発光ダイオード用のN−フェニルカルバゾール系ホスト材料
本発明は、青色発光OLED用に適した、カルバゾール部分を有する化合物を含むホスト材料に関する。意外にも、適切な置換基がカルバゾール構造中に存在する場合、OLED性能に悪影響を与えることなく、それら化合物の溶解度を改良することができることを見出した。本発明はさらに、それらホスト材料の使用、およびそのホスト材料を含む青色発光素子に関する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の参照
本出願は、2008年10月16日出願の米国仮特許出願第61/105841号および2008年11月27日出願の欧州特許出願公開第08170152.6号に関する優先権を請求し、これらの両方は参照により本明細書中に援用される。
【0002】
本発明は、発光ダイオード用ホスト材料、そのようなホスト材料の使用法、および電気エネルギーを光に変換することができる発光素子に関する。
【背景技術】
【0003】
最近、様々なディスプレイ装置、特に有機材料からのエレクトロルミネッセンス(EL)に基づくものが活発に検討され、また開発されている。
【0004】
多くの有機材料が、一重項励起子由来の蛍光(すなわち対称許容過程由来のルミネッセンス)を示す。この過程は等しい対称状態間で起こるので、非常に効果的な場合がある。これに反して、励起子の対称性がその基底状態の対称性と異なる場合、励起子の放射緩和を許さず、ルミネッセンスは遅くかつ非効率であることになる。基底状態は通常、反対称であるため、三重項由来の減衰がその対称性を破る。したがってこの過程は許されず、そのELの効率はきわめて低い。したがって三重項状態に含まれるエネルギーは大部分無駄になる。
【0005】
対称禁制過程は燐光として知られる。特質上、燐光は遷移の確率が低いせいで、急速な減衰を示す蛍光とは対照的に、励起の数秒後まで消えずに残ることができる。燐光材料の使用は、それらが一重項および三重項励起子の両方を同時に捕集することを可能にするためにエレクトロルミネッセンス効率を高める点で大きな躍進であった。燐光ドーパント用の適切なホスト材料を選択することは、依然として燐光系OLEDにおける重要な問題の一つのままである。ホスト材料からドーパント燐光団(phosphorophore)への発熱を伴うエネルギー伝達の効率はそのホストの三重項状態エネルギーがドーパントのそれよりも大きいかどうかで決まるためにホスト材料は重要である。
【0006】
ゲスト−ホスト系のよく知られているホスト材料には、正孔輸送4,4−’N,N’−ジカルバゾール−ビフェニル(CBP)および電子輸送8−ヒドロキシキノリンアルミニウム(AlQ3)が挙げられ、これらは両方ともOLEDに使用されている。しかしながら既知のホスト材料はすべての燐光性ゲストには適していない。例えば、燐光発光体用のホスト化合物は、ホストの三重項エネルギーが燐光発光体のそれよりも高いという重要な条件を満たさなければならない。燐光発光体から効率よく燐光を得るためには、そのホストの最低励起三重項状態が燐光発光体の最低発光状態よりも高くなければならない。燐光発光体からの発光が望ましいので、最低励起状態は、ホスト化合物ではなく燐光発光体からのものでなければならない。したがって光スペクトル中に、例えばスペクトルの青色領域中に短い発光波長を有する好適なゲスト用ホスト材料が当業界において必要であり続ける。
【0007】
より優れた燐光発光用の幾つかのホスト材料が報告されている。それらの電荷伝導能力、光物理的および酸化還元特性、十分に大きな三重項エネルギー、およびキャリア輸送特性のせいでカルバゾール系化合物が盛んに研究されている。
【0008】
例えば、Canon KKに譲渡された(特許文献1)は、有機発光素子用として適したゲスト−ホスト発光系を開示している。そのホスト材料は、窒素と結合した電子供与種と、1個または複数個の炭素原子と結合した芳香族アミン基またはカルバゾール基と、大きなバンドギャップ電位と、高エネルギー三重項励起状態とを有するカルバゾールコアを有する化合物を含む。このような材料は、関連するゲスト材料によって短波長燐光発光を可能にし、前記材料と白金錯体などの燐光発光有機金属化合物との組合せは有機発光素子の製造に有用である。
【0009】
コニカミノルタホールディングス株式会社に譲渡された(特許文献2)は、発光層中で燐光ドーパント用混合ホスト材料として使用されるN−フェニルカルバゾール化合物を開示している。Academia Sinicaに譲渡された(特許文献3)は、ドーパント用ホスト材料として使用されるテトラフェニルシラン−カルバゾール化合物を開示している。それら化合物は、選択されたテトラフェニルシランをカルバゾールと添加剤の存在下で混合し、それを加熱条件下で反応させるか、または選択されたカルバゾールを金属ブチル(butyl metallic)と混合し、それらを比較的低い温度で反応させることによって調製される。さらに、(特許文献4)および(特許文献5)(両方ともTsai Ming−Hanらに譲渡された)は、発光層用ホスト材料としての9−(4−tert−ブチルフェニル)−3,6−ビス(トリフェニルシリル)−9H−カルバゾールを開示している。
【0010】
さらに、(非特許文献1)は、燐光性青色ドーパント用ホスト材料として、3,5−ジ(N−カルバゾイル)テトラフェニルシラン(SimCP)およびN,N’−ジカルバゾイル−3,5−ベンゼン(mCP)を開示しており、一方、(非特許文献2)は、イリジウム蛍光体系ゲスト−ホスト有機発光ダイオードにおけるホスト材料として一連のカルバゾール系化合物および半経験的計算結果を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】米国特許出願公開第2003/205696号明細書
【特許文献2】特開2004−311412号公報
【特許文献3】米国特許出願公開第2007/173657号明細書
【特許文献4】米国特許出願公開第2007/262703号明細書
【特許文献5】米国特許出願公開第2007/262704号明細書
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Wuら“The Quest for High−Performance Host Materials for Electrophosphorescent Blue Dopants”,Adv.Funct.Mater.,17:1887〜1895(2007)
【非特許文献2】Thomasら“Improved host material design for phosphorescent guest−host systems”,Thin Solid Films 436:264〜268(2003)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、上記の開示された材料はいずれも、OLED用途に必要なすべての必要条件、例えばエネルギー準位、電荷輸送能力、溶液から均一なフィルムを形成する加工可能性、アモルファス相の形成能、良好なドーパント分散能、形態安定性(高Tg)、素子の動作条件下での熱的および電気化学的安定性を満たさない。したがって上記に示した必要条件をすべて満足させることができる新しいホスト材料の開発の必要性が存在している。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の一態様は、下記で述べるカルバゾール系化合物を含むホスト材料に関する。
【0015】
本発明の別の態様は、発光層用にそのホスト材料を使用すること、およびこのホスト材料を含む有機発光素子に関する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の有機発光素子を含有するディスプレイ装置の断面図である。
【図2】スキーム1の生成物(2)の1H NMRスペクトルを示す図である。
【図3】スキーム1の生成物(3)の1H NMRおよび13C NMRスペクトルを示す図である。
【図4】図3と同じ。
【図5】スキーム1の生成物(4)の1H NMRおよび13C NMRスペクトルを示す図である。
【図6】図5と同じ。
【図7】スキーム1の生成物(5)、すなわち化合物VIの1H NMRおよび13C NMRスペクトルを示す図である。
【図8】図7と同じ。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、式I
【化1】
の化合物を含むホスト材料を提供する。
式中、
R1は、
フッ素化アルキル、
トリチル、
ハロゲン、
ニトロ、
シアノ、
−COOR3、
−SiR4R5R6、および
1から20個の炭素原子を有するアルコキシまたはジアルキルアミノ基(ただし、1個または複数個の非隣接―CH2基を−O−、−S−、−NR7−、−CO−、−CONR8−、または−COO−で置き換えることができ、かつ少なくとも1個の水素原子をハロゲンで置き換えることができる)
からなる群から選択され、
R2、X1、およびX2は非共役置換基であり、出現ごとに同一または異なり、
トリチル、
ハロゲン、
ニトロ、
シアノ、
−COOR3、
−SiR4R5R6、および
1から20個の炭素原子を有する直鎖または分岐または環状のアルキルまたはアルコキシまたはジアルキルアミノ基(ただし、1個または複数個の非隣接―CH2基を−O−、−S−、−NR2−、−CO−、−CONR7−、または−COO−で置き換えることができ、かつ少なくとも1個の水素原子をハロゲンで置き換えることができる)
からなる群から選択される。
上式で、R3、R4、R5、R6、R7、およびR8は、出現ごとに同一または異なり、独立して−H、ハロゲン、ニトロ、シアノ、直鎖または分岐C1〜20アルキル、C3〜20環状アルキル、直鎖または分岐C1〜20アルコキシ、C1〜20ジアルキルアミノ、C4〜14アリール、C4〜14アリールオキシ、およびC4〜14ヘテロアリール(これらは1個または複数個の非芳香族基で置換することができる)からなる群から選択され、さらにR1、R2、R3、R4、R5、R6、X1、およびX2のうちの複数が、一緒になって単環または多環、任意選択で芳香族を形成することができる。また
l、m、およびnは、出現ごとに同一または異なり、0から4の整数を表す。
【0018】
本発明の幾つかの実施形態では、R1がフッ素化アルキル、ハロゲン、または−SiR4R5R6であり、かつR4、R5、およびR6のそれぞれがアルキル基である。本出願人は、これらの実施形態が、より良好な化合物安定性をもたらすことを見出した。好ましい実施形態ではR1がトリアルキルシリルまたはSi(イソプロピル)3である。
【0019】
本発明の幾つかの実施形態ではX1およびX2のそれぞれが、トリアリールシリル基またはX1=X2=−Si(Ph)3または
【化2】
(ただし、R7はフェニル、イソプロピル、またはメチルである)である。
【0020】
意外なことに、トリアルキルシリル基またはトリアリールシリル基などの適切な置換基を本発明の化合物のカルバゾール構造に導入した場合、その溶解度および加工性を、その他の特性、例えば色、効率などに対するいかなる悪影響もなしに向上することができることが分かった。
【0021】
具体的には、本発明の幾つかの実施形態には、式IIからVIII
【化3】
【化4】
【化5】
で表される化合物が含まれる。
【0022】
一般に、本発明の幾つかの実施形態によれば、式IIからVIの化合物は、以下の反応スキームによって調製できる。すなわち−78℃において二臭素化または二塩素化カルバゾール誘導体をn−BuLiで処理して二リチウム化中間体を得て、その後、これらをClSi(Ph)3または
【化6】
(ただし、R7はフェニルまたはメチル)で失活して式IIからVIの対応する化合物が得られる。
【化7】
【0023】
このような化合物の調製に適した合成方法は、Wuらの“Highly Efficient Organic Blue Electrophosphorescent Devices Based on 3,6−Bis(triphenylsilyl)carbazole as the Host Material”,Adv.Mater.18:1216〜1220(2006)(これによりその全体が参照により援用される)中に詳細に記載されている。
【0024】
本発明のトリアルキルまたはトリアリール基などの適切な置換基を有するカルバゾール系化合物、具体的には式IからVIIIの化合物は、OLED素子にとってのその他の必要な特性を維持しながら、それらが溶媒加工技術、例えばスピンコーティング、(インクジェット)プリンティング法、高濃度を必要とするプリンティング法(ロールツーロール、フレキソ印刷など)などを可能にするので、大規模な発光ダイオードに有望であることが分かった。
【0025】
本発明はまた、発光層におけるホスト材料としての上記化合物の使用法を対象とする。これら化合物は、有機発光素子において発光層中で発光性材料と共に機能する。
【0026】
好適なゲスト発光性(ドーパント)材料は、これらに限定されないがスペクトルの青色領域で燐光発光を示すビス(2−フェニルピリジン)イリジウム錯体を含めて当業界で知られているものおよび今後に開発されるものから選択することができる。特定の実施形態ではそのゲストは、スペクトルの純青色領域において燐光発光を示す。
【0027】
本発明の化合物を含むホスト層中でこの発光性材料をドーパントとして使用する場合、一般にはそれは、ホストおよびドーパントの合計重量を基準にして少なくとも1重量%、具体的には少なくとも3重量%、より具体的には少なくとも5重量%の量で使用される。さらに、一般にはそれは、25重量%まで、具体的には20重量%まで、より具体的には15重量%までの量で使用される。
【0028】
本発明はまた、上記ホスト材料を含む発光層を備えた有機発光素子(OLED)を対象とする。このOLEDはまた、その素子の両端間に電圧が印加された場合にルミネセンスを示すように適応させた発光性材料(その発光材料はドーパントとして存在する)を含むことができる。
【0029】
OLEDは一般に、
ガラス基板、
酸化インジウムスズ(ITO)陽極などの一般には透明な陽極、
正孔輸送層(HTL)、
発光層(EML)、
電子輸送層(ETL)、および
Al層などの一般には金属製の陰極
を備える。
【0030】
正孔伝導発光層の場合、励起子阻止層、特に正孔阻止層(HBL)が、発光層と電子輸送層の間に存在してもよい。電子伝導発光層の場合、励起子阻止層、特に電子阻止層(EBL)が、発光層と正孔輸送層の間に存在してもよい。
【0031】
発光層は本発明の化合物を含むホスト材料でできており、そこでは発光材料がゲストとして存在する。発光層はさらに、金属キノキソラート(metal quinoxolate)(例えばキノリン酸アルミニウム(Alq3)、キノリン酸リチウム(Liq))、オキサジアゾール、およびトリアゾールからなる群から選択される電子輸送材料を含む。ホスト材料の好適な例は、式
【化8】
によって表すことができる4,4’−N,N’−ジカルバゾール−ビフェニル(「CBP」)であるがこれに限定されない。
【0032】
任意選択で発光層はまた、そのホスト材料中にドーパントとして存在し、双極子モーメントを有する分極分子を含有することもできる。一般にそれは、ドーパントとして使用される発光材料がルミネセンスを示す場合、その放射される光の波長に影響を与える。
【0033】
この電子輸送材料から作られる層は、発光材料および任意選択のホスト材料を含む発光層中に電子を運ぶために使用される。電子輸送材料は、金属キノキソラート(例えばAlq3およびLiq)、オキサジアゾール、およびトリアゾールからなる群から選択される電子輸送性母材であってもよい。電子輸送材料の好適な例は、これに限定されないが、式(「Alq3」)、すなわち
【化9】
のトリス−(8−ヒドロキシキノリン)アルミニウムである。
【0034】
この正孔輸送材料から作られる層は、発光材料および任意選択のホスト材料を含む発光層中に正孔を運ぶために使用される。正孔輸送材料の好適な例は、これに限定されないが、式
【化10】
の4,4’−ビス[N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ]ビフェニル(「α−NPD」)である。
【0035】
ルミネセンス層(「ルミネセンスゾーン」)内に励起子を閉じ込めるために励起子阻止層(「バリア層」)を使用するのが有利である。正孔輸送ホストの場合、阻止層を発光層と電子輸送層の間に配置することができる。バリア層のための材料の好適な例は、これに限定されないが、式
【化11】
を有する2,9−ジメチル−4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリン(バトクロプロインまたは「BCP」とも呼ばれる)である。
【0036】
図1に示すように、幾つかの実施形態では本発明によるOLEDは多層構造を有し、1がガラス基板であり、2がITO層であり、3がα−NPDを含むHTL層であり、4がホスト材料と、ホストにドーパントを加えた合計重量を基準にして約8重量%の量のドーパントとしての発光材料とを含むEMLであり、5がBCPを含むHBLであり、6がAlq3を含むETLであり、7がAl層の陰極である。
【実施例】
【0037】
以下で本発明を、実施例および比較例に関して詳細に説明することにする。しかしながらこれらの実施例を、いかなる意味でも本発明の範囲を限定するものと解釈するべきではない。さらに、単位は別段の記述がない限り重量で表される。
【0038】
すべての原料は、Aldrich(U.S.A.)、AlfaAesar(U.S.A.)、またはTCI(日本)から購入した。本明細書中ではドラム溶剤(例えば、EtOAc、ヘキサン、THF、アセトニトリル、DMF、ジクロロメタン)を使用し、Mallinckrodt(U.S.A.)およびTediaから購入した。メタル化反応用の溶媒としては新たに蒸留したテトラヒドロフランを使用した。
【0039】
すべての1Hおよび13C NMRスペクトルは、それぞれ400MHzおよび100MHzでCDCl3に溶かした溶液についてBruker Avance III 400 NMR分光計上に記録した。すべてのインプロセスHPLC分析は、Hitachi Elite LaChrome装置を用いて行った。使用した基準波長は、254nmおよび220nmである。中間体および最終化合物の単離および精製にはCombiFlash Companionを使用した。薄層クロマトグラフィーは、2.5×7.5cm Merck 60 F−254プレートを用いて行い、また溶離溶媒はヘキサンおよびヘキサン/ジクロロメタン混合物である。すべての実験は窒素またはアルゴン雰囲気下で行った。
【0040】
実施例1:9−(4−(トリイソプロピルシリル)フェニル)−3,6−ビス(トリフェニルシリル)−9H−カルバゾール(2PSCT)(化合物VI)の合成
化合物IIIの合成を、次のスキーム1
【化12】
に示すように行った。
【0041】
(4−ブロモフェニル)トリイソプロピルシランの合成
エーテルに溶かした1,4−ジブロモベンゼン(12g、50.8mmol)の撹拌、冷却(−78℃)した溶液に、20.3mLのn−BuLi(2.5M/ヘキサン、50.8mmol、1.03当量)をシリンジにより一滴ずつ加えた。温度が−74℃を決して超えないように添加速度を制御した。その反応混合物を−78℃で1時間撹拌し、次いで室温で1時間撹拌した。n−BuLiの添加中にも、また内容物を暖めている間にも明確な色の変化は認められなかった。2時間の撹拌後、反応混合物を−78℃に戻し、それにトリイソプロピルトリフラートのエーテル溶液(13.7mL、1当量)をシリンジにより一滴ずつ加えた。温度が−74℃を決して超えないように添加速度を制御した。翌日、氷水を用いて反応混合物を失活させ、酢酸エチル(3×75mL)で抽出した。すべての有機画分を合わせ、MgSO4で乾燥し、減圧下で濃縮した。無色の油が得られ、これをCombiFlash上で精製(120gカラム、ヘキサン)して透明な油6.5gを得た。この精製生成物(2)、すなわち(4−ブロモフェニル)トリイソプロピルシランを1H NMR分光法により分析した(図2参照)。
【0042】
9−(4−(トリイソプロピルシリル)フェニル)−9H−カルバゾールの合成
1Lの三つ口丸底フラスコに、カルバゾール(1)(2.62g、1当量)と、(4−ブロモフェニル)トリイソプロピルシラン(2)(5.4g、17.2mmol、1.1当量)と、18−クラウン−6(0.621g、15mol%)と、無水K2CO3(3.31g、1.53当量)と、銅((ナノ)、1.19g、1.2当量)との、o−ジクロロベンゼン(35mL)中の混合物を充填した。この黒ずんだ色の混合物を178℃で一晩撹拌した。反応の進行をTLC(ヘキサン)で監視した。出発原料が消滅した後、反応容器の内容物を冷却し、ジクロロメタン(3×100mL)で抽出した。それら一緒にされる有機層は抽出後いずれも皆、連続的に綿栓で濾過された。得られた溶液をMgSO4で乾燥し、濾過し、高真空下においてロータリーエバポレーターで濃縮した。黒ずんだ色の材料をCombiFlash上で精製(120gカラム、ヘキサン)して3.69gの白色の固体を得た。この精製生成物(3)、すなわち9−(4−(トリイソプロピルシリル)フェニル)−9H−カルバゾールを1H NMR(図3参照)および13C NMR(図4参照)分光法により分析した。
【0043】
3,6−ジブロモ−9−(4−(トリイソプロピルシリル)フェニル)−9H−カルバゾールの合成
アセトニトリル(80mL、HPLC等級)に溶かした(3)(3.69g、9.23mmol)の撹拌、冷却(0℃)した溶液に、3.61gのN−ブロモコハク酸イミド(2.2当量)をゆっくり加えた。温度が0℃を決して超えないように添加速度を制御した。その白色の懸濁液を一晩撹拌した。反応の進行をTLC(ヘキサン)で監視した。反応が完了した後、反応容器の内容物を冷却(0℃)し、濾過し、冷アセトニトリル(2×30mL)およびヘキサン(2×50mL)で洗浄し、真空下で一定重量になるまで乾燥して4.55gの綿毛状の白色の固体を得た。その乾燥した生成物(4)、すなわち3,6−ジブロモ−9−(4−(トリイソプロピルシリル)フェニル)−9H−カルバゾールを1H NMR(図5参照)および13C NMR(図6参照)分光法により分析した。
【0044】
9−(4−(トリイソプロピルシリル)フェニル)−3,6−ビス(トリフェニルシリル)−9H−カルバゾール(2PSCT)の合成
THFに溶かした(4)(12g、50.8mmol)の撹拌、冷却(−78℃)した溶液に、4.9mLのn−BuLi(2.5M/ヘキサン、12.09mmol、臭素1個につき1.5当量)をシリンジにより一滴ずつ加えた。温度が−74℃を決して超えないように添加速度を制御した。その反応混合物を−78℃で40分間撹拌した。n−BuLiの添加中に溶液の色は無色から黄色に変わった。所定の時間の後、新たに再結晶(ヘキサン/エーテル)させたトリフェニルシリルクロリド(3.57g、3当量)のTHFに溶かした溶液を、シリンジにより一滴ずつ加えた。温度が−74℃を決して超えないように添加速度を制御した。翌日、氷水を用いて反応混合物を失活させ、酢酸エチル(3×75mL)で抽出した。一緒にした有機画分をMgSO4で乾燥し、減圧下で濃縮した。濃縮後、粗生成物をCombiFlash上で精製(330gカラム、溶離液としてヘキサン/ジクロロメタン)して2.58gの9−(4−(トリイソプロピルシリル)フェニル)−3,6−ビス(トリフェニルシリル)−9H−カルバゾール(5)を白色の結晶性固体として得た。この精製生成物(5)を1H NMR(図7参照)および13C NMR(図8参照)分光法により分析した。
【0045】
本発明の精神および範囲から逸脱することなく様々な修正形態および変更形態を本発明に対して行うことができることは当業者には明らかなはずである。したがって本発明の開示は、それら修正形態および変更形態が別添の特許請求の範囲およびそれらの均等物の範囲内にあるという条件で、本発明のそれら修正形態および変更形態を包含するものである。
【技術分野】
【0001】
関連出願の参照
本出願は、2008年10月16日出願の米国仮特許出願第61/105841号および2008年11月27日出願の欧州特許出願公開第08170152.6号に関する優先権を請求し、これらの両方は参照により本明細書中に援用される。
【0002】
本発明は、発光ダイオード用ホスト材料、そのようなホスト材料の使用法、および電気エネルギーを光に変換することができる発光素子に関する。
【背景技術】
【0003】
最近、様々なディスプレイ装置、特に有機材料からのエレクトロルミネッセンス(EL)に基づくものが活発に検討され、また開発されている。
【0004】
多くの有機材料が、一重項励起子由来の蛍光(すなわち対称許容過程由来のルミネッセンス)を示す。この過程は等しい対称状態間で起こるので、非常に効果的な場合がある。これに反して、励起子の対称性がその基底状態の対称性と異なる場合、励起子の放射緩和を許さず、ルミネッセンスは遅くかつ非効率であることになる。基底状態は通常、反対称であるため、三重項由来の減衰がその対称性を破る。したがってこの過程は許されず、そのELの効率はきわめて低い。したがって三重項状態に含まれるエネルギーは大部分無駄になる。
【0005】
対称禁制過程は燐光として知られる。特質上、燐光は遷移の確率が低いせいで、急速な減衰を示す蛍光とは対照的に、励起の数秒後まで消えずに残ることができる。燐光材料の使用は、それらが一重項および三重項励起子の両方を同時に捕集することを可能にするためにエレクトロルミネッセンス効率を高める点で大きな躍進であった。燐光ドーパント用の適切なホスト材料を選択することは、依然として燐光系OLEDにおける重要な問題の一つのままである。ホスト材料からドーパント燐光団(phosphorophore)への発熱を伴うエネルギー伝達の効率はそのホストの三重項状態エネルギーがドーパントのそれよりも大きいかどうかで決まるためにホスト材料は重要である。
【0006】
ゲスト−ホスト系のよく知られているホスト材料には、正孔輸送4,4−’N,N’−ジカルバゾール−ビフェニル(CBP)および電子輸送8−ヒドロキシキノリンアルミニウム(AlQ3)が挙げられ、これらは両方ともOLEDに使用されている。しかしながら既知のホスト材料はすべての燐光性ゲストには適していない。例えば、燐光発光体用のホスト化合物は、ホストの三重項エネルギーが燐光発光体のそれよりも高いという重要な条件を満たさなければならない。燐光発光体から効率よく燐光を得るためには、そのホストの最低励起三重項状態が燐光発光体の最低発光状態よりも高くなければならない。燐光発光体からの発光が望ましいので、最低励起状態は、ホスト化合物ではなく燐光発光体からのものでなければならない。したがって光スペクトル中に、例えばスペクトルの青色領域中に短い発光波長を有する好適なゲスト用ホスト材料が当業界において必要であり続ける。
【0007】
より優れた燐光発光用の幾つかのホスト材料が報告されている。それらの電荷伝導能力、光物理的および酸化還元特性、十分に大きな三重項エネルギー、およびキャリア輸送特性のせいでカルバゾール系化合物が盛んに研究されている。
【0008】
例えば、Canon KKに譲渡された(特許文献1)は、有機発光素子用として適したゲスト−ホスト発光系を開示している。そのホスト材料は、窒素と結合した電子供与種と、1個または複数個の炭素原子と結合した芳香族アミン基またはカルバゾール基と、大きなバンドギャップ電位と、高エネルギー三重項励起状態とを有するカルバゾールコアを有する化合物を含む。このような材料は、関連するゲスト材料によって短波長燐光発光を可能にし、前記材料と白金錯体などの燐光発光有機金属化合物との組合せは有機発光素子の製造に有用である。
【0009】
コニカミノルタホールディングス株式会社に譲渡された(特許文献2)は、発光層中で燐光ドーパント用混合ホスト材料として使用されるN−フェニルカルバゾール化合物を開示している。Academia Sinicaに譲渡された(特許文献3)は、ドーパント用ホスト材料として使用されるテトラフェニルシラン−カルバゾール化合物を開示している。それら化合物は、選択されたテトラフェニルシランをカルバゾールと添加剤の存在下で混合し、それを加熱条件下で反応させるか、または選択されたカルバゾールを金属ブチル(butyl metallic)と混合し、それらを比較的低い温度で反応させることによって調製される。さらに、(特許文献4)および(特許文献5)(両方ともTsai Ming−Hanらに譲渡された)は、発光層用ホスト材料としての9−(4−tert−ブチルフェニル)−3,6−ビス(トリフェニルシリル)−9H−カルバゾールを開示している。
【0010】
さらに、(非特許文献1)は、燐光性青色ドーパント用ホスト材料として、3,5−ジ(N−カルバゾイル)テトラフェニルシラン(SimCP)およびN,N’−ジカルバゾイル−3,5−ベンゼン(mCP)を開示しており、一方、(非特許文献2)は、イリジウム蛍光体系ゲスト−ホスト有機発光ダイオードにおけるホスト材料として一連のカルバゾール系化合物および半経験的計算結果を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】米国特許出願公開第2003/205696号明細書
【特許文献2】特開2004−311412号公報
【特許文献3】米国特許出願公開第2007/173657号明細書
【特許文献4】米国特許出願公開第2007/262703号明細書
【特許文献5】米国特許出願公開第2007/262704号明細書
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Wuら“The Quest for High−Performance Host Materials for Electrophosphorescent Blue Dopants”,Adv.Funct.Mater.,17:1887〜1895(2007)
【非特許文献2】Thomasら“Improved host material design for phosphorescent guest−host systems”,Thin Solid Films 436:264〜268(2003)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、上記の開示された材料はいずれも、OLED用途に必要なすべての必要条件、例えばエネルギー準位、電荷輸送能力、溶液から均一なフィルムを形成する加工可能性、アモルファス相の形成能、良好なドーパント分散能、形態安定性(高Tg)、素子の動作条件下での熱的および電気化学的安定性を満たさない。したがって上記に示した必要条件をすべて満足させることができる新しいホスト材料の開発の必要性が存在している。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の一態様は、下記で述べるカルバゾール系化合物を含むホスト材料に関する。
【0015】
本発明の別の態様は、発光層用にそのホスト材料を使用すること、およびこのホスト材料を含む有機発光素子に関する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の有機発光素子を含有するディスプレイ装置の断面図である。
【図2】スキーム1の生成物(2)の1H NMRスペクトルを示す図である。
【図3】スキーム1の生成物(3)の1H NMRおよび13C NMRスペクトルを示す図である。
【図4】図3と同じ。
【図5】スキーム1の生成物(4)の1H NMRおよび13C NMRスペクトルを示す図である。
【図6】図5と同じ。
【図7】スキーム1の生成物(5)、すなわち化合物VIの1H NMRおよび13C NMRスペクトルを示す図である。
【図8】図7と同じ。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、式I
【化1】
の化合物を含むホスト材料を提供する。
式中、
R1は、
フッ素化アルキル、
トリチル、
ハロゲン、
ニトロ、
シアノ、
−COOR3、
−SiR4R5R6、および
1から20個の炭素原子を有するアルコキシまたはジアルキルアミノ基(ただし、1個または複数個の非隣接―CH2基を−O−、−S−、−NR7−、−CO−、−CONR8−、または−COO−で置き換えることができ、かつ少なくとも1個の水素原子をハロゲンで置き換えることができる)
からなる群から選択され、
R2、X1、およびX2は非共役置換基であり、出現ごとに同一または異なり、
トリチル、
ハロゲン、
ニトロ、
シアノ、
−COOR3、
−SiR4R5R6、および
1から20個の炭素原子を有する直鎖または分岐または環状のアルキルまたはアルコキシまたはジアルキルアミノ基(ただし、1個または複数個の非隣接―CH2基を−O−、−S−、−NR2−、−CO−、−CONR7−、または−COO−で置き換えることができ、かつ少なくとも1個の水素原子をハロゲンで置き換えることができる)
からなる群から選択される。
上式で、R3、R4、R5、R6、R7、およびR8は、出現ごとに同一または異なり、独立して−H、ハロゲン、ニトロ、シアノ、直鎖または分岐C1〜20アルキル、C3〜20環状アルキル、直鎖または分岐C1〜20アルコキシ、C1〜20ジアルキルアミノ、C4〜14アリール、C4〜14アリールオキシ、およびC4〜14ヘテロアリール(これらは1個または複数個の非芳香族基で置換することができる)からなる群から選択され、さらにR1、R2、R3、R4、R5、R6、X1、およびX2のうちの複数が、一緒になって単環または多環、任意選択で芳香族を形成することができる。また
l、m、およびnは、出現ごとに同一または異なり、0から4の整数を表す。
【0018】
本発明の幾つかの実施形態では、R1がフッ素化アルキル、ハロゲン、または−SiR4R5R6であり、かつR4、R5、およびR6のそれぞれがアルキル基である。本出願人は、これらの実施形態が、より良好な化合物安定性をもたらすことを見出した。好ましい実施形態ではR1がトリアルキルシリルまたはSi(イソプロピル)3である。
【0019】
本発明の幾つかの実施形態ではX1およびX2のそれぞれが、トリアリールシリル基またはX1=X2=−Si(Ph)3または
【化2】
(ただし、R7はフェニル、イソプロピル、またはメチルである)である。
【0020】
意外なことに、トリアルキルシリル基またはトリアリールシリル基などの適切な置換基を本発明の化合物のカルバゾール構造に導入した場合、その溶解度および加工性を、その他の特性、例えば色、効率などに対するいかなる悪影響もなしに向上することができることが分かった。
【0021】
具体的には、本発明の幾つかの実施形態には、式IIからVIII
【化3】
【化4】
【化5】
で表される化合物が含まれる。
【0022】
一般に、本発明の幾つかの実施形態によれば、式IIからVIの化合物は、以下の反応スキームによって調製できる。すなわち−78℃において二臭素化または二塩素化カルバゾール誘導体をn−BuLiで処理して二リチウム化中間体を得て、その後、これらをClSi(Ph)3または
【化6】
(ただし、R7はフェニルまたはメチル)で失活して式IIからVIの対応する化合物が得られる。
【化7】
【0023】
このような化合物の調製に適した合成方法は、Wuらの“Highly Efficient Organic Blue Electrophosphorescent Devices Based on 3,6−Bis(triphenylsilyl)carbazole as the Host Material”,Adv.Mater.18:1216〜1220(2006)(これによりその全体が参照により援用される)中に詳細に記載されている。
【0024】
本発明のトリアルキルまたはトリアリール基などの適切な置換基を有するカルバゾール系化合物、具体的には式IからVIIIの化合物は、OLED素子にとってのその他の必要な特性を維持しながら、それらが溶媒加工技術、例えばスピンコーティング、(インクジェット)プリンティング法、高濃度を必要とするプリンティング法(ロールツーロール、フレキソ印刷など)などを可能にするので、大規模な発光ダイオードに有望であることが分かった。
【0025】
本発明はまた、発光層におけるホスト材料としての上記化合物の使用法を対象とする。これら化合物は、有機発光素子において発光層中で発光性材料と共に機能する。
【0026】
好適なゲスト発光性(ドーパント)材料は、これらに限定されないがスペクトルの青色領域で燐光発光を示すビス(2−フェニルピリジン)イリジウム錯体を含めて当業界で知られているものおよび今後に開発されるものから選択することができる。特定の実施形態ではそのゲストは、スペクトルの純青色領域において燐光発光を示す。
【0027】
本発明の化合物を含むホスト層中でこの発光性材料をドーパントとして使用する場合、一般にはそれは、ホストおよびドーパントの合計重量を基準にして少なくとも1重量%、具体的には少なくとも3重量%、より具体的には少なくとも5重量%の量で使用される。さらに、一般にはそれは、25重量%まで、具体的には20重量%まで、より具体的には15重量%までの量で使用される。
【0028】
本発明はまた、上記ホスト材料を含む発光層を備えた有機発光素子(OLED)を対象とする。このOLEDはまた、その素子の両端間に電圧が印加された場合にルミネセンスを示すように適応させた発光性材料(その発光材料はドーパントとして存在する)を含むことができる。
【0029】
OLEDは一般に、
ガラス基板、
酸化インジウムスズ(ITO)陽極などの一般には透明な陽極、
正孔輸送層(HTL)、
発光層(EML)、
電子輸送層(ETL)、および
Al層などの一般には金属製の陰極
を備える。
【0030】
正孔伝導発光層の場合、励起子阻止層、特に正孔阻止層(HBL)が、発光層と電子輸送層の間に存在してもよい。電子伝導発光層の場合、励起子阻止層、特に電子阻止層(EBL)が、発光層と正孔輸送層の間に存在してもよい。
【0031】
発光層は本発明の化合物を含むホスト材料でできており、そこでは発光材料がゲストとして存在する。発光層はさらに、金属キノキソラート(metal quinoxolate)(例えばキノリン酸アルミニウム(Alq3)、キノリン酸リチウム(Liq))、オキサジアゾール、およびトリアゾールからなる群から選択される電子輸送材料を含む。ホスト材料の好適な例は、式
【化8】
によって表すことができる4,4’−N,N’−ジカルバゾール−ビフェニル(「CBP」)であるがこれに限定されない。
【0032】
任意選択で発光層はまた、そのホスト材料中にドーパントとして存在し、双極子モーメントを有する分極分子を含有することもできる。一般にそれは、ドーパントとして使用される発光材料がルミネセンスを示す場合、その放射される光の波長に影響を与える。
【0033】
この電子輸送材料から作られる層は、発光材料および任意選択のホスト材料を含む発光層中に電子を運ぶために使用される。電子輸送材料は、金属キノキソラート(例えばAlq3およびLiq)、オキサジアゾール、およびトリアゾールからなる群から選択される電子輸送性母材であってもよい。電子輸送材料の好適な例は、これに限定されないが、式(「Alq3」)、すなわち
【化9】
のトリス−(8−ヒドロキシキノリン)アルミニウムである。
【0034】
この正孔輸送材料から作られる層は、発光材料および任意選択のホスト材料を含む発光層中に正孔を運ぶために使用される。正孔輸送材料の好適な例は、これに限定されないが、式
【化10】
の4,4’−ビス[N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ]ビフェニル(「α−NPD」)である。
【0035】
ルミネセンス層(「ルミネセンスゾーン」)内に励起子を閉じ込めるために励起子阻止層(「バリア層」)を使用するのが有利である。正孔輸送ホストの場合、阻止層を発光層と電子輸送層の間に配置することができる。バリア層のための材料の好適な例は、これに限定されないが、式
【化11】
を有する2,9−ジメチル−4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリン(バトクロプロインまたは「BCP」とも呼ばれる)である。
【0036】
図1に示すように、幾つかの実施形態では本発明によるOLEDは多層構造を有し、1がガラス基板であり、2がITO層であり、3がα−NPDを含むHTL層であり、4がホスト材料と、ホストにドーパントを加えた合計重量を基準にして約8重量%の量のドーパントとしての発光材料とを含むEMLであり、5がBCPを含むHBLであり、6がAlq3を含むETLであり、7がAl層の陰極である。
【実施例】
【0037】
以下で本発明を、実施例および比較例に関して詳細に説明することにする。しかしながらこれらの実施例を、いかなる意味でも本発明の範囲を限定するものと解釈するべきではない。さらに、単位は別段の記述がない限り重量で表される。
【0038】
すべての原料は、Aldrich(U.S.A.)、AlfaAesar(U.S.A.)、またはTCI(日本)から購入した。本明細書中ではドラム溶剤(例えば、EtOAc、ヘキサン、THF、アセトニトリル、DMF、ジクロロメタン)を使用し、Mallinckrodt(U.S.A.)およびTediaから購入した。メタル化反応用の溶媒としては新たに蒸留したテトラヒドロフランを使用した。
【0039】
すべての1Hおよび13C NMRスペクトルは、それぞれ400MHzおよび100MHzでCDCl3に溶かした溶液についてBruker Avance III 400 NMR分光計上に記録した。すべてのインプロセスHPLC分析は、Hitachi Elite LaChrome装置を用いて行った。使用した基準波長は、254nmおよび220nmである。中間体および最終化合物の単離および精製にはCombiFlash Companionを使用した。薄層クロマトグラフィーは、2.5×7.5cm Merck 60 F−254プレートを用いて行い、また溶離溶媒はヘキサンおよびヘキサン/ジクロロメタン混合物である。すべての実験は窒素またはアルゴン雰囲気下で行った。
【0040】
実施例1:9−(4−(トリイソプロピルシリル)フェニル)−3,6−ビス(トリフェニルシリル)−9H−カルバゾール(2PSCT)(化合物VI)の合成
化合物IIIの合成を、次のスキーム1
【化12】
に示すように行った。
【0041】
(4−ブロモフェニル)トリイソプロピルシランの合成
エーテルに溶かした1,4−ジブロモベンゼン(12g、50.8mmol)の撹拌、冷却(−78℃)した溶液に、20.3mLのn−BuLi(2.5M/ヘキサン、50.8mmol、1.03当量)をシリンジにより一滴ずつ加えた。温度が−74℃を決して超えないように添加速度を制御した。その反応混合物を−78℃で1時間撹拌し、次いで室温で1時間撹拌した。n−BuLiの添加中にも、また内容物を暖めている間にも明確な色の変化は認められなかった。2時間の撹拌後、反応混合物を−78℃に戻し、それにトリイソプロピルトリフラートのエーテル溶液(13.7mL、1当量)をシリンジにより一滴ずつ加えた。温度が−74℃を決して超えないように添加速度を制御した。翌日、氷水を用いて反応混合物を失活させ、酢酸エチル(3×75mL)で抽出した。すべての有機画分を合わせ、MgSO4で乾燥し、減圧下で濃縮した。無色の油が得られ、これをCombiFlash上で精製(120gカラム、ヘキサン)して透明な油6.5gを得た。この精製生成物(2)、すなわち(4−ブロモフェニル)トリイソプロピルシランを1H NMR分光法により分析した(図2参照)。
【0042】
9−(4−(トリイソプロピルシリル)フェニル)−9H−カルバゾールの合成
1Lの三つ口丸底フラスコに、カルバゾール(1)(2.62g、1当量)と、(4−ブロモフェニル)トリイソプロピルシラン(2)(5.4g、17.2mmol、1.1当量)と、18−クラウン−6(0.621g、15mol%)と、無水K2CO3(3.31g、1.53当量)と、銅((ナノ)、1.19g、1.2当量)との、o−ジクロロベンゼン(35mL)中の混合物を充填した。この黒ずんだ色の混合物を178℃で一晩撹拌した。反応の進行をTLC(ヘキサン)で監視した。出発原料が消滅した後、反応容器の内容物を冷却し、ジクロロメタン(3×100mL)で抽出した。それら一緒にされる有機層は抽出後いずれも皆、連続的に綿栓で濾過された。得られた溶液をMgSO4で乾燥し、濾過し、高真空下においてロータリーエバポレーターで濃縮した。黒ずんだ色の材料をCombiFlash上で精製(120gカラム、ヘキサン)して3.69gの白色の固体を得た。この精製生成物(3)、すなわち9−(4−(トリイソプロピルシリル)フェニル)−9H−カルバゾールを1H NMR(図3参照)および13C NMR(図4参照)分光法により分析した。
【0043】
3,6−ジブロモ−9−(4−(トリイソプロピルシリル)フェニル)−9H−カルバゾールの合成
アセトニトリル(80mL、HPLC等級)に溶かした(3)(3.69g、9.23mmol)の撹拌、冷却(0℃)した溶液に、3.61gのN−ブロモコハク酸イミド(2.2当量)をゆっくり加えた。温度が0℃を決して超えないように添加速度を制御した。その白色の懸濁液を一晩撹拌した。反応の進行をTLC(ヘキサン)で監視した。反応が完了した後、反応容器の内容物を冷却(0℃)し、濾過し、冷アセトニトリル(2×30mL)およびヘキサン(2×50mL)で洗浄し、真空下で一定重量になるまで乾燥して4.55gの綿毛状の白色の固体を得た。その乾燥した生成物(4)、すなわち3,6−ジブロモ−9−(4−(トリイソプロピルシリル)フェニル)−9H−カルバゾールを1H NMR(図5参照)および13C NMR(図6参照)分光法により分析した。
【0044】
9−(4−(トリイソプロピルシリル)フェニル)−3,6−ビス(トリフェニルシリル)−9H−カルバゾール(2PSCT)の合成
THFに溶かした(4)(12g、50.8mmol)の撹拌、冷却(−78℃)した溶液に、4.9mLのn−BuLi(2.5M/ヘキサン、12.09mmol、臭素1個につき1.5当量)をシリンジにより一滴ずつ加えた。温度が−74℃を決して超えないように添加速度を制御した。その反応混合物を−78℃で40分間撹拌した。n−BuLiの添加中に溶液の色は無色から黄色に変わった。所定の時間の後、新たに再結晶(ヘキサン/エーテル)させたトリフェニルシリルクロリド(3.57g、3当量)のTHFに溶かした溶液を、シリンジにより一滴ずつ加えた。温度が−74℃を決して超えないように添加速度を制御した。翌日、氷水を用いて反応混合物を失活させ、酢酸エチル(3×75mL)で抽出した。一緒にした有機画分をMgSO4で乾燥し、減圧下で濃縮した。濃縮後、粗生成物をCombiFlash上で精製(330gカラム、溶離液としてヘキサン/ジクロロメタン)して2.58gの9−(4−(トリイソプロピルシリル)フェニル)−3,6−ビス(トリフェニルシリル)−9H−カルバゾール(5)を白色の結晶性固体として得た。この精製生成物(5)を1H NMR(図7参照)および13C NMR(図8参照)分光法により分析した。
【0045】
本発明の精神および範囲から逸脱することなく様々な修正形態および変更形態を本発明に対して行うことができることは当業者には明らかなはずである。したがって本発明の開示は、それら修正形態および変更形態が別添の特許請求の範囲およびそれらの均等物の範囲内にあるという条件で、本発明のそれら修正形態および変更形態を包含するものである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式I
【化1】
の化合物であって、
式中、
R1が、フッ素化アルキル、ハロゲン、または−SiR4R5R6(ただしR4、R5、およびR6はそれぞれアルキル基である)であり、
R2、X1、およびX2は非共役置換基であり、出現ごとに同一または異なり、
トリチル、
ハロゲン、
ニトロ、
シアノ、
―COOR3、
−SiR4R5R6、および
1から20個の炭素原子を有する直鎖または分岐または環状のアルキルまたはアルコキシまたはジアルキルアミノ基(ただし、1個または複数個の非隣接―CH2基を−O−、−S−、−NR2−、−CO−、−CONR7−、または−COO−で置き換えることができ、かつ少なくとも1個の水素原子をハロゲンで置き換えることができる)
からなる群から選択され、
上式で、R3、R4、R5、R6、R7、およびR8は、出現ごとに同一または異なり、独立して−H、ハロゲン、ニトロ、シアノ、直鎖または分岐C1〜20アルキル、C3〜20環状アルキル、直鎖または分岐C1〜20アルコキシ、C1〜20ジアルキルアミノ、C4〜14アリール、C4〜14アリールオキシ、およびC4〜14ヘテロアリール(これらは1個または複数個の非芳香族基で置換することができる)からなる群から選択され、さらにR1、R2、R3、R4、R5、R6、X1、およびX2のうちの複数が、一緒になって単環または多環、任意選択で芳香族を形成することができ、かつ
l、m、およびnが、出現ごとに同一または異なり、0から4の整数を表す、化合物。
【請求項2】
R1がトリアルキルシリルである、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
R1がSi(イソプロピル)3である、請求項2に記載の化合物。
【請求項4】
X1およびX2がそれぞれトリアリールシリル基である、請求項1または2に記載の化合物。
【請求項5】
X1=X2=−Si(Ph)3である、請求項4に記載の化合物。
【請求項6】
X1=X2=
【化2】
(ただし、R7はフェニル、イソプロピル、またはメチルである)である、請求項1または2に記載の化合物。
【請求項7】
式II
【化3】
によって表される、請求項6に記載の化合物。
【請求項8】
式III
【化4】
によって表される、請求項6に記載の化合物。
【請求項9】
式IV
【化5】
か、または同じ式だがメチル基をイソプロピル基で置き換えたものによって表される、請求項6に記載の化合物。
【請求項10】
式V
【化6】
によって表される、請求項5に記載の化合物。
【請求項11】
式VI
【化7】
によって表される、請求項5に記載の化合物。
【請求項12】
式VII
【化8】
によって表される、請求項1に記載の化合物。
【請求項13】
式VIII
【化9】
によって表される、請求項1に記載の化合物。
【請求項14】
有機発光素子の青色発光層中における、請求項1から13のいずれか一項に記載の化合物の使用。
【請求項1】
式I
【化1】
の化合物であって、
式中、
R1が、フッ素化アルキル、ハロゲン、または−SiR4R5R6(ただしR4、R5、およびR6はそれぞれアルキル基である)であり、
R2、X1、およびX2は非共役置換基であり、出現ごとに同一または異なり、
トリチル、
ハロゲン、
ニトロ、
シアノ、
―COOR3、
−SiR4R5R6、および
1から20個の炭素原子を有する直鎖または分岐または環状のアルキルまたはアルコキシまたはジアルキルアミノ基(ただし、1個または複数個の非隣接―CH2基を−O−、−S−、−NR2−、−CO−、−CONR7−、または−COO−で置き換えることができ、かつ少なくとも1個の水素原子をハロゲンで置き換えることができる)
からなる群から選択され、
上式で、R3、R4、R5、R6、R7、およびR8は、出現ごとに同一または異なり、独立して−H、ハロゲン、ニトロ、シアノ、直鎖または分岐C1〜20アルキル、C3〜20環状アルキル、直鎖または分岐C1〜20アルコキシ、C1〜20ジアルキルアミノ、C4〜14アリール、C4〜14アリールオキシ、およびC4〜14ヘテロアリール(これらは1個または複数個の非芳香族基で置換することができる)からなる群から選択され、さらにR1、R2、R3、R4、R5、R6、X1、およびX2のうちの複数が、一緒になって単環または多環、任意選択で芳香族を形成することができ、かつ
l、m、およびnが、出現ごとに同一または異なり、0から4の整数を表す、化合物。
【請求項2】
R1がトリアルキルシリルである、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
R1がSi(イソプロピル)3である、請求項2に記載の化合物。
【請求項4】
X1およびX2がそれぞれトリアリールシリル基である、請求項1または2に記載の化合物。
【請求項5】
X1=X2=−Si(Ph)3である、請求項4に記載の化合物。
【請求項6】
X1=X2=
【化2】
(ただし、R7はフェニル、イソプロピル、またはメチルである)である、請求項1または2に記載の化合物。
【請求項7】
式II
【化3】
によって表される、請求項6に記載の化合物。
【請求項8】
式III
【化4】
によって表される、請求項6に記載の化合物。
【請求項9】
式IV
【化5】
か、または同じ式だがメチル基をイソプロピル基で置き換えたものによって表される、請求項6に記載の化合物。
【請求項10】
式V
【化6】
によって表される、請求項5に記載の化合物。
【請求項11】
式VI
【化7】
によって表される、請求項5に記載の化合物。
【請求項12】
式VII
【化8】
によって表される、請求項1に記載の化合物。
【請求項13】
式VIII
【化9】
によって表される、請求項1に記載の化合物。
【請求項14】
有機発光素子の青色発光層中における、請求項1から13のいずれか一項に記載の化合物の使用。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【公表番号】特表2012−505860(P2012−505860A)
【公表日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−531495(P2011−531495)
【出願日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際出願番号】PCT/EP2009/063517
【国際公開番号】WO2010/043691
【国際公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【出願人】(591001248)ソルヴェイ(ソシエテ アノニム) (252)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際出願番号】PCT/EP2009/063517
【国際公開番号】WO2010/043691
【国際公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【出願人】(591001248)ソルヴェイ(ソシエテ アノニム) (252)
【Fターム(参考)】
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