説明

癌転移を予防するための方法

本発明は、詳細な記載に記載された式(I)で示されるグリセロ脂質化合物の特定のファミリーの使用、又は癌転移を予防するための若しくは治療するための医薬の製造に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、医療分野に、そしてより特別には、癌転移の予防及び治療に関する。
【0002】
発明の背景
既知又は市販の抗癌化合物は、癌細胞に対する直接的な作用をはじめとして様々な方法で抗癌特性を発揮する。癌細胞に対して直接作用する多数の抗癌剤は、癌細胞増殖を抑制するか、又は癌細胞に対して細胞障害性である。
【0003】
しかし、原発癌の完全な除去又は処置の後でさえ、悪性腫瘍が、多くの場合、転移する。転移性悪性腫瘍は、原発腫瘍の転移の結果として、原発病変から離れた部位に形成される。これは癌治療において最も重大な懸念の一つである。具体的に言えば、原発病変が処置されたとしても、別の器官に転移した腫瘍の成長のせいで、患者が死亡する場合もある。多くの種類の臨床的に診断された固形癌(癌の局所的成長から生じる原発病変である、ある種の腫瘍)の場合、外科的除去が第一の処置方法だと考えられている。しかし、原発癌細胞転移は、多くの場合、外科手術の後で観察される。転位部位における癌浸潤は全身に拡散するので、患者は転移性癌の成長が原因で死亡する。切除可能な腫瘍を有する個々の身体にとって、原発腫瘍成長又は局所再発が、多くの場合、死亡の原因であると報告されてきた。したがって、手術可能な腫瘍を有する癌患者のほぼ40%が外科的手術後の転移性疾患が原因で最終的に死に至ると近年考えられている。
【0004】
それゆえ、悪性腫瘍転移は、失敗した癌治療の最も一般的な理由である(Bertino et al., (編集1996年), Encyclopedia of Cancer, Academic Press; Devita et al., (編集1997年), Cancer: Principles & Practice of Oncology, Lippincott, Williams and Wilkins; Cavalli et al., (1996), Textbook of Medical Oncology, Dunitz Martin Ltd; Peckham et al., (編集1995年), Oxford Textbook of Oncology, Oxford Univ. Press; and Mendelsohn et al., (1995), The Molecular Basis of Cancer, Saunders, Philadelphiaを参照のこと)。
【0005】
悪性黒色腫、乳癌、肺癌、大腸癌、及び前立腺癌は、転移する傾向がある癌の種類であると考えられている。転移の範囲は癌の種類に依存して異なる。肺及び肝臓は、癌の標的器官として周知であり、ならびに脳又は骨髄もまた高頻度で標的器官である。骨への転移は、他の器官への転移と異なり、それが直接生命を脅かすことはめったにない。しかし、骨への転移は、耐えがたい骨の痛み、身体的活動の制限などによって複雑であり、その結果、著しく患者の生活の質(QOL)を下げ、そして間接的に患者の早期な死を引き起こす。
【0006】
転移は、様々な遺伝的又は後成的突然変異の結果として生じる非常に複雑なプロセスであり、そして転移の各段階は、特異的な細胞内シグナル伝達経路によって調節されていると思われる。浸潤機構は、転移プロセスを開始し、そして細胞及び細胞外基質への腫瘍細胞の接着の変化、周囲組織のタンパク質分解、ならびに組織を通り身体的に適切な腫瘍細胞への運動からなり、全てのそれらのステップは、シグナル伝達経路によって特異的に調節される。
【0007】
転移の多段階プロセスには、(i)原発腫瘍からの悪性細胞の放出、(ii)癌細胞の血流への移動、(iii)遠位部位での接着、及び(iv)溢血後の血管内又は組織内での播種性癌細胞の成長が挙げられる。このプロセスにおける各段階では、癌細胞と宿主微小環境との間に異なる種類の相互作用を必要とする。
【0008】
転移が起こる機構、ひいては阻害され得る機構の詳細については、まだ完全に解明されていないが、しかし、非癌細胞の癌細胞への形質転換に関与する生物学的機構は、癌細胞転移の発生に関与する機構とは明らかに異なることが明白である(Steeg P S, Nat. Medicine 2006, vol.12, (8), 895-904)。例えば、最近の研究は、癌細胞増殖へと導く幾つかの細胞経路と転移性浸潤機構との間の明確な違いを立証している(McLean, G. et al., Nat. Rev. Cancer 5, 505-514 (2005); Playford, M. & Schaller, M., Oncogene 23, 7928-7946 (2004); Birchmeier, C et al., Nat. Rev. Mol. Cell Biol. 4, 915-925 (2003)。
【0009】
更に、異なる状況で異なる遺伝子によって実行されるであろう幾つかの相補的機能が必要なため、特異な転移遺伝子の同定は難しいが、20を超える転移抑制因子が最近同定された。転移抑制因子は、腫瘍抑制因子とは異なる機構で作用し、原発腫瘍に影響を及ぼさない。これらの遺伝子は、腫瘍形成を抑制することなく、腫瘍転移を阻害する(Rinker- Schaeffer CW et al., Clin Cancer Res 2006;12:3882-89; Berger JC et al., Cancer Biol Ther 2005; 4:805-12; Nash KT et al., Front Biosci 2006;11:647-59; Shevde LA et al., Cancer Lett 2003;198:1-20; Steeg PS et al., Clin Breast Cancer 2003; 4:51-62)。
【0010】
したがって原発腫瘍を除去するために、増殖及び/又はアポトーシス機構のターゲティングが必要な場合には、完全寛解を達成するために、転移性プロセスに対して異なる取り組みをすることが必要であることが、明らかになった。
【0011】
実際、癌細胞に対して抗増殖作用を有する抗癌剤を含む抗癌剤は、原発腫瘍に対して治療効果を実証したが、これらの抗癌剤のうち殆どどれも同時に抗転移作用を有していない。
【0012】
前臨床研究は、実際、原発性疾患及び転移性疾患に対する薬剤の差次的効果を報告している。これらのデータは、原発腫瘍のサイズの減少に関して検証された化合物が、転移性疾患に効き目はないかもしれないと説明している。それどころか、抗転移性効果は、原発腫瘍サイズの減少に基づく試験では、検証できないであろう(Steeg P S, Nature Medicine, 12 (8), 895-905 (2006); Lang, J.Y. et al. Clin. Cancer Res. 11, 3455-3464 (2005); Shannon, K.E. et al. Clin. Exp. Metastasis 21, 129-138 (2004); Manni, A. et al. Clin. Exp. Metastasis 20, 321-325 (2003); Cairns, R.A. & Hill, R.P. Cancer Res. 64, 2054-2061 (2004); Lovey, J. et al., Strahlenther. Onkol. 179, 812-818 (2003); Nasulewicz, A. et al. Biochim. Biophys. Acta 1739, 26-32 (2004))。
【0013】
より更に、他の研究は、原発腫瘍をターゲティングにする化学療法剤が転移特性を変更し得ることを示した。例えば、メルファラン(melphalan)を用いた鼻腔癌細胞株のインビトロ処置は、その侵襲性を増強させたことを示した(Liang, Y. et al. Eur. J. Cancer 37, 1041-1052 (2001))。転移に作用する原因機構は未知であり、且つ多因子性であり得る。少なくとも以下の2つの可能性がある:(a)処置が、突然変異を加速しており、且つより侵襲的な細胞変異体の成長を助長する選択圧を発揮しているか、又は(b)処置に関連するストレスが、生存可能な転移を形成する細胞の能力を増強する、遺伝子発現における変化のようなエピジェネティック変化を誘発している(Cairns R. A. & Hill R. P. Cancer Res., 64, 2054-61 (2004))。
【0014】
したがって、抗転移薬の開発に関して、最も興味深い標的は、原発腫瘍成長に干渉することなく転移拡散を制御する細胞プロセスの分子である。
【0015】
過去20年で、幾つかのチームは、「真」(即ち:転移プロセスを特異的にターゲティングすること)の抗転移薬を見出すことに専念した。ラゾキサン(razoxane)のようなそれら抗転移薬の幾つかは、物理的バリアーを精巧に構成することによって転移性細胞の血管内侵入を阻害するが、そのことは原発腫瘍の成長を制限しない(Bergamo et al., Dalton trans., 2007, 13, 1267-1272)。それらの大部分は、コロニー形成の様々な段階を阻害する(Perret & Crepin, Fundamental and Clinical Pharmacology, 2008, 22, 465-92)。
【0016】
またインビトロで移動する癌細胞の能力と、インビボで転移する癌細胞の能力との間の直接的な関係を示した先行研究により、新たな抗転移標的を同定する可能性が広がった(特に、Giamperi et al., 2009, Nature Cell Biology, Vol. 11(11): 1287-1296; Patent Application No. US 2003/00 54985, Hazan et al., 2000, The Journal of Cell biology, Vol. 148(4): 779-790; Yang et al., 2009, Cancer Cell, Vol. 15: 124-134を参照のこと)。
【0017】
予備臨床試験段階を含む、有望な実験的試験の主題であった化合物は、エデルフォシン(edelfosine)(ET−18−OCH)という名のアルキルグリセロリン脂質化合物である(Vogler et al., Cancer Invest, 1998, 16(8):549-53, Candal et al., Cancer Chemother Pharmacol, 1994, 34(2), 175-8)。
【0018】
しかし、エデルフォシンは、抗血管新生効果及びおそらく抗侵襲作用を有すると当技術分野において記載されてきた一方で、その分子作用の明確な理解は欠けている。例えば、エデルフォシンは、用量に依存して血管新生に対し二相性効果を発揮することが示されている(Vogler et al., Cancer Invest, 1998, 16(8):549-53, Candal et al., Cancer Chemother Pharmacol, 1994, 34(2), 175-8, Cajate C & Mollinedo F, Current Drug metabolism, 2002, 3, 491-525)。更に、PAF(Andrade S P et al., Int. J. Exp. Pathol., 1992, 73, 503-13)又はブチリル−グリセロール(Dobson D E, et al., Cell, 1990, 61, 223-30)のような他の関連グリセロ脂質は、血管新生促進性であると報告されている。
【0019】
更に、エデルフォシンはまた原発腫瘍成長を標的とし、且つアポトーシス促進性効果を発揮するので、エデルフォシンは、「真」の抗転移薬ではない(Gajate C and Mollinedo F, Curr. Drug Metab. 3, 491-525 ; Nieto-Miguel et al., 2007, Cancer Res, 67 (31); Estella-Hermoso de Mendoza et al., 2009, Clin Cancer Res, 15(3), 858-864)。
【0020】
最後に、エデルフォシンは、ヒトに投与された場合、毒性が高いことが周知であり、またその臨床的治療用途は、重症で有害な副作用によって著しく阻止された(Gajate C and Mollinedo F, Curr. Drug Metab. 3, 491-525)。
【0021】
したがって、腫瘍転移を阻害する方法、特に、処置された癌患者に重篤な副作用を引き起こさずに転移を阻害する方法が、当技術分野において依然として必要である。
【0022】
発明の概要
本発明は、式(I):
【化1】


{式中、
−Rは、16〜18個の炭素原子を有するアルキル又はアルケニル基であり、
−Rは、
(a)式(II):
【化2】


[式中、R21、R22及びR23は、互いに独立に、水素原子及び1又は2個の炭素原子を有するアルキル基からなる群より選択される]で示される基、及び
(b)ヒドロキシル
からなる群より選択される基であり、
そして
−Rは、
−モノサッカライド基、もしくは2〜4個のサッカライド単位を有するポリサッカライド基、又は
−式(III):
【化3】


[式中、Rは、モノサッカライド基、もしくは2〜4個のサッカライド単位を有するポリサッカライド基からなる群より選択される]で示される基
からなる群より選択される}で示される、癌転移を予防するための医薬の製造のためのグリセロ脂質の使用に関する。
【0023】
本発明はまた、癌転移を予防するための式(I)のグリセロ脂質の使用に関する。
【0024】
本発明はまた、癌転移を予防するための方法であって、上記の式(I)のグリセロ脂質を、それを必要とする患者に投与する工程を含む方法に関する。
【0025】
式(I)のグリセロ脂質は、本明細書において本発明の一般的な説明に詳述されている、式(A)〜(P)の化合物を包含する。
【0026】
0
本発明はまた、上記と同義の式(I)の化合物を1つ以上の薬学的に許容しうる賦形剤と組み合わせて含む、癌転移を予防するための医薬組成物に関する。
【0027】
最後に、本発明は、上記の式(I)のグリセロ脂質それ自体に関する。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】式(I)の化合物、特に、式(I)[式中、基Rは、モノサッカライド又はポリサッカライド基を意味する]の化合物を得るために有用なグリセロール脂質前駆体である、中間体化合物Aの合成のスキームを示す。このスキームは、本明細書中では「スキーム1」と呼ばれる。
【図2】式(I)[式中、基Rは、モノサッカライド又はポリサッカライド基を意味する]の化合物を得るために有用な、6位に遊離ヒドロキシル基を有するグリコピラノシル誘導体である、中間体化合物Bの合成のスキームを示す。このスキームは、本明細書中では「スキーム2」と呼ばれる。
【図3】式(I)[式中、基Rは、モノサッカライド又はポリサッカライド基を意味する]の化合物を得るために有用な、6−O−アセチル−2’3’4−トリ−O−ベンジル−D−ガラクトピラノースである、中間体化合物Cの合成のスキームを示す。このスキームは、本明細書中では「スキーム3」と呼ばれる。
【図4】化合物Cを化合物Bと反応せることによる、式(I)[式中、基Rは、モノサッカライド又はポリサッカライド基を意味する]の化合物の合成のスキームを示す。このスキームは、本明細書中では「スキーム4」と呼ばれる。
【図5】式(I){式中、基Rは、式(III)[式中、Rは、モノサッカライド又はポリサッカライド基を意味する]の基である}の化合物の合成のスキームを示す。このスキームは、本明細書中では「スキーム5」と呼ばれる。
【図6A】癌性MDA−MB−435s細胞及び非癌性MCF−10A細胞に対する細胞運動に及ぼすJPH1701(又はOhmline)活性。運動は、トランスウエルアッセイにより試験した。加えて、生存率試験は、MTTアッセイを用いて実施した。図6A〜B):JPH1701(図6AのJPH1701の濃度は、0(対照条件)、10nM、100nM、300nM及び1μMである)は、10μMを除いて、生存率(図6B)に影響することなく、10nMからMDA−MB−435s野生型(WT)細胞の運動を減少(図6A)させる。
【図6B】癌性MDA−MB−435s細胞及び非癌性MCF−10A細胞に対する細胞運動に及ぼすJPH1701(又はOhmline)活性。運動は、トランスウエルアッセイにより試験した。加えて、生存率試験は、MTTアッセイを用いて実施した。図6A〜B):JPH1701(図6AのJPH1701の濃度は、0(対照条件)、10nM、100nM、300nM及び1μMである)は、10μMを除いて、生存率(図6B)に影響することなく、10nMからMDA−MB−435s野生型(WT)細胞の運動を減少(図6A)させる。
【図6C】癌性MDA−MB−435s細胞及び非癌性MCF−10A細胞に対する細胞運動に及ぼすJPH1701(又はOhmline)活性。運動は、トランスウエルアッセイにより試験した。加えて、生存率試験は、MTTアッセイを用いて実施した。図6C〜D):MCF−10A運動(図6C)及び生存率(図6D)は、JPH1701(図6CのJPH1701の濃度は、0(対照条件)、10nM、100nM、300nM及び1μMである)による影響を受けない。
【図6D】癌性MDA−MB−435s細胞及び非癌性MCF−10A細胞に対する細胞運動に及ぼすJPH1701(又はOhmline)活性。運動は、トランスウエルアッセイにより試験した。加えて、生存率試験は、MTTアッセイを用いて実施した。図6C〜D):MCF−10A運動(図6C)及び生存率(図6D)は、JPH1701(図6CのJPH1701の濃度は、0(対照条件)、10nM、100nM、300nM及び1μMである)による影響を受けない。
【図6E】癌性MDA−MB−435s細胞及び非癌性MCF−10A細胞に対する細胞運動に及ぼすJPH1701(又はOhmline)活性。運動は、トランスウエルアッセイにより試験した。加えて、生存率試験は、MTTアッセイを用いて実施した。図6E〜F):SK3依存性運動に対する効果。図6Eは、MDA−MB−435s shRD=SK3+SK3を発現している細胞の運動が、JPH1701(JPH1701の濃度は、0(対照条件)、10nM、100nM、300nM及び1μMである)により影響をうけることを示す。対照的に、図6Fに示すように、JPH1701は、JPH1701(JPH1701の濃度は、0(対照条件)、10nM、100nM、300nM及び1μMである)の非特異的な効果が示されている1μMを除いて、MDA−MB−435s shSK3(これは、SK3を発現しない)の遊走能力に影響しない。
【図6F】癌性MDA−MB−435s細胞及び非癌性MCF−10A細胞に対する細胞運動に及ぼすJPH1701(又はOhmline)活性。運動は、トランスウエルアッセイにより試験した。加えて、生存率試験は、MTTアッセイを用いて実施した。図6E〜F):SK3依存性運動に対する効果。図6Eは、MDA−MB−435s shRD=SK3+SK3を発現している細胞の運動が、JPH1701(JPH1701の濃度は、0(対照条件)、10nM、100nM、300nM及び1μMである)により影響をうけることを示す。対照的に、図6Fに示すように、JPH1701は、JPH1701(JPH1701の濃度は、0(対照条件)、10nM、100nM、300nM及び1μMである)の非特異的な効果が示されている1μMを除いて、MDA−MB−435s shSK3(これは、SK3を発現しない)の遊走能力に影響しない。
【図7A】MDA−MB−435s野生型(WT)における全細胞電流に対する、1μMでのJPH1701の24時間適用の効果。図7A):MDA−MD−435sについて記録された電流の図。上に、対照条件下の電流をMDA−MB−435sについて記録した。下に、JPH1701 1μMで24時間の間、処置した細胞の電流を表した。
【図7B】MDA−MB−435s野生型(WT)における全細胞電流に対する、1μMでのJPH1701の24時間適用の効果。図7B):アパミン−感受性電流に対するJPH1701の効果。細胞を、JHP1701 1μMで24時間の間インキュベートし、次に電流を、アパミン(SK3/KCa2.3チャネルの特異的な遮断薬である)の非存在下又はアパミン有りで測定した。ヒストグラムは、アパミンにより阻害された電流の振幅を示す。JPH1701での処置の後、アパミン−感受性電流は、消失した。
【図8A】SK3チャネル活性に対するJPH1701の効果;図8A):0mVで記録されたSK3電流に対するJPH1701の3種類の用量(300nM、上部曲線;1μM、中部曲線;及び10μM、底部曲線)の用量及び時間応答効果。*は、p<0.05で、対照と有意に異なることを意味する。
【図8B】SK3チャネル活性に対するJPH1701の効果;図8B):電流の50%阻害を得るためのJPH1701の用量非依存効果を示すヒストグラム(JPH1701の濃度は、10、1及び0.3μMである)。結果は、平均値±S.E.M.(平均値の標準誤差)として表す。
【図8C】SK3チャネル活性に対するJPH1701の効果;図8C):SK3活性に対する、ラセミ体ヘキサデシルオキシ−2−O−メチル−sn−グリセロール−ラクトース(JPH1701又はOhmline、即ち:実施例中のJPH1701)混合物の効果、及び両方の鏡像異性体(R−JPH1701及びS−JPH1701)の効果を示すヒストグラム。阻害のパーセンテージは、比率(SK3電流振幅及びコードコンダクタンス(10μM JPH1701の存在下)/対照実験中のSK3電流振幅)を表す。黒色のバーは、0mVでの電流を示し、そして灰色のバーは、コードコンダクタンスを示す。
【図8D】SK3チャネル活性に対するJPH1701の効果;図8D):+JPH1701形態の(濃度:0(対照)、0.3、1及び10μM)の用量依存効果。カラム、平均値、バー、SEM、(ラセミ混合物については5細胞、そして、+及び−形態については4細胞)。
【図8E】SK3チャネル活性に対するJPH1701の効果;図8E):0.3及び2μM JPH1701による、大脳皮質の膜ホモジネートから得たSKCaチャネルへの125I−アパミン(7pM)の特異的結合の対照に対する%を示すヒストグラム。
【図9A】SKCaサブタイプ及びIKCaチャネルに対するJPH1701の選択的効果。図9A):10μM JPH1701の適用の前後に、組換え型SK1、SK2、SK3及びIKCaチャネルを発現しているHEK293細胞で記録された全細胞K電流の例(上方グラフ:それぞれSK1及びSK2、下方グラフ:それぞれSK3及びIKCa)。電流を、pCa 6で、ランプ・プロトコルにより、0mVの恒常維持から500msで−100mV〜+60mV発生させた。
【図9B】SKCaサブタイプ及びIKCaチャネルに対するJPH1701の選択的効果。図9B):0mVで記録されたSKCa(SK1、SK2、SK3)及びIKCa電流振幅に対する10μM JPH1701の効果を示すヒストグラム。結果は、平均値±S.E.M.として表わす。*は、p<0.05で、対照と有意に異なることを意味する。各チャネル(SK1、SK2、SK3及びIKCa)について、左側カラム(淡灰色)は、対照の結果を表し、そして右側カラム(暗灰色)は、JPH1701適用後の結果を表す。
【図10A】実験的転移モデルに対するJPH1701の抗転移性効果。JPH1701(1μM)又はビヒクルで24時間、前処置された200万個のMDA−MB−435s−luc細胞を、NMRI/ヌードマウスのMFPに移植した。マウスを1週間に3回、全ての実験の間(14〜15週間)、15mg/kgの静注にて、JPH1701で又はビヒクルで処置した。原発腫瘍は、その容量が500mmに達した時(移植後6〜7週間)、外科的に除去した。原発腫瘍の外科的除去の7〜8週間後、マウスを安楽死させた。図10A〜B):安楽死前の、ビヒクルで処置したマウス(図10A)又はJPH1701で処置したマウス(図10B)からの転移のインビボBLI。
【図10B】実験的転移モデルに対するJPH1701の抗転移性効果。JPH1701(1μM)又はビヒクルで24時間、前処置された200万個のMDA−MB−435s−luc細胞を、NMRI/ヌードマウスのMFPに移植した。マウスを1週間に3回、全ての実験の間(14〜15週間)、15mg/kgの静注にて、JPH1701で又はビヒクルで処置した。原発腫瘍は、その容量が500mmに達した時(移植後6〜7週間)、外科的に除去した。原発腫瘍の外科的除去の7〜8週間後、マウスを安楽死させた。図10A〜B):安楽死前の、ビヒクルで処置したマウス(図10A)又はJPH1701で処置したマウス(図10B)からの転移のインビボBLI。
【図10C】実験的転移モデルに対するJPH1701の抗転移性効果。JPH1701(1μM)又はビヒクルで24時間、前処置された200万個のMDA−MB−435s−luc細胞を、NMRI/ヌードマウスのMFPに移植した。マウスを1週間に3回、全ての実験の間(14〜15週間)、15mg/kgの静注にて、JPH1701で又はビヒクルで処置した。原発腫瘍は、その容量が500mmに達した時(移植後6〜7週間)、外科的に除去した。原発腫瘍の外科的除去の7〜8週間後、マウスを安楽死させた。図10C):安楽死後の、生物発光によりエクスビボで検出された転移を有する組織の数(リンパ節、肺、脊柱、及び下肢骨を含む)。
【図10D】実験的転移モデルに対するJPH1701の抗転移性効果。JPH1701(1μM)又はビヒクルで24時間、前処置された200万個のMDA−MB−435s−luc細胞を、NMRI/ヌードマウスのMFPに移植した。マウスを1週間に3回、全ての実験の間(14〜15週間)、15mg/kgの静注にて、JPH1701で又はビヒクルで処置した。原発腫瘍は、その容量が500mmに達した時(移植後6〜7週間)、外科的に除去した。原発腫瘍の外科的除去の7〜8週間後、マウスを安楽死させた。図10D):ビヒクルで又はJPH1701で処置したマウスの転移スコア。2つのパラメータを使用して、各マウスの転移スコアを評価した:(i)BLIによりエクスビボで検出された転移を有する組織又は器官の数、及び(ii)各転移のBLI強度(フォトン/分)。箱ひげ図は、第1四分位、中央値及び第3四分位を示し、正方形は平均値を示した。SigmaStatソフトウエアで実施した統計分析は、順位和検定(Rank Sum Test)を使用して作成した。マウスの両方のコホート間の差異は、有意に異なる。
【図10E】実験的転移モデルに対するJPH1701の抗転移性効果。JPH1701(1μM)又はビヒクルで24時間、前処置された200万個のMDA−MB−435s−luc細胞を、NMRI/ヌードマウスのMFPに移植した。マウスを1週間に3回、全ての実験の間(14〜15週間)、15mg/kgの静注にて、JPH1701で又はビヒクルで処置した。原発腫瘍は、その容量が500mmに達した時(移植後6〜7週間)、外科的に除去した。原発腫瘍の外科的除去の7〜8週間後、マウスを安楽死させた。図10E):時間の関数として、インビボで転移を示しているマウスパーセンテージ。12週目(終点)の転移を有するマウスの数を100%として設計することにより、データを正規化した。図の上半分は、プラセボ成分(ビヒクル)を摂取した対照マウスサブグループで得た結果を表している。図の下半分は、JPH1701を摂取したマウスで得た結果を表している。図の上半分と下半分に表した結果間の比較は、JHP1701処置マウスにおいて転移発生が遅れた又は欠如していることを示す。
【図10F】実験的転移モデルに対するJPH1701の抗転移性効果。JPH1701(1μM)又はビヒクルで24時間、前処置された200万個のMDA−MB−435s−luc細胞を、NMRI/ヌードマウスのMFPに移植した。マウスを1週間に3回、全ての実験の間(14〜15週間)、15mg/kgの静注にて、JPH1701で又はビヒクルで処置した。原発腫瘍は、その容量が500mmに達した時(移植後6〜7週間)、外科的に除去した。原発腫瘍の外科的除去の7〜8週間後、マウスを安楽死させた。図10F):両方のコホートにおける転移発生を表しているグラフ:黒丸付きの上側曲線:プラセボ成分(ビヒクル)を摂取した対照マウスサブグループ;白丸付きの下側曲線:JPH1701を摂取したマウス。各コホートのスコア(個々のスコアの合計)は、BLIによりインビボで評価された転移発生の程度を表す。
【図11A】PAF受容体、PLC及びPKC活性に対するJPH1701の効果。図11A):0.3及び2μM エデルフォシンによる、ならびに0.3及び2μM JPH1701による、CHO細胞の膜ホモジネートから得た組換え型PAF受容体への3H−C16−PAFの特異的結合の対照に対するパーセンテージを示すヒストグラム。
【図11B】PAF受容体、PLC及びPKC活性に対するJPH1701の効果。図11B):100nM C16−PAFにより誘発された応答に対して正規化された、PAF受容体に対する0.3及び2μMのエデルフォシン及びJPH1701のアゴニスト応答の対照に対するパーセンテージ(%効果、即ち:細胞内カルシウム濃度の増大)を示すヒストグラム。IC50を、エデルフォシン及びJPH1701について決定した。*は、p<0.05で、対照と有意に異なることを意味する。
【図11C】PAF受容体、PLC及びPKC活性に対するJPH1701の効果。図11C〜D):PKC(図11C、PKCは:α、β1、β2、γ、δ、ε、ζ、η、θ、ιである):及びホスホリパーゼC(PLC)活性(図11D)に対するJPH1701の効果を示す用量応答曲線。
【図11D】PAF受容体、PLC及びPKC活性に対するJPH1701の効果。図11C〜D):PKC(図11C、PKCは:α、β1、β2、γ、δ、ε、ζ、η、θ、ιである):及びホスホリパーゼC(PLC)活性(図11D)に対するJPH1701の効果を示す用量応答曲線。
【図12A】JPH1701処置は、乳房脂肪体(MFP)−モデル腫瘍の原発腫瘍成長に影響しなかった。JPH1701(1μM)で又はビヒクルで24時間、前処置したMDA−MB−435s−luc細胞の200万個を、NMRI/ヌードマウスのMFPに移植した。マウスを、一週間に3回、15mg/kgの静注にて、JPH1701で又はビヒクルで処置した。図12A):腫瘍容量の経時変化。移植2週間後、原発腫瘍を、端度器(caliper)を用いて三次元で週1回、6週間の間、測定し、腫瘍容量を計算した(黒丸:ビヒクル、白丸:JPH1701)。
【図12B】JPH1701処置は、乳房脂肪体(MFP)−モデル腫瘍の原発腫瘍成長に影響しなかった。JPH1701(1μM)で又はビヒクルで24時間、前処置したMDA−MB−435s−luc細胞の200万個を、NMRI/ヌードマウスのMFPに移植した。マウスを、一週間に3回、15mg/kgの静注にて、JPH1701で又はビヒクルで処置した。図12B):腫瘍BLIの経時変化。移植2週間後、原発腫瘍中の癌細胞の数を、BLIイメージングにより週1回、6週間の間、評価した(黒丸:ビヒクル、白丸:JPH1701)。対照コホートとJPH1701で処置したマウスのコホートとの間に、差異は観察されなかった。
【0029】
発明の詳細な説明
驚くべきことに、本明細書の以下に記載の式(I)を有する、グリセロ脂質化合物の特定のファミリーが、少なくともSK3/KCa2.3チャネルを発現している腫瘍細胞に対して特異的な抗転移特性を有しているということを、本発明にしたがって見出した。
【0030】
したがって、本発明は、式(I):
【化4】


{式中、
−Rは、16〜18個の炭素原子を有するアルキル又はアルケニル基であり、
−Rは、
(a)式(II):
【化5】


[式中、R21、R22及びR23は、互いに独立に、水素原子及び1又は2個の炭素原子を有するアルキル基からなる群より選択される]で示される基、及び
(b)ヒドロキシル
からなる群より選択される基であり、
そして
−Rは、
−モノサッカライド基、もしくは2〜4個のサッカライド単位を有するポリサッカライド基、又は
−式(III):
【化6】


[式中、Rは、モノサッカライド基、もしくは2〜4個のサッカライド単位を有するポリサッカライド基からなる群より選択される]で示される基
からなる群より選択される}で示される、癌転移を予防するための医薬の製造のためのグリセロ脂質の使用に関する。
【0031】
また、本発明は、癌転移を予防するための上記の式(I)のグリセロ脂質の使用に関する。
【0032】
本発明はまた、それを必要する癌患者において転移を予防するための方法であって、上記の式(I)のグリセロ脂質又は上記の式(I)の該グリセロ脂質を含む医薬組成物を該患者に投与する工程を含む方法を包含する。本発明によれば、転移を予防することは、原発腫瘍から遠位部位への細胞の拡散を妨害することを包含する。
【0033】
本発明によれば、式(I)の化合物がSK3/KCa2.3カリウムチャネルの活性を阻害し、そしてSK3/KCa2.3チャネルに対する該阻害活性がその抗転移特性に寄与する、又はこれを十分に説明するということが見出された。
【0034】
より正確には、sn−1(R)に少なくとも16個の炭素の脂肪酸長及びsn−3(R)に1個のジサッカライドを有する、式(I)の化合物が、非常に効果的であることが見出された。ヘキサデシルオキシ−2−O−メチル−sn−グリセロール(HMG)類似体{sn−1(R)に少なくとも16個の炭素の脂肪酸長を有し、そしてR(sn−3)は、下記:
【化7】


[式中、Rは、モノサッカライド基、又は2〜4個のサッカライド単位を有するポリサッカライド基(例えば、化合物 M、N、O及びP)からなる群より選択される]からなる}は、またSK3/KCa2.3チャネルの強力な阻害剤として実証された。
【0035】
INSERM(Institut National de la Sante et de la Recherche Medicale)の名で、2008年2月6日公開のヨーロッパ特許出願第EP 1 884 774号に既に開示された方法に従って、SK3/KCa2.3チャネルが、式(I)の化合物の癌細胞遊走阻害効果において必須であるか否かを決定するために、MDA−MB−435s細胞株中で、2セットのSK3/KCa2.3遺伝子のsiRNAを用いて、又は陰性コントロールとしてスクランブルsiRNAを用いて細胞をトランスフェクトすることにより、SK3/KCa2.3 mRNAをノックダウンした。
【0036】
SK3/KCa2.3チャネルが、式(I)の化合物の癌細胞遊走阻害効果において必須であるという同じ確証が、SK3/KCa2.3 mRNAに対するshRNAを含有しているレンチウイルス(lentivirus)を用いたSK3/KCa2.3−発現癌細胞の感染を受けて、得られた。
【0037】
第一に、ノックダウンSK3/KCa2.3チャネルが、MDA−MB−435s遊走細胞の数を減少させることを見出した。更に重要なことにはノックダウンSK3/KCa2.3チャネルが、本発明の式(I)の化合物の細胞遊走に対する阻害効果を完全に抑制することが見出された。
【0038】
より更に、その後、ヒトSK3/KCa2.3cDNAでトランスフェクトされたSK3/KCa2.3−陰性ヒト細胞は、本発明の式(I)の化合物の阻害効果に感受性になったことが見出された。とりわけ、式(I)の化合物が、SK3/KCa2.3cDNAでトランスフェクトされた細胞の遊走を阻害することが見出されたが、一方、SK3/KCa2.3cDNAでのトランスフェクション前の同じSK3/KCa2.3−陰性細胞の遊走は、式(I)の化合物で阻害されなかった。
【0039】
上記の式(I)の化合物が、原発腫瘍部位から遊走しようとしているそれら転移性癌性細胞を選択的に標的化できることも見出した。
【0040】
式(I)のグリセロ脂質が、インビボで抗転移効果を有することを更に見出した。
【0041】
本明細書の実施例で示されるこれらのインビボ実験の結果は、癌細胞のインビトロ遊走を阻害する物質の能力と、抗転移薬としてインビボで作用する同じ物質の能力との間には直接的関係が存在するという先の研究を完全に裏付ける。
【0042】
本明細書の実施例において示されるように、式(I)のグリセロ脂質は、癌患者において転移を予防するための一般的に高い治療関心事である。
【0043】
式(I)のグリセロ脂質の更なる重要な特性は、その低細胞傷害性からなり、このことは、癌患者へのこれらのグリセロ脂質の投与が、該患者に対して望まない毒性をもたらさないことを意味する。実際、インビボで癌転移を阻害するために効果的な式(I)のグリセロ脂質の量では、該式(I)のグリセロ脂質は、インビボで副作用を起こさないということが示されている。
【0044】
式(I)のグリセロ脂質は、原発腫瘍成長には影響を及ぼさないので、「真」の抗転移薬であることが更に実証された。式(I)のグリセロ脂質を、癌転移の動物モデルにおいてインビボで投与した場合、(i)非毒性であり、(ii)抗転移性であり及び(iii)原発腫瘍成長に影響がないことを、本明細書の実施例の結果が明確に示す。この特異性が、非特異的化合物と比べて、おそらくより良い耐性へと導く。転移拡散を制御する細胞プロセスのターゲティングはまた、特に、原発腫瘍組織量が手術によって除去することができる場合、有望な寛解総合戦略であり得る。当技術分野において公知のように、癌患者は、既に疾患及び原発腫瘍に対する全身抗癌治療の両方で衰弱しており、かつこれらの患者は、転移の発生を予防又は治療することを目的とした任意の追加の処置を含む、任意の追加の予防的又は治療的処置によって引き起こされ得る副作用に非常に敏感なので、特異性及び非毒性は、式(I)のグリセロ脂質の非常に貴重な特性である。
【0045】
とりわけ、抗アポトーシス効果及び抗転移性効果の両方を有するエデルフォシンのような構造的に近い公知の癌治療薬をはじめとして、構造的に関連する公知の癌治療薬と比べて、式(I)の化合物が、癌性及び非癌性細胞の両方に対してかなり低い細胞障害活性を保持していることが本明細書の実施例で示された。
【0046】
説明として、エデルフォシンは、本明細書において、転移性癌性細胞株でインビトロでの24時間−インキュベーション時間の後、5μM未満のIC50を示したが、式(I)の化合物はすべて、同じ転移性癌性細胞に対して10μMを超えるIC50を有する。インビトロの細胞傷害性に関してアッセイした式(I)の化合物の多くは、50μMを超えるIC50を示し、そのうちの多くが100μMを超えるIC50を示す。
【0047】
本明細書で使用する、表現「低い細胞傷害性」とは、インビトロ生存アッセイにおいて測定する場合、標的細胞と試験化合物の24時間のインキュベーションの後、対象の化合物が10μMを超えるIC50を示すことを意味する。用いることができる慣用的インビトロ細胞生存アッセイには、(i)トリパンブルーアッセイ及び(ii)MTTアッセイが挙げられる。本発明の目的のために、化合物の「細胞傷害性」値を評価することに関して、MTTアッセイが、基準アッセイとして好ましく使用される。
【0048】
それゆえ、式(I)のグリセロ脂質は、低細胞傷害性の抗転移薬からなる。本明細書において意図されるように、低細胞傷害性化合物として、式(I)のグリセロ脂質は、10μMを超えるIC50値を有する。10μMを超えるIC50値は、11μM、12μM、13μM、14μM、15μM、16μM、17μM、18μM、19μM、20μM、21μM、22μM、23μM、24μM、25μM、26μM、27μM、28μM、29μM、30μM、31μM、32μM、33μM、34μM、35μM、36μM、37μM、38μM、39μM、40μM、41μM、42μM、43μM、44μM、45μM、46μM、47μM、48μM、49μM、50μM、51μM、52μM、53μM、54μM、55μM、56μM、57μM、58μM、59μM、60μM、61μM、62μM、63μM、64μM、65μM、66μM、67μM、68μM、69μM、70μM、71μM、72μM、73μM、74μM、75μM、76μM、77μM、78μM、79μM、80μM、81μM、82μM、83μM、84μM、85V、86μM、87V、88μM、89μM、90μM、91μM、92μM、93μM、94μM、95μM、96μM、97μM、98μM、99μM及び100μMを超えるか、又は100μM以上のIC50値を包含する。
【0049】
説明として、所与の化合物の細胞傷害性を評価するために、MTTアッセイは、主な試薬として、(1)MTT溶液(最終濃度0.5mg/mLで、5%ウシ胎児血清を含むダルベッコ変法イーグル培地に、MTTを溶解する)を使用して実施し得る。細胞中で、MTTはホルマザン結晶に変換され、これは純粋なジメチルスルホキシドで溶解する。簡潔に述べれば、MTTアッセイは、以下の工程を含み得る:
(a)24ウエルプレートに標的細胞を適切な細胞数で、例えば1ウエルに付き規定の細胞数(1ウエルにつき40000細胞)を播種し、そして対照ウエルには細胞を入れないままにしておく工程(最小吸光度用の対照として使用する)、
(b)プレートを、加湿インキュベーター中、5%CO、37℃で一晩インキュベートする工程、
(c)試験化合物をプレートに加え、そして範囲濃度に応じて反復を行う工程、
陰性対照(ビヒクル対照を含む)及び陽性対照(例えば、蒸流水)を含める、
(d)加湿インキュベーター中、5%CO、37℃で所望の時間の間、プレートをインキュベートする工程、
(e)MTT試薬、例えば24ウエルプレートの1ウエルに付き800μLを加える工程、
(f)細胞株に従って、所望の時間の間、例えばMDA−MB−435sについて45分間37℃でインキュベートする工程、
(g)1容量(例えば800μL)のジメチルスルホキシドを加える工程、
(h)1時間のインキュベーションの後、ホルマザン沈殿物を溶解させるために各ウエルでピペッティングを行う工程、
(i)96ウエルプレートの各ウエルごとの吸光度の値を、試験波長として490nm及び基準波長として630nmを使用して測定する工程、そして
(j)以下の式を用いて各ウエル中の細胞生存率を決定する工程:
【数1】

【0050】
MTTアッセイはまた、Rogerらによって開示(2004, Biochim Biophys Acta, Vol. 1667: 190-199)されたように、当業者によって実施され得る。
【0051】
細胞傷害アッセイの終わりに、試験物質の最大半数(50%)阻害濃度(IC)として、IC50値を決定する。
【0052】
好ましくは、上記工程(a)は、1ウエルに付き4×10標的細胞を使用して実施する。
【0053】
好ましくは、工程(a)は、初代培養細胞又は細胞株のいずれかのヒト転移性癌性細胞を用いて実施する。より好ましくは、標的細胞は転移性ヒト乳癌細胞からなる。最も好ましくは、信頼できる基準として、標的細胞はMDA−MB−435s細胞株(ATCC No. HTB-129)由来の細胞からなる。
【0054】
本明細書において先で既に詳細に記載したように、式(I)の化合物がインビトロ細胞遊走アッセイにおいて転移性癌性細胞遊走を阻害することが本明細書において見出されたので、これらの化合物は、癌患者における転移の発生を予防するための活性成分として有用である。
【0055】
興味深いことに、本明細書の実施例において、式(I)のグリセロ脂質は、卵巣、子宮、腎臓、肝臓、肺、体の一部(例えば、脚、腕)、脊柱、脾臓及びリンパ節を含む多種多様な組織及び器官における転移形成を阻害する能力を有するということが示されている。これら後述の結果は、これから発生するか又は既に発生している転移増殖巣の体内局在位置に関係なく、全身用抗転移薬としての式(I)のグリセロ脂質の有効性を裏付けている。これら後述の結果はまた、転移の発生を予防しようとしている癌の種類に関係なく、式(I)のグリセロ脂質の有効性を裏付けている。
【0056】
アッセイする式(I)の化合物に依存して、式(I)の化合物が、細胞培養において10nM〜300nMの最終濃度で、細胞遊走を50%以上阻害するということが本明細書において見出された。
【0057】
式(I)の化合物の阻害活性をアッセイするために、当業者はRogerらによって開示されたアッセイ(2004, Biochim Biophys Acta, Vol. 1667 : 190-199)を参照してもよく、それは、下記工程を含む方法として簡潔に説明され得る:
(a)非遊走細胞が膜を通過するのを阻止する一方、遊走細胞が膜を通過するのを可能にするための、適切な直径を有する細孔を保持する膜に転移性癌性細胞を接触をさせる工程、そして
(b)膜を通過する細胞を定量化する工程。
【0058】
式(I)の化合物の阻害活性を決定するために、上記の細胞遊走アッセイの工程(a)を、培地中、事前にインキュベートした細胞で、規定の最終濃度で該化合物を用いて、実施する。化合物(I)で誘発された細胞遊走の阻害パーセンテージを計算するために、アッセイの終わりに、化合物(I)と共にインキュベートした細胞のうち膜を通過してきた細胞の数を測定し、そして、対照培地でインキュベートした細胞のうち膜を通過してきた細胞の数と比較する。
【0059】
代替的には、式(I)の化合物の細胞遊走阻害活性を、本明細書において実施例で開示される創傷治癒アッセイを実施することにより評価することができ、これに関して当業者はまた、Rodriguezらの論文(2005, Methods Biol Mol, Vol. 294 : 23-29)を参照してもよい。創傷治癒アッセイは、インビトロにおける方向性細胞遊走を研究するための、簡単で、安価で、且つ最古に開発された方法の一つである。この方法は、インビボでの創傷治癒の間に、細胞遊走を模倣する。基本的な工程は、細胞単層中に「傷」を創製する工程、細胞遊走の間の最初及び傷が縫合されるまでの一定間隔に画像を撮る工程、そして画像を比較して細胞の遊走速度を定量化する工程を含む。細胞遊走に対する細胞マトリックス及び細胞間相互作用の効果について研究するためには、それは特に適切である。細胞を培養皿に播種し、10%ウシ胎仔血清を補充したDMEM中でコンフルエンスになるまで、増殖させる。次に単層を無菌の黄色のピペットチップではがす。次に、取り除かれた部域への細胞の遊走を顕微鏡下で検査する。遊走する試験細胞の能力を決定するために、はがした時直ちに及び24時間後の画像を撮る。創傷治癒アッセイは、転移性癌細胞の遊走を阻害する式(I)の化合物の能力を決定するための、本明細書の実施例において使用された遊走アッセイである。したがって創傷治癒アッセイは、本発明による参照の最も好ましい細胞遊走アッセイからなる。
【0060】
本明細書の実施例において、前記インビトロ細胞遊走アッセイは、ヒト転移性癌性細胞株、すなわちMDA−MB−435s細胞株(ATCC No. HTB-129)を用いて実施した。
【0061】
本明細書で使用するように、「a」又は「an」は、一つ以上を意味することができる。本明細書で使用するように、用語「含んでいる」と併せて使用する場合、用語「a」又は「an」は、一つ又は二つ以上を意味することができる。本明細書で使用するように、「別の」は、少なくとも二つ目以上を意味することができる。
【0062】
本明細書で使用するように、「アルキル」は、アルカン分子から1個の水素原子を除去することにより得られる炭素及び水素原子の基を指し、直鎖状又は分岐鎖状部分を含む。
【0063】
本明細書で使用するように、「アルケニル」は、アルケン分子から1個の水素原子を除去することにより得られる炭素及び水素原子の基を指し、直鎖状又は分岐鎖状分子を含む。アルケニルは、1個以上の炭素−炭素の二重結合を含む。
【0064】
本明細書で使用するように、用語「サッカライド基」は、式(I)の化合物の基Rとして、サッカライド部分の任意の原子を介して、例えばアグリコン炭素原子を介して、共有結合している、酸化、還元又は置換されているサッカライドモノラジカルを指す。該用語は、アミノ含有サッカライド基を含む。
【0065】
本明細書で使用するように、用語「ヘキソース」は、D−グルコース、D−マンノース、D−キシロース、D−ガラクトース、バンコサミン、3−デスメチル−バンコサミン、3−エピ−バンコサミン、4−エピ−バンコサミン、アコサミン、アクチノサミン、ダウノサミン、3−エピ−ダウノサミン、リストサミン、D−グルカミン、N−メチル−D−グルカミン、D−グルクロン酸、N−アセチル−D−グルコサミン、N−アセチル−D−ガラクトサミン、シアル酸(sialyic acid)、イズロン酸、L−フコースなどを包含する。
【0066】
本明細書で使用するように、用語「ペントース」は、D−リボース又はD−アラビノース;ケトース、例えば、D−リブロース又はD−フルクトース;ジサッカライド、例えば、2−O−(α−L−バンコサミニル)−β−D−グルコピラノース、2−O−(3−デスメチル−α−L−バンコサミニル)−β−D−グルコピラノース、スクロース、ラクトース又はマルトース;誘導体、例えば、アセタール、アミン、アシル化糖、硫酸化糖及びリン酸化糖を包含する。
【0067】
本明細書で使用するように、用語「ポリサッカライド」は、(i)複数の同一サッカライド単位からなるホモ−ポリサッカライド、ならびに(ii)複数のサッカライド単位及び少なくとも2個の異なるサッカライド単位からなるヘテロ−ポリサッカライドを包含する。
【0068】
本明細書で使用するように、用語「ポリサッカライド」は、2〜4個のサッカライド単位を含むか、又は或いは2〜4個のサッカライド単位からなる、サッカライドポリマーを意味し、用語「オリゴサッカライド」と互換的に使用することができる。
【0069】
用語「アミノ含有サッカライド基」は、アミノ置換基を有するサッカライド基を指す。代表的なアミノ含有サッカライドとしては、L−バンコサミン、3−デスメチル−バンコサミン、3−エピ−ダウノサミン、エピ−バンコサミン、アコサミン、アクチノサミン、ダウノサミン、3−エピ−ダウノサミン、リストサミン、N−メチル−D−グルカミンなどが挙げられる。
【0070】
幾つかの好ましい実施態様において、式(I)のグリセロ脂質では、Rは、16、17及び18個の炭素原子を有するアルキル又はアルケニル基である。
【0071】
本明細書において実施例の結果は、16〜18個の炭素原子を有するR基の存在が、式(1)のグリセロ脂質の抗転移性効果に有意に寄与することを例証する。
【0072】
任意の特定の理論に縛られつもりではないが、本発明者らは、炭素原子15個以下を有するアルキル又はアルケニル基による基Rの置換が、細胞遊走を阻害する能力の低下、ひいては低下した抗転移効果を有するグリセロ脂質化合物をもたらすと、考えている。式(I)の化合物の幾つかの実施態様において、Rは、以下のアルキル基:−(CH15−CH、−(CH16−CH及び−(CH17−CHより選択されるアルキル基である。
【0073】
式(I)の化合物の幾つかの実施態様において、Rは、ヒドロキシ基である。
【0074】
式(I)の化合物の幾つかの実施態様において、Rは、式(II)の基であり、そしてR21、R22及びR23は、各々、水素原子である。
【0075】
式(I)の化合物の幾つかの実施態様において、Rは、式(II)の基であり、R21、R22及びR23のうちの一つは、1又は2個の炭素原子を有するアルキル基であり、一方、その他の二つは、各々、水素原子である。
【0076】
式(I)の化合物の幾つかの実施態様において、R又はRは、ペントシル基及びヘキソシル基からなる群より選択されるモノサッカライドである。
【0077】
一般的に、本発明によると、ペントース基は、下記式(IV):
【化8】


[式中、
−R51、R52及びR53は、互いに独立に、ヒドロキシ、メトキシ、アセチルオキシ、アミノ及びアセチルアミノ基からなる群より選択される]を有する。
【0078】
基R51、R52及びR53に関する好ましい意味は、ヒドロキシ及びアセチルオキシより選択される。
【0079】
特定の実施態様において、式(IV)のR又はRは、すべてヒドロキシ基を意味する、基R51、R52及びR53を有する。
【0080】
他の実施態様において、式(IV)のR又はRは、すべてアセチル基を意味する、基R51、R52及びR53を有する。
【0081】
幾つかの実施態様において、R又はRは、D−リボシル、D−アラビノシル、D−キシロシル、D−リブロシル及びD−キシルロシルからなる群より選択されるペントシルである。
【0082】
一般的に、本発明によると、ヘキソシル基は、下記式(V):
【化9】


[式中、
−R61、R62、R63及びR64は、互いに独立に、ヒドロキシ、メトキシ、アセチルオキシ、アミノ及びアセチルアミノ基からなる群より選択される]を有する。
【0083】
基R61、R62、R63及びR64の好ましい意味は、ヒドロキシ及びアセチルオキシより選択される。
【0084】
特定の実施態様において、式(V)のR又はRは、すべてヒドロキシ基を意味する、基R61、R62、R63及びR64を有する。
【0085】
他の実施態様において、式(V)のR又はRは、すべてアセチルオキシ基を意味する、基R61、R62、R63及びR64を有する。
【0086】
幾つかの実施態様において、R又はRは、D−グルコシル、D−マンノシル及びD−ガラクトシルからなる群より選択されるヘキソシルである。
【0087】
他の実施態様において、R又はRは、D−フルクトシル及びD−ソルボシルからなる群より選択されるケトヘキソシルである。
【0088】
幾つかの実施態様において、R又はRは、βガラクトシル及びテトラ−アセチル−βガラクトシル基からなる群より選択される。
【0089】
幾つかの他の実施態様において、Rは、βグルコシル及びテトラ−アセチル−βグルコシル基からなる群より選択される。
【0090】
より更なる実施態様において、R又はRは、イノシトール及びN−アセチルグルコサミンからなる群より選択される。
【0091】
本明細書において既に詳述したように、R又はRは、2〜4個のサッカライド単位を有するポリサッカリジル(polysaccharidyl)基を意味してもよい。幾つかの実施態様において、該ポリサッカリジル基に含まれるすべてのサッカライド単位は、同一であり、該ポリサッカラリジル(polysacchararidyl)基は、ホモポリサッカリジル基からなる。他の実施態様において、該ポリサッカリジル基に含まれるサッカライド単位は、すべてが同一ではなく、該ポリサッカリジル基は、ヘテロポリサッカリジル基からなる。
【0092】
一般的に、本発明の式(I)の化合物のR又はRポリサッカリジル基において、サッカライド単位のいずれか一つは、モノサッカリジル(monosaccharidyl)単位の意味について上で詳述されたサッカライド単位の群より選択されてもよい。
【0093】
又はRが、2個以上のヘキソース単位を含むポリサッカリジル基からなる幾つかの実施態様において、2個のヘキソース単位は、1−4結合又は1−6結合により共有結合している。2個のヘキソース単位は、α1−4、α1−6、β1−4及びβ1−6結合からなる群より選択される共有結合を介して、互いに結合していてもよい。
【0094】
幾つかの実施態様において、R又はRは、スクロシル、ラクトシル、マルトシル、メリビオシル、トレハロシル及びセロビオシルからなる群より選択されるジサッカライドである。好ましい実施態様は、R又はRが、ラクトシル、マルトシル及びメリビオシルからなる群より選択されるジサッカライドであるそれらを包含する。
【0095】
幾つかの他の実施態様において、R又はRは、ラフィノシル及びメレジトシルからなる群より選択されるトリサッカライドである。
【0096】
より更なる実施態様において、R又はRは、テトラサッカライド・アカルボシル(acarbosyl)である。
【0097】
したがって、式(I)の化合物の特定の実施態様によると、Rは、モノサッカライド基又は2〜4個のサッカライド単位を有するポリサッカライド基からなる群より選択される。
【0098】
また、式(I)の化合物の他の実施態様によると、Rは、本明細書において先に定義された式(III)の基であり、ここで、Rは、モノサッカライド基又は2〜4個のサッカライド単位を有するポリサッカライド基からなる群より選択される。
【0099】
本発明の式(I)の好ましい化合物は、下記化合物(A)〜(P)からなる群より選択され得る:
−化合物(A):
【化10】


−化合物(B):
【化11】


−化合物(C):
【化12】


−化合物(D):
【化13】


[式中、R3は、ラクトースとも称される、Gal−β−(1−4)−Glu基を意味する]、
−化合物(E):
【化14】


[式中、R3は、Gal−α−(1−4)−Glu基を意味する]、
−化合物(F):
【化15】


[式中、R3は、Glu−β−(1−4)−Glu基を意味する]、
−化合物(G):
【化16】


[式中、R3は、マルトースとも称される、Glu−α−(1−4)−Glu基を意味する]、
−化合物(H):
【化17】


[式中、R71及びR72は、水素原子及びヒドロキシル基又はアセチル基からなる群より独立に選択され、これは、(i)R71がHであり、そしてR72がOH又はOAcである場合、Gal−β−(1−6)−Gluを、ならびに(ii)R71がOH又はOAcであり、そしてR72がHである場合、Glu−β−(1−6)−Gluを包含する]、
−化合物(I):
【化18】


[式中、R71及びR72は、水素原子及びヒドロキシル基又はアセチル基からなる群より独立に選択され、これは、(i)R71がHであり、そしてR72がOH又はOAcである場合、メリビオース又はアセチルメリビオースとも称される、Gal−α−(1−6)−Gluを、ならびに(ii)R71がOH又はOAcであり、そしてR72がHである場合、Glu−α−(1−6)−Gluを包含する]、
−化合物(J):
【化19】


[式中、R71及びR72は、水素原子及びヒドロキシル基又はアセチル基からなる群より独立に選択され、これは、(i)R71がHであり、そしてR72がOH又はOAcである場合、Gal−β−(1−6)−Galを、ならびに(ii)R71がOH又はOAcであり、そしてR72がHである場合、Glu−β−(1−6)−Galを包含する]、
−化合物(K):
【化20】


[式中、R71及びR72は、水素原子及びヒドロキシル基又はアセチル基からなる群より独立に選択され、これは、(i)R71がHであり、そしてR72がOH又はOAcである場合、Gal−α−(1−6)−Galを、ならびに(ii)R71がOH又はOAcであり、そしてR72がHである場合、Glu−α−(1−6)−Galを包含する]、
−化合物(L):
【化21】


−化合物(M):
【化22】


[式中、Rは、ラクトース又はアセチルラクトースとも称される、Gal−β−(1−4)−Glu基を意味する]、
−化合物(N):
【化23】


[式中、Rは、マルトース又はアセチルマルトースとも称される、Glu−α−(1−4)−Glu基を意味する]、
−化合物(O):
【化24】


[式中、R71及びR72は、水素原子及びヒドロキシル基又はアセチル基からなる群より独立に選択され、これは、(i)R71がHであり、そしてR72がOH又はOAcである場合、メリビオース又はアセチルメリビオースとも称される、Gal−α−(1−6)−Gluを、ならびに(ii)R71がOH又はOAcであり、そしてR72がHである場合、Glu−α−(1−6)−Gluを包含する]、
−化合物(P):
【化25】


[式中、R81及びR82は、水素原子及びヒドロキシル基又はアセチルからなる群より独立に選択され、これは、(i)R81がHであり、そしてR82がOH又はOAcである場合、ラクトース−β−又はアセチルラクトース−β−(1−6)−Gluを、ならびに(ii)R81がOH又はOAcであり、そしてR82がHである場合、ラクトース−β−又はアセチルラクトース−β−(1−6)−Galを包含する]。
【0100】
説明として:
− 化合物Aは、表1及び表2に開示している化合物JPH1518及びJPH1523によって特に例証されており、
− 化合物Bは、表2に開示されている化合物JPH1519及びJPH1524によって特に例証されており、
− 化合物Cは、表1及び表2に開示されている化合物JPH1528によって特に例証されており、
− 化合物Dは、表1、2及び3に開示されている化合物JPH1701、ならびに表3に開示されている化合物JPH1700によって特に例証されており、
− 化合物Gは、表3に開示されている化合物JPH1800によって特に例証されており、
− 化合物Iは、表3に開示されている化合物JPH1784及びJPH1882によって特に例証されており、そして
− 化合物Mは、表3に開示されている化合物CHS31によって特に例証されている。
【0101】
式(I)の化合物の合成の実施に関して、当業者は、下記参考文献を参照してもよい:
- J.J. Godfroid, C. Broquet, S. Jouquey, M. Lobbar, F. Heymanns, C. Redeuith, E. Steiner, E. Michel, E. Coeffier, J. Fichelle and M. Worcel. J. Med. Chem. 1987, 30, 792-797,
- R. R. Schmidt Angew. Chem. 1986, 98, 213-236,
- R. R. Schmidt Pure and Appl. Chem. 1989, 61, 1257-1270,
- N. S. Chandrakumar and J. Hajdu J. Org. Chem. 1983, 48, 1197-1202,
- R. K. Erukulla, X. Zhou, P. Samadder, G. Arthur, and R. Bittman J. Med. Chem. 1996, 39, 1545-1548、及び
- J. R. Marino-Albernas, R. Bittman, A. Peters, and E. Mayhew J. Med. Chem. 1996, 39, 3241-3247
- M. Hunsen, D. A. Long, C. R. D'Ardenne, and A. L. Smith Carbohydr. Res. 2005, 340, 2670-2674
- S. Chittaboina, B. Hodges, and Q. Wang Lett. Org. Chem. 2006, 3, 35-38
- P. J. Garegg, T. Regberg, J. Stawinsky, and R. Stromberg. Chem. Scr. 1986, 25, 59-62
- B. C. Froehler and M. D. Mattenci Tetrahedron Lett. 1986, 27, 469-472
- A. V. Nikolaev, I. A. Ivanova, V. N. Shibaev, and N. K. Kochetkov. Carbohydrate Research 1990, 204, 65-78
- I. A. Ivanova, A. J. Ross, M. A. J. Ferguson, and A. V. Nikolaev J. Chem. Soc., Perkin Trans 1 1999, 1743-1753
- A. J. Ross, I. A. Ivanova, M. A. J. Ferguson and A. V. NIkolaev J. Chem. Soc., Perkin Trans. 1, 2001, 72-81。
【0102】
説明として、置換グリセロ脂質の合成に関する方法は、米国特許第US 6,030,628号に特に開示されており、当業者は、本発明の式(I)の化合物の合成の実施に関してそれを参照することができる。
【0103】
置換グリセロ脂質の合成に関する他の方法はまた、米国特許出願又は米国特許第US 2004/0067893、US 2004/0213836、US 4,275,588、US5,932,242、US 5,762,958、US 6,583,127号にも開示されている。
【0104】
基Rが、モノサッカライド基又はポリサッカライド基を意味する、式(I)の化合物の実施態様はまた、本明細書に後述されているように合成することができる。本明細書の下記の方法は、式(I)を有する化合物のファミリーに包含されるサッカライド誘導体のいずれか一つを合成するために使用することができる:
【0105】
a) グリセロール−ジエーテル誘導体の合成
化合物Aは、サッカライド単位の結合のために使用するグリセロール脂質前駆体である(M. Kates et al. Lipids., 1991, 26, 1095-1101; J. J. Godfroid et al. J. Med. Chem. 1987, 30, 792-797を参照のこと)。その合成は、図1に示したスキーム1に描写されている。
図1のスキーム1: (i)C1633Br、NaH、トルエン 還流 6時間;(ii)HCl 12M、MeOH 還流 3時間;(iii)PhCl、EtN、トルエン 還流 5時間;(iv)(a)CHI、NaH、THF 還流 3時間;(b)HCl 12M、MeOH/CHCl 室温。
【0106】
b) αアノマー結合を有するジサッカライドの合成経路
まず、6位の遊離ヒドロキシル基(化合物B)を有するグリコピラノシル誘導体の合成を、図2に図式化したように合成する。
−図2のスキーム2: (i)グリコシル−テトラアセタート−トリクロロアセトアミダート、BF、EtO(ii)PhCl、EtN、トルエン 還流 5時間;(iii)BnBr、NaH、DMF 12時間;(vi)HCl 12M、MeOH/CHCl 室温(R. R. Schmidt Angew. Chem. 1986, 98, 213-236; R. R. Schmidt Pure and Appl. Chem. 1989, 61, 1257-1270を参照のこと)。
【0107】
次に、第2サッカライド単位(C) 正しい保護基を保持している6−O−アセチル−2’3’4−トリ−O−ベンジル−D−ガラクトピラノースを、図3に報告しているように合成する。
−図3のスキーム3: (i)BnBr、NaH、DMF 12時間;(ii)HSO、AcO/AcOH 3時間 室温;(iii)BnNH、THF 室温 15時間。
【0108】
αグリコシル化を、BのCとの反応により達成する(スキーム4及びShingu et al. Carbohyd. Res. 2005, 340, 2236-2244を参照のこと)。図4に描写されているように、脱保護工程の後、目的化合物が生成される。
−図4のスキーム4: (i)PhP、CBr、DMF;(ii)MeONa 触媒、MeOH;(iii)H、Pd/C、MeOH
図4に表される中間体Iの6位の酢酸基の選択的脱保護は、第3サッカライド単位、そして同様にそれに続く第4サッカライド単位のどちらの導入の可能性も容易に与える。
−図5のスキーム5: (i)無水酢酸/HClO、酢酸、15時間、((ii)酢酸アンモニウム、DMF、48時間、(iii)イミダゾール/PCl/EtN、CHCN、(IVi)A、塩化ピバロイル、I、ピリジン、(Vi)(a)NaOCH 触媒、CHOH、(b)アンバーライト(Amberlite)IR 120。
【0109】
先で既に詳細に説明してきたように、本発明の式(I)の化合物は、その低い細胞傷害性に加えて、主にSK3/KCa2.3チャネル活性の阻害又はさらには遮断を誘発する。
【0110】
また、本発明の式(I)の化合物は、主に癌性細胞遊走の高い阻害活性を示し、そしてひいては癌転移を阻害するために有用であることが見出された。更にまた、式(I)のグリセロ脂質のインビボ抗転移特性も示された。
【0111】
本明細書に記載されている式(I)の化合物は、癌細胞がSK3/KCa2.3チャネルを発現する癌における転移の発生を予防するために有用である。
【0112】
特に、本明細書に記載されている式(I)の化合物は、アプドーマ(APUD腫瘍)、分離腫、鰓腫、悪性カルチノイド症候群、カルチノイド心疾患、癌腫(例えば、ウォーカー癌腫、基底細胞癌、基底扁平細胞癌、ブラウン・ピアース癌、腺管癌、エールリッヒ癌、上皮内癌、クレブス2癌、メルケル細胞癌、粘液性癌、非小細胞肺癌、コート細胞癌、乳頭癌、硬腺癌、細気管支癌、気管支原性肺癌、扁平上皮癌、及び移行上皮癌)、組織球性障害、白血病(例えば、B細胞白血病、混合細胞型白血病、ヌル細胞白血病、T細胞白血病、T細胞慢性白血病、HTLV−II関連白血病、リンパ性急性白血病、リンパ性慢性白血病、マスト細胞白血病、及び骨髄性白血病)、悪性組織球増殖症、ホジキン病、免疫増殖性小腸疾患(immunoproliferative small)、非ホジキンリンパ腫、形質細胞腫、細網内皮症、黒色腫、軟骨芽細胞腫、軟骨腫、軟骨肉腫、線維腫、線維肉腫、巨細胞腫瘍、組織球腫、脂肪腫、脂肪肉腫、中皮腫、粘液腫、粘液肉腫、骨腫、骨肉腫、ユーイング(Ewing)肉腫、滑膜腫、腺線維腫、腺リンパ腫、癌肉腫、軟骨腫、頭蓋咽頭腫、未分化胚細胞腫、過誤腫、間葉腫、中腎腫、筋肉腫、エナメル上皮腫、セメント質腫、歯牙腫、奇形腫、胸腺腫、絨毛性腫瘍、腺癌、細胞腫、腺腫、胆管腫、真珠腫、円柱腫、嚢胞腺癌、嚢胞腺腫、顆粒膜細胞腫、卵巣男性胚細胞腫、肝細胞腫、汗腺腫、膵島細胞腫瘍、ライディッヒ(Leydig)細胞腫、乳頭腫、セルトリ(Sertoli)細胞腫、莢膜細胞腫、平滑筋腫、平滑筋肉腫、筋芽細胞腫、筋腫、筋肉腫、横紋筋腫、横紋筋肉腫、脳室上衣細胞腫、神経節細胞腫、神経膠腫、髄芽細胞腫、髄膜腫、神経鞘腫、神経芽細胞腫、神経上皮腫、神経線維腫、神経腫、傍神経節腫、非クロム親和性、角化血管腫、好酸球増多を伴う血管リンパ組織過形成、硬化性血管腫、血管腫症、グロムス血管腫、血管内皮腫、血管腫、血管外皮細胞腫、血管肉腫、リンパ管腫、リンパ管筋腫、リンパ管肉腫、松果体腫、癌肉腫、軟骨肉腫、葉状嚢肉腫、線維肉腫、血管肉腫、平滑筋肉腫、白血肉腫、脂肪肉腫、リンパ管肉腫、筋肉腫、粘液肉腫、骨肉腫、卵巣癌、横紋筋肉腫、肉腫(例えば、ユーイング肉腫、実験肉腫、カポジ肉腫、及びマスト細胞肉腫)、腫瘍(例えば、骨腫瘍、乳房腫瘍、消化管腫瘍、肝腫瘍、膵腫瘍、下垂体腫瘍、精巣腫瘍、眼窩腫瘍、頭頸部腫瘍、中枢神経系腫瘍、聴神経腫瘍、骨盤腫瘍、気道腫瘍、及び泌尿生殖器腫瘍)、神経線維腫症、及び子宮頸部異形成を含むが、これらに限定されない様々な癌の転移の発生を予防するために、ならびに細胞が不死化した又は形質転換した他の状態の治療のために有用である。これら後者の結果はまた、転移の発生を予防又は治療すべき癌の種類に関係なく、式(I)のグリセロ脂質の効果を裏付けている。
【0113】
本発明は、化学療法、寒冷療法、温熱療法、放射線療法などのような他の処置法と組み合わせて用いることもできる。
【0114】
式(I)のグリセロ脂質は、任意の生体組織又は任意の生体器官中の転移の発生を予防するために使用することができる。式(I)のグリセロ脂質の有用性は、卵巣、子宮、腎臓、肝臓、肺、骨組織(例えば、大腿骨を含む脚骨、腕骨、背部と腰部の脊椎骨を含む脊柱、骨盤)、脾臓、リンパ節、結腸、胸、脳、前立腺、膵臓及び皮膚を含む、多種多様な組織及び器官中の転移の発生に対する、予防的処置又は治療的処置を包含する。
【0115】
幾つかの実施態様において,本明細書に記載されている式(I)の化合物は、黒色腫又は乳癌、肺癌、甲状腺癌、骨肉腫又は腎臓癌に冒されている癌患者における転移の発生を予防するために有用である。
【0116】
本発明の別の目的は、本明細書に亘って記載されている式(I)の化合物それ自体からなる。
【0117】
本発明の更なる目的は、本明細書に亘って定義されている式(I)の化合物を一つ以上の薬学的賦形剤と組み合わせて含む、医薬組成物からなる。
【0118】
本発明のより更なる目的は、本明細書に亘って定義されている式(I)の化合物を一つ以上の薬学的賦形剤と組み合わせて含む、癌転移を予防するための医薬組成物からなる。
【0119】
本発明のまた更なる目的は、癌患者における転移の発生を予防するための医薬の製造のための、本明細書に記載されている式(I)の化合物の使用からなる。
【0120】
本発明の別の目的は、癌患者における転移の発生を予防するための、本明細書に記載されている式(I)の化合物の使用からなる。
【0121】
式(I)の化合物を含む医薬組成物、及び式(I)の化合物の治療的投与方法は、本明細書に後述されている。
【0122】
本発明の医薬組成物
本発明は、有効量の、本明細書に記載されている式(I)の化合物、及び薬学的に許容しうる担体を含む、医薬組成物を提供する。
【0123】
適切な担体及びそれらの製剤は、Osloらにより編集されたRemington's Pharmaceutical Science, 16th ed.; 1980, Mack publishing Co.に記載されている。
【0124】
「生理学的に許容しうる担体」とは、全身投与又は局所投与において安全に使用し得る、固体もしくは液体充填剤、希釈剤又は物質を意味する。特定の投与経路に依存して、当技術分野において周知の様々な薬学的に許容しうる担体には、固体又は液体充填剤、希釈剤、ハイドロトロープ(hydrotope)、界面活性剤、及びカプセル化物質が挙げられる。
【0125】
患者にとって有効な投与のために適切な薬学的に許容しうる組成物を調製するために、これらの組成物は、典型的には、有効量の式(I)の化合物を適切な量の担体と一緒に含有する。
【0126】
本発明の医薬組成物は、非経口的に、又は血流まで確実に送達する効果的な形態での他の方法により投与され得る。かかる医薬組成物の用量及び所望の薬物濃度は、想定される特定の使用に依存して変化し得る。
【0127】
無菌は、膜(0.2ミクロン)を通す除菌により、容易に達成される。
【0128】
医薬組成物は、良好な医療行為と整合するやり方で、処方され、投薬され、及び投与される。この文脈において考慮される要因としては、処置されている特定の障害、処置されている特定の哺乳動物、個々の患者の臨床症状、障害の原因、薬剤の送達部位、投与方法、投与計画、及び医療従事者に公知の他の要因が挙げられる。
【0129】
投与される式(I)の化合物の量は、かかる考慮により左右され、そして患者又は哺乳動物における癌転移の発生を減少させる又は遮断するための必要最小量である。
【0130】
各投与時に非経口的に投与される式(I)の化合物の量は、典型的には、0.01mg/kg〜100mg/kg、好ましくは0.01mg/kg〜50mg/kg、及び最も好ましくは0.05mg/kg〜25mg/kg、そして例えば10mg/kgと、さまざまである。
【0131】
一般的に、本発明の医薬組成物は、該医薬組成物の総重量に基づいて、0.01重量%〜99.99重量%、又は0.1重量%〜99.9重量%、更に又は1重量%〜99重量%、より又は10%〜90%の式(I)の化合物を含み、該組成物の残りは、その中に含まれる一つ以上の賦形剤からなる。
【0132】
かかる量は、好ましくは哺乳動物にとって毒性である量より少ない。
【0133】
本発明による処置の方法
本発明は、癌転移の予防のための方法を提供する。
【0134】
本発明は、先に開示したような、細胞を式(I)の化合物の有効量と接触させることを含む、患者における癌転移の発生の予防のための方法を提供する。
【0135】
したがって「有効量」とは、インビボで転移の数を減少させる式(I)の化合物の量を包含する。インビボでの転移の数の減少は、本明細書の実施例に開示している実験的モデルアッセイに従って評価し得る。
【0136】
説明として、式(I)の化合物の有効量は、下記工程を含む方法により評価し得る:
a)複数の動物を準備する工程、
b)工程a)で準備された動物に、所望の数の非転移性癌細胞(該癌細胞は、転移を起こす能力がある)を投与する工程、
c)工程b)の終わりで得た動物に、式(I)の化合物の公知の量を投与する工程、
d)工程c)の終わりで得た動物の一種類の組織中の、又は二種類以上の組織中の転移性癌細胞数を測定する工程、
e)試験した組織の各種に関して、転移性癌細胞の数と、工程b)に付したが、該式(I)の化合物を投与されていない対照動物で見つけた転移性癌細胞の数とを比較する工程、そして
f)式(I)の化合物の該公知の量を受けた動物からの少なくとも一つの組織中で見つけた転移性癌細胞の数が、該式(I)の化合物を投与されなかった対照動物で見つけた転移性癌細胞の数よりも少ない場合、式(I)の化合物の該公知の量を、該化合物の有効量と指定する工程。
【0137】
上記方法の幾つかの好ましい実施態様によれば、工程a)で使用する動物は、ヌードマウス、例えば、NMRI系のヌードマウスを含むマウスからなる。
【0138】
上記方法の幾つかの好ましい実施態様によれば、工程b)で投与する非転移性癌細胞は、工程a)で準備する動物以外の同じ種の動物から生じる癌細胞、例えば、マウス癌細胞からなる。
【0139】
好ましくは、これらの細胞が動物体の一つ以上の組織又は器官に迅速にコロニー形成をすることができるように、該非転移性癌細胞は、静脈内に投与される。
【0140】
幾つかの好ましい実施態様によれば、工程b)で投与する該非転移性癌細胞は、非転移性乳癌細胞からなる。説明として、非転移性乳癌細胞の静脈注射は、乳房組織における該非転移性癌細胞のホーミングをもたらし、そこで次に該癌細胞は増殖し、これは、動物の乳房組織内での非転移性癌腫瘍の移植と等しい。
【0141】
上記方法の幾つかの好ましい実施態様によれば、工程a)では、式(I)の化合物の公知の量の一連の同時試験ができる数の試験動物が準備される。すなわち、工程a)が準備する動物を、動物のサブグループに分けてもよく、ここで、動物の各サブグループは、工程c)で式(I)の化合物の所与の公知量を投与され、したがって、インビボアッセイの終わりに転移を阻害する該式(I)の化合物の最小有効量を確定できるように、様々な量の式(I)の化合物を同時にアッセイできる。好ましくは、動物のサブグループの一つは、工程b)で非転移性癌細胞を投与されるが、工程c)では式(I)の化合物を投与されない、対照群からなる。該動物の対照サブグループで測定された非転移性癌細胞の数は、次に比較工程e)を実施するために使用する。
【0142】
上記方法の工程f)において、転移性細胞の数における差が統計的に有意である場合、試験動物は、対照サブグループの動物よりも少ない数の転移性細胞を有していると考えられ、このことは、従来のT−検定において、P値が、0.05よりも低いことを意味し、これは0.01よりも低いP値を包含する。
【0143】
本明細書で使用する、工程d)で測定する「転移性癌細胞の数」は、動物中で見つける転移増殖巣の数を包含する。幾つかの実施態様において、「転移性細胞の数」は、動物中で見つける、試験された各種の組織又は試験された身体局在化についての転移増殖巣の数を包含する。すなわち、幾つかの実施態様において、工程d)で測定する「転移性癌細胞の数」は、各種の組織、例えば、卵巣、子宮、腎臓、肝臓、肺、脚、脊柱、脾臓及びリンパ節についての転移性細胞増殖巣の数を包含する。
【0144】
本明細書で使用する、工程d)で測定する「転移性癌細胞の数」は、該転移性癌細胞により発光される検出可能なシグナルを計数すること、そして次に工程e)で対応するシグナル数量化シグナル値を比較することにより実施することができる。該検出可能なシグナルは、該転移性癌細胞により発光される生物発光シグナルを包含する。説明として、本明細書の実施例において示されるように、該生物発光シグナルは、生物発光物質のカリウム塩、例えば、D−ルシフェリンのカリウム塩をマウスに投与すること、そして次に、例えば、全身生物発光撮像装置を使用することによって、動物全身から発光される生物発光シグナルの局在確認及び計数により得ることができる。
【0145】
最後に、上記の方法により、ひとたび式(I)の化合物の有効量が決まれば、この有効量は、動物体の重量単位、例えば体重の1kg当たりの量による有効量として表現することができ、当業者は、治療計画の大部分の場合を含める、ヒト癌患者において転移の発生を予防するための該式(I)の化合物の有効量を容易に決定する。
【0146】
本明細書の先に既に記載しているように、各用量で投与する式(I)の化合物の量は、典型的には0.01mg/kg〜100mg/kg、好ましくは0.01mg/kg〜50mg/kg、そして最も好ましくは0.05mg/kg〜25mg/kg、そして例えば10mg/kgと、さまざまである。
【0147】
投与療法サイクルは、式(I)の化合物の毎日、隔週、毎週、隔月及び毎月の投与を包含する。
【0148】
本発明はまた、式(I)の化合物を対象に投与することを含む、原発癌からの転移を予防するための方法を提供する。好ましい態様において、化合物は、実質的に精製されている。対象は、好ましくは動物であり、そして好ましくは哺乳動物であり、そして最も好ましくはヒトである。
【0149】
例えば、リポソーム内封入、微小粒子、マイクロカプセル、化合物を発現可能な組換え細胞、受容体仲介エンドサイトーシス(例えば、Wu and Wu, 1987, J. Biol. Chem. 262:4429-4432を参照のこと)のように様々な送達システムが公知であり、式(I)の化合物を投与するために使用することができる。導入の方法には、皮内、筋肉内、腹腔内、静脈内、皮下、鼻腔内、硬膜外、及び経口経路が挙げられるが、これらに限定されない。化合物は、任意の都合のよい経路により、例えば、注入又はボーラス注射により、上皮もしくは皮膚粘膜ライニング(例えば、口腔内粘膜、直腸粘膜及び腸管粘膜、等)を介する吸収により投与することができ、他の生理活性剤と一緒に投与することができる。投与は、全身又は局所的であることができる。経肺投与も、例えば、吸入器や噴霧器の使用により、及びエアロゾル化剤を含む剤形により用いることもできる。
【0150】
特定の実施態様において、本発明の組成物を体の特定の部位に局所的に投与することが望ましい場合がある;これは、例えば、非限定的に、手術中の局所注入、局所適用、例えば、手術後の創傷被覆材と併せて、注射により、カテーテルを用いることにより、坐剤を用いることにより、又は移植片(該移植片は、シアラスト(sialastic)膜もしくは繊維のような膜を含む、多孔性、非多孔性、もしくはゼラチン質材料である)を用いることにより達成されうる。幾つかの他の実施態様において、式(I)の化合物は、例えば、ポリエチレングリコールでコーティングされた、又は転移性癌細胞により発現された表面分子(例えば、表面抗原、表面グリコシド残基、表面受容体、等)と結合するリガンド分子をその表面に有するリポソーム内封入化で、一つ以上の組織を特異的に標的にすることができる。
【0151】
本発明を、非限定的に、下記実施例により更に説明する。
【0152】
実施例
実施例1: グリセロ脂質のインビトロ抗転移活性
A. 材料及び方法
A.1. 細胞培養
既に記載(Roger S, Potier M, Vandier C, Le Guennec JY, Besson P. Description and role in proliferation of iberiotoxin-sensitive currents in different human mammary epithelial normal and cancerous cells. Biochim Biophys Acta 2004; 1667: 190-9.)されているように、ヒト乳癌細胞株MDA−MB−435sを、5%ウシ胎仔血清(FBS)含有ダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)中で成長させた。不死化正常乳腺上皮細胞株MCF−10A及び184A1を、DMEM/Ham’s F−12の1:1の混合物(5%ウマ血清(Invitrogen Life Technologies, France)、インスリン(10μg/mL)、上皮成長因子(20ng/mL)、ヒドロコルチゾン(0.5μg/mL)含有、ならびにMCF−10Aには100ng/mLコレラトキシン、及び184A1には1ng/mLコレラトキシン+5μg/mLトランスフェリンをそれぞれ含有)中で培養した。
【0153】
高K培地を、K−、Na−及びCa2+−を含まないDMEM−基礎培地(Cambrex Bio Science, France)から特別に作製し、そして使用時に60mM KCl、84mM NaCl、2mM CaClを補充した。
【0154】
すべての細胞株は、American Type Culture Collection(ATCC, LGC Promochem, Molsheim, France)から得た。
【0155】
A.2. インビトロでの細胞増殖及び細胞遊走
細胞増殖を、記載(Roger S, Potier M, Vandier C, Le Guennec JY, Besson P. Description and role in proliferation of iberiotoxin-sensitive currents in different human mammary epithelial normal and cancerous cells. Biochim Biophys Acta 2004;1667:190-9.)されているように、テトラゾリウム塩還元法を使用して測定した。細胞を24−ウエルプレートに播種し、48時間成長させた。次に薬剤を、細胞増殖に影響を及ぼさない濃度で24時間加えた。記載(Roger S, Potier M, Vandier C, Le Guennec JY, Besson P. Description and role in proliferation of iberiotoxin-sensitive currents in different human mammary epithelial normal and cancerous cells. Biochim Biophys Acta 2004; 1667: 190-9.)されているように、細胞遊走を、8μm孔径ポリエチレンテレフタラート・メンブラン細胞培養インサート(Becton Dickinson, France)付き24−ウエルプレート中で分析した。
【0156】
創傷治癒アッセイ: 細胞を培養皿に播種し、10%ウシ胎仔血清を補充したDMEM中でコンフルエンスになるまで成長させた。単層を、無菌の黄色ピペッティングではがした。取り除かれた領域までの細胞の遊走を顕微鏡下で検査した。写真を、はがした時直ちに及び24時間後に、撮った。
【0157】
A.3. 細胞傷害性アッセイ
細胞増殖抑制効果と細胞傷害効果とを区別するために、2つの細胞傷害性アッセイを用いた。第1のアッセイにおいて、処置の24時間後の細胞生存率をトリパンブルー排除法により評価した。第2の方法において、細胞を、1、3、10及び30μMのエデルフォシンで8時間インキュベートし、次に新鮮な培養液で3回洗浄した。残りの生存細胞を6日間成長させた後、先に記載のようにMTTアッセイを用いて数量化した。
【0158】
A.4. 溶液及び薬剤
生理食塩水液(PSS)は、以下の組成であった(単位mM): NaCl 140、MgCl 1、KCl 4、CaCl 2、D−グルコース 11.1、及びHEPES 10、1M NaOHでpH7.4に調整した。ピペット溶液、pCa=7(Ca2+を含まない濃度)は、以下の濃度であった(単位mM): K−グルタメート 125、KCl 20、CaCl 0.37、MgCl1、Mg−ATP 1、EGTA 1、HEPES 10、1M KOHでpH7.2に調整した。より高いpCa(6.4及び6)を有するピペット溶液も用いた。テトラエチルアンモニウム(TEA)、4−アミノピリジン(4−AP)、NS 1619(1−(2’−ヒドロキシ−5’−トリフルオロメチルフェニル)−5−トリフルオロメチル−2(3H)ベンゾイミダゾロン))、アパミン、BMS 204−352及びエデルフォシンを、図の凡例に示された濃度で、PSS又は培地に加えた。Dominique Cahard(UMR 6014 CNRS de l'IRCOF University of Rouen)よりBMS 204−352を好意により頂いた以外は、全ての薬剤及び化学製品は、Sigma-Aldrich(St Quentin, France)より購入した。
【0159】
A.5.統計
特に断りのない限り、データは、平均値±平均値の標準誤差として表わした(n=細胞の数)。StatView 4.57ソフトウエア(Abacus Concepts, Berkeley, USA)を用いて実施した統計解析は、スチューデントt検定又は一要因分散分析法(one-way factor ANOVA)、続いて事後Bonferroni-Dunn検定を使用して行った。差異は、p<0.05の場合、有意であるとみなした。
【0160】
B. 結果
(i)低・細胞傷害性及び(ii)転移性癌性細胞に対する式(I)の様々なグリセロ脂質化合物の高・細胞遊走阻害活性を示す結果を、後述の表1に示す。
【0161】
実施例2: グリセロ脂質のインビトロ及びインビボ抗転移活性
A. 材料及び方法
A.1. 細胞培養
この研究のために、ATCCから購入した2種類の細胞株、MDA−MB−435s及びHEK293を使用した。これらの細胞株をダルベッコ変法イーグル培地中に維持した。MDA−MB−435s及びHEK293それぞれに対して、培地を5%(v/v)及び10%ウシ胎仔血清(FBS)で補充した。細胞を加湿雰囲気中、37℃(95%空気、5%CO)で成長させた。マイコプラズマ汚染の非存在は、定期的にMycoalert(登録商標)マイコプラズマ検出キット(Lonza)を使用して検証した。
【0162】
A.2. 構築物、トランスフェクション及び形質導入
全ての構築物は、先に記載(Chantome et al., Exp Cell Res. 2009 Dec 10;315(20):3620-30)のとおりであった。
【0163】
MDA−MB−435s及びHEK293細胞に、ポリブレン(4μg/mL、Sigma)の存在下、感染多重度(MOI)1:3でレンチウイルスベクターを形質導入した。GFP細胞を計数することにより測定したMDA−MB−435sの形質導入割合は、90%近くであった。HEK293−SK3/KCa2.3の1つのクローンを選別するために、限界希釈法を実行し、そしてSK3/KCa2.3チャネルの発現を制御するために、各クローンを、アパミン及びエデルフォシンを用いてパッチクランプで、ならびにウエスタンブロット法により試験した。
【0164】
A.3. 細胞増殖アッセイ
細胞増殖を、他書に記載(S.Roger et al., 2004)されているように、テトラゾリウム塩還元法(MTT)を使用して測定した。細胞を1ウエルあたり40,000細胞の密度で24−ウエルプレート上に播種し、着床の24時間後、測定を三連で実施した。
【0165】
A.4. 二次元(2D)運動アッセイ
細胞運動を、先に記載(S.Roger et al., 2004)のように、8μm孔径ポリエチレンテレフタラート・メンブラン細胞培養インサート(Becton Dickinson, France)付き24−ウエルプレート中で分析した。簡潔に述べれば、4×10 MDA−MB−435s細胞を、5%FBS(±微量)で補充された培地を含む上部コンパートメント中に播種した。下部コンパートメントを、化学誘引物質として10%FBS(±微量)で補充された培地で満たした。コーティングなしで二次元(2D)運動アッセイを実施した。24時間後、メンブランの上側からの定常細胞を除去し、一方、インサートの底部側の移動細胞を、5つの別々の領域で固定し、染色し、そして計数した(拡大率、×200)。少なくとも3つの独立実験を、各々三連で実施した。
【0166】
A.5. 電気生理学
実験を、35mmペトリ皿に1cm2あたり3000細胞を播種した、細胞で実施した。全ての実験は、先に記載[8]したように、パッチ−クランプ技術の従来の全細胞記録構成を用いて実施した。PCa溶液は、MDA−MB−435s及びHEK293−SK3/KCa2.3細胞について、それぞれ7及び6.4であった。
【0167】
簡潔に述べれば、実験は、Axopatch 200B パッチ−クランプ増幅器(Axon Instrument)を使用して実行し、1322-A Digidataコンバーター(Axon Instrument)でデジタル化したデータを、Clampex of pClamp 9.2ソフトウエア(Axon Instrument)を使用してコンピューターに保存した。パッチ−クランプデータを、Clampfit 9.2及びOrigin 7.0 ソフトウエア(Microcal Inc., Northampton, MA, USA)の両方を使用して分析した。
【0168】
A.6. 溶液及び薬剤
生理食塩水溶液(PSS)は、以下の組成を有した(単位mM): NaCl 140、MgCl 1、KCl 4、CaCl 2、D−グルコース 11.1及びHEPES 10、NaOHでpH7.4に調整した。
【0169】
全細胞記録のためのピペット溶液は、以下を含有した(単位mM): K−グルタメート 125、KCl 20、MgCl 1、Mg−ATP 1、HEPES 10、そしてKOHでpHを7.2に調整し、様々な濃度のCaCl及びEGTAを加えて、計算されたpCa=7(0.37mM CaCl及び10mM EGTA)又はpCa=6.4(0.7mM CaCl及び1mM EGTA)を得た。
【0170】
アルキル−脂質分子を、エタノール/DMSOの混合物に溶解した。最終濃度は、エタノール及びDMSOのそれぞれ、2%及び3%未満であった。
【0171】
A.7. 実験的転移アッセイ及びJPH1701での処置
雌NMRIヌードマウス、6週齢を、Janvier laboratoriesから購入した。アニマル・ケア・ライセンス No.44565下、INSERM、U892、University of Nantesでマウスを繁殖させ、そして収容した。
【0172】
MDA−MB−435sを、24時間の間、1μM JPH1701で、又は2%DMSO/3%エタノール(ビヒクル)でインキュベートし、側尾静脈に静脈注射(0.75 106)をした。次に、マウスを、一週間に3回、12週間、15mg/kgの静注にて、JPH1701又はビヒクルで処置した。JPH1701又はビヒクルで処置したマウスに副作用は観察されなかった。
【0173】
A.8. 乳房脂肪体モデル腫瘍:
雌NMRIヌードマウス、3〜4週齢をJanvier laboratoriesから購入した。アニマル・ケア・ライセンスNo.44565下、INSERM、U892、University of Nantesでマウスを繁殖させ、そして収容した。
【0174】
ルシフェラーゼ発現細胞株MDA−MB−435s−を、1μM JPH 1701(Ohmline)で、又は2%DMSO/3%エタノール(ビヒクル)で24時間処置し、2.106細胞を、右側の除去した脂肪体に注入した。細胞に、血清を含まない50μL容量のDMEMを25−ゲージ針を通して注入した。マウスを、1週間に3回、14〜15週間、15mg/kgの静注にて、JPH 1701(Ohmline)又はビヒクルで処置した。
【0175】
原発腫瘍の成長を、端度器(caliper)測定により及び生物発光イメージング(BLI)により、週1回評価した。腫瘍容量を、長さ×幅×深さとして計算し、原発腫瘍は、その容量が500mm3に達した時(移植後6〜7週間)、外科的に除去した。腫瘍切除の8週間後にマウスを安楽死させ、そして転移をリンパ節、肺、脊柱、及び下肢骨中で、生物発光イメージングによりエクスビボで検出した。
【0176】
A.9. 生物発光イメージング(BLI)
全てのマウスを、全身生物発光イメージングを使用し転移量の相対量を数量化して、毎週評価した(FimageurTM; BIOSPACE Lab, France)。各マウスに、D−ルシフェリン(Interchim)のカリウム塩を150mg/kg体重の用量にて腹腔内注射で与え、ケタミン(Ketamin)/キシラジン(xylasin)の腹腔内注射で麻酔をかけた。飽和プレートが側体、腹側及び背側位置中に到達するまで、生物発光イメージをリアルタイムで回収した。生物発光腫瘍細胞から発光される光のレベルは、フォトン・イメージャー・システム(photon imager system)により検出され、統合され、デジタル化され、そして表示された。対象の領域は、実験的転移の周りに、注意が向けられた。各対象の領域内の転移量は、乳癌細胞中のルシフェラーゼ活性から生成される光の相対量として数量化され、Photovision+ソフトウエア(version 1.3; Biospace Lab)を使用してcpm(カウント毎分)で表現された。剖検時に、回収した各組織についてエクスビボBLI測定を実施した。
【0177】
B. 結果
B.1. SK3/KCa2.3チャネルの新規な遮断薬そしてそれによる細胞運動の阻害薬としてのアルキル脂質の同定
本発明者らは、小コンダクタンスCa2+−活性化K+チャネルファミリー、SK3又はKCa2.3チャネルが、上皮癌及び黒色腫細胞運動のメディエータであることを立証した(Potier et al., Mol Cancer Ther. 2006 Nov;5(11):2946-53 ; Chantome et al., Exp Cell Res. 2009 Dec 10;315(20):3620-30)。近年、転移に対するこのチャネルの役割が立証され、そして本発明者らは、このチャネルが転移発生を促進することを見出した(WO2008015267, ≪A method for the in vitro screening of anti-cancer compounds that inhibits SK3/KCa2.3, and said anti-cancer compounds≫)。この特許(WO2008015267)を使用して、本発明者らは、MDA−MB−435s細胞のSK3/KCa2.3チャネルにより媒介される遊走を減少させる化合物のその能力について検査した。本発明者らは、エデルフォシンが、SK3/KCa2.3チャネルにより媒介される遊走を減少させることを見出した(Potier et al., Br J Pharmacol. 2011 162(2), 464-79)。したがって、本発明者らは、アルキル−脂質分子について、とりわけエデルフォシンに近い構造を有するアルキル−脂質分子のスクリーニングに着目することに決めた。エデルフォシンは、エーテル脂質であり、また抗腫瘍剤としても知られている。しかし、この化合物は、ヒトに投与された場合、毒性が強い。エーテル脂質の化学療法的活性は、少なくとも一つには、加水分解に必要なアルキル開裂酵素が癌細胞に欠けているせいで、癌細胞に蓄積するエーテル脂質の能力と、そしてそれ故にこれらの脂質の除去により生じると、当技術分野において考えられている。癌細胞膜に集められたエーテル脂質による界面活性剤様活性の働きが、膜の構造を乱し、したがって細胞を破壊することができると、当技術分野において考えられている。この文脈において、エデルフォシンの抗癌効果は、ホスホコリン部分の存在によって媒介されると考えられている(Mollinedo et al., 1997, Cancer Research, Vol. 57(7: 1320-1328); Mollinedo et al., 2004, Curr Med Chem, Vol.11 (24: 3163-3184)。
【0178】
本発明者らの目的は、転移性細胞の遊走に関連する細胞内経路を特異的に標的化するであろう「真」の抗転移性薬剤を設計することであった。実際、非特異的処置は、多くの場合、重篤な副作用(例えば、免疫抑制、汎血球減少症(貧血、血小板減少症、及び白血球減少を伴う骨髄細胞成長阻害)、下痢、嘔吐、及び脱毛(毛髪減少))を引き起こす。
【0179】
したがって本発明者らは、化合物のどの部分が細胞遊走に対するその阻害活性にとって不可欠なのかを確認することを期待して、それらの構造に基づいて異なるアルキル脂質の類似体を試験することを選んだ。次に本発明者らは、グリセロール骨格が除去された分子、或いはsn−1、sn−2もしくはsn−3が除去された又は置換された分子を試験した。試験した異なる化合物の活性を、表2にまとめた。本発明者らは、グリセロール骨格の不存在下では、類似体は、より毒性が強く且つ細胞遊走に対して無効であるので、グリセロール骨格が不可欠であることを見出した(類似体2、3、表2を参照のこと)。より短い鎖の類似体はまた、細胞遊走において無効であるので、sn−1位における脂肪鎖の長さは、重要である(類似体6、表2を参照のこと)。sn−1におけるエーテル結合の存在(類似体8、表2を参照のこと)で同じ結論である。次に本発明者らは、sn−2部分が修飾された化合物を試験し、そしてPAF様類似体(化合物4)は、細胞遊走に対して効果がないことを見出した。最後に、本発明者らは、sn−3上の部分が不可欠であることを見出した(類似体9〜17)。実際、sn−3上のホスホコリンの除去により、細胞遊走に対するその阻害効果が減少した(化合物10)。興味深いことに、本発明者らがsn−3上にモノサッカライドを更に加えた場合(類似体11〜15)、阻害活性が再出現した。類似体は、ジサッカライドを加えた場合、より効果的であった(類似体17及び表2を参照のこと)。
【0180】
結論として、本発明者らは、sn−1中のエーテル結合、sn−1中の少なくとも16炭素の脂肪鎖長、sn3中のO−CH3部分、及びホスホコリン又はモノ−ジサッカライドのような成分が、細胞遊走に対する阻害活性にとって不可欠であることを確証する。このスクリーニングから、本発明者らは、エーテル結合を含むsn−1上のC16鎖、sn−2上のO−CH3、及びsn−3上のβ−ラクトースを有するJPH1701についての研究に焦点を合わせた。
【0181】
図6は、この類似体が10nMから、およそ1μMで見られる最大効果を伴って細胞遊走を阻害することを示す(図6A)。これらの濃度で、JPH1701が細胞生存率に及ぼす影響はない(図6B)。JPH1701は、非癌性細胞MCF−10Aの細胞遊走又は細胞生存率には影響を及ぼさなかった(図6C及び6D)。図6Eは、SK3に対するshRNAをコードするレンチウイルスに感染している細胞を使用して、JPH1701がSK3−依存性運動に特異的に作用することを立証した。対照条件において、shRNAランダムを用いて、本発明者らは、野生型細胞でのJPH1701の同じ阻害効果を示した(図6E)。SK3/KCa2.3チャネル無しの場合、遊走の基本レベルは減少する(60% vs 対照条件)。SK3−細胞に対する1μMでの効果(図5又は6C)以外に、JPH1701は、MCF−10Aを用いて1μMで観察されたようにJPH1701の非特異的な効果を示唆する、任意の追加的な効果を有する。次にJPH1701は、MDA−MB−435s細胞のSK3−依存性遊走を減少させた。
【0182】
次いで、本発明者らは、MDA−MB−435s細胞におけるSK3活性に対するJPH1701の効果を、パッチクランプ法を使用して試験した。パッチクランプアッセイの前に、これらの細胞をJPH1701 1μMで24時間処理した。未処理細胞と比べて、JPH1701はSK3電流を大幅に減少させた(図7A)。実際、JPH1701処理の後、アパミン感受性電流は、全て消失した(図7B)。
【0183】
本発明者らは、次に、パッチクランプ法を使用して測定するSK3活性に対する類似体を直接試験するために、SK3/KCa2.3チャネルを発現しているHEK細胞を発育させた(図8)。本発明者らは、10μMでの分子の急性適用がSK3電流を減少させ、0mVで記録された電流振幅(SK3/KCa2.3チャネルのみによって運ばれた電流)及びSK3コンダクタンスのいずれも、JPH1701によって減少したことを見出した。SK3電流のJPH1701−誘発阻害を0mVで分析し、そして実験の全経時変化を図8Aに示す。JPH1701の効果は、用量依存性であり、試験したどの濃度(300nM、1μM、10μM)でも、全阻害は適用の120秒後に観察された。この阻害もまた、時間依存性であった。例えば、10μM JPH1701は、120秒後に電流振幅の約70%を減少させた。
【0184】
加えて、10nM アパミンの適用がSK3電流を完全に遮断した(データは示さず)。
【0185】
本発明者らは更に、0.3、1及び10μMのJPH1701が電流の50%阻害を得るために必要な時間を分析した(図8B)。試験したどの濃度でも、電流振幅の50%を減少させるために約40秒が必要であった。内因性HEKカリウム電流は、適用濃度範囲のJPH1701によって有意には影響されなかった(データは示さず)。5μM A23187の添加により細胞内カルシウム濃度を増加させると、JPH1701の効果は完全に逆転した(データは示さず)。
【0186】
JPH1701はラセミ混合物として試験されたので、本発明者らは、SK3チャネルを減少させるその能力は、その鏡像異性体のうちの一つ((R)−JPH1701及び(S)−JPH1701)に特異的に起因するのかどうかを調べた。鏡像異性的に純粋なR−及びS−JPH1701の合成は、鏡像異性的に純粋な(2R)及び(2S)1−O−ヘキサデシルオキシ−2−O−メチル−sn−グリセロールから達成された。ラセミ混合物と比較して、両方の鏡像異性体は、SK3チャネル活性の減少において同様の作用を示した(図8C)。したがって、以下の実験は、両方の鏡像異性体のJPH1701の組み合わせを使用して実施した。
【0187】
JPH1701がアパミン結合部位と相互作用するかどうかを研究するために、125I−アパミン結合研究を実施した。図8Eは、JPH1701が、SKCaチャネルを発現している膜への125I−アパミン結合を阻害しないことを示し、このことは、JPH1701及びアパミンが、依然として研究されないままである固有の部位及び機構を介して作用することを示唆している。
【0188】
SKCa/IKCaチャネルのその他のメンバーに対するJPH1701の選択性を試験した。図9Aは、対照条件下及び10μM JPH1701の適用後のHEK細胞中で発現されたSK1、SK2、SK3及びIKCaチャネルに対して実施した代表的な全細胞電流を示す。実験プロトコルは、図8で使用したものと同様であった。JPH1701を、500msecで+60mV〜−100mVの膜電位に対して試験した。定常状態の阻害に達した時、10nM アパミン又は1μM クロトリマゾールそれぞれを、残留SKCa及びIKCa電流を完全に阻害するために用いた。図9Bは、JPH1701が、IKCa電流に対しては不活性であるが、SK1及びSK3電流(効力比較、SK3>SK1)を有意に減少させることができることを示す。試験した濃度では、本化合物はSK2チャネルに対して不活性であった。
【0189】
これらの結果より、式(I)の化合物、及び特に化合物の群(A〜P、発明の詳細な記載を参考のこと)より選択される式(I)の化合物を使用して、SK2とSK1/SK3チャネルとを区別することもできるし、また末梢組織(SK1チャネルを発現しなかったもの)におけるSK3チャネルの機能的役割を研究するための有用なツールになり得ることが実証される。
【0190】
類似体の同定をさらに進めるために、メリビオース又はマルトース・ヘキサデシルオキシ−2−O−メチル−sn−グリセロール(HMG)類似体をSK3電流について試験し、ならびにラクトースの各炭素上にO−アセチルを有するJPH様分子も試験した(表3)。メリビオース及びマルトースの両方、ならびにJPH1700(これは、ラクトースの各炭素上に基O−アセチルを有するJPH1701の前駆体である)も、SK3活性を減少させたが、すべてのこれらの類似体の効果は弱い。
【0191】
最後に、本発明者らは、Rが、下記:
【化26】


からなる化合物[式中、Rは、モノサッカライド基、又は2〜4個のサッカライド単位を有するポリサッカライド基からなる群より選択される](例えば、化合物M、N、O及びP)のSK3活性に対する阻害効果を試験した。
【0192】
CHS31(これは、化合物Mの例である)は、そのsn3(すなわち:R)結合にリン酸を有するヘキサデシルオキシ−2−O−メチル−sn−グリセロール類似体の例である(表3を参照のこと)。JPH1700のように、この分子は、SK3活性を減少させた。たとえこれらの化合物のどれもがJPH1701のように効果的ではなかったとしても、このことは、ヘキサデシルオキシ−2−O−メチル−sn−グリセロール(HMG)ジサッカライドファミリーがSK3チャネルを阻害する、つまり抗転移性効果を呈する可能性を有していることを示す。
【0193】
B.2. 実験的転移モデルに対するJPH1701の抗転移性効果
最近、本発明者らは、癌細胞株MDA−MB−435sにおけるSK3/KCa2.3チャネルの活性が転移発生を促進させることを立証した。JPH1701のようなSK3/KCa2.3遮断薬が転移発生を予防することができるかどうか決定するために、本発明者らは、ホタルルシフェラーゼ遺伝子を発現しているMDA−MB−435s細胞を有する実験的転移のモデルを使用した。癌細胞を、尾静脈に入れて体循環に直接注入した。マウスの1つのコホートを、JPH1701で一週間に3回、12週間、静脈投与により処置した。別のコホートは、同じ条件下、ビヒクルで処置した。処置の終わりに、対照マウスの70%(7/10)で、及びJPH1701処置マウスのわずか40%(4/10)で、転移をインビボで生物発光イメージング(BLI)により可視化した(表4)。更にすすめて、マウスを屠殺し、様々な組織における転移の検出をエクスビボでBLIにより実施した。各コホートからの陽性組織の数を、表4に示した。転移性病変が、全てのビヒクル−処置マウスで検出された。興味深いことに、JPH1701で処置したマウスの30%(3/10)は、エクスビボで転移発生の徴候は示さなかった。臨床的研究を利用して、本発明者らは、各マウスの転移性プロファイルを決定し、そしてJPH1701処置が転移性プロファイルを、より転移発生が少ないプロファイルへと移行させたことを見出した(図10A〜B、10C及び10D)。
【0194】
JPH1701の抗転移性効果についてより多くの情報を得るために、本発明者らは、BLIにより両方のコホート間の転移出現の動力学を比較した。12週目(終点)で、インビボで可視化される転移を有するマウスのみを、この研究に含めた。図10Eに示すように、転移出現は、JPH1701処置群におけるよりも対照群において、およそ3倍早かった。ビヒクルで処置したマウスの75%が、4週目に検出可能な転移を呈した。JPH1701で処置したマウスに関して、本発明者らは、更に3週間待つ必要があった。結論として、JPH1701は、インビボで転移を示しているマウス(4/10)において転移形成の遅延を可能にした。他方で、ひとたび転移が検出されると、その成長速度は、両方のコホートとも同じであった(図10F)。
【0195】
本発明者らは、インビトロで、JPH1701が、SK3−依存性運動を阻害するが、MDA−MB−435sの増殖には影響を及ぼさないことを立証した。インビボ・データは、インビトロで見つけたこれらと合致していた: MDA−MB−435sを尾静脈に注入し、そしてMDA−MB−435sは、潜在転位部位上の動脈血に到達する前に、直径10μM(2D運動アッセイにおける孔径として)の肺毛細血管に移動しなくてはならない。JPH1701は、おそらく癌細胞の血管外遊走及び血管内侵入にとって必要なSK3−依存性運動を阻害することによって、転移発生を妨害した。しかし、ひとたび癌細胞がその増殖に有利な環境を有する組織に到達すると、JPH1701処置は癌細胞の増殖を抑制しなかった。
【0196】
B.3. JPH1701処置は原発腫瘍成長に影響せず
また、エデルフォシンは、幾つかの機構を介して、とりわけプロテインキナーゼC又はホスホリパーゼCのような酵素活性の阻害によりその生物学的効果を発揮すると、報告されていた。それらの阻害は、エデルフォシンの細胞増殖抑制効果及び細胞毒性効果の一部を説明できる(Gajate, C., and Mollinedo, F., Curr Drug Metab, 2002, 3, 491-525, Van Blitterswijk, W.J., and Verheij, M., Curr Pharm Des, 2008, 14, 2061-2074)。
【0197】
本発明者らは、エデルフォシンと比較して、JPH1701は、すべてのPKCとは相互作用することはできず、PLCとのみ僅かに相互作用することを立証した。
【0198】
実際、JPH1701の分子構造は、LPA及びPAFに似ている。分子構造間のこの類似性により、JPH1701の効果の幾つかが、PAF受容体又はLPA(リゾホスファチジン酸)受容体へのその結合により媒介されているのかどうかを分析することを、本発明者らは決心した。図11に示すように、エデルフォシンは、PAF受容体のC16−PAF結合部位と相互作用することができ(図11A)、したがって用量依存的に細胞内カルシウムを増加させることができた(図11B)。対照的に、JPH1701は、PAF受容体と相互作用することができなかった。同じ結果をLPA受容体で得た(0.3及び2μM JPH1701で、LPA結合はそれぞれ105.3±8.0%及び87.2±4.7%)。
【0199】
また、エデルフォシンは、その細胞増殖抑制効果及び細胞毒性効果の一部を説明できるプロテインキナーゼC又はホスホリパーゼCのような酵素活性を阻害することが報告されていた。図11Dは、JPH1701が、7.0μMのIC50でPLC活性と相互作用できたことを示し、これは、エデルフォシンについて測定したIC50値(2.5μMのIC50)よりも、非常に高い値である。
【0200】
PKC活性に関して、JPH1701は、10種のPKCファミリーのいずれの活性にも影響を及ぼさなかった(図11C)。
【0201】
最後に、本発明者らは、JPH1701が、エデルフォシンとは違って、原発腫瘍成長を標的にせず、したがって転移性プロセスに対して特異的であることを立証した。JPH1701(Ohmline)(1μM)で又はビヒクルで、24時間、前処置された200万個のMDA−MB−435s−luc細胞を、NMRI/ヌードマウスの乳房脂肪体に移植した。マウスを、一週間に3回、15mg/kgの静注にて、JPH1701で又はビヒクルで処置した。移植後6週間を過ぎて、腫瘍容量の時間経過を見てみると、ビヒクルとJPH1701処置マウスの間には差違はなかった(図12A)。同様に、6週間の間、原発腫瘍の癌細胞の数の週1回の評価は、ビヒクルとJPH1701処置マウスとの間に任意の有意な差異を明示しなかった(図12B)。
【0202】
SK3−細胞遊走に対する低濃度でのその作用に関連して、非癌性上皮細胞の細胞生存率に及ぼす式(I)のグリセロ脂質の限定的な効果は、エデルフォシンのような非特異的な化合物と比較すると、有望である。なぜならエデルフォシン様化合物の使用に関連する危険は、その有効濃度且つ高濃度が正常な細胞の溶解を引き起こす界面活性剤様特性のせいで一般的に細胞障害性であるということであった。
【0203】
【表1】



【0204】
【表2】





【0205】
【表3】

【0206】
表3は、2つのモデルにおけるSK3活性に対する異なる分子の効果を示す。電流活性が、HEK293LvSK3及びMDA−MB−435s細胞中で測定された。パーセンテージは、化合物によるHEK293細胞中のSK3チャネルに対する電流及びコンダクタンスの阻害を表わす。アパミン−感受性電流は、MDA−MB−435s野生型細胞中のアパミンによって消失した残留電流の一部を示す。
【0207】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I):
【化27】


{式中、
−Rは、16〜18個の炭素原子を有するアルキル又はアルケニル基であり、
−Rは、
(a)式(II):
【化28】


[式中、R21、R22及びR23は、互いに独立に、水素原子及び1又は2個の炭素原子を有するアルキル基からなる群より選択される]で示される基、及び
(b)ヒドロキシル
からなる群より選択される基であり、
そして
−Rは、
−モノサッカライド基、もしくは2〜4個のサッカライド単位を有するポリサッカライド基、又は
−式(III):
【化29】


[式中、Rは、モノサッカライド基、もしくは2〜4個のサッカライド単位を有するポリサッカライド基からなる群より選択される]で示される基
からなる群より選択される}で示される、癌転移を予防するための医薬の製造のためのグリセロ脂質の使用。
【請求項2】
が、16又は17個の炭素原子を有するアルキル又はアルケニル基である、請求項1記載の使用。
【請求項3】
が、−(CH15−CHである、請求項1記載の使用。
【請求項4】
が、式(II)の基であり、そしてR21、R22及びR23が、各々、水素原子である、請求項1記載の使用。
【請求項5】
又はRが、ペントシル及びヘキソシルからなる群より選択されるモノサッカライドである、請求項1記載の使用。
【請求項6】
又はRが、D−グルコシル、D−マンノシル及びD−ガラクトシルからなる群より選択されるヘキソシルである、請求項1記載の使用。
【請求項7】
式(I)の化合物が、下記化合物(A)〜(P):
−化合物(A):
【化30】


−化合物(B):
【化31】


−化合物(C):
【化32】


−化合物(D):
【化33】


[式中、R3は、ラクトースとも称される、Gal−β−(1−4)−Glu基を意味する]、
−化合物(E):
【化34】


[式中、R3は、Gal−α−(1−4)−Glu基を意味する]、
−化合物(F):
【化35】


[式中、R3は、Glu−β−(1−4)−Glu基を意味する]、
−化合物(G):
【化36】


[式中、R3は、マルトースとも称される、Glu−α−(1−4)−Glu基を意味する]、
−化合物(H):
【化37】


[式中、R71及びR72は、水素原子及びヒドロキシル基又はアセチル基からなる群より独立に選択され、これは、(i)R71がHであり、そしてR72がOH又はOAcである場合、Gal−β−(1−6)−Gluを、ならびに(ii)R71がOH又はOAcであり、そしてR72がHである場合、Glu−β−(1−6)−Gluを包含する]、
−化合物(I):
【化38】


[式中、R71及びR72は、水素原子及びヒドロキシル基又はアセチル基からなる群より独立に選択され、これは、(i)R71がHであり、そしてR72がOH又はOAcである場合、メリビオース又はアセチルメリビオースとも称される、Gal−α−(1−6)−Gluを、ならびに(ii)R71がOH又はOAcであり、そしてR72がHである場合、Glu−α−(1−6)−Gluを包含する]、
−化合物(J):
【化39】


[式中、R71及びR72は、水素原子及びヒドロキシル基又はアセチル基からなる群より独立に選択され、これは、(i)R71がHであり、そしてR72がOH又はOAcである場合、Gal−β−(1−6)−Galを、ならびに(ii)R71がOH又はOAcであり、そしてR72がHである場合、Glu−β−(1−6)−Galを包含する]、
−化合物(K):
【化40】


[式中、R71及びR72は、水素原子及びヒドロキシル基又はアセチル基からなる群より独立に選択され、これは、(i)R71がHであり、そしてR72がOH又はOAcである場合、Gal−α−(1−6)−Galを、ならびに(ii)R71がOH又はOAcであり、そしてR72がHである場合、Glu−α−(1−6)−Galを包含する]、
−化合物(L):
【化41】


−化合物(M):
【化42】


[式中、Rは、ラクトース又はアセチルラクトースとも称される、Gal−β−(1−4)−Glu基を意味する]、
−化合物(N):
【化43】


[式中、Rは、マルトース又はアセチルマルトースとも称される、Glu−α−(1−4)−Glu基を意味する]、
−化合物(O):
【化44】


[式中、R71及びR72は、水素原子及びヒドロキシル基又はアセチルからなる群より独立に選択され、これは、(i)R71がHであり、そしてR72がOH又はOAcである場合、メリビオース又はアセチルメリビオースとも称される、Gal−α−(1−6)−Gluを、ならびに(ii)R71がOH又はOAcであり、そしてR72がHである場合、Glu−α−(1−6)−Gluを包含する]、
−化合物(P):
【化45】


[式中、R81及びR82は、水素原子及びヒドロキシル基又はアセチル基からなる群より独立に選択され、これは、(i)R81がHであり、そしてR82がOH又はOAcである場合、ラクトース−β−又はアセチルラクトース−β−(1−6)−Gluを、ならびに(ii)R81がOH又はOAcであり、そしてR82がHである場合、ラクトース−β−又はアセチルラクトース−β−(1−6)−Galを包含する]
からなる群より選択される、請求項1記載の使用。
【請求項8】
R3が、式(III):
【化46】


[式中、Rは、モノサッカライド基、又は2〜4個のサッカライド単位を有するポリサッカライド基からなる群より選択される]で示される基からなる、
医薬としての使用のための、請求項1に定義のとおりの式(I)のグリセロ脂質。
【請求項9】
下記化合物(M)〜(P):
−化合物(M):
【化47】


[式中、Rは、ラクトース又はアセチルラクトースとも称される、Gal−β−(1−4)−Glu基を意味する]、
−化合物(N):
【化48】


[式中、Rは、マルトース又はアセチルマルトースとも称される、Glu−α−(1−4)−Glu基を意味する]、
−化合物(O):
【化49】


[式中、R71及びR72は、水素原子及びヒドロキシル基又はアセチルからなる群より独立に選択され、これは、(i)R71がHであり、そしてR72がOH又はOAcである場合、メリビオース又はアセチルメリビオースとも称される、Gal−α−(1−6)−Gluを、ならびに(ii)R71がOH又はOAcであり、そしてR72がHである場合、Glu−α−(1−6)−Gluを包含する]、
−化合物(P):
【化50】


[式中、R81及びR82は、水素原子及びヒドロキシル基又はアセチル基からなる群より独立に選択され、これは、(i)R81がHであり、そしてR82がOH又はOAcである場合、ラクトース−β−又はアセチルラクトース−β−(1−6)−Gluを、ならびに(ii)R81がOH又はOAcであり、そしてR82がHである場合、ラクトース−β−又はアセチルラクトース−β−(1−6)−Galを包含する]
からなる群より選択される、医薬としての使用のための、請求項8記載の化合物。
【請求項10】
請求項8又は9のいずれか一項に定義の式(I)のグリセロ脂質。
【請求項11】
請求項1〜9のいずれか一項に定義の式(I)の化合物を1つ以上の薬学的な賦形剤と組み合わせて含む、癌転移を予防するための医薬組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図9B】
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【図10B】
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【図12B】
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【図6A】
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【図6B】
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【図6C】
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【図6D】
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【図6E】
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【図6F】
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【図7A】
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【図7B】
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【図8A】
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【図8B】
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【図8C】
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【図8D】
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【図8E】
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【図9A】
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【図10A】
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【図10C】
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【図10D】
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【図10E】
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【図10F】
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【図11A】
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【図11B】
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【図11C】
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【図11D】
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【図12A】
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【公表番号】特表2013−519706(P2013−519706A)
【公表日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−553317(P2012−553317)
【出願日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際出願番号】PCT/EP2011/052351
【国際公開番号】WO2011/101408
【国際公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【出願人】(591100596)アンスティチュ ナショナル ドゥ ラ サンテ エ ドゥ ラ ルシェルシュ メディカル (59)
【出願人】(512215048)ユニヴェルシテ・フランソワ−ラブレ・ドゥ・トゥール (1)
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE FRANCOIS−RABELAIS DE TOURS
【出願人】(512215059)ユニヴェルシテ・ドゥ・ブルターニュ・オクシダンタル(ユ・ベ・オ) (1)
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE DE BRETAGNE OCCIDENTALE(U.B.O.)
【Fターム(参考)】