説明

発光希土類金属ナノクラスターとアンテナ配位子とを含有する有機−無機錯体、発光物品及び発光組成物の製造方法

酸素原子又は硫黄原子を介して少なくとも1個の半金属又は遷移金属に結合したランタニド原子を含むランタニド含有ナノクラスターを含む発光組成物を記載する。この新規組成物は、ナノクラスターと錯体を形成したアンテナ配位子を含む。希土類金属ナノクラスターは、1〜100nmのサイズ範囲内にある。ナノクラスター(アンテナ配位子あり又はなし)が重合体マトリックスに分散された、太陽電池などの物品を記載する。また、発光フィルムの新規製造方法も記載する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本願は、2008年8月19日に出願された米国仮出願第61/090,191号、2009年に1月16日に出願された同61/145,515号及び2009年6月4日に出願された61/184,197号に対して優先権を主張する。
【0002】
本発明は、新規発光組成物、発光物品の製造方法、発光体を含む装置及び発光物品の使用方法に関するものである。また、本発明は、太陽電池がスペクトルを変化させる発光又は太陽光のいずれかを検出することができるように該太陽電池の前面又は背部に設置される発光透明部材を備える太陽電池に関するものでもある。
【背景技術】
【0003】
長期にわたって研究が続けられてきた発光体には2つの種類がある:発光有機色素と希土類材料である。
【0004】
発光有機色素は、蛍光集光器及びスペクトルコンバータのために最も一般的に研究されてきたものである。Reisfeld外の米国特許第4661649号を参照されたい。この発光有機色素は、一般に高い吸収性と発光効率とを有する。しかしながら、該染料には、(1)紫外線照射により分解してしまうこと及び(2)吸収帯と発光帯とが重複しているため発光を再吸収してしまうことを含め、これらの色素を実際の現場用途のために用いるのを妨げてきたいくつかの欠点がある。紫外線照射による分解は、もっぱら、紫外線領域の高エネルギー光により切断されやすい二重結合及び芳香族環のためである。R.W.Olsen外の「Luminescent solar concentrators and the reabsorption problem」、Applied Optics、vol.20、p.2934(1981)を参照されたい。
【0005】
また、発光希土類(RE)材料も試験されてきた。Reisfeld外の米国特許第4367367号を参照されたい。エルビウム、ジスプロシウム及びユーロピウムなどの希土類は、光増幅器、レーザー及びエレクトロルミネセントランプといった光電子装置の周知の構成部材である。一般に、これらは、光から1以上の波長でエネルギーを吸収することができ(ポンプ)、かつ、その吸収したエネルギーを異なる波長で自然放出又は誘導放出により放出することができるという特性を共有する。放出される光は、原子エネルギー準位間での励起電子の遷移に起因するものであり、非常に狭い分光幅を有する。また、これらの材料の吸収帯は、希土類イオンにおける電子遷移によるものであり、そのため同様に狭い。レーザー及び光増幅器といった多くの用途では、この放射光の狭い幅が有益であり、しかも、この吸収の狭い幅は問題とはならない。というのは、希土類は、レーザーによって送り出されるか、又はエレクトロルミネセンスの場合には外部高周波数交流電場で励起された電子による衝突イオン化によって送り出されるかのいずれかだからである。
【0006】
REの発光は、電子励起と、本来的には非常に安定なREイオン自体の緩和過程とにより誘導されるため、発光は、基本的に紫外線誘導分解が存在し得ない。さらに、REのストークスシフトは、通常、再吸収の問題を回避するのに十分なものである。それでもなお、希土類材料はほとんどの有機マトリックスへの溶解度が低く、しかも吸収性が低い(これにより外部量子効率が低くなる)ため、REは、未だに発光型太陽光集光器及びスペクトルコンバータにはうまく活用されていない。
【0007】
希土類元素は、無機ガラス及び無機結晶にドープできる。希土類材料がドープされた無機ガラス又は無機結晶は、これらのガラス又は結晶を粉末に粉砕することによって重合体に混合できる。しかしながら、このような粉末の最小粒径は、最も小さいものでも数μmであるところ、これは、レイリー散乱による散乱損失を抑えるのには大きすぎる。これは、太陽電池モジュールに使用される発光透明部材にとって致命的な問題を引き起こす。
【0008】
希土類材料は、有機マトリックスに比較的高い濃度で分散すると共に、有機分子が配位した希土類イオンを含有する有機錯体を形成することによって透明性を良好に保持することができることが知られている。しかしながら、このような配位構造では、大きな振動エネルギーを有する有機配位子が、入射太陽光によって励起された希土類イオンのエネルギー状態を無力化し、一般的には多重フォノン緩和と呼ばれている消光をもたらす可能性がある。また、希土類イオンを含有する複数の隣接する有機錯体が高濃度で接近すると、希土類イオンの励起エネルギー状態が別の希土類イオンに移り、それによって一般的には濃度消光と呼ばれる消光をもたらす可能性もある。
【0009】
さらに、REは、各RE元素に特有の特定の波長で狭帯域放射を示すのが普通である。このような波長は、単結晶Si、多結晶Si、Si微結晶及びCu(In,Ga)Se2(CIGS)などの太陽電池のバンドギャップのスペクトル感度とは必ずしも一致しないため、該発光帯が太陽電池の非常の感度の高い領域と可能な限り広い範囲で重複するよう制御できることが望ましい。
【0010】
希土類をドープした光電子材料に関連する問題の一つは、希土類イオンの濃度が濃度消光効果のため低い閾値範囲を超えて増加できないことである。これには、希土類イオンを希薄分散液中のホストマトリックスに投入することが必要となる。この問題は、図1に示す発光希土類金属ナノクラスターを開発することによって改善された(R基を適切に選択することで、安定な重合体又は共重合体マトリックスに架橋させることができる)。例えば、H.Mataki及びT.Fukui,Jpn.J.Appl.Phys.45,L380(2006);並びにH.Mataki,K.Tsuchii,J.Sun,H.Taniguchi,K.Yamashita及びK.Oe,Jpn.J.Appl.Phys.46,L83(2007)を参照されたい。図1に例示された化合物は、Mataki及びFukuiによるWO2006/004187(引用により本明細書に含める)に記載されている。これらの粒子では、希土類イオンは、架橋酸素原子を介して異なる原子に結合している。これには、比較的高い希土類イオン負荷(>5質量%)であっても濃度消光を防ぐ効果がある。
【0011】
いくつかの装置は、効率的に機能するために広い吸収帯が必要である。導波路ダウンコンバージョン集光器がこのような装置の一例である。希土類蛍光体の狭い吸収帯は、このような装置において効率的に使用するのには不安定である。そのため、太陽スペクトルなどの広い入射スペクトルの吸収効率は低い。これは、フェルスター遷移を使用してホストマトリックスから発光ドーパントに励起子を遷移させる有機発光装置での発光ドーパントなどの用途に極度に制限される。効率的なフェルスター遷移は、ドーパントの吸収スペクトルとホストの発光スペクトルとが良好に重複する場合にのみ達成できるが、これは、広い発光有機ホストと狭い吸収ドーパントとでは実現が可能ではない。また、この制限された吸収は、発光型太陽光集光器などの用途でも問題となる。というのは、これらの装置は非常に広い太陽スペクトルの効率的な吸収に依存しているからである。W.H.Weber及びJ.Lambe,Applied Optics 15,2299(1976)を参照されたい。希土類金属ナノクラスターの吸収が飛躍的に拡大するのであれば、これらは、このような用途の卓越した候補となるであろう。というのは、非常に狭い発光帯幅が半導体太陽電池のバンドギャップに効率的に一致すると考えられるからである。このような材料を2個以上備えるスタックは、太陽スペクトルを、それぞれが半導体太陽電池配列の一つのバンドギャップに一致した一連の狭い発光ピークに変換させることができると考えられる(例えば、Si、GaAs、InGaNなど)。このようにして当該太陽電池におけるホストキャリヤーに関連する損失過程を低減させることにより、太陽スペクトルから電気への変換効率全体を改善させることができる。
【0012】
テルビウム(Tb)及びユーロピウム(Eu)などのRE元素は、比較的長い波長の可視発光を示すので、LSC及びスペクトル変換(SC)装置に適用するのに好都合である。しかし、これらの材料であっても、励起波長という意味において入射太陽光の不安定な波長領域が事実上400nm未満のUV領域に制限される。したがって、400nmを超える領域の太陽光を使用できるなら、太陽光をより効率的に使用することができる。Werts外は、端が主として約400nmである励起帯を、通常はミヒラーケトンと呼ばれる4,4’−ビス(N,N−ジメチルアミノ)ベンゾフェノンを添加することによって、約450nmにまで拡大することができることを見出した。M.H.Werts外,「Bathochromicity of Michler’s ketone upon coordination with lanthanide(iii) b−diketonates enables efficient sensitisation of Eu3+ for luminescence under visible light excitation」,Chemical Communications、vol.1999,799(1999);Verhoeven外,米国特許第6,723,454号を参照されたい。Wertsは、「Making sense of lanthanide luminescence」,Science Progess,88,101−131(2005)において、第118頁で「アンテナからイオンへのエネルギー移動の効率は、距離に非常に依存する」及び「最適な光増感のためには、好ましくは発色団をイオンに結合させる」と述べている。
【0013】
多数の刊行物に、アンテナ配位子及びそれらの使用が記載されている。例えば、Ronson外は、「Polynuclear lanthanide complexes of a series of bridging ligands containing two tridentate N,N’,O−donor units: structures and luminescence properties」,Dalton Trans.,pp.1006−1022(2007)において、アンテナ配位子を含む様々な多核ランタニド化合物を記載している。発光測定値が報告されている。
【0014】
アンテナ配位子を含むゾルゲル由来ガラス又はキセロゲル中における発光ランタニド錯体について記載する刊行物がいくつか存在する。例えば、Reisfeld,「Rare earth complexes in sol−gel glasses」,Mater.Sci.,pp.5−18(2002)には、シリカ、ジルコニア及び有機改質ジルコニア−シリカハイブリッド(ジルコニアテトラプロポキシドと3−グリシドキシプロピルトリメトキシシランとの縮合生成物)のゾルゲルキセロゲル内に取り込まれたEUクリプテートの発光特性が記載されている。Reisfeldは、「溶液及びキセロゲル中におけるEu(III)クリプテートでアンテナ効果が観察された。キセルゲル中に取り込まれたクリプテートは、溶液の状態よりも放射効率が高く、寿命も長いことを示した。」と述べている。すなわち、Reisfeldは、「ゾルゲルホストにドープされた希土類有機錯体は、蛍光体の優良な候補である」ことに注目した。有機改質キセロゲル中にユーロピウム錯体を含有するフィルムは、ジルコニア中での錯体と比較して発光が改善されていた。この研究の先の報告は、Saraidarov外,「Luminescent properties of silica and zirconia xerogels doped with europium(III) salts and europium(III) cryptate incorporating 3,3’−biisoquinoline−2,2’−dioxide」,Chem.Phys.Lett.330,pp 515−520(2000);Czarnobaj外,「Antenna Effect in an oxide xerogel」,Spectrochimica Acta Part A 54,pp.2183−2187(1998)に記載されている。Li外は、「Mesostructured thin film with covalently grafted europium complex」,New.J.Chem.,26,674−676(2002)には、メソ構造及び非晶質ゾルゲルシリカフィルム中におけるユーロピウム錯体が開示されている。
【0015】
Tissue,「Synthesis and Luminesence of Lanthanide Ions in Nanoscale Insulating Hosts」,Chem.Mater.10,2837−2845(1998)には、マトリックス中における酸化ランタニドナノ粒子のレビューが提示されている。このレビューには、アンテナ配位子をランタニドナノ粒子に添加するいかなる試みも言及されていない。サマリーの欄において、Tissueは、「ナノ粒子のサイズを調節すること又はそれらの表面を改質することで、ドーパントとホストとの発光特性を調節することが可能になる。推測では、光学活性ナノ構造を検討することで、予測されない光閉じ込め効果又は動的効果により新たな予測されない光学的現象が発見されるかもしれない。」と述べている。
【0016】
Charbonniere外は、「Highly luminescent water−soluble lanthanide nanoparticles through surface coating sensitization」,New J.Chem.,2008において、水中で水溶性La0.95Eu0.053・AEP(AEP=アミノエチルホスフェート)ナノ粒子(NP)と6−カルボキシ−5’−メチル−2,2’−ビピリジン(bipyCOO-)と反応させ、それにより305nmで励起させたときにユーロピウム中心の発光の大きさについて二桁を超えて増大させることを記載している。ナノ粒子は、直径が約200nmであった。bipyCOO-配位子が被覆されたナノ粒子は、表面の配位子を水中で変化させることによって製造され、単離され、そして赤外線分光法、透過電子顕微鏡法、エネルギー分散X線分析及び動的光散乱法によって特徴付けられた。真性のNP試料の分析と比較したこれらの分析から、AEPが部分的にbipyCOO-で置換されており、該粒子の元の形態が保持されていることが確認された。この著者は、単離されたLa0.95Eu0.053・bipyCOO-NPの光物理的特性を水中で吸収、定常状態及び時間分解ルミネセンス分光法により測定したことを報告し、また、NPの発光の大きな増加は、被覆されたbipyCOO-部分が光を効率的に吸収し、そしてそのエネルギーをNPの発光ユーロピウム原子に伝達する表面生成アンテナ効果によるものであると述べている。さらに小さなナノ粒子に関する記載のみならず、さらに小さなナノ粒子を製造するための合成方法に関する記載も存在しない。
【0017】
窓上に発光層を使用して太陽放射を吸収し、そして窓枠にある光電池に放射することが、Weber外,「Luminescent greenhouse collector for solar radiation」,Applied Optics,pp.2299−2300(1976)に記載されている。この概念は、Batchelder,「The Luminescent Solar Concentrator」,Cal Tech Doctoral Thesis(1982)でも議論されている。
【0018】
バテル・メモリアル・インスティチュートは、米国特許第6610219号及び同7138549号;並びに米国特許出願公開第2006106262号;及び同2005040377号(これらの全てを引用により本明細書に含めるものとする)を含め、高分子ホスト中の発色団に関する多数の特許を保有している。
【0019】
RE−Mナノクラスターは高分子ホスト中に均一に分散できると共に、クラスターサイズが2〜3nmに維持されるため、卓越した透明性が達成できる。Mataki外は、Eu−AlナノクラスターがドープされたPMMA(ポリメタクリル酸メチル)導波路を使用して5.57dB/cmの光学利得で光増幅させることを実証することに成功している。
【0020】
太陽電池モジュールでは、発光透明部材は、入射太陽光のスペクトルを変化させて太陽電池のスペクトル感度とさらによく一致させることができるように、入射波長範囲の特定の波長範囲の特定の波長を別の特定の波長又は特定の波長範囲に変換し、それによって太陽電池の光又は電気エネルギー変換効率を改善させる。このような発光透明部材を使用した太陽電池のエネルギー変換効率の改善は、通常は第三世代太陽電池と呼ばれる次世代太陽電池向けに期待される技術であることが見込まれている。A.Luque外,「FULLSPECTRUM:a new PV wave making more efficient use of the solar spectrum」,Solar Energy Materials & Solar Cells, 第87巻, p.467 (1995)を参照されたい。
【0021】
太陽電池が入射太陽光に対して横方向で発光透明部材に取り付けられる場合、該発光透明部材は、一般に、発光型太陽光集光器、発光型ソーラーコレクター又は発光型温室コレクターとして知られている。Weber外,「Luminescent greenhouse collector for solar radiation」,Applied Optics,vol.15,p.2299(1977);R.Chambers,米国特許第4127425号を参照されたい。
【0022】
一方、発光透明部材が入射太陽光に対して平行方向で太陽電池に取り付けられる場合、該発光透明部材は、一般にスペクトルコンバータとして知られている。一般に、スペクトルコンバータは、スペクトルコンバータにドープされた発光体の特性に応じて、特定の波長又は入射波長範囲の特定の波長範囲を別の波長又は波長範囲に変換する。ただし、具体的にいうと、入射太陽光の波長が元の波長の整数倍に変換される場合、これは、ダウンコンバータと呼ばれる。入射太陽光の波長を元の波長よりも短い波長に変換する場合、これは、特にアップコンバータと呼ばれる。本発明では、スペクトルコンバータという用語は、ダウンコンバータのみならずアップコンバータも含むものとして使用する。Strumpel外,「Modifying the solar spectrum to enhance silicon solar cell efficiency − A overview of available materials」,Solar Energy Materials and Solar Cells,vol.91,p.238(2007)を参照されたい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0023】
【特許文献1】米国特許第4661649号明細書
【特許文献2】米国特許第4367367号明細書
【特許文献3】国際公開第2006/004187号パンフレット
【特許文献4】米国特許第6723454号明細書
【特許文献5】米国特許第6610219号明細書
【特許文献6】米国特許第7138549号明細書
【特許文献7】米国特許出願公開第2006106262号明細書
【特許文献8】米国特許出願公開第2005040377号明細書
【特許文献9】米国特許第4127425号明細書
【非特許文献】
【0024】
【非特許文献1】Olsen外,「Luminescent solar concentrators and the reabsorption problem」, Applied Optics, vol.20, p.2934(1981)
【非特許文献2】H.Mataki及びT.Fukui,Jpn.J.Appl.Phys.45,L380(2006)
【非特許文献3】H.Mataki, K.Tsuchii, J.Sun, H.Taniguchi, K.Yamashita及びK.Oe, Jpn.J.Appl.Phys.46, L83(2007)
【非特許文献4】W.H.Weber及びJ.Lambe, Applied Optics 15, 2299(1976)
【非特許文献5】M.H.Werts外,「Bathochromicity of Michler's ketone upon coordination with lanthanide(iii) b-diketonates enables efficient sensitisation of Eu3+ for luminescence under visible light excitation」, Chemical Communications, vol. 1999, 799(1999)
【非特許文献6】Werts,「Making sense of lanthanide luminescence」, Science Progess, 88, 101-131 (2005)
【非特許文献7】Ronson外, 「Polynuclear lanthanide complexes of a series of bridging ligands containing two tridentate N, N',O-donor units: structures and luminescence properties」, Dalton Trans., pp.1006-1022 (2007)
【非特許文献8】Reisfeld, 「Rare earth complexes in sol-gel glasses」, Mater.Sci., pp.5-18 (2002)
【非特許文献9】Saraidarov外, 「Luminescent properties of silica and zirconia xerogels doped with europium (III) salts and europium (III) cryptate incorporating 3,3'-biisoquinoline-2,2'-dioxide」, Chem. Phys. Lett. 330, pp 515-520 (2000)
【非特許文献10】Czarnobaj外, 「Antenna Effect in an oxide xerogel」, Spectrochimica Acta Part A 54, pp.2183-2187 (1998)
【非特許文献11】Li外,「Mesostructured thin film with covalently grafted europium complex」, New. J. Chem., 26, 674-676 (2002)
【非特許文献12】Tissue, 「Synthesis and Luminesence of Lanthanide Ions in Nanoscale Insulating Hosts」, Chem. Mater. 10, 2837-2845 (1998)
【非特許文献13】Charbonniere外, 「Highly luminescent water-soluble lanthanide nanoparticles through surface coating sensitization」, New J. Chem.,2008
【非特許文献14】Weber外, 「Luminescent greenhouse collector for solar radiation」, Applied Optics, pp.2299-2300 (1976)
【非特許文献15】Batchelder, 「The Luminescent Solar Concentrator」, Cal Tech Doctoral Thesis (1982)
【非特許文献16】A. Luque外, 「FULLSPECTRUM: a new PV wave making more efficient use of the solar spectrum」, Solar Energy Materials & Solar Cells, vol. 87, p.467 (1995)
【非特許文献17】Weber外, 「Luminescent greenhouse collector for solar radiation」, Applied Optics, vol. 15, p. 2299 (1977)
【非特許文献18】Strumpel外, 「Modifying the solar spectrum to enhance silicon solar cell efficiency - A overview of available materials」, Solar Energy Materials and Solar Cells, vol. 91, p. 238 (2007)
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0025】
発明の概要
第1の態様では、本発明は、重合体マトリックスと、該重合体中に分散された希土類金属ナノクラスターと、該希土類金属ナノクラスターの外側に配置されたアンテナ配位子とを含む組成物であって、該希土類金属ナノクラスターが1〜100nmのサイズ範囲内にあり、かつ、酸素原子又は硫黄原子を介して少なくとも1個の半金属又は遷移金属に結合したランタニド原子を含む組成物を提供する。
【0026】
別の態様では、本発明は、希土類金属ナノクラスターと、該希土類金属ナノクラスターと相互作用するアンテナ配位子とを含む組成物であって、該希土類金属ナノクラスターが1〜100nm(好ましくは1〜10nm)のサイズ範囲内にあり、かつ、酸素原子又は硫黄原子を介して少なくとも1個の半金属又は遷移金属に結合したランタニド原子を含む組成物を提供する。ここで、「該希土類金属ナノクラスターと相互作用する」とは、375〜450nmPLスペクトルの領域で広い吸収ピークを有することを意味する。このピークは、PLスペクトルにおいて、従来の曲線適合(又はデコンボルーション)技術により特定できる。このピークは、半分の高さで少なくとも約25nmの幅がある。一例を図7に示している。
【0027】
アンテナ配位子が「希土類金属ナノクラスターの外側に配置」されてるかどうかは、吸光と発光とを観察し、そして光ルミネセンススペクトル(PL)に分裂が起こっているかどうかを観察することによって決定できる。Euについて、5074のPLピークの実質的な分裂が存在することは、アンテナ配位子が希土類金属ナノクラスターの内側に移動したことを示唆するものである。PLが曖昧な場合には、他の既知の技術を使用して希土類金属ナノクラスターの外側にアンテナ配位子が存在するかどうかを確認することができるであろう。
【0028】
さらなる態様では、本発明は、重合体マトリックスと、該重合体中に分散された希土類金属ナノクラスターと、該希土類金属ナノクラスターの外側に配置されたアンテナ配位子とを含む組成物であって、該希土類金属ナノクラスターが1〜10nmのサイズ範囲内にあり、かつ、酸素原子又は硫黄原子を介して少なくとも1個の半金属又は遷移金属に結合したランタニド原子を含む組成物を提供する。
【0029】
顕著な結果のためには、約1〜約10nm以下の範囲内にある発光希土類金属ナノクラスターのサイズが望ましく、また、この範囲は、試験された希土類金属ナノクラスターのサイズ(2〜3nm)にも一致する。このサイズ範囲の希土類金属ナノクラスターは、大きなナノ粒子と比較すると、安定性が低く、しかもそれらの構造が酸性アンテナ配位子によって破壊されやすいことが見込まれる。さらに驚くべき結果は、アンテナ配位子との反応後であってもEu:Al(又はEu:Al:架橋オキソ)比が実質的に変化しないことである。ここで、Euは、ランタニドを代表するものであり、ランタニドのうち任意のもの又はそれらの組み合わせであることができる。好ましい実施形態では、ランタニド:アルミニウムモル比(元素分析により測定)は、0.25〜0.40、より好ましくは0.30〜0.35、最も好ましくは約0.33の範囲内にある。
【0030】
本発明の組成物では、「半金属又は遷移金属」は、遷移金属、Al、Si、P、Ge、Ga、In、Sn、Sb又はAsを含む。好ましい元素の群は、Zr、Ti、Ga、Al、Si、P、Hf、V、Nb、Ta及びW並びにそれらの組み合わせを含む。元素の別の好ましい群はZr、Ti、Ga、Al、V、Nb、Ta及びW並びにそれらの組み合わせを含む。「ランタニド原子」は、原子番号57〜71を有する元素のうち任意のものを含む。
【0031】
また、本発明は、本発明の組成物を含む光学装置を包含する。装置としては、光電子装置、電気光学変調器、蛍光集光器、フラットパネルディスプレイ、液晶ディスプレイ用バックライトなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0032】
また、本発明は、本発明の組成物の製造方法であって、請求項1又は2に記載の組成物の層を形成させ;そして、該層を形成させた後に、希土類金属ナノクラスターに結合するアンテナ配位子を付加して光度が向上した材料とすることを含む方法を提供する。「硬度が向上」とは、ランタン原子あたりの向上を意味する。アンテナ配位子を予め形成されたフィルムに添加することによって発光フィルムを作製する上記方法において、アンテナ配位子が重合体及び希土類金属ナノクラスターとの錯体を介して移動して光度を向上させ得ることは驚くべきことである。或いは、この組成物は、層を形成する前にアンテナ配位子と希土類金属ナノクラスターとを溶液の状態で混合させることによって作ることもできる。本発明は、希土類金属ナノクラスターとアンテナ配位子との液体の混合物(例えば懸濁液及び/又は固形物を形成させるための先駆体)をさらに含む。この液体は、有機液体であることができる。本発明は、希土類金属ナノクラスターと、アンテナ配位子と、重合体とを混合させることによって形成された組成物を含む。
【0033】
また、本発明は、本明細書に記載されるように、測定可能な所定の特性によって規定される装置及び/又は組成物も包含する。複合材料は化学的に複雑な場合があるため、該複合材料中に存在する正確な化学種を完全に理解することは可能ではないかもしれない。したがって、複合材料は、測定可能な特性によっても規定できる。このような特性としては、元素分析、NMRデータ、SEM、IR、吸収及び放出、発光測定などを挙げることができる。
【0034】
別の態様では、本発明は、希土類金属ナノクラスターと、該希土類金属ナノクラスターに結合した環状オレフィンとを含む組成物であって、該希土類金属ナノクラスターが、0.5〜1000nmの寸法範囲内にあり、かつ、酸素原子を介して少なくとも1個の半金属又は遷移金属に結合したランタニド原子を含む組成物を提供する。好ましい希土類金属ナノクラスターのサイズは、0.5〜10nm、好ましくは1〜10nmの範囲内である。組成物は、アンテナ配位子をさらに含むことができる。また、本発明は、組成物とオレフィンとを反応させて、希土類金属ナノクラスターをCOCに分散させてなる複合材料を形成させることによって該材料を製造する方法も包含する。
【0035】
さらなる態様では、本発明は、発光塗膜を有する太陽電池であって、(i)太陽電池上に塗膜を備え;(ii)該塗膜が、有機ホスト材料と、該ホスト材料に分散された、少なくとも1種の希土類金属に酸素又は硫黄を介して他の種類の1個以上の金属が配位した発光希土類金属ナノクラスターとを含む太陽電池を提供する。動作中に、この塗膜は、太陽電池に衝突する光の波長を変化させる。
【0036】
また、本発明は、発光塗膜を有する太陽電池であって、(i)太陽電池上に塗膜を備え;(ii)該塗膜が、有機ホスト材料と、該ホスト材料に分散された、少なくとも1種の希土類金属に酸素又は硫黄を介して他の種類の1個以上の金属が配位した発光希土類金属ナノクラスターとを含み;しかも、該発光希土類金属ナノクラスターと錯体形成する増感剤をさらに含む。動作中に、この塗膜は、太陽電池に衝突する光の波長を変化させる。好ましい実施形態では、太陽電池は0.1μmを超える厚さを有する。いくつかの実施形態では、該フィルムは、0.1μm〜5mmの厚さ、好ましくは50μm〜2mmの範囲の厚さを有する。好ましい実施形態では、酸素又は硫黄を介して希土類金属に配位する金属が第3B族、第4A族及び第5A族金属から選択される1種以上の元素を含む、別紙請求項のいずれかに記載の太陽電池である。また、好ましくは、当該太陽電池において、希土類金属及び/又は第IV周期遷移金属に酸素又は硫黄を介して配位する金属は、アルミニウム、ガリウム、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、ニオブ及びタンタルから選択される元素の1種以上を含む。好ましくは、前記希土類金属がテルビウム、ユーロピウム、ネオジム、イッテルビウム、エルビウム及びプラセオジムから選択される元素の1種以上を含む、請求項のいずれかに記載の太陽電池である。
【0037】
好ましい実施形態では、増感剤(アンテナ配位子)は1個以上の芳香環及びカルボニル基を含む;より好ましくは、該増感剤は、4,4’−ビス(N,N−ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、4,4’−ビス(N,N−ジエチルアミノ)ベンゾフェノン、4,4’−ビス(N,N−ジメチルアミノ)チオベンゾフェノンから選択される群の1種以上を含む。架橋性原子は、好ましくは酸素であるが、いくつかの実施形態では硫黄であることができる。
【0038】
また、本発明は、前記希土類金属ナノクラスターを有機重合体中に含む組成物又は該組成物が被覆された太陽電池であって、該組成物が、少なくとも3nm、好ましくは少なくとも5nm、いくつかの実施形態では7〜14nmの半値幅を有する主発光ピークを示す(実施例で報告するように模擬太陽光にさらされた場合)ような、REイオンに起因し得る拡散光度を有するものを包含する。
【0039】
酸化物架橋性部分を有する発光希土類金属ナノクラスターの例が、Mataki及びFukuiのWO2006/004187号(引用により本明細書に含める)に記載されている。これらの例は本発明を限定するものではない。他の金属としては、遷移金属、Al、Si、P、Ge、Ga、In、Sn、Sb又はAsが挙げられる。好ましい元素の群は、Zr、Ti、Ga、Al、Si、P、Hf、V、Nb、Ta及びW並びにそれらの組み合わせからなる。希土類金属は、原子番号57〜71を有する元素のうち任意のものを含む。優れた結果のためには、約1〜約10nm以下の範囲内にある発光希土類金属ナノクラスターのサイズが望ましい範囲である。アンテナ配位子としても知られている増感剤は、希土類原子の光度を向上させるものとして知られている材料である。
【0040】
特定の実施形態では、重合体マトリックスはMMA又はPMMAを含む。しかし、本発明は、このような重合体に限定されず、様々な有機重合体に幅広く適用できるものと考えられる。
【0041】
また、本発明は、RE−Mナノクラスターがドープされ、かつ、好ましくはアンテナ配位子の存在により改質されたスペクトル変換(SC)層を備える太陽電池も包含する。好ましくは、この層は、重合体マトリックスをさらに含む。また、本発明は、RE−Mナノクラスターがドープされ、かつ、アンテナ配位子の存在によって改質されたSC層を使用することを含む光を受容する方法及び/又は電気を発生させる方法であって、該SC層を太陽電池と共に使用する方法も包含する。このSC層は、太陽電池の既知の部品と共に存在することができ、シリコン層(いくつかの実施形態では非晶質シリコン;いくつかの実施形態では p型の層と接触した状態のn型の層)、反射防止層、光起電材料に連結されたコンダクタ、基材、被覆層及び封止樹脂が挙げられる(ただしこれらに限定されない)。
【0042】
また、本発明は、太陽電池モジュールにおいて太陽スペクトルを変換するための発光透明部材も提供する。この部材は、無機分子クラスターを含有するRE−Mがドープされた有機/無機ナノ複合材料から作られる。このRE−M含有分子クラスターは、発光帯若しくは励起帯又はその両方がそのREイオンに特有のそれらよりも幅広い発光を発する。このナノ複合材料は、入射太陽光のエネルギーの一部をRE−M含有分子クラスターに移す1種以上の増感剤を含有することができる。このような部材は、太陽電池に衝突する太陽光のスペクトルを効率的に使用することを可能にする。
【0043】
本発明の組成物の別の用途としては、バイオセンシング及び生体イメージングなどのバイオテクノロジー用途が挙げられる。
【0044】
本発明のアンテナ結合錯体は、アンテナ配位子に錯体形成していないRE−Mナノクラスターと比較して、優れた発光特性を有する。アンテナ結合錯体を含む重合体層は、可視範囲において著しく拡大した吸収を有することが分かった。また、本発明は、アンテナ結合錯体を取り入れた重合体フィルム及び光学装置も包含する。様々な実施形態では、本発明の組成物は、極性又は非極性の溶媒又はマトリックス中に分散できる。また、これらの組成物は、極性の環境中であっても向上した発光特性を示す。また、本発明は、材料加工の際の柔軟性も提供する本発明の好ましい実施形態の驚くべき利点は、卓越した吸収/発光特性が得られると共に、アンテナ配位子がナノクラスター中のランタン原子から3Åを超える距離、場合によっては5Åを超える距離にあると考えられるというものである。
【0045】
用語解説
粒度及び粒度分布は、光学顕微鏡及び/又は電子顕微鏡で測定できる。マトリックス中における粒度分布は、組成物の断面から光学顕微鏡及び/又は電子顕微鏡で測定できる。粒度は、観察された最も長い粒子軸に沿って測定される。粒度分布は、容積百分率に基づく。好ましくは、発光組成物中において、RE−Mナノクラスターの95容積%よりも多くが1〜1000nmのサイズ範囲内である。より好ましくは、RE−Mナノクラスターの少なくとも50容積%が1〜10nmのサイズ範囲内である;より好ましくはRE−Mナノクラスターの少なくとも80容積%が1〜10nmのサイズ範囲内である;最も好ましくは、RE−Mナノクラスターの少なくとも90容積%が1〜10nmのサイズ範囲内である。好ましい実施形態では、RE−Mナノクラスターは本質的に球形である(1.2以下のアスペクト比を有する)。
【0046】
アンテナ配位子は、光を吸収し、そしてその後エネルギーをランタニド原子に移す任意の既知のアンテナ配位子であることができる。このアンテナ配位子としては、ここで言及した文献(背景技術で述べた文献を含む)に記載されたアンテナ配位子のうち任意のものであることができる。好ましい実施形態では、本発明は、選択したアンテナ配位子の観点から定義することができる。例えば、本発明は、アンテナ配位子の任意の組み合わせを含むものとして説明することができる。当該技術分野において知られているように、アンテナ配位子は有機配位子である。本発明の目的上、「増感剤」は「アンテナ配位子」と同義である。アンテナ配位子はアンテナ効果を発揮する。
【0047】
この「アンテナ効果」は、「有機配位子と発光金属イオンとの間の分子間エネルギー移動」であると定義される。G.Liu及びB.Jacquier(編),Spectroscopic Properties of Rare Earths in Optical Materials,(Springer,Heidlberg,2005)におけるBunzli,「Rare Earth Luminescent Centers in Organic and Biochemical Compounds」参照。
【0048】
アンテナ配位子は、RE−Mナノクラスターと「錯体」を形成するところ、これは、これらの配位子を直接見ることができることを必ずしも意味するものではないが、ただし、発光分光法、NMRその他の好適な分析技術などの技術によって観察できることを意味する。RE−Mナノクラスターと錯体を形成したアンテナ配位子を有する組成物は、アンテナ配位子とRE−Mナノクラスターとを合計した特性(それぞれ別個に得られる特性の合計)を有するものではない。むしろ、アンテナ配位子とRE−Mナノクラスターとの錯体形成は、変化した特性、例えば、より高い放射及び/又は吸収、NMR、IR、UV/可視分光法でのスペクトル線の移動などを有するであろう。
【0049】
特許用語において典型的なものである「を含む」について、この用語「を含む」とは、包含する及び追加の要素の存在を許容することを意味する。「を含む」を使用する場合には、代わりの実施形態において、用語「を含む」をさらに狭い用語「から本質的になる」又は「からなる」に置き換えることができると解釈すべきである。
【0050】
環状オレフィンとは、炭素原子から構成される環と、芳香環の結合の一部分ではない少なくとも1個の二重結合とを含有する化合物のことである。
【0051】
環状オレフィン共重合体(COC)とは、環状オレフィンと他の不飽和化合物との重合により形成された重合体のことである。これらのものは、Pure Appl.Chem.77,pp.801−814(2005)において公開されたIUPAC報告書においてShin外により説明されており、これは、本発明に適用するときの用語の定義のために向けることができる。
【0052】
希土類金属(RE−M)ナノクラスターとは、酸素(又は硫黄)原子を介して少なくとも1個の遷移金属又は半金属に結合したランタニド原子を含み、かつ、約1〜約1000nm、好ましくは1〜100nm、いくつかの実施形態では1〜10nmの範囲のサイズ(直径)を有するヘテロ金属分子クラスターのことである。非球形粒子について、直径とは、顕微鏡写真上で測定されるときに、粒子上にある最も遠い間隔点間の距離のことである。酸素をSで置換することができると思われる。しかし、好ましい実施形態では、架橋性原子は酸素である。本発明の目的上、「希土類金属ナノクラスター」を単にナノクラスターという場合がある。
【0053】
「重合体マトリックス」とは、RE−Mナノクラスターが分散した任意の重合体材料をいう。重合体マトリックスは有機(又は有機物含有)である。重合体マトリックスはSiO2やTiO2などの無機ガラスではない。好ましい実施形態では、元素C、H、N及びOは、重合体マトリクスの少なくとも90質量%、好ましくは少なくとも98質量%を占める。好ましい実施形態では、重合体マトリックスは熱可塑性物質である。特定の実施形態では、重合体マトリックスはMMA又はPMMAを含む。しかし、本発明は、このような重合体には限定されず、広範囲の有機重合体に広く適用可能であると考えられる。
【0054】
マトリックス中に分散とは、分散粒子が光学顕微鏡又は電子顕微鏡により観察できることを意味する。
【図面の簡単な説明】
【0055】
図面の簡単な説明
【図1】図1は、希土類金属ナノクラスターの略図である。R基は有機部分、典型的にはアルキルである。
【図2】図2は、アンテナ配位子のいくつかの例を示すものである。
【図3】図3は、光導波路と太陽電池とを備える物品を示すものである。
【図4】図4は、RE−Mナノクラスター変性環状オレフィン共重合体の製造方法を概略的に示すものである。
【図5】図5は、RE−Mナノクラスター変性環状オレフィン共重合体を製造するために使用するこのできる環状オレフィンを示すものである。
【図6】図6は、430nmでの吸収と、アンテナ配位子(MK)対ランタニドのモル比を変化させる影響とを示すものである。
【図7】図7は、614nm(典型的なEu3+放射波長)で監視された、MKと、MKを有するEu−Al/MMAと、MKを有しないEu−Al/MMAとの励起スペクトルを示すものである。
【図8】図8は、395nm及び430nmで励起された[Eu−Al]−MK/MMAのPLスペクトルを示すものである。
【図9】図9は、77KでのPGMEにおけるEu−Al及び[Eu−Al]−MKの光ルミネセンススペクトルを示すものである。
【図10】図10は、77KでのPGMEにおけるEu−Al及び[Eu−Al]−MKの光ルミネセンススペクトルにおける5074領域を示すものである。
【図11】図11は、MKと錯体を形成した[Eu−Al3](OAc)3(O−isoBu)9及び[Eu−Al3](OAc)3(O−isoBu)9についてのEu、Al、O及びCに関するXPSスペクトルを示すものである。
【図12】図12は、MKと錯体を形成した[Eu−Al3](OAc)3(O−isoBu)9及び[Eu−Al3](OAc)3(O−isoBu)9についてのEu、Al、O及びCに関するXPSスペクトルを示すものである。
【図13】図13は、MKと錯体を形成した[Eu−Al3](OAc)3(O−isoBu)9及び[Eu−Al3](OAc)3(O−isoBu)9についてのEu、Al、O及びCに関するXPSスペクトルを示すものである。
【図14】図14は、MKと錯体を形成した[Eu−Al3](OAc)3(O−isoBu)9及び[Eu−Al3](OAc)3(O−isoBu)9についてのEu、Al、O及びCに関するXPSスペクトルを示すものである。
【図15】図15は、MKと錯体を形成した[Eu−Al3](OAc)3(O−isoBu)9及び[Eu−Al3](OAc)3(O−isoBu)9についてのEu、Al、O及びCに関するXPSスペクトルを示すものである。
【図16】図16は、MKと混合された化合物の吸収スペクトルを示すものである。
【発明を実施するための形態】
【0056】
発明の説明
蛍光体−重合体複合材の発光透明部材は、RE−Mナノクラスターがドープされた有機/無機ナノ複合材料から作られ、その際、金属原子を含有する配位子分子は、酸素及び硫黄などの無機元素を介してREイオンに共有結合している。このRE−Mナノクラスターは、金属アルコキシドの一部分として有機基を含有することができる。この点で、当該RE−Mナノクラスターは、RE含有有機錯体や従来LSC及びSC用の発光体として使用されてきた無機蛍光体のいずれとも著しく相違する。
【0057】
RE−M含有ヘテロ金属アルコキシドについていくつかの研究がなされてきた理由は、これらが特に安定でもなく、かつ、多かれ少なかれ揮発性であるとみなされてきたためである。「Handbook on the Physics and Chemistry of Rare Earth」(K.A.Gschneidner Jr及びL.Eyling著)(North−Holland,1979)p.209おけるThompsonの「Complexes」参照。
【0058】
このような不安定性は、温度が現場における周囲温度を有意に超過し得るスペクトルコンバータ及び発光型太陽光集光器において使用する際には適していない。しかしながら、本発明者は、熱分析から、例えばEu−Al含有無機分子クラスターをポリメタクリル酸メチル(PMMA)などの重合体マトリックスに取り入れると、その揮発は約300℃よりも上で開始するのに対し、Eu−Alナノクラスター単独の揮発は100℃未満で開始することを見出した。言い換えれば、RE−Mナノクラスターがドープされた重合体は、約300℃程度に高い温度であっても非常に安定である。
【0059】
さらに、本発明者は、配位金属(M)元素を選択するとEu−Mナノクラスターが広帯域の青緑色の発光を示すことも見出した。配位金属元素としてアルミニウム(Al)を使用すると、例えば、Euに特有の狭帯域発光しか観察されない。一方、ガリウム(Ga)を使用すると、Euに特有の狭帯域発光に加えて、青緑色に相当する発光を発する。Mataki外により、Tb含有RE−Mナノクラスターは、Tbの4f−5d遷移に起因する比較的広い発光を示すことが見出された。H.Mataki及びT.Fukui,「Blue−Green Luminescence of Terbium (Tb3+)−Titanium(Ti)Nanoclusters」,Japanese Journal of Applied Physics,第45巻,L380(2006)参照。しかしながら、この4f−5d遷移は、イオン化ポテンシャルが他のものよりも比較的小さいCe3+及びTb3+などの限定された希土類元素に関して生じる。Mataki外は、この文献において、Eu−Tiナノクラスターは広帯域青緑色発光を示さないのに対し、Tb−Tiナノクラスターは広帯域青緑色発光を示すことを開示している。Eu−Mナノクラスターの青緑色発光の機構は知られていない。しかしながら、このような発光スペクトルの制御は、望まれる太陽電池材料(例えば、単結晶シリコン、多結晶シリコン、微結晶シリコン、非晶質シリコン、CIGS(銅−インジウム−ガリウム−セレン)及び色素増感有機材料)に特有のスペクトル効率で発光スペクトルを同調させるのに有用である。
【0060】
RE−Mナノクラスターは、1〜100nmのサイズ範囲内にあり、かつ、酸素(又は硫黄)原子を介して少なくとも1個の半金属又は遷移金属に結合したランタニド原子を含む。ナノクラスターのサイズは、好ましくは1〜10nmの範囲内、いくつかの実施形態では約2〜5nmの範囲内である。酸素は、ランタニド原子及び半金属又は金属を架橋する元素として硫黄よりも好ましい。RE−Mナノクラスター組成物において、「半金属又は遷移金属」は、遷移金属、Al、Si、P、Ge、Ga、In、Sn、Sb又はAsを含む。好ましい元素の群は、Zr、Ti、Ga、Al、Si、P、Hf、V、Nb、Ta及びW並びにそれらの組合せを含む。元素の別の好ましい群は、Zr、Ti、Ga、Al、V、Nb、Ta及びW並びにそれらの組合せを含む。「ランタニド原子」は、原子番号57〜71を有する元素のうち任意のものを含む。Euは好ましいランタニドの一つである。他の好ましいランタニドとしては、Tb、Dy及びSmが挙げられる。しかし、本発明は広くランタニド(RE元素)に適用される。好ましくは、REイオンは、少なくとも6個の架橋性酸素を介して遷移金属原子に結合する(このような一例を図1に概略的に示している)。RE−Mナノクラスターは、各クラスター中に単一のRE原子を有していてもよいし、或いはRE−Mナノクラスター中に2〜10個又はそれを超えるRE原子を有していてもよい。RE原子対遷移金属原子の比は、好ましくは1:3である。架橋性酸素は、アルコキシド基、オキソ及びそれらの組み合わせの一部であることができる。同様に、硫黄はチオールの一部であることができる。ナノクラスターの外側部分は、好ましくはアルコキシ基を、好ましくは遷移金属又は半金属当たり1〜3個のアルコキシ基の比率で含む。
【0061】
本発明者は、RE−Mナノクラスターに加えて、ミヒラーケトンなどの増感剤を添加することによって励起帯を拡張し、分光増感をもたらすことができることを見出した。ここで使用するときに、用語「アンテナ配位子」には、増感剤として知られている化合物が含まれる。従来技術では、励起端を拡張できる範囲は、Euイオンとミヒラーケトンとの間隔に強く依存していた。驚くべきことに、本発明者は、アンテナ配位子がRE元素から遠く離れている状況における有意な効果を見出した。分子モデリングから、ミヒラーケトンは、RE−Mナノクラスターの嵩高な配位子によって生じる立体障害のためEuに接近できないことが明らかになった。さらに、本発明者は、このような分光増感は、膜形成の後にミヒラーケトンをドープしたMMAを被覆することによっても誘導できることを実証した。この場合には、ミヒラーケトンはPMMAマトリックスに拡散する。しかし、ミヒラーケトンがEu3+に直接配位することは起こりそうにない。
【0062】
無機分散相がRE−Mナノクラスターから構成される有機/無機ナノ複合材料は、発光型太陽光集光器(LSC)及びスペクトルコンバータなどの太陽電池に使用される発光透明部材にとって特に有用である。3価のREイオンに特有の狭帯域発光と広帯域発光とからなる合成発光スペクトルを、使用する太陽電池のスペクトル感度に同調させるようにM元素の種類を選択することが特に有効である。また、RE−Mナノクラスターの励起を3価のREイオンのみに起因する波長帯域よりも広い波長帯域範囲内で達成するように増感剤の少なくとも1種類を添加することも特に有効である。
【0063】
基本技術及び得られた材料の部類を様々な種類の配位子に適用することができる。アンテナ配位子(増感剤ともいう)は、REの発光を改変するものとして当該技術分野において知られている任意のアンテナ配位子であることができる。RE−Mナノクラスターと新規な結合錯体を形成することのできる、光学的特性及び光電子工学的特性がそれぞれ異なるいくつかの可能な配位子を図2に示している。本発明では、ランタン化合物に対してアンテナ配位子としての役割を果たすことが文献において知られている他の分子、例えば、2,4,6−トリメトキシフェニルジピコリン酸又はルーヘマン紫を使用することが考えられる。アンテナ配位子としては、ここで引用した文献に列挙されたアンテナ配位子のいずれか、図2におけるアンテナ配位子のいずれか又は実施例で試験したアンテナ配位子のいずれかを挙げることができる。また、好ましい実施形態では1種類のアンテナ配位子しか存在していないが、本発明は、2種以上のアンテナ配位子の組合せを使用することもできる。好ましい実施形態では、アンテナ配位子は1個以上のカルボニル基を有し、他の好ましい実施形態では、アンテナ配位子は、2個の芳香環であって、該芳香環の一部ではなく、かつ、 該芳香環のぞれぞれに対して単結合を有する結合原子を介して結合したものを含む。好ましい実施形態では、アンテナ基は、これらの特徴の両方を有する。これらの特徴は、予測できない顕著な発光の結果に対応することが分かっている。
【0064】
アンテナ分子の例としては、ピリジン誘導体;例えばビピリジン、テルピリジン、ピリジンジカルボン酸;トリフェニレン;キノリン及びその誘導体;例えば3,3’−ビイソキノリン−2,2’−ジオキシド;置換フェニル及びナフチル基;有機蛍光色素;例えばフルオレセイン、テトラブロモエオシン、トリス(8−ヒドロキシキノリン);トリス(ジベンゾイルメタネート);リサミン;ベンゾフェノン及びその誘導体、例えば4,4’−ビス(N,N−ジメチルアミノ)ベンゾフェノン(MK)、4,4’−ビス(N,N−ジエチルアミノ)ベンゾフェノン、4,4’−ビス(N,N−ジメチルアミノ)チオベンゾフェノン;アセトフェノン及びその誘導体、例えばp−ブロムアセトフェノン、p−クロルアセトフェノン;フェナントロリン;p−ヒドロキシフェナール−1−オン;吸収性金属含有錯体、例えばフェロセン、Pt(II)、Re(I)、Ru(II)のジイミン錯体;アクリドン誘導体(さほど好ましくない);モノ−チオ−ジベンゾイルメタン;2−ヒドロキシイソフタレート;アザ化合物、例えばジアザブタジエン、アザキサントン、アザチオキサントン;並びにジピラゾイルトリアジン誘導体が挙げられる。
【0065】
重合体マトリックスにおける重合体は、任意の望ましい重合体であることができる。いくつかの好ましい例としては、アクリル類、ポリエステル類、ポリウレタン類、シリコーン類及びそれらの組み合わせが挙げられる。炭素鎖重合体は、追加の耐久性のために変性されたシリコーンであることができる。
【0066】
本発明者は、全重合体/蛍光体配合物又は系の発光特性を卓越したものにする発光RE−Mナノクラスターの相溶化又は可溶化を可能にする特に好ましい重合体組成物を見出した。また、これらの新規重合体組成物は、ガラス及びプラスチック基板への付着性を良好にするだけでなく、これらの重合体から作られ、かつ、 多様な戸外応力環境にさらされる製品に優れた耐久性の特徴も付与する特別な性質をも有する。ポリアクリレートが特に好ましい。該複合材料は、通常、0.1〜50質量%の発光RE−Mナノクラスター、より好ましくは0.5〜30質量%、いくつかの実施形態では好ましくは少なくとも5質量%、いくつかの実施形態では1〜10質量%、いくつかの実施形態では5〜10質量%のRE−Mナノクラスターを含有する。
【0067】
様々な非限定的な実施形態では、これらの新規組成物の特徴としては、屈折率制御(芳香族、脂肪族、フルオロカーボン);RE−Mナノクラスターの重合体への溶解度を制御するための特別な官能基(アルコール、酸、ニトリル、エステル);光学的透明度促進剤;付着制御機能性(シラン、酸、有機金属);8〜10(cal/cm31/2の重合体溶解パラメーター範囲;熱可塑性又は熱硬化性重合体マトリックス;放射線硬化又は熱硬化性の重合体マトリックスが挙げられる。
【0068】
これらの重合体フィルムは、例えば、窓に使用できる(図3)。この構成では、アンテナ結合錯体は、太陽光を吸収し、かつ、 窓32の平面に沿って伝搬し該窓の1個以上の縁端部に沿って走る1個以上の光電池34によって捕捉される波長の狭帯域の光を放出する。随意に、該放射光を、さらに効率的な光電池への伝達のための隣接層(導波路層36)内に捕捉させることができる。この実施形態では、光電池は、そのバンドギャップを狭発光帯のエネルギーに同調させることができるため、非常に高い効率を有することができる。窓32は、発光材料を含む重合体の単一層か、又は例えばシリカ系ガラスからなる2枚のシートのような2枚の透明シートに配置される導波路(この場合、該導波路は発光材料を含む)を含み、該導波路層の端部に太陽電池を配置することのできる複数の層の積層体であることができる。該窓における導波路又は他の層の厚みは、典型的には、該層の長さ又は幅の少なくとも50分の1である。好ましい実施形態では、発光層は、基板と導波路との間に配置され、放射された放射線はこの導波路を介して伝達される。
【0069】
好ましい実施形態では、本発明の組成物は、基材上の層又はチャネル中に存在する。好ましくは、基板材料は、基板層に光が伝わるのを促進させるための発光層よりもわずかに大きい又はそれと同等の屈折率(n)を有する。つまり、ガラスは、導波路層としての役割を果たし、放射光を低損失ガラス媒質に伝達させるのを可能にすることができる。いくつかの実施形態では、基板の屈折率(n)は、1.53≧n≧1.50を満足する。いくつかの好ましい基板は、n≧1.500、又は≧1.515、又は≧1.52を有する。
【0070】
導波路装置を設計する際に考慮すべき要素としては、次のものが挙げられる。材料は、好ましくは、案内を維持するためのクラッド層の屈折率よりも高い屈折率を有する。ただし、この屈折率は、挿入損失を最小限に抑えるために光導波路の屈折率に近くなければならない。該材料は、好ましくは、搬送波波長では低い光学的損失を維持するが、これは、RE−Mナノクラスター及び重合体による吸収が低いことと、RE−Mナノクラスターが重合体全体にわたって均一に分散していることとの両方を意味する。該重合体は、実施波長ではほぼ又は完全に透明である。該材料は、好ましくは、下層のクラッドを攻撃したり膨張させたりしない溶媒に可溶である。該材料は、好ましくはスピンコート可能であり、また、好ましくは食刻可能であり(下層のクラッドに食刻された導波路にわたって平坦化しなければならない)、及び/又は導波路を画定するために光退色可能である。該材料は、好ましくは、上層のクラッド用の溶媒には不溶で、かつ、化学的に安定である。該材料(発光体を有する重合体)は、好ましくは、熱応力を受ける間に相間剥離するのを防ぐために、下層クラッドと上層のクラッドとに良好に付着する。該材料は、好ましくは、気密にする必要を排除するために、良好な水安定性を示す。該材料は、好ましくは、130℃で30分間といった高温で短期間では安定である。この期間中に、発色団が凝集してはならない。該材料は、実施波長では光安定性がなければならない。
【0071】
20cm×20cmのサイズのガラス板上に本発明の組成物から試料を作製し、405nmレーザー源により14dBmの出力で照らされたときの該試料のそれぞれについての光パワー測定値を算出した。最も厚い試料は、光出力が増加した。発光フィルムの好ましい厚みは、少なくとも1μm厚、より好ましくは少なくとも30μm厚であり、いくつかの実施形態ではこれらのフィルムはは、0.1〜3mmの範囲の厚みを有する。
【0072】
環状オレフィン変性RE−Mナノクラスター
エチレンとノルボルネンとの共重合体(又は他の環状オレフィン共重合体COC)は、それらのユニークな光学的特性、機械的性質及び処理特性の組合せのため、非常に興味深い非晶質熱可塑性物質である。COCは、300nmを超える波長では光に対して透明であり、かつ、複屈折が低い。そのガラス転移温度(Tg)は、ノルボルネン含有量を増加させることにより80℃〜170℃にまで容易に変化する。これらは、吸収性が非常に低く(0.01%未満)、かつ、酸、塩基及び極性有機溶媒に対する抵抗性が非常に高い。これらは、非極性溶媒を使用する溶解処理方法によって、また射出成形及び押出などの溶融処理方法によっても容易に処理加工できる。COCは、Ticona社によりTopas(商標)という商品名で市販されている。現在のところ、Topasは、ポリカーボネート及びポリメタクリル酸メチルのような材料の代替物として使用されているだけでなく、生物医学用途や包装用途でも使用されている。
【0073】
本発明は、希土類金属ナノクラスターを重合体、好ましくはCOCに取り入れるための方法を包含する。このような材料は、アクティブ重合体導波路装置のみならず、レンズ、窓などの成形光学部品にも有用である。
【0074】
希土類金属変性環状オレフィン共重合体の合成
RE−Mナノクラスター変性環状オレフィン共重合体の合成には、2つの一般的な方法を用いることができる。一方の方法は、RE変性単量体を製造し、そして共重合に導入することであろう。他方の選択肢は、重合体変性反応を実施することであろう。一般的な合成スキームを図4に示している。RE−Mナノクラスターをノルボルネン配位子で変性して単官能性単量体を生じさせる。次いで、この単量体を、メタロセン触媒系を使用してエチレンと共重合させる。
【0075】
典型的なメタロセン触媒系は、前周期遷移金属(例えばZr、Ti又はCr)とメチルアルミノキサン(MAO)とを含む。これらの前周期遷移金属系の高い親オキソ性のため、極性官能基により毒性がもたらされる可能性がある。本発明者は、RE金属変性ノルボルネン中におけるエーテル−金属錯体が触媒毒に対する安定性を付与し得ると考えている。また、ノルボルネンの高い反応性と剛構造により、重合が促進する場合もある。多面体オリゴマーシルセスキオキサン(POSS)変性ノルボルネン(直径〜1.5nm)を、前周期遷移金属触媒系を使用してエチレンと共に重合することに成功した。また、後周期遷移金属を使用して重合を触媒することもできるであろう。本発明は、特定のCOCに限定されない。例えば、ノルボルネンは、図5に示された分子(この場合Rは同一のもの又は異なるものであり、10個以下の炭素原子を含有するアルキル又はアラルキルである。)で置換されていてよいと考えられる。
【0076】
製造技術
複合フィルムを作製する2つの技術が実証されている。第1の技術では、膜形成前にアンテナ配位子(例えばMK)とRE−Mナノクラスターとを混合させることができる。見込まれる不都合な点は、RE−Mナノクラスターを、該混合物中にある光開始剤のUV活性化により形成された架橋マトリックスに分散させることが望ましい場合があることである。これにより、MKなどのアンテナ配位子の分解が生じてしまう場合がある。さらに、アンテナ配位子の強力な吸収が光開始剤のUV活性化を阻害してしまう場合もある。そのため、本発明者は、MKを、ポリメタクリレート(PMMA)マトリックス中にある予め形成されたMPの架橋フィルムに添加する追加技術を実証した。
【0077】
最初に、RE−Mナノクラスター・PMMAフィルムをガラスシートの間に形成させて架橋プロセスの酸素阻害を防止した。フィルムの光学発光強度を、該フィルムに405nmレーザーを垂直入射で照射することによって決定した。RE−Mナノクラスターは、励起されると、その特有の発光波長で放射線を等方的に放射する。この光のおよそ75%がガラス内に閉じ込められたままであり、そしてこのガラスの縁端部に運ばれ(ここで、この光はロングパスフィルター(任意の散乱405nm光を除去するための)を通過する)、そして積分球によって捕捉され、その強度が測定される。
【0078】
形成されたフィルムへのアンテナ配位子の拡散は、該フィルムから上部ガラス板を分離することによって始まった。次いで、該フィルムからの放射力を測定してフィルムの完全性を検証した。続いて、MKをホットプレート(120℃)上の小型スライドに設置し、そして、このMKをRE−Mナノクラスター・PMMAフィルムで被覆することによって、MKをRE−Mナノクラスター・PMMAフィルムに拡散させた。このフィルムを約20分間にわたってMKと接触させた状態で放置し、冷却し、そしてスライドを取り出した。MKが該フィルムと接触した領域では直ちに黄色が現れたが、これは、フィルムもMKも最初は色がついていないことからして、電荷移動錯体が形成されたことを示唆する。該フィルムからの光学発光を、該フィルムの黄色領域に影響する405nmのレーザで測定した。驚くべきことに、この波長で測定された放射力は、MKが導入される前よりも約15dB高かった。また、N,N−ジメチルアニリン、4−(ジメチルアミン)ベンズアルデヒド及び9(10H)−アクリドンを使用して同様の実験を行った。ベンズアルデヒドは、これら3種のうち最も大きな増強をもたらしたが、N,N−ジメチルアニリンは放射の増加を示さなかった。これらの試料のそれぞれによる増強は、MKで観察されたものよりも小さかった。
【0079】
小分子を架橋フィルムに分散させる先の実験から、侵入深さは、およそ10〜20μmであると示唆されたことから、いくつかの実施形態では、好ましいフィルム厚は約20μm以下、いくつかの実施形態では約10〜20μm厚である。いくつかの実験で観察された問題は、加熱後にRE−Mナノクラスター・PMMAフィルム表面に付着するスライドである。スライドを取り除くと、その基板からフィルムが部分的に層間剥離した。しかしながら、新規化合物の正味の吸光度が純粋なRE−Mナノクラスターと比較して遙かに高いと、多くの用途で有意に薄フィルムが可能となるはずであり、しかも、本発明は、これら厚いフィルムの処理加工に関連する問題のいくらかを軽減することができることに留意すべきである。
【0080】
本発明の組成物の層は、インクジェット印刷、スクリーン印刷、ローラー、ドクターブレード及び他の従来技術を含めた既知の重合体処理方法によって作製できる。
【実施例】
【0081】

ミヒラーケトン(MK)/RE−Mナノクラスター比の増感への依存性
MK/Eu−Alナノクラスターのモル比を以下のとおりに変更した;0.5、1、2及び3。
MK/Eu−Alをドープしたメタクリル酸メチル(MMA)をシリカ(SiO2)基材上に塗布した。そのフィルム厚は約400Åであった。430nmの波長の単色光により励起することによって光ルミネセンススペクトルを得た。結果(図6参照)から、光ルミネッセンス強度は、MK/Eu−Alナノクラスター比が約2であるときに最大になることが明らかになった;強度は3<0.5<1<2の順に増加する。3の比では、光ルミネッセンス強度は有意に低下する。したがって、MK/Eu−Alナノクラスターを0.5〜3未満の比、より好ましくは1.0〜2.5の比の範囲内に制御することが望ましい。この結果は、ナノクラスターにおけるアンテナ配位子対RE原子の望ましい比にまで一般化される。
【0082】
太陽電池効率の測定:比較例
MMAと光開始剤としてのジエチルアセトフェノン(DEAP)(0.5重量%)との混合物を単結晶Si(c−Si)太陽電池上に1000rpmの回転速度でスピンコーティングすることにより塗布した。続いて、このフィルムを17mW/cm2の光パワーで2分間にわたりUV照射にさらすことによって重合させた。フィルムのコーティング前後におけるc−Si太陽電池の太陽電池効率を、200Wのランプパワーの太陽スペクトルシミュレーター(Oriel Corporation社製81160モデル)及びソースメーター(Keithley 2004)を使用して得た。
結果として、コーティング前と比較したコーティング後の太陽電池効率の変化率は−17%〜0%の範囲である。いくつかの試料の太陽電池効率が減少したが、これは、おそらく、被覆されたフィルムが太陽電池の反射率を変化させ、入射光の減少を生じたためであると考えられる。したがって、重合MMAフィルムによるコーティングの前後で実質的な変化は観察されなかったと言える。
【0083】
太陽電池効率測定:実施形態1
MMAと、Eu−Alナノクラスター(5重量%)と、DEAP(0.5重量%)(Eu−Al/MMA)との混合物を単結晶Si(c−Si)太陽電池上に1000rpmの回転速度でスピンコートすることにより被覆し、そして上記のとおりに重合させた。結果として、コーティング前と比較したコーティング後の太陽電池効率の変化率は、0%〜+14%の範囲である。対照と比較すると、これは、c−Si太陽電池の太陽電池効率が向上したことを示している。
【0084】
太陽電池効率測定:実施形態2
MMAと、Eu−Alナノクラスター(5重量%)と、MK(EU−Alナノクラスターと等しいモル)と、DEAP(0.5重量%)との混合物を単結晶Si(c−Si)太陽電池上に1000rpmの回転速度でスピンコーティングすることにより被覆し、そして重合させた。結果として、コーティング前と比較したコーティング後の太陽電池効率の変化率は、0%〜+19%の範囲である。先の例と比較すると、c−Si太陽電池の太陽電池効率が向上し、しかもその向上率がEU−Alナノクラスター単独よりも有意に高かったことは明らかである。
【0085】
スペクトル変換
本発明者は、RE−Mナノクラスターの一例としてEu−Alナノクラスター[Eu−Al3](OAc)3(O−isoBu)9を使用し、そしてこのナノクラスターをメタクリル酸メチル(MMA)溶液に5重量%で分散させた。Eu−Alナノクラスターの合成手順及びそのMMAへのドーピング(Eu−Al/MMA)手順については、所定の文献に記載されている。例えば、H.Mataki及びT.Fukui,Proc.of 2005 5th IEEE Conference on Nanotechnology(名古屋,2005)、TH−A2−4、又はH.Mataki外,Jpn.J.Appl.Phys.,3,L83(2007)を参照されたい。励起波長範囲を拡大するために、本発明者は、ミヒラーケトン(MK)として知られており、Eu含有有機錯体の励起スペクトルの深色移動を誘導することが知られている4,4’−ビス(N,N−ジメチルアミノ)ベンゾフェノンをさらに添加した。M.H.V.Werts外,Chem.Commun.,1999,799(1999)を参照。
【0086】
図7は、614nm(Eu3+の典型的な発光波長)で監視された、MKを有するEu−Al/MMA及びMKを有しないEu−Al/MMAの励起スペクトルを示している。〜475nmに及ぶ新たな広い吸収帯が観察され、該フィルムにわずかに黄色の色合いを付与している。この吸収帯は、RE−Mナノクラスター又はMKのいずれかの純粋な試料には相当しないので、新たな化学種が形成されたと結論づけることが合理的である。分かるように、Eu−Alについての励起帯の端は、MKを添加することによって約400nmから約470nmまで拡大する。これは、約400nm〜470nmの範囲の波長を有する太陽放射が、400nm未満の元々の使用可能な波長範囲に加えて利用可能になることを意味する。
【0087】
図8は、395nm及び430nmで励起された[Eu−Al]−MK/MMAのPLスペクトルを示している。約590nm、614nm及び700nmの発光ピークは、Eu3+に特有の4f−4f放射遷移によるものである。図8から分かるようにEu3+は、430nmでは励起され得ないので、この結果は、Eu−Alの分光増感が、励起波長を広げることに関して、MKをEu−Alに添加することにより達成されたことを示している。
【0088】
Eu−Al/MMA及び[Eu−Al]−MK/MMAの被覆前後においてSi太陽電池について実施されたI−V曲線の測定で得られたデータを表1にまとめている。これらの結果は、Si太陽電池のエネルギー変換効率を、 [Eu−Al]−MK/MMAで被覆すると16.9%向上させることができることを示している。また、MKを使用したEu−Alの分光増感は、SC効率を改善させるために極めて有効である。
【0089】
【表1】

【0090】
このデータは、ミヒラーケトンによってスペクトル的に増感したEu−AlナノクラスターがSi太陽電池のエネルギー変換効率を有意に向上させることができることを示している。発光有機色素とは異なり、希土類イオンは事実上再吸収の問題を生じないため、RE−Mナノクラスターが添加されたスペクトル変換(SC)層の厚みを制御することによってその向上率を最適化することができる。また、RE−Mナノクラスターは二重結合及び/又は芳香環を有しないため、結果として、UV暴露下であっても良好な安定性を示すことが予想される。さらに、緑色発光テルビウム(Tb)などの異なるREイオンを含有するRE−MナノクラスターをEu−Alナノクラスターと共添加した場合には、発光スペクトル全体を様々な太陽電池材料に特有のスペクトル感度に応じて柔軟に変更することができる。
【0091】
広帯域発光
本発明者は、Mataki外のWO2006/004187号に記載されたタイプのプロピレングリコールα−モノメチルエーテルに分散された様々なEu−M(M=Al、Nb、Ti、Ga、Ta、Zr、Hf)ナノクラスターを合成し、そして380nmで励起することによってPLを測定した。Eu−Ga、Eu-Ta、Eu−Hf及びEu−Zrについて、本発明者は、Eu3+に特有の狭帯域発光に加えて、約400nm〜550nmの範囲の広帯域発光を観察した。一方、このような広帯域発光は、Eu−Al、Eu−Nb及びEu−Tiについては見いだされなかった。したがって、好ましい実施形態では、組成物は、Ga、Ta、Hf及びそれらの混合物から選択される少なくとも1個の原子を含む(好ましくはEuと共に含む)。
【0092】
予期できない結果
この場合、電荷移動錯体の形成は予期できないことである。RE−Mナノクラスターは、環境から希土類原子を分離して消光を防ぐように設計されたものであり、そしてこの効果を実証した。ここで使用したRE−Mナノクラスター試料は、予め架橋重合体マトリックスに形成されたものであり、処理は、この架橋重合体のTgよりもはるかに低温で行う。これらのアンテナ配位子は、さほど反応性はなく、しかもこれらのアンテナ配位子はRE−Mナノクラスター構造を破壊しないと思われる。それにもかかわらず、本発明者は、該アンテナ配位子とRE−Mナノクラスターとによる電荷移動錯体の形成を観察した。
【0093】
従来技術においては、増感効果は、ランタニド中心からの距離に強く依存することも教示されている(Wert参照)。したがって、アンテナ変性RE−Mナノクラスターが発光特性の向上を示すことは予想できることではない。というのは、ランタニド原子を取り囲む金属酸化物(典型的にはAl−O−)は、アンテナ配位子からランタニド中心への近距離接近を妨げるからである。
【0094】
特定の理論に縛られるわけではないが、これら各種アンテナ配位子の結果は、アンテナ配位子の重要な特徴に関するいくつかの推測を可能にする。好ましくは、アンテナ配位子は、カルボニルを含む。N,N−ジメチルアニリンに対する応答の向上が存在しなかったからである。また、ミヒラーケトン試料がアクリドン試料よりも極めて大きな向上を示したことは、カルボニルの近くの形状が重要であることを示唆しているようにも思われる。アンテナ配位子は、中心ランタニド原子の周辺の結合を破壊することなく、ナノ粒子と相互作用し、しかも、ミヒラーケトンなどのアンテナ配位子の回転自由度が、アクリドンなどの自由度の少ないアンテナ配位子と比較して該クラスターとの相互作用をより容易にすることを可能にするものと考えられる。
【0095】
相互作用の性質の調査
従来技術では、アンテナ分子と希土類イオンとの距離が増感効率を左右する重要な要因であることが示されている。特にMKを使用した増感の場合には、MKは、Euと直接配位するために必要であると同時に、EuとMKとの距離を2.24Å以内に維持することが必要である。M.H.V.Werts,「Luminescent Lanthanide Complex:Visible light sensitized red and near−infrared luminescence」,アムステルダム大学博士論文,p.105(2000)参照。HF及びDFT(ハートリー・フォック及び密度汎関数理論)計算に基づき、Eu−Alナノクラスターの半径は約15Åであると推定されている。この距離は、MKによるEuの増感を誘導するのには大きすぎる。しかしながら、本発明者は、驚くべきことに、MKが、Eu−AlナノクラスターとMMAとの共重合であってもEuを増感させることを発見した。本発明者は、これが生じ得る2つの見込まれる経路を調査した:
経路1:MKとEuとの直接配位
経路2:Eu−Alナノクラスターにおける1個以上の配位子の1個以上の結合の切断。
【0096】
経路1の可能性に関する実験的調査
本発明者が実施したHF及びFDT計算によれば、MKが配位子を押し分けてEuと配位子するとは考えにくい。というのは、MKは、金属配位子により形成された擬かご型構造によってEu3+の近くに接近するのを妨げられるからである。しかしながら、MKが所定の機構により配位子を介してEuに接近する場合には、Euイオンの周囲の対称性が変化するはずである。
【0097】
5O7J(J=0、1、2、3、4)遷移に基づくEuの発光がEuイオン周辺の対称性によって決定的な影響を受けること、及び対称性の相違が光ルミネッセンス(PL)スペクトルの詳細な構造に現れることは、よく知られていることである。S.Cotton,「Lanthanide and Actinide Chemistry」,(John Wiley & Sons,West Sussex,2006)及び松本和子著,「希土類元素の化学」(朝倉書店,東京、2008年)p.149を参照されたい。
【0098】
本発明者は、Eu−Alナノクラスター(Eu−Al)とMKと1:1のモル比で混合されたEu−AlナノクラスターとのPLスペクトルを395nmで励起することによって測定した。これらの試料をプロピレングリコールα−モノメチルエーテル(PGME)に分散させ、そして、77Kで冷凍した。測定結果を図9及び10に示している。[Eu−Al]−MKのPLスペクトルはMK自体の発光を含むが、5O7J(J=0、1、2、3、4)遷移に起因する発光と共に、結晶場分裂によるそれらの微細構造に起因する発光が明らかに見られる。また、Eu−Alと[Eu−Al]−MKとの両方のEu発光が基本的に同じであることも明らかに分かる。特に、図10に示された、Euの周囲の対称性に最も影響を受けやすいことが知られている5O74についてのPLスペクトルから、Eu−Al及び[Eu−Al]−MKの対称性が同じであることが示唆される。
【0099】
これらの結果から、Werts外により示された従来技術の場合とは異なり、MKは、Eu−Alナノクラスターの配位子を介してEuに接近してEuと直接配位子するものではないことが明らかになる。言い換えれば、経路1を介したMKによるEuの増感は起こらないことが実証された。
【0100】
経路2の可能性に関する実験的調査
仮に経路2が起こるとすると、Al−酸素(O)結合が攻撃され切断される可能性が高い。Al−O結合が切断されるかどうかをチェックするために、本発明者は、X線光電子分光法(XPS)を実施した。ここで、PGME中に5重量%で分散されたEu−Alナノクラスターを透明シリコン片上に滴下した。続いて、PGMEを約120℃で蒸発させたところ、白色の粉末が残った。[Eu−Al]−MKについて、十分なMKをEu−Alナノクラスターの5重量%PGME溶液に溶解させて1:1のMK:Eu−Alモル比とした。この[Eu−Al]−MK溶液を清浄シリコンウエハー上に滴下し、そしてPGMEを約120℃で蒸発させたところ、帯黄色の粉末が残ったが、これは、MKとMPとの相互作用を示すものである。
【0101】
Eu、Al、O及びCについてのXPSスペクトルを図11〜15に示している。データから分かるように、Eu−Alと[Eu−Al]−MKとには、XPSスペクトルに顕著な相違は観察されなかった。これらの結果から、各元素の化学結合状態は基本的に同じであることが示唆される。言い換えると、Eu−AlナノクラスターとMKとを混合した場合には、結合の切断のような化学結合の有意な変化は生じない。
【0102】
Eu−AlナノクラスターのMK増感の機構に関する推測
上記実験結果から、Eu−AlナノクラスターのEuは、従来技術に記載された態様では増感されないことが示唆される。Eu−AlナノクラスターのMK増感の機構を推測するために、本発明者は、MKがどのようにしてEu−Alナノクラスターと相互作用しているのかを、吸収スペクトルを測定することによって観察しようと試みた。
【0103】
図16は、MKとEu−Alとの混合物;Al(sOBu)3(Eu−Alナノクラスターの合成用原料);及びEu−FOD(従来技術において使用されたβ−ジケトネートEu錯体)の吸収スペクトルを示している。M.H.V.Werts外,「Bathchromicity of Micher’s ketone upon coordination with lanthanide(III)β−diketonates enables efficicient sensitization of Eu3+ for luminescence under visible light excitation」,Chem.Commun.,1999,pp.799−800(1999)を参照されたい。また、MKの吸収スペクトルも示されている。単なる便宜上、データは、全て、基底状態から最低励起一重項状態へのMKの励起が起こる350nmで正規化されている。この結果から、電荷移動(CT)状態がMKとAl(iso−OBu)3との間で形成されることが示唆される。基底状態からMK−金属CT状態の最低励起状態までの励起エネルギーに相当するおよそ414nmでの波長範囲を見ると、Al(sOBu)3におけるAl原子がMKと相互作用してCT状態となっていることが分かる。このデータに基づき、本発明者は、MKがEu−Alナノクラスター中におけるAlと配位すること、及び励起エネルギーがいったんMKからAlに移され、その後Euに移されると考える。
【0104】
従来、励起エネルギーはアンテナ分子から希土類イオンに直接移され、その希土類イオンが増感されていた。特に長波長増感の場合には、アンテナ分子から特定の距離内にある希土類イオンに直接エネルギーを移動させることが重要な要件であった。さらに、MK増感の場合には、環境が非極性であることが必要であった。本発明の知見は、このような厳格な要件を取り払い、かつ、ナノクラスター中における遷移金属又は半金属を介してアンテナ分子から希土類イオンに間接的にエネルギーを移動させるという、希土類をさらに大きな柔軟性でもって増感させることを可能にする新規な増感スキームを提供する。
【符号の説明】
【0105】
32 窓
34 光電池
36 導波路層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合体マトリックスと、該重合体中に分散された希土類金属ナノクラスターと、該希土類金属ナノクラスターの外側に配置されたアンテナ配位子とを含む組成物であって、該希土類金属ナノクラスターが1〜100nmのサイズ範囲内にあり、かつ、酸素原子又は硫黄原子を介して少なくとも1個の半金属又は遷移金属に結合したランタニド原子を含む組成物。
【請求項2】
希土類金属ナノクラスターと、該希土類金属ナノクラスターと相互作用するアンテナ配位子とを含む組成物であって、該希土類金属ナノクラスターが1〜100nmのサイズ範囲内にあり、かつ、酸素原子又は硫黄原子を介して少なくとも1個の半金属又は遷移金属に結合したランタニド原子を含み、該組成物が375〜450nmのPLスペクトル領域内で広い吸収ピークを有し、しかも、該ピークが半分の高さで少なくとも約25nmの幅である組成物。
【請求項3】
前記ナノクラスターが1〜10nmのサイズの範囲内である、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
前記ランタニド原子が少なくとも1個の半金属又は遷移金属に酸素原子を介して結合している、請求項1〜3のいずれかに記載の組成物。
【請求項5】
前記半金属又は遷移金属がZr、Ti、Ga、Al、Si、P、Hf、V、Nb、Ta及びW並びにそれらの組合せを含む、請求項1〜4のいずれかに記載の組成物。
【請求項6】
ランタニド:半金属又は遷移金属モル比が0.25〜0.40の範囲内にある、請求項1〜4のいずれかに記載の組成物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の組成物を備える光学装置。
【請求項8】
基板と、請求項1〜6のいずれかに記載の組成物の層とを備える、請求項7に記載の装置。
【請求項9】
請求項1〜6のいずれかに記載の組成物の層に隣接する導波路をさらに備える、請求項8に記載の装置。
【請求項10】
前記基板が可視光に対して透明であり、しかも前記装置が可視光に対して透明な第2基板をさらに備え、請求項1〜6のいずれかに記載の組成物の層が該基板と該第2基板との間に配置されている、請求項9に記載の装置。
【請求項11】
前記基板、第2基板、随意の導波路、及び請求項1〜6のいずれかに記載の組成物の層が、それぞれ実質的に平坦であり(高さよりも少なくともそれぞれ10倍大きい幅及び長さの寸法を有する)、前記装置が高さに対して平行な縁部を備え、しかも該縁部に隣接して配置される光電池をさらに備える、請求項10に記載の装置。
【請求項12】
前記層が特定の波長範囲の光子を吸収し、その後異なる波長範囲の光子を放出する、請求項8〜11のいずれかに記載の装置。
【請求項13】
前記重合体が環状オレフィン共重合体(COC)を含む、請求項1〜6のいずれかに記載の組成物。
【請求項14】
請求項1〜6のいずれかに記載の組成物の製造方法であって、
請求項1〜6のいずれかに記載の組成物の層を形成させ;そして
該層を形成させた後に、前記希土類金属ナノクラスターに結合するアンテナ配位子を添加して光度が向上した材料とすること
を含む製造方法。
【請求項15】
請求項1〜6のいずれかに記載された希土類金属ナノクラスターと、アンテナ配位子と、重合体とを混合させることによって形成された組成物。
【請求項16】
希土類金属ナノクラスターと該希土類金属ナノクラスターに結合した環状オレフィンとを含む組成物であって、
該希土類金属ナノクラスターが、0.5〜1000nmのサイズ範囲内にあり、かつ、酸素原子を介して少なくとも1個の半金属又は遷移金属に結合したランタニド原子を含む組成物。
【請求項17】
前記希土類金属ナノクラスターのサイズが1〜10nmの範囲内にある、請求項17に記載の組成物。
【請求項18】
アンテナ配位子をさらに含む請求項16又は17に記載の組成物。
【請求項19】
請求項1〜6のいずれかに記載の組成物を準備し、そして
請求項1〜6のいずれかに記載の組成物とオレフィンとを反応させて、COCに分散された希土類金属ナノクラスターを含む複合材料を形成させること
を含む、複合材料の製造方法。
【請求項20】
発光塗膜を有する太陽電池であって、
(i)太陽電池上に塗膜を備え;
(ii)該塗膜が有機ホスト材料と、該ホスト材料内に配置される、少なくとも1種類の希土類金属に酸素又は硫黄を介して他の種類の1個以上の金属が配位した発光希土類金属ナノクラスターと、を備える太陽電池。
【請求項21】
発光塗膜を有する太陽電池であって、
(i)太陽電池上に塗膜を備え;
(ii)該塗膜が有機ホスト材料と、該ホスト材料内に配置される、少なくとも1種類の希土類金属に酸素又は硫黄を介して他の種類の1個以上の金属が配位した発光希土類金属ナノクラスターと、を備え;しかも
該発光希土類金属ナノクラスターと錯体を形成する増感剤をさらに含む太陽電池。
【請求項22】
前記発光希土類金属ナノクラスターが0.1〜100nmの平均粒径を有する、請求項20又は21に記載の太陽電池。
【請求項23】
前記塗膜が0.1μmを超える厚さを有する、請求項20〜22のいずれかに記載の太陽電池。
【請求項24】
前記他の種類の1個以上の金属が酸素を介して希土類金属に配位し、しかも該金属が第3B族、第4A族及び第5A族金属から選択される1種以上の元素を含む、請求項20〜23のいずれかに記載の太陽電池。
【請求項25】
前記酸素又は硫黄を介して希土類金属及び/又は第IV周期遷移金属に配位した金属がアルミニウム、ガリウム、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、ニオブ及びタンタルから選択される元素の1種以上を含む、請求項20〜24のいずれかに記載の太陽電池。
【請求項26】
前記希土類金属がテルビウム、ユーロピウム、ネオジム、イッテルビウム、エルビウム及びプラセオジムから選択される元素の1種以上を含む、請求項20〜25のいずれかに記載の太陽電池。
【請求項27】
前記増感剤が1個以上の芳香環及びカルボニル基を含む、請求項20〜26のいずれかに記載の太陽電池。
【請求項28】
前記増感剤が4,4’−ビス(N,N−ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、4,4’−ビス(N,N−ジエチルアミノ)ベンゾフェノン、4,4’−ビス(N,N−ジメチルアミノ)チオベンゾフェノンから選択される成分の1種以上を含む、請求項27に記載の太陽電池。
【請求項29】
前記金属が硫黄を介して少なくとも1種類の希土類金属に配位している、請求項20〜28のいずれかに記載の太陽電池。
【請求項30】
前記有機ホスト材料がMMA又はPMMAを含む、請求項20〜28のいずれかに記載の太陽電池。

【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図6】
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【公表番号】特表2012−500326(P2012−500326A)
【公表日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−523973(P2011−523973)
【出願日】平成21年8月19日(2009.8.19)
【国際出願番号】PCT/US2009/054371
【国際公開番号】WO2010/022191
【国際公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【出願人】(504306714)バテル・メモリアル・インスティテュート (26)
【氏名又は名称原語表記】BATTELLE MEMORIAL INSTITUTE
【住所又は居所原語表記】505 King Avenue, Columbus, OH 43201−2693 (US)
【出願人】(511046117)バテルジャパン株式会社 (1)
【Fターム(参考)】