癌転移の抑制
癌転移を抑制するための方法が提供される。癌転移は癌患者における治療の失敗および死の最大の原因である。腫瘍細胞の浸潤および/または遊走は、インビトロで繊維状タンパク質(rVP1、F−HSAおよびF−BSA)処理の後、著しく阻害されうる。加えて、rVP1はマウスおよびヒト乳癌転移、ならびにヒト前立腺および卵巣癌転移をインビボで著しく抑制することができ、一方、F−HSAはマウス乳癌転移を著しく抑制することができる。抗癌転移治療としての繊維状タンパク質の組成物およびその使用方法が、本明細書において提供される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
序論
癌転移は、逐次段階の系を含み、宿主−腫瘍細胞相互作用のカスケードを必要とする過程である(Steeg PSら(2007) Nature 449:671−3)。これらの段階は、原発腫瘍からの離脱(detachment)、循環系への浸潤および循環系における停止、臓器の実質への溢出;および血管新生に伴う増殖を含む(Sawyer TKら(2004) Expert Opin Investig Drugs 13:1−19)。転移過程の重要な段階であると明らかになった遊走および浸潤の機構を調査することについて、関心が高まっている。転移カスケードを阻止するための、これらの段階のいずれか一つでの干渉は、転移性腫瘍成長の形成を阻害する魅力的なアプローチを提供する。
【背景技術】
【0002】
我々の従来のデータから、口蹄疫ウイルス(FMDV)の組換えカプシドタンパク質VP1(rVP1)が、インテグリンシグナル経路を介して数種類の癌細胞においてアポトーシスを誘導したことが示された(Peng JMら (2004) J. Biol. Chem. 279:52168−74)。rVP1を水溶性型へとリフォールドする(refolding)ための同一の過程を使用して、球状ウシ血清アルブミン(G−BSA)が、rVP1のような、繊維状BSA(F−BSA)へ変換されることができ、インテグリン/FAK/Aktシグナル経路を介して腫瘍細胞のアポトーシスを誘導したことが発見された(Huangら (2009) BMC Biotechnol. 9:2)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
癌転移を抑制するための方法が提供される。癌転移は癌患者における治療の失敗および死の最大の原因である。腫瘍細胞の浸潤および/または遊走は、rVP1、F−HSAおよびF−BSAを制限なく含む繊維状タンパク質と腫瘍細胞を接触させた後、著しく阻害される。対象の腫瘍細胞には、癌(carcinoma)、例えば乳癌、卵巣の上皮性腺癌、前立腺腺癌等が含まれる。
【課題を解決するための手段】
【0004】
一の実施態様において、本発明は、例えば腫瘍細胞の抑制、転移の抑制等のための、癌を患っている哺乳類の治療における使用のための、治療有効量の繊維状ヒト血清アルブミンおよび医薬上許容される担体を含む組成物に関する。
【発明の効果】
【0005】
本発明のいくつかの実施形態において、腫瘍細胞はインビボで繊維状タンパク質と接触させられ、その接触は局所性、例えば腫瘍内導入もしくは腫瘍内注射、または全身性である。例えばrVP1は、マウスおよびヒト乳癌転移ならびにヒト前立腺癌転移および卵巣癌転移をインビボで著しく抑制することが本明細書において示される。F−HSAは乳癌転移を著しく抑制することが示される。一の実施形態において、本発明は、哺乳類における癌の治療における使用のための上述のような組成物であって、癌が乳癌、卵巣癌、子宮頸癌、前立腺癌および肺癌から選択される少なくとも一つである、組成物に関する。
【0006】
本発明のいくつかの実施形態において、抗癌転移治療としての繊維状タンパク質の組成物であって、転移を阻害するために効果的な量の医薬製剤を提供する組成物が提供される。別の実施態様において、本発明は、癌を患っている患者の治療における使用のための組成物の生産を含む方法に関する。前記方法は、繊維状ヒト血清アルブミンを製造すること、および繊維状ヒト血清アルブミンおよび医薬上許容される担体を混合することを含む。別の実施態様において、本発明は、SDS溶液へHSAを溶解すること;溶解したHSAを分子量70kDa以上のタンパク質を分離するための細孔径を備えるゲル濾過カラムへ注ぐこと;カラムからHSAを溶出すること;およびSDSを除去するためにリン酸緩衝生理食塩水で溶液を透析すること、を含む方法に関する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】MDA−MB−231細胞、PC−3細胞、および22Rv1細胞における細胞浸潤/遊走および細胞毒性へのrVP1の効果。(AおよびB)24時間のrVP1処理でのMDA−MB−231細胞、PC−3細胞、および22Rv1細胞の細胞浸潤/遊走を、ボイデンチャンバーアッセイを使用することによって測定した。rVP1は腫瘍細胞の浸潤/遊走を著しく抑制した。(C)24時間のrVP1処理でのMDA−MB−231細胞、PC−3細胞、および22Rv1細胞の細胞毒性を、MTTアッセイを使用することによって測定した。0.1μMおよび0.2μMのrVP1は腫瘍細胞生存能力(cell viability)に影響を及ぼさなかった。データは平均±S.D.(n=3)を表す。*:P<0.05、**:P<0.01および***:P<0.001は対照(0μMのrVP1処理)に対する。
【0008】
【図2】SK−OV−3細胞およびCaSki細胞における細胞浸潤および細胞毒性へのrVP1の効果。(A)24時間のrVP1処理でのSK−OV−3細胞およびCaSki細胞の細胞浸潤を、ボイデンチャンバーアッセイを使用することによって測定した。rVP1は腫瘍細胞の浸潤を著しく抑制した。(B)SK−OV−3細胞およびCaSki細胞の細胞毒性を、MTTアッセイを使用することによって測定した。SKOV−3細胞において0.2μMから0.4μMのrVP1、およびCaSki細胞において0.2μMから0.6μMのrVP1は、細胞生存能力に影響を及ぼさなかった。白い棒グラフ、SKOV−3細胞;黒い棒グラフ、CaSki細胞。データは平均±S.D.(n=3)を表す。*:P<0.05、**:P<0.01および***:P<0.001。
【0009】
【図3】SK−OV−3ip.1細胞における細胞浸潤および細胞毒性へのrVP1の効果。(A)SK−OV−3ip.1細胞は1時間上部チャンバーへ蒔かれ、続いて24時間rVP1処理がなされた。インキュベーションの後、下層膜表面からの細胞が分離され、計測された。(B)24時間rVP1でSK−OV−3ip.1細胞を処理し、その後WST−1アッセイを行った。細胞生存率は450nm(対象として690nm)での吸光度を測定することによって決定した。細胞生存の百分率は(O.D処理/O.D対照)×100%として計算された。データは平均±S.D.(n=3)を表す。*:P<0.05および**:P<0.01は対照に対する。
【0010】
【図4】インビボでMDA−MB−231細胞の転移能はrVP1処理後に失われた。24時間インビトロで0.1μMおよび0.2μMのrVP−1処理されたMDA−MB231細胞は、その後回収され、尾静脈を介してマウスにおいて静脈内に注射された。14日後、犠死(sacrifice)が行われた。マウスの3つの異なる群における肺の肉眼的形態(A)および組織病理学的実験(BおよびC)が測定された。rVP1はMDA−MB−231細胞の転移能を著しく阻害した。***:P<0.001。
【0011】
【図5】rPV1はリンパ節へ転移したPC−3細胞を抑制し、骨盤骨における骨溶解を阻害した。(A)rVP1処理有りまたは無しの正常マウスおよび担癌マウスのリンパ節。(B)rVP1処理有りまたは無しの正常マウスおよび担癌マウスの骨盤骨(矢印)。
【0012】
【図6】インビボでSK−OV−3移植ヌードマウス由来肝臓腫瘍転移の組織学的所見はrVP1によって防止された。rVP1処理および無処理マウスからのH&E染色での代表的な肝臓切片。BALB/cAnN−Foxn1メスヌードマウスは、腹腔内注射によってマウス当たり5×106のSK−OV−3癌細胞を移植された。(a−b)60日後、PBS処理SK−OV−3を有するマウス由来の肝臓は腫瘍細胞によって包囲された。(c−d)SK−OV−3移植後340日、rVP1処理されたマウス由来の肝臓は明らかな浸潤を示さなかった。(e−f)正常マウス由来の肝臓(すなわち、SK−OV−3移植無し)。
【0013】
【図7】MDA−MB−231細胞、PC−3細胞、22Rv1細胞、およびCaSki細胞における、細胞遊走、浸潤および細胞毒性へのF−HSAの効果。ボイデンチャンバーアッセイを使用することによる、インビトロでの遊走および浸潤アッセイにおいて、F−HSAは、MDA−MB−231細胞(A)、PC−3細胞(C)、22Rv1細胞(E)、およびCaSki細胞(G)における細胞浸潤(黒い棒グラフ)および遊走(白い棒グラフ)を著しく阻害した。MTTアッセイを使用することによる、MDA−MB−231細胞、PC−3細胞、22Rv1細胞、およびCaSki細胞における細胞毒性へのF−HSAの効果。(B、D、FおよびH)。浸潤および遊走は、処理された細胞数の無処理の細胞数への百分率として表された。各々において3つの反復を有する3つの独立した実験の平均±S.D.(n=3)が示された。**:P<0.01および***:P<0.001は無処理細胞に対する。
【0014】
【図8】インビボでF−HSAはTS/A腫瘍細胞転移を抑制した。(A)F−HSA処理有りまたは無しのマウス由来の肺の肉眼的形態および組織病理学的実験。(BおよびC)関連する肺重量(related lung weight)およびF−HSA処理有りまたは無しのマウス由来の肺における腫瘍巣の数。***:P<0.001。
【0015】
【図9】インビボでF−HSAはMDA−MB−231細胞の転移を抑制した。(A)F−HSA処理有りまたは無しのマウス由来の肺の肉眼的形態および組織病理学的実験。(BおよびC)関連する肺重量およびF−HSA処理有りまたは無しのマウス由来の肺における腫瘍巣の数。***:P<0.001。
【0016】
【図10】CaSki細胞における細胞浸潤および細胞毒性へのF−BSAの効果。(A)24時間F−BSAで処理されたCaSki細胞の細胞浸潤を、ボイデンチャンバーアッセイを使用することによって測定した。F−HSAは腫瘍細胞の浸潤を著しく抑制した。(B)24時間F−BSAで処理されたCaSki細胞の細胞毒性を、MTTアッセイによって測定した。0.1μMまたは0.2μMの濃度でのF−HSAはCaSki細胞の細胞生存能力に影響を及ぼさなかった。データは平均±S.D.(n=3)を表す。*:P<0.05、**:P<0.01。
【0017】
【図11】rVP1処理を伴う腫瘍移植のスケジュール。
【0018】
【図12】図12は、20μMのアミロイド特異的色素ThTを加えて1時間インキュベート後の、濃度を上げたF−HSA、HSAおよびAβ(1−42)の蛍光レベルの比較を示す実験データの実施態様(implementation)である。
【0019】
【図13】図13は、乳癌細胞へのF−HSAの細胞毒性効果を示す実験データの実施態様である。
【0020】
【図14】図14は、乳癌細胞へのF−HSAの細胞毒性効果を示す実験データの実施態様である。
【0021】
【図15】図15は、卵巣細胞へのF−HSAの細胞毒性効果を示す実験データの実施態様である。
【0022】
【図16】図16は、子宮頸癌細胞へのF−HSAの細胞毒性効果を示す実験データの実施態様である。
【0023】
【図17】図17は、前立腺癌細胞へのF−HSAの細胞毒性効果を示す実験データの実施態様である。
【0024】
【図18】図18は、前立腺癌細胞へのF−HSAの細胞毒性効果を示す実験データの実施態様である。
【0025】
【図19】図19は、肺癌細胞へのF−HSAの細胞毒性効果を示す実験データの実施態様である。
【0026】
【図20】図20A−20Hは、正常細胞の生存能力へ影響することの無い、腫瘍細胞の遊走および浸潤の減少におけるF−HSAの効果を示す実験データの実施態様である。
【0027】
【図21】図21A−21Cは、マウス乳癌TS/A細胞の肺への転移の抑制におけるF−HSAの効果を示す実験データの実施態様である。
【0028】
【図22】図22A−22Cは、マウス乳癌MDA−MB−231細胞の肺への転移の抑制におけるF−HSAの効果を示す実験データの実施態様である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
定義
以下の記載において、細胞培養の分野において通常使用される多数の用語が広く利用される。明細書および請求項、ならびにかかる用語に与えられる範囲の明白で一貫性のある理解を与えるために、以下の定義が提供される。
【0030】
「対象」、「個体」および「患者」という用語は、本明細書において区別無く、治療のために評価されるほ乳類および/または治療されたほ乳類を指す。ある実施形態において、ほ乳類はヒトである。「対象」、「個体」および「患者」という用語はそれゆえ、癌組織(例えば、癌性の結腸直腸組織)を除去するための切除術(外科手術)を行った、あるいはその候補である個体を含む、癌(例えば、結腸直腸癌、卵巣腺癌もしくは前立腺腺癌、乳癌等)を患っている個体を包含する。対象はヒトであってもよく、他の動物、特に、例えばマウス、ラット等、ヒト疾患のための実験モデルとして有用なほ乳類もまた含む。
【0031】
本明細書において用いる場合、「治療」、「治療する」等の用語は、ある効果を得る目的のために、薬剤を投与すること、または処置(例えば、放射線照射、外科的処置等)を施すことを指す。効果は、疾患もしくはその症状を完全にもしくは部分的に予防するという観点から予防的であってもよく、かつ/または、疾患および/またはその疾患の症状のための部分的なもしくは完全な治癒を達成するという観点から治療的であってもよい。「治療」は、本明細書において用いる場合、ほ乳類、特にヒトにおけるあらゆる転移性腫瘍のあらゆる治療を包含し、かつ:(a)(例えば、原発性疾患に関連する、もしくは原発性疾患によって引き起こされる疾患を含む)疾患にかかりやすくなっているが、まだその疾患を患っていると診断されていない対象において、疾患もしくは疾患の症状を未然に防ぐこと;(b)疾患を阻害すること、すなわち、その発達を停止させること;および(c)疾患を緩和すること、すなわち疾患の軽減を引き起こすこと、を含む。腫瘍(例えば、癌)治療において、治療薬は直接的に腫瘍細胞の転移を減少させることができる。
【0032】
「細胞培養」または「培養」という用語は、人工的なインビトロ環境における細胞の維持を意味する。しかしながら、「細胞培養」という用語は一般名称であって、個々の細胞だけではなく組織もしくは臓器の培養を包含するために使用され得ると理解されるべきである。
【0033】
「腫瘍」という用語は、本明細書において用いる場合、悪性であるか良性であるかに関わらず全ての新生物性の細胞成長および増殖、ならびに全ての前癌状態および癌状態の細胞および組織を指す。
【0034】
「癌」、「新生物」および「腫瘍」という用語は、本明細書において区別無く、細胞増殖に対する制御の著しい減少によって特徴づけられる異常な成長の表現型を示すような、自律的で無秩序な増殖を示す細胞を指す。一般に、本願における検出、解析、分類または治療のための対象の細胞は、前癌状態の(例えば良性の)、悪性の、前転移性の、転移性の、あるいは非転移性の細胞を含む。癌の例は、乳癌、結腸癌、肺癌、前立腺癌、肝細胞癌、胃癌、膵臓癌、子宮頸癌、卵巣癌、肝臓癌、膀胱癌、尿路癌、甲状腺癌、腎臓癌、上皮性悪性腫瘍(carcinoma)、黒色腫、頭部および頸部癌、ならびに脳腫瘍を含むが、これらに限定されるものではない。
【0035】
癌の性質に依存して、適切な患者試料が得られる。本明細書において用いる場合、「癌性組織試料」という語句は、癌性腫瘍から得られた任意の細胞を指す。転移しなかった固形腫瘍の場合、外科的に除去された腫瘍から組織試料が典型的に得られ、従来技術により試験のために調製されるだろう。あるいは、リンパ液、血液あるいは血清試料などの体液試料、または癌性臓器滲出液(例えば、胸部からの滲出液)などの滲出液が回収され、解析するための試料として使用されてもよい。白血病の場合、リンパ球または白血病細胞が得られ、適切に調製されるだろう。同様に、任意の転移性腫瘍の場合、細胞は、リンパ液、血液、血清または遠位に感染した臓器もしくはそれらの滲出液などの体液試料から得てもよい。
【0036】
本明細書において用いる場合、「転移」という用語は、最初の癌性腫瘍の臓器とは直結されていない臓器もしくは体の一部分における癌性腫瘍の成長を指す。転移は、最初の癌性腫瘍の臓器とは直結されていない臓器もしくは体の一部分における、検出できない量の癌性細胞の存在である微少転移も含むと理解される。転移はまた、最初の腫瘍部位からの癌細胞の離脱(departure)、および体の他の部分への癌細胞の遊走および/または浸潤などの、過程のいくつかの段階として定義することができる。それゆえ本発明は、最初の癌性腫瘍の臓器とは直結されていない臓器もしくは体の一部分における一以上の癌性腫瘍のさらなる成長の危険性、および/またはその成長へつながる過程における任意の段階を決定する方法を企図する。
【0037】
癌の「病状」は患者のウェルビーイング(well−being)を含む全ての現象を含む。これは、制限なく、異常もしくは制御不能な細胞増殖、転移、隣接細胞の正常機能への干渉、異常なレベルでのサイトカインもしくは他の分泌産物の放出、炎症性反応もしくは免疫反応の抑制もしくは激化、新生物(neoplasia)、前悪性腫瘍(premalignancy)、悪性腫瘍(malignancy)、リンパ節などの周囲のもしくは離れた組織もしくは臓器への浸潤、等を含む。
【0038】
本明細書において用いる場合、「癌の再発」および「腫瘍の再発」という用語ならびにそれらの文法的な変形は、癌の診断の後の、新生物性細胞または癌性細胞のさらなる増殖を指す。特に、再発はその癌性組織においてさらなる癌性細胞の増殖が起こるときに起こり得る。「腫瘍拡散」は同様に、腫瘍の細胞が局所的または遠位の組織および臓器へ広まる時に起こり;それゆえ、腫瘍拡散は腫瘍転移を引き起こす。
【0039】
「診断」という用語は本明細書において、乳癌、前立腺癌、または他種の癌の分子サブタイプの同定などの、分子状態もしくは病理学的状態、疾患または状態の同定を指すために使用される。
【0040】
「予後」という用語は本明細書において、肺癌、結腸癌、皮膚癌あるいは食道癌などの腫瘍性疾患の、再発、転移拡散および薬物耐性を含む、癌に起因する死あるいは進行の可能性の予測を指すために使用される。「予測」という用語は本明細書において、所見、経験または科学的推論に基づいて、予告するまたは評価する行為を指すために使用される。一例において、医師は、癌再発のない一定期間のための原発腫瘍の外科的除去および/または化学療法に続いて、患者が生存する可能性を予測することができる。
【0041】
本明細書において用いる場合、「無病生存」という語句は、患者の寿命への癌の影響に関して、かかる腫瘍の再発および/または拡散の欠如、および診断後の患者の運命を指す。「全生存」という語句は、患者における死因が直接的に癌の影響に起因しないという可能性があるにも関わらず、診断後の患者の運命を指す。「無病生存の可能性」、「再発のリスク」という語句およびそれらの変形は、本発明の方法に従って決定された、癌の診断の後の患者における腫瘍の再発または拡散の確率を指す。
【0042】
本明細書において用いる場合、「相関する」、「と相関する」という用語および同等の用語は、数、データセット等を含む、二つの事象の事例の間の統計的な関連性を指す。例えば、事象が数に関わる場合、正の相関(本明細書において「直接相関」ともいう)は、一方が増加するに従って他方も同様に増加することを意味する。負の相関(本明細書において「逆相関」ともいう)は、一方が増加するに従って他方が減少することを意味する。
【0043】
「単離された」という用語は、自然界においてそれに付随する成分の全てあるいはいくつかから、化合物が分離されることを意味するように意図される。「単離された」はまた、製造(例えば化学合成、組換え発現、細胞培養等)の間に、それに付随する成分の全てあるいはいくつかから分離された化合物(例えばタンパク質)の状態を指す。
【0044】
「生体試料」は個体から得られる様々な試料型を包含する。この定義は、血液ならびに生体起源の他の液体試料、生検材料などの固形組織試料、またはそれら由来の組織培養もしくは細胞およびそれらの子孫を包含する。この定義はまた、それらの入手後、試薬での処理;洗浄;または癌細胞などの特定の細胞集団のための濃縮(enrichment)などによって、何らかの操作をされた試料も含む。この定義はまた、特定の種類の分子、例えば核酸、ポリペプチド等のために濃縮された試料も含む。「生体試料」という用語は臨床試料を包含し、また外科的切除によって得られた組織、生検によって得られた組織、培養細胞、細胞上清、細胞溶解物、組織試料、臓器、骨髄、血液、血漿、血清等も含む。「生体試料」は、患者の癌細胞から得られた試料、例えば患者の癌細胞から得られたポリヌクレオチドおよび/またはポリペプチドを含む試料(例えばポリヌクレオチドおよび/またはポリペプチドを含む細胞上清または他の細胞抽出物);および患者からの癌細胞を含む試料を含む。患者からの癌細胞を含む生体試料は、非癌性細胞も含むことができる。
【0045】
具体的な実施形態の説明
本開示は、繊維状タンパク質を製造する方法および繊維状タンパク質を使用する治療方法に関する。前記治療方法は癌転移の抑制に関する。
【0046】
治療方法
癌転移を阻害するために、ある方法が本明細書において開示される。前記方法は、繊維状構造タンパク質の治療有効量を、必要とされる患者に投与することを含む。前記方法はさらに、タンパク質を供給する段階、および繊維状タンパク質の投与に先立ってタンパク質を繊維状構造へと変化させる段階を含みうる。繊維状タンパク質の投与は、腫瘍細胞の(例えば周囲の組織への)浸潤および/または遊走を阻害する。
【0047】
本方法は、ほ乳類対象における、特にヒトにおける、(癌予防および診断後の癌治療を含む)様々な癌治療における使用を見出す。腫瘍を有している、腫瘍を有している疑いのある、または、腫瘍発達の恐れがある対象は、本明細書において記載される治療を考慮される。
【0048】
本方法による抗癌治療は、特に、転移性または転移性になる危険性の高い癌性細胞を対象とする。このため、繊維状タンパク質は、他の組織における癌細胞の接着および浸潤に作用/予防するために治療的に使用されうる。
【0049】
例えば、本開示の方法によって阻害されうる癌転移は、腺癌(adenocarcinoma)を含む癌(carcinoma)、および、特に乳癌、前立腺腺癌ならびに卵巣腺癌を含むが、これらに限定されるものではない。治療されうる他の転移は、腎臓、肺、肝臓、皮膚(例えば黒色腫)、結腸、膵臓または頚部における癌性増殖から生じるものを含む。
【0050】
癌を治療するために使用される繊維状構造タンパク質は、アルブミン、フィブロネクチン、rVP1、rVP2、rVP3、P1またはVP1、VP2、VP3および/またはVP4からの一部分を含むキメラタンパク質であってもよい。アルブミンタンパク質は任意の対象の動物から得ることができる、例えばヒト血清アルブミン、ウシ血清アルブミン等。ある実施形態において、繊維状タンパク質はさらにAktシグナル経路を調節することによって癌細胞のアポトーシスを誘導する。いくつかの事例において、繊維状タンパク質は、Aktの失活を引き起こすインテグリンα5β1またはαvβ3を調節する。他の事例において、繊維状アルブミンはインテグリンへ結合し、FAK/Akt/GSK−3β/カスパーゼ−3経路を主に介して細胞のアポトーシスを引き起こす。
【0051】
上記で述べたように、本方法は、例えば癌性細胞の浸潤および遊走を抑制するために、繊維状タンパク質を対象(例えばヒト患者)へ投与することに関する。これは、繊維状タンパク質を投与されていない対象と比較して、癌の転移における減少を提供するために、本明細書において記載されるように、繊維状タンパク質を対象へ投与することによって達成されうる。本方法による治療は、再発の予防、癌細胞の遊走の減少、腫瘍サイズの減少、腫瘍細胞量(tumor load)の減少、および/または患者における臨床成績(clinical outcome)の改善、においてもまた有益でありうる。
【0052】
癌の種類
本明細書において企図される癌に関する方法は、例えば、抗癌転移治療としての繊維状タンパク質治療の使用を含む。前記方法は、転移することができる癌(例えば上皮性悪性腫瘍(carcinoma)および肉腫(sarcoma))などの、多種多様の癌を治療するまたは予防する局面において有益である。
【0053】
本明細書において開示される方法によって治療可能な上皮性悪性腫瘍(carcinoma)は、食道癌、肝細胞癌、基底細胞癌(皮膚癌の一種)、扁平上皮癌(様々な組織)、移行上皮癌(膀胱の悪性新生物) を含む膀胱癌、気管支癌、結腸癌、結腸直腸癌、胃癌、肺の小細胞癌および非小細胞癌を含む肺癌、副腎皮質癌、甲状腺癌、膵臓癌、乳癌、卵巣癌、前立腺癌、腺癌、汗腺癌、皮脂腺癌、乳頭癌、乳頭腺癌、嚢胞腺癌、髄様癌、腎細胞癌、非浸潤性乳管癌あるいは胆管癌、絨毛癌、精上皮腫、胎生期癌、ウィルムス腫瘍、子宮頚癌、子宮癌、精巣癌、骨原性癌(osteogenic carcinoma)、上皮癌および鼻咽頭癌を含むが、これらに限定されるものではない。
【0054】
本明細書において開示される方法によって治療可能な肉腫(sarcoma)は、繊維肉腫、粘液肉腫、脂肪肉腫、軟骨肉腫、脊索腫、骨原性肉種(osteogenic sarcoma)、骨肉腫(osteosarcoma)、血管肉腫、内皮肉腫、リンパ管肉腫、リンパ管内皮肉腫、滑膜腫、中皮腫、ユーイング肉腫、平滑筋肉腫、横紋筋肉腫および他の軟部組織肉腫を含むが、これらに限定されるものではない。
【0055】
本明細書において開示される方法によって治療可能な他の固形腫瘍は、神経膠腫、星状細胞腫、髄芽細胞腫、頭蓋咽頭腫、上衣腫、松果体腫、血管芽細胞腫、聴神経腫、乏突起膠腫、髄膜腫、黒色腫、神経芽細胞腫および網膜芽細胞腫を含むが、これらに限定されるものではない。
【0056】
本明細書において開示される方法に従って治療可能な他の癌は、異型性髄膜腫(脳)、島細胞癌(膵臓)、髄様癌(甲状腺)、間葉腫 (腸)、肝細胞癌(肝臓)、肝芽腫(肝臓)、明細胞癌(腎臓)および神経繊維腫縦隔(neurofibroma mediastinum)を含む。
【0057】
本明細書において開示される方法を使用する治療によって治療可能なさらなる例示的な癌は、神経外胚葉起源および上皮性起源の癌を含むが、これらに限定されるものではない。神経外胚葉起源の癌の例は、ユーイング肉腫、脊髄腫瘍、脳腫瘍、幼年期のテント上原始神経外胚葉性腫瘍(supratenbrial primative neuroectodermal tumors)、管状嚢胞性癌(tubulocystic carcinoma)、粘液管状紡錘細胞癌(mucinous tubular and spindle cell carcinoma)腎腫瘍、縦隔腫瘍、神経膠腫(neurogliomas)、神経芽細胞腫および若者および若年成人における肉腫を含むが、これらに限定されるものではない。上皮性起源の癌の例は、小細胞肺癌、乳房、眼水晶体(eye lens)、結腸、膵臓、腎臓、肝臓、卵巣および気管支上皮の癌を含むが、これらに限定されるものではない。
【0058】
他の癌治療との組み合わせ
繊維状タンパク質の治療的投与には、免疫療法、化学療法剤および外科手術(例えばさらに以下に記載されるようなもの)を含むが、これらに限定されるものではない、さらなる標準的な抗癌治療と併用しても併用しなくてもよい、治療計画の一部分としての投与が含まれる。
【0059】
さらに、繊維状タンパク質の治療的投与はまた、例えば、外科手術、放射線治療、化学療法剤の投与等である抗癌治療での、対象の治療後の処置でありうる。本開示の繊維状タンパク質を使用する癌治療は、免疫療法との組み合わせでも使用することができる。他の例において、繊維状タンパク質は、一以上の化学療法剤(例えばシクロフォスファミド、ドキソルビシン、ビンクリスチンおよびプレドニゾン(CHOP))との組み合わせ、および/または放射線治療との組み合わせおよび/または外科的介入(例えば、腫瘍を除去するための前−または後−外科手術)との組み合わせで投与することができる。繊維状タンパク質が外科的介入との組み合わせで投与される時、繊維状タンパク質は、癌性細胞の除去のための外科手術に先立って、同時に、または後に、投与することができ、全身的に、または手術部位で局所的に投与することができる。繊維状タンパク質単独または上記の組み合わせは、全身的に(例えば、非経口投与によって、例えば、静脈内注射によって)、または局所的に(例えば、局所腫瘍部位で、例えば腫瘍内投与(例えば、固形腫瘍内へ、リンパ腫または白血病において関係するリンパ節内へ)、固形腫瘍を供給する血管内への投与等によって)、投与することができる。
【0060】
任意の多種多様の抗癌治療が、本明細書において記載される繊維状タンパク質治療との組み合わせにおいて使用されうる。そのような癌治療は、外科手術(例えば癌性組織の外科的除去)、放射線治療、骨髄移植、化学療法、生体応答調節剤療法(biological response modifier treatment)および前述の特定の組み合わせを含む。
【0061】
放射線療法は、光線などの外部から適用される線源から、または小さな放射性線源の移植による、いずれかで送達されるX線またはガンマ線を含むが、これらに限定されるものではない。
【0062】
化学療法剤は、癌細胞の増殖を減少させる非ペプチド性(すなわち、非タンパク質性)の化合物であり、細胞毒性薬および細胞増殖抑制剤を包含する。化学療法剤の非限定的実施例は、アルキル化剤、ニトロソウレア、代謝拮抗剤、抗腫瘍性抗生物質、植物(ビンカ)アルカロイドおよびステロイドホルモンを含む。
【0063】
細胞増殖を減少させるように作用する薬剤は技術分野において知られており、広く使用されている。そのような薬剤は、メクロレタミン、シクロフォスファミド(サイトキサン商標)、メルファラン(L−サルコリシン)、カルムスチン(BCNU)、ロムスチン(CCNU)、セムスチン(メチル−CCNU)、ストレプトゾシン、クロロゾトシン、ウラシルマスタード、クロルメチン、イフォスファミド、クロラムブシル、ピポブロマン、トリエチレンメラミン、トリエチレンチオホスホルアミン、ブスルファン、ダカルバジンおよびテモゾロマイドを含むが、これらに限定されるものではない、ナイトロジェンマスタード、ニトロソウレア、エチレンイミン誘導体、アルキルスルホン酸およびトリアゼンなどのアルキル化剤を含む。
【0064】
代謝拮抗剤は、シタラビン(CYTOSAR−U)、シトシンアラビノシド、フルオロウラシル(5−FU)、フロクスウリジン(FudR)、6−チオグアニン、6−メルカプトプリン(6−MP)、ペントスタチン、5−フルオロウラシル(5−FU)、メトトレキサート、10−プロパルギル−5,8−ジデアザ葉酸(PDDF、CB3717)、5,8−ジデアザテトラヒドロ葉酸(DDATHF)、ロイコボリン、リン酸フルダラビン、ペントスタチンおよびゲムシタビンを含むが、これらに限定されるものではない、葉酸アナログ、ピリミジンアナログ、プリンアナログおよびアデノシンデアミナーゼ阻害剤を含む。
【0065】
適した天然物およびそれらの誘導体(例えば、ビンカアルカロイド、抗腫瘍性抗生物質、酵素、リンホカイン、およびエピポドフィロトキシン)は、アラ−C、パクリタキセル(タキソール登録商標)、ドセタキセル(タキソテール登録商標)、デオキシコホルマイシン、マイトマイシンC、L−アスパラギナーゼ、アザチオプリン;ブレキナール;アルカロイド、例えばビンクリスチン、ビンブラスチン、ビノレルビン、ビンデシン等;ポドフィロトキシン、例えばエトポシド、テニポシド等;抗生物質、例えばアントラサイクリン、塩酸ダウノルビシン(ダウノマイシン、ルビドマイシン、セルビジン)、イダルビシン、ドキソルビシン、エピルビシンおよびモルフォリノ誘導体等;フェノキシゾンビスシクロペプチド、例えばダクチノマイシン;塩基性糖ペプチド、例えばブレオマイシン;アントラキノン配糖体、例えばプリカマイシン(ミトラマイシン);アントラセンジオン、例えば、ミトキサントロン;アジリノピロロインドールジオン、例えば、マイトマイシン;大環状免疫抑制薬、例えば、シクロスポリン、FK−506(タクロリムス、プログラフ)、ラパマイシン等;等を含むが、これらに限定されるものではない。
【0066】
他の抗増殖性細胞毒性薬は、ナベルベン、CPT−11、アナストラゾール、レトラゾール、カペシタビン、レロキサフィン、シクロフォスファミド、イフォスファミド、およびドロロキサフィンである。
【0067】
抗増殖性活性を有する微小管作用薬もまた使用に適し、アロコルヒチン(NSC 406042)、ハリコンドリンB(NSC 609395)、コルヒチン(NSC 757)、コルヒチン誘導体(例えば、NSC 33410)、ドルスタチン 10(NSC 376128)、メイタンシン(NSC 153858)、リゾキシン(NSC 332598)、パクリタキセル(タキソール登録商標)、タキソール登録商標誘導体、ドセタキセル(タキソテール登録商標)、チオコルヒチン(NSC 361792)、トリチルシステリン(trityl cysterin)、硫酸ビンブラスチン、硫酸ビンクリスチン、エポチロンA、エポチロンB、ディスコデルモリドを含むが、これらに限定されるものではない天然および合成エポチロン;エストラムスチン、ノコダゾール等を含むが、これらに限定されるものではない。
【0068】
使用に適したホルモン調節物質および(合成アナログを含む)ステロイドは、アドレノコルチコステロイド、例えば、プレドニゾン、デキサメタゾン等;エストロゲンおよびプレゲスチン、例えば、カプロン酸ヒドロキシプロゲステロン、酢酸メドロキシプロゲステロン、酢酸メゲストロール、エストラジオール、クロミフェン、タモキシフェン;等;ならびに副腎皮質抑制薬、例えば、アミノグルテチミド;17α−エチニルエストラジオール;ジエチルスチルベストロール、テストステロン、フルオキシメステロン、プロピオン酸ドロモスタノロン、テストラクトン、メチルプレドニゾロン、メチル-テストステロン、プレドニゾロン、トリアムシノロン、クロロトリアニセン、ヒドロキシプロゲステロン、アミノグルテチミド、エストラムスチン、酢酸メドロキシプロゲステロン、ロイプロリド、フルタミド(ドロゲニル)、トレミフェン(フェアストン)、およびゾラデックス登録商標を含むが、これらに限定されるものではない。エストロゲンは、増殖および分化を刺激し、そのため、エストロゲン受容体に結合する化合物が本活性を遮断するために使用される。コルチコステロイドは、T細胞増殖を阻害しうる。
【0069】
他の化学療法剤は、金属複合体、例えば、シスプラチン(シス−DDP)、カルボプラチン等;尿素、例えば、ヒドロキシ尿素;およびヒドラジン、例えば、N−メチルヒドラジン;エピドフィロトキシン;トポイソメラーゼ阻害剤;プロカルバジン;ミトキサントロン;ロイコボリン;テガフール;等を含む。他の対象の抗増殖薬は、免疫抑制薬、例えば、ミコフェノール酸、サリドマイド、デスオキシスパガリン、アザスポリン、レフルノミド、ミゾリビン、アザスピラン(SKF 105685);イレッサ登録商標(ZD 1839、4−(3−クロロ−4−フルオロフェニルアミノ)−7−メトキシ−6−(3−(4−モルホリニル)プロポキシ)キナゾリン);等を含む。
【0070】
「タキサン」は、パクリタキセル、および任意の活性タキサン誘導体またはプロドラッグを含む。(本明細書において、例えば、ドセタキセル、タキソール、タキソテール(ドセタキセルの製剤)、パクリタキセルの10−デスアセチルアナログ、およびパクリタキセルの3’N−デスベンゾイル−3’N−t−ブトキシカルボニルアナログなどのアナログ、製剤、および誘導体を含むように理解されるべきである)「パクリタキセル」は、当業者に公知である技術を利用して容易に調製されうる。
【0071】
パクリタキセルは、一般的な化学的に入手可能なパクリタキセルの形態だけでなく、アナログおよび誘導体(例えば、上記で言及されたようなタキソテール商標ドセタキセル)およびパクリタキセルコンジュゲート(例えば、パクリタキセル−PEG、パクリタキセル−デキストラン、またはパクリタキセル−キシロース)も指すと理解されるべきである。
【0072】
本開示の方法によるいくつかの個体の治療において、非悪性細胞のための救援薬(rescue agent)とともに高用量療法を用いることが望ましい。そのような治療において、シトロボラム因子、葉酸誘導体またはロイコボリンなどの、非悪性細胞を救援できる任意の薬剤を使用することができる。そのような救援薬は、当業者によく知られている。救援薬は、細胞機能を調節する本発明の化合物の能力を妨げないものを含む。
【0073】
繊維状タンパク質の投与
繊維状タンパク質の投与は、腫瘍内、静脈内、皮内、皮下、経口(例えば吸入)、経皮(例えば局所)、経粘膜、腹腔内、動脈内、および直腸投与を含む、体の異なる部分への様々な方法を介して達成することができる。他の適した経路は、経口的に、口腔に、経鼻的に、鼻咽頭に(nasopharyngeally)、非経口的に、経腸的に、胃に(gastrically)、局所的に、経皮的に、皮下に、筋肉内に、錠剤、固体、粉末状、液体、エアゾールの形状で、腫瘍中への病巣内注射、腫瘍に隣接する病巣内注射、静脈内注入および動脈内注入での、組成物の投与を含む。投与は、局所的または全身的にされてもよく、賦形剤を添加してもしなくてもよい。投与はまた、対象の腫瘍部位で、または腫瘍部位の周りで、徐放性様式(slow release mode)で行うことができる。
【0074】
当業者は、本開示の製剤を、対象または宿主、例えば必要とされる患者へ投与する様々な適した方法が利用できること、および、特定の製剤を投与するために一以上の経路が使用できるが、ある特定の経路が別の経路よりもより即効性かつより効果的な反応を提供できることを、十分理解するであろう。
【0075】
「治療有効量」という語句は、任意の治療法に適用できる妥当な便益/危険比(benefit/risk ratio)で、いくつかの所望の効果を生じる量を指す。有効量は、治療される疾患および状態、投与される特定の標的化された構築体(targeted constructs)、対象の大きさ、または疾患および状態の重篤度などの因子に依存して変動してもよい。当業者は、特定の化合物の有効量を、必要以上の実験を必要とせずに、経験的に決定することができるだろう。
【0076】
例示的な実施態様によると、タンパク質が、以下、より詳細に記載される組成物の一部分として投与されうる。組成物は、粉末、クリーム、ゲル、軟膏、膏薬、溶液、錠剤、カプセル、スプレーおよびパッチを含む様々な形状であってもよい。媒体および担体が患者への組成物の送達のために使用されてもよい。そのような担体は、可溶化剤、希釈剤および分散媒(dispersion media)を含む。これらの担体は、生体適合性であり、医薬上許容され、繊維状タンパク質の治療特性を変えない。賦形剤、アジュバント、および他の成分もまた組成物中に含まれてもよい。
【0077】
用量
本方法において、繊維状タンパク質の有効量が、必要とされる患者に投与される。とりわけ、特に重要な繊維状タンパク質は、繊維状タンパク質が治療有効量で投与される時、宿主において癌の転移を阻害するものである。投与される量は、投与の目標、治療される個体の健康状態および身体状態、年齢、治療される個体の分類群(例えば、ヒト、ヒト以外霊長類、霊長類、等)、所望の解消度(degree of resolution)、繊維状タンパク質組成物の製剤、治療する臨床医の医学的状況の評価、および他の関連する要因に依存して変動する。量は、ルーチンの試験を通して決定することができる比較的広い範囲に収まる(fall)ことが予想される。例えば、癌転移を阻害するために採用される繊維状タンパク質の量は、対象にとって不可逆的に毒性となりかねない量(すなわち、最大耐量)より多くない。他の場合、量は、毒性閾値の近くまたはそれを十分に下回るが、まだ免疫効果的濃度範囲にあるか、または閾値用量程度に低い。
【0078】
個別の量は、典型的には、対象に対する測定可能な効果を生じるために必要とされる量以上であり、繊維状タンパク質またはその副産物の吸収、分布、代謝および排泄(「ADME」)に関する薬物動態および薬効薬理に基づいて、それゆえ、対象内での組成物の体内動態に基づいて、決定することができる。これは、投与経路ならびに(主として局所効果のために作用が望まれる部位に直接適用される) 局所適用、(消化管の一部に保持されているときに全身または局所効果を得るために消化管を経て適用する)経腸適用、または、(全身的効果あるいは局所効果のために消化管以外の経路によって適用される)非経口適用について調整することができる投与量の考慮を含む。例えば、繊維状タンパク質の投与は典型的には注射を介し、多くの場合、静脈内、筋肉内、腫瘍内またはそれらの組み合わせである。
【0079】
繊維状タンパク質は点滴(infusion)によって、または局所注射によって投与することができ、例えば、約75mg/時から約375mg/時、約100mg/時から約350mg/時、約150mg/時から約350mg/時、約200mg/時から約300mg/時、約225mg/時から約275mg/時を含む、約50mg/時から約400mg/時の速度での点滴による。点滴の例示速度は、例えば、約1mg/m2/日から約9mg/m2/日、約2mg/m2/日から約8mg/m2/日、約3mg/m2/日から約7mg/m2/日、約4mg/m2/日から約6mg/m2/日、約4.5mg/m2/日から約5.5mg/m2/日を含む、約0.5mg/m2/日から約10mg/m2/日の所望の治療量を達成することができる。(例えば、点滴による)投与は所望の期間の間、例えば、約1日から約5日の間、または数日、例えば約5日、おきに1回、約1ヶ月を超えて、約2ヶ月を超えて、等、繰り返すことができる。また、癌性細胞の除去のための外科的介入などの他の治療的介入の前に、同時に、後に、投与することもできる。繊維状タンパク質は、少なくとも一つの免疫療法、癌化学療法、または放射線治療が対象へ行われる、組み合わせ治療の一部分として投与することもできる(より詳細は以下に記載される通り)。
【0080】
繊維状タンパク質の体内動態およびそれに対応する対象内での生物活性は、典型的に、対象の標的で存在している繊維状タンパク質の画分(fraction)に対して測定される。例えば、一度投与された繊維状タンパク質は、癌細胞および癌性組織において物質を蓄積させる糖複合体またはその他の生物標的と共に蓄積することができる。それゆえ、対象の標的内で徐々に蓄積するように繊維状タンパク質を投与する投与計画(dosing regimen)は、より少ない個別量を可能にさせるための戦略の一部分となりうる。これはまた、例えば、インビボでより緩やかに除去される(cleared)繊維状タンパク質の量を、インビトロアッセイから計算される有効濃度に比べて低くすることができる、ということも意味している(例えば、インビトロでの有効量はmM濃度に近く、インビボではmM濃度より低い)。
【0081】
一例として、用量または投与計画の有効量は、細胞遊走を阻害することに対する提供される繊維状タンパク質のIC50から判断されうる。「IC50」によって、インビトロでの50%の阻害のために必要とされる薬剤の濃度が意図される。あるいは、有効量は提供される繊維状タンパク質のEC50から判断されうる。「EC50」によって、インビボで最大効果の50%を得るために必要とされる血漿濃度が意図される。関連する実施形態において、用量はED50(有効薬量)に基づいて決定されてもよい。
【0082】
一般的に、本開示の繊維状タンパク質に関して、有効量は通常計算されたIC50の200×以下である。典型的に、投与される繊維状タンパク質の量は、計算されたIC50より、約200×より少なく、約150×より少なく、約100×より少なく、および、多くの実施形態は、約75×より少なく、約60×、50×、45×、40×、35×、30×、25×、20×、15×、10×より少なく、および、約8×または2×より少なくさえある。一の実施形態において、有効量は、計算されたIC50の約1×から50×であり、かつ、時として、計算されたIC50の約2×から40×、約3×から30×または約4×から20×である。他の実施形態において、有効量は計算されたIC50と同じであり、特定の実施形態において、有効量は計算されたIC50よりも多い量である。
【0083】
有効量は計算されたEC50の100×以下であってもよい。例えば、投与される繊維状タンパク質の量は、計算されたEC50より、約100×より少なく、約50×より少なく、約40×、35×、30×、または25×より少なく、および、多くの実施形態は、約20×より少なく、約15×より少なく、および約10×、9×、8×、7×、6×、5×、4×、3×、2×もしくは1×より少なくさえある。有効量は計算されたEC50の約1×から30×であってもよく、時として、計算されたEC50の約1×から20×、または約1×から10×であってもよい。有効量は計算されたEC50と同じであり、または計算されたEC50よりも多い量である。IC50はインビトロでの細胞遊走/浸潤を阻害することによって計算することができる。その方法は、技術分野において知られている方法または以下の実施例において記載される通りに実行される。
【0084】
用量および/または投与計画の有効量は、アッセイから、安全性試験および漸増(escalation)試験および用量設定試験、個々の臨床医−患者信頼関係、ならびに本明細書において記載され、以下の実施例の項で示されるようなインビトロおよびインビボアッセイから、実験的に容易に決定することができる。例えば、マウスにおいて本方法を実行するために使用される濃度は、マウスの体重に基づき、約1mg/kgから約25mg/kgの範囲である。このデータに基づき、ヒトにおいて採用されうる繊維状タンパク質の濃度は、約0.083mg/kgから約2.08mg/kgの範囲である。他の量は、技術分野において知られている方法を使用する動物モデルでの実験から決定することができる(Reagan−Shawら、(2007) The FASEB Journal 22:659−661)。
【0085】
医薬製剤
上述の治療方法において採用される繊維状タンパク質を含有する医薬組成物もまた提供される。「繊維状タンパク質組成物」という用語は、便宜上、本開示の繊維状タンパク質を含む組成物、コンジュゲート化繊維状タンパク質を含む組成物、またはその両方を総称的に指すために、本明細書において使用される。癌細胞の成長および/または転移の抑制に有益な組成物は以下に記載される。
【0086】
繊維状タンパク質組成物、例えば医薬上許容される塩の形状、は、上述の通り、経口、局所、または非経口投与のために製剤化されうる。ある実施形態において、例えば、繊維状タンパク質が(静脈内または直接的に組織内へ投与される実施態様において、など)液体注射剤として投与される場合、繊維状タンパク質組成物はすぐに使用できる剤形として、または、医薬上許容される担体および賦形剤から構成される再構成可能な保存安定性の粉末もしくは液体として、提供される。
【0087】
対象(例えば、ヒト対象)への投与のために適した繊維状タンパク質を生産する方法が以下、および出典明示によりその開示が組み込まれる、米国特許公開第2008/0300186号において記載される。繊維状タンパク質を製剤化する例示方法は、繊維状タンパク質の有効量および、薬学的賦形剤(例えば、生理食塩水)を含有する医薬組成物に関する。医薬組成物は任意に他の添加剤(例えば、バッファー、安定化剤、保存剤、等)を含有してもよい。繊維状タンパク質の有効量は癌転移(例えば癌の遊走/浸潤)の減少を提供するための効果的な量でありうる。治療目標(例えば、腫瘍細胞量の減少および/または腫瘍性成長の限局(confinement))は、様々な投与計画の下、単回投与もしくは複数回投与によって達成されうる。
【0088】
医薬製剤における繊維状タンパク質の濃度は、約0.1重量%未満、通常は約2重量%もしくは少なくとも約2重量%から、20重量%から50重量%以上へと変動させることができ、選択された投与の特定の様式および患者の要求に従って、第一に液量、粘度等により、選択されるであろう。得られる組成物は、溶液、懸濁液、錠剤、ピル、カプセル、粉末、ゲル、クリーム、ローション、膏薬、エアゾール等の形状であってもよい。非経口投与可能な組成物の調製のための実際の方法は、当業者に周知または自明であり、Remington’s Pharmaceutical Science, 18th ed., Mack Publishing Company, NY (1995)などの刊行物に、より詳細に記載されている。
【0089】
本開示の別の実施態様によると、繊維状HSAが、さらなる活性薬剤、担体、媒体、賦形剤または本発明を読んだ上で当業者が特定できる助剤と共に、医薬組成物または栄養組成物(nutraceutical compositions)に含有される。
【0090】
医薬組成物または栄養組成物は、好ましくは少なくとも一つの医薬上許容される担体を含む。そのような医薬組成物において、繊維状HSAまたは繊維状HSAの同等形態(equivalent forms)の「活性化合物」もまた、「活性薬剤」と呼ばれる。本明細書において用いる場合、「医薬上許容される担体」という用語は、薬剤投与に適合する、溶剤、分散媒、コーティング、抗菌薬および抗真菌薬、等張化剤および吸収遅延剤等を含む。補助的活性化合物もまた組成物へ組み込まれうる。医薬組成物は、意図される投与経路に適合するように製剤化される。投与経路の例は、非経口、例えば静脈内、皮内、皮下、経口(例えば、吸入)、経皮(局所)、経粘膜、および直腸投与を含む。非経口、皮内または皮下適用に使用される溶液または懸濁液は、以下の成分:注射用水などの無菌の希釈剤、食塩水、固定油、ポリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、または他の合成溶媒;ベンジルアルコールまたはメチルパラベンなどの抗菌剤;アスコルビン酸または亜硫酸ナトリウムなどの酸化防止剤;エチレンジアミン四酢酸などのキレート剤;酢酸塩、クエン酸塩あるいはリン酸塩などのバッファー、および塩化ナトリウムまたはデキストロースなどの等張化剤、を含むことができる。pHは、塩酸または水酸化ナトリウムなどの酸または塩基で調整することができる。非経口製剤は、アンプル、使い捨てシリンジ、またはガラスあるいはプラスチックで作られた複数回投与用バイアル内に封入することができる。
【0091】
注射用途のために適した医薬組成物は、(水溶性の)無菌水溶液または分散液および、無菌の注射用溶液または分散液の即時調製のための無菌粉末を含む。静脈内投与のための、適した担体は、生理学的食塩水、静菌性の水、Cremophor商標 EL (BASF, Parsippany, N.J.)またはリン酸緩衝生理食塩水(PBS)を含む。全ての場合において、組成物は無菌的でなくてはならず、容易な注射針通過性(syringability)が存在する程度にまで流動性であるべきである。それは、製造条件および保存条件下で安定していなければならず、細菌および真菌などの微生物の汚染(contaminating)作用から保護されていなければならない。担体は、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、および液体ポリエチレングリコール、等)およびそれらの適した混合物を含む、溶媒または分散媒であってもよい。適切な流動性は、例えば、レクチンなどのコーティングの使用により、分散液の場合には必要な粒子サイズの維持により、およびサーファクタント(surfactant)の使用により、維持できる。微生物の活動の阻止は、様々な抗菌薬および抗真菌薬、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、アスコルビン酸、チメロサール等によって達成することができる。実施形態によると、組成物中に等張剤、例えば、糖、マンニトール、ソルビトールなどのポリアルコール、塩化ナトリウムが添加される。注射用組成物の持続的吸収は、吸収遅延剤、例えば、モノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチンを組成物中に含むことによってもたらされる。
【0092】
無菌の注射用溶液は、単独または上に列挙される成分との組み合わせで、適切な溶媒に必要とされる量の活性化合物を組み込むことによって、必要であれば続いて濾過滅菌して、調製することができる。一般的に、分散液は、基本的な分散媒および上に列挙されるものから必要とされる他の成分を含む、無菌の媒体中へ活性化合物を組み込むことにより調製される。無菌の注射用溶液の調製のための無菌粉末の場合、調製物は、あらかじめ無菌−濾過されたその溶液から、有効成分(active ingredient)および任意の追加的な所望の成分の粉末を得る、真空乾燥または凍結乾燥によって調製される。
【0093】
経口的に投与される場合、繊維状タンパク質は消化から保護されるべきであると認識される。これは、典型的に、繊維状タンパク質を酸加水分解および酵素的加水分解へ耐性の状態にする組成物との複合体にすること、またはリポソームなどの適切に耐性である担体内へパッケージングすることのいずれかによって達成される。消化から対象の化合物を保護する手段は、技術分野において周知である。
【0094】
経口組成物は一般的に、不活性希釈剤または食用の担体を含む。経口治療的投与の目的のために、活性化合物を賦形剤と共に組み込むことができ、錠剤、トローチ、またはカプセル、例えばゼラチンカプセルの形状で使用することができる。経口組成物はまた、口内洗浄液としての使用のため液体担体を使用して調製することができる。医薬適合性(pharmaceutically compatible)結合剤、またはアジュバント物質は組成物の一部分として含むことができる。錠剤、ピル、カプセル、トローチ等は以下の成分または同様の性質の化合物:微結晶セルロース、トラガカントガム、もしくはゼラチンなどの結合剤;デンプンもしくは乳糖などの賦形剤;アルギン酸、プリモゲル(Primogel)、もしくはコーンスターチなどの崩壊剤;ステアリン酸マグネシウムもしくはステロート(Sterote)などの滑沢剤;コロイド状二酸化ケイ素などの流動促進剤;ショ糖もしくはサッカリンなどの甘味剤;またはペパーミント、サリチル酸メチル、もしくはイチゴ、サクランボ、ブドウ、レモンあるいはオレンジのフレーバーなどの着香剤(flavoring agent)、のいずれかを含有することができる。
【0095】
吸入による投与のため、化合物は、適した噴射剤、例えば二酸化炭素などのガス、を含有する加圧容器もしくはディスペンサー、またはネブライザー(nebulizer)からの、エアゾールスプレーの形状で送達される。
【0096】
血中半減期を増強するために、注射される繊維状タンパク質製剤はまた、カプセルに包まれ、リポソームの内腔へ導入され、コロイドとして調製され、ペグ化されてもよく(Greenwaldら (2003) Advanced Drug Delivery Rev. 55:217−250; Pasutら (2004) Expert Opin. Ther. Patents 14:859−894)、また延長した血中半減期を提供する他の従来技術が採用されてもよい。様々な方法が、例えば、Szokaら (1980) Ann. Rev. Biophys. Bioeng. 9:467、米国特許第4,235,871号、第4,501,728号および第4,837,028号に記載されるように、リポソームを調製するために利用できる。製剤は、混合物または連続的な方法として繊維状タンパク質組成物の放出および投与のために制御放出あるいは徐放性の形状で、提供されてもよい。
【0097】
実施態様によると、硝子体内注射は、PLGAベースのマイクロ粒子またはナノ粒子(リポソーム)を使用して達成される。PEGベースの形状もまた使用できる。従って、注射用医薬組成物のための他の方法は、硝子体内注射のため特に企図される。
【0098】
全身性投与はまた、経粘膜的または経皮的にすることができる。経粘膜投与または経皮投与について、透過されるバリアに適した浸透剤が製剤中で使用される。そのような浸透剤は技術分野において一般的に知られており、例えば、経粘膜投与の場合、界面活性剤、胆汁酸塩、およびフシジン酸誘導体を含む。経粘膜投与は鼻腔用スプレーまたは坐薬を介して達成されうる。経皮投与のため、活性化合物は、技術分野において一般に知られているように、膏薬、軟膏、ゲル、又はクリームに配合される。化合物はまた、直腸送達のため、(例えば、ココアバターおよび他のグリセリドなどの従来の坐薬基剤と共に)坐薬または滞留性浣腸剤(retention enemas)の形状で調製されてもよい。
【0099】
他の送達の形状に加えて、化合物は点眼薬または眼内注射を介して送達可能である。点眼薬に関して、本開示の組成物は、必要に応じて、目または鼻への局所適用向きの一以上の賦形剤を含む。溶液またはスプレーなどの、目への局所適用向きの医薬組成物において一般的に使用される賦形剤は、等張化剤、保存剤、キレート剤、緩衝剤、サーファクタント、および酸化防止剤を含むが、これらに限定されるものではない。適した張度調整剤(tonicity−adjusting agent)は、マンニトール、塩化ナトリウム、グリセリン、ソルビトール等を含む。適した保存剤は、パラヒドロキシ安息香酸エステル、塩化ベンザルコニウム、臭化ベンゾドデシニウム、ポリクアテルニウム−1(polyquaternium−1)等を含む。適したキレート剤はエデト酸ナトリウム等を含む。適した緩衝剤は、リン酸塩、ホウ酸塩、クエン酸塩、酢酸塩等を含む。適したサーファクタントはイオン性サーファクタントまたは非イオン性サーファクタントを含むが、ポリソルベート、ポリエトキシル化ヒマシ油誘導体およびオキシエチル化ターシャリーオクチルフェノールホルムアルデヒドポリマー(チロキサポール)などの非イオン性界面活性剤が好ましい。適した酸化防止剤は、亜硫酸塩、アスコルビン酸塩、BHAおよびBHTを含む。本開示の組成物は、必要に応じて、さらなる活性薬剤を含む。保存剤の成分(例えば、ポリクオタニウム−1)を除いて、本開示の組成物は、好ましくは、ポリビニルピロリドンまたはポリスチレンスルホン酸以外のいずれのポリマー成分も含まない。
【0100】
本開示の組成物がポリビニルピロリドンを含む場合、このポリビニルピロリドン成分は、好ましくは、過酸化物含有量を最小にするように選択されるかまたは処理される。新たに生産されたポリビニルピロリドンのバッチは、古いバッチより好ましい。さらに、特に組成物が0.5%より多くのポリビニルピロリドンを含む場合、ポリビニルピロリドン成分は、ポリビニルピロリドン成分中の過酸化物の量を減らし、オロパタジン(olopatadine)の化学的安定性に対する過酸化物の影響を最小にするために、オロパタジンと混合する前に、熱処理される(すなわち、室温より高い温度に加熱される)べきである。ポリビニルピロリドンの水溶液を、長期の期間、熱処理することは、過酸化物の量を実質的に減少させる一方、ポリビニルピロリドン溶液の変色(黄色から黄褐色)を導きうる。ポリビニルピロリドン溶液の変色を伴わずに過酸化物を実質的に減少させるかまたは除去するために、ポリビニルピロリドンの水溶液のpHは、熱に供される前に、pH11−13に調整されるべきである。ポリビニルピロリドン溶液のpHが上昇された場合、過酸化物レベルの有意な減少を達成するために、非常により短い加熱時間しか必要でない。
【0101】
ポリビニルピロリドン成分を熱処理する一つの適した方法は以下の通りである。第一に、ポリビニルピロリドン成分を精製水に溶解して4−6%溶液を作製し、次いで、この溶液のpHをpH11−13(効果的なpHの範囲は11−11.5)に上昇させ、次いで、60−121℃、好ましくは65−80℃、最も好ましくは70−75℃の範囲内の温度に加熱する。上昇された温度は、約30−120分間(好ましくは30分間)維持されるべきである。加熱された溶液が室温まで冷えた後、オロパタジン組成物に対する標的pHに依存して、HClを添加してpHを3.5−8に調整する。
【0102】
特に、点眼薬として投与されることが意図される組成物について、この組成物は、好ましくは、最終組成物が目に受容可能な浸透圧(一般的に150−450mOsm、好ましくは250−350mOsm)を有するために、十分な量の張度調整剤(tonicity−adjusting agent)を含有する。本開示の眼用組成物は、4−8のpH、好ましくは6.5−7.5のpH、最も好ましくは6.8−7.2のpHを有する。
【0103】
本開示の点眼薬組成物は、好ましくは、不透明なプラスチック容器に詰められる。眼用製品について好ましい容器は、γ線照射の代わりにエチレンオキシドを使用して滅菌された低密度ポリエチレン容器である。
【0104】
眼科用注射剤(ophthalmic injectables)に関して、この発明の医薬組成物は結膜下投与によって治療が必要とされる領域へ投与される。目への結膜下投与の一つの好ましい方法は、本明細書において開示されている医薬組成物を含む注射製剤による。結膜下投与の別の好ましい方法は、徐放性組成物を含む移植による。
【0105】
結膜下へ投与される組成物は、実施態様によると、結膜下投与のための活性薬剤を含む眼科用デポ製剤(ophthalmic depot formulations)を含む。実施態様によると、眼科用デポ製剤は本質的に純粋な(essentially pure)活性薬剤のマイクロ粒子を含む。含んでいるマイクロ粒子は、生体適合性の医薬上許容されるポリマーまたは脂質封入剤内に包埋することができる。デポ製剤は、長期間にわたって全部または実質上全部の活性物質を放出するために採用することができる。ポリマーまたは脂質マトリックスは、もし存在するのであれば、全部または実質上全部の活性物質の放出の後、投与部位から輸送されるのに十分分解するために採用されてもよい。デポ製剤は、医薬上許容されるポリマーおよび溶解または分散された活性薬剤を含む液体製剤であってもよい。注射の際、例えば、ゲル化(gelifying)または沈殿によって、ポリマーは注射部位に貯留(depot)を形成する。
【0106】
眼内移植へ適した固形物(solid article)はまた、ポリマーを含むそのような型に設計することができ、生体内分解性または生体内非分解性でありうる。本開示の組成物を運ぶ眼内移植の製剤において使用される生体内分解性のポリマーは、ポリ(グリコライド)、ポリ(ラクチド)、ポリ(ε−カプロラクトン)、ポリ(ヒドロキシ酪酸)、およびポリ(ヒドロキシ吉草酸)のポリマーおよびコポリマー(共重合体)などの脂肪族ポリエステル、ポリアミノ酸、ポリオルトエステル、ポリ酸無水物、脂肪族ポリカーボネートおよびポリエーテルラクトンを、制限無く含む。適した生体内非分解性ポリマーの事例はシリコンエラストマーである。
【0107】
実施形態によると、活性薬剤は、移植およびマイクロカプセル化送達システムを含む、制御放出製剤などの、身体からの急速な除去に対して化合物を保護する担体と調製される。エチレン酢酸ビニル、ポリ酸無水物、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリオルトエステル、およびポリ乳酸などの、生分解性、生体適合性のポリマーが使用されうる。そのような製剤の調製方法は当業者にとって明らかであろう。材料はまた、Alza CorporationおよびNova Pharmaceuticals, Inc.から市販で得ることができる。(細胞特異的抗原へのモノクローナル抗体を備え感染細胞に標的化されたリポソームを含む)リポソーム懸濁液もまた、医薬上許容される担体として使用することができる。
【0108】
繊維状タンパク質は単一の医薬品製剤(single pharmaceutical formulation)として投与されうる。それはまた、他の適した化合物および担体を含み、他の活性薬剤と組み合わせて使用することができる別の薬剤の有効量と共に投与されてもよい。本開示はそれゆえ、医薬上許容される賦形剤を含む医薬組成物もまた含む。
【0109】
医薬上許容される賦形剤は、例えば、任意の適した媒体、アジュバント、担体または希釈剤を含み、一般に容易に入手できる。本開示の医薬組成物はまたさらに、技術分野において周知である他の活性薬剤を含むことができる。医薬上許容される賦形剤は、当業者にとって周知であり、容易に入手できる。
【0110】
例えば、繊維状タンパク質組成物は、従来の医薬上許容される担体および賦形剤(すなわち媒体)と混ぜることができ、水溶液、錠剤、カプセル、エリキシル剤、懸濁液、シロップ、ウェハ、パッチ等の形状で使用できるが、通常、繊維状タンパク質は注射剤として提供される。医薬組成物は、コーンスターチまたはゼラチン、乳糖、デキストロース、ショ糖、微結晶セルロース、カオリン、マンニトール、リン酸二カルシウム、塩化ナトリウム、およびアルギン酸などの一般的な担体および賦形剤を含むことができる。製剤中で一般に使用される崩壊剤(disintegrator)は、クロスカルメロース、微結晶セルロース、コーンスターチ、デンプングリコール酸ナトリウム、およびアルギン酸を含む。保存剤等も含まれうる。これらの各成分は技術分野において周知である。そのような医薬組成物は、特定の実施態様において、約0.1重量%から約90重量%の活性薬剤を、より一般的には約1重量%から約30重量%の活性薬剤を含有する。その開示が出典明示により本明細書に組み込まれる、米国特許第5,985,310号を参照されたい。
【0111】
繊維状タンパク質組成物は、水溶液、多くの場合、食塩水、などの溶液である医薬上許容される賦形剤中で提供されてもよく、または粉末形状で提供されてもよい。繊維状タンパク質組成物は、医薬品グレードのマンニトール、乳糖、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、サッカリンナトリウム、タルカム(talcum)、セルロース、ブドウ糖、ショ糖、マグネシウム、炭酸塩等の他の成分を含むことができる。組成物は、生理的状態に近づくように、pH調整剤およびpH緩衝剤、毒性調整剤等、例えば、酢酸ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、乳酸ナトリウム等、などの医薬上許容される補助物質を含むことができる。
【0112】
賦形剤の選択は、組成物を投与するために使用される特定の方法によって、および、特定の化合物によって、決定される部分があるだろう。従って、本開示の医薬組成物の適した製剤は多種多様にある。以下の方法および賦形剤は単に例示的にすぎず、決して限定されるものではない。
【0113】
液体組成物は一般的に、懸濁剤、保存剤、サーファクタント、湿潤剤、着香剤(flavoring agent)または着色剤を備える、適した液体担体、例えば、エタノール、グリセリン、ソルビトール、ポリエチレングリコールなどの非水溶性溶媒、油、または水における、化合物または医薬上許容される塩の懸濁液または溶液から構成される。あるいは、液体製剤は再構成可能な粉末(reconstitutable powder)から調製することができる。
【0114】
非経口投与に適した製剤には、酸化防止剤、バッファー、静菌薬、および対象とする受容者(recipient)の血液と製剤とを等張にする溶質を含有することができ、水溶性および非水溶性の等張無菌注射溶液、および、懸濁剤、可溶化剤、増粘剤、安定化剤、および保存剤を含むことができる、水溶性および非水溶性の無菌懸濁液が含まれる。製剤は、アンプルおよびバイアルなどの単位用量または複数回用量の気密容器で提供することができ、使用直前に注射のため、無菌液体賦形剤、例えば水、の添加のみを必要とするフリーズドライ(凍結乾燥)状態で保存することができる。即時注射(extemporaneous injection)溶液または懸濁液は、上述した種類の無菌粉末、顆粒、および錠剤から調製することができる。
【0115】
非経口的に与えられた際に活性である本開示の繊維状タンパク質およびそれらの医薬上許容される塩は、筋肉内、くも膜下、または静脈内投与のために製剤化されうる。筋肉内投与またはくも膜下投与のための典型的な組成物は、油、例えば、ラッカセイ油またはゴマ油、中の有効成分の懸濁液または溶液である。静脈内投与またはくも膜下投与のための典型的な組成物は、例えば、有効成分およびデキストロースもしくは塩化ナトリウム、またはデキストロースおよび塩化ナトリウムの混合物を含有する無菌等張水溶液である。他の例は、乳酸リンゲル液、デキストロース加乳酸リンゲル液、ノルモゾルM(Normosol−M)およびデキストロース、イソライトE(Isolyte E)、アシル化リンゲル液等である。任意に、例えばポリエチレングリコールのような共溶媒;例えばエチレンジアミン四酢酸のようなキレート剤、および、例えばメタ重亜硫酸ナトリウムのような酸化防止剤が、製剤中に含まれてもよい。あるいは、溶液は凍結乾燥され、次いで投与直前に適切な溶媒で再構成されうる。
【0116】
直腸投与で活性のある本開示の繊維状タンパク質およびそれらの医薬上許容される塩は、坐薬として製剤化されうる。典型的な坐薬製剤は、一般的に、ゼラチン、ココアバターまたは他の低融点植物性あるいは合成のろうあるいは油などの結合剤および/または滑沢剤(lubricating agent)と共に構成される。
【0117】
局所投与で活性のある本開示の繊維状タンパク質およびそれらの医薬上許容される塩は、経皮組成物または経皮送達デバイス(「パッチ」)として製剤化されうる。そのような組成物は、例えば、支持体(backing)、活性化合物保持体(reservoir)、制御膜、裏地(liner)、および付着接触体(contach adhesive)を含む。そのような経皮パッチは、制御された量で本開示の化合物の連続または不連続な注入を提供するために使用することができる。医薬品の送達のための経皮パッチの構造および使用は技術分野においてよく知られている。例えば、全体として出典明示により本明細書に組み込まれる米国特許第5,023,252号を参照されたい。そのようなパッチは、連続した、パルス状の、または必要に応じた、医薬品の送達のために構成されてもよい。
【0118】
本開示の製剤は、吸入を介して投与されるためのエアゾール製剤にすることができる。これらのエアゾール製剤は、ジクロロジフルオロメタン、プロパン、窒素等の圧縮可能な噴射剤(pressurized acceptable propellant)に収められてもよい。それらはまた、ネブライザー(nebulizer)またはアトマイザー(atomizer)で使用するためなどの、非圧縮調整のための医薬品として処方されてもよい。
【0119】
局所投与のために適した製剤は、有効成分に加えて、適していると技術分野において知られているような担体を含む、クリーム、ゲル、ペースト、または泡として提供されてもよい。
【0120】
坐薬製剤はまた、乳化基剤または水溶性基剤などの様々な基剤との混合によって提供されてもよい。膣内投与に適した製剤は、ペッサリー、タンポン、クリーム、ゲル、ペースト、泡として提供されてもよい。
【0121】
シロップ、エリキシル剤、および懸濁液などの経口投与または直腸投与のための単位剤形(unit dosage form)が提供されてもよく、各投与量単位、例えば、小さじ1杯、大さじ1杯、錠剤または坐薬、は一以上の繊維状タンパク質を含有する組成物の所定量を含む。同様に、注射または静脈内投与のための単位剤形は、無菌水、生理食塩水、または別の医薬上許容される担体中の溶液としての組成物中に繊維状タンパク質を含むことができる。
【0122】
用語「単位剤形(unit dosage form)」は、本明細書において用いる場合、ヒトおよび動物対象のための単一の投薬量として適している物理的に個別の単位を指し、各単位は、薬学的に許容される希釈剤、担体または媒体を伴って、所望の効果を生じるために十分な量で計算された所定量の本開示の化合物を含む。本開示の新規の単位剤形のための仕様は、採用される特定の化合物および達成されるべき効果、宿主における各化合物に関連する薬物動態に依存する。
【0123】
当業者は、具体的な繊維状タンパク質の機能、送達媒体の性質等のように服用レベルを変動できることを、容易に理解するであろう。与えられる化合物のための適した用量は、様々な手段によって当業者により容易に決定されうる。
【0124】
そのような化合物の毒性および治療効果は、例えば、LD50(母集団の50%へ致死的な量)およびED50(母集団の50%において治療効果的な量)を決定するための、細胞培養または実験動物における標準的な薬学的手法によって決定することができる。毒性および治療効果の間の投与量比は治療指数であり、LD50/ED50比として表すことができる。高い治療指数を示す化合物が好ましい。中毒性副作用を示す化合物は使用できる一方で、非感染細胞への予想される傷害を最小限に抑え、それによって副作用を軽減するために、かかる化合物を罹患組織部位へ標的化する送達システムを設計するよう注意すべきである。
【0125】
細胞培養アッセイおよび動物実験から得られるデータは、ヒトにおける使用のための用量範囲の定式化において使用されうる。そのような化合物の用量は、好ましくは毒性をほとんど有さないか、全く有さないでED50を含む血中濃度の範囲内にある。用量は、採用される剤形および利用される投与経路に依存して、この範囲内で変動しうる。本開示の方法で使用される任意の化合物いずれに対しても、治療有効量は最初、細胞培養アッセイから見積もられる。用量は、細胞培養において決定されるようにIC50(すなわち、症状の阻害が最大値の半分に達するときの試験化合物の濃度)を含む循環血漿濃度の範囲を達成するよう、動物モデルにおいて定式化してもよい。そのような情報は、ヒトにおける有益な用量をより正確に決定するために使用されうる。血漿中のレベルは、例えば高速液体クロマトグラフィーによって測定することができる。
【0126】
「有効量」という用語は、本発明の方法において使用される際、妥当な便益/危険比(benefit/risk ratio)に相応する、(毒性、刺激およびアレルギー反応などの)過度の副作用の無い、検出可能な治療効果を示すのに十分な、生物活性分子またはコンジュゲートまたはそれらの誘導体の量を指す。治療効果は、例えば、癌細胞へは実質的に毒性であるが、普通の細胞(natural cell)へはより低い毒性であることを含むが、これらに限定されるものではない。対象に対する有効量は、対象の種類、対象の大きさおよび健康状態、治療される状態の性質および重篤度、投与方法、治療期間、(もしあれば)同時に行われている治療の性質、採用される特定の製剤等に依存するであろう。それゆえ、予め正確な有効量を特定することはできない。しかしながら、与えられた状況に対する有効量は、本明細書において提供される情報に基づき、所定の実験を使用して、当業者によって決定されうる。
【0127】
繊維状タンパク質を作製する方法
本開示によると、繊維状タンパク質を投与することにより癌転移を治療するため、方法が開示される。繊維状タンパク質は自然発生的であり、それ自体、上述の治療方法における使用のため、技術分野において知られた方法を使用して単離されうる。繊維状タンパク質は、技術分野において知られた任意の方法、例えば、球状タンパク質構造を繊維状タンパク質構造へと変化することによって、人工的に作製することもできる。一例を挙げれば、タンパク質の繊維化は、その開示が出典明示により本明細書に組み込まれる、米国特許出願公開第2008/0800186号において開示されるように、フィブリル種(fibrl seed)の補助無しでの工程によって誘導することができる。この工程は、制御の容易性、生産物の均一性、及びスケールアップの実現可能性を含む利点を有する。さらに、タンパク質の繊維化は、フィブリル種で補助することなくこの工程によって誘導することができる。微量のタンパク質でさえ、この工程へ適用できるだろう。本明細書において用いる場合、「タンパク質」は、一以上のタンパク質、タンパク質フラグメント、ポリペプチドまたはペプチドを含む。タンパク質は、合成タンパク質および自然発生的なタンパク質の両方を含む。
【0128】
米国特許出願公開第2008/0800186号において以前に開示された方法によると、微量のタンパク質でさえ、この工程へ適用できるだろう。本明細書において用いる場合、「タンパク質」は、一以上のタンパク質、タンパク質フラグメント、ポリペプチドまたはペプチドを含む。タンパク質は、合成タンパク質および自然発生的なタンパク質の両方を含む。前記方法はその配列に関わらず、単純且つ迅速な方法で、天然タンパク質を繊維形状に変換するために使用することができる。前記方法は、界面活性剤を含む溶液中に球状タンパク質を溶解する段階、および分子量70kDa以上のタンパク質を分離することができる分子サイジングカラムへその溶液を注ぐ段階、ならびに界面活性剤を含む溶液でタンパク質を溶出する段階を含む。例示的な実施態様において、前記方法は、球状タンパク質を供給する段階、球状タンパク質を含有する溶液を調製する段階、球状タンパク質を含有する溶液に界面活性剤を加える段階、および、任意に低濃度の界面活性剤の存在下で、分子量70kDa以上のタンパク質を分離することができる細孔径を備える分子サイジングカラムに溶液を注ぐ段階を有する。
【0129】
球状タンパク質は、スフェロタンパク質(spheroprotein)としても知られており、二つの主なタンパク質の三次構造クラスの内の一つである。球状タンパク質は、一般的に可溶性であり、水中で球状の分子を形成する。これは、α−ヘリックス、β−シート、およびループ構造などの二次構造モチーフが混ざり合う複雑な二次構造をとる。もう一つの主なタンパク質の三次構造クラスは、繊維状タンパク質または線維状(fibrous)タンパク質である。繊維状タンパク質は、一般的には不溶性であり、細長い形状をとる。これらは、単純な二次構造をとり、多くの場合、ただ一種類の二次構造モチーフに基づいている。実施例において、球状タンパク質はアルブミン、例えばヒト血清アルブミン、フィブロネクチン等である。8M尿素で大腸菌の封入体から抽出された組換え変性(unfolded)タンパク質もまた使用され、例えば、口蹄疫ウイルスの組換カプシドタンパク質VP1(rVP1)、口蹄疫ウイルスの組換カプシドタンパク質VP2(rVP2)、口蹄疫ウイルスの組換カプシドタンパク質VP3(rVP3)、またはVP1、VP2、VP3及びVP4の前駆体タンパク質P1である。前記タンパク質は、VP1、VP2、VP3、および/またはVP4からの部分を含むキメラタンパク質、例えば、VP2とVP4の両方の部分を含むVP42であってもよい。自然発生的なタンパク質と合成オリゴペプチドの両方を含む、他の球状タンパク質(例えば、ウシ血清アルブミン)も使用することができる。
【0130】
サーファクタント(surfactant)は、ここでは界面活性剤とも言われ、水の表面張力をより低くし、有機化合物の溶解度を上げる物質である。界面活性剤は、カチオン性、アニオン性、及び両性界面活性剤を含むイオン性や、非イオン性であってもよい。界面活性剤は、タンパク質中の非共有結合を破壊し、その結果、タンパク質を変性させ、本来の形状または立体構造(conformation)を失わせる役割を担う。例示的な実施態様において、使用される界面活性剤は、Sigmaから入手したドデシル硫酸ナトリウム(SDS)である。他の例示的な実施態様において、使用される界面活性剤は、Calbiochemから入手したZwittergent 3−14である。
【0131】
アミロイドは、繊維状であるクロス−βタンパク質の凝集体である。多くのタンパク質は、繊維状の形態、原繊維構造、クロス−β回折パターン、β−構造の増加、コンゴーレッド結合、及びThT結合を含む特徴を有するアミロイド様の繊維に変換することが可能である。例示的な実施態様において、球状タンパク質をアミロイド様の繊維形状に変換し、変換されたタンパク質は、そのアミロイド様の特性によって同定することが可能になる。
【0132】
癌を治療するためのタンパク質は、疾患の重篤度および癌細胞に対する所望の細胞毒性に基づいて選択されてもよい。例示的な実施態様において、癌細胞へのより大きな細胞毒性のために選択される。繊維状タンパク質は、同じタンパク質型(type)または一以上、二以上、三以上の型(type)に由来することができる。例えば、上述の治療方法は、rVP1繊維状タンパク質および繊維状BSAを1回用量で一緒に、または個別に、投与することができる。
【0133】
実施態様によると、球状タンパク質構造を繊維状タンパク質構造に変換し、それらを分離する工程において、クロマトグラフィーを使用してもよい。一般的に、クロマトグラフィーは、カラムを使用することで成し遂げられるが、薄層クロマトグラフィーを使用するものなど、他の方法を使用することも可能である。クロマトグラフィー技術には、サイズ排除、アフィニティ、およびイオン交換が含まれる。繊維状タンパク質のバッチ式での生産も可能ではあるが、カラムを使用する工程は、迅速で、安定であり、効率的かつ連続的に球状タンパク質を繊維形状に変換することが可能である。この工程のスケールアップもカラムの使用で可能である。
【0134】
例示的な実施態様によると、少なくとも約70kDaのビーズ細孔径を有するサイズ排除クロマトグラフィーが使用される。使用されるビーズ細孔径は、球状タンパク質の様々な特徴、例えばそのサイズ、に基づいて変更させてもよい。細孔径はタンパク質がビーズマトリクスに入ることができるようにする役割を担い、それゆえ、タンパク質の変性(unfolding)/非変性(folding)に寄与し、繊維集合(fibrillogenic ensemble)を高める、機械的な力が引き起こされる。例示的な実施態様において、使用される分子サイジングカラムはスーパーデックス200(Superdex 200)である。他の例示的な実施態様において、使用される分子サイジングカラムはHW55Sである。
【0135】
カラムクロマトグラフィーのため、カラムを溶出させるために低濃度の界面活性剤を含むバッファーを使用してもよい。例示的な実施態様においては、分子サイジングカラムは、25mM Tris−HCL、pH8.0、1mM EDTA、0.1M NaCl、および0.05% SDSを含むバッファーで溶出される。他の例示的な実施態様において、分子サイジングカラムは、25mM Tris−HCL、pH8.0、1mM EDTA、0.1M NaCl、および0.05% Zwittergent 3−14を含むバッファーで溶出される。溶出液は画分として回収してもよく、繊維状タンパク質を含む画分はその後、一緒にしてプールしてもよい。プールした画分は、さらにフィルターを通して繊維状タンパク質を精製および単離、例えば、SDSまたはZwittergent 3−14を除去するためにPBSで透析されてもよい。
【0136】
実施態様によると、繊維状タンパク質を作製するため本明細書において開示される工程によって、ヒト血清アルブミン(HSA)を繊維状ヒト血清アルブミンにすることができる。実施態様によると、ヒト血清アルブミンは本明細書において開示される工程によって、繊維形状への変換が確認された。繊維状タンパク質の作製に関しては、米国特許第7,488,800号が出典明示により組み込まれる。
【0137】
繊維状HSA(F−HSA)は、様々な癌細胞におけるアポトーシスを引き起こすことにおいて、口蹄疫ウイルスの組換カプシドタンパク質VP1(rVP1)と同じくらい強力であることが、予期せず発見された。癌治療としてrVP1に代えてF−HSAを使用することの利点は、HSAがヒト内因性タンパク質ということである。それゆえ、HSAまたは類似の配列および組成を有する誘導体は、臨床応用の間に免疫原性や中和抗体を誘導する可能性が、rVP1などの異種タンパク質ほど高くはない。
【0138】
実施態様によると、F−HSAは、HSAを1% SDS溶液中に溶解すること、スーパーデックス200(Superdex 200)ゲル濾過カラムへ通すこと、および、25mM Tris−HCL(pH8.0)、1mM EDTA、0.1M NaCl、および0.05% SDSを含むバッファー溶液で溶出することによって生成された(図1)。SDSを除去するためのPBSでの透析後、HSAとは異なり、スーパーデックス200(Superdex 200)カラムから溶出されたF−HSAは、用量依存的様式で、アミロイド特異的色素ThTの増大した蛍光レベルを示すことが発見された。
【0139】
次いで、F−HSAが癌細胞における毒性を誘導することが発見された。球状血清アルブミンはそうではない一方、繊維状血清アルブミンは細胞表面上のインテグリンなどの受容体へ結合することができるので、球状から繊維形状への血清アルブミンの構造の変化は、タンパク質が、正常細胞よりもインテグリンα5β1をより発現している癌細胞を選択的に標的とすることができるようにさせた、と考えられている。F−HSAは、それぞれ、0.15μM(図13)および0.48μM(図14)のIC50で、TS/A(マウス乳腺腺癌)およびMDA−MB−231(ヒト乳腺腺癌)細胞を含み、用量依存的に乳癌細胞の成長を阻害した。F−HSAは、0.6μMのIC50で卵巣癌細胞SKOV3の成長を(図15)、および1.1μMのIC50で子宮頸癌細胞CaSkiの成長を(図16)阻害した。F−HSAはまた、それぞれ、0.35μM(図17)および0.2μM(図18)のIC50で、前立腺癌細胞PC−3および22Rv1において細胞毒性を誘導した。加えて、F−HSAは多数の肺癌細胞株において細胞毒性を誘導する(図19)。
【0140】
実施態様によると、それゆえ、癌を治療する方法が開示される。方法は、HSAを供給する段階、HSAを繊維状構造へ変化させる段階、F−HSAの治療有効量を、必要とされる患者に投与する段階を含む。HSAの繊維形状への変換は、標的細胞におけるその細胞毒性を増加させる。
【0141】
例示的な実施態様において、癌は、腎臓癌、乳癌、肺癌、前立腺癌、肝臓癌、子宮頸癌、または卵巣癌である。例示的な実施態様において、繊維状HSAはAktシグナル経路を調節することによる癌細胞のアポトーシスを誘導することに関与する。いくつかの例では、繊維状HSAは、Aktの失活をもたらすインテグリンα5β1またはαvβ3を調節する。他の例では、繊維状HSAはインテグリンへ結合し、主にインテグリン/FAK/Akt/GSK−3β/カスパーゼ−3経路を介する細胞アポトーシスを引き起こす。
【0142】
繊維状HSAタンパク質、誘導体、オルソログ、または癌治療に対してHSAと実質的な同一性を有する他のタンパク質は、疾患の重篤度および癌細胞に対する所望の細胞毒性に基づいて選択されてもよい。例示的な実施態様において、癌細胞へのより大きな細胞毒性のために、RGDモチーフを備えるタンパク質またはより大きな分子量を備えるタンパク質が選択される。RGDモチーフはインテグリンのリガンドである。繊維状タンパク質がインテグリン/Aktシグナル経路を介して細胞死を誘導したことが示されている。rVP1−S200およびFM−S200のようなRGDモチーフを備えるタンパク質は、BSA−S200およびrVP3−S200などのRGDモチーフを備えないタンパク質よりも、より細胞毒性が大きいことがわかっている。
【0143】
「変種」は、参照ポリヌクレオチドまたはポリペプチドとは異なるが、本質的な特性を保持するポリヌクレオチドまたはポリペプチドを指す。ポリヌクレオチドの典型的な変種は、ヌクレオチド配列において、別の、参照ポリヌクレオチドと異なる。変種のヌクレオチド配列における変化は、参照ポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチドのアミノ酸配列を変更してもよく、しなくてもよい。ヌクレオチドの変化は、本明細書において議論されるように、参照配列によってコードされるポリペプチドにおけるアミノ酸置換、付加、欠失、融合、および切断を引き起こす。
【0144】
ポリペプチドの典型的な変種は、アミノ酸配列において、別の、参照ポリペプチドと異なる。一般的に、相違点は、参照ポリペプチドおよび変種の配列が、全体で極めて類似し、かつ多くの領域において同一であるよう、限定される。変種および参照ポリペプチは、任意の組み合わせにおける一以上の置換、付加、または欠失によって、アミノ酸配列において異なる。置換または挿入されたアミノ酸残基は、遺伝暗号によってコードされるものであってもよく、そうでなくてもよい。ポリヌクレオチドまたはポリペプチドの変種は、対立遺伝子多型などの自然発生的なものであってもよく、自然発生的に起こることが知られていない変種であってもよい。ポリヌクレオチドまたはポリペプチドの非自然発生的変種は、変異技術によって、または直接合成によって作製することができる。
【0145】
「オルソログ」は、異なる種由来のポリペプチドまたはポリヌクレオチドの機能的対応物である、別の種から得られたポリペプチドまたはポリヌクレオチドを意味する。オルソログ間の配列差は種分化の結果である。
【0146】
本明細書において用いる場合、20の通常のアミノ酸およびそれらの略号は通常の使い方に従う。出典明示により本明細書に組み込まれるImmnology−A Synthesis(2nd Edition, E. S. GolubおよびD. R. Gren, Eds., Sinauer Associates, Sunderland, Mass. (1991))を参照されたい。20の通常のアミノ酸の立体異性体(例えば、D−アミノ酸)、α−,α−二置換アミノ酸などの非天然アミノ酸、N−アルキルアミノ酸、乳酸、および他の特殊アミノ酸(unconventional amino acids)もまた、本発明のポリペプチドのための適した成分となりうる。特殊アミノ酸の例には、4−ヒドロキシプロリン、γ−カルボキシグルタミン酸、ε−N,N,N−トリメチルリシン、ε−N−アセチルリシン、O−ホスホセリン、N−アセチルセリン、N−ホルミルメチオニン、3−メチルヒスチジン、5−ヒドロキシリシン、σ−N−メチルアルギニン、および他の類似したアミノ酸およびイミノ酸(例えば、4−ヒドロキシプロリン)が含まれる。本明細書で用いられるポリペプチドの表記法は、標準的用法および慣習に従って、左手方向がアミノ末端方向、右手方向がカルボキシ末端方向である。
【0147】
ポリペプチドに適用される場合、「実質的な同一性」という用語は、二つのペプチド配列が、規定のギャップの重み付け(default gap weights)を使用するGAPまたはBESTFITプログラムなどによって最適に整列された(aligned)際、少なくとも80パーセントの配列同一性、好ましくは90パーセントの配列同一性、より好ましくは95パーセントの配列同一性、最も好ましくは99パーセントの配列同一性を共有することを意味する。好ましくは、一致しなかった残基位置は保存的アミノ酸置換によって異なる。保存的アミノ酸置換とは、類似する側鎖を有する残基の互換性を指す。例えば、脂肪族側鎖を有するアミノ酸の群は、グリシン、アラニン、バリン、ロイシンおよびイソロイシン;脂肪族−水酸基側鎖を有するアミノ酸の群は、セリンおよびトレオニン;アミド基含有側鎖を有するアミノ酸の群は、アスパラギンおよびグルタミン;芳香族側鎖を有するアミノ酸の群はフェニルアラニン、チロシン、およびトリプトファン;塩基性側鎖を有するアミノ酸の群はリシン、アルギニンおよびヒスチジン;硫黄含有側鎖を有するアミノ酸の群はシステインおよびメチオニン。好ましい保存的アミノ酸置換群は、バリン−ロイシン−イソロイシン、フェニルアラニン−チロシン、リシン−アルギニン、アラニン−バリン、グルタミン酸−アスパラギン酸、およびアスパラギン−グルタミンである。
【0148】
本明細書において議論される場合、HSA配列のアミノ酸における変形例(variation)が、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、または少なくとも99パーセントの同一性を維持することを条件に、細胞毒性活性を有する組成物のアミノ酸配列におけるわずかな変形例は、本発明によって包含されると考えられる。特に、保存的アミノ酸置換が企図される。保存的置換はまた、側鎖が関連しているアミノ酸のファミリーの中において生じるものである。遺伝的にコードされたアミノ酸は、ファミリー:(1)酸性=アスパラギン酸、グルタミン酸;(2)塩基性=リシン、アルギニン、ヒスチジン;(3)非極性=アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン;および(4)非荷電極性=グリシン、アスパラギン、グルタミン、システイン、セリン、トレオニン、チロシン、に分類される。より好ましいファミリーは以下である;セリンとスレオニンは脂肪族−水酸基ファミリー;アスパラギンおよびグルタミンはアミド含有ファミリー;アラニン、バリン、ロイシンおよびイソロイシンは脂肪族ファミリー;フェニルアラニン、トリプトファンおよびチロシンは芳香族ファミリーである。例えば、特に置換が骨格となる部位の中のアミノ酸を含まない場合、イソロイシンもしくはバリンでのロイシンの、グルタミン酸でのアスパラギン酸の、セリンでのトレオニンの単離された置換、またはあるアミノ酸の構造的に関連したアミノ酸との同様の置換は、その結果できた分子の結合または特性に大きな影響をもたらさない、と考えるのが妥当である。アミノ酸変化が機能的なペプチドをもたらすかどうかは、ポリペプチド誘導体の特異的な活性を解析することで、容易に決定することができる。本発明のタンパク質またはペプチドのフラグメントまたはアナログは、当業者によって容易に調製されうる。フラグメントまたはアナログの好ましいアミノ末端およびカルボキシ末端は、機能的ドメインの境界の近傍に生じる。構造的および機能的ドメインは、ヌクレオチド配列データまたはアミノ酸配列データの公共または私有の配列データベースとの比較によって同定することができる。好ましくはコンピューター化された比較方法は、公知の構造または機能を有する他のタンパク質において生じる、配列モチーフまたは予測されるタンパク質立体構造(conformation)ドメインを同定するために用いられる。公知の三次元構造へと折りたたまれるタンパク質配列を同定する方法は知られている。Bowieら Science 253:164(1991)。それゆえ、前述の例は、当業者が本発明に従って、構造的ドメインおよび機能的ドメインを定義するために使用できる配列モチーフおよび立体構造を認識することができるということを実証している。
【0149】
効果的なアミノ酸置換は:(1)タンパク質分解に対する感受性を減少させるもの、(2)酸化に対する感受性を減少させるもの、(3)タンパク質複合体を形成するための結合親和力を変化させるもの、(4)結合親和力を変化させるもの、(5)そのようなアナログの他の物理化学的または機能的特性を与え、または変更するものである。アナログは自然発生的なペプチド配列以外の配列の様々な変異を含みうる。例えば、単一または複数のアミノ酸置換(好ましくは保存的アミノ酸置換)が、自然発生的な配列において(好ましくは、分子間接触を形成するドメインの外側のポリペプチド部分において)、作製されうる。保存的アミノ酸置換は、親配列の構造的特徴を実質的に変化させるべきではない(例えば、置換アミノ酸は親配列において生じるヘリックスを壊す傾向があるべきではなく、また、親配列を特徴づける他の種類の二次構造を破壊するべきではない)。技術分野において認識されるポリペプチドの二次元構造および三次元構造の例は、出典明示により本明細書に組み込まれる、Proteins, Structures andMolecular Principles(Creighton, Ed., W. H. Freeman and Company, New York (1984)); Introduction to Protein Structure (C. BrandenおよびJ. Tooze, eds., Garland Publishing, New York, N.Y. (1991)); および Thorntonら Nature 354:105(1991)に記載されている。
【0150】
「ポリペプチドフラグメント」という用語は、本明細書において用いる場合、アミノ末端欠失またはカルボキシ末端欠失を有するが、残存アミノ酸配列が、例えば全長cDNA配列から推定される自然発生的な配列における対応する位置と一致するポリペプチドを指す。フラグメントは典型的には少なくとも5、6、8または10アミノ酸長であり、好ましくは少なくとも14アミノ酸長であり、より好ましくは少なくとも20アミノ酸長であり、一般的には少なくとも50アミノ酸長であり、さらにより好ましくは70アミノ酸長である。
【0151】
一般的に、繊維状タンパク質を作製する方法は、SDSまたは他の適した界面活性剤溶液へタンパク質を溶解すること;溶解したタンパク質を分子量70kDa以上のタンパク質を分離することができる細孔径を備えるゲル濾過カラムへ適用すること;カラムからタンパク質を溶出すること;およびSDSまたは界面活性剤を除去するために緩衝食塩水で溶液を透析すること、を含む。
【0152】
第一の段階において、球状タンパク質は一般的に溶液形状へと溶解される。例において、球状タンパク質は、サーファクタントを備えるPBSへ溶解される。サーファクタントは、ここでは界面活性剤とも言われ、水の表面張力をより低くし、有機化合物の溶解度を上げる物質である。界面活性剤は、カチオン性、アニオン性、及び両性界面活性剤を含むイオン性や、非イオン性であってもよい。界面活性剤は、タンパク質中の非共有結合を破壊し、その結果、タンパク質を変性させ、本来の形状または立体構造(conformation)を失わせる役割を担う。例示的な実施態様において、使用される界面活性剤は、Sigmaから入手したドデシル硫酸ナトリウム(SDS)である。他の例示的な実施態様において、使用される界面活性剤は、Calbiochemから入手したZwittergent 3−14である。
【0153】
本方法のいくつかの態様において、少なくとも約70kDaのビーズ細孔径を有するサイズ排除クロマトグラフィーが使用される。使用されるビーズ細孔径は、球状タンパク質の様々な特徴、例えばそのサイズ、に基づいて変更させてもよい。細孔径はタンパク質がビーズマトリクスに入ることができるようにする役割を担い、それゆえ、タンパク質の変性(unfolding)/非変性(folding)に寄与し、繊維集合(fibrillogenic ensemble)を高める、機械的な力が引き起こされる。例示的な実施態様において、使用される分子サイジングカラムはスーパーデックス200(Superdex 200)である。他の例示的な実施態様において、使用される分子サイジングカラムはHW55Sである。繊維状タンパク質を生産するための本方法の他の詳細は、出典明示によりその開示が組み込まれる、米国特許出願公開第2008/0800186号において記載される。
【0154】
以下の実施例は、本発明の作製方法および使用方法の完全な開示および記載を当業者に提供するために提示され、発明と見なされるものの範囲を限定するように意図するものではない。
【実施例1】
【0155】
方法
細胞株および培養。SK−OV−3細胞(ヒト卵巣癌細胞株;ATCC HTB−77)およびSK−OV−3ip.1細胞、ならびにCaSki細胞(ヒト子宮頸癌細胞株;ATCC CRL−1550)は、それぞれ、McCoy’s 5A培地ならびにRPMI−1640培地において37℃で維持された。MDA−MB−231細胞(ヒト乳腺腺癌細胞株;ATCC HTB−26)およびTS/A細胞(マウス乳腺腺癌細胞株)は、それぞれ、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)/F12培地およびDMEMにおいて37℃で維持された。PC−3細胞(ヒト前立腺腺癌細胞株;ATCC CRL−1435)および22Rv1細胞(ヒト前立腺癌細胞株;ATCC CRL−2505)は、RPMI−1640培地において37℃で維持された。全ての培地は、10%ウシ胎仔血清(FBS)、2mM L−グルタミン、100ユニット/ml ペニシリン、および100μg/ml ストレプトマイシンが添加された。
【0156】
細胞毒性アッセイ。細胞生存をMTTアッセイまたはWST−1アッセイによって決定した。簡単に説明すると、1×105細胞/ウェルの腫瘍細胞を、96−ウェルプレート中、無血清培地へ播種し、1時間インキュベートした。一連の濃度のrVP1、F−BSA、またはF−HSAでの細胞の処理を、無血清培地で、24時間、37℃で実行した。処理後、MTT溶液を各ウェルへ添加し(0.5mg/ml)、続いて4時間インキュベートした。生存細胞数は、続くイソプロパノールでの可溶化で、ELISAプレートリーダーによって570nmで分光光度的に測定することができる、ホルマザンの産生へ直接的に比例する。データは非処理条件の百分率として表し、平均±S.D.として表した。
【0157】
WST−1アッセイを、製造業者の使用説明書に従って実行した(Roche, Mannheim, Germany)。簡単に説明すると、2×104細胞/ウェルの細胞を、96ウェルプレート中の1ウェルあたり100μlの培地へ添加し、加湿インキュベーターにおいて一晩5%CO2中37℃でインキュベートした。ウェルへ接着した細胞は無血清培地中でインキュベートされ、rVP1の段階希釈で処理された。薬剤が効果を発揮するようにするための、16時間5%CO2中37℃でのインキュベートの後、10μlのWST−1試薬が各ウェルへ添加され、プレートはそれから1分間150rpmで振動台上において混合された。WST−1試薬が代謝されるようにするための、別の2時間5%CO2中37℃でのインキュベートの後、生存細胞の数が吸光度によって決定された(450nm試験波長、690nm参照波長)。生存細胞の百分率は、(O.D.処理/O.D.対照)×100%として計算し、一方で成長阻害の百分率は、[1−(O.D.処理/O.D.対照)]×100%として計算した。IC50は、試薬が細胞生存性(cellular viability)の50%阻害を獲得した点での濃度である。
【0158】
細胞遊走および浸潤アッセイ。細胞遊走および浸潤アッセイは、ボイデンチャンバー遊走および浸潤アッセイ(Corning)に従って実行した。上層チャンバーの8μmの細孔膜は、細胞遊走アッセイのために20μg/ml フィブロネクチンで、または、細胞浸潤アッセイのために40μg/ml マトリゲルで覆われ、1mlのPBSを備えるウェル中に置かれ、37℃で2時間インキュベートされた。癌細胞(1×105)は1mlの無血清培地中に再懸濁され、1時間、上層チャンバーへ置かれた。rVP1などの様々な濃度の繊維状タンパク質が上部チャンバーへ添加され、その後、培養培地(10%FBS培地)が下層チャンバーへ添加された。細胞は37℃で24時間インキュベートされた。インキュベートの終わりに、膜の上層側の細胞を綿棒で拭き取ることにより除去し、下層膜表面へ遊走した細胞を、細胞解離溶液(Sigma)を使用することによって解離させ、フローサイトメーター(BD company)を使用して計測した。
【0159】
BALB/cマウスにおけるTS/A乳腺腺癌のマウスモデルにおける転移性移植の確立。マウスTS/A乳腺腺癌細胞は、37℃、95%空気および5%CO2の湿気のある環境下で、10% FBS、2mM L−グルタミン、100U/ml ペニシリン、および100μg/ml ストレプトマイシンが添加されたDMEM中で培養された。回収後、TS/A細胞(3×105μl PBS/マウス)は、1群あたり9匹のマウスの側面尾静脈(lateral tail vein)内へ静脈内注射された。対照培地またはF−HSAなどの繊維状タンパク質は、2日に1回、10回、静脈内投与によって与えられた。最終的に、1群あたり3匹を犠死(sacrifice)させ、他は生存アッセイのために使用した。
【0160】
別の実験において、マウスTS/A乳腺腺癌細胞は、第一に、37℃、95%空気および5%CO2の湿気のある環境下で、rVP1などの繊維状タンパク質(0.1−0.2μM)処理有りまたは無しで、10% FBS、2mM L−グルタミン、100U/ml ペニシリン、および100μg/ml ストレプトマイシンが添加されたDMEM中で培養された。回収後、rVP1有りまたは無しで前処理されたTS/A細胞は、それぞれ、1群あたり9匹のマウスの側面尾静脈内へ静脈内注射された。14日後、全てのマウスを犠死させ、その肺を回収した。
【0161】
ヒト乳癌のマウスモデルにおける転移性異種移植片移植の確立。ヒトMDA−MB−231乳腺腺癌細胞は、37℃、95%空気および5%CO2の湿気のある環境下で、10% FBS、2mM L−グルタミン、100U/ml ペニシリン、および100μg/ml ストレプトマイシンが添加されたDMEM/F12中で培養された。回収後、MDA−MB−231は、1群あたり9匹のマウスの側面尾静脈内へ静脈内注射された。腫瘍注射の一日後、F−HSAなどの繊維状タンパク質(1mg/kg体重)が、2日に1回、10回、静脈内投与によって与えられ、一方で対照群は培地のみが注射された。1群あたり3匹のマウスをこの時点で犠死させ、マウスの残りは維持し、生存能力を測定した。
【0162】
ヒト前立腺癌のマウスモデルにおける同所性(orthotropic)異種移植片移植の確立。ヒトPC−3前立腺腺癌細胞は、37℃、95%空気および5%CO2の湿気のある環境下で、10% FBS、2mM L−グルタミン、100U/ml ペニシリン、および100μg/ml ストレプトマイシンが添加されたRPMI−1640培地中で培養された。回収後、PC−3細胞は洗浄され、前立腺へ同所性に(orthotopically)注射された(1×105/20μL PBS/マウス)。1つの群において、PC−3移植後4週、rVP1などの繊維状タンパク質(25mg/kg)が与えられた一方、他の群においては、癌移植後10週でrVP1が与えられた。同量のrVP1が1週間あたり3回、6週間投与され、rVP1処理の終わりに、各群において3匹のマウスを犠死させ、癌転移を検出した。マウスの残りは維持し、生存能力を測定した。
【0163】
ヒトSK−OV−3卵巣癌のマウスモデルにおける転移性異種移植片移植の確立。動物実験は、台湾国防医学院(National Defense Medical Center, Taiwan)の実験動物の管理および使用に関する指針に従って、実行した。台湾国家実験動物センターから入手したBALB/cAnN−Foxn1のメスヌードマウス、8週齢、に、腹腔内注射によりマウス1匹あたり5×106 SK−OV−3癌細胞を接種し、SK−OV−3移植後6日、マウスを繊維状タンパク質(例えば、rVP1、15mg/Kg体重)またはPBS(対照)で処理し、その処理を60日間、一日おきに繰り返した。マウスが死ぬまで、または、腫瘍移植から340日経過するまで、生存百分率(survival percentage)および体重を記録した。
【0164】
SK−OV−3ip.1細胞の単離。SK−OV−3細胞移植後60日、頸椎脱臼によってマウスを犠死させた。3mlのPBSを腹部へ注射し、5mlのシリンジおよび25ゲージ×1”の針を使用して、腹腔内細胞を回収した(約2ml)。細胞を4℃、5分間、200×gで遠心し、細胞ペレットを集めた。赤血球を除去するため、細胞ペレットの5倍量のNH4Cl(0.144M)および細胞ペレットの1/2倍量のNH4HCO3(0.01M)が添加され、5分間4℃でインキュベートされた。細胞は4℃、5分間、200×gで遠心され、細胞ペレットが集められた。細胞は、8−16%の勾配ゲル(Invitrogen)でのSDS−PAGEによる分解(resolution)に続いて、標準的なウェスタンブロット技術を使用する、HER−2受容体レベルのウェスタンブロット解析の前に、3日間、37℃で、5%CO2−湿気のある環境下で、20% FBSを有するMcCoy’s 5A培地で培養された。
【0165】
組織病理。臓器を10%中性緩衝ホルマリン中で固定した。組織はさらにパラフィンで包埋し、4μm切片で薄切し、光学顕微鏡検査のためにヘマトキシリンおよびエオジン(H&E)で染色した。
【0166】
統計解析。全てのデータは平均±標準誤差として表し、マイクロソフトエクセルで評価した。生存データのため、ログランク検定を使用して、薬剤有りまたは無しで処理された群間の相違を決定した。スチューデントt−検定およびANOVAを行って、異なる処理間の全般的な相違を評価した。P<0.05、P<0.01、およびP<0.001の値は、統計的に意味があると考えられた。
【0167】
rVP1は、インビトロでMDA−MB−231細胞、PC−3細胞、22Rv1細胞、SK−OV−3細胞、CaSki細胞、およびSK−OV−3ip.1細胞における細胞浸潤および/または遊走を抑制した
rVP1が腫瘍細胞の浸潤および/または遊走を抑制するかどうかを調査するため、ボイデンチャンバーアッセイを使用して細胞の浸潤および/または遊走が測定された。様々な濃度のrVP1処理(ヒト乳腺腺癌細胞株MDA−MB−231細胞、ヒト前立腺腺癌細胞株PC−3細胞、ヒト前立腺癌細胞株22Rv1細胞において0.1μMから0.2μM rVP1;ヒト卵巣癌細胞株SK−OV−3細胞およびSK−OV−3ip.1細胞において0.2μMから0.4μM rVP1;ヒト子宮頸癌細胞株CaSki細胞において0.2μMから0.6μM rVP1)の後、細胞の浸潤および/または遊走は著しく抑制された。注目すべきは、rVP1のこれらの濃度は、MTTアッセイおよびWSTアッセイを使用して決定された細胞生存能力へ影響しなかったことである(図1−3)。それゆえrVP1は、インビトロで、ヒト乳癌、前立腺癌、子宮頸癌、および卵巣癌の細胞株の転移を著しく抑制する。
【実施例2】
【0168】
rVP1はインビボで腫瘍細胞の転移を抑制した
A. BALB/cマウスへの静脈内注射が後続するインビトロrVP1−処理MDA−MB−231細胞。我々はそれから、インビトロで転移能力を阻害するために、24時間rVP1で前処理され、その後マウスへ静脈内注射された、MDA−MB−231ヒト乳腺腺癌細胞が、マウス肺におけるそれらの転移を、rVP1前処理無しのMDA−MB−231と比較して減少できるかどうかを試験した。データから、0.1および0.2μMのrVP1処理MDA−MB−231細胞が、マウス肺組織における癌細胞転移を著しく減少したことが示された(図4A)。関連する肺重量および肺における腫瘍巣の数もまた、rVP1処理無しの腫瘍群と比較して著しく減少した(図4B−C)。
【0169】
B. 同所性(orthotropic)PC−3異種移植モデル。我々はまた、rvP1がインビボで前立腺癌の転移を抑制できるかどうかを試験した。PC−3ヒト前立腺腺癌細胞をまず、ヌードマウスの前立腺へ同所性に(orthotopically)移植し、移植後4週または10週でrVP1(25mg/kg)をその後、毎週3回、6週間、静脈内注射した。rVP1処理の終わりに、我々はマウスを犠死させ、剖検に着手した。我々のデータから、rVP1が、リンパ節(表1、図5A)および骨盤骨へ転移するPC−3細胞を著しく抑制し、かつ、骨盤骨における骨溶解を阻害したことが示された(図5B)。
【0170】
表1.PC−3移植ヌードマウスにおけるrVP1処理での転移性リンパ節の百分率および位置。
【表1】
【0171】
【0172】
C. 転移性SK−OV−3異種移植モデル。我々のインビトロでのデータから、rVP1はSK−OV−3ヒト卵巣癌細胞の浸潤を抑制することが示された。rVP1がインビボでのSK−OV−3卵巣癌細胞の転移も抑制できるかどうかを試験するため、ヒトSK−OV−3卵巣癌のマウスモデルにおける転移性異種移植片移植が確立された。我々は60日後、PBS処理SK−OV−3を有するマウス由来の肝臓が腫瘍細胞によって包囲されていることを発見した。60日間、一日おきにrVP1(15mg/kg)を腹腔内注射されたSK−OV−3を有するマウスにおいては、一方で、我々はそれらの肝臓の明らかな腫瘍の浸潤を全く観察しなかった(図6)。
【実施例3】
【0173】
F−HSAは、インビトロでMDA−MB−231細胞、PC−3細胞、22Rv1細胞、およびCaSki細胞における腫瘍細胞浸潤および/または遊走を抑制した
F−HSAなどの他の繊維状タンパク質もまた腫瘍細胞の浸潤および/または遊走を抑制するのかどうかを試験するため、ボイデンチャンバーアッセイを使用して腫瘍細胞の浸潤および/または遊走におけるF−HSAの効果が測定された。様々な濃度のrVP1処理(MDA−MB−231細胞において0.1μMから0.2μM F−HSA;PC−3細胞において0.025μMから0.1μM F−HSA;22Rv1細胞において0.025μMから0.05μM F−HSA;CaSki細胞において0.2μMから0.4μM F−HSA)の後、様々な腫瘍細胞の浸潤能および/または遊走能は著しく抑制された。これらの濃度で、F−HSAがMTTアッセイの使用による細胞生存能力へ影響しなかったことは、注目すべきことである(図7)。
【実施例4】
【0174】
F−HSAはインビボで腫瘍細胞の転移を抑制した
F−HSAがインビボで腫瘍細胞の転移を抑制するかどうかをさらに試験するため、それぞれ、マウス乳腺腺癌TS/A細胞がBALB/cマウスの側面尾静脈内へ静脈内注射され、または、ヒト乳腺腺癌MDA−MB−231細胞がヌードマウスへ注射された。次いで翌日、および、2日に一回、10回、F−HSA(1mg/kg)が静脈内注射された。F−HSA処理の終わりに、マウスを犠死させ、肺の転移を検出した。我々のデータから、F−HSAが、対照培地のみで処理されたTS/AまたはMDA−MB−231を有するマウスに比較して、TS/A細胞およびMDA−MB−231細胞の肺への転移を著しく抑制したことが示された(図8Aおよび9A)。F−HSA処理されたTS/AまたはMDA−MB−231を有するマウスの関連する肺重量および肺における腫瘍巣の数は、任意の薬剤処理無しのTS/AまたはMDA−MB−231を有するマウスのものより著しく少なかった(図8B−Cおよび図9B−C)。
【実施例5】
【0175】
F−BSAはインビトロでCaSki細胞の浸潤を抑制した
我々はまた、F−BSAなどの他の繊維状タンパク質もCaSkiヒト子宮頸癌細胞の浸潤を抑制するのかどうかを試験した。細胞浸潤はボイデンチャンバーアッセイを使用して測定された。我々は、0.1μM−0.2μMで、F−BSAはF−BSAはMTTアッセイにより示されるような細胞生存能力へ影響しなかったが、CaSki細胞の遊走および/または浸潤を著しく抑制することを発見した。
【実施例6】
【0176】
F−HSAは用量依存的にアミロイド特異的色素ThTの増大した蛍光レベルを示す。
図12は、アミロイド繊維Aβ(1−42)に似た、F−HSAが、スーパーデックス200(Superdex 200)カラムによって処理されなかったBSAと比較して、用量依存的に、アミロイド特異的色素ThTの増大した蛍光レベルを示すことを示す実験データの実施である。この結果は、F−HSAがAβ(1−42)のような繊維状構造を有する一方で、HSAが球状構造を有することを示す。(ThTへの結合は、アミロイド様タンパク質の特徴の一つである。)
【実施例7】
【0177】
F−HSAは乳癌細胞への細胞毒性効果を有する。
図13はTS/A細胞におけるF−HSAの細胞毒性効果を示し、図14はMDA−MB−231細胞におけるF−HSAの細胞毒性効果を示す。各細胞型(type)は様々な濃度のF−HSAで無血清培地において16時間処理された。細胞生存能力をMTTアッセイによって決定した。球状HSAは正常細胞または腫瘍細胞において細胞毒性を有しない。
【実施例8】
【0178】
F−HSAは卵巣癌細胞および子宮頸癌細胞への細胞毒性効果を有する。
図15はSKOV−3細胞におけるF−HSAの細胞毒性効果を示し、図16はCaSki細胞におけるF−HSAの細胞毒性効果を示す。各細胞型(type)は様々な濃度のF−HSAで無血清培地において16時間処理された。細胞生存能力をMTTアッセイによって決定した。
【実施例9】
【0179】
F−HSAは前立腺癌細胞への細胞毒性効果を有する。
図17はPC−3細胞におけるF−HSAの細胞毒性効果を示し、図18は22Rv1細胞におけるF−HSAの細胞毒性効果を示す。各細胞型(type)は様々な濃度のF−HSAで無血清培地において16時間処理された。細胞生存能力をMTTアッセイによって決定した。
【実施例10】
【0180】
F−HSAは肺癌細胞株への細胞毒性効果を有する
図19に示される実施によると、F−HSAは、腺癌細胞株A549、CL1−0、CL1−5、H1299、PC13およびPC14;扁平上皮癌肺癌細胞株H520;および大細胞肺癌細胞株H661において、細胞毒性を誘導した。図19は各細胞株の各々のIC50を示す。
【実施例11】
【0181】
F−HSAはインビトロで腫瘍細胞の浸潤および遊走を抑制する
F−HSAはまた、図20における実験データの実施によって示されるように、インビトロでの腫瘍細胞の浸潤および遊走を抑制することにおいて効果的であることが示された。図9A、9C、9E、および9Gにおいて示されるように、F−HSAは、癌細胞もしくは正常細胞のどちらか一方の生存能力に影響を与えない濃度で、腫瘍細胞の浸潤/遊走能を著しく低下させた。
【実施例12】
【0182】
F−HSAはインビボで腫瘍細胞の転移を抑制した
F−HSAはインビボで乳癌細胞株TS/AおよびMDA−MB−231を抑制した。図21Aおよび22Aは、F−HSAが、F−HSA処理無しのTS/AまたはMDA−MB−231を有するマウスと比較して、TS/A細胞およびMDA−MB−231細胞の肺への転移を著しく抑制したことを示す。図21B、21C、22B、および22Cは、体重および肺組織における腫瘍細胞巣の数を測定し、さらにインビボでのF−HSAの有効性を確かめた。
【0183】
実施によると、乳癌細胞は対象の静脈を介して注射された。肺組織において検出された腫瘍細胞巣は、乳癌細胞が肺へ転移したことを示す。
【0184】
材料および方法
F−HSAの調製。20ミリグラムのHSAを1%(w/v)SDSを含む10mlのPBSへ溶解した。HSA溶液を5分間超音波破砕し、続いて、予め溶出溶液(25mM Tris−HCL(pH8.0)、1mM EDTA、0.1M NaCl、および0.05% SDS)で平衡化したスーパーデックス200(Superdex 200)へ注いだ。カラムは1ml/分の流速で溶出し、HSAを含有するC3からC7画分を貯えた。貯えられた画分は、2〜3mg/mlへ濃縮され、次いでCellu−Sep T4/Nominal(MWCO:12,000−14,000 Da)透析膜で、PBSで透析された。新しいPBSバッファーを2時間毎に室温で3回交換した。HSA−S200の収量は約75%であった。
【0185】
チオフラビンT(ThT)蛍光アッセイ。ThTへの結合は、アミロイド様タンパク質の特徴の一つである。蛍光測定のために、濃度を上げたタンパク質は、20μM ThTと共に室温で一時間インキュベートされ、その後、Wallac Victor2 1420 Multilabel Counter(Perkin Elmer Life Science, Waltham, MA, USA)を用いて、トリプリケートで(in triplicate)蛍光を測定した。励起波長および蛍光波長は、それぞれ430nmおよび486nmである。バッファーからのThTバックグラウンドシグナルを対応する測定から差し引いた。
【0186】
細胞生存はMTT比色分析アッセイによって決定された。対数増殖期細胞(TS/Aに対して1×104細胞/ウェル)が10%FBSを含む培地中、96−ウェルプレートに播種され、24時間インキュベートされた。一連の濃度のタンパク質での細胞の処理は、37℃で16時間適応(indiaction)、無血清培地中で実行された。処理の後、MTT溶液(0.5mg/ml)が各ウェルへ添加され、4時間のインキュベーション時間が続いた。生存細胞数は、続くイソプロパノールでの可溶化で、ELISAプレートリーダーによって570nmで分光光度的に測定することができる、ホルマザンの産生へ直接的に比例する。
【0187】
細胞生存能力アッセイ。細胞生存能力は、製造業者の使用説明書(Roche, Mannheim, Germany)に従ってWST−1アッセイによって測定された。簡単に説明すると、2×104細胞を、96ウェルプレート上の1ウェルあたり100μlの培地へ添加し、加湿インキュベーターにおいて一晩5%CO2中37℃でインキュベートした。ウェルへ接着した細胞は無血清培地中でインキュベートされ、様々な濃度のF−HSAで処理された。薬剤が効果を発揮するようにするための16時間5%CO2中37℃でのインキュベートの後、10μlのWST−1試薬が各ウェルへ添加された。プレートはそれから1分間150rpmで振動台上に置かれた。WST−1試薬が代謝されるようにするための別の2時間5%CO2中37℃でのインキュベートの後、生存細胞の数が吸光度によって決定された(450nm試験波長、690nm参照波長)。生存細胞の百分率は、(O.D.処理/O.D.対照)×100%として計算し、一方で成長阻害の百分率は、[1−(O.D.処理/O.D.対照)]×100%として計算した。この試験によると、IC50は、試薬が細胞生存性(cellular viability)の50%阻害を獲得した濃度である。
【0188】
細胞遊走および浸潤アッセイ。細胞遊走および浸潤は、ボイデンチャンバー遊走および浸潤アッセイ(Corning)を使用して決定された。簡単に説明すると、上層チャンバーの8μmの細孔膜は、(細胞遊走アッセイのために)20μg/ml フィブロネクチンで、または、(細胞浸潤アッセイのために)40μg/ml マトリゲルで覆われ、1mlのPBSを備えるウェル中に置かれ、37℃で2時間インキュベートされた。1mlの無血清培地中の癌細胞(1×105)を、1時間、上層チャンバーへ播種した。段階希釈濃度のF−HSAが上部チャンバーへ添加され、その後、10%FBSを含有する培養培地が下層チャンバーへ添加された。細胞は37℃で24時間インキュベートされた。インキュベート後、膜の上層側の細胞は綿棒で拭き取ることにより除去され、下層膜表面へ遊走した細胞は、細胞解離溶液(Sigma)を使用することによって解離させ、フローサイトメーター(BD company)を使用して計測した。これらの濃度において、しかしながら、F−HSAは、図9B、9D、9F、および9Hにおいて示されるように、MTTアッセイで測定された際、細胞生存能力へ影響を与えなかった。生存能力および細胞毒性はMTTまたはWST−1アッセイを使用して測定した。これらのキットは、生細胞におけるミトコンドリア活性の機能としての細胞成長の分光光度測定のために設計されている(Roche)。
【0189】
インビボでの乳癌細胞転移。TS/Aマウス乳腺腺癌細胞がBALB/cマウスの側面尾静脈(lateral tail vein)内へ静脈内注射され、または、MDA−MB−231ヒト乳腺腺癌細胞がヌードマウスへ注射された。次いで翌日、および、2日に一回、10回、F−HSA(1mg/kg)が静脈内注射された。F−HSA処理の終わりに、マウスを犠死させ、肺の転移を検出した。
【技術分野】
【0001】
序論
癌転移は、逐次段階の系を含み、宿主−腫瘍細胞相互作用のカスケードを必要とする過程である(Steeg PSら(2007) Nature 449:671−3)。これらの段階は、原発腫瘍からの離脱(detachment)、循環系への浸潤および循環系における停止、臓器の実質への溢出;および血管新生に伴う増殖を含む(Sawyer TKら(2004) Expert Opin Investig Drugs 13:1−19)。転移過程の重要な段階であると明らかになった遊走および浸潤の機構を調査することについて、関心が高まっている。転移カスケードを阻止するための、これらの段階のいずれか一つでの干渉は、転移性腫瘍成長の形成を阻害する魅力的なアプローチを提供する。
【背景技術】
【0002】
我々の従来のデータから、口蹄疫ウイルス(FMDV)の組換えカプシドタンパク質VP1(rVP1)が、インテグリンシグナル経路を介して数種類の癌細胞においてアポトーシスを誘導したことが示された(Peng JMら (2004) J. Biol. Chem. 279:52168−74)。rVP1を水溶性型へとリフォールドする(refolding)ための同一の過程を使用して、球状ウシ血清アルブミン(G−BSA)が、rVP1のような、繊維状BSA(F−BSA)へ変換されることができ、インテグリン/FAK/Aktシグナル経路を介して腫瘍細胞のアポトーシスを誘導したことが発見された(Huangら (2009) BMC Biotechnol. 9:2)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
癌転移を抑制するための方法が提供される。癌転移は癌患者における治療の失敗および死の最大の原因である。腫瘍細胞の浸潤および/または遊走は、rVP1、F−HSAおよびF−BSAを制限なく含む繊維状タンパク質と腫瘍細胞を接触させた後、著しく阻害される。対象の腫瘍細胞には、癌(carcinoma)、例えば乳癌、卵巣の上皮性腺癌、前立腺腺癌等が含まれる。
【課題を解決するための手段】
【0004】
一の実施態様において、本発明は、例えば腫瘍細胞の抑制、転移の抑制等のための、癌を患っている哺乳類の治療における使用のための、治療有効量の繊維状ヒト血清アルブミンおよび医薬上許容される担体を含む組成物に関する。
【発明の効果】
【0005】
本発明のいくつかの実施形態において、腫瘍細胞はインビボで繊維状タンパク質と接触させられ、その接触は局所性、例えば腫瘍内導入もしくは腫瘍内注射、または全身性である。例えばrVP1は、マウスおよびヒト乳癌転移ならびにヒト前立腺癌転移および卵巣癌転移をインビボで著しく抑制することが本明細書において示される。F−HSAは乳癌転移を著しく抑制することが示される。一の実施形態において、本発明は、哺乳類における癌の治療における使用のための上述のような組成物であって、癌が乳癌、卵巣癌、子宮頸癌、前立腺癌および肺癌から選択される少なくとも一つである、組成物に関する。
【0006】
本発明のいくつかの実施形態において、抗癌転移治療としての繊維状タンパク質の組成物であって、転移を阻害するために効果的な量の医薬製剤を提供する組成物が提供される。別の実施態様において、本発明は、癌を患っている患者の治療における使用のための組成物の生産を含む方法に関する。前記方法は、繊維状ヒト血清アルブミンを製造すること、および繊維状ヒト血清アルブミンおよび医薬上許容される担体を混合することを含む。別の実施態様において、本発明は、SDS溶液へHSAを溶解すること;溶解したHSAを分子量70kDa以上のタンパク質を分離するための細孔径を備えるゲル濾過カラムへ注ぐこと;カラムからHSAを溶出すること;およびSDSを除去するためにリン酸緩衝生理食塩水で溶液を透析すること、を含む方法に関する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】MDA−MB−231細胞、PC−3細胞、および22Rv1細胞における細胞浸潤/遊走および細胞毒性へのrVP1の効果。(AおよびB)24時間のrVP1処理でのMDA−MB−231細胞、PC−3細胞、および22Rv1細胞の細胞浸潤/遊走を、ボイデンチャンバーアッセイを使用することによって測定した。rVP1は腫瘍細胞の浸潤/遊走を著しく抑制した。(C)24時間のrVP1処理でのMDA−MB−231細胞、PC−3細胞、および22Rv1細胞の細胞毒性を、MTTアッセイを使用することによって測定した。0.1μMおよび0.2μMのrVP1は腫瘍細胞生存能力(cell viability)に影響を及ぼさなかった。データは平均±S.D.(n=3)を表す。*:P<0.05、**:P<0.01および***:P<0.001は対照(0μMのrVP1処理)に対する。
【0008】
【図2】SK−OV−3細胞およびCaSki細胞における細胞浸潤および細胞毒性へのrVP1の効果。(A)24時間のrVP1処理でのSK−OV−3細胞およびCaSki細胞の細胞浸潤を、ボイデンチャンバーアッセイを使用することによって測定した。rVP1は腫瘍細胞の浸潤を著しく抑制した。(B)SK−OV−3細胞およびCaSki細胞の細胞毒性を、MTTアッセイを使用することによって測定した。SKOV−3細胞において0.2μMから0.4μMのrVP1、およびCaSki細胞において0.2μMから0.6μMのrVP1は、細胞生存能力に影響を及ぼさなかった。白い棒グラフ、SKOV−3細胞;黒い棒グラフ、CaSki細胞。データは平均±S.D.(n=3)を表す。*:P<0.05、**:P<0.01および***:P<0.001。
【0009】
【図3】SK−OV−3ip.1細胞における細胞浸潤および細胞毒性へのrVP1の効果。(A)SK−OV−3ip.1細胞は1時間上部チャンバーへ蒔かれ、続いて24時間rVP1処理がなされた。インキュベーションの後、下層膜表面からの細胞が分離され、計測された。(B)24時間rVP1でSK−OV−3ip.1細胞を処理し、その後WST−1アッセイを行った。細胞生存率は450nm(対象として690nm)での吸光度を測定することによって決定した。細胞生存の百分率は(O.D処理/O.D対照)×100%として計算された。データは平均±S.D.(n=3)を表す。*:P<0.05および**:P<0.01は対照に対する。
【0010】
【図4】インビボでMDA−MB−231細胞の転移能はrVP1処理後に失われた。24時間インビトロで0.1μMおよび0.2μMのrVP−1処理されたMDA−MB231細胞は、その後回収され、尾静脈を介してマウスにおいて静脈内に注射された。14日後、犠死(sacrifice)が行われた。マウスの3つの異なる群における肺の肉眼的形態(A)および組織病理学的実験(BおよびC)が測定された。rVP1はMDA−MB−231細胞の転移能を著しく阻害した。***:P<0.001。
【0011】
【図5】rPV1はリンパ節へ転移したPC−3細胞を抑制し、骨盤骨における骨溶解を阻害した。(A)rVP1処理有りまたは無しの正常マウスおよび担癌マウスのリンパ節。(B)rVP1処理有りまたは無しの正常マウスおよび担癌マウスの骨盤骨(矢印)。
【0012】
【図6】インビボでSK−OV−3移植ヌードマウス由来肝臓腫瘍転移の組織学的所見はrVP1によって防止された。rVP1処理および無処理マウスからのH&E染色での代表的な肝臓切片。BALB/cAnN−Foxn1メスヌードマウスは、腹腔内注射によってマウス当たり5×106のSK−OV−3癌細胞を移植された。(a−b)60日後、PBS処理SK−OV−3を有するマウス由来の肝臓は腫瘍細胞によって包囲された。(c−d)SK−OV−3移植後340日、rVP1処理されたマウス由来の肝臓は明らかな浸潤を示さなかった。(e−f)正常マウス由来の肝臓(すなわち、SK−OV−3移植無し)。
【0013】
【図7】MDA−MB−231細胞、PC−3細胞、22Rv1細胞、およびCaSki細胞における、細胞遊走、浸潤および細胞毒性へのF−HSAの効果。ボイデンチャンバーアッセイを使用することによる、インビトロでの遊走および浸潤アッセイにおいて、F−HSAは、MDA−MB−231細胞(A)、PC−3細胞(C)、22Rv1細胞(E)、およびCaSki細胞(G)における細胞浸潤(黒い棒グラフ)および遊走(白い棒グラフ)を著しく阻害した。MTTアッセイを使用することによる、MDA−MB−231細胞、PC−3細胞、22Rv1細胞、およびCaSki細胞における細胞毒性へのF−HSAの効果。(B、D、FおよびH)。浸潤および遊走は、処理された細胞数の無処理の細胞数への百分率として表された。各々において3つの反復を有する3つの独立した実験の平均±S.D.(n=3)が示された。**:P<0.01および***:P<0.001は無処理細胞に対する。
【0014】
【図8】インビボでF−HSAはTS/A腫瘍細胞転移を抑制した。(A)F−HSA処理有りまたは無しのマウス由来の肺の肉眼的形態および組織病理学的実験。(BおよびC)関連する肺重量(related lung weight)およびF−HSA処理有りまたは無しのマウス由来の肺における腫瘍巣の数。***:P<0.001。
【0015】
【図9】インビボでF−HSAはMDA−MB−231細胞の転移を抑制した。(A)F−HSA処理有りまたは無しのマウス由来の肺の肉眼的形態および組織病理学的実験。(BおよびC)関連する肺重量およびF−HSA処理有りまたは無しのマウス由来の肺における腫瘍巣の数。***:P<0.001。
【0016】
【図10】CaSki細胞における細胞浸潤および細胞毒性へのF−BSAの効果。(A)24時間F−BSAで処理されたCaSki細胞の細胞浸潤を、ボイデンチャンバーアッセイを使用することによって測定した。F−HSAは腫瘍細胞の浸潤を著しく抑制した。(B)24時間F−BSAで処理されたCaSki細胞の細胞毒性を、MTTアッセイによって測定した。0.1μMまたは0.2μMの濃度でのF−HSAはCaSki細胞の細胞生存能力に影響を及ぼさなかった。データは平均±S.D.(n=3)を表す。*:P<0.05、**:P<0.01。
【0017】
【図11】rVP1処理を伴う腫瘍移植のスケジュール。
【0018】
【図12】図12は、20μMのアミロイド特異的色素ThTを加えて1時間インキュベート後の、濃度を上げたF−HSA、HSAおよびAβ(1−42)の蛍光レベルの比較を示す実験データの実施態様(implementation)である。
【0019】
【図13】図13は、乳癌細胞へのF−HSAの細胞毒性効果を示す実験データの実施態様である。
【0020】
【図14】図14は、乳癌細胞へのF−HSAの細胞毒性効果を示す実験データの実施態様である。
【0021】
【図15】図15は、卵巣細胞へのF−HSAの細胞毒性効果を示す実験データの実施態様である。
【0022】
【図16】図16は、子宮頸癌細胞へのF−HSAの細胞毒性効果を示す実験データの実施態様である。
【0023】
【図17】図17は、前立腺癌細胞へのF−HSAの細胞毒性効果を示す実験データの実施態様である。
【0024】
【図18】図18は、前立腺癌細胞へのF−HSAの細胞毒性効果を示す実験データの実施態様である。
【0025】
【図19】図19は、肺癌細胞へのF−HSAの細胞毒性効果を示す実験データの実施態様である。
【0026】
【図20】図20A−20Hは、正常細胞の生存能力へ影響することの無い、腫瘍細胞の遊走および浸潤の減少におけるF−HSAの効果を示す実験データの実施態様である。
【0027】
【図21】図21A−21Cは、マウス乳癌TS/A細胞の肺への転移の抑制におけるF−HSAの効果を示す実験データの実施態様である。
【0028】
【図22】図22A−22Cは、マウス乳癌MDA−MB−231細胞の肺への転移の抑制におけるF−HSAの効果を示す実験データの実施態様である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
定義
以下の記載において、細胞培養の分野において通常使用される多数の用語が広く利用される。明細書および請求項、ならびにかかる用語に与えられる範囲の明白で一貫性のある理解を与えるために、以下の定義が提供される。
【0030】
「対象」、「個体」および「患者」という用語は、本明細書において区別無く、治療のために評価されるほ乳類および/または治療されたほ乳類を指す。ある実施形態において、ほ乳類はヒトである。「対象」、「個体」および「患者」という用語はそれゆえ、癌組織(例えば、癌性の結腸直腸組織)を除去するための切除術(外科手術)を行った、あるいはその候補である個体を含む、癌(例えば、結腸直腸癌、卵巣腺癌もしくは前立腺腺癌、乳癌等)を患っている個体を包含する。対象はヒトであってもよく、他の動物、特に、例えばマウス、ラット等、ヒト疾患のための実験モデルとして有用なほ乳類もまた含む。
【0031】
本明細書において用いる場合、「治療」、「治療する」等の用語は、ある効果を得る目的のために、薬剤を投与すること、または処置(例えば、放射線照射、外科的処置等)を施すことを指す。効果は、疾患もしくはその症状を完全にもしくは部分的に予防するという観点から予防的であってもよく、かつ/または、疾患および/またはその疾患の症状のための部分的なもしくは完全な治癒を達成するという観点から治療的であってもよい。「治療」は、本明細書において用いる場合、ほ乳類、特にヒトにおけるあらゆる転移性腫瘍のあらゆる治療を包含し、かつ:(a)(例えば、原発性疾患に関連する、もしくは原発性疾患によって引き起こされる疾患を含む)疾患にかかりやすくなっているが、まだその疾患を患っていると診断されていない対象において、疾患もしくは疾患の症状を未然に防ぐこと;(b)疾患を阻害すること、すなわち、その発達を停止させること;および(c)疾患を緩和すること、すなわち疾患の軽減を引き起こすこと、を含む。腫瘍(例えば、癌)治療において、治療薬は直接的に腫瘍細胞の転移を減少させることができる。
【0032】
「細胞培養」または「培養」という用語は、人工的なインビトロ環境における細胞の維持を意味する。しかしながら、「細胞培養」という用語は一般名称であって、個々の細胞だけではなく組織もしくは臓器の培養を包含するために使用され得ると理解されるべきである。
【0033】
「腫瘍」という用語は、本明細書において用いる場合、悪性であるか良性であるかに関わらず全ての新生物性の細胞成長および増殖、ならびに全ての前癌状態および癌状態の細胞および組織を指す。
【0034】
「癌」、「新生物」および「腫瘍」という用語は、本明細書において区別無く、細胞増殖に対する制御の著しい減少によって特徴づけられる異常な成長の表現型を示すような、自律的で無秩序な増殖を示す細胞を指す。一般に、本願における検出、解析、分類または治療のための対象の細胞は、前癌状態の(例えば良性の)、悪性の、前転移性の、転移性の、あるいは非転移性の細胞を含む。癌の例は、乳癌、結腸癌、肺癌、前立腺癌、肝細胞癌、胃癌、膵臓癌、子宮頸癌、卵巣癌、肝臓癌、膀胱癌、尿路癌、甲状腺癌、腎臓癌、上皮性悪性腫瘍(carcinoma)、黒色腫、頭部および頸部癌、ならびに脳腫瘍を含むが、これらに限定されるものではない。
【0035】
癌の性質に依存して、適切な患者試料が得られる。本明細書において用いる場合、「癌性組織試料」という語句は、癌性腫瘍から得られた任意の細胞を指す。転移しなかった固形腫瘍の場合、外科的に除去された腫瘍から組織試料が典型的に得られ、従来技術により試験のために調製されるだろう。あるいは、リンパ液、血液あるいは血清試料などの体液試料、または癌性臓器滲出液(例えば、胸部からの滲出液)などの滲出液が回収され、解析するための試料として使用されてもよい。白血病の場合、リンパ球または白血病細胞が得られ、適切に調製されるだろう。同様に、任意の転移性腫瘍の場合、細胞は、リンパ液、血液、血清または遠位に感染した臓器もしくはそれらの滲出液などの体液試料から得てもよい。
【0036】
本明細書において用いる場合、「転移」という用語は、最初の癌性腫瘍の臓器とは直結されていない臓器もしくは体の一部分における癌性腫瘍の成長を指す。転移は、最初の癌性腫瘍の臓器とは直結されていない臓器もしくは体の一部分における、検出できない量の癌性細胞の存在である微少転移も含むと理解される。転移はまた、最初の腫瘍部位からの癌細胞の離脱(departure)、および体の他の部分への癌細胞の遊走および/または浸潤などの、過程のいくつかの段階として定義することができる。それゆえ本発明は、最初の癌性腫瘍の臓器とは直結されていない臓器もしくは体の一部分における一以上の癌性腫瘍のさらなる成長の危険性、および/またはその成長へつながる過程における任意の段階を決定する方法を企図する。
【0037】
癌の「病状」は患者のウェルビーイング(well−being)を含む全ての現象を含む。これは、制限なく、異常もしくは制御不能な細胞増殖、転移、隣接細胞の正常機能への干渉、異常なレベルでのサイトカインもしくは他の分泌産物の放出、炎症性反応もしくは免疫反応の抑制もしくは激化、新生物(neoplasia)、前悪性腫瘍(premalignancy)、悪性腫瘍(malignancy)、リンパ節などの周囲のもしくは離れた組織もしくは臓器への浸潤、等を含む。
【0038】
本明細書において用いる場合、「癌の再発」および「腫瘍の再発」という用語ならびにそれらの文法的な変形は、癌の診断の後の、新生物性細胞または癌性細胞のさらなる増殖を指す。特に、再発はその癌性組織においてさらなる癌性細胞の増殖が起こるときに起こり得る。「腫瘍拡散」は同様に、腫瘍の細胞が局所的または遠位の組織および臓器へ広まる時に起こり;それゆえ、腫瘍拡散は腫瘍転移を引き起こす。
【0039】
「診断」という用語は本明細書において、乳癌、前立腺癌、または他種の癌の分子サブタイプの同定などの、分子状態もしくは病理学的状態、疾患または状態の同定を指すために使用される。
【0040】
「予後」という用語は本明細書において、肺癌、結腸癌、皮膚癌あるいは食道癌などの腫瘍性疾患の、再発、転移拡散および薬物耐性を含む、癌に起因する死あるいは進行の可能性の予測を指すために使用される。「予測」という用語は本明細書において、所見、経験または科学的推論に基づいて、予告するまたは評価する行為を指すために使用される。一例において、医師は、癌再発のない一定期間のための原発腫瘍の外科的除去および/または化学療法に続いて、患者が生存する可能性を予測することができる。
【0041】
本明細書において用いる場合、「無病生存」という語句は、患者の寿命への癌の影響に関して、かかる腫瘍の再発および/または拡散の欠如、および診断後の患者の運命を指す。「全生存」という語句は、患者における死因が直接的に癌の影響に起因しないという可能性があるにも関わらず、診断後の患者の運命を指す。「無病生存の可能性」、「再発のリスク」という語句およびそれらの変形は、本発明の方法に従って決定された、癌の診断の後の患者における腫瘍の再発または拡散の確率を指す。
【0042】
本明細書において用いる場合、「相関する」、「と相関する」という用語および同等の用語は、数、データセット等を含む、二つの事象の事例の間の統計的な関連性を指す。例えば、事象が数に関わる場合、正の相関(本明細書において「直接相関」ともいう)は、一方が増加するに従って他方も同様に増加することを意味する。負の相関(本明細書において「逆相関」ともいう)は、一方が増加するに従って他方が減少することを意味する。
【0043】
「単離された」という用語は、自然界においてそれに付随する成分の全てあるいはいくつかから、化合物が分離されることを意味するように意図される。「単離された」はまた、製造(例えば化学合成、組換え発現、細胞培養等)の間に、それに付随する成分の全てあるいはいくつかから分離された化合物(例えばタンパク質)の状態を指す。
【0044】
「生体試料」は個体から得られる様々な試料型を包含する。この定義は、血液ならびに生体起源の他の液体試料、生検材料などの固形組織試料、またはそれら由来の組織培養もしくは細胞およびそれらの子孫を包含する。この定義はまた、それらの入手後、試薬での処理;洗浄;または癌細胞などの特定の細胞集団のための濃縮(enrichment)などによって、何らかの操作をされた試料も含む。この定義はまた、特定の種類の分子、例えば核酸、ポリペプチド等のために濃縮された試料も含む。「生体試料」という用語は臨床試料を包含し、また外科的切除によって得られた組織、生検によって得られた組織、培養細胞、細胞上清、細胞溶解物、組織試料、臓器、骨髄、血液、血漿、血清等も含む。「生体試料」は、患者の癌細胞から得られた試料、例えば患者の癌細胞から得られたポリヌクレオチドおよび/またはポリペプチドを含む試料(例えばポリヌクレオチドおよび/またはポリペプチドを含む細胞上清または他の細胞抽出物);および患者からの癌細胞を含む試料を含む。患者からの癌細胞を含む生体試料は、非癌性細胞も含むことができる。
【0045】
具体的な実施形態の説明
本開示は、繊維状タンパク質を製造する方法および繊維状タンパク質を使用する治療方法に関する。前記治療方法は癌転移の抑制に関する。
【0046】
治療方法
癌転移を阻害するために、ある方法が本明細書において開示される。前記方法は、繊維状構造タンパク質の治療有効量を、必要とされる患者に投与することを含む。前記方法はさらに、タンパク質を供給する段階、および繊維状タンパク質の投与に先立ってタンパク質を繊維状構造へと変化させる段階を含みうる。繊維状タンパク質の投与は、腫瘍細胞の(例えば周囲の組織への)浸潤および/または遊走を阻害する。
【0047】
本方法は、ほ乳類対象における、特にヒトにおける、(癌予防および診断後の癌治療を含む)様々な癌治療における使用を見出す。腫瘍を有している、腫瘍を有している疑いのある、または、腫瘍発達の恐れがある対象は、本明細書において記載される治療を考慮される。
【0048】
本方法による抗癌治療は、特に、転移性または転移性になる危険性の高い癌性細胞を対象とする。このため、繊維状タンパク質は、他の組織における癌細胞の接着および浸潤に作用/予防するために治療的に使用されうる。
【0049】
例えば、本開示の方法によって阻害されうる癌転移は、腺癌(adenocarcinoma)を含む癌(carcinoma)、および、特に乳癌、前立腺腺癌ならびに卵巣腺癌を含むが、これらに限定されるものではない。治療されうる他の転移は、腎臓、肺、肝臓、皮膚(例えば黒色腫)、結腸、膵臓または頚部における癌性増殖から生じるものを含む。
【0050】
癌を治療するために使用される繊維状構造タンパク質は、アルブミン、フィブロネクチン、rVP1、rVP2、rVP3、P1またはVP1、VP2、VP3および/またはVP4からの一部分を含むキメラタンパク質であってもよい。アルブミンタンパク質は任意の対象の動物から得ることができる、例えばヒト血清アルブミン、ウシ血清アルブミン等。ある実施形態において、繊維状タンパク質はさらにAktシグナル経路を調節することによって癌細胞のアポトーシスを誘導する。いくつかの事例において、繊維状タンパク質は、Aktの失活を引き起こすインテグリンα5β1またはαvβ3を調節する。他の事例において、繊維状アルブミンはインテグリンへ結合し、FAK/Akt/GSK−3β/カスパーゼ−3経路を主に介して細胞のアポトーシスを引き起こす。
【0051】
上記で述べたように、本方法は、例えば癌性細胞の浸潤および遊走を抑制するために、繊維状タンパク質を対象(例えばヒト患者)へ投与することに関する。これは、繊維状タンパク質を投与されていない対象と比較して、癌の転移における減少を提供するために、本明細書において記載されるように、繊維状タンパク質を対象へ投与することによって達成されうる。本方法による治療は、再発の予防、癌細胞の遊走の減少、腫瘍サイズの減少、腫瘍細胞量(tumor load)の減少、および/または患者における臨床成績(clinical outcome)の改善、においてもまた有益でありうる。
【0052】
癌の種類
本明細書において企図される癌に関する方法は、例えば、抗癌転移治療としての繊維状タンパク質治療の使用を含む。前記方法は、転移することができる癌(例えば上皮性悪性腫瘍(carcinoma)および肉腫(sarcoma))などの、多種多様の癌を治療するまたは予防する局面において有益である。
【0053】
本明細書において開示される方法によって治療可能な上皮性悪性腫瘍(carcinoma)は、食道癌、肝細胞癌、基底細胞癌(皮膚癌の一種)、扁平上皮癌(様々な組織)、移行上皮癌(膀胱の悪性新生物) を含む膀胱癌、気管支癌、結腸癌、結腸直腸癌、胃癌、肺の小細胞癌および非小細胞癌を含む肺癌、副腎皮質癌、甲状腺癌、膵臓癌、乳癌、卵巣癌、前立腺癌、腺癌、汗腺癌、皮脂腺癌、乳頭癌、乳頭腺癌、嚢胞腺癌、髄様癌、腎細胞癌、非浸潤性乳管癌あるいは胆管癌、絨毛癌、精上皮腫、胎生期癌、ウィルムス腫瘍、子宮頚癌、子宮癌、精巣癌、骨原性癌(osteogenic carcinoma)、上皮癌および鼻咽頭癌を含むが、これらに限定されるものではない。
【0054】
本明細書において開示される方法によって治療可能な肉腫(sarcoma)は、繊維肉腫、粘液肉腫、脂肪肉腫、軟骨肉腫、脊索腫、骨原性肉種(osteogenic sarcoma)、骨肉腫(osteosarcoma)、血管肉腫、内皮肉腫、リンパ管肉腫、リンパ管内皮肉腫、滑膜腫、中皮腫、ユーイング肉腫、平滑筋肉腫、横紋筋肉腫および他の軟部組織肉腫を含むが、これらに限定されるものではない。
【0055】
本明細書において開示される方法によって治療可能な他の固形腫瘍は、神経膠腫、星状細胞腫、髄芽細胞腫、頭蓋咽頭腫、上衣腫、松果体腫、血管芽細胞腫、聴神経腫、乏突起膠腫、髄膜腫、黒色腫、神経芽細胞腫および網膜芽細胞腫を含むが、これらに限定されるものではない。
【0056】
本明細書において開示される方法に従って治療可能な他の癌は、異型性髄膜腫(脳)、島細胞癌(膵臓)、髄様癌(甲状腺)、間葉腫 (腸)、肝細胞癌(肝臓)、肝芽腫(肝臓)、明細胞癌(腎臓)および神経繊維腫縦隔(neurofibroma mediastinum)を含む。
【0057】
本明細書において開示される方法を使用する治療によって治療可能なさらなる例示的な癌は、神経外胚葉起源および上皮性起源の癌を含むが、これらに限定されるものではない。神経外胚葉起源の癌の例は、ユーイング肉腫、脊髄腫瘍、脳腫瘍、幼年期のテント上原始神経外胚葉性腫瘍(supratenbrial primative neuroectodermal tumors)、管状嚢胞性癌(tubulocystic carcinoma)、粘液管状紡錘細胞癌(mucinous tubular and spindle cell carcinoma)腎腫瘍、縦隔腫瘍、神経膠腫(neurogliomas)、神経芽細胞腫および若者および若年成人における肉腫を含むが、これらに限定されるものではない。上皮性起源の癌の例は、小細胞肺癌、乳房、眼水晶体(eye lens)、結腸、膵臓、腎臓、肝臓、卵巣および気管支上皮の癌を含むが、これらに限定されるものではない。
【0058】
他の癌治療との組み合わせ
繊維状タンパク質の治療的投与には、免疫療法、化学療法剤および外科手術(例えばさらに以下に記載されるようなもの)を含むが、これらに限定されるものではない、さらなる標準的な抗癌治療と併用しても併用しなくてもよい、治療計画の一部分としての投与が含まれる。
【0059】
さらに、繊維状タンパク質の治療的投与はまた、例えば、外科手術、放射線治療、化学療法剤の投与等である抗癌治療での、対象の治療後の処置でありうる。本開示の繊維状タンパク質を使用する癌治療は、免疫療法との組み合わせでも使用することができる。他の例において、繊維状タンパク質は、一以上の化学療法剤(例えばシクロフォスファミド、ドキソルビシン、ビンクリスチンおよびプレドニゾン(CHOP))との組み合わせ、および/または放射線治療との組み合わせおよび/または外科的介入(例えば、腫瘍を除去するための前−または後−外科手術)との組み合わせで投与することができる。繊維状タンパク質が外科的介入との組み合わせで投与される時、繊維状タンパク質は、癌性細胞の除去のための外科手術に先立って、同時に、または後に、投与することができ、全身的に、または手術部位で局所的に投与することができる。繊維状タンパク質単独または上記の組み合わせは、全身的に(例えば、非経口投与によって、例えば、静脈内注射によって)、または局所的に(例えば、局所腫瘍部位で、例えば腫瘍内投与(例えば、固形腫瘍内へ、リンパ腫または白血病において関係するリンパ節内へ)、固形腫瘍を供給する血管内への投与等によって)、投与することができる。
【0060】
任意の多種多様の抗癌治療が、本明細書において記載される繊維状タンパク質治療との組み合わせにおいて使用されうる。そのような癌治療は、外科手術(例えば癌性組織の外科的除去)、放射線治療、骨髄移植、化学療法、生体応答調節剤療法(biological response modifier treatment)および前述の特定の組み合わせを含む。
【0061】
放射線療法は、光線などの外部から適用される線源から、または小さな放射性線源の移植による、いずれかで送達されるX線またはガンマ線を含むが、これらに限定されるものではない。
【0062】
化学療法剤は、癌細胞の増殖を減少させる非ペプチド性(すなわち、非タンパク質性)の化合物であり、細胞毒性薬および細胞増殖抑制剤を包含する。化学療法剤の非限定的実施例は、アルキル化剤、ニトロソウレア、代謝拮抗剤、抗腫瘍性抗生物質、植物(ビンカ)アルカロイドおよびステロイドホルモンを含む。
【0063】
細胞増殖を減少させるように作用する薬剤は技術分野において知られており、広く使用されている。そのような薬剤は、メクロレタミン、シクロフォスファミド(サイトキサン商標)、メルファラン(L−サルコリシン)、カルムスチン(BCNU)、ロムスチン(CCNU)、セムスチン(メチル−CCNU)、ストレプトゾシン、クロロゾトシン、ウラシルマスタード、クロルメチン、イフォスファミド、クロラムブシル、ピポブロマン、トリエチレンメラミン、トリエチレンチオホスホルアミン、ブスルファン、ダカルバジンおよびテモゾロマイドを含むが、これらに限定されるものではない、ナイトロジェンマスタード、ニトロソウレア、エチレンイミン誘導体、アルキルスルホン酸およびトリアゼンなどのアルキル化剤を含む。
【0064】
代謝拮抗剤は、シタラビン(CYTOSAR−U)、シトシンアラビノシド、フルオロウラシル(5−FU)、フロクスウリジン(FudR)、6−チオグアニン、6−メルカプトプリン(6−MP)、ペントスタチン、5−フルオロウラシル(5−FU)、メトトレキサート、10−プロパルギル−5,8−ジデアザ葉酸(PDDF、CB3717)、5,8−ジデアザテトラヒドロ葉酸(DDATHF)、ロイコボリン、リン酸フルダラビン、ペントスタチンおよびゲムシタビンを含むが、これらに限定されるものではない、葉酸アナログ、ピリミジンアナログ、プリンアナログおよびアデノシンデアミナーゼ阻害剤を含む。
【0065】
適した天然物およびそれらの誘導体(例えば、ビンカアルカロイド、抗腫瘍性抗生物質、酵素、リンホカイン、およびエピポドフィロトキシン)は、アラ−C、パクリタキセル(タキソール登録商標)、ドセタキセル(タキソテール登録商標)、デオキシコホルマイシン、マイトマイシンC、L−アスパラギナーゼ、アザチオプリン;ブレキナール;アルカロイド、例えばビンクリスチン、ビンブラスチン、ビノレルビン、ビンデシン等;ポドフィロトキシン、例えばエトポシド、テニポシド等;抗生物質、例えばアントラサイクリン、塩酸ダウノルビシン(ダウノマイシン、ルビドマイシン、セルビジン)、イダルビシン、ドキソルビシン、エピルビシンおよびモルフォリノ誘導体等;フェノキシゾンビスシクロペプチド、例えばダクチノマイシン;塩基性糖ペプチド、例えばブレオマイシン;アントラキノン配糖体、例えばプリカマイシン(ミトラマイシン);アントラセンジオン、例えば、ミトキサントロン;アジリノピロロインドールジオン、例えば、マイトマイシン;大環状免疫抑制薬、例えば、シクロスポリン、FK−506(タクロリムス、プログラフ)、ラパマイシン等;等を含むが、これらに限定されるものではない。
【0066】
他の抗増殖性細胞毒性薬は、ナベルベン、CPT−11、アナストラゾール、レトラゾール、カペシタビン、レロキサフィン、シクロフォスファミド、イフォスファミド、およびドロロキサフィンである。
【0067】
抗増殖性活性を有する微小管作用薬もまた使用に適し、アロコルヒチン(NSC 406042)、ハリコンドリンB(NSC 609395)、コルヒチン(NSC 757)、コルヒチン誘導体(例えば、NSC 33410)、ドルスタチン 10(NSC 376128)、メイタンシン(NSC 153858)、リゾキシン(NSC 332598)、パクリタキセル(タキソール登録商標)、タキソール登録商標誘導体、ドセタキセル(タキソテール登録商標)、チオコルヒチン(NSC 361792)、トリチルシステリン(trityl cysterin)、硫酸ビンブラスチン、硫酸ビンクリスチン、エポチロンA、エポチロンB、ディスコデルモリドを含むが、これらに限定されるものではない天然および合成エポチロン;エストラムスチン、ノコダゾール等を含むが、これらに限定されるものではない。
【0068】
使用に適したホルモン調節物質および(合成アナログを含む)ステロイドは、アドレノコルチコステロイド、例えば、プレドニゾン、デキサメタゾン等;エストロゲンおよびプレゲスチン、例えば、カプロン酸ヒドロキシプロゲステロン、酢酸メドロキシプロゲステロン、酢酸メゲストロール、エストラジオール、クロミフェン、タモキシフェン;等;ならびに副腎皮質抑制薬、例えば、アミノグルテチミド;17α−エチニルエストラジオール;ジエチルスチルベストロール、テストステロン、フルオキシメステロン、プロピオン酸ドロモスタノロン、テストラクトン、メチルプレドニゾロン、メチル-テストステロン、プレドニゾロン、トリアムシノロン、クロロトリアニセン、ヒドロキシプロゲステロン、アミノグルテチミド、エストラムスチン、酢酸メドロキシプロゲステロン、ロイプロリド、フルタミド(ドロゲニル)、トレミフェン(フェアストン)、およびゾラデックス登録商標を含むが、これらに限定されるものではない。エストロゲンは、増殖および分化を刺激し、そのため、エストロゲン受容体に結合する化合物が本活性を遮断するために使用される。コルチコステロイドは、T細胞増殖を阻害しうる。
【0069】
他の化学療法剤は、金属複合体、例えば、シスプラチン(シス−DDP)、カルボプラチン等;尿素、例えば、ヒドロキシ尿素;およびヒドラジン、例えば、N−メチルヒドラジン;エピドフィロトキシン;トポイソメラーゼ阻害剤;プロカルバジン;ミトキサントロン;ロイコボリン;テガフール;等を含む。他の対象の抗増殖薬は、免疫抑制薬、例えば、ミコフェノール酸、サリドマイド、デスオキシスパガリン、アザスポリン、レフルノミド、ミゾリビン、アザスピラン(SKF 105685);イレッサ登録商標(ZD 1839、4−(3−クロロ−4−フルオロフェニルアミノ)−7−メトキシ−6−(3−(4−モルホリニル)プロポキシ)キナゾリン);等を含む。
【0070】
「タキサン」は、パクリタキセル、および任意の活性タキサン誘導体またはプロドラッグを含む。(本明細書において、例えば、ドセタキセル、タキソール、タキソテール(ドセタキセルの製剤)、パクリタキセルの10−デスアセチルアナログ、およびパクリタキセルの3’N−デスベンゾイル−3’N−t−ブトキシカルボニルアナログなどのアナログ、製剤、および誘導体を含むように理解されるべきである)「パクリタキセル」は、当業者に公知である技術を利用して容易に調製されうる。
【0071】
パクリタキセルは、一般的な化学的に入手可能なパクリタキセルの形態だけでなく、アナログおよび誘導体(例えば、上記で言及されたようなタキソテール商標ドセタキセル)およびパクリタキセルコンジュゲート(例えば、パクリタキセル−PEG、パクリタキセル−デキストラン、またはパクリタキセル−キシロース)も指すと理解されるべきである。
【0072】
本開示の方法によるいくつかの個体の治療において、非悪性細胞のための救援薬(rescue agent)とともに高用量療法を用いることが望ましい。そのような治療において、シトロボラム因子、葉酸誘導体またはロイコボリンなどの、非悪性細胞を救援できる任意の薬剤を使用することができる。そのような救援薬は、当業者によく知られている。救援薬は、細胞機能を調節する本発明の化合物の能力を妨げないものを含む。
【0073】
繊維状タンパク質の投与
繊維状タンパク質の投与は、腫瘍内、静脈内、皮内、皮下、経口(例えば吸入)、経皮(例えば局所)、経粘膜、腹腔内、動脈内、および直腸投与を含む、体の異なる部分への様々な方法を介して達成することができる。他の適した経路は、経口的に、口腔に、経鼻的に、鼻咽頭に(nasopharyngeally)、非経口的に、経腸的に、胃に(gastrically)、局所的に、経皮的に、皮下に、筋肉内に、錠剤、固体、粉末状、液体、エアゾールの形状で、腫瘍中への病巣内注射、腫瘍に隣接する病巣内注射、静脈内注入および動脈内注入での、組成物の投与を含む。投与は、局所的または全身的にされてもよく、賦形剤を添加してもしなくてもよい。投与はまた、対象の腫瘍部位で、または腫瘍部位の周りで、徐放性様式(slow release mode)で行うことができる。
【0074】
当業者は、本開示の製剤を、対象または宿主、例えば必要とされる患者へ投与する様々な適した方法が利用できること、および、特定の製剤を投与するために一以上の経路が使用できるが、ある特定の経路が別の経路よりもより即効性かつより効果的な反応を提供できることを、十分理解するであろう。
【0075】
「治療有効量」という語句は、任意の治療法に適用できる妥当な便益/危険比(benefit/risk ratio)で、いくつかの所望の効果を生じる量を指す。有効量は、治療される疾患および状態、投与される特定の標的化された構築体(targeted constructs)、対象の大きさ、または疾患および状態の重篤度などの因子に依存して変動してもよい。当業者は、特定の化合物の有効量を、必要以上の実験を必要とせずに、経験的に決定することができるだろう。
【0076】
例示的な実施態様によると、タンパク質が、以下、より詳細に記載される組成物の一部分として投与されうる。組成物は、粉末、クリーム、ゲル、軟膏、膏薬、溶液、錠剤、カプセル、スプレーおよびパッチを含む様々な形状であってもよい。媒体および担体が患者への組成物の送達のために使用されてもよい。そのような担体は、可溶化剤、希釈剤および分散媒(dispersion media)を含む。これらの担体は、生体適合性であり、医薬上許容され、繊維状タンパク質の治療特性を変えない。賦形剤、アジュバント、および他の成分もまた組成物中に含まれてもよい。
【0077】
用量
本方法において、繊維状タンパク質の有効量が、必要とされる患者に投与される。とりわけ、特に重要な繊維状タンパク質は、繊維状タンパク質が治療有効量で投与される時、宿主において癌の転移を阻害するものである。投与される量は、投与の目標、治療される個体の健康状態および身体状態、年齢、治療される個体の分類群(例えば、ヒト、ヒト以外霊長類、霊長類、等)、所望の解消度(degree of resolution)、繊維状タンパク質組成物の製剤、治療する臨床医の医学的状況の評価、および他の関連する要因に依存して変動する。量は、ルーチンの試験を通して決定することができる比較的広い範囲に収まる(fall)ことが予想される。例えば、癌転移を阻害するために採用される繊維状タンパク質の量は、対象にとって不可逆的に毒性となりかねない量(すなわち、最大耐量)より多くない。他の場合、量は、毒性閾値の近くまたはそれを十分に下回るが、まだ免疫効果的濃度範囲にあるか、または閾値用量程度に低い。
【0078】
個別の量は、典型的には、対象に対する測定可能な効果を生じるために必要とされる量以上であり、繊維状タンパク質またはその副産物の吸収、分布、代謝および排泄(「ADME」)に関する薬物動態および薬効薬理に基づいて、それゆえ、対象内での組成物の体内動態に基づいて、決定することができる。これは、投与経路ならびに(主として局所効果のために作用が望まれる部位に直接適用される) 局所適用、(消化管の一部に保持されているときに全身または局所効果を得るために消化管を経て適用する)経腸適用、または、(全身的効果あるいは局所効果のために消化管以外の経路によって適用される)非経口適用について調整することができる投与量の考慮を含む。例えば、繊維状タンパク質の投与は典型的には注射を介し、多くの場合、静脈内、筋肉内、腫瘍内またはそれらの組み合わせである。
【0079】
繊維状タンパク質は点滴(infusion)によって、または局所注射によって投与することができ、例えば、約75mg/時から約375mg/時、約100mg/時から約350mg/時、約150mg/時から約350mg/時、約200mg/時から約300mg/時、約225mg/時から約275mg/時を含む、約50mg/時から約400mg/時の速度での点滴による。点滴の例示速度は、例えば、約1mg/m2/日から約9mg/m2/日、約2mg/m2/日から約8mg/m2/日、約3mg/m2/日から約7mg/m2/日、約4mg/m2/日から約6mg/m2/日、約4.5mg/m2/日から約5.5mg/m2/日を含む、約0.5mg/m2/日から約10mg/m2/日の所望の治療量を達成することができる。(例えば、点滴による)投与は所望の期間の間、例えば、約1日から約5日の間、または数日、例えば約5日、おきに1回、約1ヶ月を超えて、約2ヶ月を超えて、等、繰り返すことができる。また、癌性細胞の除去のための外科的介入などの他の治療的介入の前に、同時に、後に、投与することもできる。繊維状タンパク質は、少なくとも一つの免疫療法、癌化学療法、または放射線治療が対象へ行われる、組み合わせ治療の一部分として投与することもできる(より詳細は以下に記載される通り)。
【0080】
繊維状タンパク質の体内動態およびそれに対応する対象内での生物活性は、典型的に、対象の標的で存在している繊維状タンパク質の画分(fraction)に対して測定される。例えば、一度投与された繊維状タンパク質は、癌細胞および癌性組織において物質を蓄積させる糖複合体またはその他の生物標的と共に蓄積することができる。それゆえ、対象の標的内で徐々に蓄積するように繊維状タンパク質を投与する投与計画(dosing regimen)は、より少ない個別量を可能にさせるための戦略の一部分となりうる。これはまた、例えば、インビボでより緩やかに除去される(cleared)繊維状タンパク質の量を、インビトロアッセイから計算される有効濃度に比べて低くすることができる、ということも意味している(例えば、インビトロでの有効量はmM濃度に近く、インビボではmM濃度より低い)。
【0081】
一例として、用量または投与計画の有効量は、細胞遊走を阻害することに対する提供される繊維状タンパク質のIC50から判断されうる。「IC50」によって、インビトロでの50%の阻害のために必要とされる薬剤の濃度が意図される。あるいは、有効量は提供される繊維状タンパク質のEC50から判断されうる。「EC50」によって、インビボで最大効果の50%を得るために必要とされる血漿濃度が意図される。関連する実施形態において、用量はED50(有効薬量)に基づいて決定されてもよい。
【0082】
一般的に、本開示の繊維状タンパク質に関して、有効量は通常計算されたIC50の200×以下である。典型的に、投与される繊維状タンパク質の量は、計算されたIC50より、約200×より少なく、約150×より少なく、約100×より少なく、および、多くの実施形態は、約75×より少なく、約60×、50×、45×、40×、35×、30×、25×、20×、15×、10×より少なく、および、約8×または2×より少なくさえある。一の実施形態において、有効量は、計算されたIC50の約1×から50×であり、かつ、時として、計算されたIC50の約2×から40×、約3×から30×または約4×から20×である。他の実施形態において、有効量は計算されたIC50と同じであり、特定の実施形態において、有効量は計算されたIC50よりも多い量である。
【0083】
有効量は計算されたEC50の100×以下であってもよい。例えば、投与される繊維状タンパク質の量は、計算されたEC50より、約100×より少なく、約50×より少なく、約40×、35×、30×、または25×より少なく、および、多くの実施形態は、約20×より少なく、約15×より少なく、および約10×、9×、8×、7×、6×、5×、4×、3×、2×もしくは1×より少なくさえある。有効量は計算されたEC50の約1×から30×であってもよく、時として、計算されたEC50の約1×から20×、または約1×から10×であってもよい。有効量は計算されたEC50と同じであり、または計算されたEC50よりも多い量である。IC50はインビトロでの細胞遊走/浸潤を阻害することによって計算することができる。その方法は、技術分野において知られている方法または以下の実施例において記載される通りに実行される。
【0084】
用量および/または投与計画の有効量は、アッセイから、安全性試験および漸増(escalation)試験および用量設定試験、個々の臨床医−患者信頼関係、ならびに本明細書において記載され、以下の実施例の項で示されるようなインビトロおよびインビボアッセイから、実験的に容易に決定することができる。例えば、マウスにおいて本方法を実行するために使用される濃度は、マウスの体重に基づき、約1mg/kgから約25mg/kgの範囲である。このデータに基づき、ヒトにおいて採用されうる繊維状タンパク質の濃度は、約0.083mg/kgから約2.08mg/kgの範囲である。他の量は、技術分野において知られている方法を使用する動物モデルでの実験から決定することができる(Reagan−Shawら、(2007) The FASEB Journal 22:659−661)。
【0085】
医薬製剤
上述の治療方法において採用される繊維状タンパク質を含有する医薬組成物もまた提供される。「繊維状タンパク質組成物」という用語は、便宜上、本開示の繊維状タンパク質を含む組成物、コンジュゲート化繊維状タンパク質を含む組成物、またはその両方を総称的に指すために、本明細書において使用される。癌細胞の成長および/または転移の抑制に有益な組成物は以下に記載される。
【0086】
繊維状タンパク質組成物、例えば医薬上許容される塩の形状、は、上述の通り、経口、局所、または非経口投与のために製剤化されうる。ある実施形態において、例えば、繊維状タンパク質が(静脈内または直接的に組織内へ投与される実施態様において、など)液体注射剤として投与される場合、繊維状タンパク質組成物はすぐに使用できる剤形として、または、医薬上許容される担体および賦形剤から構成される再構成可能な保存安定性の粉末もしくは液体として、提供される。
【0087】
対象(例えば、ヒト対象)への投与のために適した繊維状タンパク質を生産する方法が以下、および出典明示によりその開示が組み込まれる、米国特許公開第2008/0300186号において記載される。繊維状タンパク質を製剤化する例示方法は、繊維状タンパク質の有効量および、薬学的賦形剤(例えば、生理食塩水)を含有する医薬組成物に関する。医薬組成物は任意に他の添加剤(例えば、バッファー、安定化剤、保存剤、等)を含有してもよい。繊維状タンパク質の有効量は癌転移(例えば癌の遊走/浸潤)の減少を提供するための効果的な量でありうる。治療目標(例えば、腫瘍細胞量の減少および/または腫瘍性成長の限局(confinement))は、様々な投与計画の下、単回投与もしくは複数回投与によって達成されうる。
【0088】
医薬製剤における繊維状タンパク質の濃度は、約0.1重量%未満、通常は約2重量%もしくは少なくとも約2重量%から、20重量%から50重量%以上へと変動させることができ、選択された投与の特定の様式および患者の要求に従って、第一に液量、粘度等により、選択されるであろう。得られる組成物は、溶液、懸濁液、錠剤、ピル、カプセル、粉末、ゲル、クリーム、ローション、膏薬、エアゾール等の形状であってもよい。非経口投与可能な組成物の調製のための実際の方法は、当業者に周知または自明であり、Remington’s Pharmaceutical Science, 18th ed., Mack Publishing Company, NY (1995)などの刊行物に、より詳細に記載されている。
【0089】
本開示の別の実施態様によると、繊維状HSAが、さらなる活性薬剤、担体、媒体、賦形剤または本発明を読んだ上で当業者が特定できる助剤と共に、医薬組成物または栄養組成物(nutraceutical compositions)に含有される。
【0090】
医薬組成物または栄養組成物は、好ましくは少なくとも一つの医薬上許容される担体を含む。そのような医薬組成物において、繊維状HSAまたは繊維状HSAの同等形態(equivalent forms)の「活性化合物」もまた、「活性薬剤」と呼ばれる。本明細書において用いる場合、「医薬上許容される担体」という用語は、薬剤投与に適合する、溶剤、分散媒、コーティング、抗菌薬および抗真菌薬、等張化剤および吸収遅延剤等を含む。補助的活性化合物もまた組成物へ組み込まれうる。医薬組成物は、意図される投与経路に適合するように製剤化される。投与経路の例は、非経口、例えば静脈内、皮内、皮下、経口(例えば、吸入)、経皮(局所)、経粘膜、および直腸投与を含む。非経口、皮内または皮下適用に使用される溶液または懸濁液は、以下の成分:注射用水などの無菌の希釈剤、食塩水、固定油、ポリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、または他の合成溶媒;ベンジルアルコールまたはメチルパラベンなどの抗菌剤;アスコルビン酸または亜硫酸ナトリウムなどの酸化防止剤;エチレンジアミン四酢酸などのキレート剤;酢酸塩、クエン酸塩あるいはリン酸塩などのバッファー、および塩化ナトリウムまたはデキストロースなどの等張化剤、を含むことができる。pHは、塩酸または水酸化ナトリウムなどの酸または塩基で調整することができる。非経口製剤は、アンプル、使い捨てシリンジ、またはガラスあるいはプラスチックで作られた複数回投与用バイアル内に封入することができる。
【0091】
注射用途のために適した医薬組成物は、(水溶性の)無菌水溶液または分散液および、無菌の注射用溶液または分散液の即時調製のための無菌粉末を含む。静脈内投与のための、適した担体は、生理学的食塩水、静菌性の水、Cremophor商標 EL (BASF, Parsippany, N.J.)またはリン酸緩衝生理食塩水(PBS)を含む。全ての場合において、組成物は無菌的でなくてはならず、容易な注射針通過性(syringability)が存在する程度にまで流動性であるべきである。それは、製造条件および保存条件下で安定していなければならず、細菌および真菌などの微生物の汚染(contaminating)作用から保護されていなければならない。担体は、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、および液体ポリエチレングリコール、等)およびそれらの適した混合物を含む、溶媒または分散媒であってもよい。適切な流動性は、例えば、レクチンなどのコーティングの使用により、分散液の場合には必要な粒子サイズの維持により、およびサーファクタント(surfactant)の使用により、維持できる。微生物の活動の阻止は、様々な抗菌薬および抗真菌薬、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、アスコルビン酸、チメロサール等によって達成することができる。実施形態によると、組成物中に等張剤、例えば、糖、マンニトール、ソルビトールなどのポリアルコール、塩化ナトリウムが添加される。注射用組成物の持続的吸収は、吸収遅延剤、例えば、モノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチンを組成物中に含むことによってもたらされる。
【0092】
無菌の注射用溶液は、単独または上に列挙される成分との組み合わせで、適切な溶媒に必要とされる量の活性化合物を組み込むことによって、必要であれば続いて濾過滅菌して、調製することができる。一般的に、分散液は、基本的な分散媒および上に列挙されるものから必要とされる他の成分を含む、無菌の媒体中へ活性化合物を組み込むことにより調製される。無菌の注射用溶液の調製のための無菌粉末の場合、調製物は、あらかじめ無菌−濾過されたその溶液から、有効成分(active ingredient)および任意の追加的な所望の成分の粉末を得る、真空乾燥または凍結乾燥によって調製される。
【0093】
経口的に投与される場合、繊維状タンパク質は消化から保護されるべきであると認識される。これは、典型的に、繊維状タンパク質を酸加水分解および酵素的加水分解へ耐性の状態にする組成物との複合体にすること、またはリポソームなどの適切に耐性である担体内へパッケージングすることのいずれかによって達成される。消化から対象の化合物を保護する手段は、技術分野において周知である。
【0094】
経口組成物は一般的に、不活性希釈剤または食用の担体を含む。経口治療的投与の目的のために、活性化合物を賦形剤と共に組み込むことができ、錠剤、トローチ、またはカプセル、例えばゼラチンカプセルの形状で使用することができる。経口組成物はまた、口内洗浄液としての使用のため液体担体を使用して調製することができる。医薬適合性(pharmaceutically compatible)結合剤、またはアジュバント物質は組成物の一部分として含むことができる。錠剤、ピル、カプセル、トローチ等は以下の成分または同様の性質の化合物:微結晶セルロース、トラガカントガム、もしくはゼラチンなどの結合剤;デンプンもしくは乳糖などの賦形剤;アルギン酸、プリモゲル(Primogel)、もしくはコーンスターチなどの崩壊剤;ステアリン酸マグネシウムもしくはステロート(Sterote)などの滑沢剤;コロイド状二酸化ケイ素などの流動促進剤;ショ糖もしくはサッカリンなどの甘味剤;またはペパーミント、サリチル酸メチル、もしくはイチゴ、サクランボ、ブドウ、レモンあるいはオレンジのフレーバーなどの着香剤(flavoring agent)、のいずれかを含有することができる。
【0095】
吸入による投与のため、化合物は、適した噴射剤、例えば二酸化炭素などのガス、を含有する加圧容器もしくはディスペンサー、またはネブライザー(nebulizer)からの、エアゾールスプレーの形状で送達される。
【0096】
血中半減期を増強するために、注射される繊維状タンパク質製剤はまた、カプセルに包まれ、リポソームの内腔へ導入され、コロイドとして調製され、ペグ化されてもよく(Greenwaldら (2003) Advanced Drug Delivery Rev. 55:217−250; Pasutら (2004) Expert Opin. Ther. Patents 14:859−894)、また延長した血中半減期を提供する他の従来技術が採用されてもよい。様々な方法が、例えば、Szokaら (1980) Ann. Rev. Biophys. Bioeng. 9:467、米国特許第4,235,871号、第4,501,728号および第4,837,028号に記載されるように、リポソームを調製するために利用できる。製剤は、混合物または連続的な方法として繊維状タンパク質組成物の放出および投与のために制御放出あるいは徐放性の形状で、提供されてもよい。
【0097】
実施態様によると、硝子体内注射は、PLGAベースのマイクロ粒子またはナノ粒子(リポソーム)を使用して達成される。PEGベースの形状もまた使用できる。従って、注射用医薬組成物のための他の方法は、硝子体内注射のため特に企図される。
【0098】
全身性投与はまた、経粘膜的または経皮的にすることができる。経粘膜投与または経皮投与について、透過されるバリアに適した浸透剤が製剤中で使用される。そのような浸透剤は技術分野において一般的に知られており、例えば、経粘膜投与の場合、界面活性剤、胆汁酸塩、およびフシジン酸誘導体を含む。経粘膜投与は鼻腔用スプレーまたは坐薬を介して達成されうる。経皮投与のため、活性化合物は、技術分野において一般に知られているように、膏薬、軟膏、ゲル、又はクリームに配合される。化合物はまた、直腸送達のため、(例えば、ココアバターおよび他のグリセリドなどの従来の坐薬基剤と共に)坐薬または滞留性浣腸剤(retention enemas)の形状で調製されてもよい。
【0099】
他の送達の形状に加えて、化合物は点眼薬または眼内注射を介して送達可能である。点眼薬に関して、本開示の組成物は、必要に応じて、目または鼻への局所適用向きの一以上の賦形剤を含む。溶液またはスプレーなどの、目への局所適用向きの医薬組成物において一般的に使用される賦形剤は、等張化剤、保存剤、キレート剤、緩衝剤、サーファクタント、および酸化防止剤を含むが、これらに限定されるものではない。適した張度調整剤(tonicity−adjusting agent)は、マンニトール、塩化ナトリウム、グリセリン、ソルビトール等を含む。適した保存剤は、パラヒドロキシ安息香酸エステル、塩化ベンザルコニウム、臭化ベンゾドデシニウム、ポリクアテルニウム−1(polyquaternium−1)等を含む。適したキレート剤はエデト酸ナトリウム等を含む。適した緩衝剤は、リン酸塩、ホウ酸塩、クエン酸塩、酢酸塩等を含む。適したサーファクタントはイオン性サーファクタントまたは非イオン性サーファクタントを含むが、ポリソルベート、ポリエトキシル化ヒマシ油誘導体およびオキシエチル化ターシャリーオクチルフェノールホルムアルデヒドポリマー(チロキサポール)などの非イオン性界面活性剤が好ましい。適した酸化防止剤は、亜硫酸塩、アスコルビン酸塩、BHAおよびBHTを含む。本開示の組成物は、必要に応じて、さらなる活性薬剤を含む。保存剤の成分(例えば、ポリクオタニウム−1)を除いて、本開示の組成物は、好ましくは、ポリビニルピロリドンまたはポリスチレンスルホン酸以外のいずれのポリマー成分も含まない。
【0100】
本開示の組成物がポリビニルピロリドンを含む場合、このポリビニルピロリドン成分は、好ましくは、過酸化物含有量を最小にするように選択されるかまたは処理される。新たに生産されたポリビニルピロリドンのバッチは、古いバッチより好ましい。さらに、特に組成物が0.5%より多くのポリビニルピロリドンを含む場合、ポリビニルピロリドン成分は、ポリビニルピロリドン成分中の過酸化物の量を減らし、オロパタジン(olopatadine)の化学的安定性に対する過酸化物の影響を最小にするために、オロパタジンと混合する前に、熱処理される(すなわち、室温より高い温度に加熱される)べきである。ポリビニルピロリドンの水溶液を、長期の期間、熱処理することは、過酸化物の量を実質的に減少させる一方、ポリビニルピロリドン溶液の変色(黄色から黄褐色)を導きうる。ポリビニルピロリドン溶液の変色を伴わずに過酸化物を実質的に減少させるかまたは除去するために、ポリビニルピロリドンの水溶液のpHは、熱に供される前に、pH11−13に調整されるべきである。ポリビニルピロリドン溶液のpHが上昇された場合、過酸化物レベルの有意な減少を達成するために、非常により短い加熱時間しか必要でない。
【0101】
ポリビニルピロリドン成分を熱処理する一つの適した方法は以下の通りである。第一に、ポリビニルピロリドン成分を精製水に溶解して4−6%溶液を作製し、次いで、この溶液のpHをpH11−13(効果的なpHの範囲は11−11.5)に上昇させ、次いで、60−121℃、好ましくは65−80℃、最も好ましくは70−75℃の範囲内の温度に加熱する。上昇された温度は、約30−120分間(好ましくは30分間)維持されるべきである。加熱された溶液が室温まで冷えた後、オロパタジン組成物に対する標的pHに依存して、HClを添加してpHを3.5−8に調整する。
【0102】
特に、点眼薬として投与されることが意図される組成物について、この組成物は、好ましくは、最終組成物が目に受容可能な浸透圧(一般的に150−450mOsm、好ましくは250−350mOsm)を有するために、十分な量の張度調整剤(tonicity−adjusting agent)を含有する。本開示の眼用組成物は、4−8のpH、好ましくは6.5−7.5のpH、最も好ましくは6.8−7.2のpHを有する。
【0103】
本開示の点眼薬組成物は、好ましくは、不透明なプラスチック容器に詰められる。眼用製品について好ましい容器は、γ線照射の代わりにエチレンオキシドを使用して滅菌された低密度ポリエチレン容器である。
【0104】
眼科用注射剤(ophthalmic injectables)に関して、この発明の医薬組成物は結膜下投与によって治療が必要とされる領域へ投与される。目への結膜下投与の一つの好ましい方法は、本明細書において開示されている医薬組成物を含む注射製剤による。結膜下投与の別の好ましい方法は、徐放性組成物を含む移植による。
【0105】
結膜下へ投与される組成物は、実施態様によると、結膜下投与のための活性薬剤を含む眼科用デポ製剤(ophthalmic depot formulations)を含む。実施態様によると、眼科用デポ製剤は本質的に純粋な(essentially pure)活性薬剤のマイクロ粒子を含む。含んでいるマイクロ粒子は、生体適合性の医薬上許容されるポリマーまたは脂質封入剤内に包埋することができる。デポ製剤は、長期間にわたって全部または実質上全部の活性物質を放出するために採用することができる。ポリマーまたは脂質マトリックスは、もし存在するのであれば、全部または実質上全部の活性物質の放出の後、投与部位から輸送されるのに十分分解するために採用されてもよい。デポ製剤は、医薬上許容されるポリマーおよび溶解または分散された活性薬剤を含む液体製剤であってもよい。注射の際、例えば、ゲル化(gelifying)または沈殿によって、ポリマーは注射部位に貯留(depot)を形成する。
【0106】
眼内移植へ適した固形物(solid article)はまた、ポリマーを含むそのような型に設計することができ、生体内分解性または生体内非分解性でありうる。本開示の組成物を運ぶ眼内移植の製剤において使用される生体内分解性のポリマーは、ポリ(グリコライド)、ポリ(ラクチド)、ポリ(ε−カプロラクトン)、ポリ(ヒドロキシ酪酸)、およびポリ(ヒドロキシ吉草酸)のポリマーおよびコポリマー(共重合体)などの脂肪族ポリエステル、ポリアミノ酸、ポリオルトエステル、ポリ酸無水物、脂肪族ポリカーボネートおよびポリエーテルラクトンを、制限無く含む。適した生体内非分解性ポリマーの事例はシリコンエラストマーである。
【0107】
実施形態によると、活性薬剤は、移植およびマイクロカプセル化送達システムを含む、制御放出製剤などの、身体からの急速な除去に対して化合物を保護する担体と調製される。エチレン酢酸ビニル、ポリ酸無水物、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリオルトエステル、およびポリ乳酸などの、生分解性、生体適合性のポリマーが使用されうる。そのような製剤の調製方法は当業者にとって明らかであろう。材料はまた、Alza CorporationおよびNova Pharmaceuticals, Inc.から市販で得ることができる。(細胞特異的抗原へのモノクローナル抗体を備え感染細胞に標的化されたリポソームを含む)リポソーム懸濁液もまた、医薬上許容される担体として使用することができる。
【0108】
繊維状タンパク質は単一の医薬品製剤(single pharmaceutical formulation)として投与されうる。それはまた、他の適した化合物および担体を含み、他の活性薬剤と組み合わせて使用することができる別の薬剤の有効量と共に投与されてもよい。本開示はそれゆえ、医薬上許容される賦形剤を含む医薬組成物もまた含む。
【0109】
医薬上許容される賦形剤は、例えば、任意の適した媒体、アジュバント、担体または希釈剤を含み、一般に容易に入手できる。本開示の医薬組成物はまたさらに、技術分野において周知である他の活性薬剤を含むことができる。医薬上許容される賦形剤は、当業者にとって周知であり、容易に入手できる。
【0110】
例えば、繊維状タンパク質組成物は、従来の医薬上許容される担体および賦形剤(すなわち媒体)と混ぜることができ、水溶液、錠剤、カプセル、エリキシル剤、懸濁液、シロップ、ウェハ、パッチ等の形状で使用できるが、通常、繊維状タンパク質は注射剤として提供される。医薬組成物は、コーンスターチまたはゼラチン、乳糖、デキストロース、ショ糖、微結晶セルロース、カオリン、マンニトール、リン酸二カルシウム、塩化ナトリウム、およびアルギン酸などの一般的な担体および賦形剤を含むことができる。製剤中で一般に使用される崩壊剤(disintegrator)は、クロスカルメロース、微結晶セルロース、コーンスターチ、デンプングリコール酸ナトリウム、およびアルギン酸を含む。保存剤等も含まれうる。これらの各成分は技術分野において周知である。そのような医薬組成物は、特定の実施態様において、約0.1重量%から約90重量%の活性薬剤を、より一般的には約1重量%から約30重量%の活性薬剤を含有する。その開示が出典明示により本明細書に組み込まれる、米国特許第5,985,310号を参照されたい。
【0111】
繊維状タンパク質組成物は、水溶液、多くの場合、食塩水、などの溶液である医薬上許容される賦形剤中で提供されてもよく、または粉末形状で提供されてもよい。繊維状タンパク質組成物は、医薬品グレードのマンニトール、乳糖、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、サッカリンナトリウム、タルカム(talcum)、セルロース、ブドウ糖、ショ糖、マグネシウム、炭酸塩等の他の成分を含むことができる。組成物は、生理的状態に近づくように、pH調整剤およびpH緩衝剤、毒性調整剤等、例えば、酢酸ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、乳酸ナトリウム等、などの医薬上許容される補助物質を含むことができる。
【0112】
賦形剤の選択は、組成物を投与するために使用される特定の方法によって、および、特定の化合物によって、決定される部分があるだろう。従って、本開示の医薬組成物の適した製剤は多種多様にある。以下の方法および賦形剤は単に例示的にすぎず、決して限定されるものではない。
【0113】
液体組成物は一般的に、懸濁剤、保存剤、サーファクタント、湿潤剤、着香剤(flavoring agent)または着色剤を備える、適した液体担体、例えば、エタノール、グリセリン、ソルビトール、ポリエチレングリコールなどの非水溶性溶媒、油、または水における、化合物または医薬上許容される塩の懸濁液または溶液から構成される。あるいは、液体製剤は再構成可能な粉末(reconstitutable powder)から調製することができる。
【0114】
非経口投与に適した製剤には、酸化防止剤、バッファー、静菌薬、および対象とする受容者(recipient)の血液と製剤とを等張にする溶質を含有することができ、水溶性および非水溶性の等張無菌注射溶液、および、懸濁剤、可溶化剤、増粘剤、安定化剤、および保存剤を含むことができる、水溶性および非水溶性の無菌懸濁液が含まれる。製剤は、アンプルおよびバイアルなどの単位用量または複数回用量の気密容器で提供することができ、使用直前に注射のため、無菌液体賦形剤、例えば水、の添加のみを必要とするフリーズドライ(凍結乾燥)状態で保存することができる。即時注射(extemporaneous injection)溶液または懸濁液は、上述した種類の無菌粉末、顆粒、および錠剤から調製することができる。
【0115】
非経口的に与えられた際に活性である本開示の繊維状タンパク質およびそれらの医薬上許容される塩は、筋肉内、くも膜下、または静脈内投与のために製剤化されうる。筋肉内投与またはくも膜下投与のための典型的な組成物は、油、例えば、ラッカセイ油またはゴマ油、中の有効成分の懸濁液または溶液である。静脈内投与またはくも膜下投与のための典型的な組成物は、例えば、有効成分およびデキストロースもしくは塩化ナトリウム、またはデキストロースおよび塩化ナトリウムの混合物を含有する無菌等張水溶液である。他の例は、乳酸リンゲル液、デキストロース加乳酸リンゲル液、ノルモゾルM(Normosol−M)およびデキストロース、イソライトE(Isolyte E)、アシル化リンゲル液等である。任意に、例えばポリエチレングリコールのような共溶媒;例えばエチレンジアミン四酢酸のようなキレート剤、および、例えばメタ重亜硫酸ナトリウムのような酸化防止剤が、製剤中に含まれてもよい。あるいは、溶液は凍結乾燥され、次いで投与直前に適切な溶媒で再構成されうる。
【0116】
直腸投与で活性のある本開示の繊維状タンパク質およびそれらの医薬上許容される塩は、坐薬として製剤化されうる。典型的な坐薬製剤は、一般的に、ゼラチン、ココアバターまたは他の低融点植物性あるいは合成のろうあるいは油などの結合剤および/または滑沢剤(lubricating agent)と共に構成される。
【0117】
局所投与で活性のある本開示の繊維状タンパク質およびそれらの医薬上許容される塩は、経皮組成物または経皮送達デバイス(「パッチ」)として製剤化されうる。そのような組成物は、例えば、支持体(backing)、活性化合物保持体(reservoir)、制御膜、裏地(liner)、および付着接触体(contach adhesive)を含む。そのような経皮パッチは、制御された量で本開示の化合物の連続または不連続な注入を提供するために使用することができる。医薬品の送達のための経皮パッチの構造および使用は技術分野においてよく知られている。例えば、全体として出典明示により本明細書に組み込まれる米国特許第5,023,252号を参照されたい。そのようなパッチは、連続した、パルス状の、または必要に応じた、医薬品の送達のために構成されてもよい。
【0118】
本開示の製剤は、吸入を介して投与されるためのエアゾール製剤にすることができる。これらのエアゾール製剤は、ジクロロジフルオロメタン、プロパン、窒素等の圧縮可能な噴射剤(pressurized acceptable propellant)に収められてもよい。それらはまた、ネブライザー(nebulizer)またはアトマイザー(atomizer)で使用するためなどの、非圧縮調整のための医薬品として処方されてもよい。
【0119】
局所投与のために適した製剤は、有効成分に加えて、適していると技術分野において知られているような担体を含む、クリーム、ゲル、ペースト、または泡として提供されてもよい。
【0120】
坐薬製剤はまた、乳化基剤または水溶性基剤などの様々な基剤との混合によって提供されてもよい。膣内投与に適した製剤は、ペッサリー、タンポン、クリーム、ゲル、ペースト、泡として提供されてもよい。
【0121】
シロップ、エリキシル剤、および懸濁液などの経口投与または直腸投与のための単位剤形(unit dosage form)が提供されてもよく、各投与量単位、例えば、小さじ1杯、大さじ1杯、錠剤または坐薬、は一以上の繊維状タンパク質を含有する組成物の所定量を含む。同様に、注射または静脈内投与のための単位剤形は、無菌水、生理食塩水、または別の医薬上許容される担体中の溶液としての組成物中に繊維状タンパク質を含むことができる。
【0122】
用語「単位剤形(unit dosage form)」は、本明細書において用いる場合、ヒトおよび動物対象のための単一の投薬量として適している物理的に個別の単位を指し、各単位は、薬学的に許容される希釈剤、担体または媒体を伴って、所望の効果を生じるために十分な量で計算された所定量の本開示の化合物を含む。本開示の新規の単位剤形のための仕様は、採用される特定の化合物および達成されるべき効果、宿主における各化合物に関連する薬物動態に依存する。
【0123】
当業者は、具体的な繊維状タンパク質の機能、送達媒体の性質等のように服用レベルを変動できることを、容易に理解するであろう。与えられる化合物のための適した用量は、様々な手段によって当業者により容易に決定されうる。
【0124】
そのような化合物の毒性および治療効果は、例えば、LD50(母集団の50%へ致死的な量)およびED50(母集団の50%において治療効果的な量)を決定するための、細胞培養または実験動物における標準的な薬学的手法によって決定することができる。毒性および治療効果の間の投与量比は治療指数であり、LD50/ED50比として表すことができる。高い治療指数を示す化合物が好ましい。中毒性副作用を示す化合物は使用できる一方で、非感染細胞への予想される傷害を最小限に抑え、それによって副作用を軽減するために、かかる化合物を罹患組織部位へ標的化する送達システムを設計するよう注意すべきである。
【0125】
細胞培養アッセイおよび動物実験から得られるデータは、ヒトにおける使用のための用量範囲の定式化において使用されうる。そのような化合物の用量は、好ましくは毒性をほとんど有さないか、全く有さないでED50を含む血中濃度の範囲内にある。用量は、採用される剤形および利用される投与経路に依存して、この範囲内で変動しうる。本開示の方法で使用される任意の化合物いずれに対しても、治療有効量は最初、細胞培養アッセイから見積もられる。用量は、細胞培養において決定されるようにIC50(すなわち、症状の阻害が最大値の半分に達するときの試験化合物の濃度)を含む循環血漿濃度の範囲を達成するよう、動物モデルにおいて定式化してもよい。そのような情報は、ヒトにおける有益な用量をより正確に決定するために使用されうる。血漿中のレベルは、例えば高速液体クロマトグラフィーによって測定することができる。
【0126】
「有効量」という用語は、本発明の方法において使用される際、妥当な便益/危険比(benefit/risk ratio)に相応する、(毒性、刺激およびアレルギー反応などの)過度の副作用の無い、検出可能な治療効果を示すのに十分な、生物活性分子またはコンジュゲートまたはそれらの誘導体の量を指す。治療効果は、例えば、癌細胞へは実質的に毒性であるが、普通の細胞(natural cell)へはより低い毒性であることを含むが、これらに限定されるものではない。対象に対する有効量は、対象の種類、対象の大きさおよび健康状態、治療される状態の性質および重篤度、投与方法、治療期間、(もしあれば)同時に行われている治療の性質、採用される特定の製剤等に依存するであろう。それゆえ、予め正確な有効量を特定することはできない。しかしながら、与えられた状況に対する有効量は、本明細書において提供される情報に基づき、所定の実験を使用して、当業者によって決定されうる。
【0127】
繊維状タンパク質を作製する方法
本開示によると、繊維状タンパク質を投与することにより癌転移を治療するため、方法が開示される。繊維状タンパク質は自然発生的であり、それ自体、上述の治療方法における使用のため、技術分野において知られた方法を使用して単離されうる。繊維状タンパク質は、技術分野において知られた任意の方法、例えば、球状タンパク質構造を繊維状タンパク質構造へと変化することによって、人工的に作製することもできる。一例を挙げれば、タンパク質の繊維化は、その開示が出典明示により本明細書に組み込まれる、米国特許出願公開第2008/0800186号において開示されるように、フィブリル種(fibrl seed)の補助無しでの工程によって誘導することができる。この工程は、制御の容易性、生産物の均一性、及びスケールアップの実現可能性を含む利点を有する。さらに、タンパク質の繊維化は、フィブリル種で補助することなくこの工程によって誘導することができる。微量のタンパク質でさえ、この工程へ適用できるだろう。本明細書において用いる場合、「タンパク質」は、一以上のタンパク質、タンパク質フラグメント、ポリペプチドまたはペプチドを含む。タンパク質は、合成タンパク質および自然発生的なタンパク質の両方を含む。
【0128】
米国特許出願公開第2008/0800186号において以前に開示された方法によると、微量のタンパク質でさえ、この工程へ適用できるだろう。本明細書において用いる場合、「タンパク質」は、一以上のタンパク質、タンパク質フラグメント、ポリペプチドまたはペプチドを含む。タンパク質は、合成タンパク質および自然発生的なタンパク質の両方を含む。前記方法はその配列に関わらず、単純且つ迅速な方法で、天然タンパク質を繊維形状に変換するために使用することができる。前記方法は、界面活性剤を含む溶液中に球状タンパク質を溶解する段階、および分子量70kDa以上のタンパク質を分離することができる分子サイジングカラムへその溶液を注ぐ段階、ならびに界面活性剤を含む溶液でタンパク質を溶出する段階を含む。例示的な実施態様において、前記方法は、球状タンパク質を供給する段階、球状タンパク質を含有する溶液を調製する段階、球状タンパク質を含有する溶液に界面活性剤を加える段階、および、任意に低濃度の界面活性剤の存在下で、分子量70kDa以上のタンパク質を分離することができる細孔径を備える分子サイジングカラムに溶液を注ぐ段階を有する。
【0129】
球状タンパク質は、スフェロタンパク質(spheroprotein)としても知られており、二つの主なタンパク質の三次構造クラスの内の一つである。球状タンパク質は、一般的に可溶性であり、水中で球状の分子を形成する。これは、α−ヘリックス、β−シート、およびループ構造などの二次構造モチーフが混ざり合う複雑な二次構造をとる。もう一つの主なタンパク質の三次構造クラスは、繊維状タンパク質または線維状(fibrous)タンパク質である。繊維状タンパク質は、一般的には不溶性であり、細長い形状をとる。これらは、単純な二次構造をとり、多くの場合、ただ一種類の二次構造モチーフに基づいている。実施例において、球状タンパク質はアルブミン、例えばヒト血清アルブミン、フィブロネクチン等である。8M尿素で大腸菌の封入体から抽出された組換え変性(unfolded)タンパク質もまた使用され、例えば、口蹄疫ウイルスの組換カプシドタンパク質VP1(rVP1)、口蹄疫ウイルスの組換カプシドタンパク質VP2(rVP2)、口蹄疫ウイルスの組換カプシドタンパク質VP3(rVP3)、またはVP1、VP2、VP3及びVP4の前駆体タンパク質P1である。前記タンパク質は、VP1、VP2、VP3、および/またはVP4からの部分を含むキメラタンパク質、例えば、VP2とVP4の両方の部分を含むVP42であってもよい。自然発生的なタンパク質と合成オリゴペプチドの両方を含む、他の球状タンパク質(例えば、ウシ血清アルブミン)も使用することができる。
【0130】
サーファクタント(surfactant)は、ここでは界面活性剤とも言われ、水の表面張力をより低くし、有機化合物の溶解度を上げる物質である。界面活性剤は、カチオン性、アニオン性、及び両性界面活性剤を含むイオン性や、非イオン性であってもよい。界面活性剤は、タンパク質中の非共有結合を破壊し、その結果、タンパク質を変性させ、本来の形状または立体構造(conformation)を失わせる役割を担う。例示的な実施態様において、使用される界面活性剤は、Sigmaから入手したドデシル硫酸ナトリウム(SDS)である。他の例示的な実施態様において、使用される界面活性剤は、Calbiochemから入手したZwittergent 3−14である。
【0131】
アミロイドは、繊維状であるクロス−βタンパク質の凝集体である。多くのタンパク質は、繊維状の形態、原繊維構造、クロス−β回折パターン、β−構造の増加、コンゴーレッド結合、及びThT結合を含む特徴を有するアミロイド様の繊維に変換することが可能である。例示的な実施態様において、球状タンパク質をアミロイド様の繊維形状に変換し、変換されたタンパク質は、そのアミロイド様の特性によって同定することが可能になる。
【0132】
癌を治療するためのタンパク質は、疾患の重篤度および癌細胞に対する所望の細胞毒性に基づいて選択されてもよい。例示的な実施態様において、癌細胞へのより大きな細胞毒性のために選択される。繊維状タンパク質は、同じタンパク質型(type)または一以上、二以上、三以上の型(type)に由来することができる。例えば、上述の治療方法は、rVP1繊維状タンパク質および繊維状BSAを1回用量で一緒に、または個別に、投与することができる。
【0133】
実施態様によると、球状タンパク質構造を繊維状タンパク質構造に変換し、それらを分離する工程において、クロマトグラフィーを使用してもよい。一般的に、クロマトグラフィーは、カラムを使用することで成し遂げられるが、薄層クロマトグラフィーを使用するものなど、他の方法を使用することも可能である。クロマトグラフィー技術には、サイズ排除、アフィニティ、およびイオン交換が含まれる。繊維状タンパク質のバッチ式での生産も可能ではあるが、カラムを使用する工程は、迅速で、安定であり、効率的かつ連続的に球状タンパク質を繊維形状に変換することが可能である。この工程のスケールアップもカラムの使用で可能である。
【0134】
例示的な実施態様によると、少なくとも約70kDaのビーズ細孔径を有するサイズ排除クロマトグラフィーが使用される。使用されるビーズ細孔径は、球状タンパク質の様々な特徴、例えばそのサイズ、に基づいて変更させてもよい。細孔径はタンパク質がビーズマトリクスに入ることができるようにする役割を担い、それゆえ、タンパク質の変性(unfolding)/非変性(folding)に寄与し、繊維集合(fibrillogenic ensemble)を高める、機械的な力が引き起こされる。例示的な実施態様において、使用される分子サイジングカラムはスーパーデックス200(Superdex 200)である。他の例示的な実施態様において、使用される分子サイジングカラムはHW55Sである。
【0135】
カラムクロマトグラフィーのため、カラムを溶出させるために低濃度の界面活性剤を含むバッファーを使用してもよい。例示的な実施態様においては、分子サイジングカラムは、25mM Tris−HCL、pH8.0、1mM EDTA、0.1M NaCl、および0.05% SDSを含むバッファーで溶出される。他の例示的な実施態様において、分子サイジングカラムは、25mM Tris−HCL、pH8.0、1mM EDTA、0.1M NaCl、および0.05% Zwittergent 3−14を含むバッファーで溶出される。溶出液は画分として回収してもよく、繊維状タンパク質を含む画分はその後、一緒にしてプールしてもよい。プールした画分は、さらにフィルターを通して繊維状タンパク質を精製および単離、例えば、SDSまたはZwittergent 3−14を除去するためにPBSで透析されてもよい。
【0136】
実施態様によると、繊維状タンパク質を作製するため本明細書において開示される工程によって、ヒト血清アルブミン(HSA)を繊維状ヒト血清アルブミンにすることができる。実施態様によると、ヒト血清アルブミンは本明細書において開示される工程によって、繊維形状への変換が確認された。繊維状タンパク質の作製に関しては、米国特許第7,488,800号が出典明示により組み込まれる。
【0137】
繊維状HSA(F−HSA)は、様々な癌細胞におけるアポトーシスを引き起こすことにおいて、口蹄疫ウイルスの組換カプシドタンパク質VP1(rVP1)と同じくらい強力であることが、予期せず発見された。癌治療としてrVP1に代えてF−HSAを使用することの利点は、HSAがヒト内因性タンパク質ということである。それゆえ、HSAまたは類似の配列および組成を有する誘導体は、臨床応用の間に免疫原性や中和抗体を誘導する可能性が、rVP1などの異種タンパク質ほど高くはない。
【0138】
実施態様によると、F−HSAは、HSAを1% SDS溶液中に溶解すること、スーパーデックス200(Superdex 200)ゲル濾過カラムへ通すこと、および、25mM Tris−HCL(pH8.0)、1mM EDTA、0.1M NaCl、および0.05% SDSを含むバッファー溶液で溶出することによって生成された(図1)。SDSを除去するためのPBSでの透析後、HSAとは異なり、スーパーデックス200(Superdex 200)カラムから溶出されたF−HSAは、用量依存的様式で、アミロイド特異的色素ThTの増大した蛍光レベルを示すことが発見された。
【0139】
次いで、F−HSAが癌細胞における毒性を誘導することが発見された。球状血清アルブミンはそうではない一方、繊維状血清アルブミンは細胞表面上のインテグリンなどの受容体へ結合することができるので、球状から繊維形状への血清アルブミンの構造の変化は、タンパク質が、正常細胞よりもインテグリンα5β1をより発現している癌細胞を選択的に標的とすることができるようにさせた、と考えられている。F−HSAは、それぞれ、0.15μM(図13)および0.48μM(図14)のIC50で、TS/A(マウス乳腺腺癌)およびMDA−MB−231(ヒト乳腺腺癌)細胞を含み、用量依存的に乳癌細胞の成長を阻害した。F−HSAは、0.6μMのIC50で卵巣癌細胞SKOV3の成長を(図15)、および1.1μMのIC50で子宮頸癌細胞CaSkiの成長を(図16)阻害した。F−HSAはまた、それぞれ、0.35μM(図17)および0.2μM(図18)のIC50で、前立腺癌細胞PC−3および22Rv1において細胞毒性を誘導した。加えて、F−HSAは多数の肺癌細胞株において細胞毒性を誘導する(図19)。
【0140】
実施態様によると、それゆえ、癌を治療する方法が開示される。方法は、HSAを供給する段階、HSAを繊維状構造へ変化させる段階、F−HSAの治療有効量を、必要とされる患者に投与する段階を含む。HSAの繊維形状への変換は、標的細胞におけるその細胞毒性を増加させる。
【0141】
例示的な実施態様において、癌は、腎臓癌、乳癌、肺癌、前立腺癌、肝臓癌、子宮頸癌、または卵巣癌である。例示的な実施態様において、繊維状HSAはAktシグナル経路を調節することによる癌細胞のアポトーシスを誘導することに関与する。いくつかの例では、繊維状HSAは、Aktの失活をもたらすインテグリンα5β1またはαvβ3を調節する。他の例では、繊維状HSAはインテグリンへ結合し、主にインテグリン/FAK/Akt/GSK−3β/カスパーゼ−3経路を介する細胞アポトーシスを引き起こす。
【0142】
繊維状HSAタンパク質、誘導体、オルソログ、または癌治療に対してHSAと実質的な同一性を有する他のタンパク質は、疾患の重篤度および癌細胞に対する所望の細胞毒性に基づいて選択されてもよい。例示的な実施態様において、癌細胞へのより大きな細胞毒性のために、RGDモチーフを備えるタンパク質またはより大きな分子量を備えるタンパク質が選択される。RGDモチーフはインテグリンのリガンドである。繊維状タンパク質がインテグリン/Aktシグナル経路を介して細胞死を誘導したことが示されている。rVP1−S200およびFM−S200のようなRGDモチーフを備えるタンパク質は、BSA−S200およびrVP3−S200などのRGDモチーフを備えないタンパク質よりも、より細胞毒性が大きいことがわかっている。
【0143】
「変種」は、参照ポリヌクレオチドまたはポリペプチドとは異なるが、本質的な特性を保持するポリヌクレオチドまたはポリペプチドを指す。ポリヌクレオチドの典型的な変種は、ヌクレオチド配列において、別の、参照ポリヌクレオチドと異なる。変種のヌクレオチド配列における変化は、参照ポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチドのアミノ酸配列を変更してもよく、しなくてもよい。ヌクレオチドの変化は、本明細書において議論されるように、参照配列によってコードされるポリペプチドにおけるアミノ酸置換、付加、欠失、融合、および切断を引き起こす。
【0144】
ポリペプチドの典型的な変種は、アミノ酸配列において、別の、参照ポリペプチドと異なる。一般的に、相違点は、参照ポリペプチドおよび変種の配列が、全体で極めて類似し、かつ多くの領域において同一であるよう、限定される。変種および参照ポリペプチは、任意の組み合わせにおける一以上の置換、付加、または欠失によって、アミノ酸配列において異なる。置換または挿入されたアミノ酸残基は、遺伝暗号によってコードされるものであってもよく、そうでなくてもよい。ポリヌクレオチドまたはポリペプチドの変種は、対立遺伝子多型などの自然発生的なものであってもよく、自然発生的に起こることが知られていない変種であってもよい。ポリヌクレオチドまたはポリペプチドの非自然発生的変種は、変異技術によって、または直接合成によって作製することができる。
【0145】
「オルソログ」は、異なる種由来のポリペプチドまたはポリヌクレオチドの機能的対応物である、別の種から得られたポリペプチドまたはポリヌクレオチドを意味する。オルソログ間の配列差は種分化の結果である。
【0146】
本明細書において用いる場合、20の通常のアミノ酸およびそれらの略号は通常の使い方に従う。出典明示により本明細書に組み込まれるImmnology−A Synthesis(2nd Edition, E. S. GolubおよびD. R. Gren, Eds., Sinauer Associates, Sunderland, Mass. (1991))を参照されたい。20の通常のアミノ酸の立体異性体(例えば、D−アミノ酸)、α−,α−二置換アミノ酸などの非天然アミノ酸、N−アルキルアミノ酸、乳酸、および他の特殊アミノ酸(unconventional amino acids)もまた、本発明のポリペプチドのための適した成分となりうる。特殊アミノ酸の例には、4−ヒドロキシプロリン、γ−カルボキシグルタミン酸、ε−N,N,N−トリメチルリシン、ε−N−アセチルリシン、O−ホスホセリン、N−アセチルセリン、N−ホルミルメチオニン、3−メチルヒスチジン、5−ヒドロキシリシン、σ−N−メチルアルギニン、および他の類似したアミノ酸およびイミノ酸(例えば、4−ヒドロキシプロリン)が含まれる。本明細書で用いられるポリペプチドの表記法は、標準的用法および慣習に従って、左手方向がアミノ末端方向、右手方向がカルボキシ末端方向である。
【0147】
ポリペプチドに適用される場合、「実質的な同一性」という用語は、二つのペプチド配列が、規定のギャップの重み付け(default gap weights)を使用するGAPまたはBESTFITプログラムなどによって最適に整列された(aligned)際、少なくとも80パーセントの配列同一性、好ましくは90パーセントの配列同一性、より好ましくは95パーセントの配列同一性、最も好ましくは99パーセントの配列同一性を共有することを意味する。好ましくは、一致しなかった残基位置は保存的アミノ酸置換によって異なる。保存的アミノ酸置換とは、類似する側鎖を有する残基の互換性を指す。例えば、脂肪族側鎖を有するアミノ酸の群は、グリシン、アラニン、バリン、ロイシンおよびイソロイシン;脂肪族−水酸基側鎖を有するアミノ酸の群は、セリンおよびトレオニン;アミド基含有側鎖を有するアミノ酸の群は、アスパラギンおよびグルタミン;芳香族側鎖を有するアミノ酸の群はフェニルアラニン、チロシン、およびトリプトファン;塩基性側鎖を有するアミノ酸の群はリシン、アルギニンおよびヒスチジン;硫黄含有側鎖を有するアミノ酸の群はシステインおよびメチオニン。好ましい保存的アミノ酸置換群は、バリン−ロイシン−イソロイシン、フェニルアラニン−チロシン、リシン−アルギニン、アラニン−バリン、グルタミン酸−アスパラギン酸、およびアスパラギン−グルタミンである。
【0148】
本明細書において議論される場合、HSA配列のアミノ酸における変形例(variation)が、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、または少なくとも99パーセントの同一性を維持することを条件に、細胞毒性活性を有する組成物のアミノ酸配列におけるわずかな変形例は、本発明によって包含されると考えられる。特に、保存的アミノ酸置換が企図される。保存的置換はまた、側鎖が関連しているアミノ酸のファミリーの中において生じるものである。遺伝的にコードされたアミノ酸は、ファミリー:(1)酸性=アスパラギン酸、グルタミン酸;(2)塩基性=リシン、アルギニン、ヒスチジン;(3)非極性=アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン;および(4)非荷電極性=グリシン、アスパラギン、グルタミン、システイン、セリン、トレオニン、チロシン、に分類される。より好ましいファミリーは以下である;セリンとスレオニンは脂肪族−水酸基ファミリー;アスパラギンおよびグルタミンはアミド含有ファミリー;アラニン、バリン、ロイシンおよびイソロイシンは脂肪族ファミリー;フェニルアラニン、トリプトファンおよびチロシンは芳香族ファミリーである。例えば、特に置換が骨格となる部位の中のアミノ酸を含まない場合、イソロイシンもしくはバリンでのロイシンの、グルタミン酸でのアスパラギン酸の、セリンでのトレオニンの単離された置換、またはあるアミノ酸の構造的に関連したアミノ酸との同様の置換は、その結果できた分子の結合または特性に大きな影響をもたらさない、と考えるのが妥当である。アミノ酸変化が機能的なペプチドをもたらすかどうかは、ポリペプチド誘導体の特異的な活性を解析することで、容易に決定することができる。本発明のタンパク質またはペプチドのフラグメントまたはアナログは、当業者によって容易に調製されうる。フラグメントまたはアナログの好ましいアミノ末端およびカルボキシ末端は、機能的ドメインの境界の近傍に生じる。構造的および機能的ドメインは、ヌクレオチド配列データまたはアミノ酸配列データの公共または私有の配列データベースとの比較によって同定することができる。好ましくはコンピューター化された比較方法は、公知の構造または機能を有する他のタンパク質において生じる、配列モチーフまたは予測されるタンパク質立体構造(conformation)ドメインを同定するために用いられる。公知の三次元構造へと折りたたまれるタンパク質配列を同定する方法は知られている。Bowieら Science 253:164(1991)。それゆえ、前述の例は、当業者が本発明に従って、構造的ドメインおよび機能的ドメインを定義するために使用できる配列モチーフおよび立体構造を認識することができるということを実証している。
【0149】
効果的なアミノ酸置換は:(1)タンパク質分解に対する感受性を減少させるもの、(2)酸化に対する感受性を減少させるもの、(3)タンパク質複合体を形成するための結合親和力を変化させるもの、(4)結合親和力を変化させるもの、(5)そのようなアナログの他の物理化学的または機能的特性を与え、または変更するものである。アナログは自然発生的なペプチド配列以外の配列の様々な変異を含みうる。例えば、単一または複数のアミノ酸置換(好ましくは保存的アミノ酸置換)が、自然発生的な配列において(好ましくは、分子間接触を形成するドメインの外側のポリペプチド部分において)、作製されうる。保存的アミノ酸置換は、親配列の構造的特徴を実質的に変化させるべきではない(例えば、置換アミノ酸は親配列において生じるヘリックスを壊す傾向があるべきではなく、また、親配列を特徴づける他の種類の二次構造を破壊するべきではない)。技術分野において認識されるポリペプチドの二次元構造および三次元構造の例は、出典明示により本明細書に組み込まれる、Proteins, Structures andMolecular Principles(Creighton, Ed., W. H. Freeman and Company, New York (1984)); Introduction to Protein Structure (C. BrandenおよびJ. Tooze, eds., Garland Publishing, New York, N.Y. (1991)); および Thorntonら Nature 354:105(1991)に記載されている。
【0150】
「ポリペプチドフラグメント」という用語は、本明細書において用いる場合、アミノ末端欠失またはカルボキシ末端欠失を有するが、残存アミノ酸配列が、例えば全長cDNA配列から推定される自然発生的な配列における対応する位置と一致するポリペプチドを指す。フラグメントは典型的には少なくとも5、6、8または10アミノ酸長であり、好ましくは少なくとも14アミノ酸長であり、より好ましくは少なくとも20アミノ酸長であり、一般的には少なくとも50アミノ酸長であり、さらにより好ましくは70アミノ酸長である。
【0151】
一般的に、繊維状タンパク質を作製する方法は、SDSまたは他の適した界面活性剤溶液へタンパク質を溶解すること;溶解したタンパク質を分子量70kDa以上のタンパク質を分離することができる細孔径を備えるゲル濾過カラムへ適用すること;カラムからタンパク質を溶出すること;およびSDSまたは界面活性剤を除去するために緩衝食塩水で溶液を透析すること、を含む。
【0152】
第一の段階において、球状タンパク質は一般的に溶液形状へと溶解される。例において、球状タンパク質は、サーファクタントを備えるPBSへ溶解される。サーファクタントは、ここでは界面活性剤とも言われ、水の表面張力をより低くし、有機化合物の溶解度を上げる物質である。界面活性剤は、カチオン性、アニオン性、及び両性界面活性剤を含むイオン性や、非イオン性であってもよい。界面活性剤は、タンパク質中の非共有結合を破壊し、その結果、タンパク質を変性させ、本来の形状または立体構造(conformation)を失わせる役割を担う。例示的な実施態様において、使用される界面活性剤は、Sigmaから入手したドデシル硫酸ナトリウム(SDS)である。他の例示的な実施態様において、使用される界面活性剤は、Calbiochemから入手したZwittergent 3−14である。
【0153】
本方法のいくつかの態様において、少なくとも約70kDaのビーズ細孔径を有するサイズ排除クロマトグラフィーが使用される。使用されるビーズ細孔径は、球状タンパク質の様々な特徴、例えばそのサイズ、に基づいて変更させてもよい。細孔径はタンパク質がビーズマトリクスに入ることができるようにする役割を担い、それゆえ、タンパク質の変性(unfolding)/非変性(folding)に寄与し、繊維集合(fibrillogenic ensemble)を高める、機械的な力が引き起こされる。例示的な実施態様において、使用される分子サイジングカラムはスーパーデックス200(Superdex 200)である。他の例示的な実施態様において、使用される分子サイジングカラムはHW55Sである。繊維状タンパク質を生産するための本方法の他の詳細は、出典明示によりその開示が組み込まれる、米国特許出願公開第2008/0800186号において記載される。
【0154】
以下の実施例は、本発明の作製方法および使用方法の完全な開示および記載を当業者に提供するために提示され、発明と見なされるものの範囲を限定するように意図するものではない。
【実施例1】
【0155】
方法
細胞株および培養。SK−OV−3細胞(ヒト卵巣癌細胞株;ATCC HTB−77)およびSK−OV−3ip.1細胞、ならびにCaSki細胞(ヒト子宮頸癌細胞株;ATCC CRL−1550)は、それぞれ、McCoy’s 5A培地ならびにRPMI−1640培地において37℃で維持された。MDA−MB−231細胞(ヒト乳腺腺癌細胞株;ATCC HTB−26)およびTS/A細胞(マウス乳腺腺癌細胞株)は、それぞれ、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)/F12培地およびDMEMにおいて37℃で維持された。PC−3細胞(ヒト前立腺腺癌細胞株;ATCC CRL−1435)および22Rv1細胞(ヒト前立腺癌細胞株;ATCC CRL−2505)は、RPMI−1640培地において37℃で維持された。全ての培地は、10%ウシ胎仔血清(FBS)、2mM L−グルタミン、100ユニット/ml ペニシリン、および100μg/ml ストレプトマイシンが添加された。
【0156】
細胞毒性アッセイ。細胞生存をMTTアッセイまたはWST−1アッセイによって決定した。簡単に説明すると、1×105細胞/ウェルの腫瘍細胞を、96−ウェルプレート中、無血清培地へ播種し、1時間インキュベートした。一連の濃度のrVP1、F−BSA、またはF−HSAでの細胞の処理を、無血清培地で、24時間、37℃で実行した。処理後、MTT溶液を各ウェルへ添加し(0.5mg/ml)、続いて4時間インキュベートした。生存細胞数は、続くイソプロパノールでの可溶化で、ELISAプレートリーダーによって570nmで分光光度的に測定することができる、ホルマザンの産生へ直接的に比例する。データは非処理条件の百分率として表し、平均±S.D.として表した。
【0157】
WST−1アッセイを、製造業者の使用説明書に従って実行した(Roche, Mannheim, Germany)。簡単に説明すると、2×104細胞/ウェルの細胞を、96ウェルプレート中の1ウェルあたり100μlの培地へ添加し、加湿インキュベーターにおいて一晩5%CO2中37℃でインキュベートした。ウェルへ接着した細胞は無血清培地中でインキュベートされ、rVP1の段階希釈で処理された。薬剤が効果を発揮するようにするための、16時間5%CO2中37℃でのインキュベートの後、10μlのWST−1試薬が各ウェルへ添加され、プレートはそれから1分間150rpmで振動台上において混合された。WST−1試薬が代謝されるようにするための、別の2時間5%CO2中37℃でのインキュベートの後、生存細胞の数が吸光度によって決定された(450nm試験波長、690nm参照波長)。生存細胞の百分率は、(O.D.処理/O.D.対照)×100%として計算し、一方で成長阻害の百分率は、[1−(O.D.処理/O.D.対照)]×100%として計算した。IC50は、試薬が細胞生存性(cellular viability)の50%阻害を獲得した点での濃度である。
【0158】
細胞遊走および浸潤アッセイ。細胞遊走および浸潤アッセイは、ボイデンチャンバー遊走および浸潤アッセイ(Corning)に従って実行した。上層チャンバーの8μmの細孔膜は、細胞遊走アッセイのために20μg/ml フィブロネクチンで、または、細胞浸潤アッセイのために40μg/ml マトリゲルで覆われ、1mlのPBSを備えるウェル中に置かれ、37℃で2時間インキュベートされた。癌細胞(1×105)は1mlの無血清培地中に再懸濁され、1時間、上層チャンバーへ置かれた。rVP1などの様々な濃度の繊維状タンパク質が上部チャンバーへ添加され、その後、培養培地(10%FBS培地)が下層チャンバーへ添加された。細胞は37℃で24時間インキュベートされた。インキュベートの終わりに、膜の上層側の細胞を綿棒で拭き取ることにより除去し、下層膜表面へ遊走した細胞を、細胞解離溶液(Sigma)を使用することによって解離させ、フローサイトメーター(BD company)を使用して計測した。
【0159】
BALB/cマウスにおけるTS/A乳腺腺癌のマウスモデルにおける転移性移植の確立。マウスTS/A乳腺腺癌細胞は、37℃、95%空気および5%CO2の湿気のある環境下で、10% FBS、2mM L−グルタミン、100U/ml ペニシリン、および100μg/ml ストレプトマイシンが添加されたDMEM中で培養された。回収後、TS/A細胞(3×105μl PBS/マウス)は、1群あたり9匹のマウスの側面尾静脈(lateral tail vein)内へ静脈内注射された。対照培地またはF−HSAなどの繊維状タンパク質は、2日に1回、10回、静脈内投与によって与えられた。最終的に、1群あたり3匹を犠死(sacrifice)させ、他は生存アッセイのために使用した。
【0160】
別の実験において、マウスTS/A乳腺腺癌細胞は、第一に、37℃、95%空気および5%CO2の湿気のある環境下で、rVP1などの繊維状タンパク質(0.1−0.2μM)処理有りまたは無しで、10% FBS、2mM L−グルタミン、100U/ml ペニシリン、および100μg/ml ストレプトマイシンが添加されたDMEM中で培養された。回収後、rVP1有りまたは無しで前処理されたTS/A細胞は、それぞれ、1群あたり9匹のマウスの側面尾静脈内へ静脈内注射された。14日後、全てのマウスを犠死させ、その肺を回収した。
【0161】
ヒト乳癌のマウスモデルにおける転移性異種移植片移植の確立。ヒトMDA−MB−231乳腺腺癌細胞は、37℃、95%空気および5%CO2の湿気のある環境下で、10% FBS、2mM L−グルタミン、100U/ml ペニシリン、および100μg/ml ストレプトマイシンが添加されたDMEM/F12中で培養された。回収後、MDA−MB−231は、1群あたり9匹のマウスの側面尾静脈内へ静脈内注射された。腫瘍注射の一日後、F−HSAなどの繊維状タンパク質(1mg/kg体重)が、2日に1回、10回、静脈内投与によって与えられ、一方で対照群は培地のみが注射された。1群あたり3匹のマウスをこの時点で犠死させ、マウスの残りは維持し、生存能力を測定した。
【0162】
ヒト前立腺癌のマウスモデルにおける同所性(orthotropic)異種移植片移植の確立。ヒトPC−3前立腺腺癌細胞は、37℃、95%空気および5%CO2の湿気のある環境下で、10% FBS、2mM L−グルタミン、100U/ml ペニシリン、および100μg/ml ストレプトマイシンが添加されたRPMI−1640培地中で培養された。回収後、PC−3細胞は洗浄され、前立腺へ同所性に(orthotopically)注射された(1×105/20μL PBS/マウス)。1つの群において、PC−3移植後4週、rVP1などの繊維状タンパク質(25mg/kg)が与えられた一方、他の群においては、癌移植後10週でrVP1が与えられた。同量のrVP1が1週間あたり3回、6週間投与され、rVP1処理の終わりに、各群において3匹のマウスを犠死させ、癌転移を検出した。マウスの残りは維持し、生存能力を測定した。
【0163】
ヒトSK−OV−3卵巣癌のマウスモデルにおける転移性異種移植片移植の確立。動物実験は、台湾国防医学院(National Defense Medical Center, Taiwan)の実験動物の管理および使用に関する指針に従って、実行した。台湾国家実験動物センターから入手したBALB/cAnN−Foxn1のメスヌードマウス、8週齢、に、腹腔内注射によりマウス1匹あたり5×106 SK−OV−3癌細胞を接種し、SK−OV−3移植後6日、マウスを繊維状タンパク質(例えば、rVP1、15mg/Kg体重)またはPBS(対照)で処理し、その処理を60日間、一日おきに繰り返した。マウスが死ぬまで、または、腫瘍移植から340日経過するまで、生存百分率(survival percentage)および体重を記録した。
【0164】
SK−OV−3ip.1細胞の単離。SK−OV−3細胞移植後60日、頸椎脱臼によってマウスを犠死させた。3mlのPBSを腹部へ注射し、5mlのシリンジおよび25ゲージ×1”の針を使用して、腹腔内細胞を回収した(約2ml)。細胞を4℃、5分間、200×gで遠心し、細胞ペレットを集めた。赤血球を除去するため、細胞ペレットの5倍量のNH4Cl(0.144M)および細胞ペレットの1/2倍量のNH4HCO3(0.01M)が添加され、5分間4℃でインキュベートされた。細胞は4℃、5分間、200×gで遠心され、細胞ペレットが集められた。細胞は、8−16%の勾配ゲル(Invitrogen)でのSDS−PAGEによる分解(resolution)に続いて、標準的なウェスタンブロット技術を使用する、HER−2受容体レベルのウェスタンブロット解析の前に、3日間、37℃で、5%CO2−湿気のある環境下で、20% FBSを有するMcCoy’s 5A培地で培養された。
【0165】
組織病理。臓器を10%中性緩衝ホルマリン中で固定した。組織はさらにパラフィンで包埋し、4μm切片で薄切し、光学顕微鏡検査のためにヘマトキシリンおよびエオジン(H&E)で染色した。
【0166】
統計解析。全てのデータは平均±標準誤差として表し、マイクロソフトエクセルで評価した。生存データのため、ログランク検定を使用して、薬剤有りまたは無しで処理された群間の相違を決定した。スチューデントt−検定およびANOVAを行って、異なる処理間の全般的な相違を評価した。P<0.05、P<0.01、およびP<0.001の値は、統計的に意味があると考えられた。
【0167】
rVP1は、インビトロでMDA−MB−231細胞、PC−3細胞、22Rv1細胞、SK−OV−3細胞、CaSki細胞、およびSK−OV−3ip.1細胞における細胞浸潤および/または遊走を抑制した
rVP1が腫瘍細胞の浸潤および/または遊走を抑制するかどうかを調査するため、ボイデンチャンバーアッセイを使用して細胞の浸潤および/または遊走が測定された。様々な濃度のrVP1処理(ヒト乳腺腺癌細胞株MDA−MB−231細胞、ヒト前立腺腺癌細胞株PC−3細胞、ヒト前立腺癌細胞株22Rv1細胞において0.1μMから0.2μM rVP1;ヒト卵巣癌細胞株SK−OV−3細胞およびSK−OV−3ip.1細胞において0.2μMから0.4μM rVP1;ヒト子宮頸癌細胞株CaSki細胞において0.2μMから0.6μM rVP1)の後、細胞の浸潤および/または遊走は著しく抑制された。注目すべきは、rVP1のこれらの濃度は、MTTアッセイおよびWSTアッセイを使用して決定された細胞生存能力へ影響しなかったことである(図1−3)。それゆえrVP1は、インビトロで、ヒト乳癌、前立腺癌、子宮頸癌、および卵巣癌の細胞株の転移を著しく抑制する。
【実施例2】
【0168】
rVP1はインビボで腫瘍細胞の転移を抑制した
A. BALB/cマウスへの静脈内注射が後続するインビトロrVP1−処理MDA−MB−231細胞。我々はそれから、インビトロで転移能力を阻害するために、24時間rVP1で前処理され、その後マウスへ静脈内注射された、MDA−MB−231ヒト乳腺腺癌細胞が、マウス肺におけるそれらの転移を、rVP1前処理無しのMDA−MB−231と比較して減少できるかどうかを試験した。データから、0.1および0.2μMのrVP1処理MDA−MB−231細胞が、マウス肺組織における癌細胞転移を著しく減少したことが示された(図4A)。関連する肺重量および肺における腫瘍巣の数もまた、rVP1処理無しの腫瘍群と比較して著しく減少した(図4B−C)。
【0169】
B. 同所性(orthotropic)PC−3異種移植モデル。我々はまた、rvP1がインビボで前立腺癌の転移を抑制できるかどうかを試験した。PC−3ヒト前立腺腺癌細胞をまず、ヌードマウスの前立腺へ同所性に(orthotopically)移植し、移植後4週または10週でrVP1(25mg/kg)をその後、毎週3回、6週間、静脈内注射した。rVP1処理の終わりに、我々はマウスを犠死させ、剖検に着手した。我々のデータから、rVP1が、リンパ節(表1、図5A)および骨盤骨へ転移するPC−3細胞を著しく抑制し、かつ、骨盤骨における骨溶解を阻害したことが示された(図5B)。
【0170】
表1.PC−3移植ヌードマウスにおけるrVP1処理での転移性リンパ節の百分率および位置。
【表1】
【0171】
【0172】
C. 転移性SK−OV−3異種移植モデル。我々のインビトロでのデータから、rVP1はSK−OV−3ヒト卵巣癌細胞の浸潤を抑制することが示された。rVP1がインビボでのSK−OV−3卵巣癌細胞の転移も抑制できるかどうかを試験するため、ヒトSK−OV−3卵巣癌のマウスモデルにおける転移性異種移植片移植が確立された。我々は60日後、PBS処理SK−OV−3を有するマウス由来の肝臓が腫瘍細胞によって包囲されていることを発見した。60日間、一日おきにrVP1(15mg/kg)を腹腔内注射されたSK−OV−3を有するマウスにおいては、一方で、我々はそれらの肝臓の明らかな腫瘍の浸潤を全く観察しなかった(図6)。
【実施例3】
【0173】
F−HSAは、インビトロでMDA−MB−231細胞、PC−3細胞、22Rv1細胞、およびCaSki細胞における腫瘍細胞浸潤および/または遊走を抑制した
F−HSAなどの他の繊維状タンパク質もまた腫瘍細胞の浸潤および/または遊走を抑制するのかどうかを試験するため、ボイデンチャンバーアッセイを使用して腫瘍細胞の浸潤および/または遊走におけるF−HSAの効果が測定された。様々な濃度のrVP1処理(MDA−MB−231細胞において0.1μMから0.2μM F−HSA;PC−3細胞において0.025μMから0.1μM F−HSA;22Rv1細胞において0.025μMから0.05μM F−HSA;CaSki細胞において0.2μMから0.4μM F−HSA)の後、様々な腫瘍細胞の浸潤能および/または遊走能は著しく抑制された。これらの濃度で、F−HSAがMTTアッセイの使用による細胞生存能力へ影響しなかったことは、注目すべきことである(図7)。
【実施例4】
【0174】
F−HSAはインビボで腫瘍細胞の転移を抑制した
F−HSAがインビボで腫瘍細胞の転移を抑制するかどうかをさらに試験するため、それぞれ、マウス乳腺腺癌TS/A細胞がBALB/cマウスの側面尾静脈内へ静脈内注射され、または、ヒト乳腺腺癌MDA−MB−231細胞がヌードマウスへ注射された。次いで翌日、および、2日に一回、10回、F−HSA(1mg/kg)が静脈内注射された。F−HSA処理の終わりに、マウスを犠死させ、肺の転移を検出した。我々のデータから、F−HSAが、対照培地のみで処理されたTS/AまたはMDA−MB−231を有するマウスに比較して、TS/A細胞およびMDA−MB−231細胞の肺への転移を著しく抑制したことが示された(図8Aおよび9A)。F−HSA処理されたTS/AまたはMDA−MB−231を有するマウスの関連する肺重量および肺における腫瘍巣の数は、任意の薬剤処理無しのTS/AまたはMDA−MB−231を有するマウスのものより著しく少なかった(図8B−Cおよび図9B−C)。
【実施例5】
【0175】
F−BSAはインビトロでCaSki細胞の浸潤を抑制した
我々はまた、F−BSAなどの他の繊維状タンパク質もCaSkiヒト子宮頸癌細胞の浸潤を抑制するのかどうかを試験した。細胞浸潤はボイデンチャンバーアッセイを使用して測定された。我々は、0.1μM−0.2μMで、F−BSAはF−BSAはMTTアッセイにより示されるような細胞生存能力へ影響しなかったが、CaSki細胞の遊走および/または浸潤を著しく抑制することを発見した。
【実施例6】
【0176】
F−HSAは用量依存的にアミロイド特異的色素ThTの増大した蛍光レベルを示す。
図12は、アミロイド繊維Aβ(1−42)に似た、F−HSAが、スーパーデックス200(Superdex 200)カラムによって処理されなかったBSAと比較して、用量依存的に、アミロイド特異的色素ThTの増大した蛍光レベルを示すことを示す実験データの実施である。この結果は、F−HSAがAβ(1−42)のような繊維状構造を有する一方で、HSAが球状構造を有することを示す。(ThTへの結合は、アミロイド様タンパク質の特徴の一つである。)
【実施例7】
【0177】
F−HSAは乳癌細胞への細胞毒性効果を有する。
図13はTS/A細胞におけるF−HSAの細胞毒性効果を示し、図14はMDA−MB−231細胞におけるF−HSAの細胞毒性効果を示す。各細胞型(type)は様々な濃度のF−HSAで無血清培地において16時間処理された。細胞生存能力をMTTアッセイによって決定した。球状HSAは正常細胞または腫瘍細胞において細胞毒性を有しない。
【実施例8】
【0178】
F−HSAは卵巣癌細胞および子宮頸癌細胞への細胞毒性効果を有する。
図15はSKOV−3細胞におけるF−HSAの細胞毒性効果を示し、図16はCaSki細胞におけるF−HSAの細胞毒性効果を示す。各細胞型(type)は様々な濃度のF−HSAで無血清培地において16時間処理された。細胞生存能力をMTTアッセイによって決定した。
【実施例9】
【0179】
F−HSAは前立腺癌細胞への細胞毒性効果を有する。
図17はPC−3細胞におけるF−HSAの細胞毒性効果を示し、図18は22Rv1細胞におけるF−HSAの細胞毒性効果を示す。各細胞型(type)は様々な濃度のF−HSAで無血清培地において16時間処理された。細胞生存能力をMTTアッセイによって決定した。
【実施例10】
【0180】
F−HSAは肺癌細胞株への細胞毒性効果を有する
図19に示される実施によると、F−HSAは、腺癌細胞株A549、CL1−0、CL1−5、H1299、PC13およびPC14;扁平上皮癌肺癌細胞株H520;および大細胞肺癌細胞株H661において、細胞毒性を誘導した。図19は各細胞株の各々のIC50を示す。
【実施例11】
【0181】
F−HSAはインビトロで腫瘍細胞の浸潤および遊走を抑制する
F−HSAはまた、図20における実験データの実施によって示されるように、インビトロでの腫瘍細胞の浸潤および遊走を抑制することにおいて効果的であることが示された。図9A、9C、9E、および9Gにおいて示されるように、F−HSAは、癌細胞もしくは正常細胞のどちらか一方の生存能力に影響を与えない濃度で、腫瘍細胞の浸潤/遊走能を著しく低下させた。
【実施例12】
【0182】
F−HSAはインビボで腫瘍細胞の転移を抑制した
F−HSAはインビボで乳癌細胞株TS/AおよびMDA−MB−231を抑制した。図21Aおよび22Aは、F−HSAが、F−HSA処理無しのTS/AまたはMDA−MB−231を有するマウスと比較して、TS/A細胞およびMDA−MB−231細胞の肺への転移を著しく抑制したことを示す。図21B、21C、22B、および22Cは、体重および肺組織における腫瘍細胞巣の数を測定し、さらにインビボでのF−HSAの有効性を確かめた。
【0183】
実施によると、乳癌細胞は対象の静脈を介して注射された。肺組織において検出された腫瘍細胞巣は、乳癌細胞が肺へ転移したことを示す。
【0184】
材料および方法
F−HSAの調製。20ミリグラムのHSAを1%(w/v)SDSを含む10mlのPBSへ溶解した。HSA溶液を5分間超音波破砕し、続いて、予め溶出溶液(25mM Tris−HCL(pH8.0)、1mM EDTA、0.1M NaCl、および0.05% SDS)で平衡化したスーパーデックス200(Superdex 200)へ注いだ。カラムは1ml/分の流速で溶出し、HSAを含有するC3からC7画分を貯えた。貯えられた画分は、2〜3mg/mlへ濃縮され、次いでCellu−Sep T4/Nominal(MWCO:12,000−14,000 Da)透析膜で、PBSで透析された。新しいPBSバッファーを2時間毎に室温で3回交換した。HSA−S200の収量は約75%であった。
【0185】
チオフラビンT(ThT)蛍光アッセイ。ThTへの結合は、アミロイド様タンパク質の特徴の一つである。蛍光測定のために、濃度を上げたタンパク質は、20μM ThTと共に室温で一時間インキュベートされ、その後、Wallac Victor2 1420 Multilabel Counter(Perkin Elmer Life Science, Waltham, MA, USA)を用いて、トリプリケートで(in triplicate)蛍光を測定した。励起波長および蛍光波長は、それぞれ430nmおよび486nmである。バッファーからのThTバックグラウンドシグナルを対応する測定から差し引いた。
【0186】
細胞生存はMTT比色分析アッセイによって決定された。対数増殖期細胞(TS/Aに対して1×104細胞/ウェル)が10%FBSを含む培地中、96−ウェルプレートに播種され、24時間インキュベートされた。一連の濃度のタンパク質での細胞の処理は、37℃で16時間適応(indiaction)、無血清培地中で実行された。処理の後、MTT溶液(0.5mg/ml)が各ウェルへ添加され、4時間のインキュベーション時間が続いた。生存細胞数は、続くイソプロパノールでの可溶化で、ELISAプレートリーダーによって570nmで分光光度的に測定することができる、ホルマザンの産生へ直接的に比例する。
【0187】
細胞生存能力アッセイ。細胞生存能力は、製造業者の使用説明書(Roche, Mannheim, Germany)に従ってWST−1アッセイによって測定された。簡単に説明すると、2×104細胞を、96ウェルプレート上の1ウェルあたり100μlの培地へ添加し、加湿インキュベーターにおいて一晩5%CO2中37℃でインキュベートした。ウェルへ接着した細胞は無血清培地中でインキュベートされ、様々な濃度のF−HSAで処理された。薬剤が効果を発揮するようにするための16時間5%CO2中37℃でのインキュベートの後、10μlのWST−1試薬が各ウェルへ添加された。プレートはそれから1分間150rpmで振動台上に置かれた。WST−1試薬が代謝されるようにするための別の2時間5%CO2中37℃でのインキュベートの後、生存細胞の数が吸光度によって決定された(450nm試験波長、690nm参照波長)。生存細胞の百分率は、(O.D.処理/O.D.対照)×100%として計算し、一方で成長阻害の百分率は、[1−(O.D.処理/O.D.対照)]×100%として計算した。この試験によると、IC50は、試薬が細胞生存性(cellular viability)の50%阻害を獲得した濃度である。
【0188】
細胞遊走および浸潤アッセイ。細胞遊走および浸潤は、ボイデンチャンバー遊走および浸潤アッセイ(Corning)を使用して決定された。簡単に説明すると、上層チャンバーの8μmの細孔膜は、(細胞遊走アッセイのために)20μg/ml フィブロネクチンで、または、(細胞浸潤アッセイのために)40μg/ml マトリゲルで覆われ、1mlのPBSを備えるウェル中に置かれ、37℃で2時間インキュベートされた。1mlの無血清培地中の癌細胞(1×105)を、1時間、上層チャンバーへ播種した。段階希釈濃度のF−HSAが上部チャンバーへ添加され、その後、10%FBSを含有する培養培地が下層チャンバーへ添加された。細胞は37℃で24時間インキュベートされた。インキュベート後、膜の上層側の細胞は綿棒で拭き取ることにより除去され、下層膜表面へ遊走した細胞は、細胞解離溶液(Sigma)を使用することによって解離させ、フローサイトメーター(BD company)を使用して計測した。これらの濃度において、しかしながら、F−HSAは、図9B、9D、9F、および9Hにおいて示されるように、MTTアッセイで測定された際、細胞生存能力へ影響を与えなかった。生存能力および細胞毒性はMTTまたはWST−1アッセイを使用して測定した。これらのキットは、生細胞におけるミトコンドリア活性の機能としての細胞成長の分光光度測定のために設計されている(Roche)。
【0189】
インビボでの乳癌細胞転移。TS/Aマウス乳腺腺癌細胞がBALB/cマウスの側面尾静脈(lateral tail vein)内へ静脈内注射され、または、MDA−MB−231ヒト乳腺腺癌細胞がヌードマウスへ注射された。次いで翌日、および、2日に一回、10回、F−HSA(1mg/kg)が静脈内注射された。F−HSA処理の終わりに、マウスを犠死させ、肺の転移を検出した。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
特異的に癌細胞の転移を抑制する繊維状タンパク質。
【請求項2】
請求項1に記載の繊維状タンパク質を含む医薬組成物。
【請求項3】
癌が乳癌、前立腺癌、卵巣癌、子宮頸癌、肺癌、または肝臓癌である、請求項1に記載の転移性癌細胞。
【請求項4】
繊維状タンパク質が繊維状アルブミンタンパク質を含む、請求項1に記載の繊維状タンパク質。
【請求項5】
繊維状タンパク質が繊維状ヒト血清アルブミンを含む、請求項1に記載の繊維状タンパク質。
【請求項6】
繊維状タンパク質が口蹄疫ウイルスの繊維状カプシドタンパク質を含む、請求項1に記載の繊維状タンパク質。
【請求項7】
有効量の繊維状タンパク質および医薬上許容される担体を対象に投与することを含む、癌転移を抑制するための方法であって、投与が対象における癌転移を減少させるものである、方法。
【請求項8】
繊維状タンパク質が繊維状アルブミンタンパク質を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
繊維状タンパク質が繊維状ヒト血清アルブミンを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項10】
繊維状タンパク質が口蹄疫ウイルスの繊維状カプシドタンパク質を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
繊維状タンパク質がキメラである、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
対象がヒトである、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
癌が乳癌である、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
癌が前立腺癌である、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
癌が卵巣癌である、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
癌が子宮頸癌である、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
投与が、静脈内注射、皮下注射、腹腔内注射、動脈内注射、筋肉内注射、腫瘍への病巣内注射、腫瘍に隣接する病巣内注射、静脈内注入、および動脈内注入、からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
投与が、対象の腫瘍部位で、または腫瘍部位の周りで、徐放性様式を介する、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
投与が第二の治療手段を施すことを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
第二の治療手段が化学療法剤である、請求項13に記載の方法。
【請求項21】
第二の治療手段が放射線治療である、請求項13に記載の方法。
【請求項22】
繊維状タンパク質が、
溶解したタンパク質を供給するために界面活性剤溶液へタンパク質を溶解すること;
溶解したタンパク質を分子量70kDa以上のタンパク質を分離することができる細孔径を備えるゲル濾過カラムへ注ぐこと;
溶出液を供給するためにゲル濾過カラムから溶解したタンパク質を溶出すること;および
溶出液から界面活性剤を除去すること、
を含む方法によって製造される、請求項1に記載の方法。
【請求項23】
繊維状タンパク質および医薬上許容される賦形剤を含む、対象における癌転移を抑制するための組成物。
【請求項24】
繊維状タンパク質が血清アルブミンを含む、請求項17に記載の組成物。
【請求項25】
繊維状タンパク質が口蹄疫ウイルスのカプシドタンパク質を含む、請求項17に記載の組成物。
【請求項26】
繊維状タンパク質および請求項1に記載の医薬組成物を採用するための取扱説明書を含む、対象における癌転移を抑制するためのキット。
【請求項27】
治療有効量の繊維状ヒト血清アルブミンおよび医薬上許容される担体を含む、組成物。
【請求項28】
繊維状ヒト血清アルブミンが、
界面活性剤溶液へヒト血清アルブミンを溶解すること;
溶解したヒト血清アルブミンを分子量70kDa以上のタンパク質を分離するための細孔径を備えるゲル濾過カラムへ注ぐこと;
溶出溶液内にヒト血清アルブミンを得るためにカラムからヒト血清アルブミンを溶出すること;および
ヒト血清アルブミンを含有する溶出溶液から界面活性剤を除去すること、
を含む方法によって製造される、請求項27に記載の組成物。
【請求項29】
注射形式である、請求項27に記載の組成物。
【請求項30】
ヒト患者における癌転移の抑制における使用のための、請求項27に記載の組成物。
【請求項31】
癌が、乳癌、卵巣癌、子宮頸癌、前立腺癌、および肺癌から選択される少なくとも一つである、請求項30に記載の組成物。
【請求項32】
繊維状ヒト血清アルブミンを製造すること;および
治療有効量の繊維状ヒト血清アルブミンを医薬上許容される担体と混合すること、
を含む、請求項1に記載の組成物を製造するための方法。
【請求項33】
繊維状ヒト血清アルブミンを製造する段階がさらに、
界面活性剤溶液へヒト血清アルブミンを溶解すること;
溶解したヒト血清アルブミンを分子量70kDa以上のタンパク質を分離するための細孔径を備えるゲル濾過カラムへ注ぐこと;および
カラムからヒト血清アルブミンを溶出すること、
を含む、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
カラムから溶出したヒト血清アルブミンを濃縮することをさらに含む、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
ヒト血清アルブミンが、塩およびラウリル硫酸ナトリウム(SDS)を含む溶液でカラムから溶出される、請求項33に記載の方法。
【請求項36】
溶液が、ラウリル硫酸ナトリウム(SDS)および合成両性イオン性界面活性剤から選択される少なくとも一つの界面活性剤を含む、請求項33に記載の方法。
【請求項37】
カラムがスーパーデックス商標−200またはHW55Sゲル濾過カラムである、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
癌を患っているほ乳類を治療することにおける使用のための、治療有効量の繊維状ヒト血清アルブミンおよび医薬上許容される担体を含む組成物。
【請求項39】
癌が、乳癌、卵巣癌、子宮頸癌、前立腺癌、および肺癌から選択される少なくとも一つである、請求項38に記載の組成物。
【請求項40】
癌細胞を抑制することにおける使用のための、治療有効量の繊維状ヒト血清アルブミンおよび医薬上許容される担体を含む組成物。
【請求項41】
癌細胞が、乳癌細胞、卵巣癌細胞、子宮頸癌細胞、前立腺癌細胞、および肺癌細胞から選択される、請求項40に記載の組成物。
【請求項1】
特異的に癌細胞の転移を抑制する繊維状タンパク質。
【請求項2】
請求項1に記載の繊維状タンパク質を含む医薬組成物。
【請求項3】
癌が乳癌、前立腺癌、卵巣癌、子宮頸癌、肺癌、または肝臓癌である、請求項1に記載の転移性癌細胞。
【請求項4】
繊維状タンパク質が繊維状アルブミンタンパク質を含む、請求項1に記載の繊維状タンパク質。
【請求項5】
繊維状タンパク質が繊維状ヒト血清アルブミンを含む、請求項1に記載の繊維状タンパク質。
【請求項6】
繊維状タンパク質が口蹄疫ウイルスの繊維状カプシドタンパク質を含む、請求項1に記載の繊維状タンパク質。
【請求項7】
有効量の繊維状タンパク質および医薬上許容される担体を対象に投与することを含む、癌転移を抑制するための方法であって、投与が対象における癌転移を減少させるものである、方法。
【請求項8】
繊維状タンパク質が繊維状アルブミンタンパク質を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
繊維状タンパク質が繊維状ヒト血清アルブミンを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項10】
繊維状タンパク質が口蹄疫ウイルスの繊維状カプシドタンパク質を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
繊維状タンパク質がキメラである、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
対象がヒトである、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
癌が乳癌である、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
癌が前立腺癌である、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
癌が卵巣癌である、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
癌が子宮頸癌である、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
投与が、静脈内注射、皮下注射、腹腔内注射、動脈内注射、筋肉内注射、腫瘍への病巣内注射、腫瘍に隣接する病巣内注射、静脈内注入、および動脈内注入、からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
投与が、対象の腫瘍部位で、または腫瘍部位の周りで、徐放性様式を介する、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
投与が第二の治療手段を施すことを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
第二の治療手段が化学療法剤である、請求項13に記載の方法。
【請求項21】
第二の治療手段が放射線治療である、請求項13に記載の方法。
【請求項22】
繊維状タンパク質が、
溶解したタンパク質を供給するために界面活性剤溶液へタンパク質を溶解すること;
溶解したタンパク質を分子量70kDa以上のタンパク質を分離することができる細孔径を備えるゲル濾過カラムへ注ぐこと;
溶出液を供給するためにゲル濾過カラムから溶解したタンパク質を溶出すること;および
溶出液から界面活性剤を除去すること、
を含む方法によって製造される、請求項1に記載の方法。
【請求項23】
繊維状タンパク質および医薬上許容される賦形剤を含む、対象における癌転移を抑制するための組成物。
【請求項24】
繊維状タンパク質が血清アルブミンを含む、請求項17に記載の組成物。
【請求項25】
繊維状タンパク質が口蹄疫ウイルスのカプシドタンパク質を含む、請求項17に記載の組成物。
【請求項26】
繊維状タンパク質および請求項1に記載の医薬組成物を採用するための取扱説明書を含む、対象における癌転移を抑制するためのキット。
【請求項27】
治療有効量の繊維状ヒト血清アルブミンおよび医薬上許容される担体を含む、組成物。
【請求項28】
繊維状ヒト血清アルブミンが、
界面活性剤溶液へヒト血清アルブミンを溶解すること;
溶解したヒト血清アルブミンを分子量70kDa以上のタンパク質を分離するための細孔径を備えるゲル濾過カラムへ注ぐこと;
溶出溶液内にヒト血清アルブミンを得るためにカラムからヒト血清アルブミンを溶出すること;および
ヒト血清アルブミンを含有する溶出溶液から界面活性剤を除去すること、
を含む方法によって製造される、請求項27に記載の組成物。
【請求項29】
注射形式である、請求項27に記載の組成物。
【請求項30】
ヒト患者における癌転移の抑制における使用のための、請求項27に記載の組成物。
【請求項31】
癌が、乳癌、卵巣癌、子宮頸癌、前立腺癌、および肺癌から選択される少なくとも一つである、請求項30に記載の組成物。
【請求項32】
繊維状ヒト血清アルブミンを製造すること;および
治療有効量の繊維状ヒト血清アルブミンを医薬上許容される担体と混合すること、
を含む、請求項1に記載の組成物を製造するための方法。
【請求項33】
繊維状ヒト血清アルブミンを製造する段階がさらに、
界面活性剤溶液へヒト血清アルブミンを溶解すること;
溶解したヒト血清アルブミンを分子量70kDa以上のタンパク質を分離するための細孔径を備えるゲル濾過カラムへ注ぐこと;および
カラムからヒト血清アルブミンを溶出すること、
を含む、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
カラムから溶出したヒト血清アルブミンを濃縮することをさらに含む、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
ヒト血清アルブミンが、塩およびラウリル硫酸ナトリウム(SDS)を含む溶液でカラムから溶出される、請求項33に記載の方法。
【請求項36】
溶液が、ラウリル硫酸ナトリウム(SDS)および合成両性イオン性界面活性剤から選択される少なくとも一つの界面活性剤を含む、請求項33に記載の方法。
【請求項37】
カラムがスーパーデックス商標−200またはHW55Sゲル濾過カラムである、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
癌を患っているほ乳類を治療することにおける使用のための、治療有効量の繊維状ヒト血清アルブミンおよび医薬上許容される担体を含む組成物。
【請求項39】
癌が、乳癌、卵巣癌、子宮頸癌、前立腺癌、および肺癌から選択される少なくとも一つである、請求項38に記載の組成物。
【請求項40】
癌細胞を抑制することにおける使用のための、治療有効量の繊維状ヒト血清アルブミンおよび医薬上許容される担体を含む組成物。
【請求項41】
癌細胞が、乳癌細胞、卵巣癌細胞、子宮頸癌細胞、前立腺癌細胞、および肺癌細胞から選択される、請求項40に記載の組成物。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20A】
【図20B】
【図20C】
【図20D】
【図20E】
【図20F】
【図20G】
【図20H】
【図21A】
【図21B】
【図21C】
【図22A】
【図22B】
【図22C】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20A】
【図20B】
【図20C】
【図20D】
【図20E】
【図20F】
【図20G】
【図20H】
【図21A】
【図21B】
【図21C】
【図22A】
【図22B】
【図22C】
【公表番号】特表2013−511548(P2013−511548A)
【公表日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−540104(P2012−540104)
【出願日】平成22年11月19日(2010.11.19)
【国際出願番号】PCT/US2010/057493
【国際公開番号】WO2011/063275
【国際公開日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【出願人】(596118493)アカデミア シニカ (33)
【氏名又は名称原語表記】ACADEMIA SINICA
【住所又は居所原語表記】128 Sec 2,Academia Road,Nankang,Taipei 11529 TW
【Fターム(参考)】
【公表日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年11月19日(2010.11.19)
【国際出願番号】PCT/US2010/057493
【国際公開番号】WO2011/063275
【国際公開日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【出願人】(596118493)アカデミア シニカ (33)
【氏名又は名称原語表記】ACADEMIA SINICA
【住所又は居所原語表記】128 Sec 2,Academia Road,Nankang,Taipei 11529 TW
【Fターム(参考)】
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