつ試験遺伝子CRB7のCtが35であると求められれば、GRB7についての報告値は−4(すなわち31−35)である。
【0066】
mRNAレベルの定量後に、第一工程として、腫瘍検体中で同定された遺伝子および癌の分子病理学に関連することが知られている遺伝子を、サブセットに群化する。従って、増殖に関連することが知られている遺伝子は、「増殖サブセット」(軸)を構成する。癌の侵襲に関連することが知られている遺伝子は、「侵襲サブセット」(軸)を構成する。主要な成長因子レセプター経路に関連する遺伝子は、「成長因子サブセット」(軸)を構成する。エストロゲン受容体(ER)を介する活性化またはシグナル伝達に関与することが知られている遺伝子は、「エストロゲン受容体サブセット」(軸)を構成する。このサブセットのリストは、当然ながら限定ではない。作成されたこれらのサブセット(軸)は、特定の癌(すなわち、乳癌、前立腺癌、膵臓癌、肺癌など)に依存する。通常、その発現が互いに相関していることが知られているか、または同じ経路に関与することが知られている遺伝子は、同じ軸に群化される。
【0067】
次の工程において、サブセット内の各mRNAの測定した腫瘍レベルに、癌再発のリスクに対する相対的セット内寄与率を反映する係数をかけ、この積を、サブセット内のmRNAレベルとそれらの係数との間の他の積に加算して、項(例えば、増殖項、侵襲項、成長因子項、など)を得る。例えば、リンパ節陰性浸潤乳癌の場合、成長因子項は(0.45〜1.35)×GRB7+(0.05〜0.15)×Her2である(下記の実施例を参照のこと)。
【0068】
再発スコア全体への各項の寄与率は、係数を用いて重み付けされる。例えば、リンパ節陰性浸潤乳癌の場合、成長因子項の係数は0.23〜0.70の間であり得る。
【0069】
さらに、一部の項(例えば、成長因子項および増殖項)について、さらなる工程が実施される。項と再発リスクとの間の関係が非線形である場合、この項の非線形関数変換(例えば、閾値)が用いられる。従って、リンパ節陰性浸潤乳癌において、成長因子項が−2よりも小さい場合、この値は−2に固定される。増殖項が−3.5よりも小さい場合、この値は−3.5に固定される。
【0070】
得られたこれらの項の合計から、再発スコア(RS)を得る。
【0071】
再発スコア(RS)と再発リスクとの間の関係は、浸潤乳癌を有するリンパ節陰性患者の集団に由来する生検腫瘍検体における試験遺伝子および参照遺伝子の発現を測定し、そしてこのアルゴリズムを適用することによって求められている。
【0072】
本発明のアルゴリズムによってもたらされたRSスケールは、種々の方法で調整され得ることが知られている。従って、上で具体的に記載したRSスケールは、効率的には−4.5〜−2.0であるが、この範囲は、このスケールが例えば0〜10、0〜50、または0〜100となるように選択され得る。
【0073】
例えば、特定のスケーリングアプローチにおいて、スケールド再発スコア(scaled recurrence score)(SRS)を0〜100のスケールで算出した。便宜上、10Ct単位を各測定Ct値に加算し、そして調整されていないRSを前記のように算出する。スケールド再発スコア(SRS)は、以下に示す方程式を用いて算出される。
【0074】
【化1】

【0075】
以下の再発スコアを用いて種々のリスクカテゴリーに割り当てられた患者:
【0076】
【化2】

【0077】
この調整アプローチを用いて、図2に示した再発スコアを算出した。
【0078】
10.再発スコアおよび処置への応答スコアの利用
本発明のアルゴリズムによって決定されるような再発スコア(RS)または処置への応答スコア(RTS)は、開業医が重大な処置決定を行うのに有益なツールをもたらす。従って、特定の患者のRSが低ければ、医師は、癌(例えば乳癌)の外科的切除後の化学療法が患者の長期生存を保証するのに必須ではないと判断する場合がある。結果として、この患者は、医療化学療法処置の標準のしばしば非常に重篤な副作用を受けることがない。一方、RSが高いと決定されると、この情報を用いて、どの化学療法または他の処置選択肢(例えば、放射線療法)がこの患者の処置に最も適するかを決定し得る。同様に、特定の処置について患者のRTSスコアが低ければ、他のより有効な治療法を用いて、その特定の患者の癌を治療する。
【0079】
例証として、乳癌の処置のための現在の標準の医療化学療法選択肢としては、アントラサイクリン+シクロホスファミド(AC);またはAC+タキサン(ACT);またはC+メトトレキサート+5−フルオロウラシル(CMF)の投与;あるいは任意のこれらの薬物単独、または任意の組合せの投与が挙げられる。癌(例えば乳癌)処置にしばしば用いられる他の化学療法剤としては、例えば、ハーセプチン(登録商標)、ビンブラスチン、アクチノマイシンD、エトポシド、シスプラチン、およびドキソルビシンが挙げられる。本発明のアルゴリズムによって特定の患者についてのRSを決定することにより、患者が長期生存の最良の機会を有する一方、望ましくない副作用を最小化するように、医師が患者の処置を合わせることが可能である。
【0080】
従って、癌再発のリスクが低い患者は、代表的には、ホルモン処置単独、またはホルモン処置および毒性が少ない化学療法処置レジメント(例えば、ハーセプチン(登録商標)を用いた)を受ける。一方、癌再発のリスクが中程度であるかまたは高いと決定された患者は、代表的には、より積極的な化学療法(例えば、アントラサイクリンおよび/またはタキサンに基づく処置レジメン)を受ける。
【0081】
RS値はまた、特定の癌のための主要な処置プロトコールには現在のところ必要とされていない治療薬(例えば、EGFRインヒビター)を用いて、および/または他の処置選択肢によって、例えば、放射線療法単独、または化学療法処置の前もしくは後に、患者を処置するべきか否かを決定するのにも用いられ得る。
【0082】
本発明のさらなる詳細は、以下の非限定的な実施例において提供される。
【実施例】
【0083】
実施例1
乳癌の再発を予測するためのアルゴリズム
このアルゴリズムは、16個のmRNAマーカーの腫瘍レベルの測定値に基づいておりり、これらのマーカーは以下の2つの大基準によって選択した:1)下記の臨床研究における乳癌の再発との一変量相関、および2)公表科学文献に示されるように腫瘍病理学における潜在的重要性。
【0084】
これらの選択マーカーは、癌の再発におけるいくつかの細胞性作用および経路の役割を示す:例えば、Her2成長因子;エストロゲン受容体、増殖、および侵襲。乳癌の分子病理学の現時点での理解と一致して、成長因子軸、増殖軸、および侵襲軸においてmRNAレベルの増加を示す遺伝子は、再発のリスクの増大と相関しているのに対し、エストロゲン受容体軸においてmRNAレベルの増加を示す遺伝子は、再発のリスクの低下と相関している。これらの経路における関連遺伝子は、ピアソンの相関係数によって示されるように、生物学的機能で関連があるのみならず、同時発現でも関連がある(データは示さず)。ピアソンの相関係数の算出については、例えばK.PearsonおよびA.Lee,Biometrika 2:357(1902)を参照のこと。
【0085】
アルゴリズムを、上記経路の特定の同時発現遺伝子の寄与率を重み付けすることによって構築する。このモデルを、再発リスクに対する最高の相関について選択することによって反復的に最適化した。モデルフィッティングは、上記の機能軸および同時発現軸を示す最良の遺伝子の選択ならびに最適な方程式の係数についての選択を包含する。
【0086】
さらに、上記の遺伝子のいずれかに対してまたは互いに対して発現において密接には相関していないが、癌再発の予測に独立的に寄与することも見出されている、他の遺伝子を含めた。腫瘍マクロファージは誤った癌の予後診断を与えるという、生物医学文献中に蓄積している証拠(M.OrreおよびP.A Rogers Gynecol.Oncol.73:47〜50[1999];L.M.Coussens et al.,Cell 103:481〜90[2000];S.Huang et al.,J.Natl.Cancer Inst.94:1134〜42[2002];M.A.Cobleigh et al.,Proceedingsof A.S.C.O.22:Abstract 3415[2003])を考慮して、マクロファージマーカーCD68も試験遺伝子セットに含めた。最終的に、以下の遺伝子を含むモデルを同定した:Grb7;Her2;ER;PR;BCl2;CEGP1;SURV;Ki−67;MYBL2;CCNB1;STK15;CTSL2;STMY3;GSTM1;BAG1;CD68。
【0087】
このアルゴリズムにより、再発リスクスコア(RS)を得る。具体的には、RSを以下のように導く:
1.GRB7軸を規定
GRB7軸=(0.45〜1.35)×GRB7+(0.05〜0.15)×HER2
2.GRB7軸閾値を規定
GRB7軸<−2である場合
GRB7GT閾値=−2、
他のGRB7GT閾値=GRB7軸
3.ER軸を規定
Er軸=(EstR1+PR+Bcl2+CEGP1)/4であって、ここで、リストに記載した遺伝子の個々の寄与率は、0.5から1.5までにわたる換算係数によって重み付けされ得る。
4.増殖軸(prolifaxis)を規定
増殖軸=(SURV+Ki.67+MYBL2+CCNB1+STK15)/5であって、ここで、リストに記載した遺伝子の個々の寄与率は、0.5から1.5までの換算係数によって重み付けされ得る。
5.増殖軸閾値(prolifaxisthresh)を規定
増殖軸<−3.5である場合
増殖軸閾値=−3.5、
他の増殖軸閾値=増殖軸
6.侵襲軸を規定
侵襲軸=(CTSL2+STMY3)/2であって、ここで、リストに記載した遺伝子の個々の寄与率は、0.5から1.5までの換算係数によって重み付けされ得る。
7.再発スコア(RS)を算出
RS=(0.23〜0.70)×GRB7GT閾値−(0.17〜0.51)×ER軸+(0.52〜1.56)×増殖軸閾値+(0.07〜0.21)×侵襲軸+(0.03〜0.15)×CD68−(0.04〜0.25)×GSTM1−(0.05〜0.22)×BAG1。
【0088】
特定の実施形態において、RSを以下のように算出する:
RS=0.47×GRB7GT閾値−0.34×ER軸+1.04×増殖軸閾値+0.14×侵襲軸+0.11×CD68−0.17×GSTM1−0.15BAG1。
【0089】
当業者は、上に特定した16個の試験遺伝子の代わりに他の遺伝子を用い得ることを理解する。大まかには、このアルゴリズム中の遺伝子の代わりに16個の遺伝子試験パネル中の遺伝子と同時発現する任意の遺伝子(ピアソンの相関係数≧0.40)を用い得る。遺伝子Xを、相関する遺伝子Yに置き換えるために、患者集団における遺伝子Xについての値域、患者集団における遺伝子Yについての値域を決定し、そして一次変換を適用して遺伝子Yについての値を遺伝子Xについての対応する値にマッピングする。例えば、患者集団における遺伝子Xについての値域が0〜10であり、患者集団における遺伝子Yについての値域が0〜5である場合、適切な変換は、遺伝子Yの値に2を掛けることである。
【0090】
例証として、Her2アンプリコン内にある以下の遺伝子は、成長因子遺伝子サブセットの中に置換され得る遺伝子の一部である:Q9BRT3;TCAP;PNMT;ML64;IPPD;Q9H7G1;Q9HBS1;Q9Y220;PSMD3;およびCSF3。
【0091】
例証として、増殖遺伝子サブセットの中に置換され得る遺伝子の一部は以下である:C20.orf1、TOP2A、CDC20、KNSL2、MELK、TK1、NEK2、LMNB1、PTTG1、BUB1、CCNE2、FLJ20354、MCM2、RAD54L、PR02000、PCNA、Chk1、NME1、TS、FOXM1、AD024、およびHNRPAB。
【0092】
例証として、エストロゲン受容体(ER)サブセットの中に置換され得る遺伝子の一部は以下である:HNF3A、ErbB3、GATA3、BECN1、IGF1R、AKT2、DHPS、BAG1、hENT1、TOP2B、MDM2、CCND1、DKFZp586M0723、NPD009、B.カテニン、IRS1、Bclx、RBM5、PTEN、A.カテニン、KRT18、ZNF217、ITGA7、GSN、MTA1、G.カテニン、DR5、RAD51C、BAD、TP53BP1、RIZ1、IGFBP2、RUNX1、PPM1D、TFF3、S100A8、P28、SFRS5、およびIGFBP2。
【0093】
例証として、侵襲軸の中に置換され得る遺伝子の一部は以下である:upa、COLlA1、COL1A2、およびTIMP2。
【0094】
CD68の代わりに用いられ得る遺伝子の一部は以下である:CTSB、CD18、CTSL、HLA.DPB1、MMP9。
【0095】
GSTM1の代わりに用いられ得る遺伝子の一部は以下である:GSTM3.2、MYH11.1、GSN.3、ID1.1。
【0096】
BAG1の代わりに用いられ得る遺伝子の一部は以下である:Bcl2.2、GATA3.3、DHPS.3、HNF3A.1。
【0097】
決定したRS値を用いて、リンパ節陰性乳癌患者を補助的化学療法で処置するか否かの2項(イエスかノーか)の決定を導き得る。このために、閾値は、低リスク患者から高リスク患者を分離することを規定し得る。前に述べたように、高リスク、中程度リスクおよび低リスクの3つのカテゴリーを規定すること(2つのRS切点を必要とする)は、より有益であり得る。切点は、特定の臨床研究データにアルゴリズムを適用することによって所望のリスクカテゴリーに患者をサブグループ化するために選択され得る。例えば、癌専門医は、10年以内で10%未満の再発のリスクを有するリンパ節陰性乳癌患者の処置を回避することを希望し得る。このアルゴリズムを実施例2に記載の臨床試験データへ適用することにより、−3.9未満のRSを有する患者が10年間で10%未満の再発のリスクを有するのに対し、−3.5より大きいRSを有する患者は10年間で39%より大きい再発のリスクを有することを示す。中程度のRS値を有する患者は、中程度のリスクカテゴリーに入るとみなされ得る。癌専門医は、10年カプランマイヤー生存に対する連続数字関連再発スコアの形でRS結果を得ることができる。
【0098】
実施例2
242個の悪性乳房腫瘍における遺伝子発現の研究
遺伝子発現研究を計画しかつ実行して、リンパ節陰性浸潤乳癌を有する患者の集団における再発スコア(RS)値を決定し、そしてRS値と疾患を有さない生存との間の相関を求めた。本研究は、保存されている固定パラフィン包埋腫瘍ブロックをRNAの供給源として利用し、そして保管されている患者記録を適合させた。
【0099】
研究計画:
分子アッセイを、浸潤乳癌と診断された252人の個々の患者から得たパラフィン包埋ホルマリン固定原発乳房腫瘍組織に対して行った。全ての患者は、リンパ節陰性、ER陽性であり、タモキシフェンで処置されていた。平均年齢は52歳であり、平均臨床腫瘍サイズは2cmであった。平均追跡検査は10.9年であった。2003年1月1日現在で、41人の患者が、局所または遠隔に疾患を再発したかまたは乳癌死した。患者は、組織病理学的評価(材料および方法の項に記載されるように実施される)が適当量の腫瘍組織および同種の病理を示す場合に限り、本研究に含まれる。
【0100】
材料および方法:
代表的な腫瘍ブロックの各々を、診断、腫瘍の量の半定量的評価、および腫瘍進行度について標準組織病理学によって特徴付けした。腫瘍領域が断面の70%未満であった場合、腫瘍領域を肉眼で見て解剖し、そして組織を6つの(10ミクロン)切片から取り出した。さもなければ、合計3つの切片(同じく各々厚み10ミクロン)を調製した。切片を、2本のCostar Brandマイクロ遠心分離管(ポリプロピレン、1.7mLチューブ、透明)に入れた。2以上の腫瘍ブロックを外科的手順の一環として得た場合、病理の最も代表的なブロックを分析に用いた。遺伝子発現分析;mRNAを固定パラフィン包埋組織サンプルから抽出および精製し、上述のように遺伝子発現分析用に調製した。定量的遺伝子発現の分子アッセイを、ABI PRISM 7900TM配列検出システムTM(Perkin−Elmer−Applied Biosystems,Foster City,CA,USA)を用いてRT−PCRによって行った。ABI PRISM 7900TMは、サーモサイクラー、レーザー、電荷結合素子(CCD)、カメラおよびコンピュータで構成される。このシステムは、サーモサイクラーで384ウェル形式中のサンプルを増幅する。このシステムは、この機器を作動させるためおよびデータを解析するためのソフトウェアを備える。
【0101】
結果:
正規化した遺伝子発現値を上記患者検体から得、これらを用いて各患者についてのRSを算出し、このRSは、図1AおよびBに示したように、各々のKaplan−Meierの10年生存データと適合させた。図のように、約−3.75未満のRS値を有する患者は、10年間再発のない生存の見込みを〜90%有する。再発率は、RS値>−3.3で急増する。RSが〜−3.0で10年間の再発リスクは約30%であり、RSが〜−2.0で10年間の再発リスクは50%を超える。図1Bは、約70%の患者が、最も低いリスクカテゴリーに入ることを示す。
【0102】
従って、これらの結果は、前記試験およびアルゴリズムによって決定されるようなRS値と乳癌再発のリスクとの間に密接な一致を示す。
【0103】
実施例3
本発明のアルゴリズムの妥当性
前向き臨床妥当性研究を行って、米国乳癌・大腸癌術後補助療法プロジェクト(National Surgical Adjuvant Breast and Bowel Project)(NSABP)のタモキシフェン単独部門に登録された患者における固定パラフィン包埋腫瘍組織からのRNAの抽出および定量のための多重遺伝子RT−PCRアッセイの性能を検査した。
【0104】
研究B−14:ゲノム腫瘍発現プロフィールが原発浸潤乳癌、陰性腋窩リンパ節およびエストロゲン受容体陽性腫瘍を有する患者における再発の可能性を明確にし得るか否かを臨床的に検査するための実験室研究。このNSABP研究B−14は、リンパ節陰性原発乳癌患者における乳房切除術後のタモキシフェン処置の効力を評価するために行い、そして、適格とみなされて5年間処置された合計2,892人の患者を含んだ。このプロトコールを、タモキシフェンを10mgの用量で1日2回受けている一組の患者および物理的に同一のプラシーボ錠剤を受けている一組のコントロール患者に対して無作為化二重盲検法で実施した。多重遺伝子アッセイを、腫瘍分類の標準組織病理学的基準および分子基準に対して比較した。
【0105】
多重遺伝子アッセイから導き出された患者特異的再発スコアを、NSABP研究B−14のタモキシフェン単独部門からの合計668人の適格な患者(平均追跡検査期間、14.1年)について得た。統計的分析により、得られた患者特異的再発スコア(図2)は、遠隔の再発の可能性と有意に(P=6.5 E−9)相関し、そして腫瘍分類(外科手術時の患者年齢、臨床腫瘍サイズおよび腫瘍進行度を含む)の標準臨床基準を超える重要な情報を提供することを明らかにした。
【0106】
本発明のアッセイおよびアルゴリズムにより、タモキシフェンで処置したリンパ節陰性、ER+、原発乳癌患者について外科手術時に収集した腫瘍組織から、遠隔再発の可能性の再現可能なかつ有益な基準が得られることが見出された。本発明の方法によってもたらされ患者再発スコアは、年齢、臨床腫瘍サイズおよび腫瘍進行度を含む、臨床診療において一般に用いられる腫瘍分類の標準組織病理学的基準および分子基準を超える有意な(P<0.0001)情報をもたらす。他の一般的な臨床基準とは対照的に、この患者再発スコアは高度に再現性があり、そして他の分子試験とは異なり複数のゲノムマーカー(ER、PRおよびHER2を含む)にわたって情報を同時に活用する。
【0107】
本発明は、特定の実施形態とみなされるものを参照して記載されてきたが、本発明はこのような実施形態に限定されないことが理解されるはずである。それと反対に、本発明は、添付の特許請求の範囲の精神および範囲内に含まれる種々の改変および等価物を包含することが意図される。例えば、本開示は、種々の乳癌関連遺伝子および遺伝子セットの同定、および乳癌の個人的予後診断に重点的に取り組むが、他のタイプの癌に関する類似の遺伝子、遺伝子セットおよび方法は、詳細には本明細書における範囲内である。
【0108】
本開示全体にわたって引用される全ての参考文献は、本明細書中に参考として明白に援用される。
【0109】
【化3】

【0110】
【化4】

【0111】
【化5】

【図面の簡単な説明】
【0112】
(表1) 表1は、試験遺伝子および参照遺伝子を記載し、これらの遺伝子の発現は乳癌再発のアルゴリズムを構築するのに用いられる。この表は、遺伝子の受託番号、PCR増幅に用いられる順方向プライマーおよび逆方向プライマー(それぞれ「f」および「r」と称される)ならびにプローブ(「p」と称される)の配列を含む。
【0113】
(表2) 表2は、前述の遺伝子のアンプリコン配列を示す。
【図1A】図1Aは、10年再発データが入手可能な、侵襲性リンパ節陰性乳癌を有する242人の患者の臨床研究の結果を示す。図1Aは、計算された再発スコアに対する、実際に癌を再発している患者の割合(Kaplan−Meier法)を示す。患者は、−4.5よりも小さいスコアを有する患者(ひとまとめにして群化される)を除いて、5パーセンタイル単位で群化される。
【図1B】図1Bは、10年再発データが入手可能な、侵襲性リンパ節陰性乳癌を有する242人の患者の臨床研究の結果を示す。図1Bは、図1Aと同様である。図1Bもまた実際に癌を再発している患者の割合を示すが、この場合、実際の再発データは再発スコアのパーセンタイルに対してプロットされる。患者は、低い方から20パーセンタイルの患者(ひとまとめにして群化される)を除いて、5パーセンタイル単位で群化される。
【図2】図2は、再発スコア{RS}と10年後の乳癌の遠隔再発の率または可能性との間の関係を図示する。NSABP B−14患者集団からデータを取得する。破線は95%信頼区間を表す。X軸上の各チェックマークは、一致するRSを有する患者を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
哺乳動物被験体における癌の再発または治療への応答の可能性に基づいて腫瘍を分類する方法であって、該方法は以下の工程:
(a)前記被験体から得た癌細胞を含む生物学的サンプルを遺伝子またはタンパク質発現プロファイリングに供する工程;
(b)各遺伝子またはタンパク質についての発現値を決定するために、前記サンプル内の複数の個々の遺伝子の遺伝子またはタンパク質発現レベルを定量化する工程;
(c)遺伝子またはタンパク質発現値のサブセットであって、各サブセットが癌に関連した生物学的機能によっておよび/または同時発現によって連関した遺伝子またはタンパク質についての発現値を含む、サブセットを作製する工程;
(d)サブセット内の各遺伝子またはタンパク質の発現レベルに、前記サブセット内の癌の再発または患者応答へのその相対的寄与率を反映する係数を掛け、この積を加算して前記サブセットについての項を得る工程;
(e)各サブセットの項に、癌の再発または治療への応答に対するその寄与率を反映する換算係数を掛ける工程;ならびに
(f)前記換算係数を掛けた各サブセットについての項の合計を求めて、再発スコア(RS)または治療への応答スコア(RTS)を得る工程であって、
ここで、癌の再発と線形相関を示さない各サブセットの寄与率は、所定の非線形関数変換(例えば、閾値)を超える場合に限り算入され、そして
ここで、含まれる遺伝子またはタンパク質の発現が増加して癌再発のリスクが低下するサブセットには負の値が付与され、そして含まれる遺伝子またはタンパク質の発現が増加して癌の再発のリスクが増大するサブセットには正の値が付与される、工程、
を包含する、方法。
【請求項2】
前記哺乳動物被験体が、ヒトである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記生物学的サンプルが、前記ヒト被験体から得た腫瘍組織である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記生物学的サンプルが、固定パラフィン包埋組織から得られる、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記癌が、乳癌、結腸癌、肺癌、前立腺癌、肝細胞癌、胃癌、膵癌、子宮頸癌、卵巣癌、肝臓癌、膀胱癌、尿路の癌、甲状腺癌、腎臓癌、癌腫、黒色腫、リンパ腫、および脳腫瘍からなる群より選択される、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
1以上の以下のサブセット:増殖サブセット、分化サブセット、成長因子サブセット、および侵襲サブセット、を作製する工程を包含する、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記増殖、侵襲および成長因子サブセットの項が、前記RSを算出する際に正の値を付与される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記分化サブセットの項が、前記RSを算出する際に負の値を付与される、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記癌が乳癌である、請求項5に記載の方法。
【請求項10】
前記乳癌が、リンパ節陰性浸潤乳癌である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
1以上の以下のサブセット:増殖サブセット、エストロゲン受容体(ER)サブセット、Her2サブセット、および侵襲サブセット、を包含する、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記Her2サブセットおよび増殖サブセットの寄与率が、各閾値を越える場合に限り算入される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記増殖サブセット、侵襲サブセットおよびHer2サブセットの項の項が、前記RSを算出する際に正の値を付与される、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記ERサブセットの項が、前記RSを算出する際に負の値を付与される、請求項11に記載の方法。
【請求項15】
前記再発スコアを算出する際に、癌の分子病理学に関与する1以上のさらなる個々の遺伝子を含む工程をさらに包含する、請求項9に記載の方法。
【請求項16】
前記患者を、高リスク群、中程度リスク群または低リスク群に割り当てる工程をさらに包含する、請求項9に記載の方法。
【請求項17】
哺乳動物被験体における乳癌の再発またはホルモン療法への応答の可能性を決定する方法であって、該方法は、以下の工程:
(a)該被験体から得た腫瘍細胞を含む生物学的サンプルにおいて、GRB7、HER2、ER、PR、Bcl2、CEGP1、SURV、Ki.67、MYBL2、CCNB1、STK15、CTSL2、およびSTMY3のRNA転写物、またはそれらの発現産物、あるいは対応する代替遺伝子またはそれらの発現産物の発現レベルを決定する工程;
(b)以下の遺伝子サブセット:
(i)成長因子サブセット:GRB7およびHER2;
(ii)エストロゲン受容体サブセット:ER、PR、Bcl2、およびCEGP1;
(iii)増殖サブセット:SURV、Ki.67、MYBL2、CCNB1、およびSTK15;
ならびに
(iv)侵襲サブセット:CTSL2、およびSTMY3;
を作製する工程であって、
ここで、(i)〜(iv)の任意のサブセット内の遺伝子は、ピアソンの相関係数が0.40以上である該腫瘍中の該遺伝子と同時発現する代替遺伝子で置換され得る、工程;
ならびに
(c)乳癌の再発に対する(i)〜(iv)の各サブセットの寄与率を重み付けすることによって、該被験体についての再発スコア(RS)を算出する工程、
を包含する、方法。
【請求項18】
CD68、GSTM1およびBAG1のRNA転写物またはそれらの発現産物、あるいは対応する代替遺伝子またはそれらの発現産物の発現レベルを決定する工程、ならびに前記RSを算出する際に乳癌の再発に対する該遺伝子または代替遺伝子の寄与率を算入する工程をさらに包含し、
ここで、より高いRSは乳癌の再発の可能性の増大を表す、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記成長因子サブセット(i)の代替遺伝子が、Q9BRT3;TCAP;PNMT;ML64;IPPD;Q9H7G1;Q9HBS1;Q9Y220;PSMD3;およびCSF3からなる群より選択される、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記エストロゲン受容体サブセット(ii)の代替遺伝子が、HNF3A、ErbB3、GATA3、BECN1、IGF1R、AKT2、DHPS、BAG1、hENT1、TOP2B、MDM2、CCND1、DKFZp586M0723、NPD009、B.カテニン、IRS1、Bclx、RBM5、PTEN、A.カテニン、KRT18、ZNF217、ITGA7、GSN、MTA1、G.カテニン、DR5、RAD51C、BAD、TP53BP1、RIZ1、IGFBP2、RUNX1、PPM1D、TFF3、S100A8、P28、SFRS5、およびIGFBP2からなる群より選択される、請求項18に記載の方法。
【請求項21】
前記増殖サブセット(iii)の代替遺伝子が、C20.orfl、TOP2A、CDC20、KNSL2、MELK、TK1、NEK2、LMNB1、PTTG1、BUB1、CCNE2、FLJ20354、MCM2、RAD54L、PRO2000、PCNA、Chk1、NME1、TS、FOXM1、AD024、およびHNRPABからなる群より選択される、請求項18に記載の方法。
【請求項22】
前記侵襲サブセット(iv)の代替遺伝子が、upa、COL1A1、COL1A2、およびTIMP2からなる群より選択される、請求項18に記載の方法。
【請求項23】
前記CD68の代替遺伝子が、CTSB、CD18、CTSL、HLA.DPB1、およびMMP9からなる群より選択される、請求項18に記載の方法。
【請求項24】
前記GSTM1の代替遺伝子が、GSTM2、GSTM3、GSTM4、GSTM5、MYH11、GSN、およびID1からなる群より選択される、請求項18に記載の方法。
【請求項25】
前記BAG1の代替遺伝子が、Bcl2、GATA3、DHPS、およびHNF3Aからなる群より選択される、請求項18に記載の方法。
【請求項26】
前記遺伝子GRB7、HER2、ER、PR、CEGP1、BCL2、SURV、KI67、MYBL2、CCNB1、STK15、CTSL2、STMY3、CD68、GSTM1、およびBAG1の発現が、タンパク質発現レベルを決定することによって測定される、請求項17または請求項18に記載の方法。
【請求項27】
前記被験体が、ヒトである、請求項18に記載の方法。
【請求項28】
前記癌が、リンパ節陰性乳癌である、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記サブセット(i)および(iii)の寄与率が、前記サブセットに含まれる遺伝子のRNA転写物、またはそれらの発現産物、あるいは前記対応する代替遺伝子またはそれらの発現産物の総発現レベルが閾値を越える場合に限り算入される、請求項18に記載の方法。
【請求項30】
(i)〜(iv)の各サブセットの中で、含まれる各遺伝子の前記個々の寄与率が別々に重み付けされる、請求項18に記載の方法。
【請求項31】
サブセット(i)において、GRB7およびHER2の各々のRNA転写物、またはそれらの発現産物、あるいは前記対応する代替遺伝子またはそれらの発現産物の発現レベルに、乳癌の再発に対するそれらの個々の寄与率を表す0〜1の間の換算係数を掛ける工程を包含し、ここで、GRB7およびHER2の合計寄与率が1で表される、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
サブセット(ii)に記載される遺伝子、またはそれらの発現産物の、乳癌の再発に対する個々の寄与率を同等に重み付けする工程を包含し、ここで、サブセット(ii)に記載される全ての遺伝子の合計寄与率が1で表される、請求項30に記載の方法。
【請求項33】
サブセット(iii)に記載される遺伝子、またはそれらの発現産物の、乳癌の再発に対する個々の寄与率を同等に重み付けする工程を包含し、ここで、サブセット(iii)に記載される全ての遺伝子の合計寄与率が1で表される、請求項30に記載の方法。
【請求項34】
サブセット(iv)に記載される各遺伝子、またはそれらの発現産物の、乳癌の再発に対する個々の寄与率を同等に重み付けする工程を包含し、ここで、サブセット(iv)に記載される全ての遺伝子の合計寄与率が1で表される、請求項30に記載の方法。
【請求項35】
サブセット(i)、(iii)および(iv)における遺伝子のRNA転写物、またはそれらの発現産物のレベルの増加が、乳癌の再発のリスクの増大と関連し、かつ正の値が付与される、請求項17に記載の方法。
【請求項36】
クラスター(ii)の遺伝子における遺伝子のRNA転写物、またはそれらの発現産物のレベルの増加が、乳癌の再発のリスクの低下と関連し、かつ負の値が付与される、請求項17に記載の方法。
【請求項37】
CD68のRNA転写物、またはその発現産物のレベルの増加が、乳癌の再発のリスクの増大と関連し、かつ正の値が付与される、請求項18に記載の方法。
【請求項38】
GSTM1およびBAGIのRNA転写物、またはその発現産物のレベルの増加が、乳癌の再発のリスクの低下と関連し、かつ負の値が付与される、請求項18に記載の方法。
【請求項39】
前記生物学的サンプルが、新鮮な腫瘍組織、細針吸引液、腹水、管洗浄液および胸膜液からなる群より選択される、請求項17に記載の方法。
【請求項40】
前記生物学的サンプルが、腫瘍サンプルである、請求項17に記載の方法。
【請求項41】
前記腫瘍サンプルが、固定パラフィン包埋腫瘍組織から得られる、請求項40に記載の方法。
【請求項42】
前記組織が、生検によって得られた、請求項41に記載の方法。
【請求項43】
前記RNA転写物の発現レベルが、RT−PCRによって決定される、請求項41に記載の方法。
【請求項44】
前記RNAが、フラグメント化される、請求項41に記載の方法。
【請求項45】
前記RNA転写物の発現レベルが、
(a)前記発現レベルが決定されるべき標的遺伝子内のイントロンRNA配列に相補的なポリヌクレオチドを提供する工程であって、ここで、該イントロンRNA配列の発現が、該遺伝子内のエキソンmRNA配列の発現と相関する、工程;
(b)該ポリヌクレオチドを該イントロンRNA配列にハイブリダイズして、ポリヌクレオチド−イントロンRNA複合体を形成する工程;および
該ポリヌクレオチド−イントロンRNA複合体を検出する工程
によって決定される、請求項17に記載の方法。
【請求項46】
Kaplan−Meier生存曲線を用いて前記データを分析する工程をさらに包含する、請求項27に記載の方法。
【請求項47】
前記計算の結果を要約する報告書を作成する工程をさらに包含する、請求項27に記載の方法。
【請求項48】
前記報告書が、前記被験体についての治療法の推奨を含む、請求項47に記載の方法。
【請求項49】
哺乳動物被験体における乳癌の再発の可能性を決定する方法であって、該方法は、以下の工程:
(a)該被験体から得た腫瘍細胞を含む生物学的サンプルにおいて、GRB7、HER2、EstR1、PR、Bcl2、CEGP1、SURV、Ki67、MYBL2、CCNB1、STK15、CTSL2、STMY3、CD68、GSTM1、およびBAG1、またはそれらの発現産物の発現レベルを決定する工程;ならびに
(b)以下の方程式:
RS=(0.23〜0.70)×GRB7軸閾値−(0.17〜0.55)×ER軸+(0.52〜1.56)×増殖軸閾値+(0.07〜0.21)×侵襲軸+(0.03〜0.15)×CD68−(0.04〜0.25)×GSTM1−(0.05〜0.22)×BAG1
によって再発スコア(RS)を算出する工程であって、
ここで、
(i)GRB7軸=(0.45〜1.35)×GRB7+(0.05〜0.15)×HER2;
(ii)GRB7軸<−2であれば、GRB7軸閾値=−2であり、そして
GRB7軸≧−2であれば、GRB7軸閾値=GRB7軸である;
(iii)ER軸=(Est1+PR+Bcl2+CEGP1)/4;
(iv)増殖軸=(SURV+Ki.67+MYBL2+CCNB1+STK15)/5;
(v)増殖軸<−3.5であれば、増殖軸閾値=−3.5であり、
増殖軸≧−3.5であれば、増殖軸閾値=増殖軸である;および
(vi)侵襲軸=(CTSL2+STMY3)/2であって、
ここで、(iii)、(iv)および(vi)における該遺伝子の個々の寄与率は0.5〜1.5の換算係数によって重み付けされ、そしてここで、より高いRSは乳癌の再発の可能性の増大を表す、工程、
を包含する、方法。
【請求項50】
換算係数を重み付けする工程が、スケールド再発スコア(SRS)を0〜100段階評価で得るために導入される、請求項49に記載の方法。
【請求項51】
乳癌と診断された被験体のための処置選択肢を決定する方法であって、該方法は以下の工程:
(a)前記被験体から得た腫瘍細胞を含む生物学的サンプルにおいて、GRB7、HER2、EstR1、PR、Bcl2、CEGP1、SURV、Ki.67、MYBL2、CCNB1、STK15、CTSL2、STMY3、CD68、GSTM1、およびBAG1のRNA転写物、またはそれらの発現産物の発現レベルを決定する工程;
(b)以下の多重遺伝子サブセット:
(i)GRB7およびHER2;
(ii)EstR1、PR、Bcl2、およびCEGP1;
(iii)SURV、Ki.67、MYBL2、CCNB1、およびSTK15
(iv)CTSL2、およびSTMY3;
を作製する工程、
(c)(i)〜(iv)の各サブセット、ならびに個々の遺伝子CD68、GSTM1およびBAG1、またはそれらの発現産物の、乳癌の再発に対する寄与率を重み付けすることによって、該被験体についての再発スコア(RS)を算出する工程であって、
ここで、より高いRSは乳癌の再発の可能性の増大を表す、工程;
(d)該被験体を、低リスク群、中程度のリスク群または高リスク群に分類する工程;ならびに
(e)前記被験体が、前記低リスク群に入る場合、無処置またはホルモン療法単独または他の毒性が少ない処置を加えたホルモン療法を推奨する工程;該被験体が、前記中程度リスク群または高リスク群に入る場合、化学療法処置を推奨する工程、
を包含する、方法。
【請求項52】
以下の工程:
(a)2cm未満のサイズの悪性固形腫瘍と診断されたヒト被験体から、または50歳を超えるヒト被験体から得た癌細胞を含む生物学的サンプルを、遺伝子またはタンパク質発現プロファイリングに供する工程;
(b)各遺伝子またはタンパク質についての発現値を決定するために、複数の個々の遺伝子の該遺伝子またはタンパク質発現レベルを定量化する工程;
(c)遺伝子またはタンパク質発現値のサブセットであって、各サブセットが癌に関連した生物学的機能によっておよび/または同時発現によって連関した遺伝子またはタンパク質についての発現値を含む、サブセットを作製する工程;
(d)サブセット内の各遺伝子またはタンパク質の発現レベルに、前記サブセット内の癌の再発に対するその相対的寄与率を反映する係数を掛け、この積を加算して前記サブセットの項を得る工程;
(e)各サブセットの項に、癌の再発に対するその寄与率を反映する換算係数を掛ける工程;
(f)前記換算係数を掛けた各サブセットについての項の合計を求めて、再発スコア(RS)を得る工程;
(g)該被験体を、低いRS、中程度のRS、または高いRSを有すると診断する工程;ならびに
(h)該被験体が中程度のRSまたは高いRSを有する場合、該被験体を補助的化学療法の有効なレジメンで処置する工程、
を包含する、方法。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【公表番号】特表2007−527220(P2007−527220A)
【公表日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−518761(P2006−518761)
【出願日】平成16年6月30日(2004.6.30)
【国際出願番号】PCT/US2004/021163
【国際公開番号】WO2005/008213
【国際公開日】平成17年1月27日(2005.1.27)
【出願人】(504345126)ジェノミック ヘルス, インコーポレイテッド (17)
【Fターム(参考)】