説明

発光性金属錯体およびその製造方法

【課題】 より発光特性に優れたランタノイド金属錯体およびその製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】 下記の一般式(I)
【化1】


(式中、Mは3価のランタノイド金属原子であり、Cpはシクロペンタジエニル系配位子であり、Aは単結合であるか又は炭素原子数1〜4個のアルキレン基、−SiR−基もしくは−GeR−基(ここでRは水素原子又は炭素原子数1〜3個のアルキル基)であり、Arは置換されてもよいアリール基又はヘテロアリール基であり、nは2又は3であり、n=2の場合にはXはハロゲン原子であり、n=3の場合にはXは存在せず、Bは反応溶媒由来の配位子である)で表される発光性金属錯体である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光性金属錯体およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ユウロピウム(Eu)やサマリウム(Sm)などのランタノイド金属錯体は、f軌道電子の遷移に基づく波長幅の狭い蛍光や長い蛍光寿命を特徴とする発光性物質として知られている。この特徴を生かして、ランタノイド金属錯体は、例えば蛍光免疫分析や細胞マーカー等の生物学的分析における試薬として利用されている。
【0003】
また、例えば、特許文献1には、芳香族デンドロンを配位子とするテルビウム又はユウロピウムの有機ランタノイド金属錯体が開示されており、この錯体を含有するインクが、マネーカードや紙幣など複製防止の必要のある印刷物の真偽を水銀灯の照射で容易に目視検出する偽造検出印刷等、蛍光を利用する各種印刷用途に有用である旨が記載されている。
【0004】
さらに、特許文献2には、発光特性に優れ、シャープな発光スペクトルを示す非対称構造の強発光ユウロピウム錯体が開示されており、この錯体を透明マトリックス中に導入した薄膜がレーザー発振部として利用できる旨が記載されている。
【0005】
ところで、ランタノイド金属原子は、芳香環を有する有機配位子により増感され、蛍光特性が向上し得る。本発明者らは、配位子としてシクロペンタジエニル系配位子(Cp)に注目し、縮合多環式化合物であるナフタレンによって光機能化したペンタメチルシクロペンタジエニル配位子を有する2価のサマリウム錯体を合成してその発光特性について調べた(非特許文献1)。具体的には、2,3,4,5−テトラメチル−2−シクロペンテン−1−オンと1−ナフチルメチルリチウムとを反応させ、得られた配位子をTHF中でカリウムハイドライドと反応させてカリウム塩とし、このカリウム塩をTHF中でSmIと反応させて下記構造を有する紫色の錯体を得た。
【0006】
【化1】

【0007】
上記錯体は、X線結晶構造解析の結果、中心金属原子のサマリウムに対しナフタレンによって光機能化されたCp配位子の他に再結晶溶媒であるTHFが2つ配位していることが分かった。このTHFは容易に反応基質と置換可能であることから、合成した錯体は非常に大きな反応ポケットを有する錯体であると言える。一方、錯体の発光スペクトルを測定したところ、発光はほとんど得られなかった。
【0008】
【特許文献1】特開2002−88282号公報
【特許文献2】特開2004−262909号公報
【非特許文献1】唐澤、中井、林、磯邊、「光機能化したペンタメチルシクロペンタジエニル配位子による新規サマリウム錯体の合成と性質」、第56回錯体化学討論会講演要旨集、72頁(2006)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、より発光特性に優れたランタノイド金属錯体およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題に対して、本発明者らが鋭意研究を行った結果、ナフタレン等で修飾したシクロペンタジエニル系配位子を有し、かつ3価のランタノイド金属元素を中心金属原子とする錯体によって優れた発光特性が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明の要旨は次の通りである。
(1)下記の一般式(I)
【0012】
【化2】

(式中、Mは3価のランタノイド金属原子であり、Cpはシクロペンタジエニル系配位子であり、Aは単結合であるか又は炭素原子数1〜4個のアルキレン基、−SiR−基もしくは−GeR−基(ここでRは水素原子又は炭素原子数1〜3個のアルキル基)であり、Arは置換されてもよいアリール基又はヘテロアリール基であり、nは2又は3であり、n=2の場合にはXはハロゲン原子であり、n=3の場合にはXは存在せず、Bは反応溶媒由来の配位子である)で表される発光性金属錯体。
(2)3価のランタノイド金属原子が、テルビウムである上記(1)に記載の発光性金属錯体。
(3)Arが、2〜5個の芳香環が縮合した縮合多環アリール基又は縮合多環へテロアリール基である上記(1)又は(2)に記載の発光性金属錯体。
(4)Arが、ナフチル基である上記(3)に記載の発光性金属錯体。
(5)Aが、メチレン基、−Si(CH−基および−Ge(CH−基から選ばれる基である上記(1)〜(4)のいずれかに記載の発光性金属錯体。
(6)シクロペンタジエニル系配位子が、テトラメチルシクロペンタジエニル配位子である上記(1)〜(5)のいずれかに記載の発光性金属錯体。
(7)下記の一般式(II)
【0013】
【化3】

(式中、Cpはシクロペンタジエニル系配位子であり、Aは単結合であるか又は炭素原子数1〜4個のアルキレン基、−SiR−基もしくは−GeR−基(ここでRは水素原子又は炭素原子数1〜3個のアルキル基)であり、Arは置換されてもよいアリール基又はヘテロアリール基である)で表される化合物を、アルカリ金属水素化物又はアルカリ金属アルコキシドと反応させて一般式(II)の化合物のアルカリ金属塩を得、そのアルカリ金属塩をMX(Mは3価のランタノイド金属原子であり、Xはハロゲン原子である)と反応させる、(1)に記載の発光性金属錯体の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る発光性金属錯体は、励起光がナフチル基等の光感応部位に吸収され、その吸収されたエネルギーがシクロペンタジエニル系配位子を介して中心金属である3価のランタノイド金属原子に伝達されるため、金属原子のf−f遷移に起因する発光を効率良く得ることができる。
【0015】
本発明の発光性金属錯体は、上記の優れた発光特性を生かし、蛍光免疫分析における試薬や、ディスプレイ用の蛍光体、蛍光顔料等として好適に利用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の発光性金属錯体は、下記の一般式(I)
【0017】
【化4】

(式中、Mは3価のランタノイド金属原子であり、Cpはシクロペンタジエニル系配位子であり、Aは単結合であるか又は炭素原子数1〜4個のアルキレン基、−SiR−基もしくは−GeR−基(ここでRは水素原子又は炭素原子数1〜3個のアルキル基)であり、Arは置換されてもよいアリール基又はヘテロアリール基であり、nは2又は3であり、n=2の場合にはXはハロゲン原子であり、n=3の場合にはXは存在せず、Bは反応溶媒由来の配位子である)で表される。
【0018】
3価のランタノイド金属原子(M)としては、セリウム(Ce3+)、プラセオジム(Pr3+)、ネオジム(Nd3+)、サマリウム(Sm3+)、ユウロピウム(Eu3+)、テルビウム(Tb3+)、ジスプロシウム(Dy3+)、ホルミウム(Ho3+)、エルビウム(Er3+)、ツリウム(Tm3+)、イッテルビウム(Yb3+)が挙げられる。その中でも、テルビウムおよびユウロピウムが発光強度の観点から好ましい。最も好ましくはテルビウムである。
【0019】
また、シクロペンタジエニル系配位子(Cp)とは、置換され又は無置換のシクロペンタジエニル基を指し、無置換のシクロペンタジエニル配位子の他、シクロペンタジエニルの水素原子が1〜4個のアルキル基、アリール基(ナフタレン、アントラセン等の拡張芳香族化合物を含む)、トリフルオロメチル基(−CF)、トリアルキルシリル基(−SiR)基で置換された配位子を採用することができ、好ましくは1〜4個の同一または異なるC〜Cアルキル基を有するアルキル置換シクロペンタジエニル配位子である。その中でも、入手が容易で、ランタノイド金属原子に配位し易いことから、4個のC1アルキル基を有するアルキル置換シクロペンタジエニル配位子が特に好ましい。
【0020】
ここでアルキル基とは、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基などの飽和脂肪族炭化水素基をいい、無置換であるか、又は1個以上の水素原子がハロゲン原子等により置換されていても良い。
【0021】
アルキレン基とは、直鎖の飽和脂肪族炭化水素(アルカン)から水素を2つ取り除いた2価の置換基をいう。本発明では、一般式(I)中のAとして炭素原子数1〜4個のアルキレン基を採用することができる。具体的には、メチレン基(−CH−)、エチレン基(−C−)、トリメチレン基(−C−)、テトラメチレン基(−C−)が挙げられる。
【0022】
一般式(I)中の架橋基であるAは、単結合であるか(すなわちAは存在しない)、又は炭素原子数1〜4個のアルキレン基、−SiR−基もしくは−GeR−基(ここでRは水素原子又は炭素原子数1〜3個のアルキル基)とすることができるが、その中でも、メチレン基、−Si(CH−基又は−Ge(CH−基が、光感応部位となるAr基からのエネルギーが中心金属原子に伝達し易いため特に好ましい。
【0023】
アリール基とは、単環式又は多環式の芳香族炭化水素から一個の環炭素原子の一個の水素原子を除去することにより生成される基であり、例えば、フェニル基、ナフチル基、ビフェニル基、アントラセニル基、フェナントリル基、ターフェニル基、ピレニル基、アントラセニルフェニル基などを挙げることができる。これらのアリール基は、無置換であっても良いし、あるいは芳香環が炭素数1〜5のアルキル基やアルコキシ基、ハロゲン原子等で置換されていても良い。
【0024】
縮合多環アリール基とは、上記アリール基の中でも特に2つ以上の芳香環が縮合したものを指す。本発明においては2〜5個の芳香環が縮合した縮合多環アリール基が好ましく用いられ、具体的には、例えば、ナフチル基、アントラセニル基、フェナントリル基、ピレニル基、ペリレニル基等を挙げることができる。最も好ましくはナフチル基である。
【0025】
ヘテロアリール基とは、単環式又は多環式のヘテロ芳香族炭化水素の核原子の一個の水素原子を除去することにより生成される基であり、例えば、フラニル基、チエニル基、オキサゾリル基、ピリジル基、キノリル基、カルバゾリル基などを挙げることができる。これらのヘテロアリール基は、無置換であっても良いし、あるいは芳香環が炭素数1〜5のアルキル基やアルコキシ基、ハロゲン原子等で置換されていても良い。
【0026】
縮合多環ヘテロアリール基とは、上記ヘテロアリール基の中でも特に2つ以上の芳香環が縮合したものを指す。本発明においては2〜5個の芳香環が縮合した縮合多環ヘテロアリール基が好ましく用いられ、具体的には、キノリル基、フェナントロリン残基、ベンゾフラニル基、ベンゾオキサゾリル基、カルバゾリル基等を挙げることができる。
【0027】
本発明において好ましく採用される[Cp−A−Ar]配位子として、下記の配位子が挙げられるが、ほんの一例であってこれらに限定されるものではない。
【0028】
【化5】

【0029】
また、ハロゲン原子Xとしては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素が挙げられる。好ましくはヨウ素(I)である。このハロゲン原子Xは、一般式(I)中のnが2である場合に中心金属原子に配位し、nが3である場合、すなわち錯体が3つのCp−A−Ar配位子を有する場合には存在しない。
【0030】
一般式(I)中、反応溶媒由来の配位子Bは、非共有電子対を有し、中心金属原子の持つ電荷に影響を与えずに配位する溶媒分子である。具体例として、テトラヒドロフラン(THF)、ジエチルエーテル等のエーテル系の溶媒などを挙げることができる。最も好ましくはテトラヒドロフランである。
【0031】
本発明の金属錯体を合成するには、まず、下記の一般式(II)
【0032】
【化6】

(式中、Cp、AおよびArは上記で定義した通りである)で表される化合物を、アルカリ金属水素化物又はアルカリ金属アルコキシドと反応させて一般式(II)の化合物のアルカリ金属塩を得る。一般式(II)の化合物は、Cp、AおよびArの種類に応じて、唐澤正樹、「金沢大学大学院博士前期課程 学位論文」(2007)に記載の方法に基づき適宜合成することができ、具体的には、例えば2,3,4,5−テトラメチル−2−シクロペンテン−1−オンおよび1−ナフチルメチルリチウムとの反応等により得ることができる。
【0033】
アルカリ金属水素化物としては、水素化ナトリウム、水素化リチウム、水素化カリウム等を適用することができる。また、アルカリ金属アルコキシドとしては、カリウムt−ブトキシド等が適用可能である。好ましくは、水素化カリウムである。
【0034】
反応条件は、反応物質の種類によって異なり特に限定されるものではないが、例えば、一般式(II)の化合物とアルカリ金属水素化物又はアルカリ金属アルコキシドとをTHF、ジエチルエーテル等の溶媒中、0〜80℃で1〜48時間程度反応させることにより生成することができる。
【0035】
次に、得られたアルカリ金属塩を、MX(MおよびXは、それぞれ上記で定義した通りの3価のランタノイド金属原子およびハロゲン原子である)と反応させることにより、本発明の発光性金属錯体を得ることができる。MXとしては、例えばTbI、EuI等を挙げることができる。
【0036】
反応は、アルカリ金属塩およびMXを、上述の配位子Bに対応するTHF等の反応溶媒中に加え、例えば0〜80℃で1〜48時間反応させることによって行うことができる。一般式(I)においてn=3の錯体を合成する際は、MXに対して3当量以上のアルカリ金属塩を用い、n=2の場合に比べて長時間反応させることが好ましい。生成物は、ろ過や再結晶等の手段により適宜精製することができる。
【0037】
以上の方法によって得られる金属錯体は、励起光が光感応部位であるAr基に吸収され、その吸収されたエネルギーが架橋基Xからシクロペンタジエニル系配位子を介して中心金属原子である3価のランタノイド金属原子に伝達されるため、金属原子のf−f遷移に起因する発光効率を向上させることができる。
【0038】
したがって、本発明の金属錯体は、蛍光免疫分析における試薬や、ディスプレイ用の蛍光体、蛍光顔料等として好適に利用することができる。
【実施例】
【0039】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。
【0040】
(実施例1)
以下に示すような構造をもつ3価のテルビウム金属錯体(TbICpCnaph)を合成した。
【0041】
【化7】

【0042】
出発原料として2,3,4,5−テトラメチル−2−シクロペンテン−1−オンおよび1−ナフチルメチルリチウムを用いて、ナフチル基をメチレン基で架橋した配位子HCpCnaph(CpCnaph=η−CMeCH10)を合成した。続いて、得られた配位子を水素化カリウムと反応させてカリウム塩KCpCnaphを合成した(スキーム1)。
【0043】
次に、窒素雰囲気下、TbI(184mg、0.342mmol)を無水THF(15ml)により懸濁させ、これにKCpCnaph(205mg、0.684mmol)を無水THF(15ml)に溶かしたものを加えた。この溶液を48時間攪拌すると、白色の沈殿を伴い、溶液の色は橙色から淡黄色に変化した。この反応を下記のスキーム2に示す。沈殿をろ過により取り除いた後、溶媒を除去し、これに無水トルエンを加えて、不溶物をろ過により取り除いた。トルエンを除去した後、無水へキサンを加えて、24時間攪拌した後、ろ過により白色粉末を得た(収量178mg、Tbに対して60%)。得られた粉末を無水ジエチルエーテルで再結晶し、目的の錯体を得た。
【0044】
【化8】

【0045】
【化9】

【0046】
得られたテルビウム金属錯体の結晶について、X線回折により構造解析を行った。図1にORTEP図を示す。この結果、シクロペンタジエニル配位子の他にヨウ素および反応溶媒であるTHFが配位した8配位構造をとる錯体分子であることが明らかとなった。
【0047】
次に、THF中、このテルビウム金属錯体の吸収スペクトルを測定した。測定結果を図2に示す。図2から明らかなように、ナフチル基由来の吸収が280nm付近に見られた(ε=1.4×10)。
【0048】
そこで、配位子の光感応部位であるナフチル基の吸収帯(280nm)を光励起することにより、THF中、テルビウム金属錯体の発光スペクトルを測定した。測定結果を図3に示す。なお、図中の(J=6,5,4,3)は電子遷移前後のエネルギー準位を表している。図3から明らかなように、テルビウム金属中心からのf−f遷移による発光スペクトルが観察できた(λem=492nm、546nm、587nm、620nm)。また、当該テルビウム錯体では、ナフチル基からの発光が全く観察されないことから、ナフチル基からテルビウム金属中心への効率的なエネルギー移動が起こっていることが示唆された(KCpCnaphの発光スペクトルの発光スペクトルにはナフチル基由来の発光が410nm付近に観測される:図4参照)。
【0049】
(実施例2)
以下に示すような構造をもつ3価のテルビウム金属錯体(TbICpSinaph)を合成した。
【0050】
【化10】

【0051】
出発原料として1,2,3,4−テトラメチル−1,3−シクロペンタジエンおよび1−(クロロジメチルシリル)ナフタレンを用いて、ナフチル基を−Si(CH−基で架橋した配位子HCpSinaph[CpSinaph=η−CMeSiMe10]を合成した。続いて、得られた配位子を水素化カリウムと反応させてカリウム塩KCpSinaphを合成した(スキーム3)。
【0052】
次に、窒素雰囲気下、TbI(120mg、0.222mmol)を無水THF(15ml)により懸濁させ、これにKCpSinaph(153mg、0.444mmol)を無水THF(15ml)に溶かしたものを加えた。この溶液を48時間攪拌すると、白色の沈殿を伴い、溶液の色は橙色から淡黄色に変化した。この反応を下記のスキーム4に示す。沈殿をろ過により取り除いた後、溶媒を除去し、これに無水トルエンを加えて、不溶物をろ過により取り除いた。トルエンを除去した後、無水へキサンを加えて、24時間攪拌した後、ろ過により白色粉末を得た(収量122mg、Tbに対して61%)。得られた粉末を無水ジエチルエーテルで再結晶し、目的の錯体を得た。
【0053】
【化11】

【0054】
【化12】

【0055】
得られたテルビウム金属錯体の結晶について、X線回折により構造解析を行った。図5にORTEP図を示す。この結果、実施例1と同様に、シクロペンタジエニル配位子の他にヨウ素および反応溶媒であるTHFが配位した8配位構造をとる錯体分子であることが明らかとなった。
【0056】
次に、THF中、このテルビウム金属錯体の吸収スペクトルを測定したところ、ナフチル基由来の吸収帯がλmax=280nmに観察された。この吸収帯を励起することによって、実施例1と同様に、テルビウム金属原子のf−f遷移に起因する発光スペクトルが492nm、546nm、587nmおよび620nmに観察できた。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】実施例1におけるTbICpCnaph錯体のORTEP図である。
【図2】実施例1におけるTbICpCnaph錯体の吸収スペクトルを示す図である。
【図3】実施例1におけるTbICpCnaph錯体の発光スペクトルを示す図である。
【図4】KCpCnaphの発光スペクトルを示す図である。
【図5】実施例2におけるTbICpSinaph錯体のORTEP図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の一般式(I)
【化1】

(式中、Mは3価のランタノイド金属原子であり、Cpはシクロペンタジエニル系配位子であり、Aは単結合であるか又は炭素原子数1〜4個のアルキレン基、−SiR−基もしくは−GeR−基(ここでRは水素原子又は炭素原子数1〜3個のアルキル基)であり、Arは置換されてもよいアリール基又はヘテロアリール基であり、nは2又は3であり、n=2の場合にはXはハロゲン原子であり、n=3の場合にはXは存在せず、Bは反応溶媒由来の配位子である)で表される発光性金属錯体。
【請求項2】
3価のランタノイド金属原子が、テルビウムである請求項1に記載の発光性金属錯体。
【請求項3】
Arが、2〜5個の芳香環が縮合した縮合多環アリール基又は縮合多環へテロアリール基である請求項1又は2に記載の発光性金属錯体。
【請求項4】
Arが、ナフチル基である請求項3に記載の発光性金属錯体。
【請求項5】
Aが、メチレン基、−Si(CH−基および−Ge(CH−基から選ばれる基である請求項1〜4のいずれかに記載の発光性金属錯体。
【請求項6】
シクロペンタジエニル系配位子が、テトラメチルシクロペンタジエニル配位子である請求項1〜5のいずれかに記載の発光性金属錯体。
【請求項7】
下記の一般式(II)
【化2】

(式中、Cpはシクロペンタジエニル系配位子であり、Aは単結合であるか又は炭素原子数1〜4個のアルキレン基、−SiR−基もしくは−GeR−基(ここでRは水素原子又は炭素原子数1〜3個のアルキル基)であり、Arは置換されてもよいアリール基又はヘテロアリール基である)で表される化合物を、アルカリ金属水素化物又はアルカリ金属アルコキシドと反応させて一般式(II)の化合物のアルカリ金属塩を得、該アルカリ金属塩をMX(Mは3価のランタノイド金属原子であり、Xはハロゲン原子である)と反応させる、請求項1に記載の発光性金属錯体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−40689(P2009−40689A)
【公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−204227(P2007−204227)
【出願日】平成19年8月6日(2007.8.6)
【出願人】(504160781)国立大学法人金沢大学 (282)
【Fターム(参考)】